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特開2022-102776分光蛍光光度計、分光蛍光測定方法及び画像撮像方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102776
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】分光蛍光光度計、分光蛍光測定方法及び画像撮像方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20220630BHJP
   G01N 21/03 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N21/64 B
G01N21/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217723
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 魁
(72)【発明者】
【氏名】堀込 純
(72)【発明者】
【氏名】坂元 秀之
【テーマコード(参考)】
2G043
2G057
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043CA03
2G043DA06
2G043EA01
2G043EA02
2G043FA01
2G043FA03
2G043HA09
2G043JA04
2G043JA05
2G043LA03
2G057AA04
2G057AB01
2G057AC01
2G057BA01
(57)【要約】
【課題】液体試料の蛍光測定において、スペクトルと試料画像の双方を取得する分光蛍光光度計を提供する。
【解決手段】光源11と、光源11の光を分光して励起光を生成する励起側分光器12と、励起光が照射された試料Sから放出された蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器15と、液体試料を収容する透明材料からなる試料容器を保持するため試料容器設置部19と、前記液体試料から放出された蛍光を検知する検知器16と、蛍光を放出する試料の試料画像を撮像する撮像装置20と、を備える分光蛍光光度計であって、試料容器設置部19が、励起光が通過するためのポートP1と、試料から放出される蛍光が通過するためのポートP3と、撮像装置が試料を観察するためのポートP4と、を備える。
【選択図】図6A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源の光から分光して励起光を生成する励起側分光器と、
前記励起光が照射された試料から放出された蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器と、
液体試料を収容する透明材料からなる試料容器を保持するための試料容器設置部と、
前記液体試料から放出された蛍光を検知する検知器と、
蛍光を放出する前記液体試料の試料画像を撮像する撮像装置と、を備える分光蛍光光度計であって、
前記試料容器設置部が、励起光入射方向および蛍光出射方向にポートを有し、さらに他の方向に前記撮像装置が前記試料画像を撮像するためのポートを有する、
分光蛍光光度計。
【請求項2】
請求項1に記載の分光蛍光光度計であって、
前記撮像装置が前記試料容器設置部の底面方向の位置に設けられ、
前記撮像装置は、試料から放出される蛍光を前記試料容器設置部の底面方向から直接捉えて前記試料画像を撮像する、分光蛍光光度計。
【請求項3】
請求項1に記載の分光蛍光光度計であって、
前記撮像装置が、前記試料容器設置部の側面方向の位置に設けられ、
前記撮像装置は、試料から放出される蛍光を前記試料容器設置部の側面方向から直接捉えて前記試料画像を撮像する、分光蛍光光度計。
【請求項4】
光源と、
前記光源の光から分光して励起光を生成する励起側分光器と、
前記励起光が照射された試料から放出された蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器と、
液体試料を収容する透明材料からなる試料容器を保持するための試料容器設置部と、
前記液体試料から放出された蛍光を検知する検知器と、
蛍光を放出する前記液体試料の試料画像を撮像する撮像装置と、を備える分光蛍光光度計を用いた分光蛍光測定方法であって、
前記試料容器設置部における励起光入射方向に設けられたポートから励起光が入射し、
前記検知器が、前記試料容器設置部における蛍光出射方向に設けられたポートから蛍光を検知し、
前記撮像装置が、前記試料容器設置部におけるさらに他の方向に設けられたポートを介して前記試料画像を撮像する、
分光蛍光測定方法。
【請求項5】
分光蛍光光度計を用いた画像撮像方法であって、
試料に励起光を照射し、
前記試料から蛍光とりん光が放出された後、励起光を遮断し、
励起光を遮断後に前記試料から放出されるりん光のみを検出し、
りん光の検出タイミングに同期して試料画像を撮像する、
画像撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光蛍光光度計、分光蛍光測定方法及び画像撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分光蛍光光度計は様々な試料に励起光を照射し、試料から発生する蛍光を測定することにより試料に含まれる物質を分析する装置である。すなわち、分光蛍光光度計では、試料に励起光を照射し、試料から放出された蛍光を分光し、励起スペクトル、蛍光スペクトル、時間変化、三次元蛍光スペクトルなどのスペクトルデータを取得する。励起光は光学系に応じた面積(一般的に1~2cm程度)に照射され、そのスポットで放出された蛍光を検出している。
【0003】
特許文献1は、積分球と撮像装置を分光蛍光光度計に搭載して、試料のスペクトルの測定と画像の撮像とを同時に行う分光蛍光光度計を開示している。
【0004】
特許文献2は、液滴試料の吸光度を測定する分光光度計として、撮像装置を用いて平面基板上に保持した試料の側方から試料を観察する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-020362号公報
【特許文献2】特開2006-258538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、一般的な分光蛍光光度計では、励起光を照射した際の蛍光スペクトルや、励起光の波長を変化させた際の蛍光強度の変化を励起スペクトルとして取得している。この際、試料を設置する試料室は暗室にする必要があるため、励起光が照射された際の試料の蛍光の発光色や発光強度などの状態について確認することは困難である。
【0007】
特許文献1に開示の分光蛍光光度計は、スペクトル測定中の試料の画像を撮像し、面内の発光状態の分布を観察するため、任意の励起波長を照射した際の試料の画像を取得することが可能である。開示されている装置では、積分球と撮像装置とを搭載し、試料を積分球の開口部の近傍に設置する。一般に積分球の内面には、硫酸バリウムなどの反射率の高い白色材料が塗布されている。液体試料の場合、積分球の開口部近傍に試料を設置することは、試料によって積分球内面を汚染する恐れがあるため、液体試料への適用に適しているとは言えない。また、積分球を使用することにより、試料へ照射される励起光及び試料から放出される蛍光が、積分球の内面で反射または散乱を繰り返した後に試料に照射され、または検知器にて検知されるため、試料に照射される励起光及び検知器にて検知される蛍光の光量は、比較的小さくなってしまう。
【0008】
特許文献2に開示の分光光度計は、試料保持板上に液滴状の試料を保持させ、試料の側方から撮像装置によって観察を行う。この構成を分光蛍光光度計に適用させようとすると、液滴試料の設置状態や液滴の大きさによって、試料から放出される蛍光の発光方向などが変化してしまい、正確な測定を行うことが出来ない可能性がある。
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、複雑な光学系を必要とせず、液体試料の測定においても、容易にスペクトルの測定と画像の撮像を同時に行うことが出来る分光蛍光光度計の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の分光蛍光光度計は、光源と、前記光源の光から分光して励起光を生成する励起側分光器と、前記励起光が照射された試料から放出された蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器と、液体試料を収容する透明材料からなる試料容器を保持するための試料容器設置部と、前記液体試料から放出された蛍光を検知する検知器と、蛍光を放出する前記液体試料の試料画像を撮像する撮像装置と、を備える。
【0011】
前記試料容器設置部は、励起光入射方向および蛍光取り出し方向にポートを有し、さらに他の方向に前記撮像装置が前記試料画像を撮像するためのポートと、を備える。
【0012】
本発明において例えば、前記撮像装置が、前記試料容器設置部の底面方向の位置に設けられ、前記撮像装置は、試料から放出された蛍光を前記試料容器設置部の底面方向から直接捉えて前記試料画像を撮像する。
【0013】
本発明の分光蛍光光度計を用いた分光蛍光測定方法は、光源と、前記光源の光から分光して励起光を生成する励起側分光器と、前記励起光が照射された試料から放出された蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器と、液体試料を収容する透明材料からなる試料容器を保持するための試料容器設置部と、前記液体試料から放出された蛍光を検知する検知器と、 蛍光を放出する前記液体試料の試料画像を撮像する撮像装置と、を備える分光蛍光光度計を用いた分光蛍光測定方法であって、前記試料容器設置部における励起光入射方向に設けられたポートから励起光が入射し、前記検知器が、前記試料容器設置部における蛍光出射方向に設けられたポートから蛍光を検知し、前記撮像装置が、前記試料容器設置部におけるさらに他の方向に設けられたポートを介して前記試料画像を撮像する。
【0014】
本発明の分光蛍光光度計を用いた画像撮像方法は、試料に励起光を照射し、前記試料から蛍光とりん光が放出された後、励起光を遮断し、励起光を遮断後に前記試料から放出されるりん光のみを検出し、りん光の検出タイミングに同期して試料画像を撮像する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単な構成によって液体試料の試料画像とスペクトルを同時に取得することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明に係る分光蛍光光度計の一実施形態を示すブロック図である
図2図2は、分光蛍光光度計において、励起波長に対する蛍光の強度を示す励起スペクトルを示す図である。
図3図3は、分光蛍光光度計の測定において、蛍光波長の強度を示す蛍光スペクトルを示す図である。
図4図4は、分光蛍光光度計において、特定波長の励起光に対応した特定波長の蛍光の強度の時間変化スペクトルを示す図である。
図5A図5Aは、三次元スペクトルを示す図であり、励起波長、蛍光波長、蛍光強度の三次元蛍光スペクトルを示す。
図5B図5Bは、三次元スペクトルを示す図であり、時間、蛍光波長、蛍光強度の三次元時間変化スペクトルを示す図である。
図6A図6Aは、試料容器設置部の構成を示す概略図であって斜視図を示す。
図6B図6Bは、試料容器設置部の構成を示す概略図であって上面図を示す。
図6C図6Cは、試料容器設置部の構成を示す概略図であって側面図を示す。
図6D図6Dは、試料容器設置部の構成を示す概略図であって励起光照射時の上面図を示す。
図6E図6Eは、試料容器設置部の構成を示す概略図であって他の構成の斜視図を示す。
図6F図6Fは、試料の画像を撮像するためのポートを試料容器設置部の側方部に設けた場合の例を示す。
図7A図7Aは、試料容器設置部とカメラモジュールの構成を示す図であり、カメラモジュールが試料容器設置部を直接観察する構成を示す。
図7B図7Bは、試料容器設置部とカメラモジュールの構成を示す図であり、カメラモジュールが試料容器設置部をミラーを介して間接的に観察する構成を示す。
図8A図8Aは、試料の画像およびスペクトルの例を示す図であって、白色光照射時の画像を示す。
図8B図8Bは、試料の画像およびスペクトルの例を示す図であって、任意の波長の単色光の照射時の画像を示す。
図8C図8Cは、試料の画像およびスペクトルの例を示す図であって、当該単色光照射時の蛍光スペクトルを示す。
図9A図9Aは、励起光を照射した際の試料容器設置部の構成と、その時撮像される画像の例を示す図であり、試料容器設置部の上面図を示す。
図9B図9Bは、励起光を照射した際の試料容器設置部の構成と、その時撮像される画像の例を示す図であり、試料容器設置部の底面方向から撮像した画像を示す。
図9C図9Cは、励起光を照射した際の試料容器設置部の構成と、その時撮像される画像の例を示す図であり、試料容器設置部の蛍光取り込み方向からの側面図を示す。
図9D図9Dは、励起光を照射した際の試料容器設置部の構成と、その時撮像される画像の例を示す図であり、試料容器設置部の側面方向から撮像した画像を示す。
図10図10は、試料容器設置部に設置する白板を示す図である。
図11図11は、りん光測定時におけるタイミングチャートを示す図であり、(a)は励起光のタイミングチャート、(b)は蛍光とりん光のタイミングチャート、(c)は検知器による検出のタイミングチャート、(d)はカメラモジュールによる露光のタイミングチャートをそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る分光蛍光光度計の好適な実施形態を図1図11に基づいて記述する。
【0018】
図1は、本発明に係る分光蛍光光度計の一実施形態を示す構成ブロック図である。図1を用いて本実施形態の分光蛍光光度計の構成を記述する。
【0019】
本実施形態の分光蛍光光度計1は、試料に励起光を照射して、試料から放出された蛍光を測定する装置であり、光度計部10と、光度計部10内に配置され、光度計部10をコントロールし試料を分析するデータ処理部30と、入出力を行う操作部40とを備える。
【0020】
光度計部10は、連続光を放出する光源11と、光源11の光から分光して励起光を生成する励起側分光器12と、励起側分光器12からの光を分光するビームスプリッタ13と、ビームスプリッタ13で分光された一部の光の強度を測定するモニタ検出器14と、試料から放出された蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器15と、液体試料から放出された蛍光を単色の蛍光の電気信号として検知する検知器(蛍光検知器)16と、励起側分光器12の回折格子を駆動する励起側パルスモーター17と、蛍光側分光器15の回折格子を駆動する蛍光側パルスモーター18と、測定対象の試料(液体試料)Sを収容して保持する試料容器設置部19と、を備える。
【0021】
データ処理部30はコンピュータ31と、コンピュータ内に配置される制御部32と、試料からの蛍光をデジタル変換するアナログデジタル変換器33と、を備える。また、操作部40は、コンピュータ31の処理に必要な入力信号を入力する操作パネル41と、コンピュータ31により処理された各種分析結果を表示する表示部42と、操作パネル41及び表示部42とコンピュータ31とを連結するインターフェース43と、を備える。
【0022】
操作者が操作パネル41により入力した測定条件に応じて、コンピュータ31が励起側パルスモーター17に信号を出力し、励起側パルスモーター17が駆動して励起側分光器12が目的の波長位置に設定される。また、同じく測定条件に応じて、コンピュータ31が蛍光側パルスモーター18に信号を出力し、蛍光側パルスモーター18が駆動して蛍光側分光器15が目的の波長位置に設定される。励起側分光器12、蛍光側分光器15は、所定のスリット幅を持つ回折格子やプリズムなどの光学素子を有しており、励起側パルスモーター17、蛍光側パルスモーター18を動力とし、ギヤやカム等の駆動系部品を介して光学素子を回転運動させることでスペクトル走査が可能となる。
【0023】
液体状の試料Sを例えば10mmの角形セルに分注して試料容器設置部19に設置する。その際、励起光を照射し、励起光に対して90度方向の側方に生じる蛍光を測定する。
【0024】
さらに、本実施形態においては、試料容器設置部19の近傍(例えば、試料容器設置部19の下部)にカメラモジュール(撮像装置)20が設けられている。カメラモジュール20は、試料からの蛍光の電気信号を検知して、スペクトルの強度を取得する検知器16とは異なり、蛍光を放出する試料Sからの蛍光による試料画像(試料から放出された蛍光の画像)を撮像し、取得する装置である。カメラモジュール20は試料画像を撮像可能な一般的な装置を用いることができる。
【0025】
一般に、検知器16から得られる試料Sからの蛍光の電気信号は、蛍光の強度を示す種々のスペクトルの形式で、表示部42が表示する。図2図5は、本実施形態の分光蛍光光度計1のみならず、一般的な分光蛍光光度計によっても得られる、二つの軸を含む二次元スペクトル、または三つの軸を含む三次元スペクトルの例を示している。図2はスペクトルの一例である励起スペクトル、図3はスペクトルの一例である蛍光スペクトル、図4はスペクトルの一例である時間変化スペクトル、図5A図5Bはスペクトルの一例である三次元スペクトルをそれぞれ示す。
【0026】
図2に示す励起スペクトルは、試料に対し、励起光の励起波長を変化させた際の蛍光強度を測定することにより得られるスペクトルである。励起側分光器12が励起波長を測定開始波長から測定終了波長まで変化させ、各波長の励起光を試料に照射する。その時の固定波長に設定されている蛍光側分光器15を経て特定波長の蛍光を検知器16が検出し、アナログデジタル変換器33を介してコンピュータ31に信号強度として取り込まれる。コンピュータ31(制御部32)が、この信号強度を解析処理し、表示部42が表示可能なスペクトルを生成する。
【0027】
表示部42は、測定結果として、励起波長と蛍光波長の図2に示されるような2次元の励起スペクトルを表示する。図2のスペクトル(グラフ)は、特定の蛍光波長(例えば550nm)において励起波長を変化させた際の蛍光強度(任意単位)を示している。
【0028】
図3に示す蛍光スペクトルは、試料に対し、固定波長の励起光を照射し、蛍光波長を変化させた際の波長毎の蛍光強度を測定することにより得られるスペクトルである。固定波長に設定された励起側分光器12からの励起光を試料に照射する。蛍光側分光器15は、その時の測定対象の蛍光を測定開始波長から測定終了波長まで変化させ、波長毎の蛍光の変化を検知器16が検出し、アナログデジタル変換器33を介してコンピュータ31に信号強度として取り込まれる。コンピュータ31(制御部32)が、この信号強度を解析処理し、表示部42が表示可能なスペクトルを生成する。
【0029】
表示部42には、測定結果として、蛍光波長と蛍光強度の図3に示されるような2次元の蛍光スペクトルを表示する。図3のスペクトルは、励起光が特定波長(例えば、450nm)であり、蛍光波長を変化させた際の蛍光強度を示している。
【0030】
図4に示す時間変化スペクトルは、試料に対し、固定波長の励起光を照射し、固定波長の蛍光強度を単位時間毎に測定することにより得られるスペクトルである。固定波長に設定された励起側分光器12からの励起光を試料に照射し、その時に生じる蛍光をその時の固定波長に設定されている蛍光側分光器15を経て、時間毎の蛍光の強度変化を検知器16が検出する。これがアナログデジタル変換器33を介してコンピュータ31に信号強度として取り込まれる。
【0031】
表示部42は、測定結果として、測定時間と蛍光強度の図4に示されるような2次元の時間変化スペクトルを表示する。図4のスペクトルは、特定波長の励起光に対応した特定波長の蛍光(例えば550nm)の強度を検知した結果を示している。時間が経過することにより、試料中の蛍光物質の変化、分解などが生ずるため、強度は下がることが多い。
【0032】
図5Aは、表示部42が表示する三次元スペクトルであり、特に三次元蛍光スペクトルを示す。試料に対し、励起波長を固定した際の蛍光スペクトルを測定し、蛍光スペクトル走査が終了したら、蛍光波長を測定開始波長に戻し、励起波長を所定の波長間隔だけ駆動、次の励起波長における蛍光スペクトルを測定する。得られた蛍光スペクトルを励起波長、蛍光波長、蛍光強度の三次元で記憶し、励起波長が最終の波長に達するまで繰り返すことにより、三次元蛍光スペクトルを取得することができる。本スペクトルは、図2の励起スペクトルと図3の蛍光スペクトルの組み合わせということができる。
【0033】
得られた三次元蛍光スペクトルは、同一の蛍光強度をそれぞれ線で結び、等高線図や鳥瞰図等の模擬三次元形式にて描写される。等高線で山となる励起波長および蛍光波長が、試料に適した励起波長、特徴的な蛍光波長となり、操作者は、試料の測定範囲内の励起波長と蛍光波長の蛍光特性を、容易に把握することが可能となる。このような三次元蛍光スペクトルは、試料中の蛍光物質の成分数や成分の同定等、多くの情報を得ることができる点で有用である。
【0034】
図5Bは、表示部42が表示する他の三次元スペクトルであり、特に三次元時間変化スペクトルを示す。試料に対し、励起波長を固定した際の蛍光スペクトルを測定し、蛍光スペクトル走査が終了したら、蛍光波長を測定開始波長に戻し、一定時間後、同じ励起波長における蛍光スペクトルを測定する。得られた蛍光スペクトルを測定時間、蛍光波長、蛍光強度の三次元で記憶し、設定された測定時間に達するまで繰り返すことにより、三次元時間変化スペクトルを取得することができる。本スペクトルは、図3の蛍光スペクトルと図4の時間変化スペクトルの組み合わせということができる。得られた三次元時間変化スペクトルは、同一の蛍光強度をそれぞれ線で結び、等高線図や鳥瞰図等の模擬三次元形式にて描写される。このような三次元時間変化スペクトルは、蛍光スペクトルの時間変化を得るのに有用である。
【0035】
本実施形態において、ビームスプリッタ13で分光された励起光は測定対象試料Sに照射される。このとき、一部の励起光は試料Sを透過し、直進する。カメラモジュール20は、試料Sから放出される蛍光の観察を行うため、測定試料Sに照射される励起光照射方向と同一方向の設置を避けることが望ましく、例えば試料容器を側方方向または底面方向から観察するような位置に配置される。
【0036】
放出された蛍光を蛍光側分光器15が取り込み、単色光に分光し、検知器16がこの単色光を検出し、アナログデジタル変換器33を経てコンピュータ31に信号強度として取り込まれ、表示部42にて各種分析結果が表示される。一方、他方向へ放出された蛍光をカメラモジュール20が撮像し、試料画像を取得し、表示部42にて表示される。
【0037】
図6A図6Eは、液体試料を収容する角形セルのごとき試料容器5を保持する試料容器設置部19の構成の一例を示す図であり、図6Aは試料容器設置部19の斜視図、図6Bは試料容器設置部19の上面図、図6Cは試料容器設置部19の蛍光取り込み方向(ポートP3側から見た方向)からの側面図を示す。本例の試料容器設置部19は、角形セルのごとき透明材料からなる試料容器5を底面及び側面の五つの面で保持し、かつ試料容器設置部19の外面と内面を貫通する四つのポート(穴)P1~P4が設けられている。試料容器設置部19の各面において、ポートP1~P4以外の部分は、光を遮光する材質で構成されている。
【0038】
ポートP1とポートP2は互いに対向する面に設けられている。また、ポートP3はポートP1及びポートP2に対し、その側方に所定の角度(本実施形態では90度)をもって設けられている。ポートP4は試料容器設置部19の底面部にそれぞれ設けられている。ビームスプリッタ13に対向する位置のポートP1は、励起光側分光器12で生成され、ビームスプリッタ13で分光された励起光が透過可能となっており、その形状に応じて試料に対する励起光の照射範囲を制御する。ポートP2は、ポートP1と対向する位置に設けられ、試料を透過した励起光が直線方向に透過可能となっている。蛍光側分光器15に対向する位置のポートP3および、試料設置部19の底面に設けられたポートP4は、試料から放出された蛍光が透過可能である。
【0039】
本構成において、ポートP1の方向から励起光を入射させた際、ポートP1の形状と位置に応じた照射範囲の励起光が試料容器設置19内の試料に照射される。図6Dは、本構成における試料容器設置部19に対して励起光を照射した際の光束の横の長さ(幅)について示す試料容器設置部19の上面図である。例えば、試料容器設置部19へ幅W1の長さに相当する光束の励起光L1を照射した時、励起光L1より狭い幅W2のポートP1を設けると、試料容器設置部19内の試料へ照射される励起光L2の幅は、ポートP1の幅W2となる。このとき、一部の励起光は試料中を直進し、ポートP2の方向へ通過する。試料中を直進した励起光が、試料容器設置部19の内壁で反射し、蛍光測定に影響を及ぼす可能性があることから、ポートP2の大きさ(幅)は、ポートP1と同一、またはポートP1よりも大きくすることが好ましい。ポートP1によって指定された励起光照射範囲の試料から放出された蛍光は、ポートP3を通過して蛍光側分光器15に導かれ、スペクトルが測定される。
【0040】
図6Eは、本構成における試料容器設置部19に対して、励起光を照射した際の光束の縦の長さ(高さ)について示す試料容器設置部19の蛍光取り込み方向からの側面図である。本構成において、試料容器設置部19へ縦の長さH1に相当する光束の励起光L3を照射した時、励起光L3より短い縦の長さH2のポートP1を設けると、試料容器設置部19内の試料へ照射される励起光L4の縦の長さは、ポートP1の縦の長さH2となる。このとき、一部の励起光は試料中を直進し、ポートP2の方向へ通過する。試料中を直進した励起光が、試料容器設置部19の内壁で反射し、蛍光測定に影響を及ぼす可能性があることから、ポートP2の大きさ(縦の長さ)は、ポートP1と同一、またはポートP1よりも大きくすることが好ましい。試料から放出された蛍光は、ポートP3を通過して蛍光側分光器15に導かれ、スペクトルが測定される。このとき、試料から放出される蛍光は、試料に対して励起光が照射された範囲から放出される。蛍光側分光器15に導かれる蛍光の光量を大きくするために、ポートP3の位置および大きさは、ポートP1の位置によって指定される励起光照射範囲に相当するものとすることが望ましい。すなわち、ポートP3の位置および大きさは、励起光L4と合致することが好ましい。
【0041】
分光蛍光光度計で用いられる角形セルのごとき試料容器5は、底面部が透明であるため、試料から放出された蛍光は、ポートP4を通過し、カメラモジュール20へ導かれ、試料の画像が撮像される。底面が平坦かつ透明な試料容器5を試料容器設置部19に設置すると、カメラモジュール20は平坦面を観察することになり、鮮明な画像を得ることができる。
【0042】
すなわち、試料容器設置部19は、励起光入射方向にポートP1、蛍光出射方向にポートP3を少なくとも有しているが、さらに他の方向にカメラモジュール20が試料画像を撮像するためのポートP4を有している。図6A図6Eの例では、ポートP4が試料容器設置部19の底面方向の位置に設けられ、カメラモジュール20も試料容器設置部19の底面方向に設けられ、試料Sから放出される蛍光を直接捉えて試料画像を撮像する。
【0043】
なお、試料容器設置部19は、蛍光取り込み方向または、カメラモジュール20の方向が試料を直進する励起光の影響を受けないことが満たされていれば、形状および寸法、各ポートの数、形状、方向は制限される必要はない。例えば、図6Fは試料の画像を撮像するためのポートP4を試料容器設置部19の側方部に設けた場合の例を示す。この場合、ポートP4はポートP3に対向する位置に設けられ、角形セルのごとき試料容器5を側面から観察する。すなわち、ポートP4が試料容器設置部19の側面方向の位置に設けられ、カメラモジュール20も試料容器設置部19の側面方向に設けられ、試料Sから放出される蛍光を直接捉えて試料画像を撮像する。
【0044】
本構成においてカメラモジュール20は、励起光照射範囲に焦点が合うようなレンズ、光量調整用の絞り、不要光をカットするロングパスフィルター、撮像素子等により構成される。カメラモジュール20は、データ処理部30のコンピュータ31により制御される。
【0045】
図7A及び図7Bは、試料容器設置部19と、試料容器設置部19内の試料容器および試料を観察するカメラモジュール20の構成について、試料容器設置部19の蛍光取り込み方向からの側面図で示す図であり、図7Aは試料容器設置部19の底面部をポートP4を介して直接カメラモジュール20が観察する構成について示す図であり、図7Bはカメラモジュール20が試料容器設置部19の底面部を、ポートP4およびミラー100を介して観察する構成をについて示している。ミラー100は画像撮像のため、アルミニウムなど鏡面で高い反射率を有する材料により構成することが望ましい(目安として反射率80%以上)。
【0046】
本発明の分光蛍光光度計1を用いて試料を観測する観測方法によれば、励起側分光器12で励起光の波長を連続的に変化させつつ、試料の画像の取得と蛍光スペクトルの取得を同時に行うことが可能となる。すなわち、励起光が断続せず、連続して励起光を変化させつつ、試料を直接撮影した画像をも取得できるため、精緻な観測を行うことができる。
【0047】
図8A図8Cは、試料容器5内の試料Sの測定において、試料容器設置部19の底面部から、ポートP4を介してカメラモジュール20によって撮像された画像および測定された蛍光スペクトルの一例を示す。励起側分光器12から照射される光をいわゆる0次光(励起波長EX=0nm)とすることで、分光されていない白色光を試料Sに照射することができる。図8Aは、試料Sに対して、白色光を照射した際に撮像された画像を示している。一方、図8Bは、任意の波長の単色光(図8B図8Cでは450nm、励起波長EX=450nm)を照射するように励起側分光器12を調整し、試料Sに対して上記単色光が照射された際に撮像される画像を示している。得られた画像のうち、試料容器設置部19の底面部に相当する部分(ポートP4以外の底面)は、遮光されているため黒色に見える。試料容器設置部19の底面部に設けられたポートP4は光が透過可能であるため、試料容器内に収容された試料Sについて、白色光または任意の波長の単色光が照射されたときの様子を観察することが可能である。試料Sから放出された蛍光を測定し、単色光に対応した各波長の蛍光の強度分布を検出することで、図8Cに示す蛍光スペクトルを得ることができる。図8Cの蛍光スペクトルにおいて、横軸は蛍光波長EM(nm)を表している。このとき、カメラモジュール20によって蛍光の観測と同時に撮影された試料Sの画像(図8B)は、試料Sから放出される蛍光に基づいた画像となる。
【0048】
カメラモジュール20によって観察される画像は、試料Sに照射される白色光および、ポートP1によって指定される励起光の形状によって変化するため、目的に応じて試料容器設置部19のポートP1の形状を変化させて画像を撮像する。図9Aは、試料容器設置部19について、幅W3を持つポートP1方向から励起光を照射させたときの上面図を示し、図9Bは、その時に試料容器設置部19の底面方向のポートP4からカメラモジュール20によって撮像された画像を示している(すなわち図6A図6Eの実施形態)。試料Sに照射される励起光の幅はポートP1の幅W3によって決定される。試料Sから放出される蛍光は、励起光が照射された範囲から放出されるため、得られる画像は、試料Sから、ポートP1の幅W3と同一の幅W4の範囲から蛍光が放出される画像となる。
【0049】
図9Cは、試料容器設置部19について、縦の長さH3を持つポートP1方向から励起光を照射させたときの、蛍光取り込み方向からの側面図を示し、図9Dは、その時に試料容器設置部19の蛍光取り込み方向と対向する側面のポートP4からカメラモジュール20によって撮像された画像を示している(すなわち図6Fの実施形態)。試料Sから放出される蛍光は、励起光が照射された範囲から放出されるため、得られる画像は、試料Sから、ポートP1の縦の長さH3と同一の縦の長さH4の範囲から蛍光が放出される画像となる。
【0050】
なお、図9B図9Dでは、蛍光が放出される幅を直線で表現しているが、試料Sから放出される蛍光は、全方位の方向へ放出されるため、実際に得られる画像は、幅や縦の長さの外側へにじみが生じた画像となる。
【0051】
図9A図9Dは、幅W3(幅W4)、縦の長さH3(縦の長さH4)を調整することを示しているが、このことは試料Sの量(試料容器5の大きさ)に応じてこれらの大きさを調整可能であることを示している。例えば試料Sが貴重な物質であり、その使用量(試料容器5の大きさ)が限られる場合は、幅W3、縦の長さH3が小さい試料容器設置部19を用いることにより、適切な測定を行うことができる。また、図9C図9Dに関しては、例えば試料Sが反応により相分離可能な材料である場合、試料容器5の中で反応を促すことにより例えば二層に相分離するが、最下層の部分の材料のみが縦の長さH4に対応する場合、最下層の部分の材料のみの測定を行うことが可能となる。幅W3、縦の長さH3を様々な値に変更した種々の試料容器設置部19をあらかじめ用意することができる。
【0052】
図10は、試料容器設置部19の底面方向から観察する場合の試料容器設置部19(すなわち図6A図6Eの実施形態)の上部に、白板200を設置した構成について示す、蛍光取り込み方向からの側面図である。白板200は試料容器設置部19の上部に設置され、その平坦面が試料容器設置部19の底面部のポートP4に対向している。白板200は、酸化アルミニウムやふっ素樹脂系白色板などの反射率の高い白色材料で構成されているか、もしくは前記白色材料が表面に塗布されている。白色材料は、白板200の一平面のみに適用されているなど、白板200全体を構成している必要は無い。
【0053】
試料Sから放出された蛍光の一部は、試料容器設置部19の上部に設置された白板200よって反射され、試料Sを通過してカメラモジュール20に取り込まれるため、白板200を設置しない場合に比べて、撮像される画像の輝度値の向上を図ることができる。この構成を適用する場合、試料Sから放出された蛍光が、試料S自身によって吸収され、減衰すること防ぐために、蛍光が放出される範囲から液面高さまでの距離D1は可能な限り短い方が好ましい。また、試料から放出された蛍光の多くが白板へ到達するために、試料Sの液面高さから白板200までの距離D2は可能な限り短い方が好ましい。
【0054】
次に、分光蛍光光度計1を利用した試料の画像撮像方法について説明する。一般的な分光蛍光光度計は、りん光の測定が可能である。りん光の測定は、蛍光と比べてりん光の寿命が長いことを利用して、試料に照射した励起光を一時的に遮断した後、りん光のみを測定する手法である。図11は本実施形態の分光蛍光光度計1による画像撮像の測定のタイミングチャートの一例を示した図である。本制御では、光度計部10、特にそのコンピュータ31が、励起側分光器12、検知器16及びカメラモジュール20の動作タイミングを制御する。
【0055】
まず、コンピュータ31が励起側分光器12を制御し、光源11からの励起光が任意の時間間隔のパルス状に試料Sに照射される(図11(a))。励起光が照射された直後の時間Tの間、試料Sは蛍光とりん光の両方を放出するが、励起光が遮断された後、寿命の長いりん光のみが時間T’の間放出される(図11(b))。時間T’のタイミングに合わせて、コンピュータ31が検知器16を制御し、光を検出する時間帯(サンプリングゲート)を対応させることで、りん光のみを測定することができる(図11(c))。この時コンピュータ31は、カメラモジュール20の露光タイミングを検知器16と同期させることによって(図11(d))、りん光を放出する試料Sのスペクトルの測定と試料画像の撮像を同時に行うことが可能である。
【0056】
上述の方法によれば、試料Sから放出されたりん光を測定することができるとともに、りん光による試料画像を撮像することができる。りん光を持つ物質は、通常時は人の肉眼には、蛍光とりん光の混合した光によって認識されるが、上述した様なりん光測定によって、蛍光とりん光を切り分けて評価することが可能となる。従来の分光蛍光光度計の測定では、りん光をスペクトルの形でのみ認識していたが、りん光の画像を得ることによって直接色彩情報等を取得し、試料について更に詳細な情報を得ることができる。
【0057】
分光蛍光光度計の使用例として、試料容器5内の試料に対して、特定の試薬を滴下後、試料を撹拌し、スペクトルの時間変化を測定する方法がある。本実施形態の分光蛍光光度計1においては、蛍光の時間変化に加えて、発光状態の画像の時間変化も観察することが可能である。一般的には、試料の撹拌のために、撹拌子を用いることが多く、そのために試料の観察が困難になる。本実施形態の分光蛍光光度計1によれば、試料Sを別方向からのポートP4より観察、撮像する、または試料Sの撹拌を周囲からの超音波照射など、他の方法をとることで観察が可能となる。
【0058】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0059】
1 分光蛍光光度計
5 試料容器
10 光度計部
11 光源
12 励起側分光器
13 ビームスプリッタ
14 モニタ検知器
15 蛍光側分光器
16 検知器
17 励起側パルスモーター
18 蛍光側パルスモーター
19 試料容器設置部
20 カメラモジュール(撮像装置)
30 データ処理部
31 コンピュータ
32 制御部
33 アナログデジタル変換器
40 操作部
41 操作パネル
42 表示部
43 インターフェース
100 ミラー
200 白板
P1 ポート
P2 ポート
P3 ポート
P4 ポート
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11