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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107144
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】電極及びその製造方法、並びに電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20220713BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220713BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220713BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20220713BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220713BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/04 Z
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001896
(22)【出願日】2021-01-08
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】細野 英司
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】北浦 弘和
(72)【発明者】
【氏名】曽根 理嗣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 綾香
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA01
5H050BA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA09
5H050EA15
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】耐環境性などの諸特性に優れた一次電池又は二次電池の作製を可能にする電極及びその製造方法、並びに前記電極を備えた電池を提供すること。
【解決手段】集電体と、前記集電体の表面に設けられた活物質層と、を備え、前記活物質層が、複数の活物質粒子と、前記複数の活物質粒子の粒子間を充填する層状金属硫化物と、で構成される、一次電池又は二次電池用の電極。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の表面に設けられた活物質層と、を備え、
前記活物質層が、複数の活物質粒子と、前記複数の活物質粒子の粒子間を充填する層状金属硫化物と、で構成される、一次電池又は二次電池用の電極。
【請求項2】
前記層状金属硫化物は、遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物、硫化鉄(II)(FeS)、硫化銅(II)(CuS)、ボーナイト(CuFeS)、及び硫化スズ(II)(SnS)からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記層状金属硫化物は遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物であり、前記遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物は、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化タングステン(WS)、二硫化タンタル(TaS)、二硫化ニオブ(NbS)、二硫化チタン(TiS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀ニオブ(AgNbS)、二硫化銅ニオブ(CuNbS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀チタン(AgTiS)、及び二硫化銅チタン(CuTiS)からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項2に記載の電極。
【請求項4】
前記活物質層は、前記層状金属硫化物を5.0質量%以上50.0質量%以下の量で含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
前記活物質層は、前記層状金属硫化物を10.0質量%以上50.0質量%以下の量で含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
前記活物質層は、その表面のすべり摩擦係数が0.01~0.60である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
前記活物質層は、活物質粒子及び層状金属硫化物以外の成分の含有量が0.1質量%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電極。
【請求項8】
正極、負極及び電解質を少なくとも備え、
前記正極及び負極の少なくとも一方が請求項1~7のいずれか一項に記載の電極である、一次又は二次電池。
【請求項9】
前記電池が、高放射線環境下で用いられる電池である、請求項8に記載の一次又は二次電池。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の電極の製造方法であって、以下の工程;
活物質粒子と層状金属硫化物を含む原料混合物を準備する工程と、
前記原料混合物の層を集電体の表面に形成して、前駆体層を作製する工程と、
前記前駆体層にプレス処理を施して、活物質層を作製する工程と、を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極及びその製造方法、並びに電池に関する。
【背景技術】
【0002】
持続的発展が可能な社会の実現に向けて、二酸化炭素排出量の削減が必須になっている。このような状況下で、エネルギー貯蔵デバイスの研究開発が活発に行われ、革新的な材料開発が行われている。特にリチウムイオン電池などの二次電池は、クリーンエネルギー創出を可能にする重要な技術と見なされており、高く注目されている。また電池は、航空・宇宙環境下でのエネルギー源として重要であり、これらの環境下でも安定的に高い性能を示す電池の開発への要望が高い。
【0003】
電池の研究開発において、定置型電池のみならず車載用電池においても、エネルギー密度の向上、充放電サイクル特性の向上、及び安全性の向上が望まれる。特に航空・宇宙環境下では放射線量が多く、また熱負荷が大きい。そのため、これらの環境下で用いられる電池には、充放電特性のみならず、耐放射線や耐熱性などの耐環境性に優れることが要求される。
【0004】
従来の電池の製造では、活物質、導電助剤、バインダー樹脂などの結着材、及び溶媒を混合してスラリーを作製し、このスラリーを集電体の表面に塗布及び乾燥して電極を作製している。例えば、特許文献1には、少なくともリチウム含有複合酸化物よりなる活物質と導電材および結着材を分散媒にて混練分散した正極合剤塗料を正極集電体の上に塗布して正極合剤層を形成した正極板を備えた非水系二次電池が開示されている(特許文献1の請求項1)。
【0005】
また導電助剤や結着材を含まないバインダーフリーの電極を備えた電池も提案されている。例えば、特許文献2には、導電部材の表面に、導電材およびバインダーが非混合且つ活物質としてのプルシャンブルー型のシアノ架橋金属錯体を含む薄膜が形成された正極部材と、前記正極部材と対を成す負極部材と、リチウム塩を含み前記正極部材と負極部材に接触する電解質と、を備えたことを特徴とするバインダーフリー電池が開示されている(特許文献2の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-061819号公報
【特許文献2】国際公開第2012/127790号
【発明の概要】
【0007】
このように、種々の観点から電池の開発が進められているものの、従来の電池には改良の余地があった。すなわち、電池の電極は、カーボンブラックなどの導電助剤や、バインダー樹脂などの結着材を含む。結着材を構成する有機成分は、耐放射線性や耐熱性などの耐環境性に劣る。そのため、従来の電池は、航空・宇宙用途などの過酷な環境下で用いるには、特性の点で不安定であった。また、導電助剤や結着材は、リチウム(Li)貯蔵能力が極めて低い。そのため、導電助剤や結着材を含む電極を用いてリチウムイオン電池を作製しても、エネルギー密度向上を図る上で限界があった。
【0008】
特許文献2には、バインダーフリーの電極を備えた電池が提案されるものの、この電池では、集電体に電析することで電極材料を作製する必要がある。一方で、LiMO(M;Ni、Co、Mn)といった、容量が大きいリチウム遷移金属酸化物は、これを電析して製膜することが困難である。したがって、特許文献2で開示される技術では、容量の大きい電池を作製することは困難であり、エネルギー密度向上を図る上で、やはり限界があった。また特許文献2には、電池の耐環境性については言及されておらず、この電池が耐放射線などの耐環境性を有するのか否かについて不明であった。
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、このような従来の問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、層状金属硫化物が導電助剤、結着材、及び固体潤滑剤としての機能を有しており、このような機能を有する層状金属硫化物を活物質粒子とともに電極活物質層に加えることで、耐環境性を始めとする諸特性に優れた電池を作製することができるとの知見を得た。
【0010】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、耐環境性などの諸特性に優れた一次電池又は二次電池の作製を可能にする電極及びその製造方法、並びに前記電極を備えた電池の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記(1)~(10)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0012】
(1)集電体と、前記集電体の表面に設けられた活物質層と、を備え、
前記活物質層が、複数の活物質粒子と、前記複数の活物質粒子の粒子間を充填する層状金属硫化物と、で構成される、一次電池又は二次電池用の電極。
【0013】
(2)前記層状金属硫化物は、遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物、硫化鉄(II)(FeS)、硫化銅(II)(CuS)、ボーナイト(CuFeS)、及び硫化スズ(II)(SnS)からなる群から選択される少なくとも一種である、上記(1)の電極。
【0014】
(3)前記層状金属硫化物は遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物であり、前記遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物は、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化タングステン(WS)、二硫化タンタル(TaS)、二硫化ニオブ(NbS)、二硫化チタン(TiS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀ニオブ(AgNbS)、二硫化銅ニオブ(CuNbS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀チタン(AgTiS)、及び二硫化銅チタン(CuTiS)からなる群から選択される少なくとも一種である、上記(2)の電極。
【0015】
(4)前記活物質層は、前記層状金属硫化物を5.0質量%以上50.0質量%以下の量で含む、上記(1)~(3)のいずれかの電極。
【0016】
(5)前記活物質層は、前記層状金属硫化物を10.0質量%以上50.0質量%以下の量で含む、上記(1)~(4)のいずれかの電極。
【0017】
(6)前記活物質層は、その表面のすべり摩擦係数が0.01~0.60である、上記(1)~(5)のいずれかの電極。
【0018】
(7)前記活物質層は、活物質粒子及び層状金属硫化物以外の成分の含有量が0.1質量%以下である、上記(1)~(6)のいずれかの電極。
【0019】
(8)正極、負極及び電解質を少なくとも備え、
前記正極及び負極の少なくとも一方が上記(1)~(7)のいずれかの電極である、一次又は二次電池。
【0020】
(9)前記電池が、高放射線環境下で用いられる電池である、上記(8)の一次又は二次電池。
【0021】
(10)上記(1)~(7)のいずれかの電極の製造方法であって、以下の工程;
活物質粒子と層状金属硫化物を含む原料混合物を準備する工程と、
前記原料混合物の層を集電体の表面に形成して、前駆体層を作製する工程と、
前記前駆体層にプレス処理を施して、活物質層を作製する工程と、を備える、方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐環境性などの諸特性に優れた一次電池又は二次電池の作製を可能にする電極及びその製造方法、並びに前記電極を備えた電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】WS粉末のSEM像である。
図2】例1の活物質層の表面を示すSEM像である。
図3】例1の活物質層の表面及び断面を示すSEM像である。
図4】例1で得られた電池の充放電曲線を示す。
図5】例2で得られた電池の充放電曲線を示す。
図6】例3で得られた電池の充放電曲線を示す。
図7】例1~例3で得られた電池のサイクル特性を示す。
図8】層状金属硫化物潤滑のすべり摩擦係数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0025】
1.電極
本実施形態の電極は、一次電池又は二次電池用の電極である。この電極は、正極であってもよく、あるいは負極であってもよい。しかしながら、本実施形態の電極は、二次電池用電極であることが好ましく、リチウムイオン電池用電極であることが特に好ましい。この電極を用いることで、耐環境性のみならず、エネルギー密度及びサイクル特性に優れたリチウムイオン電池の作製が可能になるからである。
【0026】
本実施形態の電極は、集電体と、この集電体の表面に設けられた活物質層と、を備える。集電体として、公知の材料を用いればよい。このような集電体として、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、及びこれらの合金からなる群から選択される少なくとも一種を含む箔又は板を挙げられることができる。例えば、電極がリチウムイオン電池の正極である場合には、集電体として、アルミニウム(Al)箔を用いることができる。また電極がリチウムイオン電池の負極である場合には、銅(Cu)箔を用いることができる。
【0027】
活物質層は、複数の活物質粒子と層状金属硫化物とで構成される。すなわち活物質層は、活物質粒子と層状金属硫化物とを、それぞれ別個に含む。活物質粒子として、公知の材料を用いればよい。例えば、電極がリチウムイオン電池の正極である場合には、正極活物質としてLiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePO、LiFePOF、及び/又はLi(Co、Ni、Mn)Oなどのリチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。また電極がリチウムイオン電池の負極である場合には、負極活物質として、LiTi12などのチタン酸塩、黒鉛、ハードカーボン、Si、及び/又はGeなどを用いることができる。
【0028】
活物質層において、層状金属硫化物は、複数の活物質粒子の粒子間を充填する。層状金属硫化物は、層状結晶構造を有する金属硫化物である。活物質粒子の粒子間に層状金属硫化物を充填させた組織を活物質層にもたせることで、耐環境性、エネルギー密度及びサイクル特性などの種々の特性に優れた電池を作製することが可能になる。
【0029】
すなわち、層状金属硫化物は耐環境性に優れている。例えば、層状金属硫化物は熱安定性が高く、温度変化に対する特性変化が小さい。また放射線環境下でも安定であるという特徴がある。そのため、層状金属硫化物を用いることで、耐環境性に優れた電池を得ることができる。これに対して、従来から結着材として用いられているバインダー樹脂は、熱安定性に劣る。また放射線環境下で重合反応が起こるため、特性が劣化しやすい。そのため、航空、宇宙、及び/又は原子力発電所などの高放射線環境下で用いられる電池にバインダー樹脂が含まれていると、電池の特性が不安定になり、場合によっては電池の使用が不可能になることがある。
【0030】
また層状金属硫化物は固体潤滑剤としての機能を有しており、このような機能を有する層状金属硫化物には、得られる電池のエネルギー密度を高める効果がある。すなわち、層状金属硫化物は、層状の結晶構造を有しており、層間結合力が小さい。例えば、二硫化タングステン(WS)は、六方晶系の結晶構造を有する層状格子構造を有している。この結晶は、タングステン(W)原子をその両側から硫黄(S)原子で挟み込んだ構造を備えた層が(0001)方向に積層された構造を有している。各層を構成する原子同士は、結合力の大きい共有結合により結びついているのに対し、層同士は、結合力の小さいファンデルワース力により結合している。そのため、層状金属硫化物は、層間剥離し易く、剥離しないとしても層間滑りが起こりやすい。また積層構造の最上部の層と最下層の層は、他の物質に付着しやすいという性質を有している。
【0031】
このような性質を有する層状金属硫化物を加えて活物質層を作製すると、プレス工程で活物質粒子に潤滑効果が付与されて、その移動がスムーズに行われる。その結果、緻密にパッキングされた活物質層を得ることが可能である。また、作製後の活物質層において、活物質粒子に層状金属硫化物が付着しているため、活物質粒子の脱落が抑制される。そのため、活物質層の保形性が高まる。この点、層状金属硫化物は成形助剤及び結着材としての機能を有すると言える。また、このような機能を有する層状金属硫化物を用いることで、緻密な活物質層を得ることができる。そして、活物質層を緻密にすることで、容量が高く、それ故、エネルギー密度の高い電池の作製が可能になる。
【0032】
さらに、層状金属硫化物は、半導体的特性を有しており、導電助剤として機能する。例えば、二硫化タングステン(WS)は、n型半導体としての性質を有しており、その導電率は10-3S/cm程度である。そのため、従来から多用されているカーボンブラックなどの導電助剤を層状金属硫化物で置き換えることが可能である。その上、層状金属硫化物は、リチウム(Li)貯蔵特性を有しており、活物質として機能する。例えば、二硫化タングステン(WS)や二硫化モリブデン(MoS)は、2V領域で200mAh/g程度のリチウム貯蔵特性を示すことが知られている。実際、本発明者らは、層状金属硫化物を用いることで、カーボンブラックなどの導電助剤を用いなくとも、良好な充放電特性を示す電池の開発に成功している。
【0033】
このように、固体潤滑剤、導電助剤、及び活物質として機能する層状金属硫化物を活物質に加えることで、緻密な活物質層を得ることができる。また、従来から多用される、リチウム(Li)貯蔵能力や耐環境性に劣る導電助剤や結着材の使用量を抑える、あるいは無くすことができる。これらが複合的に作用して、耐環境性及びエネルギー密度に優れる電池の作製が可能になる。
【0034】
その上、層状金属硫化物は応力緩和材として働く。そのため、本実施形態の電極をリチウムイオン電池に適用すると、電池のサイクル特性を向上させることが可能になる。すなわち、リチウムイオン電池では、充放電時に活物質がリチウム(Li)イオンを吸蔵及び脱離し、それに伴い、活物質の膨張及び収縮が発生する。例えば、ケイ素(Si)系材料は、理論容量が非常に高く負極活物質として有望視されるものの、リチウム(Li)を吸蔵すると体積が300~400%に増加する。また正極活物質として用いられるリチウム遷移金属系複合酸化物は、ケイ素系材料ほどではないものの、リチウムの吸蔵及び脱離に伴い体積が変化する。活物質の体積が変化すると、活物質層中に応力が発生し、様々な問題が引き起こされる。例えば、充放電を繰り返した際に応力が電極中の導電パスを切断したり、あるいは活物質を脱落させたりするため、電池のサイクル特性を著しく劣化させる。これに対して、固体潤滑剤として機能する層状金属硫化物を活物質粒子の粒子間に配置させると、層状金属硫化物が応力の緩衝材として働くため、サイクル特性劣化などの問題の発生を防ぐことができる。
【0035】
さらに、層状金属硫化物を活物質層に加えることで、活物質粒子の溶出抑制の効果を期待することができる。活物質粒子が電解質に直接接触していると、電解質による侵食により活物質粒子が溶出することがある。これに対して、層状金属硫化物を活物質粒子表面に被覆することで、この層状金属硫化物が保護被膜として機能し、その結果、活物質粒子の溶出が抑制されると考えられる。
【0036】
好ましくは、層状金属硫化物は、遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物、硫化鉄(II)(FeS)、硫化銅(II)(CuS)、ボーナイト(CuFeS)、及び硫化スズ(II)(SnS)からなる群から選択される一種である。より好ましくは、層状金属硫化物は遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物であり、この遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物は、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化タングステン(WS)、二硫化タンタル(TaS)、二硫化ニオブ(NbS)、二硫化チタン(TiS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀ニオブ(AgNbS)、二硫化銅ニオブ(CuNbS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀チタン(AgTiS)、及び二硫化銅チタン(CuTiS)からなる群から選択される少なくとも一種である。これらの化合物には潤滑効果がある。
【0037】
好ましくは、活物質層は、層状金属硫化物を5.0質量%以上50.0質量%以下の量で含む。含有量を5.0質量%以上にすることで、層状金属硫化物による優れた効果を十分に発揮させることができ、電池容量及びサイクル特性をより一層高めることが可能になる。一方で含有量を50.0質量%以下にすることで、活物質粒子の割合低下に伴う電池特性劣化を抑制することができる。層状金属硫化物の含有量は、より好ましくは10.0質量%以上50.0質量%以下である。
【0038】
好ましくは、活物質層は、その表面のすべり摩擦係数が0.01~0.60である。本実施形態の活物質層は、固体潤滑剤として機能する層状金属硫化物を含むが故に、その表面のすべり摩擦係数が小さい。活物質層のすべり摩擦係数を小さくすることで、活物質の体積変化に起因する電池部材の破損を抑制することができる。例えば、一般的な二次電池は、電極である正極及び負極と、その間に挟まれるセパレータと、電解質で構成される。また二次電池において、充放電時に正極及び負極の体積が変化する。この体積変化に応じて電極内で応力が発生し、電極活物質にクラックが生じたり、導電助剤やバインダーから電極活物質が脱離したりする。活物質層のすべり摩擦係数を小さくすることで、正極及び/又は負極の体積が大きく変化したとしても、応力集中が抑制され、電極の劣化を防ぐことができる。すべり摩擦係数は0.40以下がより好ましく、0.20以下がさらに好ましく、0.10以下が特に好ましく、0.05以下が最も好ましい。
【0039】
活物質層は、活物質粒子及び層状金属硫化物以外の他の成分の含有量が、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。活物質層は、活物質粒子及び層状金属硫化物を含み、残部不可避不純物の組成を有してもよい。ここで、不可避不純物とは、電極製造時に不可避的に混入する成分のことであり、その含有量は、典型的には100ppm以下である。先述したように、従来から用いられている電池では、カーボンブラックなどの導電助剤やバインダー樹脂などの結着材を活物質層が多量に含んでいる。バインダー樹脂やカーボンブラックはリチウム(Li)貯蔵能力に劣るため、活物質層がこのような成分を多量に含むと、電池の容量向上を図ることが困難になる。またバインダー樹脂は、耐環境性、特に耐放射線に劣る。例えばバインダー樹脂として多用されるポリフッ化ビニルデン(PVdF)に放射線を照射すると、橋かけ重合、主鎖切断、及び脱フッ化水素反応が生じることが知られている。したがって、バインダー樹脂やカーボンブラックといった他の成分の含有量を抑えることで、耐環境性やエネルギー密度向上の効果をより一層顕著に図ることが可能になる。
【0040】
本実施形態の電極は、得られた電池の耐環境性を向上させる効果がある。したがって、本実施形態の電極は、マンガン電池、アルカリ電池、酸化銀電池、リチウム一次電池、及び空気亜鉛電池などの一次電池、あるいはニカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、及び鉛電池などの二次電池に有用である。本実施形態の電極は、耐環境性のみならずエネルギー密度及びサイクル特性向上の効果があるため、二次電池、特にリチウムイオン電池の電極として有用である。
【0041】
2.電池
本実施形態の電池は、一次又は二次電池である。またこの電池は、正極、負極及び電解質を少なくとも備え、正極及び負極の少なくとも一方が上述した電極である。すなわち正極及び負極の少なくとも一方の活物質層に層状金属硫化物が含まれてよく、あるいは両方に層状金属硫化物が含まれてもよい。正極及び負極の構成は上述したとおりである。
【0042】
電池として、公知の一次電池又は二次電池が含まれる。すなわち、マンガン電池、アルカリ電池、酸化銀電池、リチウム一次電池、及び空気亜鉛電池などの一次電池であってよく、あるいはニカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、及び鉛電池などの二次電池であってもよい。好適には二次電池であり、特に好適にはリチウムイオン電池である。
【0043】
電解質は公知の材料を用いればよい。例えば、リチウムイオン電池の場合には、電解質塩を非水溶媒に溶解させた非水電解液を用いることができる。電解質塩として、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、及びKSCN等の無機イオン塩や、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n-CNClO、(n-CNI、(CN-maleate、(CN-benzoate、(CN-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、及びドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩を単独又は混合して使用することができる。また非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、及びビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、及び酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジブトキシエタン)、及びメチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、及びベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体を単独又は混合して使用することができる。
【0044】
電池は、正極と負極との間にセパレータを備えてもよい。セパレータとしては、不織布などの多孔質膜を使用することができる。セパレータを構成する材料として、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体を使用することができる。
【0045】
電池の構造も公知の態様とすればよい。例えば、正極、負極、電解質、及び必要に応じてセパレータを外装缶内に封入した構造が挙げられる。電池の形状も限定されず、円筒形、角形、ボタン型、ラミネート型などの形状であってよい。
【0046】
好ましくは、電池は、高放射線環境下で用いられる電池である。ここで、高放射線環境とは、航空、宇宙、及び/又は原子力発電所などの放射線量が高い環境のことである。本実施形態の電池は、電池特性(エネルギー密度、サイクル特性)に優れるとともに、耐環境性に優れる。そのため高放射線環境下での使用に特に好適である。
【0047】
3.電極の製造方法
本実施形態の電極の製造方法は、以下の工程;活物質粒子と層状金属硫化物を含む原料混合物を準備する工程(準備工程)と、準備した原料混合物の層を集電体の表面に形成して、前駆体層を作製する工程(層形成工程)と、作製した前駆体層にプレス処理を施して、活物質層を作製する工程(プレス工程)と、を備える。各工程の詳細を以下に説明する。
【0048】
<準備工程>
準備工程では、活物質粒子と層状金属硫化物とを含む原料混合物を準備する。活物質粒子として、公知の材料を用いればよい。例えば、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePO、LiFePOF、及びLi(Co、Ni、Mn)Oなどのリチウム遷移金属複合酸化物、LiTi12などのチタン酸塩、黒鉛、ハードカーボン、Si、及び/又はGeなどを用いることができる。また層状金属硫化物として、遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物、硫化鉄(II)(FeS)、ボーナイト(CuFeS)、及び硫化スズ(II)(SnS)からなる群から選択される少なくとも一種を用いることができる。
【0049】
<準備工程>
活物質粒子と層状金属硫化物の混合は、公知の手法で行うことができ、乾式及び湿式のいずれであってもよい。また混合の際に、混合物に粉砕処理を加えてもよい。例えば、乳鉢、らいかい機、2軸ミキサー、V型ミキサー、ヘンシェルミキサー、ディスパー、ボールミル、アトライター、振動ミル、ジェットミルなどの公知の混合機又は混合粉砕機を用いることができる。湿式混合を行う場合には、溶媒を加えて混合を行う。溶媒として、N-メチルピロリドンなどの公知の有機溶媒を用いればよい。
【0050】
活物質粒子と層状金属硫化物の合計に対して、好ましくは5.0質量%以上50.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以上50.0質量%以下の割合になるように層状金属硫化物を配合する。また、配合は、最終的に得られる活物質層が、活物質粒子と層状金属硫化物以外の成分を、不可避不純物量を超えて含まないようにしてもよい。湿式混合を行う場合に加えられる有機溶媒は、後の工程で揮発除去することができるので、これを加えてもよい。
【0051】
<層形成工程>
層形成工程では、準備した原料混合物の層を集電体の表面に形成して、前駆体層を作製する。原料混合物層の形成は公知の手法で行えばよい。例えば、原料混合物を、集電体の表面に塗布する手法が挙げられる。また集電体として、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、及びこれらの合金を含む箔又は板などの公知の材料を用いればよい。さらに原料混合物が溶媒を含む場合には、好ましくは、形成した原料混合物層を乾燥して、溶媒を揮発除去する。
【0052】
<プレス工程>
プレス工程では、作製した前駆体層にプレス処理を施して、活物質層を作製する。これにより緻密な活物質層を得ることが可能になる。プレス処理は、集電体表面に形成した前駆体層に、ロールプレスなどのプレス機を用いて圧力を印加すればよい。前駆体層は、固体潤滑材としての機能を有する層状金属硫化物を含むため、プレス処理を低圧で行っても、十分に緻密な活物質層を得ることができる。
【0053】
このようにして、本実施形態の電極を作製することができる。
【実施例0054】
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(1)電極及び電池の作製
[例1]
例1では、活物質コバルト酸リチウム(LiCoO;LCO)を用い、層状金属硫化物として二硫化タングステン(WS)を用いて電極を作製した。コバルト酸リチウムと二硫化タングステンの割合は、質量比で、LCO:WS=2:1にした。具体的には、以下の手順で電極を作製した。
【0056】
<準備工程>
活物質として、多数のLCO粒子で構成されるLCO粉末(MTI社製EQ-Lib-LCO)を準備した。また層状金属硫化物として、WS粉末(太陽鉱工株式会社製WS2-W)を準備した。
【0057】
次いで、LCO粉末、WS粉末、及び溶媒としてのN-メチルピロリドン(NMP)を、乳鉢を用いて混合して原料混合物を作製した。混合の際、LCO粉末:WS粉末:NMPの割合を、質量比で、LCO粉末:WS粉末:NMP=1200:600:400にした。LCOとWSの合計に対するWSの割合は33.3質量%であった。
【0058】
<層形成工程>
準備した原料混合物を集電体の上に塗布及び乾燥して前駆体層を形成した。集電体として、アルミニウム(Al)箔を用いた。また塗布後に100℃にて真空乾燥処理を行った。
【0059】
<プレス工程>
次に、小型卓上熱ロールプレス機(宝泉株式会社、HSR-60150H)を用いて集電体上の前駆体膜にロール処理を施して、活物質層を作製した。得られた活物質層は約25μmの厚さを有していた。このようにして、集電体の表面に活物質層を備えた電極を作製した。
【0060】
<電池の作製>
得られた電極を正極に用いて評価用電池を作製した。具体的には、正極と負極とセパレータと電解液とをアルゴンガスを充填したグローブボックス内で外装缶内に封入して2032型コインセルを作製した。負極として金属Liを用い、セパレータとしてポリプロピレン膜を用いた。また電解液として、1MのLiPFをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒に溶解した有機電解液を用いた。
【0061】
[例2]
原料混合物を作製する際、LCO粉末:WS粉末、及びNMPの割合を、質量比で、LCO粉末:WS粉末:NMP=1200:200:325にした。LCOとWSの合計に対するWSの割合は14.3質量%であった。それ以外は例1と同様にして、電極及び電池を作製した。
【0062】
[例3]
原料混合物を作製する際、LCO粉末:WS粉末、及びNMPの割合を、質量比で、LCO粉末:WS粉末:NMP=1200:100:300にした。LCOとWSの合計に対するWSの割合は7.7質量%であった。それ以外は例1と同様にして、電極及び電池を作製した。
【0063】
(2)評価
層状金属硫化物(WS粉末等)、電極、及び電池について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0064】
<SEM観察>
WS粉末及び電極活物質層を、走査型電子顕微鏡(SEM;日本電子株式会社製JSM-IT200)を用いて観察した。観察は、20.0kVの加速電圧で行った。
【0065】
<充放電特性>
作製した評価用電池のそれぞれについて、電圧(vs.Li/Li)3.0~4.2Vの間で充放電特性のサイクル試験を25℃で行った。この際、1~5回目の充放電特性は0.05A/gの定電流条件下で測定し、6~10回目の充放電特性は0.1A/gの定電流条件下で測定した。また11~15回目の充放電特性は0.2A/gの定電流条件下で測定した。ここで電流値(0.05~0.2A/g)はLiCoO:1g当たりの電流値である。さらに、得られた充放電曲線から容量を読み取った。
【0066】
<摩擦特性>
層状金属硫化物であるWSおよびMoS粉末を結合剤焼結法にて10μm膜厚で成膜した。摩擦試験タイプはピン・オン・ディスク式往復動で荷重10N、試験速度秒速10mm、摩擦距離10mmに設定し、真空度10-5Pa、22~24℃環境で摩擦試験した。双方とも低摩擦係数を示すことが確認できた。
【0067】
(3)評価結果
<SEM観察>
原料として用いたWS粉末のSEM像を図1(a)及び(b)に示す。ここで(a)及び(b)は、それぞれ5000倍及び2000倍の倍率で得られたSEM像である。図1(a)及び(b)より、WS粉末は板状若しくは鱗片状の形状を有することが分かった。
【0068】
例1で得られた活質層のSEM像を図2(a)~(d)及び図3(a)~(d)に示す。ここで(a)、(b)、(c)及び(d)は、それぞれ2500倍、1000倍、500倍及び250倍の倍率で得られたSEM像である。また図2(a)~(d)は、活物質層の上面像であり、図3(a)~(d)はチルト像である。
【0069】
SEM像から、活物質粒子たるLCO粒子の粒子間を、層状金属硫化物たるWSが充填しており、活物質層が緻密に形成されていることが分かった。特に低倍率像(図2(d)及び図3(d))に示されるように、活物質層には大きな空隙は見当たらなかった。さらにWSの一部が薄片状に形成されていることが分かった。このことから、プレス処理時に、WSが固体潤滑剤として機能し、それによりLCO粒子の緻密な活物質層が形成されたと考えられた。
【0070】
<充放電特性>
例1~例3で得られた電池について、2サイクル目、7サイクル目及び12サイクル目の充放電曲線を図4図6に示す。また電池のサイクル特性を図7に示す。いずれのサンプルでも容量が比較的高く、特にWSの割合が高い例1及び例2において、容量が高かった。また、いずれのサンプルでも、電流密度を4倍(0.05A/g→0.2A/g)に上げても、容量が維持されていた。このことから、電流密度の向上にWSが貢献していることが分かった。
【0071】
<すべり摩擦係数>
図8は電極活物質間の隙間を埋めることを目的とした層状金属硫化物であるMoSとWS潤滑被膜のすべり摩擦試験結果を示すものである。電極活物質層の隙間を埋める充填剤は滑りやすく柔らかい素材が有用であることが考えられる。図8に示す試験結果ではMoSよりものWS方が僅かにすべり摩擦係数が高かったが、双方共に全体の値は0.1以下であり低いことが確認できる。試験後半におけるすべり摩擦係数は双方ともに0.02~0.01の値を記録しており、より潤滑として高い性能を示している。この様な特性を有する層状金属硫化物を電極活物質の充填剤として採用する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8