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特開2022-102858角層タンパク質カルボニル化抑制剤および角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102858
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】角層タンパク質カルボニル化抑制剤および角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20220630BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020217857
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】林 祥太
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 弘恭
(72)【発明者】
【氏名】池岡 佐和子
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA082
4C083AA111
4C083AA122
4C083AB032
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC182
4C083AC242
4C083AC422
4C083AC442
4C083AC472
4C083AC482
4C083AC532
4C083AC642
4C083AC712
4C083AC782
4C083AC792
4C083AC852
4C083AD282
4C083AD332
4C083AD352
4C083AD392
4C083AD412
4C083AD512
4C083AD532
4C083AD552
4C083AD662
4C083CC01
4C083CC05
4C083CC33
4C083CC38
4C083DD23
4C083DD31
4C083EE12
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】 安全性の高い植物抽出物の中から、優れた角層タンパク質カルボニル化抑制作用を有するものを見出し、それらを有効成分とする角層タンパク質カルボニル化抑制剤、およびそれら植物抽出物を配合した角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】 本発明の角層タンパク質カルボニル化抑制剤の有効成分として、サンショウ、モモ、エイジツ、カミツレ、バラおよびソウハクヒからなる群より選択される1種または2種以上の植物からの抽出物を用いる。また、本発明の角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤に、サンショウ、モモ、エイジツ、カミツレ、バラおよびソウハクヒからなる群より選択される1種または2種以上の植物からの抽出物を配合する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンショウ、モモ、エイジツ、カミツレ、バラおよびソウハクヒからなる群より選択される1種または2種以上の植物からの抽出物を有効成分とすることを特徴とする角層タンパク質カルボニル化抑制剤。
【請求項2】
サンショウ、モモ、エイジツ、カミツレ、バラおよびソウハクヒからなる群より選択される1種または2種以上の植物からの抽出物を配合したことを特徴とする角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性の高い植物からの抽出物を有効成分とする角層タンパク質カルボニル化抑制剤、および当該抽出物を配合した角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚の加齢に伴う老化や光老化との関係で、角層カルボニル化タンパク質の研究が盛んに行われている。カルボニル化タンパク質としては、一般に、タンパク質におけるLys、Arg、Proといったアミノ酸残基のNH基が直接酸化されてカルボニル基となった結果生成されるものと、脂質が酸化して過酸化脂質、さらには分解して反応性の高いアルデヒドとなり、それがタンパク質と結合することで生成されるものとがある(特許文献1参照)。皮膚においては、タンパク質が直接的に酸化される場合、また皮膚表面の皮脂がフリーラジカルによって酸化し、過酸化脂質が生成されることでタンパク質の酸化は開始される場合があると考えられる。いったん過酸化脂質が生成されると、酸化は連鎖的に進行し、肌表面に刺激を与えるだけにとどまらず、角質層の奥まで入り込んで細胞にダメージを与える。
【0003】
また、皮膚の最表層である角層は角質細胞からなり、その85%がタンパク質であるケラチンから構成されている。近年、このケラチンが、日常的に皮膚が受ける酸化的ストレス(紫外線、タバコの煙)等によってカルボニル化されることが知られている(非特許文献1参照)。通常、ケラチンは水分子を多く取り込んでいるが、カルボニル化されることによって水分子を排除してしまい、カルボニル化された後のケラチンは水分子を取り込むことができなくなり、さらに、このことが皮膚を乾燥させ、皮膚の外観を損なうことが知られている(特許文献2参照)。
【0004】
このように角層中のカルボニル化タンパク質が増加することによって、肌の保水性が失われるとともに(特許文献3参照)、肌の柔軟性・弾力性が失われてしまうことが知られている(特許文献4参照)。したがって、表皮の角層タンパク質のカルボニル化を予防したり、そのカルボニル化度を低減させたりすることにより、角質細胞の保水性の向上や、肌の柔軟性・弾力性の向上に有用であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-340935号公報
【特許文献2】特開2004-107269号公報
【特許文献3】特開2005-249672号公報
【特許文献4】特開2006-349372号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jens J. Thiele et al., THE JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY, Vol.113, No.3, 1999年, p.335, 339
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全性の高い植物抽出物の中から、優れた角層タンパク質カルボニル化抑制作用を有するものを見出し、それらを有効成分とする角層タンパク質カルボニル化抑制剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、優れた角層タンパク質カルボニル化抑制作用を有する植物抽出物を配合した角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、サンショウ、モモ、エイジツ、カミツレ、バラおよびソウハクヒからなる群より選択される1種または2種以上の植物からの抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
また、本発明の角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤は、サンショウ、モモ、エイジツ、カミツレ、バラおよびソウハクヒからなる群より選択される1種または2種以上の植物からの抽出物を配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安全性に優れ、かつ作用効果に優れた角層タンパク質カルボニル化抑制剤および角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
〔角層タンパク質カルボニル化抑制剤〕
本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、サンショウ、モモ、エイジツ、カミツレ、バラおよびソウハクヒからなる群より選択される1種または2種以上の植物からの抽出物を有効成分とするものである。
【0011】
ここで、本実施形態における「抽出物」には、上記植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0012】
本実施形態において使用する抽出原料は、サンショウ(学名:Zanthoxylum piperitum De Candolle)、モモ(学名:Prunus persica Batsch)、エイジツ(生薬名)、カミツレ(学名:Matricaria chamomilla)、バラおよびソウハクヒ(生薬名)である。
【0013】
サンショウ(Zanthoxylum piperitum De Candolle)は、ミカン科サンショウ属に属する植物であって、日本列島や朝鮮半島に分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、蕾部、果実部、果皮部、果核部、地上部またはこれらの混合物が挙げられるが、好ましくは果皮部である。
【0014】
モモ(Prunus persica Batsch)は、バラ科サクラ属に属する落葉小高木であって、中国や日本で古くから栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出部位として使用し得るモモの構成部位としては、例えば、葉部、幹部、花部、蕾部、果実部、果皮部、果核部、種子部またはこれらの混合物が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0015】
エイジツ(生薬名)は、バラ科バラ属に属するノイバラ(学名:Rosa multiflora)の成熟果実を乾燥させたものである。ノイバラ(Rosa multiflora)は、北海道西南部から九州、朝鮮半島に分布する落葉の低木であって、ノイバラの成熟果実の乾燥物であるエイジツは、これらの地域から容易に入手することができる。
【0016】
カミツレ(Matricaria chamomilla,別名:カモミール)は、キク科シカギク属の耐寒性一年草であって、ヨーロッパから西アジアにかけての地域を原産地とし、これらの地域から容易に入手可能である。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、果実部、根部などが挙げられるが、花部が好ましい。
【0017】
バラは、バラ科バラ属に属する植物の総称であって、園芸種として大量に栽培されているものが多く、容易に入手可能である。本実施形態において使用し得るバラとしては、センチフォリアバラ(Rosa centifolia,別名:セイヨウバラ)、ガリカローズ(Rosa gallica)、カニナバラ(Rosa canina)、ノイバラ(Rosa multiflora)、ダマスクバラ(Rosa damascena)、ハマナス(Rosa rugosa)等が挙げられ、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
これらの中でも、カニナバラ、センチフォリアバラおよびダマスクバラを用いることが好ましく、これら3種のうち2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、3種を組み合わせて用いることが特に好ましい。
カニナバラ、センチフォリアバラおよびダマスクバラの3種を組み合わせて用いる場合、その使用割合は、抽出原料の乾燥質量に換算して、カニナバラ、センチフォリアバラおよびダマスクバラをそれぞれ20~50質量%とすることが好ましく、それぞれ25~40質量%とすることがさらに好ましい。
【0019】
抽出原料として使用し得るバラの構成部位は、特に限定されるものではなく、例えば、花部、果実部、葉部、幹部、樹皮部等の地上部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、中でも花部および/または果実部を用いることが好ましい。さらに、バラとしてカニナバラを用いる場合は果実部、センチフォリアバラを用いる場合は花部、ダマスクバラを用いる場合は花部が特に好ましい。
【0020】
ソウハクヒ(生薬名)は、クワ(学名:Morus alba)の根の皮を乾燥したものである。クワは日本各地に自生又は栽培されておりこれらの地域から容易に入手することができる。抽出原料としてはクワの根の皮を使用する。
【0021】
上記植物の抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。上記植物の抽出原料は、それぞれ単独で抽出処理に供してもよく、2種以上の抽出原料を組み合わせて抽出処理を行ってもよい。
乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。
【0022】
抽出溶媒としては、極性溶媒、非極性溶媒のいずれを使用してもよい。
極性溶媒を使用する場合、極性溶媒としては、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。なお、抽出溶媒として極性溶媒を用いる場合には、ヘキサン等の非極性抽出溶媒によって脱脂等の前処理を行ってもよく、かかる前処理により極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる場合がある。
【0023】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0024】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3~6の低級脂肪族ケトン等が挙げられる。
【0025】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は任意であり、適宜調整することができる。例えば、水と親水性有機溶媒との混合液を抽出溶媒として使用する場合には、任意の比率、すなわち0:100超、100:0未満(容量比,以下同様に表記)の間で混和して用いることができ、適宜調整することができる。
例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比(容量比)を9:1以上とすることができ、さらには7:3以上とすることができ、あるいは水と低級脂肪族アルコールとの混合比を1:9以下、さらには2:8以下とすることができる。また、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水と多価アルコールとの混合比を8:2以上、あるいは1:9以下とすることができ、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族ケトンとの混合比を9:1以上、あるいは2:8以下とすることができる。
【0026】
一方、抽出溶媒として非極性溶媒を用いる場合は、例えば、石油エーテル、n-ヘキサン、n-ペンタン、n-ブタン、n-オクタン、シクロヘキサン、スクワラン、スクアレン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル等の鎖状エーテル類;ナタネ油、大豆油等の食用油やジアシルグリセロール(DAG)、中鎖脂肪酸油等の油脂類;などを例示することができ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、脂肪族炭化水素類および油脂類が好ましく、脂肪族炭化水素類としてはスクワランおよびスクアレンが好ましい。なお、スクワランおよびスクアレンとしては、サメ由来のものと植物(例えば、オリーブ)由来のものとを例示することができるが、いずれも用いることができる。
【0027】
なお、上記極性溶媒として、例えば、20℃における比誘電率が12超のものを用いることができ、15以上のものを用いることができる。
また、上記非極性溶媒として、例えば、20℃における比誘電率が12以下のものを用いることができ、5以下のものを用いることができる。
【0028】
本実施形態において、サンショウ、モモ、エイジツおよびソウハクヒの抽出に使用する抽出溶媒は、極性溶媒が好ましく、水と親水性有機溶媒との混合溶媒がより好ましく、水と低級脂肪族アルコールまたは多価アルコールとの混合液が特に好ましい。
一方、カミツレおよびバラの抽出に使用する抽出溶媒は、非極性溶媒が好ましく、飽和または不飽和の炭化水素類、食用油、油脂類がより好ましく、スクワランが特に好ましい。
【0029】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5~50倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0030】
以上のようにして得られる、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物およびソウハクヒ抽出物は、いずれも優れた角層タンパク質カルボニル化抑制作用を有しているため、角層タンパク質カルボニル化抑制剤の有効成分として用いることができる。サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物およびソウハクヒ抽出物は、1種を単独で有効成分としてもよく、2種以上の混合物を有効成分としてもよい。本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の幅広い用途に使用することができる。
【0031】
本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物もしくはソウハクヒ抽出物またはこれらの混合物のみからなるものであってもよいし、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物もしくはソウハクヒ抽出物またはこれらの混合物を製剤化したものであってもよい。
【0032】
本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、他の組成物(例えば、後述する皮膚外用剤、経口組成物等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0033】
本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤を製剤化した場合、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物およびソウハクヒ抽出物のそれぞれの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0034】
なお、本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、必要に応じて、角層タンパク質カルボニル化抑制作用を有する他の物質(例えば、天然抽出物等)を、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物またはソウハクヒ抽出物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0035】
本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0036】
本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物およびソウハクヒ抽出物が有する角層タンパク質カルボニル化抑制作用を通じて、角層タンパク質のカルボニル化を抑制することができ、これにより、角質細胞の保水性を向上させることができ、また、肌の柔軟性や弾力性を向上させることができる。さらに、角層タンパク質のカルボニル化を抑制することにより、肌のくすみを抑制して美肌効果を得ることができる。ただし、本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、これらの用途以外にも角層タンパク質カルボニル化抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0037】
また、本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、それぞれ優れた角層タンパク質カルボニル化抑制作用を有するため、例えば、経口組成物や、後述する皮膚外用剤等に配合するのに好適である。この場合に、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物もしくはソウハクヒ抽出物またはこれらの混合物をそのまま配合してもよいし、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物もしくはソウハクヒ抽出物またはこれらの混合物から製剤化した角層タンパク質カルボニル化抑制剤を配合してもよい。
【0038】
経口組成物とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の飲食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「経口組成物」は、経口的に摂取される一般食品、飼料、健康食品、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。
【0039】
サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物もしくはソウハクヒ抽出物またはこれらの混合物を経口組成物に配合する場合、それらにおける有効成分の配合量は、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜変更することができるが、添加対象となる経口組成物の一般的な摂取量を考慮して、成人1日あたりの抽出物摂取量が約1~1000mgになるようにするのが好ましい。なお、添加対象経口組成物が顆粒状、錠剤状又はカプセル状の場合、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物およびソウハクヒ抽出物の添加量は、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物およびソウハクヒ抽出物の固形分に換算し、添加対象経口組成物に対して通常0.1~100質量%以上であり、好ましくは1~100質量%以上である。
【0040】
また、本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、それぞれ優れた角層タンパク質カルボニル化抑制作用を有するので、これらの作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0041】
なお、本実施形態の角層タンパク質カルボニル化抑制剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【0042】
〔角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤〕
本実施形態に係る角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤は、サンショウ、モモ、エイジツ、カミツレ、バラおよびソウハクヒからなる群より選択される1種または2種以上の植物からの抽出物を配合したものである。
前述したとおり、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物およびソウハクヒ抽出物は、いずれも優れた角層タンパク質カルボニル化抑制作用を有しているため、これらを皮膚外用剤に配合することにより、角層タンパク質カルボニル化抑制用途に特に好適な皮膚外用剤とすることができる。
【0043】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、化粧水、美容液、ローション、ジェル、美容オイル、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアトニック、ヘアローション、シャンプー、リンス、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0044】
皮膚外用剤において、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物およびソウハクヒ抽出物のそれぞれの配合量は、皮膚外用剤の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物およびソウハクヒ抽出物の固形分に換算してそれぞれ0.0001~10質量%であり、特に好適な配合率は、0.001~1質量%である。
【0045】
本実施形態に係る角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤は、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物およびソウハクヒ抽出物が有する角層タンパク質カルボニル化抑制作用を妨げない限り、通常の皮膚外用剤の製造に用いられる主剤、助剤またはその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0046】
本実施形態に係る角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤は、サンショウ抽出物、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ抽出物およびソウハクヒ抽出物が有する角層タンパク質カルボニル化抑制作用を通じて、角質細胞の保水性の向上;肌の柔軟性や弾力性の向上;肌のくすみの抑制;などをすることができる。
【実施例0047】
以下、製造例および試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0048】
〔製造例1〕サンショウ抽出物の製造
サンショウの果皮部の乾燥物100gに70%エタノール水溶液1500mLを加え、還流抽出器で80~90℃にて2時間加熱抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してサンショウ抽出物(7g,試料1)を得た。
【0049】
〔製造例2〕モモ抽出物の製造
モモの葉部の乾燥物100gに30%1,3-ブチレングリコール水溶液1500mLを加え、還流抽出器で80~90℃にて2時間加熱抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してモモ抽出物(24g,試料2)を得た。
【0050】
〔製造例3〕エイジツ抽出物の製造
ノイバラの成熟果実の乾燥物(エイジツ)100gに50%エタノール水溶液1500mLを加え、還流抽出器で80~90℃にて2時間加熱抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してエイジツ抽出物(16g,試料3)を得た。
【0051】
〔製造例4〕カミツレ抽出物の製造
カミツレの花部の乾燥物100gにスクワランを加え、抽出を行い濾過した。得られた抽出液を乾燥してカミツレ抽出物(1g,試料4)を得た。
【0052】
〔製造例5〕バラ3種混合抽出物の製造
カニナバラの果実の乾燥物33g、センチフォリアバラの花部の乾燥物33g、およびダマスクバラの花部の乾燥物33gを混合し、スクワランを加え、抽出を行い濾過した。得られた抽出液を乾燥してバラ3種混合抽出物(1g,試料5)を得た。
【0053】
〔製造例6〕ソウハクヒ抽出物の製造
マグワの根皮部の乾燥物(ソウハクヒ)100gに50%1,3-ブチレングリコール水溶液1500mLを加え、還流抽出器で80~90℃にて2時間加熱抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してソウハクヒ抽出物(7g,試料6)を得た。
【0054】
〔試験例1〕角層タンパク質カルボニル化の抑制作用試験-1
製造例1で得られたサンショウ抽出物(試料1)について、以下のようにして、角層タンパク質カルボニル化の抑制作用を試験した。
【0055】
後頭部剃毛の上アセトンを用いて脱脂した頭皮の角層を、角質チェッカー(アサヒバイオメッド社製)を用いてテープストリッピング法により剥離・回収した。角層が付着した角質チェッカー(サンプル)を、被験試料(試料1,試料濃度は下記表1を参照)および次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)100μmol/Lを含む水溶液1mLに浸漬し、37℃で16時間処理した。なお、コントロールとして、NaClO含有・試料不含有の水溶液を用い、またカルボニル化処理なし(ブランク)として、NaClO・試料不含有の水を用い、同様に処理した。得られたサンプルについて、角層タンパク質カルボニル化のレベルを以下の方法で評価した。
【0056】
0.1mol/L MES(2-morpholinoethane sulfonic acid-Na)緩衝液(pH5.5)1mLにてサンプルを3回洗浄し、次いで、20μmol/L蛍光ヒドラジド(fluorescein-5-thiosemicarbazide(FTSC),AnaSpec社製)を含有する0.1mol/L MES緩衝液(pH5.5)にサンプルを浸漬し、室温・遮光条件下で3時間反応させ、角層タンパク質のカルボニル基をラベル化した。反応終了後、PBS(-)緩衝液1mLで3回洗浄し、オールインワン蛍光顕微鏡(BZ-X800,キーエンス社製)にて画像撮影した。得られた画像を、付属の画像解析ソフトを用いて解析し、角層面積あたりの蛍光輝度をカルボニル化レベルとした。得られた結果から、下記式により角層タンパク質カルボニル化抑制率(%)を算出した。
【0057】
角層タンパク質カルボニル化抑制率(%)={1-(A-C)/(B-C)}×100
式中の各項はそれぞれ以下を表す。
A:NaClO処理・被験試料添加でのカルボニル化レベル
B:NaClO処理・試料無添加(コントロール)でのカルボニル化レベル
C:NaClO非処理・試料無添加(ブランク)でのカルボニル化レベル
結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、サンショウ抽出物(試料1)は、角層タンパク質のカルボニル化を効果的に抑制した。また、角層タンパク質カルボニル化抑制作用の程度は、サンショウ抽出物の濃度によって調節できることが確認された。
【0060】
〔試験例2〕角層タンパク質カルボニル化の抑制作用試験-2
製造例2~6で得られたモモ抽出物(試料2)、エイジツ抽出物(試料3)、カミツレ抽出物(試料4)、バラ3種混合抽出物(試料5)、およびソウハクヒ抽出物(試料6)について、以下のようにして、角層タンパク質カルボニル化の抑制作用を試験した。
【0061】
非露光部である上腕内側の角層を、角質チェッカー(アサヒバイオメッド社製)を用いてテープストリッピング法により剥離・回収した。角層が付着した角質チェッカー(サンプル)を、被験試料(試料2~6,試料濃度は下記表2を参照)および次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)20μmol/Lを含む水溶液1mLに浸漬し、37℃で16時間処理した。なお、コントロールとして、NaClO含有・試料不含有の水溶液を用い、またカルボニル化処理なし(ブランク)として、NaClO・試料不含有の水を用い、同様に処理した。得られたサンプルについて、角層タンパク質カルボニル化のレベルを以下の方法で評価した。
【0062】
0.1mol/L MES(2-morpholinoethane sulfonic acid-Na)緩衝液(pH5.5)1mLにてサンプルを2回洗浄し、次いで、20μmol/L蛍光ヒドラジド(fluorescein-5-thiosemicarbazide(FTSC),AnaSpec社製)を含有する0.1mol/L MES緩衝液(pH5.5)にサンプルを浸漬し、室温・遮光条件下で1時間反応させ、角層タンパク質のカルボニル基をラベル化した。反応終了後、PBS(-)緩衝液1mLで3回洗浄し、オールインワン蛍光顕微鏡(BZ-X800,キーエンス社製)にて画像撮影した。得られた画像を、付属の画像解析ソフトを用いて解析し、角層面積あたりの蛍光輝度をカルボニル化レベルとした。得られた結果から、下記式により角層タンパク質カルボニル化抑制率(%)を算出した。
【0063】
角層タンパク質カルボニル化抑制率(%)={1-(A-C)/(B-C)}×100
式中の各項はそれぞれ以下を表す。
A:NaClO処理・被験試料添加でのカルボニル化レベル
B:NaClO処理・試料無添加(コントロール)でのカルボニル化レベル
C:NaClO非処理・試料無添加(ブランク)でのカルボニル化レベル
結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示すように、モモ抽出物(試料2)、エイジツ抽出物(試料3)、カミツレ抽出物(試料4)、バラ3種混合抽出物(試料5)、およびソウハクヒ抽出物(試料6)は、いずれも角層タンパク質のカルボニル化を効果的に抑制した。また、角層タンパク質カルボニル化抑制作用の程度は、モモ抽出物、エイジツ抽出物、カミツレ抽出物、バラ3種混合抽出物、およびソウハクヒ抽出物のそれぞれの濃度によって調節できることが確認された。
【0066】
〔配合例1〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
サンショウ抽出物(製造例1) 0.05g
クジンエキス 0.1g
オウゴンエキス 0.1g
流動パラフィン 5.0g
サラシミツロウ 4.0g
スクワラン 10.0g
セタノール 3.0g
ラノリン 2.0g
ステアリン酸 1.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 1.5g
モノステアリン酸グリセリル 3.0g
油溶性カンゾウエキス 0.1g
1,3-ブチレングリコール 6.0g
パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
香料 0.1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0067】
〔配合例2〕
下記組成に従い、乳液を常法により製造した。
モモ抽出物(製造例2) 0.01g
ホホバオイル 4.00g
1,3-ブチレングリコール 3.00g
アルブチン 3.00g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.50g
オリーブオイル 2.00g
スクワラン 2.00g
セタノール 2.00g
モノステアリン酸グリセリル 2.00g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2.00g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
グリチルレチン酸ステアリル 0.10g
黄杞エキス 0.10g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.10g
イチョウ葉エキス 0.10g
コンキオリン 0.10g
オウバクエキス 0.10g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0068】
〔配合例3〕
下記組成の美容液を常法により製造した。
エイジツ抽出物(製造例3) 0.01g
カミツレエキス 0.1g
ニンジンエキス 0.1g
キサンタンガム 0.3g
ヒドロキシエチルセルロース 0.1g
カルボキシビニルポリマー 0.1g
1,3-ブチレングリコール 4.0g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
グリセリン 2.0g
水酸化カリウム 0.25g
香料 0.01g
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
エタノール 2.0g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0069】
〔配合例4〕
下記組成のヘアトニックを常法により製造した。
カミツレ抽出物(製造例4) 0.4g
バラ3種混合抽出物(製造例5) 0.4g
酢酸トコフェロール 適量
セファラチン 0.002g
イソプロピルメチルフェノール 0.1g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.15g
グリセリン 15.0g
エタノール 15.0g
香料 適量
キレート剤(エデト酸ナトリウム) 適量
防腐剤(ヒノキチオール) 適量
可溶化剤(ポリオキシエチレンセチエーテル) 適量
精製水 残部(全量を100gとする)
【0070】
〔配合例5〕
下記組成のシャンプーを常法により製造した。
ソウハクヒ抽出物(製造例6) 0.5g
マジョラム抽出物 1.0g
ウメ果実部抽出物 0.2g
ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム 10.0g
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 10.0g
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム 20.0g
ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド 4.0g
プロピレングリコール 2.0g
香料 適量
精製水 残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の角層タンパク質カルボニル化抑制剤および角層タンパク質カルボニル化抑制用皮膚外用剤は、角質細胞の保水性の向上;肌の柔軟性や弾力性の向上;肌のくすみの抑制;などに大きく貢献できる。