(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102598
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】ブラシレスモータ制御方法およびブラシレスモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/10 20060101AFI20220630BHJP
H02P 6/15 20160101ALI20220630BHJP
H02P 6/26 20160101ALI20220630BHJP
【FI】
H02P6/10
H02P6/15
H02P6/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217426
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 真也
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA01
5H560BB02
5H560BB12
5H560DA02
5H560EB01
5H560RR01
5H560TT15
5H560UA05
5H560XA12
5H560XA15
(57)【要約】
【課題】単相直流ブラシレスモータを駆動する際に、コギングトルクに起因するトルク脈動を低減して振動を低減すること。
【解決手段】相切替基準位置のタイミングに対しコイル通電の相切替タイミングを早める進角制御手順と、コイルの相切替における通電開始後の一定期間パルス幅変調により電流のピーク値を抑える立ち上がり制御手順と、コイルの相切替における通電終了時に電流波形の立ち下がりを制御する立ち下がり制御手順と、を有し、立ち上がり制御手順による電流又は電圧の立ち上がり波形と、立ち下がり制御手順による電流又は電圧の立ち下がり波形とを非対称に制御する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単相直流ブラシレスモータを駆動する際に、前記単相直流ブラシレスモータのコイルに通電する通電回路を制御するためのブラシレスモータ制御方法であって、
相切替基準位置のタイミングに対して前記コイルの通電の相切替タイミングを早める進角制御手順と、
前記コイルの相切替における通電開始後の一定期間をパルス幅変調により電流のピーク値を抑える立ち上がり制御手順と、
前記コイルの相切替における通電終了時に電流波形の立ち下がりを制御する立ち下がり制御手順と、
を有し、前記立ち上がり制御手順による電流又は電圧の立ち上がり波形と、前記立ち下がり制御手順による電流又は電圧の立ち下がり波形とが非対称に制御される、
ブラシレスモータ制御方法。
【請求項2】
前記立ち上がり制御手順は、前記コイルの相切替近傍のタイミングで電圧のデューティを一時的に最大化し、所定の条件を満たした後でデューティを制限して電流のピーク値を抑えるように制御する、
請求項1に記載のブラシレスモータ制御方法。
【請求項3】
前記立ち上がり制御手順は、相切替時に電流又は電圧の波形の立ち上がりが完了すると、デューティの制限を解除して電流値を増やす、
請求項1又は請求項2に記載のブラシレスモータ制御方法。
【請求項4】
単相直流ブラシレスモータの駆動を制御するブラシレスモータ制御装置であって、
前記単相直流ブラシレスモータのコイルの通電を制御するドライバ回路と、
前記単相直流ブラシレスモータの相切替基準位置を検知する基準位置検出器と、
前記相切替基準位置のタイミングに対して前記コイルの通電の相切替タイミングを早める進角制御部と、
前記コイルの相切替における通電開始後の一定期間をパルス幅変調により電流のピーク値を抑える立ち上がり制御部と、
前記コイルの相切替における通電終了時に電流波形の立ち下がりを制御する立ち下がり制御部と、
を有し、前記立ち上がり制御部による電流又は電圧の立ち上がり波形と、前記立ち下がり制御部による電流又は電圧の立ち下がり波形とが非対称に制御される、
ブラシレスモータ制御装置。
【請求項5】
前記立ち上がり制御部は、前記コイルの相切替近傍のタイミングで電圧のデューティを一時的に最大化し、所定の条件を満たした後でデューティを制限して電流のピーク値を抑えるように制御する、
請求項4に記載のブラシレスモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータ制御方法およびブラシレスモータ制御装置に関し、特にモータのトルク脈動を低減することでモータの振動を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、単相ブラシレスDC(直流)モータにおいて、モータの回転トルクリップルをなくし、振動による騒音を抑制するための技術が開示されている。具体的には、単相ブラシレスDCモータは、ホール素子の出力電圧のピーク値となる位置を任意に決められる構造とし、その制御装置は、ホール素子の出力電圧のピーク値を検出し、ホール素子電圧のピーク値にて検出される位置を境にモータコイルの転流区間を二分し、転流後の通電開始前半を一定値の電流指令で、通電の後半電流を徐々に低下させ転流点でほぼ零になるように通電電流指令手段を生成し、モータコイルを全波通電する。
【0003】
また、特許文献2には、単相ブラシレスDCモータにおいて、モータの通電電流波形を滑らかにして、モータ電磁加振力と回転トルクリップルをなくし、振動による騒音を抑制するための技術が開示されている。具体的には、バイポーラ通電の通電周期を精度良く測定し、カウンタでソフトスイッチングの開始点を通電半周期の62.5%、75%又は87.5%以降と決め、残りの区間を8または16の階段状に区切ってPWM(パルス幅変調)のデューティを徐々に減少させて駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-238574号公報
【特許文献2】特開2007-174778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単相直流ブラシレスモータを駆動する場合には、低騒音、低振動化を目的として例えば特許文献1、特許文献2のようにソフトスイッチングが行われている。ソフトスイッチングでは、例えばモータのコイルに通電する電流のオン/オフ切り替え時に、コイルへの印加電圧の変化を緩やかに制御してコイルに流れる電流のピーク値を抑えて低振動化を行っている。
【0006】
一方、単相モータの起動を確実にするためにはモータのロータがデッドポイントで停止することを回避する必要がある。すなわち、モータのロータが相切替の位置で停止すると、モータの起動時にどちらに回転するか不定となる。そこで、リラクタンストルクによりロータの停止位置が相切替の位置の時にトルクが発生するようにして、相切り替えの位置でロータが停止しないようにしている。リラクタンストルクは、磁石と電磁鋼板の吸引力、つまり磁気エネルギーの位置に対する変化によって発生する回転力である。
【0007】
しかしながら、このロータの位置に応じて変動するトルクはコギングトルクと呼ばれ、モータの滑らかな回転を阻害する一因となっている。そのため、特許文献1、特許文献2のようなソフトスイッチングを採用した場合には、このコギングトルクに起因して発生するトルク脈動を低減できない。このトルク脈動のため、低騒音、低振動化が阻害される。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コギングトルクに起因するトルク脈動を低減して振動を低減することが可能なブラシレスモータ制御方法およびブラシレスモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係るブラシレスモータ制御方法およびブラシレスモータ制御装置は、下記(1)~(5)を特徴としている。
(1) 単相直流ブラシレスモータを駆動する際に、前記単相直流ブラシレスモータのコイルに通電する通電回路を制御するためのブラシレスモータ制御方法であって、
相切替基準位置のタイミングに対して前記コイルの通電の相切替タイミングを早める進角制御手順と、
前記コイルの相切替における通電開始後の一定期間をパルス幅変調により電流のピーク値を抑える立ち上がり制御手順と、
前記コイルの相切替における通電終了時に電流波形の立ち下がりを制御する立ち下がり制御手順と、
を有し、前記立ち上がり制御手順による電流又は電圧の立ち上がり波形と、前記立ち下がり制御手順による電流又は電圧の立ち下がり波形とが非対称に制御される、
ブラシレスモータ制御方法。
【0010】
(2) 前記立ち上がり制御手順は、前記コイルの相切替近傍のタイミングで電圧のデューティを一時的に最大化し、所定の条件を満たした後でデューティを制限して電流のピーク値を抑えるように制御する、
上記(1)に記載のブラシレスモータ制御方法。
【0011】
(3) 前記立ち上がり制御手順は、相切替時に電流又は電圧の波形の立ち上がりが完了すると、デューティの制限を解除して電流値を増やす、
上記(1)又は(2)に記載のブラシレスモータ制御方法。
【0012】
(4) 単相直流ブラシレスモータの駆動を制御するブラシレスモータ制御装置であって、
前記単相直流ブラシレスモータのコイルの通電を制御するドライバ回路と、
前記単相直流ブラシレスモータの相切替基準位置を検知する基準位置検出器と、
前記相切替基準位置のタイミングに対して前記コイルの通電の相切替タイミングを早める進角制御部と、
前記コイルの相切替における通電開始後の一定期間をパルス幅変調により電流のピーク値を抑える立ち上がり制御部と、
前記コイルの相切替における通電終了時に電流波形の立ち下がりを制御する立ち下がり制御部と、
を有し、前記立ち上がり制御部による電流又は電圧の立ち上がり波形と、前記立ち下がり制御部による電流又は電圧の立ち下がり波形とが非対称に制御される、
ブラシレスモータ制御装置。
【0013】
(5) 前記立ち上がり制御部は、前記コイルの相切替近傍のタイミングで電圧のデューティを一時的に最大化し、所定の条件を満たした後でデューティを制限して電流のピーク値を抑えるように制御する、
上記(4)に記載のブラシレスモータ制御装置。
【0014】
上記(1)の構成のブラシレスモータの制御方法によれば、進角制御手順により、電流の相切替を適切なタイミングで行うことができる。すなわち、コイルのインダクタンスの影響を考慮し、相切替基準位置に対して実際に流れる電流のタイミングが遅れないように制御できる。また、立ち上がり制御手順により相切替時の電流のピーク値を抑えることができる。これにより、相切替後のタイミングでコギングトルクとマグネットトルクによる総トルクが過大となることを抑制できるので、トルク脈動が減少し、すなわち振動を低減できる。また、立ち上がり制御手順および立ち下がり制御手順により、立ち下がり時の電流の減少を抑えることができ、相切替の際に電流波形が非対称になる。これにより、相切替前のタイミングではコギングトルクとマグネットトルクの総トルクが過少となることを抑制し、相切替後にはリラクタンストルクとマグネットトルクの総トルクが過大となることを抑制できるので、総トルクの脈動が減少し、すなわち振動を低減できる。
【0015】
上記(2)の構成のブラシレスモータの制御方法によれば、相切替近傍のタイミングで電圧のデューティを最大にすることで、切替前の電流を急峻に減らし、相切替を素早く行うことができる。また、デューティの最大化は一時的なものであり、相切替が完了した後は、電流のピーク値を抑えるように電圧のデューティは制限され、総トルクの脈動が減少し、すなわち振動が低減される。
【0016】
上記(3)の構成のブラシレスモータの制御方法によれば、相切替後にリラクタンストルクが減少するのを補うように電流を増加させてマグネットトルクを増大させることができる。これにより、総トルクが減少するのを防止でき、総トルクの脈動が減少し、すなわち振動が低減される。
【0017】
上記(4)の構成のブラシレスモータ制御装置によれば、進角制御部の制御により、電流の相切替を適切なタイミングで行うことができる。すなわち、コイルのインダクタンスの影響を考慮し、相切替基準位置に対して実際に流れる電流のタイミングが遅れないように制御できる。また、立ち上がり制御部により相切替時の電流のピーク値を抑え、相切替後のタイミングで総トルクが過大になることを抑制できるので、総トルクの脈動が減少し、すなわち振動を低減できる。また、立ち上がり制御部および立ち下がり制御部により、立ち下がり時の電流の減少を抑えることができ、相切替の際に電流波形が非対称になる。これにより、相切替前のタイミングではコギングトルクとマグネットトルクの総トルクが過少となることを抑制し、相切替後にはリラクタンストルクとマグネットトルクの総トルクが過大となることを抑制できるので、総トルクの脈動が減少し、すなわち振動を低減できる。
【0018】
上記(5)の構成のブラシレスモータ制御装置によれば、相切替近傍のタイミングで電圧のデューティを最大にすることで、切替前の電流を急峻に減らし、相切替を素早く行うことができる。また、デューティの最大化は一時的なものであり、相切替が完了した後は、電流のピーク値を抑えるように電圧のデューティは制限され、総トルクの脈動が減少し、すなわち振動が低減される。
【発明の効果】
【0019】
本発明のブラシレスモータ制御方法およびブラシレスモータ制御装置によれば、コギングトルクに起因するトルク脈動を低減して振動を低減し、騒音を低減することができる。
【0020】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態におけるモータ制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1のモータ制御装置の動作例を示すタイムチャートである。
【
図3】
図3は、単相直流モータの動作例-1を示す状態遷移図である。
【
図4】
図4は、単相直流モータの動作例-2を示す状態遷移図である。
【
図5】
図5は、単相直流モータの動作例-3を示す状態遷移図である。
【
図6】
図6(a)及び
図6(b)は、
図1のモータ制御装置における動作特性を表すグラフであり、
図6(a)は位置とコイルにかかる平均電圧の対応関係を示し、
図6(b)は位置とトルク及び電流の対応関係を示す。
【
図7】
図7は、
図1のモータ制御装置におけるトルク変化と、従来の制御におけるトルク変化とを対比して表すグラフである。
【
図8】
図8(a)、及び
図8(b)は、それぞれ
図1のモータ制御装置の制御、及び従来の制御における振動特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0023】
<モータ制御装置の構成>
図1は、本発明の実施形態におけるモータ制御装置10の構成例を示すブロック図である。
図1に示したモータ制御装置10が駆動するモータ18は、単相直流ブラシレスモータであり、例えば冷却用ファンなどの駆動源として利用される。
【0024】
モータ制御装置10は、モータ18の回転子の回転位置変化に合わせて、印加する電圧を適切なタイミングで切り替える必要がある。また、モータ制御装置10は、モータ18におけるトルク脈動を低減するため、モータ18に与える電圧をパルス幅変調(PWM)で制御して電圧や電流を精密に制御する機能を有している。
【0025】
図1に示すように、モータ制御装置10は、ホール素子11、相切替時間計測部12、進角制御部13、PWM生成部14、15、駆動回路16、及びインバータ17を備えている。なお、相切替時間計測部12、進角制御部13、PWM生成部14、15、駆動回路16等の制御要素については、専用の論理回路で構成することもできるし、コンピュータとそれが実行するソフトウェアとの組み合わせで実現することもできる。
【0026】
ホール素子11は、モータ18の固定子側の所定位置に固定され、回転子が相切替に関連する所定の基準位置に存在することを検知できる。ホール素子11は、その検知結果を表す信号SG1を出力する。
【0027】
相切替時間計測部12は、ホール素子11が出力する信号SG1に基づいて、相切替の時間を計測する機能を有している。
【0028】
進角制御部13は、相切替時間計測部12が出力する信号SG2に基づいて、より適切な早いタイミング(手前側の電気角)で相切替を実施するための信号SG3を生成する。すなわち、モータ18内部のコイルのインダクタンスの影響により、実際に流れる電流は、印加した電圧に対して遅れて変化する。そこで、相切替基準位置のタイミングを表す信号SG2よりも早いタイミングで切り替わる信号SG3でモータ18の印加電圧を切り替えることにより、相切替が必要なタイミングで電流を素早く切り替える進角制御が可能になる。
【0029】
モータ制御装置10は、互いに独立した2系統のPWM生成部14、15を有している。一方のPWM生成部14は、信号SG3のタイミングに基づいて、モータ18の相切替後の通電制御で使用するPWM信号を信号SG4として生成する。他方のPWM生成部15は、信号SG3のタイミングに基づいて、モータ18の相切替前の通電制御で使用するPWM信号を信号SG5として生成する。
【0030】
駆動回路16は、PWM生成部14、15の出力から与えられる2系統の信号SG4、SG5に基づいて、インバータ17を駆動するために必要な4系統の信号をそれぞれ生成する。
【0031】
インバータ17は、モータ18内部の単相のコイルの通電のオンオフ及び通電方向を制御するためのドライバ回路であり、独立した4つのトランジスタ17a、17b、17c、及び17dを備えている。2つのトランジスタ17a、17cの直列回路が電源ライン21とアースライン22との間に接続されており、トランジスタ17a、17cの接続点が、出力ライン23を介してモータ18のコイルの一端と接続されている。また、トランジスタ17b、17dの直列回路が電源ライン21とアースライン22との間に接続してあり、トランジスタ17b、17dの接続点が、出力ライン24を介してモータ18のコイルの他端と接続されている。
【0032】
したがって、トランジスタ17a、及び17dがオン、トランジスタ17b、及び17cがオフの状態で、モータ18のコイルに順方向に電流を流すことができる。つまり、電源ライン21から、トランジスタ17a、出力ライン23、モータ18内のコイル、出力ライン24、トランジスタ17d、アースライン22の経路で電流が流れる。
【0033】
また、トランジスタ17b、及び17cがオン、トランジスタ17a、及び17dがオフの状態で、モータ18のコイルに逆方向に電流を流すことができる。つまり、電源ライン21から、トランジスタ17b、出力ライン24、モータ18内のコイル、出力ライン23、トランジスタ17c、アースライン22の経路で電流が流れる。
【0034】
上記2種類の状態を回転位置に応じて適切なタイミングで周期的に切り替えることにより、つまり単相のコイルに流れる電流の相切替により、モータ18の回転子を連続的に回転駆動することができる。
【0035】
駆動回路16は、モータ18の駆動時に発生する機械振動を減らすために、モータ18に加わるトルク脈動を低減するように、信号SG4、SG5を利用してインバータ17に与える信号を最適化する。具体的な制御の内容については後述する。
【0036】
<動作例:タイムチャート>
図2は、
図1のモータ制御装置10の動作例を示すタイムチャートである。
図2中の横軸は、時間及び電気角の変化を表している。
【0037】
図2に示した各信号SG1、SG2、SG3、SG4、及びSG5は、それぞれ
図1に示したホール素子11、相切替時間計測部12、進角制御部13、PWM生成部14、及び15から出力される。また、出力信号SG7Aは、モータ18のコイルに順方向に電流を流す時の電圧波形を表し、出力信号SG7Bは、モータ18のコイルに逆方向に電流を流す時の電圧波形を表す。
【0038】
図2に示すように、モータ18の回転子の回転位置が予め定めた各相切替位置P1、P2、P3、・・・になるときに、ホール素子11の検出状態が切り替わり信号SG1が変化する。
【0039】
相切替時間計測部12は、各相切替位置P1、P2、P3、・・・で二値状態が交互に切り替わる信号SG2を生成する。
【0040】
進角制御部13により生成される信号SG3は、相切替時間計測部12が出力する信号SG2に対して位相を手前側に少しずらした状態で現れる。つまり、モータ18のコイルに流れる電流の波形がインダクタンスの影響で電圧に対して遅延する分だけ、各相切替位置P1、P2、P3、・・・に対して位相が手前にずれた位置で、信号SG3の状態が切り替わる。
【0041】
PWM生成部14により生成される信号SG4は、
図2に示すように、相切替後の各区間RAにおいて、オンデューティが可変のPWM信号が現れる。区間RAは、通電開始後の一定期間の間、電流のピーク値を抑えるために設けられるPWM制御区間である。すなわち、PWM信号のオンデューティを調整し、電流のピーク値を抑えるように制御する。相切替時点から電流波形の立ち上がり所要時間が経過すると区間RAは終了する。
【0042】
一方、PWM生成部15が生成する信号SG5については、
図2に示すように、相切替前の各区間RBにおいて、オンデューティが可変のPWM信号が現れる。区間RBは、通電終了時の電流波形の立ち下がり速度を緩やかにするためにソフトスイッチング制御される区間である。すなわち、PWM信号によりモータ18への印加電圧のオンオフを繰り返し、電流波形の立ち下がりが緩やかになるよう制御する。区間RBの長さは、相切替時の電流により発生するコイルの振動が大きい場合には電流波形の立ち下がりがより緩やかになるように長めに設定される。
【0043】
なお、本発明の制御を実施する際には、電流波形の立ち下がり制御のための区間RBのソフトスイッチング制御は必ずしも必要ではなく、通電開始後の電流波形の立ち上がり時の一定期間の区間RAが重要である。また、
図2では区間RAと、区間RBとの両方で波形制御を行う場合には、区間RBの長さが区間RAの長さよりも短くなるように設定されているが、この例に限らず、電流波形の立ち下がりと立ち上がりとが非対称に制御されるように設定すればよい。
【0044】
一方、
図2に示した各出力信号SG7A、SG7Bにおいて、各区間RA2のPWM信号は、信号SG4の区間RAと同じオンデューティとなっている。更に、各出力信号SG7A、SG7Bにおいて、各区間RB2は、信号SG5の区間RBと同じオンデューティとなっている。
【0045】
また、出力信号SG7Aによりモータ18のコイルに順方向の電流を流す状態と、出力信号SG7Bにより逆方向に電流を流す状態とが切り替わる相切替のタイミングにおいて、急峻な電流変化による振動があまり問題とならない場合には区間RBでのソフトスイッチング制御は不要である。一方、問題となる場合には出力信号SG7A、SG7Bを連続的に変化させ、緩やかな電流変化を発生させるとよい。
【0046】
<一般的な単相直流モータの動作例>
一般的な単相直流モータにおける動作例を
図3~
図5にそれぞれ示す。
<動作例-1>
図3に示したモータ18は、円環状の回転子18aが外側に配置され、その内側に固定子18bが配置されている。回転子18aは、円周方向にN極とS極とが交互に形成された複数の永久磁石を形成している。固定子18bは、複数の固定子コア18cとそれに巻回された複数のコイル18dとを有している。各コイル18dが通電されることにより、固定子18b上に電磁石が形成される。また、回転子18aの回転位置を検知するためにその近傍にホール素子11が設置されている。
【0047】
各コイル18dの通電により、
図3中のモータ18の状態で各電磁石のN極、S極を形成すると、回転子18aは
図3中で反時計回りに回転し、モータ18Bの状態に遷移し、更に、回転子18aが反時計回りに回転してモータ18Cの状態になる。
【0048】
図3中でモータ18Cの状態から更に反時計回りに回転してモータ18Dの状態に遷移すると、ホール素子11が磁極の切り替わりを検知するため、相切替のタイミングになり、各コイル18dの通電が一時的に停止する。これにより、各電磁石の磁極も一時的に消滅する。この後で、モータ18の状態と逆方向に各コイル18dに通電すると、回転子18aが更に反時計回りに回転してモータ18Eの状態に遷移する。
【0049】
上記のようなコイル18dの通電制御を、
図1に示したモータ制御装置10が実施することにより、回転子18aを連続的に回転駆動することができる。
【0050】
<動作例-2>
図4に示したモータ50の構成においては、固定子コア50cの断面形状が円周方向に対して対称になっている。
【0051】
図4において、中央のモータ50の状態では、回転子50aが相切替位置に停止し、永久磁石のN極/S極の境界位置にホール素子11が対向している。このモータ50の状態で、固定子50bのコイルに通電すると、回転子50aが反時計回りに回転してモータ50Aの状態になる場合と、時計回りに回転してモータ50Bの状態になる場合との両方の可能性がある。
【0052】
実際には、中央のモータ50の状態で停止している位置のオフセットしだいで、モータ50の回転方向が決まり、モータ50Aの状態、又はモータ50Bの状態に遷移する。したがって、
図4のモータ50の場合は、目的の方向と逆の方向にモータ50が回転してしまう可能性がある。
【0053】
<動作例-3>
図5に示したモータ18は、固定子コア18cと回転子18aとの距離が近い部分と遠い部分ができている。回転子18aは磁極の中央が最も強く磁化されており、その部分が固定子コア18cと回転子18aとの距離が最も短くなるところに引き寄せられる。そのため、
図5のモータ18Fのように、回転子18aの永久磁石のN極/S極の境界位置にホール素子11が対向し停止している状態において、コイル18dが無通電であっても反時計回り方向の回転トルク(コギングトルク)が発生する。
【0054】
したがって、
図5に示した停止状態のモータ18Fを通電して駆動する場合には、
図4に示したモータ50の場合とは異なり、反時計回りの方向へ確実に回転してモータ18Gの状態に遷移することになる。
【0055】
図1に示したモータ制御装置10においても、モータ18の回転方向が確実に決まるように、
図5の例と同様に形状が非対称の固定子コア18cを有するモータ18を駆動する場合を想定している。
【0056】
<実施形態のモータ制御装置の動作特性>
図6(a)及び
図6(b)は、
図1のモータ制御装置における動作特性を表すグラフであり、
図6(a)は位置とコイルにかかる平均電圧の対応関係を示し、
図6(b)は位置とトルク及び電流の対応関係を示す。
【0057】
図6(a)及び
図6(b)において、横軸は回転子18aの位置を表す電気角[°]を表す。
図6(a)の縦軸はコイルにかかる平均電圧VO[V]、
図6(b)の縦軸はトルク[N・m]及び電流[A]をそれぞれ表す。
【0058】
図6(a)に示すように、回転子18aの回転位置の変化に伴って、電磁誘導による誘起電圧Vxが発生する。また、
図6(a)及び
図6(b)中の横軸0°、180°、360°の位置は、
図2中の相切替位置P1、P2、P3、・・・に相当する。つまり、モータ18を回転駆動する場合には回転子18aのN極/S極の境界にホール素子11が対向している状態で、コイル18dの通電方向を切り替えるための相切替を実施する必要がある。
【0059】
但し、コイル18dのインダクタンスの影響で、印加電圧に対して電流の変化が遅れるので、モータ制御装置10の進角制御部13は進角制御(C1)を実施する。つまり、駆動回路16及びインバータ17が各相切替位置よりも少し手前の位置にある進角制御位置PA1、PB1で印加電圧を順方向(+)から逆方向(-)に切り替えて、各相切替位置で電流の方向が切り替わるように制御する。各位置PA、PBと進角制御位置PA1、PB1との位相差は、PWM生成部14により決定される。
【0060】
また、モータ制御装置10のPWM生成部14、15、及び駆動回路16は、各進角制御位置PA1、PB1で切替前の電流が急峻に減るような制御C2を行う。具体的にはPWM信号のデューティを一時的に最大(100%)に定める。
【0061】
例えば、モータ18のコイル18dに印加される平均電圧VOは、
図6(a)中の進角制御位置PA1でプラス24[V](順方向電圧)からマイナス24[V](逆方向電圧)に切り替わり、進角制御位置PB1ではマイナス24[V]からプラス24[V]に切り替わる。
【0062】
相切替の直前にはコイル18dが大きなエネルギーを蓄積しているので、インバータ17が電圧の印加を停止しても電流の大きさはゆっくりと低下する。しかし、制御C2により相切替時にPWM信号のデューティを一時的に最大にすることで、逆方向の大きなエネルギーを与えることになり、コイル18dが蓄積したエネルギーを素早く放出することができ、コイル18dに流れる電流が急峻に低下するように制御できる。
【0063】
各位置PA、PBのタイミングでは、総トルクが過大となることを防ぐために、ここから制御C3を開始して通電の立ち上がり制御を行う。すなわち、
図2に示した信号SG4の区間RAに相当するPWM信号を用いて電流のピーク値を抑える制御を行う。この区間RAにおけるPWM信号のデューティは、総トルクの脈動を減少させる値に調整される。これにより、例えば
図6(a)のように平均電圧VOが10[V]程度まで下がる。
【0064】
区間RAが終了し、電流波形の立ち上がりが完了した後は、制御C4を実行する。制御C4では、モータ18の駆動トルクが低下するのを防ぐために、PWM信号のデューティを例えば最大値に定めてこの状態を維持する。
【0065】
なお、
図6(a)に示した例では、制御C4においてPWM信号のデューティを最大値に維持しているので、相切替前の電流波形の立ち下がり、すなわち区間RBではソフトスイッチングを行っていない。
【0066】
駆動回路16は、区間RBで、PWM生成部15が出力するPWM信号SG5を用いてソフトスイッチングを行ってもよい。例えば、相切り替え時の電流が急峻すぎるためにコイルで発生する振動が大きい場合は、ソフトスイッチングを行う方がよい。この場合でも、コイル18dに流れる電流の波形は、立ち下がりと立ち上がりとが非対称になるよう制御される。
【0067】
一方、
図6(b)中に示した出力電流Ioutは、回転子18aの各位置におけるモータ18のコイル18dに流れる電流を示している。また、回転に伴ってモータ18に発生するコギングトルクTcと、出力電流Ioutに応じて発生するマグネットトルクとの和が総トルクTtとして
図6(b)中に示されている。
【0068】
つまり、
図6(a)に示した例のようにモータ制御装置10が平均電圧VOを非対称に制御した場合に、
図6(b)のように総トルクTtが変化する。ここで、総トルクTtの脈動を小さくすることで、駆動時にモータ18が発生する機械振動や騒音を低減できると考えられる。
【0069】
図6(b)に示すように、コギングトルクTcは回転子18aの回転に伴って正弦波状に変動する。また、
図6(a)に示した制御C1、C2により、
図6(b)中の出力電流Ioutは、位置PAの手前の進角制御位置PA1から急峻に低下して、位置PAで方向(極性)が切り替わる。また、位置PAで出力電流Ioutの方向が切り替わった後は、制御C3で電流のピーク値を抑える制御を行い、総トルクTtが過大となることを抑制する。また、位置PA2になるとオンデューティを可変するPWM制御を終了して制御C4に移行するので、出力電流Ioutは進角制御位置PB1まで比較的に緩やかに増大し、コギングトルクの減少を補うようにマグネットトルクを強める。
【0070】
出力電流Ioutの波形を上記のように制御することにより、モータ18が回転する際に発生する総トルクTtは、
図6(b)に示すように脈動幅が小さい波形に制御される。
【0071】
<実施形態と従来とのトルク変化の対比>
図7は、
図1のモータ制御装置10におけるトルクTtの変化と、従来の制御におけるトルク変化とを対比して表すグラフである。
図7において、横軸は回転位置の電気角[°]を表し、縦軸はトルク[mN・m]を表す。
【0072】
図7において、「従来の制御」は、例えば特許文献1で示されている制御のように、相切替の前後でソフトスイッチングを適用した制御に相当する。
【0073】
図7に示すように、従来トルクは変動幅が0.7[mN・m]程度であるのに対し、実施形態のモータ制御装置10における総トルクTtの変動幅は0.35[mN・m]程度まで低減されている。
【0074】
<モータの振動特性の対比>
図1のモータ制御装置10の制御、及び従来の制御における振動特性を
図8(a)及び
図8(b)にそれぞれ示す。
図8(a)及び
図8(b)は、トルクの計測に替えて3軸方向の振動をそれぞれ計測した結果を表している。
【0075】
図8(b)の内容に相当する「従来の制御」は、例えば特許文献2の
図4に示されている制御のように、相切替の前後でソフトスイッチングを適用した場合に相当する。
【0076】
実用的には、相切替のタイミングの0[°]から25[°]程度までの範囲、つまり
図8(b)中の領域ARの区間の振動を低減することが重要であるが、
図8(a)中の3軸の振動パワーは、
図8(b)中の領域ARの区間と比べて大幅に低減されていることが分かる。
【0077】
<実施形態のモータ制御装置の利点>
図1に示したモータ制御装置10においては、
図6(a)に示すように各相切替位置の手前の進角制御位置PA1、PB1から位置PA、PBまでの範囲で制御C1、C2を行うので、
図6(b)のように出力電流Ioutを急峻に低下させて、相切替前の総トルクTtが過少になることを抑制することができる。また、
図6(a)に示すように各位置PA、PBの後で制御C3を行い、PWM信号のデューティを調整して電流のピーク値を抑え、相切替後の総トルクTtが過大になることを抑制することができる。更に、位置PA2の後で、
図6(a)のように制御C4を行い、PWM信号のデューティを最大化するので、総トルクTtの低下を防止できる。
【0078】
つまり、
図6(b)に示すコギングトルクTcの変動を考慮した場合の総トルクTtにおける脈動幅が小さくなるように、出力電流Ioutの波形を適切に制御することができる。いずれにしても、
図6(a)のように、相切替の前後のタイミングにおいて出力電流Ioutとコイルにかかる平均電圧の波形の立ち下がりと立ち上がりとが非対称になるように制御することか不可欠である。つまり、
図6(a)の制御C1、C2、C3、及びC4により、モータ18の駆動時に発生する振動及び騒音を低減できる。
【0079】
以上のように、本発明の実施形態に係るブラシレスモータ制御方法およびブラシレスモータ制御装置によれば、リラクタンスコギングトルクに起因するトルク脈動を低減して振動を低減することができる。
【符号の説明】
【0080】
10 モータ制御装置
11 ホール素子
12 相切替時間計測部
13 進角制御部
14,15 PWM生成部
16 駆動回路
17 インバータ
17a,17b,17c,17d トランジスタ
18,18B,18C,18D,18E モータ
18a 回転子
18b 固定子
18c 固定子コア
18d コイル
21 電源ライン
22 アースライン
23,24 出力ライン
50,50A,50B モータ
C1,C2,C3,C4 制御
Iout 出力電流
P1,P2,P3 相切替位置
PA,PB 制御C3開始位置
PA1,PB1 進角制御位置
PA2 制御C4開始位置
SG1,SG2,SG3,SG4,SG5 信号
SG7A,SG7B 出力信号
Tt 総トルク
Tc コギングトルク
RA,RA2,RB,RB2 PWM制御区間
VO 平均電圧
Vx 誘起電圧