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  • 特開-水素生成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105446
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】水素生成方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/04 20060101AFI20220707BHJP
【FI】
C01B3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000259
(22)【出願日】2021-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】中川 鉄水
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、水素貯蔵材料であるアンモニアボランを用いて、有害な不純ガスであるアンモニアの生成を抑制しつつ、効率的に水素を生成する方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、クエン酸等の酸の存在下、水中でアンモニアボランを加水分解することを特徴とする水素生成方法であり、例えば、アンモニアボラン1モルに対して、クエン酸を1.0モル以上配合することを特徴とする水素生成方法であり、この方法により、有害な不純ガスであるアンモニアの生成を抑制しつつ、効率的に水素を生成することができる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸の存在下、水中でアンモニアボランを加水分解することを特徴とする水素生成方法。
【請求項2】
酸が、pH2以上の弱酸であることを特徴とする請求項1記載の水素生成方法。
【請求項3】
酸が、クエン酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の水素生成方法。
【請求項4】
アンモニアボラン1モルに対して、酸を1.0モル以上用いることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の水素生成方法。
【請求項5】
アンモニアボラン1モルに対して、水を100モル以上用いることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の水素生成方法。
【請求項6】
生成した水素中のアンモニア量が1ppm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の水素生成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵材料であるアンモニアボランを用いた水素の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市販されている燃料電池車には高圧水素が採用されているが、未だにコストや水素密度に課題を有している。また、車載用途以外にもポータブルな移動式燃料電池の需要が将来見込まれるが、高圧水素では密度の点で不利である。高密度な水素貯蔵方法としては、水素貯蔵材料が期待されており、その中でもアンモニアボラン(AB:NHBH)は、重量水素密度および体積水素密度が非常に高く、注目されている。
【0003】
しかしながら、このアンモニアボランは、加水分解で水素を生成する場合、触媒として高価な白金を用いることが多く(非特許文献1)、代替の触媒も依然として高価であるか、安価でも未だ実用に耐えうる有効な物質が発見されていない。
【0004】
また、アンモニアボランは、加水分解による水素生成に伴い、人体や燃料電池に有害なアンモニア(NH)を放出するという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Qiming Sun, Ning Wang, Tianjun Zhang, Risheng Bai, Alvaro Mayoral, Peng Zhang, Qinghong Zhang, Osamu Terasaki, and Jihong Yu “Zeolite-Encaged Single-Atom Rhodium Catalysts: Highly-Efficient Hydrogen Generation and Shape-Selective Tandem Hydrogenation of Nitroarenes”Angewandte Chemie International Edition 58 (2019) p18570-18576
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、水素貯蔵材料であるアンモニアボランを用いて、有害な不純ガスであるアンモニアの生成を抑制しつつ、効率的に水素を生成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、アンモニアボランを用いた水素生成について研究する中で、クエン酸等の酸の存在下、水中でアンモニアボランを加水分解することにより、アンモニアの生成を抑制しつつ、効率的に水素を生成できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の特徴は、次のとおりである。
[1]酸の存在下、水中でアンモニアボランを加水分解することを特徴とする水素生成方法。
[2]酸が、pH2以上の弱酸であることを特徴とする上記[1]記載の水素生成方法。
[3]酸が、クエン酸であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の水素生成方法。
[4]アンモニアボラン1モルに対して酸を1.0モル以上用いることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載の水素生成方法。
[5]アンモニアボラン1モルに対して、水を100モル以上用いることを特徴とする[1]~[4]のいずれか記載の水素生成方法。
[6]生成した水素中のアンモニア量が1ppm以下であることを特徴とする上記[1]~[5]のいずれか記載の水素生成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水素生成方法は、有害な不純ガスであるアンモニアの生成を抑制しつつ、効率的に水素を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の方法(a)(アンモニアボランとクエン酸の混合粉に水を添加する方法)により生成した水素の発生量を示す図である。
図2】本発明の方法(b)(固体のアンモニアボランにクエン酸溶液を添加する方法)により生成した水素の発生量を示す図である。
図3】本発明の方法(c)(クエン酸溶液にアンモニアボラン溶液を添加する方法)により生成した水素の発生量を示す図である。
図4】本発明の方法(d)(固体のクエン酸にアンモニアボラン溶液を添加する方法)により生成した水素の発生量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水素生成方法(水素製造方法)は、酸の存在下、水中でアンモニアボランを加水分解することを特徴とする。酸の存在下でアンモニアボランを加水分解することにより、人体や燃料電池に有害な不純ガスであるアンモニアの生成を抑制しつつ、効率的に水素を生成することができる。
【0012】
なお、従来、溶媒中での酸を用いたアンモニアボランの反応においては、有害な不純ガスであるジボラン(B)が生成するという報告があり、このことから、アンモニアボランの反応において酸を用いることは通常避けられていた。しかし、本発明者は、水中でアンモニアボランを加水分解することにより、酸を用いても、有害な不純ガスであるアンモニアの生成を抑制しつつ、効率的に水素を生成することができることを見いだし、本発明に至った。
【0013】
本発明の水素生成方法によれば、生成した水素中のアンモニア量を1.0ppm以下に低減でき、条件によって0.8ppm以下、さらには0.5ppm以下にまで低減できる。
【0014】
本発明の方法で用いるアンモニアボラン(AB)は、空気中で安定な常温で白色の固体の物質であり、例えば、硫酸アンモニウムや塩化アンモニウムと、水素化ホウ素ナトリウムを反応させて合成することができる。
【0015】
本発明の方法で用いる酸としては、pH2以上の弱酸が好ましい。強酸を用いた場合には、有害な不純ガスであるジボラン(B)が生成する恐れがある。弱酸としては、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、炭酸、シュウ酸、その他の有機酸等を挙げることができ、アンモニアの生成をより抑制でき、水素をより効率的に生成できることから、クエン酸が好ましい。なお、本発明の方法で用いる弱酸のpHは、25℃の飽和水溶液で測定した値をいう。
【0016】
酸の配合量としては、水溶液のpHが7.0以下、さらには6.0以下になる量であることが好ましい。また、アンモニアボラン1モルに対する酸の配合量(酸/AB)としては、1.0モル以上であることが好ましく、1.2モル以上、さらには1.5モル以上であることが有効である。また、上限は特に制限されるものではないが、アンモニア放出量抑制の観点から、5.0モル以下であることが好ましく、4.0モル以下、さらには3.0モル以下であることが有効である。
【0017】
本発明の水素生成方法における加水分解の方法は、水素が生成される態様であれば特に制限されるものではなく、例えば、(a)固体のアンモニアボラン及び固体の酸の混合物に対して水を添加する方法や、(b)固体のアンモニアボランと酸の水溶液を混合させる方法(この混合方法は、固体のアンモニアボランに酸の水溶液を添加する方法と、酸の水溶液に固体のアンモニアボランを添加する方法のように、混合の手順を逆にしても効果に違いは無い)や、(c)酸の水溶液とアンモニアボランの水溶液を混合させる方法(この混合方法は、アンモニアボランの水溶液に酸の水溶液を添加する方法と、酸の水溶液にアンモニアボランの水溶液を添加する方法のように、混合の手順を逆にしても効果に違いは無い)や、(d)アンモニアボランの水溶液と固体の酸を混合させる方法(この混合方法は、アンモニアボランの水溶液に固体の酸を添加する方法と、固体の酸にアンモニアボランの水溶液を添加する方法のように、混合の手順を逆にしても効果に違いは無い)が考えられる。特に、アンモニアの生成をより抑制でき、水素をより効率的に生成できる方法は、(b)、(c)、(d)であり、(d)が最もアンモニア放出量が少ない。
【0018】
アンモニアボラン1モルに対する水の量(水/AB)としては、100モル以上であることが好ましく、200モル以上、さらには300モル以上であることが有効である。また、上限は特に制限されるものではないが、水素生成の重量密度・体積密度の効率の観点から、1500モル以下であることが好ましく、さらには1000モル以下であることが有効である。このような水分量の条件で、アンモニアの生成を有効に抑制することができる。
【0019】
本発明の加水分解は、常温下、加熱下、冷却下のいずれで行うこともできる。なお、常温とは、特別な加熱や冷却をしていない状況での温度をいう。
【実施例0020】
[試料の準備]
(アンモニアボラン)
アンモニアボラン(AB)として、シグマアルドリッチ製のボラン-アンモニア錯体(純度97%)を用いた。
(酸)
酸としては、クエン酸-水和物(以下、単にクエン酸という)を用いた。
【0021】
[実施例1]
固体のアンモニアボランと固体のクエン酸の混合物に対して水を供給し、アンモニアボランの加水分解を行った。具体的な操作は、以下のとおりである。
【0022】
T字型(三又)のニップルを用いて、台に立設させた枝付き試験管、及びスタンドに水平に固定したシリンジを連結し、さらにガス濃度を測定するパッシブドジチューブを連結した。クエン酸を必要量量り取り、枝付き試験管の中に加え、そこに同じく必要量量り取ったアンモニアボランを加え、枝付き試験管にキャップで蓋をした。また、シリンジには蒸留水を充填した。シリンジを操作して、クエン酸とアンモニアボランの入った枝付き試験管に蒸留水を必要量加え、1時間又は2時間放置した後パッシブドジチューブの変色を読み取った。
【0023】
その結果を表1に示す。なお、実施例1A及び1Bは放置時間が1時間であり、実施例1Cは1時間の時点で検出限界以下であったため、放置時間が2時間であった。
【0024】
【表1】
【0025】
表1に示すように、水素中のアンモニア量は0.5ppm以下と微量であり、水素の放出率(生成率)も高い値を示した。特に、アンモニアボランに対するクエン酸の配合量(クエン酸/AB)が1.5モル以上の場合、アンモニアの生成が効果的に抑制された。
【0026】
[実施例2]
クエン酸水溶液とアンモニアボラン水溶液を混合させてアンモニアボランの加水分解を行った。また、アンモニアボランの加水分解により生成した水素を用いて実機(燃料電池)を運転した。具体的な操作は、以下のとおりである。
アンモニアボラン0.5gを1mLの蒸留水に溶解すると共に、クエン酸6gを19mLの蒸留水に溶解した。クエン酸水溶液にアンモニアボラン水溶液を滴下することで両者を混合して(AB:クエン酸=約1:2(モル比))、アンモニアボランの加水分解を行った。混合後、約1秒のインターバルがあり、その後激しく水素を放出した。
【0027】
生成した水素中のアンモニア濃度を0.1pmが下限値の検知管で検出したところ、検出限界以下であり、生成した水素中にはアンモニアがほぼ含まれていないことが確認できた。
【0028】
また、アンモニアボランの加水分解により生成した水素を用いて実機(燃料電池)を運転したところ、1W程度の出力が得られた。
【0029】
[実施例3]
(a)アンモニアボランとクエン酸の混合粉に水を添加する方法、(b)固体のアンモニアボランにクエン酸溶液を添加する方法、(c)クエン酸溶液にアンモニアボラン溶液を添加する方法、及び(d)固体のクエン酸にアンモニアボラン溶液を添加する方法について、アンモニアの生成抑制効果を比較した。
アンモニアボラン約0.02gとクエン酸約0.2gと所定量の水(水/AB≒100(モル比))を用いて試験管中で1時間反応させ、パッシブドジチューブを用いてアンモニアの測定を行った。その結果を表2に示す。
また、方法(a)~(d)について、水素発生量を測定した。その結果を図1~4に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
表2に示すように、方法(a)と比べ、方法(b)~(d)は、アンモニアの生成を抑制できることが確認された。特に、方法(d)は、アンモニアの生成を極めて効果的に抑制することができた。
【0032】
また、図1~4に示すように、方法(a)~(d)では、アンモニアの抑制と共に、効率的に水素を生成できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の水素生成方法は、アンモニアの生成を抑えつつ、効率的に水素を生成することができるものであって、ポータブル燃料電池充電器や燃料電池車など分散型電源への応用が期待されるものであり、産業上有用である。

図1
図2
図3
図4