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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101499
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】両面金属張積層板及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20220629BHJP
   B32B 27/06 20060101ALI20220629BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20220629BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220629BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
B32B15/08 L
B32B27/06
B32B15/088
B32B27/34
H05K1/03 610N
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204197
(22)【出願日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2020215511
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田川 和樹
(72)【発明者】
【氏名】矢熊 建太郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 敏男
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB17B
4F100AB17C
4F100AB33B
4F100AB33C
4F100AK49A
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100GB43
4F100JG04A
4F100JL04
4F100JN18A
4F100YY00A
(57)【要約】      (修正有)
【課題】幅方向の位置にかかわらず、絶縁樹脂層の長手方向の寸法変化率の変動幅が小さく、優れた寸法安定性を有し、サイズの大型化にも対応可能な両面金属張積層板を提供する。
【解決手段】絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の両側に積層されている金属層と、を備えた長尺なフィルム状の両面金属張積層板であって、両面金属張積層板の長手方向に直交する幅方向の長さが230mm以上であり、絶縁樹脂層における長手方向の位置が同じで、幅方向の位置が異なる複数の計測部位として、少なくとも3箇所設定した計測部位について厚み方向の複屈折率を計測したとき、該厚み方向の複屈折率の値を縦軸とし、幅方向の任意の基準位置から各計測部位までの幅方向の距離を横軸とする座標において、各計測部位に対応するプロットを最小二乗法によって近似して得られる直線の傾きの絶対値が1×10-5/mm未満である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の両側に積層されている金属層と、を備えた長尺なフィルム状の両面金属張積層板であって、
前記両面金属張積層板の長手方向に直交する幅方向の長さが230mm以上であり、
前記絶縁樹脂層における長手方向の位置が同じで、幅方向の位置が異なる複数の計測部位として、前記絶縁樹脂層の幅方向に少なくとも3箇所設定した計測部位について厚み方向の複屈折率を計測したとき、該厚み方向の複屈折率の値を縦軸とし、幅方向の任意の基準位置から各計測部位までの幅方向の距離を横軸とする座標において、各計測部位に対応するプロットを最小二乗法によって近似して得られる直線の傾きの絶対値が1×10-5/mm未満であることを特徴とする両面金属張積層板。
【請求項2】
絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の両側に積層されている金属層と、を備えた長尺なフィルム状の両面金属張積層板であって、
前記両面金属張積層板の長手方向に直交する幅方向の長さが500mm以上1200mm以下であり、
前記絶縁樹脂層における長手方向の位置が同じで、幅方向の位置が異なる複数の計測部位であって、前記絶縁樹脂層の幅方向の全長の中点を結ぶ中心線を基準にして対称な位置に少なくとも3箇所ずつ設定した計測部位について厚み方向の複屈折率を計測したとき、該厚み方向の複屈折率の値を縦軸とし、幅方向の任意の基準位置から各計測部位までの幅方向の距離を横軸とする座標において、各計測部位に対応するプロットを最小二乗法によって近似して得られる直線の傾きの絶対値が1×10-5/mm未満であることを特徴とする両面金属張積層板。
【請求項3】
すべての計測部位における厚み方向の複屈折率の値が、いずれも0.15以下である請求項1又は2に記載の両面金属張積層板。
【請求項4】
前記絶縁樹脂層を、その幅方向の全長の中点を結ぶ中心線を境界とする2つの仮想領域に分割したとき、すべての計測部位が、前記2つの仮想領域のそれぞれにおいて、前記中心線から幅方向の全長の49%までの範囲内に設定されている請求項1から3のいずれか1項に記載の両面金属張積層板。
【請求項5】
前記絶縁樹脂層が、複数層のポリイミド層を含むとともに、前記金属層が銅層である請求項1から4のいずれか1項に記載の両面金属張積層板。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の両面金属張積層板における前記金属層の片方又は両方を配線に加工してなる回路基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面金属張積層板及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、携帯電話、スマートフォン等の電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。
【0003】
FPCは、金属層と絶縁樹脂層とを有する金属張積層板の金属層をエッチングして配線加工することによって製造される。金属張積層板に対するフォトリソグラフィ工程や、FPC実装の過程では、接合、切断、露光、エッチング等のさまざまな加工が行われる。これらの工程での加工精度は、FPCを搭載した電子機器の信頼性を維持する上で重要となる。
【0004】
しかし、金属張積層板は、熱膨張係数(以下、「CTE」と記すことがある)が異なる金属層と絶縁樹脂層とを積層した構造を有するため、金属層と絶縁樹脂層とのCTEの差によって、層間に内部応力が発生する。この内部応力が、金属層をエッチングして配線加工した場合に解放されることによって絶縁樹脂層に伸縮を生じさせ、配線パターンの寸法を変化させる要因となる。また、連続プレス装置を用いて、片面金属張積層板と金属箔とを張り合わせて両面金属張積層板を製造する工程において、プレスロールによる熱圧着時の加圧ムラやロールプレスから巻取りまでの通紙ライン中に配置されたロール同士のアライメントのズレによっても、両面金属張積層板の面内にひずみが発生し、寸法安定性を低下させる。
【0005】
以上のような要因によって、最終的に回路基板の段階で寸法変化が生じると、配線間もしくは配線と端子との接続不良を引き起こす原因となり、回路基板の信頼性や歩留まりを低下させる。従って、回路基板材料としての両面金属張積層板において、寸法安定性は非常に重要な特性である。
【0006】
金属張積層板の寸法安定性を高める技術として、特許文献1では、ポリイミド絶縁層の熱膨張係数に加え、圧延銅箔の厚みと引張弾性率との積を所定の範囲内とすることが提案されている。また、特許文献2では、面内リタデーション(RO)の値と、幅方向(TD方向)の面内リタデーション(RO)のばらつき(ΔRO)を小さくすることが提案されている。なお、特許文献3では、偏光方向が互いに直交する2つの直線偏光の間に生じる位相差を調整できる偏光光学素子および偏光状態制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-60138号公報
【特許文献2】特開2017-200759号公報
【特許文献3】特開2016-126804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
今後も電子機器におけるFPCの需要の増大が見込まれるため、その材料である金属張積層板には、出来るだけ多くのFPCを加工、調製することが可能なように、サイズの大型化が指向され、特に幅方向の長さを拡張するニーズが高まっている。その場合、特に幅方向の長さが500mm以上の片面金属張積層板に金属箔をラミネートして製造される両面金属張積層板において、絶縁樹脂層の長手方向での寸法変化率が、幅方向の位置によって変動する、という問題がある。したがって、両面金属張積層板における絶縁樹脂層の長手方向での寸法変化率を小さく抑えるだけでなく、幅方向の位置が変わっても、該寸法変化率がほぼ一定となるように、その変動幅を極力小さくすることが求められている。
【0009】
本発明の目的は、幅方向の位置にかかわらず、絶縁樹脂層の長手方向の寸法変化率の変動幅が小さく、優れた寸法安定性を有し、サイズの大型化にも対応可能な両面金属張積層板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、連続プレス装置を用いて幅方向の長さが500mm以上の片面金属張積層板に金属箔をラミネートした後で幅方向の張力バランスを制御して製造された両面金属張積層板によって上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の側面の両面金属張積層板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の両側に積層されている金属層と、を備えた長尺なフィルム状の両面金属張積層板であって、
前記両面金属張積層板の長手方向に直交する幅方向の長さが230mm以上であり、
前記絶縁樹脂層における長手方向の位置が同じで、幅方向の位置が異なる複数の計測部位として、前記絶縁樹脂層の幅方向に少なくとも3箇所設定した計測部位について厚み方向の複屈折率を計測したとき、該厚み方向の複屈折率の値を縦軸とし、幅方向の任意の基準位置から各計測部位までの幅方向の距離を横軸とする座標において、各計測部位に対応するプロットを最小二乗法によって近似して得られる直線の傾きの絶対値が1×10-5/mm未満である。
【0012】
また、本発明の第2の側面の両面金属張積層板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の両側に積層されている金属層と、を備えた長尺なフィルム状の両面金属張積層板である。本発明の第2の側面の両面金属張積層板は、前記両面金属張積層板の長手方向に直交する幅方向の長さが500mm以上1200mm以下である。そして、本発明の第2の側面の両面金属張積層板は、前記絶縁樹脂層における長手方向の位置が同じで、幅方向の位置が異なる複数の計測部位であって、前記絶縁樹脂層の幅方向の全長の中点を結ぶ中心線を基準にして対称な位置に少なくとも3箇所ずつ設定した計測部位について厚み方向の複屈折率を計測したとき、該厚み方向の複屈折率の値を縦軸とし、幅方向の任意の基準位置から各計測部位までの幅方向の距離を横軸とする座標において、各計測部位に対応するプロットを最小二乗法によって近似して得られる直線の傾きの絶対値が1×10-5/mm未満である。
【0013】
本発明の第1の側面又は第2の側面の両面金属張積層板は、すべての計測部位における厚み方向の複屈折率の値が、いずれも0.15以下であってもよい。
【0014】
本発明の第1の側面又は第2の側面の両面金属張積層板は、前記絶縁樹脂層を、その幅方向の全長の中点を結ぶ中心線を境界とする2つの仮想領域に分割したとき、すべての計測部位が、前記2つの仮想領域のそれぞれにおいて、前記中心線から幅方向の全長の49%までの範囲内に設定されていてもよい。
【0015】
本発明の第1の側面又は第2の側面の両面金属張積層板は、前記絶縁樹脂層が、複数層のポリイミド層を含むとともに、前記金属層が銅層であってもよい。
【0016】
本発明の回路基板は、上記第1の側面又は第2の側面の両面金属張積層板の前記金属層の片方又は両方を配線に加工してなるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の両面金属張積層板は、ラミネート時の幅方向の長さが500mm以上でありながら、絶縁樹脂層の厚み方向の複屈折率を幅方向の異なる位置で計測して得られる近似直線の傾きの絶対値が1×10-5/mm未満である。これは、絶縁樹脂層の長手方向の寸法変化が、幅方向の位置にかかわらずほぼ安定しており、優れた寸法安定性を有していることを示している。そのため、金属層を回路加工したときに、両面金属張積層板の面内、特に幅方向、における加工部位による配線間隔のばらつきを極めて小さく抑えることができる。したがって、本発明の両面金属張積層板を使用することによって、歩留まりの低下を抑制できるとともに、回路基板の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態に係る両面金属張積層板の外観構成を示す図面である。
図2】厚み方向の複屈折率の値と、幅方向における計測部位までの距離との関係を示す模擬的な座標を示す説明図である。
図3図2に示す座標の横軸における計測部位の位置を示す説明図である。
図4】実施例及び比較例で使用したリタデーションの評価システムの説明に供する図面である。
図5】実施例及び比較例で使用したリタデーションの測定方法の説明に供する原理図である。
図6】エッチング後の寸法変化率の測定方法の説明に供する図面である。
図7】実施例1及び比較例1で得た両面金属張積層板のエッチング後の寸法変化率の幅方向におけるばらつきを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[両面金属張積層板]
本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る両面金属張積層板100の外観構成を示している。両面金属張積層板100は、全体として長尺なフィルム状をなしている。両面金属張積層板100は、図示は省略するが、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の両側に積層された金属層とを有する。以下の説明では、長尺なフィルム状の両面金属張積層板100の長手方向をMD方向、このMD方向に直交する幅方向をTD方向、MD方向とTD方向によって形成される面(xy面)に垂直な軸方向を厚み方向(z方向)と記すことがある。両面金属張積層板100における絶縁樹脂層及び金属層(金属箔)、後述する断片100A、試料20においても同様である。
【0020】
両面金属張積層板100は、長手方向に直交する幅方向(TD方向)の長さが230mm以上であればよいが、その好ましい態様においては、幅(TD方向の長さ)が500mm以上1200mm以下の範囲内であることがよい。TD方向の長さが500mm以上であることによって、両面金属張積層板100を回路加工するときの生産効率を高めることができるが、一般に、ラミネート時の幅が大きくなるほど、ラミネート後の寸法安定性と面内等方性の制御が困難になる傾向がある。すなわち、ラミネート時にTD方向の長さが大きくなるほど、同方向の複数の部位において、厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)(以下、「Δn(xy-z)」と記すことがある)を測定したときの値にばらつきが生じやすくなるが、本発明の両面金属張積層板100では、この点が改善され、Δn(xy-z)の変動が少ない。ここで、「厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)」とは、絶縁樹脂層において面内方向(xy平面)の屈折率Nxyと面内方向に直交する断面(厚み)方向(z方向)の屈折率Nzの差である。分子配向が進むほど、面内方向に分子が配列する傾向が強くなるため、Δn(xy-z)は大きくなり、配向が進行していない場合は、Δn(xy-z)は小さくなる。従って、分子の配向度合いをΔn(xy-z)で評価することができる。そして、分子の配向度合いは、エッチング後のMD方向の寸法変化に影響を与える。つまり、Δn(xy-z)によって、エッチング後のMD方向の寸法変化がどの程度になるか、を把握することができる。後述するように、ロール・トゥ・ロール方式で片面金属張積層板と金属箔とをプレスロールを用いて熱圧着させる製造方法では、TD方向においてΔn(xy-z)のばらつきが生じやすい傾向があり、特にTD方向の長さが500mm以上である場合にその傾向が顕著となる。このことから、本発明の効果は、ラミネート時に幅が500mm以上である両面金属張積層板において特に大きく発現することになる。なお、幅が1200mmを越えると面内の寸法安定性や厚みのばらつきが大きくなり、例えばFPC等への加工時に不具合が発生しやすくなり歩留りが悪化する傾向になる。
【0021】
<絶縁樹脂層>
絶縁樹脂層は、非熱可塑性ポリイミド層と、非熱可塑性ポリイミド層の両面に積層された熱可塑性ポリイミド層を有することが好ましい。絶縁樹脂層は、熱可塑性ポリイミドもしくは非熱可塑性ポリイミドの溶液、又はこれらの前駆体の溶液を順次塗布するキャスト法によって形成されたものであることが好ましい。例えば、絶縁樹脂層をキャスト法によって形成する場合では、絶縁樹脂層のキャスト面側から熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層と熱可塑性ポリイミド層をこの順序で積層した3層構造が好ましい。ここで、絶縁樹脂層の「キャスト面」とはポリイミド又はその前駆体の溶液を塗布する金属層側の面のことを意味する。なお、絶縁樹脂層においてキャスト面と反対側の面は「ラミネート面」と記述することがある。
【0022】
本実施の形態において、非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミド及び熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドとしては、回路基板材料として一般的な非熱可塑性ポリイミド及び熱可塑性ポリイミドを特に制限なく使用することができる。ここで、「非熱可塑性ポリイミド」とは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本明細書では、熱可塑性ポリイミド以外のものをいい、好ましくは動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、280℃における貯蔵弾性率が3.0×10Pa以上であるポリイミドをいう。また、「熱可塑性ポリイミド」とは、一般にガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本明細書では、好ましくはDMAを用いて測定した30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、280℃における貯蔵弾性率が3.0×10Pa未満であるポリイミドをいう。
【0023】
また、絶縁樹脂層において、非熱可塑性ポリイミド層の厚み(A)と熱可塑性ポリイミド層の厚み(B)との厚み比((A)/(B))が1~20の範囲内であることが好ましく、2~12の範囲内がより好ましい。なお、非熱可塑性ポリイミド層及び/又は熱可塑性ポリイミド層の層数が複数である場合は、厚み(A)や厚み(B)は、合計の厚みを意味する。この比の値が、1に満たないと絶縁樹脂層全体に対する非熱可塑性ポリイミド層が薄くなるため、面内複屈折率Δn(x-y)(以下、「Δn(x-y)」と記すことがある)のばらつきが大きくなりやすく、20を超えると熱可塑性ポリイミド層が薄くなるため、絶縁樹脂層と金属層との接着信頼性が低下しやすくなる。ここで、Δn(x-y)は、絶縁樹脂層においてxy平面での2つの屈折率Nx及びNyの差である。なお、面内方向(xy平面)の屈折率Nxyは、x方向の屈折率Nx及びy方向の屈折率Nyの平均である。Δn(x-y)の制御は、絶縁樹脂層を構成する各ポリイミド層の樹脂構成とその厚みに相関がある。接着性すなわち高熱膨張性又は軟化を付与した樹脂構成である熱可塑性ポリイミド層は、その厚みが大きくなる程、絶縁樹脂層のΔn(x-y)の値に大きく影響する。そこで、非熱可塑性ポリイミド層の厚みの比率を大きくし、熱可塑性ポリイミド層の厚みの比率を小さくして、絶縁樹脂層のΔn(x-y)の値とそのばらつきを小さくすることが好ましい。後述するように、本実施の形態では、熱可塑性ポリイミド層の厚みの比率を小さくする場合でも、熱可塑性ポリイミド層が一般式(2)及び(3)から選ばれるジアミン残基を所定量含有するように設計することによって、金属層と絶縁樹脂層との接着性を確保できる。
【0024】
絶縁樹脂層の寸法精度の改善効果をより大きく発現させる観点から、本実施の形態の両面金属張積層板100は、幅(TD方向の長さ)が500mm以上であるが、長尺状の長さが20m以上のものが好ましい。なお、後述するように、本実施の形態の両面金属張積層板100が連続的に製造された後、長尺な両面金属張積層板100の長手方向(MD方向)及びTD方向にある一定の値で切断して用いられることがあり、このようにスリット加工されたものも本実施の形態の両面金属張積層板100に含まれる。
【0025】
(非熱可塑性ポリイミド)
本実施の形態において、非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含み、これらはいずれも芳香族基を含むことが好ましく、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の全てが芳香族基のみからなることがより好ましい。非熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基が、いずれも芳香族基を含むことで、非熱可塑性ポリイミドの秩序構造を形成しやすくし、絶縁樹脂層の高温環境下でのΔn(x-y)の変化量を小さくするとともに、Δn(x-y)のばらつきを抑制することができる。
【0026】
なお、本発明において、テトラカルボン酸残基とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。また、「ジアミン化合物」は、末端の二つのアミノ基における水素原子が置換されていてもよく、例えば-NR(ここで、R,Rは、独立にアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0027】
非熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基としては、特に制限はないが、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、PMDA残基ともいう。)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、BPDA残基ともいう。)が好ましく挙げられる。これらのテトラカルボン酸残基は、秩序構造を形成しやすく、高温環境下でのΔn(x-y)の変化量を小さくすることができる。また、PMDA残基は、熱膨張係数の制御とガラス転移温度の制御の役割を担う残基である。更に、BPDA残基は、テトラカルボン酸残基の中でも極性基がなく比較的分子量が大きいため、非熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度を下げ、絶縁樹脂層の吸湿を抑制する効果も期待できる。このような観点から、PMDA残基及び/又はBPDA残基の合計量が、非熱可塑性ポリイミドに含まれる全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して、好ましくは50モル部以上、より好ましくは50~100モル部の範囲内、最も好ましくは70~100モル部の範囲内であることがよい。
【0028】
非熱可塑性ポリイミドに含まれる他のテトラカルボン酸残基としては、例えば、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0029】
非熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、下記の一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基(以下、「ジアミン残基(1)」と記すことがある)が好ましく挙げられる。
【0030】
【化1】
【0031】
一般式(1)において、連結基Zは単結合若しくは-COO-を示し、Yは独立にハロゲン若しくはフェニル基で置換されてもよい炭素数1~3の1価の炭化水素又は炭素数1~3のアルコキシ基、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、又はアルケニル基を示し、nは0~2の整数を示し、p及びqは独立に0~4の整数を示す。ここで、「独立に」とは、上記式(1)において、複数の置換基Y、整数p、qが同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。
【0032】
ジアミン残基(1)は、秩序構造を形成しやすく、寸法安定性を高め、特に高温環境下でのΔn(x-y)の変化量を効果的に抑制することができる。このような観点から、ジアミン残基(1)は、非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、20モル部以上、好ましくは70~95モル部の範囲内、より好ましくは80~90モル部の範囲内で含有することがよい。
【0033】
ジアミン残基(1)の好ましい具体例としては、p-フェニレンジアミン(p-PDA)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EB)、2,2’-ジエトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EOB)、2,2’-ジプロポキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-POB)、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、2,2’-ジビニル-4,4’-ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。これらの中でも特に、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)は、秩序構造を形成しやすく、高温環境下でのΔn(x-y)の変化量を小さくすることができるので特に好ましい。
【0034】
また、絶縁樹脂層の弾性率を下げ、伸度及び折り曲げ耐性等を向上させるため、非熱可塑性ポリイミドが、下記の一般式(2)及び(3)で表されるジアミン残基からなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミン残基を含むことが好ましい。
【0035】
【化2】
【0036】
上記式(2)及び式(3)において、R、R、R及びRはそれぞれ独立にハロゲン原子、又は炭素数1~4の、ハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基もしくはアルコキシ基、又はアルケニル基を示し、Xは独立に-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH)-、-CO-、-COO-、-SO-、-NH-又は-NHCO-から選ばれる2価の基を示し、X及びXはそれぞれ独立に単結合、-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH)-、-CO-、-COO-、-SO-、-NH-又は-NHCO-から選ばれる2価の基を示すが、X及びXの両方が単結合である場合を除くものとし、m、n、o及びpは独立に0~4の整数を示す。
なお、「独立に」とは、上記式(2)、(3)の内の一つにおいて、または両方において、複数の連結基X、連結基XとX、複数の置換基R、R、R、R、さらに、整数m、n、o、pが、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。
【0037】
一般式(2)及び(3)で表されるジアミン残基は、屈曲性の部位を有するので、絶縁樹脂層に柔軟性を付与することができる。ここで、一般式(3)で表されるジアミン残基は、ベンゼン環が4個であるので、熱膨張係数(CTE)の増加を抑制するために、ベンゼン環に結合する末端基はパラ位とすることが好ましい。また、絶縁樹脂層に柔軟性を付与しながら熱膨張係数(CTE)の増加を抑制する観点から、一般式(2)及び(3)で表されるジアミン残基は、非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、好ましくは5~30モル部の範囲内、より好ましくは10~20モル部の範囲内で含有することがよい。一般式(2)及び(3)で表されるジアミン残基が5モル部未満であると、絶縁樹脂層の弾性率が増加して伸度が低下し、折り曲げ耐性等の低下が生じることがあり、30モル部を超えると、分子の配向性が低下し、低CTE化が困難となることがある。
【0038】
一般式(2)で表されるジアミン残基は、m、n及びoの一つ以上が0であるものが好ましく、また、基R、R及びRの好ましい例としては、炭素数1~4の、ハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基、あるいは炭素数1~3のアルコキシ基、又は炭素数2~3のアルケニル基を挙げることができる。また、一般式(2)において、連結基Xの好ましい例としては、-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-SO-又は-CO-を挙げることができる。一般式(2)で表されるジアミン残基の好ましい具体例としては、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、ビス(4‐アミノフェノキシ)-2,5-ジ-tert-ブチルベンゼン(DTBAB)、4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BAPK)、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。
【0039】
一般式(3)で表されるジアミン残基は、m、n、o及びpの一つ以上が0であるものが好ましく、また、基R、R、R及びRの好ましい例としては、炭素数1~4の、ハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基、あるいは炭素数1~3のアルコキシ基、又は炭素数2~3のアルケニル基を挙げることができる。また、一般式(3)において、連結基X及びXの好ましい例としては、単結合、-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-SO-又は-CO-を挙げることができる。但し、屈曲部位を付与する観点から、連結基X及びXの両方が単結合である場合を除くものとする。一般式(3)で表されるジアミン残基の好ましい具体例としては、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。
【0040】
一般式(2)で表されるジアミン残基の中でも、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)から誘導されるジアミン残基(「TPE-R残基」と記すことがある)が特に好ましく、一般式(3)で表されるジアミン残基の中でも、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)から誘導されるジアミン残基(「BAPP残基」と記すことがある)が特に好ましい。TPE-R残基及びBAPP残基は、屈曲性の部位を有するので、絶縁樹脂層の弾性率を低下させ、柔軟性を付与することができる。また、BAPP残基は分子量が大きいため、非熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度を下げ、絶縁樹脂層の吸湿を抑制する効果も期待できる。
【0041】
非熱可塑性ポリイミドに含まれる他のジアミン残基としては、例えば、m‐フェニレンジアミン(m-PDA)、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(4,4'-DAPE)、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、3,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルプロパン、3,4'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等の芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。
【0042】
非熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸残基又はジアミン残基を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、貯蔵弾性率、引張弾性率等を制御することができる。また、非熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、Δn(x-y)のばらつきを抑制する観点から、ランダムに存在することが好ましい。
【0043】
非熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、35重量%以下であることが好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が35重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化する。上記酸無水物とジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、非熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保している。
【0044】
(熱可塑性ポリイミド)
本実施の形態において、熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含み、これらがいずれも芳香族基を含むことが好ましく、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の全てが芳香族基のみからなることがより好ましい。熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基が、いずれも芳香族基を含むことによって、絶縁樹脂層の高温環境下でのΔn(x-y)の変化量を抑制することができる。
【0045】
熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基としては、特に制限はないが、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、PMDA残基ともいう。)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、BPDA残基ともいう。)が好ましく挙げられる。これらのテトラカルボン酸残基は、秩序構造を形成しやすく、高温環境下でのΔn(x-y)の変化量を小さくすることができる。また、PMDA残基は、熱膨張係数の制御とガラス転移温度の制御の役割を担う残基である。更に、BPDA残基は、テトラカルボン酸残基の中でも極性基がなく比較的分子量が大きいため、熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度を下げ、絶縁樹脂層の吸湿を抑制する効果も期待できる。このような観点から、PMDA残基及び/又はBPDA残基の合計量が、熱可塑性ポリイミドに含まれる全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して、好ましくは50モル部以上、より好ましくは50~100モル部の範囲内、最も好ましくは70~100モル部の範囲内であることがよい。
【0046】
熱可塑性ポリイミドに含まれる他のテトラカルボン酸残基としては、上記非熱可塑性ポリイミドで例示したものと同様の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0047】
本実施の形態において、熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、上記一般式(2)及び(3)から選ばれる少なくとも一種のジアミン残基が好ましい。一般式(2)及び(3)から選ばれるジアミン残基は、全ジアミン残基の100モル部に対して、合計で50モル部以上であることが好ましく、50~100モル部であることがより好ましく、70~100モル部の範囲内が最も好ましい。一般式(2)及び(3)から選ばれるジアミン残基を、全ジアミン残基の100モル部に対して、合計で50モル部以上含むことによって、熱可塑性ポリイミド層に柔軟性と接着性を付与し、金属層に対する接着層として機能させることができる。また、一般式(2)で表されるジアミン残基の中でも、TPE-R残基が特に好ましく、一般式(3)で表されるジアミン残基の中でもBAPP残基が特に好ましい。TPE-R残基及びBAPP残基は、屈曲性の部位を有するので、絶縁樹脂層の弾性率を低下させ、柔軟性を付与することができる。また、BAPP残基は分子量が大きいため、熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度を下げ、絶縁樹脂層の吸湿を抑制する効果も期待できる。
【0048】
また、上述のように、非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドが、一般式(2)及び(3)から選ばれるジアミン残基を含有する場合には、熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドも、ジアミン残基として、類似した構造、好ましくは一般式(2)及び(3)から選ばれる同種のジアミン残基を含有することがよい。この場合、熱可塑性ポリイミドと非熱可塑性ポリイミドでは、ジアミン残基の含有比率は異なるものとなるが、類似若しくは同種のジアミン残基を含有することで、特にキャスト法によってポリイミドフィルムを形成する際に、熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層の配向制御が容易になり、寸法精度を管理しやすくなる。このような観点から、本実施の形態では、非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドと、熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドがいずれも上記一般式(2)及び(3)から選ばれる少なくとも一種のジアミン残基を含有することが好ましく、該ジアミン残基が、TPE-R残基及び/又はBAPP残基を含有することが最も好ましい。
【0049】
本実施の形態において、熱可塑性ポリイミドに含まれる、上記一般式(2)及び(3)以外のジアミン残基としては、例えば、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EB)、2,2’-ジエトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EOB)、2,2’-ジプロポキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-POB)、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、2,2’-ジビニル-4,4’-ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、p‐フェニレンジアミン(p-PDA)、m‐フェニレンジアミン(m-PDA)、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を挙げることができる。
【0050】
熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸残基又はジアミン残基を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、引張弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。また、熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0051】
熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドは、金属層との密着性を向上させることができる。このような熱可塑性ポリイミドは、ガラス転移温度が200℃以上350℃以下の範囲内、好ましくは200℃以上320℃以下の範囲内である。
【0052】
熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、35重量%以下であることが好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が35重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化する。上記酸無水物とジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保している。
【0053】
(非熱可塑性ポリイミド及び熱可塑性ポリイミドの合成)
一般にポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0054】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cps~100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0055】
ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、絶縁樹脂層の強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際に厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0056】
絶縁樹脂層は、全体として、CTEが1×10-6/K以上30×10-6/K以下の範囲内であることが好ましい。CTEが1×10-6/K未満であるか、又は30×10-6/Kを超えると、両面金属張積層板100にTD方向の反りが発生しやすくなったり、寸法安定性が損なわれたりする。非熱可塑性ポリイミド層のCTEは、好ましくは1×10-6~30×10-6/Kの範囲内がよく、熱可塑性ポリイミド層のCTEは、好ましくは30×10-6を超え、80×10-6/K以下の範囲内がよい。ポリイミド層は、使用する原料の組合せ、厚み、乾燥・硬化条件を適宜変更することで所望の熱膨張係数を有するポリイミド層とすることができる。
【0057】
絶縁樹脂層の厚みは、金属層の厚みや剛性などに応じて、所定の範囲内の厚みに設定することができるが、例えば、6~50μmの範囲内にあることが好ましく、9~38μmの範囲内にあることがより好ましい。絶縁樹脂層の厚みが上記下限値に満たないと、電気絶縁性が担保出来ないことや、ハンドリング性の低下により製造工程にて取扱いが困難になるなどの問題が生じることがある。一方、絶縁樹脂層の厚みが上記上限値を超えると、例えばFPCを折り曲げた際の耐折り曲げ性を低下させてしまうことがある。
【0058】
絶縁樹脂層の幅(TD方向の長さ)が500mm以上1200mm以下の範囲内である場合は、そのMD方向の同じ位置であって、TD方向の異なるに位置に設定した複数の計測部位であって、絶縁樹脂層のTD方向の全長の中点を結ぶ中心線を基準にして対称な位置に少なくとも3箇所ずつ設定した計測部位においてΔn(xy-z)を計測したとき、該Δn(xy-z)の値を縦軸とし、TD方向の任意の基準位置から各計測部位までのTD方向の距離を横軸とする座標において、各計測部位に対応するプロットを最小二乗法によって近似して得られる直線の傾きの絶対値が1×10-5/mm未満である。以下、この点について、図2を参照しながら説明する。
【0059】
図2は、幅(TD方向の長さ)が500mm以上1200mm以下の範囲内である本実施の形態の両面金属張積層板100と、比較対象の両面金属張積層板について、TD方向の異なるに位置に設定した複数の計測部位について、絶縁樹脂層のΔn(xy-z)を計測した場合座標を模擬的に示したものである。図2において、縦軸はΔn(xy-z)の値であり、横軸は、両面金属張積層板100の片側の端部を基準位置とするTD方向の測定位置を示している。ここでは、A,B,C,D,E,Fの6箇所の測定位置の結果が示されている。なお、横軸は、任意の基準位置から各測定位置までのTD方向の相対的な距離を示すものであればよい。したがって、「基準位置」は、絶縁樹脂層のTD方向の任意の位置でよく、例えば、TD方向の一端、その反対端、中点などであってよい。また、測定位置は、合計6箇所に限らず、例えば6~10箇所が好ましい。
【0060】
図2の上側の直線は、本実施の形態の両面金属張積層板100の各測定位置に対応する丸いプロット群を最小二乗法によって近似して得られる直線であり、下側の直線は、比較対象の両面金属張積層板の各測定位置に対応する四角いプロット群を最小二乗法によって近似して得られる直線である。上下二つの直線は、いずれも式y=ax+bで表すことができ、aは直線の傾き、bはΔn(xy-z)の任意の値を意味する。なお、図2は実際の測定結果ではなく、説明のための模擬的なグラフであるため、Δn(xy-z)の値や直線の傾きなどは厳密なものではない。
【0061】
図2において、上側の直線の傾きの絶対値|a|は1×10-5/mm未満である。このように、TD方向の複数の計測部位におけるΔn(xy-z)の値から得られる近似直線の傾きが所定の範囲内であることで、MD方向の寸法変化率がTD方向においてばらつくことが抑えられ、エッチング後の寸法安定性を高めることができる。つまり、上側の直線に対応する両面金属張積層板100は、TD方向におけるΔn(xy-z)の値の変動が非常に少ないことから、TD方向の位置にかかわりなく、エッチング後のMD方向への寸法変化がほぼ一定であり、寸法変化の変動幅が極めて小さいことを示している。
【0062】
一方、図2において、四角いプロットを最小二乗法によって近似して得られる下側の直線は、傾きの絶対値|a|が1×10-5/mm以上である。そのため、比較対象の両面金属張積層板は、TD方向の複数の計測部位におけるΔn(xy-z)の値にばらつきが大きく、エッチング後のMD方向への寸法変化がTD方向の位置によって異なり、変動幅が大きいことを示している。
【0063】
両面金属張積層板100及び比較対象の両面金属張積層板は、いずれもキャスト法によって製造されたものである。図2において、A~Fのどの測定位置においても、四角いプロット群は丸いプロット群に比べてΔn(xy-z)の値自体が小さいことから、比較対象の両面金属張積層板は、全体としてみればエッチング後のMD方向の寸法安定性に優れているとも考えられる。しかし、二本の近似直線の傾きから理解されるように、四角いプロット群は丸いプロット群に比べて、Δn(xy-z)のTD方向でのばらつきが大きいため、回路加工時の配線幅がTD方向の位置によって異なってしまう可能性が高い。このように、両面金属張積層板の面内加工位置の違いよって、製造されるFPCの配線幅が異なってしまうと、複数のFPC間の品質の均質性を欠くことになり、信頼性という点で問題となる。それに対して、本実施の形態の両面金属張積層板100に対応する丸いプロット群の場合は、TD方向の位置にかかわりなく、Δn(xy-z)の値がほぼ一定であり、ばらつきが非常に小さいため、エッチング後にMD方向への寸法変化が生じても、例えば、その寸法変化を見込んで回路設計時に一律にマージンを設けるなどの対策が可能である。そのため、比較対象の両面金属張積層板よりも、両面金属張積層板100の方が、加工される複数のFPC間の品質の安定化(特に配線幅の均一性)を図りやすい、というメリットがある。
【0064】
また、絶縁樹脂層は、MD方向の同じ位置であって、TD方向の異なるに位置に設定した複数の計測部位についてΔn(xy-z)を計測したとき、すべての計測部位におけるΔn(xy-z)の値がいずれも0.15以下であることが好ましい。すべての計測部位でΔn(xy-z)が0.15以下という低い値を示すことは、絶縁樹脂層のエッチング後のMD方向への寸法変化が小さく、寸法安定性が高いことを示している。このような優れた寸法安定性は、テンター法により製造されたポリイミドフィルムを使用した両面金属張積層板では実現が困難である。なお、図2では説明のため、四角いプロット群を比較対象として挙げているが、比較対象の両面金属張積層板はキャスト法によって製造されていることから、テンター法により製造されたポリイミドフィルムを使用した両面金属張積層板に比べ、回路加工時の寸法精度は格段に優れている。
【0065】
以上のように、本実施の形態の両面金属張積層板100は、幅(TD方向の長さ)が500mm以上1200mm以下の範囲内であるにもかかわらず、すべての計測部位でΔn(xy-z)が0.15以下という低い値を示すことから、エッチング後のMD方向における寸法安定性が非常に高いだけでなく、TD方向におけるΔn(xy-z)の変動が極力抑えられているため、エッチング後のMD方向への寸法変化のばらつきがTD方向において極めて小さいものである。したがって、両面金属張積層板100から加工される複数のFPC間の品質の安定化を図ることが可能であり、FPCの信頼性を向上させることができる。
【0066】
図2のグラフの横軸では、等間隔にA,B,C,D,E,Fの6箇所の測定位置が示されている。この6箇所の測定位置は、両面金属張積層板100におけるTD方向の計測部位の位置を意味している。具体的には、図3に示すように、両面金属張積層板100をMD方向が任意の長さとなるように切断した断片100Aから、MD方向の位置を揃えて6箇所の長方形の領域を計測部位10として設定する。長方形の各計測部位10(試料20)の中心10aの位置が、図2の横軸の「測定位置」に相当する。断片100Aから金属層をエッチングによって除去した評価用フィルムから、長方形の各計測部位10を切り出したものを、Δn(xy-z)を計測するための試験片(後述する試料20;図4参照)とする。なお、図3では、説明の目的で各部の寸法を誇張して描いている。
【0067】
また、図3において、6箇所の計測部位10がTD方向に偏在していると、Δn(xy-z)のTD方向におけるばらつきを正確に把握することが困難であるため、各計測部位10における測定位置(中心10a)の間隔は略等間隔であることが好ましい。
また、計測部位10をTD方向の広範囲に分布させるため、隣接する計測部位10における測定位置(中心10a)どうしの間隔を、TD方向の全長に対し、少なくとも、1/12以上とすることが好ましく、1/10以上とすることがより好ましく、1/8以上とすることが最も好ましい。隣接する測定位置(中心10a)どうしの間隔の上限は、TD方向に少なくとも合計6箇所の計測部位を設定できればよいが、測定位置(中心10a)の間隔が等間隔でない場合を考慮して、TD方向の全長に対し、好ましくは1/5以下、より好ましくは1/6以下とすることがよい。
さらに、図3に示すように、両面金属張積層板100の絶縁樹脂層を、そのTD方向の全長の中点を結ぶ中心線Loを境界とする2つの仮想領域A,Bに分割したとき、各仮想領域A,B内に存在する計測部位10が、中心線Loを基準にして対称に位置するように、各計測部位10の位置を選択することが好ましい。図3では、中心線Loを基準にして各仮想領域A,B内の対称な位置にそれぞれ3箇所ずつ、合計6箇所の計測部位10を設定しているが、仮想領域A,B内の対称な位置にそれぞれ4箇所以上設定してもよい。
したがって、各計測部位10における測定位置(中心10a)の間隔が略等間隔であり、隣接する測定位置(中心10a)どうしの間隔がTD方向の全長に対し1/12以上であり、かつ、各仮想領域A,B内に存在する各3箇所以上の計測部位10が、中心線Loを基準にして対称に位置するように設定することが最も好ましい。
【0068】
また、図3に示すように、すべての計測部位10における測定位置(中心10a)を、2つの仮想領域A,Bのそれぞれにおいて、中心線Loから両端部へ、それぞれTD方向の全長の49%までの範囲内に設定することが好ましい。後述するように、ロール・トゥ・ロール方式で片面金属張積層板と金属箔とをプレスロールを用いて熱圧着させる製造方法では、両面金属張積層板100における絶縁樹脂層のTD方向の両端部近傍のΔn(xy-z)の変動が大きくなる可能性があり、しかも両端部近傍は回路加工時に切除して使用しないためである。
したがって、TD方向の全長に対し、中心線Loから両端部へ、好ましくは0~49%の範囲内、より好ましくは0~45%の範囲内、最も好ましくは0~40%の範囲内にすべての計測部位10における中心10aを設定することがよい。換言すれば、TD方向の全長から両端部近傍の好ましくは1%ずつを除外した98%の範囲内、より好ましくは5%ずつを除外した90%の範囲内、最も好ましくは10%ずつを除外した80%の範囲内にすべての計測部位10における中心10aを設定することがよい。
また、複数の計測部位10がTD方向に偏在することは好ましくないため、複数の計測部位10の中の最も外側に位置する2つの計測部位10の中心10a間の距離が、TD方向の全長に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上の範囲を占めるように設定することがよい。
以上より、Δn(xy-z)のTD方向におけるばらつきを正確に把握するために、複数の計測部位10の中の最も外側の2つの計測部位10の中心10a間の距離が、TD方向の全長に対し、好ましくは50%以上98%以下の範囲、より好ましくは60%以上98%以下の範囲、さらに好ましくは70%以上98%以下の範囲を占めるように、複数の計測部位10を分布させることがよい。
【0069】
なお、後記実施例に示すように、断片100Aを中心線Loに沿って2分割したものから、試験片(試料20)を切り出して作成もよい。また、断片100AにおけるTD方向の両端部をそれぞれ1~20%の範囲で切除した小断片を作成し、この小断片からさらに試験片(試料20)を切り出して作成してもよい。この場合、小断片のTD方向のいずれかの端部を、上記基準位置としてもよい。
【0070】
<金属層>
金属層を構成する金属としては、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、金、コバルト、チタン、タンタル、亜鉛、鉛、錫、シリコン、ビスマス、インジウム又はこれらの合金などから選択される金属を挙げることができる。導電性の点で特に好ましいものは銅箔である。銅箔は、電解銅箔、圧延銅箔のいずれでもよい。なお、本実施の形態の両面金属張積層板100を連続的に生産する場合には、金属箔として、所定の厚さのものがロール状に巻き取られた長尺状の金属箔が用いられる。両面金属張積層板100に適用できる金属箔のTD方向の長さは、例えば500mm~1200mmの範囲内が好ましい。金属箔の厚みは、例えば6~20μmの範囲内にあることが好ましく、8~13μmの範囲内にあることがより好ましい。なお、両面金属張積層板100において、2つの金属層の構成は同じであっても異なっていてもよい。
【0071】
[両面銅張積層板の製造方法]
両面金属張積層板100の製造方法を、金属層が銅層(銅箔)である両面銅張積層板を例に挙げて説明する。この場合、両面銅張積層板の絶縁樹脂層の片面に積層された銅層を「第一の銅層」とし、反対側の面に積層された銅層を「第二の銅層」とする。
【0072】
(第一の銅層への絶縁樹脂層の積層工程)
例えば、幅(TD方向の長さ)が500mm以上1200mm以下の範囲内である第一の銅箔上にポリアミド酸溶液を直接塗布した後、熱処理により乾燥、硬化して絶縁樹脂層を形成する所謂キャスト法により絶縁樹脂層と第一の銅箔の積層体であって、幅(TD方向の長さ)が500mm以上1200mm以下の範囲内である片面銅張積層板を形成する。片面銅張積層板における第一の銅箔を第一の銅層とする。キャスト法によって複数のポリイミド層からなる絶縁樹脂層を形成する場合は、ポリアミド酸の塗布液を順次塗布し、乾燥して前駆体層を形成することができる。例えば、ポリイミド層が3層構造である場合は、第一の銅箔上に熱可塑性ポリイミドの前駆体層、非熱可塑性ポリイミドの前駆体層、熱可塑性ポリイミドの前駆体層がこの順に積層されるように順次ポリアミド酸の塗布液を塗布し、乾燥させた後、熱処理してイミド化する方法が好ましい。第一の銅箔は、特に限定されるものではなく、市販されている圧延銅箔又は電解銅箔を用いることができる。
【0073】
(第二の銅層の積層工程)
第一の銅層を有する片面銅張積層板と、これとは別に準備した長尺状の第二の銅箔をロール・トゥ・ロールによる搬送工程で向い合せになるように2対のプレスロールを有するプレス装置に通紙する。片面銅張積層板の巻き出し張力は10~35Nの範囲であることが好ましく、15~30Nの範囲にあることがより好ましい。第二の銅箔の巻き出し張力は5~25Nの範囲であることが好ましく、10~20Nの範囲にあることがより好ましい。通紙のラインスピードは2~10m/minであることが好ましい。このように、片面銅張積層板の絶縁樹脂層側に第二の銅箔をプレスロールによる熱圧着で積層することによって、幅(TD方向の長さ)が500mm以上1200mm以下の範囲内であり、絶縁樹脂層の片側に第一の銅層、他方に第二の銅層を有する両面銅張積層板を得ることができる。プレスにより得られた両面銅張積層板は、ロール・トゥ・ロールにより回転ロール上を巻き取り張力により搬送され巻き取られていくが、回転ロールの角度や高さを調整することにより、両面銅張積層板のTD方向にかかる巻き取り張力バランスを制御し、両面銅張積層板にかかる応力を調節することで、絶縁樹脂層の配向性を制御することができる。
なお、第二の銅層に使用される第二の銅箔としては、特に限定されるものではなく、例えば、圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、第二の銅箔として、第一の銅箔と同じものを使用してもよい。
【0074】
本実施の形態では、図示は省略するが、幅(TD方向の長さ)が500mm以上1200mm以下の範囲内である両面金属張積層板100を長手方向に沿って切断することによって、長手方向に直交する幅方向の長さを、例えば230mm以上、好ましくは230mm以上450mm以下、より好ましくは230mm以上270mm以下、最も好ましくは230mm以上250mm以下としてなるものを変形例として含むことができる。この変形例の分割両面金属張積層板は、上記第一の銅層への絶縁樹脂層の積層工程及び第二の銅層の積層工程を含む製造方法によって得られた幅が500mm以上1200mm以下の範囲内である両面金属張積層板100を、さらに長手方向に沿って切断する工程を実施することによって製造できる。
【0075】
分割両面金属張積層板は、絶縁樹脂層における長手方向の位置が同じで、幅方向の位置が異なる複数の計測部位であって、絶縁樹脂層の幅方向に少なくとも3箇所設定した計測部位について厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)を計測したとき、該厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)の値を縦軸とし、幅方向の任意の基準位置から各計測部位までの幅方向の距離を横軸とする座標において、各計測部位に対応するプロットを最小二乗法によって近似して得られる直線の傾きの絶対値が1×10-5/mm未満であればよい。
【0076】
図示は省略するが、分割両面金属張積層板において、少なくとも3箇所の計測部位がTD方向に偏在していると、Δn(xy-z)のTD方向におけるばらつきを正確に把握することが困難であるため、各計測部位における測定位置の間隔は略等間隔であることが好ましい。
また、計測部位をTD方向の広範囲に分布させるため、隣接する計測部位における測定位置どうしの間隔を、TD方向の全長に対し、少なくとも、1/6以上とすることが好ましく、1/5以上とすることがより好ましく、1/4以上とすることが最も好ましい。隣接する測定位置どうしの間隔の上限は、TD方向に少なくとも合計3箇所の計測部位を設定できればよいが、測定位置の間隔が等間隔でない場合を考慮して、TD方向の全長に対し、好ましくは2/5以下、より好ましくは1/3以下とすることがよい。
さらに、分割両面金属張積層板において、すべての計測部位における測定位置を、片側の端部から他端側へ、それぞれ、好ましくはTD方向の全長の49%までの範囲内、より好ましくは0~45%の範囲内、最も好ましくは0~40%の範囲内に設定することがよい。
【0077】
分割両面金属張積層板の好ましい態様として、幅が500mm程度である両面金属張積層板100を、そのTD方向の全長の中点を結ぶ中心線Lo(図3参照)に沿って長手方向に切断することによって、長手方向に直交する幅方向の長さを例えば230mm以上、好ましくは230mm以上250mm以下としてなる二分割両面金属張積層板を例示できる。この場合、一対の二分割両面金属張積層板を前記切断部位が接するように並べて長手方向の位置を切断前と同じ位置に合わせたときに、絶縁樹脂層における長手方向の位置が同じで、幅方向の位置が異なる複数の計測部位であって、前記切断部位を基準にして対称な位置に少なくとも3箇所ずつ設定した計測部位について厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)を計測したとき、該厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)の値を縦軸とし、幅方向の任意の基準位置から各計測部位までの幅方向の距離を横軸とする座標において、各計測部位に対応するプロットを最小二乗法によって近似して得られる直線の傾きの絶対値が1×10-5/mm未満であることが好ましい。
【0078】
以上のような変形例の分割両面金属張積層板は、幅方向の長さが異なる点以外は両面金属張積層板100と同様であるため、特に注記しない限り本実施の形態の両面金属張積層板100に含める。
【0079】
[回路基板]
両面金属張積層板100は、主にFPC等の回路基板の材料として有用である。例えば、両面金属張積層板100の金属層を常法によってパターン状に加工して配線層を形成することによって、本発明の一実施の形態であるFPC等の回路基板、該回路基板を複数層に積層した多層回路基板、リジッドフレキシブル基板(リジッドFPC)などを製造できる。
【実施例0080】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0081】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%~90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0082】
[重量平均分子量の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー株式会社製、商品名;HLC-8220GPC)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にはN,N-ジメチルアセトアミドを用いた。
【0083】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ガラス転移温度は、5mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、動的粘弾性測定装置(DMA:ユー・ビー・エム社製、商品名;E4000F)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数11Hzで測定を行い、弾性率変化(tanδ)が最大となる温度をガラス転移温度とした。
【0084】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から265℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0085】
[貯蔵弾性率の測定]
5mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、動的粘弾性測定装置(DMA:ユー・ビー・エム社製、商品名;E4000F)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数11Hzで測定を行った。
【0086】
[厚み方向の複屈折率(Δn(xy-z))の算出]
厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)は、複屈折率計(フォトニックラティス社製、商品名;ワイドレンジ複屈折評価システムWPA-100、測定エリア;長手方向(MD):20mm×幅方向(TD):15mm)を用いて測定した。厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)は、公知の偏光状態制御装置(例えば、特許文献3を参考)により、後述するリタデーションReを測定し、その測定結果から算出した。
【0087】
まず、リタデーションReの評価方法について説明する。図4は、リタデーションReの評価システムの一部を示す説明図であり、図5はリタデーションReの測定方法の原理図である。
リタデーションReの評価システムは、複屈折・位相差評価装置(株式会社フォトニックラティス社製、WPA-100)と、試料に入射する光の入射角θを変更するために試料を回転させる図示しない回転装置によって構成されている。図4において、符号20は、試料を示し、符号21は、複屈折・位相差評価装置の光源を示し、符号22は、複屈折・位相差評価装置の受光部を示している。光源21が出射する光の波長は、543nmである。試料20は、固定用の枠に支持された状態で、図示しない回転装置に固定されている。
【0088】
リタデーションReは、図示しない回転装置によって、前述の枠に支持された試料20の傾斜角度を変えることによって、試料20に入射する光の入射角θを変化させながら測定した(図5参照)。入射角θは、0°、±30°、±40°、±50°に変化させてそれぞれの角度でリタデーションReを測定した。
【0089】
次に、厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)の算出方法について説明する。厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)は、リタデーションReの測定結果を用いて算出した。前述したリタデーション評価システムを用いて、ポリイミドフィルムを評価すると、入射角θ、屈折角θ図5のように示される。図5において、符号2は、両面金属張積層板の絶縁樹脂層からなるポリイミドフィルムを示し、符号2aはポリイミドフィルム2のラミネート面であり、符号2bはポリイミドフィルム2のキャスト面であり、dはポリイミドフィルムの厚みを示す。ここで、ラミネート面2aに入射する前の光を記号Lで表し、ポリイミドフィルム2中の光を記号Lで表し、キャスト面2bから出射した光を記号Lで表す。X軸、Y軸、Z軸はそれぞれ直交し、XY方向はポリイミドフィルム2のラミネート面2aと平行な軸であり、Z方向はポリイミドフィルム2のラミネート面2aと直交する軸であり、厚み方向の軸である。
【0090】
以下の式(A)に示されるように、リタデーションReは、厚みdと厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)と屈折角θに依存する。屈折角θは入射角θに依存する。従って、複数の入射角θについて得られた複数のリタデーションReの実測値から、複屈折率Δn(xy-z)を算出することができる。
Re=d・Δn(xy-z)・sinθ/cosθ ・・・ (A)
ただし、屈折角θは、ポリイミドフィルム2内部でのビームとフィルム法線とのなす角であり、入射角θとは、スネルの法則より、θ=sin-1(sinθ/N)の関係となる。ここで、dは膜厚、Nは測定サンプルの屈折率である。
なお、Δn(xy-z)は面内方向の屈折率と厚み方向の屈折率の差であり、
Δn(xy-z)=Nxy-Nzを満たす。
Nxy: 面内方向の屈折率
Nz: 厚み方向の屈折率
【0091】
[評価サンプルの作製]
両面金属張積層板から長手方向(MD)200mm×幅方向(TD)250mmにカットした2枚の評価サンプルを用いて、幅方向の6箇所の位置に、上記方法による厚み方向の複屈折率の計測部位を設定した。各計測部位の大きさは、縦20mm×幅15mmの長方形とし、並べて配置した2枚の評価サンプルの片側の端部から各計測部位の中心までの距離を「測定位置」として設定した。
【0092】
具体的には、両面金属張積層板の幅方向の長さが540mmの場合、端部をそれぞれ20mmずつカットして幅500mmとした後、中心線Lo(図3参照)に沿って長手方向に中央部をカットして幅250mmの2枚の評価サンプルの小断片とし、各小断片の金属層をエッチングによって除去して2枚の評価用フィルムを調製した。2枚の評価用フィルムを切断部位が接するように並べて長手方向の位置を切断前と同じ位置に合わせて配置し、一方のフィルム端部から、後記の表1、表3、表5、表7、表9に示す測定位置となるように、縦20mm×幅15mmの長方形にカットすることによって、厚み方向の複屈折率用の試料20を調製した。このとき、2枚の評価用フィルムの境界(元の中心線Loに相当)を基準にして、TD方向に対称な位置から、それぞれ3つずつ、合計6つの試料20を作成した。測定位置は試料20の中心(縦20mm×幅15mmの中心位置)とし、厚み方向の複屈折率Δn(xy-z)を計測した。
【0093】
[寸法変化率の測定]
両面銅張積層板において、長手方向(MD)200mm×幅方向(TD)250mmにカットし、2枚の評価サンプルを得た。そのサンプルを用いて、図6に示すように、NCドリルを用いてMD方向に100mm間隔で2か所、かつ、TD方向に50mm間隔で10か所にφ1mmの孔を空け、合計20点を形成した。そのサンプルを用い、非接触CNC画像測定機(Mitutoyo社製、商品名;クイックビジョン QV-X404PIL-C)にて各円の中心座標位置を計測した。具体的にはφ1mmの各孔の円周上にて角度1度刻みで360点の座標を取得し、その360点データを使用し最小二乗円法により円の中心座標を算出した。
【0094】
化学エッチングにより両面銅張積層板の両面の銅箔を除去することによりポリイミドフィルム状態にした。ポリイミドフィルムを温度23度、湿度50%RHにて20時間以上調湿した後、再度同じ装置にて各円の中心座標位置を計測した。得られた座標位置より、MD方向にそれぞれ隣接する孔間距離(約100mm)を算出し、エッチング前を基準としたエッチング後のMD方向の寸法変化率[%]を以下の計算式に基づいて算出した。
計算式:
[(エッチング後距離-エッチング前距離)÷エッチング前距離]×100
【0095】
両面銅張積層板の幅の長さが500mmの場合は幅方向に2分割し評価を行い、MD方向の寸法変化率について、それぞれの幅方向の全データから、最大値と最小値を抽出し、その差分を寸法変化率のTD方向におけるばらつき(変動幅)の指標とした。
【0096】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
m‐TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
TPE-R:1,3-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DAPE:4,4'-ジアミノジフェニルエーテル
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
【0097】
(合成例1)
窒素気流下で、反応槽に、23.0重量部のm-TB(0.108モル部)及び3.5重量部のTPE-R(0.012モル部)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、26.0重量部のPMDA(0.119モル部)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液aを得た。ポリアミド酸溶液aの溶液粘度は41,100cpsであった。ポリアミド酸溶液aから形成された厚み25μmのポリイミドフィルム(Tg;421℃、CTE;10ppm/K)は非熱可塑性であった。
【0098】
(合成例2)
窒素気流下で、反応槽に、30.2重量部のBAPP(0.074モル部)及び重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、22.3重量部のBPDA(0.076モル部)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液bを得た。ポリアミド酸溶液bの溶液粘度は9,800cpsであった。ポリアミド酸溶液bから形成された厚み25μmのポリイミドフィルム(Tg;252℃、CTE;46ppm/K)は熱可塑性であった。
【0099】
[実施例1]
銅箔1(圧延銅箔、長尺状、厚み;12μm、幅方向の長さ;540mm)の上に、合成例2で調製したポリアミド酸溶液bを硬化後の厚みが2.5μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。その上に合成例1で調製したポリアミド酸溶液aを硬化後の厚みが20μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、その上に合成例2で調製したポリアミド酸溶液bを硬化後の厚みが2.5μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。その後、130℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結して、片面銅張積層板1を調製した。片面銅張積層板1におけるポリイミド層の面に銅箔1を配置し、ガイドロールを経由しながら、片面銅張積層板1の巻き出し張力;30N、ロール表面温度;300~400℃、プレスロールの線圧;38.6~115.8kgf/cmの範囲内、搬送速度(ラインスピード);4.0m/分の条件で連続的に熱圧着させた。熱圧着後の積層板に対し巻取り張力130Nで、回転ロールによる幅方向の張力バランスを制御することによって、両面銅張積層板1を調製した。
両面銅張積層板1における厚み方向の複屈折率の測定位置及び算出した値を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1で示すとおり、得られた6点のΔn(xy-z)の値から算出した近似直線の傾きは、-4×10-7/mmであった。
【0102】
次に、両面銅張積層板1における孔記号N1~N10及びS1~S10(図6参照)のそれぞれのエッチング前後の孔距離の測定値及び寸法変化率を表2に示す。なお、表2中の「孔記号」欄の表記は、例えば「N1-S1」であれば、図6中のN1とS1との距離(孔の中心間の距離)を意味する。表4、表6、表8、表10において同様である。
【0103】
【表2】
【0104】
両面銅張積層板1におけるエッチング前を基準としたエッチング後のMD方向の寸法変化率のTD方向におけるばらつきは0.019であった。
【0105】
[実施例2]
両面に使用する銅箔を銅箔2(圧延銅箔、長尺状、厚み;18μm、幅方向の長さ;540mm)にしたこと以外、実施例1と同様にして、両面銅張積層板2を調製した。
両面銅張積層板2における厚み方向の複屈折率の測定位置及び算出した値を表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3で示すとおり、6点のΔn(xy-z)の値から算出した近似直線の傾きは、-2×10-6/mmであった。
【0108】
次に、両面銅張積層板2における孔記号N1~N10及びS1~S10のそれぞれのエッチング前後の孔距離の測定値及び寸法変化率を表4に示す。
【0109】
【表4】
【0110】
両面銅張積層板2におけるエッチング前を基準としたエッチング後のMD方向の寸法変化率のTD方向におけるばらつきは0.011であった。
【0111】
[実施例3]
両面に使用する銅箔に銅箔2を使用し、ポリアミド酸溶液bの硬化後の厚みを2.5μm及びポリアミド酸溶液aの硬化後の厚みを7μmとしたこと以外、実施例1と同様にして、両面銅張積層板3を調製した。
両面銅張積層板3における厚み方向の複屈折率の測定位置及び算出した値を表5に示す。
【0112】
【表5】
【0113】
表5で示すとおり、6点のΔn(xy-z)の値から算出した近似直線の傾きは、-7×10-6/mmであった。
【0114】
次に、両面銅張積層板3における孔記号N1~N10及びS1~S10のそれぞれのエッチング前後の孔距離の測定値及び寸法変化率を表6に示す。
【0115】
【表6】
【0116】
両面銅張積層板3におけるエッチング前を基準としたエッチング後のMD方向の寸法変化率のTD方向におけるばらつきは0.027であった。
【0117】
[実施例4]
両面に使用する銅箔に銅箔3(電解銅箔、長尺状、厚み;12μm、幅方向の長さ;540mm)を使用し、ポリアミド酸溶液bの硬化後の厚みを2μm及びポリアミド酸溶液aの硬化後の厚みを46μmとしたこと以外、実施例1と同様にして、両面銅張積層板4を調製した。
両面銅張積層板4における厚み方向の複屈折率の測定位置及び算出した値を表7に示す。
【0118】
【表7】
【0119】
表7で示すとおり、得られた6点のΔn(xy-z)の値から算出した近似直線の傾きは、-2×10-7/mmであった。
【0120】
次に、両面銅張積層板4における孔記号N1~N10及びS1~S10のそれぞれのエッチング前後の孔距離の測定値及び寸法変化率を表8に示す。
【0121】
【表8】
【0122】
両面銅張積層板4におけるエッチング前を基準としたエッチング後のMD方向の寸法変化率のTD方向のばらつきは0.006であった。
【0123】
(比較例1)
熱圧着後の積層板に対し回転ロールによる幅方向の張力バランスを制御しなかったこと以外、実施例1と同様にして、両面銅張積層板5を調製した。
両面銅張積層板5における厚み方向の複屈折率の測定位置及び算出した値を表9に示す。
【0124】
【表9】
【0125】
表9で示すとおり、得られた6点のΔn(xy-z)の値から算出した近似直線の傾きは、1×10-5/mmであった。
【0126】
次に、両面銅張積層板5における孔記号N1~N10及びS1~S10のそれぞれのエッチング前後の孔距離の測定値及び寸法変化率を表10に示す。
【0127】
【表10】
【0128】
両面銅張積層板5におけるエッチング前を基準としたエッチング後のMD方向の寸法変化率のTD方向におけるばらつきは0.062であった。
【0129】
実施例1(両面銅張積層板1)及び比較例1(両面銅張積層板5)のMD方向の寸法変化率のTD方向におけるばらつきを比較したグラフ(縦軸;寸法変化率[%]、横軸;TD方向位置[mm])を図7に示す。なお、図7の横軸の数字は、図6における孔記号N1~N10及びS1~S10の数字に対応する。
【0130】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0131】
2…ポリイミドフィルム、2a…ラミネート面、2b…キャスト面、10…計測部位、10a…計測部位の中心、20…試料、21…光源、22…受光部、100…両面金属張積層板、100A…断片、θ…入射角、θ…屈折角、Lo…中心線、L,L,L…光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7