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特開2022-100694抗原検出システム、抗原検出キット、及び抗原検出方法
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  • 特開-抗原検出システム、抗原検出キット、及び抗原検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100694
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】抗原検出システム、抗原検出キット、及び抗原検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20220629BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
G01N33/543 551Z
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214818
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】猪熊 立規
(72)【発明者】
【氏名】松田 智昌
(57)【要約】
【課題】正確な定量分析が可能で、簡便な操作で検出時間の短縮が実現できる、正確かつ迅速な抗原検出システムを提供することを課題とする。
【解決手段】抗原と反応する酵素標識抗体を用いる抗原検出システムであって、
酵素標識抗体を含んでいてもよい導入ユニットと、
前記酵素標識抗体と反応する抗原アナログが固定された精製ユニットと、
前記酵素標識抗体の酵素と反応する基質が固定された反応ユニットと、
電気信号の増減を検出する検出ユニットとを有する、抗原検出システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原と反応する酵素標識抗体を用いる抗原検出システムであって、
酵素標識抗体を含んでいてもよい導入ユニットと、
前記酵素標識抗体と反応する抗原アナログが固定された精製ユニットと、
前記酵素標識抗体の酵素と反応する基質が固定された反応ユニットと、
電気信号の増減を検出する検出ユニットとを有する、抗原検出システム。
【請求項2】
前記反応ユニットと前記検出ユニットが同一流路上に存在するものである、請求項1に記載の抗原検出システム。
【請求項3】
前記導入ユニットと精製ユニットと前記反応ユニットと前記検出ユニットがこの順に試料液が移動できるように構成されている、請求項1または2に記載の抗原検出システム。
【請求項4】
前記酵素標識抗体の酵素が、加水分解酵素、酸化還元酵素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗原検出システム。
【請求項5】
前記精製ユニットにおいて抗原アナログを固定する担持体が、メンブレンフィルター、イムノクロマトメンブレン、不織布、ろ紙、メッシュ、及び担体微粒子からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗原検出システム。
【請求項6】
前記検出ユニットが、少なくとも作用極及び対極を備える電極を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗原検出システム。
【請求項7】
支持体に固定された請求項1~6のいずれか1項に記載の抗原検出システムと、酵素標識抗体とを含む、抗原検出キット。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗原検出システムを用いる抗原検出方法であって、
(1)抗原を含有する試料と酵素標識抗体とを接触させて被検試料を得る第1工程、
(2)第1工程で得られた被検試料と精製ユニットとを接触させて未反応の酵素標識抗体を精製ユニットに捕捉させ、精製試料を得る第2工程、
(3)精製試料と反応ユニットとを接触させて酵素標識抗体と基質とを反応させる第3工程、及び
(4)第3工程の反応生成物と検出ユニットとを接触させて生じる電気信号を検出する第4工程
を含む、抗原検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原抗体反応を利用した抗原検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
即時診断検査(POCT:Point of care testing)では、抗原抗体反応を検出原理に利用したイムノクロマト法(ラテラルフローイムノアッセイとも呼ばれる)が広く普及しているが、使用する着色粒子の不均一性に由来する発色のバラつきやその脆弱な発色性により、定量測定には不向きである。
【0003】
POCT検査キットを使用する医療検査業界では、定量測定へのニーズがあり、定量化に向けた様々な手法が試みられている。
【0004】
しかしながら、イムノクロマト法で安定した定量測定を達成するには、シグナルの再現性が高い材料を開発する必要がある。特に、抗体など担持する担体には、例えば、金コロイド粒子や着色ラテックス粒子に代表される着色粒子が用いられる。これらの担体には、安定して再現性のある発色シグナルが得られるように粒子径の均一性が求められるなど、技術課題が多い。現在、普及している金コロイド粒子を使ったイムノクロマトキットでは、検出ラインや検出面の呈色度合いを光学式に読み取る定量測定が試みられているが、再現性のある定量検出は難しい。
【0005】
光学式に代わり、電気化学法を用いた検出手法では、電気信号を検出することでシグナルが安定化し、高感度測定も可能になると思われる。
【0006】
電気化学法を用いた検出には、電極表面を修飾し、検出対象物を捕捉した際に生じる電極の特性変化を検出する方法があるが、電極表面の修飾度合いが不均一になることから安定検出は難しい。電極を修飾することなく、電気信号を直接検出する手法であれば、安定検出に好適と思われる。簡便なイムノクロマト法と安定検出に好適な酵素反応による電気化学法を組み合わせた「電気化学イムノクロマト法」が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6366047号公報
【特許文献2】特許第5097557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の方法では、試料の投入から検出対象物を検出するまでに最低でも3手順が必要で、15分程度を要する。ヘルスケア用途のPOCTキットとして本法を適応させる場合、手順数が多く操作が煩雑で、検出までに時間もかかることから、一般エンドユーザ―が使用するには不便である。
【0009】
本発明は上記した問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、正確な定量分析が可能で、簡便な操作で検出時間の短縮が実現できる、正確かつ迅速な抗原検出システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、抗原検出システム内に4つの異なるユニットを有した装置として構成することによって、正確かつ迅速な定量分析を実現する抗原検出測定を行うことができることに想到し、本発明を完成させた。本発明は、以下のものを含む。
【0011】
[1] 抗原と反応する酵素標識抗体を用いる抗原検出システムであって、
酵素標識抗体を含んでいてもよい導入ユニットと、
前記酵素標識抗体と反応する抗原アナログが固定された精製ユニットと、
前記酵素標識抗体の酵素と反応する基質が固定された反応ユニットと、
電気信号の増減を検出する検出ユニットとを有する、抗原検出システム。
[2] 前記反応ユニットと前記検出ユニットが同一流路上に存在するものである、[1]に記載の抗原検出システム。
[3] 前記導入ユニットと精製ユニットと前記反応ユニットと前記検出ユニットがこの順に試料液が移動できるように構成されている、[1]または[2]に記載の抗原検出システム。
[4] 前記酵素標識抗体の酵素が、加水分解酵素、及び酸化還元酵素からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の抗原検出システム。
[5] 前記精製ユニットにおいて抗原アナログを固定する担持体が、メンブレンフィルター、イムノクロマトメンブレン、不織布、ろ紙、メッシュ、及び担体微粒子からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載の抗原検出システム。
[6] 前記検出ユニットが、少なくとも作用極及び対極を備える電極を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の抗原検出システム。
[7] 支持体に固定された[1]~[6]のいずれかに記載の抗原検出システムと、酵素標識抗体とを含む、抗原検出キット。
[8]
[1]~[7]のいずれかに記載の抗原検出システムを用いる抗原検出方法であって、
(1)検出対象物である抗原を含有する試料と酵素標識抗体とを接触させて被検試料を得る第1工程、
(2)第1工程で得られた被検試料と精製ユニットとを接触させて未反応の酵素標識抗体を精製ユニットに捕捉させ、精製試料を得る第2工程、
(3)精製試料と反応ユニットとを接触させて、酵素標識抗体の酵素と基質とを反応させる第3工程、及び
(4)第3工程の反応生成物と検出ユニットとを接触させて生じる電気信号を検出する第4工程
を含む、抗原検出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗原検出システムは、簡便な操作で迅速かつ高感度に定量測定が可能になる。特に、抗原に結合していない遊離の酵素標識抗体を捕捉することが可能な精製ユニットを設けることにより、操作に要する手順が少なくなり、より短時間に検出対象の抗原量の測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一態様である抗原検出システムの模式図(正面図)である。
図2】本発明の一態様である抗原検出システムの模式図(側面図)である。
図3】本発明に用いる検出用金電極の例の模式図である。
図4】本発明の一態様である抗原検出システムで得られた検出結果である。
図5】本発明の一態様である抗原検出システムで得られた検出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を更に詳細に説明する。
【0015】
<抗原検出システム>
抗原検出システムは、試料中の検出対象である抗原と、酵素標識抗体とを特異的に結合させて、その結合体中の標識酵素と反応した基質量を測定することにより、検出対象の抗原量を測定することが可能な免疫測定システムであって、以下の四つのユニットを有し、それぞれの部位を順に試料液が移動できるように構成されている。ここで試料液とは、抗原検出システムを移動する全ての液体を包括して指すものとする。
第一の部位は、試料と酵素標識抗体が投入される“導入ユニット”で、第二の部位は、被験試料中の遊離の酵素標識抗体を捕捉する“精製ユニット”で、第三の部位は、標識酵素が基質と反応する“反応ユニット”で、第四の部位は、電流を電極で検出する“検出ユニット”で、以上、四つのユニットから構成されている。
【0016】
抗原検出システムは、試料、または、酵素標識抗体と混合した被検試料が、導入ユニット、精製ユニット、反応ユニット、検出ユニットを順に通るように構成されていることが好ましい。
【0017】
導入ユニットは、試料液の流れに対して最上流部に設けられ、試料をシステムに導入するユニットである。あらかじめ試料に含まれる検出対象の抗原と酵素標識抗体とを結合させてから導入ユニットに適用してもよいし、導入ユニット内に酵素標識抗体が含まれていてもよい。その場合、導入ユニットには試料をそのまま適用できる。いずれの場合も、試料には過剰量の酵素標識抗体を接触させて被検試料とする。
【0018】
精製ユニットでは、被検試料中の抗原と結合していない酵素標識抗体を、精製ユニットに予め固定された抗原アナログに捕捉させることで被検試料から遊離の酵素標識抗体を除去した精製試料を得る。
【0019】
反応ユニットでは、酵素標識抗体の酵素により酸化還元または分解される基質が予め固定されており、検出対象の抗原と結合した酵素標識抗体の酵素がこの基質と反応して電極活性物質を生成する。
【0020】
検出ユニットでは、電極活性物質が検出ユニットで酸化されるときの電流の増減を電極で検出することで、検出対象の抗原の量を電気化学的に測定することが可能になるものである。
【0021】
抗原検出システムを構成する各ユニットの内、精製ユニットでは、未反応の酵素標識抗体を捕捉することで、未反応の酵素標識抗体を除去するための洗浄操作が不要になる。また、反応ユニットには基質物質が予め固定されているため、あとから基質となる物質の添加等の操作が不要になる。これらにより、抗原量の測定を短時間に効率的に行うことができる。
【0022】
<導入ユニット>
導入ユニットには、いくつかの機能を持たせることができる。一つには、予め酵素標識抗体と混合した被検試料や、まだ酵素標識抗体を混合していない試料を本システムに導入する機能である。その場合、下流に設置する精製ユニット,反応ユニット,検出ユニットは各々の機能は独立していてもよいし、各機能を任意に組み合わせたユニットでもよい。
【0023】
また一つには、検出対象の抗原と酵素標識抗体とを結合させるための機能である。試料の導入とあわせて酵素標識抗体も注入する場合や、予め導入ユニット内で酵素標識抗体も仕込んでおくことにより、導入ユニット内で抗原と酵素標識抗体が結合する。余分な遊離の標識抗体は下流の精製ユニットにて除かれる。
【0024】
また一つには、導入ユニット内に遊離の酵素標識抗体と特異的に反応する抗原アナログを固定化して、抗原と酵素標識抗体とが結合するのにあわせて、抗原と結合しなかった遊離の酵素標識抗体を導入ユニット内で同時に除く機能を持たせることもできる。その場合、精製ユニットの機能も同時に持たせることで、下流の精製ユニットは除くことができる。
【0025】
また一つには、導入ユニット内に精製ユニット,反応ユニット,検出ユニットの各機能を併せ持つものである。その場合、試料を滴下するだけで抗原の検出が可能になる。
【0026】
この導入ユニットの形状や使用する部材に特に指定はなく、ガラス繊維等の繊維状素材で構成されていてもよい。目的とする機能にあわせて適宜選択ができる。
【0027】
導入ユニットまたは精製ユニットに対向する支持体の端部側には、所定量の液体を吸収することのできる吸収部材を配置することができる。これによれば、毛細管現象を利用して精製ユニットから検出ユニットに向かう試料液の流れを安定に維持することができる。
【0028】
使用する吸収部材は、セルロース繊維、ガラス繊維、パルプ等の繊維からなる綿;不織布、ろ紙等の親水性繊維;ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド等の高吸水性ポリマーで構成されていてもよい。
【0029】
これらの部材は、保水容量を高くできることから、添加される試料液を、十分に、しかも所定の速度で吸収することができる。また、試料液の吸収速度も速くできるので、抗原濃度の測定を迅速に行うことができる。
【0030】
<精製ユニット>
精製ユニットは、被検試料に含まれる抗原と結合していない遊離の酵素標識抗体を取り除く部位である。抗原と結合していない遊離の酵素標識抗体が存在したまま基質に接触すると、抗原と結合していなくても標識酵素が基質と反応するため、ノイズ発生の原因となり抗原濃度を正確に測定できない。精製ユニットには所定量の抗原アナログが予め固定化されているので、精製ユニットに展開供給される試料液中の遊離の酵素標識抗体を捕捉することができる。
【0031】
精製ユニットは、ニトロセルロース膜、セルロースアセテート膜、ニトロセルロースとセルロースアセテートとのセルロース混合エステル膜、ナイロン、不織布、ろ紙、粒子等の透水性材料を主として構成されていてもよい。液体の流路となる透水性材料の微細構造を必要に応じて変えることができるので、試料液が流路を流れる速度の調節を行うことができ、適正条件下で試料の測定を安定に行うことができる。
【0032】
抗原アナログを固定する方法としては、担体微粒子等を抗原アナログの担持体として上記の透水性材料に固定する方法、抗原アナログを上記の透水性材料に直接固定する方法等がある。
【0033】
固定する方法としては、例えば、担持体のカルボキシ基とタンパク質中のアミノ基と架橋反応させて固定化するアミンカップリング法や、アビジンとビオチンによる結合反応が利用できる。ほかにも、物理的な吸着力等を利用して直接支持体に固定することもできる。
【0034】
<反応ユニット>
反応ユニットは、抗原と結合している酵素標識抗体を基質と反応させて電極活性物質を生成する部位である。酵素標識抗体と結合した抗原量に比例して生成した電極活性物質が電極上で酸化されるときの電流を検出することにより、抗原を高感度で測定することが可能となる。反応ユニットは後述の検出ユニットと同じ空間に存在してもよい。
【0035】
<検出ユニット>
検出ユニットは、作用極と対極、または作用極と対極と参照極とからなる電極間に定電圧を印加して電流を測定する測定部を備える。
前記電極としては、電極として機能することができる材料、大きさ及び形状であれば特に限定されることはなく、どのようなものでも用いることができる。電極として、例えば、グラファイト、カーボン、カーボンファブリック、金、白金、銀、銅、アルミニウム等の金属又は合金、SnO、In、WO、TiO等導電性酸化物等の単層又は2以上の積層構造が挙げられる。この電極は、導電材料片を基板上に貼り付けるか、一部を埋設するなどして形成してもよいし、導電剤ペーストを用いたスクリーン印刷法等の印刷法や蒸着、スパッタリングを用いて形成してもよい。
【0036】
<抗原検出方法>
酵素標識抗体を使って電気特性を測定する工程について、詳述する。本発明の酵素標識抗体としては、基質との反応において、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)やフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)などの補酵素を必要とするもの、必要としないものの両方とも利用可能で、基質との反応の程度を電気的手法で検出できるものを用いる。電気的手法で検出できるものとしては、酵素反応により分解されると電気化学的に活性化される基質を用いたり、補酵素の共存下で補酵素によって還元される電子伝達物質を用いて当該活性化基質や当該電子伝達物質の電気化学的応答を測定することができるものであればよい。
【0037】
このような酵素標識抗体と結合し電気特性を測定するために用いられる酵素、基質等は、抗原や酵素標識抗体に応じて適宜選択されるが、例えば、酵素としてアルカリフォスファターゼ、基質としてp-アミノフェニルリン酸の組み合わせや、酵素として西洋わさびペルオキシダーゼ、基質として過酸化水素、フェロセンメタノール混合溶液の組み合わせ、酵素としてグルコースオキシダーゼや乳酸オキシダーゼ、基質としてグルコースや乳酸などが挙げられる。本発明では、補酵素としてFADやNAD、電子伝達物質としてフェリシアン化物やビタミンKなどを用いてもよい。
【0038】
本発明に好ましい実施の態様の一つである免疫グロブリンAの検出を行うとき、本発明の酵素標識抗体と結合する基質としては、p-アミノフェニルリン酸(p-AminoPhenylPhosphate;以下、「pAPP」と略記。)を用いることができる。この、pAPPは、酵素(アルカリフォスファターゼ)により分解され、p-AminoPhenol(pAP)となり酸化反応によってp-Quinoneimine(pQI)となる過程での電気化学的応答を検出することで抗原抗体反応の有無を、電流や電圧の変化として電気的手法で検出することができるものである。
【0039】
電気的手法での検出を行うにあたっては、特に限定されるものではないが、各種アンペロメトリーやボルタンメトリーが好ましい。アンペロメトリーは、電位ステップに対して電極に流れる電流を時間に対して測定、解析する手法であり、試料液中の電気化学活性種の定量分析に、広く用いられている方法である。ボルタンメトリーは、電極電位を変化させた時の応答電流を測定する手法として、広く用いられている方法である。電極電位を直線的に変化させるサイクリックボルタンメトリーや、パルスにより変化させるパルスボルタンメトリーがある。得られる応答電流値は、試料液中の電気化学活性種の濃度に依存する。本発明においては、このような公知の電気化学的方法・手段を用いて、溶液中に生成した活性化基質の電気化学的応答を測定し、元の抗原の定性及び/または定量分析を行うものである。
【0040】
<試料>
本発明における試料とは、一般的な臨床検査等における検査対象物を指す。具体的な試料としては、血液(全血、血漿、血清)、リンパ液、唾液、尿、大便、汗、粘液、涙、随液、鼻汁、頸部又は膣の分泌液、精液、胸膜液、羊水、腹水、中耳液、関節液、胃吸引液、組織・細胞等の抽出液や破砕液等の生体液の他、食品、土壌、植物の抽出液や破砕液等の溶液や、河川水、温泉水、飲料水、汚染水等を含むほとんど全ての液体試料が用いられる。本発明では、検出対象物に対して1種類の抗体しか必要としないため、複数のモノクローナル抗体が結合できるような分子量の大きい物質だけでなく、1つのモノクローナル抗体しか結合できない低分子物質(ハプテン)も検出対象物となりうる。
【0041】
<抗原アナログ>
本発明における抗原検出システムで用いる抗原アナログとしては、標識抗体と抗原抗体反応で特異的に結合して結合体を形成するものであれば、その種類は特に限定されない。例えば、カドミウム,ダイオキシンなどの化合物、ウィルスタンパク、ステロイドなどの各種生体分子、低分子抗体、アプタマーなども利用できる。本発明において抗原アナログは抗原検出システムの精製ユニットに固定化される。よって抗原アナログは保存安定性の高いものが好ましい。具体的には、免疫グロブリンA/IgAやクロモグラニンA/CgA等のストレスマーカー、抗炎症サイトカイン等の炎症マーカー等が挙げられる。
【0042】
<酵素標識抗体の作製方法>
酵素標識抗体は、例えばペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼなど、用いる基質と反応する酵素を予め標識した市販の酵素標識抗体試薬が利用できる。また、市販の酵素標識キットを使い、自前の酵素標識抗体を作製してもよい。その場合、アルカリフォスファターゼなどの酵素は、あらかじめスクシンイミジルエステル基やマレイミド基で活性化されており、標的の抗体分子と混合するだけで、標識する抗体分子のアミノ基やチオール基に酵素の標識が簡便にできるキットを使うことができる。例えば、ペルオキシダーゼの場合、同仁化学研究所社製のPeroxidase Labeling Kit-NH (製品番号LK11)やPeroxidase Labeling Kit-SH(製品番号LK09)が、アルカリフォスファターゼの場合、Alkaline Phosphatase Labeling Kit-NH (製品番号LK12)やAlkaline Phosphatase Labeling Kit-SH(製品番号LK13)を用いると簡便に酵素標識が可能である。
【0043】
<抗原検出システムの形態>
本発明における抗原検出システムの形態としては、例えば、テストストリップ、バイオマーカー検出チップ等、が挙げられる。
【0044】
<抗原検出システムの支持体>
支持体の素材としては軽量で廃棄が容易な樹脂であればよく、例えばアクリル、ポリカーボネイト、ポリプロピレン、ポリスチレンなどが望ましい。
【0045】
<抗原検出キット>
抗原検出キットは、少なくとも酵素標識抗体の溶液、または酵素標識抗体を含む導入ユニット、並びに抗原アナログが固定された精製ユニット、基質が固定された反応ユニット、電極を有する検出ユニット、及び吸収ユニットを備える抗原検出システムを含む。抗原検出システムが固定された支持体をさらに含んでもよい。
【実施例0046】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、単位は質量基準である。
【0047】
[試薬・材料等]
・メンブレン:イムノクロマト用ニトロセルロースメンブレン(Immunopore RP)、(GEヘルスケア社製,コード番号 78356403)
・抗原アナログ結合フィルター用メンブレン:セルロース混合エステルタイプ メンブレンフィルター、(アドバンテック東洋社製,製品番号A500A090C)
・吸収パッド:イムノクロマト用吸収パッド(CF4)、(GEヘルスケア社製,コード番号8114-2250)
・アルカリフォスファターゼ標識抗イムノグロブリンA抗体:Goat Anti-Human IgA alpha chain (Alkaline Phosphatase) preadsorbed、 (アブカム社製,ab98551)
・イムノグロブリンA抗原:Native Human IgA protein、(アブカム社製,ab91025)
・p-アミノフェニルリン酸(pAPP):4-Aminophenylphosphate Monosodium、(CAS番号.52331-30-3),(エルケーティー ラボラトリーズ/LKT Laboratories社製,製品番号A5030)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS):137mmol/l NaCl, 8.1mmol/l NaHPO,2.68mmol/l KCl, 1.47mmol/l KHPO pH7.4
・トリス緩衝生理食塩水(TBS):150mmol/l NaCl, 20mmol/l Tris, pH7.4とpH8.0に調整

・ウシ血清アルブミン(BSA):Bovine Serum Albumin、(CAS番号.9048-46-8)、(シグマ・アルドリッチ社製,カタログ番号A4503)
・ブロッキング試薬:SuperBlock (TBS) Blocking Buffer, (サーモフィシャーサイエンティフィック社製/Thermo Fisher Scientific K.K.,製品番号37535)
・界面活性剤:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート,ツイーン(TM)20相当品、(CAS番号.9005-64-5),(和光純薬社製,製品コード番号 167-11515)
・塩化カリウム(KCl):(CAS番号.7447-40-7)、(和光純薬社製,製品番号169-03542)
・作用電極:ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、帝人デュポンフィルム社製のPENフィルムQ51-A4-188μmの基板上に膜厚50nmで金を真空蒸着した電極 (図3)。
・参照電極:参照電極用銀塩化銀インク(ビー・エイ・エス社製、カタログ番号011464)、作用電極上に参照電極用銀塩化銀インクを滴下し、60℃の乾燥機にて2時間乾燥したもの(図3)。
・電極おさえ:ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane)、東レ・ダウコーニング社製シリコーン・ポッティング材のSILPOTTM 184を使用したシリコン樹脂製シート。樹脂製シートは、SILPOTTM 184の主剤と硬化剤を20:1で混合し、75℃の加温しながら真空ポンプで脱泡後に、樹脂液を5mm×10mm×1mmの型に流し込み、厚みが均一になるように広げ、75℃で1時間静置したもの。
【0048】
[実験装置]
・計測装置:ALS/CH Instruments 電気化学アナライザー ALS704E、ビー・エイ・エス社製。
【0049】
[電気化学的な生体物質の検出方法]
以下の、ブロッキング工程、基質を保持する工程、抗原アナログを固定する工程、検出器具を組み立てる工程、検出対象の抗原と酵素標識抗体を接触させる工程、メンブレンの電気特性を測定する工程を実施例における電気化学的な生体物質の検出方法とした。
【0050】
1.ブロッキング工程
GEヘルスケア社製のイムノクロマト用メンブレン(Immunopore RP)を長さ50mm、幅5mmに裁断した。非特異吸着を抑制するために、ブロッキングバッファーとして、サーモフィシャーサイエンティフィック社製のSuperBlock (TBS) Blocking Buffer溶液(製品番号37535)に界面活性剤のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品)を 0.5パーセント添加したメンブレンブロッキングバッファーを調製した。このブロッキングバッファーに裁断したイムノクロマト用メンブレンを浸漬し、プレートミキサー(タイテック社、卓上小型振とう機 マイルドミキサー PR-36)で揺らしながら60分間ブロッキングバッファー中に浸漬してブロッキング処理を施した。
界面活性剤のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品)を 0.5パーセント添加した20mM TBS-T(pH8.0)の洗浄液を調製した。この洗浄液に裁断したイムノクロマト用メンブレンを浸漬し、プレートミキサー(タイテック社、卓上小型振とう機 マイルドミキサー PR-36)で揺らしながら30分間メンブレンを洗浄処理した。洗浄液から取り出したメンブレンを4℃の冷蔵庫内にて1晩静置した。
【0051】
2.基質を保持する工程
アルカリフォスファターゼの基質であるp-アミノフェニルリン酸(pAPP)を精製水で溶解して100mMのpAPP溶液を調製した。予めブロッキング処理を施したメンブレンの端から20mmのところに、100mM pAPP溶液を2μL滴下し、37℃で2時間静置して基質をメンブレンに保持した。その後、基質を保持したメンブレンは4℃にて使用まで保管した。この基質液を滴下する操作は、メンブレンをブロッキング液に浸漬する前であっても、浸漬した後でもよいが、浸漬後のほうがより高い電気化学シグナルを得ることができるので好ましい。また、基質液を滴下した後は、低温下でそのまま保管してもよいが、滴下した基質を十分乾かす必要がある。
【0052】
3.抗原アナログを固定する工程
検出対象の抗原と反応しない遊離のアルカリフォスファターゼ標識抗イムノグロブリンA抗体を捕捉するために、以下の方法で予め抗原アナログとしてイムノグロブリンA抗原を裁断したメンブレンフィルターや流路のイムノクロマトメンブレン上に固定した。
メンブレンフィルターに固定する方法では、メンブレンフィルターにセルロース混合エステルタイプ メンブレンフィルター(アドバンテック東洋社,製品番号A500A090C)を使い、5mm×7mmに裁断し、その上に100ng/mLのBSAを含むPBSにて1mg/mLに調整したイムノグロブリンA抗原(Native Human IgA protein、(アブカム社製,ab91025)2μLを4か所、計8μLを滴下した。なお、実施例では、イムノグロブリンA抗原を結合したメンブレンフィルターは、特に非特異吸着を抑制するブロッキング処理を施さなかったが、非特異吸着をさらに抑制したい場合は、適当なブロッキング剤を使いブロッキング処理を施してもよい。また、イムノグロブリンA抗原を結合するメンブレンフィルターには、セルロース混合エステルタイプ以外にも、液体の通過に適当な細孔サイズを有しタンパク分子を結合できるようなPVDFメンブレンや、タンパク分子を結合できるようなビーズ粒子などを充填したカラム等も使用できる。
【0053】
流路のイムノクロマトメンブレン上に固定する方法では、GEヘルスケア社製のイムノクロマト用メンブレン(Immunopore RP)を長さ50mm、幅5mmに裁断し、試料注入口側のメンブレン端から13mmの位置に、100ng/mLのBSAを含むPBSにて1mg/mLに調整したイムノグロブリンA抗原(Native Human IgA protein、(アブカム社製,ab91025)2μLを滴下した。非特異吸着を抑制するために、ブロッキングバッファーとして、サーモフィシャーサイエンティフィック社製のSuperBlock (TBS) Blocking Buffer溶液(製品番号37535)に界面活性剤のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品)を 0.5パーセント添加したメンブレンブロッキングバッファーを調製した。このブロッキングバッファーに抗原アナログを滴下したイムノクロマト用メンブレンを浸漬し、プレートミキサー(タイテック社、卓上小型振とう機 マイルドミキサー PR-36)で揺らしながら60分間ブロッキングバッファー中に浸漬してブロッキング処理を施した。界面活性剤のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品)を 0.5パーセント添加した20mM TBS-T(pH8.0)の洗浄液を調製した。この洗浄液に裁断したイムノクロマト用メンブレンを浸漬し、プレートミキサー(タイテック社、卓上小型振とう機 マイルドミキサー PR-36)で揺らしながら30分間メンブレンを洗浄処理した。洗浄液から取り出したメンブレンを4℃の冷蔵庫内にて1晩静置した。その後、前述の「基質を保持する工程」に従い、アルカリフォスファターゼの基質であるp-アミノフェニルリン酸(pAPP)を精製水で溶解して100mMのpAPP溶液を調製した。予めブロッキング処理を施したメンブレンの端から23mmのところに、100mM pAPP溶液を1.25μL滴下、5分後にさらに1.25μL滴下し、37℃で2時間静置して基質をメンブレンに保持した。その後、基質を保持したメンブレンは4℃にて使用まで保管した。
【0054】
4.検出器具を組み立てる工程
(1)検出用金電極の作製
図3に示した電極配線を有する検出用金電極は、真空蒸着装置を使ってポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(帝人デュポンフィルム社製、PENフィルムQ51-A4- 188μm)の基板上に50nmの膜厚で金を蒸着した。さらに、図3に示す部位に電極の3配線の内の真中の配線上で、図3にて示すイムノクロマト用メンブレンの流路と接する部分の中央部付近に参照電極用銀塩化銀インク(ビー・エイ・エス社製、カタログ番号 011464)を塗布し、60℃で2時間乾燥した。
【0055】
(2)電極おさえ
シリコン樹脂には、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane)(東レ・ダウコーニング社製シリコーン・ポッティング材のSILPOT(登録商標) 184)を使用した。SILPOT(登録商標) 184の主剤と硬化剤を20:1で混合し、75℃に加温しながら真空ポンプで脱泡した後に、調製した樹脂液を5mm×10mm×1mmの型に流し込み、厚みが均一になるように広げた。さらに75℃で1時間静置した後に、型から取り出してシリコン樹脂製シートを作製した。
【0056】
(3)吸水パッドの作製
イムノクロマト用吸収パッド(CF4)(GEヘルスケア社製,コード番号8114-2250)を14.7mm×17mmに裁断した。
【0057】
(4)検出器具を組み立てる工程
図1図2に示したような構成で、アクリル製イムノクロマト用筐体6の上に、予め準備した基質保持イムノクロマトメンブレン2,抗原アナログ結合フィルター7,参照電極用インクを塗布した検出用金電極3,吸水パッド4,基質保持イムノクロマトメンブレン2と検出用金電極3を確実に接触させるためのシリコン樹脂製シート(5mm×10mm×1mm)8を電極裏に、それぞれ装着して本検出器具とした。
抗原アナログ結合フィルターを設置する場所として、実施例1に示す検出器具の試料注入口1の近傍でイムノクロマトメンブレンと接するように配置した。また、実施例2では、イムノクロマトメンブレン端から13mmの位置に抗原アナログを滴下したものを用いる場合は、抗原アナログ結合フィルター7が不要になる。その他、フィルターメンブレンの装着が可能なフィルターホルダーを使用して、試料注入口1に接する部分に設置する場合や、予め試料の前処理工程用の治具としても使用できる。
【0058】
5.検出対象の抗原と酵素標識抗体を接触させる工程
0.1パーセントのBSAと0.05パーセントのポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品)を含むTBS(pH8.0)で、試験濃度に調整したイムノグロブリンA抗原溶液11μL と、同じく0.1パーセントのBSAと0.05パーセントのポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品)を含むTBS(pH8.0)で10μg/mLに調整したアルカリフォスファターゼ標識抗イムノグロブリンA抗体溶液 11μLと、予めTBS(pH8.0)425μLと1M KCl 25μLと精製水50μLを混合したサンプル調製用の溶液22μLとをマイクロチューブ内で混合した試料を各実施例の試験液とした。
【0059】
6.メンブレンの電気特性を測定する工程
図1図2に示す検出用金電極3の端子と計測装置のALS/CH Instruments 電気化学アナライザー ALS704E(ビー・エイ・エス社)をコネクターケーブルで接続した。
【0060】
本検出器具の試料注入口1から、イムノグロブリンA抗原を含む試験液40μLを滴下した。試験液の注入後、電気化学アナライザーを使って、試験液の注入後20秒が経過した時点から、電気化学的に発生した電流値を以下の測定条件にてクロノアンペロメトリーテクニック (i-t)で計測した。
アンペロメトリーi-tテクニックの測定パラメータ:
初期電位(V)=0.15
サンプル間隔(Sec) =0.1
測定時間(Sec) =2e+3
静止時間(Sec) =0
感度(A/V)=1e-6
【0061】
検出対象の抗原であるイムノグロブリンA抗原が試験液中に含まれる場合、抗原と結合した酵素標識抗体中のアルカリフォスファターゼの酵素活性で、基質のp-アミノフェニルリン酸がp-アミノフェノールを経由してp-キノンイミンに酸化される際に生じる電流として定量的に検出できた。さらに、測定経過時間毎の電流値を下記の計算式にて積算値(積分コマンド処理)を求めて、一定時間に検出できた電荷量(クーロン・C)として 算出した。より正確に検出対象の抗原濃度を求めたい場合は、抗原濃度と電荷量の検量線を作成することで推定できた。
電流(A)×時間(S)=電荷(C) ・・・式1
試験液中に含まれるイムノグロブリンA抗原の各試験濃度について得られた電荷量を図4に示した。
【0062】
[実施例1]
前述の本実施例における電気化学的な生体物質の検出方法において、未反応のアルカリフォスファターゼ標識抗イムノグロブリンA抗体を捕捉するために、予めイムノグロブリンA抗原をセルロース混合エステル膜に固定した抗原結合フィルターを使用した。
また、0.1パーセントのBSAと0.05パーセントのポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品)を含むTBS(pH8.0)で、試験濃度が0,1,10,100μg/mLになるように調整したイムノグロブリンA抗原溶液11μL と、同じく0.1パーセントのBSAと0.05パーセントのポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品)を含むTBS(pH8.0)で10μg/mLに調整したアルカリフォスファターゼ標識抗イムノグロブリンA抗体溶液 11μLと、予めTBS(pH8.0)425μLと1M KCl 25μLと精製水50μLを混合したサンプル調製用の溶液22μLとをマイクロチューブ内で混合した試験液として、本検出器具を使用して電気化学アナライザーで電気化学的に発生した電流値を計測し、式1にて求めた積算値/一定時間に検出できた電荷量(クーロン・C)を図4に示す。図4のように、本発明の電気化学的な生体物質の検出方法においては、0.1μg/mLから100μg/mLの濃度まで検出が可能であり、検出された電荷値(クーロン・C)より、イムノグロブリンA抗原の有無を確認することができ、さらにその濃度も求めることができた。
【0063】
[実施例2]
前述の本実施例における電気化学的な生体物質の検出方法において、未反応のアルカリフォスファターゼ標識抗イムノグロブリンA抗体を捕捉するために、予めイムノグロブリンA抗原を裁断したイムノクロマトメンブレン上で試料注入口側のメンブレンの端から13mmの位置に滴下し、界面活性剤のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品)を0.5パーセント添加したサーモフィシャーサイエンティフィック社Super Block溶液にてブロッキング処理を施し、さらにアルカリフォスファターゼの基質であるp-アミノフェニルリン酸(pAPP)をメンブレンの端から23mmのところに滴下したイムノクロマトメンブレンを使用した。また、検出目的のイムノグロブリンA抗原と、アルカリフォスファターゼを標識した抗イムノグロブリンA抗体 10μg/mLと、リン酸緩衝生理食塩水を混合して作られる被検体試験液は実施例1と同じである。図5のように、抗イムノグロブリンA抗原濃度を0,1,10μg/mLでの電荷(クーロン・C)からイムノグロブリンA抗原の有無を確認することができ、さらにその濃度も求めることができた。
【0064】
[比較例1]
実施例1および2で使用した試薬・部材の他に、ミリポア社製のイムノクロマト用ニトロセルロースメンブレン(HF120)や、そのイムノクロマト用メンブレンに固定化する抗原捕捉用抗体として、一次抗体の抗イムノグロブリンA抗体:Anti-Human IgA 抗体 [3B7] (アブカム社製,ab7400)を使用した。
【0065】
ミリポア社製のイムノクロマト用ニトロセルロースメンブレン(HF120)を長さ50mm、幅5mmに裁断した。抗イムノグロブリンA抗体:Anti―Human IgA 抗体 [3B7] (アブカム社製,ab7400) をPBSで 1 mg/mlに希釈した1次抗体液をイムノクロマトメンブレンの端部から20mmの位置に2μl滴下し、37℃で2時間乾燥した。
【0066】
1次抗体を固定化したイムノクロマトメンブレンをサーモフィシャーサイエンティフィック社のSuperBlock T20 (TBS) Blocking Buffer(製品番号37536)に浸漬し、プレートミキサーで揺らしながら15分浸漬した。ピペッティングリザーバーを利用して、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品) 0.05パーセントを含んだTBS-T( pH7.4)の洗浄液にブロッキングしたイムノクロマト用メンブレンを浸漬し、プレートミキサーで揺らしながら30分間メンブレンを洗浄処理した。洗浄液から取り出したメンブレンを4℃の冷蔵庫内にて1晩静置した。
【0067】
作製したイムノクロマトメンブレンと吸水パッドと検出用の金電極と、イムノクロマトメンブレンと検出用電極を確実に接触させるためのシリコン樹脂製シートとを、それぞれイムノクロマト用筐体にセットして検出器を組み立てた。
【0068】
0.1パーセントのBSAと、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品) 0.05パーセントを含んだTBS-Tで試験濃度が0,1,5μg/mL になるように調整したイムノグロブリンA抗原溶液10μLと、0.1パーセントのBSAと、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツイーン20相当品) 0.05パーセントを含んだTBS-T で10μg/mL に調製したアルカリフォスファターゼ標識抗イムノグロブリンA抗体:Goat Anti-Human IgA alpha chain (Alkaline Phosphatase) preadsorbed (アブカム社製,ab98551)10μLを検出器の試料注入口から続けて滴下した。
【0069】
試料注入口の液がなくなった後、20mM TBS(pH8.0)と50mM KClを混合した溶液にて調製した5mM pAPP基質液50μLを添加した。基質液の添加10秒後に電気化学測定をスタートし、i-tアンペロメトリーモードで電流値を検出した。計測50秒後と200秒後の電流値の差分を検出電流値とした。
アンペロメトリー(i-t)モードの測定パラメータ:
初期電位(V)=0.15
サンプル間隔(Sec) =0.1
測定時間(Sec) =400
静止時間(Sec) =0
測定値のスケール =1
感度(A/V)=1e-6
【0070】
その結果、酵素標識抗体試薬を添加後に洗浄液を滴下しない洗浄工程を省いた比較例では、検出目的の抗原と結合していない遊離のアルカリフォスファターゼ標識抗イムノグロブリンA抗体が電極近傍のイムノクロマトメンブレン上に残留していた。その遊離の抗体に標識されているアルカリフォスファターゼにより、電気的なノイズが大きくなって、検出対象のイムノグロブリンA抗原の濃度に依存した電気シグナルを検出ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、短時間で評価でき、かつ測定結果が定量的である抗原抗体反応評価法に関するものであり、例えば、ストレスマーカーであるイムノグロブリンAの検出等を行うことができる評価方法に関する。POCT等の現場で使用できる抗原検出システムの提供などに資するものである。
【符号の説明】
【0072】
1…試料注入口、2…基質保持イムノクロマトメンブレン、3…検出用金電極、4…吸水パッド、5…筐体(上側)、6…筐体(下側)、7…抗原アナログ結合フィルター、8…電極おさえ、9…参照電極用銀塩化銀インク滴下の位置
図1
図2
図3
図4
図5