(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106314
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】疎水性ナノファイバー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/188 20060101AFI20220712BHJP
C08B 37/00 20060101ALI20220712BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20220712BHJP
【FI】
D06M13/188
C08B37/00 C
D06M101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001182
(22)【出願日】2021-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】芝上 基成
【テーマコード(参考)】
4C090
4L033
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090AA08
4C090BA23
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB35
4C090BB97
4C090BC07
4C090BD04
4C090BD19
4C090BD36
4C090CA39
4C090DA11
4C090DA31
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC03
4L033BA17
(57)【要約】
【課題】疎水性ナノファイバー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一つのグルコース単位中の少なくとも一つのヒドロキシ基の水素原子が-COR
1(R
1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す)で置換されたβ-1,3-グルカンを含む、疎水性ナノファイバーとする。少なくとも一つのグルコース単位中の少なくとも一つのヒドロキシ基の水素原子が-COR
1(R
1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す)で置換されたβ-1,3-グルカンを含む疎水性ナノファイバーの集合体を、有機溶媒中に浸漬して攪拌し疎水性ナノファイバーを得ることを含む、製造方法とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのグルコース単位中の少なくとも一つのヒドロキシ基の水素原子が-COR1(R1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す)で置換されたβ-1,3-グルカンを含む、疎水性ナノファイバー。
【請求項2】
β-1,3-グルカンが、下記式(I):
(式(I)中、R
2はそれぞれ独立して、水素原子又は-COR
1を表し、R
1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表す。但し、R
2の少なくとも一つは-COR
1である)
で表される構造を有する、請求項1に記載の疎水性ナノファイバー。
【請求項3】
β-1,3-グルカンが、下記式(II):
(式(II)中、R
2はそれぞれ独立して、水素原子又は-COR
1を表し、R
1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、mは1以上の整数を表す。但し、R
2の少なくとも一つは-COR
1である)
で表される構造を有する、請求項1又は2に記載の疎水性ナノファイバー。
【請求項4】
-COR1におけるR1が脂肪族炭化水素基であり、該脂肪族炭化水素基が炭素数1以上25以下の直鎖状又は分岐状脂肪族炭化水素基である、請求項1から3のいずれか一項に記載の疎水性ナノファイバー。
【請求項5】
β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR1の数が1.00以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の疎水性ナノファイバー。
【請求項6】
β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR1の数が2.90以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の疎水性ナノファイバー。
【請求項7】
繊維状充填剤として用いられる、請求項1から6のいずれか一項に記載の疎水性ナノファイバー。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の疎水性ナノファイバーの集合体。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の疎水性ナノファイバーの製造方法であり、
少なくとも一つのグルコース単位中の少なくとも一つのヒドロキシ基の水素原子が-COR1(R1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す)で置換されたβ-1,3-グルカンを含む疎水性ナノファイバーの集合体を、有機溶媒中に浸漬して疎水性ナノファイバーを得ることを含む、製造方法。
【請求項10】
有機溶媒が、ハロゲン溶媒、プロトン性溶媒、及び非プロトン性溶媒からなる群から選択される1以上を含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR1の数が1.00以上である、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR1の数が2.90以下である、請求項9から11のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性ナノファイバー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノファイバーは、平均直径が1~100nm程度でかつ長さが直径の100倍以上である繊維状物質であり、原料の違いによって、合成高分子系ナノファイバー、天然高分子系ナノファイバー、及び炭素系ナノファイバーに分類される。天然高分子系ナノファイバーは、天然に存在する多糖を利用して得られることから、バイオマスの有効利用及び安全性の点で有利である。
【0003】
一方、樹脂の特性を向上するために樹脂にフィラーを充填することが行われている。樹脂に充填するフィラーとして繊維状物質を用いる場合、樹脂中に高い分散性で混錬可能な疎水性の繊維状物質であることが求められる。しかし、これまでにそのような性質をもつ天然高分子系ナノファイバーは知られていない。
【0004】
天然高分子系ナノファイバーとして、β-1,4-グルカンによって構成されるセルロースを原料物質とするセルロースナノファイバーが知られている。セルロースナノファイバーは、それ自体は親水性であり、水中で凝集する性質を持っている。分散性に優れるセルロースナノファイバーとして、化学変性されたセルロースナノファイバー(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)があるが、やはり親水性であり、有機溶媒などの疎水的環境下での分散性は劣る。特許文献1には、セルロースエステルとフルオレン系化合物とを含む樹脂組成物が記載されているが、ナノファイバーを形成することは記載されていない。
【0005】
本発明者は、これまでに、ミドリムシが産生する貯蔵多糖であるパラミロンに種々の化学修飾を施して、バイオマスとしての有用性を検討してきた。パラミロンは、グルコースがβ-1,3結合で連結された構造を有するβ-1,3-グルカンである。特許文献2には、β-1,3-グルカンのグルコース残基の6-位ヒドロキシ基を環状ジカルボン酸でアシル化したナノファイバーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-86254号公報
【特許文献2】特開2014-37657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2で提案されているβ-1,3-グルカンナノファイバーは、ナノファイバー分子のアシル基が分子間で相互作用することによりナノファイバー同士の凝集力が向上し、追加の接着成分を含有することなくフィルム等を形成することができる。また、特許文献2で提案されているβ-1,3-グルカンナノファイバーは、アニオン性の官能基を有するため親水性のナノファイバーであるといえる。
【0008】
本発明者は、樹脂や有機溶媒等の疎水的環境下で凝集することなく分散可能なナノファイバーについて研究を重ねた。その過程で、アシル化されたβ-1,3-グルカンを含むゲル状又はゲルを乾燥させた固体状のナノファイバー集合体を、所定の有機溶媒中に浸漬することで個々のナノファイバーに解繊できるとの知見を得て、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は、疎水性ナノファイバー及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を有する。
[1]少なくとも一つのグルコース単位中の少なくとも一つのヒドロキシ基の水素原子が-COR
1(R
1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す)で置換されたβ-1,3-グルカンを含む、疎水性ナノファイバー。
[2]β-1,3-グルカンが、下記式(I):
(式(I)中、R
2はそれぞれ独立して、水素原子又は-COR
1を表し、R
1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表す。但し、R
2の少なくとも一つは-COR
1である)
で表される構造を有する、[1]に記載の疎水性ナノファイバー。
[3]β-1,3-グルカンが、下記式(II):
(式(II)中、R
2はそれぞれ独立して、水素原子又は-COR
1を表し、R
1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、mは1以上の整数を表す。但し、R
2の少なくとも一つは-COR
1である)で表される構造を有する、[1]又は[2]に記載の疎水性ナノファイバー。
[4]-COR
1におけるR
1が脂肪族炭化水素基であり、該脂肪族炭化水素基が炭素数1以上25以下の直鎖状又は分岐状脂肪族炭化水素基である、[1]から[3]のいずれかに記載の疎水性ナノファイバー。
[5]β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR
1の数が1.00以上である、[1]から[4]のいずれかに記載の疎水性ナノファイバー。
[6]β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR
1の数が2.90以下である、[1]から[5]のいずれかに記載の疎水性ナノファイバー。
[7]繊維状充填剤として用いられる、[1]から[6]のいずれかに記載の疎水性ナノファイバー。
[8][1]から[7]のいずれかに記載の疎水性ナノファイバーの集合体。
[9][1]から[7]のいずれかに記載の疎水性ナノファイバーの製造方法であり、
少なくとも一つのグルコース単位中の少なくとも一つのヒドロキシ基の水素原子が-COR
1(R
1は直鎖状又は分岐状脂肪族炭化水素基を表す)で置換されたβ-1,3-グルカンを含む疎水性ナノファイバーの集合体を、有機溶媒中に浸漬して疎水性ナノファイバーを得ることを含む、製造方法。
[10]有機溶媒が、ハロゲン溶媒、プロトン性溶媒、及び非プロトン性溶媒からなる群から選択される1以上を含む、[9]に記載の製造方法。
[11]β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR
1の数が1.00以上である、[9]又は[10]に記載の製造方法。
[12]β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR
1の数が2.90以下である、[9]から[11]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、疎水性ナノファイバー及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】疎水性ナノファイバー集合体の乾燥後の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】疎水性ナノファイバー集合体を解繊して疎水性ナノファイバーを得る方法についての説明図である。
【
図3】疎水性ナノファイバー集合体1,2を、それぞれクロロホルム、ジクロロメタン、及びDMFに浸漬して得られた生成物の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【
図4】疎水性ナノファイバー3,4を、それぞれクロロホルム、ジクロロメタン、及びDMFに浸漬して得られた生成物の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【
図5】疎水性ナノファイバー5~7を、それぞれクロロホルム、ジクロロメタン、及びDMFに浸漬して得られた生成物の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【
図6】疎水性ナノファイバー8,9を、それぞれクロロホルム、ジクロロメタン、及びDMFに浸漬して得られた生成物の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【
図7】疎水性ナノファイバー10,11を、それぞれクロロホルム、ジクロロメタン、及びDMFに浸漬して得られた生成物の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【
図8】疎水性ナノファイバー12を、それぞれクロロホルム、ジクロロメタン、及びDMFに浸漬して得られた生成物の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【
図9】疎水性ナノファイバー集合体1~12をDMSOに浸漬して得られた生成物の凍結乾燥体の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
[疎水性ナノファイバー]
本実施形態に係る疎水性ナノファイバーは、少なくとも一つのグルコース単位中の少なくとも一つのヒドロキシ基の水素原子が-COR1(R1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す)で置換されたβ-1,3-グルカンを含む。この疎水性ナノファイバーは、少なくとも一つのグルコース単位中の少なくとも一つのヒドロキシ基がアシル化されている。β-1,3-グルカンを含む疎水性ナノファイバーは、これまでに知られていない新規なナノファイバーである。
【0015】
「疎水性ナノファイバー」は、有機溶媒中で分散する又はゲルとして存在するナノファイバーを意味している。疎水性ナノファイバーが分散した有機溶媒は、通常は透明であり、ナノファイバーの解繊状態が良好であると粘性を持つこともある。有機溶媒中で分散することができるので、従来困難とされてきたポリプロピレン等の疎水性樹脂や疎水性繊維へ高い分散性で混錬が容易なナノファイバーとすることができる。
「疎水性ナノファイバー」は、後述する三重らせん構造を有するアシル化β-1,3-グルカンが数十本集合して構成されたものであり、走査型電子顕微鏡写真又は走査型プローブ顕微鏡写真において繊維径がナノメートルスケールの繊維状物質として観察される。
【0016】
「β-1,3-グルカン」は、グルコースがβ-1,3結合で連結された構造を有する多糖を意味している。すなわち、β-1,3-グルカンは、β-グルコースの1位と別のβグルコースの3位とがβ-1,3-グルコシド結合を形成している構造を有している。「β-1,3-グルカン」との用語には、β-1,3-グルカン及びその誘導体を含む。β-1,3-グルカンは、主に藻類や菌類などにより生産される。
【0017】
β-1,3-グルカンは、グルコースがβ-1,3結合で連結された構造により、水中で3分子が会合して三重らせん構造を構築する。これにより三重らせん構造を有するナノファイバーが得られる。これに対して、セルロース等のβ-1,4-グルカンは、グルコースがβ-1,4-結合で連結された構造によりシート構造をとる。三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンのナノファイバーは、セルロースナノファイバーと比較して繊維直径が小さいので、引張強度及び持続長のような繊維特性に優れることが期待される。
なお、β-1,3-グルカンが三重らせん構造を形成していることは、例えば、X線結晶構造解析、色素存在下での円二色性スペクトル測定および可視吸収スペクトル、透過電子顕微鏡観察、又は走査プローブ顕微鏡観察などにより、確認することができる。
【0018】
β-1,3-グルカンは、水中で自発的にナノファイバーを形成することができるので原料からボトムアップ方式にナノファイバーを製造することができる。そのため、疎水性天然高分子を機械的方法でナノ単位まで粉砕するトップダウン方式で製造されるナノファイバーよりもエネルギー消費が少ない方法で製造できる点でも有利である。
【0019】
三重らせん構造を形成したβ-1,3-グルカンは、水中から回収した状態ではゲル状の塊として、乾燥後は固体状に、凝集している(
図1:乾燥固体)。そのため、樹脂中に分散させることが難しい。
しかしながら驚くべきことに、β-1,3-グルカンを構成する少なくとも一つのグルコース単位中の少なくとも一つのヒドロキシ基の水素原子をアシル基で置換されたβ-1,3-グルカンは、水中で三重らせん構造を形成しかつ凝集体を形成した場合でも、その後に有機溶媒中に浸漬することで解繊して疎水性ナノファイバーを形成することが分かった(
図2を参照)。なお、
図2中の「塊状の生成物固体」は、-COR
1基で置換されたβ-1,3-グルカンを水中に入れることで生成される沈殿物のことであり、疎水性ナノファイバーの集合体である。
その理由は、現段階では明らかではないが、使用した溶媒の分子が、凝集した疎水性ナノファイバー間の比較的弱い相互作用を弱める一方で、ナノファイバーを構成している疎水化したβ-1,3-グルカン分子間の強固な相互作用には影響を与えないように作用し、解繊がうまく進んで疎水性ナノファイバーが出現したためであると考えられる。
なお、アシル基を有するβ-1,3-グルカンは、階層構造を構築すると考えられる。すなわち、1分子の状態では一本鎖のアシル化β-1,3-グルカンであり、3分子が会合して三重らせん構造を有するアシル化β-1,3-グルカンとなり、さらに三重らせん構造が数十本集合して疎水性ナノファイバーを形成する。
よって、本実施形態に係る疎水性ナノファイバーは、水中で析出した疎水性ナノファイバーの集合体が、適当な溶媒に浸漬されることで疎水性ナノファイバーの段階まで解繊され(つまりそれよりも下の階層まで解繊されることなく)ナノファイバーとして得られたと考えられる。
【0020】
ゲル状の塊である疎水性ナノファイバー集合体は、乾燥状態であっても有機溶媒中で解繊して疎水性ナノファイバーを形成することができるので、ゲル状の塊を乾燥させて固体の「疎水性ナノファイバーの素」として容易に保存及び運搬が可能である。これに対して、セルロースナノファイバーは、溶媒中に分散した状態でのみ安定にナノファイバーの形態を保つことができるので、液体での保存及び運搬が必要である。
【0021】
-COR1におけるR1は、脂肪族又は芳香族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基としては、好ましくは炭素数1以上25以下であり、より好ましくは炭素数1以上20以下であり、さらに好ましくは炭素数1以上15以下であり、よりさらに好ましくは炭素数1以上12以下であり、特に好ましくは炭素数1以上8以下であり、より特に好ましくは炭素数1以上5以下である。-COR1におけるR1を炭素数1以上25以下の脂肪族炭化水素基にすることで、より疎水性を高めることができる。芳香族炭化水素基としては、好ましくは炭素数6以上25以下であり、より好ましくは炭素数6以上20以下であり、さらに好ましくは炭素数6以上15以下であり、よりさらに好ましくは炭素数6以上12以下である芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0022】
-COR1におけるR1として、1種類の脂肪族又は芳香族炭化水素基を有していてもよく、2種類以上の脂肪族又は芳香族炭化水素基を有していてもよい。R1として、2種類以上の脂肪族又は芳香族炭化水素基を有する場合は、三重らせん構造の形成が容易である観点から、いずれも炭素数が10以下(より好ましくは炭素数が8以下)の脂肪族又は芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0023】
脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状構造を有していてもよい。炭素数が2以上の場合、炭素-炭素単結合のみからなるアルキル基であってもよく、二重結合又は三重結合を1又は2以上含むアルケニル基やアルキニル基であってもよい。-COR1におけるR1は、アシル化の容易さ及び三重らせん構造の形成しやすさ等から、直鎖状又は分岐状アルキル基であることが好ましく、直鎖状アルキル基であることがより好ましい。
【0024】
直鎖状又は分岐状脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、1-エチルヘキシル基、1-エチルヘプチル基、1-エチルオクチル基、1-エチルノニル基、1-プロピルペンチル基、1-プロピルヘキシル基、1-プロピルヘプチル基、1-プロピルオクチル基、1-ブチルペンチル基、1-ブチルヘキシル基、1-ブチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-エチルヘプチル基、2-エチルオクチル基、2-エチルノニル基、2-プロピルペンチル基、2-プロピルヘキシル基、2-プロピルヘプチル基、2-プロピルオクチル基等が挙げられる。これらから選択される1以上の直鎖状又は分岐状脂肪族炭化水素基を有していることが好ましい。
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
中でも、アシル化効率の高さ及び三重らせん構造を形成しやすさの観点から、メチル基、エチル基、及びプロピル基から選択される1以上が好ましい。
【0025】
一実施形態において、β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR1の数(以下、「置換度」ともいう。)は、1.00以上であることが好ましく、2.90以下であることが好ましい。β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR1の数は、より好ましくは1.10~2.80であり、よりさらに好ましくは1.10~2.70であり、特に好ましくは1.15~2.60である。
β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR1の数を1.00以上にすることで、疎水性のナノファイバーとすることができる。β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR1の数を2.90以下にすることで、有機溶媒中でより容易に解繊することができる。
一実施形態において、β-1,3-グルカンのグルコース単位当たりの-COR1の数は、1.16以上2.52以下である。
【0026】
置換度の調整方法は、アシル化反応における温度及び/又は時間を調整することやアシル化剤の仕込み量を調整すること等により行うことができる。例えば、置換度を高めるにはアシル化剤を多くするか、反応温度を高くする、あるいは反応時間を長くすればよく、置換度を低めるにはアシル化剤を少なくするか、反応温度を低くする、あるいは反応時間を短くすればよい。
【0027】
一実施形態において、β-1,3-グルカンは、式(I):
で表される構造を有する。
式(I)中、R
2はそれぞれ独立して、水素原子又は-COR
1を表し、R
1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表す。但し、R
2の少なくとも一つは-COR
1である。-COR
1の種類及び置換度については上記のとおりである。
式(I)の構造を有するβ-1,3-グルカンとしては、ラミナラン、シゾフィラン、パキマン、レンチナン、カードラン、パラミロン等が挙げられる。
【0028】
一実施形態において、β-1,3-グルカンは、式(II):
で表される構造を有する。
式(II)中、R
2はそれぞれ独立して、水素原子又は-COR
1を表し、R
1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、mは1以上の整数を表す。但し、R
2(好ましくは整数mで表される数の繰り返し単位中のR
2)の少なくとも一つは-COR
1である。-COR
1の種類及び置換度については上記のとおりである。
式(II)の構造を有するβ-1,3-グルカンとしては、パラミロン、カードラン等が挙げられる。
パラミロンはグルコースが2000個ほどつながったものであり、カードランはその2倍程度の長さのものである。よって、パラミロンである場合、式(I),(II)における重合度(n又はm)は約1000である。カードランである場合、重合度(n又はm)は約2000である。
【0029】
β-1,3-グルカンは、グルコースがβ-1,3結合で連結された構造の他にグルコースがβ-1,6結合で連結された構造を含んでいてもよい。
β-1,3-グルカンは、β-1,3-グルコシド結合によって連結された主鎖に、β-1,6-グルコシド結合によって形成される分岐鎖が結合した構造を有していてもよい。
【0030】
β-1,3-グルカンとしては、例えば、ラミナラン(laminaran:β-1,3結合とβ-1,6結合を含む直鎖状の多糖)、シゾフィラン(schizophyllan:β-1,3結合とβ-1,6結合を含む枝分かれ状の多糖)、パキマン(pachyman:主鎖がβ-1,3結合からなる多糖であり1分子に3~6個の側鎖を持つ)、レンチナン(lentinan:主鎖がβ-1,3結合からなる多糖であり主鎖のグルコース5個につき2つの側鎖グルコースを持つ)、カードラン(curdlan:ほぼ直鎖状ではあるが、約200のグルコース単位に1つの側鎖を持つ多糖)、パラミロン(paramylon:側鎖グルコースを持たない直鎖状の多糖)等が挙げられる。
パラミロンは、微細藻類の一種であるユーグレナ(ミドリムシ)が合成及び蓄積するエネルギー貯蔵物質であり、ユーグレナの細胞内に卵形のマイクロサイズの粒子(パラミロン粒子)として存在している。
【0031】
一実施形態において、水中で三重らせん構造を形成しやすい観点から、β-1,3-グルカンを構成するグルコース残基の3個のヒドロキシ基当たり、分岐鎖は1個未満であることが好ましく、分岐鎖が結合していない、すなわちβ-1,3-グルコシド結合のみからなるβ-1,3-グルカンであることがより好ましい。
【0032】
なお、β-1,3-グルカン分子中に存在する分岐鎖の数は、β-1,3-グルカンを酵素分解後、得られた分解物の吸収スペクトルを測定することによって決定することができる(大阪大学大学院 技術部報告書、第16巻,p.99(2008))。
【0033】
一実施形態において、疎水性ナノファイバーの平均繊維長は、好ましくは0.1~100μmであり、より好ましくは0.5~100μmであり、さらに好ましくは1~100μmであり、特に好ましくは10~100μmである。
疎水性ナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは10~500nmであり、より好ましくは10~200nmであり、さらに好ましくは10~100nmであり、特に好ましくは10nm以上100nm未満である。一実施形態において、疎水性ナノファイバーの平均繊維径は、50nm以下である。
平均繊維長及び平均繊維径は、走査プローブ顕微鏡(SPM)を用いてナノファイバー10本について測定した繊維長及び直径を測定して算出した平均値である。
なお、アシル基を有するβ-1,3-グルカンは分子間の相互作用が強いので、機械的に粉砕してナノファイバーを得ようとしても繊維径がマイクロメートルオーダーの大きい繊維となることが多い。
【0034】
(用途)
疎水性ナノファイバーは、樹脂や有機溶媒等の疎水性環境下で高い分散性を有しているので、樹脂やゴム等に添加する繊維状充填剤(フィラー)として好ましく用いることができる。酸素バリアー膜等の高機能膜の素材としても好ましく用いることができる。
【0035】
[疎水性ナノファイバー集合体]
本実施形態に係る疎水性ナノファイバー集合体は、上記した疎水性ナノファイバーの集合体である。疎水性ナノファイバー集合体は、アシル化したβ-1,3-グルカンの反応溶液を貧溶媒(例えば、水)中に入れることでゲル状物質として析出する。
【0036】
疎水性ナノファイバー集合体の形態は、特に限定されない。例えば、水中で沈殿物として得られる固体は水中で膨潤したゲル状であり、この膨潤ゲルを乾燥させた乾燥固体であってもよい。さらに、膨潤ゲルを基板上にキャストして乾燥させてフィルム形状とすることもできる。
【0037】
[疎水性ナノファイバーの製造方法]
本実施形態に係る疎水性ナノファイバーの製造方法は、少なくとも一つのグルコース単位中の少なくとも一つのヒドロキシ基の水素原子が-COR1(R1は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す)で置換されたβ-1,3-グルカンを含む疎水性ナノファイバーの集合体(以下、単位「疎水性ナノファイバー集合体」ともいう。)を、有機溶媒中に浸漬して疎水性ナノファイバーを得ることを含む(解繊工程)。
【0038】
疎水性ナノファイバー集合体は、水中から回収した状態ではゲル状の塊として、乾燥後は固体として存在する。疎水性ナノファイバーを有機溶媒中に浸漬することで、疎水性ナノファイバー集合体が解繊されて分散し、三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンが数十本集合した疎水性ナノファイバーにすることができる(浸漬法)。有機溶媒中で分散することができるので、樹脂等の疎水性物質中に分散することができる。
【0039】
「β-1,3-グルカン」、「-COR1」、「疎水性ナノファイバー」、及び「疎水性ナノファイバー集合体」については、上記のとおりである。
【0040】
有機溶媒としては、塊状ナノファイバー(疎水性ナノファイバー集合体)におけるβ-1,3-グルカン間の水素結合による比較的弱い相互作用を弱めて解繊することができるが疎水化されたβ-1,3-グルカン分子間の強固な相互作用には影響を与えずナノファイバーそのものを溶解しない溶媒が選択される。
有機溶媒としては、例えば、ハロゲン溶媒、プロトン性溶媒、及び非プロトン性溶媒等が挙げられる。ハロゲン溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。プロトン性溶媒としては、メタノール等のアルコール等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸エチル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルアセトアミド、ピリジン等が挙げられる。1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド等のイオン液体を用いることもできる。
一実施形態において、有機溶媒は、クロロホルム、ジクロロメタン、DMF及びDMSOからなる群から選択される1以上を含む。
有機溶媒は、上記した溶媒から選択される1以上を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上含む。一実施形態において、有機溶媒は上記した有機溶媒の1以上からなる。
【0041】
有機溶媒の種類とアシル基(-COR1)の置換度との組み合わせは、限定されない。例えば、アシル基の置換度が1.0~1.5の場合は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の非プロトン性極性溶媒中で解繊してもよい。アシル基の置換度が1.5を超える場合は、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒中や非プロトン性極性溶媒中で解繊してもよい。
【0042】
「浸漬する」とは、疎水性ナノファイバー集合体を、全体が有機溶媒中に浸かるように有機溶媒中に入れることを意味している。よって、上記した有機溶媒の使用量は、疎水性ナノファイバー集合体の全体を浸漬できる量であればよい。例えば、有機溶媒の使用量は、疎水性ナノファイバー集合体の乾燥固体50mgに対して、1~10mLとすることができる。
浸漬条件は、20~40℃で1~50時間行うことが好ましく、30~40℃で10~30時間行うことがより好ましい。
【0043】
一実施形態において、攪拌しながら浸漬する。攪拌しながら浸漬することで解繊がより進みやすい。
攪拌は、必要に応じてマグネチックスターラー等を用いて、20~40℃で10~300分間行うことが好ましく、30~40℃で60~300分間行うことがより好ましい。攪拌後、遠心分離、濾過等により溶媒を除去することで、ほぐれた状態の疎水性ナノファイバーを得ることができる。疎水性ナノファイバーの形状変化や凝集を防ぐ点から、溶媒を除去せずに、保存、運搬、及び樹脂等との混練に使用することもできる。
【0044】
本実施形態に係る疎水性ナノファイバーの製造方法は、必要に応じて、得られた疎水性ナノファイバーを洗浄及び/又は乾燥する工程を有していてもよい。
洗浄及び/又は乾燥は、公知の方法で行うことができる。例えば、洗浄は、メタノール、エタノール等の低級アルコール、アセトン等の溶媒中で、20~40℃で5~30分間攪拌することで行うことができる。洗浄後は、公知の方法により溶媒を除去する。乾燥は、例えば50~80℃で1~24時間風乾する、及び/又は、真空下で30~60℃で1~6時間加熱乾燥すること等により行うことができる。
【0045】
疎水性ナノファイバー集合体は、予め製造されたものを用いてもよいし、以下の工程(i)~(iii)により製造して用いてもよい。
工程(i)原料β-1,3-グルカンを有機溶媒中に溶解させること、
工程(ii)(i)で得られた溶液中に脂肪族又は芳香族炭化水素基を有するアシル化剤を入れ、β-1,3-グルカンとアシル化剤とを反応させること、
工程(iii)反応生成物を水中に入れ疎水性ナノファイバー集合体を得ること
【0046】
(工程(i):溶解工程)
工程(i)において、原料β-1,3-グルカンを有機溶媒中に溶解させる。原料β-1,3-グルカンを有機溶媒中に溶解させることにより、1本鎖のβ-1,3-グルカンが得られる。1本鎖のβ-1,3-グルカンを得ることで、工程(ii)において、β-1,3-グルカンのグルコース単位中に効率的にアシル基を導入することができる。
従来知られているセルロースナノファイバーを疎水化する場合、ナノファイバーに直接疎水基を導入する不均一反応によらざるを得なかった。そのため、疎水基の導入率が低く、導入できる置換基の種類も限られていた。これに対して、β-1,3-グルカンは、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等の非プロトン性極性有機溶媒や1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド等のイオン性流体に溶解させることで1本鎖のβ-1,3-グルカンを形成させることができる。1本鎖のβ-1,3-グルカンに対して均一反応系(溶媒中に溶解した状態)で疎水化することができるので、疎水基の導入率が高く、かつ疎水基の導入率のコントロールが容易である。
【0047】
原料β-1,3-グルカンは、環境負荷低減の点から、生物由来のものが好ましく、植物由来のものがより好ましい。中でも、細胞内でβ-1,3-グルカンを合成する微細藻類から分離したβ-1,3-グルカンを原料として用いることが好ましい。微細藻類としては、ユーグレナ(ユーグレナ植物門に属する微細藻類)が好ましい。ユーグレナは、培養が容易であり、成長サイクルも早いことに加えて、光合成産物としてパラミロン粒子を細胞内に大量に蓄積するためである。ユーグレナが合成して蓄積するパラミロンは、通常2000個のグルコースがβ-1,3結合してなるβ-1,3-グルカンである。パラミロン等のβ-1,3-グルカンの微細藻類からの分離は、常法により行うことができる。
【0048】
有機溶媒としては、原料β-1,3-グルカンを溶解できる有機溶媒が選択される。有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性有機溶媒;1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド等のイオン性流体;等が挙げられる。DMSO/DMF等の混合溶媒とすることもできる。
有機溶媒は、これらから選択される1以上を、有機溶媒中に、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上含む。
有機溶媒は、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを安定化させるために、必要に応じて、塩化リチウム又はTBAF(フッ化テトラブチルアンモニウム)等の塩を含有していてもよい。
有機溶媒の使用量は、限定されず、例えば、原料β-1,3-グルカン1gに対して10~500mL等とすることができる。
【0049】
溶解は、マグネチックスターラー等の公知の機器を用いて、原料β-1,3-グルカン及び有機溶媒の混合物を、好ましくは窒素雰囲気下で、溶液が透明になるまで(均一溶液となるまで)、100~120℃で30~60分間、攪拌することにより行うことができる。
【0050】
(工程(ii):アシル化工程)
工程(ii)において、(i)で得られた溶液(均一溶液)中に脂肪族又は芳香族炭化水素基を有するアシル化剤を入れ、β-1,3-グルカンとアシル化剤とを反応させる。工程(ii)に先立ち、工程(i)で得られた均一溶液を室温(例えば20~30℃)まで放冷してもよい。
【0051】
一実施形態において、アシル化剤は、脂肪族又は芳香族炭化水素基を有するカルボン酸の塩化物又は無水物を含む。
アシル化剤としては、以下の式(III):
R1-COOH (III)
(但し、R1は脂肪族又は芳香族炭化水素基である)
で表されるカルボン酸の塩化物又は無水物を含むことが好ましい。R1の種類については、上述した疎水性ナノファイバーを構成するβ-1,3-グルカンの-COR1におけるR1と同じである。
【0052】
式(III)を満たすカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、2-エチルヘキサン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ペラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルチミン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)等の脂肪族モノカルボン酸等、安息香酸等の芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。
中でも、アシル化効率の高さ及び三重らせん構造を形成しやすさの観点から、酢酸、プロピオン酸、及びブタン酸(酪酸)から選択される1以上の塩化物又は無水物を含むことが好ましい。
【0053】
アシル化剤の使用量は、工程(i)で使用した原料β-1,3-グルカン1モルに対して、好ましくは2モル~20モルとなる量であり、より好ましくは1モル~6モルとなる量である。なお、反応の途中に段階的に置換度の異なる反応生成物を抜き取る場合は、原料β-1,3-グルカン1モルに対して、20~50モル(例えば40モル倍)となる量で使用することもできる。
【0054】
反応(アシル化反応)は、1本鎖のβ-1,3-グルカンが溶解した均一溶液中で、塩化リチウム等のルイス酸やピリジン等の塩基の存在下、上記したアシル化剤を反応させることにより行うことができる。
【0055】
反応温度、反応時間等の条件は、使用するアシル化剤の種類、所望の置換度等を考慮して適宜設定される。例えば、アシル化剤として無水酢酸を用いる場合は、70~100℃で45分~18時間攪拌することで、アシル基の置換度がグルコース単位中1.00以上である反応生成物を得ることができる。置換度をこれよりも高くする場合は、反応温度を高くするか反応時間を長くすればよく、置換度をこれよりも低くする場合は反応温度を低くするか反応時間を短くすればよい。
【0056】
アシル化反応による反応生成物(アシル化されたβ-1,3-グルカン)は、有機溶媒中に溶解した状態で得られる。
【0057】
(工程(iii):会合工程)
工程(iii)において、工程(ii)で得られた反応生成物を含む反応溶液を水中に入れ析出物を得る。工程(ii)で得られた反応混合物を水中に入れると、アシル化された1本鎖のβ-1,3-グルカンが分子間相互作用により会合して、3分子からなる三重らせん構造が形成され、白色沈殿物が得られる。白色沈殿物は、三重らせん構造を有する疎水性ナノファイバーの集合体で構成されている。
【0058】
会合させる条件は、特に限定されず、20~30℃で水中に浸漬する又は水中で攪拌する。通常、反応溶液を水に投入すると直ちにゲル状の白色沈殿物が出現する。その後、遠心分離、デカンテーション等により水中から回収することで析出物を得ることができる。
【0059】
工程(iii)の後に、必要に応じて、析出物を洗浄する工程を有していてもよい。洗浄は、公知の方法で行うことができる。洗浄後は、公知の方法により溶媒を除去する。
【0060】
工程(iii)で得られる疎水性ナノファイバーの集合体は、水中から回収した状態では膨潤したゲル状固体(以下、「膨潤ゲル」、「塊状ナノファイバー」ともいう。)である。疎水性ナノファイバーの集合体は、膨潤ゲルを乾燥させて乾燥固体の状態にすることもできる。さらに、膨潤ゲルを基板上にキャストして乾燥させてフィルム形状の疎水性ナノファイバー集合体とすることもできる。
上記により得られた疎水性ナノファイバーを、有機溶媒中に浸漬して攪拌することで疎水性ナノファイバーを得る(解繊工程)。
【実施例0061】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0062】
以下では、アシル基の置換度が異なるアセチルパラミロンを含む疎水性ナノファイバー集合体を以下のようにして製造した。なお、アセチルパラミロンの合成スキームは以下のとおりである:
【0063】
[疎水性ナノファイバー集合体1]
パラミロン(2.002g、12.347mmol(グルコースユニット基準))、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc、100mL)、および塩化リチウム(LiCl、1.617g、38.146mmol)からなる混合物を、窒素雰囲気下、102℃で30分間撹拌し、均一溶液を得た(工程(i))。
この溶液を室温まで放冷したのち、DMAc(200mL)、ピリジン(34mL、0.422mol)、および無水酢酸(49mL、0.518mol)を加えた。この混合物を70℃で機械的に攪拌した(工程(ii))。
反応開始後45分経過した時点で反応混合物から200mLの反応液をシリンジで抜き出した。これを水250mLに投入することで白沈(析出物)を生じさせた(工程(iii))。
遠心分離(2600×g、室温、3分間)で白沈を分離後、メタノール200mLに分散し一晩撹拌する等して複数回洗浄し、白色固体を得た(洗浄工程)。
この固体を遠心分離機で集め、一晩風乾し、続いて真空下加熱乾燥(60℃、7時間)することで疎水性ナノファイバー集合体1(1.002g、収率73.4%)が得られた。
【0064】
1HNMRとFT-IRにより目的物の合成を確認した。
1H-NMR(1.0N NaOD/D2O)δ(ppm):4.72(m),3.94-3.49(m),1.92(s)
FT-IR(cm-1):3437,2912,1732,1702,1369,1227,1038,888
【0065】
以下では、原料パラミロンの量、溶媒の使用量、及び/又は、反応時間並びに反応温度を変更して、疎水性ナノファイバーを製造した。
【0066】
[疎水性ナノファイバー集合体2]
パラミロン(4.002g、24.681mmol(グルコースユニット基準))、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc、200mL)、および塩化リチウム(LiCl、3.143g、74.145mmol)からなる混合物を、窒素雰囲気下、115℃で30分間撹拌し、均一溶液を得た(工程(i))。
この溶液を室温まで放冷したのち、DMAc(400mL)、ピリジン(70mL、0.869mol)、および無水酢酸(96mL、1.016mol)を加えた。この混合物を69℃で機械的に攪拌した(工程(ii))。
この反応混合物から以下のような方法でアセチルパラミロンを固体として得た(工程(iii))。
反応開始後2時間経過した時点で反応混合物から150mLの反応液をシリンジで抜き出した。これを水200mLに投入することで白沈を生じさせた(析出物、疎水性ナノファイバーの集合体)。
遠心分離(2600×g、室温、3分間)で白沈を分離後、メタノール200mLに分散し一晩撹拌する等して複数回洗浄し、白色固体を得た(洗浄工程)。
この固体を遠心分離機で集め、一晩風乾し、続いて真空下加熱乾燥(60℃、5時間)することで疎水性ナノファイバー集合体2(753mg、収率73.4%)が得られた。
【0067】
[疎水性ナノファイバー集合体3]
疎水性ナノファイバー集合体1の製造における反応開始から1.5時間後の残りの反応液について、工程(iii)を適用した以外は、疎水性ナノファイバー集合体1と同じ方法で、疎水性ナノファイバー集合体3(727mg、収率55.4%)が得られた。
【0068】
1HNMRとFT-IRにより目的物の合成を確認した。
1H-NMR(1.0N NaOD/D2O)δ(ppm):4.72(m),3.94-3.44(m),1.93(s)
FT-IR(cm-1):3441,2908,1733,1646,1369,1227,1035,894
【0069】
[疎水性ナノファイバー集合体4~7]
疎水性ナノファイバー集合体2の製造方法における反応開始後3、4.5、及び5.5時間後のそれぞれに抜き取った反応液、および反応開始後6時間経過後の残りの反応液について工程(iii)を適用した以外は、疎水性ナノファイバー集合体2と同じ方法で、疎水性ナノファイバー集合体4~7を得た。収率は以下のとおりであった。
疎水性ナノファイバー集合体4:836mg、収率75.3%
疎水性ナノファイバー集合体5:459mg、収率40.7%
疎水性ナノファイバー集合体6:898mg、収率75.6%
疎水性ナノファイバー集合体7:1.253g、収率94.7%
【0070】
疎水性ナノファイバー集合体2,4~7について、1HNMRとFT-IRにより目的物の合成を確認した。
(疎水性ナノファイバー集合体2)
1H-NMR(1.0N NaOD/D2O)δ(ppm):4.72(m),3.94-3.44(m),1.92(s)
FT-IR(cm-1):3436,2907,1737,1652,1369,1226,1035,887
(疎水性ナノファイバー集合体4)
1H-NMR(1.0N NaOD/D2O)δ(ppm):4.72(m),3.94-3.44(m),1.92(s)
FT-IR(cm-1):3447,2908,1733,1647,1369,1219,1028,894
(疎水性ナノファイバー集合体5)
1H-NMR(1.0N NaOD/D2O)δ(ppm):4.72(m),3.94-3.44(m),1.92(s)
FT-IR(cm-1):3444,2906,1735,1647,1369,1221,1029,893
(疎水性ナノファイバー集合体6)
1H-NMR(1.0N NaOD/D2O)δ(ppm):4.72(m),3.94-3.45(m),1.92(s)
FT-IR(cm-1):3445,2921,1733,1370,1217,1029,892
(疎水性ナノファイバー集合体7)
1H-NMR(1.0N NaOD/D2O)δ(ppm):4.72(m),3.94-3.44(m),1.92(s)
FT-IR(cm-1):2923,1734,1647,1369,1217,1030,893
【0071】
[疎水性ナノファイバー集合体8]
パラミロン(9.999g、61.669mmol(グルコースユニット基準))、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc、500mL)、および塩化リチウム(LiCl、7.865g、185.522mmol)からなる混合物を、窒素雰囲気下、103℃で30分間撹拌し、均一溶液を得た(工程(i))。
この溶液を室温まで放冷したのち、DMAc(1.0L)、ピリジン(168mL、2.085mol)、および無水酢酸(240mL、2.539mol)を加えた。この混合物を104℃で機械的に攪拌した(工程(ii))。
反応開始後1.5時間経過した時点で反応混合物から250mLの反応液をシリンジで抜き出した。これを水250mLに投入することで白沈を生じさせた。
遠心分離(2600×g、室温、3分間)で白沈を分離後、メタノール300mLに分散し1.5時間撹拌する等して洗浄し、黄色沈殿物を得た(洗浄工程)。
この固体を遠心分離機で集め、2.5時間風乾した。この洗浄工程を2回行った。この黄色固体を真空下加熱乾燥(60℃、2時間)することで疎水性ナノファイバー集合体8(1.521g、収率72.3%)が得られた。
【0072】
1HNMRとFT-IRにより目的物の合成を確認した。
1HNMRδ(ppm):4.72(m),3.94-3.45(m),1.92(s)
FT-IR(cm-1):1734,1371,1213,1029,891
【0073】
[疎水性ナノファイバー集合体9~12]
疎水性ナノファイバー集合体8の製造における反応開始後3、4、及び5時間後にそれぞれ抜き取った反応液、および反応開始後24時間経過後の残りの反応液について工程(iii)を適用した以外は、疎水性ナノファイバー集合体8と同じ方法で、疎水性ナノファイバー集合体9~12を得た。収率は以下のとおりであった。
疎水性ナノファイバー集合体9:1.729g、収率80.3%
疎水性ナノファイバー集合体10:1.763g、収率81.7%
疎水性ナノファイバー集合体11:1.848g、収率85.0%
疎水性ナノファイバー集合体12:6.612g、収率77.9%
【0074】
1HNMRとFT-IRにより目的物の合成を確認した。
(疎水性ナノファイバー集合体9)
1H-NMR(1.0N NaOD/D2O)δ(ppm):4.72(m),3.94-3.45(m),1.92(s)
FT-IR(cm-1):1733,1372,1210,1028,894
(疎水性ナノファイバー集合体10)
1H-NMR(1.0N NaOD/D2O)δ(ppm):4.72(m),3.94-3.44(m),1.92(s)
FT-IR(cm-1):1733,1371,1211,1032,893
(疎水性ナノファイバー集合体11)
1H-NMR(1.0N NaOD/D2O)δ(ppm):4.72(m),3.94-3.44(m),1.92(s)
FT-IR(cm-1):1735,1371,1212,1032,893
(疎水性ナノファイバー集合体12)
1H-NMR(1.0N NaOD/D2O)δ(ppm):4.72(m),3.94-3.46(m),1.92(s)
FT-IR(cm-1):1734,1368,1212,1030,894
【0075】
[観察及び測定]
(置換度)
疎水性ナノファイバー集合体1~12のアシル化(アセチル化)度を、化合物の
1H-NMRを測定することにより決定した。具体的には、アシル基のメチル基由来の積分値とグルコース由来の水素原子の積分値の合計との比から決定した。結果を表1にDS
aceとして示した。期待されたように、反応時間が長く反応温度が高いほど、高い置換度が得られた。
【表1】
【0076】
(走査電子顕微鏡(SEM)観察-1)
疎水性ナノファイバー集合体1~12(各反応液を水に投入して生じさせたゲルを乾燥して得られた固体)について、走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-6060)による観察を行った。観察サンプルは導電性両面カーボンテープで金属ステージ上に固定した。高真空下、加速電圧を2.5kVで観察を行った。
図1(a)~(l)に、それぞれ疎水性ナノファイバー集合体1~12についてのSEM写真を示した。
図1に示すように、疎水性ナノファイバー集合体1~12は、各繊維が互いに凝集している。また、疎水性ナノファイバー集合体1~12の全てが、繊維径100nm以下で長さが数μmのナノファイバーを含むことを示す。よって、アセチルパラミロンは、置換度に関わらず、自然にナノファイバーを形成する。
【0077】
(解繊工程)
疎水性ナノファイバー集合体1~12(約50mg)を、クロロホルム、ジクロロメタン、DMF、及びDMSOの各2.0mLに24時間浸漬した。その後過剰の溶媒をデカンテーションで除いた。得られた固体を1分間放置するか(ジクロロメタン、クロロホルム)あるいは濾紙で表面をぬぐうことで表面に残った溶媒(DMF、及びDMSO)を除き、生成物を得た。
【0078】
(走査プローブ顕微鏡(SPM)観察)
解繊工程で得られた生成物中でナノファイバーが形成されているかを確認するため、クロロホルム、ジクロロメタン、及びDMFにそれぞれ浸漬して得られた生成物を走査プローブ顕微鏡(SPM)により観察した。DMSOに浸漬して得られた生成物の観察については、後述する。
SPM用サンプルは、解繊工程で使用した分散液あるいはそれを100倍希釈した分散液から調製した。分散液がソフトゲルを作る場合、10μLのゲルを新たに劈開したマイカ表面に置き、室温で溶媒を蒸発させる(空気乾燥)ことによりSPM用サンプルを調製した。分散液がソフトゲルではなく固体のわずかな部分のみ溶かした状態の場合は、その分散液の均一部位から約100μLをマイカ表面において室温で溶媒を蒸発させる(空気乾燥)ことによりSPM用サンプルを調製した。
SPM観察は20μmスキャナー(セイコーインスツル製 SPA-400)とセイコーインスツル製カンチレバー DF-20、長さ225μm;ばね定数12N/m;周波数124kHzを用いて室温で測定した。それぞれのサンプル表面については少なくとも5か所の異なる測定範囲(20μm×20μm)についてタッピングモード測定(スキャンスピード0.2-1.0Hz)を行った。
【0079】
図3~8に、疎水性ナノファイバー集合体1~12をクロロホルム、ジクロロメタン、及びDMFにそれぞれ浸漬して得られた生成物のSPM写真を示した。有機溶媒中の分散液がソフトゲルを構成するとき、SPM写真はゲル由来の微細構造を示す。ソフトゲルが構成されないとき、SPM写真は溶解された生成物または良分散された生成物固体に由来する微細構造を示す。
【0080】
図3~8に示すように、種々の置換度において、クロロホルム、ジクロロメタン、及びDMFのうちの少なくとも一つの溶媒中で各繊維が解けているナノファイバーが形成されていた。以下、詳細に説明する。
【0081】
疎水性ナノファイバー集合体1については、DMFに浸漬することで平均繊維径が100nmであり平均繊維長が4μmであり、直線形状の疎水性ナノファイバーに解繊することができた(
図3(a3))。
【0082】
疎水性ナノファイバー集合体2については、DMFに浸漬することで平均繊維径が20~100nmであり平均繊維長が2μmである疎水性ナノファイバーに解繊することができた(
図3(b4))。
図3(b2,b3)に示すように、ジクロロメタンへ浸漬することで平均繊維径が50nm、平均繊維長が0.5μmである、疎水性ナノファイバーに解繊することができた。
【0083】
疎水性ナノファイバー集合体3については、クロロホルムに浸漬することで平均繊維径が100nmで平均繊維長が数μm以上のナノファイバーに解繊された(
図4(c1))。このナノファイバーのサイズは
図1に示すナノファイバーのそれとほぼ同じであることから、クロロホルムへの浸漬は、疎水性ナノファイバー集合体からナノファイバーを繊維寸法に影響を与えることなく解繊できる。
図4(c2),(c3)に示すように、ジクロロメタンに浸漬することで、疎水性ナノファイバー集合体3を、平均繊維径が50nm、平均繊維長が0.5μmのナノファイバーに解繊できた。
疎水性ナノファイバー集合体3をDMF中に浸漬することで、平均繊維径30nmの繊維構造が得られた(
図4(c4))。
【0084】
疎水性ナノファイバー集合体4については、DMFに浸漬することで、平均繊維径30nmのナノファイバーが得られた(
図4(d4))。
【0085】
疎水性ナノファイバー集合体5については、DMF中に浸漬した分散液から調製した生成物が最小径30nmの繊維状ネットワークを形成したことから(
図5(e3))、DMFへの浸漬により疎水性ナノファイバー集合体5からナノファイバーを製造できることが示唆された。
【0086】
疎水性ナノファイバー集合体6については、DMF中に浸漬した分散液から調製した生成物がやや不明瞭な画像ではあるが平均繊維径が30nm、平均繊維長が200nmのナノファイバーが観察されたことから、DMFへの浸漬により、疎水性ナノファイバー集合体6からナノファイバーを製造できることが示唆された(
図5(f3))。
【0087】
疎水性ナノファイバー集合体7については、クロロホルム、ジクロロメタン、及びDMFのいずれに浸漬しても、ナノファイバー構造が得られなかった。しかし、後述するように、DMSOに浸漬することで、疎水性ナノファイバーに解繊可能であることが示唆された。
【0088】
疎水性ナノファイバー集合体8については、ジクロロメタン中に浸漬することで、平均繊維径30nmのナノファイバーに解繊することができた(
図6(h2),(h3))。
【0089】
疎水性ナノファイバー集合体9については、ジクロロメタン中に浸漬することで、平均径が40nmのナノファイバーが観察された(
図6(i2))。この分散液を100倍に希釈したサンプルについて観察したところ、平均繊維長が1μm以下であり、平均繊維径が20nmのナノファイバーが得られた(
図6(i3))。
なお、
図6(i3)は、直径が20nmのナノファイバーが凝集している。浸漬前の疎水性ナノファイバー集合体にみられる直径100nm程度のナノファイバーの形状とは異なり、直径が20nmのナノファイバーとなっていることから、ジクロロメタンに浸漬することにより、直径100nmの疎水性ナノファイバー集合体がもう一つ下の階層の疎水性ナノファイバーまで解繊されたものと考えられる。
疎水性ナノファイバー集合体9をDMF中に浸漬すると平均繊維径が20nmのナノファイバーが確認されたことから(
図6(i4))、DMFへの浸漬により疎水性ナノファイバー集合体9をナノファイバーに解繊できることができることが示された。
【0090】
疎水性ナノファイバー集合体10については、クロロホルム中に浸漬することで平均繊維径が30nmのナノファイバーが観察されたことから(
図7(j1))、クロロホルムが疎水性ナノファイバー集合体10を解繊できることが示された。
疎水性ナノファイバー集合体10をジクロロメタン中に浸漬することで、平均繊維径20nmのナノファイバー構造が得られたことから、ジクロロメタンへの浸漬により解繊可能であることが示唆された(
図7(j2))。
疎水性ナノファイバー集合体10をDMFに浸漬することで、平均繊維径が50nmのナノファイバーのネットワークが観察されたことから(
図7(j3))、DMFへの浸漬により解繊可能であることが示唆された。
【0091】
疎水性ナノファイバー集合体11については、ジクロロメタン中に浸漬することで、平均繊維径が20nmの繊維状に配列した構造が観察されたことから(
図7(k2))、ジクロロメタンは疎水性ナノファイバー集合体11をナノファイバーに解繊可能であることが示されている。
【0092】
疎水性ナノファイバー集合体12については、クロロホルム、ジクロロメタン、及びDMFのいずれに浸漬しても、ナノファイバー構造が得られなかった。クロロホルム及びジクロロメタン中に浸漬した分散液は、多孔質表面を形成した(
図8(l1,l2))。DMF中に浸漬した分散液は、径100nmの粒子を産出し、粒子は筋状に配列していなかった(
図8(l3,l4))。よって、SPM観察では、疎水性ナノファイバー集合体12をいずれの溶媒に浸漬してもナノファイバーに解繊することは確認されなかった。しかし、後述するように、DMSOに浸漬することで、疎水性ナノファイバーに解繊可能であることが示唆された
【0093】
(走査電子顕微鏡(SEM)観察-2)
図9(a)~(l)に、疎水性ナノファイバー集合体1~12をDMSOに浸漬して得られた生成物の凍結乾燥体のSEM写真を示した。凍結乾燥体は、溶液中の分散状態を高く反映すると期待されたため、ここでは観察対象として凍結乾燥体を用いた。
【0094】
疎水性ナノファイバー集合体1~5は、DMSOに高膨潤性であり、浸漬後の凍結乾燥サンプルは、主にシート状及びアモルファス構造を含んでいた(
図9(a)~(e))。しかし、DMSO中のこれらの生成物固体の高い分散性や、DMSOの吸湿性及び凍結乾燥工程中の多糖ナノファイバーの氷晶を介した凝集特性を考えると、これらの非繊維構造は、高く溶媒和され解繊されたナノファイバーの再構築により形成されたものであると考えられる。したがって、これらのSEM写真は、DMSOへの浸漬により、固体状の疎水性ナノファイバー集合体1~5が解繊されたことを示唆している。よって、DMSOへの浸漬は、疎水性ナノファイバー集合体1~5を解繊できることを示唆している、
【0095】
疎水性ナノファイバー集合体6~12からの生成物は、
図9(f)~(l)に示すように、SEM写真は凍結乾燥サンプルが平均繊維径100nm以下のナノファイバーを数多く含むことから、疎水性ナノファイバー集合体6~12はDMSOへの浸漬により解繊されるものと考えられた。