(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103080
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】リグニンの脱色方法、及び脱色リグニンの調製方法
(51)【国際特許分類】
C08H 7/00 20110101AFI20220630BHJP
【FI】
C08H7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195449
(22)【出願日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2020216229
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「植物をきれいに分けて使って還す~植物循環型利用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】敷中 一洋
(72)【発明者】
【氏名】平 敏彰
(57)【要約】
【課題】各種用途に適用できる程度までリグニンを脱色するリグニンの脱色方法を提供する。
【解決手段】リグニンを10~50質量%含有する植物若しくは植物処理物と、下記一般式(11)~(13)のいずれか1つで表される化合物とを反応させる、リグニンを脱色する方法。
R-N=C=O 一般式(11)
R-COOH 一般式(12)
R-OH 一般式(13)
(一般式(11)~(13)において、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、スルホニル基、又はシリル基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンを10~50質量%含有する植物若しくは植物処理物と、下記一般式(11)~(13)のいずれか1つで表される化合物とを反応させる、リグニンを脱色する方法。
R-N=C=O 一般式(11)
R-COOH 一般式(12)
R-OH 一般式(13)
(一般式(11)~(13)において、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、スルホニル基、又はシリル基を示す。)
【請求項2】
リグニンを10~50質量%含有する植物若しくは植物処理物と、下記一般式(11)~(13)のいずれか1つで表される化合物とを反応させ、脱色したリグニンを得る、脱色リグニンの調製方法。
R-N=C=O 一般式(11)
R-COOH 一般式(12)
R-OH 一般式(13)
(一般式(11)~(13)において、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、スルホニル基、又はシリル基を示す。)
【請求項3】
前記一般式(11)~(13)のいずれか1つで表される化合物が、下記一般式(21)で表されるイソシアネート化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
R’-N=C=O 一般式(21)
(一般式(21)において、R’は、アルキル基、アラルキル基、又はアリール基を示す。)
【請求項4】
得られる脱色リグニンが粉末状である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記植物が、スギ(Cryptomeria
japonica)、ブナ(Fagus
crenata Blume)、マツ属(Pinus)植物、バルサ(Ochroma
lagopus)、オオフサモ(Myriophyllum
aquaticum)、モウソウチク(Phyllostachys
heterocycla)、イネ(Oryza
sativa)、パンコムギ(Triticum
aestivum)、トウモロコシ(Zea
mays subsp. mays (L.) Iltis)、エリアンサス(Erianthus
arundinaceus)、ミスカンサス(Miscanthus
sinensis)、サトウキビ(Saccharum
officinarum)、ヨシ(Phragmites
australis)、ジャイアントリード(Arundo
donax)、アブラヤシ(oil palm, Elaeis)、ニッパヤシ(Nypa
fruticans Wurmb)、サトウヤシ(Arenga
pinnata若しくはArenga
saccharifera)、ホテイアオイ(Eichhornia
crassipes)、センニンモ(Potamogeton
maackianus)、オオカナダモ(Egeria
densa)、クロモ(Hydrilla
verticillata)、コナカダモ(Elodea
nuttallii)、アカモク(Sargassum
horneri)、ホンダワラ(Sargassum
fulvellum)、アオサ(Ulva)、イチイジタ(Caulerpa
taxifolia)、ウミブドウ(Caulerpa
lentillifera)、及びキリンサイ属(Eucheuma)植物からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記植物処理物が、チッパー処理、乾式粉砕処理、湿式粉砕処理、磨砕処理、糖化処理、発酵処理、蒸解処理、爆砕処理、亜臨界水処理、イオン液体による分解処理、酸処理、塩基処理及びマイクロ波処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の処理がされている、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンの脱色方法、及び脱色リグニンの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材の90%以上は細胞壁成分で構成され、細胞壁は主成分として、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成されている。前記主成分のうちリグニンは、木材中に通常20~30%程度存在し、細胞膜同士を接着して中間層を構成する。また木材中のリグニンの一部は、細胞膜にも存在する。
リグニンは、ヒドロキシフェニルプロパンを基本単位とし、縮合して生成した高分子化合物である。リグニンはπ共役が連なっており、芳香族の主鎖構造と有機ラジカルとなり得るフェノール性水酸基を有する。このような構造を有するリグニンは、耐熱フィラー、紫外線吸収剤、抗酸化剤としての機能を有し、エンジニアリングプラスチックなど高機能樹脂素材としての利用が期待される。また、リグニンなどの植物由来の高分子化合物は、環境循環型素材としての機能も期待される。
【0003】
しかし、一般的なリグニンは、茶色ないし黒色に着色している。そのため、リグニンが添加される媒体の色変化を引き起こしたり、リグニンが添加された媒体の光透過性が低いなどの理由から、リグニンの用途は限定されている。
そのため、リグニンを材料用途への展開を拡大させる観点から、リグニンの脱色方法は非常に重要な技術である。
【0004】
リグニンの脱色方法としては、アゾトバクター(Azotobacter)属に属する微生物や酵素を用いて、生物学的に脱色する方法が特許文献1で提案されている。
しかし、特許文献1に記載の方法で用いる微生物は、植物中のリグニンの分解に寄与する微生物である。そのため、特許文献1に記載の方法で実際に起こっていることは、リグニンの分解による植物の脱色である。そのため、特許文献1に記載の方法では、リグニンの有用性を生かし、各種材料用途への展開を拡大させることは困難である。
【0005】
さらに、パルプ廃液などから得られるリグニンが有する水酸基(グアイアコール構造の水酸基やアルコール性水酸基)を化学的手法により修飾することにより、樹脂の耐熱性や硬度、他成分に対する相溶性等を向上させる技術が報告されている(非特許文献1参照)。
しかし、パルプ廃液から得られるリグニンは、抽出時における変性のため性状が安定せず材料としての利用が困難であった。また、抽出時に強酸や強アルカリなどの有害薬品の使用や、加熱を行うため、環境負荷が大きく産業展開が難しい。さらに、リグニンが有する水酸基を修飾処理することによりリグニンを脱色・白色化する技術について報告はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Green Chem., 2016, vol. 18, p. 1175-1200
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、リグニンは機能性物質として期待されている、しかし、リグニン自体が着色しているため、リグニンを適用できる用途が限定されている。
そこで本発明は、各種用途に適用できる程度までリグニンを脱色する、リグニンの脱色方法の提供を課題とする。
また本発明は、各種用途に適用できる脱色リグニンを調製できる、脱色リグニンの調製方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み、着色したリグニンの脱色方法について検討を重ねた。これまでに、フェノール性水酸基のパラ位のビニル基が電子共役を失っており、紫外線発色団が存在するため、リグニンが着色していると推察されていた。
そして、本発明者らが検討を重ねた結果、リグニンを所定量含有する植物若しくは植物処理物とイソシアネート化合物などの反応性化合物とを反応させ、リグニンの水酸基を修飾することでリグニンの着色度が低下し、脱色したリグニンを調製(抽出)できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0010】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
(1)リグニンを10~50質量%含有する植物若しくは植物処理物と、下記一般式(11)~(13)のいずれか1つで表される化合物とを反応させる、リグニンを脱色する方法。
R-N=C=O 一般式(11)
R-COOH 一般式(12)
R-OH 一般式(13)
(一般式(11)~(13)において、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、スルホニル基、又はシリル基を示す。)
【0011】
(2)リグニンを10~50質量%含有する植物若しくは植物処理物と、前記一般式(11)~(13)のいずれか1つで表される化合物とを反応させ、脱色したリグニンを得る、脱色リグニンの調製方法。
【0012】
(3)前記一般式(11)~(13)のいずれか1つで表される化合物が、下記一般式(21)で表されるイソシアネート化合物である、前記(1)又は(2)に記載の方法。
R’-N=C=O 一般式(21)
(一般式(21)において、R’は、アルキル基、アラルキル基、又はアリール基を示す。)
(4)得られる脱色リグニンが粉末状である、前記(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)前記植物が、スギ(Cryptomeria
japonica)、ブナ(Fagus
crenata Blume)、マツ属(Pinus)植物、バルサ(Ochroma
lagopus)、オオフサモ(Myriophyllum
aquaticum)、モウソウチク(Phyllostachys
heterocycla)、イネ(Oryza
sativa)、パンコムギ(Triticum
aestivum)、トウモロコシ(Zea
mays subsp. mays (L.) Iltis)、エリアンサス(Erianthus
arundinaceus)、ミスカンサス(Miscanthus
sinensis)、サトウキビ(Saccharum
officinarum)、ヨシ(Phragmites
australis)、ジャイアントリード(Arundo
donax)、アブラヤシ(oil palm, Elaeis)、ニッパヤシ(Nypa
fruticans Wurmb)、サトウヤシ(Arenga
pinnata若しくはArenga
saccharifera)、ホテイアオイ(Eichhornia
crassipes)、センニンモ(Potamogeton
maackianus)、オオカナダモ(Egeria
densa)、クロモ(Hydrilla
verticillata)、コナカダモ(Elodea
nuttallii)、アカモク(Sargassum
horneri)、ホンダワラ(Sargassum
fulvellum)、アオサ(Ulva)、イチイジタ(Caulerpa
taxifolia)、ウミブドウ(Caulerpa
lentillifera)、及びキリンサイ属(Eucheuma)植物からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物である、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)前記植物処理物が、チッパー処理、乾式粉砕処理、湿式粉砕処理、磨砕処理、糖化処理、発酵処理、蒸解処理、爆砕処理、亜臨界水処理、イオン液体による分解処理、酸処理、塩基処理及びマイクロ波処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の処理がされている、前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、着色しているリグニンを脱色でき、脱色したリグニンを製造できる。本発明により得ることができる脱色したリグニンは、機能性物質として、樹脂組成物、高分子素材、コーティング材、化粧料組成物、自動車部材、建材、接着剤、耐熱性フィラー等の各種媒体に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1及び2で調製したリグニンのFT-IRスペクトルを示す図である。
【
図2】実施例1で調製したリグニンの紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【
図3】実施例2で調製したリグニンを配合したポリイプシロンカプロラクタム(PCL + リグニン)と、ポリイプシロンカプロラクタム(PCL)単体の熱重量測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、リグニンを10~50質量%含有する植物若しくは植物処理物(以下、「植物原料」ともいう)と、リグニンの水酸基に対する反応性官能基を有する特定の化合物とを反応させ、これらの水酸基を修飾することで、着色しているリグニンを脱色する。
以下、本発明について好ましい態様に基づいて説明する。しかし本発明は、これらに制限するものではない。
【0016】
本発明の処理対象であるリグニンは、植物の細胞壁や細胞膜に存在する高分子化合物である。リグニンは、ヒドロキシフェニルプロパンを基本単位として構成される。リグニンは、針葉樹、広葉樹、イネ科植物などの植物種により、その構成単位である置換芳香族物質の種類や組成を異にする。本発明で処理対象として用いるリグニンは、所定量のリグニンを含むものであれば、いずれの植物から得られたものであってもよい。
また本発明で処理対象は、所定量のリグニンを含有すれば特に制限されず、セルロースやヘミセルロースなど、細胞壁や細胞膜を構成する成分が含まれていてもよい。
【0017】
本発明の方法において、後述の化合物と反応させる出発物質として、リグニンを10~50質量%含む植物ないし植物処理物を用いる。
以下、本発明で用いる出発物質について、詳細に説明する。
【0018】
リグニンを所定量含む植物については、後述の方法に従いリグニン量を定量し、所定量含む植物原料を本発明に用いる植物として使用することができる。あるいは、坂志朗ら著(2013)『リグニン利用の最新動向』坂志朗監修, 第1章『バイオマスの分類と化学組成』などを参照し、所定量含む植物原料を適宜選択し、本発明で用いることもできる。本発明で用いることができる、リグニンを所定量含む植物の具体例としては、スギ、ブナ、マツ属植物、バルサ、オオフサモ、モウソウチク、イネ(好ましくは、イネワラ、籾殻)、パンコムギ、トウモロコシ、エリアンサス、ミスカンサス、サトウキビ(好ましくは、バガス(Bagasse、サトウキビ搾汁後の残渣)、ヨシ、ジャイアントリード、アブラヤシ、ニッパヤシ、サトウヤシ、ホテイアオイ、センニンモ、オオカナダモ、クロモ、コナカダモ、アカモク、ホンダワラ、アオサ、イチイジタ、ウミブドウ、及びキリンサイ属植物が挙げられる。このうち、スギ、ブナ、マツ属植物、バルサ、モウソウチク、イネ、パンコムギ、トウモロコシ、エリアンサス、ミスカンサス、サトウキビ、ヨシ、ジャイアントリード、アブラヤシ、ニッパヤシ、サトウヤシは、リグニンの含有量が多く、本発明で好ましく用いることができる。
本発明で用いる植物の原料としては、前記植物の任意の部分が使用可能であり、全草、根、塊根、根茎、幹、枝、茎、葉(葉身、葉柄等)、樹皮、樹液、樹脂、花(花弁、子房等)、果実、種子等を用いることができる。また、これらの部位を複数組み合わせて用いてもよい。これらの部位のうち、前記植物の根茎、幹、枝、茎、葉(葉身、葉柄等)、樹皮を用いることが好ましい。
【0019】
本発明において、前述の植物をそのまま用いてもよいし、所定の処理を前記植物に施した植物処理物を用いてもよい。所定の処理を前記植物に施すことで、後述の化合物との反応性を向上させるとともに、植物原料に含まれるリグニンの量を高めることができる。
前記植物に施す処理としては、坂志朗ら著(2013)『リグニン利用の最新動向』坂志朗監修, 第1章『バイオマスの分類と化学組成』を参考に、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択することができる。例えば、チッパー処理、乾式粉砕処理、湿式粉砕処理、磨砕処理、糖化処理、発酵処理、蒸解処理、爆砕処理、亜臨界水処理、イオン液体による分解処理、酸処理、塩基処理及びマイクロ波処理が挙げられる。このうち、セルラーゼなどを用いた糖化処理(単糖化処理ないし低糖化処理)や、アルコール発酵用酵母を用いた発酵処理が好ましい。
【0020】
天然の植物を本発明における出発物質として用いる場合、坂志朗ら著(2013)『リグニン利用の最新動向』坂志朗監修, 第1章『バイオマスの分類と化学組成』などを参照してリグニンの含有量を決定することができる。あるいは、後述の実施例で示す方法などにより所定の処理を行った処理物に含まれるリグニン量を測定することもできる。
【0021】
リグニンは、芳香族化合物残基の骨格内で、フェノール性水酸基のパラ位のビニル基が電子共役を失っているため、紫外線発色団を有すると言われている(Green Chem., 2016, vol. 18, p. 1175-1200;高部圭司著 (2013) 『リグニン利用の最新動向』坂志郎監修, 第2章『バイオマス細胞でのリグニン分布と構造の多様性』など参照)。リグニンにこのような紫外線発色団が存在するため、茶色ないし黒色に着色していると推察される。よって共有結合を介し、リグニンの水酸基に有機側鎖を修飾し、リグニンの紫外線発色団を被包することで脱色できると考えた。
そこで本発明では、リグニンと、下記一般式(11)~(13)のいずれか1つで表される化合物(以下単に、「反応性化合物」ともいう)とを反応させ、リグニンの水酸基を化学的に修飾する。
【0022】
R-N=C=O 一般式(11)
R-COOH 一般式(12)
R-OH 一般式(13)
一般式(11)~(13)において、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、スルホニル基、シリル基を示す。
【0023】
本発明によりリグニンが脱色されるメカニズムの詳細は明らかではないが、次のようなことが考えられる。すなわち、フェノール性水酸基が修飾されることで、電子共役の回復が起こりかつ、リグニンの芳香環のπ-π相互作用が阻害される。また、リグニンの水酸基を介し化学的に修飾された有機側鎖が、リグニンの紫外線発色団を覆う。その結果、リグニンによる光吸収が抑制され、リグニンが脱色されると推察できる。
なお、本発明で用いる反応性化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0024】
一般式(11)において、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、スルホニル基、シリル基を示す。このうち、反応生成物の有機溶媒への溶解性から、Rはアルキル基、アラルキル基又はアリール基が好ましく、炭素原子数が2~18のアルキル基、炭素原子数が7~24のアラルキル基又は炭素原子数が7~24のアリール基が好ましく、炭素原子数が6~12のアルキル基、炭素原子数が7~18のアラルキル基又は炭素原子数が7~18のアリール基がより好ましい。
一般式(11)で表される反応性化合物(イソシアネート化合物)の具体例としては、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ペンチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、ヘキシルジイソシアネート、ヘプチルイソシアネート、オクチルイソシアネート、デシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、テトラデシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネートなどのアルキルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、フェネチルイソシアネート、1,3-ビス(2-イソシアナト-2-プロピル)ベンゼン、ナフチルエチルイソシアネート、メチルベンジルイソシアネート、3-イソプロピル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、トシルイソシアネート、キシレンジイソシアネートなどのアラルキルイソシアネート、フェニルイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、エトキシフェニルイソシアネート、アセチルフェニルイソシアネート、ブチルフェニルイソシアネート、ジイソプロピルフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート、ニトロフェニルイソシアネート、ビフェニルイソシアネート、トシル-2,6-ジイソシアネート、4-エチルフェニルイソシアナート、メトキシフェニルイソシアネート、ナフタリン-1,5-ジイソシアナート、2-メトキシフェニルイソシアネートなどのアリールイソシアネート、クロロプロピルイソシアネート、トリクロロアセチルイソシアネートなどのハロゲン化アルキルイソシアネート、クロロフェニルイソシアネート、ブロモフェニルイソシアネート、ジクロロフェニルイソシアネート、トリクロロフェニルイソシアネート、クロロメチルフェニルイソシアネート、クロロニトロフェニルイソシアネート、フルオロフェニルイソシアネート、ジフルオロフェニルイソシアネート、トリフルオロメチルフェニルイソシアネート、トリフルオロメトキシフェニルイソシアネート、ビス(トリフルオロメチル)フェニルイソシアネート、クロロ(トリフルオロメチル)フェニルイソシアネートなどのハロゲン化アリールイソシアネート、クロロスルフォニルイソシアネート、ベンジルスルホニルイソシアネート、トルエンスルフォニルイソシアネートなどのスルホニルイソシアネート、トリメチルシリルイソシアネートなどのシリルイソシアネートが挙げられる。このうち、アルキルイソシアネート、アラルキルイソシアネート又はアリールイソシアネートが好ましく、ヘキシルイソシアネート、ヘキシルジイソシアネート、ヘプチルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、フェネチルイソシアネート、ジイソプロピルフェニルイソシアネートがより好ましい。
【0025】
一般式(12)におけるRは一般式(11)のRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
一般式(12)で用いる反応性化合物(カルボン酸)の具体例としては、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、3-(2-アミノ-2-オキソエチル)-5-メチルヘキサン、5-アジドペンタン酸、クロトン酸、シアノ酢酸、アミノシナミン酸、アトロラクチン酸、(アミノメチル)フェニル酢酸、2-フェニルアクリル酸、3-アミノけい皮酸、安息香酸、2-アミノ-4,5-ジメチル安息香酸、アントラセンカルボン酸、3-クロロプロピオン酸、5-クロロペンタン酸、2,3-ジクロロイソ酪酸、3-ブロモプロピオン酸、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸、2-ブロモイソ酪酸、9-ブロモノナン酸、2,3-ジブロモプロピオン酸、3-ヨードプロピオン酸、3-アミノ-3-(4-クロロフェニル)プロピオン酸、2-アセトアミド-5-ブロモ安息香酸、4-(ブロモメチル)フェニル酢酸、4-ブロモけい皮酸、4-(2-ブロモエチル)安息香酸、2-(p-トルエンスルホニル)酢酸、3-(トリメチルシリル)プロピオール酸が挙げられる。このうち、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸が好ましい。
【0026】
一般式(13)におけるRは一般式(11)のRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
一般式(13)で用いる反応性化合物(アルコール)の具体例としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ドコサノール、イコサノール、ベンジルオキシプロパノール、シンナミルアルコール、シクロヘキシルプロパノール、フェノキシプロパノール(クロロ・ヨード)ブロモエタノール、(クロロ)ブロモプロパノール、(クロロ)ブロモペンタノール、(クロロ)ブロモエキサノール、ブロモウンデシルアルコール、ブロモデカノール、2-[(3-アミノフェニル)スルホニル]エタノールが挙げられる。このうち、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノールが好ましい。
【0027】
本発明において前記反応性化合物は、下記一般式(21)で表されるイソシアネート化合物が好ましい。
R’-N=C=O 一般式(21)
一般式(21)において、R’は、アルキル基、アラルキル基、又はアリール基を示す。R’で示されるアルキル基、アラルキル基及びアリール基は、一般式(11)~(13)においてRで示されるアルキル基、アラルキル基及びアリール基とそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0028】
リグニンの水酸基の修飾方法に特に制限はなく、例えばフェノール性水酸基を修飾する場合、ビニル基の電子共役が回復し、リグニンの芳香環のπ-π相互作用を阻害する修飾方法が好ましい。本発明においては、リグニンと反応性化合物との反応により、ウレタン結合、エステル結合及びエーテル結合からなる群より選ばれる少なくとも1つの結合が形成される。
本発明におけるウレタン結合、エステル結合及びエーテル結合の形成について、下記に示す一般式(1)~(3)に基づいて、詳細に説明する。なお、リグニンは、ランダムなラジカルカップリング反応により高度に重合することにより複雑な構造を形成する、巨大な高分子化合物である。よってリグニンの構造は未だにはっきりと解明されていない。そこで本明細書において、リグニンの化学構造を表す場合、グアイアコール構造と、フェノール性水酸基のパラ位のビニル基のみを詳細に記載し、その他の部分を省略ないし簡略化して記載する。さらに、実際のリグニンでは、フェノール性水酸基のパラ位のビニル基に置換基が結合し、全体として複雑な芳香族主鎖構造を形成する。しかし本願明細書において、このような置換基のビニル基への結合も省略する。また、ビニル基に結合した置換基は、アルコール性水酸基を有する場合もある。このようなアルコール性水酸基についても記載を省略する。
なお、本明細書において、複雑な芳香族主鎖構造を形成するリグニンのうち、1つのグアイアコール構造に着目してリグニンの化学構造を表している。よって、本発明で用いる反応性化合物が分子内に反応性官能基を2つ以上有する場合、1つの反応性官能基がフェノール性水酸基と反応し、残りの反応性官能基は未反応の状態で便宜上記載している。しかし、リグニンにはフェノール性水酸基やアルコール性水酸基が多数存在するため、実際は残りの反応性官能基は未反応の状態ではなく、他のフェノール性水酸基やアルコール性水酸基と反応し、複雑な構造が形成されている。
【0029】
【0030】
一般式(1)は、一般式(11)で表される反応性化合物を用いた場合の反応式を示す。一般式(1)において、リグニンのグアイアコール構造の水酸基とイソシアネート化合物との付加反応により、ウレタン結合が形成される。一般式(1)には示されていないアルコール性水酸基についても、一般式(11)で表される反応性化合物との付加反応により、ウレタン結合が形成される。
【0031】
【0032】
一般式(2)は、一般式(12)で表される反応性化合物を用いた場合の反応式を示す。一般式(2)において、リグニンのグアイアコール構造の水酸基とカルボン酸との縮合反応により、エステル結合が形成される。一般式(2)には示されていないアルコール性水酸基についても、一般式(12)で表される反応性化合物との縮合反応により、エステル結合が形成される。
【0033】
【0034】
一般式(3)は、一般式(13)で表される反応性化合物を用いた場合の反応式を示す。一般式(3)において、リグニンのグアイアコール構造の水酸基とアルコールとの縮合反応により、エーテル結合が形成される。一般式(3)には示されていないアルコール性水酸基についても、一般式(13)で表される反応性化合物との縮合反応により、エーテル結合が形成される。
【0035】
リグニンと反応性化合物との反応後のリグニンの構造を下記に具体的に示す。しかし本発明は、これらに制限するものではない。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
リグニンの水酸基を修飾するための反応条件に特に制限はなく、常法で実施されている条件を適宜選択することができる。
例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n-ブタノールなどのアルコール、ギ酸、酢酸などのカルボン酸、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどから溶媒を適宜選択し、選択した溶媒中で、植物原料と反応性化合物とを混合する。本発明で用いる反応系の溶媒は、溶解性の観点から水、エタノール及びこれらの混合物が好ましい。植物原料と反応性化合物との混合割合も適宜選択することができ、植物原料に含まれるリグニンの水酸基に対して化学量論的に等モル以上の反応性化合物と、植物原料とを混合することが好ましい。例えば、植物原料に対する質量比で等量~9倍量の反応性化合物を植物原料と混合することが好ましい。
【0052】
植物原料と反応性化合物との混合後、混合物を静置してリグニンと反応性化合物とを反応させてもよいが、混合物を撹拌してリグニンと反応性化合物とを反応させることが好ましい。反応温度は20~150℃が好ましく、20~60℃がより好ましい。反応時間は3~24時間が好ましく、3~5時間がより好ましい。
【0053】
植物原料と反応性化合物との反応は、過剰量の溶媒を反応系に添加することで終了させることができる。なお、化学反応後の生成物は、フィルターろ過やカラムクロマトグラフィーなど常法に従い、未反応物を取り除いて脱色リグニンを分離、精製することができる。なお、反応生成物の分離や精製に用いる溶媒に特に制限はないが、反応生成物の脱色度を維持するため、エタノールなどのアルコール溶媒を用いることが好ましい。さらに、化学反応後に反応系の溶媒を常法により除去することで、粉末状の脱色リグニンを得ることができる。
【0054】
上述の工程を経ることで、脱色したリグニンを得ることができる。本明細書において「脱色」とは、リグニンの着色度が減少することを意味し、着色度の測定装置や外観を目視することで、リグニンの脱色を確認することができる。
【0055】
なお、リグニンを樹脂組成物、高分子素材、コーティング材、化粧料組成物、自動車部材、建材、接着剤、耐熱性フィラー等の各種媒体に適用するため、本発明の方法により得られるリグニンの白色度が高いことが好ましく、L*a*b*色空間におけるL*値が80以上である白色リグニンがより好ましい。L*a*b*色空間は補色空間の1種で、明度を示す次元L*と、補色次元のa*及びb*を持ち、CIE XYZ色空間の座標を非線形に圧縮したものに基づいている。本明細書において「白色」とは、L*a*b*色空間におけるL*値が80以上と定義する。L*値、a*値、b*値は、JIS Z 8781-4:2013に従い測定することができる。
リグニンの白色度(L*値)は、植物原料や反応性化合物、反応溶媒、反応温度・時間、反応生成物の分離・精製方法を適宜選択することで調整することができる。例えば、木材などから植物原料を調製する際に塩基と硫黄が共存した反応を行ったため、原料にこれらの成分またはこれらの成分が誘起する化学反応で生じる発色団が含まれる場合、反応生成物の脱色度が低下し、所望のL*値を達成できない場合がある。この場合、塩基や硫黄などの成分を植物原料から除去することが好ましい。
【0056】
また、本発明で得られる脱色リグニンの溶液をPET板やガラス板などの適当な支持体に塗布し、溶液を乾燥させることで、リグニンを含む透明膜を作製できる。また、本発明で得られる脱色リグニンは、耐熱フィラー、接着剤などの機能を有する。そのため、樹脂組成物、高分子素材、コーティング材、化粧料組成物、自動車部材、建材等の媒体に本発明で得られる脱色リグニンを配合することで、媒体が本来する色の変化を引き起こすことなく、リグニンが有する機能を媒体に付与することができる。
なお、本発明において、リグニンの溶液を調製するための溶媒としては特に制限はなく、本発明で用いる反応性化合物の物性に合わせて適宜選択することができる。具体例としては、エタノール、アセトン、クロロホルム、アセトアミド、アセトニトリル、イソプロパノール、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、トルエン、ニトロベンゼン、ヘキサン、メタノール等が挙げられる。
【0057】
本発明の方法で行う反応は、高温・高圧下での強酸・強塩基を用いた蒸解処理などを行う既存技術に比して、穏やかな反応条件で行われる。そのため、リグニンの脱色・白色化と併せて、リグニンの成分変性が抑制されている。よって、本発明の方法により得られるリグニンは、従来の方法により得られるリグニンと比べ、各種素材としての利用が促進される。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
実施例1
<スギおがくず分散液の調製>
スギおがくず((有)大宗より入手)0.6gを3wt%となるように超純水9.4mLとエタノール10mLと混合し、スギおがくず分散液を調製した。
【0060】
<ウレタン結合の形成>
得られた分散液20mLに対して、ヘキシルイソシアネート(東京化成工業社製)2mLを滴下し、混合物を50℃、1気圧で5時間撹拌し、ウレタン結合形成反応を行った。
その後、過剰量のエタノールを加えて混合物を洗浄し、沈殿物(未反応のスギおがくず)をデカンテーションした後、フィルターろ過で未反応物(未反応イソシアナートなど)を取り除して乾燥し、白色の粉体を回収した。
【0061】
ウレタン結合形成反応前のスギおがくずは着色していた。このスギおがくずに対して、ヘキシルイソシアネートを用いてウレタン結合形成反応を行うことで、着色したスギおがくず(リグニン)が白色化した。さらに、得られた粉体(リグニン)0.05gをクロロホルム及びエタノールそれぞれ1mLに添加すると、粉体(リグニン)はこれらの有機溶媒の全てにおいて溶解した。
【0062】
実施例2
ヘキシルイソシアネートに代えてドデシルイソシアネート(東京化成工業社製)を用いてウレタン結合形成反応を行った以外は実施例1と同様にして、粉体を調製した。その結果、得られた粉体(リグニン)は白色化していた。さらに、得られた粉体(リグニン)0.05gをクロロホルム及びエタノールそれぞれ1mLに添加すると、粉体(リグニン)はこれらの有機溶媒の全てにおいて溶解した。
【0063】
実施例3
<スギ木粉の糖化残渣の調製>
チョッパーミルとハンマーミルにて粉砕して調製した、約0.7mm径のスギ木粉2kgを10重量%になるように水(18L)に分散した。得られた試料を2mmのジルコニアビーズを入れた湿式ビーズミル(LME4;アシザワファインテック社製)で6時間湿式粉砕処理した。
得られたスラリー状試料に糖化酵素(セルラーゼ、GODO-TCF;合同酒精社製)を前記植物に対する濃度が0.2mL/gとなるように添加し、50℃、24時間で酵素糖化処理を行った。さらに、アルコール発酵用酵素(清酒用乾燥酵母、型番:901号酵母、入手先:きょうかい酵母)を加え、30℃で5日間並行複発酵を行った。
得られたスラリー状試料を9000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物を糖化残渣(リグニン・多糖複合物)として回収した。
【0064】
坂志朗ら著(2013)『リグニン利用の最新動向』坂志朗監修, 第1章『バイオマスの分類と化学組成』などを参照すると植物原料のスギ木粉2kgには多糖類1338gとリグニン662gが含まれている。糖化残渣の遠心分離上澄みのHPLC(LC-20AD;島津製作所社製)分析から、原料のスギ木粉より745g分の多糖が遊離していた。そのため、前述の糖化残渣には、多糖類593gとリグニン662g(重量の54質量%)が含まれていると同定した。
【0065】
<ウレタン結合の形成>
得られた糖化残渣を用いたこと以外は実施例1と同様にして、粉体を調製した。その結果、得られた粉体(リグニン)は白色化していた。さらに、得られた粉体(リグニン)0.05gをクロロホルム及びエタノールそれぞれ1mLに添加すると、粉体(リグニン)はこれらの有機溶媒の全てにおいて溶解した。
【0066】
実施例4
ヘキシルイソシアネートに代えてドデシルイソシアネート(東京化成工業株式会社製)を用いてウレタン結合形成反応を行った以外は実施例3と同様にして、粉体を調製した。その結果、得られた粉体(リグニン)は白色化していた。さらに、得られた粉体(リグニン)0.05gをクロロホルム及びエタノールそれぞれ1mLに添加すると、粉体(リグニン)はこれらの有機溶媒の全てにおいて溶解した。
【0067】
実施例5
<ブナおがくず分散液の調製>
ブナおがくず((株)東栄科学産業より入手)0.6gを3wt%となるように超純水9.4mLとエタノール10mLと混合し、ブナおがくず分散液を調製した。
【0068】
<ウレタン結合の形成>
得られた分散液20mLに対して、ドデシルイソシアネート(東京化成工業社製)2mLを滴下し、混合物を50℃、1気圧で5時間撹拌し、ウレタン結合形成反応を行った。
その後、過剰量のエタノールを加えて混合物を洗浄し、沈殿物(未反応のブナおがくず)をデカンテーションした後、フィルターろ過で未反応物(未反応イソシアナートなど)を取り除して乾燥し、白色の粉体を回収した。
【0069】
ウレタン結合形成反応前のブナおがくずは着色していた。このブナおがくずに対して、ドデシルイソシアネートを用いてウレタン結合形成反応を行うことで、着色したブナおがくず(リグニン)が白色化した。さらに、得られた粉体(リグニン)0.05gをクロロホルム及びエタノールそれぞれ1mLに添加すると、粉体(リグニン)はこれらの有機溶媒の全てにおいて溶解した。
【0070】
実施例6
<マツ紛分散液の調製>
マツ木片((株)モノタロウより入手)を60メッシュのやすりを装備したベルト&ディスクサンダー((株)三共コーポレーションより入手)で削り、マツ紛0.03gを調製した。
調製したマツ紛0.03gを0.3wt%となるように超純水5mLとエタノール5mLと混合し、マツ粉分散液を調製した。
【0071】
<ウレタン結合の形成>
得られた分散液10mLに対して、ドデシルイソシアネート(東京化成工業社製)0.2mLを滴下し、混合物を50℃、1気圧で5時間撹拌し、ウレタン結合形成反応を行った。
その後、過剰量のエタノールを加えて混合物を洗浄し、沈殿物(未反応のマツ紛)をデカンテーションした後、フィルターろ過で未反応物(未反応イソシアナートなど)を取り除して乾燥し、白色の粉体を回収した。
【0072】
ウレタン結合形成反応前のマツ紛は着色していた。このマツ紛に対して、ドデシルイソシアネートを用いてウレタン結合形成反応を行うことで、着色したマツ紛(リグニン)が白色化した。さらに、得られた粉体(リグニン)0.05gをクロロホルム及びエタノールそれぞれ1mLに添加すると、粉体(リグニン)はこれらの有機溶媒の全てにおいて溶解した。
【0073】
実施例7
<バルサ紛分散液の調製>
バルサ片((株)モノタロウより入手)を80メッシュのやすりを装備した吸じんサンダー((株)高儀より入手)で削り、バルサ紛1.00gを調製した。
調製したバルサ紛0.3gを3wt%となるように超純水10mLとエタノール10mLと混合し、バルサ紛分散液を調製した。
【0074】
<ウレタン結合の形成>
得られた分散液20mLに対して、ドデシルイソシアネート(東京化成工業社製)0.6mLを滴下し、混合物を50℃、1気圧で5時間撹拌し、ウレタン結合形成反応を行った。
その後、過剰量のエタノールを加えて混合物を洗浄し、沈殿物(未反応のバルサ紛)をデカンテーションした後、フィルターろ過で未反応物(未反応イソシアナートなど)を取り除して乾燥し、白色の粉体を回収した。
【0075】
ウレタン結合形成反応前のバルサ紛は着色していた。このバルサ紛に対して、ドデシルイソシアネートを用いてウレタン結合形成反応を行うことで、着色したバルサ紛(リグニン)が白色化した。さらに、得られた粉体(リグニン)0.05gをクロロホルム及びエタノールそれぞれ1mLに添加すると、粉体(リグニン)はこれらの有機溶媒の全てにおいて溶解した。
【0076】
<試験例1>
実施例1~7で調製した紛体と、ウレタン結合形成前の出発物質の色差及び色空間について、コニカミノルタ製分光測色計(CR-5)を用いて反射モードにてL*a*b*色空間を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0077】
【0078】
表1に示すように、ウレタン結合形成反応前の各種植物原料は着色度が高い。この原料と、一般式(11)~(13)のいずれか1つで表される化合物とを反応させることで原料より白色度(L*)の高い粉体(リグニン)が回収できた。さらに、反応性化合物の修飾基により、色空間は異なった。
【0079】
<試験例2>反応生成物の分子構造
(1)FT-IR測定
Green Chem., 2016, 18, 5962や特開2019-154381号公報などを参考に、単離したリグニンに対しドデシルイソシアナートを修飾した試料(以下、「Dod-I修飾単離リグニン」という。)を調製した。具体的には、スギをカッターミル又はジェットミルにより0.02~5mm程度の大きさに粉砕し得た植物粉500gを100mMリン酸緩衝液(pH=5.0)4.5Lに一晩浸し、湿式粉砕装置LMZ4(商品名、アシザワ・ファインテック社製)に緩衝液とともに投入した。デュポンジェネンコア社製のセルラーゼ・ヘミセルラーゼ混合液(OptimashXL及びOptimashBGそれぞれ50mL)をさらに添加し、50℃ に保ちながら、ジルコニア金属製の0.5mm径のビーズを用いて湿式粉砕を行った。平均粒度が10μ mとなった時点で、前記ビーズをジルコニア金属製の0.1mm径のビーズに交換した。上記湿式粉砕は、合計4時間行った。遠心分離(10,000×g、30分)により、残渣としてリグニンを得た。得たリグニンとドデシルイソシアネートを用いて実施例3と同様にウレタン結合形成反応を行い、粉体(Dod-I修飾単離リグニン)を調製した。
実施例2及び4で調製したリグニン粉体と、Dod-I修飾単離リグニンに対して、サーモフィッシャー製FT-IR装置(NICOLET6700)を用いて全反射モードでFT-IR測定を行った。
その結果を
図1に示す。
図1に示すように、NH伸縮振動ピークと、リグニン芳香環由来と考えられるピーク群が確認された。NH伸縮振動ピークは、グアイアコール構造の水酸基やアルコール性水酸基と、イソシアネート基との反応により形成するウレタン結合に由来する。さらに、実施例1及び2で調製したリグニン粉体のピークは既存のDod-I修飾単離リグニンのピークと一致した。
よって、これらの結果から、すべての反応系において、リグニンとイソシアネート基との間で付加反応が生じたことを確認できた。
【0080】
(2)紫外可視吸収スペクトルの測定
実施例1で調製したリグニンの白色粉末をエタノールに溶解し、得られたエタノール溶液を石英セル注入し、分光光度計(U-2910、日立工機製)を用いて、常温にて紫外可視吸収スペクトルを測定した。
【0081】
その結果を
図2に示す。
図2に示すように、リグニンのグアイアシルによる吸収(280 nm)及びシリンギル骨格による吸収(270nm)に由来するピークを確認できた(IAWA Bull. n. s. 1992, 13(1), 105参照)。
【0082】
FT-IR測定結果と紫外可視吸収スペクトルの測定結果から、実施例1及び2で調製した白色固体をリグニン組成物と同定した。
【0083】
<試験例3>反応生成物の性質
実施例2で調製したリグニン粉体をポリイプシロンカプロラクタム(PCL、シグマ・アルドリッチ社製)に対し5重量%の割合でクロロホルム中にて溶解・混合し、ガラス基板上にキャスト・乾燥することで複合物を調製した。加熱による重量減少は、熱重量測定装置(Thermo plus EVO2、リガク社製)を用いて昇温速度10℃空気雰囲気下で測定した。その結果を
図3に示す。
図3に示すように、リグニン粉体とPCLの複合物では熱分解温度が上昇した。具体的に複合物では全体の半分の重量減少に達する温度がPCL単体に比べ約60℃高い。よって、本発明により得られるリグニンは、耐熱性フィラーとしての用途の可能性を持つことを示唆する。
【0084】
以上のように、本発明によれば、着色しているリグニンを脱色でき、脱色したリグニンを製造できる。また、リグニンは機能性物質として期待されているため、本発明で得られる脱色リグニンは各種用途に適用できる。