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特開2022-100742両面研磨用キャリア及びウェーハの研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100742
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】両面研磨用キャリア及びウェーハの研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/28 20120101AFI20220629BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
B24B37/28
H01L21/304 621A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214917
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 優
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AB04
3C158AB08
3C158CB01
3C158CB10
3C158DA06
3C158DA18
3C158EA07
3C158EB01
5F057AA05
5F057CA19
5F057DA02
5F057EC10
5F057FA17
(57)【要約】
【課題】ウェーハがホール内で円滑に自転でき、荷重による研磨パッドの局所的変形を低減できるようにする。
【解決手段】両面研磨用キャリア11はホール13の内周面に、ホール中心C2に向かって突出した凸曲面13Aとホール中心C2から離れるように凹んだ凹曲面13Bとが交互に複数個形成されている。各凸曲面13Aの全て及び各凹曲面13Bの全ては同じ大きさ、同じピッチで形成され、各凸曲面13Aは円弧状又は2次曲線形状に形成され、各凸曲面13Aの頂点を円形状に結んだ仮想線は、ウェーハ12が滞在可能な大きさの円形状となるように構成されている。隣接する2個の凸曲面13Aは、ウェーハ12と点接触するように形成されている。各凹曲面13Bは、隣接する2個の凸曲面13Aがウェーハ12と点接触する際にウェーハ12と接触しない程度の隙間を持って配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状のウェーハを収容するホールを有する円盤状の両面研磨用キャリアであって、
前記ホールの内周面に、前記ホールの中心に向かって突出した凸曲面と、前記ホールの前記中心から離れるように凹んだ凹曲面とが交互に複数個形成され、
前記各凸曲面の全ては、同じ大きさ、同じピッチで形成され、
前記各凹曲面の全ては、同じ大きさ、同じピッチで形成され、
前記各凸曲面は、円弧状又は2次曲線形状に形成され、
前記各凸曲面の頂点を円形状に結んだ仮想線は、前記ウェーハが滞在可能な大きさの円形状となるように構成され、
隣接する2個の前記凸曲面は、前記ウェーハと点接触するように形成され、
前記各凹曲面は、前記隣接する2個の前記凸曲面が前記ウェーハと点接触する際に前記ウェーハと接触しない程度の隙間を持って配置されている
両面研磨用キャリア。
【請求項2】
請求項1に記載の両面研磨用キャリアにおいて、
前記凸曲面の隣接する2個の各頂点と、前記ホールの前記中心とをそれぞれ結ぶ2本の線がなす角度が10°以上72°以下となるように形成されている
両面研磨用キャリア。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の両面研磨用キャリアにおいて、
前記隙間が、前記ウェーハの直径の0.1%以上0.6%以下である
両面研磨用キャリア。
【請求項4】
円盤状のウェーハを収容するホールを有する円盤状の両面研磨用キャリアであって、
前記ホールの内周面が、正多角形各辺の中間点を通り且つ前記正多角形の内接円に等しいか大きい曲面で構成され、
前記ホールは、前記正多角形各辺の隣接する2辺の前記中間点と前記ウェーハが点接触するように形成され、
前記曲面は、前記正多角形各辺の隣接する2辺の前記中間点と前記ウェーハが点接触する際に前記ウェーハと接触しない程度の隙間を持って形成されている両面研磨用キャリア。
【請求項5】
請求項4に記載の両面研磨用キャリアにおいて、
前記正多角形は、正五角形以上正三十六角形以下である
両面研磨用キャリア。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の両面研磨用キャリアにおいて、
前記隙間が、前記ウェーハの直径の0.1%以上0.6%以下である
両面研磨用キャリア。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の両面研磨用キャリアを用いてウェーハの両面を研磨するウェーハの研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円盤状のウェーハを両面研磨するときに用いられる円盤状の両面研磨用キャリア及びこの両面研磨用キャリアを用いてウェーハの両面を研磨するウェーハの研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、半導体ウェーハなどの円盤状のウェーハは、研磨パッドが貼り付けられた上定盤と下定盤でウェーハを挟みつつ研磨液(スラリー)を供給して、その両面を同時に研磨する両面研磨が行われている。その際、ウェーハは、両面研磨用キャリアに形成された円形状のホール(保持孔)によって保持されている。このような一般的な両面研磨においては、ウェーハとホールとの接点は絶えず1点になるため、キャリアからウェーハを自転させる作用が伝わりにくいという問題点がある。
【0003】
特許文献1には、図6に示す両面研磨用キャリア1が記載されている。両面研磨用キャリア1は、円盤状であって、内部にウェーハ2を保持する複数個(図6では4個)のホール3が形成され、外周部に所定ピッチで外周歯4が形成されている。
【0004】
ホール3の大きさは、ウェーハ2を回転可能に保持する大きさである。ホール3の内周面は、複数個の凸面3Aをほぼ同じピッチで接続して形成されている。凸面3Aは、ほぼ同じ大きさの円弧状をしている。ウェーハ2を両面研磨するとき、複数個の凸面3Aの頂部がウェーハ2の外周面に点接触する。このため、ウェーハ2は、両面研磨用キャリア1の移動に伴ってホール3内で自転できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-138221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された両面研磨用キャリア1では、ホール3の内周面をウェーハ2と点接触する円弧状の凸面3Aを接続して形成している。図6の一部P1の拡大図である図7に示すように、ウェーハ2の外周面が各凸面3Aと接触した場合、各凸面3Aの接続部分である凹部3B周辺と、ウェーハ2の外周部(以下「ウェーハ外周部」と略す。)2Aとの間には、比較的大きな空間5が形成される。
【0007】
前記両面研磨用キャリア1を用いてウェーハ2を両面研磨すると、図7のA-A'断面拡大図である図8に示すように、研磨パッド6は研磨荷重により空間5に入り込んで局所的に変形した状態となる。このため、ウェーハ外周部2Aのエッジ上部、すなわち、研磨パッド6に接する角部がR形状に削られてしまう。この結果、ウェーハ外周部2Aの強度が低下し、欠けなどを生じやすくなる。
【0008】
本発明は、ウェーハがホール内で円滑に自転できるとともに、荷重による研磨パッドの局所的変形を低減できる両面研磨用キャリア及びウェーハの研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、円盤状のウェーハを収容するホールを有する円盤状の両面研磨用キャリアに係り、前記ホールの内周面に、前記ホールの中心に向かって突出した凸曲面と、前記ホールの前記中心から離れるように凹んだ凹曲面とが交互に複数個形成され、前記各凸曲面の全ては、同じ大きさ、同じピッチで形成され、前記各凹曲面の全ては、同じ大きさ、同じピッチで形成され、前記各凸曲面は、円弧状又は2次曲線形状に形成され、前記各凸曲面の頂点を円形状に結んだ仮想線は、前記ウェーハが滞在可能な大きさの円形状となるように構成され、隣接する2個の前記凸曲面は、前記ウェーハと点接触するように形成され、前記各凹曲面は、前記隣接する2個の前記凸曲面が前記ウェーハと点接触する際に前記ウェーハと接触しない程度の隙間を持って配置されている。
【0010】
本発明に係る両面研磨用キャリアにおいて、前記凸曲面の隣接する2個の各頂点と、前記ホールの前記中心とをそれぞれ結ぶ2本の線がなす角度が10°以上72°以下となるように形成されている。
【0011】
本発明に係る両面研磨用キャリアにおいて、前記隙間が、前記ウェーハの直径の0.1%以上0.6%以下である。
【0012】
本発明は、円盤状のウェーハを収容するホールを有する円盤状の両面研磨用キャリアに係り、前記ホールの内周面が、正多角形各辺の中間点を通り且つ前記正多角形の内接円に等しいか大きい曲面で構成され、前記ホールは、前記正多角形各辺の隣接する2辺の前記中間点と前記ウェーハが点接触するように形成され、前記曲面は、前記正多角形各辺の隣接する2辺の前記中間点と前記ウェーハが点接触する際に前記ウェーハと接触しない程度の隙間を持って形成されている。
【0013】
本発明に係る両面研磨用キャリアにおいて、前記正多角形は、正五角形以上正三十六角形以下である。
【0014】
本発明に係る前記段落0012又は段落0013に記載した両面研磨用キャリアにおいて、前記隙間が、前記ウェーハの直径の0.1%以上0.6%以下である。
【0015】
本発明に係るウェーハの研磨方法は、前記両面研磨用キャリアを用いてウェーハの両面を研磨する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ウェーハがホール内で円滑に自転できるとともに、荷重による研磨パッドの局所的変形を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る両面研磨用キャリアの構成の一例を示す平面図である。
図2図1の一部P2の拡大図である。
図3図2のB-B’部分の断面拡大図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る両面研磨用キャリアの構成の一例を示す平面図である。
図5図4のC-C’部分の断面拡大図である。
図6】従来の両面研磨用キャリアの構成の一例を示す平面図である。
図7図6の一部P1の拡大図である。
図8図7のA-A’部分の断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
(両面研磨用キャリア11の構成)
図1は本発明の第1実施形態に係る両面研磨用キャリア11の構成の一例を示す平面図、図2図1の一部P2の拡大図である。
【0019】
両面研磨用キャリア11は、円盤状であって、内部に円盤状のウェーハ12を保持可能な1個以上のホール13、本実施形態では、1個のホール13が形成され、外周部に所定ピッチで外周歯14が形成されている。両面研磨用キャリア11は、ウェーハ12よりも薄く形成されている。
【0020】
ホール13は略円形状に形成され、ホール13の中心(ホール中心)C2が両面研磨用キャリア11の中心(キャリア中心)C1に対して偏心して形成されている。
【0021】
ホール13の内周面には、ホール中心C2に向かって突出した複数個の凸曲面13A、本実施形態では、12個の凸曲面13Aが同じ大きさ、同じピッチで形成されている。各凸曲面13Aの間には、ホール中心C2から離れるように凹んだ複数個の凹曲面13B、本実施形態では、12個の凹曲面13Bが同じ大きさ、同じピッチで形成されている。すなわち、ホール13の内周面は、12個の凸曲面13Aと、12個の凹曲面13Bが同じ大きさ、同じピッチで交互に接続されて構成されている。
【0022】
各凸曲面13Aの形状は、例えば、円弧状又は2次曲線状(楕円弧状、放物線状、双曲線状)のいずれでもよい。図1及び図2は、各凸曲面13Aの形状の延長線を2点鎖線で示すことにより、各凸曲面13Aの形状が円弧状であることを示している。図1及び図2において、凸曲面13A上に記載された黒丸は、この点(頂点)でウェーハ12と当該凸曲面13Aが点接触することを表している。図1は、2個の前記黒丸でウェーハ12が当該凸曲面13Aに点接触することにより、ウェーハ12の中心(ウェーハ中心)CWがホール13のホール中心C2に対して僅かに偏心していることを示している。ウェーハ12と凸曲面13Aが2点で点接触することにより、摩擦抵抗が増加し、ウェーハ12の自転運動が促進される。
【0023】
ここにおいて、本実施形態では、各凸曲面13Aの頂点を円形状に結んだ仮想線VLで形成される仮想円の直径HL1は、ウェーハ12が滞在可能な大きさの円形状となるように、形成されている。
【0024】
各凸曲面13Aは、ホール中心C2に対して回転対称となる位置に形成されている。各凸曲面13Aが円弧状である場合、当該円弧の中心はホール中心C2と当該凸曲面13Aの頂点を通る線分の延長線上に位置する。各凸曲面13Aが2次曲線状である場合、当該2次曲線の軸は、ホール中心C2と当該凸曲面13Aの頂点を通る直線と一致する。
【0025】
各凹曲面13Bは、ホール中心C2に対して回転対称となる位置に形成されている。
各凹曲面13Bは、隣接する2個の凸曲面13Aがウェーハ12と点接触する際にウェーハ12と接触しない程度の隙間を持った空間15が形成されるように配置されている。図2のB-B’断面拡大図である図3に示すように、空間15が狭いため、研磨パッド16は、図8に示す従来の研磨パッド6と比較して変形が少ない。よって、ウェーハ外周部2Aのエッジ上部がR形状に削られることがなく、且つウェーハ12がホール13内で円滑に自転できる。なお、図1及び図2では、本発明の理解を助けるために、ホール13とウェーハ12との隙間である空間15を誇張して記載している。
【0026】
隣接する2個の凸曲面13Aは、一方の凸曲面13Aの頂点とホール中心C2とを通る直線と、他方の凸曲面13Aの頂点とホール中心C2とを通る直線とがなす角度θ1(図1参照)が10°以上72°以下となるような位置に形成することが好ましい。さらに好ましくは、角度θ1は、20°以上60°以下である。
【0027】
角度θ1が10°未満である場合、ウェーハ12と二箇所の接触点が近接しているため、1点接触と殆ど変わらず、両面研磨用キャリア11の回転駆動力をウェーハ12に伝達する回転駆動伝達能力の増加は見込めない。
【0028】
一方、角度θ1が72°より大きい場合、同一接触点でのウェーハ12の保持時間が長くなるため、ウェーハ12に局所的なダメージが生じる虞れがある。
【0029】
これに対し、角度θ1が10°以上72°以下である場合、2点接触による回転駆動伝達能力を向上しつつ、接触点が連続的に移り変わることでウェーハ12に局所的なダメージが生じる虞れがない。
【0030】
前記空間15の幅(隙間)は、ウェーハ12の直径WDの0.1%以上0.6%以下であることが好ましい。
例えば、直径WDが300mmのウェーハ12を研磨するための両面研磨用キャリア11では、空間15の幅(隙間)は、0.3~1.8mmになる。
【0031】
前記空間15の幅(隙間)が0.1%未満である場合、ウェーハ12又はホール13の成形精度によっては、ウェーハ12がホール13に固定され、円滑に自転できない。
【0032】
一方、前記空間15の幅(隙間)が0.6%より大きい場合、研磨パッドが荷重でつぶれ、ウェーハ外周部12Aのエッジ上部がR形状に削られてしまう。
【0033】
これに対し、前記空間15の幅(隙間)が0.1%以上0.6%以下である場合、研磨パッドが荷重でつぶれることがないので、ウェーハ外周部12Aのエッジ上部がR形状に削られることが抑制されつつ、ウェーハ12が円滑に自転できる。
【0034】
両面研磨用キャリア11は、ステンレスやチタン等の金属材料からなる本体と、ホール13の内壁に沿って配置された環状の樹脂インサータとを備えていてもよい。樹脂インサータは、一般的な樹脂により構成できる。樹脂としては、例えば、アラミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂及びフッ素系樹脂などを用いることができる。
前記樹脂インサータは、ガラス繊維を含むことが好ましい。これにより、樹脂インサータの耐久性を高めることができる。このガラス繊維は、体積比で10~60%の含有率であることが好ましい。
【0035】
両面研磨用キャリア11は、全体を、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂などにガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などを複合して構成してもよい。特に、汚染やコスト上のメリットを考慮して、エポキシ樹脂にガラス繊維を複合したものを用いることが好ましい。ガラス繊維は、体積比で10~60%の含有率であることが好ましい。また、両面研磨用キャリア11全体をDLC(Diamond-like Carbon)でコーティングしてもよい。
【0036】
(ウェーハ12の研磨方法)
次に、前記構成を有する両面研磨用キャリア11を用いたウェーハの研磨方法について説明する。
本実施形態では、遊星歯車機構を備えた両面研磨装置を用いる。この両面研磨装置は、上定盤及び下定盤を有する回転定盤と、この回転定盤の中心に設けられたサンギアと、前記回転定盤の外周部に設けられたインターナルギアとを備えている。
【0037】
複数個の両面研磨用キャリア11を両面研磨装置の下定盤の上面にセットし、外周歯14を両面研磨装置のインターナルギア及びサンギアに噛み合わせ、各ホール13内にそれぞれウェーハ12を挿入する。
上定盤を下定盤の真上に位置決めした後に下降して押しつけ、研磨パッドがそれぞれ貼り付けられた上定盤と下定盤とで複数の両面研磨用キャリア11の両面を挟圧する。
【0038】
次に、上定盤と下定盤との間に研磨液を供給しながらインターナルギア及びサンギアの両方、もしくはどちらか一方を回転させると、各両面研磨用キャリア11がサンギアの周囲を公転するとともに、自転する遊星運動を行う。
各両面研磨用キャリア11のホール13に回転可能に挿入されているウェーハ12は、両面研磨用キャリア11の移動や上下定盤の回転周速差により2個の凸曲面13Aの頂点に2点で点接触する。
【0039】
ウェーハ12の外周面が隣接する2個の凸曲面13Aと2点で点接触したとき、ウェーハ12は、2個の凸曲面13Aの各頂点とウェーハ12の外周面との接点で発生する摩擦抵抗に基づいて、両面研磨用キャリア11の回転駆動力を受けて自転する。ウェーハ12は、さらに次に接触する2個の凸曲面13Aからも同様の回転駆動力を受ける。前記摩擦抵抗は、1点で点接触する場合と比較して大きい。その結果、ウェーハ12は両面研磨用キャリア11からほぼ回転駆動力を持続して受けることになり、回転の急激な変動や衝撃を生じることなく円滑に自転する。
【0040】
各凸曲面13Aは、円弧状又は2次曲線状をしている。このため、ウェーハ12がある隣接する2個の凸曲面13Aとの2点で点接触した状態から次に隣接する2個の凸曲面13Aとの2点で点接触した状態に移るとき、ウェーハ12の外周面は、各凸曲面13Aの曲面に沿って滑らかに移動する。
【0041】
したがって、ウェーハ12に局所的なダメージが生じる虞れはなく、ウェーハ12が円滑な回転を持続するので、ウェーハ12の両面全体の平坦度が向上する。
【0042】
本実施形態では、各凹曲面13Bは、ウェーハ12の両面研磨中に、隣接する2個の凸曲面13Aがウェーハ12と点接触する際にウェーハ12と接触しない程度の隙間を持った空間15(図1及び図2参照)が形成されるように配置されている。前記隙間は、ウェーハ12の直径WDの0.1%以上0.6%以下に設定されているため、前記空間15は、図7に示す従来の両面研磨用キャリア1の空間5よりも狭い。よって、研磨パッドが自重で押しつぶされることないため、ウェーハ外周部2Aのエッジ上部がR形状に削られることが抑制される。
【0043】
(第1実施形態の効果)
以上説明したように、本実施形態では、両面研磨用キャリア11はウェーハ12を収容するホール13を有している。ホール13の内周面に、ホール中心C2に向かって突出した凸曲面13Aとホール中心C2から離れるように凹んだ凹曲面13Bとが交互に複数個形成されている。各凸曲面13Aの全ては、同じ大きさ、同じピッチで形成され、各凹曲面13Bの全ては、同じ大きさ、同じピッチで形成されている。各凸曲面13Aは、円弧状又は2次曲線形状に形成され、各凸曲面13Aの頂点を円形状に結んだ仮想線VLは、ウェーハ12が滞在可能な大きさの円形状となるように構成されている。隣接する2個の凸曲面13Aは、ウェーハ12と点接触するように形成されている。各凹曲面13Bは、隣接する2個の凸曲面13Aがウェーハ12と点接触する際にウェーハ12と接触しない程度の隙間を持って配置されている。
【0044】
この構成により、ウェーハ12とホール13の内周面との摩擦抵抗を増加させ、ウェーハ12の自転運動を促進させることができる。
【0045】
また、図3に示すように、凸曲面13Aの両側に位置する凹曲面13Bとウェーハ12の外周面とにより形成される空間15には研磨パッド16がほとんど入り込まない。このため、ウェーハ外周部12Aのエッジ上部がR形状に削られることが抑制される。
したがって、ウェーハ12がホール13内で円滑に自転できるとともに、ウェーハ12の両面全体が高い平坦度で研磨される。
【0046】
また、本実施形態では、凸曲面13Aの隣接する2個の各頂点と、ホール中心C2とをそれぞれ結ぶ2本の線がなす角度が10°以上72°以下となるように形成されている。
【0047】
この構成により、2点接触による回転駆動伝達能力を向上しつつ、隣接する2個の凸曲面13Aの頂点との接触点が連続的に移り変わることでウェーハ12に局所的なダメージが生じる虞れがない。
【0048】
また、本実施形態では、凸曲面13Aの両側に位置する凹曲面13Bとウェーハ12の外周面とにより形成される空間15の隙間が、ウェーハ12の直径WDの0.1%以上0.6%以下である。
【0049】
この構成により、図3に示すように、空間15には研磨パッド16がほとんど入り込まない。このため、研磨荷重による研磨パッドの局所的変形を防止でき、ウェーハ外周部12Aのエッジ上部がR形状に削られることが抑制されつつ、ウェーハ12が円滑に自転することができる。
【0050】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
(両面研磨用キャリア21の構成)
図4は、本発明の第2実施形態に係る両面研磨用キャリア21の構成の一例を示す平面図である。
【0051】
両面研磨用キャリア21は、第1実施形態と同様に、円盤状であって、内部に円盤状のウェーハ22を保持可能な1個以上のホール23、本実施形態では、1個のホール23が形成され、外周部に所定ピッチで外周歯24が形成されている。両面研磨用キャリア21は、ウェーハ22よりも薄く形成されている。
【0052】
ホール23は、略円形状に形成され、ホール23の中心(ホール中心)C4が両面研磨用キャリア21の中心(キャリア中心)C3に対して偏心して形成されている。
【0053】
ホール23の内周面は、ホール中心C4を中心とした正多角形各辺の中間点を通り且つ前記正多角形の内接円ICに等しいか大きい曲面で構成されている。図4では、前記多角形が正六角形の例を示している。
【0054】
ウェーハ22がホール23内に滞在可能な程度において、内接円ICの直径はウェーハ22の直径よりも大きく構成されている。よって、ウェーハ中心CWがホール23のホール中心C4(内接円ICの中心でもある)に対して僅かに偏心することになる。
【0055】
ホール23の内周面は、前記正多角形の各辺の一部である直面23Aと、隣接する各直面23Aの端部間をそれぞれつなぐ凹曲面23Bとから構成されている。また、隣接する2個の直面23Aの中間点とウェーハ22が点接触するように構成されている。図4において、直面23A上に記載された2つの黒丸は、この点でウェーハ22と直面23Aが点接触することを表している。隣接する2個の直面23Aの中間点とウェーハ22が点接触することにより摩擦抵抗を増加させ、ウェーハ22の自転運動が促進される。
【0056】
前記凹曲面23Bは、ホール中心C4から離れるように凹んだ曲面とされ、直面23Aと凹曲面23Bはそれぞれ同じ長さ又は同じ大きさ、同一ピッチで交互に接続されて構成されている。また、各凹曲面23Bは、隣接する2個の直面23Aの中間点とウェーハ22が点接触する際にウェーハ22と接触しない程度の隙間を持った空間25が形成されるように配置されている。この隙間によってウェーハ22がホール23内で円滑に自転できるとともに、ウェーハ22の両面全体が高い平坦度で研磨される。なお、図4では、本発明の理解を助けるために、ホール23とウェーハ22との隙間を誇張して記載している。
【0057】
前記正多角形は、正五角形以上正三十六角形以下であることが好ましい。前記正多角形は、六角形以上十八角形以下であることがなお好ましい。
例えば、前記正多角形が正五角形である場合、隣接する2個の直面23Aにおいて、ホール中心C4から一方の直面23Aへの垂線と、ホール中心C4から他方の直面23Aへの垂線とがなす角度θ2(図4参照)は、72°(=360°/5)である。前記正多角形が正三十六角形である場合、前記角度θ2は、10°(=360°/36)となる。
【0058】
前記正多角形が正三十六角形より角数が多い場合、ウェーハ22と二箇所の接触点が近接しているため、1点接触と殆ど変わらず、両面研磨用キャリア21の回転駆動力をウェーハ22に伝達する回転駆動伝達能力の増加は見込めない。
【0059】
一方、前記正多角形が正五角形より角数が少ない場合、同一接触点でのウェーハ22の保持時間が長くなるため、局所的なダメージが生じる虞れがある。
【0060】
これに対し、前記正多角形が正五角形以上正三十六角形以下である場合、2点接触による回転駆動伝達能力を向上しつつ、接触点が連続的に移り変わることでウェーハ22に局所的なダメージが生じる虞れがない。前記正多角形は、正六角形以上正十八角形以下であることが好ましい。
【0061】
前記空間25の幅(隙間)は、前記第1実施形態と同様、ウェーハ22の直径WDの0.1%以上0.6%以下であることが好ましい。
例えば、直径WDが300mmのウェーハ22を研磨するための両面研磨用キャリア21では、空間25の幅(隙間)は、0.3~1.8mmになる。
【0062】
前記空間25の幅(隙間)が0.1%未満である場合、ウェーハ22又はホール23の成形精度によっては、ウェーハ22がホール23に固定され、円滑に自転できない。
【0063】
一方、前記空間25の幅(隙間)が0.6%より大きい場合、研磨パッドが荷重でつぶれ、ウェーハ外周部22Aのエッジ上部がR形状に削られてしまう。
【0064】
これに対し、前記空間25の幅(隙間)が0.1%以上0.6%以下である場合、研磨パッドが荷重でつぶれることがないので、ウェーハ外周部22Aのエッジ上部がR形状に削られることが抑制されつつ、ウェーハ22が円滑に自転することができる。
【0065】
両面研磨用キャリア21は、両面研磨用キャリア11と同様、金属材料からなる本体と樹脂インサータとを備えた構成でも、全体が合成樹脂と繊維との複合体からなる構成でもよい。また、両面研磨用キャリア21全体をDLCでコーティングしてもよい。
【0066】
(ウェーハ22の研磨方法)
次に、前記構成を有する両面研磨用キャリア21を用いたウェーハの研磨方法について説明する。
本実施形態では、両面研磨用キャリア21に定位置での自転のみを行わせる一般的な両面研磨装置、例えば特開2012-143839号公報に記載された装置などを用いる。この両面研磨装置は、中心部にセンターギアが設けられ、周方向に外周歯24に噛合している複数個の自転機構が配設されている。複数個の両面研磨用キャリア21の各外周歯24をセンターギアと、各自転機構に設けられたアウターギアとに噛み合わせる。これにより、各自転機構は、対応する両面研磨用キャリア21をセンターギアと共同して定位置で回転駆動する。
【0067】
前記両面研磨装置の使用法に基づき、ウェーハ22がセットされた両面研磨用キャリア21を上下の研磨パッドで挟み、両面研磨用キャリア21を定位置で自転させつつ、ウェーハ22の上下面を同時に研磨する。
【0068】
両面研磨用キャリア21のホール23に回転可能に挿入されているウェーハ22は、両面研磨用キャリア21の回転に伴って2個の直面23Aの中間点に2点で点接触する。
ウェーハ22の外周面が隣接する2個の直面23Aの中間点と2点で点接触したとき、ウェーハ22は、2個の直面23Aとウェーハ22の外周面との接点で発生する摩擦抵抗に基づいて、両面研磨用キャリア21の回転駆動力を受けて自転する。ウェーハ22は、さらに次に接触する2個の直面23Aからも同様の回転駆動力を受ける。前記摩擦抵抗は、1点で点接触する場合と比較して大きい。その結果、ウェーハ22は両面研磨用キャリア21からほぼ回転駆動力を持続して受けることになり、回転の急激な変動や衝撃を生じることなく円滑に自転する。
【0069】
したがって、ウェーハ22に局所的なダメージが生じる虞れはなく、ウェーハ22が円滑な回転を持続するので、ウェーハ22の両面全体の平坦度が向上する。
【0070】
本実施形態では、各凹曲面23Bは、ウェーハ22の両面研磨中に、隣接する2個の直面23Aの中間点とウェーハ22が点接触する際にウェーハ22と接触しない程度の隙間を持った空間25(図4参照)が形成されるように配置されている。前記隙間は、ウェーハ22の直径WDの0.1%以上0.6%以下である。このため、前記空間25は、図7に示す従来の両面研磨用キャリア1の空間5よりも狭い。そのため、図4のC-C’断面拡大図である図5に示すように、空間25が狭いため、研磨パッド26は、図8に示す従来の研磨パッド6と比較して変形が少なく、空間25にほとんど入り込まない。したがって、ウェーハ外周部22Aのエッジ上部がR形状に削られることが抑制され、ウェーハ22は高い平坦度で研磨される。
【0071】
(第2実施形態の効果)
以上説明したように、本実施形態では、両面研磨用キャリア21はウェーハ22を収容するホール23を有している。ホール23の内周面が、ホール中心C4を中心とした正多角形各辺の中間点を通り且つ前記正多角形の内接円ICに等しいか大きい曲面で構成されている。ホール23は、前記正多角形各辺の隣接する2辺の中間点とウェーハ22が点接触するように形成されている。各凹曲面23Bは、前記正多角形各辺の隣接する2辺の前記中間点とウェーハ22が点接触する際にウェーハ22と接触しない程度の隙間を持って形成されている。
【0072】
この構成により、ウェーハ22とホール23の内周面との摩擦抵抗を増加させ、ウェーハ22の自転運動を促進させることができる。
【0073】
また、直面23Aの両側に位置する凹曲面23Bとウェーハ22の外周面とにより形成される空間25には研磨パッド26がほとんど入り込まない。このため、ウェーハ外周部22Aのエッジ上部がR形状に削られることが抑制される。
したがって、ウェーハ22がホール23内で円滑に自転できるとともに、ウェーハ22の両面全体が高い平坦度で研磨される。
【0074】
また、本実施形態では、正多角形は、正五角形以上正三十六角形以下である。すなわち、隣接する2個の直面23Aは、ホール中心C4から一方の直面23Aへの垂線と、ホール中心C4から他方の直面23Aへの垂線とがなす角度が10°以上72°以下となる位置に形成されている。
【0075】
この構成により、2点接触による回転駆動伝達能力を向上しつつ、隣接する2個の直面23Aの中間点との接触点が連続的に移り変わることでウェーハ22に局所的なダメージが生じる虞れがない。
【0076】
また、本実施形態では、直面23Aの両側に位置する凹曲面23Bとウェーハ22の外周面とにより形成される空間25の隙間が、ウェーハ22の直径WDの0.1%以上0.6%以下である。
【0077】
この構成により、図5に示すように、空間25には研磨パッド26がほとんど入り込まない。このため、ウェーハ外周部22Aのエッジ上部がR形状に削られることが抑制されつつ、ウェーハ22が円滑に自転することができる。
【0078】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0079】
例えば、前記各実施形態では、両面研磨用キャリア11及び21は、内部にウェーハ12及び22を保持する1個のホール13及び23が形成されている例を示したが、これに限定されない。両面研磨用キャリア11及び21は、内部にウェーハ12及び22を保持する2個以上のホール13及び23が形成されていてもよい。
【0080】
前記第1実施形態では、前記遊星歯車機構を備えた両面研磨装置を用い、前記第2実施形態では、前記回転機構を備えた両面研磨装置を用いる例を示したが、これに限定されない。前記第1実施形態において前記回転機構を備えた両面研磨装置を用い、前記第2実施形態において前記遊星歯車機構を備えた両面研磨装置を用いてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1,11,21…両面研磨用キャリア、2,12,22…ウェーハ、2A,12A,22A…ウェーハ外周部、3,13,23…ホール、3A…凸面、3B…凹部、4,14,24…外周歯、5,15,25…空間、6,16,26…研磨パッド、13A…凸曲面、13B,23B…凹曲面、23A…直面、C1,C3…キャリア中心、C2,C4…ホール中心、CW…ウェーハ中心、HL1…仮想線で形成される仮想円の直径、HL2…内接円ICの直径、IC…内接円、VL…仮想線、WD…ウェーハの直径、θ1,θ2…角度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8