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特開2022-106435内視鏡用生体吸収性シート及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106435
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】内視鏡用生体吸収性シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/58 20060101AFI20220712BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20220712BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220712BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20220712BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20220712BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20220712BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20220712BHJP
   A61L 15/26 20060101ALI20220712BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20220712BHJP
   A61L 15/64 20060101ALI20220712BHJP
   A61B 1/018 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
A61L27/58
A61L27/18
A61L27/54
A61L27/56
A61L31/06
A61L31/14 500
A61L31/14 400
A61L31/16
A61L15/26 100
A61L15/42 310
A61L15/64 100
A61B1/018 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001429
(22)【出願日】2021-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100222922
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 蓮実
(72)【発明者】
【氏名】山内 康治
(72)【発明者】
【氏名】大野 正芳
(72)【発明者】
【氏名】大西 俊介
【テーマコード(参考)】
4C081
4C161
【Fターム(参考)】
4C081AA14
4C081AB11
4C081BA12
4C081BA16
4C081BB07
4C081CA171
4C081CC01
4C081DA02
4C081DA03
4C081DB03
4C161AA01
4C161FF43
4C161GG15
(57)【要約】
【課題】専用の処置具を必要とせずに患部への運搬や貼り付けを簡単に行うことができる内視鏡用生体吸収性シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】内視鏡用生体吸収性シート1は、生体吸収性材料で形成され、縮小した状態と展開した状態との間で変形が可能なシート基材11と、シート基材11に設けられ、シート基材11の展開を促進する複数の展開促進部材12と、を備え、同一方向に延びる展開促進部材12が互いに間隔を空けて配置されている。シート基材11は、乳酸とカプロラクトンとの共重合体で形成されてもよい。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料で形成され、縮小した状態と展開した状態との間で変形が可能なシート基材と、
前記シート基材に設けられ、前記シート基材の展開を促進する複数の展開促進部材と、を備え、
同一方向に延びる前記展開促進部材が互いに間隔を空けて配置されている、
内視鏡用生体吸収性シート。
【請求項2】
前記シート基材は、乳酸とカプロラクトンとの共重合体で形成されている、
請求項1に記載の内視鏡用生体吸収性シート。
【請求項3】
前記乳酸と前記カプロラクトンとの共重合比は、40:60~60:40の範囲内である、
請求項2に記載の内視鏡用生体吸収性シート。
【請求項4】
前記シート基材は、患部に貼り付けられると、前記患部における細胞の増殖を促進する多数の細孔を備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載の内視鏡用生体吸収性シート。
【請求項5】
前記シート基材は、前記患部の凹凸に合わせて変形するスポンジ状シートである、
請求項4に記載の内視鏡用生体吸収性シート。
【請求項6】
前記展開促進部材は、ポリ-L-乳酸で形成されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載の内視鏡用生体吸収性シート。
【請求項7】
前記展開促進部材は、縫合糸であり、前記シート基材内部に埋入されている、
請求項1から6のいずれか1項に記載の内視鏡用生体吸収性シート。
【請求項8】
生体吸収性のポリマー材料を溶媒に溶かしたポリマー溶液を、展開促進部材が予めセットされた容器に流し入れた状態でシート状に凍結乾燥する凍結乾燥工程と、
前記凍結乾燥工程で得られたシートを真空中で熱セットする熱セット工程と、
前記熱セット工程を終えた前記シートを切断する切断工程と、
を含む内視鏡用生体吸収性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用生体吸収性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘膜と筋層との間にある粘膜下層に薬剤を注入し、粘膜にある病変部を浮かせた状態で切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection:ESD)が知られている。ESDは、低侵襲で行うことができると共に、臓器を温存しつつ大きな病変も切除できるため、広く用いられている。
【0003】
ESDでは、他の内視鏡処置具を用いた処置と同様に、まれに穿孔や後出血といった合併症を引き起こすことがある。このような合併症が生じた場合に、穿孔部や後創部(潰瘍面)といった患部に生体吸収性シートを貼り付ける処置が行われることがある。例えば、特許文献1には、ポリグリコール酸(Polyglycolic Acid:PGA)を材料とした生体吸収性シートを患部に貼り付ける処置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-202888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の生体吸収性シートは、非常に薄く、体内での取り扱いが難しいため、専用の処置具の先端側に被せられた状態で内視鏡挿入部のチャンネルに挿通され、この状態で患部に押し付けられることで、患部に貼り付けられる。このため、特許文献1の貼付シートでは、内視鏡用鉗子のような汎用性のある処置具を用いて患部へ運搬したり貼り付けたりすることが困難である。
【0006】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、専用の処置具を必要とせずに患部への運搬や貼り付けを簡単に行うことができる内視鏡用生体吸収性シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る内視鏡用生体吸収性シートは、
生体吸収性材料で形成され、縮小した状態と展開した状態との間で変形が可能なシート基材と、
前記シート基材に設けられ、前記シート基材の展開を促進する複数の展開促進部材と、を備え、
同一方向に延びる前記展開促進部材が互いに間隔を空けて配置されている。
【0008】
前記シート基材は、乳酸とカプロラクトンとの共重合体で形成されてもよい。
【0009】
前記乳酸と前記カプロラクトンとの共重合比は、40:60~60:40の範囲内であってもよい。
【0010】
前記シート基材は、患部に貼り付けられると、前記患部における細胞の増殖を促進する多数の細孔を備えてもよい。
【0011】
前記シート基材は、前記患部の凹凸に合わせて変形するスポンジ状シートであってもよい。
【0012】
前記展開促進部材は、ポリ-L-乳酸で形成されてもよい。
【0013】
前記展開促進部材は、縫合糸であり、前記シート基材内部に埋入されてもよい。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る内視鏡用生体吸収性シートの製造方法は、
生体吸収性のポリマー材料を溶媒に溶かしたポリマー溶液を、展開促進部材が予めセットされた容器に流し入れた状態でシート状に凍結乾燥する凍結乾燥工程と、
前記凍結乾燥工程で得られたシートを真空中で熱セットする熱セット工程と、
前記熱セット工程を終えた前記シートを切断する切断工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、専用の処置具を必要とせずに患部への運搬や貼り付けを簡単に行うことができる内視鏡用生体吸収性シート及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る内視鏡用生体吸収性シートの構成を示す平面図であり、(b)は、(a)の内視鏡用生体吸収性シートを丸めた様子を示す斜視図である。
図2】(a)~(c)は、いずれも本発明の実施の形態に係る内視鏡用生体吸収性シートを用いて術者が実施する処置の手順を示す図である。
図3】本発明の変形例に係る内視鏡用生体吸収性シートの構成を示す平面図である。
図4】実施例における内視鏡用生体吸収性シートの外観を撮影した図である。
図5】(a)、(b)は、いずれも実施例における対象動物の胃の内部を内視鏡で撮影した図である。
図6】実施例における対象動物の胃から採取した組織片の外観を撮影した図である。
図7】(a)、(b)は、いずれも図6の組織片から得られた病理組織標本を顕微鏡で拡大した図である。
図8】比較例におけるPGAシートの外観を撮影した図である。
図9】比較例における対象動物の胃から採取した組織片の外観を撮影した図である。
図10】(a)、(b)は、いずれも図9の組織片から得られた病理組織標本を顕微鏡で拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る内視鏡用生体吸収性シート及びその製造方法を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面では、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0018】
図1(a)は、実施の形態に係る内視鏡用生体吸収性シート1の構成を示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)の内視鏡用生体吸収性シート1を丸めた様子を示す斜視図である。内視鏡用生体吸収性シート1は、ESDのような内視鏡処置具を用いた処置で生じた穿孔部や後創部といった患部に貼り付けられ、患部における組織の再生を促進するシートである。後創部は、例えば、処置部周辺に生じた潰瘍面であり、潰瘍面は術後に後出血を引き起こすことがある。
【0019】
内視鏡用生体吸収性シート1は、生体吸収性を有するため、患部への貼り付けから時間が経過すると、その全部又は一部が体内に吸収される。また、内視鏡用生体吸収性シート1は、患部の凹凸に合わせて変形し得る程度の柔軟性を有すると共に、丸めたり折り畳んだりすることで展開した状態から縮小した状態に変形させることができる。
【0020】
内視鏡用生体吸収性シート1は、例えば、図1(a)に示す展開した状態から図1(b)に示すように内視鏡挿入部のチャンネルの筒型形状に合わせて丸めた状態に変形させたり、逆に、図1(b)に示す丸めた状態から図1(a)に示す展開した状態に戻したりすることができる。内視鏡用生体吸収性シート1を丸めた状態や折り畳んだ状態に保持するには、内視鏡用鉗子で内視鏡用生体吸収性シート1の端部を把持すればよい。
【0021】
内視鏡用生体吸収性シート1は、例えば、正方形又は長方形である。内視鏡用生体吸収性シート1の寸法は、任意であるが、体内での取り扱いを考慮すると、縦横とも8cm以下であることが好ましい。縦寸法が1cm~3cmの範囲内であり、横寸法が1cm~3cmであることがさらに好ましい。内視鏡用生体吸収性シート1の厚さは、内視鏡用生体吸収性シート1を構成する材料にもよるが、凹凸を有する患部への追従性や内視鏡用鉗子による運搬の容易性を考慮すると、例えば、100μm~700μmの範囲内であり、300μm~500μmの範囲内であることが好ましい。
【0022】
内視鏡用生体吸収性シート1は、縮小した状態と展開した状態との間で変形が可能なシート基材11と、互いに間隔を空けて一定方向に配置されるようにシート基材11に設けられ、シート基材11の展開を促進する複数の展開促進部材12と、を備える。
【0023】
シート基材11は、患部に貼り付けられた状態で、患部における組織の再生を促進する多数の細孔を備える多孔質材料で形成されている。シート基材11では、内部の細孔に細胞が入り込んで付着することで、細胞、特に、粘膜細胞の増殖が促進される。シート基材11は、例えば、スポンジ状シートである。また、シート基材11は、患部の凹凸に合わせて変形し、丸めたり折り曲げたりしても破損しない程度の柔軟性を有する。
【0024】
シート基材11は、例えば、乳酸(Lactic Acid:LA)-カプロラクトン(Caprolactone:CL)の共重合体で形成されている。乳酸とカプロラクトンとの共重合比は、例えば、40:60~60:40の範囲内であり、好ましくは50:50である。乳酸とカプロラクトンとの共重合体は、穿孔部や後創部といった患部に貼り付けられると、PGA等の他の生体吸収性材料と比較して、粘膜細胞の増殖が促進されやすく、穿孔部や後創部における組織の速やかな再生を促すことができる。
【0025】
なお、シート基材11は、体内での視認性を高めるために染料で着色されてもよい。シート基材11を着色する染料は、例えば、キニザリンブルー(Solvent Violet 13)である。
【0026】
展開促進部材12は、シート基材11の表面に固定される細長い部材であり、シート基材11における展開促進部材12が延びる方向の曲げ剛性を高めることで、シート基材11の展開を促進する。例えば、図1(b)に示すような展開促進部材12が延びる方向にシート基材11を丸めた状態からシート基材11を解放するだけで、展開促進部材12の弾性力により図1(a)に示すような展開した状態に簡単に戻すことができる。
【0027】
展開促進部材12は、例えば、ポリ乳酸、好ましくはポリ-L-乳酸(Poly-L-Lactic Acid:PLLA)で形成されている。展開促進部材12は、例えば、縫合糸であり、シート基材11内部に埋入されていてもよい。展開促進部材12の太さは、例えば、米国薬局方(United States Pharmacopeia:USP)の規定に準拠すると3-0である。USP3-0は、縫合糸の直径が0.200mm以上、0.249mm以下であることを示す。シート基材11上で隣り合う展開促進部材12の間隔は、縮小が可能で展開も容易とするため、例えば、1mm~10mmの範囲内であり、好ましくは5mmである。
以上が、内視鏡用生体吸収性シート1の構成である。
【0028】
次に、内視鏡用生体吸収性シート1の製造方法を説明する。まず、生体吸収性のポリマー材料を溶媒に溶かしたポリマー溶液を展開促進部材が予めセットされた容器に流し入れ、ポリマー溶液をシート状に凍結乾燥する(凍結乾燥工程)。ポリマー溶液は、例えば、共重合比が50:50の乳酸-カプロラクトンの共重合体の濃度が1%~5%となるように溶媒で希釈した溶液である。溶媒は、例えば、1,4-ジオキサンである。1,4-ジオキサンは、常圧常温で無色透明の溶媒である。
【0029】
次に、凍結乾燥工程で得られたシートを真空中で熱セットする(熱セット工程)。熱セットの条件は、ポリマー材料の特性を考慮して設定するが、例えば、P(LA:CL)=50:50であれば、温度が70℃、加熱時間が12時間である。これにより、乳酸-カプロラクトンの共重合体からなるスポンジ状のシートが得られる。
【0030】
次に、熱セット工程を終えたシート基材11を、内視鏡用処置具による運搬や貼り付けがしやすい形状及びサイズに切断する(切断工程)。例えば、シート基材11を縦2mm、横2mmの正方形に切断する。
以上が、内視鏡用生体吸収性シート1の製造方法である。
【0031】
次に、図2を参照して、内視鏡用生体吸収性シート1を用いた患部の処置方法を説明する。図2(a)~図2(c)は、いずれも実施の形態に係る内視鏡用生体吸収性シート1を用いて術者が実施する処置の手順を示す図である。以下、内視鏡挿入部は、胃の内部に挿入されており、胃壁にはESDの処置に由来する穿孔部が存在するものとする。
【0032】
まず、円筒状に丸めた状態の内視鏡用生体吸収性シート1の端部を内視鏡用鉗子2で把持する。次に、内視鏡用鉗子2を用いて内視鏡用生体吸収性シート1を内視鏡挿入部のチャンネルに挿通し、図2(a)に示すように胃の内部にまで到達させる。
【0033】
次に、図2(b)に示すように、内視鏡用鉗子2の先端部を患部に近づけ、内視鏡用鉗子2を用いて患部に内視鏡用生体吸収性シート1を貼り付ける。このとき、内視鏡用鉗子2から内視鏡用生体吸収性シート1を解放するだけで、展開された状態に戻すことができる。展開された状態の内視鏡用生体吸収性シート1を内視鏡用鉗子2で把持し、患部に貼り付ければよい。その後、内視鏡用鉗子2を内視鏡挿入部のチャンネルから引き抜く。
【0034】
次に、患部に貼り付けられた内視鏡用生体吸収性シート1が患部から外れないように、内視鏡用生体吸収性シート1と患部とを接着剤で接着する。接着剤は、あらかじめシートに付着させておくか、内視鏡挿入部の灌流用チャンネルから供給すればよい。接着剤は、例えば、生体吸収性インジェクタブルポリマーである。生体吸収性インジェクタブルポリマーは、体温によりゾルからゲルに変化し、胃の蠕動運動にも耐える高い力学的強度を有する。
【0035】
患部に貼り付けられた内視鏡用生体吸収性シート1のシート基材11は、表面や内部に多数の細孔を備え、これらの細孔が粘膜細胞の足場として機能する。このため、患部への貼り付けから時間が経過すると、図2(c)に示すように内視鏡用生体吸収性シート1内で細胞が増殖し、穿孔を塞ぐように組織が再生する。また、内視鏡用生体吸収性シート1が生体吸収性材料で形成されているため、内視鏡用生体吸収性シート1のうち穿孔部を覆っている部分は徐々に分解する。
【0036】
他方、穿孔部における組織の再生が進行すると、内視鏡用生体吸収性シート1のうち穿孔部の周辺に位置する部分は、組織の再生が進行する穿孔部から自然に脱落し、排せつ物と共に体外に排出される。
以上が、内視鏡用生体吸収性シート1を用いた患部の処置方法である。
【0037】
以上説明したように、実施の形態に係る内視鏡用生体吸収性シート1は、生体吸収性材料で形成され、縮小した状態と展開した状態との間で変形が可能なシート基材11と、シート基材11に設けられ、シート基材11の展開を促進する複数の展開促進部材12と、を備え、同一方向に延びる展開促進部材12が互いに間隔を空けて配置されている。このため、患部に運搬する際には、内視鏡用鉗子2を用いて縮小した状態を維持するように把持でき、患部に運搬し終えると、内視鏡用鉗子2から解放することで展開した状態に簡単に戻すことできる。したがって、専用の処置具を必要とせずに患部への運搬や貼り付けを簡単に行うことができる。
【0038】
また、実施の形態に係る内視鏡用生体吸収性シート1は、乳酸とカプロラクトンとの共重合体で形成されたシート基材11を備える。このため、穿孔部や後創部といった患部に貼り付けられると、粘膜細胞の増殖が促進され、穿孔部や後創部における組織の速やかな再生を促すことができる。
【0039】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0040】
(変形例)
上記実施の形態では、内視鏡用生体吸収性シート1が正方形又は長方形であったが、本発明はこれに限られない。例えば、内視鏡用生体吸収性シート1は円形又は楕円形であってもよい。
【0041】
上記実施の形態では、シート基材11及び展開促進部材12が生体吸収性材料で形成されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、シート基材11の編み込みの一部に非吸収性の糸、例えば、ナイロン糸を編み込んでもよい。また、シート基材11を生体吸収性材料で形成し、展開促進部材12を非吸収性材料で形成してもよい。
【0042】
上記実施の形態では、シート基材11に有効成分を添加していないが、本発明はこれに限られない。例えば、シート基材11を足場にした細胞増殖を促進する有効成分を含む薬剤をシート基材11に添加してもよい。
【0043】
上記実施の形態では、内視鏡用生体吸収性シート1がシート基材11と展開促進部材12とで構成されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、シート基材11の組織接着面と反対側に少なくとも1層の他のシートを設けてもよい。他のシートとしては、シート基材11の強度を向上させるシートを用いてもよい。
【0044】
上記実施の形態では、展開促進部材12が互いに間隔を空けて一定方向に配置されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、図3に示すように、シート基材11に対して複数の展開促進部材12を格子状に配置してもよい。また、シート基材11の位置に応じて同一方向に延びる展開促進部材12の間隔を変化させてもよい。これによりシート基材11の位置に応じて弾性特性を適宜変化させることができる。
【0045】
上記実施の形態では、展開促進部材12が縫合糸であり、シート基材11内部に埋入されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、展開促進部材12は、シート基材11の表面に接着されてもよい。
【0046】
上記実施の形態では、シート基材11に展開促進部材12が固定されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、体内への運搬時に丸めたり折り畳んだりする必要がない場合には、シート基材11を単体で用いればよい。
【0047】
上記実施の形態では、内視鏡用生体吸収性シート1を接着剤で患部に固定していたが、本発明はこれに限られない。例えば、内視鏡用生体吸収性シート1を内視鏡用クリップで患部に固定してもよい。
【0048】
上記実施の形態では、内視鏡用生体吸収性シート1を胃の穿孔部や後創部といった患部に適用していたが、本発明はこれに限られない。例えば、内視鏡用生体吸収性シート1を食道、小腸、大腸の患部に適用してもよい。また、ESDの合併症を処置する場合に限られず、内視鏡用処置具を用いた他の処置において合併症が発生した場合に適用してもよい。
【0049】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例)
実施例では、実験動物の胃に人為的に形成された穿孔部に内視鏡用生体吸収性シート1を貼り付け、穿孔部に組織が再生するかどうかを観察した。実験動物は、ハイポ種の豚、性別はメスで、体重は20kgであった。内視鏡用生体吸収性シート1は、図4に示すとおりである。シート基材11はP(LA:CL)=50:50であり、展開促進部材12はPLLAであった。
【0052】
試験開始1日目に、図5(a)に示すように実験動物の胃の一部に直径7mm~8mm程度の穿孔を形成した。次に、穿孔部及びその周辺領域に内視鏡用生体吸収性シート1を貼り付け、図5(b)に示すように内視鏡用生体吸収性シート1をクリップで胃の粘膜に固定した。このとき、シート基材11に展開促進部材12が固定されているため、胃の内部で内視鏡用生体吸収性シート1を簡単に広げることができ、穿孔部への貼り付けが容易であった。試験開始から3日目に実験動物に食事を再開させ、8日目に内視鏡を用いて実験動物の胃の患部を観察した。その後、実験動物を犠牲にし、図6に示すように、実験動物の胃から組織片を採取し、病理組織評価を行った。
【0053】
以下に実験結果を示す。実験動物の胃の内部を内視鏡で観察した結果、胃の穿孔が塞がり、粘膜組織が再生していることが確認された。また、内視鏡用生体吸収性シート1のうち穿孔部の周囲領域に貼り付けられた部分については、胃から脱落していた。図6の各点線に沿って採取した組織片を切断して病理組織評価を実施したところ、HE×40では、図7(a)に示すように内視鏡用生体吸収性シート1が細胞に置き換えられた痕跡が発見され、E-Ma×200では、図7(b)に示すように血管新生を確認できた。このため、内視鏡用生体吸収性シート1が足場になって組織の再生を促している様子を確認できた。
【0054】
なお、HE×40は、採取した病理組織に対してHE(Hematoxylin Eosin)染色を実施し、顕微鏡で像を40倍に拡大したことを意味している。また、E-Ma×200は、採取した病理組織に対してE-Ma(Epithelial-Membrane Antigen)染色を実施し、顕微鏡で像を200倍に拡大したことを意味している。
【0055】
比較例として図8に示すPGAシートでも、内視鏡用生体吸収性シート1の場合と同様の実験を実施した。胃の患部から脱落したPGAシートを観察したところ、PGAシートが組織に吸収された痕跡を見いだすことができなかった。また、図9に示すように実験動物の胃から組織片を採取したところ、潰瘍面がPGAシート貼り付け前よりも深くなっており、炎症のため組織片に脾臓が癒着していることが確認された。そして、図9の点線に沿って組織片を切断し、病理組織評価を行ったところ、図10(a)、(b)に示すようにPGAシートが細胞に置き換えられた痕跡や血管新生を確認することができなかった。
【符号の説明】
【0056】
1 内視鏡用生体吸収性シート
2 内視鏡用鉗子
11 シート基材
12 展開促進部材

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10