(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102823
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】改質木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27K 3/52 20060101AFI20220630BHJP
B27K 3/32 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
B27K3/52 Z
B27K3/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217803
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】阿部 充
(72)【発明者】
【氏名】関 雅子
(72)【発明者】
【氏名】三木 恒久
【テーマコード(参考)】
2B230
【Fターム(参考)】
2B230AA22
2B230BA03
2B230BA17
2B230CB13
2B230CB17
2B230CB21
2B230EB02
2B230EB03
(57)【要約】
【課題】木材の風合いを有する加工製品の製造に好適な改質木材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、原料木材と、[R+][OH-](R+は有機カチオン)で表される化合物(A)とを接触させる第1工程を備える。更に、第1工程により得られた改質木材と、修飾化合物とを接触させる第2工程を備えることができ、修飾化合物として、ハロゲン化炭化水素(塩素化合物、臭素化合物)等を好ましく用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料木材と、下記一般式(1)で表される化合物(A)とを接触させる第1工程を備えることを特徴とする改質木材の製造方法。
[R+][OH-] (1)
(式中、R+は有機カチオンである。)
【請求項2】
前記有機カチオンR+が第4級ホスホニウムカチオンである請求項1に記載の改質木材の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程において、前記原料木材と、前記化合物(A)の水溶液とを接触させる請求項1又は2に記載の改質木材の製造方法。
【請求項4】
更に、前記第1工程により得られた改質木材と、修飾化合物とを接触させる第2工程を備える請求項1乃至3のいずれか一項に記載の改質木材の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程において用いる前記修飾化合物がハロゲン化炭化水素であり、改質木材の表面に炭化水素基を形成する請求項4に記載の改質木材の製造方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化炭化水素が塩素化合物又は臭素化合物である請求項5に記載の改質木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の風合いを有する加工製品(木質成形体)の製造原料として好適な改質木材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、木材の小片又は粉末を樹脂とともに用いて、木材の風合いを有する建材、家具、食器、園芸用品、文具、玩具、楽器等を製造する技術の開発が行われている。この場合の木材は、前処理して、化学修飾された表面を有することが好ましいとされ、木材に含まれる水酸基を活性化させて、各種試薬と反応しやすい状態にするための表面処理が検討されてきた。
【0003】
例えば、非特許文献1には、ポプラ木粉に濃度40%の苛性ソーダ水溶液を所定量加え、3~4分間それを木粉に浸透させた後、圧搾除液し、次いで、ベンジルグロライドを所定量加えて、110℃でエーテル化処理を行い、反応後、処理木粉をメタノール中に投入し、ろ過後メタノールで洗浄し、その後、真空乾燥して改質された木粉を製造する技術が記載されている。
非特許文献2には、気乾木材(ブナ等)を室温で約40%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、110℃のベンジルクロライド溶液中で反応させ、次いで、処理試料を水で洗浄、乾燥し、熱圧成形することにより、表面プラスチック化試料を製造する技術が記載されている。
また、非特許文献3には、木粉を、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液で前処理した後、塩化ベンジルを加えて加熱撹拌し、ベンジル化したことが記載されている。
【0004】
更に、特許文献1には、pH7以上のアルカリ雰囲気下で第四アンモニウム塩を木材並びに木質材料に含浸し、含浸時又は含浸後化学反応を行わしめることを特徴とする木材の処理方法が開示されている。具体的には、二方柾目ブナ試片を85℃に保持したラウリル・ベンジル・トリメチル・アンモニウム・クロライド水溶液(pH8)の入った恒温加圧タンク中に浸し、85℃及び11.5気圧の条件で2時間の処理を行ったことが記載されている。
また、特許文献2には、セルロースを、特定の割合とした水およびアルカリの存在下、機械的処理をすることによりアルカリセルロースを製造し、得られたアルカリセルロースにエーテル化剤として、ハロゲン化アルキル、アルキレンオキサイド、ハロゲン化酢酸、またはビニル系モノマーを反応させることを特徴とするセルロースエーテル誘導体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-47001号公報
【特許文献2】特開2011-37924号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】則元京ら、木材研究・資料、17:181-191(1983)
【非特許文献2】青木務ら、木材研究・資料、22:66-77(1986)
【非特許文献3】Journal of Polymer Science: Part A: Polymer chemistry, 27, 2457-2482 (1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1、2及び3に記載の方法では、原料木材に水酸化ナトリウムを接触させた後、ベンジルクロライド(修飾化合物)に接触させる際には、例えば、110℃といった高い温度とする必要があり、経済的ではなかった。本発明の目的は、木材の風合いを有する加工製品(木質成形体)の製造原料として好適な改質木材を効率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、原料木材を、特定の有機塩基に接触させる第1工程により、その後、修飾化合物を作用させやすい改質木材(以下、「第1改質木材」という)が得られることを見い出した。その後、第1改質木材を、更に、ハロゲン化炭化水素等の修飾化合物に接触させることにより、木材の風合いを有する加工製品の製造原料として好適な改質木材(以下、「第2改質木材」という)が効率よく得られることを見い出した。
【0009】
本発明は、以下に示される。
[1]原料木材と、下記一般式(1)で表される化合物(A)とを接触させる第1工程を備えることを特徴とする改質木材の製造方法。
[R+][OH-] (1)
(式中、R+は有機カチオンである。)
[2]上記有機カチオンR+が第4級ホスホニウムカチオンである上記[1]に記載の改質木材の製造方法。
[3]上記第1工程において、上記原料木材と、上記化合物(A)の水溶液とを接触させる上記[1]又は[2]に記載の改質木材の製造方法。
[4]更に、上記第1工程により得られた改質木材と、修飾化合物とを接触させる第2工程を備える上記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の改質木材の製造方法。
[5]上記第2工程において用いる上記修飾化合物がハロゲン化炭化水素であり、改質木材の表面に炭化水素基を形成する上記[4]に記載の改質木材の製造方法。
[6]上記ハロゲン化炭化水素が塩素化合物又は臭素化合物である上記[5]に記載の改質木材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法において、第1工程及び第2工程を経て得られた改質木材は、木材の風合いを有する加工製品の製造原料として好適である。第1工程に供する原料木材は、セルロース鎖の水酸基に富んでいるが、第1工程により、化学修飾させやすい化学状態の改質木材とすることができ、第2工程において、高い温度条件を必要とすることなく、効率よく、修飾化合物(ハロゲン化炭化水素、α-ハロゲン酸、アルキレンクロルヒドリン、ジアルキル硫酸、アクリロニトリル、アルキレンオキサイド、ジアゾ化合物、β-ラクトン、脂肪酸、脂肪酸無水物、脂肪酸ハロゲン化物、アルキルケテン、炭酸ジアルキル、アルコキシシラン、アルコキシシロキサン、シラザン、シリルハライド、シリルトリフルオロメタンスルホネート等)を作用させることができる。その結果、表面に所望の官能基を有する改質木材を得ることができる。また、第2工程を20℃~30℃の常温で行うことができるので、熱による損傷を抑制することもできる。修飾化合物が、例えば、ハロゲン化炭化水素である場合には、改質木材の表面に炭化水素基(正しくは、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基等のOR基(但し、Rは炭化水素基である))を形成することができ、修飾化合物がカルボン酸やカルボン酸無水物である場合には、改質木材の表面にカルボン酸エステル基を形成することができる。また、得られる改質木材は、原料木材と比べて、色相等の外観上の差が小さい傾向にあるため、原料木材の色相をもとに、改質木材を用いる製品設計が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1-1及び比較例1-3により得られた各改質木材並びに未処理の原料木材(脱脂木粉)の赤外線吸収スペクトルである。
【
図2】3000~3600cm
-1に検出されるO-H伸縮振動による吸収ピークの強度、及び、2800~3000cm
-1に検出されるC-H伸縮振動による吸収ピークの強度を決定する方法の説明図である。
【
図3】680~714cm
-1に検出される1置換ベンゼン環由来の吸収ピークの強度を決定する方法の説明図である。
【
図4】実施例2-1及び比較例2-2により得られた各改質木材並びに未処理の原料木材(脱脂木片)の赤外線吸収スペクトルである。
【
図5】実施例2-1で用いた未処理の原料木材(脱脂木片)の表面の光学顕微鏡画像である。
【
図6】実施例2-1により得られた改質木材(RR1)の表面の光学顕微鏡画像である。
【
図7】比較例2-2により得られた改質木材(SS2-2)の表面の光学顕微鏡画像である。
【
図8】比較例2-2により得られた改質木材(SS2-2)の赤外線吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「原料木材」は、第1工程に供する前に、木材が、板等の特定の形状に加工されたもの、又は、木材が、研削、細断、粉砕、解繊等の方法により細分されて、チップ、繊維、粉等の形態を有するものである。尚、得られる「改質木材」は、「原料木材」と同じ形状又はサイズを有することがある。
【0013】
本発明に係る第1工程は、原料木材と、下記一般式(1)で表される化合物(A)とを接触させる工程である。
[R+][OH-] (1)
(式中、R+は有機カチオンである。)
【0014】
原料木材は、特に限定されず、スギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹;ポプラ、ブナ、ナラ、カバ等の広葉樹;竹;ジュート、ケナフ、亜麻、ヘンプ、ラミー、サイザル等の麻類;草本類等を用いることができる。
【0015】
化合物(A)は、上記一般式(1)で表され、第1工程では、化合物(A)の1種のみを用いてよいし、化合物(A)の2種以上を用いてもよい。
上記一般式(1)において、R+は有機カチオンである。この有機カチオンR+は、特に限定されず、窒素原子をイオン中心とするもの、硫黄原子をイオン中心とするもの、リン原子をイオン中心とするもの、更には、窒素原子及び硫黄原子をイオン中心とするもの等が挙げられる。本発明においては、窒素原子をイオン中心とするもの、及び、リン原子をイオン中心とするものが好ましい。
【0016】
窒素原子をイオン中心とするカチオンとしては、テトラアルキルアンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、キノリニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペラジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、ピリダジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、チアゾリウムカチオン、オキサゾリウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、グアニジウムカチオン等が挙げられる。これらのうち、第4級アンモニウムカチオンである、テトラアルキルアンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペラジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン等が好ましい。
【0017】
上記テトラアルキルアンモニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、テトラノニルアンモニウム、テトラデシルアンモニウム、テトラドデシルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルイソプロピルアンモニウム、エチルジメチルプロピルアンモニウム、エチルジメチルイソプロピルアンモニウム、ジエチルメチルプロピルアンモニウム、ジエチルメチルイソプロピルアンモニウム、ジメチルジプロピルアンモニウム、ジメチルプロピルイソプロピルアンモニウム、ジメチルジイソプロピルアンモニウム、トリエチルプロピルアンモニウム、ブチルトリメチルアンモニウム、イソブチルトリメチルアンモニウム、tert-ブチルトリメチルアンモニウム、トリエチルイソプロピルアンモニウム、エチルメチルジプロピルアンモニウム、エチルメチルジイソプロピルアンモニウム、ブチルエチルジメチルアンモニウム、イソブチルエチルジメチルアンモニウム、tert-ブチルエチルジメチルアンモニウム、ジエチルジプロピルアンモニウム、ジエチルプロピルジイソプロピルアンモニウム、ジエチルジイソプロピルアンモニウム、メチルトリプロピルアンモニウム、メチルジプロピルイソプロピルアンモニウム、メチルプロピルジイソプロピルアンモニウム、ブチルトリエチルアンモニウム、イソブチルトリエチルアンモニウム、tert-ブチルトリエチルアンモニウム、ジブチルジメチルアンモニウム、ジイソブチルジメチルアンモニウム、ジtert-ブチルジメチルアンモニウム、ブチルイソブチルジメチルアンモニウム、ブチル-tert-ブチルジメチルアンモニウム、イソブチル-tert-ブチルジメチルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム等に由来するカチオンが挙げられる。
【0018】
リン原子をイオン中心とするカチオンとしては、4つの炭化水素基(アルキル基、アリール基、又は、アルキルアリール基)を有するホスホニウムカチオンである、第4級ホスホニウムカチオン等が挙げられる。
第4級ホスホニウムカチオンとしては、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラプロピルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラペンチルホスホニウム、テトラヘキシルホスホニウム、テトラヘプチルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、テトラノニルホスホニウム、テトラデシルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-オクチルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-ノニルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-デシルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-ウンデシルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-ドデシルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-トリデシルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-テトラデシルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-ペンタデシルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-ヘキサデシルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-ヘプタデシルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-オクタデシルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-ノナデシルホスホニウム、1,1,1-トリブチル-1-イコシルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-オクチルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-ノニルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-デシルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-ウンデシルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-ドデシルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-トリデシルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-テトラデシルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-ペンタデシルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-ヘキサデシルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-ヘプタデシルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-オクタデシルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-ノナデシルホスホニウム、1,1,1-トリペンチル-1-イコシルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-オクチルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-ノニルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-デシルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-ウンデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-ドデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-トリデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-ペンタデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-ヘキサデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-ヘプタデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-オクタデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-ノナデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘキシル-1-イコシルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-オクチルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-ノニルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-デシルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-ウンデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-ドデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-トリデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-テトラデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-ペンタデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-ヘキサデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-ヘプタデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-オクタデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-ノナデシルホスホニウム、1,1,1-トリヘプチル-1-イコシルホスホニウム、1,1,1,1-テトラオクチルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-ノニルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-デシルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-ウンデシルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-ドデシルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-トリデシルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-テトラデシルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-ペンタデシルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-ヘキサデシルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-ヘプタデシルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-オクタデシルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-ノナデシルホスホニウム、1,1,1-トリオクチル-1-イコシルホスホニウム等のテトラアルキルホスホニウムカチオンに由来するカチオンが挙げられる。
その他、ベンジルトリメチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、テトラナフチルホスホニウム、トリメチルフェニルホスホニウム等に由来するカチオンを用いることもできる。
【0019】
本発明に係る第1工程において、原料木材と化合物(A)とを接触させる方法は、特に限定されない。
【0020】
化合物(A)が固体の場合、原料木材の変質、分解等を引き起こさない媒体に化合物(A)を溶解して得られた溶液と、原料木材とを接触させることができる。
【0021】
また、化合物(A)が液体の場合、そのまま原料木材と接触させてよいし、原料木材の変質、分解等を引き起こさない媒体に化合物(A)を溶解して得られた溶液と、原料木材とを接触させてもよい。
上記媒体としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸;酢酸エチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル類;無水酢酸等のカルボン酸無水物;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトン、エチルメチルケトン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン;シクロヘキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等のアルカン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド;トリエチルアミン等のアミン類;ピリジン、イミダゾール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、二硫化炭素;1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド等のイオン液体類等が挙げられるが、好ましくは水である。
【0022】
本発明においては、化合物(A)の性状によらず、化合物(A)の溶液と原料木材とを接触させることが好ましく、化合物(A)の水溶液と原料木材とを接触させることが特に好ましい。
化合物(A)の溶液を用いる場合、化合物(A)の濃度は、好ましくは40~70質量%である。
【0023】
液体の化合物(A)を用いる場合、及び、化合物(A)の溶液を用いる場合には、以下の方法により、原料木材及び化合物(A)を接触させることができる。
(ア)原料木材を、化合物(A)を含む液体の中に浸漬させる方法
(イ)原料木材を、化合物(A)を含む液体の中で撹拌する方法
(ウ)原料木材に、化合物(A)を含む液体を噴霧する方法
【0024】
原料木材及び化合物(A)を接触させる際の温度は、原料木材の変質、分解等が引き起こされない限りにおいて、特に限定されないが、通常、200℃以下であり、好ましくは-20℃~100℃、より好ましくは0℃~50℃である。
原料木材及び化合物(A)の接触時間は、原料木材の形状、サイズ等により、適宜、選択されるが、通常、5分間以上である。
【0025】
原料木材及び化合物(A)を接触させた後、原料木材に付着した化合物(A)を除去することにより、修飾化合物を作用させやすい改質木材(第1改質木材)を得ることができる。化合物(A)を除去する方法は、特に限定されないが、例えば、改質木材の変質、分解等を引き起こさず、化合物(A)を溶解可能な媒体で改質木材を洗浄し、その後、乾燥する方法等を適用することができる。洗浄後の乾燥は、加熱送風乾燥、減圧乾燥等によるものとすることができる。
【0026】
本発明者らは、第1工程により得られた第1改質木材の構造を特定していないが、セルロース鎖に由来する水酸基に富んでいる原料木材に対して、原料木材の水酸基における水素原子が正電荷を、酸素原子が負電荷を有する状態又はそれに近しい状態となるよう水素原子と酸素原子の間でわずかに電荷が偏在した化学状態であると考えている。また、第1改質木材は、木材の風合いを有する加工製品の製造原料としては十分ではないため、この第1改質木材の表面を更に改質することにより、木材の風合いを有する加工製品の製造原料として好適な改質木材(第2改質木材)を得ることができる。
【0027】
本発明に係る第2工程は、第1改質木材と、修飾化合物とを接触させる工程である。修飾化合物としては、ハロゲン化炭化水素、α-ハロゲン酸、アルキレンクロルヒドリン、ジアルキル硫酸、アクリロニトリル、アルキレンオキサイド、ジアゾ化合物、β-ラクトン、脂肪酸、脂肪酸無水物、脂肪酸ハロゲン化物、アルキルケテン、炭酸ジアルキル、アルコキシシラン、アルコキシシロキサン、シラザン、シリルハライド、シリルトリフルオロメタンスルホネート等が挙げられる。
【0028】
修飾化合物として、ハロゲン化炭化水素、α-ハロゲン酸、アルキレンクロルヒドリン、ジアルキル硫酸、アクリロニトリル、アルキレンオキサイド、ジアゾ化合物又はβ-ラクトンを用いることにより、セルロース鎖に由来する水酸基のOHの大部分をOR1(R1:炭化水素基)に変性することができる。従って、得られる第2改質木材の表面に炭化水素基R1を形成することができる。この場合、ハロゲン化炭化水素を用いることが好ましく、塩素化合物及び臭素化合物がより好ましく、臭素化合物が特に好ましい。
また、修飾化合物として、脂肪酸、脂肪酸無水物又は脂肪酸ハロゲン化物を用いることにより、セルロース鎖に由来する水酸基のOHをOC(O)OR2(R2:炭化水素基)に変性することができる。
【0029】
本発明に係る第2工程において、第1改質木材と修飾化合物とを接触させる方法は、特に限定されない。
【0030】
修飾化合物が固体の場合、第1改質木材の変質、分解等を引き起こさない媒体に修飾化合物を溶解し、得られた溶液と、第1改質木材とを接触させることができる。
【0031】
また、修飾化合物が液体の場合、そのまま第1改質木材と接触させてよいし、第1改質木材の変質、分解等を引き起こさない媒体に修飾化合物を溶解し、得られた溶液と、第1改質木材とを接触させてもよい。
上記媒体としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸;酢酸エチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル類;無水酢酸等のカルボン酸無水物;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトン、エチルメチルケトン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン;シクロヘキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等のアルカン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド;トリエチルアミン等のアミン類;ピリジン、イミダゾール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、二硫化炭素;1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド等のイオン液体類等が挙げられる。上記媒体は、これらのうち1種又は2種以上からなるものからすることができる。
【0032】
本発明においては、修飾化合物の性状によらず、修飾化合物の溶液と第1改質木材とを接触させることが好ましい。
修飾化合物の溶液を用いる場合、修飾化合物の濃度は、好ましくは10~100質量%である。
【0033】
液体の修飾化合物を用いる場合、及び、修飾化合物の溶液を用いる場合には、以下の方法により、第1改質木材及び修飾化合物を接触させることができる。
(ア)第1改質木材を、修飾化合物を含む液体の中に浸漬させる方法
(イ)第1改質木材を、修飾化合物を含む液体の中で撹拌する方法
(ウ)第1改質木材に、修飾化合物を含む液体を噴霧する方法
【0034】
第1改質木材及び修飾化合物を接触させる際の温度は、第1改質木材の変質、分解等が引き起こされない限りにおいて、特に限定されないが、所期の高い改質効果が得られることから、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは-20℃~100℃、更に好ましくは0℃~80℃である。また、得られる第2改質木材の外観が、原料木材の外観と大きく異なるものではないため、原料木材の色相をもとに、第2改質木材を、木材の風合いを有する加工製品の製造原料として用いる製品設計が容易となる。
第1改質木材及び修飾化合物の接触時間は、第1改質木材の形状、サイズ等により、適宜、選択されるが、通常、5分間以上である。
【0035】
第1改質木材及び修飾化合物を接触させた後、第1改質木材に単に付着した修飾化合物や残渣を含む液体を除去することにより、本発明の目的とする第2改質木材を得ることができる。単に付着した修飾化合物等を含む液体を除去する方法は、特に限定されないが、例えば、改質木材の変質、分解等を引き起こさず、修飾化合物を溶解可能な媒体で改質木材を洗浄し、その後、乾燥する方法等を適用することができる。洗浄後の乾燥は、加熱送風乾燥、減圧乾燥等によるものとすることができる。
【0036】
修飾化合物がハロゲン化炭化水素である場合、上記のように、表面が炭化水素基R
1に富んだ第2改質木材を得ることができる。このハロゲン化炭化水素による改質の程度は、赤外線吸収スペクトルにより確認することができる。
図1は、原料木材としてスギの脱脂木粉を、化合物(A)としてテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを、修飾化合物として臭化ベンジルを、それぞれ、用いて改質した場合に、改質前後の木粉に対してFT-IR測定を行って得られた赤外線吸収スペクトルである。脱脂木粉(原料木材)及び改質木材MM1(第2改質木材)の赤外線吸収スペクトルでは、2800~3000cm
-1におけるC-H伸縮振動由来の吸収ピーク、及び、3000~3600cm
-1におけるO-H伸縮振動由来の吸収ピークの両方を確認することができる。そして、これらの吸収ピークの強度比(OH/CH比)を算出して比較した場合には、本発明により、第2改質木材のOH/CH比は、原料木材のOH/CH比に対して、水酸基の量を好ましくは1/2以下、より好ましくは1/3以下とすることができる。
図1の場合、脱脂木粉(原料木材)のOH/CH比は3.4、改質木材MM1(第2改質木材)のOH/CH比は0.7であるので、この結果から、脱脂木粉(原料木材)の水酸基の約80%がOR
1に変性されたことが分かる。
【0037】
また、表面が炭化水素基R1に富んだ第2改質木材の表面において、水を用いた接触角は大きいものとなり、原料木材に比べて疎水性を有するといえる。従って、第2改質木材を汎用樹脂とともに併用する場合には、未処理の原料木材を用いるよりも、容易に成形体を製造することができる。
【0038】
成形体の製造に用いる樹脂は、熱可塑性樹脂及び硬化性樹脂のいずれでもよい。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;環状ポリオレフィン;ポリエチレングリコール;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;ポリテトラフルオロエチレン;ABS樹脂;AS樹脂;ナイロン等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;変性ポリフェニレンエーテル;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリフェニレンスルファイド;ポリサルフォン;ポリエーテルサルフォン;非晶ポリアリレート;液晶ポリマー;ポリエーテルエーテルケトン;ポリイミド;ポリアミドイミド等が挙げられる。硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート、ケイ素樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン等が挙げられる。硬化性樹脂を用いる場合、硬化剤を併用することができる。
上記樹脂は、更に、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、充填剤、抗菌剤、防腐剤、帯電防止剤等を含有することができる。
【実施例0039】
本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例を挙げるが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、「部」及び「%」は、いずれも質量基準である。
【0040】
1.改質木材の製造及び評価(1)
本例では、原料木材として、スギ木粉(粒径:150~300μm)を、熱水及びメタノールにより脱脂し、その後、25℃で24時間以上減圧乾燥させて得られた脱脂木粉を用いた。
【0041】
実施例1-1
0.5gの脱脂木粉を、内容積50mLのフラスコに入れ、次いで、富士フイルム和光純薬株式会社製テトラブチルホスホニウムヒドロキシド(以下、「[P4444]OH」という)の50質量%水溶液4mLを滴下して木粉全体になじませた。そして、長さ1cmのラグビーボール型フッ素樹脂製撹拌子を用いて、25℃で撹拌し、第1改質木材(M1)を得た。[P4444]OHによる処理時間は、[P4444]OH水溶液を脱脂木粉に滴下してからの経過時間であり、合計5分間である。その後、4mLの臭化ベンジルを加えて、25℃で1時間撹拌し、次いで、メタノールを用いてソックスレー抽出を18時間行い、その後、水を用いてソックスレー抽出を18時間行うことで洗浄した。そして、25℃で24時間以上減圧乾燥させることにより、第2改質木材(MM1)を得た。
【0042】
得られた第2改質木材(MM1)及び処理前の脱脂木粉に対し、サーモフィッシャー社製赤外分光光度計「NICOLET 6700 FT-IR」(型式名)を用い、全反射測定法により、測定波数域を、4000~500cm
-1として測定し赤外線吸収スペクトルを得た。その結果、第2改質木材(MM1)では、ベンジル化処理によって、処理前の脱脂木粉に由来するO-H伸縮振動による吸収ピーク(3000~3600cm
-1)の強度が著しく小さくなり、ベンジルオキシ基におけるベンジル部分由来の吸収ピークが3020~3080cm
-1、1592~1612cm
-1、1454~1496cm
-1、約736cm
-1及び約696cm
-1に観察されたことから、脱脂木粉の水酸基がベンジルオキシ基に変性されたことが分かった(
図1参照)。
【0043】
次に、反応の進行度を把握するため、水酸基由来の吸収ピーク強度の減少率と、ベンゼン環由来の吸収ピーク強度の増加率を算出した。水酸基由来の吸収ピーク強度の減少率は、2800~3000cm
-1に現れるC-H伸縮振動由来の吸収ピーク強度と、3000~3600cm
-1の水酸基由来の吸収ピーク強度との比(OH/CH比、
図2参照)から算出した。また、ベンゼン環由来の吸収ピーク強度の増加率は、同じくC-H伸縮振動由来の吸収ピーク強度と、680~714cm
-1に現れる1置換ベンゼン環由来の吸収ピーク強度との比(Bn/CH比、
図3参照)から算出した。測定は、複数サンプルに対して行い、平均値を表1に示した。OH/CH比が小さいほど、そして、Bn/CH比が大きいほど、ベンジル化が進行していることを意味する。
【0044】
実施例1-2
臭化ベンジルを加えた時の処理温度を25℃から7℃に変更した以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、第2改質木材(MM2)を得た。その後、FT-IR測定を行い、OH/CH比及びBn/CH比を算出した(表1参照)。
【0045】
実施例1-3
臭化ベンジルを加えた時の処理温度を25℃から50℃に変更した以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、第2改質木材(MM3)を得た。その後、FT-IR測定を行い、OH/CH比及びBn/CH比を算出した(表1参照)。
【0046】
実施例1-4
臭化ベンジルを加えた時の処理温度を25℃から75℃に変更した以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、第2改質木材(MM4)を得た。その後、FT-IR測定を行い、OH/CH比及びBn/CH比を算出した(表1参照)。
【0047】
実施例1-5
臭化ベンジルを加えた時の処理時間を1時間から10分間に変更した以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、第2改質木材(MM5)を得た。その後、FT-IR測定を行い、OH/CH比及びBn/CH比を算出した(表1参照)。
【0048】
比較例1-1
[P4444]OH水溶液に代えて、40質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いた以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、第2改質木材(NN1)を得た。その後、FT-IR測定を行い、OH/CH比及びBn/CH比を算出した(表1参照)。
【0049】
比較例1-2
[P4444]OH水溶液に代えて、40質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、臭化ベンジルを加えた時の処理温度を25℃から110℃に変更し、処理時間を1時間から2時間に変更した以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、第2改質木材(NN2)を得た。その後、FT-IR測定を行い、OH/CH比及びBn/CH比を算出した(表1参照)。
【0050】
比較例1-3
[P4444]OH水溶液に代えて、40質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、臭化ベンジルに代えて塩化ベンジルを用い、塩化ベンジルによる処理温度を25℃から110℃に変更し、処理時間を1時間から2時間に変更した以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、第2改質木材(NN3)を得た。その後、FT-IR測定を行い、OH/CH比及びBn/CH比を算出した(表1参照)。
【0051】
【0052】
表1から以下のことが分かる。即ち、脱脂木粉ではOH/CH強度比が3.4、Bn/CH強度比が0.1であったのに対し、実施例1-1~1-5並びに比較例1-2及び1-3ではOH/CH強度比が0.4~0.9、Bn/CH強度比が4.5~7.3であり、ベンジル化されたことが分かる。特に、実施例1-1及び1-5は、[P4444]OH水溶液を用いた後の第2工程における処理温度を25℃としたものであり、効率よく反応が進行したことが分かる。実施例1-5から、臭化ベンジルの接触時間が10分間と短くても反応が十分に進行したことが分かる。一方、水酸化ナトリウム水溶液を用いた比較例1-1では、第2工程における処理温度を25℃とすると、ほとんどベンジル化されないことが分かった。十分にベンジル化を進めるためには、比較例1-2及び1-3から明らかなように、第2工程における処理温度を110℃と高くする必要があることが分かる。
【0053】
2.改質木材の製造及び評価(2)
本例では、原料木材として、熱水とメタノールで脱脂したスギ板目試験片(接線方向T:20mm、半径方向R:5mm、遷移方向L:20mm)を、105℃で2時間乾燥させ、室温に戻して得られた脱脂木片(約0.7g)を用いた。
【0054】
実施例2-1
シャーレの底面に[P4444]OHの50質量%水溶液0.5mLを滴下し、脱脂木片の板目面を浸して25℃で10分間静置した。その後、木片を取り出し、表面に付着する液体をワイピングペーパーでぬぐった。次いで、別のシャーレの底面に0.5mLの臭化ベンジルを滴下し、上記木片の板目面を浸して25℃で10分間静置した。そして、メタノールを用いてソックスレー抽出を18時間行い、次いで、水を用いてソックスレー抽出を18時間行うことで洗浄した。その後、25℃で18時間、105℃で4時間送風乾燥させることにより、第2改質木材(RR1)を得た。
【0055】
得られた第2改質木材(RR1)及び処理前の脱脂木片のいずれも板目面に対し、上記の赤外分光光度計を用いて、測定波数域を4000~500cm
-1として、FT-IR測定(ATR法)し、赤外線吸収スペクトルを得た。その結果、第2改質木材(RR1)では、ベンジル化処理によって、処理前の脱脂木粉に由来するO-H伸縮振動による吸収ピーク(3000~3600cm
-1)の強度が著しく小さくなり、ベンジルオキシ基におけるベンジル部分由来の吸収ピークが3020~3080cm
-1、1592~1612cm
-1、1454~1496cm
-1、約736cm
-1及び約696cm
-1に観察されたことから、脱脂木片の水酸基がベンジルオキシ基に変性されたことが分かった(
図4参照)。
また、反応の進行度を把握するため、実施例1-1と同様にして、OH/CH強度比及びBn/CH強度比を算出した。尚、測定は、複数サンプルに対して行い、平均値を表2に示した。
【0056】
実施例2-2
臭化ベンジルを加えた時の処理時間を10分間から1時間に変更した以外は、実施例2-1と同様の操作を行い、第2改質木材(RR2)を得た。その後、FT-IR測定を行い、OH/CH比及びBn/CH比を算出した(表2参照)。
【0057】
実施例2-3
臭化ベンジルに代えて塩化ベンジルを用いた以外は、実施例2-1と同様の操作を行い、第2改質木材(RR3)を得た。その後、FT-IR測定を行い、OH/CH比及びBn/CH比を算出した(表2参照)。
【0058】
比較例2-1
[P4444]OH水溶液に代えて、40質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、処理時間を10分間から1時間に変更し、その後、臭化ベンジルに代えて塩化ベンジルを用いた以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、第2改質木材(SS1)を得た。その後、FT-IR測定を行い、OH/CH比及びBn/CH比を算出した(表2参照)。
【0059】
比較例2-2
[P4444]OH水溶液に代えて、40質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、処理時間を10分間から1時間に変更し、その後、臭化ベンジルに代えて塩化ベンジルを用い、塩化ベンジルによる処理温度を25℃から110℃に変更し、処理時間を10分間から2時間に変更した以外は、実施例2-1と同様の操作を行い、第2改質木材(SS2)を得た。その後、FT-IR測定を行い、OH/CH比及びBn/CH比を算出した(表2参照)。
【0060】
【0061】
表2から以下のことが分かる。即ち、脱脂木片ではOH/CH強度比が3.6、Bn/CH強度比が0.3であったのに対し、実施例2-1及び2-2並びに比較例2-2ではOH/CH強度比が0.6~0.7、Bn/CH強度比が8.8~9.4であり、ベンジル化されたことが分かる。特に、実施例2-1及び2-2は、[P4444]OH水溶液を用いた後の第2工程における処理温度を25℃としたものであり、ベンジル化が効率よく進行したことが分かる。一方、水酸化ナトリウム水溶液を用いた比較例2-1では、第2工程における処理温度を25℃とすると、ほとんどベンジル化されないことが分かった。
また、実施例2-3は、第1工程で水酸化ナトリウム水溶液を用いた比較例2-1よりもベンジル化は進行したが、実施例2-1及び2-2に比べて、その程度は小さかった。
【0062】
比較例2-2により得られた第2改質木材(SS2)は、ベンジル化が十分になされたものであるが、第1工程において、水酸化ナトリウム水溶液を用いたため、第2工程を含めても、実施例2-1及び2-2に比べて、長い処理時間を必要とした。更に、比較例2-2における条件で改質した場合、第2改質木材(SS2)の表面は、処理前の脱脂木片に対して黒色に近く暗色化することがあった。暗色化した第2改質木材(以下、「SS2-2」とする。)に対して、測色計を用いて、処理前後における色差比較を行ったところ、ΔL*=-16.5、ΔE*ab=16.6であった(表3参照)。
一方、実施例2-1により得られた第2改質木材(RR1)では、ΔL*=4.7、ΔE*ab=6.7であり、処理前の脱脂木片に比べてわずかに白色化した(表3参照)。従って、本発明によると、第1工程及び第2工程において、処理温度を高くしなくてもよいので、得られる第2改質木材の色相と、処理前の原料木材の色相との差を小さくすることができるので、原料木材の種類によっては、その色相をもとに、第2改質木材を用いる製品設計が容易となる。
【0063】
【0064】
実施例2-1により得られた第2改質木材(RR1)及び比較例2-2により得られた第2改質木材(SS2-2)の表面を、処理前の脱脂木片の表面とともに、キーエンス社製光学顕微鏡「VHX-970F」(型式名)により観察した。
図5は、脱脂木片の表面の光学顕微鏡画像であり、
図6は、第2改質木材(RR1)の表面の光学顕微鏡画像であり、
図7は、第2改質木材(SS2-2)の表面の光学顕微鏡画像である。
図7によれば、第2改質木材(SS2-2)の表面には、
図5(処理前の脱脂木片)に見られなかった細かな傷が無数に存在することが分かる。一方、
図6から、第2改質木材(RR1)の表面は、処理前の脱脂木片とほぼ同様であった。
更に、第2改質木材(SS2-2)の赤外線吸収スペクトルを
図8に示す。
図8によれば、
図4における脱脂木片と比較して、OH基に由来する3000~3600cm
-1の吸収ピーク強度は低下しているものの、ベンジルオキシ基におけるベンジル部分に由来する3020~3080cm
-1、1592~1612cm
-1、1454~1496cm
-1、約736cm
-1、約696cm
-1の吸収ピークがほとんど観察されなかった。この結果から、比較例2-2の条件で暗色化した第2改質木材(SS2-2)では、ベンジル化反応が進行せず、熱処理による木材成分の変性のみが生じたと考えられる。
【0065】
次に、脱脂木片(原料木材)、実施例2-1の第2改質木材(RR1)及び比較例2-2の第2改質木材のうち暗色化したもの(SS2-2)の接触角測定を行った結果を表4に示す。いずれも、滴下後の時間の経過により接触角の値が低下したが、第2改質木材(RR1)の接触角は、脱脂木片よりも大きい値を示し、表面が疎水化されたことが分かる。一方、暗色化した第2改質木材(SS2-2)の接触角は、脱脂木片よりも小さい値を示した。特に、接触角0°と記したのは、測定中に滴下した水滴がすぐに木片内部に滲み込んだことを表している。第2改質木材(SS2-2)は疎水性が著しく低下していることが示された。以上から、水酸化ナトリウム水溶液を用いて第1工程を行う方法の場合、意図しない暗色化が生じることが分かった。また、そのような変化が生じた第2改質木材は、意匠性が失われるだけでなく、物性面でも大きな差が生じることが分かった。
【0066】
【0067】
上記実施例においては、第1工程及び第2工程を、順次、進めてきたが、修飾化合物の種類によっては、反応系に、原料木材と、化合物(A)と、修飾化合物とを併存させて、第2改質木材を製造することも可能である。
本発明により得られる改質木材(第2改質木材)は、木材の風合いを有する、日用品、家具・調度品、建材・建築部材、電化製品又は音響機器用筐体、車両用部材等を構成する木質成形体の製造原料等として好適である。