(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022103856
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】構造物の製造方法、及び複数の構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/343 20060101AFI20220701BHJP
E04H 15/20 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
E04B1/343 T
E04H15/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218746
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】399127832
【氏名又は名称】株式会社LIFULL
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120189
【弁理士】
【氏名又は名称】奥 和幸
(72)【発明者】
【氏名】北川 啓介
(72)【発明者】
【氏名】小池 克典
【テーマコード(参考)】
2E141
【Fターム(参考)】
2E141BB05
2E141CC05
2E141EE03
2E141EE32
(57)【要約】
【課題】耐久性の高い構造物を簡便に製造できる構造物の製造方法を提供すること、この構造物を複数製造できる複数の構造物の製造方法を提供すること
【解決手段】構造物1の製造方法であって、内部空間を有する自立した構造物前駆体10を準備する準備工程と、構造物前駆体の内面に発泡材を厚み方向に多段階で付着させる付着工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の製造方法であって、
内部空間を有する自立した構造物前駆体を準備する準備工程と、
前記構造物前駆体の内面に発泡材を厚み方向に多段階で付着させる付着工程を含む、構造物の製造方法。
【請求項2】
前記付着工程が、下地付着工程、及び本付着工程を含み、
前記下地付着工程が、前記構造物前駆体の内面に前記発泡材を直接付着させる工程であり、
前記下地付着工程で付着させる前記発泡材は、前記本付着工程で付着させる前記発泡材と重なり、
前記下地付着工程で付着させた前記発泡材の発泡厚みが、前記本付着工程で付着させた前記発泡材の発泡厚みよりも薄くなるように、前記付着工程を行う、請求項1に記載の構造物の製造方法。
【請求項3】
前記下地付着工程を、発泡した前記発泡材と前記構造物前駆体と接する部分の面積が、前記構造物前駆体の内面積全体の10%以上90%以下となるように行う、請求項2に記載の構造物の製造方法。
但し、前記構造物前駆体が底面を有する場合、前記内面積は前記底面を除く表面積である。
【請求項4】
前記下地付着工程で付着させた発泡材の発泡厚みが3mm以上10mm以下である、請求項2又は3に記載の構造物の製造方法。
【請求項5】
前記本付着工程で付着させた発泡材の発泡厚みが10mm以上50mm以下である、請求項2乃至4の何れか1項に記載の構造物の製造方法。
【請求項6】
前記付着工程を、前記構造物前駆体の内部空間の圧力を外気圧より20hPa±5hPa高く維持した状態で行う、請求項1乃至5の何れか1項に記載の構造物の製造方法。
【請求項7】
前記付着工程を、前記構造物前駆体の内部空間に気体を送入しながら行う、請求項1乃至6の何れか1項に記載の構造物の製造方法。
【請求項8】
前記準備工程が、外皮部材に気体を送入して前記外皮部材を膨らませた前記構造物前駆体を準備する工程である、請求項1乃至7の何れか1項に記載の構造物の製造方法。
【請求項9】
複数の構造物の製造方法であって、
請求項1乃至8の何れか1項に記載の構造物の製造方法を使用する、複数の構造物の製造方法。
【請求項10】
前記構造物前駆体が並べて配置され、
1つの前記構造物前駆体と、当該構造物前駆体と隣接する他の1つの前記構造物前駆体が連通部で連通されている、請求項9に記載の複数の構造物の製造方法。
【請求項11】
前記連通部を切り離す工程を含む、請求項10に記載の複数の構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の製造方法、及び複数の構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内部空間を有する構造物は、テント、簡易住宅等の分野で広く使用されている。このような構造物には、屋外、及び屋内での使用に耐え得る一定の強度が求められている。構造物への強度付与については各種の検討がされており、例えば、特許文献1には、薄膜体と気体混入素材を含む構造物が開示されている。この構造物は、強度があり構造物の形態が安定であるとされている。特許文献1では、気体混入素材として発泡樹脂(発泡材)を使用し、薄膜体に当該発泡樹脂を吹き付けて薄膜体と気体混入素材を一体化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような発泡材は、吹き付け後に発泡、硬化等の状態変動を伴って対象物に固定される。吹き付け後における発泡材の状態変動は、これに固定される対象物の外形形状に影響を及ぼす。例えば、強度の向上を主眼として発泡材の吹き付け量を多くした場合には、発泡材の状態変動も大きくなり、製造される構造物に変形が生じやすくなる。本発明は、製造時の変形を抑制でき、且つ強度の高い構造物を製造できる製造方法の提供を主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の構造物の製造方法は、内部空間を有する自立した構造物前駆体を準備する準備工程と、前記構造物前駆体の内面に発泡材を厚み方向に多段階で付着させる付着工程を含む。
【0006】
前記付着工程が、下地付着工程、及び本付着工程を含み、前記下地付着工程が、前記構造物前駆体の内面に前記発泡材を直接付着させる工程であり、前記下地付着工程で付着させる前記発泡材は、前記本付着工程で付着させる前記発泡材と重なり、前記下地付着工程で付着させた前記発泡材の発泡厚みが、前記本付着工程で付着させた前記発泡材の発泡厚みよりも薄くなるように、前記付着工程を行ってもよい。
前記下地付着工程を、前記発泡した発泡材と前記構造物前駆体と接する部分の面積が、前記構造物前駆体の内面積全体の10%以上90%以下となるように行ってもよい。(但し、前記構造物前駆体が底面を有する場合、前記内面積は前記底面を除く面積である。)
前記下地付着工程で付着させた発泡材の発泡厚みを3mm以上10mm以下としてもよい。
前記本付着工程で付着させた発泡材の発泡厚みを10mm以上50mm以下としてもよい。
前記付着工程を、前記構造物前駆体の内部空間の圧力を外気圧より20hPa±5hPa高く維持した状態で行ってもよい。
前記付着工程を、前記構造物前駆体の内部空間に気体を送入しながら行ってもよい。
前記準備工程が、外皮部材に気体を送入して前記外皮部材を膨らませた前記構造物前駆体を準備する工程でもよい。
【0007】
本開示の複数の構造物の製造方法は、上記の構造物の製造方法を使用する。
【0008】
前記構造物前駆体を並べて配置し、1つの前記構造物前駆体と、当該構造物前駆体と隣接する他の1つの前記構造物前駆体を連通部で連通してもよい。
前記連通部を切り離す工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示の構造物の製造方法は、強度が高く、且つ変形を抑制できる構造物を簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1Aは本開示の製造方法で製造した構造物の一例を示す斜視図である。
図1Bは
図1AのA-A断面図である。
【
図2】
図1BのX部分の一例を示す部分拡大図である。
【
図3】付着工程の一例を示す部分拡大断面図である。
【
図4】本開示の複数の構造物の製造方法の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。なお、本開示は多くの異なる態様で実施でき、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。また、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。また、説明の便宜上、上又は下等という語句を用いて説明するが、上下方向が逆転してもよい。左右方向についても同様である。
【0012】
<<構造物の製造方法>>
本開示の実施の形態に係る構造物の製造方法(以下、本開示の構造物の製造方法と言う)は、準備工程、及び付着工程を含む。
【0013】
<準備工程>
準備工程は、内部空間を有する自立した構造物前駆体10を準備する工程である。
本開示における構造物前駆体10とは、製造される構造物の外形形状を形作るものである。
本開示における自立した構造物前駆体10とは、外部からの補助なく自立した構造物前駆体10、及び外部からの補助で自立できる構造物前駆体10の双方を含む。外部からの補助としては、支柱、フレーム、及び気体の挿入等を例示できる。これ以外の補助で自立させてもよい。
【0014】
構造物前駆体10の形状に限定はなく、内部空間を有すればよい。内部空間の容積に限定はない。一例としての構造物前駆体10は、人が活動できる内部空間を有する。一例としての構造物前駆体10は、気体を貯留できる内部空間を有する。
【0015】
図1Aは、本開示の製造方法で製造した構造物1の一例を示す斜視図である。
図1Bは、
図1AのA-A断面図である。
構造物1は、構造物前駆体10、及び構造物前駆体10の内面に形成された発泡内壁11を有する。
図示する形態の構造物前駆体10は、4つの側面(正面20、左右側面30、背面40)、及び天面50を有している。
一例としての構造物前駆体10は、構造物前駆体10の接地面(地面)と面で接する底面を有する(図示しない)。
一例としての構造物前駆体10は、底面を有しておらず(
図1参照)、自立した状態において、構造物前駆体10と地面で閉じられた内部空間を有する。
一例としての構造物前駆体10の形状は、1つ、又は複数の角を有する形状である。
一例としての構造物前駆体10の形状は、角を有しない形状である。
一例としての構造物前駆体10の形状は、複数の面を有する形状である。
一例としての構造物前駆体10の形状は、複数の面を有しない形状である。
一例としての構造物前駆体10の形状は、円柱形状、角柱形状、円錐形状、角錐形状、ドーム形状である。これ以外の形状でもよい。
【0016】
構造物前駆体10は、外皮部材から形作られる。外皮部材は、単層構造でもよく、積層構造でもよい。複数の部材を接着剤で貼り合せてもよい。
【0017】
一例としての外皮部材は、互いに継ぎ目なく連結されている。一例としての外皮部材は継ぎ目のない袋状である。
一例としての外皮部材は、複数の部材を連結したものである。一例としての外皮部材は、複数の部材を連結した継ぎ目のある袋状である。連結方法としては、溶着、及び接着剤を使用した接着等を例示できる。
例えば、
図1に示す形態の構造物前駆体10を、側面部材、天面部材を連結した外皮部材で構成してもよい。また側面部材を、複数に分割しそれぞれを連結してもよい。
【0018】
外皮部材の材料に限定はなく、自立した構造物前駆体10としたときに破断しないものを使用すればよい。外皮部材は、その内部に気体を送入して自立した構造物前駆体10とする場合に、送入した気体の圧力で破断等しない材料が好ましい。
【0019】
外皮部材としては、樹脂基材(樹脂フィルム、樹脂シートでもよい)、紙基材、皮革基材等を例示できる。外皮部材の材料は、これ以外でもよい。
樹脂基材としては、アクリル、ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、及びポリ塩化ビニル等を例示できる。ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン等を例示できる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等を例示できる。
一例としての樹脂基材は、紫外線吸収剤を含有している。
紙基材としては、上質紙、和紙、洋紙、合成紙、不織布等を例示できる。
外皮部材は、1種の材料を含有してもよく、2種以上を含有してもよい。
【0020】
一例としての外皮部材は、耐水性を有する。一例としての外皮部材は、構造物前駆体10の外部表面となる面が耐水性を有する。耐水性を有する外皮部材としては、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル等を例示できる。
一例としての外皮部材は、撥水性を有する。一例としての外皮部材は、構造物前駆体10の外部表面となる面が撥水性を有する。撥水性を有する外皮部材としては、フッ素樹脂、シリコーン等を例示できる。
一例としての外皮部材は、耐水性、及び撥水性を有する。一例としての外皮部材は、耐水性、及び撥水性を有する単層構造である。一例としての外皮部材は、耐水性を有する部材と、撥水性を有する部材を積層した積層構造である。
一例としての外皮部材は、透明性を有する。本開示において透明性とは、無色透明、有色透明、及び半透明を含む。
【0021】
一例としての外皮部材は、構造物前駆体10の内表面となる部分に接着処理が施されている。接着処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、及びグラフト化処理等を例示できる。この形態の外皮部材は、発泡材との密着性が良好な構造物前駆体10とできる。
【0022】
一例としての構造物前駆体10は、外皮部材に気体を送入して膨らませたものである。この形態の構造物前駆体10は、気体の送入で自立できる。
一例としての構造物前駆体10は、フレーム、及びフレームに張設された外皮部材を有する(図示しない)。この形態の構造物前駆体10は、フレームで構造物前駆体10を自立できる。
一例としての外皮部材は袋状であり、外皮部材の内部に気体を送入するための気体送入孔41を有する。気体の送入は、送風機60等を使用できる。この形態の外皮部材は、気体を送入する前は自立しておらず、構造物1の製造現場までの外皮部材の搬送性が良好である。
一例としての外皮部材は、内部に挿入された気体を排出できる気体排出孔(図示しない)を有する。
気体送入孔41、及び気体排出孔の開口面積に限定はなく、構造物前駆体10の内部空間の圧力に応じて適宜決定できる。
【0023】
一例としての構造物前駆体10は、人が出入りできる大きさの出入孔21を有する。図示する形態の構造物前駆体10は、出入孔21、及び気体送入孔41を有しているが、出入孔21を気体送入孔41としてもよい。
一例としての出入孔21には、扉、及び枠体が取り付けられ開閉できる。
一例としての出入孔21の上部には垂れ幕状のシートが設置されている。一例としての垂れ幕状のシートは、出入孔21の縁部に固定できる。
一例としての垂れ幕状のシートは、固定手段で出入孔21の縁部に固定できる。固定手段としては、面ファスナ、線ファスナ、及び接合テープ等を例示できる。
【0024】
外皮部材の厚みに限定はないが、5μm以上2000μm以下が好ましく、10μm以上1000μm以下がより好ましい。
【0025】
一例としての構造物前駆体10は、袋状の外皮部材を使用する。この形態の外皮部材は、当該外皮部材の開口部を下方にして地面に設置する。外皮部材の地面への設置は、固定手段を使用できる。固定手段としては、ペグ71等を例示できる。
図3に示す形態では、ハトメ12にペグ71を貫通させ、当該ペグ71を地面に打ち込んで、外皮部材の開口部周縁を地面に固定している。次いで、外皮部材の開口部に気体を送入することで、袋状の外皮部材を、内部空間を有する自立した構造物前駆体10とできる。この形態は、本開示の構造物の製造方法で製造した構造物1からペグ71を外すだけで、構造物1を容易に移動できる。
【0026】
<付着工程>
付着工程は、構造物前駆体10の内面に発泡材を付着させる工程である。付着された発泡材は発泡して発泡内壁11となる。本開示の構造物の製造方法は、構造物前駆体10の内面に発泡内壁11が形成された構造物1を製造できる。本開示の構造物の製造方法は、発泡内壁11によって製造した構造物1の強度を高くできる。
一例としての発泡内壁11は、その内部に無数の気泡を有しており、多量の空気を含む。この発泡内壁11は軽量であり、且つ断熱性、及び遮音性が良好である。
【0027】
本開示の構造物の製造方法は、付着工程において、発泡材の付着を厚み方向に多段階で行う。本開示の構造物の製造方法は、構造物1を製造するときの構造物前駆体10の変形を抑制できる。
発泡材の付着手段に限定はなく、吹き付けによる付着、及び塗布による付着等を例示できる。これ以外の方法で発泡材を付着させてもよい。以下、発泡材を吹き付けて付着させる場合を中心に説明する。吹き付けを付着と読み替えてもよい
【0028】
以下、構造物前駆体10の内面に発泡材を1回のみ吹き付けた「試験1」、構造物前駆体10の内面に発泡材を厚み方向に重ねて吹き付けた「試験2」を例に挙げて、本開示の構造物の製造方法の優位性を説明する。
「試験1」、「試験2」は、同一の構造物前駆体10、及び同一の発泡材を使用した。発泡材を吹き付けた領域(下記領域X)の場所、及び吹き付け面積も同じである。目的とする発泡内壁の厚みはT(mm)とした。
「試験1」・・・構造物前駆体の領域Xに発泡材を吹き付けて第1発泡内壁を形成した。第1発泡内壁の厚みはT(mm)である。
「試験2」・・・構造物前駆体の内面の領域Xに発泡材を吹き付けて第1発泡内壁を形成した。第1発泡内壁の厚みはT1(mm)である。次いで、領域Xに発泡材を重ねて吹き付けて第2発泡内壁を形成した。第2発泡内壁の厚みはT2(mm)である。
「試験2」における第1発泡内壁の厚みT1(mm)と第2発泡内壁T2(mm)の合計の厚みは、「試験1」の第1発泡内壁の厚みT(mm)と同じである。
【0029】
構造物前駆体10の内面に吹き付けられた発泡材は、発泡し、その後に硬化して発泡内壁11となる。この硬化時に発泡材には圧縮力が発生する。発泡材の圧縮力が高くなるにつれ、発泡材と接する部分の構造物前駆体10が引っ張られ、当該発泡材と接する部分の構造物前駆体10に変形が生じやすくなる。変形としては、皴や、凹凸等を例示できる。
発泡材が硬化するときの圧縮力は、発泡した発泡材の厚み(発泡内壁11の厚み)、及び発泡材の吹き付け量と関連性を有し、発泡した発泡材の厚みが厚くなるにつれ、また発泡材の吹き付け量が多くなるにつれ、発泡材が硬化するときの圧縮力は大きくなり、構造物前駆体10に変形が生じやすくなる。構造物前駆体10に生ずる変形は、製造された構造物の美観の低下を引き起こす。
【0030】
目的とする発泡内壁の厚みをT(mm)としたときに、「試験1」では、発泡材の1回の吹き付けで目的の厚みの発泡内壁を形成している。「試験2」では発泡材を重ねて吹き付けて目的の厚みの発泡内壁を形成している。
「試験1」の第1発泡内壁を形成するときの発泡材の吹き付け量は、「試験2」の第1発泡内壁を形成するときの発泡材の吹き付け量よりも多く、また、「試験1」の第1発泡内壁の厚みは、「試験2」の第1発泡内壁の厚みよりも厚い。したがって、第1発泡内壁を形成した後の「試験1」の構造物前駆体は、第1発泡内壁を形成した後の「試験2」の構造物前駆体よりも変形が生じやすい。
【0031】
「試験2」の第2発泡内壁を形成するときの構造物前駆体の内面には、第1発泡内壁が固定されている。圧縮応力に対する変形の度合いは、第1発泡内壁が固定される前の構造物前駆体の方が、第1発泡内壁が形成された構造物前駆体よりも大きい。これは、第1発泡内壁の固着で構造物前駆体のそれ以上の膨張や、収縮が規制されることによるものと推察される。「試験2」では、第1発泡内壁で、第2発泡内壁を形成するときに生ずる圧縮力が構造物前駆体に及ぼす影響を小さくできる。「試験2」は「試験1」よりも変形が抑制された構造物を製造できる。
「試験1」、及び「試験2」は、ともに、厚みがT(mm)の発泡内壁を形成していることから、「試験2」においては、構造物前駆体の変形を抑制しつつ、「試験1」で製造した構造物と同等の強度を有する構造物を製造できる。
【0032】
本開示の構造物の製造方法は、「試験2」に示すように、構造物前駆体10の内面に発泡材を厚み方向に多段階で付着させる付着工程を含む。
本開示の構造物の製造方法は、目的とする発泡内壁11を、厚み方向に段階的に付着させた発泡材を積み上げて形成する。つまり、各回の付着で形成した発泡内壁11の厚みは、目的とする発泡内壁11よりも薄い。このような本開示の構造物の製造方法は、目的とする発泡内壁11を1回で形成する場合と比較して、構造物前駆体10にかかる圧縮応力を低減でき、製造時における構造物前駆体10の変形を抑制できる。
本開示の構造物の製造方法は、強度が高く、且つ変形が抑制された構造物1を製造できる。
【0033】
(発泡材)
発泡材は、所定の発泡倍率で発泡できるものであればよく、従来公知の発泡材を適宜選択して使用できる。発泡材は、付着後に発泡し硬化する。
一例としての発泡材は、表面、及び内部に複数の気泡を形成された構造を有する。
本開示の構造物の製造方法は、現場発泡材を好適に使用できる。
本開示の構造物の製造方法は、ノンフロン系現場発泡材、例えば、炭酸ガス系現場発泡材を好適に使用できる。
本開示の構造物の製造方法は、難燃性の発泡材を好適に使用できる。
【0034】
発泡材の材料としては、アクリル、ポリウレタン、ポリスチレン、フェノール、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ウレア樹脂、ウレタン-ウレア樹脂、シリコーン、ポリイミド、メラミン、ガラス、セラミックス、土、及び爆裂食材等を例示できる。これ以外の発泡材も使用できる。
【0035】
一例としての発泡材は、透明性を有する。
一例としての発泡内壁11は、全体が透明性を有する。
一例としての発泡材は、透明性を有しない。
発泡材を使用して形成した一例としての発泡内壁11は、全体が透明性を有しない。
【0036】
発泡材の発泡倍率に限定はない。一例としての発泡材は、発泡倍率が10倍以上100倍以下であり、好ましくは30倍以上50倍以下である。
【0037】
発泡材は、外皮部材の線膨張係数より高い線膨張係数を有するものが好ましい。
発泡材は、付着後に発熱、又は吸熱を伴い発泡するものが好ましい。
【0038】
(発泡材の付着)
発泡内壁11は、発泡材、又は発泡材を含む発泡材組成物を付着して形成できる。
一例としての発泡材組成物は、発泡材と、他の成分を含有している。他の成分としては、液体溶媒、気体溶媒、及び機能性材料等を例示できる。
【0039】
一例としての発泡材の付着は、構造物前駆体10の内部空間に、発泡装置を持ち込み、人力で構造物前駆体10の内面に発泡材を吹き付けて行う。一例としての発泡装置は、発泡材を噴射できるホースや、ノズル等を有する。一例としての発泡装置は、スプレーガンである。発泡材を塗布で付着させる場合、従来公知の塗布手段を適宜選択して使用できる。
【0040】
発泡材の付着は、構造物前駆体10の内面全体に行ってもよく、構造物前駆体10の内面に部分的に行ってもよい。好ましい形態の付着工程は、構造物前駆体10の内面全体が発泡内壁11で覆われるように、発泡材を付着させる。
一例としての発泡材の付着は、構造物前駆体10の左右方向への付着を上方から下方に向かって順次行う。
一例としての発泡材の付着は、構造物前駆体10の上下方向への付着を左右方向に向かって順次行う。
好ましい形態の発泡材の付着は、構造物前駆体10の左右方向への付着を下方から上方に向かって順次行う。
【0041】
一例としての付着工程は、下地付着工程、及び本付着工程を含む。
下地付着工程は、構造物前駆体10の内面に発泡材を直接付着させる工程である。
下地付着工程で付着させた発泡材は、本付着工程で付着させた発泡材と重なる。
一例としての付着工程は、下地付着工程で付着させた発泡材の発泡厚みが、本付着工程で付着させた発泡材の発泡厚みよりも薄くなるように発泡材を付着させる。この形態の付着工程は、より変形が抑制された構造物1を製造できる。
一例としての発泡内壁11は、下地付着工程で形成した下地発泡内壁11A、及び本付着工程で形成した本発泡内壁11Bを含む積層構造であり、発泡内壁11を構成する各発泡内壁のうち本発泡内壁11Bの厚みが最も厚い。
【0042】
下地付着工程で使用する発泡材と、本付着工程で使用する発泡材は、同じでもよく、異なってもよい。異なる発泡材には、発泡倍率が異なるものを含む。
一例としての付着工程は、下地付着工程で使用する発泡材の発泡倍率が、本付着工程で使用する発泡材の発泡倍率よりも低い。
下地付着工程で付着させた発泡材を発泡させたときの圧縮応力は、本付着工程で付着させた発泡材を発泡させたときの圧縮応力よりも小さいことが好ましい。このような形態は、下地付着工程、及び本付着工程で使用する発泡材の材料、発泡材の付着量等を考慮して調整できる。
【0043】
下地付着工程で付着た発泡材を発泡させたときの圧縮応力は、外皮部材の引張張力よりも小さいことが好ましい。
【0044】
図3A~
図3Cは、構造物前駆体10の内面に形成された発泡内壁11の一例を示す部分断面図である。
図3Aに示す形態の発泡内壁11は、下地付着工程で形成した下地発泡内壁11Aと、本付着工程で形成した本発泡内壁11Bの積層体である。
下地付着工程で付着させた発泡材と、本付着工程で付着させた発泡材は直接的に接してもよい(
図3A参照)。下地付着工程と本付着工程の間に別の付着を行ってもよい。
下地発泡内壁11Aと、本発泡内壁11Bの間に、発泡内壁11Xを形成する別の付着を行ってもよい。本発泡内壁11Bの上に、発泡内壁11Xを形成する別の付着を行ってもよい。
別の付着における発泡材の付着量は、下地付着工程、及び本付着工程における発泡材の付着量より多くてもよく、少なくてもよい。また、別の付着における発泡材の付着量は、下地付着工程における発泡材の付着量より多くてもよく、本付着工程における発泡材の付着量より少なくてもよい。発泡材の付着量を、発泡材の発泡厚みと読み替えてもよい。
本付着工程で付着させた発泡材の上に、さらに発泡材を付着させてもよい。
【0045】
下地付着工程で付着させた発泡材の上への発泡材の付着は、(i)下地付着工程で付着させた発泡材の発泡が進行する前に行ってもよく、(ii)下地付着工程で付着させた発泡材の発泡の進行中に行ってもよい。好ましい形態は(iii)下地付着工程で付着させた発泡材の発泡の完了後に行う。(i)、(ii)においても、下地付着工程で付着させた発泡材が、当該発泡材の上に付着させた発泡材を発泡させるときの圧縮応力を軽減できる吸収材や、緩衝材として機能し、構造物前駆体10の変形を抑制できる。
【0046】
一例としての下地付着工程は、発泡した発泡材と構造物前駆体10と接する部分の面積が、構造物前駆体10の内面積全体の10%以上90%以下となるように発泡材を付着させる。(但し、前記構造物前駆体10が底面を有する場合、前記内面積は前記底面を除く面積である。)
一例としての下地付着工程は、構造物前駆体10の内面に、発泡材を斑に付着させる。
【0047】
一例としての下地付着工程は、下地付着工程で形成される下地発泡内壁11Aの厚みが、目的とする発泡内壁11の厚みの60%以下、好ましくは50%未満となるように発泡材を付着させる。一例としての下地発泡内壁11Aの厚みは、目的とする発泡内壁の厚みの3%以下である。
一例としての発泡内壁11の厚み(発泡内壁の積層体の合計厚み)は20mm以上150mm以下である。
一例としての下地発泡内壁11Aの厚みは3mm以上80mm以下である。一例としての下地発泡内壁11Aの厚みは13mm以上60mm以下である。一例としての下地発泡内壁11Aの厚みは3mm以上10mm以下である。
一例としての本発泡内壁11Bの厚みは10mm以上80mm以下である。一例としての本発泡内壁11Bの厚みは13mm以上である。一例としての本発泡内壁11Bの厚みは10mm以上50mm以下である。
【0048】
一例としての付着工程は、構造物前駆体10の内部空間に気体を送入しながら行う。
一例としての付着工程は、目的とする厚みの発泡内壁11が形成されるまで、構造物前駆体10の内部空間に気体を送入しながら行う。
一例としての付着工程は、下地付着工程が完了するまで、構造物前駆体10の内部空間に気体を送入しながら行う。
一例としての付着工程は、本付着工程が完了するまで、構造物前駆体10の内部空間に気体を送入しながら行う。
【0049】
気体の送入は、送風機60等を使用できる。一例としての送風機60は、流動型のプロペラファン、圧力型のターボファン、又は、圧力型のシロッコファンを有する。これ以外の送風機60も使用できる。
【0050】
一例としての付着工程は、構造物前駆体10の内部空間の圧力を外気圧より20hPa±5hPa高く維持した状態で行う。この形態の付着工程は、より変形が抑制された構造物1を製造できる。
【0051】
一例としての付着工程は、目的とする厚みの発泡内壁11が形成されるまで、構造物前駆体10の内部空間の圧力を外気圧より20hPa±5hPa高く維持した状態で行う。
一例としての付着工程は、下地付着工程が完了するまで、構造物前駆体10の内部空間の圧力を外気圧より20hPa±5hPa高く維持した状態で行う。
一例としての付着工程は、本付着工程が完了するまで、構造物前駆体10の内部空間の圧力を外気圧より20hPa±5hPa高く維持した状態で行う。
【0052】
構造物前駆体10の内部空間の圧力の維持方法に限定はない。例えば、気体の送風圧を適宜調整して内部空間の圧力を維持できる。これ以外にも、気体送入孔41、気体排出孔を有する構造物前駆体10を使用し、気体送入孔41の径、気体排出孔の径、送風圧を適宜調整して内部空間の圧力を維持できる。気体送入孔41は、気体送入孔41と、気体排出孔を兼ねてもよい。
付着工程が完了した後に、気体排出孔を、構造物1の窓として利用してもよい。
【0053】
<<複数の構造物の製造方法>>
本開示の実施の形態に係る複数の構造物の製造方法(以下、本開示の複数の構造物の製造方法と言う)は、本開示の構造物の製造方法を使用して複数の構造物1Xを製造する。
【0054】
本開示の複数の構造物の製造方法は、構造物前駆体10の集合体を使用する。
構造物前駆体10の集合体は、複数の自立した構造物前駆体10を繋げたものである。隣接する構造物前駆体10は連通部31で連通されている。
図4は、複数の構造物前駆体10を繋げて製造した複数の構造物1Xの一例を示す断面図であり、切り離す工程の前の状態を示す。図示する形態では、複数の構造物前駆体10の内部空間には連通部31を通過して気体が送入されている。複数の構造物前駆体10は気体の送入で自立できる。気体の送入前は自立できない。
【0055】
複数の構造物前駆体10の少なくとも1つは、外部から気体を送入できる気体送入孔41を有する。当該気体送入孔41には、送風機60で気体が送入される。気体送入孔41から送入された気体は、当該気体送入孔41を有する構造物前駆体10を膨らませるとともに、連通部31を通過して隣接する構造物前駆体10を膨らませる。これにより、複数の構造物前駆体10のそれぞれを、内部空間を有する自立した構造物前駆体10とできる。
一例としての複数の構造物前駆体10は、それぞれが出入孔21を有し、当該出入孔21の何れかを気体送入孔41としている。
一例としての複数の構造物前駆体10は、少なくとも1つが内部空間の圧力を調整するための気体排出孔を有する。
【0056】
図示する形態では、1つの構造物前駆体10と、隣接する他の1つの構造物前駆体10とを1つの連通部31で連通しているが、複数の連通部31で連通してもよい。
図示する形態では、1つの送風機60で複数の構造物前駆体10に気体を送入しているが、複数の送風機60を使用してもよい。
【0057】
本開示の一例としての複数の製造方法は、付着工程が完了した後に、連通部31を切り離す工程を含む。切り離す工程の後、連通部31を窓等に利用してもよい。連通部31の切り離しは、従来公知の切断手段を適宜選択して使用できる。
【0058】
本開示の複数の構造物の製造方法は、複数の構造物を繋ぎ、隣接する構造物前駆体10同士を連通部31で連通している点において、本開示の構造物の製造方法と相違する。この相違点以外は、本開示の構造物の製造方法で説明した各種の手段を適宜選択して使用できる。
【符号の説明】
【0059】
1・・・構造物
10・・・構造物前駆体、外皮部材
11・・・発泡内壁
12・・・ハトメ
20・・・正面
21・・出入孔
30・・・側面
31・・・連通部
40・・・背面
41・・・気体送入孔
50・・・天面
60・・・送風機
71・・・ペグ