(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104102
(43)【公開日】2022-07-08
(54)【発明の名称】量子鍵配送システム
(51)【国際特許分類】
H04L 9/12 20060101AFI20220701BHJP
H04L 9/18 20060101ALI20220701BHJP
H04B 10/70 20130101ALI20220701BHJP
【FI】
H04L9/00 631
H04L9/00 651
H04B10/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219108
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本庄 利守
(72)【発明者】
【氏名】武居 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】生田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】井上 恭
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA61
5K102AB11
5K102AH11
5K102AH27
5K102PA01
5K102PB01
5K102PH02
5K102PH31
5K102PH42
(57)【要約】
【課題】時間軸の利用効率が高く、光子数分岐攻撃に耐性のある、共通鍵暗号のための秘密鍵を供給する量子鍵配送システムを提供する。
【解決手段】量子鍵配送システムは、送信ノードと、受信ノードと、送信ノードと受信ノードとを結ぶ伝送路上に配置された複数の中継ノードとを備え、送信ノードは各パルスの位相が0またはπである超微弱コヒーレントパルス列を伝送路に送出するように構成され、中継ノードは伝送路を経由してきた各パルスに0またはπの位相を印加するように構成され、受信ノードは伝送路を経由してきたパルス列および伝送路を経由してきたパルス列にパルス間隔に等しい遅延時間を付与したパルス列から光子を検出するように構成されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通鍵暗号のための秘密鍵を供給する量子鍵配送システムであって、
送信ノードと、受信ノードと、前記送信ノードと前記受信ノードとを結ぶ伝送路上に配置された複数の中継ノードとを備え、
前記送信ノードは、各パルスの位相が0またはπである超微弱コヒーレントパルス列を前記伝送路に送出するように構成されており、
前記中継ノードは、前記伝送路を経由してきた各パルスに0またはπの位相を印加するように構成されており、
前記受信ノードは、前記伝送路を経由してきたパルス列および前記伝送路を経由してきたパルス列にパルス間隔に等しい遅延時間を付与したパルス列から光子を検出するように構成されている、量子鍵配送システム。
【請求項2】
前記送信ノードは、
コヒーレントパルス列を出力するコヒーレント光源と、
前記コヒーレントパルス列に、0またはπの位相を付与する位相変調器と、
位相を付与されたコヒーレントパルス列に減衰を付与して前記伝送路へ送出する減衰器と、
を備えており、
前記中継ノードは、
前記伝送路を伝送された前記位相を付与され減衰を付与されたコヒーレントパルス列に0またはπの位相をランダムに付与する位相変調器
を備えており、
前記受信ノードは、
前記伝送路を経由してきたパルス列を2分岐し、分岐された一方のパルス列に前記遅延時間を付与し、前記遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列と分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列を2つの経路に出力するように構成されたマッハツェンダ干渉計と、
前記干渉したパルス列から光子を検出する、前記2つの経路に対応する2つの光子検出器と、
を備えている、請求項1に記載の量子鍵配送システム。
【請求項3】
共通鍵暗号のための秘密鍵を供給する量子鍵配送システムであって、
リング状の伝送路上に配置された1つの送受信ノードおよび複数の中継ノードを備え、
前記送受信ノードは、各パルスの位相が0またはπである超微弱コヒーレントパルス列を前記リング状の伝送路の一方向に送出し、前記リング状の伝送路を経由してきたパルス列および前記リング状の伝送路を経由してきたパルス列にパルス間隔に等しい遅延時間を付与したパルス列から光子を検出する構成されており、
前記中継ノードは、前記リング状の伝送路を経由してきた各パルスに0またはπの位相を印加するように構成されている、量子鍵配送システム。
【請求項4】
前記中継ノードは、
前記伝送路を伝送された前記位相を付与され減衰を付与されたコヒーレントパルス列に0またはπの位相をランダムに付与する位相変調器
を備えており、
前記送受信ノードは、
コヒーレントパルス列を出力するコヒーレント光源と、
前記コヒーレントパルス列に、0またはπの位相を付与する位相変調器と、
位相を付与されたコヒーレントパルス列に減衰を付与して前記伝送路へ送出する減衰器と、
前記伝送路を経由してきたパルス列を2分岐し、分岐された一方のパルス列に前記遅延時間を付与し、前記遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列と分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列を2つの経路に出力するように構成されたマッハツェンダ干渉計と、
前記干渉したパルス列から光子を検出する、前記2つの経路に対応する2つの光子検出器と、を備えている、請求項3に記載の量子鍵配送システム。
【請求項5】
共通鍵暗号のための秘密鍵を供給する量子鍵配送システムであって、
送信ノードと、受信ノードと、前記送信ノードと前記受信ノードとを結ぶ伝送路上に配置された複数の中継ノードとを備え、
前記送信ノードは、各パルスの位相が0またはπ/2またはπまたは3π/2である超微弱コヒーレントパルス列を前記伝送路に送出するように構成されており、
前記中継ノードは、前記伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2またはπまたは3π/2の位相を印加するように構成されており、
前記受信ノードは、前記伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加した後のパルス列および前記伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加した後の各パルスにパルス間隔に等しい遅延時間を付与したパルス列から光子を検出するように構成されている、量子鍵配送システム。
【請求項6】
前記送信ノードは、
コヒーレントパルス列を出力するコヒーレント光源と、
前記コヒーレントパルス列に、0またはπ/2またはπまたは3π/2の位相を付与する位相変調器と、
位相を付与されたコヒーレントパルス列に減衰を付与して前記伝送路へ送出する減衰器と、
を備えており、
前記中継ノードは、
前記伝送路を伝送された前記位相を付与され減衰を付与されたコヒーレントパルス列に0またはπ/2またはπまたは3π/2の位相をランダムに付与する位相変調器
を備えており、
前記受信ノードは、
前記伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加する位相変調器と、
前記伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加した後のパルス列を2分岐し、分岐された一方のパルス列に前記遅延時間を付与し、前記遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列と分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列を2つの経路に出力するように構成されたマッハツェンダ干渉計と、
前記干渉したパルス列から光子を検出する、前記2つの経路に対応する2つの光子検出器と、
を備えている、請求項5に記載の量子鍵配送システム。
【請求項7】
共通鍵暗号のための秘密鍵を供給する量子鍵配送システムであって、
リング状の伝送路上に配置された1つの送受信ノードおよび複数の中継ノードを備え、
前記送受信ノードは、各パルスの位相が0またはπ/2またはπまたは3π/2である超微弱コヒーレントパルス列を前記リング状の伝送路の一方向に送出し、前記リング状の伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加した後のパルス列および前記リング状の伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加した後の各パルスにパルス間隔に等しい遅延時間を付与したパルス列から光子を検出するように構成されており、
前記中継ノードは、前記リング状の伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2またはπまたは3π/2の位相を印加するように構成されている、量子鍵配送システム。
【請求項8】
前記送受信ノードは、
コヒーレントパルス列を出力するコヒーレント光源と、
前記コヒーレントパルス列に、0またはπ/2またはπまたは3π/2の位相を付与する位相変調器と、
位相を付与されたコヒーレントパルス列に減衰を付与して前記伝送路へ送出する減衰器と、
前記伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加する位相変調器と、
前記伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加した後のパルス列を2分岐し、分岐された一方のパルス列に前記遅延時間を付与し、前記遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列と分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列を2つの経路に出力するように構成されたマッハツェンダ干渉計と、
前記干渉したパルス列から光子を検出する、前記2つの経路に対応する2つの光子検出器と、
を備えており、
前記中継ノードは、
前記伝送路を伝送された前記位相を付与され減衰を付与されたコヒーレントパルス列に0またはπ/2またはπまたは3π/2の位相をランダムに付与する位相変調器
を備えている、請求項7に記載の量子鍵配送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、暗号システムに関し、より詳細には、秘密鍵を配信するための量子鍵配送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、離れた2者に共通鍵暗号通信のための秘密鍵を安全に供給するシステムとして、量子暗号または量子鍵配送(Quantum Key Distribution:QKD)の研究開発が進められている。QKDでは、鍵情報がエンコードされた量子状態(例えば、単一光子または超微弱コヒーレント光)を送受信し、その送受信結果に鍵蒸留、誤り訂正、または秘匿性増強などの後処理を施すことにより、秘密鍵を生成する。生成した鍵の安全性は、量子状態は観測または操作されると状態が変化する、という量子力学的性質により保証される。この性質のため、盗聴が行われると受信状態が正常時と異なることとなり、これより盗聴行為が検知される。言い方を変えると、正常に送受信されていれば、盗聴されておらず安全であることが保証される。
【0003】
上記のように、QKDの安全性は、量子状態に何らかの操作が施されると状態が変化する、ことに基づいていため、再生中継や信号の分岐をすることはできない。従って、
図1に示すように、QKD基本構成においては、QKD送信機10とQKD受信機11が伝送路12を介して直接接続され、QKD信号14がポイントtoポイント伝送されることになる。このため、多数のノード間で秘密鍵を共有する場合には、
図2に示すように、各ノード間を{QKD送信機10-伝送路12-QKD受信機11}のセットで一対一接続する必要がある。N個のノード間でそれぞれ秘密鍵を共有するためには、N×(N-1)/2セットの{QKD送信機10-伝送路12-QKD受信機11}を備えることになり、高価なネットワークとなる。
【0004】
これを解決するため、複数のノードを直列に接続するQKDネットワークが非特許文献1にて提案されている。
【0005】
非特許文献1で提案されているQKDネットワークは、一組のQKD信号送受信手段とそれを繋ぐ伝送路、及びノード数分の位相変調手段を備えるだけで、任意の2つのノードに秘密鍵を供給することができる。2つのノード間にそれぞれQKD信号送受信手段とそれを繋ぐ伝送路を備える必要がなく、低コストなQKDネットワークが構築できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W. P. Grice, P. G. Evans, B. Lawrie, M. Legre, P. Lougovski, W. Ray, B. P. Williams, B. Qi, and A. M. Smith, “Two-party secret key distribution via a modified quantum secret sharing protocol,” Optics Express vol. 23, no. 6, pp. 7300-7311, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1で提案されているQKDネットワークは、2パルス1組でひとつのビット情報を伝送するシステムである。また、システムの受信ノードにおいては、3つの時間位置で光子検出が起こり得るのに対して、真ん中時刻での光子検出事象のみを鍵ビット生成に用いており、両端での光子検出事象は無駄になっている。そのため、時間軸の利用効率が低く、単位時間あたりの鍵ビット生成率の制限要因となる。
【0008】
また、超微弱コヒーレント光を疑似単一光子として用いる場合、光子数分岐攻撃対策としてデコイ法を用いる必要があり、その分、装置構成及び鍵ビット生成工程が煩雑となる。
【0009】
本開示は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、伝送路状に配置された3つ以上のノードのうちの任意の2つのノードに秘密鍵を供給する量子鍵配送システムであって、時間軸の利用効率が高く、また光子数分岐攻撃に耐性のある量子鍵配送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明の一実施形態は、共通鍵暗号のための秘密鍵を供給する量子鍵配送システムであって、送信ノードと、受信ノードと、送信ノードと受信ノードとを結ぶ伝送路上に配置された複数の中継ノードとを備える。送信ノードは、各パルスの位相が0またはπである超微弱コヒーレントパルス列を伝送路に送出するように構成されている。中継ノードは、伝送路を経由してきた各パルスに0またはπの位相を印加するように構成されている。受信ノードは、伝送路を経由してきたパルス列および伝送路を経由してきたパルス列にパルス間隔に等しい遅延時間を付与したパルス列から光子を検出するように構成されている。
【0011】
本発明の他の実施形態は、共通鍵暗号のための秘密鍵を供給する量子鍵配送システムであって、リング状の伝送路上に配置された1つの送受信ノードおよび複数の中継ノードを備える。送受信ノードは、各パルスの位相が0またはπである超微弱コヒーレントパルス列をリング状の伝送路の一方向に送出し、リング状の伝送路を経由してきたパルス列およびリング状の伝送路を経由してきたパルス列にパルス間隔に等しい遅延時間を付与したパルス列から光子を検出する構成されている。中継ノードは、リング状の伝送路を経由してきた各パルスに0またはπの位相を印加するように構成されている。
【0012】
本発明のさらに他の実施形態は、共通鍵暗号のための秘密鍵を供給する量子鍵配送システムであって、送信ノードと、受信ノードと、送信ノードと受信ノードとを結ぶ伝送路上に配置された複数の中継ノードとを備える。送信ノードは、各パルスの位相が0またはπ/2またはπまたは3π/2である超微弱コヒーレントパルス列を伝送路に送出するように構成されている。中継ノードは、伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2またはπまたは3π/2の位相を印加するように構成されている。受信ノードは、送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加した後のパルス列および伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加した後の各パルスにパルス間隔に等しい遅延時間を付与したパルス列から光子を検出するように構成されている。
【0013】
本発明の他の実施形態は、共通鍵暗号のための秘密鍵を供給する量子鍵配送システムであって、リング状の伝送路上に配置された1つの送受信ノードおよび複数の中継ノードを備える。送受信ノードは、各パルスの位相が0またはπ/2またはπまたは3π/2である超微弱コヒーレントパルス列をリング状の伝送路の一方向に送出し、リング状の伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加した後のパルス列およびリング状の伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加した後の各パルスにパルス間隔に等しい遅延時間を付与したパルス列から光子を検出するように構成されている。中継ノードは、リング状の伝送路を経由してきた各パルスに0またはπ/2またはπまたは3π/2の位相を印加するように構成されている。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の一実施形態によれば、時間軸の利用効率が高く、また光子数分岐攻撃に耐性のある量子鍵配送システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図2は通常のQKD方式に基づく3者間QKDネットワーク基本構成を示す図である。
【
図3】
図3は複数のノードを直列接続したネットワークを示す図である。
【
図4】
図4は
図3のネットワーク構成における各ノードの基本構成を示す図であり、
図4(a)は送信ノードであるノード1の基本構成を示す図であり、
図4(b)は中継ノードであるノードkの基本構成を示す図であり、
図4(c)は受信ノードの基本構成を示す図である。
【
図5】トロイの木馬攻撃のための構成を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態の量子鍵配送システムにおける各ノードの基本構成を示す図であり、
図6(a)は送信ノードであるノード1の基本構成を示す図であり、
図6(b)は中継ノードであるノードkの基本構成を示す図であり、
図6(c)は受信ノードの基本構成を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態の量子鍵配送システムのネットワーク構成を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態の量子鍵配送システムおける送受信ノードの構成を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態の量子鍵配送システムにおける各ノードの基本構成を示す図であり、
図9(a)は送信ノードであるノード1の基本構成を示す図であり、
図9(b)は中継ノードであるノードkの基本構成を示す図であり、
図9(c)は受信ノードの基本構成を示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態の量子鍵配送システムおける送受信ノードの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の説明において、同一または類似の符号は、同一または類似の要素を示し、繰り返しの説明を省略することがある。
【0017】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明の実施形態にかかる量子鍵配送システムに関連する技術として、非特許文献1で提案されているシステムについて述べる。
【0018】
図3に、非特許文献1にて提示されているシステムのネットワーク構成を示す。ノード1からQKD信号14が送出され、中継ノードを順次経由して受信ノードに到達する構成となっている。
【0019】
図4は、
図3のネットワーク構成における各ノードの基本構成を示す。
図4(a)に示すように、ノード1は、単一光子源41と、単一光子源41からパルスを2分岐して一方を反射し他方を透過するハーフミラー42と、2分岐されたパルスの一方を反射するミラー44および45と、2分岐されたパルスの一方を反射し他方を透過するハーフミラー43と、ハーフミラー43を介して入力されるパルスを位相変調する位相変調器46とを備える。ノード1は、単一光子を連続する2パルスの重ね合わせ状態とし、後発パルスに対して{0,π/2,π,3π/2}のいずれかの位相を印加して送出するように構成されている。連続する2パルスの時間間隔は、ハーフミラー42と43との間の2つの光路長の差をパルスが伝搬する時間に等しい。
【0020】
また、
図4(b)に示すように、中継ノードであるノードk(但し、k≠1)は、入力されるパルスを位相変調する位相変調器47を備える。ノードk(但し、k≠1)の位相変調器47は、伝送されてきた2連続パルスのうちの後発パルスに対して{0,π/2,π,3π/2}のいずれかの位相を印加して、次の伝送路へ送出するように構成されている。
【0021】
さらに、
図4(c)に示すように、受信ノードは、入力されたパルスを位相変調する位相変調器48と、位相変調器48からのパルスを2分岐して一方を反射し他方を透過するハーフミラー49と、2分岐されたパルスの一方を反射するミラー51および52と、2分岐されたパルスの一方および他方を2分岐して一方を反射し他方を透過するハーフミラー50と、ハーフミラー50を介して入力されるパルスから光子を検出する光子検出器53および54とを備える。ハーフミラー49および50とミラー51および52とは、遅延マッハツェンダ(MZ)干渉計を構成する。ハーフミラー49と50との間の2つの光路長の差は、
図4(a)の送信ノードのハーフミラー42と43との間の2つの光路長の差と等しい。受信ノードでは、伝送されてきた連続する2パルスのうちの後発パルスに{0,π/2}のいずれかの位相を印加した後、遅延MZ干渉計を通して光子を検出する。
【0022】
受信ノードのMZ干渉計の出力段では、3つの時間位置で光子が検出され得るが、秘密鍵生成には、真ん中の時間位置(真ん中時刻ともいう)での光子検出事象を利用する。真ん中時刻での検出事象は、MZ干渉計の入力段での連続する2パルスの位相差に依存する。位相差が2mπ(但し、mは整数。以下、同様)であれば光子検出器53で、位相差が(2m+1)πであれば光子検出器54で、光子が検出される。それ以外の位相差の場合は、位相差で決まる確率に従って2つの光子検出器53または54のいずれかでランダムに光子が検出される。
【0023】
上記光子送受信を所定の回数行った後、受信ノードは真ん中時刻で光子検出したか否かを公開する。そして、真ん中時刻での光子検出事象につき、秘密鍵共有作業を進める。
【0024】
まず、秘密鍵を共有したい2つのノードはその旨を申告する。次に、それ以外のノードは印加した位相値を公開する。受信ノードが鍵共有ノードでない場合は、光子検出した光子検出器も公開する。但し、受信ノードが鍵共有ノードである場合は公開しない。一方、鍵共有ノードは、印加位相が{0,π}であるか{π/2,3π/2}であるかを公開する。但し、鍵共有ノードは、どちらのグループかのみを公開し、印加した位相値自体は公開しない。
【0025】
上記公開情報及び自身の印加位相を基に、鍵共有ノードは秘密鍵ビットを生成する。ここで、鍵共有ノードが受信ノードを含むか否かで鍵ビット生成手順が異なる。まず、秘密鍵共有ノードが受信ノードを含まない場合、すなわちノードiとノードjが秘密鍵を共有する場合(i<jとする)について説明する。なお以下では、ノードkでの印加位相をθk、受信ノードでの印加位相をθR、と表記する。また、鍵共有ノード以外での印加位相の和、すなわち
【0026】
【0027】
をΘと表記する。今の場合、このΘは公開情報となっている。
【0028】
まずノードiは、θi=0またはπ/2であればビット0、θi=πまたは3π/2であればビット1、を生成する。
【0029】
一方、ノードjは、上記公開情報の組み合わせ及びθjから鍵ビットを生成する。以下、公開情報を場合分けして、生成するビット値を説明する。
【0030】
(1)θi={0,π}かつθj={0,π}の場合
光子検出器53で確定的に光子検出されるのは、Θ=2mπかつ{θi=0,θj=0}、またはΘ=2mπかつ{θi=π,θj=π}、またはΘ=(2m+1)πかつ{θi=0,θj=π}、またはΘ=(2m+1)πかつ{θi=π,θj=0}、の場合である。
【0031】
一方、光子検出器54で確定的に光子検出されるのは、Θ=2mπかつ{θi=0,θj=π}、またはΘ=2mπかつ{θi=π,θj=π}、またはΘ=(2m+1)πかつ{θi=0,θj=π}、またはΘ=(2m+1)πかつ{θi=π,θj=π}、の場合である。
【0032】
そこでノードjは、次の場合にビット0を生成する:{光子検出器53で光子検出、かつΘ=2mπ、かつθj=0}または{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+1)π、かつθj=π}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=2mπ、かつθj=π}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+1)π、かつθj=π}。
【0033】
さらに、次の場合にビット1を生成する:{光子検出器53で光子検出、かつΘ=2mπ、かつθj=π}または{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+1)π、かつθj=π}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=2mπ、かつθj=π}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+1)π、かつθj=π}。
【0034】
(2)θi={0,π}かつθj={π/2,3π/2}の場合
光子検出器53で確定的に光子検出されるのは、Θ=(2m+0.5)πかつ{θi=0,θj=3π/2}、またはΘ=(2m+0.5)πかつ{θi=π,θj=π/2}、またはΘ=(2m+1.5)πかつ{θi=0,θj=π/2}、またはΘ=(2m+1.5)πかつ{θi=π,θj=3π/2}、の場合である。
【0035】
一方、光子検出器54で確定的に光子検出されるのは、Θ=(2m+0.5)πかつ{θi=0,θj=π/2}、またはΘ=(2m+0.5)πかつ{θi=π,θj=3π/2}、またはΘ=(2m+1.5)πかつ{θi=0,θj=3π/2}、またはΘ=(2m+1.5)πかつ{θi=π,θj=π/2}、の場合である。
【0036】
そこでノードjは、次の場合にビット0を生成する:{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+0.5)π、かつθj=3π/2}または{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+1.5)π、かつθj=π/2}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+0.5)π、かつθj=π/2}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+1.5)π、かつθj=3π/2}。
【0037】
さらに、次の場合にビット1を生成する:{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+0.5)π、かつθj=π/2}または{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+1.5)π、かつθj=3π/2}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+0.5)π、かつθj=3π/2}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+1.5)π、かつθj=π/2}。
【0038】
(3)θi={π/2,3π/2}かつθj={0,π}の場合
光子検出器53で確定的に光子検出されるのは、Θ=(2m+0.5)πかつ{θi=π/2,θj=π}、またはΘ=(2m+0.5)πかつ{θi=3π/2,θj=0}、またはΘ=(2m+1.5)πかつ{θi=π/2,θj=π}、またはΘ=(2m+1.5)πかつ{θi=3π/2,θj=π}、の場合である。
【0039】
一方、光子検出器54で確定的に光子検出されるのは、Θ=(2m+0.5)πかつ{θi=π/2,θj=0}、またはΘ=(2m+0.5)πかつ{θi=3π/2,θj=π}、またはΘ=(2m+1.5)πかつ{θi=π/2,θj=π}、またはΘ=(2m+1.5)πかつ{θi=3π/2,θj=π}、の場合である。
【0040】
そこでノードjは、次の場合にビット0を生成する:{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+0.5)π、かつθj=π}または{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+1.5)π、かつθj=π}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+0.5)π、かつθj=π}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+1.5)π、かつθj=π}。
【0041】
さらに、次の場合にビット1を生成する:{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+0.5)π、かつθj=π}または{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+1.5)π、かつθj=π}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+0.5)π、かつθj=π}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+1.5)π、かつθj=π}。
【0042】
(4)θi={π/2,3π/2}かつθj={π/2,3π/2}の場合
光子検出器53で確定的に光子検出されるのは、Θ=2mπかつ{θi=π/2,θj=3π/2}、またはΘ=2m πかつ{θi=3π/2,θj=π/2}、またはΘ=(2m+1)πかつ{θi=π/2,θj=π/2}、またはΘ=(2m+1)πかつ{θi=3π/2,θj=3π/2}、の場合である。
【0043】
一方、光子検出器54で確定的に光子検出されるのは、Θ=2mπかつ{θi=π/2,θj=π/2}、またはΘ=2mπかつ{θi=3π/2,θj=3π/2}、またはΘ=(2m+1)πかつ{θi=π/2,θj=3π/2}、またはΘ=(2m+1)πかつ{θi=3π/2,θj=π/2}、の場合である。
【0044】
そこでノードjは、次の場合にビット0を生成する:{光子検出器53で光子検出、かつΘ=2mπ、かつθj=3π/2}または{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+1)π、かつθj=π/2}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=2mπ、かつθj=π/2}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+1)π、かつθj=3π/2}。
【0045】
さらに、次の場合にビット1を生成する:{光子検出器53で光子検出、かつΘ=2mπ、かつθj=3π/2}または{光子検出器53で光子検出、かつΘ=(2m+1)π、かつθj=π/2}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=2mπ、かつθj=3π/2}または{光子検出器54で光子検出、かつΘ=(2m+1)π、かつθj=π/2}。
【0046】
以上の手順により、ノードjはノードiと同一のビット値を生成することになる。これを秘密鍵ビットとする。但し、上記パターンに当てはまらず、ノードjがビットを生成しない光子検出事象が存在する。その場合は、ノードiは生成したビットを破棄する。
【0047】
なお、上記では、動作原理説明のため、単一光子を送受信するものとしたが、単一光子源41を実装するのは困難なため、実際のシステムでは超微弱コヒーレント光を疑似単一光子として用いる。この場合、有限の確率でひとつの信号に複数の光子が含まれることがあり、この余剰光子を利用する光子数分岐攻撃により、鍵ビット生成効率や伝送可能距離が著しく低下することが知られている。これを防ぐため、システム実装に際しては、送信信号の光強度をランダムに切り替えるデコイ法と呼ばれる手段を備えることになる。
【0048】
また、中継ノードkは位相変調器47を備えるのみとしたが、実際のシステムでは、
図5に示すような構成により盗聴者が外部から別波長のプローブ光を入力して印加位相を読み取るトロイの木馬攻撃を防ぐため、光フィルタまたはノードへの入力光強度をモニターするための構成要素を追加的に備えることになる。
【0049】
図3および
図4を参照した説明したシステムは、2パルス1組でひとつのビット情報を伝送するシステムであり、上述したように、時間軸の利用効率が低い。また、光子数分岐攻撃対策としデコイ法を用いる必要があり、装置構成及び鍵ビット生成工程が煩雑となる。
【0050】
以下に、時間軸の利用効率が高く、また光子数分岐攻撃に耐性のある、本発明の種々の実施形態にかかる量子鍵配送システムを説明する。
【0051】
(第1の実施形態)
図6を参照して、本発明の第1の実施形態にかかる量子鍵配送システムを説明する。
図6は、本実施形態のネットワーク構成における各ノードの基本構成を示す図であり、
図6(a)は送信ノードであるノード1の基本構成を示す図であり、
図6(b)は中継ノードであるノードkの基本構成を示す図であり、
図6(c)は受信ノードの基本構成を示す図である。
【0052】
本実施形態の量子鍵配送システムは、
図3を参照して説明したのと同様に、複数のノードk(kは2以上の整数)と受信ノードとを直列接続した構成である。すなわち、本実施形態の量子鍵配送システムは、送信ノードであるノード1(k=1)と、受信ノードと、ノード1と受信ノードとを結ぶ伝送路上に配置された複数の中継ノードk(k≠1)とを備える。本実施形態の量子鍵配送システムにおいて、
図6(a)に示すノード1(送信ノード)からQKD信号14が伝送路へ送出され、
図6(b)に示す中継ノードkを順次経由して、
図6(c)に示す受信ノードに到達する。
【0053】
図6(a)に示すように、送信ノードであるノード1は、コヒーレントパルス列を出力するコヒーレント光源と61と、コヒーレントパルス列に、0またはπの位相を付与する位相変調器62と、位相を付与されたコヒーレントパルス列に減衰を付与する減衰器63とを備える。位相を付与された後に減衰を付与されたコヒーレントパルス列は、伝送路へ送出される。
【0054】
図6(b)に示すように、中継ノードであるノードk(k≠1)は、伝送路を伝送された位相を付与され減衰を付与されたコヒーレントパルス列に0またはπの位相をランダムに付与する位相変調器64を備える。
【0055】
図6(c)に示すように、受信ノードは、伝送路を経由してきたパルス列(すなわち、中継ノードにより0またはπの位相をランダムに付与されたパルス列)を2分岐する(パルス列の一部を透過し残りの一部を反射する)ハーフミラー70と、分岐された一方のパルス列を反射するミラー66および67と、ミラー67により反射された分岐された一方のパルス列および分岐された他方のパルス列の一部を反射し残りの一部を透過するハーフミラー65と、2つの光子検出器68および69とを備える。ミラー66および67は、分岐された一方のパルス列にパルス間隔に等しい遅延時間を付与するように配置されている。ハーフミラー70および65、ならびにミラー66および67は、遅延マッハツェンダ干渉計を構成する。遅延マッハツェンダ干渉計から、ミラー67からの遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列とハーフミラー70からの分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列が2つの経路に出力される。2つの光子検出器68および69は2つの経路に対応しており、遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列と分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列から光子を検出する。
【0056】
図6(a)に示す構成によりノード1(送信ノード)は、各パルスの位相が0またはπである連続コヒーレントパルス列を超微弱パワー(例えば、0.1光子/パルス)で送出する。また、
図6(b)に示す構成によりノードk(k≠1)(中継ノード)は、伝送されてきたコヒーレントパルス列の各パルスに0またはπの位相をランダムに印加して、次の伝送路へ送出する。これにより、隣接パルス間に0またはπの位相差が付加される。さらに、
図6(c)に示す構成により受信ノードは、伝送されてきたコヒーレントパルス列を、遅延時間がパルス間隔に等しい遅延MZ干渉計を通し、その2つの出力端子にて、それぞれ光子検出する。
【0057】
受信ノードの遅延MZ干渉計では、隣接パルス同士が互いに干渉し、パルス間位相差が2mπの時は光子検出器68にて、(2m+1)πの時は光子検出器69にて、光子が検出される。但し、送信光パワーは微弱かつ伝送路損失があるため、光子が検出されるのは稀かつ検出時刻はランダムである。
【0058】
上記構成により、本実施形態の量子鍵配送システムの任意の2つのノードは、以下の手順により秘密鍵を共有する。秘密鍵を共有する2つのノードは予め決めておくものとする。
【0059】
ノード1(送信ノード)が鍵共有ノードである場合、ノード1は{0,π}で位相変調された微弱コヒーレントパルス列を送出する。ノード1が鍵共有ノードでない場合は、ノード1は、無変調のまま次の伝送路へ送出する。中継ノードk(k≠1)は、鍵共有ノードである場合のみ、各パルスに対して0またはπの位相を印加する。鍵共有ノードでない場合、ノードk(k≠1)は、各パルスに対して位相を付加せず、無変調のまま次の伝送路へ送出する。
【0060】
上記のように位相変調されたパルス列を送受信した後、受信ノードは光子検出した時刻を公開する。さらに、受信ノードが鍵共有ノードでない場合は、光子検出した光子検出器(68または69)を公開する。
【0061】
鍵共有ノードが受信ノード以外である場合、すなわち鍵共有ノードが複数のノードkの内のノードiとノードjである場合(但し、i<jとする)、当該ノードは以下の手順により鍵ビットを生成する。なお以下では、隣接パルス間にノードkが付与した位相差をΔθkと表記する。
【0062】
まず、ノードiは、Δθi=0であればビット0を、Δθi=πであればビット1を、生成する。一方、ノードjは、{光子検出器68で光子検出、かつΔθj=0}または{光子検出器69で光子検出、かつΔθj=π}であればビット0を生成し、{光子検出器68で光子検出、かつΔθj=π}または{光子検出器69で光子検出、かつΔθj=π}であればビット1を生成する。本実施形態の量子鍵配送システムにおいては、Δθi+Δθj=2mπであれば確定的に光子検出器68で光子検出し、Δθi+Δθj=(2m+1)πであれば確定的に光子検出器69で光子検出するため、上記手順により、ノードjはノードiと同一のビット値を生成することになる。これを秘密鍵ビットとする。
【0063】
鍵共有ノードが複数のノードkのうちのノードiと受信ノードである場合は、以下の手順により鍵ビットを生成する。
【0064】
まず、ノードiは、Δθi=0であればビット0を、Δθi=πであればビット1を、生成する。一方、受信ノードは、光子検出器68で光子検出していればビット0を、光子検出器69で光子検出していればビット1を、生成する。これにより、両者は同一のビット値を生成することになる。これを秘密鍵ビットとする。
【0065】
生成した秘密鍵の安全性は、伝送されるQKD信号14が超微弱コヒーレントパルス列(例えば、0.1光子/パルス)であることに拠る。例えば、盗聴者がQKD信号14の一部を分岐して情報を得ようとしても、同じ隣接パルスから盗聴者と受信ノードがともに光子検出する確率は1より低いため、一部の情報しか盗聴できない。部分盗聴分は秘匿性増強というデータ処理により除去される。あるいは、盗聴者が伝送信号を全て測定し、測定結果に基づいて偽装信号を再送する盗聴(なりすまし盗聴)を試みても、光子数不足のため全ての位相差を測定することはできず、完全な偽装信号を再送するができない。不完全なパルス列からビットを生成すると、ビット誤りが発生し、これより盗聴が発覚する。この事情は、以下の実施例においても同様である。
【0066】
本実施形態の量子鍵配送システムでは、連続パルス列を送受信し、光子検出事象は全て鍵ビット生成に利用される。そのため、従来技術に比べて時間軸の利用効率が高く、単位時間あたりの鍵ビット生成率を高くすることができる。また、連続パルス列に複数の鍵ビット情報が受け込まれた(連続パルス列が複数の鍵ビット情報を搬送する)システムとなっており、ひとつのQKD信号14が複数の光子を有することを利用する光子数分岐攻撃が適用できないため、デコイ法などの対策を備える必要がない。
【0067】
なお、トロイに木馬攻撃を防ぐため、必要に応じて、中継ノードに光フィルタまたは入力光パワーモニター手段を備えることは、従来技術と同様である。また、以下の実施例でも同様とする。
【0068】
(第2の実施形態)
図7および
図8を参照して、本発明の第2の実施形態にかかる量子鍵配送システムを説明する。
図7は、量子鍵配送システムのノードが配置されるネットワーク構成を示す図である。本実施形態の量子鍵配送システムは、リング状の伝送路上に配置された1つの送受信ノードおよび複数の中継ノードを備える。本実施形態の量子鍵配送システムの中継ノードであるノードk(k≠1)は、
図6(b)を参照して説明したのと同様である。
【0069】
図8は、本実施形態の量子鍵配送システムおける送受信ノードであるノード1の構成を示す図である。送受信ノードであるノード1は、コヒーレントパルス列を出力するコヒーレント光源61と、コヒーレントパルス列に、0またはπの位相を付与する位相変調器62と、位相を付与されたコヒーレントパルス列に減衰を付与する減衰器63とを備える。位相を付与された後に減衰を付与されたコヒーレントパルス列は、リング状の伝送路へ送出される。また、送受信ノードであるノード1は、リング状の伝送路を経由してきたパルス列(すなわち、中継ノードにより0またはπの位相をランダムに付与されたパルス列)を2分岐する(パルス列の一部を透過し残りの一部を反射する)ハーフミラー70と、分岐された一方のパルス列を反射するミラー66および67と、ミラー67により反射された分岐された一方のパルス列および分岐された他方のパルス列の一部を反射し残りの一部を透過するハーフミラー65と、2つの光子検出器68および69とを備える。ミラー66および67は、分岐された一方のパルス列にパルス間隔に等しい遅延時間を付与するように配置されている。ハーフミラー70および65、ならびにミラー66および67は、遅延マッハツェンダ干渉計を構成する。遅延マッハツェンダ干渉計から、ミラー67からの遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列とハーフミラー70からの分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列が2つの経路に出力される。2つの光子検出器68および69は2つの経路に対応しており、遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列と分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列から光子を検出する。
【0070】
本実施形態の量子鍵配送システムおける送受信ノードであるノード1は、
図6(a)を参照して説明したノード1(送信ノード)と
図6(c)を参照して説明した受信ノードを兼ねたものとなっている。すなわち、リング状の伝送路の右廻り方向(時計回り方向)に、各パルスの位相が0またはπである連続コヒーレントパルス列を超微弱パワー(例えば、0.1光子/パルス)で送出し、リング状の伝送路を一周してきたパルス列を遅延MZ干渉計に入力して、遅延MZ干渉計から出力される光子を2つの光子検出器68および69で検出する。
【0071】
本実施形態の量子鍵配送システムにおける秘密鍵生成手順は、
図6を参照して説明した量子鍵配送システムにおける秘密鍵生成手順と同様である。本実施形態の量子鍵配送システムにおいて、中継ノード(ノード1以外のノードk)間で秘密鍵を共有する場合の各ノードの動作及び公開情報は
図6を参照して説明した量子鍵配送システムにおける各ノードの動作及び公開情報と同様とすることができる。本実施形態の量子鍵配送システムにおいて、ノード1とその他のノード間で秘密鍵を共有する場合は、
図6を参照して説明した量子鍵配送システムにおいて受信ノードが鍵共有ノードである場合と同様とすることができる。すなわち、ノード1は、無変調コヒーレントパルス列をリング状の伝送路に送信し、信号光送受信後の公開情報は光子検出時刻のみで、光子検出した光子検出器を公開しない。
【0072】
以上の構成及び手順により、上記実施形態と同様にして、本実施形態にかかる量子鍵配送システムの任意の2つのノード間で秘密鍵を共有することができる。
【0073】
(第3の実施形態)
図9を参照して、本発明の第3の実施形態にかかる量子鍵配送システムを説明する。
図9は、本実施形態のネットワーク構成における各ノードの基本構成を示す図であり、
図9(a)は送信ノードであるノード1の基本構成を示す図であり、
図9(b)は中継ノードであるノードkの基本構成を示す図であり、
図9(c)は受信ノードの基本構成を示す図である。
【0074】
本実施形態の量子鍵配送システムは、
図3を参照して説明したのと同様に、複数のノードk(kは2以上の整数)と受信ノードとを直列接続した構成である。すなわち、本実施形態の量子鍵配送システムは、送信ノードであるノード1(k=1)と、受信ノードと、ノード1と受信ノードとを結ぶ伝送路上に配置された複数の中継ノードk(k≠1)とを備える。本実施形態の量子鍵配送システムにおいて、
図9(a)に示すノード1(送信ノード)からQKD信号14が伝送路へ送出され、
図9(b)に示す中継ノードkを順次経由して、
図9(c)に示す受信ノードに到達する。
【0075】
図9(a)に示すように、送信ノードであるノード1は、コヒーレントパルス列を出力するコヒーレント光源91と、コヒーレントパルス列に、0またはπ/2またはπまたは3π/2の位相を付与する位相変調器92と、位相を付与されたコヒーレントパルス列に減衰を付与する減衰器93とを備える。位相を付与された後に減衰を付与されたコヒーレントパルス列は、伝送路へ送出される。
【0076】
図9(b)に示すように、中継ノードであるノードk(k≠1)は、伝送路を伝送された位相を付与され減衰を付与されたコヒーレントパルス列に0,π/2,π,3π/2のいずれかの位相をランダムに付与する位相変調器94を備える。
【0077】
図9(c)に示すように、受信ノードは、伝送路を経由してきたパルス列(すなわち、中継ノードにより,π/2,π,3π/2のいずれかの位相をランダムに付与されたパルス列)に伝送路を経由してきた隣接するパルスに0またはπ/2の位相を印加する位相変調器95と、0またはπ/2の位相を印加された各パルスを2分岐する(パルス列の一部を透過し残りの一部を反射する)ハーフミラー96と、分岐された一方のパルス列を反射するミラー98および99と、ミラー99により反射された分岐された一方のパルス列および分岐された他方のパルス列の一部を反射し残りの一部を透過するハーフミラー97と、2つの光子検出器100および101とを備える。ミラー98および99は、分岐された一方のパルス列にパルス間隔に等しい遅延時間を付与するように配置されている。ハーフミラー96および97、ならびにミラー98および99は、遅延マッハツェンダ干渉計を構成する。遅延マッハツェンダ干渉計から、ミラー99からの遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列とハーフミラー96からの分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列が2つの経路に出力される。2つの光子検出器100および101は2つの経路に対応しており、遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列と分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列から光子を検出する。
【0078】
本実施形態の量子鍵配送システムの構成において、ノード1は、各パルスの位相が{0,π/2,π,3π/2}のいずれかである連続コヒーレントパルス列を超微弱パワー(例えば、0.1光子/パルス)で送出する。中継ノードは、伝送されてきたコヒーレントパルス列の各パルスに{0,π/2,π,3π/2}のいずれかの位相を印加する。これにより、隣接パルス間に{0,π/2,π,3π/2}のいずれかの位相差が付与されて、伝送路に送出される。受信ノードは、伝送されてきた各パルスに0またはπ/2の位相を印加した後、遅延MZ干渉計を通して2つの光子検出器で光子検出する。
【0079】
上記構成により、本実施形態の量子鍵配送システムの任意の2つのノードは以下の手順により秘密鍵を共有する。秘密鍵を共有する2つのノードを予め決めておくものとする。
【0080】
鍵共有ノードは、各パルスに上記位相をランダムに印加する。鍵共有ノード以外のノードは、各パルスに上記位相をランダムに印加せずに、各パルスを無変調のままとする。
【0081】
このように位相変調された微弱コヒーレントパルス列を送受信後、受信ノードは光子検出した時刻を公開する。さらに、受信ノードが鍵共有ノードでない場合は、光子検出した光子検出器(100または101)も公開する。一方、鍵共有ノードは、光子検出されたパルス対につき、印加した位相差が{0,π}であるか{π/2,3π/2}であるかを公開する。但し、どちらのグループかのみで位相差自体は公開しない。受信ノードが鍵共有ノードである場合は、πであるかπ/2であるかを公開する。
【0082】
鍵共有ノードが受信ノード以外のノードである場合、すなわち鍵共有ノードがノードiとノードj(但し、i<jとする)である場合、鍵共有ノードは以下の手順で鍵ビットを生成する。まず、ノードiは、Δθi=0またはπ/2であればビット0を、Δθi=πまたは3π/2であればビット1を、生成する。一方、ノードjが生成するビット値は、公開情報のパターンに依存する。以下、場合分けして説明する。
【0083】
(1)Δθi={π,π}かつΔθj={0,π}の場合
光子検出器100で確定的に光子検出されるのは、{Δθi=0,Δθj=0}または{Δθi=π,Δθj=π}の場合である。一方、光子検出器101で確定的に光子検出されるのは、{Δθi=0,Δθj=π}または{Δθi=π,Δθj=π}の場合である。
【0084】
そこでノードjは、{光子検出器100で光子検出、かつΔθj=0}または{光子検出器101で光子検出、かつΔθj=π}の場合にビット0を、{光子検出器100で光子検出、かつΔθj=π}または{光子検出器101で光子検出、かつΔθj=π}の場合にビット1を、生成する。
【0085】
(2)Δθi={π/2,3π/2}かつΔθj={π/2,3π/2}の場合
光子検出器100で確定的に光子検出されるのは、{Δθi=π/2,Δθj=3π/2}または{Δθi=3π/2,Δθj=π/2}の場合である。一方、光子検出器101で確定的に光子検出されるのは、{Δθi=π/2,Δθj=π/2}または{Δθi=3π/2,Δθj=3π/2}の場合である。
【0086】
そこでノードjは、{光子検出器100で光子検出、かつΔθj=3π/2}または{光子検出器101で光子検出、かつΔθj=π/2}の場合にビット0を、{光子検出器100で光子検出、かつΔθj=π/2}または{光子検出器101で光子検出、かつΔθj=3π/2}の場合にビット1を、生成する。
【0087】
上記のようにしてノードjが生成したビット値はノードiが生成したビット値と一致する。そこで、これを秘密鍵ビットとする。但し、上記パターンにあてはまらず、ノードjがビットを生成しない光子検出事象が存在する。これについては、ノードiは当該ビットを廃棄する。
【0088】
秘密鍵を共有するのがノードiと受信ノードである場合は、以下の手順により鍵ビットを生成する。
【0089】
まず、ノードiは、Δθi=0またはπ/2であればビット0を、Δθi=πまたは3π/2であればビット1を、生成する。一方、受信ノードが生成ビット値は公開情報に依存する。以下、場合分けして説明する。
【0090】
(1)Δθi={π,π}の場合
受信ノードが付与した位相差がΔθR=0の時、Δθi=0であれば光子検出器100で、Δθi=πであれば光子検出器101で、確定的に光子検出される。そこで受信ノードは、{ΔθR=0、かつ検出器1で光子検出}の場合にビット0を、{ΔθR=0、かつ光子検出器101で光子検出}の場合にビット1を、生成する。
【0091】
(2)Δθi={π/2,3π/2}の場合
受信ノードが付与した位相差がΔθR=π/2の時、Δθi=3π/2であれば光子検出器100で、Δθi=π/2であれば光子検出器101で、確定的に光子検出される。そこで受信ノードは、{ΔθR=π/2、かつ光子検出器101で光子検出}の場合にビット0を、{ΔθR=π/2、かつ光子検出器100で光子検出}の場合にビット1を、生成する。
【0092】
上記のようにして受信ノードが生成したビット値はノードiが生成したビット値と一致する。そこで、これを秘密鍵ビットとする。但し、上記パターンにあてはまらず、受信ノードがビットを生成しない光子検出事象が存在する。これについては、ノードiは当該ビットを廃棄する。
【0093】
(第4の実施形態)
図10を参照して、本発明の第4の実施形態にかかる量子鍵配送システムを説明する。本実施形態の量子鍵配送システムは、
図7に示すノード配置に、第3の実施形態を参照して説明したノード構成及び動作を適用したシステムである。すなわち、複数のノードがリング状の伝送路を介して接続されており、ノード1は、
図10に示すように、第3の実施形態にかかる量子鍵配送システムにおけるノード1(
図9(a))と受信ノード(
図9(c))を兼ねた構成であり、その他のノードk(≠1)は第3の実施形態の量子鍵配送システムにおけるノードk(≠1)の構成(
図9(b))となっている。
【0094】
図10を参照すると、本実施形態のネットワーク構成におけるノード1は、
コヒーレントパルス列を出力するコヒーレント光源91と、コヒーレントパルス列に、0またはπ/2またはπまたは3π/2の位相を付与する位相変調器92と、位相を付与されたコヒーレントパルス列に減衰を付与する減衰器93とを備える。位相を付与された後に減衰を付与されたコヒーレントパルス列は、伝送路へ送出される。また、ノード1は、伝送路を経由してきたパルス列(すなわち、中継ノードにより,π/2,π,3π/2のいずれかの位相をランダムに付与されたパルス列)に伝送路を経由してきた隣接するパルスに0またはπ/2の位相を印加する位相変調器95と、0またはπ/2の位相を印加された各パルスを2分岐する(パルス列の一部を透過し残りの一部を反射する)ハーフミラー96と、分岐された一方のパルス列を反射するミラー98および99と、ミラー99により反射された分岐された一方のパルス列および分岐された他方のパルス列の一部を反射し残りの一部を透過するハーフミラー97と、2つの光子検出器100および101とを備える。ミラー98および99は、分岐された一方のパルス列にパルス間隔に等しい遅延時間を付与するように配置されている。ハーフミラー96および97、ならびにミラー98および99は、遅延マッハツェンダ干渉計を構成する。遅延マッハツェンダ干渉計から、ミラー99からの遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列とハーフミラー96からの分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列が2つの経路に出力される。2つの光子検出器100および101は2つの経路に対応しており、遅延時間が付与された分岐された一方のパルス列と分岐された他方のパルス列とが干渉したパルス列から光子を検出する。
【0095】
本実施形態にかかる量子鍵配送システムにおける秘密鍵生成手順は、第3の実施形態にかかる量子鍵配送システムにおける秘密鍵生成手順と同様である。中継ノード(ノードk(k≠1))のうちの2つのノードiとノードj(但し、i<jとする)が秘密鍵を共有する場合は、各ノードの動作及び公開情報は第3の実施形態における各ノードの動作及び公開情報と同様とする。ノード1とその他のノードとが秘密鍵を共有する場合は、第3の実施形態において受信ノードが鍵共有ノードである場合と同様とする。すなわち、ノード1は、各パルスに上記位相をランダムに印加せずに、無変調コヒーレントパルス列を伝送路に送信し、信号光送受信後の公開情報は光子検出時刻のみとし、検出器情報は公開しない。これにより、第3の実施形態にかかる量子鍵配送システムと同様にして、任意の2ノード間で秘密鍵を共有する。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、ひとつの伝送路上に3つ以上のノードが配置され、3つ以上のノードのうちの任意の2つのノードに共通鍵暗号のための秘密鍵を供給するネットワークにおいて、時間軸の利用効率が高く、単位時間当たりの鍵ビット生成率が高い量子鍵配送装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0097】
10 QKD送信機
11 QKD受信機
12 伝送路
14 QKD信号
41 単一光子源
42、43、49、50、65、70、96、97 ハーフミラー
44、45、51、52、66、67、98、99 ミラー
46、47、48、62、64、92、94、95 位相変調器
53、54、68、69、100、101 光子検出器
61、91 コヒーレント光源
63、93 減衰器