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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102511
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置の制振システム
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/09 20060101AFI20220630BHJP
   H01J 37/16 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
H01J37/09 Z
H01J37/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217285
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 隼
(72)【発明者】
【氏名】小川 博紀
(72)【発明者】
【氏名】中川 周一
(72)【発明者】
【氏名】船津 輝宣
(57)【要約】
【課題】装置の状況と制振機構の性能に応じた適正な制振制御を行うことを可能とした、荷電粒子線装置の制振システムを提供する。
【解決手段】この荷電粒子線装置の制振システムは、本発明に係る荷電粒子線装置の制振システムは、荷電粒子ビームが通過するカラムと、前記カラムの振動を検出する振動検出部と、前記カラムに振動を与えて前記カラムの振動を抑制する制振機構と、前記制振機構を制御する制御装置とを備える。前記制御装置は、前記振動検出部の検出信号を設定された増幅率で増幅して、増幅後の検出信号を制御信号として前記制振機構に向けて出力する制振ゲイン制御部と、前記振動検出部の検出信号、前記制振機構の信号、並びに、前記制振機構の最大出力値及び最小出力値に応じて、前記制振ゲイン制御部のフィードバックゲイン値を調整する飽和抑制部とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームが通過するカラムと、
前記カラムの振動を検出する振動検出部と、
前記カラムに振動を与えて前記カラムの振動を抑制する制振機構と、
前記制振機構を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記振動検出部の検出信号を設定された増幅率で増幅して、増幅後の検出信号を制御信号として前記制振機構に向けて出力する制振ゲイン制御部と、
前記振動検出部の検出信号、前記制振機構の信号、並びに、前記制振機構の最大出力値及び最小出力値に応じて、前記制振ゲイン制御部のフィードバックゲイン値を調整する飽和抑制部と
を備えることを特徴とする、荷電粒子線装置の制振システム。
【請求項2】
前記飽和抑制部は、前記振動検出部の信号、並びに前記制振機構の最大出力値及び最小出力値に基づいて、前記フィードバックゲイン値を逐次更新するよう構成された、請求項1に記載の制振システム。
【請求項3】
前記飽和抑制部は、前記制振機構の最大出力値と前記最小出力値との差の絶対値と、前記制振機構への出力信号の瞬時振幅との大小関係に基づき、前記フィードバックゲイン値を構成する、請求項1に記載の制振システム。
【請求項4】
前記飽和抑制部は、前記振動検出部の信号のうち、所定の周波数の信号をフィルタリングするフィルタ処理部を含む、請求項1に記載の制振システム。
【請求項5】
前記フィルタ処理部は、前記カラムの一方向への倒れ込みに係るカラム倒れ一次モードに係る信号を抽出する、請求項4に記載の制振システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型電子顕微鏡などの荷電粒子線装置の制振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子の微細化に伴い、電子線描画装置やSEM式ウエハ検査装置などの荷電粒子線装置において、分解能やスループットの向上が要求されている。更なる高分解能化や高機能化のためには、電子ビームの光学系に補正装置を追加する必要がある。
【0003】
しかし、補正装置の追加により、荷電粒子線装置のカラムが大型化し、カラムの剛性が低下するという問題がある。また、高スループット化のためにステージを高加速化するとステージ動作時の駆動反力が増加し、装置への加振力が増加する。カラムの大型化によるカラムの剛性低下やステージの高加速化による駆動反力の増加は、カラムの振動増加を引き起こす。
【0004】
カラム振動を抑制する新たな手法として、センサとアクチュエータを用いてカラム振動を抑制するアクティブ制振システムが研究されている。装置の稼働中、カラムには大小の外乱が印加されるため、大きな外乱に対しても制振できる高出力なアクチュエータが必要である。しかし、電子源(荷電粒子源)に影響を与える電磁式アクチュエータやカラム振動に影響を与えてしまうアクチュエータの大型化は避けなければならないため、高出力のアクチュエータを用意することは困難である。大きな外乱により、制振機構の最大出力値を超えると、制御対象でない周波数成分が増大し、制振効果が十分に得られない。このため、制振機構の性能に応じた最大の効果を得るには、各外乱に対するフィードバックゲインの調整が必要である。
【0005】
このような装置の状況に応じてフィードバックゲインを調整する手法として、特許文献1には、荷電粒子線装置の動作シーケンスの命令に応じて、フィードバック制御のフィードバックゲインを変化させる荷電粒子線装置が開示されている。具体的に特許文献1には、荷電粒子線装置の動作シーケンスの命令に応じて、フィードバック制御のフィードバックゲインを変化させる荷電粒子線装置が記載されている。
【0006】
前記特許文献1に開示されているゲイン調整手法は、振動が小さくなっても、装置からのゲイン調整信号がない限り、ゲインが一定の値になっているため、各時刻において最大の制振効果を得ることはできない。そして、装置の各シーケンスでの外乱のバラつきを考慮できないため、制振機構の最大出力を超過する可能性が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2018/020625号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、装置の状況と制振機構の性能に応じた適正な制振制御を行うことを可能とした、荷電粒子線装置の制振システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る荷電粒子線装置の制振システムは、荷電粒子ビームが通過するカラムと、前記カラムの振動を検出する振動検出部と、前記カラムに振動を与えて前記カラムの振動を抑制する制振機構と、前記制振機構を制御する制御装置とを備える。前記制御装置は、
前記振動検出部の検出信号を設定された増幅率で増幅して、増幅後の検出信号を制御信号として前記制振機構に向けて出力する制振ゲイン制御部と、前記振動検出部の検出信号、前記制振機構の信号、並びに、前記制振機構の最大出力値及び最小出力値に応じて、前記制振ゲイン制御部のフィードバックゲイン値を調整する飽和抑制部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、装置の状況と制振機構の性能に応じた適正な制振制御を行うことを可能とした、荷電粒子線装置の制振システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施の形態に係る荷電粒子線装置の制振システム(振動抑制システム)、及びそのような制振システムを備えた荷電粒子線装置を説明する概略図である。
図2】第1の実施の形態に係る荷電粒子線装置100で制振の対象とするカラム2の振動モードを示す図である。
図3】制御装置22の詳細を示すブロック図である。
図4】フィルタ処理部25aによりカラム倒れ1次モードの所定の周波数成分の信号を抽出する前後での信号の変化について説明する。
図5】瞬時振幅演算部25bにより演算した、各時刻でのカラム倒れ1次モードの瞬時振幅の推定値(207)を、フィルタ処理部25aが生成した信号(202)と比較するグラフである。
図6】フィードバックゲイン値演算部27により各時刻で演算したフィードバックゲイン値Kの変化と(図6(a))、フィードバックゲイン値Kの変化による制振機構21への出力信号の変化(図6(b))の一例を説明するグラフである。
図7】第2の実施の形態に係る荷電粒子線装置の制振システム(振動抑制システム)、及びそのような制振システムを備えた荷電粒子線装置を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0013】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0014】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係る荷電粒子線装置の制振システム(振動抑制システム)、及びそのような制振システムを備えた荷電粒子線装置を、図1等を参照して説明する。
【0015】
図1は第1の実施の形態における荷電粒子線装置100の例を示す断面図である。荷電粒子線装置100は、試料室1と、試料室1の上部に設置されたカラム2とを備える。
【0016】
試料室1の内部には、X方向に移動可能なXテーブル3と、Y方向に移動可能なYテーブル4とを備えた試料ステージ5を備える。試料6は試料ステージ5に載置される。
【0017】
試料室1の内部は、図示しないターボ分子ポンプとドライポンプにより真空状態に維持
される。カラム2上部には電子銃7が備えられ、電子銃7は一次電子線8を発生させる。
電子銃7への配線7aは、電子銃7の上方より導かれる。カラム2は、その内部に、コンデンサレンズ9、走査偏向器10、及び対物レンズ11を備える。電子銃7には図示しない高圧電源が接続されている。電子銃7から放出された一次電子線(電子ビーム)8は、コンデンサレンズ9、対物レンズ11により収束されるとともに、走査偏向器10により試料6上を走査される。
【0018】
電子ビーム8は、一例として加速電圧10kV以上を与えられる。コンデンサレンズ9、対物レンズ11は、それぞれ励磁コイルを備えており、励磁電流を制御されることにより、磁場が変化し、電子ビーム8の焦点位置が制御される。
【0019】
また、カラム2は、その内部に、イオンポンプ12を用いた真空排気により、超高真空状態に維持される。カラム2上部には、振動センサ20(振動検出部)と制振機構21が備えられている。制御装置22は、振動センサ20からの信号に基づいて、制振機構21を駆動する。カラム2が大型化し、その剛性が低下している場合においても、制振機構21により振動が抑制される。
【0020】
図2は、荷電粒子線装置100で制振の対象とするカラム2の振動モードを示す図である。荷電粒子線装置100においては、床振動・環境騒音等の外乱やステージ移動時の過渡的な入力によりカラム2が振動することで撮像時の像揺れの要因となることがある。特に、カラム2の振動において像揺れへの影響が大きいのは、カラム2上部がある一方向(X方向、又はY方向)に倒れ込むように振動するモード(カラム倒れ1次モード)であることが分かっている。図1で示しているのはX方向のカラム倒れ1次モードの振動の様子である。
【0021】
図3は、制御装置22の詳細を示すブロック図である。制御装置22は、制振ゲイン制御部23と、飽和抑制制御部24(飽和抑制部)を有する。
【0022】
制振ゲイン制御部23は、振動センサ20の検出信号を、設定された増幅率で増幅し(ゲインを掛け)、増幅後の信号を制御信号として制振機構21に向けて出力し、制振機構21を制御する制御部である。制振ゲイン制御部23は、更に、制御器23aと、フィードバックゲイン制御部23bとを有する。
【0023】
制御器23aは、振動センサ20の検出信号に基づき、カラム2におけるカラム倒れ1次モードの振動を低減する制御信号を生成するよう構成されている。また、フィードバックゲイン制御部23bは、制御器23aから出力された制御信号にゲインをかけて、制振機構21への出力信号を演算する。
【0024】
制御器23aは、例えば複数のデジタルフィルタ(ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタなど)を用いて、フィードバック制御系が安定となり、かつカラム倒れ1次モードの振動低減効果が得られるように設計される。また、制御器23aは、PID制御器やその他の制御器を用いて設計することも可能である。フィードバックゲイン制御部23bは、飽和抑制制御部24によって調整可能に構成されている。
【0025】
飽和抑制制御部24は、振動センサ20の検出信号、制振機構21の信号、並びに、制振機構21の最大出力値及び最小出力値に応じて、制振ゲイン制御部23へのフィードバックゲインを調整して、制振機構21の飽和を抑制する制御部である。飽和抑制制御部24は、一例として、振幅推定演算部25、演算ゲイン制御部26、及びフィードバックゲイン値演算部27を有する。
【0026】
振幅推定演算部25は、フィルタ処理部25a、瞬時振幅演算部25bを有し、特定の振動周波数成分の瞬時振幅を演算する。フィルタ処理部25aは、振動センサ20の検出信号に基づき、例えば[式1]に示すバンドパスフィルタ等を用いて、例えばカラム倒れ1次モードの周波数成分のみを抽出するフィルタリング処理を行う。
【0027】
[式1]
(ω/Q)s/(s+(ω/Q)s+ω
【0028】
ここで、sはラプラス演算子、ωはカラム倒れ1次モードの角周波数、Qは抽出される振動周波数成分の先鋭度である。カラム倒れ1次モードの角周波数ωについては、ハンマリング試験などを行い、周波数応答関数を測定することで取得することが可能である。
【0029】
また、振動周波数成分の先鋭度Qは、抽出する周波数幅を設定する値である。Qは0以上の任意の整数であるが、値が大きくなるほど周波数幅が狭くなる。
【0030】
瞬時振幅演算部25bは、フィルタ処理部25aを通って生成された信号(カラム倒れ1次モードの信号)に基づき、カラム倒れ1次モードの信号の瞬時振幅を推定(演算)する。フィルタ処理部25aが生成した信号が正弦波であると仮定した時の瞬時振幅の演算について説明する。フィルタ処理部25aが生成した信号Xがカラム倒れ1次モードの正弦波の信号であると仮定した時、信号Xと時間領域における信号の微分値dx/dtは[式2]のように表せる。
【0031】
[式2]
X= Asin(ωt)
dX/dt=Aωcos(ωt)
【0032】
ここで、ωはカラム倒れ1次モードの角周波数、Aはカラム倒れ1次モードの信号の振幅である。カラム倒れ1次モードの信号は、フィルタ処理部25aが生成した信号を代入し、時間領域における信号の微分値は、フィルタ処理部25aが生成した信号を時間領域で微分することで求めることができる。
【0033】
[式2]を用いて、カラム倒れ1次モードの振幅Aについて解くと、振幅Aは[式3]のように表せる。
【0034】
[式3]
A=sqrt(X+((dX/dt)/ω))
【0035】
[式3]にそれぞれの値を代入することで、カラム倒れ1次モードの信号の瞬時振幅を推定することができる。
【0036】
演算ゲイン制御部26は、制御器23aにおけるカラム倒れ1次モードの信号を増幅するためのゲイン値が格納されている。演算ゲイン制御部26は、振幅推定演算部25にて推定したカラム倒れ1次モードの信号の瞬時振幅に、このゲイン値を掛けることで、制振機構21への出力信号の瞬時振幅を演算する。
【0037】
最大出力値/最小出力値記憶部28は、制振機構21の最大出力値Fmaxと最小出力値Fminを記憶する。この最大出力値Fmaxと最小出力値Fminは、制御装置22の出力信号の上限、制振機構21の物理的な上限、制振機構21のデータシートに記載されている出力上限値/下限値等に基づいて定められ得る。
【0038】
フィードバックゲイン値演算部27は、演算ゲイン制御部26にて算出した制振機構21への出力信号の瞬時振幅と、最大出力値/最小出力値記憶部28に記憶された最大出力値Fmaxと最小出力値Fminをに基づき、フィードバックゲイン値Kを演算する。フィードバックゲイン値演算部27は、制御装置22の出力値が、制振機構21の最大出力値Fmaxを超えるか、最小出力値Fminを下回ることなく、最大の制振効果が得られるフィードバックゲイン値Kを演算する。各時刻でフィードバックゲイン値演算部27が生成したフィードバックゲイン値Kが逐次更新され、フィードバックゲイン制御部23bに供給されることで、フィードバックゲイン制御部23bはその出力値を適切に調整することができる。
【0039】
一例として、フィードバックゲイン値演算部27は、フィードバックゲイン値Kを[式4]のように算出する。ここで、Festは演算ゲイン制御部26にて算出した制振機構21への出力信号の瞬時振幅である。すなわち、フィードバックゲイン値演算部27は、制振機構21の最大出力値Fmaxと最小出力値Fminとの差の絶対値と、制振機構21への出力信号の瞬時振幅との大小関係に従い、フィードバックゲイン値Kを調整する役割を有する。
【0040】
[式4]
K=1(|Fmax-min|/2>Festの場合)
K=|Fmax-min|/(2・Fest)(|Fmax-Fmin|/2<Festの場合)
【0041】
図4を用いて、フィルタ処理部25aによりカラム倒れ1次モードの所定の周波数成分の信号を抽出する前後での信号の変化について説明する。
【0042】
図4(a)は、振動センサ20から入力した検出信号の時系列波形202と、フィルタ処理部25aから出力されたカラム1次倒れモードの信号の時系列波形201の一例であり、縦軸は電圧値、横軸は時間を表している。
【0043】
図4(b)は、図4(a)の信号のフーリエ変換後の波形であり、縦軸は電圧振幅、横軸は周波数を表している。図4(b)の波形から、振動センサ20が出力する検出信号のスペクトル波形204では、カラム倒れ1次モードの周波数205以外の周波数206でも振幅が発生しているが、カラム1次倒れモードの信号のみを抽出した後のスペクトル波形203は、カラム倒れ1次モードの周波数205の振幅のみが発生していることが分かる。
【0044】
図5を用いて、瞬時振幅演算部25bにより演算した、各時刻でのカラム倒れ1次モードの瞬時振幅の推定値(207)を、フィルタ処理部25aが生成した信号(202)と比較する。図5の曲線207は、フィルタ処理部25aが抽出した信号201に基づき、[式3]を用いて算出した、各時刻でのカラム倒れ1次モードの瞬時振幅の推定値を示しており、図5のグラフの縦軸は信号の電圧値、横軸は時間を表している。フィルタ処理部25aが抽出した信号202の振幅に対して、各時刻でのカラム倒れ1次モードの瞬時振幅の推定値207が実際の振幅を正しく推定していることが分かる。
【0045】
図6を用いて、フィードバックゲイン値演算部27により各時刻で演算したフィードバックゲイン値Kの変化と(図6(a))、フィードバックゲイン値Kの変化による制振機構21への出力信号の変化(図6(b))の一例を説明する。図6(b)では、フィードバックゲイン値Kによる調整をしない場合の電圧信号の変化と比較しながら説明する。
【0046】
図6(a)は、各時刻でのフィードバックゲイン値Kの変化を表す波形208であり、縦軸はフィードバックゲイン値、横軸は時間を表している。
【0047】
波形208から分かるように、各時刻でのフィードバックゲイン値Kは、制振機構21への出力信号の瞬時振幅と、最大出力値/最小出力値記憶部28に記憶された最大出力値Fmaxと最小出力値Fminに基づき、[式4]を用いて演算される。制振機構21への出力信号の瞬時振幅は、各時刻でのカラム倒れ1次モードの瞬時振幅の推定値207に演算ゲイン制御部26が有するゲイン値を掛けることで算出している。
【0048】
図6(b)は、フィードバックゲイン値演算部27によって調整された制振機構21への出力信号の波形210であり、縦軸は電圧値、横軸は時間を表している。
【0049】
図6(a)、(b)より、フィードバックゲイン値Kの調整がない場合の制振機構21への出力信号209が、制振機構21の最大出力値Fmaxよりも大きくなると、フィードバックゲイン値Kが調整され、制振機構21への出力信号が最大出力値Fmaxを超えず、且つ最小出力値Fminを下回らないように調整される。これにより、フィードバックゲイン値Kの調整がある場合の制振機構21への出力信号の時系列波形210は、制振機構21の最小出力値Fmin~最大出力値Fmaxの範囲内に収まることが分かる。そして、カラム2の振動の減衰とともにフィードバックゲイン値Kが上がることで、FmaxとFminの範囲内で高ゲイン化が達成されるので、各時刻で制振機構21の性能に応じた最大の制振効果を得ることが可能となる。
【0050】
以上説明したように、第1の実施の形態によれば、装置の状況と制振機構の性能に応じた適正な制振制御を行うことを可能とした、荷電粒子線装置の制振システムを提供することができる。
【0051】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態に係る荷電粒子線装置の制振システム(振動抑制システム)、及びそのような制振システムを備えた荷電粒子線装置を、図7を参照して説明する。荷電粒子線装置の全体構成、及び制振システムの全体構成は第1の実施の形態と同様であるので、重複する説明は省略する。図7は、第2の実施の形態の制御装置22の詳細を示すブロック図である。図3と同一の部分に関しては同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0052】
図7では、制振機構21への出力信号の瞬時振幅を推定し、フィードバックゲインを調整することが可能である。図7では、フィルタ処理部25aと演算ゲイン制御部26を省略し、代わりに瞬時振幅演算部25bが、制御器23aからの出力信号に従い、制振機構21への出力信号の瞬時振幅を推定している。これにより、システムの構成が簡略化でき、アドオンが容易となる。
【0053】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、上記以外の様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…試料室、 2…カラム、 3…Xテーブル、 4…Yテーブル、 5…試料ステージ、 6…試料、 7…電子銃、 8…一次電子線、 9…コンデンサレンズ、 10…走査偏向器、 11…対物レンズ、 12…イオンポンプ、 20…振動センサ、 21…制振機構、 22…制御装置、 23…制振ゲイン制御部、 23a…制御器、 23b…フィードバックゲイン制御部、 24…飽和抑制制御部、 25…振幅推定演算部、 25a…フィルタ処理部、 25b…瞬時振幅演算部、 26…演算ゲイン制御部、 27…フィードバックゲイン値演算部、 28…最大出力値/最小出力値記憶部、 100…荷電粒子線装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7