(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022104723
(43)【公開日】2022-07-11
(54)【発明の名称】搬送装置、それを備えた検体分析システム、および検体前処理装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/02 20060101AFI20220704BHJP
G01N 35/04 20060101ALI20220704BHJP
B65G 54/02 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
G01N35/02 G
G01N35/04 H
B65G54/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219858
(22)【出願日】2020-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青山 康明
【テーマコード(参考)】
2G058
3F021
【Fターム(参考)】
2G058CB08
2G058CB11
2G058CB16
2G058CD11
2G058CD23
3F021AA01
3F021BA02
3F021CA02
3F021CA05
3F021DA04
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、容器キャリアなどの被搬送体の搬送時および停止時の制御性が高く、高精度な速度制御および停止制御を行うことができる搬送装置を提供することにある。
【解決手段】
本発明の搬送装置1は、少なくとも1つ以上の永久磁石10を有する被搬送体と、磁性体からなるティースおよびティースに巻かれた巻線30A,30Bを有する磁気回路部と、を備え、巻線30A,30Bは、少なくとも第一巻線30Aと第二巻線30Bとを含む2つ以上の巻線を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ以上の永久磁石を有する被搬送体と、磁性体からなるティースおよび前記ティースに巻かれた巻線を有する磁気回路部と、を備えた搬送装置であって、
前記巻線は、少なくとも第一巻線と第二巻線とを含む2つ以上の巻線を有することを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送装置において、
前記第一巻線の時定数と前記第二巻線の時定数とは異なる値に設定されることを特徴とする搬送装置。
【請求項3】
請求項2に記載の搬送装置において、
前記被搬送体が移動する搬送面と、前記ティースを介して前記搬送面とは反対側に設けられたヨークと、を備え、
前記第一巻線は複数の巻線からなる第一巻線群を構成し、
前記第二巻線は複数の巻線からなる第二巻線群を構成し、
前記第一巻線群は前記第二巻線群に対して前記搬送面の側に配置され、
前記第二巻線群は前記第一巻線群に対して前記ヨークの側に配置され、
前記第一巻線群の前記第一巻線と前記第二巻線群の前記第二巻線とは、少なくとも抵抗値またはインダクタンスのいずれかが異なることを特徴とする搬送装置。
【請求項4】
請求項3に記載の搬送装置において、
前記第一巻線の時定数は前記第二巻線の時定数よりも小さい値に設定されることを特徴とする搬送装置。
【請求項5】
請求項4に記載の搬送装置において、
少なくとも被搬送体の位置または速度のいずれか一方を検出する検出部を有することを特徴とする搬送装置。
【請求項6】
請求項5に記載の搬送装置において、
前記第一巻線群を前記検出部として用いることを特徴とする搬送装置。
【請求項7】
請求項5に記載の搬送装置において、
前記検出部は、前記永久磁石と前記ティースとの間に配置されることを特徴とする搬送装置。
【請求項8】
請求項4に記載の搬送装置において、
前記第一巻線群の前記第一巻線の情報を集める合波器と、前記第二巻線群に電流を分配する分波器と、前記分波器に電流を供給する駆動回路と、前記合波器で収集される前記永久磁石の位置情報または速度情報を基に前記駆動回路に指令を与えるマイコンと、を有することを特徴とする搬送装置。
【請求項9】
請求項1に記載の搬送装置を備えたことを特徴とする検体分析システム。
【請求項10】
請求項1に記載の搬送装置を備えたことを特徴とする検体前処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液や尿などの生体試料(以下検体と記載)の分析を行う検体分析システムや分析に必要な前処理を行う検体前処理装置に好適な搬送装置、およびそれを備えた検体分析システムや検体前処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
柔軟であり高い搬送性能を与える、研究室試料配送システムの一例として、特開2017-227648号公報(特許文献1)には、各々が少なくとも1つの磁気的活性デバイス、好ましくは少なくとも1つの永久磁石を備え、試料容器を運ぶように適合された複数の容器キャリアと、この複数の容器キャリアを運ぶように適合された搬送平面と、搬送平面の下方に静止して配置された複数の電磁アクチュエータであって、容器キャリアに磁力を印加することによって搬送平面の上で容器キャリアを移動させるように適合された電磁アクチュエータと、を備えることが記載されている(要約参照)。
【0003】
さらに特許文献2には、対応するコイルを駆動電流により駆動することによって電磁アクチュエータが起動され、電磁流を引き起こすこと、この電磁流は、結合要素によって誘導され、起動されていない電磁アクチュエータの強磁性コアの中を延在すること、その結果、磁気的な押す力が、永久磁石と相互作用する電磁アクチュエータによって生成され、摩擦を減少させ、起動された電磁アクチュエータによって生成された引っ張る力と所望の方向に重なり合うこと、が記載されている(段落0103参照)。そして電磁アクチュエータは、時刻t=0、1、2とステップ状に起動される(段落0104~107及び
図8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
臨床検査のための検体分析システムでは、血液,血漿,血清,尿、その他の体液等の検体(サンプル)に対し、指示された分析項目の検査を実行する。
【0006】
この検体分析システムでは、複数の機能の装置をつなげ、自動的に各工程を処理することができる。つまり、検査室の業務合理化のために、生化学や免疫など複数の分析分野の分析部や分析に必要な前処理を行う前処理部を搬送ラインで接続して、1つのシステムとして運用している。
【0007】
従来の検体分析システムで用いられている搬送ラインは、主にベルト駆動方式がメインである。このようなベルト駆動方式では、搬送途中でなんらかの異常により搬送が停止してしまうと、それより下流側の装置に検体を供給できなくなる、との問題がある。このため、ベルトの摩耗について十分に注意を払う必要があった。
【0008】
医療の高度化及び高齢化社会の進展により、検体処理の重要性が高まってきている。そこで、検体分析システムの分析処理の能力の向上のために、検体の高速搬送や大量同時搬送、および複数方向への搬送が望まれている。そのような搬送を実現する技術の一例として、特許文献1に記載の技術がある。
【0009】
これら特許文献1に記載の研究室試料配送システムでは、容器キャリアの位置に応じて、ステップ状に電磁アクチュエータを起動する。この研究室試料配送システムでは、容器キャリアの位置に応じて、起動する電磁アクチュエータを切り替え、各コイルに流す電流を単一の電源で変えるのみであり、細かい力の制御が難しいという課題があった。
【0010】
本発明の目的は、容器キャリアなどの被搬送体の搬送時および停止時の制御性が高く、高精度な速度制御および停止制御を行うことができる搬送装置、それを備えた検体分析システムおよび検体前処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の搬送装置は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、
少なくとも1つ以上の永久磁石を有する被搬送体と、磁性体からなるティースおよび前記ティースに巻かれた巻線を有する磁気回路部と、を備えた搬送装置であって、
前記巻線は、少なくとも第一巻線と第二巻線とを含む2つ以上の巻線を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、容器キャリアなどの被搬送体の搬送時および停止時の制御性が高く、高精度な速度制御および停止制御を行うことができる搬送装置、それを備えた検体分析システムおよび検体前処理装置を提供することができる。
【0013】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1の搬送装置の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施例1の搬送装置の断面の概略構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施例2の搬送装置の概略構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施例3の搬送装置の概略構成を示す図である。
【
図5】本発明の実施例4の検体分析システムの全体構成を概略的に示す図である。
【
図6】本発明の実施例5の検体前処理装置の全体構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の搬送装置、およびそれを備えた検体分析システム、検体前処理装置の実施例を、図面を用いて説明する。
【0016】
[実施例1]
本発明の搬送装置の実施例1について
図1および
図2を用いて説明する。最初に本実施例の搬送装置の概略構成について
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の実施例1の搬送装置の概略構成を示す図である。
【0017】
図1に示すように、本実施例では、磁性体からなるティース20(
図2参照)に、巻線30Aおよび巻線30Bが配置されている。
図1では、ティース20は巻線30A,30Bの内側に配置されている。ティース20は搬送装置1の下部(-Z方向)で、磁性体からなるヨーク40で結合されている。巻線30Aおよび巻線30Bが巻かれているティース20は、平面上で相互に直交するX方向およびY方向に並べられている。このティース20の並ぶ方向はX方向または、Y方向に限定されるわけではなく、一般的に被搬送体の搬送方向に巻線を巻いたティース20が並べられており、それを下部のヨーク40で結合する。
【0018】
ティース20の上面には搬送面15が設置され、その上を被搬送体となる物体が移動する。
図1では、搬送面15上に永久磁石10が配置される。一般に、被搬送体、(例えば検体の入った試験管、ホルダ、ラックなどがあげられる)に永久磁石10が組み込まれ、永久磁石10と被搬送体が一体になって、搬送面15上を移動する。一般に、搬送面15は非磁性の材料(例えば樹脂板、ポリエチレン、PP材、PET材など)で構成されるが、それに限定されるわけではない。
【0019】
ティース20に巻かれた巻線は、少なくとも巻線(第一巻線)30Aと巻線(第二巻線)30Bとを含む2つ以上の巻線を有する。2つの巻線30A,30Bは、ティースの上方向(+Z方向)に巻線30A、下方向に巻線30Bが配置される。すなわち巻線30Aは搬送面15側に、巻線30Bはヨーク40側に配置される。本実施例では、上下方向(Z軸方向)に2つの巻線30A,30Bを配置したが、一つのティース20に3つ以上の巻線を配置しても構わない。また本実施例では、巻線30A,30Bを上下方向に並べて配置したが、内側と外側に巻くことや、2つの巻線を同時に巻く(2本持ちにする)ことも可能である。
【0020】
上述した様に、本実施例の搬送装置1は、少なくとも1つ以上の永久磁石10を有する被搬送体と、磁性体からなるティース20およびティース20に巻かれた巻線を有する磁気回路部と、を備えた搬送装置であって、
ティース20に巻かれた巻線は、少なくとも第一巻線30Aと第二巻線30Bとを含む2つ以上の巻線を有する。このように、ティース20に巻かれた巻線が2つ以上の巻線で構成されることにより、容器キャリアなどの被搬送体の搬送時および停止時の制御性が向上し、高精度な速度制御および停止制御を行うことができる。
【0021】
図2は、本発明の実施例1の搬送装置の断面の概略構成を示す図である。
図2では、
図1に示した搬送装置1のYZ面で切り取った断面を、模式的に示している。
【0022】
永久磁石10をX方向に移動させたい場合には、永久磁石10のX方向の先にある巻線30A2および巻線20B2を励磁して、巻線30A2および巻線20B2に永久磁石10を吸引する力を発生させる。また、永久磁石10の真下または進行させたい方向の後方にある巻線で反発力を発生させることで、任意の方向に永久磁石10を移動させる。
【0023】
この際、巻線に流れる電流は、巻線に接続された電源(図示しない)の電圧や、巻線の抵抗やインダクタンスできまる。また、電源にインバータを用いた場合はインバータのキャリアや制御周期などによって巻線に流れる電流の大きさや、電流の立ち上がり方、また、巻線の損失、巻線の発熱が変わってくる。
【0024】
永久磁石10を移動させる際、搬送時および停止時の制御性が高く、高精度な速度制御および停止制御するためには、短い制御周期で小さな電流を微細に制御する必要がある。また、急に加速や停止をさせたい場合などは、大電流を流す必要がある。しかし、ティース20に巻回される巻線が1つの巻線で構成された場合、巻線の電気的な特性(例えば、インダクタンスや抵抗)は一意に決まる。つまり、電流の応答や損失、電流の最大値などそれぞれの要求動作をすべて満足する仕様にする必要があるため、過大なスペックになってしまう、また、ある仕様が限定されるなどの問題が生じていた。
【0025】
そこで、1つのティース20に対し、2つ以上の巻線を配置することで、例えば、細い線を多く巻いて高いインダクタンスLhおよび高い巻線抵抗Rhに巻くと、その巻線の時定数はLh/Rhとなる。もう一つの巻線を低いインダクタンスLL、低い巻線抵抗RLにすると、その巻線の時定数はLL/RLになる。これを使い分けることで、小さな損失になるように駆動したり、一方の巻線は小電流で制御周期を早くすることで応答性を上げたりすることが可能になる。
【0026】
また、2つの巻線に同時に電流を流したり、逆向きの磁束を発生させたり、大きな電流で高い磁束を発生させたりし、その磁束上に小さな高応答の巻線の磁束を重畳させることで大電流かつ、微小な電流の変化を制御できることになる。このように、少なくとも、2つ以上の巻線を有することで、相反する2つの仕様をカバーすることが可能となる。
【0027】
すなわち、2つの巻線30A,30Bの間で、巻線のインダクタンスと抵抗とを適当に選択することによって、2つの巻線30A,30Bの時定数が異なるようにするとよい。この場合、時定数の大きな巻線で被搬送体の駆動力のベース部分を発生し、時定数の小さい巻線で被搬送体の駆動力にベース部分よりも小さい変化を与えるようにするとよい。
【0028】
上述した様に、本実施例の搬送装置1では、第一巻線30Aの時定数と第二巻線30Bの時定数とは異なる値に設定される。
【0029】
より具体的に説明すると、本実施例の搬送装置1は、
被搬送体が移動する搬送面15と、ティース20を介して搬送面15とは反対側に設けられたヨーク40と、を備え、
第一巻線30Aは複数の巻線からなる第一巻線群を構成し、
第二巻線30Bは複数の巻線からなる第二巻線群を構成し、
第一巻線群は第二巻線群に対して搬送面15の側に配置され、
第二巻線群は第一巻線群に対してヨーク40の側に配置され、
第一巻線群の第一巻線30Aと第二巻線群の第二巻線30Bとは、少なくとも抵抗値またはインダクタンスのいずれかが異なる。
【0030】
さらに本実施例の搬送装置1は、第一巻線30Aの時定数が第二巻線30Bの時定数よりも小さい値に設定される。
【0031】
本実施例では、巻線30A,30Bの時定数が上述した様に設定されることにより、搬送時および停止時の制御性を容易に向上することができ、高精度な速度制御および停止制御を容易に行うことができる。
【0032】
[実施例2]
本発明の搬送装置の実施例2について
図3を用いて説明する。
図3は、本発明の実施例2の搬送装置の概略構成を示す図である。実施例1と同様の部分には実施例1と同じ符号を付し、その部分の説明は省略する。
【0033】
図3は、搬送面15に位置または速度検出部60が配置される。位置または速度検出部60は、例えば位置センサや、永久磁石10の磁束を感知するセンサ、または、永久磁石10の通過による磁束の変化を検出する磁気センサなどで構成される。このセンサを搬送面15内に配置することで、永久磁石10の磁束をより近い場所で検出できる。
【0034】
位置または速度検出部60で検出した位置情報や速度情報は、信号線(点線)300Cを介して駆動回路50に伝わる。駆動回路50では、被搬送体を搬送する方向、速度、および位置などの情報をもとに、どのティース、どの巻線に電流をどの程度流すのか演算し、個々の巻線に電流を流す。
図3では、1つのティース20の上巻線30Aと下巻線30Bとに電流を印加する動力線(一点鎖線)300A,300Bが接続された状態を模式的に示しているが、実際はすべての巻線に動力線が接続されている。
【0035】
上述した様に、本実施例の搬送装置1は、少なくとも被搬送体の位置または速度のいずれか一方を検出する検出部を有する。本実施例では、この検出部は、永久磁石10とティース20との間に配置される。
【0036】
[実施例3]
本発明の搬送装置の実施例3について
図4を用いて説明する。
図4ha,本発明の実施例3の搬送装置の概略構成を示す図である。実施例1,2と同様の部分には実施例1,2と同じ符号を付し、その部分の説明は省略する。
【0037】
最初に本実施例の搬送装置1の概略構成について
図4を用いて説明する。本実施例の搬送装置1の基本的な構成は、
図1に示した搬送装置1と同様である。各ティース20には、上側に巻線30A、下側に巻線30Bが配置される。
【0038】
各ティース20の上側の巻線30Aは点線300Dで示すように合波器70に接続される。また、下側の巻線30Bは、一点鎖線300Eで示すように、分波器80に接続され、さらに駆動回路90に接続されている。また、95はマイコンであり、駆動回路90および合波器70に接続されている。ここで、点線300Fは信号のやり取りする信号線を示す。
【0039】
すなわち本実施例の搬送装置1は、第一巻線群の第一巻線30Aの情報を集める合波器70と、第二巻線群に電流を分配する分波器80と、分波器80に電流を供給する駆動回路90と、合波器70で収集される永久磁石10の位置情報または速度情報を基に駆動回路90に指令を与えるマイコン95と、を有する。
【0040】
本実施例では、1つのティース20の上側に配置された巻線30Aで構成される第一巻線群と、下側に配置された巻線30Bで構成される第二巻線群の効果的な利用方法を説明する。
【0041】
搬送面15は、被搬送体を滑らかに移送させるための板状部材であり、薄くても構わない。しかし、
図3のようにセンサ60が配置されると必然的に厚さを厚くする必要がある。搬送面15が厚くなると、永久磁石10とティース20との距離が離れてしまい、永久磁石10を搬送する力が弱まる。そこで、ティース20に配置した上側の巻線30Aの第一巻線群を永久磁石10の位置や速度の検出に用いることで、センサ60を無くし、搬送面15の厚さを薄くすることができる。すなわち本例の搬送装置1は、第一巻線30Aで構成される第一巻線群を被搬送体の位置または速度のいずれか一方を検出する検出部として用いる。この場合、下側の巻線30Bの第二巻線群を被搬送体(永久磁石10)の駆動用に用いるとよい。このようにすることで、永久磁石10とティース20との距離を短くすることができ、さらに、微小な推力調整がしやすくなる。
【0042】
上側の巻線30Aは、永久磁石10の通過に伴って変化する磁束を検出し、その磁束の変化で生じる電圧を検出する方法や、微小な電圧を印加し、その電圧で生じる電流の変化でティース20およびヨーク40の磁気的な飽和度を検出する方法などにより、永久磁石10の位置や速度を検出することができる。この場合、上側の巻線30Aには、微小な電流および電圧や、高周波の電圧などを印加すればよく、大きな電流を流す必要はない。そのため、上側の巻線30Aは細い線で構成しても、発熱などの問題が顕著にならない。一方、被搬送体の駆動に用いる下側の巻線30Bは、大きな電流を流す必要があるものの、微小な電流制御はあまり必要にならない。そこで、下側の巻線30Bは太い線で構成し、抵抗を小さくすることで低損失を実現する。
【0043】
また、位置や速度の検出に用いる上側の巻線30Aに検出用の電圧をかけた際に、上側の巻線30Aには電流が流れる。巻線30Aに流れる検出用の電流は、被搬送体の駆動力をアシストするのに利用することができる。さらに、上側の巻線30Aを位置や速度の検出に用いることは、より永久磁石10に近い位置で磁束を検出できるため、検出感度が向上するなどの利点がある。
【0044】
つまり、上側の巻線30Aで構成する第一巻線群と、下側の巻線30Bで構成する第二巻線群とにおいて、巻線抵抗やインダクタンスを変えることで、各巻線の機能を特化することが可能になり、必要に応じては一方の巻線の機能を他方の巻線でアシストまたはブーストすることが可能となる。また、第一巻線群の巻線30Aは高周波で微小な電流制御が必要な巻線として構成され、第二巻線群の巻線30Bは低損失で大電流を印加制御する巻線として構成されることで、両巻線は相反する機能を持つように構成される。
【0045】
本実施例に係る構成は、実施例2に係る構成と組み合わせて搬送装置を構成することができる。
【0046】
[実施例4]
本発明の実施例4の検体分析システム100の全体構成について、
図5を用いて説明する。
図5は検体分析システム100の全体構成を概略的に示す図である。
【0047】
検体分析システム100は、搬送装置として、実施例1~3の搬送装置を備える。
【0048】
図5において、検体分析システム100は、反応容器に検体と試薬を各々分注して反応させ、この反応させた液体を測定する装置であり、搬入部101、緊急ラック投入口113、搬送ライン102、バッファ104、分析部105、収納部103、表示部118、および制御部120等を備える。
【0049】
搬入部101は、血液や尿などの生体試料を収容する検体容器122が複数収納された検体ラック111を設置する場所である。緊急ラック投入口113は、標準液を搭載した検体ラック(キャリブラック)や緊急で分析が必要な検体が収容された検体容器122を収納する検体ラック111を装置内に投入するための場所である。
【0050】
バッファ104は、検体ラック111中の検体の分注順序を変更可能なように、搬送ライン102によって搬送された複数の検体ラック111を保持する。
【0051】
分析部105は、バッファ104からコンベアライン106を経由して搬送された検体を分析する。その詳細は後述する。
【0052】
収納部103は、分析部105で分析が終了した検体を保持する検体容器122が収容された検体ラック111を収納する。
【0053】
搬送ライン102は、搬入部101に設置された検体ラック111を搬送するラインであり、上述した実施例1乃至実施例3で説明した搬送装置のいずれかと同等の構成である。本実施例では、磁性体、好適には永久磁石10は検体ラック111の裏面側に設けられている。
【0054】
分析部105は、コンベアライン106、反応ディスク108、検体分注ノズル107、試薬ディスク110、試薬分注ノズル109、洗浄機構112、試薬トレイ114、試薬IDリーダー115、試薬ローダ116、および分光光度計121等により構成される。
【0055】
コンベアライン106は、バッファ104中の検体ラック111を分析部105に搬入するラインであり、上述した実施例1乃至実施例3で説明した搬送装置と同等の構成である。すなわち本実施例の検体分析システム100は、実施例1乃至実施例3の搬送装置1備える。
【0056】
反応ディスク108は、複数の反応容器を備えている。検体分注ノズル107は、回転駆動や上下駆動により検体容器122から反応ディスク108の反応容器に検体を分注する。試薬ディスク110は、複数の試薬を架設する。試薬分注ノズル109は、試薬ディスク110内の試薬ボトルから反応ディスク108の反応容器に試薬を分注する。洗浄機構112は、反応ディスク108の反応容器を洗浄する。分光光度計121は、光源(図示省略)から反応容器の反応液を介して得られる透過光を測定することにより、反応液の吸光度を測定する。
【0057】
試薬トレイ114は、検体分析システム100内への試薬登録を行う場合に、試薬を設置する部材である。試薬IDリーダー115は、試薬トレイ114に設置された試薬に付された試薬IDを読み取ることで試薬情報を取得するための機器である。試薬ローダ116は、試薬を試薬ディスク110へ搬入する機器である。
【0058】
表示部118は、血液や尿等の液体試料中の所定の成分の濃度の分析結果を表示するための表示機器である。
【0059】
制御部120は、コンピュータ等から構成され、検体分析システム100内の各機構の動作を制御するとともに、血液や尿等の検体中の所定の成分の濃度を求める演算処理を行う。
【0060】
以上が検体分析システム100の全体的な構成である。
【0061】
上述のような検体分析システム100による検体の分析処理は、一般的に以下の順に従い実行される。
【0062】
まず、検体ラック111が搬入部101または緊急ラック投入口113に設置され、搬送ライン102によって、ランダムアクセスが可能なバッファ104に搬入される。
【0063】
検体分析システム100は、バッファ104に格納されたラックの中で、優先順位のルールに従い、最も優先順位の高い検体ラック111をコンベアライン106によって、分析部105に搬入する。
【0064】
分析部105に到着した検体ラック111は、さらにコンベアライン106によって反応ディスク108近くの検体分取位置まで移送され、検体分注ノズル107によって検体を反応ディスク108の反応容器に分取される。検体分注ノズル107により、当該検体に依頼された分析項目に応じて、必要回数だけ検体の分取を行う。
【0065】
検体分注ノズル107により、検体ラック111に搭載された全ての検体容器122に対して検体の分取を行う。全ての検体容器122に対する分取処理が終了した検体ラック111を、再びバッファ104に移送する。さらに、自動再検を含め、全ての検体分取処理が終了した検体ラック111を、コンベアライン106および搬送ライン102によって収納部103へと移送する。
【0066】
また、分析に使用する試薬を、試薬ディスク110上の試薬ボトルから試薬分注ノズル109により先に検体を分取した反応容器に対して分取する。続いて、撹拌機構(図示省略)で反応容器内の検体と試薬との混合液の撹拌を行う。
【0067】
その後、光源から発生させた光を撹拌後の混合液の入った反応容器を透過させ、透過光の光度を分光光度計121により測定する。分光光度計121により測定された光度を、A/Dコンバータおよびインターフェイスを介して制御部120に送信する。そして制御部120によって演算を行い、血液や尿等の液体試料中の所定の成分の濃度を求め、結果を表示部118等にて表示させたり、記憶部(図示省略)に記憶させたりする。
【0068】
なお、
図5に示すように、検体分析システム100は、上述したすべての構成を備えている必要はなく、前処理用のユニットを適宜追加したり、一部ユニットや一部構成を削除したりすることができる。また、分析部105は生化学分析用に限られず、免疫分析用であってもよい、更に1つである必要はなく、2以上備えることができる。この場合も、分析部105と搬入部101との間を搬送ライン102により接続し、搬入部101から検体ラック111を搬送する。
【0069】
[実施例5]
本発明の実施例5の検体前処理装置150の全体構成について、
図6を用いて説明する。
図6は検体前処理装置150の全体構成を概略的に示す図である。
【0070】
図6において、検体前処理装置150は、検体の分析に必要な各種前処理を実行する装置である。
図26中左側から右側に向けて、閉栓ユニット152、検体収納ユニット153、空きホルダスタッカー154、検体投入ユニット155、遠心分離ユニット156、液量測定ユニット157、開栓ユニット158、子検体容器準備ユニット159、分注ユニット165、および移載ユニット161を基本要素とする複数のユニットと、これら複数のユニットの動作を制御する操作部PC163とから構成されている。
【0071】
検体前処理装置150で処理された検体の移送先として、検体の成分の定性・定量分析を行うための検体分析システム100が接続されている。
【0072】
検体投入ユニット155は、検体が収容された検体容器122を検体前処理装置150内に投入するためのユニットである。遠心分離ユニット156は、投入された検体容器122に対して遠心分離を行うためのユニットである。液量測定ユニット157は、検体容器122に収容された検体の液量測定を行うユニットである。開栓ユニット158は、投入された検体容器122の栓を開栓するユニットである。子検体容器準備ユニット159は、投入された検体容器122に収容された検体を次の分注ユニット165において分注するために必要な準備を行うユニットである。分注ユニット165は、遠心分離された検体を、検体分析システムなどで分析するために小分けを行うとともに、小分けされた検体容器122、子検体容器122にバーコード等を貼り付けるユニットである。移載ユニット161は、分注された子検体容器122の分類を行い、検体分析システムへの移送準備を行うユニットである。閉栓ユニット152は、検体容器122や子検体容器122に栓を閉栓するユニットである。検体収納ユニット153は、閉栓された検体容器122を収納するユニットである。
【0073】
これら各ユニット間や検体前処理装置150と検体分析システム100との間で検体容器122を保持する検体ホルダや検体ラックを搬送する機構として実施例1乃至実施例3のいずれかの搬送装置を用いる。すなわち本実施例の検体前処理装置150は実施例1乃至実施例3の搬送装置1を備える。
【0074】
なお、検体前処理装置150は、上述したすべての構成を備えている必要はなく、更にユニットを追加したり、一部ユニットや一部構成を削除したりすることができる。
【0075】
また、本実施例の検体分析システムは、
図6に示すような検体前処理装置150と検体分析システム100から構成された検体分析システム200であってもよい。この場合は、各システム内だけではなく、システムとシステムとの間を上述した実施例1乃至実施例3の搬送装置1にて接続し、検体容器122を搬送することができる。すなわち検体分析システム200は、施例1乃至実施例3の搬送装置1を備える。
【0076】
本発明の検体分析システム100,200や検体前処理装置150は、前述した実施例1乃至3の搬送装置1を備えていることにより、高効率で検体容器122を搬送先まで搬送することができ、分析結果が得られるまでの時間を短くすることができる。また搬送トラブルも少なく、検査技師の負担を軽減することができる。
【0077】
なお、本実施例は、検体が収容された検体容器122を5本保持する検体ラック111を搬送対象として搬送する場合について例示したが、検体容器122を5本保持する検体ラック111以外にも、検体容器122を2本保持する検体ホルダを搬送対象として搬送することができる。
【0078】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0079】
例えば、実施例1乃至実施例4では、搬送装置で搬送する被搬送物が検体ラック111や検体ホルダである場合について説明したが、被搬送物は検体容器122を保持するラック、ホルダ等に限られず、大規模に搬送することが求められる様々な物体を搬送対象とすることができる。
【符号の説明】
【0080】
1…搬送装置、10…永久磁石、15…搬送面、20…ティース、30A…第一巻線、30B…第二巻線、40…ヨーク、60…検出部、70…合波器、80…分波器、90…駆動回路、95…マイコン。