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特開2022-108245診断支援装置、診断支援方法および診断支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108245
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】診断支援装置、診断支援方法および診断支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/248 20210101AFI20220715BHJP
   A61B 5/243 20210101ALI20220715BHJP
   A61B 5/246 20210101ALI20220715BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
A61B5/248
A61B5/243
A61B5/246
G01R33/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093758
(22)【出願日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2021003138
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】長岡 信頼
(72)【発明者】
【氏名】渡部 泰士
(72)【発明者】
【氏名】川端 茂▲徳▼
【テーマコード(参考)】
2G017
4C127
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AC01
2G017AD32
2G017BA05
2G017BA15
2G017BA18
4C127AA10
4C127DD03
4C127GG16
4C127HH13
4C127HH16
(57)【要約】
【課題】神経疾患の診断を支援可能な診断支援装置、診断支援方法および診断支援プログラムを提供する。
【解決手段】診断支援装置は、被検体から発生する磁場の計測で得られた磁場データに基づき神経走行に流入する内向き電流の電流強度の低下率を算出する算出部を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体から発生する磁場の計測で得られた磁場データに基づき神経走行に流入する内向き電流の電流強度の低下率を算出する算出部を有することを特徴とする診断支援装置。
【請求項2】
前記電流強度の低下率を評価するための情報を表示部に表示させる表示制御部を有することを特徴とする請求項1に記載の診断支援装置。
【請求項3】
前記電流強度の低下率を所定の基準値と比較した比較結果を表示部に表示させる表示制御部を有することを特徴とする請求項1に記載の診断支援装置。
【請求項4】
前記電流強度を算出する計測部位を示す情報に基づいて、前記基準値を変更可能な基準変更部を有することを特徴とする請求項3に記載の診断支援装置。
【請求項5】
前記算出部により算出される前記電流強度の低下率が前記基準値より小さいか否かを判定する低下率判定部を有し、
前記表示制御部は、前記低下率判定部により前記基準値より小さいと判定された前記電流強度の低下率を示す情報を前記比較結果として前記表示部に表示させること
を特徴とする請求項3または請求項4に記載の診断支援装置。
【請求項6】
前記磁場データに基づき、前記磁場データの取得部位を含む所定の領域に設置される複数の第1の仮想電極での電流成分を再構成する再構成解析部と、
前記再構成解析部により再構成される電流成分に基づき、前記被検体の形態画像上で神経走行に沿って所定間隔で配置される複数の第2の仮想電極での電流成分を抽出する電流成分抽出部と、
前記電流成分抽出部により抽出される電流成分に基づき、前記複数の第2の仮想電極での前記内向き電流の波形を生成する波形生成部と、
を有し、
前記表示制御部は、前記比較結果を前記波形生成部により生成された電流波形に対応付けて前記表示部に表示させる
請求項5に記載の診断支援装置。
【請求項7】
前記表示制御部は、前記低下率判定部により前記基準値より小さいと判定された前記電流強度の低下率を示す情報を、対応する電流波形とともに前記表示部に出力させる
請求項6に記載の診断支援装置。
【請求項8】
前記電流強度の低下率は、神経活動の上流の電流強度CS1に対する神経活動の下流の電流強度CS2の比CS2/CS1で示されること
を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の診断支援装置。
【請求項9】
前記算出部は、前記被検体の腰部または頚部から発生する磁場の計測で得られた磁場データに基づいて、前記電流強度の低下率を算出すること
を特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の診断支援装置。
【請求項10】
前記算出部は、前記被検体の末梢神経で発生する磁場の計測で得られた磁場データに基づいて、前記電流強度の低下率を算出すること
を特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の診断支援装置。
【請求項11】
被検体から発生する磁場の計測で得られた磁場データに基づき神経走行に流入する内向き電流の電流強度の低下率を算出することを特徴とする診断支援方法。
【請求項12】
被検体から発生する磁場の計測で得られた磁場データに基づき神経走行に流入する内向き電流の電流強度の低下率を算出する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする診断支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断支援装置、診断支援方法および診断支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、生体磁場の計測方法として、被検体の一部に電気刺激を与え、計測対象となる部位の神経活動を誘発させ、神経活動により発生する磁場をセンサによって計測する手法が知られている。また、センサによる生体磁場の計測で得られた磁場データを利用して生体内で発生する電流を再構成することで、神経活動電流を非侵襲で評価する手法が知られている。
【0003】
例えば、馬尾の神経活動電流の伝導速度は、膝の腓骨神経を刺激したときの神経磁場を腰部で計測し、得られた磁場データから神経活動電流を再構成することで非侵襲に算出可能である。また、上記手法を用いて、複数の健常者に対して神経活動電流の伝導速度を統計的に分析することで、年齢と伝導速度との相関が取得可能である(例えば、非特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被検体から発生する磁場の計測で得られた磁場データを使用して算出される神経活動電流から腰椎等の疾患の診断を支援可能な情報を生成する手法については開示されていない。
【0005】
開示の技術は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、神経疾患の診断を支援可能な診断支援装置、診断支援方法および診断支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術的課題を解決するため、本発明の一形態の診断支援装置は、被検体から発生する磁場の計測で得られた磁場データに基づき神経走行に流入する内向き電流の電流強度の低下率を算出する算出部と、前記電流強度の低下率を所定の基準値と比較した比較結果を表示部に表示させる表示制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
神経疾患の診断を支援可能な診断支援装置、診断支援方法および診断支援プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態に係る診断支援装置を含む生体情報計測システムの一例を示す構成図である。
図2図1の低温容器の突出部内に設けられるSQUIDセンサアレイの一例を示す斜視図である。
図3図1のデータ処理装置の機能ブロックの一例を示す図である。
図4】神経活動電流のモデルの一例を示す図である。
図5図1の生体情報計測システムにより取得された計測対象部位(中枢神経)での磁場データに基づいて抽出された電流分布の時間変化の例を示す図である。
図6図1の生体情報計測システムにより取得された計測対象部位(中枢神経)での磁場データに基づいて抽出された電流分布の時間変化の例を示す図である。
図7図5および図6で観測された内向き電流が上流から下流に伝導するときの電流波形の変化の例を示す図である。
図8図3の低下率異常表示部に表示させる電流強度の低下率を示す異常情報の別の表示例を示す図である。
図9図1の生体情報計測システムにより取得された計測対象部位(末梢神経)での磁場データに基づいて抽出された電流分布の時間変化の例を示す図である。
図10図9で観測された内向き電流が上流から下流に伝導するときの電流波形の変化の例を示す図である。
図11図3のデータ処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施の形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る診断支援装置を含む生体情報計測システムの一例を示す構成図である。例えば、図1に示す生体情報計測システム100は、電気刺激に基づいて脊髄等の神経から発生する磁場を計測する脊髄誘発磁場計測システムを含む。
【0011】
生体情報計測システム100は、主要な構成要素として磁場計測装置10と低温容器20と神経刺激装置30とX線撮影装置40とデータ処理装置50とを有する。データ処理装置50は、診断支援装置の一例である。神経刺激装置30は、被検体Pの体表(皮膚)から神経を電気的に刺激する装置である。なお、図1では、X線撮影装置40は、被検体Pの上部に配置されるが、側部に配置されてもよく、上部と側部の両方に配置されてもよい。
【0012】
磁場計測装置10は、複数の超伝導量子干渉素子(SQUID:Superconducting QUantum Interference Device)を含むSQUIDセンサアレイ11と信号処理装置12とを有している。磁場計測装置10は、神経刺激装置30による電気刺激により被検体Pの計測対象の神経に誘発された磁場を計測可能である。
【0013】
この実施形態では、磁場計測装置10は、脊磁計(MSG:Magnetospinograph)として使用される。なお、磁場計測装置10は、脳磁計(MEG:Magnetoencephalograph)または心磁計(MCG:Magnetocardiograph)として使用可能である。以下では、超伝導量子干渉素子をSQUIDとも称する。
【0014】
データ処理装置50は、神経刺激装置30による生体への電気刺激のタイミング等を制御する機能と、磁場計測装置10が計測した生体磁場等の生体情報の情報処理を実行する機能とを有する。また、データ処理装置50は、X線撮影装置40による被検体PのX線画像の撮影を制御する機能を有する。データ処理装置50は、マウス50aおよびキーボード50b等の入出力装置からの入力を受け付ける機能を有する。
【0015】
さらに、データ処理装置50は、磁場計測装置10が計測した磁場に応じて発生する電流の向きをX線画像に重畳させて表示装置50cに表示する機能を有する。データ処理装置50は、表示装置50cに表示された画像に対して、マウス50aを操作する操作者により指示される連続する複数の位置(仮想電極)での電流値の時間変化をそれぞれ計算する機能を有する。例えば、操作者は、表示装置50cに表示されるX線画像により認識される脊髄等の神経に沿って複数の位置を指示する。
【0016】
また、データ処理装置50は、各仮想電極での電流波形を表示装置50cに表示する機能を有する。データ処理装置50は、例えば、隣り合う仮想電極での電流波形の最大振幅である電流強度の低下率が、予め設定された低下率の基準値より小さい場合、低下率が小さくなったことを示すテキストまたは図形等を電流波形に隣接する位置に表示する機能を有する。
【0017】
生体情報計測システム100の一部は、磁気をシールドする磁気シールドルーム200内に配置されている。磁気シールドルーム200を利用することで、被検体Pから発生する微弱な磁場(例えば、脊髄誘発磁場)を計測することができる。磁気シールドルーム200は、例えば、高透磁率材料であるパーマロイ等からなる板材と、銅やアルミニウム等の導電体からなる板材とを積層することにより構成することができる。
【0018】
磁気シールドルーム200は、例えば、奥行き2.5m、幅3.0m、高さ2.5m程度の大きさの内部空間を有し、装置器具の搬送や、人の出入りを可能とする扉210を備えている。扉210は、磁気シールドルーム200の他の部分と同様に、高透磁率材料であるパーマロイ等からなる板材と、銅やアルミニウム等の導電体からなる板材の積層により構成することができる。
【0019】
なお、本明細書において、高透磁率材料とは、比透磁率が1000より大きい材料を指す。高透磁率材料としては、パーマロイ以外に鉄、ニッケル、コバルトの単体や、その合金(アモルファス合金や紛体、ナノ粒子を含む)、フェライト等を挙げることができる。
【0020】
以下、生体情報計測システム100およびその周辺部について、より詳しく説明する。磁気シールドルーム200内には、ベッド300が設置されている。また、磁気シールドルーム200内には、低温容器20が設置されており、磁場の計測や計測時の制御等に用いる信号線71が、低温容器20の突出部21内に設置されるSQUIDセンサアレイ11に接続されている。信号線71は、磁場ノイズを低減するためにツイストケーブル構造を有し、磁気シールドルーム200の壁部を貫通する孔を通して、磁気シールドルーム200の外へ引き出され、信号処理装置12と接続される。
【0021】
例えば、生体情報計測システム100を用いた脊髄誘発磁場の計測は、被検体Pがベッド300に仰臥位で横たわり、安静な状態で行われる。安静な状態で計測が行われることで、被検体Pへの負担が少ないだけでなく、被検体Pが動くことによるSQUIDセンサアレイ11との位置ずれを低減することができ、また、筋肉の緊張により生じる筋肉からの磁場ノイズ等を低減することができる。
【0022】
低温容器20は、デュワーとも称され、被検体Pから発生する磁場を検出するSQUIDセンサアレイ11を極低温で動作させるために必要な液体ヘリウムを保持している。低温容器20の突出部21は、脊髄誘発磁場の計測に適した形状を有する。例えば、脊髄誘発磁場の計測は、仰臥位となった被検体Pの腰部を突出部21と接触させ、腰部がSQUIDセンサアレイ11の先端に対向させた状態で行われる。
【0023】
脊髄誘発磁場を計測する際には、電気刺激により意図的に被検体Pの神経活動を誘発する必要がある。そこで、神経刺激装置30を用いて電気刺激が印加される。例えば、この実施形態では、両足首の内側の左脛骨神経と右脛骨神経とに電気刺激が交互に印加され、各電気刺激に基づいて脊髄を上流から下流に伝導される電流が算出される。ここで、上流とは、電気刺激を印加する刺激位置に相対的に近い位置を示し、下流とは、刺激位置に相対的に遠い位置を示す。このため、ツイストケーブル構造の2本の信号線72を介して神経刺激装置30に接続される2つの電極対は、両足首の内側の皮膚上にそれぞれ貼り付けられる。
【0024】
そして、電極対から交互に被検体Pに印加される電気刺激により、被検体Pの両足の脛骨神経を交互に興奮させ、興奮による神経活動が中枢神経に伝搬される。そして、被検体Pの腰椎部に対向するSQUIDセンサアレイ11により、腰椎部の脊髄および脊髄神経から発生する磁場が検出される。
【0025】
なお、2つの電極対は、両足において脛骨神経以外の他の神経を電気刺激可能な位置に貼り付けられてもよい。また、両足からの電気刺激に基づく生体磁場の計測部位は、胸部や頚部でもよい。さらに、頚部の生体磁場を計測する場合、2つの電極対は、両手の神経を電気刺激可能な位置に貼り付けられてもよい。
【0026】
2つの電極対から電気刺激を交互に印加し、生体磁場を交互に計測することで、左右の神経を介して脊髄に伝導される電流波形の差異を検出することができる。そして、電流波形の差異に基づいて、障害部位の特定するための情報を医師等の評価者に提供することができる。
【0027】
例えば、データ処理装置50は、PC(Personal Computer)等のコンピュータであり、信号線を介して信号処理装置12、神経刺激装置30およびX線撮影装置40と接続される。そして、データ処理装置50は、磁場計測装置10、神経刺激装置30およびX線撮影装置40の動作を制御する。
【0028】
図2は、図1の低温容器20の突出部21内に設けられるSQUIDセンサアレイ11の一例を示す斜視図である。例えば、SQUIDセンサアレイ11は、上下方向に延在する棒形状を有し、上面視で千鳥状に配置された複数のSQUIDセンサ11aを有する。各SQUIDセンサ11aは、上端がベッド300に横たわる被検体Pの計測対象部位に対向するように配置される。この実施形態では、複数のSQUIDセンサ11aは、被検体Pの腰部の磁場計測時の湾曲形状に合わせて、上端がわずかに湾曲するように突出部21内に配置される。
【0029】
各SQUIDセンサ11aは、信号処理装置12からの指示に基づいて被検体Pが発生する磁場を計測し、計測した磁場を電圧信号(磁場を示す磁場信号)として信号処理装置12に出力する。例えば、各SQUIDセンサ11aは、X軸、Y軸、Z軸を有する3軸のセンサであり、磁場信号を3次元のベクトル量として計測可能である。なお、各SQUIDセンサ11aは、磁場信号を2次元のベクトル量として計測可能なX軸、Y軸を有する2軸センサでもよく、Z軸のみを有する1軸センサでもよい。
【0030】
図1に示した信号処理装置12は、X線画像上の被検体Pの神経の位置および各SQUIDセンサ11aの位置の関係と、複数のSQUIDセンサ11aにより被検体Pから発生する磁場を計測することで得られる磁場データとに基づいて、指定された計測点での神経活動電流を推定する。例えば、神経活動電流の推定には、空間フィルタ法などの推定アルゴリズムが使用される。これにより、SQUIDセンサアレイ11に対向する任意の位置での神経活動電流の時間変化を示す電流波形を得ることができる。なお、磁場の計測により得られた磁場データからアーチファクトを除去するために、アーチファクト低減法であるDSSP(Dual Signal Sub-spaceProjection)法等が適用されてもよい。
【0031】
図3は、図1のデータ処理装置50の機能ブロックの一例を示す図である。データ処理装置50は、入力制御部510、演算部520、表示制御部530および記憶部540を有する。例えば、入力制御部510、演算部520および表示制御部530は、データ処理装置50に搭載されるCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが実行するデータ処理プログラムにより実現される。
【0032】
後述する入力制御部510、演算部520および表示制御部530による内向き電流の電流強度の低下率の算出と、電流強度の低下率を所定の基準値と比較した比較結果の表示とは、データ処理プログラムのうち診断支援プログラムの実行により実現される。そして、CPU等のプロセッサが診断支援プログラムを実行することにより、診断支援方法が実施される。
【0033】
なお、入力制御部510、演算部520および表示制御部530は、FPGA等のハードウェアにより実現されてもよく、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせにより実現されてもよい。演算部520は、被検体Pから発生する磁場の計測で得られた磁場データに基づき神経走行に流入する内向き電流の電流強度の低下率を算出する算出部の一例である。
【0034】
例えば、記憶部540は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)およびフラッシュメモリ等の半導体記憶装置の少なくともいずれかにより実現される。なお、記憶部540は、半導体記憶装置とHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)とにより実現されてもよい。
【0035】
入力制御部510は、位置入力部511および波形領域指定部512を有する。演算部520は、経路生成部521、仮想電極生成部522、再構成解析部523、電流成分抽出部524、電流強度算出部525、低下率判定部526および基準変更部527を有する。表示制御部530は、画像表示部531、波形表示部532および低下率異常表示部533を有する。なお、表示制御部530は、データ処理装置50の外部に配置されてもよい。記憶部540には、生体磁場データ541、形態画像データ542、解析設定値543および低下率基準値544を記憶する記憶領域が割り当てられる。
【0036】
入力制御部510は、磁場計測装置10の操作者によるマウス50aおよびキーボード50b等の操作を受け付ける。位置入力部511は、表示装置50cに表示されるX線画像等の形態画像上の脊髄等の神経経路を表現するための制御点の位置を受け付ける。位置入力部511が受け付けた位置情報は、解析設定値543として記憶部540に格納される。波形領域指定部512は、仮想電極で算出される電流波形を表示装置50cに表示する時間範囲を受け付ける。形態画像上の脊髄等の神経経路上に設定される仮想電極は、神経走行に沿って所定間隔で配置される第2の仮想電極の一例である。
【0037】
経路生成部521は、位置入力部511から入力された複数の制御点の位置情報に基づいて、活動する神経の経路を算出する。設定された神経の経路を神経走行(路)と呼称する。ここで、算出された経路は、複数の座標情報または曲線を示す式等により表され、解析設定値543として記憶部540に記憶される。
【0038】
仮想電極生成部522は、経路生成部521が算出した神経走行上に、例えば、等間隔に複数の仮想電極Aを生成する。さらに、神経走行上の仮想電極A上において、神経走行の法線方向に任意の距離だけ離れた点に仮想電極Bを生成する。経路上に生成される仮想電極の間隔、法線方向の距離および数は、マウス50aまたはキーボード50b等の入力装置を介して操作者により指定され、入力制御部510により解析設定値543として記憶部540に記憶される。
【0039】
再構成解析部523は、磁場計測装置10による生体磁場の計測により得られた被検体Pの磁場データを使用して、所定の間隔を置いてマトリックス状に配置されるボクセル毎に電流成分を再構成する。ボクセルは、磁場データの取得部位を含む所定の領域に設置される第1の仮想電極の一例である。
【0040】
電流成分抽出部524は、各仮想電極とボクセルとの位置関係に基づいて、再構成解析部523により算出されたボクセルでの電流成分を使用して各仮想電極の電波波形を抽出する。例えば、電流成分抽出部524は、波形領域指定部512で受け付けた時間範囲において、神経走行に沿う仮想電極Aでの電流成分(上流から下流に向かう方向を正、下流から上流に向かう方向を負とする)を、神経走行における神経軸索を伝導する軸索内電流として抽出する。
【0041】
また、電流成分抽出部524は、波形領域指定部512で受け付けた時間範囲において、神経走行に向かう方向を正として、仮想電極B上での神経走行に対する法線方向の電流成分を、内向き電流として抽出する。そして、抽出した内向き電流の時間変化により内向き電流の電流波形が生成される。神経軸索外を流れる体積電流のうち、脱分極部に流入する電流成分である内向き電流は、神経機能を評価する上で重要である。電流波形は、例えば、波形表示部532が内向き電流の値を時間順に並べて画像データとすることで生成される。電流成分抽出部524および波形表示部532は、仮想電極での内向き電流の波形を生成する波形生成部の一例である。
【0042】
電流強度算出部525は、電流成分抽出部524により算出された仮想電極毎の内向き電流の電流波形の振幅の最大値を電流強度として算出する。例えば、電流強度算出部525は、電流波形の正値の振幅を電流強度として算出する。
【0043】
低下率判定部526は、隣り合う仮想電極のペア毎に、内向き電流の電流強度の低下率(%)を算出する。例えば、低下率判定部526は、式(1)により電流強度の低下率(%)を算出する。式(1)において、符号"*"は、積を示す。
電流強度の低下率(%)=((下流の電流強度CS2)/(上流の電流強度CS1))*100 ‥(1)
【0044】
低下率判定部526は、算出した電流強度の低下率を、予め設定された所定の基準値(%)と比較する。例えば、低下率判定部526は、算出した電流強度の低下率が所定の基準値より小さいか否かを判定する。低下率判定部526は、算出した電流強度の低下率が、予め設定された低下率の基準値(%)より小さい場合、算出した電流強度の低下率を、比較結果として、例えば、電流強度を算出した下流の仮想電極の位置情報とともに、低下率異常表示部533に出力する。なお、比較結果を出力することに代えて、算出した電流強度の低下率と、所定の基準値(予め設定された低下率の基準値(%))とを出力させ、それらを表示装置50cに表示させてもよい。
【0045】
基準変更部527は、マウス50aまたはキーボード50b等の入力装置を介して入力される、内向き電流の電流強度を算出する計測部位を示す情報に基づいて、低下率の基準値を変更する。例えば、計測部位毎の低下率の基準値は、低下率基準値544として記憶部540に記憶される。低下率の基準値を変更可能にすることで、計測部位に応じて適切な基準値を設定することができ、脊髄疾患の診断を適切に支援することができる。なお、基準変更部527は、キーボード50b等から入力される低下率の基準値を低下率基準値544として記憶部540に格納してもよい。
【0046】
画像表示部531は、図5および図6に示すように、再構成解析部523により再構成された各ボクセルでの電流の向きと強度とを表す白い小さい矢印を、形態画像(X線画像)に重畳させて表示装置50cに表示させる。また、画像表示部531は、図7に示すように、経路生成部521により算出された神経経路と、仮想電極生成部522により生成された仮想電極とをX線画像に重畳させて表示装置50cに表示させる。
【0047】
波形表示部532は、電流成分抽出部524により算出された仮想電極毎の電流波形を、X線画像に重畳された仮想電極に対応付けて表示装置50cに表示させる。
【0048】
低下率異常表示部533は、低下率判定部526から電流強度の低下率と仮想電極の位置情報とを受信した場合、電流強度の低下率が異常であることを示す異常情報を、表示装置50cに表示させる。例えば、異常情報は、低下率の値、"低下率異常"等のテキスト、または点滅する図形等として、低下率判定部526から受信した位置情報が示す仮想電極の電流波形上または電流波形の脇に表示される。
【0049】
生体磁場データ541の記憶領域には、磁場計測装置10による被検体Pから発生する磁場の計測により得られた磁場データが格納される。形態画像データ542の記憶領域には、X線撮影装置40により撮影された被検体Pの磁場計測対象部位のX線画像データが格納される。
【0050】
解析設定値543の記憶領域には、磁場計測装置10による生体磁場の計測に必要な各種パラメータと、生体磁場の計測により得られた磁場データに使用するフィルタ(ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ)等の各種設定値とが予め格納される。また、解析設定値543の記憶領域には、表示装置50cに表示する画像上における電流の算出点であるボクセルの位置および電流波形を取得する仮想電極の位置等を示す位置情報が予め格納される。
【0051】
低下率基準値544の記憶領域には、低下率判定部526により参照される電流強度の基準値が予め格納される。特に限定されないが、例えば、腰椎での低下率の基準値は70%である。なお、仮想電極間の距離をn(mm)とするとき、0.97のn乗の値(百分率)を低下率の基準値と定義し、仮想電極間の距離に応じて電流強度の低下率が設定されてもよい。仮想電極間の距離が数mmにおける電流強度の低下率の基準値を設定することで、数mmの空間分解能で基準値との比較が可能となる。
【0052】
図4は、神経活動電流のモデルの一例を示す図である。図4は、図の上下方向に直線状に走行する神経の活動により電流が発生する様子を示しており、図4の下側が末梢側であり、図4の上側が中枢側である。例えば、末梢神経に電気刺激を与えることで、刺激が電流として神経軸索を下側から上側に向けて伝導される。
【0053】
このとき、図4の上側(順方向)に向けて流れる軸索内電流および図4の下側(逆方向)に向けて流れる軸索内電流と、神経軸索外を流れ、脱分極点に帰ってくる電流成分である体積電流とが発生する。図4の上側に向けて流れる軸索内電流は、リーディング成分と称され、図の下側に向けて流れる軸索内電流は、トレイリング成分と称される。
【0054】
神経機能を詳細に評価するためには、神経軸索に沿って流れる軸索内電流、すなわち神経走行に沿った方向の電流成分と、脱分極点に流入する内向き電流、すなわち神経走行に対して、その法線方向から向かう方向の電流成分とを抽出して、表示装置50cに視覚的に表示することが好ましい。
【0055】
図5および図6は、図1の生体情報計測システム100により取得された計測対象部位(中枢神経)での磁場データに基づいて抽出された電流分布の時間変化の例を示す図である。図5および図6に示す画像は、再構成解析部523により再構成されるボクセル毎の電流成分を画像表示部531がX線画像に重畳させた画像であり、表示装置50cの画面に一度に表示される。なお、表示装置50cの画面には、図5の画像と図6の画像との一方が表示されてもよく、指定された時間の画像が拡大表示されてもよい。
【0056】
図5に示す画像は、例えば、椎間板ヘルニアの可能性のある被検体Pの右足首の内側の脛骨神経に電気刺激を印加したときに発生する生体磁場の計測により得られる磁場データから算出される電流分布の時間変化を示している。図6に示す画像は、同じ被検体Pの左足首の内側の脛骨神経に電気刺激を印加したときに得られる磁場データから算出される電流分布の時間変化を示している。図5および図6に示す画像は、ベッド300上に仰臥位で横たわる被検体Pを上から撮影したX線画像に電流成分が重畳されている。このため、各時間での画像の左側が被検体Pの右側に対応し、各画像の右側が被検体Pの左側に対応する。
【0057】
図5および図6の各画像の上側に示す"8.500ms"等の時間は、電気刺激を印加してからの経過時間を示す。横方向に並ぶ画像にまたがる太い点線は、第4腰椎(L4)と第5腰椎(L5)の境界部(L4/5)を示す。なお、各時間の画像間に配置された矢印は、時間の経過を分かりやすくするために追加したもので、表示装置50cの画面には表示されなくてもよい。
【0058】
各画像において、複数の白い小さい矢印は、再構成により抽出されたボクセル毎の電流の向きを示しており、矢印の長さは電流強度を示している。矢印において矢じりと反対側の端が、電流成分の抽出単位であるボクセルの位置である。また、等高線状の曲線は、電流強度が同じ位置を結ぶことで生成される電流強度分布線である。
【0059】
各時刻の画像において、点線の矢印は、軸索内電流を示し、網掛けの矢印は、内向き電流を示す。点線の矢印および網掛けの矢印は、説明のために付加したものであり、表示装置50cに表示される画像には含まれない。
【0060】
図5および図6に示す電流成分の算出に使用する磁場データを取得するために、まず、被検体Pの腰部がSQUIDセンサアレイ11を対向するように、図1のベッド300上で被検体Pを仰臥位にさせる。次に、被検体Pの腰部の単純X線画像が撮影され、データ処理装置50により、各SQUIDセンサ11aと被検体Pの腰椎との位置関係が取得される。
【0061】
次に、両足の足首の内側部分に神経刺激装置30の電極が貼り付けられ、電気刺激(持続時間が0.3msの5Hzの方形波パルス)が左右の脛骨神経に交互に印加される。そして、電気刺激に応じて発生する腰部での神経誘発磁場が、磁場計測装置10により計測される。
【0062】
右脛骨神経を電気刺激したときの電流分布の時間変化を示す図5では、点線の矢印で示すように、被検体Pの右側(図5では左側)のL5椎間孔から侵入した軸索内電流のリーディング成分およびトレイリング成分が下流に向けて伝導されていることが観測される。また、網掛けの矢印で示すように、内向き電流が神経軸索に向けて発生していることが観測される。
【0063】
左脛骨神経を電気刺激したときの電流分布の時間変化を示す図6においても、点線の矢印で示すように、被検体Pの左側(図6では右側)のL5椎間孔から侵入した軸索内電流のリーディング成分およびトレイリング成分が下流に伝導されていることが観測される。また、網掛けの矢印で示すように、内向き電流が神経軸索に向けて発生していることが観測される。
【0064】
図7は、図5および図6で観測された内向き電流が上流から下流に伝導するときの電流波形の変化の例を示す図である。図7に示す電流波形は、電流成分抽出部524により仮想電極上で算出される。図5に対応する内向き電流の波形では、L4/5椎間板の位置で電流強度の低下が見られる。図5に対応する内向き電流の波形に示す矢印は、説明を分かりやすくするために付加したものであり、低下率の算出に使用される電流波形の正値の振幅量(電流強度)を示す。
【0065】
図7に示す2つのX線画像では、参考のために付加した神経走行に対して身体の中心側にずれた位置に設置された仮想電極が重畳して表示されている。そして、X線画像において、仮想電極から神経走行に向く矢印は、内向き電流を示す。このように、内向き電流を抽出するための仮想電極は、神経走行から所定距離だけ離れた位置に間隔を置いて設定される。また、内向き電流を抽出するための仮想電極は、電気刺激が印加される側と反対側に設定される。例えば、図5に対応するX線画像では、右足首の脛骨神経(図7では左側)が電気刺激されるため、神経走行に対して被検体Pの左側(図7では右側)に仮想電極が設定される。
【0066】
低下率判定部526は、L4/5椎間板の位置での電流強度の低下率が、低下率の基準値より低いことを判定し、L4/5椎間板の位置に対応する仮想電極の位置情報とともに、電流強度の低下率を低下率異常表示部533に出力する。なお、電流強度の低下率は、式(1)に示したように、着目する仮想電極での電流強度と、1つ上流の仮想電極(この例では、L5/S1椎間板の位置)での電流強度との比により算出される。
【0067】
低下率異常表示部533は、低下率判定部526から受信した電流強度の低下率を示す情報を、異常情報として、対応する電流波形に隣接して表示装置50cに表示させる。図7に示す例では、低下率判定部526により算出された低下率である63%が、テキスト"低下率63%"として表示装置50cに表示される。
【0068】
低下率を示すテキストは、波形の色よりも目立つ色でもよく、点滅させてもよい。また、低下率の表示は、テキストに限定されず、図形やポップアップ等でもよい。低下率を表示する位置は、対応する波形と対応可能であれば、波形に隣接する位置に限定されない。例えば、低下率は、X線画像に重畳される仮想電極の脇に表示されてもよい。さらに、低下率の表示は、波形と対応付けが可能であれば、画像の上部または下部等に表示されてもよい。この場合、表示する低下率に対応する仮想電極の色を他の仮想電極の色と相違させてもよく、さらに、対応する仮想電極の図形を点滅させてもよい。
【0069】
一方、図6に対応する内向き電流の波形では、L4/5椎間板の位置で電流強度の低下は見られない。このため、低下率判定部526は、電流強度の低下率を低下率異常表示部533に出力しない。なお、7番で示される波形は、診断の対象外の電流波形であるため、低下率判定部526は、電流強度の低下を判定しない。
【0070】
なお、図5および図6に対応する画像において、電流波形を生成した全ての仮想電極のそれぞれに対応する複数の低下率が、対応する波形または対応する仮想電極に隣接して表示されてもよい。この場合、電流強度の低下率が基準値より小さいか否かに応じて、画面に表示する色を変えてもよく、フォントの大きさまたはフォントの種類を変えてもよい。これにより、評価者は、電流強度の低下率の推移を認識することができる。
【0071】
図7の左側に示すMR(Magnetic Resonance)画像は参考用であり、表示装置50cには表示されなくてもよい。表示制御部530は、図5および図6に対応する仮想電極が重畳されたX線画像と内向き電流の波形とを並べて表示装置50cに表示させる。図7に示す画像を観察する医師等の評価者は、右脛骨神経の電気刺激によるL4/5椎間板の位置での電流強度の低下を認識可能である。
【0072】
そして、評価者は、例えば、図7に示す画像を参考に、別途撮影されたMR画像等を観察し、L4/5椎間板ヘルニア等の有無を診断する。例えば、図7に示す画像を見た評価者は、図5に示した画像を障害がない健側の画像と認識し、図6に示した画像を障害がある患側の画像と認識することができる。これにより、評価者は、例えば、MR画像で右優位に突出するL4/5椎間板を椎間板ヘルニアであると診断することが可能になる。すなわち、データ処理装置50が生成する図7に示す画像により、脊髄疾患の診断を支援することが可能になる。
【0073】
また、末梢神経の評価においても低下率基準値544の記憶領域には、低下率判定部526により参照される電流強度の基準値が予め格納される。特に限定されないが、例えば、手根管部での低下率の基準値は、70%である。なお、仮想電極間の距離をn(mm)とするとき、0.97のn乗の値(百分率)を低下率の基準値と定義し、仮想電極間の距離に応じて電流強度の低下率が設定されてもよい。仮想電極間の距離が数mmにおける電流強度の低下率の基準値を設定することで、数mmの空間分解能で基準値との比較が可能となる。
【0074】
図8は、図3の低下率異常表示部533に表示させる電流強度の低下率を示す異常情報の別の表示例を示す図である。例えば、図3の低下率判定部526は、隣り合う仮想電極のペア毎に、内向き電流の電流強度の低下率(%)を算出する。低下率異常表示部533は、図3の電流強度算出部525により算出された0から8で示される各仮想電極の電流強度の値を表示装置50cに表示させる。また、低下率異常表示部533は、低下率判定部526により判定された電流強度の変化率(低下率)を、各仮想電極の電流強度の値と対応付けて表示装置50cに表示させる。なお、電流強度の変化率が100より小さい場合、電流強度が低下していることを示す。
【0075】
この際、低下率異常表示部533は、低下率基準値544の記憶領域に予め格納された基準値より低い低下率を、基準値以上の低下率と区別できるように表示装置50cに表示させる。例えば、低下率の区別は、色を分ける、または、文字種を変えるなどの強調表示をすることで行われる。これにより、評価者は、各仮想電極での実際の電流強度と、各仮想電極ペア間での電流強度の変化率とを確認しつつ、電流強度の低下率の推移を認識することができる。
【0076】
なお、低下率異常表示部533は、図8に示すように、電流強度および変化率とともに、基準値を表示装置50cに表示させてもよい。また、基準値は、ユーザインタフェースにより表示画面上で変更可能に表示装置50cに表示されてもよい。この場合、低下率異常表示部533は、基準値が変更された場合、変更後された基準値より低い低下率を、リアルタイムで表示装置50cに強調表示させる。
【0077】
図9は、図1の生体情報計測システム100により取得された計測対象部位(抹消神経)での磁場データに基づいて抽出された電流分布の時間変化の例を示す図である。図5および図6と同様の要素については、詳細な説明は省略する。図8に示す画像は、例えば、手根管症候群の可能性のある被検体Pの左中指に電気刺激を印加したときに発生する生体磁場の計測により得られる磁場データから算出される電流分布の時間変化を示している。
【0078】
図10は、図9で観測された内向き電流が上流から下流に伝導するときの電流波形の変化の例を示す図である。図10に示す電流波形は、第3中手骨から正中神経に沿って配置された仮想電極での電流波形を示し、図3の電流成分抽出部524により抽出されたものである。図10では、内向き電流を示す波形8から波形7の間(第3中手骨の中央付近)で振幅が36.9%に減衰していることが、表示装置50cの画面上で認識可能である。なお、図10において、X線画像に重畳された仮想電極、内向き電流を示す矢印および神経走行を示す線は、説明を分かりやすくするために付加したものであり、図7の重畳画像と同様である。
【0079】
図11は、図3のデータ処理装置50のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。データ処理装置50は、CPU51とROM52とRAM53と外部記憶装置54とを有する。また、データ処理装置50は、入力インタフェース部55と出力インタフェース部56と入出力インタフェース部57と通信インタフェース部58とを有する。例えば、CPU51とROM52とRAM53と外部記憶装置54と入力インタフェース部55と出力インタフェース部56と入出力インタフェース部57と通信インタフェース部58とは、バスBUSを介して相互に接続される。
【0080】
CPU51は、OS(Operating System)およびアプリケーション等の各種プログラムを実行し、データ処理装置50の全体の動作を制御する。また、CPU51は、上述した診断支援プログラムを実行することにより診断支援方法を実施する。ROM52は、CPU51により実行される診断支援プログラムを含む各種プログラムおよび各種パラメータ等を保持する。RAM53は、CPU51により実行される各種プログラムや、プログラムで使用するデータ等を記憶する。外部記憶装置54は、HDDまたはSSD等であり、RAM53に展開される各種プログラムを記憶する。
【0081】
入力インタフェース部55には、データ処理装置50を操作する操作者等からの入力を受け付ける入力装置60が接続される。例えば、入力装置60は、図3のマウス50a、キーボード50bまたはタブレット等である。出力インタフェース部56には、データ処理装置50が生成する各種画像、テキストまたは図形等を出力する出力装置70が接続される。例えば、出力装置70は、CPU51が実行する各種プログラムにより生成される表示画面等を表示する表示装置50c(図3)またはプリンタである。
【0082】
入出力インタフェース部57には、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体80が接続される。例えば、記録媒体80には、診断支援プログラム等の各種プログラムが格納されてもよい。この場合、各種プログラムは、入出力インタフェース部57を介して記録媒体80からRAM53に転送される。なお、記録媒体80は、CD-ROMやDVD(Digital Versatile Disc:登録商標)等でもよく、この場合、入出力インタフェース部57は、接続する記録媒体80に対応するインタフェースを有する。通信インタフェース部58は、データ処理装置50をネットワーク等に接続する。
【0083】
以上、この実施形態では、例えば、腰部または頚部から発生する磁場の計測で得られた磁場データに基づいて内向き電流の電流強度の低下率を算出することで、椎間板ヘルニア等の脊髄疾患の診断の支援を可能にすることができる。
【0084】
基準値より小さい電流強度の低下率を内向き電流の波形に対応付けて表示装置50cに表示することで、電流波形の変化と低下率の値とを診断の支援材料として評価者に提供することができる。例えば、低下率が基準値より小さいときのみ、電流波形に対応付けて低下率を示す情報を表示装置50cに表示することで、算出した全ての低下率を示す情報を表示する場合に比べて、異常部位を認識しやすくすることができる。
【0085】
また、内向き電流の電流強度を算出する計測部位を示す情報に基づいて、計測部位に応じた適切な基準低下率を変更できるため、脊髄疾患の診断を適切に支援することができる。
【0086】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0087】
10 磁場計測装置
11 SQUIDセンサアレイ
11a SQUIDセンサ
12 信号処理装置
20 低温容器
21 突出部
30 神経刺激装置
40 X線撮影装置
50 データ処理装置
50a マウス
50b キーボード
50c 表示装置
54 外部記憶装置
55 入力インタフェース部
56 出力インタフェース部
57 入出力インタフェース部
58 通信インタフェース部
60 入力装置
70 出力装置
71、72 信号線
80 記録媒体
100 生体情報計測システム
200 磁気シールドルーム
210 扉
300 ベッド
510 入力制御部
511 位置入力部
512 波形領域指定部
520 演算部
521 経路生成部
522 仮想電極生成部
523 再構成解析部
524 電流成分抽出部
525 電流強度算出部
526 低下率判定部
527 基準変更部
530 表示制御部
531 画像表示部
532 波形表示部
533 低下率異常表示部
540 記憶部
541 生体磁場データ
542 形態画像データ
543 解析設定値
544 低下率基準値
BUS バス
CS1、CS2 電流強度
P 被検体
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0088】
【非特許文献1】Shuta Ushio et al, "Visualization of the electrical activity of the cauda equina using a magnetospinography system in healthy subjects", Clinical Neurophysiology, Volume 130, Issue 1, January 2019, Pages 1-11
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11