(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103413
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】蓄熱シート、蓄熱部材及び電子デバイス
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
C09K5/06 J
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082970
(22)【出願日】2022-05-20
(62)【分割の表示】P 2020558274の分割
【原出願日】2019-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2018220569
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019036983
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019057347
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019122065
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019158766
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019159485
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019184716
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】三ツ井 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 尚俊
(72)【発明者】
【氏名】原 美代子
(72)【発明者】
【氏名】八田 政宏
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 宏和
(72)【発明者】
【氏名】川上 浩
(72)【発明者】
【氏名】中山 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】松下 卓人
(72)【発明者】
【氏名】小川 恭平
(57)【要約】
【課題】本発明は、取り扱い時における欠陥の発生が抑制された蓄熱シート、並びに、これを有する蓄熱部材及び電子デバイスを提供する。
【解決手段】本発明の蓄熱シートは、蓄熱材を内包するマイクロカプセルを含み、空隙率
が10体積%未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱材を内包するマイクロカプセルを含み、空隙率が10体積%未満である、蓄熱シート。
【請求項2】
前記空隙率が5体積%以下である、請求項1に記載の蓄熱シート。
【請求項3】
前記マイクロカプセルの隣接比が80%以上である、請求項1又は2に記載の蓄熱シート。
【請求項4】
蓄熱材を内包するマイクロカプセルを含み、前記マイクロカプセルの隣接比が80%以上である、蓄熱シート。
【請求項5】
前記蓄熱材が、直鎖状の脂肪族炭化水素を含み、
前記直鎖状の脂肪族炭化水素の含有量が、前記蓄熱材の全質量に対して、98質量%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄熱シート。
【請求項6】
前記蓄熱材の含有量が、前記蓄熱シートの全質量に対して50質量%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄熱シート。
【請求項7】
前記マイクロカプセルのカプセル壁が、ポリウレタンウレアにより形成されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の蓄熱シート。
【請求項8】
前記マイクロカプセルの体積基準のメジアン径に対する前記マイクロカプセルのカプセル壁の厚みの割合が、0.0075以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の蓄熱シート。
【請求項9】
前記マイクロカプセルのカプセル壁の厚みが、0.15μm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の蓄熱シート。
【請求項10】
前記マイクロカプセルの変形率が、35%以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の蓄熱シート。
【請求項11】
水の含有量が、蓄熱シートの全質量に対して5質量%以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の蓄熱シート。
【請求項12】
バインダーを更に含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の蓄熱シート。
【請求項13】
前記バインダーが水溶性ポリマーを含み、
前記水溶性ポリマーの含有量が、前記バインダーの全質量に対して90質量%以上である、請求項12に記載の蓄熱シート。
【請求項14】
前記水溶性ポリマーがポリビニルアルコールである、請求項13に記載の蓄熱シート。
【請求項15】
前記ポリビニルアルコールが変性基を有する、請求項14に記載の蓄熱シート。
【請求項16】
前記変性基がカルボキシ基又はその塩、及び、アセトアセチル基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、請求項15に記載の蓄熱シート。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の蓄熱シートを有する、蓄熱部材。
【請求項18】
前記蓄熱シート上に配置された基材と、前記基材における前記蓄熱シートとは反対の面側に配置された密着層と、前記密着層における前記基材とは反対の面側に配置された仮基材と、を有する、請求項17に記載の蓄熱部材。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の蓄熱部材と、発熱体と、を有する電子デバイス。
【請求項20】
ヒートパイプ及びベイパーチャンバーからなる群より選択される部材を更に有する、請求項19に記載の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱シート、蓄熱部材及び電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄熱材、香料、染料、及び、医薬品成分等の機能性材料を内包したマイクロカプセルが注目されている。
例えば、パラフィン類等の相変化物質(PCM;Phase Change Material)を内包するマイクロカプセルが知られている。具体的には、特許文献1には、ホルマリン樹脂から形成されるカプセル壁に蓄熱材であるパラフィンを内包するマイクロカプセルと、ホルマリン樹脂と、を有し、空隙率が10~30体積%である蓄熱シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特許文献1に記載されているような蓄熱材を内包するマイクロカプセルを含む蓄熱シートを評価したところ、取り扱い時において蓄熱シートに欠陥(例えば、ヒビ、及び、割れ)が生じる場合があることを知見した。
本発明は、上記実情に鑑みて、取り扱い時における欠陥の発生が抑制された蓄熱シート、並びに、これを有する蓄熱部材及び電子デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0006】
[1] 蓄熱材を内包するマイクロカプセルを含み、空隙率が10体積%未満である、蓄熱シート。
[2] 空隙率が5体積%以下である、[1]に記載の蓄熱シート。
[3] マイクロカプセルの隣接比が80%以上である、[1]又は[2]に記載の蓄熱シート。
[4] 蓄熱材を内包するマイクロカプセルを含み、マイクロカプセルの隣接比が80%以上である、蓄熱シート。
[5] 蓄熱材が、直鎖状の脂肪族炭化水素を含み、直鎖状の脂肪族炭化水素の含有量が、蓄熱材の全質量に対して、98質量%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の蓄熱シート。
[6] 蓄熱材の含有量が、蓄熱シートの全質量に対して50質量%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の蓄熱シート。
[7] マイクロカプセルのカプセル壁が、ポリウレタンウレアにより形成されている、[1]~[6]のいずれかに記載の蓄熱シート。
[8] マイクロカプセルの体積基準のメジアン径に対するマイクロカプセルのカプセル壁の厚みの割合が、0.0075以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の蓄熱シート。
[9] マイクロカプセルのカプセル壁の厚みが、0.15μm以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の蓄熱シート。
[10] マイクロカプセルの変形率が35%以上である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の蓄熱シート。
[11] 水の含有量が、蓄熱シートの全質量に対して5質量%以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の蓄熱シート。
[12] バインダーを更に含む、[1]~[11]のいずれかに記載の蓄熱シート。
[13] バインダーが水溶性ポリマーを含み、水溶性ポリマーの含有量が、バインダーの全質量に対して90質量%以上である、[12]に記載の蓄熱シート。
[14] 水溶性ポリマーがポリビニルアルコールである、[13]に記載の蓄熱シート。
[15] ポリビニルアルコールが変性基を有する、[14]に記載の蓄熱シート。
[16] 変性基がカルボキシ基又はその塩、及び、アセトアセチル基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、[15]に記載の蓄熱シート。
[17] [1]~[16]のいずれかに記載の蓄熱シートを有する、蓄熱部材。
[18] 蓄熱シート上に配置された基材と、基材における蓄熱シートとは反対の面側に配置された密着層と、密着層における基材とは反対の面側に配置された仮基材と、を有する、[17]に記載の蓄熱部材。
[19] [17]又は[18]に記載の蓄熱部材と、発熱体と、を有する電子デバイス。
[20] ヒートパイプ及びベイパーチャンバーからなる群より選択される部材を更に有する、[19]に記載の電子デバイス。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、取り扱い時における欠陥の発生が抑制された蓄熱シート、並びに、これを有する蓄熱部材及び電子デバイスを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
後述する各種成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。例えば、後述するポリイソシアネートは、1種単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0009】
[蓄熱シート(第1実施形態)]
本発明の第1実施形態に係る蓄熱シートは、蓄熱材を内包するマイクロカプセルを含み、空隙率が10体積%未満である。
第1実施形態に係る蓄熱シートによれば、取り扱い時における欠陥の発生が抑制できる。これは、以下の理由によるものと推測される。
蓄熱シートの空隙率が低い場合、蓄熱シート中におけるマイクロカプセル同士の接触面積が広くなるので、蓄熱シートの強度が向上すると考えられる。その結果、蓄熱シートの脆性が高くなって、蓄熱シートの取り扱い時における欠陥(例えば、ヒビ、及び、割れ)の発生を抑制できたと推測される。
【0010】
<マイクロカプセル>
マイクロカプセルは、コア部と、コア部をなすコア材(内包されるもの(内包成分ともいう。))を内包するためのカプセル壁と、を有する。
【0011】
マイクロカプセルは、コア材(内包成分)として、蓄熱材を内包する。蓄熱材がマイクロカプセルに内包されているため、蓄熱材は温度に応じた相状態で安定的に存在できる。
【0012】
(蓄熱材)
蓄熱材の種類は特に制限されず、温度変化に応じて相変化する材料を用いることができ、温度変化に応じた融解と凝固との状態変化を伴う固相-液相間の相変化を繰り返すことができる材料が好ましい。
蓄熱材の相変化は、蓄熱材自体が有する相変化温度に基づくことが好ましく、固相-液相間の相変化の場合、融点に基づくことが好ましい。
【0013】
蓄熱材としては、例えば、蓄熱シートの外部で発生した熱を顕熱として蓄え得る材料、及び、蓄熱シートの外部で発生した熱を潜熱として蓄え得る材料(以下、「潜熱蓄熱材」ともいう。)、可逆的な化学変化に伴う相変化を生じる材料等のいずれでもよい。蓄熱材は、蓄えた熱を放出し得るものが好ましい。
なかでも、授受可能な熱量の制御のしやすさ、及び、熱量の大きさの点で、蓄熱材としては、潜熱蓄熱材が好ましい。
【0014】
潜熱蓄熱材とは、蓄熱シートの外部で発生した熱を潜熱として蓄熱する材料である。例えば、固相-液相間の相変化の場合、材料により定められた融点を相変化温度として融解と凝固との間の変化を繰り返すことで潜熱による熱の授受が行える材料を指す。
潜熱蓄熱材は、固相-液相間の相変化の場合、融点での融解熱及び凝固点での凝固熱を利用し、固体-液体間の相変化を伴って蓄熱し、また放熱できる。
【0015】
潜熱蓄熱材の種類は特に制限されず、融点を有して相変化が可能な化合物から選択できる。
潜熱蓄熱材としては、例えば、氷(水);無機塩;パラフィン(例えば、イソパラフィン、ノルマルパラフィン)等の脂肪族炭化水素;トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、ミリスチン酸メチル(融点16~19℃)、ミリスチン酸イソプロピル(融点167℃)、及び、フタル酸ジブチル(融点-35℃)等の脂肪酸エステル系化合物;ジイソプロピルナフタレン(融点67~70℃)等のアルキルナフタレン系化合物、1-フェニル-1-キシリルエタン(融点-50℃未満)等のジアリールアルカン系化合物、4-イソプロピルビフェニル(融点11℃)等のアルキルビフェニル系化合物、トリアリールメタン系化合物、アルキルベンゼン系化合物、ベンジルナフタレン系化合物、ジアリールアルキレン系化合物、及び、アリールインダン系化合物等の芳香族炭化水素;ツバキ油、大豆油、コーン油、綿実油、菜種油、オリーブ油、ヤシ油、ひまし油、及び、魚油等の天然動植物油;鉱物油;ジエチルエーテル類;脂肪族ジオール;糖;糖アルコール等が挙げられる。
【0016】
蓄熱材の相変化温度は特に制限されず、熱を発する発熱体の種類、発熱体の発熱温度、冷却後の温度又は保持温度、及び、冷却方法等に応じて適宜選択すればよい。
蓄熱材は、目的とする温度領域(例えば、発熱体の動作温度;以下、「熱制御領域」ともいう。)に相変化温度(好ましくは融点)を持つ材料が選択されることが好ましい。
蓄熱材の相変化温度は、熱制御領域に応じて異なるが、0~80℃が好ましく、10~70℃がより好ましい。
【0017】
電子デバイス(特に、小型又は携帯用の電子デバイス)への適用の点で、蓄熱材として、以下の融点を有する蓄熱材が好ましい。
(1)蓄熱材(好ましくは潜熱蓄熱材)としては、融点が0~80℃の蓄熱材が好ましい。
融点が0~80℃の蓄熱材を用いる場合、融点が0℃未満又は80℃超の材料は蓄熱材には含まれない。融点が0℃未満又は80℃超の材料のうち、液体の状態にある材料は、溶剤として蓄熱材と併用されてもよい。
(2)上記(1)の中では、融点が10~70℃の蓄熱材が好ましい。
融点が10~70℃の蓄熱材を用いる場合、融点が10℃未満又は70℃超の材料は蓄熱材には含まれない。融点が10℃未満又は70℃超の材料のうち、液体の状態にある材料は、溶剤として蓄熱材と併用されてもよい。
(3)更に、上記(2)の中では、融点が15~50℃の蓄熱材が好ましい。
融点が15~50℃の蓄熱材を用いる場合、融点が15℃未満又は50℃超の材料は蓄熱材には含まれない。融点が15℃未満又は50℃超の材料のうち、液体の状態にある材料は、溶剤として蓄熱材と併用されてもよい。
(4)更に、上記(2)の中では、融点が20~62℃の蓄熱材も好ましい。
特に、薄型又は携帯用のノートパソコン、タブレット、及びスマートフォン等の電子デバイスの発熱体は、作動温度が20~65℃であることが多く、融点が20~62℃の蓄熱材を用いることが適している。融点が20~62℃の蓄熱材を用いる場合、融点が20℃未満又は62℃超の材料は蓄熱材には含まれない。融点が20℃未満又は62℃超の材料のうち、液体の状態にある材料は、溶剤として蓄熱材と併用されてもよいが、実質的に溶剤を含まないことが発熱体が発する熱を多く吸熱する点で好ましい。
【0018】
なかでも、蓄熱部材の蓄熱性がより優れる点、カプセルの空隙率を低下することができる点、及び、カプセル隣接比を高くすることができる点で、潜熱蓄熱材としては脂肪族炭化水素が好ましく、パラフィンがより好ましい。
脂肪族炭化水素(好ましくはパラフィン)の融点は特に制限されないが、蓄熱部材の各種用途への適用の点で、0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下が更に好ましく、50℃以下が特に好ましい。
脂肪族炭化水素としては、蓄熱部材の蓄熱性がより優れる点で、直鎖状の脂肪族炭化水素が好ましい。直鎖状の脂肪族炭化水素の炭素数は特に制限されないが、14以上が好ましく、16以上がより好ましく、17以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、26以下が好ましく用いられる。
脂肪族炭化水素としては、融点が0℃以上の直鎖状の脂肪族炭化水素が好ましく、融点が0℃以上であって、かつ、炭素数14以上の直鎖状の脂肪族炭化水素がより好ましい。
【0019】
融点が0℃以上の直鎖状の脂肪族炭化水素(直鎖状のパラフィン)としては、例えば、n-テトラデカン(融点6℃)、n-ペンタデカン(融点10℃)、n-ヘキサデカン(融点18℃)、n-ヘプタデカン(融点22℃)、n-オクタデカン(融点28℃)、n-ノナデカン(融点32℃)、n-エイコサン(融点37℃)、n-ヘンイコサン(融点40℃)、n-ドコサン(融点44℃)、n-トリコサン(融点48~50℃)、n-テトラコサン(融点52℃)、n-ペンタコサン(融点53~56℃)、n-ヘキサコサン(融点57℃)、n-ヘプタコサン(融点60℃)、n-オクタコサン(融点62℃)、n-ノナコサン(融点63~66℃)、及び、n-トリアコンタン(融点66℃)が挙げられる。
なかでも、n-ヘプタデカン(融点22℃)、n-オクタデカン(融点28℃)、n-ノナデカン(融点32℃)、n-エイコサン(融点37℃)、n-ヘンイコサン(融点40℃)、n-ドコサン(融点44℃)、n-トリコサン(融点48~50℃)、n-テトラコサン(融点52℃)、n-ペンタコサン(融点53~56℃)、n-ヘキサコサン(融点60℃)、n-ヘプタコサン(融点60℃)、又は、n-オクタコサン(融点62℃)が好ましく用いられる。
【0020】
蓄熱材として、直鎖状の脂肪族炭化水素を使用する場合、直鎖状の脂肪族炭化水素の含有量は、蓄熱材の含有量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、98質量%以上が特に好ましい。上限としては、100質量%が挙げられる。
【0021】
無機塩としては、無機水和塩が好ましく、例えば、アルカリ金属の塩化物の水和物(例:塩化ナトリウム2水和物等)、アルカリ金属の酢酸塩の水和物(例:酢酸ナトリウム水和物等)、アルカリ金属硫酸塩の水和物(例:硫酸ナトリウム水和物等)、アルカリ金属のチオ硫酸塩の水和物(例:チオ硫酸ナトリウム水和物等)、アルカリ土類金属硫酸塩の水和物(例:硫酸カルシウム水和物等)、及び、アルカリ土類金属の塩化物の水和物(例:塩化カルシウム水和物等)が挙げられる。
脂肪族ジオールとしては、1,6-ヘキサンジオール、及び、1,8-オクタンジオールが挙げられる。
糖及び糖アルコールとしては、キシリトール、エリスリトール、ガラクチトール、及び、ジヒドロキシアセトンが挙げられる。
【0022】
蓄熱材は、1種単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。蓄熱材を1種単独で又は融点の異なる複数使用することで、用途に応じて蓄熱性を発現する温度領域及び蓄熱量を調節できる。
蓄熱材の蓄熱作用を得たい中心温度に融点を持つ蓄熱材を中心に、その前後に融点を持つ蓄熱材を混合することで、蓄熱可能な温度領域を広げることができる。蓄熱材としてパラフィンを用いる場合を例に具体的に説明すると、蓄熱材の蓄熱作用を得たい中心温度に融点を持つパラフィンaを中心材料として用い、パラフィンaと、パラフィンaの前後に炭素数を有する他のパラフィンと、を混合することで、蓄熱シートが広い温度領域(熱制御領域)を持つように設計できる。
また、蓄熱作用を得たい中心温度に融点を持つパラフィンの含有量は特に制限されないが、蓄熱材全質量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、98質量%以上が特に好ましい。上限としては、100質量%が挙げられる。
【0023】
蓄熱材としてパラフィンを用いる場合、パラフィンを1種単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。融点の異なるパラフィンを複数使用する場合、蓄熱性を発現する温度領域を広げることができる。融点の異なるパラフィンを複数使用する場合は、吸熱性を低下させいないために、分岐鎖状のパラフィンを実質的に含まず、直鎖状のパラフィンのみの混合物が望ましい。ここで、分岐鎖状のパラフィンを実質的に含まないとは、分岐鎖状のパラフィンの含有量が、パラフィンの全質量に対して、5質量%以下であることを意味し、2質量%以下が好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
一方、電子デバイスに適用するための蓄熱材としては、パラフィンは実質的に1種類であることも好ましい。実質的に1種類であると、パラフィンが高純度で蓄熱シートに充填されるため、電子デバイスの発熱体に対する吸熱性が良好となる。ここで、実質的に1種類のパラフィンとは、主たるパラフィンの含有量が、パラフィン全質量に対して95~100質量%であることを意味し、98~100質量%であることが好ましい。
【0024】
複数のパラフィンを使用する場合には、蓄熱性を発現する温度領域及び蓄熱量の点で、主たるパラフィンの含有量は特に制限されないが、パラフィン全質量に対して、80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましく、95~100質量%が更に好ましい。
なお、「主たるパラフィン」とは、含有される複数のパラフィンのうち、最も含有量の多いパラフィンのことを指す。主たるパラフィンの含有量は、パラフィン全質量に対して50質量%以上が好ましい。
また、パラフィンの含有量は特に制限されないが、蓄熱材(好ましくは潜熱蓄熱材)全質量に対して、80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましく、95~100質量%が更に好ましく、98~100質量%が特に好ましい。
また、パラフィンは、直鎖状のパラフィンが好ましく、分岐鎖状のパラフィンを実質的に含まないことが好ましい。直鎖状のパラフィンを含み、分岐鎖状のパラフィンを実質的に含まないことで、蓄熱性がより向上するためである。この理由としては、直鎖状のパラフィンの分子同士の会合が、分岐鎖状のパラフィンによって阻害されることを抑制できるためと推測される。
【0025】
蓄熱シート中の蓄熱材の含有量は特に制限されないが、蓄熱部材の蓄熱性がより優れる点で、蓄熱シート全質量に対して、50質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、75質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましい。蓄熱材の含有量の上限は特に制限されないが、蓄熱シートの強度の点で、蓄熱シート全質量に対して、99.9質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましく、98質量%以下が更に好ましい。
【0026】
(他の成分)
マイクロカプセルのコア材としては、上述した蓄熱材以外の他の成分が内包されていてもよい。マイクロカプセルにコア材として内包し得る他の成分としては、例えば、溶剤、及び、難燃剤等の添加剤が挙げられる。
コア材に占める蓄熱材の含有量は特に制限されないが、蓄熱シートの蓄熱性がより優れる点で、コア材全質量に対して、80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましい。
【0027】
マイクロカプセルは、コア材として、溶剤を内包していてもよい。
この場合の溶剤としては、融点が、蓄熱シートが使用される温度領域(熱制御領域;例えば、発熱体の動作温度)から外れている既述の蓄熱材が挙げられる。即ち、溶剤は、熱制御領域において液体の状態で相変化しないものを指し、熱制御領域内において相転移を起こして吸放熱反応が生じる蓄熱材と区別される。
【0028】
コア材に占める溶剤の含有量は特に制限されないが、コア材全質量に対して、30質量%未満が好ましく、10質量%未満がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。下限は特に制限されないが、0質量%が挙げられる。
【0029】
マイクロカプセルにコア材として内包し得る他の成分としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、ワックス、及び、臭気抑制剤等の添加剤が挙げられる。
【0030】
(カプセル壁(壁部))
マイクロカプセルは、コア材を内包するカプセル壁を有する。
マイクロカプセルにおけるカプセル壁を形成する材料は特に制限されず、例えば、ポリマーが挙げられ、より具体的には、ポリウレタンウレア、ポリウレタン、ポリウレア、メラミン樹脂、及び、アクリル樹脂が挙げられる。
カプセル壁を薄くでき、蓄熱部材の蓄熱性がより優れる点で、カプセル壁は、ポリウレタンウレア、ポリウレタン、ポリウレア、又は、メラミン樹脂を含むことが好ましく、ポリウレタンウレア、ポリウレタン、又は、ポリウレアを含むことがより好ましい。
なお、ポリウレタンとはウレタン結合を複数有するポリマーであり、ポリオールとポリイソシアネートとの反応生成物が好ましい。
また、ポリウレアとはウレア結合を複数有するポリマーであり、ポリアミンとポリイソシアネートとの反応生成物が好ましい。
また、ポリウレタンウレアとはウレタン結合及びウレア結合を有するポリマーであり、ポリオールと、ポリアミンと、ポリイソシアネートとの反応生成物が好ましい。なお、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させる際に、ポリイソシアネートの一部が水と反応してポリアミンとなり、結果的にポリウレタンウレアが得られることがある。
【0031】
マイクロカプセルのカプセル壁は、ウレタン結合を有することが好ましい。ウレタン結合を有するカプセル壁は、例えば、上述したポリウレタンウレア又はポリウレタンを用いて得られる。
ウレタン結合は、運動性の高い結合であるので、カプセル壁に熱可塑性をもたらすことができる。また、カプセル壁の柔軟性を調節しやすい。そのため、例えば蓄熱シートの製造時の乾燥時間を長くすると、マイクロカプセルが変形しながら互いに結合しやすくなる。その結果、マイクロカプセルが細密充填構造をとりやすくなるので、蓄熱シートの空隙率をより低減でき、且つ/又は、後述するマイクロカプセルの隣接比をより高くできる。
【0032】
また、マイクロカプセルは、変形する粒子として存在していることが好ましい。
マイクロカプセルが変形する粒子である場合、マイクロカプセルが壊れずに変形でき、蓄熱シート中におけるマイクロカプセルの充填率を向上させることができる。結果、蓄熱シートにおける蓄熱材の量を増やすことが可能になり、より優れた蓄熱性を実現できる。
なお、マイクロカプセルが壊れずに変形するとは、変形量の程度は問わず、個々のマイクロカプセルに外圧が与えられていない状態での形状から変形することを意味する。マイクロカプセルに生じる変形としては、蓄熱シート内においてマイクロカプセル同士が互いに押され合った場合に、球面同士が接触して平面状、又は一方が凸状で他方が凹状である接触面ができる変形が含まれる。
マイクロカプセルが変形する粒子となり得る点で、カプセル壁を形成する材料としては、ポリウレタンウレア、ポリウレタン、又は、ポリウレアが好ましく、ポリウレタンウレア、又は、ポリウレタンがより好ましく、ポリウレタンウレアが更に好ましい。
【0033】
上述したように、ポリウレタン、ポリウレア、及び、ポリウレタンウレアは、ポリイソシアネートを用いて形成されることが好ましい。
【0034】
ポリイソシアネートとは、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であり、芳香族ポリイソシアネート、及び、脂肪族ポリイソシアネートが挙げられる。
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、キシリレン-1,3-ジイソシアネート、4-クロロキシリレン-1,3-ジイソシアネート、2-メチルキシリレン-1,3-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、及び、4,4’-ジフェニルヘキサフルオロプロパンジイソシアネートが挙げられる。
【0035】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、及び、水素化キシリレンジイソシアネートが挙げられる。
【0036】
なお、上記では2官能の芳香族ポリイソシアネート及び脂肪族ポリイソシアネートを例示したが、ポリイソシアネートとしては、3官能以上のポリイソシアネート(例えば、3官能のトリイソシアネート、及び、4官能のテトライソシアネート)も挙げられる。
より具体的には、ポリイソシアネートとしては、上記の2官能のポリイソシアネートの3量体であるビューレット体又はイソシアヌレート体、トリメチロールプロパン等のポリオールと2官能のポリイソシアネートとの付加体、ベンゼンイソシアネートのホルマリン縮合物、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等の重合性基を有するポリイソシアネート、及び、リジントリイソシアネートも挙げられる。
ポリイソシアネートについては「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(岩田敬治編、日刊工業新聞社発行(1987))に記載されている。
【0037】
なかでも、ポリイソシアネートとしては、3官能以上のポリイソシアネートが好ましい。
3官能以上のポリイソシアネートとしては、例えば、3官能以上の芳香族ポリイソシアネート、及び、3官能以上の脂肪族ポリイソシアネートが挙げられる。
3官能以上のポリイソシアネートとしては、2官能のポリイソシアネートと分子中に3つ以上の活性水素基を有する化合物(例えば、3官能以上の、ポリオール、ポリアミン、又はポリチオール等)とのアダクト体(付加物)である3官能以上のポリイソシアネート(アダクト型である3官能以上のポリイソシアネート)、及び、2官能のポリイソシアネートの3量体(ビウレット型又はイソシアヌレート型)も好ましい。
【0038】
アダクト型である3官能以上のポリイソシアネートとしては、例えば、タケネート(登録商標)D-102、D-103、D-103H、D-103M2、P49-75S、D-110N、D-120N、D-140N、D-160N(以上、三井化学株式会社製)、デスモジュール(登録商標)L75、UL57SP(住化バイエルウレタン株式会社製)、コロネート(登録商標)HL、HX、L(日本ポリウレタン株式会社製)、P301-75E(旭化成株式会社製)、及び、バーノック(登録商標)D-750(DIC株式会社製)が挙げられる。
なかでも、アダクト型の3官能以上のポリイソシアネートとしては、三井化学株式会社製のタケネート(登録商標)D-110N、D-120N、D-140N、D-160N、又は、DIC株式会社製のバーノック(登録商標)D-750が好ましい。
イソシアヌレート型の3官能以上のポリイソシアネートとしては、例えば、タケネート(登録商標)D-127N、D-170N、D-170HN、D-172N、D-177N、D-204(三井化学株式会社製)、スミジュールN3300、デスモジュール(登録商標)N3600、N3900、Z4470BA(住化バイエルウレタン)、コロネート(登録商標)HX、HK(日本ポリウレタン株式会社製)、デュラネート(登録商標)TPA-100、TKA-100、TSA-100、TSS-100、TLA-100、TSE-100(旭化成株式会社製)が挙げられる。
ビウレット型の3官能以上のポリイソシアネートとしては、例えば、タケネート(登録商標)D-165N、NP1100(三井化学株式会社製)、デスモジュール(登録商標)N3200(住化バイエルウレタン)、デュラネート(登録商標)24A-100(旭化成株式会社製)が挙げられる。
【0039】
ポリオールとは、2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物であり、例えば、低分子ポリオール(例:脂肪族ポリオール、芳香族ポリオール)、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリラクトン系ポリオール、ヒマシ油系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、及び、水酸基含有アミン系化合物が挙げられる。
なお、低分子ポリオールとは、分子量が300以下のポリオールを意味し、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、及び、プロピレングリコール等の2官能の低分子ポリオール、並びに、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、及び、ソルビトール等の3官能以上の低分子ポリオールが挙げられる。
【0040】
なお、水酸基含有アミン系化合物としては、例えば、アミノ化合物のオキシアルキル化誘導体等として、アミノアルコールが挙げられる。アミノアルコールとしては、例えば、エチレンジアミン等のアミノ化合物のプロピレンオキサイド又はエチレンオキサイド付加物である、N,N,N’,N’-テトラキス[2-ヒドロキシプロピル]エチレンジアミン、及び、N,N,N’,N’-テトラキス[2-ヒドロキシエチル]エチレンジアミン等が挙げられる。
【0041】
ポリアミンとは、2つ以上のアミノ基(第1級アミノ基又は第2級アミノ基)を有する化合物であり、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、1,3-プロピレンジアミン、及び、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族多価アミン;脂肪族多価アミンのエポキシ化合物付加物;ピペラジン等の脂環式多価アミン;並びに、3,9-ビス-アミノプロピル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ-(5,5)ウンデカン等の複素環式ジアミンが挙げられる。
【0042】
マイクロカプセルにおけるカプセル壁の質量は特に制限されないが、コア部に含まれる蓄熱材全質量に対して、12質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。カプセル壁の質量が内包成分である蓄熱材に対して12質量%以下であることは、カプセル壁が薄壁であることを示す。カプセル壁を薄壁とすることで、蓄熱シート中に占める蓄熱材を内包したマイクロカプセルの含量が高められ、結果、蓄熱部材の蓄熱性がより優れたものとなる。
また、カプセル壁の質量の下限は特に制限されないが、マイクロカプセルの耐圧性を保つ点で、蓄熱材全質量に対して、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましい。
【0043】
(マイクロカプセルの物性)
-粒径-
マイクロカプセルの粒径は特に制限されないが、体積基準のメジアン径(Dm)で1~80μmが好ましく、10~70μmがより好ましく、15~50μmが更に好ましい。マイクロカプセルの粒径は小さい方が、マイクロカプセル間の空隙をより少なくすることができ、マイクロカプセル同士の接触面積を広げることができるため、取り扱い時における欠陥の発生を更に抑制することができる。その点で、マイクロカプセルの粒径は、体積基準のメジアン径(Dm)で40μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましく、19μm以下が特に好ましい。
マイクロカプセルの体積基準のメジアン径は、後述するマイクロカプセルの製造方法について説明した方法の乳化工程における分散の条件を変更することにより、制御できる。
ここで、マイクロカプセルの体積基準のメジアン径とは、粒径を閾値としてマイクロカプセル全体を2つに分けた場合に、大径側と小径側での粒子の体積の合計が等量となる粒径をいう。マイクロカプセルの体積基準のメジアン径は、マイクロトラックMT3300EXII(日機装株式会社製)を用いてレーザー回折・散乱法により測定される。
なお、マイクロカプセルの分取方法としては、蓄熱シートを水に24時間以上浸漬し、得られた水分散液を遠心分離することで単離したマイクロカプセルが得られる。
【0044】
-粒径分布-
マイクロカプセルの粒径分布は特に制限されないが、以下の式で算出されるマイクロカプセルの体積基準のメジアン径のCV(Coefficient of Variation)値(相関係数)が、10~100%であることが好ましい。
CV値=標準偏差σ/メジアン径×100
なお、標準偏差σは、上記のメジアン径の測定方法に従って測定されるマイクロカプセルの体積基準の粒径に基づいて算出される。
【0045】
-壁の厚み-
マイクロカプセルのカプセル壁の厚み(壁厚)は、特に制限されないが、より薄い方が変形しやすく、空隙を少なくすること、及び/又は、マイクロカプセル同士の接触面積を広げることが容易になりやすいため、取り扱い時における欠陥の発生をさらに抑制することができる。具体的には、10μm以下が好ましく、0.2μm未満がより好ましく、0.15μm以下が更に好ましく、0.11μm以下が特に好ましい。一方で、ある程度の厚みがあることで、カプセル壁の強度が保つことができるため、壁厚は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましい。
壁厚は、任意の20個のマイクロカプセルの個々の壁厚(μm)を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により求めて平均した平均値をいう。
具体的には、蓄熱シートの断面切片を作製し、SEMを用いてその断面を観察し、上述した測定方法により算出したメジアン径±10%の大きさのマイクロカプセルについて、20個のマイクロカプセルを選択する。それら個々の選択されたマイクロカプセルについて断面を観察して壁厚を測定し、20個のマイクロカプセルの平均値を算出することにより、マイクロカプセルの壁厚が求められる。
【0046】
上述のマイクロカプセルの体積基準のメジアン径をDm[単位:μm]とし、上述のマイクロカプセルのカプセル壁の厚みをδ[単位:μm]とした場合、マイクロカプセルの体積基準のメジアン径に対するマイクロカプセルのカプセル壁の厚みの割合(δ/Dm)は、0.02以下が好ましく、0.0075以下がより好ましく、0.006以下が更に好ましく、0.005以下が特に好ましい。δ/Dmが0.0075以下であれば、蓄熱シートの製造時にマイクロカプセルが変形しやすくなるので、蓄熱シートの空隙率を特に低くでき、且つ/又は、後述するマイクロカプセルの隣接比を特に高くできる。
δ/Dmの下限値は、マイクロカプセルの強度を維持できる点から、0.001以上が好ましく、0.0015以上がより好ましく、0.0025以上が更に好ましい。
【0047】
-変形率-
マイクロカプセルの変形率は、特に制限されないが、変形率が大きい方が、カプセルの空隙率を低下することができる点、及び、カプセル隣接比を高くすることができる点で好ましい。ここで、マイクロカプセルの変形率とは、以下の手法により測定した値を意味する。
シート化する前の塗布液から直接取り出すか、又は、蓄熱シートから溶剤で溶出させることにより、粒径が平均値の±10%以内のマイクロカプセルを15個取り出す。このマイクロカプセルを内包成分が溶融する温度+5℃に設定したホットプレートで加温し、内包成分を溶融させる。内包成分が溶融した状態のマイクロカプセルに対して、押し込み硬度計を用いて、0.1mm角の平面圧子を接触させてから、最大押し込み荷重1mNで押し当てることにより平面圧子が沈み込む距離の最大値(最大押し込み深さ)を測定した。
上記の測定結果から、(最大押し込み深さ(単位:μm))/(マイクロカプセルのメジアン径Dm(単位:μm))×100の値を算出し、測定した15個分を平均した平均値を、マイクロカプセルの変形率とした。変形率が大きいほど、マイクロカプセルが大きく変形していることを表す。なお、押し込み硬度計としては、フィッシャー・インストルメンツ社製HM2000型微小硬度計を使用できる。
マイクロカプセルの変形率としては、30%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましく、50%以上が特に好ましい。変形率の値が大きいほど、蓄熱部材の密着力を向上できる。特に、変形率が35%以上であると、蓄熱部材の密着力がより優れる点で好ましい。上限については特に制限されないが、例えば、100%以下であり、製造時等の取り扱いのし易さから、60%以下が好ましい。
【0048】
マイクロカプセルの変形率は、例えば、マイクロカプセルのカプセル壁の厚み、マイクロカプセルの体積基準のメジアン径に対するマイクロカプセルのカプセル壁の厚みの割合(δ/Dm)、及び、カプセル壁を形成する材料によって、調整することができる。
【0049】
蓄熱シート中におけるマイクロカプセルの含有量は特に制限されないが、蓄熱部材の蓄熱性がより優れる点で、蓄熱シート全質量に対して、75質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85~99質量%が更に好ましく、90~99質量%が特に好ましい。
【0050】
(マイクロカプセルの製造方法)
マイクロカプセルの製造方法は特に制限されず、公知の方法が採用できる。
例えば、カプセル壁がポリウレタンウレア、ポリウレタン、又は、ポリウレアを含む場合、蓄熱材とカプセル壁材とを含む油相を、乳化剤を含む水相に分散して乳化液を調製する工程(乳化工程)と、カプセル壁材を油相と水相との界面で重合させてカプセル壁を形成し、蓄熱材を内包するマイクロカプセルを形成する工程(カプセル化工程)と、を含む界面重合法が挙げられる。
カプセル壁がメラミン樹脂を含む場合は、蓄熱材を含む油相を、乳化剤を含む水相に分散して乳化液を調製する工程(乳化工程)と、カプセル壁材を水相に添加し、乳化液滴の表面にカプセル壁材による高分子層を形成し、蓄熱材を内包するマイクロカプセルを形成する工程(カプセル化工程)を含むコアセルベーション法が挙げられる。
なお、カプセル壁材とは、カプセル壁を形成し得る材料を意味する。
以下では、界面重合法の各工程について詳述する。
【0051】
界面重合法の乳化工程では、蓄熱材とカプセル壁材とを含む油相を、乳化剤を含む水相に分散して乳化液を調製する。なお、カプセル壁材には、ポリイソシアネートと、ポリオール及びポリアミンからなる選択される少なくとも1種の化合物とが少なくとも含まれる。
乳化液は、蓄熱材とカプセル壁材とを含む油相を、乳化剤を含む水相に分散させることにより形成される。
油相は、少なくとも蓄熱材及びカプセル壁材を含み、必要に応じて、溶剤、及び/又は、添加剤等の他の成分を更に含んでいてもよい。油相に含んでもよい溶剤としては、分散安定性が優れる点から、非水溶性有機溶剤が好ましく、酢酸エチル、メチルエチルケトン、又はトルエンがより好ましい。
水相は、少なくとも水性媒体及び乳化剤を含むことができる。
水性媒体としては、水、及び、水と水溶性有機溶剤との混合溶剤が挙げられ、水が好ましい。「水溶性」とは、25℃の水100質量%に対する対象物質の溶解量が5質量%以上であることを意味する。
水性媒体の含有量は特に制限されないが、油相と水相との混合物である乳化液全質量に対して、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、40~60質量%が更に好ましい。
【0052】
乳化剤としては、分散剤、界面活性剤及びこれらの組み合わせが挙げられる。
分散剤としては、例えば、後述するバインダーが挙げられ、ポリビニルアルコールが好ましい。
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及び、両性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
乳化剤の含有量は、油相と水相との混合物である乳化液全質量に対し、0質量%超20質量%以下が好ましく、0.005~10質量%がより好ましく、0.01~10質量%が更に好ましく、1~5質量%が特に好ましい。
水相は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、及び、防腐剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0053】
分散は、油相を油滴として水相に分散させること(乳化)をいう。分散は、油相と水相との分散に通常用いられる手段(例えば、ホモジナイザー、マントンゴーリー、超音波分散機、ディゾルバー、ケディーミル、及び、その他の公知の分散装置)を用いて行うことができる。
【0054】
油相の水相に対する混合比(油相質量/水相質量)は、0.1~1.5が好ましく、0.2~1.2がより好ましく、0.4~1.0が更に好ましい。
【0055】
-カプセル化工程-
カプセル化工程では、カプセル壁材を油相と水相との界面で重合させてカプセル壁を形成し、蓄熱材を内包するマイクロカプセルを形成する。
【0056】
重合は、好ましくは加熱下で行われる。重合における反応温度は、40~100℃が好ましく、50~80℃がより好ましい。また、重合の反応時間は、0.5~10時間程度が好ましく、1~5時間程度がより好ましい。
【0057】
重合中に、マイクロカプセル同士の凝集を防止するためには、水性溶液(例えば、水、酢酸水溶液等)を更に加えてマイクロカプセル同士の衝突確率を下げることが好ましい。
また、充分な攪拌を行うことも好ましい。
更に、重合中に反応系に凝集防止用の分散剤を添加してもよい。
更に、必要に応じて、重合中に反応系にニグロシン等の荷電調節剤、又はその他任意の補助剤を添加してもよい。
【0058】
<バインダー>
蓄熱シートは、マイクロカプセル以外に、バインダーを含むことが好ましい。蓄熱シートがバインダーを含むことで、蓄熱シートの耐久性が向上する。
【0059】
バインダーとしては、膜を形成できるポリマーであれば特に制限はなく、水溶性ポリマー、及び、油溶性ポリマーが挙げられる。
水溶性ポリマーにおける「水溶性」とは、25℃の水100質量%に対する対象物質の溶解量が5質量%以上であることを意味し、より好適な水溶性ポリマーは、溶解量が10質量%以上であることを意味する。
油溶性ポリマーにおける「油溶性」とは、25℃の水100質量%に対する対象物質の溶解量が5質量%未満であることを意味する。
【0060】
水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール(未変性のポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコール)、ポリアクリル酸アミド及びその誘導体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、エチレン-アクリル酸共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、カゼイン、ゼラチン、澱粉誘導体、アラビアゴム、及び、アルギン酸ナトリウムが挙げられる。
【0061】
油溶性ポリマーとしては、例えば、国際公開第2018/207387号及び特開2007-031610号公報に記載の、蓄熱性を有するポリマーが挙げられる。
【0062】
なかでも、バインダーとしては、水溶性ポリマーが好ましく、ポリオールがより好ましく、ポリビニルアルコールが更に好ましく、変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。水溶性ポリマーを用いることで、コア材がパラフィン等の油溶性材料である油/水型(O/W(Oil in Water)型)のマイクロカプセル液を調製する際の分散性を維持したまま、蓄熱シートを形成するのに適している。また、変性ポリビニルアルコールを用いた場合、蓄熱シートの空隙率を好ましく低くでき、且つ/又は、後述するマイクロカプセルの隣接比を好ましく高くできる。
【0063】
ポリビニルアルコールのうち、未変性のポリビニルアルコールは、例えば、ポリ酢酸ビニルの酢酸基の少なくとも一部を、けん化反応によって水酸基に置換して得られる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルの酢酸基の一部のみが水酸基に置換されたポリビニルアルコール(部分ケン化ポリビニルアルコール)であってもよいし、ポリ酢酸ビニルの酢酸基の全部が水酸基に置換されたポリビニルアルコール(完全ケン化ポリビニルアルコール)であってもよい。
変性ポリビニルアルコールとは、変性基を有するポリビニルアルコールを意味する。変性基は、蓄熱シートの空隙率をより低くできる点、及び/又は、後述するマイクロカプセルの隣接比をより高くできる点から、カルボキシ基又はその塩、及び、アセトアセチル基からなる群より選択される少なくとも1種の基が好ましく、カルボキシ基又はその塩、及び、アセトアセチル基からなる群より選択される少なくとも1種の基がより好ましい。
カルボキシ基の塩としては、カルボキシ基の金属塩が好ましく、カルボキシ基のナトリウム塩がより好ましい。
変性ポリビニルアルコールは、例えば、変性基を有する単量体と、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル等)と、を共重合して得たポリマーを、けん化することによって得ることができる。また、変性ポリビニルアルコールは、未変性のポリビニルアルコールにおける水酸基又は酢酸基と、変性基を有する化合物と、を反応させることで得られたものであってもよい。
ポリビニルアルコールとしては、例えば、株式会社クラレ製のクラレポバールシリーズ(例:クラレポバールPVA-217E、クラレポバールKL-318等)、三菱ケミカル株式会社製のゴーセネックスシリーズ(例:ゴーセネックスZ-320等)、日本酢ビ・ポバール株式会社製のAシリーズ(例:AP-17等)が挙げられる。
ポリビニルアルコールの重合度は、500~5000が好ましく、1000~3000がより好ましく、2000~3000が更に好ましい。
【0064】
バインダーの数平均分子量(Mn)は特に制限されないが、膜強度の点で、20,000~300,000が好ましく、20,000~150,000がより好ましい。
分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される値である。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定は、測定装置として、HLC(登録商標)-8020GPC(東ソー(株))を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標)Super Multipore HZ-H(4.6mmID×15cm、東ソー(株))を3本用い、溶離液として、THF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、測定条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、及び測定温度を40℃とし、RI(示差屈折)検出器を用いて行う。
検量線は、東ソー(株)の「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、及び、「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0065】
蓄熱シートにおけるバインダーの含有量は特に制限されないが、蓄熱シートの膜強度及び蓄熱部材の蓄熱性のバランスの点で、0.1~20質量%が好ましく、1~11質量%がより好ましい。
【0066】
バインダーが水溶性ポリマーを含む場合、水溶性ポリマーの含有量は、蓄熱シートの全質量に対する蓄熱材の含有割合を高くでき、蓄熱シートの蓄熱性をより向上できる点から、バインダーの全質量に対して85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。上限は、100質量%が好ましい。
【0067】
<水>
蓄熱シートは水を含有していてもよいが、蓄熱シートに含まれる水分が蒸発すると、水分が蒸発した部分が蓄熱シートにおける空隙になる場合ある。そのため、蓄熱シートにおける水の含有量は、空隙の発生を抑制する点から、少ない方が好ましい。具体的には、蓄熱シートにおける水の含有量は、蓄熱シートにおける空隙の発生をより抑制する点から、蓄熱シートの全質量に対して、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
蓄熱シートにおける水の含有量の下限は特に制限されないが、0質量%が挙げられる。
蓄熱シートにおける水の含有量の測定方法は次の通りである。まず、蓄熱シートを25%RH、40℃の恒温恒湿槽内にて24時間保存して、蓄熱シートAを得る。恒温恒湿槽から取り出した蓄熱シートAを100℃で3時間乾燥して、蓄熱シートBを得る。このようにして得られた蓄熱シートA及び蓄熱シートBの質量を測定して、以下の式に従って得られた値を蓄熱シートにおける水の含有量とする。
蓄熱シートにおける水の含有量(質量%)=100×{(蓄熱シートAの質量)-(蓄熱シートBの質量)}/(蓄熱シートAの質量)
【0068】
<他の成分>
蓄熱シートは、マイクロカプセル及びバインダー以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、熱伝導性材料、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、及び、防腐剤が挙げられる。
上記他の成分の含有量は、蓄熱シート全質量に対して、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、0質量%が挙げられる。
なお、熱伝導性材料の「熱伝導性」については、熱伝導率が10Wm-1K-1以上である材料が好ましい。なかでも、熱伝導性材料の熱伝導率としては、蓄熱シートの放熱性が良好になる点で、50Wm-1K-1以上がより好ましい。
熱伝導率(単位:Wm-1K-1)は、フラッシュ法にて25℃の温度下、日本工業規格(JIS)R1611に準拠した方法により測定される値である。
【0069】
<蓄熱シートの物性>
(厚み)
蓄熱シートの厚みは特に制限されないが、1~1000μmが好ましい。
厚みは、蓄熱シートを厚み方向と平行に裁断した裁断面をSEMで観察し、任意の点を5点測定し、5点の厚みを平均した平均値とする。
【0070】
(潜熱容量)
蓄熱シートの潜熱容量は特に制限されないが、蓄熱部材の蓄熱性が高く、熱を発する発熱体の温度調節に好適である点で、115J/ml以上が好ましく、120J/ml以上がより好ましく、130J/ml以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、300J/ml以下が好ましい。
潜熱容量は、示差走査熱量測定(DSC;Differential scanning calorimetry)の結果と蓄熱シートの厚みとから算出される値である。
なお、限られた空間内で高い蓄熱量を発現するという点で考えた場合、蓄熱量は「J/ml(単位体積当たりの蓄熱量)」で捉えることが適切と考えられるが、電子デバイス等の用途を考慮した場合は、電子デバイスの重さも重要となる。そのため、限られた質量内において高い蓄熱性を発現するという捉え方をすると、「J/g(単位質量当たりの蓄熱量)」で捉えることが適当な場合がある。この場合には、潜熱容量としては、150J/g以上が好ましく、160J/g以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、300J/g以下が好ましい。
【0071】
(マイクロカプセルの体積率)
蓄熱シート中に占めるマイクロカプセルの体積率は特に制限されないが、蓄熱シートの全体積に対して、60体積%以上が好ましく、80体積%以上がより好ましく、90体積%以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、100体積%以下が挙げられる。
【0072】
(空隙率)
蓄熱シートの空隙率とは、蓄熱シート中に占める空隙の体積率を意味する。ここで、空隙とは、蓄熱シートの内部において、蓄熱シートを構成する材料(固体及び液体)が存在せず、蓄熱シートを構成する材料で囲まれている領域を意味し、通常は気体(主に空気)で満たされている。
蓄熱シートの空隙率は、蓄熱シートの全体積に対して、10体積%未満であり、取り扱い時における蓄熱シートの欠陥の発生をより抑制できる点から、5体積%以下が好ましく、4体積%以下がより好ましく、3体積%以下が更に好ましく、2体積%以下が特に好ましい。蓄熱シートの空隙率の下限は特に制限されないが、0体積%が挙げられる。
また、蓄熱シートの空隙率が10体積%未満であることで、単位体積当たりの蓄熱量をより向上できる。
また、蓄熱シートの空隙率が10体積%未満であることで、マイクロカプセル同士の接触面積が広くなるので、蓄熱シートの弾性率が高くなる傾向にある。これにより、後述する密着層を介して蓄熱シートを他の部材と貼り合わせた場合、マイクロカプセルによって蓄熱シートの剛性が上がる。その結果、蓄熱シートと他の部材とを剥がす際の力(粘着力)の内、蓄熱シートの曲げに必要な力が増大するため、蓄熱シートと他の部材との密着性(蓄熱シートを他の部材から剥がすために必要な力)が向上する。
蓄熱シートの空隙率を10体積%未満にする方法の一例としては、蓄熱シートの製造時における乾燥時間を長くする方法、蓄熱シートの製造時における乾燥温度を高くする方法、壁厚の薄いマイクロカプセルを用いる方法、δ/Dmの値が小さいマイクロカプセルを用いる方法、及び、これらの2つ以上を組み合わせた方法が挙げられる。
【0073】
蓄熱シートの空隙率は、X線CT(X-ray Computed Tomography)法を測定原理とする公知のX線CT装置によって得られる画像データに基づいて算出される。
具体的には、蓄熱シートの面内方向の1mm×1mmの任意の領域について、X線CT法によって蓄熱シートの膜厚方向に沿ってスキャニングして、気体(空気)と、それ以外(固体及び液体)と区別する。そして、膜厚方向に沿ってスキャニングして得られた複数のスキャニング層を画像処理して得られた3次元画像データから、スキャニングした領域に存在する気体(空隙部分)の体積と、スキャニングした領域の全体積(気体、固体及び液体の合計体積)と、を求める。そして、スキャニングした領域の全体積に対する、気体の体積の割合を、蓄熱シートの空隙率(体積%)とする。
【0074】
(マイクロカプセルの隣接比)
マイクロカプセルの隣接比は、蓄熱シートに含まれるマイクロカプセル同士の隣接(接触)の程度を示す指標であり、蓄熱シートの断面をSEMを用いて観察して得られる画像(以下「SEM断面画像」とも記載する)から、以下の式を用いて求められる。
隣接比(%)=マイクロカプセルの隣接部の長さの合計(μm)/マイクロカプセルの外周の長さ(μm)×100
本明細書において「マイクロカプセル同士が隣接する」とは、2つのマイクロカプセルのカプセル壁間の距離が上述した測定方法により算出したメジアン径に対して5%以下であることを意味する。また、上記式中の「隣接部」とは、マイクロカプセルの外周のうち、他のマイクロカプセルとの距離(壁間距離)がカプセル径の5%以下である区間を意味する。
【0075】
マイクロカプセルの隣接比は、具体的には、次の方法により求められる。蓄熱シート(又は蓄熱部材)に対して、蓄熱シート中のマイクロカプセルの形状及び配置を維持するように、主面の法線方向に沿って蓄熱シートを切断して切片を作製し、SEM断面画像を得る。このときの蓄熱シートの切片の作製方法は特に制限されないが、例えば、ミクロトームを用いて蓄熱シートのごく薄い切片を作製し、得られた切片をSEMで観察する方法が挙げられる。得られた画像から、上述した測定方法により算出したメジアン径±10%の大きさを有する20個のマイクロカプセルを選択し、選択されたマイクロカプセルの外周の長さを計測する。また、選択されたマイクロカプセルにおいて、外周のうち、他のマイクロカプセルとの距離がメジアン径の5%以下である隣接部の長さを計測する。得られたマイクロカプセルの外周の全長(μm)、及び隣接部の長さの合計(μm)から、上記の式を用いて隣接比を算出し、20個のマイクロカプセルの隣接比の平均値を求める。
【0076】
蓄熱シート中のマイクロカプセルの隣接比は、取り扱い時における欠陥の発生が抑制される点で、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、96%以上が特に好ましい。上限は特に制限されないが、例えば、99.9%以下であってよい。
また、マイクロカプセルの体積比が上記の範囲内にあることで、単位体積当たりの蓄熱量をより向上できる。
また、マイクロカプセルの体積比が上記の範囲内にあることで、マイクロカプセル同士の接触面積が広くなり、蓄熱シートの弾性率が高くなる傾向にある。その結果、蓄熱シートの空隙率がより低い場合と同様に、蓄熱シートと他の部材との密着性が向上する。
マイクロカプセルの体積比を上記の範囲内にする方法の一例としては、蓄熱シートの空隙率を低下させる方法として記載した方法が挙げられる。
【0077】
(マイクロカプセルのアスペクト比)
上述のとおり、蓄熱シートに含まれるマイクロカプセルは、変形していることが好ましい。なかでも、マイクロカプセルのアスペクト比が、1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることが更に好ましい。
マイクロカプセルのアスペクト比が上記範囲にあると、マイクロカプセルの充填率が向上することにより、マイクロカプセル同士の接触面積が広くなり、蓄熱シートの強度が向上し、取り扱い時における蓄熱シートの欠陥の発生をより抑制できる。また、マイクロカプセルの充填率が向上することにより、蓄熱材の量が増えて、より優れた蓄熱性を実現できる。
マイクロカプセルのアスペクト比の上限は特に制限されないが、例えば、10以下であってよい。
【0078】
マイクロカプセルのアスペクト比は、蓄熱シートのSEM断面画像から、以下の方法で求められる。上述した隣接比の算出方法と同様に、SEM断面画像を得た後、得られた画像から20個のマイクロカプセルを選択する。選択された各マイクロカプセルの外周に外接する平行な2本の接線のうち、接線間距離が最大となるように選ばれる平行な2本の接線の距離を長辺の長さLとする。また、長さLを与える平行な2本の接線に直交し、且つ、マイクロカプセルの外周に外接する平行な2本の接線のうち、接線間距離が最大となるように選ばれる接線間距離を短辺の長さSとする。得られた長辺の長さL(μm)及び短辺の長さS(μm)から、以下の式を用いてアスペクト比を算出し、20個のマイクロカプセルの平均値を求める。
アスペクト比=L(μm)/S(μm)
マイクロカプセルのアスペクト比を上記の範囲内にする方法の一例としては、蓄熱シートの空隙率を低下させる方法として記載した方法が挙げられる。
【0079】
(マイクロカプセルの形状)
また、蓄熱シートに含まれるマイクロカプセルは、他のマイクロカプセルとの接触等によって形成された平坦部又は凹部を有することが好ましい。
具体的には、以下の方法で観察される蓄熱シート中のマイクロカプセルが、平坦部及び凹部を2ヶ所以上有することが好ましい。上述した隣接比の算出方法と同様な方法でSEM断面画像を得た後、20個のマイクロカプセルを選択する。次いで、SEM断面画像から、選択されたマイクロカプセルが、少なくとも2つ以上のマイクロカプセルが隣接してなる部分を形成しており、且つ、選択されたマイクロカプセルの外形において、隣接するマイクロカプセルの外形に沿って形成された直線状又は凹状の部分を2ヶ所以上有するとの条件を満たすか否かの確認を行う。選択された20個のマイクロカプセルのうち、上記の条件を満たすマイクロカプセルの個数は、5個以上が好ましく、10個以上がより好ましく、20個が更に好ましい。
【0080】
(弾性率)
蓄熱シートの弾性率(引張弾性率)は特に制限されないが、1700MPa以上が好ましく、2000MPa以上がより好ましく、3700MPa以上が更に好ましく、4000MPa以上が特に好ましい。
蓄熱シートの弾性率の上限は特に制限されないが、10000MPa以下が好ましい。
なお、蓄熱シートの弾性率(引張弾性率)は、JIS K 7161-1:2014に従って測定される。
【0081】
[蓄熱シート(第2実施形態)]
本発明の第2実施形態に係る蓄熱シートは、蓄熱材を内包するマイクロカプセルを含み、マイクロカプセルの隣接比が80%以上である。
第2実施形態に係る蓄熱シートによれば、取り扱い時における欠陥の発生が抑制できる。蓄熱シートの隣接比が高い場合、蓄熱シート中におけるマイクロカプセル同士の接触面積が広くなるので、蓄熱シートの強度が向上すると考えられる。その結果、蓄熱シートの脆性が高くなって、蓄熱シートの取り扱い時における欠陥(例えば、ヒビ、及び、割れ)の発生を抑制できたと推測される。
【0082】
本実施形態の蓄熱シートに含まれるマイクロカプセルの組成(コア材(蓄熱材)、及びカプセル壁を形成する材料等)、物性(粒径、及びカプセル壁の厚み等)、含有量、並びに製造方法は、その好適な態様も含めて、既に説明した第1実施形態の蓄熱シートに含まれるマイクロカプセルと同じである。
また、本実施形態の蓄熱シートに含まれるバインダー、及び水等のマイクロカプセル以外の成分についても、その好適な態様も含めて、既に説明した第1実施形態の蓄熱シートと同じである。
【0083】
本実施形態に係る蓄熱シートに含まれるマイクロカプセルの隣接比は、80%以上であり、取り扱い時における欠陥の発生をより抑制できる点から、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、96%以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、例えば、99.9%以下であってよい。
また、マイクロカプセルの隣接比が80%以上であることで、単位体積当たりの蓄熱量をより向上できる。
また、マイクロカプセルの隣接比が80%以上であることで、マイクロカプセル同士の接触面積が広くなり、蓄熱シートの弾性率が高くなる傾向にある。これにより、後述する密着層を介して蓄熱シートを他の部材と貼り合わせた場合、マイクロカプセルによって蓄熱シートの剛性が上がる。その結果、蓄熱シートと他の部材とを剥がす際の力(粘着力)の内、蓄熱シートの曲げに必要な力が増大するため、蓄熱シートと他の部材との密着性(蓄熱シートを他の部材から剥がすために必要な力)が向上する。
マイクロカプセルの隣接比の測定方法、及びマイクロカプセルの隣接比を調整する方法については、第1実施形態の蓄熱シートについて既に説明したとおりである。
【0084】
本実施形態に係る蓄熱シートの空隙率は、取り扱い時における蓄熱シートの欠陥の発生をより抑制できる点から、蓄熱シートの全体積に対して、10体積%未満が好ましく、5体積%以下がより好ましく、4体積%以下が更に好ましく、3体積%以下が特に好ましく、2体積%以下が最も好ましい。蓄熱シートの空隙率の下限は特に制限されないが、0体積%が挙げられる。
また、蓄熱シートの空隙率が上記の範囲内にあることで、単位体積当たりの蓄熱量をより向上できる。
また、蓄熱シートの空隙率が上記の範囲内にあることで、マイクロカプセル同士の接触面積が広くなるので、蓄熱シートの弾性率が高くなる傾向にある。これにより、後述する密着層を介して蓄熱シートを他の部材と貼り合わせた場合、マイクロカプセルによって蓄熱シートの剛性が上がる。その結果、蓄熱シートと他の部材とを剥がす際の力(粘着力)の内、蓄熱シートの曲げに必要な力が増大するため、蓄熱シートと他の部材との密着性(蓄熱シートを他の部材から剥がすために必要な力)が向上する。
マイクロカプセルの空隙率の測定方法、及びマイクロカプセルの空隙率を調整する方法については、第1実施形態の蓄熱シートについて既に説明したとおりである。
【0085】
本実施形態の蓄熱シートの物性のうち、厚み、潜熱容量、マイクロカプセルの体積率、マイクロカプセルのアスペクト比、マイクロカプセルの形状、及び弾性率は、その好適な態様も含めて、既に説明した第1実施形態の蓄熱シートと同じである。
【0086】
[蓄熱シートの製造方法]
蓄熱シート(第1実施形態の蓄熱シート又は第2実施形態の蓄熱シートを含む。以下同じ。)の製造方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。例えば、上述のマイクロカプセルと、必要に応じて使用される上述のバインダー等と、を含む分散液を、基材上に塗布し、乾燥させることで作製する方法が挙げられる。
なお、必要に応じて、得られた基材と蓄熱シートとの積層体から基材を剥がすことで、蓄熱シートの単体を得ることができる。
【0087】
基材としては、例えば、樹脂基材、ガラス基材、及び、金属基材が挙げられる。樹脂基材に含まれる樹脂としては、ポリエステル(例:ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリオレフィン(例:ポリエチレン、ポリプロピレン)、及び、ポリウレタンが挙げられる。また、面方向又は膜厚方向の熱伝導性を向上させ、発熱部分から蓄熱部位に速やかに熱拡散させる機能を基材に追加することが好ましい。金属基材と、グラファイトシート又はグラフェンシート等の熱伝導性材料を組み合わせてなる基材はより好ましい。
基材の厚みは特に制限されないが、1~100μmが好ましく、1~25μmがより好ましく、3~15μmが更に好ましい。
基材は、蓄熱シートとの密着性を向上させる目的で、基材の表面を処理することが好ましい。表面処理方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、及び、易接着層である薄層の付与等が挙げられる。
【0088】
易接着層を構成する材料は特に制限はないが、樹脂が挙げられ、より具体的には、スチレン-ブタジエンゴム、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及び、ポリビニル樹脂が挙げられる。
易接着層の厚みは特に制限されないが、0.1~5μmが好ましく、0.5~2μmがより好ましい。
【0089】
なお、基材としては、剥離可能な仮基材を用いてもよい。
【0090】
塗布方法としては、例えば、ダイコート法、エアーナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、及び、カーテンコート法が挙げられる。
【0091】
乾燥温度は、好ましい範囲は乾燥する際の水分量にも依存するが、水の場合、蓄熱シートの空隙率をより低くできる点、及び/又は、マイクロカプセルの隣接比をより高くできる点から、20~130℃が好ましく、30~120℃がより好ましく、33~100℃が更に好ましい。
乾燥時間は、膜中の水分が乾燥しきる直前で終了することが好ましいが、その範囲で、蓄熱シートの空隙率をより低くできる点、及び/又は、マイクロカプセルの隣接比をより高くできる点から、30秒以上が好ましく、1分以上がより好ましい。乾燥時間の上限は、蓄熱シートの生産効率の点からは、短ければ短いほど良い。
乾燥を行う工程では、塗布膜に対して、平坦化処理を施してもよい。平坦化処理の方法としては、ローラー、ニップローラー、及び、カレンダー等で塗布膜に圧力をかけて膜中のマイクロカプセルの充填率を上げる方法が挙げられる。
【0092】
また、蓄熱シート中の空隙率を少なくするため、及び/又は、マイクロカプセルの隣接比をより高くするためには、変形しやすい(変形率の大きい)マイクロカプセルを用いること、塗布膜を形成する際の乾燥を緩やかに行うこと、又は、一度に厚膜な塗布膜を形成せずに、複数回に分割して塗布すること、等の方法が好ましい。
【0093】
[蓄熱シートの用途]
本発明の蓄熱シートは、種々の用途に適用でき、例えば、電子デバイス(例えば、携帯電話(特に、スマートフォン)、携帯情報端末、パーソナルコンピューター(特に、携帯用のパーソナルコンピューター)、ゲーム機、及び、リモコン等);日中の急激な温度上昇又は室内での暖冷房時の温調に適した建材(例えば、床材、屋根材、及び、壁材等);環境温度の変化又は運動時もしくは安静時の体温変化等に応じた調温に適した衣類(例えば、下着、上着、防寒着、及び、手袋等);寝具;不要な排出熱を蓄えて熱エネルギーとして利用する排熱利用システム、等の用途に用いることができる。
【0094】
なかでも、電子デバイス(特に、携帯用の電子デバイス)に用いることが好ましい。この理由は以下の通りである。
電子デバイスの発熱による温度上昇を抑制する方法として、空気の流れによって熱を電子デバイスの外部に排出する方法、及び、ヒートパイプ又はヒートスプレッダ等によって電子デバイスの筐体全体に熱を拡散する方法が用いられてきた。しかしながら、近年の電子デバイスの薄型化及び防水性の点から、電子デバイスの気密性が向上しており、空気の流れによって熱を排出する方法を採用することが困難であるので、上記方法のなかでは、電子デバイスの筐体全体に熱を拡散する方法が用いられる。そのため、電子デバイスの温度上昇の抑制には、限界があった。
この問題に対して、電子デバイス内に上述の蓄熱シートを導入することで、電子デバイスの気密性及び防水性を保ちつつ、電子デバイスの温度上昇を抑制できる。すなわち、蓄熱シートによって、電子デバイス内に一定時間熱を溜められる部分ができるので、電子デバイス内の発熱体の表面温度を任意の温度域に保持できる。
【0095】
[蓄熱部材]
本発明の蓄熱部材は、上述の蓄熱シート(第1実施形態の蓄熱シート又は第2実施形態の蓄熱シートを含む)を有する。蓄熱部材は、ロール形態であってもよい。また、ロール形態またはシート形態の蓄熱部材から、所望の大きさや形に切り出したり、打ち抜いたりして作製されていてもよい。
蓄熱部材は、更に保護層を有することが好ましい。また、蓄熱部材は、ハンドリングの点で、蓄熱シート上に基材を有することが好ましい。
【0096】
<保護層>
保護層は、蓄熱シート上に配置される層であって、蓄熱部材が基材を有する場合には、蓄熱シートにおける基材とは反対側の面側に配置される。保護層は、蓄熱シートを保護する機能を有する。
保護層は、蓄熱シートと接触するように配置されていてもよいし、他の層を介して蓄熱シート上に配置されていてもよい。
保護層を構成する材料は特に制限されず、樹脂が好ましく、耐水性、及び、難燃性がより良好となる点で、フッ素樹脂及びシロキサン樹脂からなる群から選択される樹脂が好ましい。
【0097】
フッ素樹脂としては、公知のフッ素樹脂が挙げられる。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化3フッ化エチレン、及び、ポリテトラフルオロプロピレンが挙げられる。
フッ素樹脂は、単独のモノマーを重合したホモポリマーでもよいし、2種類以上を共重合したものでもよい。さらには、これらのモノマーと他のモノマーとの共重合体でもよい。
共重合体としては、例えば、テトラフルオロエチレンとテトラフルオロプロピレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ化ビニリデンとの共重合体、テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンとプロピレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンとビニルエーテルとの共重合体、テトラフルオロエチレンとパーフロロビニルエーテルとの共重合体、クロロトリフルオロエチレンとビニルエーテルとの共重合体、及び、クロロトリフルオロエチレンとパーフロロビニルエーテルとの共重合体が挙げられる。
フッ素樹脂としては、例えば、AGCコーテック社製のオブリガート(登録商標)SW0011F、SIFCLEAR-F101、F102(JSR社製)、KYNAR AQUATEC(登録商標)ARC、FMA-12(ともにアルケマ社製)が挙げられる。
【0098】
シロキサン樹脂は、シロキサン骨格を有する繰り返し単位を有するポリマーであり、下記式(1)で表される化合物の加水分解縮合物が好ましい。
式(1) Si(X)n(R)4-n
Xは、加水分解性基を表す。加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン基、アセトキシ基、及び、イソシアネート基が挙げられる。
Rは、非加水分解性基を表す。非加水分解性基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、及び、プロピル基)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、及び、メシチル基)、アルケニル基(例えば、ビニル基、及び、アリル基)、ハロアルキル基(例えば、γ-クロロプロピル基)、アミノアルキル基(例えば、γ-アミノプロピル基、及び、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピル基)、エポキシアルキル基(例えば、γ-グリシドキシプロピル基、及び、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基)、γ-メルカプトアルキル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基(γ-メタクリロイルオキシプロピル基)、並びに、ヒドロキシアルキル基(例えば、γ-ヒドロキシプロピル基)が挙げられる。
nは、1~4の整数を表し、3又は4が好ましい。
上記加水分解縮合物とは、式(1)で表される化合物中の加水分解性基が加水分解し、得られた加水分解物を縮合して得られる化合物を意図する。なお、上記加水分解縮合物としては、すべての加水分解性基が加水分解され、かつ、加水分解物がすべて縮合されているもの(完全加水分解縮合物)であっても、一部の加水分解性基が加水分解され、一部の加水分解物が縮合しているもの(部分加水分解縮合物)であってもよい。つまり、上記加水分解縮合物は、完全加水分解縮合物、部分加水分解縮合物、又は、これらの混合物であってもよい。
【0099】
保護層としては、例えば、特開2018-202696号公報、特開2018-183877号公報、特開2018-111793号公報に記載の、公知のハードコート剤を含む層又はハードコートフィルムを用いてもよい。また、蓄熱性の観点から、国際公開第2018/207387号及び特開2007-31610号公報に記載の、蓄熱性を有するポリマーを有する保護層を用いてもよい。
【0100】
保護層は、樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、熱伝導性材料、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、及び、防腐剤が挙げられる。
【0101】
難燃剤としては、特に制限はなく、公知の材料を用いることができる。例えば、「難燃剤・難燃材料の活用技術」(シーエムシー出版)記載の難燃剤などを用いることでき、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤が好ましく用いられる。電子用途でハロゲンの混入が抑制されることが望ましい場合等は、リン系難燃剤及び無機系難燃剤が好ましく用いられる。
リン系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、2―エチルヘキシルジフェニルホスフェート等のホスフェート系材料、その他芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル、ポリリン酸塩類、ホスフィン酸金属塩、赤リン等が挙げられる。
また、難燃剤と併用して難燃助剤を含むことも好ましい。難燃助剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、亜リン酸、22酸化4亜塩12ホウ素7水和物等が挙げられる。
【0102】
保護層の厚みは特に制限されないが、50μm以下が好ましく、0.01~25μmがより好ましく、0.5~15μmが更に好ましい。
厚みは、保護層を厚み方向と平行に裁断した裁断面をSEMで観察し、任意の点を5点測定し、5点の厚みを平均した平均値とする。
【0103】
保護層の形成方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。例えば、樹脂又はその前駆体を含む保護層形成用組成物と蓄熱シートとを接触させて、蓄熱シート上に形成された塗膜に対して、必要に応じて硬化処理を施す方法、及び、保護層を蓄熱シート上に貼り合わせる方法が挙げられる。
以下、保護層形成用組成物を用いる方法について詳述する。
【0104】
保護層形成用組成物に含まれる樹脂は、上述した通りである。
なお、樹脂の前駆体とは、硬化処理により樹脂となる成分を意味し、例えば、上述した式(1)で表される化合物が挙げられる。
保護層形成用組成物は、必要に応じて、溶剤(例えば、水及び有機溶剤)を含んでいてもよい。
【0105】
保護層形成用組成物と蓄熱シートとを接触させる方法は特に制限されず、保護層形成用組成物を蓄熱シート上に塗布する方法、及び、保護層形成用組成物中に蓄熱シートを浸漬する方法が挙げられる。
なお、保護層形成用組成物を塗布する方法としては、ディップコーター、ダイコーター、スリットコーター、バーコーター、エクストルージョンコーター、カーテンフローコーター、及び、スプレー塗布等の公知の塗布装置、並びに、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、及び、インクジェット印刷等の印刷装置を用いる方法が挙げられる。
【0106】
<密着層>
後述する発熱体と蓄熱シートとの密着性を向上する目的で、基材の蓄熱シートとは反対の面側に密着層を配置してもよい。密着層としては、粘着層及び接着層が挙げられる。
粘着層の材料は特に制限されず、公知の粘着剤が挙げられる。
粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、及び、シリコーン系粘着剤が挙げられる。また、粘着剤の例として、「剥離紙・剥離フィルム及び粘着テープの特性評価とその制御技術」、情報機構、2004年、第2章に記載のアクリル系粘着剤、紫外線硬化型粘着剤、及び、シリコーン粘着剤等が挙げられる。
なお、アクリル系粘着剤とは、(メタ)アクリルモノマーの重合体((メタ)アクリルポリマー)を含む粘着剤をいう。
粘着層は、更に、粘着付与剤を含んでいてもよい。
【0107】
接着層の材料は特に制限されず、公知の接着剤が挙げられる。
接着剤としては、例えば、ウレタン樹脂接着剤、ポリエステル接着剤、アクリル樹脂接着剤、エチレン酢酸ビニル樹脂接着剤、ポリビニルアルコール接着剤、ポリアミド接着剤、及び、シリコーン接着剤が挙げられる。
【0108】
密着層の形成方法は特に制限されないが、例えば、蓄熱シート上に密着層を転写する方法、及び、粘着剤又は接着剤を含む組成物を蓄熱シート上に塗布して密着層を形成する方法が挙げられる。
密着層の厚みは特に制限されないが、0.5~100μmが好ましく、1~25μmがより好ましく、1~15μmが更に好ましい。
【0109】
<難燃層>
蓄熱部材は、難燃層を有していてもよい。難燃層の位置は特に制限されず、保護層と一体となっていても、別の層として設けていてもよい。別の層として設ける場合には、上記保護層と上記蓄熱シートとの間に積層されていることが好ましい。また、保護層と一体となっている場合には、上記保護層が難燃性の機能を有していることを意味する。特に、潜熱蓄熱材がパラフィンのような燃えやすい材料の場合には、難燃性の保護層又は難燃層を有することで、蓄熱部材全体を難燃性とすることができる。
難燃性の保護層及び難燃層としては、難燃性であれば特に制限されないが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、フッ素含有樹脂などの難燃性有機樹脂、ガラス膜などの無機素材から形成されることが好ましい。ここで、ガラス膜は、例えば、シランカップリング剤又はシロキサンオリゴマーを蓄熱シート上に塗布し、加熱又は乾燥して形成できる。
難燃性の保護層を形成する方法としては、上記保護層の樹脂中に、難燃剤を混合して形成してもよい。難燃剤としては、上述した難燃剤、及び、シリカ等の無機粒子が好ましく挙げられる。無機粒子の量、種類は、面状及び/又は膜質によって、樹脂の種類を含めて調整できる。無機粒子のサイズは、0.01~1μmが好ましく、0.05~0.3μmがより好ましく、0.1~0.2μmが更に好ましい。
無機粒子の含有量は、保護層の全質量に対して、0.1~50質量%が好ましく、1~40質量%がより好ましい。
難燃剤の含有量は、蓄熱量及び難燃性の観点から、保護層の全質量に対して、0.1~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、1~5質量%が更に好ましい。また、難燃性の保護層の厚みは、蓄熱量及び難燃性の観点から、0.1~20μmが好ましく、0.5~15μmがより好ましく、0.5~10μmが更に好ましい。
【0110】
<着色層>
蓄熱部材は、着色層を有していてもよい。着色層を設けることにより、蓄熱シートの色味が変化した際にも、蓄熱部材の見た目の色味変化を抑制できる。また、ハンドリング時のこすれ、又は、蓄熱シートへの水等の侵入を抑制でき、マイクロカプセルの物理的又は化学的変化を抑制でき、結果として、蓄熱シート自体の色味変化を抑制もできる。
着色層は、保護層と一体となっていてもよいし、蓄熱シートと接触するように別の層として配置されていてもよい。
【0111】
着色層は目的とする色相を得るため、着色剤を含むことが好ましい。
着色剤としては、顔料、及び、染料が挙げられ、耐候性に優れ、かつ、蓄熱部材の見た目の色味変化をより抑制できる点で、顔料が好ましく、黒色顔料がより好ましく、カーボンブラックが更に好ましい。なお、カーボンブラックを使用する場合、着色層の熱伝導性がより向上する。
顔料としては、従来公知の種々の無機顔料及び有機顔料が挙げられる。
具体的な無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、リトポン、軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、及び、硫酸バリウム等の白色顔料、並びに、カーボンブラック、チタンブラック、チタンカーボン、酸化鉄、及び、黒鉛等の黒色顔料が挙げられる。
【0112】
有機顔料としては、例えば、特開2009-256572号公報の段落0093に記載の有機顔料が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 177、179、224、242、254、255、264等の赤色顔料、C.I.Pigment Yellow 138、139、150、180、185等の黄色顔料、C.I.Pigment Orange 36、38、71等の橙色顔料、C.I.Pigment Green 7、36、58等の緑色顔料、C.I.Pigment Blue 15:6等の青色顔料、及び、C.I.Pigment Violet 23等の紫色顔料が挙げられる。
着色剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0113】
着色層中における着色剤(例えば、黒色顔料)の含有量は特に制限されないが、蓄熱部材の見た目の色味変化をより抑制できる点で、着色層全体積に対して、2~30体積%が好ましく、5~25体積%がより好ましい。
【0114】
着色層は、バインダーを含んでいてもよい。
バインダーの種類は特に制限されず、公知の材料が挙げられ、樹脂が好ましい。
樹脂としては、耐水性、及び、難燃性がより良好となる点で、フッ素樹脂及びシロキサン樹脂からなる群から選択される樹脂が好ましい。耐水性が良好な、フッ素樹脂及びシロキサン樹脂からなる群から選択される樹脂を着色層が含むことで、マイクロカプセルの化学変化を抑制でき、蓄熱シートの色味変化を抑制できる。
フッ素樹脂及びシロキサン樹脂の具体例は、上述の通りである。
【0115】
着色層中におけるバインダーの含有量は特に制限されないが、蓄熱部材の見た目の色味変化をより抑制できる点で、着色層全体積に対して、50~98体積%が好ましく、75~95体積%がより好ましい。
着色層中におけるバインダーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を使用してもよい。
【0116】
着色層は、着色剤及びバインダー以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、熱伝導性材料、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、及び、防腐剤が挙げられる。
【0117】
着色層の厚みは特に制限されないが、0.1~100μmが好ましく、0.5~10μmがより好ましい。
厚みは、着色層を厚み方向と平行に裁断した裁断面をSEMで観察し、任意の点を5点測定し、5点の厚みを平均した平均値とする。
【0118】
着色層の好適形態の一つとしては、着色層の膜厚が15μm以下であり、着色層の光学濃度が1.0以上である形態が挙げられる。光学濃度が上記範囲であれば、着色層を薄い場合でも、蓄熱部材の見た目の色味変化をより抑制できる。
上記光学濃度は、1.2以上が好ましい。上限は特に制限されないが、6.0以下が好ましい。
上記光学濃度の測定方法としては、X-rite eXact(X-Rite社製)を用いて、フィルタなし、濃度ステータスはISOステータスT、D50/2°で測定する。なお、光学濃度としては、XriteのOD値で、K値を採用する。
【0119】
着色層の形成方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。例えば、着色剤及びバインダー又はその前駆体を含む着色層形成用組成物と蓄熱シートとを接触させて、蓄熱シート上に形成された塗膜に対して、必要に応じて硬化処理を施す方法が挙げられる。
以下、上記方法について詳述する。
【0120】
着色層形成用組成物に含まれる着色剤及びバインダーは、上述した通りである。
着色層形成用組成物に含まれるバインダーの前駆体とは、硬化処理によりバインダーとなる成分を意味し、例えば、上述した式(1)で表される化合物が挙げられる。
着色層形成用組成物は、必要に応じて、溶剤(例えば、水及び有機溶剤)を含んでいてもよい。
【0121】
着色層形成用組成物と蓄熱シートとを接触させる方法は特に制限されず、着色層形成用組成物を蓄熱シート上に塗布する方法、及び、着色層形成用組成物中に蓄熱シートを浸漬する方法が挙げられる。
なお、着色層形成用組成物を塗布する方法としては、保護層形成用組成物を塗布する方法で挙げた方法と同様である。
着色層は、蓄熱シートの全面に設けてもよいし、一部に模様状に設けてもよい。
【0122】
<他の部材>
蓄熱部材は、蓄熱シートにおける保護層とは反対の面側に配置された基材と、上記基材における蓄熱シートとは反対の面側に配置された密着層と、上記密着層における上記基材とは反対の面側に配置された仮基材と、を有していてもよい。これにより、蓄熱部材の保管時及び搬送時等において、蓄熱シートの傷付き等を抑制できる。
基材及び密着層については、上述した通りである。また、仮基材の具体例は、基材の具体例と同様である。剥離面を有する基材であることが好ましい。
蓄熱部材の使用する際には、蓄熱部材から仮基材を剥離する。
【0123】
[電子デバイス]
本発明の電子デバイスは、上述の蓄熱部材と、発熱体とを有する。
蓄熱部材(蓄熱シート、密着層及び保護層)については、上述した通りである。
【0124】
<発熱体>
発熱体は、電子デバイスにおける発熱する場合がある部材であって、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、SRAM(Static Random Access Memory)及びRF(Radio Frequency)デバイス等のSoC(Systems on a Chip)、カメラ、LEDパッケージ、パワーエレクトロニクス、並びに、バッテリー(特にリチウムイオン二次電池)が挙げられる。
発熱体は、蓄熱部材と接触するように配置されていてもよいし、他の層(例えば、後述する熱伝導材料)を介して蓄熱部材に配置されていてもよい。
【0125】
<熱伝導材料>
電子デバイスは、さらに、熱伝導材料を有することが好ましい。
熱伝導材料とは、発熱体から生じた熱を別の媒体に伝導する機能を有する材料を意味する。
熱伝導材料の「熱伝導性」としては、熱伝導率が10Wm-1K-1以上であることが好ましい。即ち、熱伝導材料は、熱伝導率が10Wm-1K-1以上である材料であることが好ましい。熱伝導率(単位:Wm-1K-1)は、フラッシュ法にて25℃の温度下、日本工業規格(JIS)R1611に準拠した方法により測定される値である。
電子デバイスが有してもよい熱伝導材料としては、例えば、金属板、放熱シート、及びシリコングリースが挙げられ、金属板、又は放熱シートが好ましく用いられる。
電子デバイスは、上述の蓄熱部材と、蓄熱部材上に配置された熱伝導材料と、熱伝導材料における蓄熱部材とは反対の面側に配置された発熱体とを有することが好ましい。また、電子デバイスは、上述の蓄熱部材と、蓄熱部材上に配置された金属板と、金属板における蓄熱部材とは反対の面側に配置された発熱体とを有することがより好ましい。
上述の蓄熱部材が保護層を有する場合において、電子デバイスの好適態様の一つとしては、上述の蓄熱部材と、上記蓄熱部材における上記保護層とは反対の面側に配置された金属板と、上記金属板における上記蓄熱部材とは反対の面側に配置された発熱体と、を有する態様が挙げられる。換言すると、保護層、蓄熱シート、金属板、及び、発熱体がこの順に積層されている態様が好ましい。
【0126】
(金属板)
金属板は、発熱体の保護、及び、発熱体から生じた熱を蓄熱シートに伝導する機能を有する。
金属板における発熱体が設けられた面とは反対側の面は、蓄熱シートと接触していてもよいし、他の層(例えば、放熱シート、密着層、又は、基材)を介して蓄熱シートが配置されていてもよい。
金属板を構成する材料としては、アルミニウム、銅、及び、ステンレスが挙げられる。
【0127】
(放熱シート)
放熱シートは、発熱体から生じた熱を別の媒体に伝導する機能を有するシートであり、放熱材を有することが好ましい。放熱材としては、例えば、カーボン、金属(例えば、銀、銅、アルミニウム、鉄、白金、ステンレス、及びニッケル)、並びに、シリコンが挙げられる。
放熱シートの具体例としては、銅箔シート、金属皮膜樹脂シート、金属含有樹脂シート及び、グラフェンシートが挙げられ、グラフェンシートが好ましく用いられる。放熱シートの厚みは特に制限されないが、10~500μmが好ましく、20~300μmがより好ましい。
【0128】
<ヒートパイプ、ベイパーチャンバー>
電子デバイスは、ヒートパイプ及びベイパーチャンバーからなる群より選択される熱輸送部材を更に有することが好ましい。
ヒートパイプ及びベイパーチャンバーはいずれも、金属等で形成され、中空構造を有する部材と、その内部空間に封入される熱伝達媒体である作動流体とを少なくとも備え、高温部(蒸発部) において作動流体が蒸発(気化)して熱を吸収し、低温部( 凝縮部)において気化した作動流体が凝縮して熱を放出する。ヒートパイプ及びベイパーチャンバーは、この内部での作動流体の相変化により、高温部に接触する部材から低温部に接触する部材に熱を輸送する機能を有する。
【0129】
電子デバイスが蓄熱部材と、ヒートパイプ及びベイパーチャンバーからなる群より選択される熱輸送部材とを有する場合、蓄熱部材とヒートパイプ又はベイパーチャンバーとが接触していることが好ましく、蓄熱部材がヒートパイプ又はベイパーチャンバーの低温部に接触していることがより好ましい。
また、電子デバイスが蓄熱部材と、ヒートパイプ及びベイパーチャンバーからなる群より選択される熱輸送部材とを有する場合、蓄熱部材が有する本発明の蓄熱シートに含まれる蓄熱材の相変化温度と、ヒートパイプ又はベイパーチャンバーが作動する温度領域とが重複していることが好ましい。ヒートパイプ又はベイパーチャンバーが作動する温度領域としては、例えば、それぞれの内部において作動流体が相変化可能な温度の範囲が挙げられる。
【0130】
ヒートパイプは、管状部材と、その内部空間に封入された作動流体とを少なくとも有する。ヒートパイプは、管状部材の内壁に毛細管現象に基づく作動流体の流路となるウィック構造を有し、その内側に気化した作動流体の通路となる内部空間が設けられた断面構成を有することが好ましい。管状部材の形状としては、円管状、角管状及び偏平な楕円管状等が挙げられる。管状部材は、屈曲部を有していてもよい。また、ヒートパイプは、管状部材がループ状に連結した構造を有するループヒートパイプであってもよい。
【0131】
ベイパーチャンバーは、中空構造を有する平板状の部材と、その内部空間に封入された作動流体とを少なくとも有する。ベイパーチャンバーは、平板状部材の内面にヒートパイプと同様のウィック構造を有することが好ましい。ベイパーチャンバーでは、概ね、平板状部材の一方の主面に接触する部材から熱が吸収され、他方の主面に接触する部材に熱が放出されることで、熱が輸送される。
【0132】
ヒートパイプ及びベイパーチャンバーを構成する材料は、熱伝導性が高い材料であれば特に制限されず、銅及びアルミニウム等の金属が挙げられる。
ヒートパイプ及びベイパーチャンバーの内部空間に封入される作動流体としては、例えば、水、メタノール、エタノール及び代替フロンが挙げられ、適用される電子デバイスの温度範囲に応じて適宜選択して使用される。
【0133】
<他の部材>
電子デバイスは、保護層、蓄熱シート、熱伝導材料、発熱体、及び、上述した熱輸送部材以外の他の部材を含んでいてもよい。他の部材としては、基材、及び、密着層が挙げられる。基材及び密着層については、上述した通りである。
【0134】
電子デバイスは、蓄熱シートと金属板との間に、放熱シート、基材、及び、密着層からなる群より選択される少なくとも1種の部材を有していてもよい。蓄熱シートと金属板との間に、放熱シート、基材、及び、密着層のうち、2つ以上の部材が配置される場合には、蓄熱シート側から金属板側に向かって、基材、密着層、及び、放熱シートがこの順になるように配置されることが好ましい。
また、電子デバイスは、金属板と発熱体との間に、放熱シートを有していてもよい。
【0135】
電子デバイスの具体例については、上述した通りであるので、その説明を省略する。
【実施例0136】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその趣旨を越えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。
【0137】
<実施例1>
(マイクロカプセル分散液の調製)
n-エイコサン(潜熱蓄熱材;融点37℃、炭素数20の脂肪族炭化水素 純度99.5%)72質量部を60℃に加熱溶解し、酢酸エチル120質量部を加えた溶液Aを得た。
次に、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(アデカポリエーテルEDP-300、株式会社ADEKA)0.05質量部を、攪拌している溶液Aに加えて溶液Bを得た。
更に、メチルエチルケトン1質量部に溶解したトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(バーノックD-750、DIC株式会社)4.0質量部を、攪拌している溶液Bに加え、溶液Cを得た。
そして、水140質量部にバインダーとしてポリビニルアルコール(クラレポバール(登録商標)KL-318(株式会社クラレ製;PVA(Polyvinyl alcohol))7.4質量部を溶解した溶液中に、上記の溶液Cを加えて、乳化分散した。乳化分散後の乳化液に水250質量部を加え、得られた溶液を攪拌しながら70℃まで加温し、1時間攪拌を継続した後、30℃に冷却した。冷却後の液に更に水を加えて濃度を調整し、ポリウレタンウレアのカプセル壁を有するn-エイコサン内包マイクロカプセルの分散液を得た。分散液の固形分濃度は、14質量%であった。
なお、ポリビニルアルコールとして用いたクラレポバールKL-318は、カルボキシ基又はその塩を変性基として有する変性ポリビニルアルコールである。
【0138】
得られた分散液における、マイクロカプセルの体積基準でのメジアン径Dmは、20μmであった。また、マイクロカプセルのカプセル壁の厚みδは、0.1μmであった。
また、得られた分散液から取り出されたマイクロカプセルの変形率を、押し込み硬度計としてフィッシャー・インストルメンツ社製HM2000型微小硬度計を用いて、上述の方法により測定した結果、マイクロカプセルの変形率は、41%であった。
【0139】
(蓄熱シート形成用組成物の調製)
得られたマイクロカプセル分散液1000質量部に対して、側鎖アルキルベンゼンスルホン酸アミン塩(ネオゲンT、第一工業製薬)を1.5質量部、1,2-ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルオキシカルボニル)エタンスルホン酸ナトリウム(W-AHE、富士フイルム株式会社製)を0.15質量部、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(ノイゲンLP-90、第一工業製薬)0.15質量部を加え、混合して蓄熱シート形成用組成物1を得た。
【0140】
(易接着層及び粘着層付きポリエチレンテレフタレート(PET)基材(A)の作製)
リンテック株式会社製の光学粘着シートMO-3015(厚み:5μm)を厚み6μmのPET基材に貼り付けて粘着層を形成した。
PET基材の粘着層を有する側とは反対側の面に、Nippol Latex LX407C4E(日本ゼオン株式会社製)とNippol Latex LX407C4C(日本ゼオン株式会社製)とアクアブリッド EM-13(ダイセルファインケム株式会社)とを固形分濃度で22:77.5:0.5(質量基準)となるように混合溶解した水溶液を塗布し、115℃で2分間乾燥して、厚み1.3μmのスチレン-ブタジエンゴム系樹脂からなる易接着層を形成し、易接着層及び粘着層付きPET基材(A)を用意した。
【0141】
(蓄熱部材1の作製)
易接着層及び粘着層つきPET基材(A)の易接着層の面に、蓄熱シート形成用組成物1を、乾燥後の質量が172g/m2となるように、バーコーターにより塗布し、80℃で25分間乾燥させた後、25℃、50%RHの恒温恒湿槽内に2時間静置して、PET基材上に蓄熱シート1を形成した。
なお、乾燥後であって恒温恒湿槽に静置する前の蓄熱シートにおける水の含有量について、上述の方法に従って測定したところ、蓄熱シートにおける水の含有量は、蓄熱シートの全質量に対して、10質量%であった。また、恒温恒湿槽に静置した後の蓄熱シートにおける水の含有量を同様に測定したところ、蓄熱シートにおける水の含有量は、蓄熱シートの全質量に対して、1質量%未満であった。蓄熱シート形成用組成物1からなる層の厚みは、190μmであった。
なお、蓄熱シートにおけるマイクロカプセルの含有量は、蓄熱シート全質量に対して、91質量%であった。また、蓄熱シートにおける蓄熱材(n-エイコサン)の含有量は、蓄熱シート全質量に対して、85質量%であった。
【0142】
<実施例2>
蓄熱シート形成用組成物の塗布後の乾燥条件を90℃で20分間に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、蓄熱シート2を形成し、蓄熱部材2を作製した。
なお、乾燥後であって恒温恒湿槽に静置する前の蓄熱シートにおける水の含有量、及び、恒温恒湿槽に静置した後の蓄熱シートにおける水の含有量はいずれも、実施例1と同じであった。
【0143】
<実施例3>
蓄熱シート形成用組成物の塗布後の乾燥条件を100℃で15分間に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、蓄熱シート3を形成し、蓄熱部材3を作製した。
なお、乾燥後であって恒温恒湿槽に静置する前の蓄熱シートにおける水の含有量、及び、恒温恒湿槽に静置した後の蓄熱シートにおける水の含有量はいずれも、実施例1と同じであった。
【0144】
<実施例4>
実施例1の「マイクロカプセル分散液の調製」で使用した、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンの量を、0.05質量部から0.025質量部に変更し、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物の量を4.0質量部から2.0質量部に変更した。
また、蓄熱シート形成用組成物の塗布後の乾燥条件を100℃で15分間に変更した。
これらの条件以外は、実施例1と同様の手順に従って、蓄熱シート4を形成し、蓄熱部材4を作製した。
なお、乾燥後であって恒温恒湿槽に静置する前の蓄熱シートにおける水の含有量、及び、恒温恒湿槽に静置した後の蓄熱シートにおける水の含有量はいずれも、実施例1と同じであった。
【0145】
<実施例5>
実施例1の「マイクロカプセル分散液の調製」で使用した、ポリビニルアルコールの量を、7.4質量部から14.8質量部に変更した。
また、蓄熱シート形成用組成物の塗布後の乾燥条件を90℃で20分間に変更した。
これらの条件以外は、実施例1と同様の手順に従って、蓄熱シート5を形成し、蓄熱部材5を作製した。
なお、乾燥後であって恒温恒湿槽に静置する前の蓄熱シートにおける水の含有量、及び、恒温恒湿槽に静置した後の蓄熱シートにおける水の含有量はいずれも、実施例1と同じであった。
【0146】
<実施例6>
実施例1の「マイクロカプセル分散液の調製」で使用した、ポリビニルアルコールの種類を、クラレポバール(登録商標)45-88(株式会社クラレ;PVA)に変更した。
また、蓄熱シート形成用組成物の塗布後の乾燥条件を90℃で20分間に変更した。
これらの条件以外は、実施例1と同様の手順に従って、蓄熱シート6を形成し、蓄熱部材6を作製した。
なお、乾燥後であって恒温恒湿槽に静置する前の蓄熱シートにおける水の含有量、及び、恒温恒湿槽に静置した後の蓄熱シートにおける水の含有量はいずれも、実施例1と同じであった。
なお、ポリビニルアルコールとして用いたクラレポバール45-88は、部分ケン化された未変性のポリビニルアルコールである。
【0147】
<実施例7>
実施例1の「マイクロカプセル分散液の調製」で使用した、ポリビニルアルコールの種類を、ゴーセネックス(登録商標)Z320(三菱ケミカル株式会社;PVA)に変更した。
また、蓄熱シート形成用組成物の塗布後の乾燥条件を90℃で20分間に変更した。
これらの条件以外は、実施例1と同様の手順に従って、蓄熱シート7を形成し、蓄熱部材7を作製した。
なお、乾燥後であって恒温恒湿槽に静置する前の蓄熱シートにおける水の含有量、及び、恒温恒湿槽に静置した後の蓄熱シートにおける水の含有量はいずれも、実施例1と同じであった。
なお、ポリビニルアルコールとして用いたゴーセネックス(登録商標)Z320は、アセトアセチル基を変性基として有する変性ポリビニルアルコールである。
【0148】
<実施例8>
クラレポバール45-88をクラレポバール25-88Eに変更した以外は、実施例6と同様にして蓄熱シート8を形成し、蓄熱部材8を作製した。
なお、ポリビニルアルコールとして用いたクラレポバール25-88Eは、部分ケン化された未変性のポリビニルアルコールである。
【0149】
<実施例9>
蓄熱シート形成用組成物の塗布後の乾燥条件を100℃で12分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、易接着層及び粘着層付きPET基材(A)の易接着層面に、蓄熱シート9を形成した。その後、蓄熱シート9の易接着層の上に、下記保護層形成用組成物1を塗布し、60℃、2分間の乾燥条件で乾燥して、保護層1を形成した。保護層1の膜厚は3μmであった。これを蓄熱部材9とした。
【0150】
(保護層形成用組成物1の調製)
以下の成分を混合して、保護層形成用組成物1を調製した。
KYNAR Aquatec ARC(Arkema社製、固形分濃度44質量%;フッ素樹脂) 24.2質量部
エポクロス WS-700(日本触媒株式会社製、固形分濃度25質量%;硬化剤) 21.4質量部
FUJI JET BLACK B-15(冨士色素(株)製、固形分濃度15質量%、カーボンブラック) 33.2質量部
タイエンE(太平化学産業(株)製;難燃剤、固形分濃度20質量%水分散液に希釈) 20.0質量部
ノイゲンLP-70(第一工業製薬(株)製(固形分濃度2質量%水溶液に希釈);界面活性剤) 1.2質量部
【0151】
<実施例10>
保護層形成組成物1を保護層形成組成物2に変更した以外は、実施例9と同様にして蓄熱シート10及び保護層2を形成し、蓄熱部材10を作製した。
【0152】
(保護層形成用組成物2の調製)
以下の成分を混合して、保護層形成用組成物2を調製した。
純水 4.3質量部
1M 水酸化ナトリウム水溶液 0.4質量部
X-12-1098(信越化学工業(株)製、固形分濃度30質量%) 47.2質量部
スノーテックスXL(日産化学(株)製、固形分濃度40質量%、シリカ粒子、平均粒子径60nm) 15.2質量部
FUJI JET BLACK B-15(冨士色素(株)製、固形分濃度15質量%、カーボンブラック) 31.7質量部
ノイゲンLP-70(第一工業製薬(株)製(固形分濃度2質量%水溶液に希釈);界面活性剤) 1.2質量部
【0153】
<実施例11>
保護層形成組成物1を保護層形成組成物3に変更した以外は、実施例9と同様にして蓄熱シート11及び保護層3を形成し、蓄熱部材11を作製した。
【0154】
(保護層形成用組成物3の調製)
以下の成分を混合して、保護層形成用組成物3を調製した。
KYNAR Aquatec ARC(Arkema社製、固形分濃度44質量%;フッ素樹脂) 11.4質量部
エポクロス WS-700(日本触媒株式会社製、固形分濃度25質量%;硬化剤) 10.1質量部
FUJI JET BLACK B-15(冨士色素(株)製、固形分濃度15質量%、カーボンブラック) 15.63質量部
タイエンE(太平化学産業(株)製;難燃剤、固形分濃度20質量%水分散液に希釈) 15.6質量部 (メジアン径 0.4μm (ガラスビーズによる粉砕で調製))
ノイゲンLP-70(第一工業製薬(株)製(固形分濃度0.5質量%水溶液に希釈);界面活性剤) 11.7質量部
1,2-ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルオキシカルボニル)エタンスルホン酸ナトリウム(W-AHE、富士フイルム株式会社製)(固形分濃度0.5質量%水溶液に希釈);界面活性剤) 11.7質量部
純水 30.1質量部
【0155】
<実施例12>
蓄熱シート形成用組成物1の乾燥後の質量を乾燥後質量143g/m2となるように塗布し、100℃で10分間乾燥させた後、蓄熱シート形成用組成物1(乾燥後質量29g/m2)と下記保護層形成用組成物4(乾燥膜厚で3μm)を塗布し、45℃2分間で乾燥した以外は、実施例1と同様の手順に従って蓄熱シート12及び保護層4を形成し、蓄熱部材12を作製した。
【0156】
(保護層形成用組成物4の調製)
以下の成分を混合して、保護層形成用組成物4を調製した。
KYNAR Aquatec ARC(Arkema社製、固形分濃度44質量%;フッ素樹脂) 16.3質量部
エポクロス WS-700(日本触媒株式会社製、固形分濃度25質量%;硬化剤) 14.4質量部
FUJI JET BLACK B-15(冨士色素(株)製、固形分濃度15質量%、カーボンブラック) 22.4質量部
タイエンE(太平化学産業(株)製;難燃剤、固形分濃度20質量%水分散液に希釈) 13.5質量部 (メジアン径 0.4μm (ガラスビーズによる粉砕で調製))
ノイゲンLP-70(第一工業製薬(株)製(固形分濃度0.5質量%水溶液に希釈);界面活性剤) 16.7質量部
1,2-ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルオキシカルボニル)エタンスルホン酸ナトリウム(W-AHE、富士フイルム株式会社製)(固形分濃度0.5質量%水溶液に希釈);界面活性剤) 16.7質量部
【0157】
<実施例13>
n-エイコサン内包マイクロカプセルの分散液の調製工程において、乳化分散時の回転数を高く、時間を長く変更した以外は、実施例1と同様にして蓄熱シートおよび蓄熱部材を作製した。
【0158】
<実施例14>
n-エイコサン内包マイクロカプセルの分散液の調製工程において、乳化分散時の回転数を低く、時間を短く変更した以外は、実施例1と同様にして蓄熱シートおよび蓄熱部材を作製した。
【0159】
<実施例15>
実施例1の「マイクロカプセル分散液の調製」で使用した、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンの量を0.082質量部に変更し、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物の量を6.5質量部に変更し、かつ、n-エイコサン内包マイクロカプセルの分散液の調製工程において、乳化分散時の回転数を高く、時間を長く変更した以外は、実施例1と同様にして蓄熱シートおよび蓄熱部材を作製した。
【0160】
<実施例16>
実施例1の「マイクロカプセル分散液の調製」で使用した、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンの量を0.054質量部に変更し、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物の量を4.3質量部に変更し、かつ、n-エイコサン内包マイクロカプセルの分散液の調製工程において、乳化分散時の回転数を高く、時間を長く変更した以外は、実施例1と同様にして蓄熱シートおよび蓄熱部材を作製した。
【0161】
<実施例17>
実施例1の「マイクロカプセル分散液の調製」で使用した、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンの量を0.045質量部に変更し、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物の量を3.6質量部に変更し、かつ、n-エイコサン内包マイクロカプセルの分散液の調製工程において、乳化分散時の回転数を低く、時間を短く変更した以外は、実施例1と同様にして蓄熱シートおよび蓄熱部材を作製した。
【0162】
<実施例18>
実施例1の「マイクロカプセル分散液の調製」で使用した、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンの量を0.068質量部に変更し、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物の量を5.5質量部に変更し、かつ、n-エイコサン内包マイクロカプセルの分散液の調製工程において、乳化分散時の回転数を低く、時間を短く変更した以外は、実施例1と同様にして蓄熱シートおよび蓄熱部材を作製した。
【0163】
<実施例19>
n-エイコサン内包マイクロカプセルの分散液の調製工程において、乳化分散時の回転数を高く、時間を長く変更した以外は、実施例3と同様にして蓄熱シートおよび蓄熱部材を作製した。
【0164】
<比較例1>
実施例1の「マイクロカプセル分散液の調製」で使用した、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンの量を、0.05質量部から0.1質量部に変更し、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物の量を4.0質量部から8.0質量部に変更した。
この条件以外は、実施例1と同様の手順に従って、蓄熱シートC1を形成し、蓄熱部材C1を作製した。
なお、乾燥後であって恒温恒湿槽に静置する前の蓄熱シートにおける水の含有量、及び、恒温恒湿槽に静置した後の蓄熱シートにおける水の含有量はいずれも、実施例1と同じであった。
【0165】
<比較例2>
蓄熱シート形成用組成物の塗布後の乾燥条件を30℃で180分間に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、蓄熱シートC2を形成し、蓄熱部材C2を作製した。
なお、乾燥後であって恒温恒湿槽に静置する前の蓄熱シートにおける水の含有量、及び、恒温恒湿槽に静置した後の蓄熱シートにおける水の含有量はいずれも、実施例1と同じであった。
【0166】
<評価>
以下の評価を実施した。評価結果を下記の表1に示す。
また、実施例2~19並びに比較例1及び2について、実施例1と同様の手順に従って測定された、マイクロカプセルの体積基準でのメジアン径Dm、マイクロカプセルのカプセル壁の厚みδ、マイクロカプセルの体積基準のメジアン径Dmに対するマイクロカプセルのカプセル壁の厚みδの割合(δ/Dm)、及び、マイクロカプセルの変形率のそれぞれを、表1に示す。
なお、実施例8~19について、恒温恒湿槽に静置した後の蓄熱シートにおける水の含有量はいずれも、蓄熱シートの全質量に対して5質量%以下であった。
【0167】
(空隙率の測定)
X線CT装置を用いて、上述した方法に従って蓄熱シートの空隙率を算出した。
なお、空隙率は、蓄熱部材を用いて、蓄熱シート部分のみをX線CT装置で解析した(すなわち、蓄熱部材から蓄熱シートを剥離させずに、測定を実施した。)。
【0168】
(マイクロカプセルの隣接比の測定)
上述した方法に従って、蓄熱シートのマイクロカプセルの隣接比を算出した。
なお、マイクロカプセルの隣接比は、マイクロカプセルの形態及び配置を保持するように蓄熱部材を主面の法線方向に沿って切断し、得られた切片中の蓄熱シート部分のSEM断面画像から求めた(すなわち、蓄熱部材から蓄熱シートを剥離させずに、測定を実施した。)。
【0169】
(潜熱容量の測定)
得られた蓄熱シートの潜熱容量を、示差走査熱量測定の結果と蓄熱シートの厚みとから算出した。
なお、蓄熱シートの潜熱容量は、蓄熱部材の潜熱容量の測定を行った後、基材及び保護層の厚み及び質量分を計算で差し引いて算出した。
また、蓄熱部材の潜熱容量についても、表に合わせて示した。
【0170】
(欠陥の測定)
蓄熱部材を24mm×50mmに切断して測定用サンプルを準備した。測定用サンプルの短辺の両側の1cm分を掴んで、測定サンプルの長辺方向に沿って1cm引き延ばした際の、蓄熱シートへの欠陥(ヒビ及び割れ)の入り方を目視で観察した。
1:ヒビ及び割れがいずれも見られない、又は、ヒビ及び/又は割れが1つ見られる
2:ヒビ及び/又は割れが2つ以上見られるが、少ない
3:ヒビ及び/又は割れが多い
【0171】
(引張弾性率の測定)
蓄熱部材を24mm×50mmに切断して測定用サンプルを準備した。測定用サンプルの両端を長辺方向に沿って引き延ばした際の応力をJIS K 7161-1:2014に従って測定し、ひずみに対し線形に応力が変化する範囲について、傾きを断面積で割ることで求めた。
【0172】
(密着力の測定)
JIS-Z0237の規格に従い、BA(bright annealed finish)仕上げのSUS(Steel Use Stainless)304基材上に、粘着層が接するように試験用シートを配置した後、試験用シートの上から荷重2kgのローラーを押し当てて、SUS304基材と試験用シートとを貼り合わせた。貼り合わせから1分経過した後、180°ピール、300mm/minの条件にて、試験用シートをSUS304基材から剥離した。試験用シートの剥離に必要な力を、密着力(N/mm)とした。
【0173】
【0174】
【0175】
表1及び表2に示すように、空隙率が10体積%未満である蓄熱シートを用いた場合(実施例1~19)、空隙率が10体積%以上である蓄熱シートを用いた場合(比較例1及び比較例2)と比較して、取り扱い時における欠陥の発生が抑制でき、かつ、これを含む蓄熱部材の密着力も優れることが確認できた。
また、表1及び表2に示すように、隣接比が80%以上である蓄熱シートを用いた場合(実施例1~19)、隣接比が80%未満である蓄熱シートを用いた場合(比較例1及び比較例2)と比較して、取り扱い時における欠陥の発生が抑制でき、かつ、これを含む蓄熱部材の密着力も優れることが確認できた。
【0176】
実施例1~19で作製した蓄熱部材について、易接着層及び粘着層つきPET基材(A)の粘着層をCPUの金属カバー面に貼着したところ、CPUが発熱しても蓄熱シート面は熱くならないことを確認した。
また、実施例1~19で作製した蓄熱部材をヒートパイプの一端部に接触させ、ヒートパイプのもう一方の端部をCPUに接触させても、CPUの発熱が抑えられることを確認した。
【0177】
n-エイコサンをn-ヘプタデカン(融点22℃、炭素数17の脂肪族炭化水素)に変更した以外は、実施例1と同様に蓄熱部材を作製し、易接着層及び粘着層つきPET基材(A)の粘着層をリチウムイオンバッテリーに貼着して、上記と同様に試験したところ、バッテリーが発熱しても蓄熱シート面の温度が熱くなりにくいことを確認した。
また、n-エイコサンをn-オクタデカン(融点28℃、炭素数18の脂肪族炭化水素)、n-ノナデカン(融点32℃、炭素数19の脂肪族炭化水素)、n-ヘンイコサン(融点40℃、炭素数21の脂肪族炭化水素)、n-ドコサン(融点44℃、炭素数22の脂肪族炭化水素)、n-トリコサン(融点49℃、炭素数23の脂肪族炭化水素)、n-テトラコサン(融点52℃、炭素数24の脂肪族炭化水素)、n-ペンタコサン(融点54℃、炭素数25の脂肪族炭化水素)、n-ヘキサコサン(融点60℃、炭素数26の脂肪族炭化水素)にそれぞれ変更し、実施例1と同様に蓄熱部材を8種類作製した。易接着層及び粘着層つきPET基材(A)の粘着層をCPUの金属カバー面に貼着して、上記と同様に試験したところ、CPUが発熱しても蓄熱シート面は熱くなりにくいことを確認した。
前記蓄熱シート上に配置された基材と、前記基材における前記蓄熱シートとは反対の面側に配置された密着層と、前記密着層における前記基材とは反対の面側に配置された仮基材と、を有する、請求項14に記載の蓄熱部材。