(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106830
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】積層基板製造方法、積層基板製造装置、積層基板製造システム、および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20220712BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H01L21/68 K
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070731
(22)【出願日】2022-04-22
(62)【分割の表示】P 2018527512の分割
【原出願日】2017-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2016138029
(32)【優先日】2016-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 功
(72)【発明者】
【氏名】三ッ石 創
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二つの基板の位置合わせをしてから二つの基板を重ね合わせても、基板間に位置ずれが生じる場合がある。
【解決手段】第1の基板と第2の基板とを貼り合わせて積層基板を製造する方法であって、第1の基板及び第2の基板のそれぞれの湾曲に関する情報に基づいて、第1の基板及び第2の基板が所定の条件を満たすか否かを判断し、所定の条件を満たす場合に、第1の基板と第2の基板とを貼り合わせる。積層基板製造方法はさらに、第1の基板を第2の基板に貼り合わせた後の位置ずれ量を、情報に基づいて推測する。所定の条件は、位置ずれ量が閾値以下であることを含む。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と第2の基板とを貼り合わせて積層基板を製造する方法であって、
前記第1の基板の湾曲に関する情報を取得する段階と、
前記情報に基づいて、前記第1の基板および前記第2の基板を貼り合わせる条件を決定する段階と、
を含む積層基板製造方法。
【請求項2】
前記貼り合わせる条件は、前記第1の基板と前記第2の基板とを互いに貼り合わせたときの前記第1の基板と前記第2の基板との間の位置ずれ量が閾値以下となる条件を含む、請求項1に記載の積層基板製造方法。
【請求項3】
前記貼り合わせる条件は、前記位置ずれを補正する補正量を含む、請求項2に記載の積層基板製造方法。
【請求項4】
前記貼り合わせる条件は、前記第1の基板および前記第2の基板の少なくとも一方の形状を変化させる変形量を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項5】
前記貼り合わせる条件は、前記第1の基板および前記第2の基板を互いに貼り合わせたときの位置ずれ量、または、前記位置ずれ量と閾値との差が、前記第1の基板および前記第2の基板の位置ずれを補正する補正部により補正可能な大きさとなる条件を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項6】
(i)前記湾曲に関する情報に基づいて、前記第1の基板と前記第2の基板とを互いに貼り合わせたときに前記第1の基板に生じる歪みの量を推定する段階、および、(ii)前記湾曲に関する情報に基づいて、前記第1の基板と前記第2の基板とを互いに貼り合わせたときの前記第1の基板と前記第2の基板との間の位置ずれ量を算出する段階、の少なくとも一方の段階と、を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項7】
前記貼り合わせる条件は、前記第1の基板および前記第2の基板の組み合わせを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項8】
前記貼り合わせる条件は、前記第1の基板の歪みの状態と前記第2の基板の歪みの状態との組み合わせが、所定の組み合わせに該当することを含む、請求項7に記載の積層基板製造方法。
【請求項9】
前記組み合わせが前記所定の組み合わせに該当しない場合、前記所定の組み合わせに該当しないと判断された前記第2の基板に代えて、前記所定の組み合わせに該当する第2の基板を、他の複数の第2の基板から選択する段階を含む、請求項8に記載の積層基板製造方法。
【請求項10】
前記貼り合わせる条件は、前記第1の基板に貼り合わせた場合に前記第1の基板との間の位置ずれ量が閾値以下になる基板を製造する条件を含む請求項1から9のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項11】
前記第1の基板と貼り合わせた状態での倍率が、前記第1の基板の倍率に対して所定の範囲内になるように、前記第2の基板を製造する段階を備える、請求項10に記載の積層基板製造方法。
【請求項12】
前記第1の基板の形状を計測する段階を含み、前記計測により前記湾曲に関する情報を取得することを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項13】
前記情報は、前記第1の基板における反りの大きさ、反りの方向、撓みの大きさ、および、撓みの方向の少なくとも一つを示す情報を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項14】
前記情報は、前記第1の基板の中心を基準としたときの複数の位置における変位から求まる全体的な湾曲の情報を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項15】
前記第1の基板の製造プロセスに基づいて、前記情報を推定する、請求項1から14のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項16】
前記情報は、前記第1の基板の製造プロセス、前記第1の基板における応力分布を示す情報、および、前記第1の基板に形成された構造物の仕様を示す情報の少なくとも一つを含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項17】
前記湾曲に関する情報を取得する段階では、前記第1の基板と前記第2の基板とを貼り合わせて積層基板を製造する装置とは別の装置で湾曲に関する情報を取得する、請求項1から16のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項18】
前記積層基板を製造する装置により前記第1の基板及び前記第2の基板の位置を計測する段階に先立って、前記湾曲に関する情報を取得する段階を実行する、請求項1から17のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項19】
前記第1の基板及び前記第2の基板を前記積層基板を製造する装置に搬入する段階に先立って、前記湾曲に関する情報を取得する段階を実行する、請求項1から18のいずれか一項に記載の積層基板製造方法。
【請求項20】
第1の基板と第2の基板とを貼り合わせて積層基板を製造する装置であって、
前記第1の基板の湾曲に関する情報を取得する取得部と、
前記情報に基づいて、前記第1の基板および前記第2の基板を貼り合わせる条件を決定する決定部と、
を備える積層基板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層基板製造方法、積層基板製造装置、積層基板製造システム、および基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二つの基板を積層することにより、積層基板を製造する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1 特開2013-098186号公報
【0004】
二つの基板の位置合わせをしてから二つの基板を重ね合わせても、基板間に位置ずれが生じる場合がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様においては、第1の基板と第2の基板とを貼り合わせて積層基板を製造する方法であって、前記第1の基板の湾曲に関する情報を取得する段階と、前記情報に基づいて、前記第1の基板および前記第2の基板を貼り合わせる条件を決定する段階と、を含む積層基板製造方法が提供される。
【0006】
本発明の第2の態様においては、第1の基板と第2の基板とを貼り合わせて積層基板を製造する装置であって、前記第1の基板の湾曲に関する情報を取得する取得部と、前記情報に基づいて、前記第1の基板および前記第2の基板を貼り合わせる条件を決定する決定部と、を備える積層基板製造装置が提供される。
【0007】
上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。これらの特徴群のサブコンビネーションも発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】基板210を重ね合わせる手順を示す流れ図である。
【
図4】基板211を保持した基板ホルダ223の模式的断面図である。
【
図10】基板211、213の重ね合わせ過程を示す部分拡大図である。
【
図11】基板211、213の重ね合わせ過程を示す部分拡大図である。
【
図12】基板211、213の重ね合わせ過程を示す部分拡大図である。
【
図13】基板211における各部のずれ量を示す模式図である。
【
図14】基板210の組み合わせを決定する手順を示す流れ図である。
【
図15】基板210の組み合わせを決定する手順を示す流れ図である。
【
図16】基板210の組み合わせ決定方法を説明する模式図である。
【
図17】基板210の組み合わせを決定する手順を示す流れ図である。
【
図18】基板211を保持した基板ホルダ221の模式的断面図である。
【
図20】アクチュエータ412のレイアウトを示す模式図である。
【
図22】基板211、213の重ね合わせ過程を示す部分拡大図である。
【
図23】補正部602の動作を説明する模式図である。
【
図27】補正部603の動作を説明する模式図である。
【
図28】基板210の組み合わせを決定する手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を説明する。下記の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、積層基板製造装置100の模式的平面図である。積層基板製造装置100は、筐体110と、重ね合わせる基板210を収容する基板カセット120と、基板210を重ね合わせて作製された積層基板230を収容する基板カセット130と、制御部150と、搬送部140、重ね合わせ部300、基板210を保持する基板ホルダ220を収容するホルダストッカ400、およびプリアライナ500を備える。筐体110の内部は温度管理されており、例えば、室温に保たれる。
【0011】
搬送部140は、単独の基板210、基板ホルダ220、基板210を保持した基板ホルダ220、複数の基板210を積層して形成した積層基板230等を搬送する。制御部150は、積層基板製造装置100の各部を相互に連携させて統括的に制御する。また、制御部150は、外部からのユーザの指示を受け付けて、積層基板230を製造する場合の製造条件を設定する。更に、制御部150は、積層基板製造装置100の動作状態を外部に向かって表示するユーザインターフェイスも有する。
【0012】
重ね合わせ部300は、各々が基板210を保持して対向する一対のステージを有し、ステージに保持した基板210を相互に位置合わせした後、互いに接触させて重ね合わせることにより積層基板230を形成する。
【0013】
プリアライナ500は、基板210と基板ホルダ220との位置合わせを行い、基板210を基板ホルダ220に保持させる。基板ホルダ220は、アルミナセラミックス等の硬質材料により形成されており、静電チャックや真空チャック等により基板210を吸着して保持する。
【0014】
上記のような積層基板製造装置100においては、素子、回路、端子等が形成された基板210の他に、未加工のシリコンウエハ、Geを添加したSiGe基板、Ge単結晶基板、III-V族またはII-VI族等の化合物半導体ウエハ、および、ガラス基板等を接合することもできる。接合する対象は、回路基板および未加工基板であっても、未加工基板同士であってもよい。接合される基板210は、それ自体が、既に積層された複数の基板を有する積層基板230であってもよい。
【0015】
図2は、積層基板製造装置100において重ね合わせる基板210の模式的平面図である。基板210は、ノッチ214と、複数の回路領域216と、複数のアライメントマーク218とを有する。
【0016】
回路領域216は、基板210の表面に、基板210の面方向に周期的に配される。回路領域216の各々には、フォトリソグラフィ技術等より形成された配線、保護膜等の構造物が設けられる。回路領域216には、基板210を他の基板210、リードフレーム等に電気的に接続する場合に接続端子となるパッド、バンプ等の接続部も配される。接続部も、基板210の表面に形成された構造物の一例である。
【0017】
アライメントマーク218は、基板210の表面に形成された構造物の一例であり、回路領域216相互の間に配されたスクライブライン212に配される。アライメントマーク218は、基板210を他の基板210と位置合わせするときの指標である。
【0018】
図3は、積層基板製造装置100において二つの基板210を積層して積層基板230を作製する手順を示す流れ図である。まず、複数の基板210の内から、相互に重ね合わせて接合する基板211、213の組み合わせを決定する(ステップS101)。基板211、213の組み合わせを決定する方法は複数例示できるので、基板210の重ね合わせ手順について説明した後に、
図14以降を参照して説明する。
【0019】
次に、プリアライナ500において、重ね合わせる基板211、213をそれぞれ基板ホルダ221、223に保持する(ステップS102)。その後、基板211、213を個別に保持した基板ホルダ221、223を、
図5に示すように、重ね合わせ部300に順次搬入する(ステップS103)。
図4に示す例では、基板ホルダ223は、平坦且つ平滑な保持面225を有する。
【0020】
重ね合わせ部300は、枠体310、上ステージ322および下ステージ332を備える。上ステージ322は、枠体310の天板316に下向きに固定される。上ステージ322は、真空チャック、静電チャック等の保持機能を有する。
【0021】
なお、図示の状態では、平坦な保持面225を有する基板ホルダ223に保持された基板213が、図中上側に位置する上ステージ322に保持されており、湾曲する保持面225を有する基板ホルダ221が、図中下側に位置する下ステージ332に保持されている。しかしながら、上ステージ322および下ステージ332と、基板ホルダ221、223との組み合わせはこれに限らない。また、上ステージ322および下ステージ332の両方に、平坦な基板ホルダ223または保持面が湾曲した基板ホルダ221を搬入してもよい。
【0022】
天板316には、顕微鏡324および活性化装置326が上ステージ322の側方に固定される。顕微鏡324は、下ステージ332に保持された基板211の上面を観察できる。活性化装置326は、下ステージ332に保持された基板211の上面を清浄化するプラズマを発生する。
【0023】
下ステージ332は、枠体310の底板312に配されたX方向駆動部331に重ねられたY方向駆動部333の図中上面に搭載される。X方向駆動部331は、底板312と平行に、図中に矢印Xで示す方向に移動する。Y方向駆動部333は、X方向駆動部331上で、底板312と平行に、図中に矢印Yで示す方向に移動する。X方向駆動部331およびY方向駆動部333の動作を組み合わせることにより、下ステージ332は、底板312と平行に二次元的に移動する。
【0024】
また、下ステージ332は、底板312に対して垂直に、矢印Zで示す方向に昇降する昇降駆動部338により支持される。これにより、下ステージ332は、Y方向駆動部333に対して昇降できる。
【0025】
X方向駆動部331、Y方向駆動部333および昇降駆動部338による下ステージ332の移動量は、干渉計等を用いて精密に計測される。
【0026】
Y方向駆動部333には、顕微鏡334および活性化装置336が、それぞれ下ステージ332の側方に搭載される。顕微鏡334は、上ステージ322に保持された下向きの基板213の下面を観察できる。活性化装置336は、上ステージ322に保持された基板213の下面を清浄化するプラズマを発生する。尚、この活性化装置326および336を重ね合わせ部300とは別の装置に設け、上面を活性化した基板および基板ホルダを活性化装置326,336から重ね合わせ部300にロボットにより搬送するようにしてもよい。
【0027】
なお、重ね合わせ部300は、底板312に対して垂直な回転軸の回りに下ステージ332を回転させる回転駆動部、および、下ステージ332を揺動させる揺動駆動部を更に備えてもよい。これにより、下ステージ332を上ステージ322に対して平行にすると共に、下ステージ332に保持された基板211を回転させて、基板211、213の位置合わせ精度を向上させることができる。
【0028】
顕微鏡324、334は、制御部150により、焦点を相互に合わせたり共通の指標を観察させたりすることにより較正される。これにより、重ね合わせ部300における一対の顕微鏡324、334の相対位置が測定される。
【0029】
図5に示した状態に続いて、
図6に示すように、制御部150は、X方向駆動部331およびY方向駆動部333を動作させて、顕微鏡324、334により基板211、213の各々に設けられたアライメントマーク218を検出させる(
図3のステップS104)。
【0030】
こうして、相対位置が既知である顕微鏡324、334で基板211、213のアライメントマーク218の位置を検出することにより、基板211、213の相対位置が判る(ステップS105)。これにより、基板211、213を位置合わせする場合には、基板211、213で対応するアライメントマーク218間の位置ずれが閾値以下となるように、または、基板211、213間で対応する回路領域216または接続部の位置ずれが閾値以下となるように、基板211、213の相対移動量を算出すればよい。位置ずれは、積層された基板211、213の間で、対応するアライメントマーク218同士の位置ずれ、および、対応する接続部同士の位置ずれを指し、二つの基板211、213のそれぞれに生じる歪みの量の差に起因する位置ずれを含む。歪みについては後述する。
【0031】
図6に示した状態に続いて、
図7に示すように、制御部150は、一対の基板211、213の相対位置を記録し、一対の基板211、213の各々の接合面を化学的に活性化する(
図3のステップS106)。制御部150は、まず、下ステージ332の位置を初期位置にリセットした後に水平に移動させて、活性化装置326、336の生成したプラズマにより基板211、213の表面を走査させる。これにより、基板211、213のそれぞれの表面が清浄化され、化学的な活性が高くなる。
【0032】
プラズマに暴露する方法の他に、不活性ガスを用いたスパッタエッチング、イオンビーム、または、高速原子ビーム等により基板211、213の表面を活性化することもできる。イオンビームや高速原子ビームを用いる場合は、重ね合わせ部300を減圧下において生成することが可能である。また更に、紫外線照射、オゾンアッシャー等により基板211、213を活性化することもできる。更に、例えば、液体または気体のエッチャントを用いて、基板211、213の表面を化学的に清浄化することにより活性化してもよい。基板210の表面の活性化後、基板211、213の表面を親水化装置により親水化してもよい。
【0033】
図7に示した状態に続いて、
図8に示すように、制御部150は、基板211、213を相互に位置合わせする(
図3のステップS107)。制御部150は、まず、最初に検出した顕微鏡324、334の相対位置と、ステップS104において検出した基板211、213のアライメントマーク218の位置とに基づいて、基板211、213の互いに対応する回路領域216の位置が一致するように、下ステージ332を移動させる。
【0034】
図8に示した状態に続いて、
図9に示すように、制御部150は、昇降駆動部338を動作させて下ステージ332を上昇させ、基板211、213を相互に接触させる。これにより、基板211、213の一部が接触して接合する(ステップS108)。
【0035】
基板211、213の表面は活性化されているので、一部が接触すると、基板211、213同士の分子間力により、隣接する領域が自律的に相互に吸着されて接合される。よって、例えば、上ステージ322に保持された基板ホルダ223への基板213の保持を解除することにより、基板211、213が接合された領域は、接触した部分から隣接する領域に順次拡がる。これにより、接触した領域が順次拡がっていくボンディングウェイブが発生し、基板211、213の接合が進行する。やがて、基板211、213は、全面にわたって接触し、且つ、接合される(ステップS108)。これにより、基板211、213は、積層基板230を形成する。
【0036】
なお、上記のように基板211、213の接触領域が拡大していく過程で、制御部150は、基板ホルダ223による基板213の保持を解除してもよい。また、上ステージ322による基板ホルダ223の保持を解除してもよい。
【0037】
更に、上ステージ322において基板213を解放せずに、下ステージ332において基板211を解放することにより、基板211、213の接合を進行させてもよく、二つの基板211、213の両方を解放してもよい。更に、上ステージ322および下ステージ332の双方において基板213、211を保持したまま、上ステージ322および下ステージ332を更に近づけることにより、基板211、213を接合させてもよい。
【0038】
こうして形成された積層基板230は、搬送部140により重ね合わせ部300から基板ホルダ221と共に搬出される(ステップS109)。その後、プリアライナ500において積層基板230と基板ホルダ221とが分離され、積層基板230は基板カセット130に搬送される。
【0039】
二つの基板210のそれぞれに生じる歪みの量が互いに異なると、重ね合わせ部300において、アライメントマーク218等に基づいて基板210の面方向について位置合わせをしても、基板211,213の間の位置ずれの量が閾値以下となる相対移動量および相対回転量を算出できず、基板211、213の位置ずれを解消することができない場合がある。そこで、
図3に示したステップS101においては、基板211、213を互いに貼り合わせた結果の最終的な倍率の相違による位置ずれが閾値以下となるように、重ね合わせる基板211、213の組み合わせを決定する。
【0040】
ここで、基板211(213)に生じる歪みとは、基板211(213)における構造物の設計座標すなわち設計位置からの変位である。基板211(213)に生じる歪みは、平面歪みと立体歪みとを含む。
【0041】
平面歪みは、基板211、213の接合面に沿った方向に生じた歪みであり、基板211、213のそれぞれの構造物の設計位置に対して変位した位置が線形変換により表される線形歪みと、線形変換により表すことができない、線形歪み以外の非線形歪みとを含む。
【0042】
線形歪みは、変位量が中心から径方向に沿って一定の増加率で増加する倍率を含む。倍率は、基板211、213の中心からの距離Xにおける設計値からのずれ量をXで除算することにより得られる値であり、単位はppmである。倍率には、設計位置からの変位ベクトルが同じ量のX成分およびY成分を有する等方倍率と、設計位置からの変位ベクトルが、互いに異なる量の成分を有する非等方倍率とが含まれる。
【0043】
本実施例では、貼り合わされる二つの基板211、213のそれぞれにおける構造物の設計位置は共通であり、二つの基板211、213のそれぞれにおける設計位置を基準とした倍率の差が、二つの基板211、213の位置ずれ量となる。
【0044】
また、線形歪みは、直交歪みを含む。直交歪みは、基板の中心を原点として互いに直交するX軸およびY軸を設定したときに、構造物が原点からY軸方向に遠くなるほど大きな量で、設計位置からX軸方向に平行に変位している歪である。当該変位量は、X軸に平行にY軸を横切る複数の領域のそれぞれにおいて等しく、変位量の絶対値は、X軸から離れるに従って大きくなる。さらに直交歪は、Y軸の正側の変位の方向とY軸の負側の変位の方向とが互いに反対である。
【0045】
基板211、213の立体歪みは、基板211、213の接合面に沿った方向以外の方向すなわち接合面に交差する方向への変位である。立体歪みには、基板211、213が全体的にまたは部分的に曲がることにより基板211、213の全体または一部に生じる湾曲が含まれる。ここで、「基板が曲がる」とは、基板211、213が、当該基板211、213上の3点により特定された平面上に存在しない点を基板211、213の表面が含む形状に変化することを意味する。
【0046】
また、湾曲とは、基板の表面が曲面をなす歪みであり、例えば基板211、213の反りおよび撓みが含まれる。本実施例においては、反りは、重力の影響を排除した状態で基板211、213に残る歪みをいう。反りに重力の影響を加えた基板211、213の歪みを、撓みと呼ぶ。なお、基板211、213の反りには、基板211、213全体が概ね一様な曲率で屈曲するグローバル反りと、基板211、213の一部で局所的な曲率の変化が生じるローカル反りとが含まれる。
【0047】
ここで、倍率は、発生原因によって初期倍率、平坦化倍率、及び、接合過程倍率に分類される。
【0048】
初期倍率は、アライメントマーク218、回路領域216等を基板211、213に形成するプロセスで生じた応力、基板211、213の結晶配向に起因する異方性、スクライブライン212、回路領域216等の配置に起因する周期的な剛性の変化等により、基板211、213の設計仕様に対する乖離として、基板211、213を重ね合わせる前の段階から生じている。よって、基板211、213の初期倍率は、基板211、213の積層を開始する前から知ることができ、例えば、基板211、213を製造したプロセス機器から初期倍率に関する情報を制御部150が取得してもよい。
【0049】
平坦化倍率は、反り等の歪みが生じた基板211、213が、接合により、または、平坦な保持部材への吸着により平坦化された場合に生じる倍率の変化に対応する。すなわち、反りが生じた基板210を、例えば
図4に示した平坦な基板ホルダ223に吸着して保持させると、基板210は、保持面225の形状に倣って平坦になる。ここで、基板210が、反りを有する状態から平坦な状態に変化すると、保持する前に比べて基板210の歪み量が変化する。
【0050】
これにより、基板210の表面における回路領域216の設計仕様に対する位置ずれ量が保持する前に比べて変化する。基板210の歪み量の変化は、基板210に形成された回路領域216等の構造物の構造、当該構造物を形成するためのプロセス、保持前の基板210の反りの大きさ等に応じて異なる。平坦化倍率の大きさは、接合過程倍率と同様に、基板211、213に反り等の歪みが生じている場合に、その歪みと倍率との相関を予め調べておくことにより、基板211、213の反り量および反り形状等を含む歪みの状態から算出できる。
【0051】
接合過程倍率は、接合の過程で基板211、213に生じる歪みに起因して、新たに生じる倍率の変化である。
図10、
図11、
図12、および
図13は、接合過程倍率を説明する図である。
図10、11、12には、重ね合わせ部300で接合される過程にある基板211、213における、基板211、213が相互に接触した接触領域と、基板211、213が相互に接触せずに離れていてこれから重ね合わせされる非接触領域との境界Kの付近の領域Qを拡大して示す。
【0052】
図10に示すように、重ね合わされた二つの基板211、213の接触領域が中央から外周に向かって面積を拡大する過程で、境界Kは、基板211、213の中央側から外周側に向かって移動する。境界K付近において、基板ホルダ223による保持から解放された基板213には伸びが生じる。具体的には、境界Kにおいて、基板213の厚さ方向の中央の面に対して、基板213の図中下面側においては基板213が伸び、図中上面側においては基板213が収縮する。
【0053】
これにより、図中に点線で示すように、基板213において、基板211に接合された領域の外端においては、基板213の表面における回路領域216の設計仕様に対する倍率が基板211に対して拡大したかのように歪む。このため、図中に点線のずれとして現れるように、基板ホルダ222に保持された下側の基板211と、基板ホルダ223から解放された上側の基板213との間に、基板213の伸び量すなわち倍率の相違に起因する位置ずれが生じる。
【0054】
更に、
図11に示すように、上記の状態で基板211、213が接触して接合されると、基板213の拡大された倍率が固定される。更に、
図12に示すように、接合により固定される基板213の伸び量は、基板211、213の外周に境界Kが移動するほど累積される。
【0055】
上記のような接合過程倍率の量は、重ね合わされる基板211、213の剛性、基板211、213に挟まれる雰囲気の粘性等の物理量に基づいて算出できる。また、重ね合される基板211、213と同一のロットで製造された基板を重ね合わせて生じたずれ量を予め測定して記録し、記録した測定値を当該ロットの基板211、213の接合において生じる接合過程倍率に関する情報として制御部150が取得してもよい。
【0056】
図13は、積層基板230を構成する二つの基板211、213の倍率差による位置ずれの分布を示す図である。図示のずれは、積層基板230の中心点から面方向に放射状に漸増するずれ量を有する。なお、図示の倍率は、基板211、213を重ね合わせる前に生じた初期倍率および平坦化倍率と、基板211、213を重ね合わせる過程で生じた接合過程倍率とを含む。
【0057】
なお、基板211、213を接合する場合は、一方の基板、例えば基板211を保持した状態で他方の基板213を解放する。このため、基板211、213が接合される時点では、保持された基板211が形状を固定されているのに対して、解放された基板213は歪みつつ接合される。よって、固定されたまま接合される基板211については接合過程倍率を考慮する必要はないが、解放される基板213については、接合過程倍率を考慮することが望ましい。
【0058】
固定された基板211が、基板ホルダ221の形状等により歪んだ状態で保持されている場合、解放された基板213に対しては、接合過程倍率と平坦化倍率との両方を考慮することが望ましく、更に、その基板213に反り等の歪みがある場合は、この歪みを加味した接合過程倍率と平坦化倍率とが考慮されることが望ましい。
【0059】
このように、重ね合わされる基板211、213における重ね合わせ後の最終的な倍率差は、基板211、213が当初より有している初期倍率の差に、基板211、213を基板ホルダ221、223等に保持させた場合に生じる平坦化倍率の差と、接合の過程で保持が解放される基板213の接合過程倍率とが重なって形成される。
【0060】
上述のように、基板211、213を積層して形成される積層基板230に生じる位置ずれは、初期倍率差、平坦化倍率差、および接合過程倍率の大きさと関連する。また、基板211、213に生じる倍率は、反り等の基板の歪みと関連する。
【0061】
更に、これら初期倍率差、平坦化倍率差、および接合過程倍率は、上記のように、接合前の測定、計算等により予測できる。よって、基板211、213について予測された倍率に基づいて、接合する基板211、213の組み合わせを接合前に判断して対応することにより、貼り合わせにより製造された積層基板230における位置ずれが過大になることを抑制できる。
【0062】
図14は、
図3に示したステップS101で重ね合う基板211、213の組み合わせを決定する手順の内容を示す。
【0063】
重ね合わせる基板211、213の組み合わせを決定する場合、積層基板製造装置100の制御部150は、まず、ひとつの基板カセット120、あるいは、同じロットに属する複数の基板210等、一群の基板211、213の各々について、基板211、213の湾曲に関する情報を収集する(ステップS201)。
【0064】
制御部150は、重ね合わせる基板211、213の反りを含む湾曲に関する情報を取得する取得部を形成する。
【0065】
基板211、213の湾曲に関する情報には、基板211、213の反りの大きさ、向き、反っている部分、内部応力等のように、基板210を測定することにより得られる情報と、基板211、213に反りを生じさせる原因に関する情報、および、その原因から推定される基板211、213の反りの大きさおよび向き等の情報とが含まれる。
【0066】
基板211、213の反りを測定するとき、基板211、213を面方向の中心を支持して中心の周りに回転させながら、例えば重ね合わせ部300に設けた顕微鏡等の非接触距離計により基板211、213の表面または裏面を観察し、顕微鏡の光学系が有する自動合焦機能から得られた距離情報の分布に基づいて、表面または裏面の位置を計測する。
【0067】
これにより、基板211、213の撓みの大きさ、向き等を測定できる。基板211、213の撓みの大きさおよび向きは、支持された中心を基準としたときの基板211、213の厚さ方向の表面または裏面の複数の位置の変位から求められる。本実施例では、基板211、213のそれぞれの複数の位置における変位の平均値が、グローバル反りの大きさである。基板211、213における撓みと反りとの差は、反りが生じていない基板211、213を同じ条件で測定した結果に基づいて知ることができる。よって、反りが生じている基板211、213の撓みを測定した上で、当該差分を減じることにより、基板211、213の反り量を算出できる。
【0068】
更に、基板211、213を基板ホルダ221等により吸着して強制的に平坦にした状態で、ラマン散乱等により基板211、213の残留応力を計測して、この残留応力を基板の反りに関する情報としてもよい。更に、基板211、213の反りに関する情報は、積層基板製造装置100よりも前に行われるプロセスで使用される露光装置、成膜装置等の前処理装置において測定してもよい。また、基板211、213の反りの測定を、基板211、213を重ね合わせ部300に搬入する前に行ってもよい。例えば、積層基板製造装置100において、プリアライナ500に、基板211、213の反りを測定する測定装置を設けてもよい。
【0069】
一方、基板211、213の反りを測定せずに、解析的に基板211、213の反りに関する情報を取得する場合、基板211、213に形成した回路領域216等の構造物の構造、材料に関する情報に基づいて、基板211、213に生じる反りの大きさおよび向き等を推定してもよい。また、上記構造物を形成する過程で生じた基板211、213に対する処理プロセス、すなわち、成膜等に伴う熱履歴、エッチング等の化学処理に関する情報を反りの原因となる情報として、これらの情報に基づいて基板211、213に生じる反りを推定してもよい。
【0070】
また、基板211、213に生じる反りを推定する場合に、基板211、213に生じた反りの原因となり得る基板211、213の表面構造、基板210に積層された薄膜の膜厚、成膜に用いたCVD装置等の成膜装置の傾向、ばらつき、成膜の手順、条件等の周辺情報を併せて参照してもよい。これらの周辺情報は、反りを推定することを目的として、改めて測定してもよい。
【0071】
更に、上記のような基板211、213の反りを推定するには、同等の基板を処理した過去のデータ等を参照してもよいし、重ね合わせる基板211、213と同等の基板に対して想定されるプロセスの実験をして、反り量と倍率の関係、反り量の違いと倍率差の関係、または、倍率の差すなわち位置ずれ量が閾値以下となる反り量の組み合わせのデータを予め用意してもよい。更に、重ね合わせる基板211、213の成膜構造、成膜条件に基づいて、有限要素法等により反り量を解析的に求めてデータを用意してもよい。
【0072】
なお、基板211、213に対する歪み量の測定は、積層基板製造装置100の外部で実行してもよいし、積層基板製造装置100、または、積層基板製造装置100を含むシステムの内部に基板211、213の歪みを測定する装置を組み込んでもよい。更に、内外の測定装置を併用して、測定項目を増やしてもよい。
【0073】
次に、制御部150は、ステップS201において湾曲に関する情報を取得した複数の基板210から任意の1枚の第1の基板213を選択し(ステップS202)、選択した第1の基板213と暫定的に組み合わされる第2の基板211とを重ね合わせた場合にそれぞれに最終的に残る倍率を算出する(ステップS203)。以降の記載において、二つの基板211、213に最終的に残る倍率を最終倍率という。更に、制御部150は、算出された最終倍率の差を、予め定められた閾値と比較することにより、上記第1の基板213および第2の基板211の暫定的な組み合わせが、積層基板230に対して予め定められた条件を満たすか否かを判断する(ステップS204)。
【0074】
なお、本実施例において、予め定められた条件とは、例えば、基板211、213を互いに貼り合わせた結果、基板211,213間に電気的な導通が可能となる最大ずれ量に対応する閾値であり、基板211、213にそれぞれ接続部等の構造物が設けられている場合は、構造物同士が少なくとも一部で接触するときの基板211,213間の位置ずれ量に対応する値である。閾値は、例えば1.0μm以下であり、より好ましくは、0.5μm以下である。位置ずれ量が閾値よりも大きい場合は、接続部同士が接触しない又は適切な電気的導通を得ることができない、もしくは接合部間に所定の接合強度が得られない。閾値は、後述する歪み補正のための基板ホルダや補正機構等の補正部による補正量に応じて設定してもよい。
【0075】
制御部150は、ステップS204において、基板211、213の暫定的な組み合わせが予め定めた条件を満たしていると判断した場合(ステップS204:YES)、この基板211、213の組み合わせに対してステップS102(
図3)以降の貼り合わせのプロセスを実行させる。一方、ステップS204において、基板211、213の組み合わせが予め定めた条件を満たしていないと判断した場合(ステップS204:NO)、制御部150は、暫定的に組み合わせた基板211、213の貼り合わせを実行することなく、これらの基板211、213が条件を満たすことができるように対策を実行させる(ステップS205)。
【0076】
図15は、上記のステップS205において実行する対策の手順のひとつを説明する流れ図である。制御部150は、まず、対策を実行する一枚の第1の基板213を決定する(ステップS301)。次に、制御部150は、選択した第1の基板213について、ステップS201(
図14)で測定された湾曲に関する情報を取得する(ステップS302)。
【0077】
次いで、制御部150は、選択した第1の基板213について取得した情報と、第1の基板213を貼り合わせて積層基板230とした場合に予め定められた条件を満足する最終倍率の差の値とから、第1の基板213に組み合わせることができる第2の基板211に許容される倍率の範囲、すなわち、第1の基板213と貼り合わせた結果、最終的に第2の基板211に生じる倍率の範囲を算出する。このとき、制御部150は、例えば重ね合わせの過程で第1の基板213に生じる接合過程倍率を相殺できる倍率を算出し、その値を中心とした数値範囲を許容範囲とする。
【0078】
次に、当該範囲の倍率に対応する反り等の歪みの状態を有する第2の基板211を、ステップS201(
図14)において湾曲に関する情報を既に取得した複数の基板の中から選択して、第1の基板213に組み合わせる(ステップS303)。このとき、制御部150は、反り等の湾曲に関する情報に基づいて第2の基板211の最終倍率を推定し、その最終倍率が上記した範囲内に入る第2の基板を決定する(ステップS303)。こうして、貼り合わせた場合に、所定の条件を満たす積層基板230を形成できる基板の組み合わせが形成される。
【0079】
上記のステップS303において、基板211、213を各々が平坦な状態で重ね合わせる場合は、基板ホルダ221、213に保持させた状態の倍率の差、すなわち、基板211,213のそれぞれの初期倍率と平坦化倍率との和の差が小さくなるように、第1の基板213および第2の基板211を組み合わせることが好ましい。各基板211、213の、基板ホルダ223、221に保持された状態の倍率は、反りに関する情報から算出し、または、反り量と倍率との関係から推測することもできる。
【0080】
また、ステップS303において、凸面の保持面を有する基板ホルダ223に保持した第1の基板213と、平坦な保持面を有する基板ホルダ221に保持した第2の基板211とを、第1の基板213の保持を解除することにより重ね合わせる場合は、平坦な保持面を有する基板ホルダ221に保持された状態での倍率すなわち初期倍率と平坦化倍率との和と、第1の基板213における最終倍率となる初期倍率と接合過程倍率との和に対する差が小さい倍率との差が閾値以下となる第2の基板211を組み合わせる。この場合、基板211、213における最終倍率と基板の反り状態との関係は、予め実験的に求めておいてもよい。
【0081】
また、第2の基板211が基板ホルダ221に保持された状態の倍率、および、第1の基板213の最終倍率は、それぞれ湾曲に関する情報または反り量と倍率との関係から算出できる。
【0082】
このように、基板211、213の組み合わせを決定する段階で、基板211、213の反り等の歪みに基づいて基板211、213を重ね合わせる段階における倍率または重ね合わせた後の最終倍率を推定することにより、倍率の相違に起因する位置ずれを防止または抑制できる。また、重ね合わせる段階の倍率の差が閾値以下となる基板210を組み合わせることにより、倍率の相違による接合不良が防止される。
【0083】
また、重ね合わせる段階の倍率の差が小さい基板210を組み合わせることにより、少なくとも位置ずれを小さくすることができ、更に、後述するように基板210に何らかの補正をする場合であっても、少ない補正で位置ずれを解消できる。更に、重ね合わせ部300において位置合わせをする段階よりも前またはアライメントマークの検出を行う前に基板の組み合わせを決定することによって倍率の相違を抑制することにより、重ね合わせ部300における位置合わせを高速化し、積層基板製造装置100のスループットを向上させることができる。
【0084】
なお、基板210の湾曲に関する情報に基づいた組み合わせの決定は、上記のように、基板211、213の重ね合わせの段階(
図3に示したステップS103)よりも前であることが好ましいと同時に、重ね合わせる基板211、213の表面の活性化(
図3に示したステップS106)よりも前であることが好ましい。これにより、基板211、213を活性化したにもかかわらず、重ね合わせの対象となる組み合わせが決定できなかった場合に、基板211、213の活性化が無駄になることを回避できる。
【0085】
上記実施例において、ひとつのロットまたはカセット内で、倍率差が許容範囲に収まる組み合わせを決定できなかった基板210に対しては、組み合わせの範囲を、他のロットまたは他の基板カセット120に拡げてもよい。この場合、組み合わせが決定されない基板210を収容するカセットを設け、組み合わせるべき基板210が見つかるまで、当該カセットで待機させておいてもよい。
【0086】
上記実施例では、第1の基板213および第2の基板211の湾曲に関する情報から推測した位置ずれ量および倍率等に基づいて、第1の基板213および第2の基板211の組み合わせを決定したが、これに代えて、第1の基板213の歪みの種類および歪み量等の歪みの状態、および、第2の基板211の歪みの状態に基づいて組み合わせを決定してもよい。歪みの状態は、湾曲に関する情報の一つであり、反り形状および反り量等の反り状態が含まれる。この場合、組み合わせのために満たすべき条件は、第1の基板213の歪みの状態と第2の基板211の歪みの状態との組み合わせが、予め定めた歪みの状態の組み合わせに該当することを含む。このように第1の基板213および第2の基板211における歪みの状態のような、形状に基づいて組み合わせを決定することができる。
【0087】
また、上記した実施例において、基板211、213のローカル反りを考慮して基板211、213の組み合わせを決定してもよい。基板211、213の反った領域の反り状態を上記したグローバル反りと同様に測定および推定することができ、また、ローカル反りに関する情報と歪みとを関係付けておくことができる。この場合、二つの基板211、213が対向した状態での反り状態が、二つの基板211、213の表面に沿った平面に関して鏡像関係になる基板を組み合わせる。そして、この組み合わされた二つの基板211、213を接合するときは、両方の基板211、213を基板ホルダ221、213から解放することが好ましい。これにより、両基板211、213のローカル反りが生じている領域に同等の歪みを生じさせることができるので、ローカル反り領域における歪みの差による位置ずれが抑制される。
【0088】
重ね合わせに供する基板210は、当初は、
図16の図中左側に示すように、様々な反りの状態をランダムに有する。そこで、積層基板製造装置100の制御部150は、ステップS201において基板210の各々の湾曲に関する情報を取得すると、取得した情報に基づいて、ひとつのロットまたは基板カセット120に含まれる基板210の湾曲に関する情報を取得した上で、基板210を反りの大きさに従って配列する。
【0089】
ここで、基板210の配列は、基板210を移動させなくても、基板210を識別するコードと基板カセット120内での収容位置とを関連付けて制御部150が処理することにより、例えば、ひとつの基板カセット120に収容された複数の基板210に序列をつけてもよい。これにより、序列をつけられた複数の基板210を順次組み合わせて重ね合わせることにより、倍率差がカセットまたはロット内で均一になり、全体に品質の高い積層基板230が製造される。
【0090】
一方、ソーター等を用いて、位置ずれが閾値以下となる基板210のペアが隣り合うように基板カセット120に収容することにより、積層基板製造装置100の制御部150は、基板カセット120内の基板210を、単純に順次処理することにより、適切な組み合わせで貼り合わせを実行できる。これにより、制御部150の負荷を減らして、スループットを向上できる。
【0091】
また、以下に述べるように、積層基板製造装置100内で基板210の組み合わせを決定することに代えて、積層基板製造装置100とは別の装置で組み合わせを決定してもよい。
【0092】
この場合、積層基板製造装置100とは別の装置で基板210の反りを含む形状を計測する。別の装置は、接合される基板210を接合の前段階で処理する基板処理装置、例えば露光装置、成膜装置および研磨装置等を含む。
【0093】
この歪んだ基板210の形状の情報に基づいて、複数の基板210を例えば反り量毎に個別の基板カセット120に仕分ける。または、一つの基板カセット120内で各基板210を識別する識別情報と、各基板210の湾曲に関する情報とを対応付けて記憶しておく。この仕分けは、ソーターを用いてもよい。同一ロット内で仕分ける場合は、基板210が元々収容されていたカセットから専用の基板カセットに入れ直す必要はないが、ロット間で仕分ける場合は、専用の基板カセットに入れ直してもよく、複数の基板カセットを積層基板製造装置に並べてセットしてもよい。
【0094】
基板処理装置の制御部は、複数の基板210と湾曲に関する情報とを対応付けたデータを格納したデータサーバからデータを読み込んで組み合せを決定し、または、組み合わせを決定する組合せ処理部に組合せを行う旨の指示信号を出力して処理させる。基板処理装置の制御部は、組み合わせた基板210の組を接合する指示を示す信号を、積層基板製造装置100に出力する。積層基板製造装置100は、基板処理部の制御部から受けた信号に基づき、セットされた基板カセット内の基板を、基板処理装置の制御部の指示に従って接合する。
【0095】
図17は、ステップS205(
図14)において実行する対策の手順のひとつを説明する流れ図である。まず、制御部150は、基板の湾曲に関する情報を収集した一群の基板210から任意の第1の基板213および第2の基板211の組み合わせを選択する(ステップS401)。すなわち、制御部150は、複数の基板210の中から所定の条件を満たす第1の基板213および第2の基板211の組み合わせを選択する選択部として機能する。ただし、ここで選択された組み合わせは、ステップS204(
図14)において、条件を満たしていないことが既に判断された組み合わせである。
【0096】
次に、制御部150は、選択した一組の基板211、213について、ステップS201(
図14)で測定された湾曲に関する情報を取得する(ステップS402)。これにより、制御部150は、この第1の基板213および第2の基板211の組み合わせにおける最終倍率と所与の条件との乖離を把握して、条件を満たすために実行すべき補正量を算出できる。すなわち、制御部150は、二つの基板211、213を貼り合せたときの位置ずれ量を推測する推測部として機能する。ここで、補正量とは、互いに接合される二つの基板211、213の位置ずれが閾値以下となるように、二つの基板210の少なくとも一方に生じさせる歪み量である。
【0097】
よって、基板ホルダ223および後述する補正部602等により基板211、213の少なくとも一方の歪みの状態を変化させることにより、推定される倍率を変化させ(ステップS403)、選択した第1の基板213の最終倍率を、設計仕様の倍率に近づける。
【0098】
なお、基板211、213を重ね合わせていない状態で、基板211、213の少なくとも一方の形状を変化させることにより、基板211、213の歪み量を変化させてもよい。また、基板211、213の各々を設計仕様に沿うように形状を変化させてもよいが、積層する基板211、213のいずれか一方に他方を合わせるように、基板211、213のいずれか一方の形状を変化させてもよい。また、上記した基板211、213に関する情報として記録された基板の非線形歪み等も合わせて補正してもよい。
【0099】
更に、制御部150は、接合過程倍率のように重ね合わせの過程で生じる倍率に見合った当初倍率を算出して、算出した当初倍率に対する差が閾値以下となる倍率を有する第2の基板211を決定してもよい。
【0100】
また更に、制御部150は、決定した第2の基板211の倍率を、補正部601、602,603等により補正して、重ね合わせ後の基板211、213の倍率差が閾値以下となるようにする。こうして、積層基板230における基板211、213の倍率差を極めて小さくすることができる。
【0101】
なお、ステップS403でいずれかの基板211、213を補正しても、予め定められた条件を満たすことができないことが判明した場合は、
図14に示した手順に従って基板211、213の組み合わせを変更してもよい。また、それでも組み合わせが見つからなかった基板211、213は、いったんプロセスからはずして、組み合わせることができる基板が生じるまで待機させてもよい。
【0102】
更に、上記の例では、貼り合わせる基板211、213が、あくまでも当初の条件を満たすことを条件として基板211、213を処理した。しかしながら、例えば、条件を満足できない基板211、213の組み合わせが発生して他の基板211を選択する段階に、当初の閾値に、予め定めた他の値を加えることにより、条件を満足できる範囲を拡げてもよい。これにより、精度の低下を予め想定した範囲に抑制すると共に、基板211、213の歩留りを向上できる。
【0103】
図18は、ステップS403(
図16)において基板210の歪みを補正する方法のひとつとして、基板210の初期倍率を補正する方法を説明する図である。同図には、基板211を基板ホルダ221に保持させた状態が示される。
【0104】
ここで、基板ホルダ221は、周縁部から中央部に向けて厚さが徐々に増加する断面形状を有する。これにより、湾曲した保持面225を有する。基板ホルダ221に吸着して保持された基板211は、保持面225に密着して、保持面225の形状に倣って湾曲する。よって、保持面の表面が曲面、例えば、円筒面、球面、放物面等をなす場合は、吸着された基板213も、そのような曲面をなすように形状が変化。
【0105】
このような形状の保持面225に基板211が吸着された場合、基板211が湾曲した状態では、図中に一点鎖線で示す基板213の厚さ方向の中心部Aに比較して、基板211の図中の上面である表面では、基板211の表面が中心から周縁部に向けて面方向に拡大するように形状が変化する。また、基板211の図中の下面である裏面においては、基板211の表面が中心から周縁部に向けて面方向に縮小するように形状が変化する。
【0106】
このように、基板211を基板ホルダ221に保持させることにより、基板211の図中上側の表面は、基板211が平坦な状態に比較すると拡大される。このような形状の変化により、他の基板213との倍率差による位置ずれを補正できる。なお、湾曲した保持面225の曲率が異なる複数の基板ホルダ221を用意すれば、倍率に対する補正量を調節することもできる。
【0107】
図19は、湾曲部の一例として重ね合わせ部300に組み込むことができる補正部601の模式的断面図である。補正部601は、図示の例では、重ね合わせ部300の下ステージ332に設けられ、上記したステップS403(
図17参照)において、補正のために基板211の形状を変化させて湾曲させる場合に使用する。
【0108】
補正部601は、基部411、複数のアクチュエータ412、および吸着部413を含む。基部411は、アクチュエータ412を介して吸着部413を支持する。
【0109】
吸着部413は、真空チャック、静電チャック等の吸着機構を有し、下ステージ332の上面を形成する。吸着部413は、搬入された基板ホルダ221を吸着して保持する。
【0110】
アクチュエータ412は、吸着部413の下方で吸着部413の下面に沿って複数配されている。また、複数のアクチュエータ412は、制御部150の制御の下で、外部からポンプ415およびバルブ416を通じて作動流体が供給されることにより個別に駆動する。これにより複数のアクチュエータ412は、下ステージ332の厚さ方向すなわち基板211,213の重ね合わせ方向に、個々に異なる伸縮量で伸縮して、吸着部413の結合された領域を上昇または下降させる。
【0111】
また、複数のアクチュエータ412は、それぞれリンクを介して吸着部413に結合される。吸着部413の中央部は、支柱414により基部411に結合される。補正部601においてアクチュエータ412が動作した場合、アクチュエータ412が結合された領域毎に吸着部413の表面が厚さ方向に変位する。
【0112】
図20は、補正部601の模式的平面図であり、補正部601におけるアクチュエータ412のレイアウトを示す図である。補正部601において、アクチュエータ412は、支柱414を中心として放射状に配される。また、アクチュエータ412の配列は、支柱414を中心とした同心円状ともとらえることができる。アクチュエータ412の配置は図示のものに限られず、例えば格子状、渦巻き状等に配置してもよい。これにより、基板211を、同心円状、放射状、渦巻き状等に形状を変化させて補正することもできる。
【0113】
図21は、補正部601の動作を説明する図である。図示のように、バルブ416を個別に開閉することによりアクチュエータ412を伸縮させて、吸着部413の形状を変化させることができる。よって、吸着部413が基板ホルダ221を吸着しており、且つ、基板ホルダ221が基板211を保持している状態であれば、吸着部413の形状を変化させることにより、基板ホルダ221および基板211の形状を変化して湾曲させることができる。
【0114】
図20に示した通り、アクチュエータ412は、同心円状、即ち、下ステージ332の周方向に配列されていると見做すことができる。よって、
図21に点線Mで示すように、周毎のアクチュエータ412をグループにして、周縁に近づくほど駆動量を大きくすることにより、吸着部413の表面において中央を隆起させて、球面、放物面、円筒面等の形状に変化させることができる。
【0115】
これにより、湾曲した基板ホルダ221に基板211を保持させた場合と同様に、基板211を、球面、放物面等に倣って形状を変化させて湾曲させることができる。よって、補正部601においては、図中に一点鎖線で示す基板213の厚さ方向の中心部Bに比較すると、基板211の図中上面では、基板211の表面が面方向に拡大するように形状を変化させる。また、基板211の図中下面においては、基板211の表面が面方向に縮小するように形状を変化させる。更に、複数のアクチュエータ412の伸縮量を個別に制御することにより、円筒面等の他の形状の他、複数の凹凸部を含む形状に基板211の形状を変化させて湾曲させることにより、非線形歪みを補正することもできる。
【0116】
よって、制御部150を通じて補正部601のアクチュエータ412を個別に動作させることにより、基板211の表面における回路領域216の設計仕様に対するずれを、部分的または全体的に調整できる。また、アクチュエータ412の動作量により形状を変化させる量を調整できる。
【0117】
上記の例では、吸着部413が、中央で盛り上がる形状を有していた。しかしながら、吸着部413の周縁部においてアクチュエータ412の動作量を増加させて、吸着部413の周縁部に対して中央部を陥没させることにより、基板211の表面における回路領域216の倍率を縮小することもできる。
【0118】
また、上記の例では、重ね合わせ部300を下ステージ332に補正部601を組み込んだが、上ステージ322に補正部601を組み込んで、上ステージ322において基板213を補正してもよい。また更に、上ステージ322および下ステージ332の両方に補正部601を組み込んでもよい。更に、上ステージ322と下ステージ332とで補正を分担してもよい。基板211、213の倍率の補正は、上記方法に限られず、温度調節による熱膨張または熱収縮等、他の補正方法を更に導入してもよい。
【0119】
図22は、ステップS403(
図16)において基板210の歪みを補正する方法のひとつとして、基板210の接合過程倍率を補正する方法を説明する図である。図中下側の基板211は、中央が突出した基板ホルダ221に保持されることにより、倍率が拡大されている。ここで補正された基板211の倍率は、基板213の接合過程倍率を見込んだものである。よって、基板211、213の倍率の相違に起因するずれは低減される。
【0120】
基板ホルダ221の保持面225が、中央で盛り上がる形状を有していた。しかしながら、保持面225の周縁部に対して中央部が陥没した基板ホルダ223を用意して基板211を保持させることにより、基板211表面における倍率を縮小することができ、回路領域216の設計仕様に対する位置ずれを調整することもできる。
【0121】
図23は、重ね合わせ部300に組み込んで基板211、213の接合過程倍率を補正できる他の補正部602の模式的断面図である。補正部602は重ね合わせ部300で使用される基板ホルダ221、223に組み込まれている。この補正部602は、湾曲した保持面225を有する基板ホルダ221、上記した補正部601等と併用することもできる。また、補正部602を、基板ホルダ221が基板211を吸着する場合に用いる静電チャックと兼用することもできる。
【0122】
補正部602は、スイッチ434、静電チャック436、および電圧源432を有する。静電チャック436は、基板ホルダ221、223に埋設される。静電チャック436の各々は、個別のスイッチ434を介して、共通の電圧源432に結合される。これにより、静電チャック436の各々は、制御部150の制御の下に開閉するスイッチ434が閉じた場合に、基板ホルダ221、223の表面で吸着力を発生して、基板211、213を吸着する。
【0123】
補正部602における静電チャック436は、基板ホルダ221、223において基板213を保持する保持面全体に配される。これにより、基板ホルダ221,223はそれぞれ複数の吸着領域を有する。よって、スイッチ434のいずれかが閉じた場合に、対応する静電チャック436が吸着力を発生して、基板ホルダ223の保持面における任意の位置で、基板211、213に対して吸着力を作用させる。なお、全てのスイッチ434を閉じた場合は、全ての静電チャック436が吸着力を発生して、基板211、213を基板ホルダ221、223に強固に保持させる。
【0124】
図24は、補正部602の補正動作を説明する図である。
図24においては、
図22と同様に、重ね合わせの過程にある基板211、213の一部が示される。
【0125】
重ね合わせ過程において、基板213の形状に変化が生じている境界K付近の領域に、補正部602により、図中上方から基板213に対して吸着力を作用させると、補正をしなかった場合の形状の変化に対して、より大きな形状の変化が基板213に生じる。これにより、静電チャック436を動作させた箇所において、基板213の伸び量をより大きくする補正ができる。
【0126】
また、重ね合わせ過程において、基板ホルダ221による基板211の保持を部分的に解除すると、当該領域においては、上側の基板213からの引っ張り力により、下側の基板211が基板ホルダ221から浮き上がって湾曲する。これにより、下側の基板211の表面が伸びるように形状が変化するので、この伸び量の分、上側の基板213の表面の伸び量との差が小さくなる。従って、基板211の曲げ量すなわち伸び量を調整することにより、基板211、213間の倍率差による位置ずれを小さくすることができる。
【0127】
なお、下ステージ332において補正目的で基板211の保持を解除する場合には、保持力を完全に消失させることに換えて、保持力を弱くするにとどめてもよい。このように、基板ホルダ221による基板211の保持力を調整することによっても、基板211の倍率を調節でき、基板213との倍率差による位置ずれを補正できる。
【0128】
このように、補正部602の動作により、基板211、213相互の倍率の相違を抑制できる。また、基板ホルダ221、223全体に配された静電チャック436は、個別に吸着力を発生または遮断できる。よって、基板211、213における伸び量の不均一が複雑に分布している場合であっても、補正部602により補正することができる。
【0129】
なお、上記の例では、下ステージ332が保持する基板211に対して、上ステージ322による基板213の保持を一気に解放することにより、基板213の自律的な接合により基板211、213を重ね合わせた。しかしながら、静電チャック436の吸着力を、上ステージ322の面方向について基板の中心部から外側に向かって順次消去することにより、基板213の自律的な接合を抑制して、基板211、213の接触領域の拡がりすなわち境界Kの移動速度、移動時間、移動方向等を制御してもよい。これにより、外周に近づくほど倍率の変化が累積されて、外周に近づくほど倍率差が増加することを抑制できる。
【0130】
図25は、重ね合わせ部300に組み込んで基板211、213の接合過程倍率を補正できる他の補正部603の模式的断面図である。補正部603は重ね合わせ部300の上ステージ322で使用される基板ホルダ223に組み込まれている。
【0131】
補正部603は、基板ホルダ223に設けられ、基板ホルダ223に保持された基板213に向かって開口した複数の開口部426を含む。開口部426の各々の一端は、上ステージ322を通じて、バルブ424を介して圧力源に連通する。圧力源422は、例えば、圧縮された乾燥空気等の加圧流体である。バルブ424は、制御部150の制御の下に個別に開閉される。バルブ424が開いた場合は、対応する開口部426から加圧流体が噴射される。
【0132】
図26は、補正部603における開口部426のレイアウトを示す図である。開口部426は、基板ホルダ223において基板213を保持する保持面全体に配される。よって、バルブ424のいずれかを開くことにより、基板ホルダ223の保持面における任意の位置で、加圧流体を図中下方に向かって噴射できる。
【0133】
基板ホルダ223は、例えば静電チャックにより基板213を保持する。静電チャックは、電力供給を遮断することにより吸着力を解消できるが、残留電荷等により保持していた基板213が解放されるまでにタイムラグが生じる。そこで、静電チャックへの給電を遮断した直後に、基板ホルダ223全体の開口部426から加圧流体を噴射して、基板213を即座に解放できる。
【0134】
図27は、補正部603の補正動作を示す模式図である。
図27においては、
図24と同様に、重ね合わせの過程にある基板211、213の一部が示される。
【0135】
重ね合わせの過程において、基板213の形状が変化している境界K付近の領域に、補正部603により、図中上方から加圧流体427を噴射すると、基板213が他方の基板211に向かって押されて形状の変化量が減少する。これにより、加圧流体を吹きつけた箇所において、基板213の伸び量をより小さくする補正ができる。
【0136】
このように、補正部603が動作することにより、基板213における伸びを抑制できるので、基板211、213相互の間の倍率差による位置ずれを補正できる。なお、補正部603において、開口部426は、個別に加圧流体を噴射できる。よって、補正すべき基板213の伸び量の分布が不均一な場合も、基板213の領域毎に異なる補正量で補正できる。
【0137】
なお、上記の例では、上ステージ322に補正部603を設ける場合について説明した。しかしながら、下ステージ332に保持された基板211を解放して基板213に貼り合わせる構造の重ね合わせ部300では、補正部603を下ステージ332に設けて、図中下側の基板211の伸び量を補正してもよい。更に、下ステージ332および上ステージ322の両方に補正部603を設けて、両方の基板211、213で補正を実行してもよい。
【0138】
また、
図15を用いて説明した基板211、213の組み合わせによる倍率差の抑制に加えて、
図18に示した曲面状の保持面225を有する基板ホルダ221を用いた倍率補正、
図19等に示した補正部601、
図23に示した補正部602、
図25等に示した補正部603等による倍率補正を併用してもよい。
【0139】
この場合、所定の条件に適合する二つの基板211、213の組み合わせを決定する際、二つの基板211、213の位置ずれ量が、上記した補正手段で補正可能な大きさを有する組み合わせを決定する。つまり、基板211、213の位置ずれ量と位置ずれ量の閾値との差すなわち必要となる補正量が、上記した補正手段の最大補正量よりも小さくなる基板211、213の組み合わせを決定する。
【0140】
これにより、湾曲に関する情報に基づいて第1の基板213に合わせて第2基板211を決定するときに解消できなかった歪み差による位置ずれを減少させることができるので、位置ずれ量が閾値以下となる組み合わせを決定することができない場合でも、補正手段を用いることにより組み合わせ数を増やすことができる。
【0141】
なお、アクチュエータ412等を備えた補正機構で曲面状の保持面225を有する基板ホルダ221の形状を変化させることにより、基板ホルダ221の凸量を連続的に変化させることができるので、基板ホルダ221による補正量を調整することができる。また、基板211、213の温度差、基板211、213に対する吸着力等を利用した補正機構により、基板211、213の反り、歪み等に対する補正量を調整できる。これにより、補正範囲を拡げて、基板210の利用効率を更に向上できる。
【0142】
また、上記した例のように基板の湾曲に関する情報に基づいて、補正機構により基板間の位置ずれを補正する場合、取得部が取得する情報は、歪みを補正する場合の補正方法、補正量等の情報であってもよい。更に、取得部が取得する情報は、補正量を算出するための補正量以外の情報であってもよい。ここで、補正量以外の情報とは、例えば、基板210のロット番号、基板210を前工程で処理する場合に使用した設備のID、重ね合わせるまでに基板210に対してなされた処理の履歴、基板210の仕様等を例示できる。
【0143】
また、
図17に示す手順で上記した補正手段を用いて位置ずれを補正する場合、
図14のS204において、二つの基板211、213の湾曲に関する情報から算出または推測した二つの基板211、213の位置ずれ量、もしくは、位置ずれ量と位置ずれ量の閾値との差すなわち必要となる補正量が、上記した補正手段で補正可能な大きさ以下であるか否かを、所定の条件としてもよい。この条件を満たす場合は、上記した補正手段により補正を行い、条件を満たさない場合は、
図15に示すステップに沿って、当該条件を満たす基板の組み合わせを決定する。
【0144】
このように、基板211、213の湾曲に関する情報を予め取得して、重ね合わせ後の倍率を含む歪みまたは位置ずれを推測することにより、積層に関して相性のよい基板211、213を組み合わせることができる。これにより、倍率等に起因する位置ずれが閾値以下となる積層基板230を効率よく製造できる。また、重ね合わせる基板211、213に倍率等の相違があっても、倍率差を抑制する補正を効率よく実行でき、位置ずれの少ない積層基板230の生産性と歩留りを向上できる。
【0145】
また、上記の実施例において、基板211、213の湾曲に関する情報から予測した倍率と、基板211、213上のアライメントマーク218に基づくグローバルアライメントまたはエンハストグローバルアライメントにより計測した接合前の倍率、または接合後の倍率との差分を求め、当該差分が予め定めた閾値よりも大きい場合は、次回からの測定および判定の閾値等にこの差分を反映させてもよい。これにより、基板211、213の位置合わせ精度を、より向上させることができる。
【0146】
この場合、制御部150は、基板211、213毎に、あるいは、重ね合わせる基板211、213の組み合わせが決まっている場合は当該組み合わせ毎に、基板211、213に関する情報として、アライメントマーク218の位置情報から基板211、213の歪みの状態を算出して記録してもよい。
【0147】
また、上記した実施例では、基板211、213に生じた倍率歪みの状態に基づいて組合せの適否を判断した例を示したが、これに代えて、または、これに加えて、基板211、213のそれぞれに生じた直交歪みの状態に基づいて組み合わせの適否を判断してもよい。二つの基板211、213のそれぞれに直交歪みが生じている場合には、一方の基板を回転させることにより、二つの基板211、213間の位置ずれ量が閾値以下となるか否かを検出し、閾値以下となる場合には、適切な組み合わせであると判断してもよい。
【0148】
図28は、ステップS205(
図14)において実行する対策の他の手順を説明する流れ図である。まず、制御部150は、湾曲に関する情報を収集した一群の基板210から任意の第1の基板213を選択する(ステップS501)。ただし、ここで選択された組み合わせは、ステップS204(
図14)において、条件を満たしていないと判断された組み合わせから取り出された基板213である。
【0149】
次に、制御部150は、選択した第1基板213について、ステップS201(
図14)で測定された湾曲に関する情報を取得する(ステップS502)。これにより、制御部150は、この第1の基板213に組み合わせることにより所定の条件を満たす第2の基板211の倍率を算出できる。そこで、制御部150は、基板211、213の製造設備に第2の基板211の要求仕様を示す情報を出力して、選択した第1の基板213と組み合わせて積層基板230とした場合に条件を満たすことができる第2の基板211を製造させる(ステップS503)。
【0150】
こうして、第1の基板213に組み合わせることを前提として第2の基板211を製造することにより、第1の基板213を用いて、条件を確実に満たす積層基板230を作製できる。なお、ステップS503において、第1の基板213に組み合わせる第2の基板211を製造する他に、他のロットまたは他のラインで、組み合わせを見出せずにストックされていた基板210に、第1の基板213に適合するものがあれば、それを用いてもよい。
【0151】
更に、組み合わせる基板210を決定できなかった場合に、当該基板210に組み合わせる適切な倍率を有する基板210を作製してもよい。
【0152】
例えば、既存の第1の基板213に対して、最終倍率の差が閾値以下となるような第2の基板211を後から製造してもよい。この場合、最終的な倍率差が閾値以下となる基板211の反り量を逆算して、ウエハの製造から、成膜を含む基板211の製造過程で、第1の基板213の反りに関する情報を成膜装置にフィードバックして、基板211を意図的に反らせてもよい。
【0153】
こうして、倍率差が生じない基板を用意することにより、基板211、213の重ね合わせのスループットを向上させることができる。この場合、二つの基板211、213の倍率差がゼロとなる反り量を目標値として製造し、目標値からの誤差分は上記したように基板211、213の組み合わせや補正機構を用いて解消してもよい。
【0154】
また、上記のように製造する基板は、第1の基板213に対して組み合わせる第2の基板211を決定した後に、残った基板に対して、倍率差が閾値以下となる基板を製造してもよい。これにより、基板211、213の歩留りを向上できる。
【0155】
また、本実施例では、第1の基板213および第2の基板211の組み合わせが、積層基板230に対して予め定められた条件を満たすか否かを判断する例を示したが、これに代えて、第1の基板213および第2の基板211のそれぞれが所定の条件を満たすか否かを個別に判断してもよい。この場合、所定の条件は、第1の基板213および第2の基板211のそれぞれにおいて、積層基板製造装置100に搬入されてから貼り合わせが完了するまでの貼り合わせ過程中に生じると予測した歪み量が、第1の基板213および第2の基板211のそれぞれに設けられた接続端子の幅寸法の半分以下となることである。もしくは、この条件を満たすときの第1の基板213および第2の基板211のそれぞれの湾曲状態を予め記憶しておき、測定した湾曲状態から条件を満たすか否かを判断する。
【0156】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態もまた、本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0157】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0158】
100 積層基板製造装置、110 筐体、120、130 基板カセット、140 搬送部、150 制御部、210、211、213 基板、212 スクライブライン、214 ノッチ、216 回路領域、218 アライメントマーク、220、221、222、223 基板ホルダ、225 保持面、426 開口部、230 積層基板、300 重ね合わせ部、310 枠体、312 底板、316 天板、322 上ステージ、324、334 顕微鏡、326、336 活性化装置、331 X方向駆動部、332 下ステージ、333 Y方向駆動部、338 昇降駆動部、400 ホルダストッカ、411 基部、412 アクチュエータ、413 吸着部、414 支柱、415 ポンプ、416、424 バルブ、422 圧力源、427 加圧流体、432 電圧源、434 スイッチ、436 静電チャック、500 プリアライナ、601、603、602 補正部