(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022102950
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】化合物、腐食抑制剤、及び潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 135/08 20060101AFI20220630BHJP
C10M 133/04 20060101ALI20220630BHJP
C10M 105/58 20060101ALI20220630BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20220630BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220630BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20220630BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20220630BHJP
【FI】
C10M135/08
C10M133/04
C10M105/58
C10N30:12
C10N30:00 A
C10N30:00 Z
C10N40:02
C10N40:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218038
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸生
(72)【発明者】
【氏名】中西 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】服部 秀章
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BE06A
4H104BE06C
4H104BG05C
4H104LA06
4H104LA11
4H104LA20
4H104PA01
4H104PA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高真空、低温、高温、常温、常圧環境下において安定性に優れる化合物、腐食抑制剤、更には耐金属腐食性、溶解性、低蒸発性に優れる潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(B1)で表される化合物である。また、下記一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上を含む腐食抑制剤(B)である。更に、イオン液体(A)と、前記腐食抑制剤(B)とを含む潤滑剤組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(B1)で表される化合物。
【化1】
[前記一般式(B1)中、Mは、アルカリ金属を示し、R
B11は、炭素数1~19のアルキレン基を示す。]
【請求項2】
請求項1に記載の化合物から選択される1種以上を含む、腐食抑制剤。
【請求項3】
イオン液体(A)と、請求項2に記載の腐食抑制剤(B)とを含む、潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記イオン液体(A)が、下記一般式(A1)で表される陽イオンを含む、請求項3に記載の潤滑剤組成物。
【化2】
[前記一般式(A1)中、nは1又は2であり、Xはメチレン基又は酸素であり、R
A11、R
A12は、各々独立に、エーテル基、エステル基、ニトリル基、シリル基を有していてもよい炭素数1から12までのアルキル基から選ばれる基である。]
【請求項5】
前記イオン液体(A)が、下記一般式(A2)で表される化合物、及び下記一般式(A3)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含む、請求項3又は4に記載の潤滑剤組成物。
【化3】
[前記一般式(A2)中、nは1又は2であり、Xはメチレン基又は酸素であり、R
A21は、炭素数2~12のアルキル基を示す。]
【化4】
[前記一般式(A3)中、nは1又は2であり、Xはメチレン基又は酸素であり、R
A31は、炭素数1~5のアルキレン基を示し、R
A32は、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
【請求項6】
前記一般式(B1)で表される化合物の含有量が、前記潤滑剤組成物の全量基準で、0.1質量%以上10質量%以下である、請求項3~5のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
前記一般式(B1)で表される化合物の含有量と、前記イオン液体(A)の含有量との比(B1/A)が、質量比で、0.0005以上0.15以下である、請求項3~6のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、腐食抑制剤、及び潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間は、地球環境と異なり大気が無いため、大気圧が存在せず、非常に高い真空環境となっている。そして、このような高真空下では、蒸気圧の高い液体は使用中に蒸発してしまうため、長期間宇宙空間で使用することが難しい。また、大気を有する地球表面と異なり、太陽から受ける熱放射、熱放出の影響が大きいため、人工衛星、探査機、月面自動車等、宇宙空間で用いる装置の表面温度は、氷点下から高温の広い温度範囲となる。
したがって、これらの装置は、地球上と異なる過酷な環境に晒されるため、前記装置に搭載される機器を長期的にスムーズに作動させ続けるためには、高真空下、氷点下の低温環境下、200~300℃の高温環境下においても使用可能な潤滑剤組成物が求められる。
【0003】
また、宇宙用の装置に搭載される機器を潤滑させる潤滑剤組成物は、摩擦係数の低減(潤滑性)、及び長期間にわたって潤滑性を維持すること(低蒸発性)も求められることから、その主成分の基油として、蒸気圧が低いMAC油(トリス(2-オクチルドデシル)シクロペンタン等のシクロペンタン油)や、PFAE(パーフルオロアルキルエーテル)等が用いられている。
しかしながら、MAC油は、粘度指数が低いため温度に対する粘度変化が大きいという問題がある。また、PFAEは、潤滑性が不十分であるという問題がある。
そこで、近年、宇宙用機器の潤滑剤組成物に用いる主成分として、低温流動性、高真空下での低蒸発性、潤滑性に優れる、イオン液体を適用する研究が進められている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、宇宙用の装置のリサイクル性の観点から、上記機器は、宇宙環境で使用された後、地球に一旦帰還して長期間保管や整備等され、再び宇宙環境へ持ち出しても使用できることが求められている。
したがって、宇宙用機器の潤滑剤組成物も、宇宙環境だけではなく、地球に帰還後の大気圧下での環境、即ち、常温、常圧環境下においても、安定性、及び低蒸発性に優れる潤滑剤組成物が求められる。
しかしながら、イオン液体は、宇宙環境での潤滑性等には優れるものの、大気圧下では水分や酸素を取り込みやすく、材質によっては金属を腐食させてしまうという問題がある。
【0006】
そこで、イオン液体に対する金属腐食性を抑制できる腐食防止剤が検討されている。
しかしながら、従来鉱油などに用いられてきた腐食抑制剤では、イオン液体への溶解性が低いため、イオン液体に適用することができないという問題がある。
また、上記特許文献1に記載の技術では、イオン液体による錆の発生を抑制するための錆止め剤として脂肪酸アミン塩が用いられている。しかしながら、特許文献1に記載の脂肪酸アミン塩は、高温で蒸発してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、高真空下、低温環境下、高温環境下、常温、常圧環境下のいずれにおいても安定性に優れる化合物、腐食抑制剤、更には当該腐食抑制剤を含有し、耐金属腐食性、溶解性、低蒸発性に優れる潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討により、特定の化合物が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、下記[1]を提供する。
[1] 下記一般式(B1)で表される化合物。
【化1】
[前記一般式(B1)中、Mは、アルカリ金属を示し、R
B11は、炭素数1~19のアルキレン基を示す。]
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高真空下、低温環境下、高温環境下、常温、常圧環境下のいずれにおいても安定性に優れる化合物、腐食抑制剤、更には当該腐食抑制剤を含有し、耐金属腐食性、溶解性、低蒸発性に優れる潤滑剤組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1、2で用いた腐食抑制剤(B1-1)の
1H-NMRチャートである。
【
図2】実施例3で用いた腐食抑制剤(B1-2)の
1H-NMRチャートである。
【
図3】実施例4で用いた腐食抑制剤(B1-3)の
1H-NMRチャートである。
【
図4】実施例5で用いた腐食抑制剤(B1-4)の
1H-NMRチャートである。
【
図5】実施例6で用いた腐食抑制剤(B1-5)の
1H-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10以上、より好ましくは30以上、更に好ましくは40以上」という下限値の記載と、「好ましくは90以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下である」という上限値の記載とから、好適範囲として、例えば、「10以上70以下」、「30以上70以下」、「40以上80以下」といったそれぞれ独立に選択した下限値と上限値とを組み合わせた範囲を選択することもできる。また、同様の記載から、例えば、単に、「40以上」又は「70以下」といった下限値又は上限値の一方を規定した範囲を選択することもできる。また、例えば、「好ましくは10以上90以下、より好ましくは30以上80以下、更に好ましくは40以上70以下である」、「好ましくは10~90、より好ましくは30~80、更に好ましくは40~70である」といった記載から選択可能な好適範囲についても同様である。なお、本明細書中、数値範囲の記載において、例えば、「10~90」という記載は「10以上90以下」と同義である。なお、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」、「未満」、「超」の数値もまた、任意に組み合わせることができる。
なお、本明細書において、例えば、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語や同様の標記についても、同じである。
【0013】
本実施形態の化合物は、下記一般式(B1)で表される化合物である。
【化2】
[前記一般式(B1)中、Mは、アルカリ金属を示し、R
B11は、炭素数1~19のアルキレン基を示す。]
【0014】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討した結果、イオン液体と同じ種類の陽イオン、陰イオン構造を有し、かつ陽イオンの側鎖にアルキルカルボン酸金属塩を有する化合物とすることにより、イオン液体への溶解性、耐金属腐食性、及び高温環境下での安定性を両立することができることを見出した。
これらの知見に基づき、本発明者らは更に鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0015】
[化合物]
本実施形態の化合物は、下記一般式(B1)で表される化合物である。
【化3】
[前記一般式(B1)中、Mは、アルカリ金属を示し、R
B11は、炭素数1~19のアルキレン基を示す。]
【0016】
前記一般式(B1)中のMのアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。これらの中でも、常圧環境下にて示差熱分析装置を用い、温度を窒素雰囲気下で20℃から10℃/minの割合で昇温し、初期質量から5質量%減少した温度(5%質量減温度)がより高くなり、高温環境下でも安定である観点から、好ましくはナトリウムである。
【0017】
前記一般式(B1)中のRB11は、炭素数1~19のアルキレン基は、直鎖であってもよく、分岐鎖を有していてもよい。RB11の炭素数は、好ましくは3~17、より好ましくは5~15、更に好ましくは7~12、より更に好ましくは8~10である。RB11の炭素数が上記範囲内にあると、潤滑剤組成物やグリース組成物等、幅広い分野で適応することができる。また、RB11の炭素数が5以上であると、イオン液体への溶解性を向上させやすい。更に、RB11の炭素数が8以上であると、耐金属腐食性を向上させやすい。また、RB11の炭素数が15以下であると、5%質量減温度を高めやすく、高温環境下での安定性を向上させやすい。
【0018】
前記一般式(B1)で表される化合物は、例えば、以下の合成方法により、合成することができる。
まず、300mLフラスコにN-メチルピロリジン、Br-RB11-COO-C2H5(RB11は炭素数1~19のアルキレン基)で表される化合物、イソプロパノールを加え、50℃~70℃で7時間~9時間反応させる。この反応混合物に酢酸エチルを加え、沈殿物を数回ヘキサンで洗浄した後、真空ポンプで数時間乾燥して白色固体を得る。得られた白色固体を塩化メチレンに希釈し、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドと水を加え、10℃~30℃で0.5時間~2時間反応させる。次に、有機層を分離し、水で数回洗浄した後、エバポレーターで濃縮し、反応生成物を得る。得られた反応生成物にメタノール、水、アルカリ金属の水酸化物を加え、90℃~110℃で0.5時間~2時間反応させ、反応混合物をエバポレーターで濃縮することにより、前記一般式(B1)で表される化合物を得ることができる。
また、前記一般式(B1)で表される化合物は、例えば、1H-NMR法を用いて、実施例に記載の条件で構造解析することができる。
【0019】
[高温環境下での安定性(5%質量減温度)]
前記一般式(B1)で表される化合物の5%質量減温度としては、270℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、310℃以上が更に好ましい。これにより、高温環境下においても、優れた安定性を有する。
5%質量減温度は、実施例に記載の方法により、測定することができる。
【0020】
<腐食抑制剤(B)>
前記一般式(B1)で表される化合物は、耐金属腐食性に優れるため、後述する潤滑剤組成物の腐食抑制剤(B)として用いることができる。
腐食抑制剤(B)としては、上述した一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上を含む。
一般式(B1)で表される化合物の含有量としては、腐食防止剤(B)全量基準で、好ましくは60質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0021】
[潤滑剤組成物]
本実施形態の潤滑剤組成物は、イオン液体(A)と、上述した一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上を含む腐食抑制剤(B)とを含む。
【0022】
なお、以降の説明では、イオン液体(A)、腐食抑制剤(B)を、それぞれ、成分(A)、成分(B)ともいう。
【0023】
本実施形態の潤滑剤組成物において、成分(A)及び成分(B)の合計含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上である。
また、本実施形態の潤滑剤組成物において、成分(A)及び成分(B)の合計含有量の上限値は、100質量%であってもよい。但し、潤滑剤組成物が、成分(A)及び成分(B)以外のその他の成分を含む場合には、成分(A)及び成分(B)の合計含有量の上限値は、その他の成分との関係で調整すればよく、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0024】
本実施形態の潤滑剤組成物において、前記一般式(B1)で表される化合物の含有量は、イオン液体(A)への溶解性、及び耐金属腐食性の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下、より更に好ましくは1.0質量%以上3.0質量%以下、更になお好ましくは1.5質量%以上2.5質量%以下である。
また、本実施形態の潤滑剤組成物において、腐食抑制剤(B)の含有量は、イオン液体(A)への溶解性、及び耐金属腐食性の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下、より更に好ましくは1.0質量%以上3.0質量%以下、更になお好ましくは1.5質量%以上2.5質量%以下である。
なお、腐食抑制剤(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上用いる場合の好適な合計含有量も、前述した含有量と同じである。
【0025】
以下、本実施形態の潤滑剤組成物に含まれる各成分について説明する。
【0026】
<イオン液体(A)>
本実施形態の潤滑剤組成物は、イオン液体(A)を含有する。
イオン液体(A)は、陽イオン及び陰イオンから構成される液体状の化合物である。
イオン液体(A)の陰イオンとしては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを含むことが好ましい。
【0027】
イオン液体(A)の陽イオンとしては、下記一般式(A1)で表される陽イオンを含むことが好ましい。
【化4】
[前記一般式(A1)中、nは1又は2であり、Xはメチレン基又は酸素であり、R
A11、R
A12は、各々独立に、エーテル基、エステル基、ニトリル基、シリル基を有していてもよい炭素数1から12までのアルキル基から選ばれる基である。]
【0028】
一般式(A1)中のRA11、RA12のアルキル基の炭素数は、イオン液体の低粘度化や高温環境下での安定性の向上の観点から、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
RA11としては、メチル基が好ましい。また、RA12としては、n-ブチル基、メトキシエチル基が好ましい。
【0029】
前記一般式(A1)で表される陽イオンとしては、例えば、1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-ペンチル-1-メチルピロリジニウム、1-ヘキシル-1-メチルピロリジニウム、1-ヘプチル-1メチルピロリジニウム、1-オクチル-1メチルピロリジニウム、1-ノニル-1-メチルピロリジニウム、1-デシル-1-メチルピロリジニウム、1-ウンデシル-1-メチルピロリジニウム、1-ドデシル-1-メチルピロリジニウム、1-メトキシメチル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシ-2-オキソエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-シアノメチル-1-メチルピロリジニウム、1-トリメチルシリルメチル-1-メチルピロリジニウム、1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、1-ペンチル-1-メチルピペリジニウム、1-ヘキシル-1-メチルピペリジニウム、1-ヘプチル-1-メチルピペリジニウム、1-オクチル-1-メチルピペリジニウム、1-ノニル-1-メチルピペリジニウム、1-デシル-1-メチルピペリジニウム、1-ウンデシル-1-メチルピペリジニウム、1-ドデシル-1-メチルピペリジニウム、1-メトキシメチル-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシ-2-オキソエチル)-1-メチルピペリジニウム、1-シアノメチル-1-メチルピペリジニウム、1-トリメチルシリルメチル-1-メチルピペリジニウム、1-ブチル-1-メチルモルホリニウム、1-ペンチル-1-メチルモルホリニウム、1-ヘキシル-1-メチルモルホリニウム、1-ヘプチル-1-メチルモルホリニウム、1-オクチル-1-メチルモルホリニウム、1-ノニル-1-メチルモルホリニウム、1-デシル-1-メチルモルホリニウム、1-ウンデシル-1-メチルモルホリニウム、1-ドデシル-1-メチルモルホリニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルモルホリニウム、1-メトキシメチル-1-メチルモルホリニウム、1-(2-メトキシ-2-オキソエチル)-1-メチルモルホリニウム、1-シアノメチル-1-メチルモルホリニウム、1-トリメチルシリルメチル-1-メチルモルホリニウム等が挙げられる。
これらの中でも、イオン液体(A)の低粘度化や高温環境下での安定性を向上させる観点から、好ましくは1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-ペンチル-1メチルピロリジニウム、1-ヘキシル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルモルホリニウム、より好ましくは1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム、更に好ましくは1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウムである。
【0030】
イオン液体(A)としては、下記一般式(A2)で表される化合物、及び下記一般式(A3)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0031】
【化5】
[前記一般式(A2)中、nは1又は2であり、Xはメチレン基又は酸素であり、R
A21は、炭素数2~12のアルキル基を示す。]
【0032】
【化6】
[前記一般式(A3)中、nは1又は2であり、Xはメチレン基又は酸素であり、R
A31は、炭素数1~5のアルキレン基を示し、R
A32は、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
【0033】
前記一般式(A2)中、RA21の炭素数は、好ましくは2~8、より好ましくは3~6である。RA21の炭素数が2以上であると、側鎖が自由に可動することができ、また対称性が低くなるため、結晶化を抑制し、イオン液体としての機能を向上させることができる。RA21の炭素数が12以下であると、側鎖が大きくなりすぎず、化合物全体としてのイオン性が高いため、酸化劣化を抑制しやすい。
【0034】
前記一般式(A3)中、RA31の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。また、RA32の炭素数は、好ましくは1~2である。RA31の炭素数が1以上であると、側鎖が自由に可動することができ、また対称性が低くなるため、結晶化を抑制し、イオン液体としての機能を向上させることができる。RA31の炭素数が5以下である、又はRA32の炭素数が3以下であると、側鎖が大きくなりすぎず、化合物全体としてのイオン性が高いため、酸化劣化を抑制しやすい。
【0035】
一般式(A2)で表される化合物の含有量としては、イオン液体(A)全量基準で、好ましくは60質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
また、一般式(A3)で表される化合物の含有量としては、イオン液体(A)全量基準で、好ましくは60質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0036】
イオン液体(A)の40℃動粘度は、低蒸発性、及び粘性抵抗による動力損失を抑える観点から、好ましくは2.0mm2/s~100.0mm2/s、より好ましくは10.0mm2/s~70.0mm2/s、更に好ましくは20.0mm2/s~40.0mm2/sである。
イオン液体(A)の100℃動粘度は、低蒸発性、及び粘性抵抗による動力損失を抑える観点から、好ましくは1.0mm2/s~20.0mm2/s、より好ましくは2.0mm2/s~10.0mm2/s、更に好ましくは3.0mm2/s~7.0mm2/sである。
イオン液体(A)の粘度指数は、低温、高温環境と温度範囲が大きく変化する宇宙環境で用いる場合にも、粘度変化を小さくする観点から、好ましくは100以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは140以上である。
前記40℃動粘度、前記100℃動粘度、及び前記粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠して測定又は算出することができる。
また、イオン液体(A)が2種以上のイオン液体の混合物である場合、混合物の動粘度及び粘度指数が上記範囲内にあることが好ましい。
【0037】
イオン液体(A)の流動点は、低温時に粘性抵抗が増大することを抑える観点から、好ましくは0℃以下、より好ましくは-10℃以下、更に好ましくは-20℃以下である。
イオン液体(A)の流動点は、JIS K 2269:1987に準じて測定することができる。
【0038】
前記イオン液体(A)の酸価は、耐金属腐食性の観点から、好ましくは1mgKOH/g以下、より好ましくは0.5mgKOH/g以下、更に好ましくは0.3mgKOH/g以下である。
【0039】
前記イオン液体(A)の引火点は、低蒸発性の観点から、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上、更に好ましくは300℃以上である。
【0040】
イオン液体(A)の15℃において測定したイオン濃度としては、好ましくは1.0mol/dm3以上、より好ましくは1.5mol/dm3以上、更に好ましくは2.0mol/dm3以上である。
ここで、イオン濃度とは、イオン液体において、[15℃で測定した密度(g/cm3)/分子量Mw(g/mol)]×1000で算出される値である。イオン液体(A)のイオン濃度が1.0mol/dm3以上であると、低蒸発性、高温環境下での安定性をより向上させることができる。
【0041】
イオン液体(A)の分子量は、好ましくは410以上570以下、より好ましくは410以上470以下、更に好ましくは420以上440以下である。前記イオン液体(A)の分子量が前記範囲内にあると、電荷密度及び陽イオンのアルキル鎖の長さが適当な範囲となり、イオン液体の低粘度化や高温環境下での安定性の向上を図ることができる。
【0042】
本実施形態の潤滑剤組成物において、イオン液体(A)の含有量は、特に限定されないが、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%~99.5質量%、より好ましくは70質量%~99.0質量%、更に好ましくは80質量%~98.5質量%である。
【0043】
本実施形態の潤滑剤組成物において、上述したイオン液体(A)以外のその他の成分(例えば、酢酸エチルなど)を含んでもよい。本発明の効果を十分に発揮させる観点から、上述したイオン液体(A)の含有量は、イオン液体全量基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。
【0044】
前記一般式(B1)で表される化合物の含有量と、前記イオン液体(A)の含有量との比(B1/A)としては、質量比で、好ましくは0.0005以上0.15以下、より好ましくは0.001以上0.111以下、更に好ましくは0.005以上0.08以下である。(B1/A)が0.0005以上であると、耐金属腐食性を十分なものとしやすい。(B1/A)が0.15以下であると、イオン液体(A)に対する溶解性を十分なものとしやすい。
【0045】
<その他の成分>
本実施形態の潤滑剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記成分以外のその他の成分を含有してもよい。
前記その他の成分としては、例えば、粘度指数向上剤が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
-粘度指数向上剤-
本実施形態の潤滑剤組成物が粘度指数向上剤を含有することにより、潤滑剤組成物の粘度指数を向上させることができる。これにより、低温、高温環境と温度範囲が大きく変化する宇宙環境で用いる場合にも、粘度変化を小さくすることができる。
【0047】
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリ(メタ)アクリレート、分散型ポリ(メタ)アクリレート等の重合体であって、イオン液体に溶解し得るものが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの粘度指数向上剤の質量平均分子量(Mw)としては、通常5,000~1,000,000、好ましくは6,000~100,000、より好ましくは10,000~50,000であるが、重合体の種類に応じて適宜設定される。
本明細書において、各成分の質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0048】
上述した前記その他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜調整することができるが、その各々について、潤滑剤組成物の全量(100質量%)基準で、通常は0.001質量%~15質量%であり、好ましくは0.005質量%~10質量%、より好ましくは0.01質量%~7質量%、更に好ましくは0.03質量%~5質量%である。
なお、本明細書において、前記その他の成分としての添加剤は、ハンドリング性、イオン液体(A)への溶解性等を考慮し、上述のイオン液体(A)の一部に希釈し溶解させた溶液の形態で、他の成分と配合してもよい。このような場合、本明細書においては、前記その他の成分としての添加剤の上述の含有量は、希釈剤を除いた有効成分換算(樹脂分換算)での含有量を意味する。
【0049】
[潤滑剤組成物の物性値]
<40℃動粘度、100℃動粘度、及び粘度指数>
【0050】
本実施形態の潤滑剤組成物の40℃動粘度は、低蒸発性、及び粘性抵抗による動力損失を抑える観点から、好ましくは2.0mm2/s~100.0mm2/s、より好ましくは10.0mm2/s~70.0mm2/s、更に好ましくは20.0mm2/s~50.0mm2/sである。
本実施形態の潤滑剤組成物の100℃動粘度は、低蒸発性、及び粘性抵抗による動力損失を抑える観点から、好ましくは1.0mm2/s~20.0mm2/s、より好ましくは2.0mm2/s~15.0mm2/s、更に好ましくは3.0mm2/s~10.0mm2/sである。
本実施形態の潤滑剤組成物の粘度指数は、低温、高温環境と温度範囲が大きく変化する宇宙環境で用いる場合にも、粘度変化を小さくする観点から、好ましくは100以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは140以上である。
前記40℃動粘度、前記100℃動粘度、及び前記粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠して測定又は算出することができる。
【0051】
<溶解性(外観)>
腐食抑制剤(B)がイオン液体(A)に溶解し、無色透明になることが好ましい。なお、実施例に記載方法により判断することができる。
【0052】
<低蒸発性(蒸発量)>
蒸発量としては、0.1質量%未満が好ましい。なお、実施例に記載方法により測定することができる。
【0053】
<耐金属腐食性>
耐金属腐食性としては、実施例に記載方法により判断した場合、腐食が見られないことが好ましい。
【0054】
[潤滑剤組成物の用途]
本実施形態の潤滑剤組成物は、高真空下、低温環境下、高温環境下だけではなく、常温常圧環境下においても、耐金属腐食性、溶解性、低蒸発性に優れることから、人工衛星、探査機、月面自動車等、宇宙空間で用いる装置に搭載される機器に好適に用いることができる。また、本実施形態の潤滑剤組成物は、高真空下での使用に優れることから、半導体、液晶や有機ELのフラットパネルディスプレイ、太陽電池パネル等の製造装置などに好適に用いることができる。
なお、本実施形態の潤滑剤組成物は、宇宙空間で用いる装置用の潤滑剤組成物としての用途が好適であるが、他の用途にも適用し得る。
【0055】
[潤滑剤組成物の製造方法]
本実施形態としては、イオン液体(A)と、下記一般式(B1)で表される化合物とを混合する工程を含む、潤滑剤組成物の製造方法を提供する。
【化7】
[前記一般式(B1)中、Mは、アルカリ金属を示し、R
B11は、炭素数1~19のアルキレン基を示す。]
【0056】
上記各成分を混合する方法としては、特に制限はないが、例えば、イオン液体(A)に、下記一般式(B1)で表される化合物を加えた後に混合する工程が挙げられる。
また、前記製造方法は、上述した前記その他の成分を加える工程を更に含むことができる。
【0057】
[グリース組成物]
本実施形態の潤滑剤組成物は、イオン液体(A)と、腐食防止剤(B)と、増ちょう剤とを含むことにより、グリース組成物として用いることもできる。
宇宙空間は微少重力環境であるため、地球上で一般的に行われている潤滑剤の重力供給方法が適用できない。しかしながら、本実施形態の潤滑剤組成物をグリース組成物に適用することにより、潤滑剤を使用中に供給せずとも、潤滑性を維持することができる。
【0058】
前記グリース組成物の増ちょう剤としては、セルロースナノファイバーを好適に用いることができる。イオン液体(A)もセルロースナノファイバーも親水性であるため、セルロースナノファイバー中に親和性よくイオン液体(A)及び腐食防止剤(B)を保持することができる。
なお、前記グリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)、成分(B)以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0059】
<ナノファイバー>
本実施形態のグリース組成物に含まれるナノファイバーは、セルロースナノファイバー及び親水性の変性セルロースナノファイバーから選択される1種以上であることが好ましい。
グリース組成物がナノファイバーを含有することで、ナノファイバーがグリース組成物中に均一に分散し高次構造を形成する。ナノファイバーは機械的安定性に優れるため、ナノファイバーによる高次構造はせん断に対して安定となる。そのため、グリース組成物のせん断安定性が向上し、グリースの漏れ防止性能が向上する。
また、ナノファイバーの含有量が少量であっても、グリース組成物の混和ちょう度を適切な範囲に調整することにより、グリース組成物中に占めるイオン液体(A)の割合を高めることができる。したがって、グリース組成物の潤滑性が高まり、耐摩耗性も向上させやすい。
【0060】
(セルロースナノファイバー)
セルロースナノファイバーとは、植物繊維をナノレベルに解繊することにより製造される、太さが500nm以下の繊維状物を意味し、フレーク状物、パウダー状物、及び粒子状物とは区別される。
なお、セルロースナノファイバーの原料としてリグノセルロースも用いることができる。リグノセルロースは、植物の細胞壁を構成する、複合炭化水素高分子であり、主に多糖類のセルロース、ヘミセルロースと芳香族高分子であるリグニンから構成されていることが知られている。
セルロースナノファイバーを構成するセルロースは、リグノセルロース及びアセチル化リグノセルロースから選択される1種以上でもよい。また、セルロースナノファイバーは、ヘミセルロース及びリグニンから選択される1種以上を含んでいてもよい。更に、セルロースナノファイバーを構成するセルロースは、ヘミセルロース及びリグニンから選択される1種以上と化学的に結合していてもよい。
セルロースナノファイバーを構成するセルロースの重合度は、好ましくは50~3,000、より好ましくは100~1,500、更に好ましくは150~1,000、より更に好ましくは200~800である。
なお、本明細書において、セルロースの重合度は、粘度法により測定された値を意味する。
【0061】
(親水性の変性セルロースナノファイバー)
親水性の変性セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーに対して親水性を維持し得る範囲で改質処理が施されたものである。
改質処理の具体例としては、アセチル化等のエステル化、リン酸化、ウレタン化、カルバミド化、エーテル化、カルボキシメチル化、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル)酸化、及び過ヨウ素酸酸化等が挙げられる。
本発明で用いる変性セルロースナノファイバーは、これらの改質処理のうち1種のみが施されたものであってもよいし、2種以上が施されたものであってもよい。
【0062】
本発明の一態様によれば、下記[1]~[7]が提供される。
[1] 下記一般式(B1)で表される化合物。
【化8】
[前記一般式(B1)中、Mは、アルカリ金属を示し、R
B11は、炭素数1~19のアルキレン基を示す。]
[2] 上記[1]に記載の化合物から選択される1種以上を含む、腐食抑制剤。
[3] イオン液体(A)と、上記[2]に記載の腐食抑制剤(B)とを含む、潤滑剤組成物。
[4] 前記イオン液体(A)が、下記一般式(A1)で表される陽イオンを含む、上記[3]に記載の潤滑剤組成物。
【化9】
[前記一般式(A1)中、nは1又は2であり、Xはメチレン基又は酸素であり、R
A11、R
A12は、各々独立に、エーテル基、エステル基、ニトリル基、シリル基を有していてもよい炭素数1から12までのアルキル基から選ばれる基である。]
[5] 前記イオン液体(A)が、下記一般式(A2)で表される化合物、及び下記一般式(A3)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含む、上記[3]又は[4]に記載の潤滑剤組成物。
【化10】
[前記一般式(A2)中、nは1又は2であり、Xはメチレン基又は酸素であり、R
A21は、炭素数2~12のアルキル基を示す。]
【化11】
[前記一般式(A3)中、nは1又は2であり、Xはメチレン基又は酸素であり、R
A31は、炭素数1~5のアルキレン基を示し、R
A32は、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
[6] 前記一般式(B1)で表される化合物の含有量が、前記潤滑剤組成物の全量基準で、0.1質量%以上10質量%以下である、上記[3]~[5]のいずれか1つに記載の潤滑剤組成物。
[7] 前記一般式(B1)で表される化合物の含有量と、前記イオン液体(A)の含有量との比(B1/A)が、質量比で、0.0005以上0.15以下である、上記[3]~[6]のいずれか1つに記載の潤滑剤組成物。
【実施例0063】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
後述する各腐食抑制剤の構造は、下記方法によって解析した。
【0065】
[NMR構造解析]
後述する腐食抑制剤(B1-1)~(B1-5)について、
1H-NMR法を用いて、以下の条件で測定した。得られた
1H-NMRチャートを、
図1~
図5に示す。
・装置名:JNM-ECZ400S(日本電子株式会社製)
・測定温度:20℃
・基準物質:DMSO-D6
【0066】
[腐食抑制剤(B)の合成、入手]
後述する方法により、腐食抑制剤(B1-1)~(B1-5)、及び腐食抑制剤(B2-2)を合成した。また、腐食抑制剤(B2-1)、(B2-3)を入手した。
【0067】
<腐食抑制剤(B1-1)>
・腐食抑制剤(B1-1)
まず、300mLフラスコにN-メチルピロリジン(2.44g、28.6mmol)、10-ブロモデカン酸エチル(8.80g、31.5mmol)、イソプロパノール20mLを加え、60℃で8時間反応させた。この反応混合物に酢酸エチル100mLを加え、沈殿物を数回ヘキサンで洗浄した後、真空ポンプで数時間乾燥して白色固体を9.5g得た。得られた白色固体を塩化メチレン100mLに希釈し、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(8.21g、28.6mmol)と水100mLを加え、20℃で1時間反応させた。次に、有機層を分離し、水で数回洗浄した後、エバポレーターで濃縮し、反応生成物を14.1g得た。得られた反応生成物にメタノール16mL、水2mL、水酸化ナトリウム(1.00g、25.0mmol)を加え、100℃で1時間反応させ、反応混合物をエバポレーターで濃縮することにより、腐食抑制剤(B1-1)を得た。
得られた腐食抑制剤(B1-1)は、13.57g、24.3mmolであった。また、得られた腐食抑制剤(B1-1)は、5%質量減温度:317℃であった。腐食抑制剤(B1-1)の構造を、構造式(B1-1)に示す。
【0068】
【0069】
<腐食抑制剤(B1-2)>
・腐食抑制剤(B1-2)
腐食抑制剤(B1-1)の合成において、10-ブロモデカン酸エチルの代わりに11-ブロモウンデカン酸エチル(9.24g、31.5mmol)を用いること以外は同様の方法で合成することにより、腐食抑制剤(B1-2)を得た。
得られた腐食抑制剤(B1-2)は、13.63g、23.8mmolであった。また、得られた腐食抑制剤(B1-2)は、5%質量減温度:314℃であった。腐食抑制剤(B1-2)の構造を、構造式(B1-2)に示す。
【0070】
【0071】
<腐食抑制剤(B1-3)>
・腐食抑制剤(B1-3)
腐食抑制剤(B1-1)の合成において、水酸化ナトリウムの代わりに水酸化カリウム(1.40g、25.0mmol)を用いること以外は同様の方法で合成することにより、腐食抑制剤(B1-3)を得た。
得られた腐食抑制剤(B1-3)は、13.51g、23.5mmolであった。また、得られた腐食抑制剤(B1-3)は、5%質量減温度:280℃であった。腐食抑制剤(B1-3)の構造を、構造式(B1-3)に示す。
【0072】
【0073】
<腐食抑制剤(B1-4)>
・腐食抑制剤(B1-4)
腐食抑制剤(B1-1)の合成において、10-ブロモデカン酸エチルの代わりに6-ブロモヘキサン酸エチル(7.03g、31.5mmol)を用いること以外は同様の方法で合成することにより、腐食抑制剤(B1-4)を得た。
得られた腐食抑制剤(B1-4)は、12.57g、25.0mmolであった。また、得られた腐食抑制剤(B1-4)は、5%質量減温度:291℃であった。腐食抑制剤(B1-4)の構造を、構造式(B1-4)に示す。
【0074】
【0075】
<腐食抑制剤(B1-5)>
・腐食抑制剤(B1-5)
腐食抑制剤(B1-1)の合成において、10-ブロモデカン酸エチルの代わりに8-ブロモオクタン酸エチル(7.91g、31.5mmol)を用いること以外は同様の方法で合成することにより、腐食抑制剤(B1-5)を得た。
得られた腐食抑制剤(B1-5)は、13.16g、24.8mmolであった。また、得られた腐食抑制剤(B1-5)は、5%質量減温度:318℃であった。腐食抑制剤(B1-5)の構造を、構造式(B1-5)に示す。
【0076】
【0077】
<腐食抑制剤(B2-1)>
・腐食抑制剤(B2-1):セバシン酸二ナトリウム
セバシン酸二ナトリウム(東京化成工業株式会社製)を入手し、腐食抑制剤(B2-1)として用いた。
腐食抑制剤(B2-1)は、5%質量減温度:381℃であった。腐食抑制剤(B2-1)の構造を、構造式(B2-1)に示す。
【0078】
【0079】
<腐食抑制剤(B2-2)>
・腐食抑制剤(B2-2):デカン二酸ビス(テトラメチルアンモニウム)
500mLフラスコにデカン二酸(27.7g、0.137mol)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(約25%水溶液、100g、0.274mol)を加え、室温(20℃)で1時間反応させた。この反応混合物をロータリーエバポレータで濃縮し、得られた固体を真空ポンプで数時間乾燥することで、腐食抑制剤(B2-2)を得た。
得られた腐食抑制剤(B2-2)は、47.4g、0.136molであった。また、得られた腐食抑制剤(B2-2)は、5%質量減温度:200℃であった。腐食抑制剤(B2-2)の構造を、構造式(B2-2)に示す。
【0080】
【0081】
<腐食抑制剤(B2-3)>
・腐食抑制剤(B2-3)
商品名:キレスライトT(キレスト株式会社製)を入手し、腐食抑制剤(B2-3)として用いた。腐食抑制剤(B2-3)は、5%質量減温度:130℃であった。
【0082】
得られた各腐食抑制剤について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
[高温環境下での安定性の評価(5%質量減温度)]
腐食抑制剤(B1-1)~(B1-5)、及び腐食抑制剤(B2-1)~(B2-3)の各化合物について、常圧環境下にて示差熱分析装置を用い、温度を窒素雰囲気下で20℃から10℃/minの割合で昇温し、初期質量から5質量%減少した温度(5%質量減温度)を測定した。
【0084】
【0085】
表1からわかるように、本発明の構成を全て満たす腐食抑制剤(B1-1)~(B1-5)は、5%質量減温度が270℃以上と十分高く、高温環境下でも安定であることがわかる。
一方、腐食抑制剤(B2-1)は5%質量減温度が270℃以上となったが、腐食抑制剤(B2-2)~(B2-3)は、5%質量減温度が270℃未満と低くなった。したがって、腐食抑制剤(B2-2)~(B2-3)は、高温環境となる宇宙環境では使用できない可能性がある。
【0086】
次に、前述した腐食抑制剤(B1-1)~(B1-5)及び腐食抑制剤(B2-1)~(B2-3)を用いて、後述する方法により潤滑剤組成物を調製した。
なお、各潤滑剤組成物の物性は、下記方法によって測定又は算出した。
【0087】
[40℃動粘度、100℃動粘度、及び粘度指数]
潤滑剤組成物及びイオン液体(A)の40℃動粘度、100℃動粘度、及び粘度指数を、JIS K 2283:2000に準拠して測定又は算出した。
【0088】
[流動点]
イオン液体(A)の流動点を、JIS K2269:1987に準じて測定した。
【0089】
[密度]
イオン液体(A)の15℃における密度を、JIS K 2249-1:2011に準じて測定した。
【0090】
[5%質量減温度)]
イオン液体(A-1)~(A-2)について、前述した腐食抑制剤と同様にして、初期質量から5質量%減少した温度(5%質量減温度)を測定した。
【0091】
[イオン液体(A)の合成]
後述する方法により、イオン液体(A-1)~(A-2)を合成した。
【0092】
<イオン液体(A-1)>
・イオン液体(A-1):1-ブチル-1-メチルピロリジニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド
1Lフラスコに窒素雰囲気下で1-メチルピロリジン(50g、0.587mol)、2-プロパノール70mLを加えた。この中へ1-ブロモブタン(96g、0.704mol)を滴下した後、40℃に昇温して6時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルで再結晶化を行い、ろ過により得られた結晶を酢酸エチルで数回洗浄した。その後、真空ポンプで1mmHg以下まで減圧しながら40℃で数時間乾燥することで、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムブロミド(ハロゲン体)を得た(113g、0.509mol)。
次に、1Lフラスコへ上記ハロゲン体(113g、0.509mol)と純水110mLを準備し、これにリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(151g、0.526mol)を純水150mLに溶解させた水溶液を滴下した。この反応混合物を室温(20℃)下約1時間撹拌した後、1L分液ロートに移し塩化メチレン230mLを加えて抽出し、集めた塩化メチレン溶液は純水で数回洗浄した。洗浄後、水層を1~2mL程度採取して、0.5M硝酸銀水溶液約1mLと反応させ沈殿の有無を確認した。白色沈殿が見られた場合は、臭化物イオンが完全に除去できていないため、これが見えなくなるまで洗浄を繰り返した。水洗浄の完了後、ロータリーエバポレータで濃縮し、活性炭を少量加えて、室温(20℃)下1日間撹拌した。この混合物を中性アルミナのカラムに通し、真空ポンプで加熱撹拌(60℃、4時間)することでイオン液体(A-1)を得た。
得られたイオン液体(A-1)は、212g、0.502molであった。また、得られたイオン液体(A-1)は、40℃動粘度:25.08mm2/s、100℃動粘度:5.662mm2/s、粘度指数:177、流動点:-50℃未満、密度:1.401(15℃)、5%質量減温度:380℃であった。イオン液体(A-1)の構造を、構造式(A-1)に示す。
【0093】
【0094】
<イオン液体(A-2)>
・イオン液体(A-2):1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド
イオン液体(A-1)の合成において、1-ブロモブタンを用いる代わりに、2-ヨードエチルメチルエーテル(131g、0.705mol)を用いたこと以外は同様に操作して、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウムヨージドを得た(146g、0.538mol)。
また、イオン液体(A-1)の合成において、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムブロミドの代わりに、得られた1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウムヨージド(146g、0.538mol)を用いたこと以外は同様に操作して、イオン液体(A-2)を得た。
得られたイオン液体(A-2)は、212g、0.500molであった。また、得られたイオン液体(A-2)は、40℃動粘度:21.34mm2/s、100℃動粘度:5.170mm2/s、粘度指数:187、流動点:-50℃未満、密度:1.462(15℃)、5%質量減温度:388℃であった。イオン液体(A-2)の構造を、構造式(A-2)に示す。
【0095】
【0096】
[実施例1~6、及び比較例1~5の調製]
以下に示す各成分を、表2、表3に示す含有量で加えて十分に混合し、潤滑剤組成物を得た。
実施例1~6、及び比較例1~5で用いた各成分の詳細は、以下に示すとおりである。
【0097】
得られた各潤滑剤組成物について、以下の評価を行った。結果を表2、表3に示す。
【0098】
[溶解性の評価(外観)]
調製後3時間後、20℃、常圧環境下における潤滑剤組成物の外観を観察し、以下のように判断した。
○:腐食抑制剤(B)がイオン液体(A)に溶解し、無色透明になった。
×:腐食抑制剤(B)がイオン液体(A)に溶解しなかった。
【0099】
[低蒸発性の評価(蒸発量)]
フラスコに各潤滑剤組成物100gと撹拌子を入れ、真空ポンプで1mmHg以下に減圧して、120℃のオイルバス中で24時間撹拌した。室温に冷却後、残存試料の質量を測定し、減少した質量の割合(質量%)を蒸発量とした。
【0100】
[耐金属腐食性の評価]
蒸留水10gと、各潤滑剤組成物10gとを混合した溶液に、短冊状にカットしたSUS440C板を浸漬した。溶液の温度を60℃に設定し,SUS440C板を7日間浸漬した後、SUS440C板の外観を観察した。表面に茶褐色または黒色状の変色(錆)が認められた場合を腐食ありと判断した。
○:腐食なし
×:表面に腐食あり
【0101】
【0102】
【0103】
表2からわかるように、本発明の構成を全て満たす実施例1~6の潤滑剤組成物は、耐金属腐食性、溶解性、低蒸発性に優れることがわかる。また、実施例1~6の潤滑剤組成物は、いずれも5%質量減温度が270℃以上の腐食抑制剤(B)及びイオン液体(A)を含有するため、高温環境下での安定性にも優れるものである。
一方、表3に示すように、比較例1、2の潤滑剤組成物は、腐食防止剤(B)を含まないため、耐金属腐食性が不十分であった。また、比較例3、5の潤滑剤組成物は、腐食防止剤がイオン液体に溶解せず、動粘度の測定もできなかった。更に、比較例4の潤滑剤組成物は、蒸発量が0.1質量%を超える量となり、低蒸発性が不十分であった。また、比較例4、5は、5%質量減温度が270℃未満の腐食抑制剤を含有するため、高温環境となる宇宙環境では使用できない可能性がある。