(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105888
(43)【公開日】2022-07-15
(54)【発明の名称】AD変換回路
(51)【国際特許分類】
H03M 3/02 20060101AFI20220708BHJP
【FI】
H03M3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000491
(22)【出願日】2021-01-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2020年10月25日付でIEEE SENSORS 2020にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(71)【出願人】
【識別番号】514156563
【氏名又は名称】アイメック・ヴェーゼットウェー
【氏名又は名称原語表記】IMEC VZW
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】安江 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】アナチアラ スパノロ
【テーマコード(参考)】
5J064
【Fターム(参考)】
5J064AA01
5J064BA03
5J064BC06
5J064BC10
5J064BC16
(57)【要約】
【課題】消費電力や回路の構成要素をできるだけ増加させずに、積分器の出力信号範囲を小さくすることができる、デルタシグマ型のAD変換回路を提供する。
【解決手段】離散時間インクリメント型のデルタシグマ型AD変換回路は、入力信号からフィードバック信号を減算する減算器と、前記減算器の出力を積分する積分器と、前記積分器の出力を量子化するADC(アナログ・デジタル変換器)と、リセット後の初回積算動作の直後に、前記積分器の出力を量子化した量子化値を保持する保持回路と、前記保持回路の保持する量子化値と、積分動作毎に更新される前記ADCの出力とを加算する加算回路と、前記加算回路の出力するデジタル信号を前記フィードバック信号に変換して前記減算器の減算側の信号として出力するDAC(デジタル・アナログ変換器)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
離散時間インクリメント型のデルタシグマ型AD変換回路であって、
入力信号からフィードバック信号を減算する減算器と、
前記減算器の出力を積分する積分器と、
前記積分器の出力を量子化するADC(アナログ・デジタル変換器)と、
リセット後の初回積算動作の直後に、前記積分器の出力を量子化した量子化値を保持する保持回路と、
前記保持回路の保持する量子化値と、積分動作毎に更新される前記ADCの出力とを加算する加算回路と、
前記加算回路の出力するデジタル信号を前記フィードバック信号に変換して前記減算器の減算側の信号として出力するDAC(デジタル・アナログ変換器)と
を備えるAD変換回路。
【請求項2】
請求項1に記載のAD変換回路において
前記ADCが1ビットADCであり、前記DACが1.5ビット(3値)DACである、AD変換回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のAD変換回路において
前記加算回路の出力の0,1,2に対応して、前記DACは、Vcom-Vref,Vcom,Vcom+Vref(Vcomは基準電圧、Vrefは参照電圧)のフィードバック信号を出力する、AD変換回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のAD変換回路において
さらに、前記加算回路の出力するデジタル信号から、所定のビット深度のAD変換結果を生成するデジタルフィルタ・デシメータを備える、AD変換回路。
【請求項5】
請求項4に記載のAD変換回路において
前記デジタルフィルタ・デシメータが、リセット動作以降前記加算回路の出力するデジタル信号を加算していき合計値を出力するカウンタ回路で構成される、AD変換回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はAD(アナログ・デジタル)変換回路に関し、特に、デルタシグマ型AD変換回路に関する。
【背景技術】
【0002】
デルタシグマ型AD変換回路は、回路規模が小さく低消費電力であり、高精度・高分解能を実現できることから、多くの分野で利用されている。その回路構成は多くの文献に開示されており(例えば、特許文献1)、
図2は、その最も基本的な構成を示すブロック図である。
図2のデルタシグマ型AD変換回路は、入力端子にAD変換動作の対象となるアナログ信号(入力信号)が入力される。その回路構成は、減算器1、減算器1の出力を積算する積分器2、1ビットADC(アナログ・デジタル変換器)3、1ビットDAC(デジタル・アナログ変換器)4、及びデジタルフィルタ・デシメータ5から成り立っている。
【0003】
図2のAD変換回路の動作は、次のとおりである。入力信号(アナログ信号:Vin)は入力端子から、減算器1に入力される。減算器1は、入力信号Vinからフィードバック信号を減算する。減算された信号は、積分器2に入力される。積分器2は、入力された信号を、それまでに積算されていた信号に足し合わせて、新たな積算信号Voutとして出力する。出力された信号Voutは、1ビットADC3によって1ビットのデジタル値(すなわち、1又は0)に変換される。変換されたデジタル値は、フィードバック信号を生成する1ビットDAC4及びデジタルフィルタ・デシメータ5に出力される。1ビットDAC4は、デジタル値を基にアナログ信号(フィードバック信号)を生成し、生成されたアナログ信号は、減算器1の減算側に入力される。また、デジタルフィルタ・デシメータ5に送られたデジタル値は、目的とする入力信号に対して多数繰り返される上記動作を通じて蓄積され、所定の処理によって適切なビット深度のAD変換結果として出力される。
【0004】
後述のとおり、積分器2は、離散的に入力信号をサンプリングして蓄積するスイッチキャパシタ回路によって構成されることが多い。なお、スイッチキャパシタ回路は、入力が積分されて出力に現れるまでに一定の遅延が発生する。
【0005】
このようなデルタシグマ型AD変換回路は、入力信号Vinを何度もサンプリングして処理を繰り返すオーバーサンプリングを行うことによって量子化誤差を抑圧することができ、かつ1ビットの回路から構成されることにより素子の製造誤差による精度の劣化が小さい。このため、高精度のAD変換に好適であるとして近年多用される傾向にある。また同時に、デルタシグマ型AD変換回路は、入力信号に含まれるノイズ成分に対してもフィルタ効果を持たせることが可能であることから、入力信号へのノイズ抑圧効果を期待して採用される例も多い。
【0006】
デルタシグマ型ADCで用いられる減算器1、積分器2、DAC4は、スイッチキャパシタ回路によって、それらの機能を実現されることが多い。
図3は、スイッチキャパシタ回路によってデルタシグマ型ADCの一部を構成した例である。動作は以下のように行われる。
【0007】
まず、スイッチφ1がON(導通状態)に、スイッチφ2がOFF(絶縁状態)となる。この状態になることにより、容量C1は、リセット電圧Vresetと入力信号Vinで充電される。この時、容量C2は切り離された状態となるので、容量C2に保存された信号は保たれる。次に、スイッチφ2がON(導通状態)に、スイッチφ1がOFF(絶縁状態)となる。ただし、フィードバック信号である+Vref及び-Vref(Vrefは参照電圧)が接続されるスイッチφ2は、前述の1ビットADC3の出力が1の場合には+Vrefが、0の場合には-Vrefが選択されて、導通状態となる。この時、容量C1は+Vrefもしくは-Vrefで充電されることとなり、差分の電荷は容量C2へと移動する。なお、+Vref及び-Vrefは、実際には、負電圧を回路で取り扱うことを避けるため、所定の基準電圧Vcomに対して±に等間隔に離れた電圧を使うことが多い。すなわち、ADC3の出力の0,1に対応して、Vcom-Vref,Vcom+Vrefのフィードバック信号が用いられる。
図3においては、説明を簡略にするため、基準電圧Vcom=0としている。本明細中のフィードバック信号及び後述の各式における電圧は、明示していない場合も全て基準電圧Vcomからの差分として書かれている。基準電圧Vcomは回路の接地電圧に一致する必要はない。
【0008】
C1及びC2が同一の容量を持ち、かつアンプが入力端子の電圧差を無限大倍に増幅可能でオフセットや雑音の存在しない理想的なアンプであり、寄生容量等の影響を無視できるとすると、C2を充電する電圧の変化は、接続される参照電圧が+Vrefの場合にはVin-Vref に、接続される参照電圧が-Vrefの場合にはVin+Vref となる。すなわち、入力信号からフィードバックされた信号が減算された信号が積分されて、出力信号Voutとして出力されることとなる。
【0009】
Resetと示されたスイッチは、動作開始前に積分器2を初期化するために用いられる。このスイッチが導通状態になることにより、容量C2は短絡してチャージを放出し、積分器2の出力は、リセット電圧Vresetに一致する。なお、このリセット電圧Vresetは、この後段の1ビットADC3の判定基準の電圧となる。ここでは、説明を簡略にするため、リセット電圧Vreset=0とする。
【0010】
積分器2において加算される信号はVin-VrefもしくはVin+Vrefであることから、積分値が発散しない条件は、これら加算される信号が正負の値を取り得ることである。したがって、回路が安定して動作する条件は、-Vref≦Vin≦+Vref となる。なお、Vref及び-Vrefは、前述の通り所定の基準電圧(Vcom)に対して±に等間隔に離れた参照電圧を意味しており、基準電圧は回路の接地電圧と一致する必要はない。また、-Vrefから+Vrefが、アナログ信号をデジタル化する変換範囲となる。
【0011】
この時、積分器2の出力Voutの取り得る電圧範囲は、-2Vref≦Vout≦+2Vref(正確には、-2Vref+Vreset≦Vout≦+2Vref+Vreset。ここではVreset=0としている。)と、入力電圧範囲の2倍になる。積分器2はアンプを含んでいることから、Voutの範囲は、アンプが正常に動作する範囲に収まる必要がある。このため、Voutはより狭い範囲に収まることが望ましい。したがって、Vinの範囲をできるだけ大きく保ちながらVoutの範囲を小さく抑えることが、かねてより求められてきた。
【0012】
この課題を解決する手段として、フィードフォワード法が提案されている(非特許文献1)。
図4は、フィードフォワード法の回路構成を示すブロック図である。
図4の回路は、
図2の基本的な回路構成と比較して、加算回路6が追加されている。フィードフォワード法は、入力信号Vinを積分器2の出力に加算する加算回路6を設けて、その出力を1ビットADC3に入力する手法である。
【0013】
図4の回路では、n回目の信号処理を行う際に、積分器2が保持している前回までの出力Vout(n-1)に、入力電圧Vin(n)が加算され、Vout(n-1)+Vin(n)が1ビットADC3に入力される。1ビットADC3の判定基準は、リセット電圧Vresetであり、ここではVreset=0Vとする。すなわち、Vout(n-1)+Vin(n)が判定基準の電圧(0V)以上のとき、1ビットADC3は出力1となり、減算器1から積分器2には、Vin(n)-Vrefが出力される。よって、積分器2の出力Vout(n-1)+Vin(n)-Vrefは、-Vrefと+Vrefの間の値となる。同様に、Vout(n-1)+Vin(n)が判定基準の電圧(0V)より小さいとき、1ビットADC3は出力0となり、減算器1から積分器2には、Vin(n)+Vrefが出力される。よって、積分器2の出力Vout(n-1)+Vin(n)+Vrefは、やはり-Vrefと+Vrefの間の値となる。したがって、どちらの場合も、積分器2の出力Voutは、-Vrefと+Vrefの間の値となる。
【0014】
このように、フィードフォワード法を用いることにより、フィードバックの精度が高まり、積分器2の出力範囲は、-Vref≦Vout≦+Vref となり、フィードフォワード法を用いない場合の半分に出力範囲を抑えることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】J.Silva, et.al. "Wideband low-distortion delta-sigma ADC topology", Electronics Letters, Vol.37 No.12, (2001), (DOI:10.1049/el:20010542)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、フィードフォワード法は、出力電圧範囲を抑制できるが、アナログ信号を加算する回路6が必要となる。アナログ信号の加算回路6にはアンプを用いる方式と、スイッチと容量による分圧を用いる方法がある。しかし、アンプを用いる方式では、アンプの消費電力が必要となる点が課題であった。また、スイッチと容量を用いる方法では、容量のために回路面積が大きくなる点、入力信号に対する負荷が増加して信号振幅が減少する点などが課題であった。
【0018】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、消費電力及び回路の構成要素をできるだけ増加させずに、積分器の出力信号範囲を小さくすることができる、デルタシグマ型のAD変換回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために本発明に係るAD変換回路は、離散時間インクリメント型のデルタシグマ型AD変換回路であって、入力信号からフィードバック信号を減算する減算器と、前記減算器の出力を積分する積分器と、前記積分器の出力を量子化するADC(アナログ・デジタル変換器)と、リセット後の初回積算動作の直後に、前記積分器の出力を量子化した量子化値を保持する保持回路と、前記保持回路の保持する量子化値と、積分動作毎に更新される前記ADCの出力とを加算する加算回路と、前記加算回路の出力するデジタル信号を前記フィードバック信号に変換して前記減算器の減算側の信号として出力するDAC(デジタル・アナログ変換器)とを備えることを特徴とする。
【0020】
また、前記AD変換回路は、前記ADCが1ビットADCであり、前記DACが1.5ビット(3値)DACであることが望ましい。
【0021】
また、前記AD変換回路は、前記加算回路の出力の0,1,2に対応して、前記DACは、Vcom-Vref,Vcom,Vcom+Vref(Vcomは基準電圧、Vrefは参照電圧)のフィードバック信号を出力することが望ましい。
【0022】
また、前記AD変換回路は、さらに、前記加算回路の出力するデジタル信号から、所定のビット深度のAD変換結果を生成するデジタルフィルタ・デシメータを備えることが望ましい。
【0023】
また、前記AD変換回路は、前記デジタルフィルタ・デシメータが、リセット動作以降前記加算回路の出力するデジタル信号を加算していき合計値を出力するカウンタ回路で構成されることが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明におけるAD変換回路によれば、消費電力及び回路の構成要素をできるだけ増加させずに、積分器の出力信号範囲を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明のAD変換回路の回路構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】デルタシグマ型AD変換回路の基本的な構成を示すブロック図である。
【
図3】スイッチキャパシタ回路によってデルタシグマ型ADCの一部を構成した例である。
【
図4】フィードフォワード法の回路構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0027】
図1は、本発明のAD変換回路の回路構成の一例を示すブロック図である。本発明のAD変換回路は、積分器を1個用いる一次のAD変換回路であり、また、離散的に入力信号をサンプリングして積分処理し、AD変換処理後に積分器等の回路をリセットする離散時間インクリメント型のデルタシグマ型AD変換回路である。
【0028】
本実施形態におけるAD変換回路は、減算器1、積分器2、1ビットADC3、保持回路7、加算回路(加算器)8、1.5ビットDAC9、及びデジタルフィルタ・デシメータ5を備えている。
【0029】
本実施形態の回路構成は、
図2に示す従来の構成に対して、保持回路7と加算回路8が追加されており、さらに、
図2では1ビットDAC4であった構成要素が、1.5ビットDAC9へと変更されている。
図1のAD変換回路の各構成要素の動作は、次のとおりである。
【0030】
入力端子に接続される減算器1には、AD変換動作の対象となる入力信号(アナログ信号:Vin)が入力される。減算器1は、入力信号Vinからフィードバック信号Vdacを減算する。後述のとおり、フィードバック信号Vdacは、変換範囲の参照信号(参照電圧)をVrefとして、-Vref,0,+Vrefのいずれかである。なお、フィードバック信号は、正確には、基準電圧をVcomとして、Vcom-Vref,Vcom,Vcom+Vrefの3種類であり、ここでは、説明を簡略にするため、基準電圧Vcom=0としている。減算器1は、減算結果を積分器2に出力する。
【0031】
積分器2は、減算器1の出力をそれまでの積分結果に足し合わせていき、その結果を出力電圧Voutとして、1ビットADC3へ出力する。
【0032】
1ビットADC3は、積分器2の出力電圧Voutを量子化し、1ビットのデジタル値(1又は0)に変換するADCである。具体的には、1ビットADC3は、積分器2の出力電圧Voutを判定基準であるリセット電圧Vreset(判定基準電圧ということがある)と比較し、出力電圧Voutが判定基準電圧より大きい場合は1、判定基準電圧より小さい場合は0を、1ビットのデジタル出力Doutとして、保持回路7及び加算回路8へ出力する。1ビットADC3の判定基準電圧(リセット電圧Vreset)は、入力側の基準電圧Vcomと独立に設定することが可能である。
【0033】
保持回路7は、初回の積分動作後の1ビットADC3の出力を保持し、これをDinとして出力する。後述のとおり、Dinは、入力信号Vinを基準電圧と比較した結果であり、1又は0である。保持回路7は、入力信号Vinに対する積分動作を繰り返す間、同じDinを常に出力する。
【0034】
加算回路8は、保持回路7に保持された1ビットの信号Dinと、1ビットADC3が出力する1ビットの信号Doutを足し合わせて、0,1,2の何れかの値をとる信号(1.5ビット信号)を生成する。加算回路8は、デジタル信号の加算器であるから、低消費電力の小型のロジック回路で構成することができる。加算回路8の出力Ddac(=Din+Dout)は、デジタルフィルタ・デシメータ5と1.5ビットDAC9へ出力される。
【0035】
1.5ビットDAC9は、従来、1ビットDAC4であった構成要素が、フィードバックされる信号Ddacが1.5ビット(3値)に変更されたことに対応して1.5ビット信号に対応するように変更されたDACである。1.5ビットDAC9は、Vrefを参照電圧として、入力されるデジタル信号Ddacが0の時には-Vrefを、1の時には基準電圧(0)を、2の時には+Vrefを、アナログ値(電圧値)としてそれぞれ出力する。なお、前述のとおり、実際に出力される3種類の電圧は、所定の基準電圧Vcomと、基準電圧Vcomに対して±に等間隔に離れた電圧が用いられ、負電圧を扱うのを避けることが多い。すなわち、1.5ビットDAC9は、Ddacの0,1,2に対応して、Vcom-Vref,Vcom,Vcom+Vrefのフィードバック信号を出力することができる。ここでは、3個のフィードバック信号が等間隔の電圧であることが重要であり、等間隔の電圧とすることで、AD変換の精度が向上する。アナログ出力電圧Vdacは、フィードバック信号として、減算器1の減算側に出力される。
【0036】
デジタルフィルタ・デシメータ5は、加算回路8の出力であるデジタル値Ddacを、多数回繰り返される処理動作の間蓄積し、所定の処理(例えば、加算処理)を行って、入力信号Vinに対する所定のビット深度のAD変換結果を出力する。デジタルフィルタ・デシメータ5は、例えば、カウンタ回路で構成することができる。カウンタ回路は、リセット動作以降、加算回路8の出力するデジタル信号を加算していき合計値を出力する。この合計値は、AD変換回路の出力(入力されたアナログ信号のAD変換結果)とすることができる。
【0037】
本回路の動作は、以下のように説明される。積分器2及びデシメータ5を含むAD変換回路のリセットは、従来と同様に行われ、積分器2の出力はリセット電圧Vreset(V)に初期化される。初回の積算動作では、フィードバックされるデジタル値Ddacは1となるように回路は設定され、1.5ビットDAC9の出力は、基準電圧Vcom(ここではVcom=0V)となっている。その結果、初回の積算を終えた後の積分器2の出力Voutは、入力信号Vinと同一の信号となり、その信号を受けた1ビットADC3は、入力信号Vinの1ビット量子化値を出力する。この状態で保持回路7に保持された信号を更新することにより、入力信号Vinを基準電圧と比較した結果である1ビット信号Dinが、保持回路7に保持される。
【0038】
加算回路8は、1ビット信号Dinと、積分動作毎に更新される積分器の出力Vout(n)を基準電圧と比較した結果である1ビット信号Dout(n)とを加算して、1.5ビット信号Ddacを生成する。ここで、(n)は、n回目の処理を示す。
【0039】
2回目以降の積算処理においては、1.5ビットDAC9は、Ddacの0,1,2に従って、-Vref,0,+Vref(一般化すれば、Vcom-Vref,Vcom,Vcom+Vref)を、フィードバック信号として出力する。減算器1は、入力信号Vinからフィードバック信号を減算し、積分器2において積算処理がなされる。その後、1ビットADC3による量子化、加算回路8による加算処理等、ループ状の積算処理が、所定回数繰り返される。また、加算回路8の出力Ddacに基づいて、デジタルフィルタ・デシメータ5から、入力信号Vinに対応するデジタル変換信号が出力される。
【0040】
一連の動作を漸化式で記述すると次のように書くことができる。
【0041】
【0042】
ここで、Dinは初回積算後に保持回路7に保存した入力信号Vinの量子化値であり、Dout(n)はn回目の積算後の積分器2の出力Voutを1ビットADC3で量子化した値である。-Vref・(Din+Dout(n)-1)は、Ddacの0,1,2に従って、-Vref,0,+Vrefが、フィードバック信号として出力されることを意味している。
【0043】
1.5ビットDAC9の出力の最小値、最大値が-Vref及び+Vrefであることから、本回路が安定して動作する入力信号Vinの範囲は、従来と同様に-Vref≦Vin≦+Vrefである。また、出力信号Vout(n+1)の式(3)は、変形すると、次式(3')となる。
【0044】
【0045】
Din及びDout(n)はVin及び Vout(n)をそれぞれ判定基準であるリセット電圧Vreset(ここでは、Vreset=0Vとする。)と比較した結果であることから、Vin及びVout(n)が-Vrefから+Vrefの範囲にあれば、次式(4)、(5)が成り立つ。
【0046】
【0047】
上記(3')式は、(4)式と(5)式を加算したものである。即ちn回目の積分動作後の積分回路の出力Vout(n)とVinが-Vrefから+Vrefの範囲に収まっていれば、Vout(n+1)も-Vrefから+Vrefの範囲に収まる。Voutの初期値は基準電圧0Vであることから、これは全てのnに対して成立する。したがって、出力信号Voutの範囲は、-Vrefから+Vrefの範囲に収まる。なお、リセット電圧Vresetが0Vではない値をとる場合には、VoutにはVresetのオフセットが常に加わり、出力信号Voutの範囲は、Vreset-VrefからVreset+Vrefの範囲に収まる。
【0048】
図1に示されるように、本構成では入力信号に接続される要素は従来のデルタシグマ型ADCと同一であることから、追加された構成要素が入力信号に影響を与えることは無く、1ビットADC3の数も1個と差異はない。本発明は、保持回路7及び加算回路8の追加及びDAC9の1.5ビット化のみにより、積分器2の出力電圧範囲を従来の半分に抑えることを可能としている。
【0049】
さらに、デジタルフィルタ・デシメータ5に渡されるデジタル信号が1.5ビット(3値信号)となることから、デジタルフィルタ・デシメータ回路として入力値を足し合わせるカウンタを用いる場合には、
図2の従来の構成ではmビットの変換に2
m回の積分動作が必要であったが、本発明の回路を用いることにより2
m-1回の積分動作に減らすことができる。したがって、本発明は、AD変換動作の高速化が可能である。
【0050】
上記の実施の形態では、AD変換回路の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、アナログ信号をデジタル信号に変換する変換方法として構成されてもよい。すなわち、
図1のデータの流れに従って、本発明は、リセット後の初回積算動作の直後に、積分出力を量子化した量子化値を保持する工程と、入力信号からフィードバック信号を減算する工程と、減算した値を積分する工程と、積分した値を量子化する工程と、保持した量子化値と積分動作毎に量子化した値とを加算する工程と、加算した量子化値をフィードバック信号に変換する工程とを含み、これを繰り返して入力信号をデジタル信号に変換する方法として構成されても良い。
【0051】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態に記載の各ブロック、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成ブロック、ステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 減算器
2 積分器
3 1ビットADC
4 1ビットDAC
5 デジタルフィルタ・デシメータ
6 加算回路
7 保持回路
8 加算回路
9 1.5ビットDAC