(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107373
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物の製造方法、熱硬化性樹脂組成物、及び電子部品装置
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220713BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220713BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/013
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002290
(22)【出願日】2021-01-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姜 東哲
(72)【発明者】
【氏名】山浦 格
(72)【発明者】
【氏名】中村 岳博
(72)【発明者】
【氏名】野澤 博
(72)【発明者】
【氏名】洪 昌勲
(72)【発明者】
【氏名】平嶋 克至
【テーマコード(参考)】
4J002
4M109
【Fターム(参考)】
4J002AA021
4J002CC001
4J002CC032
4J002CC181
4J002CD001
4J002CD011
4J002CD021
4J002CD031
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4J002CD111
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4J002CK021
4J002CP001
4J002DE077
4J002DE107
4J002DE137
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4J002DE237
4J002DF017
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4J002DJ017
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4M109AA01
4M109EA03
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4M109EB03
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4M109EB06
4M109EB07
4M109EB08
4M109EB09
4M109EB12
4M109EB13
(57)【要約】
【課題】良好な流動性を維持しており、硬化物としたときの強度に優れる熱硬化性樹脂組成物の製造方法、当該製造方法により得られる熱硬化性樹脂組成物、及び当該熱硬化性樹脂組成物により封止された素子を備える電子部品装置を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、無機充填材と、カップリング剤と、の混合物を100℃以上で混練する一次混練と、前記一次混練の後に硬化促進剤を添加してさらに混練する二次混練と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、無機充填材と、カップリング剤と、の混合物を100℃以上で混練する一次混練と、
前記一次混練の後に硬化促進剤を添加してさらに混練する二次混練と、
を含む、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記二次混練の温度が前記一次混練の温度よりも低い、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記二次混練の温度が、前記硬化促進剤を添加した後の混合物の、示差走査熱量測定により測定されるオンセット温度より低い、請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記硬化促進剤を添加した後の混合物の、示差走査熱量測定により測定されるオンセット温度が120℃よりも低い、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記無機充填材の体積平均粒子径が20μm以下である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の製造方法により得られた熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の製造方法により得られた熱硬化性樹脂組成物により封止された素子を備える電子部品装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱硬化性樹脂組成物の製造方法、熱硬化性樹脂組成物、及び電子部品装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の封止用材料等として、熱硬化性樹脂組成物が広く用いられている。熱硬化性樹脂組成物の一般的な調製方法として、熱硬化性樹脂及び無機充填材を混合して混練する手法が採られている。
【0003】
無機充填材を含む熱硬化性樹脂組成物において、無機充填材の分散性を高めるためにカップリング剤が併用されることがある。無機充填材をカップリング剤と混合する、又はカップリング剤で表面処理することによって、無機充填材と樹脂成分の親和性を高めることができる。無機充填材をカップリング剤と混合する、又はカップリング剤により表面処理する方法としては、乾式処理法、湿式処理法、インテグラルブレンド法等が採用されている(例えば、特許文献1、2参照)。乾式処理法とは、予め無溶媒下で無機充填材をカップリング剤とを混合して無機充填材の表面処理を行う方法である。湿式処理法とは、予め溶媒の存在下で無機充填材とカップリング剤とを混合して無機充填材の表面処理を行う方法である。インテグラルブレンド法は、樹脂成分と無機充填材とを混合する際にカップリング剤を併せて添加し混合する方法であり、カップリング剤が一方で無機充填材と反応し、一方で樹脂成分と相互作用することによって、無機充填材の分散性を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-81590号公報
【特許文献2】特開2013-108024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インテグラルブレンド法は、乾式処理法、湿式処理法等の前処理による方法と比べて、簡便性、並びに硬化性及びこれに伴う硬化物物性の面から、採用が好ましい場合がある。無機充填材とカップリング剤との反応は特定の温度以上で好適に進行するため、インテグラルブレンド法によって無機充填材の分散性を効率的に高めるためには、無機充填材、及びカップリング剤を含む樹脂混合物の混練を、当該無機充填材とカップリング剤の反応温度以上、例えば100℃以上で行うことが望ましい。一方、インテグラルブレンド法において高温で無機充填材及びカップリング剤を含む樹脂混合物の混練を行うと、樹脂混合物が増粘して十分な混合が行えず、硬化性の低下、及びこれによる硬化物強度の低下につながる場合がある。また、混練不足によって樹脂が偏在すると、成形時の流動性が低下する場合がある。さらに、十分な混合を行うために高せん断応力を付加すると、せん断発熱によって増粘が加速する。
【0006】
かかる事情に鑑み、本開示は、良好な流動性を維持しており、硬化物としたときの強度に優れる熱硬化性樹脂組成物の製造方法、当該製造方法により得られる熱硬化性樹脂組成物、及び当該熱硬化性樹脂組成物により封止された素子を備える電子部品装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1> 熱硬化性樹脂と、無機充填材と、カップリング剤と、の混合物を100℃以上で混練する一次混練と、
前記一次混練の後に硬化促進剤を添加してさらに混練する二次混練と、
を含む、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
<2> 前記二次混練の温度が前記一次混練の温度よりも低い、<1>に記載の製造方法。
<3> 前記二次混練の温度が、前記硬化促進剤を添加した後の混合物の、示差走査熱量測定により測定されるオンセット温度より低い、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4> 前記硬化促進剤を添加した後の混合物の、示差走査熱量測定により測定されるオンセット温度が120℃よりも低い、<1>~<3>のいずれか1項に記載の製造方法。
<5> 前記無機充填材の体積平均粒子径が20μm以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の製造方法。
<6> <1>~<5>のいずれか1項に記載の製造方法により得られた熱硬化性樹脂組成物。
<7> <1>~<5>のいずれか1項に記載の製造方法により得られた熱硬化性樹脂組成物により封止された素子を備える電子部品装置。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、良好な流動性を維持しており、硬化物としたときの強度に優れる熱硬化性樹脂組成物の製造方法、当該製造方法により得られる熱硬化性樹脂組成物、及び当該熱硬化性樹脂組成物により封止された素子を備える電子部品装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の製造方法の一態様に用いられる混練押出機の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0011】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において、固形、固体、液状、及び液体とは、25℃での性状をいう。
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0012】
≪熱硬化性樹脂組成物の製造方法≫
本開示の熱硬化性樹脂組成物の製造方法(以下、本開示の製造方法ともいう)は、熱硬化性樹脂と、無機充填材と、カップリング剤と、の混合物を100℃以上で混練する一次混練と、前記一次混練の後に硬化促進剤を添加してさらに混練する二次混練と、を含む。本開示の製造方法によれば、一次混練において100℃以上で無機充填材とカップリング剤を反応させることができるため、無機充填材の分散性が高まり、熱硬化性樹脂組成物を成形するときの流動性を向上させることができると考えられる。また、硬化促進剤を後添加とすることによって、一次混練における増粘を抑制することができ、各成分の偏在を抑制することができると考えられる。この結果、良好な流動性と硬化性を達成することができると考えられる。
【0013】
〔一次混練〕
一次混練では、熱硬化性樹脂、無機充填材、及びカップリング剤の混合物を100℃以上で混練する。このとき、さらにその他の成分を必要に応じて混合してもよい。一次混練において、増粘による混練性への影響が実用上問題とならない範囲であれば、硬化促進剤のうちの一部を混合してもよい。なお、本開示において、硬化促進剤を複数回に分けて添加する場合には、便宜上、最終的に添加する全硬化促進剤のうちの過半、すなわち50質量%以上の硬化促進剤を添加した後の混練を二次混練と称するものとする。一次混練において硬化促進剤の一部を混合する場合には、当該混合する量は、最終的に添加する全硬化促進剤のうち、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。好ましくは、一次混練では熱硬化性樹脂、無機充填材、カップリング剤、及び必要に応じてその他の添加剤を、硬化促進剤を添加しない状態で混練する。
【0014】
一次混練における混練方法は特に制限されない。例えば、予め所望の温度に加熱してあるニーダー(二軸混練機、三軸混練機等)、ロール(三本ロール等)、エクストルーダーなどによって溶融混練する方法が挙げられる。
【0015】
一次混練の温度は100℃以上であり、無機充填材とカップリング剤との反応温度等に応じて調節することが好ましい。一次混練の温度は、110℃以上であってもよく、120℃以上であってもよい。一次混練をかかる温度で行うことにより、無機充填材とカップリング剤との反応を好適に進行させることができる傾向にあり、また成分の分散性を高めることができる傾向にある。混練における粘度上昇を効率的に抑制する観点からは、一次混練の温度は、200℃以下であってもよい。かかる観点から、一次混練の温度は、100℃~200℃であってもよく、110℃~200℃であってもよく、120℃~200℃であってもよい。
【0016】
一次混練の温度は、熱硬化性樹脂(複数種の熱硬化性樹脂を併用する場合には、融点又は軟化点が最も高い熱硬化性樹脂)の融点又は軟化点よりも高い温度であることが好ましい。例えば、一次混練の温度は熱硬化性樹脂(複数種の熱硬化性樹脂を併用する場合には、融点又は軟化点が最も高い熱硬化性樹脂)の融点又は軟化点よりも1℃~90℃高い温度であることが好ましく、1℃~70℃高い温度であることがより好ましく、1℃~50℃高い温度であることがさらに好ましい。かかる温度で混練を行うことにより、熱硬化性樹脂を溶融させて流動性を維持することができるため、撹拌混合を良好に行うことができる。
【0017】
一次混練におけるせん断の条件は特に制限されない。本開示の製造方法によれば、一次混練における混合物の増粘を抑制することができるため、従来の方法と比べてせん断応力及びせん断速度を高めても、好適に混練することができる傾向にある。
【0018】
〔二次混練〕
一次混練に引き続き、硬化促進剤を添加してさらに二次混練を行う。硬化促進剤の添加方法は、硬化促進剤が後添加できる方法であれば、特に制限されない。例えば、上述のように一次混練を行った混合物に対して、一次混練の成分の投入口とは別に設けられた投入口から硬化促進剤を添加する方法(サイドフィード)が挙げられる。
【0019】
二次混練における混練の際の温度は特に制限されず、増粘を抑える観点からは、一次混練の温度よりも低い温度とすることが好ましい。二次混練の温度は120℃より低いことが好ましく、110℃より低いことがより好ましく、100℃より低いことがさらに好ましい。
【0020】
二次混練の温度は、二次混練にあたり硬化促進剤を添加した後の混合物の、示差走査熱量測定(DSC)により測定されるオンセット温度より低い、例えば1℃~100℃低いことが好ましい。これにより二次混練における増粘を抑制することができる。本開示においてオンセット温度とは、DSCチャートの発熱ピークの微分値が最大となる点における接線と、DSCチャートの発熱ピークのベースラインと、の交点に相当する温度をいう。発熱ピークの微分値が最大となる点が複数存在する場合には、当該複数の点のうち最も低い温度側の点を採用する。
【0021】
二次混練における、硬化促進剤を添加した後の混合物の示差走査熱量測定(DSC)により測定されるオンセット温度は、120℃よりも低くてもよく、110℃より低くてもよく、100℃より低くてもよい。本開示の製造方法によれば、一次混練と硬化促進剤を添加して行う二次混練とを順次行うため、硬化促進剤を添加した後の混合物のオンセット温度に関わらず、一次混練の温度を100℃以上とすることができる。これにより、無機充填材とカップリング剤の反応が良好に進行する温度で、また例えば樹脂成分が十分溶融する温度で、一次混練を行うことができ、樹脂成分及び無機充填材の分散性を高めることができる。
【0022】
本開示の製造方法は、一次混練と二次混練に加えて、任意のタイミングで他の工程を含んでいてもよい。例えば、一次混練に先立ち、ミキサー等で各成分を常温で混合してもよい。また、熱硬化性樹脂、無機充填材、カップリング剤、及び硬化促進剤以外の任意の成分を、当該熱硬化性樹脂、無機充填材、カップリング剤、及び硬化促進剤のうち1以上の成分と同時又は異なる時点で添加し、混練してもよい。一次混練及び二次混練を経て得られた組成物を冷却及び粉砕し、固形の熱硬化性樹脂組成物を得てもよい。
【0023】
一態様において、本開示の製造方法における一次混練と二次混練は、混練押出機を用いて行うことができる。一態様において用いることができる混練押出機の概略断面図を
図1に示す。混練押出機10は、第1混練部Aと、第1混練部Aの押出方向下流に配置される第2混練部Bと、前記第1混練部Aに連結する主材投入口1と、前記第2混練部Bに連結するサイドフィーダー2と、を備える。
図1中、矢印は組成物の押出方向を表す。主材投入口1から熱硬化性樹脂、無機充填材、及びカップリング剤を同時又は順次に第1混練部Aに投入し、サイドフィーダー2から硬化促進剤を第2混練部Bに投入する。第1混練部Aで一次混練が行われ、当該混練物は押し出されて第2混練部Bに移動する。移動した混練物は硬化促進剤と合流してさらに混練される。一次混練の温度と二次混練の温度とをそれぞれ設定することも可能である。例えば、第1混練部Aと第2混練部Bとの間に冷却部(図示せず)を設け、二次混練を一次混練よりも低温で行ってもよい。また、第1混練部Aをより高温に設定し、第2混練部Bをより低温に設定してもよく、第2混練部Bで押出方向に向かって内容物を徐々に冷却する機構を採用してもよい。なお、本開示の製造方法は図面の態様に制限されない。
【0024】
以下、本開示の製造方法に用いられる各成分、すなわち熱硬化性樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0025】
<熱硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂の種類は特に制限されず、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。本開示では、エポキシ基を含有するアクリル樹脂等の、熱可塑性と熱硬化性の両方の性質を示すものは「熱硬化性樹脂」に含めるものとする。熱硬化性樹脂は、常温常圧下(例えば、25℃、大気圧下)で固体であっても液体であってもよく、固体であることが好ましい。熱硬化性樹脂は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。エポキシ樹脂として具体的には、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール化合物及びα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のフェノール性化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したものであるノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等);上記フェノール性化合物と、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるトリフェニルメタン型フェノール樹脂をエポキシ化したものであるトリフェニルメタン型エポキシ樹脂;上記フェノール化合物及びナフトール化合物と、アルデヒド化合物と、を酸性触媒下で共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したものである共重合型エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のジグリシジルエーテルであるジフェニルメタン型エポキシ樹脂;アルキル置換又は非置換のビフェノールのジグリシジルエーテルであるビフェニル型エポキシ樹脂;スチルベン系フェノール化合物のジグリシジルエーテルであるスチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールS等のジグリシジルエーテルである硫黄原子含有型エポキシ樹脂;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテルであるエポキシ樹脂;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等の多価カルボン酸化合物のグリシジルエステルであるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;アニリン、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したものであるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエンとフェノール化合物の共縮合樹脂をエポキシ化したものであるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;分子内のオレフィン結合をエポキシ化したものであるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂;パラキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるパラキシリレン変性エポキシ樹脂;メタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるメタキシリレン変性エポキシ樹脂;テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるテルペン変性エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルである多環芳香環変性エポキシ樹脂;ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるナフタレン型エポキシ樹脂;ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂をエポキシ化したものであるアラルキル型エポキシ樹脂;などが挙げられる。さらにはシリコーン樹脂のエポキシ化物、アクリル樹脂のエポキシ化物等もエポキシ樹脂として挙げられる。エポキシ樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記のエポキシ樹脂のうち、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂は、トリフェニルメタン骨格を持つ化合物を原料とするエポキシ樹脂であれば特に制限されない。例えば、トリフェニルメタン骨格を持つ化合物とフェノール性水酸基を有する化合物とのノボラック型フェノール樹脂等のトリフェニルメタン型フェノール樹脂をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂が好ましく、下記一般式(VIII)で表されるエポキシ樹脂がより好ましい。下記一般式(VIII)で表されるエポキシ樹脂の中でも、iが0であり、kが0である1032H60(三菱ケミカル株式会社、商品名)、EPPN-501HY、EPPN-502H(日本化薬株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0028】
【0029】
式(VIII)中、R17及びR18は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iは各々独立に0~3の整数、kは各々独立に0~4の整数を示す。nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0030】
上記のエポキシ樹脂のうち、ビフェニル型エポキシ樹脂は、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されない。例えば、下記一般式(II)で表されるエポキシ樹脂が好ましい。下記一般式(II)で表されるエポキシ樹脂の中でもR8のうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位としたときの3,3’,5,5’位がメチル基であり、それ以外のR8が水素原子であるYX-4000及びYX-4000H(三菱ケミカル株式会社、商品名)、全てのR8が水素原子である4,4’-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)ビフェニル、全てのR8が水素原子の場合及びR8のうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位としたときの3,3’,5,5’位がメチル基でそれ以外のR8が水素原子である場合の混合品であるYL-6121H(三菱ケミカル株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0031】
【0032】
式(II)中、R8は水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数4~18の芳香族基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0033】
ビフェニル型エポキシ樹脂は、溶融粘度が低いため、例えば熱硬化性樹脂組成物を封止材として用いる場合、耐リフロー性の向上を目的として無機充填材を高充填としても半導体パッケージ内のワイヤースイープの問題を起こしにくい。このため、近年の面実装型のパッケージの封止材料としてビフェニル型エポキシ樹脂が好適に用いられるようになっている。ビフェニル型エポキシ樹脂は、180℃付近の溶融粘度は低いものの、軟化点が比較的高いため、混練により樹脂を十分に分散させるためには、高温での混練が望ましい。本開示の製造方法によれば、一次混練を100℃以上で行うため、熱硬化性樹脂がビフェニル型エポキシ樹脂を含む場合にも、粘度の上昇を抑えつつ好適に樹脂成分及び無機充填材の混練が可能となる傾向にある。
【0034】
上記のエポキシ樹脂のうち、アラルキル型エポキシ樹脂は、フェノール、クレゾール等のフェノール化合物及びナフトール、ジメチルナフトール等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、ジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル又はこれらの誘導体と、から合成されるフェノール樹脂を原料とするエポキシ樹脂であれば、特に限定されない。例えば、フェノール、クレゾール等のフェノール化合物及びナフトール、ジメチルナフトール等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、ジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル又はこれらの誘導体とから合成されるフェノール樹脂をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂が好ましく、下記一般式(X)又は(XI)で表されるエポキシ樹脂がより好ましい。
【0035】
下記一般式(X)で表されるエポキシ樹脂の中でも、iが0であり、R38が水素原子であるNC-3000(日本化薬株式会社、商品名)、iが0であり、R38が水素原子であるエポキシ樹脂と一般式(II)の全てのR8が水素原子であるエポキシ樹脂とを質量比80:20で混合したCER-3000(日本化薬株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。また、下記一般式(XI)で表されるエポキシ樹脂の中でも、lが0であり、jが0であり、kが0であるESN-175(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0036】
【0037】
式(X)及び(XI)において、R38は水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。R37、R39~R41は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iはそれぞれ独立に0~3の整数であり、jはそれぞれ独立に0~2の整数であり、kはそれぞれ独立に0~4の整数であり、lはそれぞれ独立に0~4の整数を示す。nは平均値であり、それぞれ独立に0~10の数である。
【0038】
エポキシ樹脂のエポキシ当量(分子量/エポキシ基数)は、特に制限されない。成形性、耐リフロー性及び電気的信頼性等の各種特性バランスの観点からは、100g/eq~1000g/eqであることが好ましく、150g/eq~500g/eqであることがより好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量は、JIS K 7236:2009に準じた方法で測定される値とする。
【0039】
エポキシ樹脂が25℃で固体である場合、エポキシ樹脂の融点又は軟化点は特に制限されない。耐ブロッキングの観点からは、エポキシ樹脂の融点又は軟化点は、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
混練による増粘の抑制の観点からは、エポキシ樹脂の融点又は軟化点は、150℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることがさらに好ましい。
なかでも、近年の高熱伝導性、耐リフロー性等の要求を満たす目的で、融点又は軟化点が90℃以上、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上のエポキシ樹脂(例えば、融点が90℃以上、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上の高結晶性樹脂)を用いる場合であっても、本開示の製造方法を好適に利用可能である。
エポキシ樹脂の融点は示差走査熱量測定(DSC)で測定される値とし、エポキシ樹脂の軟化点はJIS K 7234:1986に準じた方法(環球法)で測定される値とする。
【0040】
熱硬化性樹脂組成物がエポキシ樹脂を含む場合、エポキシ樹脂の含有率は、強度、流動性、耐熱性、成形性等の観点から、熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して0.5質量%~50質量%であることが好ましく、2質量%~30質量%であることがより好ましく、2質量%~20質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
熱硬化性樹脂組成物は、さらに硬化剤を含有してもよい。硬化剤は、併用する熱硬化性樹脂と硬化反応を生じる化合物であれば、その種類は特に制限されない。硬化剤自体が熱硬化性樹脂であってもよい。
【0042】
例えば、エポキシ樹脂と併用する硬化剤としては、フェノール硬化剤、アミン硬化剤、酸無水物硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、ポリアミノアミド硬化剤、イソシアネート硬化剤、ブロックイソシアネート硬化剤等が挙げられる。硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。耐熱性向上の観点からは、硬化剤は、フェノール硬化剤が好ましい。硬化剤は、常温常圧下(例えば、25℃、大気圧下)で固体であっても液体であってもよく、固体であることが好ましい。
【0043】
フェノール硬化剤は、フェノール性水酸基を分子内に有する化合物である(以下フェノール樹脂ともいう)。フェノール樹脂としては、具体的には、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、置換又は非置換のビフェノール等の多価フェノール化合物;フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール化合物及びα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のフェノール性化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド化合物と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル等と、から合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂;パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂;メラミン変性フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ジシクロペンタジエンと、から共重合により合成されるジシクロペンタジエン型フェノール樹脂及びジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂;ビフェニル型フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるトリフェニルメタン型フェノール樹脂;これら2種以上を共重合して得たフェノール樹脂などが挙げられる。フェノール樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
フェノール樹脂の水酸基当量は、特に制限されない。成形性、耐リフロー性、電気的信頼性等の各種特性バランスの観点からは、フェノール樹脂の水酸基当量は70g/eq~1000g/eqであることが好ましく、80g/eq~500g/eqであることがより好ましい。
【0045】
フェノール樹脂の水酸基当量は、JIS K0070:1992に準拠して測定された水酸基価に基づいて算出された値をいう。
【0046】
フェノール樹脂が固体である場合、その軟化点又は融点は、特に制限されない。フェノール樹脂の軟化点又は融点は、例えば熱硬化性樹脂組成物を封止材用途で用いる場合の成形性と耐リフロー性の観点からは、40℃~180℃であることが好ましく、熱硬化性樹脂組成物の製造時における取扱い性の観点からは、50℃~130℃であることがより好ましい。
【0047】
フェノール樹脂の融点又は軟化点は、エポキシ樹脂の融点又は軟化点と同様にして測定される値とする。
【0048】
熱硬化性樹脂組成物がフェノール樹脂を含む場合、フェノール樹脂の含有率は、熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して0.5質量%~50質量%であることが好ましく、2質量%~30質量%であることがより好ましく、2質量%~20質量%であることがさらに好ましい。
【0049】
エポキシ樹脂と硬化剤の当量比、すなわちエポキシ樹脂中のエポキシ基数に対する硬化剤中の官能基数の比(硬化剤中の官能基数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)は、特に制限されない。それぞれの未反応分を少なく抑える関連からは、エポキシ樹脂と硬化剤の当量比(硬化剤中の官能基数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)は0.5~2.0の範囲に設定されることが好ましく、0.6~1.3の範囲に設定されることがより好ましい。熱硬化性樹脂組成物を封止材用途に用いる場合の成形性の観点からは、エポキシ樹脂と硬化剤の当量比(硬化剤中の官能基数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)は0.8~1.2の範囲に設定されることがさらに好ましい。
硬化剤の官能基数とは、例えば、硬化剤としてフェノール硬化剤を用いる場合にはフェノール硬化剤中の水酸基数を表し、硬化剤としてアミン硬化剤を用いる場合にはアミン硬化剤中の活性水素数を表す。
【0050】
<硬化促進剤>
硬化促進剤の種類は、特に制限されず、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等のジアザビシクロアルケン、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール等の環状アミジン化合物;前記環状アミジン化合物の誘導体;前記環状アミジン化合物又はその誘導体のフェノールノボラック塩;これらの化合物に無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタンなどの、π結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;DBUのテトラフェニルボレート塩、DBNのテトラフェニルボレート塩、2-エチル-4-メチルイミダゾールのテトラフェニルボレート塩、N-メチルモルホリンのテトラフェニルボレート塩等の環状アミジニウム化合物;ピリジン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の三級アミン化合物;前記三級アミン化合物の誘導体;酢酸テトラ-n-ブチルアンモニウム、リン酸テトラ-n-ブチルアンモニウム、酢酸テトラエチルアンモニウム、安息香酸テトラ-n-ヘキシルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム等のアンモニウム塩化合物;エチルホスフィン、フェニルホスフィン等の一級ホスフィン、ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の二級ホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の三級ホスフィンなどの、有機ホスフィン;前記有機ホスフィンと有機ボロン類との錯体等のホスフィン化合物;前記有機ホスフィン又は前記ホスフィン化合物と無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン、アントラキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタンなどの、π結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;前記有機ホスフィン又は前記ホスフィン化合物と4-ブロモフェノール、3-ブロモフェノール、2-ブロモフェノール、4-クロロフェノール、3-クロロフェノール、2-クロロフェノール、4-ヨウ化フェノール、3-ヨウ化フェノール、2-ヨウ化フェノール、4-ブロモ-2-メチルフェノール、4-ブロモ-3-メチルフェノール、4-ブロモ-2,6-ジメチルフェノール、4-ブロモ-3,5-ジメチルフェノール、4-ブロモ-2,6-ジ-t-ブチルフェノール、4-クロロ-1-ナフトール、1-ブロモ-2-ナフトール、6-ブロモ-2-ナフトール、4-ブロモ-4’-ヒドロキシビフェニル等のハロゲン化フェノール化合物を反応させた後に、脱ハロゲン化水素の工程を経て得られる、分子内分極を有する化合物;テトラフェニルホスホニウム等のテトラ置換ホスホニウム、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート等のテトラ置換ホスホニウムのテトラフェニルボレート塩、テトラ置換ホスホニウムとフェノール化合物との塩などの、テトラ置換ホスホニウム化合物;ホスホベタイン化合物;ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物などが挙げられる。硬化促進剤は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
例えば熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合に特に好適な硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンとキノン化合物との付加物等が挙げられる。
【0052】
硬化促進剤の含有量は、樹脂成分(すなわち、熱硬化性樹脂(硬化剤が熱硬化性樹脂である場合は硬化剤も含む))100質量部に対して0.1質量部~30質量部であることが好ましく、1質量部~15質量部であることがより好ましい。硬化促進剤の量が樹脂成分100質量部に対して0.1質量部以上であると、短時間で良好に硬化する傾向にある。硬化促進剤の量が樹脂成分100質量部に対して30質量部以下であると、硬化速度が速すぎず良好な成形品が得られる傾向にある。
【0053】
<無機充填材>
無機充填材の材質は特に制限されない。無機充填材の材質として具体的には、溶融シリカ、結晶シリカ、ガラス、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸カルシウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア、タルク、クレー、マイカ等の無機材料が挙げられる。難燃効果を有する無機充填材を用いてもよい。難燃効果を有する無機充填材としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムと亜鉛の複合水酸化物等の複合金属水酸化物、硼酸亜鉛などが挙げられる。
無機充填材の中でも、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカ等のシリカが好ましく、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましい。
【0054】
無機充填材の形状は特に制限されず、充填性及び金型摩耗性の点からは、球形が好ましい。
【0055】
無機充填材は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、「無機充填材を2種以上併用する」とは、例えば、同じ成分で平均粒子径が異なる無機充填材を2種類以上用いる場合、平均粒子径が同じで成分の異なる無機充填材を2種類以上用いる場合並びに平均粒子径及び種類の異なる無機充填材を2種類以上用いる場合が挙げられる。
【0056】
無機充填材の含有率は特に制限されない。硬化物の熱膨張係数、熱伝導率、弾性率等の特性をより向上させる観点からは、無機充填材の含有率は熱硬化性樹脂組成物全体の30体積%以上であることが好ましく、40体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上であることがさらに好ましく、60体積%以上であることが特に好ましく、70体積%以上であることが極めて好ましい。流動性の向上、粘度の低下等の観点からは、無機充填材の含有率は熱硬化性樹脂組成物全体の99体積%以下であることが好ましく、98体積%以下であることが好ましく、97体積%以下であることがより好ましい。
また、例えば、熱硬化性樹脂組成物を圧縮成形用に用いる場合には、無機充填材の含有率は熱硬化性樹脂組成物全体の70体積%~99体積%としてもよく、80体積%~99体積%としてもよく、83体積%~99体積%としてもよく、85体積%~99体積%としてもよい。
【0057】
熱硬化性樹脂組成物の硬化物中の無機充填材の含有率は、次のようにして測定することができる。まず、硬化物の総質量を測定し、該硬化物を400℃で2時間、次いで700℃で3時間焼成し、樹脂成分を蒸発させ、残存した無機充填材の質量を測定する。得られた各質量及びそれぞれの比重から体積を算出し、硬化物の総体積に対する無機充填材の体積の割合を得て、無機充填材の含有率とする。
【0058】
従来の方法と比べて、本開示の製造方法によれば、各成分の混合物の混練時、及び成形時における流動性を低く維持することができる傾向にある。そのため、従来の方法によれば粘度上昇による影響から無機充填材の含有率を高められなかった組成であっても、本開示の製造方法によれば、無機充填材を高充填化することが可能となると考えられる。
【0059】
無機充填材が粒子状である場合、その平均粒子径は、特に制限されない。例えば、無機充填材全体の体積平均粒子径は、80μm以下であることが好ましく、50μm以下であってもよく、40μm以下であってもよく、30μm以下であってもよく、20μm以下であってもよい。また、無機充填材全体の体積平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。無機充填材の体積平均粒子径が0.1μm以上であると、熱硬化性樹脂組成物の粘度の上昇がより抑制される傾向がある。無機充填材の体積平均粒子径が80μm以下であると、狭い隙間への充填性がより向上する傾向にある。無機充填材の体積平均粒子径は、レーザー散乱回折法粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布において、小径側からの累積が50%となるときの粒子径(D50)として測定することができる。
【0060】
無機充填材の粒子径が小さいほど、各成分の混合物の粘度が高くなる傾向にある。従来の方法によれば粘度上昇による影響から粒子径の小さい無機充填材の含有量を高められなかった組成であっても、本開示の製造方法によれば、粒子径の小さい無機充填材の含有量を高めることが可能となると考えられる。
【0061】
<カップリング剤>
熱硬化性樹脂組成物が無機充填材を含む場合は、樹脂成分と無機充填材との接着性を高めるために、カップリング剤を含んでもよい。カップリング剤としては、シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート化合物、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤が挙げられる。
【0062】
シラン系化合物としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、オクテニルトリメトキシシラン、グリシドキシオクチルトリメトキシシラン及び、メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0063】
チタン系化合物としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等が挙げられる。
【0064】
熱硬化性樹脂組成物がカップリング剤を含む場合、カップリング剤の量は、無機充填材100質量部に対して0.05質量部~20質量部であることが好ましく、0.1質量部~15質量部であることがより好ましい。カップリング剤の量が無機充填材100質量部に対して0.05質量部以上であると、金属部材との接着性がより向上する傾向にある。カップリング剤の量が無機充填材100質量部に対して20質量部以下であると、成形性が向上する傾向にある。
【0065】
<添加剤>
熱硬化性樹脂組成物は、上述の成分に加えて、イオン交換体、離型剤、難燃剤、着色剤、応力緩和剤等の各種添加剤を含有してもよい。熱硬化性樹脂組成物は、以下に例示する添加剤以外にも必要に応じて当技術分野で一般的に用いられる各種添加剤を含有してもよい。
【0066】
(イオン交換体)
熱硬化性樹脂組成物は、イオン交換体を含有してもよい。特に、熱硬化性樹脂組成物を封止用成形材料として用いる場合には、封止される素子を備える電子部品装置の耐湿性及び高温放置特性を向上させる観点から、イオン交換体を含有することが好ましい。イオン交換体は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。具体的には、ハイドロタルサイト化合物、並びにマグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の含水酸化物等が挙げられる。イオン交換体は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、下記一般式(A)で表されるハイドロタルサイトが好ましい。
【0067】
Mg(1-X)AlX(OH)2(CO3)X/2・mH2O ……(A)
(0<X≦0.5、mは正の数)
【0068】
熱硬化性樹脂組成物がイオン交換体を含有する場合、その含有量は、ハロゲンイオン等のイオンを捕捉するのに充分な量であれば特に制限はない。例えば、樹脂成分100質量部に対して0.1質量部~30質量部であることが好ましく、1質量部~10質量部であることがより好ましい。
【0069】
(離型剤)
熱硬化性樹脂組成物は、成形時における金型との良好な離型性を得る観点から、離型剤を含有してもよい。離型剤は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。具体的には、カルナバワックス、モンタン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、モンタン酸エステル等のエステル系ワックス、酸化ポリエチレン、非酸化ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなどが挙げられる。離型剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
熱硬化性樹脂組成物が離型剤を含有する場合、その量は樹脂成分100質量部に対して0.01質量部~10質量部が好ましく、0.1質量部~5質量部がより好ましい。離型剤の量が樹脂成分100質量部に対して0.01質量部以上であると、離型性が充分に得られる傾向にある。10質量部以下であると、より良好な接着性及び硬化性が得られる傾向にある。
【0071】
(難燃剤)
熱硬化性樹脂組成物は、難燃剤を含有してもよい。難燃剤は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。具体的には、ハロゲン原子、アンチモン原子、窒素原子又はリン原子を含む有機又は無機の化合物、金属水酸化物等が挙げられる。難燃剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
熱硬化性樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、その量は、所望の難燃効果を得るのに充分な量であれば特に制限されない。例えば、樹脂成分100質量部に対して1質量部~30質量部であることが好ましく、2質量部~20質量部であることがより好ましい。
【0073】
(着色剤)
熱硬化性樹脂組成物は、着色剤をさらに含有してもよい。着色剤としてはカーボンブラック、有機染料、有機顔料、酸化チタン、鉛丹、ベンガラ等の公知の着色剤を挙げることができる。着色剤の含有量は目的等に応じて適宜選択できる。着色剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
(応力緩和剤)
熱硬化性樹脂組成物は、シリコーンオイル、シリコーンゴム粒子等の応力緩和剤を含有してもよい。応力緩和剤を含有することにより、熱硬化性樹脂組成物を封止材用途で使用する場合のパッケージの反り変形及びパッケージクラックの発生を低減させることができる。応力緩和剤としては、一般に使用されている公知の応力緩和剤(可とう剤)が挙げられる。具体的には、シリコーン系、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系等の熱可塑性エラストマー、NR(天然ゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンパウダー等のゴム粒子、メタクリル酸メチル-スチレン-ブタジエン共重合体(MBS)、メタクリル酸メチル-シリコーン共重合体、メタクリル酸メチル-アクリル酸ブチル共重合体等のコア-シェル構造を有するゴム粒子などが挙げられる。応力緩和剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
≪熱硬化性樹脂組成物≫
本開示の熱硬化性樹脂組成物は、上述の本開示の製造方法により得られる。
熱硬化性樹脂組成物は、常温常圧下(例えば、25℃、大気圧下)において固体であっても液状であってもよく、固体であることが好ましい。熱硬化性樹脂組成物が固体である場合の形状は特に制限されず、粉状、粒状、タブレット状等が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物がタブレット状である場合の寸法及び質量は、パッケージの成形条件に合うような寸法及び質量となるようにすることが取り扱い性の観点から好ましい。
【0076】
〔熱硬化性樹脂組成物の粘度〕
熱硬化性樹脂組成物の粘度は、特に制限されない。成形方法、熱硬化性樹脂組成物の組成等に応じて所望の粘度となるよう調整することが好ましい。熱硬化性樹脂組成物を封止材用途で使用する場合には、成形時のワイヤ流れの起こりやすさに応じて調整することが好ましい。
例えば、熱硬化性樹脂組成物を封止材用途で使用する場合、ワイヤ流れの低減等の観点から、熱硬化性樹脂組成物の粘度は175℃で200Pa・s以下であることが好ましく、150Pa・s以下であることがより好ましく、100Pa・s以下であることがさらに好ましく、50Pa・s以下であることが特に好ましく、30Pa・s以下であることが極めて好ましい。熱硬化性樹脂組成物の粘度の下限値は特に限定されず、例えば、175℃で2Pa・s以上であってもよい。
熱硬化性樹脂組成物の粘度は、高化式フローテスター(例えば、株式会社島津製作所製)によって測定することができる。
【0077】
〔熱硬化性樹脂組成物の流動性〕
以下の方法により求められるスパイラルフローの流動距離は、特に制限されず、70cm以上であることが好ましく、100cm以上であることがより好ましく、150cm以上であることがさらに好ましく、200cm以上であることがさらに好ましい。
EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて、熱硬化性樹脂組成物を成形し、流動距離を求める。成形はトランスファー成形機により金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件で行うものとする。
【0078】
以下の試験により得られる円板フローの距離は、特に制限されず、80mm以上であることが好ましく、90mm以上であることがより好ましく、100mm以上であることがさらに好ましい。
200mm(W)×200mm(D)×25mm(H)の上型と200mm(W)×200mm(D)×15mm(H)の下型を有する円板フロー測定用平板金型を用いて、上皿天秤にて秤量した熱硬化性樹脂組成物5gを、180℃に加熱した下型の中心部にのせる。5秒後に、175℃に加熱した上型を閉じて、荷重78N、硬化時間90秒の条件で圧縮成形し、ノギスで成形品の長径(mm)及び短径(mm)を測定して、その平均値(mm)を円板フローとする。
【0079】
〔ゲルタイム〕
流動性の観点からは、ゲルタイムは、20秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましく、40秒以上であることがさらに好ましい。また、硬化性の観点からは、ゲルタイムは120秒以下であることが好ましく、100秒以下であることがより好ましく、90秒以下であることがさらに好ましい。ゲルタイムは以下の方法により測定される値とする。
熱硬化性樹脂組成物3gに対し、キュラストメータ(例えば、JSRトレーディング株式会社製)を用いた測定を温度175℃で実施し、トルク曲線の立ち上がりまでの時間をゲルタイムとする。
【0080】
〔硬化物の曲げ強さ〕
以下の方法で測定される常温(25℃)における熱硬化性樹脂組成物の硬化物の曲げ強さは、100MPa以上であることが好ましく、110MPa以上であることがより好ましく、120MPa以上であることがさらに好ましく、125MPa以上であることが特に好ましい。
熱硬化性樹脂組成物の硬化物を2.0mm×5.0mm×40mmの直方体に切り出し、曲げ強度評価用の試験片を作製する。この試験片を用いて、テンシロン万能材料試験機(例えば、インストロン5948、インストロン社)で支点間距離32mm・クロスヘッド速度1mm/minの条件で曲げ試験を行う。測定した結果を用いて、式(A)から曲げ応力-変位カーブを作成し、その最大応力を曲げ強度とする。
【0081】
σ=3FL/2bh2 ・・・ 式(A)
【0082】
σ:曲げ応力(MPa)
F:曲げ荷重(N)
L:支点間距離(mm)
b:試験片幅(mm)
h:試験片厚さ(mm)
【0083】
上記方法で測定される260℃における熱硬化性樹脂組成物の曲げ強さは、10MPa以上であることが好ましく、12MPa以上であることがより好ましく、14MPa以上であることがさらに好ましい。
【0084】
〔熱硬化性樹脂組成物の用途〕
本開示の熱硬化性樹脂組成物の用途は特に制限されず、例えば電子部品装置の封止材として種々の実装技術に用いることができる。また、本開示の熱硬化性樹脂組成物は、各種モジュール用樹脂成形体、モーター用樹脂成形体、車載用樹脂成形体、電子回路用保護材用封止材等、樹脂組成物が良好な流動性及び硬化性を有することが望ましい種々の用途に用いることができる。
【0085】
≪電子部品装置≫
本開示の電子部品装置は、上述の本開示の製造方法により得られた熱硬化性樹脂組成物により封止された素子を備える。
【0086】
電子部品装置としては、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、配線板、ガラス、シリコンウエハ、有機基板等の支持部材に、素子(半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子など)を搭載して得られた素子部を熱硬化性樹脂組成物で封止したものが挙げられる。
より具体的には、リードフレーム上に素子を固定し、ボンディングパッド等の素子の端子部とリード部とをワイヤボンディング、バンプ等で接続した後、熱硬化性樹脂組成物を用いてトランスファー成形等によって封止した構造を有するDIP(Dual Inline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、SOJ(Small Outline J-lead package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(Thin Quad Flat Package)、LQFP(Low Profile Quad Flat Package)等の一般的な樹脂封止型IC;テープキャリアにバンプで接続した素子を熱硬化性樹脂組成物で封止した構造を有するTCP(Tape Carrier Package);支持部材上に形成した配線に、ワイヤボンディング、フリップチップボンディング、はんだ等で接続した素子を、熱硬化性樹脂組成物で封止した構造を有するCOB(Chip On Board)モジュール、ハイブリッドIC、マルチチップモジュール等;裏面に配線板接続用の端子を形成した支持部材の表面に素子を搭載し、バンプ又はワイヤボンディングにより素子と支持部材に形成された配線とを接続した後、熱硬化性樹脂組成物で素子を封止した構造を有するBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)、MCP(Multi Chip Package)などが挙げられる。また、プリント配線板においても熱硬化性樹脂組成物を好適に使用することができる。
【0087】
熱硬化性樹脂組成物を用いて電子部品装置を封止する方法としては、低圧トランスファー成形法、インジェクション成形法、圧縮成形法等が挙げられる。
【0088】
本開示の製造方法により得られた熱硬化性樹脂組成物を素子の封止材として用いる場合、得られたパッケージにおいて、ボイド、ブリスター、フローマーク等の発生が抑制されていることが好ましい。ボイド、ブリスター、及びフローマークは以下のように評価することができる。
対象とする封止材をトランスファー成形し、得られたパッケージ表面の観察によりブリスター発生の有無を確認できる。また、特にチップ搭載箇所の直上を観察することでフローマークを確認できる。さらに、パッケージ内部をSAT(scanning acoustic tomograph;超音波探傷装置)画像観察することでボイドの確認が可能である。成形条件は、例えば、金型温度:175℃、成形圧力:約7MPa、硬化時間:120秒である。また、SAT画像は例えば、以下の樹脂リッチの評価方法に記載した方式で観察可能である。
【0089】
本開示の製造方法により得られた熱硬化性樹脂組成物を素子の封止材として用いる場合、成形後の樹脂リッチが抑制されていることが好ましい。樹脂リッチとは、対象とする封止材を圧縮成形した際に現れる現象である。理由は定かではないが、この樹脂リッチ領域は、例えば、圧縮成形時の減圧で封止材に溶け込んだ気体による破泡がおこり、破泡した箇所における無機充填材の量が局所的に少なくなることに起因すると考えられる。例えば流動性の低い封止材では、無機充填材の量が局所的に少なくなった領域が発生しても、その領域に対して流動による無機充填材の流入は起こりにくい。そのため、無機充填材の量が局所的に少なくなった領域がそのまま硬化することで、樹脂リッチ領域になると考えられる。樹脂リッチは、以下のようにSAT画像を用いて確認することができる。
まず、測定対象の封止材をコンプレッションモールド装置にて成形し、SAT(例えば、株式会社 日立パワーソリューションズ、型番:FS200 III A)により観測することで、SAT画像を得る。圧縮成形の条件としては、例えば、金型温度:175度、成形圧力:約10MPa、硬化時間:120秒とする。SAT観測条件は、プローブ周波数:50MHzである。得られたSAT画像から黒点箇所を選択的に断面研磨し、元素分析を用いて黒点箇所が樹脂リッチであるかどうかを判断することが出来る。
【0090】
本開示の製造方法により得られた熱硬化性樹脂組成物を素子の封止材として用いる場合、成形に用いる金型への樹脂の残存、及び得られたパッケージの表面凝集破壊は抑制されていることが好ましい。金型への樹脂の残存、及びパッケージ表面凝集破壊の有無は、以下の方法で確認することができる。
対象とする封止材をトランスファー成形にて成形し、これを連続的に繰り返す、いわゆる連続成形を実施する。例えば数百ショットの間、金型の清掃を行わずに連続的に成形し、金型の樹脂残り及びパッケージ表面の凝集破壊の発生の有無を確認する。成形パッケージは特に問わないが、簡易的にSOP等が選択可能である。成形条件も特に問わないが、例えば、金型温度:175℃、成形圧力:約7MPa、硬化時間:120秒とする。
【0091】
本開示の製造方法により得られた熱硬化性樹脂組成物を素子の封止材として用いる場合、得られるパッケージにおいてクラックが抑制されることが好ましい。パッケージクラックの有無は、例えば、対象となる封止材をトランスファー成形し、得られたパッケージについて温度サイクル試験等を実施することにより評価することができる。例えば、得られたパッケージを、MSL(Moisture Sensitivity Level)コンディション:レベル3(30℃以下、60%RH、168時間)の条件で吸湿し、260℃×30sec×3回の条件でリフロー処理し、さらに-65℃/150℃の温度サイクルにかける。700回の温度サイクル後、パッケージにクラックが発生しているかどうかを確認する。対象パッケージには特に制限ないが、例えば、LQFPが挙げられる。成形条件は、例えば、金型温度:175℃、成形圧力:約7MPa、硬化時間:120秒とする。
【実施例0092】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0093】
<熱硬化性樹脂組成物の作製>
まず、下記に示す各成分を準備した。
【0094】
(熱硬化性樹脂)
・エポキシ樹脂1:EPPN-501HY(商品名、日本化薬株式会社、エポキシ当量163g/eq~175g/eq、軟化点57℃~63℃のトリフェニルメタン型エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂2:jER YX-4000H(商品名、三菱ケミカル株式会社、エポキシ当量180g/eq~192g/eq、融点105℃のビフェニル型エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂3:NC-3000(商品名、日本化薬株式会社、エポキシ当量265g/eq~285g/eq、軟化点53℃~63℃のアラルキル型エポキシ樹脂)
【0095】
・硬化剤1:H-4(商品名、明和化成株式会社、水酸基当量103g/eqのフェノールノボラック型フェノール樹脂、軟化点85℃)
【0096】
(無機充填材)
・無機充填材1:体積平均粒子径(D50)15μmの球状シリカ
・無機充填材2:体積平均粒子径(D50)0.5μmの球状シリカ
【0097】
(カップリング剤)
・カップリング剤:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
【0098】
(硬化促進剤)
・硬化促進剤:リン系硬化促進剤
【0099】
(他の添加剤)
・離型剤:ヘキストワックス(ヘキスト社)
・着色剤:カーボンブラック
【0100】
実施例1~3の熱硬化性樹脂組成物は以下の方法(「製造方法A」とする)で作製した。混練装置としては、
図1に概略が示される二軸混練機(混練押出機)を使用した。主材投入口は第1混練部に連結されており、サイドフィーダーは押出方向下流の第2混練部に連結されている。
まず、表1に示される成分のうち、硬化促進剤以外の成分をミキサーで十分混合した。当該混合物を二軸混練機の主材投入口から投入し、サイドフィーダーから硬化促進剤を投入し、混練押出を行った。第1混練部における一次混練温度は約150℃とした。第2混練部では、サイドフィーダー連結部付近では約70℃、二軸混練機の出口付近では約30℃となるように、サイドフィーダー連結部から出口に向けて徐々に温度を下げる機構とした。その後、溶融物を冷却し、固体状になったものを粉末状に粉砕することにより、粉末状の熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0101】
比較例1~6の熱硬化性樹脂組成物は以下の方法(「製造方法B」とする)で作製した。
表1に示される各成分をミキサーで十分混合した後、二軸混練機を用いて約150℃で溶融混練した。その後、溶融物を冷却し、固体状になったものを粉末状に粉砕することにより、粉末状の熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0102】
<熱硬化性樹脂組成物の評価>
作製された熱硬化性樹脂組成物を、以下に示す各種試験によって評価した。評価結果を表1に示す。なお、熱硬化性樹脂組成物の成形は、明記しない限りトランスファー成形機により、金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件で成形した。また、必要に応じて後硬化を175℃、6時間の条件で行った。
【0103】
〔スパイラルフロー〕
EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて、熱硬化性樹脂組成物を上記条件で成形し、流動距離(cm)を求めた。
【0104】
〔溶融粘度〕
高化式フローテスター(株式会社島津製作所製)を用いて、175℃における熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を測定した。
【0105】
〔ゲルタイム〕
熱硬化性樹脂組成物3gに対し、JSRトレーディング株式会社のキュラストメータを用いた測定を温度175℃で実施し、トルク曲線の立ち上がりまでの時間をゲルタイム(秒)とした。
【0106】
〔曲げ強さ〕
熱硬化性樹脂組成物を上記条件で成形し、後硬化を行った。硬化物を2.0mm×5.0mm×40mmの直方体に切り出し、曲げ強度評価用の試験片を作製した。この試験片を用いて、テンシロン万能材料試験機(インストロン5948、インストロン社)で支点間距離32mm・クロスヘッド速度1mm/minの条件で曲げ試験を行った。測定した結果を用いて、式(A)から曲げ応力-変位カーブを作成し、その最大応力を曲げ強度とした。測定は常温及び260℃でそれぞれ行った。
【0107】
σ=3FL/2bh2 ・・・ 式(A)
【0108】
σ:曲げ応力(MPa)
F:曲げ荷重(N)
L:支点間距離(mm)
b:試験片幅(mm)
h:試験片厚さ(mm)
【0109】
〔円板フロー〕
200mm(W)×200mm(D)×25mm(H)の上型と200mm(W)×200mm(D)×15mm(H)の下型を有する円板フロー測定用平板金型を用いて、上皿天秤にて秤量した熱硬化性樹脂組成物5gを、175℃に加熱した下型の中心部にのせる。5秒後に、180℃に加熱した上型を閉じて、荷重78N、硬化時間90秒の条件で圧縮成形し、ノギスで成形品の長径(mm)及び短径(mm)を測定して、その平均値(mm)を円板フローとした。
【0110】
〔パッケージ評価〕
(ボイド、ブリスター、及びフローマークの評価)
上述した方法でボイド、ブリスター、及びフローマークの評価を行った。トランスファー成形の条件は、金型温度:175℃、成形圧力:約7MPa、硬化時間:120秒とした。SAT観測は、以下の樹脂リッチの評価と同様の条件で行った。
【0111】
(樹脂リッチの評価)
上述した方法で樹脂リッチの評価を行った。圧縮成形の条件は、金型温度:175度、成形圧力:10MPa、硬化時間:120秒とした。SAT観測は、株式会社 日立パワーソリューションズ、型番:FS200 III Aを用い、プローブ周波数:50MHzの条件で行った。
【0112】
(金型樹脂残り及びパッケージ表面凝集破壊の評価)
上述した方法で金型樹脂残り及びパッケージ表面凝集破壊の評価を行った。パッケージはSOPとし、成形条件は金型温度:175℃、成形圧力:約7MPa、硬化時間:120秒とした。
【0113】
(パッケージクラックの評価)
上述した方法でパッケージクラックの評価を行った。パッケージはLQFPとし、成形条件は金型温度:175℃、成形圧力:7MPa、硬化時間:120秒とした。
【0114】
【0115】
表1の成分配合量における「-」は該当する成分が配合されていないことを表す。
【0116】
なお、実施例1~3の組成物のオンセット温度は、70℃より高い。
【0117】
上記結果からわかるように、製造方法Aにより得られる熱硬化性樹脂組成物は、同じ組成で製造方法Bにより得られた熱硬化性樹脂組成物(比較例1~3)、及び同一のエポキシ樹脂に対して事前に表面処理を行った無機充填材を配合して製造方法Bにより得られた熱硬化性樹脂組成物(比較例4~6)と比較して、同程度の良好な流動性を有しており、硬化物としたときの常温及び260℃における曲げ強さに優れていた。また、製造方法Aにより得られる熱硬化性樹脂組成物を用いて封止した半導体パッケージでは、成形不良が抑制されていた。中でも、ボイド、フローマーク、及びレジンリッチ部位が抑制されていたことから、熱硬化性樹脂組成物が良好な流動性を有していることが推測される。また、ブリスター、金型樹脂残り、パッケージ凝集破壊、及びパッケージクラックが抑制されていたことから、熱硬化性樹脂組成物が良好な硬化性を有していることが推測される。