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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100880
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】熱線遮蔽樹脂シート材
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220629BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20220629BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20220629BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220629BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20220629BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
C08L101/00
C01G41/00 A
C09K3/00 105
C08K3/22
C08L69/00
C08L33/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215131
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】野下 昭也
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【テーマコード(参考)】
4G048
4J002
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB06
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
4J002AA001
4J002BG051
4J002BG061
4J002BG101
4J002CG001
4J002DE096
4J002FD206
4J002GF00
4J002GL00
4J002GN00
4J002GR00
(57)【要約】
【課題】耐候性に優れた熱線遮蔽樹脂シート材を提供することを目的とする。
【解決手段】近赤外線吸収材料粒子と、樹脂と、を含有し、
前記近赤外線吸収材料粒子が、一般式M(ただし、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、3.0<z/y)で表記される複合タングステン酸化物の粒子を含有する熱線遮蔽樹脂シート材を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線吸収材料粒子と、樹脂と、を含有し、
前記近赤外線吸収材料粒子が、一般式M(ただし、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、3.0<z/y)で表記される複合タングステン酸化物の粒子を含有する熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項2】
前記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上の元素を含有する請求項1に記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項3】
前記複合タングステン酸化物の粒子が、六方晶、正方晶、および立方晶から選択される1種類以上の結晶構造の結晶を含む請求項1または請求項2に記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項4】
前記近赤外線吸収材料粒子の粒子径が、10nm以上100nm以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項5】
前記樹脂が、ポリカーボネート樹脂、またはアクリル樹脂である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項6】
少なくとも前記樹脂を含有する複数のシート層を有しており、
複数の前記シート層のうち、1以上の前記シート層が、前記近赤外線吸収材料粒子を含有し、
前記シート層として、第1表面シート層と、第2表面シート層と、中間シート層と、接続シート層とを有し、
前記第1表面シート層、前記中間シート層、および前記第2表面シート層はその順に積層され、前記接続シート層は、前記第1表面シート層、前記中間シート層、および前記第2表面シート層の間を接続しており、
前記第1表面シート層は、前記熱線遮蔽樹脂シート材の外表面である第1の表面を含み、
前記第2表面シート層は、前記第1の表面と反対側に位置する、前記熱線遮蔽樹脂シート材の外表面である第2の表面を含み、
前記第1表面シート層と、前記第2表面シート層との間には空隙を含み、中空多層構造を有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項7】
全ての前記シート層が、前記近赤外線吸収材料粒子を含有している請求項6に記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項8】
前記第1表面シート層と、前記第2表面シート層とのいずれか1層のみが、前記近赤外線吸収材料粒子を含有している請求項6に記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項9】
前記第1表面シート層、および前記第2表面シート層のみが、前記近赤外線吸収材料粒子を含有している請求項6に記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱線遮蔽樹脂シート材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種建築物や車両の窓などのいわゆる開口部は、太陽光線を取り入れるために透明なガラス板や樹脂板が配置されている。しかし、太陽光線には可視光線の他に紫外線や赤外線が含まれ、特に赤外線のうち800~2500nmの近赤外線は熱線と呼ばれ、開口部分から室内に進入することにより室内の温度を上昇させる原因となる。
【0003】
そこで、近年では、各種建築物や車両の窓材などとして、可視光線を十分に取り入れながら熱線を遮蔽して、明るさを維持しつつ同時に室内の温度上昇を抑制する熱線遮蔽材が検討され、そのための各種手段が提案されている。
【0004】
特許文献1や特許文献2には、メタクリル樹脂やポリカーボネート樹脂などの透明な樹脂に、酸化チタンで被覆したマイカを配合した熱線反射板状体が提案されている。これらの熱線反射板状体では、熱線遮蔽性能を高めるために酸化チタンで被覆したマイカ(以下、「熱線反射粒子」と記載する)を多量に添加する必要がある。しかし、熱線反射粒子の添加量を増大すると可視光線透過性が低下してしまうという問題があった。逆に、熱線反射粒子の添加量を少なくすると、可視光線透過性は高まるものの熱線遮蔽性が低下するため、熱線遮蔽性と可視光線透過性を同時に満足させることは困難であった。さらに、熱線反射粒子を多量に配合すると、基材である透明樹脂の物性、特に耐衝撃性や靭性が低下するという強度面の欠点も有していた。
【0005】
本出願人は、特許文献3に、赤外線材料微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、当該赤外線材料微粒子は、タングステン酸化物微粒子または/及び複合タングステン酸化物微粒子を含有し、当該赤外線材料微粒子の分散粒子径が1nm以上800nm以下である赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-78544号公報
【特許文献2】特開平2-173060号公報
【特許文献3】国際公開第2005/037932号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3は、可視光線を十分に透過し、波長780nm以上の目に見えない近赤外線を効率よく遮蔽し、透明で色調の変化しない近赤外線遮蔽材料微粒子、近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、近赤外線遮蔽体、および近赤外線遮蔽材料微粒子と、その製造方法を提供するものであった。しかしながら、近年では耐候性などの性能も求められるようになってきていた。
【0008】
本発明の一側面では、耐候性に優れた熱線遮蔽樹脂シート材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面では、近赤外線吸収材料粒子と、樹脂と、を含有し、
前記近赤外線吸収材料粒子が、一般式M(ただし、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、3.0<z/y)で表記される複合タングステン酸化物の粒子を含有する熱線遮蔽樹脂シート材を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面では、耐候性に優れた熱線遮蔽樹脂シート材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で用いたハイブリッドプラズマ反応装置の説明図。
図2】実施例2で用いた高周波プラズマ反応装置の説明図。
図3】中空3層構造の熱線遮蔽樹脂シート材の断面図。
図4】中空7層構造の熱線遮蔽樹脂シート材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態に係る熱線遮蔽樹脂シート材に好適に用いることができる近赤外線吸収材料粒子、およびその製造方法について、「1.近赤外線吸収材料粒子」、「2.近赤外線吸収材料粒子の製造方法」でまず説明する。その後、「3.熱線遮蔽樹脂シート材」、および「4.熱線遮蔽樹脂シート材の製造方法」において、本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材、およびその製造方法について詳細に説明する。
1.近赤外線吸収材料粒子
近赤外線吸収材料粒子は、一般式Mで表記される複合タングステン酸化物の粒子を含有できる。
【0013】
なお、上記一般式中のM元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素である。Wはタングステン、Oは酸素である。x、y、zは、0.001≦x/y≦1、3.0<z/yを満たすことができる。
【0014】
耐候性に優れた近赤外線吸収材料粒子とするために、本発明の発明者らは鋭意研究を行った。なお、本明細書において耐候性に優れるとは、高温環境下に置かれた場合でも、近赤外線吸収特性が大きく変化しないことを意味する。
【0015】
一般に、自由電子を含む材料は、太陽光線の領域周辺である波長200nmから2600nmの電磁波に対しプラズマ振動による反射吸収応答を示すことが知られている。そして、当該自由電子を含む材料の粉末を、光の波長より小さい粒子とすると、可視光領域(波長380nm以上780nm以下)の幾何学散乱が低減されて、可視光領域の透明性が得られることが知られている。なお、本明細書において「透明性」とは、可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高いという意味で用いている。
【0016】
一般式WO3-aで表されるタングステン酸化物や、三酸化タングステンにNa等の陽性元素を添加したいわゆるタングステンブロンズは、導電性材料であり、自由電子を含む材料であることが知られている。そして、これらの材料は、単結晶等の分析により、近赤外線領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。
【0017】
一般に、三酸化タングステン(WO)中には有効な自由電子が存在しないため近赤外線領域の吸収反射特性が少なく、近赤外線吸収材料としては有効ではない。ここで、三酸化タングステンのタングステンに対する酸素の比率を3より低減することによって、当該タングステン酸化物中に自由電子が生成されることが知られている。
【0018】
また、当該タングステン酸化物へ、M元素を添加して、複合タングステン酸化物とすることも従来からなされている。当該構成により、複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となるためである。
【0019】
本発明の発明者らは、耐候性に優れた近赤外線吸収材料粒子とするため、タングステン酸化物や、複合タングステン酸化物についてさらなる研究を行った。その結果、一般式Mで表記される複合タングステン酸化物の粒子を含有する近赤外線吸収材料粒子において、上記一般式中のy、zに関して3.0<z/yとすることで、近赤外線吸収特性と耐候性を両立できることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
本実施形態の近赤外線吸収材料粒子は、上述のように一般式Mで表記される複合タングステン酸化物の粒子を含有できる。本実施形態の近赤外線吸収材料粒子は、上記一般式で表記される複合タングステン酸化物の粒子から構成することもできる。ただし、この場合でも、製造工程等で混入する不可避成分を含有することを排除するものではない。
【0021】
ここで、上記一般式におけるM元素は、安定性を高める観点から、既述の様に、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素であることが好ましい。特に、近赤外線吸収材料としての光学特性、耐候性を特に向上させる観点からは、M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものが、より好ましい。
【0022】
複合タングステン酸化物の粒子が、六方晶の結晶構造を有する結晶を含有する場合、当該粒子の可視光領域の透過率が特に向上し、近赤外線領域の吸収が特に向上する。六方晶の結晶構造は、WO単位で形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙(トンネル)が構成され、当該空隙中にM元素が配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合することで構成されている。
【0023】
なお、複合タングステン酸化物の粒子が六方晶の結晶構造を有する結晶を含有する場合に限定されず、例えば上記単位構造、すなわちWO単位で形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中にM元素が配置した構造を有していれば可視光領域の透過率を特に向上させ、近赤外線領域の吸収を特に向上させることができる。このため、複合タングステン酸化物の粒子は、六方晶の結晶構造を有する結晶を含有せず、上記単位構造を有するのみであっても、高い効果を得ることができる。
【0024】
上述のように、複合タングステン酸化物の粒子が、六角形の空隙にM元素の陽イオンが添加された構造を含有するとき、近赤外線領域の吸収が特に向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きなM元素を添加したとき六方晶や、上記構造が形成され易い。具体的には、複合タングステン酸化物が、M元素として、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上の元素を含有する場合に、六方晶や、上記構造が形成され易い。このため、複合タングステン酸化物の粒子は、M元素として、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上の元素を含有することが好ましく、M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。
【0025】
さらに、これらイオン半径の大きなM元素のうちでもCs、Rbから選択される1種類以上を含有する複合タングステン酸化物の粒子においては、六方晶や、上記構造が形成され易く、近赤外線領域の吸収と可視光領域の透過とを両立し、かつ特に高い性能を発揮できる。
【0026】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物の粒子が均一な結晶構造を有する場合、1モルのタングステンに対するM元素の含有割合を示すx/yは、0.2以上0.5以下が好ましく、さらに好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0027】
複合タングステン酸化物の粒子が、上述の六方晶以外の、例えば正方晶や、立方晶等の結晶を含有する場合も近赤外線吸収材料として有効である。
【0028】
そして、立方晶、正方晶のそれぞれの複合タングステン酸化物にも構造に由来した元素Mの添加量の好適な範囲、上限があり、1モルのタングステンに対するM元素の含有割合であるx/yの上限値は、立方晶の場合は1モルであり、正方晶の場合は0.5モル程度である。なお、M元素の種類等により上記1モルのタングステンに対するM元素の含有割合であるx/yの上限値は変化するが、正方晶の場合、工業的製造が容易なのは、0.5モル程度である。
【0029】
ただし、これらの構造は、単純に規定することが困難であり、当該範囲は特に基本的な範囲を示した例であることから、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0030】
複合タングステン酸化物の粒子が含有する結晶の構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、この近赤外線領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶の結晶の方が長波長側に移動し、さらに六方晶の結晶は正方晶の結晶よりも長波長側に移動する傾向がある。また、当該吸収位置の変動に付随して、可視光領域の吸収は六方晶の結晶が最も少なく、次に正方晶の結晶であり、立方晶の結晶はこの中では最も大きい。このため、要求される性能等に応じて、含有する結晶系を選択することが好ましい。例えば、より可視光領域の光を透過して、より近赤外線領域の光を吸収することが求められる用途に用いる場合、複合タングステン酸化物の粒子は、六方晶の結晶を含有することが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によっても変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0031】
当該複合タングステン酸化物に対し、上述した酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用することで、より効率の良い耐候性に優れた近赤外線吸収材料を得ることができる。酸素量の制御と、自由電子を生成する元素の添加とを併用した近赤外線吸収材料である複合タングステン酸化物の一般式を、Mと記載したとき、x、y、は、0.001≦x/y≦1とすることができ、0.20≦x/y≦0.37を満たすことが好ましい。
【0032】
また、上記一般式のy、zは、3.0<z/yの関係を満たし、3.0<z/y<3.4を満たすことが好ましく、3.0<z/y<3.3を満たすことがより好ましく、3.0<z/y<3.22を満たすことがさらに好ましい。
【0033】
本出願人の検討によれば、六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物粒子は、z/y=3の時、x/yの値が0.33となることで、元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0034】
本実施形態に係る近赤外線吸収材料粒子が含有する複合タングステン酸化物粒子は、z/yが3を超えることが、化学分析で確認されている。その一方、粉末X線回折法で、本実施形態に係る近赤外線吸収材料粒子が含有する複合タングステン酸化物粒子は、z/y=3としたときに正方晶、立方晶、六方晶の少なくともいずれかのタングステンブロンズ構造をとる場合があることが確認されている。従って、本実施形態に係る近赤外線吸収材料粒子が含有する複合タングステン酸化物の粒子は、六方晶、正方晶、および立方晶から選択される1種類以上の結晶構造の結晶を含有することが好ましい。上記結晶構造の結晶を含有することで、特に優れた近赤外線吸収特性と、可視光透過特性を示すことができる。
【0035】
ところで、z/y値が3を超える場合の酸素原子は、複合タングステン酸化物の粒子の結晶に入り込んでいると考えられる。結果的に結晶に酸素原子が入り込むことで、熱や湿気に晒されても、複合タングステン酸化物の粒子の結晶が変質することなく、優れた耐候性を実現できると考えられる。
【0036】
本実施形態に係る近赤外線吸収材料粒子が含有する複合タングステン酸化物の粒子の結晶構造は、粉末X線回折法(θ-2θ法)によりX線回折パターンで確認することができる。
【0037】
本実施形態の近赤外線吸収材料粒子は、波長350nm以上600nm以下の範囲に極大値を有し、波長800nm以上2100nm以下の範囲に極小値を有する光の透過特性を示し、優れた近赤外線吸収効果と耐候性を発揮できる。本実施形態の近赤外線吸収材料粒子は、波長440nm以上600nm以下の範囲に極大値を有し、波長1150nm以上2100nm以下の範囲に極小値を有することがより好ましい。
【0038】
また、本実施形態に係る近赤外線吸収材料粒子は、その粒子径が100nm以下であることが好ましい。より優れた近赤外線吸収特性を発揮させる観点から、当該粒子径は10nm以上100nm以下がより好ましく、10nm以上80nm以下がさらに好ましく、10nm以上60nm以下が特に好ましく、10nm以上40nm以下が最も好ましい。近赤外線吸収材料粒子の粒子径が10nm以上40nm以下の範囲であれば、最も優れた近赤外線吸収特性が発揮される。
【0039】
ここで、粒子径とは凝集していない個々の近赤外線吸収材料粒子がもつ径、すなわち個別粒子の粒子径である。
【0040】
ここでの粒子径は、近赤外線吸収材料粒子の凝集体の径を含むものでなく、分散粒子径とは異なるものである。
【0041】
ここでの粒子径は、例えば近赤外線吸収材料粒子を分散させた状態で、透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いて、複数個の粒子の粒子径を測定し、算出できる。なお、近赤外線吸収材料粒子は通常不定形であることから、該粒子に外接する最小の円の直径を、該粒子の粒子径とすることができる。例えば透過型電子顕微鏡を用いて上述のように複数の粒子の粒子径を粒子毎に測定した場合に、全ての粒子の粒子径が上記範囲を満たすことが好ましい。測定する粒子の数は特に限定されないが、例えば10個以上50個以下であることが好ましい。
【0042】
また、優れた近赤外線吸収特性を発揮させる観点から、複合タングステン酸化物粒子の結晶子径は10nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上80nm以下であることがより好ましく、10nm以上60nm以下であることがさらに好ましく、10nm以上40nm以下であることが特に好ましい。結晶子径が10nm以上40nm以下の範囲であれば、特に優れた近赤外線吸収特性が発揮されるからである。近赤外線吸収材料粒子が含有する複合タングステン酸化物粒子の結晶子径は、粉末X線回折法(θ-2θ法)により測定したX線回折パターンから、リートベルト法を用いて算出することができる。
【0043】
また、本実施形態に係る複合タングステン酸化物の粒子を含有する近赤外線吸収材料粒子分散体は近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
【0044】
本実施形態の近赤外線吸収材料粒子の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持した応用に使用する場合は、800nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。これは、分散粒子径が800nm以下の粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。
【0045】
特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。なお、当該分散粒子径とは、近赤外線吸収材料粒子の凝集体の径を含むものであり、既述の粒子径とは異なるものである。
【0046】
上記粒子による散乱の低減を重視するとき、本実施形態の近赤外線吸収材料粒子の分散粒子径は200nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下がさらに好ましい。これは、分散粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長380nm以上780nm以下の可視光領域の光の散乱が低減される結果、本実施形態の近赤外線吸収材料粒子を含む分散体が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。すなわち、分散粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6乗に比例するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましく、分散粒子径が10nm以上あれば工業的な製造は容易である。
【0047】
上記分散粒子径を800nm以下とすることにより、近赤外線吸収材料粒子を媒体中に分散させた近赤外線吸収材料粒子分散体のヘイズ(ヘイズ値)は、可視光透過率85%以下で10%以下とすることができる。特に、分散粒子径を100nm以下とすることにより、ヘイズを1%以下とすることができる。
【0048】
なお、近赤外線吸収材料粒子分散体の光の散乱は、近赤外線吸収材料粒子の凝集を考慮する必要があり、分散粒子径で検討する必要がある。
2.近赤外線吸収材料粒子の製造方法
近赤外線吸収材料粒子の製造方法の構成例について説明する。本実施形態の近赤外線吸収材料粒子の製造方法によれば、既述の近赤外線吸収材料粒子を製造できる。このため、既に説明した事項については一部説明を省略する。
【0049】
本実施形態の近赤外線吸収材料粒子が含有する既述の一般式Mで表記される複合タングステン酸化物粒子は、例えば以下の固相反応法や、プラズマ法により製造できる。
【0050】
以下、それぞれの方法について説明する。
(1)固相反応法
固相反応法により複合タングステン酸化物粒子を製造する場合、以下の工程を有することができる。
【0051】
タングステン化合物とM元素化合物とを混合し、原料混合物を調製する(混合工程)。なお、原料混合物における、M元素とタングステンとの物質量比(モル比)が、目的とする複合タングステン酸化物の粒子の上記一般式におけるxとyとの比となるように配合、混合することが好ましい。
【0052】
混合工程で得られた原料混合物を、酸素を含む雰囲気中で熱処理する(第1熱処理工程)。
【0053】
第1熱処理工程後に得られた熱処理物を、還元性ガス雰囲気もしくは還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気中、または不活性ガス雰囲気中で熱処理する(第2熱処理工程)。
【0054】
第2熱処理工程後、必要に応じて近赤外線吸収材料粒子を所望の粒子径とするように粉砕処理等を行うこともできる。
【0055】
以上の工程により得られた複合タングステン酸化物粒子を含む、本実施形態の近赤外線吸収材料粒子は、十分な近赤外線吸収力を有し、近赤外線吸収材料粒子として好ましい性質を有している。また、耐候性に優れた近赤外線吸収材料粒子とすることができる。
【0056】
以下、各工程について詳述する。
(混合工程)
混合工程に供するタングステン化合物としては、例えばタングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解した後溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、から選ばれる1種類以上を用いることができる。
【0057】
また、混合工程に供するM元素化合物としては、例えばM元素の酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩から選ばれる1種類以上を用いることができる。
【0058】
混合工程において、タングステン化合物と、M元素化合物との混合に当たっては、得られる原料混合物中のM元素(M)と、タングステン(W)との物質量比(M:W)が、目的とする一般式Mのx:yと等しくなるように各原料を配合し、混合することが好ましい。
【0059】
混合方法は特に限定されず、湿式混合、乾式混合のいずれを用いることもできる。湿式混合の場合、湿式混合後に得られた混合液を乾燥することによって、M元素化合物とタングステン化合物との混合粉体が得られる。湿式混合後の乾燥温度や時間は特に限定されない。
【0060】
乾式混合は、市販の擂潰機、ニーダー、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の公知の混合装置で行えばよく、混合時間や混合速度等の混合条件については特に限定されない。
(第1熱処理工程)
第1熱処理工程における熱処理温度は特に限定されないが、複合タングステン酸化物粒子が結晶化する温度よりも高いことが好ましい。具体的には例えば500℃以上1000℃以下が好ましく、500℃以上800℃以下がより好ましい。
(第2熱処理工程)
第2熱処理工程では、既述の様に還元性ガス雰囲気中、還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気中、あるいは不活性ガス雰囲気中で500℃以上1200℃以下の温度で熱処理を行うことができる。
【0061】
第2熱処理工程で還元性ガスを用いる場合、還元性ガスの種類は特に限定されないが水素(H)が好ましい。また、還元性ガスとして水素を用いる場合、その濃度は焼成温度と出発原料の物量等に応じて適宜選択すればよく特に限定されない。例えば、20vol%以下、好ましくは10vol%以下、より好ましくは7vol%以下である。還元性ガスの濃度が20vol%以下であれば、急速な還元による日射遮蔽機能を有しないWOが生成するのを回避できるからである。
(2)プラズマ法
本実施形態の近赤外線吸収材料粒子が含有する既述の一般式Mで表記される複合タングステン酸化物粒子は、例えばプラズマ法により製造することもできる。プラズマ法により、近赤外線吸収材料粒子を作製する場合、以下の工程を有することができる。
【0062】
出発原料として、タングステン化合物とM元素化合物との原料混合物、または一般式Mz´で表される複合タングステン酸化物前駆体を調製する(原料調製工程)。
【0063】
原料調製工程で調製した出発原料を、キャリアガスと共に、プラズマ中に供給し、蒸発、凝縮過程を経て、目的とする複合タングステン酸化物粒子を生成する(反応工程)。
(原料調製工程)
出発原料として、タングステン化合物とM元素化合物との原料混合物を調製する場合、タングステン化合物とM元素化合物との原料混合物における、M元素(M)とタングステン(W)との物質量比(M:W)が、目的とする複合タングステン酸化物の既述の一般式におけるxとyとの比x:yと等しくなるように各原料を配合、混合することが好ましい。
【0064】
タングステン化合物、M元素化合物としては、固相反応法で説明したものと同様の材料を好適に用いることができるため、ここでは説明を省略する。
【0065】
また、一般式Mz´で表される複合タングステン酸化物前駆体においては、Mは既述のM元素、Wはタングステン、Oは酸素とすることができ、x、y、z´は、0.001≦x/y≦1、2.0<z´/yを満たすことが好ましい。
【0066】
一般式Mz´で表される複合タングステン酸化物前駆体は、例えば既述の固相反応法で合成できる。係る複合タングステン酸化物前駆体におけるx/yは、目的とする一般式Mで表される複合タングステン酸化物の粒子におけるx/yと合致した材料であることが好ましい。
(反応工程)
反応工程において出発原料を搬送するキャリアガスとしては、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いることができる。
【0067】
プラズマは、例えば不活性ガス単独もしくは不活性ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気中で発生させることができる。プラズマは特に限定されないが、熱プラズマが好ましい。該プラズマ中に供給された原料は瞬時に蒸発し、蒸発した原料はプラズマ尾炎部に至る過程で凝縮し、プラズマフレーム外で急冷凝固されて、複合タングステン酸化物の粒子を生成する。プラズマ法によれば、例えば結晶相が単相の複合タングステン酸化物の粒子を生成できる。
【0068】
本実施形態の近赤外線吸収材料粒子の製造方法で用いるプラズマは、例えば、直流アークプラズマ、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、低周波交流プラズマのいずれか、もしくはこれらの重畳したもの、あるいは直流プラズマに磁場を印加した電気的な方法によるもの、大出力レーザーによるもの、大出力電子ビームやイオンビームによって得られるものであることが好ましい。いずれの熱プラズマを用いる場合でも、10000K以上、より望ましくは10000K以上25000K以下の高温部を有する熱プラズマであり、特に、粒子の生成時間を制御できるプラズマであることが好ましい。
【0069】
プラズマ法による、本実施形態の近赤外線吸収材料粒子の製造方法における反応工程の具体的な構成例について、図1を用いながら説明する。
【0070】
図1に示した装置は、直流プラズマ装置と高周波プラズマ装置を重畳させたハイブリッドプラズマ反応装置10である。
【0071】
ハイブリッドプラズマ反応装置10は、水冷石英二重管11と、水冷石英二重管11と接続された反応容器12を有している。また、反応容器12には真空排気装置13が接続されている。
【0072】
水冷石英二重管11の上方には直流プラズマトーチ14が設けられ、直流プラズマトーチ14には、プラズマ発生用ガス供給口15が設けられている。
【0073】
プラズマ領域の外側に水冷石英二重管11の内壁に沿って、高周波プラズマ発生用および石英管保護用のシースガスを供給できるように構成されており、水冷石英二重管11の上方のフランジにはシースガス導入口16が設けられている。
【0074】
水冷石英二重管11の周囲には、高周波プラズマ発生用の水冷銅コイル17が配置されている。
【0075】
直流プラズマトーチ14近傍には、原料粉末キャリアガス供給口18が設けられ、原料粉末を供給する原料粉末供給装置19と配管で接続されている。
【0076】
プラズマ発生用ガス供給口15、シースガス導入口16、原料粉末供給装置19には、配管により、ガス供給装置20を接続し、ガス供給装置20から所定のガスを各部材に供給できるように構成できる。なお、必要に応じて、装置内の部材を冷却したり、所定の雰囲気にできるように上記部材以外にも供給口を設けておき、上記ガス供給装置20と接続しておくこともできる。
【0077】
上記ハイブリッドプラズマ反応装置10を用いた複合タングステン酸化物の粒子の製造方法の構成例を説明する。
【0078】
まず、真空排気装置13により、水冷石英二重管11内と反応容器12内とで構成される反応系内を真空引きする。この際の真空度は特に限定されないが、例えば約0.1Pa(約0.001Torr)まで真空引きできる。反応系内を真空引きした後、ガス供給装置20からアルゴンガスを供給し、当該反応系内をアルゴンガスで満たすことができる。例えば反応系内を1気圧のアルゴンガス流通系とすることが好ましい。
【0079】
さらにその後、反応容器12内にプラズマガスを供給できる。プラズマガスとしては特に限定されないが、例えばアルゴンガス、アルゴンとヘリウムとの混合ガス(Ar-He混合ガス)、アルゴンと窒素との混合ガス(Ar-N混合ガス)、ネオン、ヘリウム、キセノンから選択されるいずれかのガスを用いることができる。
【0080】
プラズマガスの供給流量についても特に限定されないが、例えば、好ましくは3L/min以上30L/min以下、より好ましくは3L/min以上15L/min以下の流量でプラズマ発生用ガス供給口15から導入できる。そして、直流プラズマを発生できる。
【0081】
一方、プラズマ領域の外側に水冷石英二重管11の内壁に沿って、高周波プラズマ発生用および石英管保護用のシースガスをシースガス導入口16から旋回状に供給できる。シースガスの種類や、供給速度についても特に限定されないが、例えばアルゴンガスを20L/min以上50L/min以下と、水素ガス1L/min以上5L/min以下とを流し、高周波プラズマを発生させる。
【0082】
そして、高周波プラズマ発生用の水冷銅コイル17に高周波電源を加えることができる。高周波電源の条件は特に限定されないが、例えば周波数4MHz程度の高周波電源を、15kW以上50kW以下加えることができる。
【0083】
このようなハイブリッドプラズマを発生させた後、キャリアガスを用い、原料を、原料粉末供給装置19により原料粉末キャリアガス供給口18から導入できる。キャリアガスについても特に限定されないが、例えば1L/min以上8L/min以下のアルゴンガスと0.001L/min以上0.8L/min以下の酸素ガスとからなる混合ガスを用いることができる。
【0084】
プラズマ中に供給される出発原料となる原料混合物、あるいは複合タングステン酸化物前駆体をプラズマ中に導入して反応を行う。出発原料の原料粉末キャリアガス供給口18からの供給速度は特に限定されないが、例えば1g/min以上50g/min以下の割合で供給することが好ましく、1g/min以上20g/min以下がより好ましい。
【0085】
出発原料の供給速度を50g/min以下とすることで、プラズマ火炎の中心部を通過する出発原料の割合を十分に高くし、未反応物や中間生成物の割合を抑制し、所望の複合タングステン酸化物粒子の生成割合を高くできる。また、出発原料の供給速度を1g/min以上とすることで生産性を高めることができる。
【0086】
プラズマ中に供給される出発原料は、プラズマ中で瞬時に蒸発し、凝縮過程を経て、平均一次粒子径が100nm以下の複合タングステン酸化物粒子が生成する。
【0087】
なお、本実施形態の製造方法によって得られる複合タングステン酸化物粒子の粒径は、プラズマ出力や、プラズマ流量、供給する原料粉末の量などによって容易に制御できる。
【0088】
反応後、生成した複合タングステン酸化物粒子は,反応容器12に堆積するので、これを回収できる。
【0089】
以上に、本実施形態の近赤外線吸収材料粒子の製造方法について説明したが、係る製造方法により得られた近赤外線吸収材料粒子は、例えば以下の方法により、評価、確認できる。
【0090】
例えば、上記近赤外線吸収材料粒子の製造方法により得られた近赤外線吸収材料粒子の構成元素の化学定量分析を実施できる。分析方法は特に限定されないが、例えばM元素やタングステンは、プラズマ発光分光分析法等で、酸素は不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法等で分析することができる。
【0091】
また、近赤外線吸収材料粒子が含有する複合タングステン酸化物粒子の結晶構造は、粉末X線回折法で確認することができる。
【0092】
近赤外線吸収材料粒子の粒子径はTEM観察や動的光散乱法に基づく粒径測定によって確認できる。
3. 熱線遮蔽樹脂シート材
本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材(以下、「樹脂シート材」と記載する場合もある)は、既述の近赤外線吸収材料粒子と、樹脂と、を含有できる。
【0093】
近赤外線吸収材料粒子については既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0094】
樹脂は、熱線遮蔽樹脂シート材の用途等に応じて選択することができ、例えば、各種の透明樹脂が使用可能である。特に、光学的特性、機械的特性、原料コスト等の観点から、樹脂は、ポリカーボネート樹脂、またはアクリル樹脂であることが好ましい。
【0095】
熱線遮蔽樹脂シート材の樹脂としてポリカーボネート樹脂を用いる場合、ポリカーボネート樹脂は、例えば2価フェノール類とカーボネート系前駆体とを、溶液法または熔融法で反応させることによって得ることができる。2価フェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が代表例として挙げられる。また、2価フェノールは、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系であることが好ましく、特にビスフェノールAを主成分とするものがより好ましい。
【0096】
また、アクリル樹脂としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレートを主原料とし、必要に応じて炭素数1以上8以下のアルキル基を有するアクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を共重合成分として用いた重合体または共重合体を用いることができる。また、さらに多段で重合したアクリル樹脂を用いることもできる。
【0097】
本実施形態の樹脂シート材において、近赤外線吸収材料粒子は、樹脂中に配合でき、樹脂中に分散していることが好ましく、特に樹脂中に均一に分散していることがより好ましい。
【0098】
本実施形態の樹脂シート材において、樹脂は所望の形状に成形でき、その形状は特に限定されないが例えばシート形状を有することができる。ただし、係るシートの厚さは、特に限定されず、例えば厚い板状から薄いフィルム状まで必要に応じて任意の厚さに調整できる。また、シート形状を有する樹脂中には、上述のように近赤外線吸収材料粒子が分散されていることが好ましい。
【0099】
本実施形態の樹脂シート材は、上述のように、例えば近赤外線吸収材料粒子を配合した樹脂を含有できる。ただし、係る形態に限定されず、本実施形態の樹脂シート材はさらに必要に応じて任意の部材を有することもできる。本実施形態の樹脂シート材は、例えば以下に説明する紫外線吸収膜や、ハードコート層を有することもできる。
【0100】
例えば熱線遮蔽樹脂シート材は、少なくとも近赤外線吸収材料粒子を配合した樹脂によるシート表面に、紫外線吸収剤を含む樹脂被膜である紫外線吸収膜を有することもできる。
【0101】
熱線遮蔽樹脂シート材が、紫外線吸収膜を有することで、熱線遮蔽樹脂シート材の耐侯性をさらに向上させることが可能であり、当該熱線遮蔽樹脂シート材に紫外線遮蔽効果をもたせることもできる。
【0102】
また、上記熱線遮蔽樹脂シート材は、少なくとも近赤外線吸収材料粒子を配合した樹脂によるシート表面に、耐擦傷性を有するハードコート層を有することもできる。ハードコート層を有することで、熱線遮蔽樹脂シート材の耐擦傷性を向上させることが可能であり、当該熱線遮蔽樹脂シート材を車両、自動車の窓などに好適に適用できる。
【0103】
また、本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材は、少なくとも既述の樹脂を含有する複数のシート層を有し、複数のシート層のうち1以上のシート層が近赤外線吸収材料粒子を含有するように構成することもできる。
【0104】
具体的には、熱線遮蔽樹脂シート材は、シート層として、第1表面シート層と、第2表面シート層と、中間シート層と、接続シート層とを有することができる。第1表面シート層は、熱線遮蔽樹脂シート材の外表面である第1の表面を含むことができる。第2表面シート層は、第1の表面と反対側に位置する、熱線遮蔽樹脂シート材の外表面である第2の表面を含むことができる。中間シート層は、第1表面シート層と第2シート層との間に配置できる。すなわち、第1表面シート層、中間シート層、第2表面シート層はその順に配置、積層できる。そして、接続シート層は、第1表面シート層、中間シート層、および第2表面シート層の間を接続できる。
【0105】
また、第1表面シート層と、第2表面シート層との間には空隙を含むことができる。すなわち、本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材は、空隙を含む中空多層構造を有することができる。
【0106】
なお、上記外表面とは、熱線遮蔽樹脂シート材の外部に露出した面を意味する。
【0107】
このような熱線遮蔽樹脂シート材として、図3に示す中空3層構造の熱線遮蔽樹脂シート材50と、図4に示す中空7層構造の熱線遮蔽樹脂シート材60とを例として説明する。図3図4は、熱線遮蔽樹脂シート材に含まれる第1表面シート層、第2表面シート層、中間シート層の積層方向と平行な面における断面図を模式的に示している。
【0108】
図3に示した熱線遮蔽樹脂シート材50は、対向する第1表面シート層51と第2表面シート層52との間に中間シート層53が、第1表面シート層51、および第2表面シート層52にほぼ平行して設けられている。
【0109】
第1表面シート層51、第2表面シート層52は、それぞれ熱線遮蔽樹脂シート材50の外表面である第1外表面501と、第2外表面502とを含む。
【0110】
熱線遮蔽樹脂シート材50は、第1表面シート層51、第2表面シート層52、および中間シート層53に対してほぼ直交する接続シート層54が、第1表面シート層51、第2表面シート層52、および中間シート層53を接続して一体化したものである。第1表面シート層51、第2表面シート層52、および中間シート層53により3層構造が構成され、第1表面シート層51、第2表面シート層52、中間シート層53、および接続シート層54に囲まれて中空部55が形成される。
【0111】
図4に示した熱線遮蔽樹脂シート材60は、対向する第1表面シート層61と第2表面シート層62との間に、4層の中間シート層が設けられている。第1表面シート層61、第2表面シート層62は、それぞれ熱線遮蔽樹脂シート材60の外表面である第1外表面601と、第2外表面602とを含む。中間シート層は、第1中間シート層63、第2中間シート層64、第3中間シート層65、および第4中間シート層66を含み、各中間シート層がほぼ平行でほぼ等ピッチに設けられている。
【0112】
上記第1表面シート層61、第2表面シート層62、4層の中間シート層と直交する第1接続シート層67が、第1表面シート層61、第2表面シート層62、第1中間シート層63~第4中間シート層66を接続して一体化している。また、第1接続シート層67の配列ピッチで蛇行するほぼ正弦波形状の第2接続シート層68が、第1表面シート層61および第2表面シート層62に接している。第2接続シート層68は、第1中間シート層63~第4中間シート層66に交差しており、第1表面シート層61、第2表面シート層62、第1中間シート層63~第4中間シート層66を接続して一体化している。
【0113】
熱線遮蔽樹脂シート材60においては、第1表面シート層61、第2表面シート層62、第1中間シート層63~第4中間シート層66、および第2接続シート層68により7層構造が構成されている。また、第1表面シート層61、第2表面シート層62、第1中間シート層63~第4中間シート層66、第1接続シート層67、および第2接続シート層68に囲まれて中空部69が形成される。
【0114】
上述のような中空多層構造の熱線遮蔽樹脂シート材においては、全てのシート層、すなわち第1表面シート層、第2表面シート層、中間シート層、および接続シート層が近赤外線吸収材料粒子を含有していても良い。
【0115】
ただし、上記形態に限定されず、例えば熱線遮蔽樹脂シート材が有するシート層のうち、一部のシート層のみに近赤外線吸収材料粒子を含有させてもよい。例えば、熱線遮蔽樹脂シート材において、外表面を含む第1表面シート層と、第2表面シート層とのいずれか1層のみが近赤外線吸収材料粒子を含有していても良い。また、熱線遮蔽樹脂シート材において、該樹脂シート材の外表面を含む第1表面シート層、および第2表面シート層の2層のみが近赤外線吸収材料粒子を含有していても良い。
【0116】
例えば、図3に示した熱線遮蔽樹脂シート材50にあっては、既存の複層中空シート製造装置などを用いて、第1表面シート層51、第2表面シート層52、中間シート層53、および接続シート層54の全てのシート層に近赤外線吸収材料粒子を含有させてもよい。また、第1表面シート層51のみ、もしくは第1表面シート層51、および第2表面シート層52にのみ近赤外線吸収材料粒子を含有させてもよい。
【0117】
図4に示した熱線遮蔽樹脂シート材60では、第1表面シート層61、第2表面シート層62、第1中間シート層63~第4中間シート層66、第1接続シート層67、および第2接続シート層68の全てのシート層に近赤外線吸収材料粒子を含有させてもよい。また、第1表面シート層61もしくは第2表面シート層62にのみ、または第1表面シート層61および第2表面シート層62にのみ近赤外線吸収材料粒子を含有させてもよい。
【0118】
熱線遮蔽樹脂シート材を上述のような中空多層構造とすることによって、表面シート層と中間シート層との間に断熱効果のある空気層を設けることができる。このため、例えば室外側の表面シート層が吸収した太陽エネルギーを室内側に放出することを抑制し、当該太陽エネルギーを効率よく室外側へ放出するので、熱線遮蔽効果が向上する。
【0119】
また、中空多層構造の表面シート層の1層のみまたは2層のみに近赤外線吸収材料粒子を含有させることにより、例えば、室外側の表面シート層に、より多くの近赤外線吸収材料粒子を含有させるといった構成が可能となる。そして、当該構成を採ることで、熱線遮蔽樹脂シート材の単位面積あたりの近赤外線吸収材料粒子を一定にしながら、例えば、上述した太陽エネルギーの室内側への放出抑制をさらに向上させることができる。
【0120】
複数のシート層が近赤外線吸収材料粒子を含有する場合において、シート層毎に近赤外線吸収材料粒子の含有割合が異なっていても良い。
【0121】
一部のシート層が近赤外線吸収材料粒子を含有しない場合、該シート層を構成する樹脂の種類は特に限定されず、例えば、各種の透明樹脂が使用可能である。該近赤外線吸収材料粒子を含有しないシート層を構成する樹脂として、ポリカーボネート樹脂、またはアクリル樹脂を好適に用いることができる。
【0122】
熱線遮蔽樹脂シート材が上述のように複数のシート層を有する場合において、シート層毎に樹脂の種類が異なっていても良いが、製造コストを低減し、生産性を向上する観点から、複数のシート層が含有する樹脂は同じであることが好ましい。
【0123】
熱線遮蔽樹脂シート材が複数のシート層を有する場合において、熱線遮蔽樹脂シート材を構成する各シート層の間には明確な境界線がある必要は無く、配置に応じて便宜的に上述のような名称を付けることができる。
【0124】
ここまで説明したいずれかの熱線遮蔽樹脂シート材を、用途に合わせて、他の樹脂シート材に積層することにより熱線遮蔽樹脂シート材積層体とすることもできる。熱線遮蔽樹脂シート材を熱線遮蔽樹脂シート材積層体とすることで、多様な力学的特性を示す積層体を得ることができるとともに、該積層体の全部または一部に熱線遮蔽樹脂シート材を用いることで、所望の光学的特性を有する積層体を得ることができる。
【0125】
以上に説明した熱線遮蔽樹脂シート材および熱線遮蔽樹脂シート材積層体を、それぞれ単独で使用して、または両者を混合使用して建築構造体を構成することも好ましい。例えば、熱線遮蔽樹脂シート材をアルミニウム等の金属製の骨格にボルトで固定して用いることで、より広い範囲の太陽エネルギーを効率よく遮蔽できる。また、熱線遮蔽樹脂シート材を任意の形状に加工し、自動車のリアウィンドウ、サンルーフ等として使用することで車内の温度上昇を効率よく抑制することができる。
【0126】
熱線遮蔽樹脂シート材とガラスをラミネートした熱線遮蔽樹脂シート材積層体を、車両の窓枠にはめ込んだり、建築物の屋根や、壁、天井ドームに用いたりすることもできる。この場合、熱線遮蔽樹脂シート材を室外側に配置することになる。上記のようにして用いることで、入射してくる太陽エネルギーを遮蔽してエアコンの負荷を軽減すると同時に、飛び石などによるガラスの飛散を防止するなどの機能をもたせられる。
【0127】
以上に説明した熱線遮蔽樹脂シート材は、耐候性に優れた近赤外線吸収材料粒子を用いているため、熱線遮蔽樹脂シート材の耐候性も優れており、長期間に渡って、安定して熱線を遮蔽することが可能になる。
4. 熱線遮蔽樹脂シート材の製造方法
本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材の製造方法は特に限定されない。本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材の製造方法は、例えば既述の近赤外線吸収材料粒子を樹脂の少なくとも一部に添加し、必要に応じて分散させて混合物を調製する混合物調製工程と、該混合物を所望の形状に成形する成形工程を有することができる。
【0128】
混合工程において、近赤外線吸収材料粒子を樹脂に添加し、分散させる方法は特に限定されず、任意の方法を選択できる。例えば、上記近赤外線吸収材料粒子を樹脂に直接添加し、溶融混合する方法を用いることができる。また、任意の分散媒中に近赤外線吸収材料粒子を分散させた添加液を予め作製し、該添加液を樹脂または樹脂原料と混合した混合物(成形用組成物)を調製する方法が挙げられる。後者の方法の方は、操作が特に簡単であるため、特に好ましく用いることができる。
【0129】
混合物調製工程について、近赤外線吸収材料粒子を樹脂に添加し、分散する方法について、上述の近赤外線吸収材料粒子を任意の分散媒に分散した添加液を用いる方法を例に説明する。
【0130】
この場合、混合物調製工程の前に、近赤外線吸収材料粒子を分散媒に分散した添加液を調製する(添加液調製工程)。具体的には、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などを用い、近赤外線吸収材料粒子を任意の分散媒に分散して熱線遮蔽樹脂シート材製造用の上記添加液を調製できる。
【0131】
熱線遮蔽樹脂シート材製造用の添加液に用いる分散媒としては、特に限定されるものではなく、配合する樹脂、樹脂シート材を形成する条件などに合わせて選択可能であり、一般的な有機溶剤を使用可能である。また、添加液には必要に応じて酸やアルカリを添加してpHを調整しても良い。樹脂中の近赤外線吸収材料粒子の分散安定性を一層向上させるために、添加液には、各種の界面活性剤、カップリング剤などを分散剤として添加することもできる。
【0132】
次いで、添加液を用いて、樹脂中に近赤外線吸収材料粒子が分散した混合物を調製できる(混合物調製工程)。混合物は、例えば添加液を基材となる樹脂に添加し、混合や、混練を行うことで調製できる。例えば添加液と樹脂成分とを、リボンブレンダー等で混合し、さらに必要に応じてタンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサーなどの混合機や、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、一軸押出機、二軸押出機などの混練機で溶融混合できる。得られた混合物において、樹脂中に近赤外線吸収材料粒子が均一に分散していることが好ましい。
【0133】
基材となる樹脂としては特に限定されず、既述のように例えば各種の透明樹脂が使用可能であるが、光学的特性、機械的特性、原料コスト等の観点からポリカーボネート樹脂またはアクリル樹脂を好適に使用することができる。
【0134】
樹脂中に近赤外線吸収材料粒子を分散させた混合物を調製する方法は、ここまで説明した方法に限定されない。例えば樹脂原料に添加液を添加し、混合した後、樹脂原料を反応させ、樹脂とすることで、樹脂中に近赤外線吸収材料粒子を分散させた混合物とすることもできる。この場合、混合物調製工程は、樹脂原料と添加液とを混合し、混合物前駆体を調製する混合物前駆体調製工程と、樹脂原料を反応させ、混合物を調製する反応工程とを有することができる。
【0135】
基材となる樹脂がポリカーボネート樹脂の場合、樹脂の原料となる2価フェノール類に添加液を添加し、公知の方法で均一に混合して混合物前駆体を調製する。次いで、ホスゲンで例示されるカーボネート系前駆体を混合物前駆体に添加し、反応させることによって、樹脂中に近赤外線吸収材料粒子を均一に分散した混合物を調製できる。
【0136】
また、基材となる樹脂がアクリル樹脂の場合、アクリル樹脂の原料となるメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどに添加液を添加し、同様に公知の方法で均一に混合して混合物前駆体を調製する。次いで、混合物前駆体中のアクリル樹脂の原料を懸濁重合や塊状重合など公知の方法で重合させることによって、アクリル樹脂中に近赤外線吸収材料粒子を均一に分散した混合物を調製できる。
【0137】
また、添加液の分散媒を公知の方法で除去し、得られた粉末を樹脂に添加して、均一に溶融混合する方法によっても、樹脂に近赤外線吸収材料粒子を分散した混合物を調製できる。
【0138】
本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材の製造方法は、例えば上述のように樹脂に近赤外線遮蔽材料粒子を分散させた混合物を、射出成形、押出成形、圧縮成形などの公知の成形方法によって、平面状や曲面状等の所望の形状に成形する成形工程を有することができる。また、樹脂に近赤外線吸収材料粒子を分散した混合物を造粒装置により一旦ペレット化するペレット化工程を行った後、該ペレットを用いる点以外は同様に成形する成形工程を実施することもできる。
【0139】
成形工程で得られた、成形体を本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材とすることもできる。また、後述するように必要に応じて、例えば成形工程で得られた成形体や、他の部材等を接着し、熱線遮蔽樹脂シート材とすることもできる。
【0140】
なお、成形工程で製造する成形体の厚さは、特に限定されず、例えば厚い板状から薄いフィルム状まで必要に応じて任意の厚さに調整できる。
【0141】
本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材は、近赤外線吸収材料粒子を含有する層に限定されず、他の構成の層等を有することもできる。このため、本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材の製造方法は、他の構成の層を形成する工程を有することができ、例えば以下に説明する紫外線吸収膜形成工程や、ハードコート層形成工程を有することもできる。
【0142】
例えば熱線遮蔽樹脂シート材は、少なくとも一つの成形体であるシート表面に、紫外線吸収剤を含む樹脂被膜を有することもできる。すなわち、本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材は、近赤外線吸収材料粒子と樹脂とを含有する近赤外線吸収層に加えて、紫外線吸収剤を含む樹脂被膜である紫外線吸収膜を有することもできる。例えば、本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材の製造方法は、成形工程で得られた成形体である一つのシート表面上に、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などの紫外線吸収剤を各種バインダーに溶解させた塗布液を塗布し、硬化させて紫外線吸収膜を形成する紫外線吸収膜形成工程を有することができる。
【0143】
熱線遮蔽樹脂シート材が、紫外線吸収膜を有することで、熱線遮蔽樹脂シート材の耐侯性をさらに向上させることが可能であり、当該熱線遮蔽樹脂シート材に紫外線遮蔽効果をもたせることもできる。
【0144】
また、上記熱線遮蔽樹脂シート材は、少なくとも一つのシート表面に、耐擦傷性を有するハードコート層を有することもできる。すなわち、本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材は、近赤外線吸収材料粒子と樹脂とを含有する近赤外線吸収層に加えて、ハードコート層を有することもできる。例えば、本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材の製造方法は、成形工程で得られた成形体である一つのシート表面上に、シリケート系、アクリル系などの耐擦傷性ハードコート層を形成するハードコート層形成工程を有することができる。耐擦傷性ハードコート層を形成することで、熱線遮蔽樹脂シート材の耐擦傷性を向上させることが可能であり、当該熱線遮蔽樹脂シート材を車両、自動車の窓などに好適に適用できる。
【0145】
このように、熱線遮蔽成分として近赤外線領域に強い吸収をもつ近赤外線吸収材料粒子を上記樹脂に分散させ、シート状に形成することで、熱線遮蔽樹脂シート材を提供することが可能である。本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材の製造方法によれば、高コストの物理成膜法や複雑な接着工程を用いずに、熱線遮蔽機能を有し、かつ可視光領域に高い透過性能を有する熱線遮蔽樹脂シート材を提供できる。
【0146】
本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材は、複数の層から構成することもできる。
【0147】
具体的には、既述のように熱線遮蔽樹脂シート材は、シート層として、第1表面シート層と、第2表面シート層と、中間シート層と、接続シート層とを有することもできる。具体的な構成例については既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0148】
係る複数の層を有する熱線遮蔽樹脂シート材は、例えば複層中空シート製造装置などを用いて、製造することができる。このため、既述の成形工程においてシート層を形成することができる。この場合、本実施形態の熱線遮蔽樹脂シート材は、複数のシート層を積層して接続シート層により接続する積層工程をさらに有することができる。
【0149】
以上に説明した熱線遮蔽樹脂シート材の製造方法により得られる熱線遮蔽樹脂シート材は、耐候性に優れた近赤外線吸収材料粒子を用いているため、熱線遮蔽樹脂シート材の耐候性も優れており、長期間に渡って、安定して熱線を遮蔽することが可能になる。
【実施例0150】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実施例、比較例における評価方法について説明する。
(1)可視光透過率、日射透過率
以下の各実施例において、熱線遮蔽樹脂シート材の可視光透過率と日射透過率とは、日立製作所(株)製の分光光度計U-4000を用いて測定し、JIS R 3106(2019)に従って算出した。上記日射透過率は熱線遮蔽性能を示す指標である。
【0151】
なお、熱線遮蔽樹脂シート材の日射透過率は、耐熱性試験、耐湿熱性試験の後にも実施した。耐熱性試験の前後での日射透過率の変化が、表1において耐熱性ΔSTとして示されている。耐湿熱性試験の前後での日射透過率の変化が、表1において耐湿熱性ΔSTとして示されている。各試験前後の日射透過率の変化の割合ΔSTは、曝露後の日射透過率-曝露前の日射透過率により算出している。
(2)ヘイズ値
ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)社製HR-200を用い、JIS K 7105(1981)に基づいて測定した。
[実施例1]
水36gにCsCO23.5gを溶解し、これをHWO109gに添加して十分攪拌した後、乾燥し、実施例1に係る原料混合物を得た(原料調製工程)。
【0152】
次に、原料調製工程で調製した原料混合物を用いて、図1に示す直流プラズマ(直流アークプラズマ)と高周波プラズマを重畳させたハイブリッドプラズマ反応装置10を用い、反応工程を実施した。
【0153】
まず、真空排気装置13により反応系内を約0.1Pa(約0.001torr)まで真空引きした後、アルゴンガスで完全に置換して1気圧のアルゴン流通系とした。
【0154】
プラズマ発生用ガス供給口15よりアルゴンガス8L/minを流し、直流プラズマを発生させた。このときの直流電源入力は6kWである。
【0155】
さらに、水冷石英二重管11の内壁に沿って、高周波プラズマ発生用および石英管保護用のガスとして、シースガス導入口16より螺旋状にアルゴンガス40L/minと水素ガス3L/minを流し、高周波プラズマを発生させた。
【0156】
このときの高周波電源入力は45kWとした。このようなハイブリッドプラズマを発生させた後、3L/minのアルゴンガスと0.01L/minの酸素ガスとの混合ガスをキャリアガスとして、原料粉末供給装置19より実施例1に係る原料混合物を2g/minの供給速度でプラズマ中に供給した。
【0157】
その結果、原料は瞬時に蒸発し、プラズマ尾炎部で凝縮して微粒化した。反応容器12の底で、近赤外線吸収材料粒子である粒子(セシウム酸化タングステン粒子a)を回収した。
【0158】
回収したセシウム酸化タングステン粒子aの粒子径をTEM観察により求めたところ、評価を行った30個の粒子の粒子径は、10nm以上50nm以下であることが確認できた。なお、評価を行う粒子に外接する最小の円の直径を、該粒子の粒子径として、粒子径を算出した。
【0159】
回収したセシウム酸化タングステン粒子aについてのCs、W、O定量分析の結果、それぞれ14.7wt%、65.5wt%、18.3wt%であり、前記定量分析から算出した化学式は、Cs0.31WO3.21であることを確認できた。
【0160】
なお、Csは、フレーム原子吸光装置(VARIAN社製、型式:SpectrAA 220FS)により評価した。Wは、ICP発光分光分析装置(島津製作所製、型式:ICPE9000)により評価した。Oは、酸素窒素同時分析計(LECO社製、型式:ON836)により評価した。以下、他の実施例、比較例についても同様である。
【0161】
セシウム酸化タングステン粒子aについて、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X'Pert-PRO/MPD)を用いて、粉末X線回折法(θ-2θ法)によりX線回折パターンを測定した。得られたX線回折パターンからセシウム酸化タングステン粒子aに含まれる化合物の結晶構造を特定したところ、六方晶のCs0.3WOと同じピークが確認された。上記のように、X線回折パターンにより、得られた複合タングステン酸化物の結晶構造を特定できる。本実施例の場合、上述のように複合タングステン酸化物の粒子が含有する化合物の結晶構造が、類似する六方晶の複合タングステン酸化物のピークと一致する。このため、本実施例で得られた複合タングステン酸化物、すなわちセシウム酸化タングステンの結晶構造は、六方晶であることが確認できる。
【0162】
次に、該セシウム酸化タングステン粒子aを5質量%、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子系分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤。)を5質量%、メチルイソブチルケトン90質量%を秤量した。そして、秤量した原料を、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカー(浅田鉄工製)で6時間粉砕・分散処理することによって添加液(A液)を調製した。ここで、添加液(A液)内における、近赤外線吸収材料粒子であるセシウム酸化タングステン粒子aの分散粒子径を動的光散乱法に基づく粒径測定装置(大塚電子株式会社製ELS-8000)で測定したところ、55nmであった。また、A液の溶媒を除去した後、A液より得られた近赤外線吸収材料粒子であるセシウム酸化タングステン粒子について、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X'Pert-PRO/MPD)を用いて、粉末X線回折法(θ-2θ法)によりX線回折パターンを測定し、リートベルト法を用いて結晶子径を算出した。結果を表1に示す。
【0163】
次に、得られた添加液(A液)をポリカーボネート樹脂にセシウム酸化タングステン粒子aの濃度が0.0274質量%となるように添加し、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混練した後、Tダイを用いて厚さ2mmに押出成形した。押出成形することで、近赤外線吸収材料粒子が樹脂全体に均一に分散した熱線遮蔽樹脂シート材である、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(試料1)を作製した。
【0164】
得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりのセシウム酸化タングステン粒子の含有量は0.66gであった。ただし、熱線遮蔽樹脂シート材の比重を1.2g/cmとして計算した。また、熱線遮蔽樹脂シート材中のセシウム酸化タングステン粒子の粒子径は、TEM観察(透過型電子顕微鏡)で10nm以上50nm以下の範囲内であることを確認できた。係る近赤外線吸収材料粒子であるセシウム酸化タングステン粒子の粒子径は表1において、「熱線遮蔽樹脂シート材中の複合タングステン酸化の粒子径」の欄に示している。表1では10nm以上50nm以下のことを10~50のように表記している。
【0165】
表1に示すように、可視光透過率70.9%のときの日射透過率は50.8%で、ヘイズ値は1.0%であった。当該熱線遮蔽樹脂シートを大気雰囲気下、85℃、90%RHの雰囲気に94hr曝露して耐湿熱性試験を行った。耐湿熱性試験の後の熱線遮蔽樹脂シートについても日射透過率を測定した。その結果、日射透過率は50.8%であり、耐湿熱性試験の前後での日射透過率の変化の割合である耐湿熱性ΔSTは0.0%であり、得られた熱線遮蔽樹脂シート材は耐湿熱性に優れることを確認できた。
【0166】
また、得られた熱線遮蔽樹脂シート材を大気雰囲気下120℃で125hr曝露して耐熱性試験を行った。耐湿熱性試験の熱線遮蔽樹脂シートについても日射透過率を測定した。その結果、日射透過率は50.5%であり、日射透過率の変化の割合である耐熱性ΔSTは-0.3%と耐熱性に優れていた。
【0167】
[実施例2]
真空乾燥機を使用し、実施例1で調製した添加液(A液)の有機溶剤を除去し、熱線遮蔽樹脂シート材用粉末(A粉)を調製した。次に、得られた粉末(A粉)をポリカーボネート樹脂にセシウム酸化タングステン粒子aの濃度が0.0274質量%となるように添加し、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混練した後、Tダイを用いて厚さ2mmに押出成形した。
押出成形することで、近赤外線吸収材料粒子が樹脂全体に均一に分散した熱線遮蔽樹脂シート材である、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(試料2)を作製した。
【0168】
以上の点以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0169】
[実施例3]
実施例1で調製した添加液(A液)をポリカーボネート樹脂にセシウム酸化タングステン粒子aの濃度が0.0265質量%となるように添加し、中空3層シート製造用ダイを用いて各シート層の厚さが0.7mm、全体の厚さが20mmに成形した。なお、得られた熱線遮蔽樹脂シート材は、図3に示した中空3層構造の熱線遮蔽樹脂シート材と同様の断面形状を有しており、全てのシート層が近赤外線吸収材料粒子であるセシウム酸化タングステン粒子aを含有する。
【0170】
以上の点以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材(試料3)を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0171】
[実施例4]
実施例1で調製した添加液(A液)をポリカーボネート樹脂にセシウム酸化タングステン粒子aの濃度が1.1質量%となるように添加し、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混練した後、厚さ2mmのポリカーボネートシート上に厚さ50μmの厚さで共押出成形した。共押出成形することで、近赤外線吸収材料粒子が厚さ50μmの上層に均一に分散した、熱線遮蔽樹脂シート材積層体である、熱線遮蔽ポリカーボネート積層体(試料4)を作製した。以上の点以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材積層体を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0172】
[実施例5]
図2に示す高周波プラズマ反応装置30を用い、近赤外線吸収材料粒子を調製した。
【0173】
高周波プラズマ反応装置30は、水冷石英二重管31と、水冷石英二重管31と接続された反応容器32を有している。また、反応容器32には真空排気装置33が接続されている。
【0174】
水冷石英二重管31の上方にはプラズマ発生用ガス供給口34が設けられている。
【0175】
水冷石英二重管31の内壁に沿って、高周波プラズマ発生用、および石英管保護用のシースガスを供給できるように構成されており、水冷石英二重管31の上方のフランジにはシースガス導入口36が設けられている。
【0176】
水冷石英二重管31の周囲には、高周波プラズマ発生用の水冷銅コイル37が配置されている。
【0177】
プラズマ発生用ガス供給口34近傍には、原料粉末キャリアガス供給口38が設けられ、原料粉末を供給する原料粉末供給装置39と配管で接続されている。
【0178】
プラズマ発生用ガス供給口34、シースガス導入口36、原料粉末供給装置39は、配管により、ガス供給装置40と接続し、ガス供給装置40から所定のガスを各部材に供給できるように構成できる。なお、必要に応じて、装置内の部材を冷却したり、所定の雰囲気にできるように上記部材以外にも供給口を設けておき、上記ガス供給装置40と接続しておくこともできる。
【0179】
本実施例ではまず、プラズマ発生用ガス供給口34より、アルゴンガス30L/minを流し、シースガス導入口36より螺旋状にアルゴンガス40L/minと水素ガス3L/minの流量で混合して供給し、高周波プラズマを発生させた。このときの高周波電源入力は45kWとした。
【0180】
次に、3L/minのアルゴンガスと0.01L/minの酸素ガスとの混合ガスをキャリアガスとして、原料粉末供給装置39より、実施例1で調製した原料混合物を2g/minの割合でプラズマ中に供給した。
【0181】
その結果、反応容器32の底で回収された近赤外線吸収材料粒子の粒子径は、TEM観察より10nm以上50nm以下であった。
【0182】
得られた実施例5に係る近赤外線吸収材料粒子のX線回折パターンを粉末X線回折法(θ-2θ法)により測定した。得られたX線回折パターンから当該粒子に含まれる結晶構造を特定したところ、六方晶のCs0.3WOと同じピークが確認された。
【0183】
得られた、実施例5に係る近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子を用いた以外は、実施例1と同様に添加液を調製した後、実施例5に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0184】
なお、実施例5に係る添加液の近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は55nmであった。
[実施例6]
実施例5において、5L/minのアルゴンガスと0.01L/minの酸素ガスとの混合ガスをキャリアガスとした点以外は、実施例5と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0185】
なお、実施例6に係る添加液の近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は54nmであった。
[実施例7]
実施例1において、4L/minのアルゴンガスと0.01L/minの酸素ガスとの混合ガスをキャリアガスとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0186】
なお、実施例7に係る添加液の近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は55nmであった。
[実施例8]
原料混合物を調製する際に、NaCOとHWOとを、WとNaのモル比が1:0.50となるように所定量秤量し、用いた点以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0187】
なお、実施例8に係る添加液の近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は56nmであった。
[実施例9]
原料混合物を調製する際に、KCOとHWOとを、WとKのモル比が1:0.33となるように所定量秤量し、用いた点以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0188】
なお、実施例9に係る添加液の近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は58nmであった。
[実施例10]
原料混合物を調製する際に、RbCOとHWOとを、WとRbのモル比が1:0.30となるように所定量秤量し、用いた点以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0189】
なお、実施例10に係る添加液の近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は57nmであった。
[実施例11]
原料混合物を調製する際に、BaCOとHWOとを、WとBaのモル比が1:0.30となるように所定量秤量し、用いた点以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0190】
なお、実施例11に係る添加液の近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は60nmであった。
[実施例12]
原料混合物を調製する際に、InとHWOとを、WとInのモル比が1:0.30となるように所定量秤量し、用いた点以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0191】
なお、実施例12に係る添加液の近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は59nmであった。
[実施例13]
原料混合物を調製する際に、TlNOとHWOとを、WとTlのモル比が1:0.30となるように所定量秤量し、用いた点以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0192】
なお、実施例13に係る添加液の近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は62nmであった。
[実施例14]
原料混合物を調製する際に、KCOとHWOとを、WとKのモル比が1:0.55となるように所定量秤量したし、用いた点以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0193】
なお、実施例14に係る添加液の近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は57nmであった。
[実施例15]
ポリカーボネート樹脂に替えて、アクリル樹脂を用いた点以外は、実施例1と同様の操作を行い、熱線遮蔽樹脂シート材を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[比較例1]
水50gに炭酸セシウム(CsCO)55.45g溶解した水溶液に、タングステン酸(HWO)286g添加して十分撹拌混合した後、乾燥した。なお、乾燥物中のWとCsとのモル比はW:Cs=1:0.33である。
【0194】
当該乾燥物を、Nガスをキャリアガスとした5%Hガス雰囲気下、800℃で5.5時間焼成した。その後、当該供給ガスをNガスのみに切り替えて、室温まで降温して比較例1に係る近赤外線吸収材料粒子である、セシウム酸化タングステン粒子を得た。
【0195】
得られた比較例1に係る近赤外線吸収材料粒子のX線回折パターンを粉末X線回折法(θ-2θ法)により測定した。得られたX線回折パターンから当該粒子に含まれる結晶構造を特定したところ、六方晶のCs0.3WOと同じピークが確認された。
【0196】
比較例1に係る近赤外線吸収材料粒子を5質量%と、実施例1と同じアクリル系高分子系分散剤5質量%と、メチルイソブチルケトン90質量%とを秤量し、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカー(浅田鉄工製)に装填し、30時間、粉砕・分散処理を行った。これにより、比較例1に係る添加液を調製した。添加液内における近赤外線吸収材料粒子である複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は、64nmであった。
【0197】
上記添加液を用いた点以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る熱線遮蔽樹脂シート材である熱線遮蔽ポリカーボネートシート材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0198】
【表1】
[評価]
表1に記載された諸特性から、実施例1~実施例15、比較例1に係る熱線遮蔽樹脂シート材の日射透過率を検討してみると、可視光透過率75.0%以下での日射透過率は全て67.0%未満であった。
【0199】
そして、実施例1~実施例15の熱線遮蔽樹脂シート材は耐湿熱性ΔSTと耐熱性ΔSTとが、いずれも1.0%未満と耐候性に優れていることが確認された。これに対して、比較例1に係る熱線遮蔽樹脂シート材の耐湿熱性ΔSTと耐熱性ΔSTは1.0%を越えていることが確認できた。
【0200】
すなわち、実施例1~実施例15の熱線遮蔽樹脂シート材は、耐候性に優れた近赤外線吸収材料粒子を含有し、該樹脂シート材も耐候性に優れることを確認できた。
【符号の説明】
【0201】
50、60 熱線遮蔽樹脂シート材
501、601 第1外表面
502、602 第2外表面
51、61 第1表面シート層
52、62 第2表面シート層
53 中間シート層
63 第1中間シート層
64 第2中間シート層
65 第3中間シート層
66 第4中間シート層
54 接続シート層
67 第1接続シート層
68 第2接続シート層
図1
図2
図3
図4