(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100695
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】酒類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12H 1/00 20060101AFI20220629BHJP
C12G 3/022 20190101ALI20220629BHJP
【FI】
C12H1/00
C12G3/022 119Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214819
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 洋平
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 浩二
(72)【発明者】
【氏名】羽田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 克彦
(72)【発明者】
【氏名】大井 和美
【テーマコード(参考)】
4B115
4B128
【Fターム(参考)】
4B115CN88
4B128AC10
4B128AC12
4B128AG04
4B128AG06
4B128AP18
4B128AP30
4B128AP31
4B128AS01
4B128AT07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶存酸素を低減しつつも、フレッシュさを有しつつ、かつ、酒類の香り、特に清酒などの醸造酒では好ましい香りとされる「吟醸香」を保持することが可能な、酒類の製造方法を提供する。
【解決手段】中空糸膜モジュール16を備える脱気装置を用いて、中空糸膜モジュールの液相部分に酒類を流し、気相部分を陰圧に保持しながら、炭酸ガス、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを流す工程を有する酒類の製造方法。該工程の処理前の溶存二酸化炭素量に対する該処理後の溶存二酸化炭素量の割合が、質量基準で、1/500以上の範囲であることが好ましく、また、該工程を経て得られた酒類中の溶存酸素量が10ppm以下までの範囲であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜モジュールを備える脱気装置を用いて、中空糸膜モジュールの液相部分に酒類を流し、気相部分を陰圧に保持しながら、炭酸ガス、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを流す工程を有する酒類の製造方法。
【請求項2】
前記工程の処理前の溶存二酸化炭素量に対する該処理後の溶存二酸化炭素量の割合が、質量基準で、1/500以上の範囲である、請求項1記載の酒類の製造方法。
【請求項3】
前記工程を経て得られた酒類中の溶存酸素量が10ppm以下までの範囲である請求項1または2に記載の、酒類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から酒類、特に醸造酒において好ましくない香りである老香の発生や着色が、酒成分の酸化に由来することが知られている。更には、充てん時に火入れ処理を行わない、いわゆる生酒等においては、通常の火入れ酒に比べて二倍程度の溶存酸素を含んでおり、品質の劣化も火入れ酒に比べて早いことが知られている。そこで酒類中の溶存酸素濃度を中空糸状やフィルム状の膜式脱気装置を用い減圧状態にして低減することで、酒成分の酸化が抑制され、製造時の好ましい品質を長期間持続させることができることが知られている(例えば特許文献1参照)。また、こうした効果を得るためには酒類中の溶存酸素濃度は出来るだけ低く、例えば約0.5ppm以下であることが望ましいとされるが、酒類中の溶存酸素濃度と好ましい品質の保存性の相関について、具体的に比較検討されたデータは示されてない。そこで、溶存酸素を膜脱気装置を用いて減圧脱気するか、インラインミキサーを用いて連続的な流れの中で窒素ガスを混合して溶存酸素を低減させることで特定の濃度範囲に溶存酸素を抑え、生酒中の酵素類の活動を抑え込むことによって、長期保存して酒類の味、色の劣化を抑える、醸造酒の製造方法が提供されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-141840号公報
【特許文献2】特開2000-308482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、酒類中の溶存酸素を減圧脱気しながら、または、インラインミキサーを用いて低減すると、炭酸ガス(溶存二酸化炭素)も同時に低減されてフレッシュさが無くなるだけでなく、酒類の香り、特に清酒などの醸造酒では好ましい香りとされる「吟醸香」も無くなってしまうという問題があった。
【0005】
そこで本発明が解決しようとする課題は、溶存酸素を低減しつつも、フレッシュで、酒類の香り、特に清酒などの醸造酒では好ましい香りとされる「吟醸香」を保持することが可能な、酒類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、中空糸膜モジュールを用いて酒類中の溶存酸素を陰圧下で低減しつつ、上流側より炭酸ガス、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを流すことで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を解決するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、中空糸膜モジュールを備える脱気装置を用いて、中空糸膜モジュールの液相部分に酒類を流し、気相部分の出口側を陰圧に保持しながら、気相部分の入口側から炭酸ガスを流すか、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを流す工程を有する酒類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶存酸素を低減しつつも、フレッシュで、酒類の香り、特に清酒などの醸造酒では好ましい香りとされる「吟醸香」を保持することが可能な、酒類の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例で使用した装置の概略を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態例のみに限定されるものではない。また、本発明の酒類の製造方法において、酒類、特に醸造により原酒(新酒)を製造するまでの工程は周知なため、省略する。醸造工程を経て得られた原酒は濾過装置に通し、原酒中に残存する微生物、微粒子などを除去する工程を有していることが好ましい(濾過工程)。本発明の酒類の製造方法は、その後、気相部分と液相部分を有し、気液間で酸素分子および二酸化炭素分子の交換が可能な中空糸膜モジュールを備える脱気装置を用いて、その液相部分に酒類を流し、その気相部分を陰圧に保持しながら、炭酸ガス、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを流す工程を(脱酸素工程)を有する。その後、酒類、特に原酒は、貯蔵容器に移され、貯蔵される。
【0011】
濾過工程は、濾過装置を用い、活性炭による濾過およびフィルターによる濾過の二工程で概略構成されている。まず、活性炭による濾過を行うことで、後工程における酒類、特に原酒の香り、味、色を矯正し、その後の劣化を抑制する。次に、フィルターによる濾過を行うことで、活性炭に吸着されなかった微生物、微粒子などを除去する。この時用いられるフィルターは、濾過速度との兼ね合いにもよるが、酒質を低下させず、かつ雑菌汚染の原因となる微生物を除去できる程度の目の細かさを有するものを使用することが好ましい。
【0012】
次に脱酸素工程は、濾過工程を経て得られた酒類、好ましくは原酒を、中空糸膜モジュールを備える脱気装置に送り、該中空糸膜モジュールの液相側に流す工程である。この時、気相部分は、出口側を陰圧(ゲージ圧で0気圧未満)に保持しながら、入口側(上流側)から、炭酸ガス、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを流す。
【0013】
本発明に用いることのできる中空糸膜モジュールを備える脱気装置としては、公知のものを用いることができる。このような中空糸膜モジュールとしては、内部環流型中空糸膜モジュールや外部環流型中空糸膜モジュールが挙げられる。いずれのタイプのモジュールであっても、その液相部分に酒類を流しつつ、気相部分は、該モジュールに少なくとも2か所の出入り口を要し、その一方を真空ポンプと連通して出口側(下流側)とし、真空ポンプを作動させた際に、気相部分を陰圧に保持する。また他方を、炭酸ガスボンベまたは炭酸ガスボンベおよび不活性ガスボンベと連通して入口側(上流側)とし、該ボンベから炭酸ガスまたは炭酸ガスおよび不活性ガスを供給した際に、気相部分に炭酸ガスまたは炭酸ガスおよび不活性ガスを流すことができる。このようにして、中空糸膜モジュールの液相部分に酒類を流しつつ、気相部分を陰圧に保持しながら、炭酸ガス、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを流すことにより、酒類から膜を介して溶存酸素を気相部分へ脱酸素しつつも、溶存二酸化炭素を保持することができる。この内、外部環流型中空糸膜モジュールは、内部環流型中空糸膜モジュールよりも処理効率に優れ、且つ液体の流動圧力損失を極めて低水準に抑えることが可能であり、特に多量の酒類を処理する場合に最も好ましい。
【0014】
本発明に用いる中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜は特に限定されないが、例えば、膜構造が、少なくともスキン層(緻密層)と、細孔を有する層(多孔質層)とが積層しているものであれば、通常、脱気モジュールや吸気モジュールとして用いられるものを制限なく使用でき、そして、さらに以下のものが好適に用いられる。
【0015】
本発明に用いる中空糸膜の素材は、疎水性の高い素材よりなる膜が好ましく、例えばポリ(4-メチルペンテン-1)樹脂等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。また膜構造は、少なくともスキン層(緻密層)と、細孔を有する層(多孔質層)とが積層していれば特に限定されるものではないが、好ましくはスキン層(緻密層)と細孔を有する支持層(多孔質層)とが積層した不均質膜であることが好ましく、さらに、外側にスキン層(緻密層)、内側に細孔を有する支持層(多孔質層)とが積層した不均質膜であることがより好ましい。当該細孔の孔径は特に限定されないが、好ましくは0nm超、より好ましくは0.1nm以上の範囲であって良く、そして、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下範囲であってよい。
【0016】
このようにスキン層と細孔を有する支持層とが積層した不均質膜を用いる場合には、スキン層で接液することによって樹脂臭を低減することができるため好ましい。
【0017】
本発明に用いる中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜は、膜の酸素透過速度が、好ましくは0.1×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]以上、より好ましくは0.5×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]以上、さらに好ましくは0.9×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]以上の範囲であって良く、そして、好ましくは5000×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]以下、より好ましくは500×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]以下、さらに好ましくは100×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]の範囲であってよい。
【0018】
本発明に用いる中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜は、膜の二酸化炭素透過速度が、好ましくは0.1×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]以上、より好ましくは0.5×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]以上、さらに好ましくは0.9×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]以上の範囲であって良く、そして、好ましくは5000×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]以下、より好ましくは500×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]以下、さらに好ましくは100×10-5[cm3(STP)/cm2・sec・cmHg]の範囲であってよい。上記範囲のものを選択することで、モジュールの給気性能を向上させつつ、飲料のリークを抑制することが可能となるため好ましい。
【0019】
また、本発明に用いる中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜は、二酸化炭素と酸素の分離係数α=(QCO2:二酸化炭素透過量)/(QO2:酸素透過量)= 1~10の範囲のものが好ましく、さらに1~4.5の範囲のものがより好ましく、さらに3.0~4.2の範囲のものが特に好ましい。当該範囲内であれば、実質的に酒類を透過させず、かつ、溶存酸素量を所定範囲まで脱気することや、溶存二酸化炭素量を所定範囲まで充填することが容易になり好ましい。
【0020】
なお、モジュールの脱気性能や炭酸ガス充填性能は中空糸膜の隔膜の酸素透過速度や二酸化炭素(炭酸ガス)透過速度が高くなるにつれ一般に向上するが、これに伴い液体の透過速度も大きなものとなるため、両特性のバランスに優れた隔膜を選択することが望ましい。
【0021】
また、酸素透過速度、二酸化炭素(炭酸ガス)透過速度の測定及び気体分離係数αはASTM-D1434に準拠して容易に行われる。
【0022】
特にポリ(4-メチルペンテン-1)樹脂を素材とする中空糸不均質膜は酸素、窒素、炭酸ガス等のガス透過性に優れ且つ水蒸気バリヤー性が高く好ましい。本不均質膜については、例えば特公平2-38250号公報、特公平2-54377号公報、特公平4-15014号公報、特公平4-50053号公報及び特開平5-6656号公報等に詳しく述べてある。
【0023】
モジュールの構造及び中空糸膜の充填方法は脱気される水に遍流が発生しないように構成されておれば良く、例えば特許公開平2-102714号公報等に好適ないくつかのモジュール構造が開示されている。
【0024】
本発明に用いる中空糸膜モジュールに適用する中空糸膜の寸法は、中空糸膜の外径が小さい方が、その簾巻き体の径が小さくとも大きな膜面積を得ることができ、従って、外径は、好ましくは70μm以上、より好ましくは150μm以上の範囲であってよく、そして、好ましくは370μm以下、より好ましくは280μm以下の範囲であって良い。一方、中空糸膜の内径は、好ましくは30μm以上、より好ましくは80μm以上であってよく、そして、好ましくは310μm以下、より好ましくは220μm以下の範囲であってよい。膜面積は特に限定されないが、好ましくは0.018m2以上、より好ましくは0.18m2以上、さらに好ましくは1.8m2以上、特に好ましくは7.0m2以上であってよく、そして、好ましくは400m2以下、より好ましくは120m2以下、さらに好ましくは40m2範囲以下、特に好ましくは20m2以下の範囲があってよい。
【0025】
本発明に用いる中空糸膜モジュールは、液相部分を流れる酒類の遍流を容易に抑制でき、且つ耐圧性に優れ、構造が単純であり、また製造が容易である特徴を有する。中空糸簾状シートの形態に制限はなく不織布体、編み物、織物等特に制限はないが、好ましくは、中空糸膜を緯糸または経糸とし、他の糸たとえばポリエステル等からなるモノフィラメント糸またはマルチフィラメント糸を経糸または緯糸として組織された編み物または織物であることが好ましい。簾状に組織されたシート状物は、重畳体、捲回体、収束体の状態でハウジング内に組み込むことができる。また中空糸を筒状芯に綾巻きするなどした三次元組織を組み込む等適宜の形状を採ることもできる。
【0026】
脱酸素工程において、中空糸膜モジュール1つあたりの酒類(液相側)の処理流量は、短時間で溶存酸素を脱酸素でき、酒類製造時の生産性に優れる観点から、0.1〔L/min〕以上の範囲が好ましく、1〔L/min〕以上の範囲がより好ましく、一方、モジュールの取扱い性の観点から100〔L/min〕以下の範囲が好ましく、10〔L/min〕以下の範囲がより好ましい。
【0027】
脱酸素工程において、中空糸膜モジュール内の液相側を流れる酒類は、ポンプ等で加圧するか、タンク等の貯蔵容器に入れておき、炭酸ガスや不活性ガスを含む気体で加圧することにより、前記貯蔵容器から押し出して中空糸膜モジュール内へ導入することもできる。酒類を加圧する際の圧力は、上記の処理流量となる範囲であれば特に制限されないが、短時間で脱気可能なことから、下限値として0.001〔MPa〕以上の範囲で加圧することが好ましく、0.01〔MPa〕以上の範囲で加圧することがより好ましい。一方、モジュールの耐圧性に優れる観点から、上限値として1.0〔MPa〕以下の範囲で加圧することが好ましく、0.8〔MPa〕以下の範囲で加圧することがより好ましく、0.3〔MPa〕以下の範囲で加圧することがさらに好ましい。
【0028】
脱酸素工程で用いる中空糸膜モジュールが内部環流型の場合、内部還流型中空糸膜モジュールの中空糸膜外(気相側)の出口側圧力を減圧下に保ち、入口側から上記気体を流しつつ、中空糸膜内(液相側)から通液して脱気する。一方、脱気工程で用いる中空糸膜モジュールが外部環流型の場合、外部還流型中空糸膜モジュールの中空糸膜内(気相側)の出口側圧力を減圧下に保ち、入口側から上記気体を流しつつ、中空糸膜外(液相側)から通液して脱気する。いずれの場合も、液相側がスキン層(緻密層)、気相側が細孔を有する層(多孔質層)となるようにすることが好ましい。
【0029】
脱酸素する際の酒類の温度に特に制限はないが、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、そして、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
【0030】
脱酸素工程において、中空糸膜モジュールの中空糸膜内の気相部分には炭酸ガス、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを、モジュール入口側(上流側)から流せばよい。炭酸ガス、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを流す際の圧力は、気相部分を陰圧に保持できる圧力であればよい。すなわち、真空ポンプにより気相部分を真空にする際の圧力よりも、炭酸ガス、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを気相部分に流す際の圧力が低ければよい。
【0031】
気相部分の気体の全圧は、陰圧(ゲージ圧で0気圧未満)であればよく、好ましくは-0.3気圧(ゲージ圧)以下、より好ましくは-0.5気圧(ゲージ圧)以下であってよく、そして、下限値は限定されないが、-1気圧(ゲージ圧)以上であることが好ましい。なお、本発明において、気圧(atm)から「Pa」への単位換算が必要な際は標準大気圧(101,325Pa)を使用する。
【0032】
気相部分に流す気体が、炭酸ガスの場合には、流す気体の5モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%、すなわち実質的に炭酸ガスのみであることが特に好ましい。ただし、流す気体に炭酸ガス以外の気体が存在する場合であっても、酸素ガスの割合は20モル%以下、好ましくは10モル%以下、より好ましくは0モル%である。なお、「炭酸ガスのみ」とは、全圧と炭酸ガス分圧が等しいことを意味し、「実質的に炭酸ガスのみ」とは、始動時に残存する空気が残ることにより完全に炭酸ガスのみにならない場合があるが、その場合を除き、完全に炭酸ガス以外の他の気体(空気)が除かれた状態を意味する。
【0033】
一方、気相部分に流す気体が、炭酸ガスおよび不活性ガスの場合には、流す気体の50モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%、すなわち実質的に炭酸ガス及び窒素ガスの混合ガスのみであることが特に好ましい。ただし、流す気体に炭酸ガス及び窒素ガスの混合ガス以外の気体が存在する場合であっても、酸素ガスの割合は20モル%以下、好ましくは10モル%以下、より好ましくは0モル%である。なお、「炭酸ガスと不活性ガスの混合ガスのみ」とは、全圧と、炭酸ガス分圧および不活性ガス分圧の合計とが等しいことを意味し、「実質的に炭酸ガスと不活性ガスの混合ガスのみ」とは、始動時に残存する空気が残ることにより完全に炭酸ガスと不活性ガスの混合ガスのみにならない場合があるが、その場合を除き、完全に「炭酸ガスと不活性ガスの混合ガス」以外の他の気体(空気)が除かれた状態を意味する。また、前記混合ガスにおける炭酸ガスと不活性ガスとの混合比率は特に限定されず任意でありうるが、全圧に対して炭酸ガス分圧の比率が、好ましくは0.1以上の範囲であってよく、そして、好ましくは1未満でありうる。
【0034】
ここで、不活性ガスとしては、窒素ガス(窒素分子)、ヘリウム、ネオン、アルゴンなど希ガス類元素からなるガス(分子)が挙げられ、窒素ガスが好ましい。
【0035】
このように このように気相部分を負圧に保持して、液相中の溶存酸素(分子)を除去(脱酸素)してつつ、気相部分に炭酸ガス、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを流して、液相中の溶存二酸化炭素の低減を抑えることで、酸化酵素類の反応を抑制し、被酸化性物質との反応を阻害することができるが、その際に、溶存二酸化炭素量の低減を抑制できることにより、フレッシュさや酒類の香り(香気)、特に清酒などの醸造酒では好ましい香りとされる「吟醸香」を保持することができる。
脱酸素工程の処理前の溶存二酸化炭素量に対する該処理後の溶存二酸化炭素量の割合は、質量基準で、好ましくは1/500以上、より好ましくは1/100以上、さらに好ましくは1/50以上、特に好ましくは1/2以上、最も好ましくは0.8以上、上限値は規定されないが1以下でありうる。
【0036】
脱酸素工程の処理後の酒類中、好ましくは原酒中の溶存酸素量は特に限定されないが、好ましくは10ppm以下、より好ましくは4ppm以下の範囲である。より低い方が好ましいことから下限値は特に限定されないが、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.5ppm以上の範囲であって良い。
【0037】
脱酸素工程において、中空糸膜モジュール1つあたりの気体側の気体の流量は、設定したモジュールに流れる液体の流量の、0.1倍から、10倍までの範囲で適宜調整されればよいが、等倍~3倍までの範囲で適宜徴されることが好ましい。
【0038】
気相部分に流す気体の圧力調整は、ポンプ等で適宜加圧しても良いが、気体をボンベ等の圧力容器で提供される場合には、圧力調整弁を介して、ボンベ内圧力から減圧して適宜必要な圧力に調節して使用することが好ましい。その際に、中空糸膜モジュールの気相側の出口で陰圧になっていればよい。
また、脱気モジュールの気相側に、前記気体を液相側の流れとは反対方向に流すことが好ましい。
【0039】
本発明において採用することができる、中空糸膜モジュールを備え、その液相部分に酒類を流し、気相部分を陰圧に保持しながら、炭酸ガス、または、炭酸ガスおよび不活性ガスを流す装置の一例を
図1に示す。
【0040】
はじめに、酒類は、耐圧性を有するタンク4に供給されて、適宜温度調整されつつ貯蔵される。二方弁17を閉じた状態で、窒素ガスボンベ1から圧力調整弁2で圧力調整しながら、タンク4へガス配管3を通じて窒素ガスを供給することによって、タンク4に貯蔵された酒類が押出される。次いで通液用配管5を通じて脱酸素用の中空糸膜モジュール16の液相側入口6から内部に導かれる。
【0041】
次に、二方弁17を閉じた状態を維持しつつ、炭酸ガスボンベ9から圧力調整弁10の圧力を調整しながら、配管11を通じて中空糸膜モジュール16の気相側入口12から内部に炭酸ガスを導くと共に、真空ポンプ15を作動させて、圧力計P3を陰圧に保ちながら、配管14を通じて中空糸膜モジュール16の気相側出口13からモジュール内を減圧することで、中空糸膜モジュール16の液相側に通液された酒類の溶存二酸化炭素量を保持したり、または減少を抑制しながら、かつ、溶存酸素を脱酸素することができる。所定時間が経過した後、二方弁17を開き、供給口18から、貯蔵容器に脱酸素した酒類を貯蔵することができる。
なお、中空糸膜モジュール16や通液用配管5、8の各配管の一部ないしすべてに冷却装置を設けることもできる。
【0042】
本発明は、酒類の種類は特に限定されず、例えば、アルコール分1%以上の飲料であればよく、薄めてアルコール分1%以上の飲料とすることができるもの、または、溶解してアルコール分1%以上の飲料とすることができる粉末状のものを含むものとし、ビールや発泡酒に代表される発泡性酒類、日本酒等の清酒やワイン等の果実酒に代表される醸造酒類、ウィスキーや焼酎に代表される蒸留酒類、混成酒類いずれでもよいが、この中でも、「吟醸香(果実様)」が強いと言われる「生酒」(「火入れ」と呼ぶ60℃前後の加熱処理を一度もしない酒類、特に日本酒に対する総称)に適用することが特に好ましい。
【0043】
以上の通り、本発明の製造方法によれば、中空糸膜モジュールにより酒類中の溶存酸素量が抑えられるだけでなく、さらに気相側を大気圧下で炭酸ガスを含む気体の流通下で、脱酸素するため、香気が除去されるのを抑制することができる。その結果、香り、味、色の劣化を起こし難くすることができる。より好ましくは、酒類(原酒)が、フレッシュさを保ちながら、香り、特に清酒などの醸造酒では好ましい香りとされる「吟醸香」を保持することができる。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0045】
(溶存気体の測定)
溶存酸素量は、飯島電子株式会社製「B-506」を使用し測定した。また溶存二酸化炭素量は、メトラートレド社製「溶存酸素(CO2)計」を使用し測定した。
【0046】
(官能評価の方法および評価基準)
本実施例においての評価方法は、特に断りのない限り、以下の通りに行った。
官能評価について、吟醸香(果実様)、フレッシュさを評価した。
なお、「吟醸香」、「フレッシュさ」とは、それぞれ、宇都宮仁、他3名、”清酒の官能評価分析における香味に関する品質評価用語及び標準見本”、〔online〕、2006年、独立行政法人酒類総合研究所、第3、4頁、検索日令和2年12月7日、http://www.nrib.go.jp/data/pdf/seikoumihou.pdf より、第1表中の「吟醸香、果実様」(コード110、120)、「14.口当たり」(コード1460)を感じる評価と定義するものとする。
【0047】
官能評価の結果は標準見本(50mlポリプロピレン製遠心管に、各々、酢酸イソアミル3g/リットルを入れたもの、カプロン酸エチル1.2g/リットルを入れたもの)を用いて訓練されたパネラー5名の評価結果を集計して示した。
【0048】
「吟醸香、果実様」(コード110、120)を感知したときの強度を1(感じない)、2(ほとんど感じない)、3(やや感じる)、4(感じる)、5(強い)、6(とても強く感じる)の6段階で評価し、表1中の「吟醸香」の欄に記した。
【0049】
「口当たり」(コード1460)を感知したときの強度を1(感じない)、2(ほとんど感じない)、3(やや感じる)、4(感じる)、5(強い)、6(とても強く感じる)の6段階で評価し、表1中の「フレッシュさ」の欄に記した。
【0050】
(実施例1)
中空糸膜モジュールは、いずれもDIC株式会社製「EF-020G-A30」(スキン層(外層)と中空糸孔径5~20nmの多孔質層(内側)とが積層した非対称膜を有するポリ-4-メチルペンテン-1樹脂製中空糸膜)を用い、試験前に超純水で72時間洗浄後、モジュール内部を無菌エアーで乾燥した。さらに、上水(23℃)で3分間洗浄した。
【0051】
図1に記載された製造装置を用い、炭酸ガス流通下で、脱酸素処理を行った。事前にタンク4に日本酒(月桂冠株式会社製「純米大吟醸生酒」脱気処理前溶存酸素ガス濃度(DO値)8.2ppm、溶存二酸化炭素濃度200ppm)を仕込み、二方弁17を閉じた状態で、圧力弁3を開いてタンク4から日本酒を流量4L/minで流れるよう調整しつつ、さらに、気相側において、真空ポンプ15を作動させつつ、かつ、炭酸ガスボンベ9から配管11を経由して、中空糸膜モジュール内に給気口12から炭酸ガス(純度100%)を供給した。なお、炭酸ガスの供給は、排出口13側で陰圧(真空度-88.025kPa(g))となるよう調整しつつ、真空ポンプで除去された分給気するように行った。その後、二方弁17を開けて、中空糸膜モジュール15内で日本酒の脱酸素を行った。脱酸素を行った日本酒は供給口18から貯蔵容器に注いた。その後、得られた日本酒(炭酸ガス流通下で減圧脱気処理後、DO値1.7ppm、溶存二酸化炭素濃度196ppm)の官能評価を直ちに行った。官能評価結果を表1に示した。
【0052】
(実施例2)
実施例1において、炭酸ガスボンベ9の代わりに、炭酸ガス及び窒素ガスの混合ガス(モル比率N2:CO2=8.7:1.3)ボンベ9に替えたこと以外は同様にして日本酒の脱酸素を行った。得られた日本酒(炭酸ガス及び窒素ガス流通下で減圧脱気処理後、DO値1.0ppm、溶存二酸化炭素濃度190ppm)の官能評価を行った。官能評価結果を表1に示した。
【0053】
(比較例1)
実施例1において、圧力調整弁10を閉じて気体の供給を行わなかったこと以外は同様にして日本酒の脱酸素を行った。得られた日本酒(ガスの無流通下で減圧脱気処理後、DO値1.7ppm、溶存二酸化炭素濃度0.1ppm)の官能評価を行った。官能評価結果を表1に示した。
【0054】
【0055】
以上の官能評価分析より、比較例1では中空糸膜モジュールを用いて減圧脱気処理により脱酸素を行い、溶存酸素を低減させた結果、「吟醸香、果実様」、「フレッシュさ」がともに減少した。これに対して、実施例1、2では、中空糸膜モジュールの気相側を、炭酸ガスのみ流通させつつ、気相内を減圧脱気処理により脱酸素を行い、溶存酸素を低減させた結果、「吟醸香、果実様」の減少を抑制ないし保持ができ、また「フレッシュさ」はいずれも保持された。