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特開2022-106055慢性疲労マーカ、慢性疲労レベル判定方法、および判定試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106055
(43)【公開日】2022-07-19
(54)【発明の名称】慢性疲労マーカ、慢性疲労レベル判定方法、および判定試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220711BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/53 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000753
(22)【出願日】2021-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000232092
【氏名又は名称】NECソリューションイノベータ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智子
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 行大
(72)【発明者】
【氏名】好光 有一
(72)【発明者】
【氏名】前田 広史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢野 理香
(57)【要約】
【課題】 非侵襲で検査可能な、慢性疲労マーカ、および慢性疲労レベル判定方法を提供する。
【解決手段】 本発明の慢性疲労マーカは、sIgAおよびコルチゾールの両方を含み、ヒトの慢性疲労レベルの指標となる。本発明の慢性疲労レベル判定方法は、測定工程、および判定工程を含み、前記測定工程は、日中のストレスのかかる作業を行う前のタイミングにおいて、被験者の生体試料における慢性疲労マーカの量を測定し、前記慢性疲労マーカは、sIgAおよびコルチゾールの両方を含み、前記判定工程において、前記測定された前記慢性疲労マーカの量に基づき、前記被験者の慢性疲労レベルを判定する。
【選択図】 図7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
sIgAおよびコルチゾールの両方を含み、
ヒトの慢性疲労レベルの指標となる、慢性疲労マーカ。
【請求項2】
前記sIgAおよびコルチゾールが、唾液中のsIgAおよびコルチゾールである、請求項1記載の慢性疲労マーカ。
【請求項3】
測定工程、および判定工程を含み、
前記測定工程は、日中のストレスのかかる作業を行う前のタイミングにおいて、被験者の生体試料における慢性疲労マーカの量を測定し、
前記慢性疲労マーカは、sIgAおよびコルチゾールの両方を含み、
前記判定工程において、前記測定された前記慢性疲労マーカの量に基づき、前記被験者の慢性疲労レベルを判定する、
慢性疲労レベル判定方法。
【請求項4】
前記測定工程は、さらに、夜間のストレスのかかる作業を行う前のタイミングにおいて、前記被験者の生体試料におけるsIgAの量を測定し、
前記判定工程において、前記日中の作業前に測定されたsIgAの量が、前記夜間の作業前に測定されたsIgAの量と比較して同程度または少ない場合、および、前記日中の作業前および前記夜間の作業前に測定されたsIgAの量が、高濃度で推移している場合に、前記被験者の慢性疲労のレベルが高いと判定する、請求項3記載の慢性疲労レベル判定方法。
【請求項5】
前記判定工程において、複数の日にわたって測定された前記日中の作業前に測定されたコルチゾールの量が、低濃度で推移している場合に、前記被験者の慢性疲労レベルが高いと判定する、請求項3記載の慢性疲労レベル判定方法。
【請求項6】
前記測定工程は、さらに、夜間のストレスのかかる作業を行う前のタイミングにおいて、前記被験者の生体試料におけるsIgAの量を測定し、
前記判定工程において、前記日中の作業前および前記夜間の作業前に測定されたsIgAの量が、高濃度で推移しており、且つ、複数の日にわたって測定された、前記日中の作業前に測定されたコルチゾールの量が、低濃度で推移している場合に、前記被験者の慢性疲労レベルが高いと判定する、請求項3から5のいずれか一項に記載の慢性疲労レベル判定方法。
【請求項7】
前記生体試料が、唾液である、請求項3から6のいずれか一項に記載の慢性疲労レベル判定方法。
【請求項8】
sIgAに特異的に結合する結合物質、およびコルチゾールに特異的に結合する結合物質を含み、請求項3から7のいずれか一項に記載の慢性疲労レベル判定方法に使用する、判定試薬。
【請求項9】
前記結合物質が、抗体、およびアプタマーの少なくとも一方である、請求項8記載の判定試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性疲労マーカ、慢性疲労レベル判定方法、および判定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、唾液中のαアミラーゼをマーカとして、ストレスの評価を行う方法が知られている(非特許文献1)。唾液に含まれる物質をマーカとすることで、採血等の侵襲的な検査を必要とすることなく、非侵襲で検査できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】"Salivary Alpha-Amylase as a Biomarker of Stress in Behavioral Medicine." Ali N, Nater UM. Int J Behav Med. 2020 Jan 3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被験者の慢性疲労レベルを判定可能な慢性疲労マーカが求められている。
【0005】
そこで、本発明は、非侵襲で検査可能な、慢性疲労マーカの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の慢性疲労マーカは、sIgAおよびコルチゾールの両方を含み、ヒトの慢性疲労レベルの指標となる。
【0007】
本発明の慢性疲労レベル判定方法は、
測定工程、および判定工程を含み、
前記測定工程は、日中のストレスのかかる作業を行う前のタイミングにおいて、被験者の生体試料における慢性疲労マーカの量を測定し、
前記慢性疲労マーカは、sIgAおよびコルチゾールの両方を含み、
前記判定工程において、前記測定された前記慢性疲労マーカの量に基づき、前記被験者の慢性疲労レベルを判定する。
【0008】
本発明の判定試薬は、sIgAに特異的に結合する結合物質、およびコルチゾールに特異的に結合する結合物質を含み、前記の慢性疲労レベル判定方法に使用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非侵襲で検査可能な、慢性疲労マーカを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、コルチゾールの構造式である。
図2図2は、急性ストレスの測定に用いられるアンケートの一例を示す図である。
図3図3は、実施例1における、実験のスケジュールを示す図である。
図4図4は、実施例1における、唾液マーカ濃度を示すグラフである。
図5図5は、実施例1における、唾液マーカ濃度を示すグラフである。
図6図6は、蓄積疲労の測定に用いられるアンケートの一例を示す図である。
図7図7は、実施例2における、CSFIレーダーチャートである。
図8図8は、実施例2における、CSFIレーダーチャートである。
図9図9は、実施例3における、CSFIレーダーチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の慢性疲労マーカは、前記sIgAおよびコルチゾールが、唾液中のsIgAおよびコルチゾールである、という態様であってもよい。
【0012】
本発明の慢性疲労レベル判定方法は、前記測定工程は、さらに、夜間のストレスのかかる作業を行う前のタイミングにおいて、前記被験者の生体試料におけるsIgAの量を測定し、前記判定工程において、前記日中の作業前に測定されたsIgAの量が、前記夜間の作業前に測定されたsIgAの量と比較して同程度または少ない場合、および、前記日中の作業前および前記夜間の作業前に測定されたsIgAの量が、高濃度で推移している場合に、前記被験者の慢性疲労のレベルが高いと判定する、という態様であってもよい。
【0013】
本発明の慢性疲労レベル判定方法は、前記判定工程において、複数の日にわたって測定された前記日中の作業前に測定されたコルチゾールの量が、低濃度で推移している場合に、前記被験者の慢性疲労レベルが高いと判定する、という態様であってもよい。
【0014】
本発明の慢性疲労レベル判定方法は、前記測定工程は、さらに、夜間のストレスのかかる作業を行う前のタイミングにおいて、前記被験者の生体試料におけるsIgAの量を測定し、前記判定工程において、前記日中の作業前および前記夜間の作業前に測定されたsIgAの量が、高濃度で推移しており、且つ、複数の日にわたって測定された、前記日中の作業前に測定されたコルチゾールの量が、低濃度で推移している場合に、前記被験者の慢性疲労レベルが高いと判定する、という態様であってもよい。
【0015】
本発明の慢性疲労レベル判定方法は、前記生体試料が、唾液である、という態様であってもよい。
【0016】
本発明の判定試薬は、前記結合物質が、抗体、およびアプタマーの少なくとも一方である、という態様であってもよい。
【0017】
本明細書で使用する用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で用いることができる。
【0018】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態には限定されない。
【0019】
(マーカ)
本発明の慢性疲労マーカは、sIgA(Secretory Immunoglobulin A:分泌型免疫グロブリンA)およびコルチゾールの少なくとも一方を含み、ヒトの慢性疲労レベルの指標となる。
【0020】
コルチゾールは、図1に示す構造式で表される副腎皮質ホルモンである。
【0021】
前記sIgAおよびコルチゾールは、例えば、それぞれ、生体試料から取得することができる。また、化学合成により取得することもできる。
【0022】
前記sIgAおよびコルチゾールは、例えば、それぞれ、唾液、涙液、鼻汁、尿等の非血液成分中のsIgAおよびコルチゾールである。前記生体試料は、特に制限されず、例えば、ヒトの生体試料である。
【0023】
本発明の慢性疲労マーカは、慢性疲労レベルの指標となる。
【0024】
前記慢性疲労は、特に制限されない。前記慢性疲労は、例えば、蓄積疲労、および蓄積的疲労と言い換えることができる。前記慢性疲労は、例えば、後述する図6に示すアンケートを用いて、蓄積的疲労徴候インデックスにより、測定することができる。
【0025】
本発明のマーカは、例えば、sIgAおよびコルチゾールの両方を含んでもよい。これにより、例えば、sIgAおよびコルチゾールの検出結果の組合わせに応じて、慢性疲労レベルを判定することができる。
【0026】
本発明のマーカは、例えば、さらに、sIgAおよびコルチゾール以外の物質を含んでもよい。前記sIgAおよびコルチゾール以外の物質は、特に制限されず、本発明のマーカ以外のマーカでもよい。
【0027】
本発明のマーカは、例えば、後述する本発明の慢性疲労レベル判定方法における、定量対象として用いられてもよい。
【0028】
本発明のマーカを検出する方法、および本発明のマーカを用いて慢性疲労レベルを判定する方法等は、後述する、本発明の慢性疲労レベル判定方法等の記載を参照することができる。
【0029】
本発明のマーカによれば、例えば、従来、問診や本人の訴えによらなければ、本人以外の人が慢性疲労レベルを知ることができなかったのに対し、より早期の診断、およびバーンアウト前の診断等が可能になる。このため、介入期間が短いことから、精神障害等のメンタル不調の発生の防止、離職率の減少、バーンアウトの防止等の効果をもたらすことができる。また、本発明のマーカによれば、例えば、主観評価等の、本発明の慢性疲労レベル判定方法以外の慢性疲労レベル評価に加えて、さらに、生体情報に基づく検査を行うことで、より正確に本人の状態を把握することができる。
【0030】
(慢性疲労レベル判定方法)
本発明の慢性疲労レベル判定方法は、測定工程、および判定工程を含み、前記測定工程は、日中のストレスのかかる作業を行う前のタイミングにおいて、被験者の生体試料における慢性疲労マーカの量を測定し、前記慢性疲労マーカは、sIgA(Secretory Immunoglobulin A:分泌型免疫グロブリンA)およびコルチゾールの少なくとも一方であり、前記判定工程において、前記測定された前記慢性疲労マーカの量に基づき、前記被験者の慢性疲労レベルを判定する。
【0031】
前記生体試料は、例えば、唾液、涙液、鼻汁、尿等の非血液成分である。前記生体試料は、特に制限されず、例えば、ヒトの生体試料である。
【0032】
前記ストレスのかかる作業は、特に制限されない。前記ストレスは、精神的ストレス、および肉体的ストレスを含む。また、例えば、生理的疲労、末梢性疲労、および身体作業による肉体疲労等を含む。前記ストレスのかかる作業は、例えば、日勤および夜勤等の勤務があげられる。
【0033】
前記ストレスのかかる作業は、例えば、所定の条件に基づき、予め設定してもよい。前記所定の条件は、既知のストレス評価手法によるものでもよいし、業務上の身体的または精神的ストレスの大小に基づくものでもよいし、歩数、活動量、および消費カロリー等から算出してもよい。前記既知のストレス評価手法は、具体的には、例えば、職業性ストレス簡易調査票、K6、およびCES-D(the Center for Epidemiologic Studies - Depression Scale)等があげられる。また、図2に示すように、「自覚症しらべ」(急性ストレスの測定)等のアンケートでもよい。
【0034】
「日中のストレスのかかる作業」の時間帯は、特に制限されず、具体的には、例えば、08:30から17:00までの作業があげられる。また、後述する「夜間のストレスのかかる作業」の時間帯は、特に制限されず、具体的には、例えば、16:30から09:00までの作業があげられる。「日中の作業」、および「夜間の作業」は、例えば、それぞれ、日勤、および夜勤ということもできる。
【0035】
「ストレスのかかる作業を行う前のタイミング」は、特に制限されず、例えば、前記ストレスのかかる作業を行う、0~60分前、および15~30分前があげられる。また、前記作業開始から0~30分後等でもよい。本発明において、「日中の作業前に測定する」とは、例えば、日勤の作業開始の1時間前~作業開始後30分後の間に測定を行うことを意味し、具体的には、例えば、7:30~9:00の間に測定を行うことを意味する。本発明において、「夜間の作業前に測定する」とは、例えば、夜勤の作業開始の1時間30分前~作業開始後30分後の間に測定を行うことを意味し、具体的には、例えば、15:00~17:00の間に測定を行うことを意味する。
【0036】
前記慢性疲労マーカである、sIgAおよびコルチゾールの量の測定は、例えば、sIgAおよびコルチゾールの量を直接測定してもよいし、mRNA、および前駆体等の、間接的な量を測定し、前記間接的な量に基づき、算出してもよい。前記sIgAおよびコルチゾールの量は、複数の測定結果の組合せでもよく、例えば、複数回の測定結果の平均値等でもよい。前記複数回は、特に制限されず、例えば、2回~10回、2回、および4回があげられる。
【0037】
前記sIgAおよびコルチゾールの量は、例えば、生体試料中のsIgAおよびコルチゾールの濃度があげられる。前記生体試料中のsIgAおよびコルチゾールの濃度は、例えば、唾液採取キット(商品名:サリソフト、ザルスタット株式会社製)を用いて採取した唾液試料に対し、ELISAキット(それぞれ、商品名:ELISA Kit for Secretory Immunoglobulin A (sIgA)、Cloud-clone社製、製品番号:#SEA641HU、サンドイッチ法;および、商品名:YK241 Cortisol (Saliva) EIAキット、矢内原研究所製、製品番号:#YK241、競合法)を用いてsIgAおよびコルチゾールの検出を行うことにより、測定することができる。
【0038】
前記判定工程において、前記測定されたsIgAおよびコルチゾールの量に基づき、前記被験者の慢性疲労レベルを判定する。
【0039】
前記測定工程は、さらに、夜間のストレスのかかる作業を行う前のタイミングにおいて、前記被験者の生体試料における前記慢性疲労マーカの量を測定してもよい。
【0040】
前記慢性疲労マーカが、sIgAである場合、例えば、前記判定工程において、前記日中におけるsIgAの量が、前記夜間におけるsIgAの量と比較して同程度または少ない場合、および、複数の日にわたって測定された前記日中および前記夜間におけるsIgAの量が、高濃度で推移している場合に、前記被験者の慢性疲労のレベルが高いと判定することができる。
【0041】
「複数の日」は、2日以上であればよく、特に制限されない。
【0042】
「前記日中におけるsIgAの量が、前記夜間におけるsIgAの量と比較して同程度または少ない」かの判断は、特に制限されず、例えば、前記日中におけるsIgAの量が、前記夜間におけるsIgAの量以下であるかを判断してもよいし、前記日中におけるsIgAの量が、前記夜間におけるsIgAの量と比較して、所定の基準値を超えて少ないかを判断してもよい。前記基準値は、適宜設定でき、例えば、慢性疲労レベルが既知の被験者の生体試料を用いた測定値に基づき、予め設定することができる(以下、同様)。
【0043】
「複数の日にわたって測定された前記日中および前記夜間におけるsIgAの量が、高濃度で推移している」かの判断は、特に制限されず、例えば、複数の日にわたって測定された前記日中および前記夜間におけるsIgAの量が、それぞれ、所定の基準値よりも高濃度であるかを判断してもよいし、sIgAの量の平均値、およびばらつき等により、判断してもよい。前記基準値は、例えば、8000、9000、10000ng/mlである。
【0044】
また、前記慢性疲労マーカが、コルチゾールである場合、例えば、前記判定工程において、複数の日にわたって測定された前記日中におけるコルチゾールの量が、低濃度で推移している場合に、前記被験者の慢性疲労レベルが高いと判定することができる。
【0045】
「複数の日にわたって測定された前記日中におけるコルチゾールの量が、低濃度で推移している」かの判断は、特に制限されず、例えば、複数の日にわたって測定された前記日中におけるコルチゾールの量が、それぞれ、所定の基準値よりも低濃度であるかを判断してもよいし、コルチゾールの量の平均値、およびばらつき等により、判断してもよい。前記基準値は、例えば、0.5、0.6、0.7、0.8μg/dlである。
【0046】
本発明の慢性疲労レベル判定方法は、例えば、前記測定工程において、前記被験者の生体試料における、sIgAおよびコルチゾールの両方の量を測定してもよい。そして、前記判定工程において、前記測定された両方の量に基づき、前記被験者の慢性疲労レベルを判定してもよい。
【0047】
この場合、例えば、前記判定工程において、複数の日にわたって測定された前記日中および前記夜間におけるsIgAの量が、高濃度で推移しており、且つ、複数の日にわたって測定された前記日中におけるコルチゾールの量が、低濃度で推移している場合に、前記被験者の慢性疲労レベルが高いと判定することができる。
【0048】
本発明の慢性疲労レベル判定方法は、例えば、前記測定工程、および前記判定工程において、さらに、sIgAおよびコルチゾール以外の物質を測定し、前記測定された量に基づき、慢性疲労レベルを判定してもよい。
【0049】
(判定試薬)
本発明の判定試薬は、sIgAおよびコルチゾールの少なくとも一方に特異的に結合する結合物質を含み、前記本発明の慢性疲労レベル判定方法に使用するものである。前記結合物質は、例えば、sIgAおよびコルチゾールにそれぞれ特異的に結合する抗体、およびアプタマー等があげられる。
【0050】
本発明の判定試薬は、例えば、sIgAおよびコルチゾールの両方にそれぞれ特異的に結合する結合物質を含んでもよい。これにより、例えば、sIgAおよびコルチゾールの検出結果の組合わせに応じて、慢性疲労レベルを判定することができる。
【実施例0051】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコルに基づいて使用した。
【0052】
[実施例1]
ストレスのかかる作業を行う前のタイミングにおいて、被験者の生体試料におけるsIgAおよびコルチゾールの量を測定し、前記測定されたsIgAおよびコルチゾールの量に基づき、前記被験者の群分けを行った。
【0053】
(唾液マーカ測定)
看護師である被験者(20~30歳代;46人)について、図3に示すスケジュールで、日勤(8時30分~17時)および夜勤(16時30分~翌9時)の勤務前(図中、黒丸で示す。)に、2日間で計4回、唾液を採取した。前記唾液の採取時刻は、日勤の場合、7時30分~9時とし、夜勤の場合、15時~17時とした。前記唾液の採取は、唾液採取キット(商品名:サリソフト、ザルスタット株式会社製)を用い、添付のマニュアルに従って行った。前記4回のサンプルを、それぞれ、夜勤_Day1、日勤_Day1、日勤_Day2、夜勤_Day2とした。
【0054】
前記採取した唾液中のsIgAおよびコルチゾール濃度(唾液マーカ濃度)を、ELISA法により測定した。前記測定は、ELISAキット(それぞれ、商品名:ELISA Kit for Secretory Immunoglobulin A (sIgA)、Cloud-clone社製、製品番号:#SEA641HU、サンドイッチ法;商品名:YK070 Human Chromogranin A EIAキット、矢内原研究所製、製品番号:#YK070、競合法;商品名:YK241 Cortisol (Saliva) EIAキット、矢内原研究所製、製品番号:#YK241、競合法)を用い、添付のマニュアルに従って行った。
【0055】
前記sIgAの測定において、前記唾液を1/1000の濃度に希釈し、100μlのサンプルを調製した。前記サンプルについて、前記キット添付の試薬と反応させた後、マイクロプレートリーダー(Infinite M1000Pro、TECAN社製)を用い、波長450nmの吸光度を測定した。また、前記コルチゾールの測定において、前記唾液を1/2の濃度に希釈し、50μlのサンプルを調製し、同様にして、波長450nmの吸光度を測定した。
【0056】
前記吸光度の値から、前記各唾液マーカ濃度を算出した。前記唾液マーカ濃度の算出は、4パラメータロジスティック回帰(4PL)から標準曲線を作成することにより行った。なお、各条件につき2つの前記サンプルを調製して前記吸光度の測定を行い、前記吸光度の測定値の平均値を算出し、この値を、前記濃度の算出に用いた。
【0057】
(クラスター分析)
前記勤務前および勤務後のそれぞれにおける前記各唾液マーカ濃度の結果に基づき、階層型クラスター分析(ward法)を用いて、前記被験者を群分けした。
【0058】
(データ解析)
本実施例および後述する実施例2において、データの解析は、JMP Pro software, ver.14.0 (SAS Institute Inc, Cary, NC, USA)を使用し、有意水準を5%に設定して行った。各変数は、断りが無い限り、連続変数は中央値(四分位範囲)、カテゴリカル変数は度数(%)を用いて表記した。
【0059】
この結果、図4に示すように、sIgA濃度においては、計4回の勤務前の濃度が高濃度で推移した、高濃度推移グループ(high level group)(19名)、日勤前と夜勤前の濃度が同程度、または夜勤前の濃度の方がやや高い、夜間作業前高濃度グループ(Day ≦ Night group)(12名)、夜勤前よりも日勤前の濃度が高い、日中作業前高濃度グループ(Day > Night group)(11名)、の3つのクラスターに分類することができた。
【0060】
また、図5に示すように、コルチゾール濃度においては、日勤前の濃度が高濃度で推移している、高濃度推移グループ(25名)、低濃度で推移している、低濃度推移グループ(19名)、の2つのクラスターに分類することができた。
【0061】
以上のように、ストレスのかかる作業を行う前のタイミングにおいて、被験者の生体試料におけるsIgAおよびコルチゾールの量を測定し、前記測定されたsIgAおよびコルチゾールの量に基づき、前記被験者の群分けを行うことができた。
【0062】
[実施例2]
実施例1において測定したsIgAおよびコルチゾールの量と、前記被験者の慢性疲労レベルとが、関係することを確認した。
【0063】
(蓄積疲労の測定)
実施例1における前記被験者に対し、図3の前記スケジュールに示すように、夜勤(夜勤_Day1)の勤務前に、蓄積的疲労徴候インデックスによる蓄積疲労の測定を行った。前記蓄積疲労の測定は、図6に示すアンケートを用いて行った。具体的には、全81項目(アンケート項目1~81)の回答結果を、図6に示す特性項目群(カテゴリー)に分類し、前記各特性項目群についての平均訴え率を、式:「平均訴え率=(当該項目群への訴え総数)/(当該項目群の項目数×対象看護師数)×100」により算出した。なお、図6において、前記各特性項目群のうち、NF5-2、NF5-1、およびNF1が精神的側面における負担を表す指標であり、NF2-1、NF2-2、およびNF6が身体的側面における負担を表す指標であり、NF3、およびNF4が、社会的側面における負担を表す指標である。
【0064】
前記算出した前記特性項目群別の平均訴え率について、実施例1において群分けを行った前記クラスターごとに、CSFI(蓄積的疲労徴候インデックス)レーダーチャートを作成した。また、前記特性項目群別の平均訴え率について、前記クラスター間における比較を行った。前記比較は、Mann-Whitney U検定またはSteel-Dwass検定により行った。さらに、前記クラスターの関連について、Fisherの直接確率検定により分析を行った。
【0065】
これらの結果を、図7および8に示す。図7および8は、前記クラスターごとのCSFIレーダーチャートであり、図7が、sIgAの量に基づき群分けした前記クラスターの結果、図8が、コルチゾールの量に基づき群分けした前記クラスターの結果である。前記CSFIレーダーチャートにおいて、NF1(気力の減退)、NF2-1(一般的疲労感)、NF2-2(身体不調)、NF3(イライラの状態)、NF4(労働意欲の低下)、NF5-1(不安感)、NF5-2(抑うつ感(抑うつ状態))、およびNF6(慢性疲労徴候)の結果を示す。
【0066】
図7に示すように、sIgAの前記高濃度推移グループ(図中、外側の実線のチャート)では、前記日中作業前高濃度グループ(図中、内側のチャート)と比較して、「イライラの状態」(p=0.036)、「労働意欲の低下」(p=0.020)、「抑うつ感」(p=0.010)、「気力の減退」(p=0.028)において、有意に訴え率が高かった。
【0067】
また、前記特性項目群を、前記精神的側面における負担を表す指標、前記身体的側面における負担を表す指標、および前記社会的側面における負担を表す指標に分けて解析を行った結果、前記高濃度推移グループ(図中、外側の実線のチャート)では、前記日中作業前高濃度グループ(図中、内側のチャート)と比較して、前記精神的側面(p=0.028)、および前記社会的側面(p=0.008)において、有意に訴え率が高かった。
【0068】
つぎに、sIgAの前記夜間作業前高濃度グループ(図中、外側の点線のチャート)では、前記日中作業前高濃度グループ(図中、内側のチャート)と比較して、「労働意欲の低下」(p=0.037)、および「身体不調」(p=0.042)において、有意に訴え率が高かった。
【0069】
また、前記夜間作業前高濃度グループ(図中、外側の点線のチャート)では、前記日中作業前高濃度グループ(図中、内側のチャート)と比較して、前記社会的側面(p=0.026)において、有意に訴え率が高かった。
【0070】
なお、前記高濃度推移グループ(図中、外側の実線のチャート)と前記夜間作業前高濃度グループ(図中、外側の点線のチャート)とを比較したところ、いずれの項目についても、統計的有意差はなかった。
【0071】
図8に示すように、コルチゾールの前記低濃度推移グループ(図中、外側のチャート)では、前記高濃度推移グループ(図中、内側のチャート)と比較して、「イライラ感」(p=0.030)、および「労働意欲の低下」(p=0.040)において、有意に訴え率が高かった。
【0072】
また、前記低濃度推移グループ(図中、外側のチャート)では、前記高濃度推移グループ(図中、内側のチャート)と比較して、前記社会的側面(p=0.018)において、有意に訴え率が高かった。
【0073】
以上のように、実施例1において測定したsIgAおよびコルチゾールの量と、前記被験者の慢性疲労レベルとが、関係することを確認できた。
【0074】
[実施例3]
実施例1において測定したsIgAおよびコルチゾールの両方の量の組合わせと、前記被験者の慢性疲労レベルとが、関係することを確認した。
【0075】
実施例1において群分けを行った、sIgAおよびコルチゾールの前記クラスターについて、前記被験者の分布を分析した。
【0076】
この結果を、表1に示す。表1は、前記被験者の分布を示す表であり、表中の数字は、各グループに含まれる人数およびその割合(%)を示す。表1に示すように、sIgAの前記高濃度推移グループに分類され、且つ、コルチゾールの前記低濃度推移グループに分類された前記被験者の割合が多かった(n=13、68.4%)(sIgA高濃度-コルチゾール低濃度グループ)。
【表1】
【0077】
前記sIgA高濃度-コルチゾール低濃度グループと、その他の前記被験者のグループとについて、実施例2と同様にして、CSFIレーダーチャートの作成、およびクラスター間における比較を行った。
【0078】
この結果を、図9に示す。図9は、前記クラスターごとのCSFIレーダーチャートである。
【0079】
図9に示すように、前記sIgA高濃度-コルチゾール低濃度グループ(図中、外側のチャート)では、前記その他のグループ(図中、内側のチャート)と比較して、「慢性疲労兆候」(p=0.034)および「イライラ感」(p=0.009)において、有意に訴え率が高かった。
【0080】
また、前記sIgA高濃度-コルチゾール低濃度グループ(図中、外側のチャート)では、前記その他のグループ(図中、内側のチャート)と比較して、前記社会的側面(p=0.012)において、有意に訴え率が高かった。
【0081】
以上のように、実施例1において測定したsIgAおよびコルチゾールの両方の量の組合わせと、前記被験者の慢性疲労レベルとが、関係することを確認できた。
【0082】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、非侵襲で検査可能な、慢性疲労マーカを提供することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9