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特開2022-102247シリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システム
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  • 特開-シリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システム 図1
  • 特開-シリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システム 図2
  • 特開-シリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システム 図3
  • 特開-シリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システム 図4
  • 特開-シリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システム 図5
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  • 特開-シリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システム 図11
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  • 特開-シリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システム 図14
  • 特開-シリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システム 図15
  • 特開-シリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システム 図16
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102247
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】シリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システム
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20220630BHJP
   C30B 30/04 20060101ALI20220630BHJP
   C30B 15/14 20060101ALI20220630BHJP
   C30B 15/28 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
C30B29/06 502E
C30B29/06 502G
C30B30/04
C30B15/14
C30B15/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216874
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 竜介
(72)【発明者】
【氏名】杉村 渉
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EA01
4G077EG02
4G077EG18
4G077EH07
4G077EJ02
4G077HA12
4G077PE03
4G077PE12
4G077PF01
4G077PF42
4G077PF55
4G077RA03
(57)【要約】
【課題】簡便な手法でシリコン融液の対流パターンを制御できるシリコン単結晶製造装置の加熱部、このシリコン単結晶製造装置の加熱部を用いたシリコン融液の対流パターン制御方法等を提供する。
【解決手段】加熱部1は、石英ルツボ4B内のシリコン融液Mを加熱する。この加熱部1は、円筒状に一体成型されている発熱部11と、発熱部11に電力を供給する4個の電力供給部12A~12Dとを有する。発熱部11の中心軸線CAを通り、発熱部11に垂直であって、かつ、シリコン融液Mに印加される水平磁場の中心の磁力線と平行な仮想面VSで加熱部1を2分割した場合、仮想面VSの一方に位置する第1の加熱領域1Aの発熱量と、仮想面VSの他方に位置する第2の加熱領域1Bの発熱量とが異なる値に設定されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ルツボの外側に前記石英ルツボを囲むように配置され、前記石英ルツボ内のシリコン融液を加熱するシリコン単結晶製造装置の加熱部であって、
円筒状に一体成型されている発熱部と、前記発熱部に電力を供給する2n(nは2以上の整数)個の電力供給部とを有し、
前記発熱部の中心軸線を通り、前記発熱部に垂直であって、かつ、前記シリコン融液に印加される水平磁場の中心の磁力線と平行な仮想面で前記加熱部を2分割した場合、前記仮想面の一方に位置する第1の加熱領域の発熱量と、前記仮想面の他方に位置する第2の加熱領域の発熱量とが異なる値に設定されている
シリコン単結晶製造装置の加熱部。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部において、
前記第1の加熱領域に設けられた前記発熱部及び全ての前記電力供給部の抵抗値を合計した第1の抵抗値と、前記第2の加熱領域に設けられた前記発熱部及び全ての前記電力供給部の抵抗値を合計した第2の抵抗値とを異なる値に設定することにより、前記第1の加熱領域の発熱量と、前記第2の加熱領域の発熱量とが異なる値に設定されている
シリコン単結晶製造装置の加熱部。
【請求項3】
請求項2に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部において、
前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極とを有し、
前記各端子と前記各電極との間には、板状の電気抵抗調整部材が介挿され、
前記第1の加熱領域において介挿される前記電気抵抗調整部材の合計枚数と、前記第2の加熱領域において介挿される前記電気抵抗調整部材の合計枚数とを異ならせることにより、前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値とが異なる値に設定されている
シリコン単結晶製造装置の加熱部。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部において、
前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極と、前記端子と前記電極を締結する締結手段とを有し、
前記第1の加熱領域において加えられる前記締結手段の締結力と、前記第2の加熱領域において加えられる前記締結手段の締結力とを異ならせることにより、前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値とが異なる値に設定されている
シリコン単結晶製造装置の加熱部。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部において、
前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子を有し、
前記発熱部と前記各端子とは接着層を介して接合され、
前記第1の加熱領域に設けられた前記電力供給部において用いられる前記接着層の材質又は厚みと、前記第2の加熱領域に設けられた前記電力供給部において用いられる前記接着層の材質又は厚みとを異なせることにより、前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値とが異なる値に設定されている
シリコン単結晶製造装置の加熱部。
【請求項6】
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部において、
前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子を有し、
前記端子が前記発熱部と一体成型されている
シリコン単結晶製造装置の加熱部。
【請求項7】
請求項3から請求項6のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部において、
前記端子又は前記電極に抵抗値を調整する抵抗値調整部が設けられている
シリコン単結晶製造装置の加熱部。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部において、
前記発熱部は、上端から下方向へ伸びる上スリット及び下端から上方向へ伸びる下スリットが円周方向に複数設けられ、
前記第1の加熱領域に設けられる前記上スリット及び前記下スリットの長さ及び総数のいずれか一方又は両方と、前記第2の加熱領域に設けられる前記上スリット及び前記下スリットの長さ及び総数のいずれか一方又は両方とを異ならせることにより、前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値とが異なる値に設定されている
シリコン単結晶製造装置の加熱部。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部において、
前記発熱部は、上端から下方向へ伸びる上スリット及び下端から上方向へ伸びる下スリットが円周方向に複数設けられ、
前記第1の加熱領域に設けられる前記上スリットと前記下スリットとの間隔と、前記第2の加熱領域に設けられる前記上スリットと前記下スリットとの間隔とを異ならせることにより、前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値とが異なる値に設定されている
シリコン単結晶製造装置の加熱部。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部において、
前記発熱部の厚みは円周方向で均一である
シリコン単結晶製造装置の加熱部。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部において、
前記石英ルツボを挟んで対向し、前記仮想面と直交する位置に前記電力供給部が配置されている
シリコン単結晶製造装置の加熱部。
【請求項12】
シリコン単結晶の製造に用いるシリコン融液の対流パターン制御方法であって、
無磁場状態において、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部を用いて石英ルツボ内のシリコン融液を加熱するシリコン融液加熱工程と、
前記石英ルツボ内の回転している前記シリコン融液に対して水平磁場を印加する水平磁場印加工程とを備え、
前記水平磁場印加工程は、0.2テスラ以上の前記水平磁場を印加することで、前記シリコン融液内の前記水平磁場の印加方向に直交する平面における対流の方向を一方向に固定する
シリコン融液の対流パターン制御方法。
【請求項13】
シリコン単結晶の製造に用いるシリコン融液の対流パターン制御方法であって、
目的とする対流パターンを設定する対流パターン設定工程と、
設定された前記対流パターンに基づいて、請求項7に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部の前記第1の加熱領域で必要な発熱量及び前記第2の加熱領域で必要な発熱量を計算する発熱量計算工程と、
前記第1の加熱領域の抵抗値及び前記第2の加熱領域の抵抗値を測定する抵抗値測定工程と、
前記発熱量計算工程の計算結果及び前記抵抗値測定工程の測定結果に基づいて、前記各端子に必要な抵抗値を計算する抵抗値計算工程と、
前記抵抗値計算工程の計算結果に基づいて、前記各端子の抵抗値を調整する抵抗値調整工程と、
無磁場状態において、前記シリコン単結晶製造装置の加熱部を用いて石英ルツボ内のシリコン融液を加熱するシリコン融液加熱工程と、
前記石英ルツボ内の回転している前記シリコン融液に対して水平磁場を印加する水平磁場印加工程とを備え、
前記水平磁場印加工程は、0.2テスラ以上の前記水平磁場を印加することで、前記シリコン融液内の前記水平磁場の印加方向に直交する平面における対流の方向を一方向に固定する
シリコン融液の対流パターン制御方法。
【請求項14】
請求項12又は請求項13に記載のシリコン融液の対流パターン制御方法を用いてシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のシリコン単結晶の製造方法を用いて引上げられたシリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出してシリコンウェーハを製造するシリコンウェーハの製造方法。
【請求項16】
石英ルツボと、
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部と、
前記石英ルツボを挟んで配置され、前記シリコン融液に対して0.2テスラ以上の水平磁場を印加する磁場印加部と、
を備えるシリコン単結晶製造装置。
【請求項17】
請求項7に記載のシリコン単結晶製造装置の加熱部により加熱されたシリコン融液の対流パターンを制御するシリコン融液の対流パターン制御システムであって、
前記シリコン融液の目的とする対流パターンを設定する対流パターン設定部と、
設定された前記対流パターンに基づいて、前記第1の加熱領域で必要な発熱量及び前記第2の加熱領域で必要な発熱量を計算する発熱量計算部と、
前記第1の加熱領域の抵抗値及び前記第2の加熱領域の抵抗値を測定する抵抗値測定部と、
前記発熱量計算部の計算結果及び前記抵抗値測定部の測定結果に基づいて、前記各端子に必要な抵抗値を計算する抵抗値計算部と、
前記抵抗値計算部の計算結果に基づいて、前記各端子の抵抗値を調整する抵抗値調整部と、
を備えるシリコン融液の対流パターン制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルツボ内のシリコン融液を加熱するシリコン単結晶製造装置の加熱部、この加熱部により加熱されたシリコン融液の対流パターンを制御するシリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造には、チョクラルスキー法(Czochralski method、以下「CZ法」と略す。)と呼ばれる製造方法が用いられる。このCZ法を用いた製造方法において、ルツボ内のシリコン融液の対流パターンを制御する手法について様々な検討が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたシリコン融液の対流パターン制御方法では、鉛直上方から見たときに、シリコン融液の表面の中心を通り、かつ、水平磁場の中心の磁力線と平行な仮想線を挟んだ両側の加熱能力が異なる加熱部を用いてシリコン融液を加熱し、水平磁場を印加することで、磁場直交断面における対流の方向を固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/167989号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたシリコン融液の対流パターン制御方法では、加熱部の前記仮想線を挟んだ両側の加熱能力を異ならせるために、加熱部を構成するグラファイトヒータや断熱材として、前記仮想線を挟んで左右に分割された加熱部や断熱材を用いている。
しかし、より簡便な手段でシリコン融液の対流パターンを制御する手法が望まれている。
【0006】
本発明は、簡便な手段でシリコン融液の対流パターンを制御することができるシリコン単結晶製造装置の加熱部、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、シリコンウェーハの製造方法、シリコン単結晶製造装置及びシリコン融液の対流パターン制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、石英ルツボの外側に前記石英ルツボを囲むように配置され、前記石英ルツボ内のシリコン融液を加熱するシリコン単結晶製造装置の加熱部であって、円筒状に一体成型されている発熱部と、前記発熱部に電力を供給する2n(nは2以上の整数)個の電力供給部とを有し、前記発熱部の中心軸線を通り、前記発熱部に垂直であって、かつ、前記シリコン融液に印加される水平磁場の中心の磁力線と平行な仮想面で前記加熱部を2分割した場合、前記仮想面の一方に位置する第1の加熱領域の発熱量と、前記仮想面の他方に位置する第2の加熱領域の発熱量とが異なる値に設定されている。
【0008】
本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部において、前記第1の加熱領域に設けられた前記発熱部及び全ての前記電力供給部の抵抗値を合計した第1の抵抗値と、前記第2の加熱領域に設けられた前記発熱部及び全ての前記電力供給部の抵抗値を合計した第2の抵抗値とを異なる値に設定することにより、前記第1の加熱領域の発熱量と、前記第2の加熱領域の発熱量とが異なる値に設定されている。
【0009】
本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部において、前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極とを有し、前記各端子と前記各電極との間には、板状の電気抵抗調整部材が介挿され、前記第1の加熱領域において介挿される前記電気抵抗調整部材の合計枚数と、前記第2の加熱領域において介挿される前記電気抵抗調整部材の合計枚数とを異ならせることにより、前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値とが異なる値に設定されている。
【0010】
本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部において、前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極と、前記端子と前記電極を締結する締結手段とを有し、前記第1の加熱領域において加えられる前記締結手段の締結力と、前記第2の加熱領域において加えられる前記締結手段の締結力とを異ならせることにより、前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値とが異なる値に設定されている。
【0011】
本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部において、前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子を有し、前記発熱部と前記各端子とは接着層を介して接合され、前記第1の加熱領域に設けられた前記電力供給部において用いられる前記接着層の材質又は厚みと、前記第2の加熱領域に設けられた前記電力供給部において用いられる前記接着層の材質又は厚みとを異なせることにより、前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値とが異なる値に設定されている。
【0012】
本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部において、前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子を有し、前記端子が前記発熱部と一体成型されている。
【0013】
本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部において、前記端子又は前記電極に抵抗値を調整する抵抗値調整部が設けられている。
【0014】
本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部において、前記発熱部は、上端から下方向へ伸びる上スリット及び下端から上方向へ伸びる下スリットが円周方向に複数設けられ、前記第1の加熱領域に設けられる前記上スリット及び前記下スリットの長さ及び総数のいずれか一方又は両方と、前記第2の加熱領域に設けられる前記上スリット及び前記下スリットの長さ及び総数のいずれか一方又は両方とを異ならせることにより、前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値とが異なる値に設定されている。
【0015】
本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部において、前記発熱部は、上端から下方向へ伸びる上スリット及び下端から上方向へ伸びる下スリットが円周方向に複数設けられ、前記第1の加熱領域に設けられる前記上スリットと前記下スリットとの間隔と、前記第2の加熱領域に設けられる前記上スリットと前記下スリットとの間隔とを異ならせることにより、前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値とが異なる値に設定されている。
【0016】
本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部において、前記発熱部の厚みは円周方向で均一である。
【0017】
本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部において、前記石英ルツボを挟んで対向し、前記仮想面と直交する位置に前記電力供給部が配置されている。
【0018】
本発明は、シリコン単結晶の製造に用いるシリコン融液の対流パターン制御方法であって、無磁場状態において、本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部を用いて石英ルツボ内のシリコン融液を加熱するシリコン融液加熱工程と、前記石英ルツボ内の回転している前記シリコン融液に対して水平磁場を印加する水平磁場印加工程とを備え、前記水平磁場印加工程は、0.2テスラ以上の前記水平磁場を印加することで、前記シリコン融液内の前記水平磁場の印加方向に直交する平面における対流の方向を一方向に固定する。
【0019】
本発明は、シリコン単結晶の製造に用いるシリコン融液の対流パターン制御方法であって、目的とする対流パターンを設定する対流パターン設定工程と、設定された前記対流パターンに基づいて、本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部の前記第1の加熱領域で必要な発熱量及び前記第2の加熱領域で必要な発熱量を計算する発熱量計算工程と、前記第1の加熱領域の抵抗値及び前記第2の加熱領域の抵抗値を測定する抵抗値測定工程と、前記発熱量計算工程の計算結果及び前記抵抗値測定工程の測定結果に基づいて、前記各端子に必要な抵抗値を計算する抵抗値計算工程と、前記抵抗値計算工程の計算結果に基づいて、前記各端子の抵抗値を調整する抵抗値調整工程と、無磁場状態において、前記シリコン単結晶製造装置の加熱部を用いて石英ルツボ内のシリコン融液を加熱するシリコン融液加熱工程と、前記石英ルツボ内の回転している前記シリコン融液に対して水平磁場を印加する水平磁場印加工程とを備え、前記水平磁場印加工程は、0.2テスラ以上の前記水平磁場を印加することで、前記シリコン融液内の前記水平磁場の印加方向に直交する平面における対流の方向を一方向に固定する。
【0020】
本発明に係るシリコン単結晶の製造方法は、本発明に係るシリコン融液の対流パターン制御方法を用いてシリコン単結晶を引き上げる。
【0021】
本発明に係るシリコンウェーハの製造方法は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法を用いて引上げられたシリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出してシリコンウェーハを製造する。
【0022】
本発明に係るシリコン単結晶製造装置は、石英ルツボと、本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部と、前記石英ルツボを挟んで配置され、前記シリコン融液に対して0.2テスラ以上の水平磁場を印加する磁場印加部と、を備える。
【0023】
本発明は、本発明に係るシリコン単結晶製造装置の加熱部により加熱されたシリコン融液の対流パターンを制御するシリコン融液の対流パターン制御システムであって、前記シリコン融液の目的とする対流パターンを設定する対流パターン設定部と、設定された前記対流パターンに基づいて、前記第1の加熱領域で必要な発熱量及び前記第2の加熱領域で必要な発熱量を計算する発熱量計算部と、前記第1の加熱領域の抵抗値及び前記第2の加熱領域の抵抗値を測定する抵抗値測定部と、前記発熱量計算部の計算結果及び前記抵抗値測定部の測定結果に基づいて、前記各端子に必要な抵抗値を計算する抵抗値計算部と、前記抵抗値計算部の計算結果に基づいて、前記各端子の抵抗値を調整する抵抗値調整部と、を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、簡便な手段でシリコン融液の対流パターンを制御することができる。また、シリコン融液の対流パターンを自動的に制御することができる。これにより、炉間・バッチ間のシリコン単結晶の品質及び生産性のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態に係る加熱部を構成するヒータの構成の一例を示す斜視図である。
図2図1に示すヒータの構成及び水平磁場の印加状態を示す平面模式図である。
図3図1に示すヒータを備えたシリコン単結晶製造装置の要部構成の一例を示す概念図である。
図4】端子と電極との締結方法を説明するための概念図であり、(A)は一部を切り欠いた正面図、(B)は電気抵抗調整部材の平面図である。
図5】加熱部の等価回路図である。
図6】加熱部の構成及び水平磁場の印加状態を示す縦断面模式図である。
図7】温度計測部の配置状態を示す模式図である。
図8】シリコン単結晶製造装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図9】シリコン単結晶の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図10】本発明の第2実施形態に係るシリコン融液の対流パターン制御方法を適用したシリコン単結晶製造装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図11】第2実施形態に係るシリコン融液の対流パターン制御方法の前半部分の一例を説明するためのフローチャートである。
図12】本発明の第3実施形態に係る加熱部を構成するヒータの構成の一例を示す斜視図である。
図13】本発明の第4実施形態に係る加熱部を構成するヒータの構成の一例を示す平面模式図である。
図14】本発明の第5実施形態に係る加熱部を構成するヒータの構成の一例を示す平面模式図である。
図15】本発明の第6実施形態に係る加熱部を構成するヒータの構成の一例を示す平面模式図である。
図16】本発明に至る背景を説明するための水平磁場の印加方向とシリコン融液の対流の方向との関係を示す模式図であり、(A)は右回りの対流パターン、(B)は左回りの対流パターンを表す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[本発明に至る背景]
本発明者らは、石英ルツボ4B中に固体のポリシリコン原料を投入して、溶解した後、水平磁場を印加してシリコン単結晶を引き上げる工程において、図16に示すように、石英ルツボ4Bの底部からシリコン融液Mの表面Sに向かって回転する対流Cがあることを知見した。その対流Cの回転方向は、図16(A)に示すように、右回りが優勢となる場合(右渦)と、図16(B)に示すように、左回りが優勢となる場合(左渦)の2つの対流パターンであった。
【0027】
石英ルツボ4Bから溶出した酸素は、シリコン融液Mの対流Cによって成長中の固液界面に運搬され、シリコン単結晶に取り込まれる。ここでシリコン単結晶製造装置(炉)内の熱環境が完全に軸対称であり、かつプロセス条件が同一であれば、右渦、左渦に関係なく、シリコン単結晶に取り込まれる酸素量は等しくなる。
ところが、実際には、炉構造物の形状が非軸対称であることや、たとえ設計上は軸対称であっても、各部材の設置位置ずれなどに起因した熱環境の不均一性から、右渦と左渦とで運搬される酸素量が異なる。
【0028】
その結果、右渦、左渦で酸素濃度が異なるシリコン単結晶が育成される。しかも、従来の製造方法では、右渦、左渦の発生が一定しない。このため、同一製造装置で同じプロセス条件で育成したにも関わらず、対流パターンの差異により酸素濃度が異なるシリコン単結晶が育成されるため、酸素制御性に悪影響を及ぼし、シリコン単結晶の歩留まりを大きく低下させる。
したがって、量産でシリコン単結晶の品質を安定させるためには、シリコン単結晶育成前に2つある対流パターンのうちのどちらか狙いの対流パターンを設定し、その状態を保持しながらシリコン単結晶の育成を行えば良い。
【0029】
図16に示す2つの対流パターンを形成する駆動力は熱対流である。つまり、図16(A)に示す右渦の場合は、図中左側の温度が高く上昇流が生じ、図中右側の温度が低く下降流が生じている。炉内の熱環境が完全に対称であっても、不安定なため左右対称な2つの渦は同時には存在しない。右渦又は左渦の一方に偏った流動分布の方が安定であり、必ずどちらかの対流パターンに落ち着く。この際、炉内の熱環境を積極的に偏らせ、図中左側の温度が高い状態を作れば流動は必ず図16(A)に示す右渦パターンになる。
したがって、水平磁場に対して垂直方向に温度差を形成することにより、一方の対流パターンしか存在しない炉を実現することができる。
【0030】
そこで、本発明者らは、炉内の熱環境を積極的に偏らせる方法として、水平に載置された石英ルツボ4Bの外側に石英ルツボ4Bを囲むように配置され、石英ルツボ4B内のシリコン融液Mを加熱する抵抗加熱式の加熱部の構成に着目した。
【0031】
加熱部を鉛直上方から見たときに、加熱部を構成する円筒状の発熱部の中心軸線を通り、前記発熱部に垂直であって、かつ、前記水平磁場の中心の磁力線と平行な仮想面で加熱部を仮想的に2分割し、仮想面の左側に位置する第1の加熱領域と、右側に位置する第2の加熱領域とする。そして、第1の加熱領域の発熱量と、第2の加熱領域の発熱量とを異ならせる。これにより、炉内の熱環境を積極的に偏らせる。
【0032】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る加熱部1は、図1図3に示すように、発熱部11と、前記発熱部11に電力を供給する2n(nは2以上の整数)個、本実施形態では、4個の電力供給部12A、12B、12C及び12Dとを備える。各電力供給部12A~12Dは、発熱部11と接続される端子21A、21B、21C及び21Dと、一端に端子21A~21Dが接続され、他端に電源が接続される電極22A、22B、22C及び22Dと、端子21A~21Dと電極22A~22Dを締結する締結手段23A、23B、23C及び23D(図3参照)を備える。
【0033】
[ヒータ13の構成]
図1は本発明の第1実施形態に係る加熱部1の主要部を構成するヒータ13の構成の一例を示す斜視図、図2はヒータ13の上面図である。
【0034】
ヒータ13は、加熱部1の体積及び機能の大部分を有しているため、加熱部1にほぼ等しいと言える。ヒータ13は、図2に示すように、鉛直上方から見たときに、中心軸線CAを通り、ヒータ13に垂直であって、かつ、ルツボ4内のシリコン融液M(図3参照)に印加される水平磁場の中心の磁力線と平行な仮想面VSで仮想的に2分割され、仮想面VSの左側に位置する第1の加熱領域1Aと、仮想面VSの右側に位置する第2の加熱領域1Bとを備える。
【0035】
ヒータ13は、円筒状に円周方向に一体成型されている発熱部11と、端子21A~21Dとを有している。
発熱部11の厚みは、その周方向全体に亘って均一である。発熱部11は、上端から下方向へ伸びる上スリット31及び下端から上方向へ伸びる下スリット32が円周方向に複数形成されている。各上スリット31の幅と、上端から下方向への切り込み深さは等しく、各下スリット32の幅と、下端から上方向への切り込み深さも等しい。また、上スリット31と下スリット32との間隔も発熱部11の全周に亘って等しい。
【0036】
発熱部11は、前記第1の加熱領域1Aと、前記第2の加熱領域1Bとにおいて、上スリット31及び下スリット32の総数が等しい。図1及び図2の例では、第1の加熱領域1Aには、4本の上スリット31と、6本の下スリット32が形成されており、上スリット31及び下スリット32の総数は、10本である。また、第2の加熱領域1Bには、4本の上スリット31と、6本の下スリット32が形成されており、上スリット31及び下スリット32の総数は、10本である。
【0037】
発熱部11の下端には、各電力供給部12A~12Dを構成する端子21A~21Dが発熱部11と一体成型されている。端子21Aと端子21Bとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第1蛇行部33Aが形成されている。同様に、端子21Bと端子21Cとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第2蛇行部33Bが形成されている。
【0038】
端子21Cと端子21Dとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第3蛇行部33Cが形成されている。端子21Dと端子21Aとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第4蛇行部33Dが形成されている。
【0039】
各端子21A~21Dの各下端には、外側に向かって直角に屈曲した接続部21AA、21BA、21CA及び21DAが対応する端子21A~21Dと一体成型されている。接続部21AA~21DAの中央には、貫通孔21AB、21BB、21CB及び21DBが穿設されている。
【0040】
[シリコン単結晶製造装置2の構成]
図3は本発明の第1実施形態に係る加熱部1を備えたシリコン単結晶製造装置2の構成の一例を示す概念図である。
【0041】
シリコン単結晶製造装置2は、CZ法によりシリコン単結晶SMを引き上げる装置であり、外郭を構成するチャンバ3と、チャンバ3の中心部に水平に載置されたルツボ4とを備える。
ルツボ4は、外側の黒鉛ルツボ4Aと、内側の石英ルツボ4Bとから構成される二重構造であり、回転及び昇降が可能な支持軸5の上端部に固定されている。
【0042】
ルツボ4の外側であって、ルツボ4の中心軸線を対称軸として互いにほぼ対称的な位置には、4本の電極22A~22Dがチャンバ3底部から突出して立設されている。各電極22A~22Dは、角柱状又は円柱状に形成されている。図3には、電極22A及び22Cだけ図示している。電極22B及び22Dは、ルツボ4を挟んで対向し、仮想面VSと直交する位置に配置されている。
【0043】
図4(A)に示すように、電極22Aの上端部22AAは、縮径されて円柱状に形成されている。上端部22AAの外周には、雄ねじ22ABが形成されている。同様に、電極22B~22Dの上端部22BA、22CA及び22DAの外周には、雄ねじ22BB、22CB及び22DBが形成されている。
【0044】
締結手段23Aは、例えば、外形が六角形状であって、軸方向中央に円孔23AAが穿設されている。円孔23AAの周面には雌ねじ23ABが形成されている。同様に、締結手段23B、23C及び23Dの軸方向中央には円孔23BA、23CA及び23DAが穿設され、各円孔23BA、23CA及び23DAの周面には雌ねじ23BB、23CB及び23DBが形成されている。
【0045】
電極22Aの上端部22AAに端子21Aの貫通孔21ABが挿入されて接続部21AAの上面から突出し、締結手段23Aの雌ねじ23ABが上端部22AAの雄ねじ22ABと螺合することにより、電極22Aと端子21Aとが締結されている。この際、電極22Aと接続部21AAの下面との間及び接続部21AAの上面と締結手段23Aの下面との間の両方又は一方に、図4(B)に示す円板状の電気抵抗調整部材24が複数枚介挿される。電気抵抗調整部材24は、例えば、炭素系の繊維素材である。各電極22B~22Dと対応する端子21B~21Dとの締結方法は、前記電極22Aと端子21Aとの締結方法と同様である。
以上説明したようにして、ルツボ4の外側にルツボ4を囲む加熱部1が設けられている。
加熱部1の外側には、チャンバ3の内面に沿って断熱材6が設けられている。
【0046】
図5は、加熱部1の等価回路図である。図5において、Vは加熱部1に印加される電圧値である。RA、RB、RC及びRDは、それぞれ第1~第4蛇行部33A、33B、33C及び33Dの抵抗値である。R1は端子21Aと電極22Aとの接触抵抗値である。同様に、R2は端子21Bと電極22Bとの接触抵抗値、R3は端子21Cと電極22Cとの接触抵抗値、R4は端子21Dと電極22Dとの接触抵抗値である。図5において、矢印は、水平磁場の印加方向である。
【0047】
発熱部11、端子21A~21D及び電極22A~22Dは、グラファイトから構成されている。一般にグラファイトは延性が小さいため、各端子21A~21Dと対応する電極22A~22Dとの接触部分には接触抵抗が存在する。図5では各電極22A~22Dの抵抗値は無視している。これは、一般に電極は短く、また各電極と後述する電圧印加部43(図8参照)との間は抵抗値が極めて小さい通電ケーブルを用いるからである。
【0048】
図5に示す等価回路図において、接触抵抗値R1~R4を変化させると、第1蛇行部33A~第4蛇行部33Dを流れる電流の比を変化させることができる。これは、電力供給部12を6個以上の偶数個設けた場合も同様である。
【0049】
第1実施形態では、仮想面VSを挟んだ左右に配置された4個の電力供給部12A~12Dのうち、少なくとも1個の電力供給部12の抵抗値を他の電力供給部12の抵抗値と異ならせている。具体的には、各電力供給部12A~12Dを構成する端子21A~21Dと対応する電極22A~22Dとの間に介挿する電気抵抗調整部材24の合計枚数を互いに異ならせることにより、各電力供給部12A~12Dの接触抵抗値を異ならせている。
【0050】
例えば、電力供給部12Aを構成する端子21Aと電極22Aとの間に介挿する電気抵抗調整部材24の合計枚数を、他の電力供給部12B~12Dを構成する端子21B~1Dと対応する電極22B~22Dとの間に介挿する電気抵抗調整部材24の合計枚数よりも少なくする。
【0051】
この場合、第1の加熱領域1Aの抵抗値は、第2の加熱領域1Bの抵抗値よりも小さくなる。このため、第1,第2の加熱領域1A及び1Bに同じ大きさの電圧を印加すると、第1の加熱領域1Aの発熱量は、第2の加熱領域1Bよりも大きくなる。
【0052】
ルツボ4の上方には、図3に示すように、支持軸5と同軸上で逆方向又は同一方向に所定の速度で回転するワイヤなどの引き上げ軸7が設けられている。この引き上げ軸7の下端には種結晶SCが取り付けられている。
【0053】
チャンバ3内には、ルツボ4内のシリコン融液Mの上方で育成中のシリコン単結晶SMを囲む筒状の熱遮蔽体8が配置されている。
熱遮蔽体8は、育成中のシリコン単結晶SMに対して、ルツボ4内のシリコン融液Mやヒータ13やルツボ4の側壁からの高温の輻射熱を遮断するとともに、結晶成長界面である固液界面の近傍に対しては、外部への熱の拡散を抑制し、シリコン単結晶SMの中心部及び外周部の引き上げ軸7方向の温度勾配を制御する役割を担う。
【0054】
チャンバ3の上部には、アルゴンガスなどの不活性ガスをチャンバ3内に導入するガス導入口9が設けられている。チャンバ3の下部には、図示しない真空ポンプの駆動により、チャンバ3内の気体を吸引して排出する排気口10が設けられている。
ガス導入口9からチャンバ3内に導入された不活性ガスは、育成中のシリコン単結晶SMと熱遮蔽体8との間を下降し、熱遮蔽体8の下端とシリコン融液Mの液面との隙間を経た後、熱遮蔽体8の外側、さらにルツボ4の外側に向けて流れ、その後にルツボ4の外側を下降し、排気口10から排出される。
【0055】
シリコン単結晶製造装置2は、図2に示す磁場印加部14と、図3に示す温度計測部15とを備える。
磁場印加部14は、それぞれ電磁コイルで構成された第1,第2の磁性体14A及び14Bを備える。第1,第2の磁性体14A及び14Bは、チャンバ3の外側においてルツボ4を挟んで対向するように設けられている。図2の例では、磁場印加部14は、磁力線の中心が円筒状の発熱部11、延いては、加熱部1の中心軸線CAを通り、かつ、当該磁力線の向きMLが図2における上方向(図3における紙面手前から奥に向かう方向)となるように、水平磁場を印加している。磁力線の中心の高さ位置については特に限定されず、シリコン単結晶SMの品質に合わせて、シリコン融液Mの内部にしてもよいし外部にしてもよい。
【0056】
温度計測部15は、図3図6及び図7に示すように、仮想面VSを挟む第1,第2の計測点P1及びP2の温度を計測する。第1の計測点P1は、加熱部1によるシリコン融液Mの加熱によって、下降流が図6における右側に固定されたときに、シリコン融液Mの表面Sの最高温度部分となる位置に設定されている。第2の計測点P2は、下降流が右側に固定されたときに、最低温度部分となる位置に設定されている。第1実施形態では、第1,第2の計測点P1及びP2は、表面Sの中心CSに対して点対称の位置に設定されている。
【0057】
温度計測部15は、一対の反射部15Aと、一対の放射温度計15Bとを備える。
反射部15Aは、チャンバ3内部に設置されている。反射部15Aは、図7に示すように、その下端からシリコン融液Mの表面Sまでの距離(高さ)Kが600mm以上5000mm以下となるように設置されていることが好ましい。また、反射部15Aは、反射面15Cと水平面Fとのなす角度θfが40°以上50°以下となるように設置されていることが好ましい。
【0058】
以上説明した構成によって、第1,第2の計測点P1及びP2から、重力方向の反対方向に出射する輻射光Lの反射部15Aに対する入射角θ1及び反射角θ2の和が、80°以上100°以下となる。反射部15Aとしては、耐熱性の観点から、一面を鏡面研磨して反射面15Cとしたシリコンミラーを用いることが好ましい。
【0059】
放射温度計15Bは、チャンバ3外部に設置されている。放射温度計15Bは、チャンバ3に設けられた石英窓3A(図3参照)を介して入射される輻射光Lを受光して、第1,第2の計測点P1及びP2の温度を非接触で計測する。
【0060】
また、シリコン単結晶製造装置2は、図8に示すように、制御装置41と、記憶部42と、電圧印加部43とを備える。
制御装置41は、対流パターン制御部41Aと、引き上げ制御部41Bとを備える。
対流パターン制御部41Aは、仮想面VSを挟んだ両側の発熱量が異なる加熱部1を用いてシリコン融液Mを加熱し、水平磁場を印加することで、磁場直交断面における対流C(図16(A)及び(B)参照)の方向を固定する。
引き上げ制御部41Bは、対流パターン制御部41Aによる対流方向の固定後に、シリコン単結晶SMを引き上げる制御を行う。
記憶部42は、シリコン単結晶SMの酸素濃度が所望の値となるような引き上げ条件(例えば、不活性ガスの流量、チャンバ3の炉内圧力、ルツボ4の回転数など)などが記憶される。
電圧印加部43は、制御装置41に制御され、加熱部1に所定の電圧を印加する。
【0061】
[シリコン単結晶の製造方法]
次に、本実施形態に係るシリコン単結晶の製造方法を図9に示すフローチャートを参照して説明する。
【0062】
まず、シリコン単結晶SMの酸素濃度が所望の値となるような引き上げ条件(例えば、不活性ガスの流量、チャンバ3の炉内圧力、ルツボ4の回転数など)を事前決定条件として予め把握しておき、記憶部42に記憶させる。なお、事前決定条件の酸素濃度は、シリコン単結晶SMを構成する直胴部の長手方向の複数箇所の酸素濃度の値であってもよいし、前記複数箇所の平均値であってもよい。
【0063】
そして、シリコン単結晶SMの製造を開始する。
まず、引き上げ制御部41Bは、チャンバ3内を減圧下の不活性ガス雰囲気に維持する。そして、対流パターン制御部41Aは、ルツボ4を回転させるとともに、ルツボ4に充填した多結晶シリコンなどの固形原料をヒータ13の加熱により溶融させ、シリコン融液Mを生成する(ステップS1)。
【0064】
このとき、対流パターン制御部41Aは、電圧印加部43を用いて第1,第2の加熱領域1A及び1Bに同じ大きさの電圧を印加することで、シリコン融液Mの左側(第1の加熱領域1A側)を右側(第2の加熱領域1B側)よりも高い温度で加熱する。また、対流パターン制御部41Aは、シリコン融液Mの温度が1415℃以上1500℃以下となるように加熱する。
【0065】
その後、対流パターン制御部41Aは、温度計測部15における第1,第2の計測点P1及びP2の温度計測結果に基づいて、シリコン融液Mの表面Sにおける最高温度(第1の計測点P1の温度)と最低温度(第2の計測点P2の温度)との差ΔTmaxが6℃以上12℃以下で安定したか否かを判断する(ステップS2)。
【0066】
ステップS2の処理を行う理由は、ΔTmaxが6℃未満の場合、下降流が仮想面VSよりも右側に固定されない場合があるが、6℃以上の場合、図6に示すように、下降流が右側に確実に固定されるからである。また、ΔTmaxが12℃を超える場合、対流Cが大きくなりすぎシリコン単結晶SMを構成する直胴部における引き上げ方向の直径のばらつきが発生する場合があるが、12℃以下の場合、前記直径のばらつきが抑制されるからである。
【0067】
このステップS2において、対流パターン制御部41Aは、ΔTmaxが6℃以上12℃以下で安定していないと判断した場合、シリコン融液Mの加熱温度を調整し(ステップS3)、所定時間経過後にステップS2の処理を行う。ステップS3では、ΔTmaxが6℃未満の場合、第1,第2の加熱領域1A及び1Bへの印加電圧を同じ大きさだけ大きくし、12℃を超える場合、印加電圧を同じ大きさだけ小さくする。
【0068】
一方、ステップS2において、対流パターン制御部41Aは、ΔTmaxが6℃以上12℃以下で安定したと判断した場合、磁場印加部14を制御して、シリコン融液Mへの0.2テスラ以上0.6テスラ以下の水平磁場の印加を開始する(ステップS4)。このステップS4の処理によって、対流Cが右回りに固定される。
【0069】
その後、引き上げ制御部41Bは、事前決定条件に基づいて、0.2テスラ以上0.6テスラ以下の水平磁場の印加を継続したままシリコン融液Mに種結晶SCを着液してから、所望の酸素濃度の直胴部を有するシリコン単結晶SMを引き上げる(ステップS5)。
【0070】
以上説明したステップS1、S4及びS5の処理が本発明のシリコン単結晶の製造方法に対応し、ステップS1及びS4の処理が本発明のシリコン融液の対流パターン制御方法に対応する。
なお、ステップS2におけるΔTmaxの確認処理、ステップS3における加熱温度の調整処理、ステップS4における水平磁場の印加開始処理、ステップS5における引き上げ処理は、作業者の操作によって行ってもよい。
【0071】
以上説明したシリコン単結晶の製造方法を用いて引上げられたシリコン単結晶SMを構成する直胴部をワイヤーソー等でシリコンウェーハに切り出す。次に、切り出されたシリコンウェーハにラッピング工程、研磨工程を施すことにより、シリコンウェーハが得られる。この処理が本発明のシリコンウェーハの製造方法に対応する。
【0072】
[第1実施形態の作用及び効果]
第1実施形態によれば、仮想面VSを挟んだ左右に配置された4個の電力供給部12A~12Dのうち、少なくとも1個の電力供給部12の抵抗値を他の電力供給部12の抵抗値と異ならせている。具体的には、各電力供給部12A~12Dを構成する端子21A~21Dと対応する電極22A~22Dとの間に介挿する電気抵抗調整部材24の合計枚数を互いに異ならせることにより、各電力供給部12A~12Dの接触抵抗値を異ならせている。
【0073】
このような簡便な手段で、シリコン単結晶製造装置2の構造の対称性に関係なく、磁場直交断面における対流Cの方向を一方向に固定しやすくできる。したがって、この対流Cの一方向への固定によって、シリコン単結晶SMごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。これにより、炉間・バッチ間のシリコン単結晶の品質及び生産性のばらつきを抑制できる。
特に、各電力供給部12A~12Dを構成する端子21A~21Dと対応する電極22A~22Dとの間に介挿する電気抵抗調整部材24の合計枚数を互いに異ならせることにより、各電力供給部12A~12Dの接触抵抗値を異ならせている。このような簡便な手段で、シリコン単結晶SMごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
【0074】
また、第1実施形態によれば、ヒータ13には特殊な加工が不要であり、市販品を用いることができ、コストを削減できる。また、ヒータ13には、形状が対称で厚みが均一なものを用いることができ、簡単な構造で耐久性も高い。
【0075】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分等については、同一符号を付してその説明を省略する。
図10は本発明の第2実施形態に係るシリコン融液の対流パターン制御方法を適用したシリコン単結晶製造装置51の要部構成の一例を示すブロック図である。
前記第1実施形態との相違点は、抵抗値測定部52及び抵抗値調整部53が新たに設けられている点と、制御装置54の構成である。
【0076】
抵抗値測定部52は、加熱部1の第1,第2の加熱領域1A及び1Bの各抵抗値を測定する。
抵抗値調整部53は、後述する抵抗値計算部54Eの計算結果に基づいて、各端子21A~21Dの抵抗値を調整する。抵抗値調整部53は、具体的には、各電力供給部12A~12Dを構成する各端子21A~21Dと、対応する電極22A~22Dとを締結する締結手段23A~23Dの締結力を調整することにより、各端子21A~21Dと、対応する電極22A~22Dとの間の接触抵抗値を調整する。
【0077】
制御装置54は、対流パターン制御部54Aと、引き上げ制御部54Bと、対流パターン設定部54Cと、発熱量計算部54Dと、抵抗値計算部54Eとを備える。対流パターン制御部54Aは、前記対流パターン制御部41Aが有する機能の他、抵抗値測定部52及び抵抗値調整部53を制御する機能を備える。引き上げ制御部54Bは、前記引き上げ制御部41Bが有する機能と同一の機能を備える。
【0078】
対流パターン設定部54Cは、シリコン融液Mの目的とする対流パターンを設定する。発熱量計算部54Dは、対流パターン設定部54Cにより設定された対流パターンに基づいて、第1,第2の加熱領域1A及び1Bのそれぞれで必要な発熱量を計算する。抵抗値計算部54Eは、発熱量計算部54Dの計算結果及び抵抗値測定部52の測定結果に基づいて、各端子21A~21Dに必要な抵抗値を計算する。
【0079】
[シリコン融液の対流パターン制御方法]
図11は、第2実施形態に係るシリコン融液の対流パターン制御方法の前半部分の一例を説明するためのフローチャートである。図11に示すフローチャートの各処理は、図9に示すフローチャートの各処理より前に実行される。
【0080】
まず、対流パターン設定部54Cは、目的とする対流パターンを設定する(ステップS11)。すなわち、図16(A)に示す右渦又は図16(B)に示す左渦のいずれかを選択する。この対流パターンの設定は、例えば、シリコン単結晶の製造計画、当該シリコン単結晶製造装置51の傾向などに基づいて行われる。
【0081】
次に、発熱量計算部54Dは、対流パターン設定部54Cによって設定された対流パターン(右渦又は左渦)に基づいて、加熱部1の第1,第2の加熱領域1A及び1Bで必要な発熱量を計算する(ステップS12)。
【0082】
次に、対流パターン制御部54Aは、抵抗値測定部52を制御して、第1,第2の加熱領域1A及び1Bの各抵抗値を測定させる(ステップS13)。これにより、抵抗値計算部54Eは、発熱量計算部54Dの計算結果及び抵抗値測定部52の測定結果に基づいて、各端子21A~21Dに必要な抵抗値を計算する(ステップS14)。
【0083】
次に、対流パターン制御部54Aは、抵抗値計算部54Eの計算結果に基づいて、抵抗値調整部53を制御して、各端子21A~21Dの抵抗値を調整させる。これにより、抵抗値調整部53は、締結手段23A~23Dの締結力を調整することにより、各端子21A~21Dと、対応する電極22A~22Dとの間の接触抵抗値を調整する(ステップS15)。
【0084】
例えば、対流パターンとして右渦が設定された場合、発熱量計算部54Dは、第1の加熱領域1Aで必要な発熱量が第2の加熱領域1Bで必要な発熱量より大きくなるように計算する。次に、抵抗値測定部52は、現在の第1,第2の加熱領域1A及び1Bの各抵抗値を測定する。次に、抵抗値計算部54Eは、発熱量計算部54Dの計算結果及び抵抗値測定部52の測定結果に基づいて、第1の加熱領域1Aの抵抗値が第2の加熱領域1Bの抵抗値より小さくなるように、各端子21A~21Dに必要な抵抗値を計算する。
【0085】
例えば、第1の加熱領域1Aの抵抗値と第2の加熱領域1Bの抵抗値がほぼ等しいという測定結果であった場合、抵抗値調整部53は、例えば、端子21Aと電極22Aとの間の接触抵抗値を小さくするために、締結手段23Aの締結力を、他の締結手段23B~23Dの締結力よりも大きく調整する。
【0086】
このため、第1,第2の加熱領域1A及び1Bに同じ大きさの電圧を印加すると、第1の加熱領域1Aの発熱量は、第2の加熱領域1Bよりも大きくなる。
これ以降のシリコン単結晶の製造方法は、第1実施形態と何ら変わるところはないので、説明を省略する。
【0087】
以上説明したステップS11~S15の処理が本発明のシリコン融液の対流パターン制御方法に対応する。また、抵抗値測定部52、抵抗値調整部53、対流パターン制御部54Aの追加された機能、対流パターン設定部54C、発熱量計算部54D及び抵抗値計算部54Eが本発明のシリコン融液の対流パターン制御システムに対応する。
なお、ステップS11における対流パターンの設定処理、ステップS13における抵抗値測定処理、ステップS15における抵抗値調整処理は、作業者の操作によって行ってもよい。
【0088】
[第2実施形態の作用及び効果]
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏することができる。
各締結手段23A~23Dの締結力を異ならせるだけの簡便な手段で、シリコン単結晶SMごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
また、ほとんどの作業を自動化できるので、作業効率が向上する。
【0089】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分等については、同一符号を付してその説明を省略する。
前記第1実施形態との相違点は、ヒータ16の構成である。
【0090】
前記第1実施形態では、ヒータ13は、発熱部11と、端子21A~21Dとが一体成型されている。
一方、第3実施形態では、ヒータ16は、図12に示すように、発熱部11と、端子21A~21Dとが接着層34A、34B、34C及び34Dを介して接合されている。図12では、接着層34A及び34Dだけ図示している。
【0091】
前記接着層34A~34Dは、有機物を含む炭素系接着剤を焼成又は黒鉛化して形成される。炭素系接着剤は、例えば、熱硬化性樹脂では、COPNA樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂が挙げられ、熱可塑性樹脂では、ピッチ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらの炭素系接着剤に骨材として黒鉛粉又は炭素粉を加えても良い。
【0092】
第3実施形態では、発熱部11と、各電力供給部12A~12Dを構成する端子21A~21Dとの間に塗布する接着層34A~34Dの材質又は厚みを互いに異ならせることにより、各電力供給部12A~12Dの接触抵抗値を異ならせている。
【0093】
例えば、発熱部11と、電力供給部12Aを構成する端子21Aとの間に塗布する接着層34Aの材質又は厚みを、発熱部11と、他の電力供給部12B~12Dを構成する端子21B~1Dとの間に塗布する接着層34B~34Dの材質又は厚みよりも多くする。
【0094】
この場合、第1の加熱領域1Aの抵抗値は、第2の加熱領域1Bの抵抗値よりも大きくなる。このため、第1,第2の加熱領域1A及び1Bに同じ大きさの電圧を印加すると、第1の加熱領域1Aの発熱量は、第2の加熱領域1Bよりも小さくなる。
第3実施形態におけるシリコン単結晶の製造方法は、第1実施形態と何ら変わるところはないので、説明を省略する。
【0095】
[第3実施形態の作用及び効果]
第3実施形態によれば、仮想面VSの左側と仮想面VSの右側とにおいて、発熱部11と、端子21A~1Dとの間に塗布する接着層34B~34Dの材質又は厚みを異ならせるだけの簡便な手段で、シリコン単結晶製造装置2の構造の対称性に関係なく、磁場直交断面における対流Cの方向を一方向に固定しやすくできる。したがって、この対流Cの一方向への固定によって、シリコン単結晶SMごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
【0096】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について図13を参照して説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分等については、同一符号を付してその説明を省略する。
前記第1実施形態との相違点は、加熱部61の構成である。
【0097】
加熱部61は、発熱部62と、4個の電力供給部12A~12Dとを備える。
加熱部61は、図13に示すように、鉛直上方から見たときに、中心軸線CAを通り、かつ、加熱部61に垂直な仮想面VSで仮想的に2分割され、仮想面VSの左側に位置する第1の加熱領域61Aと、仮想面VSの右側に位置する第2の加熱領域61Bとを備える。
【0098】
発熱部62の厚みは、その周方向全体に亘って均一である。発熱部62は、上端から下方向へ伸びる上スリット31及び下端から上方向へ伸びる下スリット32が円周方向に複数形成されている。各上スリット31の上端から下方向への切り込み深さは等しく、各下スリット32の下端から上方向への切り込み深さも等しい。また、上スリット31と下スリット32との間隔は、前記第1,第2の加熱領域61A及び61Bのそれぞれの範囲内では等しい。
【0099】
発熱部62の下端には、各電力供給部12A~12Dを構成する端子21A~21Dが発熱部62と一体成型されている。端子21Aと端子21Bとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第1蛇行部63Aが形成されている。同様に、端子21Bと端子21Cとの間に3本の上スリット31と、4本の下スリット32とが交互に形成されて第2蛇行部63Bが形成されている。
【0100】
端子21Cと端子21Dとの間に3本の上スリット31と、4本の下スリット32とが交互に形成されて第3蛇行部63Cが形成されている。端子21Dと端子21Aとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第4蛇行部63Dが形成されている。
【0101】
各蛇行部63A~63Dの断面積は、前記第1,第2の加熱領域61A及び61Bのそれぞれの範囲内では等しい。図13では分かりにくいが、各蛇行部63C及び63Dの断面積を等しくするために、各上スリット31及び各下スリット32の幅が一部異なっている。
【0102】
発熱部62はジュール発熱により発熱する。発熱部62の任意の箇所Xを流れる電流値をI、箇所Xの抵抗値をRで表すと、箇所Xのジュール発熱量Wは式(1)で表される。
=I ・R ・・・(1)
【0103】
したがって、箇所Xに印加される電圧値及び箇所Xの抵抗値が与えられれば、オームの法則より箇所Xを流れる電流値Iが求められる。箇所Xの抵抗値Rを変化させることにより、箇所Xを流れる電流値Iが変化し、ジュール発熱量Wも変化する。
よって、各箇所Xの抵抗値Rを適切に変化させることにより、発熱部62の各箇所Xのジュール発熱量Wを変化させ、発熱部62について所望の発熱量分布を実現することができる。
【0104】
箇所Xの抵抗値Rは、箇所Xを構成する材質の電気抵抗率ρ(Ωm)、箇所Xの長さL(m)及び箇所Xの断面積A(m)を用いて式(2)で表される。
=ρ・(L/A) ・・・(2)
【0105】
第4実施形態では、上スリット31及び下スリット32の総数を第1の加熱領域61Aと第2の加熱領域61Bとにおいて異ならせて、第1~第4蛇行部63A~63Dの長さを互いに異ならせている。これにより、第1の加熱領域61Aの抵抗値と第2の加熱領域61Bの抵抗値とが異なることになる。
【0106】
図13の例では、第1の加熱領域61Aにおける上スリット31及び下スリット32の総数は10本である。一方、第2の加熱領域61Bにおける上スリット31及び下スリット32の総数は14本である。したがって、第2,第3蛇行部63B及び63Cの長さの合計は、第1,第4蛇行部63A及び63Dの長さの合計より長いので、第2の加熱領域61Bの抵抗値は、第1の加熱領域61Aの抵抗値よりも大きくなっている。このため、第1,第2の加熱領域61A及び61Bに同じ大きさの電圧を印加すると、第2の加熱領域61Bの発熱量は、第1の加熱領域61Aの発熱量よりも小さくなる。
第4実施形態におけるシリコン単結晶の製造方法は、第1実施形態と何ら変わるところはないので、説明を省略する。
【0107】
[第4実施形態の作用及び効果]
第4実施形態によれば、仮想面VSの左側と仮想面VSの右側とにおいて、前記上スリット31及び前記下スリット32の総数を異ならせるだけの簡便な手段で、シリコン単結晶製造装置2の構造の対称性に関係なく、磁場直交断面における対流Cの方向を一方向に固定しやすくできる。したがって、この対流Cの一方向への固定によって、シリコン単結晶SMごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
【0108】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態について図14を参照して説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分等については、同一符号を付してその説明を省略する。
前記第1実施形態との相違点は、加熱部71の構成である。
【0109】
加熱部71は、発熱部72と、4個の電力供給部12A~12Dとを備える。
加熱部71は、図14に示すように、鉛直上方から見たときに、中心軸線CAを通り、かつ、加熱部71に垂直な仮想面VSで仮想的に2分割され、仮想面VSの左側に位置する第1の加熱領域71Aと、仮想面VSの右側に位置する第2の加熱領域71Bとを備える。
【0110】
発熱部72の厚みは、その周方向全体に亘って均一である。発熱部72は、上端から下方向へ伸びる上スリット31及び下端から上方向へ伸びる下スリット32が円周方向に複数形成されている。各上スリット31の幅と、上端から下方向への切り込み深さは等しく、各下スリット32の幅と、下端から上方向への切り込み深さも等しい。
【0111】
発熱部72の下端には、各電力供給部12A~12Dを構成する端子21A~21Dが発熱部72と一体成型されている。端子21Aと端子21Bとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第1蛇行部73Aが形成されている。同様に、端子21Bと端子21Cとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第2蛇行部73Bが形成されている。
【0112】
端子21Cと端子21Dとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第3蛇行部73Cが形成されている。端子21Dと端子21Aとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第4蛇行部73Dが形成されている。
【0113】
第5実施形態では、発熱部72は、前記第1の加熱領域71Aと、前記第2の加熱領域71Bとにおいて、上スリット31及び下スリット32の総数が等しい。図14の例では、第1の加熱領域71Aには、4本の上スリット31と、6本の下スリット32が形成されており、上スリット31及び下スリット32の総数は、10本である。また、第2の加熱領域71Bには、4本の上スリット31と、6本の下スリット32が形成されており、上スリット31及び下スリット32の総数は、10本である。
【0114】
前記第1の加熱領域71Aの範囲内では、上スリット31と下スリット32との間隔は等しい。一方、第2の加熱領域71Bの範囲内では、端子21C周辺に上スリット31及び下スリット32が集中している。具体的には、加熱部71を鉛直上方から見た水平面内で水平磁場に対して垂直方向において、隣接する上スリット31と下スリット32との間隔が狭い。これは、前記水平面内で水平磁場に対して垂直方向において、前記式(2)に示す箇所Xの断面積A(m)が小さくなる。
【0115】
したがって、第2の加熱領域71Bにおいて、端子21C周辺の抵抗値は、他の部分の抵抗値よりも大きくなっている。このため、第1,第2の加熱領域71A及び71Bに同じ大きさの電圧を印加すると、第2の加熱領域71Bの発熱量は、第1の加熱領域71Aの発熱量よりも小さくなる。
第5実施形態におけるシリコン単結晶の製造方法は、第1実施形態と何ら変わるところはないので、説明を省略する。
【0116】
[第5実施形態の作用及び効果]
第5実施形態によれば、仮想面VSの左側と仮想面VSの右側とにおいて、前記上スリット31と前記下スリット32との間隔を異ならせるだけの簡便な手段で、シリコン単結晶製造装置2の構造の対称性に関係なく、磁場直交断面における対流Cの方向を一方向に固定しやすくできる。したがって、この対流Cの一方向への固定によって、シリコン単結晶SMごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
【0117】
[第6実施形態]
次に、本発明の第6実施形態について図15を参照して説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分等については、同一符号を付してその説明を省略する。
前記第1実施形態との相違点は、加熱部81の構成である。
【0118】
加熱部81は、発熱部82と、4個の電力供給部12A~12Dとを備える。
加熱部81は、図15に示すように、鉛直上方から見たときに、中心軸線CAを通り、かつ、加熱部81に垂直な仮想面VSで仮想的に2分割され、仮想面VSの左側に位置する第1の加熱領域81Aと、仮想面VSの右側に位置する第2の加熱領域81Bとを備える。
【0119】
発熱部82の厚みは、その周方向全体に亘って均一である。発熱部82は、上端から下方向へ伸びる上スリット31及び下端から上方向へ伸びる下スリット32が円周方向に複数形成されている。各上スリット31の幅と、上端から下方向への切り込み深さは等しく、各下スリット32の幅と、下端から上方向への切り込み深さも等しい。
【0120】
発熱部82の下端には、各電力供給部12A~12Dを構成する端子21A~21Dが発熱部82と一体成型されている。端子21Aと端子21Bとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第1蛇行部83Aが形成されている。同様に、端子21Bと端子21Cとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第2蛇行部83Bが形成されている。
【0121】
端子21Cと端子21Dとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第3蛇行部83Cが形成されている。端子21Dと端子21Aとの間に2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第4蛇行部83Dが形成されている。
【0122】
第6実施形態では、発熱部82は、前記第1の加熱領域81Aと、前記第2の加熱領域81Bとにおいて、上スリット31及び下スリット32の総数が等しい。図15の例では、第1の加熱領域81Aには、4本の上スリット31と、6本の下スリット32が形成されており、上スリット31及び下スリット32の総数は、10本である。また、第2の加熱領域81Bには、4本の上スリット31と、6本の下スリット32が形成されており、上スリット31及び下スリット32の総数は、10本である。
【0123】
前記第1の加熱領域81Aの範囲内では、上スリット31と下スリット32との間隔は等しい。一方、第2の加熱領域81Bの範囲内では、端子21B及び21D周辺に上スリット31及び下スリット32が集中している。具体的には、加熱部81を鉛直上方から見た水平面内で水平磁場に対して垂直方向において、隣接する上スリット31と下スリット32との間隔が疎らである。これは、前記水平面内で水平磁場に対して垂直方向において、前記式(2)に示す箇所Xの断面積A(m)が大きくなる。
【0124】
したがって、第2の加熱領域81Bにおいて、端子21C周辺の抵抗値は、他の部分の抵抗値よりも小さくなっている。このため、第1,第2の加熱領域81A及び81Bに同じ大きさの電圧を印加すると、第2の加熱領域81Bの発熱量は、第1の加熱領域81Aの発熱量よりも大きくなる。
第6実施形態におけるシリコン単結晶の製造方法は、第1実施形態と何ら変わるところはないので、説明を省略する。
【0125】
[第6実施形態の作用及び効果]
第6実施形態によれば、仮想面VSの左側と仮想面VSの右側とにおいて、前記上スリット31と前記下スリット32との間隔を異ならせるだけの簡便な手段で、シリコン単結晶製造装置2の構造の対称性に関係なく、磁場直交断面における対流Cの方向を一方向に固定しやすくできる。したがって、この対流Cの一方向への固定によって、シリコン単結晶SMごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
【0126】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の種々の改良並びに設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0127】
例えば、前記第1実施形態において、図5に示す等価回路図では、各電極22A~22Dの抵抗値は無視したが、これに限定されない。各電極22A~22Dの抵抗値も考慮し、各電極22A~22Dの長さ(m)及び断面積A(m)の両方又は一方について、第1の加熱領域1Aと第2の加熱領域1Bとにおいて異ならせても良い。同様に、各端子21A~21Dの長さ(m)及び断面積A(m)の両方又は一方について、第1の加熱領域1Aと第2の加熱領域1Bとにおいて異ならせても良い。
これにより、第1の加熱領域1Aの抵抗値と、第2の加熱領域1Bの抵抗値とを異ならせることができ、炉内の熱環境を積極的に偏らせることができる。
【0128】
また、前記各実施形態では、各発熱部11、72及び82は、各上スリット31の幅と、上端から下方向への切り込み深さは等しく、各下スリット32の幅と、下端から上方向への切り込み深さも等しい例を示したが、これに限定されない。例えば、各上スリット31の幅及び切り込み深さ並びに各下スリット32の幅及び切り込み深さについて、第1の加熱領域と第2の加熱領域とにおいて異ならせても良い。同様に、発熱部62の各上スリット31の切り込み深さ並びに各下スリット32の切り込み深さについて、第1の加熱領域と第2の加熱領域とにおいて異ならせても良い。
これにより、第1の加熱領域の抵抗値と、第2の加熱領域の抵抗値とを異ならせることができ、炉内の熱環境を積極的に偏らせることができる。
【0129】
また、前記各実施形態では、電力供給部12A~12Dが仮想面VSに対して対称な位置に配置されている例を示したが、これに限定されない。例えば、仮想面VSに対して右側又は左側に30度程度の角度をつけて電力供給部12A~12Dが配置されていてもよい。この場合は、電力供給部12A~12Dの各抵抗値を調整して、対流パターンを制御できる程度に第1の加熱領域の発熱量と、第2の加熱領域の発熱量とを異ならせればよい。ただし、電力供給部12A~12Dが仮想面VSに対して左右対称な位置に配置されていることが好ましい。何故なら、前記抵抗値の調整範囲を広く取れて前記発熱量の調整が容易となるからである。
【0130】
また、前記各実施形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用することができる。例えば、前記第1実施形態で説明した電気抵抗調整部材24の合計枚数を第1の加熱領域と第2の加熱領域とにおいて異ならせるとともに、前記第2実施形態で説明した締結手段23A~23Dの締結力を第1の加熱領域と第2の加熱領域とにおいて異ならせても良い。
【実施例0131】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0132】
図5に示す等価回路で表される加熱部を用いてそれぞれ10本のシリコン単結晶を引き上げ、対流制御確率、対流制御性及び結晶成長性を判定した。
4個の電力供給部12A~12Dを有する加熱部について、図5に示すように、対向する端子21Aと端子21C及び端子21Bと端子21Dが水平磁場の印加方向に対して平行及び垂直になるように、各端子21A~21Dと電極22A~22Dとを接続した。
【0133】
〔実験例1〕
実験例1では、4個の端子21A~21D間の第1~第4蛇行部を同一素材及び同一形状により形成した。実際に各第1~第4蛇行部の各抵抗値RA~RDを測定し、全て41mΩであることを確認した。端子21A~21Dと対応する電極22A~22Dとの間にそれぞれ3枚の電気抵抗調整部材24を介挿し、締結手段23A~23Dの締結力を調整することにより、4個の電力供給部12A~12Dの各接触抵抗値R1~R4を全て1mΩに調整した。実験例1の抵抗値及び発熱量比を表1に示す。
【0134】
〔実験例2~6〕
実験例2~6では、水平磁場と垂直方向の蛇行部のジュール発熱量Wを第1の加熱領域と第2の加熱領域とで意図的に偏らせることを目的とした。各第1~第4蛇行部の断面積を同一にする一方、各第1~第4蛇行部の上スリット及び下スリットの総数を調整することにより各第1~第4蛇行部の抵抗値を変化させた。4個の電力供給部12A~12Dの各接触抵抗値R1~R4は実験例1と同一である。
【0135】
まず、図5に示す等価回路図に基づいて各第1~第4蛇行部のジュール発熱量W、W、W及びWをオームの法則により求めた。次に、第2,第3蛇行部の各ジュール発熱量W及びWの和(W+W)を第1,第4蛇行部の各ジュール発熱量W及びWの和(W+W)で除算した発熱量比(W+W)/(W+W)が所定の値となるような抵抗値RB及びRCを求め、その値になるように各第1~第4蛇行部の上スリット及び下スリットの総数を調整した。例えば、実験例2では、発熱量比を1.2とするために抵抗値RB及びRCを33.5mΩに調整した。各実験例2~6の各抵抗値及び発熱量比を表1に示す。
【0136】
〔実験例7~11〕
実験例7~11では、加熱部は実験例1と同じものを用いた。この実験例7~11では、実験例2~6と同一の目的に基づいて、前記電気抵抗調整部材24の合計枚数及び前記締結手段23A~23Dの締結力を調整することにより、4個の電力供給部12A~12Dの各接触抵抗値R1~R4を調整した。
【0137】
まず、図5に示す等価回路図に基づいて各第1~第4蛇行部のジュール発熱量W~Wをオームの法則により求めた。次に、前記発熱量比(W+W)/(W+W)が所定の値となるような接触抵抗値R1を求め、実際に接触抵抗値R1を調整した。
具体的には、発熱部11の四箇所(例えば、端子21A~21D近傍)及び電極22A~22Dの四箇所(例えば、上端部22AA~22DA近傍)の計8箇所にプローブを接続し、四端子法を用いて合成抵抗を測定する。その結果得られる接触抵抗値R1~R4及び抵抗値RA~RDに関する連立方程式を解くことにより、全ての接触抵抗値R1~R4及び抵抗値RA~RDを求める。
次に、得られた接触抵抗値R1~R4及び抵抗値RA~RDに基づいてジュール発熱量W~Wを求めた後、前記発熱量比(W+W)/(W+W)が所定の値になるような接触抵抗値R1を求める。
次に、接触抵抗値R1を測定しつつ、接触抵抗値R1が目的の値となるように締結手段23Aの締付力を調整する。
例えば、実験例7では、発熱量比を1.2とするために接触抵抗値R1を3.1mΩに調整した。各実験例7~11の各抵抗値及び発熱量比を表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
各実験例1~11において、それぞれ10本のシリコン単結晶を引き上げ、対流制御確率、対流制御性及び結晶成長性を判定した。結果を表2に示す。表2では、シリコン単結晶の引き上げ方向の直径のばらつきが1mm以上の場合を「C」判定、0.5mm以上1mm未満の場合を「B」判定、0.5mm未満の場合を「A」判定としている。
【0140】
【表2】
【0141】
[評価]
表2に示す実験例1~6の結果によれば、発熱部を構成する各第1~第4蛇行部の抵抗値を直接変化させて発熱量比を大きくすることにより、対流制御確率が上昇する一方、結晶成長性が低下することが分かった。したがって、適切な発熱量比となるように各第1~第4蛇行部の抵抗値を調整すれば総合判定の高い炉を構成することができる。特に発熱量比が1.2以上とすることにより対流制御性を向上することができる。さらに発熱量比を1.3~1.5の範囲とすることにより、対流を制御して引き上げたシリコン単結晶の酸素濃度のばらつきを抑制することができるとともに、シリコン単結晶の直径のばらつきを抑制して高品質なシリコン単結晶の生産性を向上することができる。
【0142】
表2に示す実験例7~11の結果によれば、同一形状の加熱部を用いても、接触抵抗値を計算から調整することにより、実験例2~6と同等の効果が得られることが分かった。接触抵抗値を調整する方法は、加熱部の加工が不要であり、作業現場で調整することができ、利用価値が極めて高い。
【符号の説明】
【0143】
1,61,71,81…加熱部、1A,61A,71A,81A…第1の加熱領域、1B,61B,71B,81B…第2の加熱領域、2,51…シリコン単結晶製造装置、3…チャンバ、3A…石英窓、4…ルツボ、4A…黒鉛ルツボ、4B…石英ルツボ、5…支持軸、6…断熱材、7…引き上げ軸、8…熱遮蔽体、9…ガス導入口、10…排気口、11,62,72,82…発熱部、12A,12B,12C,12D…電力供給部、13…ヒータ、14…磁場印加部、14A…第1の磁性体、14B…第2の磁性体、15…温度計測部、15A…反射部、15B…放射温度計、15C…反射面、21A,21B,21C,21D…端子、21AA,21BA,21CA,21DA…接続部、21AB,21BB,21CB,21DB…貫通孔、22A,22B,22C,22D…電極、22AA,22BA,22CA,22DA…上端部、22AB,22BB,22CB,22DB…雄ねじ、23A,23B,23C,23D…締結手段、23AA,23BA,23CA,23DA…円孔、23AB,23BB,23CB,23DB…雌ねじ、24…電気抵抗調整部材、31…上スリット、32…下スリット、33A,63A,73A,83A…第1蛇行部、33B,63B,73B,83B…第2蛇行部、33C,63C,73C,83C…第3蛇行部、33D,63D,73D,83D…第4蛇行部、34A,34B,34C,34D…接着層、41,54…制御装置、41A,54A…対流パターン制御部、41B,54B…引き上げ制御部、42…記憶部、43…電圧印加部、52…抵抗値測定部、53…抵抗値調整部、54C…対流パターン設定部、54D…発熱量計算部、54E…抵抗値計算部、C…対流、CA…中心軸線、CS…中心、F…水平面、K…高さ、L…輻射光、M…シリコン融液、ML…磁力線の向き、P1…第1の計測点、P2…第2の計測点、RA,RB,RC,RD…抵抗値、R1,R2,R3,R4…接触抵抗値、S…表面、SC…種結晶、SM…シリコン単結晶、V…電圧値、VS…仮想面、θf…角度、θ1…入射角、θ2…反射角。
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