(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108408
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】表面張力および粘度の計測装置および計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/00 20060101AFI20220719BHJP
G01N 13/02 20060101ALI20220719BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20220719BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
G01N11/00 A
G01N13/02
G01L5/00 Z
B81B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003375
(22)【出願日】2021-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】グェン タン ヴィン
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩尚
(72)【発明者】
【氏名】一木 正聡
【テーマコード(参考)】
2F051
3C081
【Fターム(参考)】
2F051AB10
2F051BA07
3C081AA13
3C081BA43
3C081BA45
3C081BA47
3C081BA48
3C081BA60
3C081BA77
3C081CA40
3C081DA03
3C081DA06
3C081DA10
3C081DA31
3C081EA03
(57)【要約】
【課題】様々な液体の表面張力および粘度を並行して計測可能な計測装置および計測方法を提供する。
【解決手段】表面に微小電気機械システム(MEMS)圧力センサ22が設けられ、そのMEMS圧力センサを覆うように液体の液滴DR1が形成される基板18と、液体の液滴DR2を供給して液滴DR1に結合させる基板19と、結合される前後の液滴DR1と液滴DR2とを撮像して撮像データを取得するカメラ13と、MEMS圧力センサからの出力信号に基づいて液滴DR1の圧力を計測する圧力計測部12と、カメラが撮像した画像と圧力計測部が計測した圧力に基づいて、液体の表面張力と粘度とを算出する演算部14と、を備える、計測装置10が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象の液体の表面張力および粘度を計測可能な計測装置であって、
表面に微小電気機械システム(MEMS)圧力センサが設けられ、該MEMS圧力センサを覆うように前記液体の第1の液滴が形成される基板と、
前記液体の第2の液滴を供給して前記第1の液滴に結合させる液滴供給手段と、
前記結合される前後の前記第1の液滴と前記第2の液滴とを撮像して撮像データを取得する撮像手段と、
前記MEMS圧力センサからの出力信号に基づいて前記液滴の圧力を計測する圧力計測手段と、
前記撮像データと前記圧力計測手段が計測した圧力に基づいて、前記液体の表面張力と粘度とを算出する演算手段と、
を備える、前記計測装置。
【請求項2】
前記撮像手段は、前記結合前の第1の液滴を撮像して第1の撮像データを取得し、前記結合後の形状が安定した結合液滴を撮像して第2の撮像データを取得し、
前記圧力計測手段は、前記結合前の第1の液滴の第1の圧力と、前記結合後の形状が安定した結合液滴の第2の圧力を計測し、
前記演算手段は、前記第1の撮像データから前記第1の液滴の曲率半径Rを求め、前記第2の撮像データから前記結合液滴の中央の2つの曲率半径r1およびr2を求め、該曲率半径R、r1およびr2と前記第1および第2の圧力とに基づいて前記液体の表面張力を求める、請求項1記載の計測装置。
【請求項3】
前記演算手段は、表面張力が既知の液体を用いて予め取得した該表面張力と前記曲率半径および前記圧力との関係を第1の情報を格納した第1の記憶部を有し、該第1の記憶部に格納した該第1の情報を用いて前記計測対象の液体の表面張力に換算する、請求項2記載の計測装置。
【請求項4】
前記圧力計測手段は、前記第1および第2の液滴が結合し始めた直後の時間に対する圧力変化を計測し、
前記演算手段は、前記時間に対する圧力変化に基づいて前記液体の粘度を求める、請求項1~3のうちいずれか一項記載の計測装置。
【請求項5】
前記演算手段は、粘度が既知の液体を用いて予め取得した時間に対する圧力変化と粘度との関係を表す情報を格納した第2の記憶部を有し、該第2の記憶部に格納した情報を用いて前記液滴の時間に対する圧力変化を粘度に換算する、請求項4記載の計測装置。
【請求項6】
前記液滴供給手段は、前記第2の液滴が形成される他の基板である、請求項1~5のうちいずれか一項記載の計測装置。
【請求項7】
前記基板および前記他の基板は互いに対向するようにある方向に配置され、前記第1および第2の液滴は該基板および該他の基板の対向する面に形成され、該基板および該他の基板のうち一方の基板を他方の基板に接近させる移動部を備える、請求項6記載の計測装置。
【請求項8】
前記基板および前記他の基板が上下方向に配置され、
前記移動部が、前記基板および前記他の基板のうち一方の基板を上下方向に移動させる、請求項7記載の計測装置。
【請求項9】
前記基板および前記他の基板が水平方向に配置され、
前記移動部が、前記基板および前記他の基板のうち一方の基板を水平方向に移動させる、請求項7記載の計測装置。
【請求項10】
前記液滴供給手段は、前記液体を収容するシリンジであり、該シリンジにより前記第2の液滴を生成して前記第1の液滴に結合させる、請求項1~5のうちいずれか一項記載の計測装置。
【請求項11】
前記シリンジは、前記基板の上方に配置され、前記シリンジに設けられたニードルから前記第2の液滴を形成して前記第1の液滴に結合させる、請求項10記載の計測装置。
【請求項12】
前記ニードルが前記第2の液滴を前記第1の液滴の上方から結合させる、請求項11記載の計測装置。
【請求項13】
前記ニードルが前記第2の液滴を前記基板上の前記第1の液滴の横方向に離隔して形成し、該ニードルからの前記液体を吐出して該第2の液滴を拡大させて該第1の液滴に結合させる、請求項11記載の計測装置。
【請求項14】
前記液滴供給手段は、前記基板上に形成した前記第2の液滴を移動して結合させる液滴移動部を有する、請求項1~5のうちいずれか一項記載の計測装置。
【請求項15】
前記液滴移動部は、前記基板の下側に電極パターンを形成した層を設け、該電極パターンに電圧を印加してElectro Wetting On Dielectric(EWOD)手法により前記第2の液滴を移動する、請求項14記載の計測装置。
【請求項16】
前記液滴移動部は、針状部材を設けた移動ステージを有し、該針状部材を前記基板上に形成した前記第2の液滴に挿入して該移動ステージにより該第2の液滴を移動して結合させる、請求項14記載の計測装置。
【請求項17】
液体の表面張力および粘度の計測方法であって、
表面に微小電気機械システム(MEMS)圧力センサが設けられた基板に、該MEMS圧力センサを覆うように前記液体の第1の液滴を形成するステップと、
前記基板に形成された前記第1の液滴を撮像して第1の撮像データを取得するステップと、
前記MEMS圧力センサにより前記基板に形成された前記第1の液滴の第1の圧力を計測するステップと、
前記液体の第2の液滴を供給して前記第1の液滴に結合させるステップと、
前記MEMS圧力センサにより前記第1および第2の液滴が結合し始めた直後の時間に対する圧力変化と前記第1および第2の液滴が結合後の形状が安定した結合液滴の第2の圧力とを計測するステップと、
前記結合後の形状が安定した結合液滴を撮像して第2の撮像データを取得するステップと、
演算手段により、前記時間に対する圧力変化に基づいて粘度を算出するステップと、
前記演算手段により、前記第1および第2の撮像データと前記第1および第2の圧力とに基づいて前記液体の表面張力を算出するステップと、
を含む、前記計測方法。
【請求項18】
前記演算手段により前記第1の撮像データから前記第1の液滴の曲率半径Rを求め、前記第2の撮像データから前記結合液滴の中央の2つの曲率半径r1およびr2を求め、該曲率半径R、r1およびr2と前記第1および第2の圧力とに基づいて前記液体の表面張力を算出するステップと、
を含む、請求項17記載の計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測対象の液体の表面張力および粘度を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体の表面張力を計測する方法として、細管内を液面が上昇する毛管現象を利用した毛管上昇法や、薄い白金板を液槽から引き上げて白金板が液体に引っ張られる力を計測するウィルヘルミー法等が知られている。液体の粘度を計測する方法として、細管内を一定量流れる時間から粘度を求める細管粘度計による方法が知られている。
【0003】
少量の液体の表面張力および粘度を計測する手法が提案されている。微小力センサ上に微小滴を載置し、微小滴に振動を与えて微小滴の振動を微小力センサが検知して粘度および表面張力を計測する(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法では、液体の粘度が高い場合、微小滴の振動が極めて小さくなるため、粘度および表面張力の計測が困難になるという問題がある。また、表面張力が低い場合は、微小滴を球形に保つことが困難であり、計測が困難であるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、様々な液体の表面張力および粘度を並行して計測可能な計測装置および計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、計測対象の液体の表面張力および粘度を計測可能な計測装置であって、表面に微小電気機械システム(MEMS)圧力センサが設けられ、そのMEMS圧力センサを覆うように上記液体の第1の液滴が形成される基板と、上記液体の第2の液滴を供給して上記第1の液滴に結合させる液滴供給手段と、上記結合される前後の上記第1の液滴と上記第2の液滴とを撮像して撮像データを取得する撮像手段と、上記MEMS圧力センサからの出力信号に基づいて上記液滴の圧力を計測する圧力計測手段と、上記撮像手段が撮像した画像と上記圧力計測手段が計測した圧力に基づいて、上記液体の表面張力と粘度とを算出する演算手段と、を備える、上記計測装置が提供される。
【0008】
上記態様によれば、表面にMEMS圧力センサが設けられた基板に、MEMS圧力センサを覆うように測定対象の液体の第1の液滴を形成し、液滴供給手段により測定対象の液体の第2の液滴を第1の液滴と結合させて、結合される前後の第1の液滴と第2の液滴とを撮像手段によって撮像して撮像データを取得し、MEMS圧力センサからの出力信号に基づいて結合前の第1の液滴の内部の圧力と第1の液滴と第2の液滴とが結合後の結合液滴の内部の圧力を圧力計測手段によって計測し、撮像データと圧力計測手段が計測した圧力に基づいて、演算手段が液体の表面張力と粘度とを算出することが可能であり、様々な液体に対して2つの液滴で表面張力および粘度を並行して計測可能な計測装置が提供できる。
【0009】
本発明の他の態様によれば、液体の表面張力および粘度の計測方法であって、表面に微小電気機械システム(MEMS)圧力センサが設けられた基板に、そのMEMS圧力センサを覆うように上記液体の第1の液滴を形成するステップと、上記基板に形成された上記第1の液滴を撮像して第1の撮像データを取得するステップと、上記MEMS圧力センサにより上記基板に形成された上記第1の液滴の第1の圧力を計測するステップと、上記液体の第2の液滴を供給して上記第1の液滴に結合させるステップと、上記MEMS圧力センサにより上記第1および第2の液滴が結合し始めた直後の時間に対する圧力変化と上記第1および第2の液滴が結合後の形状が安定した結合液滴の第2の圧力とを計測するステップと、上記結合後の形状が安定した結合液滴を撮像して第2の撮像データを取得するステップと、演算手段により、上記時間に対する圧力変化に基づいて粘度を算出するステップと、上記演算手段により、上記第1および第2の撮像データと上記第1および第2の圧力とに基づいて上記液体の表面張力を算出するステップと、を含む、上記計測方法が提供される。
【0010】
上記他の態様によれば、結合前の計測対象の液体の第1の液滴についてMEMS圧力センサにより第1の液滴の内部の第1の圧力を計測するとともに撮像して第1の撮像データを取得し、MEMS圧力センサにより第1および第2の液滴が結合し始めた直後の時間に対する液滴内部の圧力変化を計測し、結合液滴についてMEMS圧力センサにより第2の圧力を計測するとともに撮像して第2の撮像データを取得する。演算手段により、時間に対する圧力変化に基づいて粘度を算出し、第1および第2の撮像データと上記第1および第2の圧力とに基づいて表面張力を算出する。これにより、様々な液体に対して2つの液滴により、粘度および表面張力を並行して計測することが可能な計測方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る表面張力および粘度の計測装置の概略構成を示す図である。
【
図2】表面張力の計測原理を説明するための図である。
【
図4】MEMS圧力センサの概略構成を示す斜視図である。
【
図5】MEMS圧力センサの概略構成を示す断面図である。
【
図6】圧力計測部の概略の回路構成を示す図である。
【
図7】一実施形態に係る表面張力および粘度の計測方法のフローチャートである。
【
図8】計測装置の液滴結合部の変形例1を示す図である。
【
図9】計測装置の液滴結合部の変形例2を示す図である。
【
図10】計測装置の液滴結合部の変形例3を示す図である。
【
図11】計測装置の液滴結合部の変形例4を示す図である。
【
図12】実施例の液滴結合時の圧力値の時間変化の例を示す図である。
【
図13】実施例の表面張力に関する計測値と表面張力(文献値)との関係を示す図である。
【
図14】実施例の液滴結合直後の圧力値の時間変化の例を示す図である。
【
図15】実施例の粘度に関する計測値と試料を別の装置より測定した粘度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。なお、複数の図面間において共通する要素については同じ符号を付し、その要素の詳細な説明の繰り返しを省略する。
【0013】
図1は、第1の実施形態に係る表面張力および粘度の計測装置の概略構成を示す図である。
図1を参照するに、計測装置10は、液滴結合部11と、圧力計測部12と、カメラ13と、演算部14と、記憶部15と、制御部16とを含む。
【0014】
液滴結合部11は、計測対象の液体の液滴DR1を形成する基板18と,計測対象の液体の液滴供給手段として液滴DR2を形成する基板19と、基板18を移動させるXYZステージ20と、基板19を固定する固定治具21とを有する。基板18の表面18aには、微小電気機械システム(MEMS)圧力センサ22が設けられる。MEMS圧力センサ22は、これを覆うように計測対象の液体の液滴DR1を形成することで、液滴DR1の内部の圧力を検知して圧力に応じた出力を電気抵抗値の変化として示す。
【0015】
XYZステージ20は、公知のXYZステージ20を用いることができ、X方向、Y方向およびZ方向に基板18を移動することが可能である。XYZステージ20は、X方向、Y方向およびZ方向に基板18を移動して、基板18上の液滴DR1が基板19上の液滴DR2に結合するように位置調整可能である。
【0016】
XYZステージ20は、基板18を+Z方向(
図1に示す矢印方向)に移動して、基板18上の液滴DR1が基板19上の液滴DR2に接触する位置(または、液滴DR1と液滴DR2との間に毛管現象によりこれらの液体のブリッジが形成される位置)で停止するように制御部16によって制御される。これにより、液滴DR1と液滴DR2とが接触すると、液滴DR1と液滴DR2との結合が始まり、結合した液滴の形状が変化して、結合が開始してから数100m秒後に結合した液滴(「結合液滴」とも称する。)の形状が安定する。液滴DR1と液滴DR2とが接触する位置は、カメラ13によって撮像して演算部14により接触開始を検出してXYZステージ20を停止してもよく、結合前に液滴DR1および液滴DR2の大きさ(基板表面18a,19aからの高さ)を計測して接触する位置を求めてXYZステージ20を停止する位置を決定してもよい。
【0017】
なお、本実施形態では、XYZステージ20により液滴DR1の上部と液滴DR2の下部とを接触するように位置調整を行うが、それに限定されず、液滴DR1の斜め上の部分と液滴DR2の斜め下の部分が接触するように位置調整を行ってもよい。
【0018】
基板18,19は、特に材料は限定されないが、計測対象の液体に対して接触角が大きい、例えば、45°以上の基板材料または基板表面材料であることが好ましい。基板18,19は、例えば、表面を疎水処理されたシリコン基板、ガラス基板、フッ素樹脂材料の基板を用いることができ、シリコン基板を用いることがMEMS圧力センサ22との一体化構造を形成し易い点で好ましい。液滴DR1,DR2は、圧力の計測および曲率半径の計測の観点から各々数μLの量(体積)で十分である。
【0019】
MEMS圧力センサ22は、基板18の表面に配置される。MEMS圧力センサ22は、後述するように、カンチレバーの表面側と背面側との圧力差(または、背面側の圧力が一定の場合は表面側の圧力)を、カンチレバーが撓むことで、ピエゾ抵抗層により電気抵抗値の変化として検出する。これにより、MEMS圧力センサ22は、結合前の液滴DR1内部の圧力と、液滴DR1と液滴DR2とが結合後で形状が安定した結合液滴の内部の圧力を検出する。また、MEMS圧力センサ22は、液滴DR1と液滴DR2とが結合し始める際の圧力の時間変化を検出する。MEMS圧力センサ22は、その大きさが液滴DR1の大きさ(例えば、基板表面18aに接触する液滴DR1の直径)よりも小さく、液滴DR1がMEMS圧力センサ22を覆うように形成される。MEMS圧力センサ22は、大きさが、例えば縦105μm、横80μm、厚さ0.2μmである。液滴DR1,DR2は、各々数μLの量(体積)で十分であり、この量で液滴DR1が基板18と接する界面が数mmの直径となる。基板表面18aにおけるMEMS圧力センサ22の大きさが液滴DR1よりも十分小さいため、液滴DR1の周縁部の表面張力による影響等がMEMS圧力センサ22が検出する圧力に影響することを回避することができる。
【0020】
圧力計測部12は、MEMS圧力センサ22が検出した圧力が電気抵抗値として入力される。圧力計測部12は、電気抵抗値を圧力に応じた出力信号(電圧)として演算部14に出力する。圧力計測部12は、結合前の液滴DR1の圧力と、液滴DR1と液滴DR2とが結合後(つまり、結合液滴)の内部の圧力を出力する。圧力計測部12は、液滴DR1と液滴DR2とが結合し始める際の圧力の時間変化を出力する。
【0021】
カメラ13は、液滴結合部11の液滴DR1,DR2が結合する方向(Z方向)に対して垂直な方向、すなわち、Z方向に対して垂直な面内(XY面)に配置される。カメラ13は、液滴結合部11の液滴DR1,DR2が結合する前後で撮像し、撮像した撮像データを演算部14に出力する。より具体的には、カメラ13は、結合前の液滴結合部11の液滴DR1を撮像し、第1撮像データとして演算部14に出力する。カメラ13は、液滴DR1,DR2が結合して形状が安定した結合液滴を撮像し、第2撮像データとして演算部14に出力する。カメラ13は、液滴DR1および結合液滴の曲率半径を算出可能な程度の解像度(例えば、512ピクセル×512ピクセル)で撮像可能であれば特に限定されない。例えば、第1および第2撮像データは、静止した液滴を撮像するものであるので、高速度の撮像速度のカメラでなくともよく、静止画像が撮像可能なデジタルカメラでよい。
【0022】
なお、計測装置10は、カメラ13が液滴結合部11の液滴DR1が液滴DR2に接触する瞬間をモニターして、制御部16がXYZステージ20のZ方向への移動を停止するように構成してもよく、圧力変化、すなわちMEMS圧力センサ22または圧力計測部12からの出力信号をモニターしてその変化から制御部16がXYZステージ20のZ方向への移動を停止するように構成してもよい。
【0023】
演算部14は、機能構成部として、曲率半径演算部23と、表面張力演算部24と、粘度演算部25とを含む。曲率半径演算部23は、カメラ13からの撮像データを受け取って液滴の曲率半径を算出する。曲率半径演算部23は、第1撮像データから結合前の液滴結合部11の液滴DR1の天頂付近の表面の曲率半径を算出する。曲率半径演算部23は、第2撮像データから結合液滴の曲率半径を求める。表面張力演算部24は、曲率半径演算部23が算出した曲率半径と圧力計測部12からの圧力とに基づいて表面張力を算出する。表面張力演算部24は、表面張力を算出する際に、第1記憶部26に予め記憶されている表面張力が既知の液体についての曲率半径および圧力と表面張力との関係を用いてもよい。粘度演算部25は、圧力計測部12からの液滴DR1と液滴DR2とが結合し始める際の圧力の時間変化(すなわち、圧力の変化速度)に基づいて粘度を算出する。粘度演算部25は、粘度を算出する際に、第2記憶部28に予め記憶されている粘度が既知の液体についての液滴DR1と液滴DR2とが結合し始める際の圧力の時間変化と粘度との関係を用いてもよい。
【0024】
記憶部15は、機能構成部として、第1記憶部26と第2記憶部28とを含む。第1記憶部26は、予め計測した、表面張力が既知の液体についての曲率半径および圧力と表面張力との関係を表すデータまたは関係式を記憶する。第2記憶部28は、予め計測した、粘度が既知の液体についての液滴DR1と液滴DR2とが結合し始める際の圧力の時間変化と粘度との関係を表すデータまたは関係式を記憶する。
【0025】
演算部14は、ハードウェア構成として、図示を省略するが、プロセッサ(CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)等)と、圧力計測部12からの出力信号およびカメラ13からの撮像データを受信する入力インタフェース、記憶部15とを接続するバス、インタフェース等を含む。演算部14は、圧力計測部12からの出力信号がアナログ信号の場合は、アナログ信号からデジタル信号に変換するA/D変換器を含む。記憶部15は、ハードウェア構成として、図示を省略するが、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の半導体メモリ、ハードディスクドライブ等を用いることができる。
【0026】
制御部16は、計測装置10の制御全般を行うことができる。制御部16は、例えば、XYZステージ20の移動の制御を行うことができ、カメラ13が撮像する撮像データまたは、MEMS圧力センサ22または圧力計測部12からの出力信号をモニターして、液滴DR1と液滴DR2とが結合し始める時点でXYZステージ20の+Z方向への移動を停止することができる。
【0027】
計測装置10は、図示を省略するが、演算部14により算出された表面張力および粘度の値を表示したり、圧力の時間変化を表示する表示部を含んでもよい。計測装置10の圧力計測部12、演算部14および記憶部15の機能を信号波形測定器、オシロスコープ等で構成してもよい。
【0028】
[表面張力の計測原理]
計測装置10の表面張力の計測原理を説明する。液滴DR1,DR2の表面張力γと圧力との関係は、いわゆる式(1)のヤング・ラプラスの式で表される。
Δp=γ(1/RC1+1/RC2) ・・・(1)
ここで、Δpはいわゆるラプラス圧力であり、気相と液相との圧力差つまり液滴の圧力と気圧との圧力差であり、RC1,RC2は、液滴の表面の曲率半径である。RC1,RC2は液滴の表面において互いに直交する仮想的な平面における曲率半径である。
【0029】
図2は、表面張力の計測原理を説明するための図であり、(a)は結合前の液滴を示す図であり、(b)は結合後で形状が安定した結合液滴を示す図であり、(c)は(b)の結合液滴の拡大斜視図である。なお(c)では、基板18,19の図示を省略している。以下、
図1を合わせて参照する。
【0030】
図2(a)を参照するに、結合前の液滴DR1の天頂TP付近の表面のXZ平面における接触円OC1を破線で示す。曲率半径は、接触円OC1の半径であり、Rで示す。XZ平面に直交するYZ平面においても液滴DR1の天頂TP付近の表面の曲率半径はRとなる。従って、結合前の液滴DR1について、上記式(1)は下記式(2)により表される。
p
0-p
AIR=γ(2/R) ・・・(2)
ここで、p
0は、液滴DR1の内部の圧力で、MEMS圧力センサ22を用いて計測し、p
AIRは液滴結合部11の外部の雰囲気の気圧である。曲率半径演算部23は、カメラ13からの第1撮像データに基づいて、液滴DR1の曲率半径Rを算出する。
【0031】
図2(b)を参照するに、結合液滴MDRは、液滴DR1と液滴DR2との間にブリッジが形成されて結合し、形状が安定した液滴である。結合液滴MDRの表面は、上下の中央部分がXZ面において凹状となり、XZ面において円を形成する鞍点SPが形成される。鞍点SPのXZ面における接触円OC2は図示のように表され、曲率半径をr
1で示す。
【0032】
図2(c)を参照するに、結合液滴MDRの鞍点SPのXY面における接触円OC3は図示のように表され、曲率半径をr
2で示す。
図2(b)において示すように、カメラ13は接触円OC3をXY面内で(横から)撮像しているので、結合液滴MDRの鞍点SPにおける幅は2r
2となり、これにより曲率半径r
2が算出できる。結合液滴MDRについて、上記式(1)は下記式(3)により表される。
p
1-p
AIR=γ(1/r
2-1/r
1) ・・・(3)
ここで、p
1は、結合液滴MDRの内部の圧力で、MEMS圧力センサ22を用いて計測する。また、1/r
1の符号が負(マイナス)になっているのは、液相側から気相側に向かって界面が凹になっている場合、曲率が負と定義しているからである。曲率半径演算部23は、カメラ13からの第2撮像データに基づいて、結合液滴MDRの曲率半径r
1およびr
2を算出する。
【0033】
上記式(2)および(3)により、下記式(4)が得られる。
γ=(p1-p0)/(1/r2-1/r1-2/R)・・・(4)
表面張力演算部24は、式(4)の右辺により表面張力γを算出する。なお、表面張力γを算出する際に、式(4)の右辺の(p1-p0)を、MEMS圧力センサ22の出力の抵抗値の変化率ΔR/Rに置き換えてもよい。この場合、表面張力演算部24は、第1記憶部26に記憶された、表面張力γが既知の液体についての曲率半径R、r1、r2およびMEMS圧力センサ22の抵抗値の変化率ΔR/Rと表面張力γとの関係、すなわち、(ΔR/R)/(1/r2-1/r1-2/R)と表面張力γとの関係を表すデータまたは関係式を用いることができる。
【0034】
なお、曲率半径演算部23が曲率半径Rおよびr1を算出する手法は公知の手法を用いることができる、例えば、曲率半径Rは、第1撮像データから液滴DR1の天頂TP付近のプロファイルを求め、天頂TPにおいて円弧で近似した接触円OC1の半径として求めることができる。曲率半径r1も同様にして、結合液滴MDRの鞍点SPにおける接触円OC2の半径として求めることができる。
【0035】
[粘度の計測原理]
計測装置10の粘度の計測原理を説明する。計測装置10は、液滴DR1と液滴DR2とが結合し始める際の圧力の時間変化に基づいて粘度を算出する。
【0036】
図3は、粘度の計測原理を説明するための図であり、(a)は液滴DR1と液滴DR2とが結合し始める様子を示す図であり、(b)は結合後の形状変化を示す写真であり、(c)は圧力の時間変化を示す図である。以下、
図1を合わせて参照する。
【0037】
図3(a)を参照するに、液滴DR1と液滴DR2とが接触すると、液滴DR1と液滴DR2とを接続する領域(ブリッジ)BRが形成され結合が始まる。この時点を時刻の始点として0ms(ミリ秒)として、その後の液滴の形状の時間的変化を
図3(b)に示す。時間が経過するにつれてブリッジの横幅が次第に大きくなるように変化する。500ms後には形状の変化が停止し、安定した形状になる(先の
図2(b)および(c)に模式的に示した図と同じ状態である。)。
図3(c)は、MEMS圧力センサ22および圧力計測部12で計測した圧力p(t)の時間変化を示している。圧力p(t)は時間経過に伴って線形的に増加しており、下記式(5)で表すことができる。
p(t)=kt ・・・(5)
ここで、kは圧力p(t)の時間変化率、tは液滴が接触し始めてからの時間(秒)である。なお、圧力p(t)は、MEMS圧力センサ22のピエゾ抵抗層の電気抵抗値の変化率(ΔR(t)/R)を用いてもよい。以下、ΔR/Rの時間の変化を加味する場合にΔR(t)/Rと表す。
【0038】
本発明者は、時間変化率kは、液滴を形成する液体の粘度μと関係があることを見出した。すなわち、MEMS圧力センサ22によって、液滴DR1と液滴DR2とが接触し始めた直後の圧力に対応するΔR/Rを検出し、粘度演算部25においてΔR/Rの時間変化率あるいは圧力の変化率により液体の粘度μを算出する。
【0039】
なお、粘度演算部25は、粘度を算出する際に、第2記憶部28に記憶された、粘度μが既知の液体についての液滴DR1と液滴DR2とが結合し始める際の圧力の時間変化kと粘度μとの関係を表すデータまたは関係式を用いることができる。
【0040】
図4は、MEMS圧力センサの概略構成を示す斜視図である。
図5は、MEMS圧力センサの概略構成を示す断面図であり、
図4に示すAA断面図である。なお、
図4では、図示の便宜のため
図5に示す絶縁層40を省略している。
【0041】
図4および
図5を参照するに、MEMS圧力センサ22は、基板表面18aに配置される。MEMS圧力センサ22は、基板表面18aとMEMS圧力センサ22とが段差なく連続するように配置されることが好ましい。MEMS圧力センサ22は、枠状のシリコン基板30と、その上に酸化シリコン層31と、シリコン層32とがこの順に積層されている。MEMS圧力センサ22は、開口部30aに、弾性要素としてカンチレバー33が設けられる。カンチレバー33は、基部33aが枠状のシリコン基板30および酸化シリコン層31の積層体に支持され、先端部33bが自由端である。カンチレバー33は、いわゆる片持ち梁形状を有し、例えば長さが100μm、幅80μmである。カンチレバー33は、弾性を有する材料であれば特に限定されない。カンチレバー33の両側および先端部には、開口部30sが設けられている。開口部30sの幅は例えば1μm以下である。
【0042】
本実施形態において、カンチレバー33には、シリコン層32の表面から深さ方向に、歪み検出層としてピエゾ抵抗層34c、34dが形成される。シリコン層32およびピエゾ抵抗層34c、34dの一部の上に導電層36および電極38、39が形成される。ピエゾ抵抗層34c、34dは、それぞれ、カンチレバー33の基部側の2つの脚部33c、33dに形成される。枠状のシリコン基板30および酸化シリコン層31の積層体の表面には、電極38、39が形成されている。カンチレバー33の表面には、導電層36が形成されている。
【0043】
ピエゾ抵抗層34c、34d、導電層36および電極38、39の表面に絶縁層40が形成され、液滴が導電性の場合に電気的に短絡することを防止する。絶縁層40は、酸化シリコン、パリレン(登録商標)、ゴム材例えばシリコーンゴム等を用いることができる。絶縁層40は、カンチレバー33の振動を阻害しない程度に薄膜であることが好ましい。
【0044】
脚部33cと脚部33dとの間の切り欠き部41は、液滴DR1の内部の圧力に対するカンチレバー33のたわみを調整して力に対する感度を調整するもので、その幅は適宜選択される。
【0045】
電極38は、脚部33cの基部側において、ピエゾ抵抗層34cの一端に接触して形成されており、ピエゾ抵抗層34cに電気的に接続される。電極39は、脚部33dの基部側において、ピエゾ抵抗層34dの一端に接触して形成されており、ピエゾ抵抗層34dに電気的に接続される。導電層36は、脚部33cの先端部において、ピエゾ抵抗層34cの他端に接触して形成されており、ピエゾ抵抗層34cに電気的に接続される。導電層36は、さらに、脚部33dの先端部において、ピエゾ抵抗層34dの他端に接触して形成されておりピエゾ抵抗層34dに電気的に接続される。これにより、電極38、ピエゾ抵抗層34c、導電層36、ピエゾ抵抗層34dおよび電極39の直列回路が形成される。
【0046】
ピエゾ抵抗層34c、34dは、例えば、シリコン層32に不純物イオン、例えば、リンイオンをドープした領域であり、ピエゾ抵抗層34c、34dに応力が作用すると、歪みが生じ、歪みに応じて電気抵抗値が変化する。カンチレバー33は、液滴DR1から受ける圧力に応じて脚部33c、33dが湾曲する。脚部33c、33dが湾曲すると、ピエゾ抵抗層34c、34dに応力が作用し、歪が発生して、電気抵抗値が変化してピエゾ抵抗層34c、34dの両端間の電気抵抗値Rが変化する。電気抵抗値の変化率ΔR/Rを、後述するホイートストンブリッジ回路により出力信号に変換する。MEMS圧力センサ22は、分解能が0.1Pa以下を有している。
【0047】
MEMS圧力センサ22は、カンチレバー33の代替例として、その脚部が1つでもよく、3つ以上でもよい。これにより作用する力に応じてカンチレバーの脚部の湾曲の度合いを調整でき、目的とする圧力範囲に応じてMEMS圧力センサの選択が可能となる。
【0048】
MEMS圧力センサ22は、弾性要素が、カンチレバー33の代わりに、両持ち梁形状またはダイアフラム形状に形成されてもよい。
【0049】
図6は、圧力計測部の概略の回路構成を示す図であり、MEMS圧力センサのピエゾ抵抗層の電気抵抗も合わせて示している。
【0050】
図6を参照するに、圧力計測部12は、ピエゾ抵抗層34c、34dの抵抗Rおよび3つの抵抗R1、R2、R3(各符号は抵抗値も表す。)を含むホイートストンブリッジ回路45と、差動増幅器46とを含む。
【0051】
ホイートストンブリッジ回路45は、ピエゾ抵抗層34c、34dの合成抵抗値R、歪みによる抵抗値の変化をΔRとすると、ホイートストンブリッジ回路45のPQ間の出力電圧VP-Qは、下記式(6)で表される。
VP-Q=1/4×ΔR/R×E ・・・(6)
ただし、ホイートストンブリッジ回路45の平衡をとるため、R×R2=R1×R3になるように抵抗値R1、R2、R3を設定する。平衡をとったときのRをR0とする。直流電源Eはホイートストンブリッジ回路45のAB間に接続され、電圧E(V)である。例えば、E=1V(ボルト)、ΔR/R=0.001であると、VP-Q=0.25mV(ミリボルト)の出力が得られる。
【0052】
差動増幅器46は、出力電圧VP-Qをホイートストンブリッジ回路45のPQ間に接続され、出力電圧VP-Qを増幅し、演算部14に出力する。
【0053】
本実施形態によれば、表面にMEMS圧力センサ22が設けられた基板18に、MEMS圧力センサ22を覆うように測定対象の液体の液滴DR1を形成し、XYZステージ20により基板19に形成した測定対象の液体の液滴DR2と結合させて、結合される前後の液滴DR1と液滴DR2とをカメラ13によって撮像し、MEMS圧力センサ22からの出力信号に基づいて結合前の液滴DR1の内部の圧力と液滴DR1と液滴DR2とが結合後の内部の圧力を圧力計測部12によって計測し、カメラ13が撮像した画像と圧力計測部12が計測した圧力に基づいて、演算部14が液体の表面張力と粘度とを算出することができる計測装置10が提供される。
【0054】
なお、本実施形態では、基板18をXYZステージ20により移動し、基板19を固定治具21により固定したが、基板18を固定して基板19を-Z方向に移動するように構成してもよい。具体的には、例えば、固定治具の支柱を伸縮する手段を設けて、基板19をZ方向に上下するようにしてもよい。また、基板18および基板19を垂直に立てて基板表面18a、19aがYZ面に平行になるように配置し、互いに対向する表面に液滴DR1、DR2を形成し、XYZステージ20により基板18および基板19のいずれか一方をX方向に移動して液滴DR1と液滴DR2とを結合するように構成してもよい。またさらに、基板18および基板19を任意の角度に傾けてかつ互いに対向するように配置してもよい。
【0055】
図7は、一実施形態に係る表面張力および粘度の計測方法のフローチャートである。
図7を
図1~
図3とともに参照しつつ、計測方法を説明する。
【0056】
最初に、基板18に設けられたMEMS圧力センサ22を覆うように液滴DR1を形成する(S100)。具体的には、シリンジ等により計測対象の液体を一滴基板18の表面18aに配置されたMEMS圧力センサ22上に滴下する。液滴DR1はMEMS圧力センサ22を覆うようにする。
【0057】
次いで、液滴DR1をカメラ13により撮像する(S110)。この画像を第1撮像データとして演算部14に出力する。
【0058】
次いで、MEMS圧力センサ22および圧力計測部12により液滴DR1の内部の圧力p
0を計測する(S120)。具体的には、
図4および5に示したMEMS圧力センサ22のカンチレバー33に作用する液滴DR1の内部の圧力p
0をピエゾ抵抗層34c、34dの電気抵抗値として検出し、圧力計測部12により圧力p
0に応じた出力信号を演算部14に出力する。なお、S120は、S110と同時に行ってもよく、S110の前に行ってもよい。
【0059】
次いで、液滴DR2を供給して液滴DR1と結合する(S130)。具体的には、基板19に液滴DR2を形成する。液滴DR2の体積は液滴DR1と同程度であればよい。XYZステージ20により基板18を+Z方向に移動して、液滴DR1と液滴DR2とが接触する位置でXYZステージ20を停止する。これにより、液滴DR1と液滴DR2とが結合を始め、例えば、
図3(b)に示したように、液滴の形状が変化し、数100ms後に形状が安定して、結合液滴MDRが形成される。
【0060】
次いで、液滴DR1と液滴DR2とが結合し始めた直後において、時間に対する圧力p(t)の時間変化と結合液滴MDRの内部の圧力p1とを計測する(S140)。具体的には、MEMS圧力センサ22および圧力計測部12により液滴DR1と液滴DR2とが結合し始めた直後の圧力p(t)(またはΔR(t)/R))の時間変化を計測し、圧力p(t)(またはΔR(t)/R))に応じた出力信号を演算部14に出力する。また、同様にして液滴DR1と液滴DR2とが結合して形状が安定した(例えば、結合開始から数100ms後の)結合液滴MDRの内部の圧力p1(またはΔR/R)を計測して圧力p1(またはΔR/R)に応じた出力信号を演算部14に出力する。
【0061】
次いで、結合液滴MDRをカメラ13により撮像する(S150)。この画像を第2撮像データとして演算部14に出力する。なお、S150は、S140の結合液滴MDRの圧力p1の計測と同時に行ってもよく、結合液滴MDRの内部の圧力p1の計測よりも前に行ってもよい。
【0062】
次いで、粘度演算部25は、圧力p(t)(またはΔR(t)/R))の時間変化に基づいて粘度μを算出する(S160)。具体的には、液滴DR1と液滴DR2とが結合し始めた直後の圧力p(t)(またはΔR(t)/R))の時間変化から上記式(5)の時間変化率kを算出する。粘度演算部25は、時間変化率kと粘度μとの関係を表すデータまたは関係式から粘度μを算出する。
【0063】
次いで、曲率半径演算部23が第1および第2撮像データから液滴DR1の曲率半径R、結合液滴MDRの曲率半径r1およびr2を算出し、表面張力演算部24は、曲率半径R、r1およびr2と圧力p0およびp1とに基づいて液体の表面張力γを算出する(S170)。なお、S170はS160と同時に行ってもよく、S160の前に行ってもよい。
【0064】
本実施形態に係る計測方法によれば、計測対象の液体の液滴DR1および液滴DR2について、カメラ13が撮像した、結合前の液滴DR1の第1撮像データおよび結合後の結合液滴MDRの第2撮像データを取得して、曲率半径演算部23が算出した曲率半径R、r1およびr2と、MEMS圧力センサ22および圧力計測部12により計測した、結合前の液滴DR1の圧力p0および結合後の結合液滴MDRの圧力p1とから表面張力演算部24が表面張力γを算出する。これに並行して、液滴DR1と液滴DR2とが結合し始めた直後において、MEMS圧力センサ22および圧力計測部12により計測した時間に対する圧力p(t)の時間変化に基づいて粘度演算部25が粘度μを算出する。これにより計測対象の液体の表面張力γおよび粘度μを2つの液滴DR1および液滴DR2により並行して計測することができる。
【0065】
図8は、一実施形態に係る計測装置の液滴結合部の変形例1を示す図である。
図8を参照するに、変形例1は液滴供給手段としての
図1に示した基板19に代えてシリンジ50を用いる例である。シリンジ50に計測対象の液体を充填し、シリンジ50に設けられたニードル51により液滴DR2を供給する。液滴DR2は、液滴DR1に接触する位置で停止するように供給する。これにより、上記実施形態と同様に結合液滴MDRを形成することができ、同様の計測装置および計測方法により計測対象の液体の表面張力γおよび粘度μを計測できる。
【0066】
図9は、計測装置の液滴結合部の変形例2を示す図である。
図9を参照するに、変形例2は液滴供給手段としてシリンジ50を用いて基板18に液滴DR2-1を形成し、液滴DR1に接触するまでシリンジ50から追加して液体を吐出して拡大した液滴DR-2を形成する。これにより、融合液滴が基板18の表面18aにおいて形成され、上記実施形態と同様の計測装置および計測方法により計測対象の液体の表面張力γおよび粘度μを計測できる。
【0067】
図10は、計測装置の液滴結合部の変形例3を示す図である。
図10を参照するに、変形例3は液滴供給手段として移動ステージ52に設けた針状部材53を用いる。針状部材53の先端部を液滴DR2に挿入し、移動ステージ52により矢印の方向に移動することで、液滴DR2を液滴DR1に接触する位置まで移動する。これにより、融合液滴が基板18の表面18aにおいて形成され、上記実施形態と同様の計測装置および計測方法により計測対象の液体の表面張力γおよび粘度μを計測できる。
【0068】
図11は、計測装置の液滴結合部の変形例4を示す図である。
図11を参照するに、変形例4は液滴供給手段としてElectro Wetting On Dielectric(EWOD)手法を用いて、基板54の裏面に電極パターン55を形成し、電圧印加部56により電極パターン55に電圧を印加して液滴DR2を液滴DR1に接触する位置まで移動する。これにより、結合液滴が基板54の表面54aにおいて形成され、上記実施形態と同様の計測装置および計測方法により計測対象の液体の表面張力γおよび粘度μを計測できる。
【0069】
[実施例]
図1に示した計測装置10を用いて、試料として純水(超純水(電気抵抗率:16MΩ・cm))、グリセリン(富士フィルム和光純薬社製グリセリン)、エタノール(富士フィルム和光純薬社製エタノール(99.5))、シリコーンオイル(信越化学工業社製HIVAC F-4およびF-5)、これらの混合物としてグリセリン水溶液(水:グリセリン=4:6、1:1)およびエタノール水溶液(水:エタノール=1:4)を用いて表面張力および粘度を計測した。括弧内は質量比を示す。カメラ13は、高速度カメラ(フォトロン社製 モデルFASTCAM SA-Z、撮像速度50000フレーム/秒)を用いて液滴DR1、DR2および結合液滴MDRの撮像を行った。MEMS圧力センサ22は、
図4および
図5に示した構造を有するものを用いた。演算部14として、ハードウェアとしてパソコン、ソフトウェアとしてMathematica(Wolfram社製バージョン11.2)を用いて、撮像データから曲率半径R、r
1およびr
2を算出した。
【0070】
図12は、実施例の液滴結合時の圧力値の時間変化の例を示す図である。横軸は時間(単位:ミリ秒)であり、液滴DR1と液滴DR2とが結合し始めた時間を0としている。縦軸は圧力計測部の出力を電気抵抗値の変化率ΔR(t)/R
0で表しており、圧力に対応している。R
0は、
図6に示したホイートストンブリッジ回路45が平衡となる電気抵抗R
0の電気抵抗値であり、ΔR(t)は、液滴が結合する前の液滴DR1についての電気抵抗値からの変化量を表す。
【0071】
図12を参照するに、液滴DR1と液滴DR2とが結合し始めると、ΔR(t)/R
0が急激に増加し、数100ミリ秒後にはほぼ安定する。これは、
図3(b)に示したように結合した液滴が安定な形状に変化したことと一致していることが分かった。数100ミリ秒後のΔR(t)/R
0は、上記式(4)の右辺の(p
1-p
0)に対応し、(ΔR/R
0)
EQUと称する。
【0072】
図13は、実施例の表面張力に関する計測値と表面張力(文献値)との関係を示す図である。縦軸は、(ΔR/R
0)
EQU/ΔHであり、ΔH=(1/r
2-1/r
1-2/R)であり、上記式(4)の右辺に対応する。横軸は、文献値の表面張力を参考にした値である。純水、エタノールおよびエタノール水溶液については、J.Chem.Eng.Data,1995,40,pp611-614の
図1のグラフより求めた。グリセリンおよびグリセリン水溶液については、K.Takamura et al. J.Pet.Sci.Eng.98-99(2012)pp50-60を参考にした。HIVAC F-4およびF-6についてはカタログ値を用いた。計測温度は23℃である。
【0073】
図13を参照するに、表面張力に関する計測値は、文献値の20~70mN/mの広範囲の表面張力に対して線型の関係であることが分かった。このことから、計測装置10により様々な液体の表面張力が測定できることが分かった。
【0074】
図14は、実施例の液滴結合直後の圧力値の時間変化の例を示す図であり、
図12の時間t=0付近を拡大して示した図である。横軸は時間(単位:ミリ秒)であり、液滴DR1と液滴DR2とが結合し始めた時間を0としている。縦軸は
図12と同様である。
図14を参照するに、液滴DR1と液滴DR2とが結合し始めると、ΔR/R
0がほぼ線形的に増加することが分かる。ΔR(t)/R
0の時間変化率(上記式(5)の右辺の圧力p(t)の時間変化率kに対応する。)。この時間変化率をkとする。なお、エタノールおよびエタノール水溶液については圧力の時間変化を計測しなかった。
【0075】
図15は、実施例の粘度に関する計測値と試料を別の装置より測定した粘度との関係を示す図である。縦軸は、
図14において算出した時間変化率kであり、横軸は試料を市販粘度計(京都電子工業社製EMS粘度計、モデルEMS-1000S)を用いて計測した粘度であり、計測温度は23℃である。
図15を参照するに、時間変化率kは、1~1000mPa・sの広範囲の粘度において市販粘度計の計測値と対応していることが分かった。このことから、実施例の計測装置10によって粘度を計測できることが分かった。
【0076】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。上記実施形態に係る計測装置は粘度および表面張力の両方を並行して測定可能であるが、粘度および表面張力のいずれか一方だけを計測可能であることは明らかである。MEMS圧力センサ22のピエゾ抵抗層34c、34dの代わりに、ピエゾ圧電層を採用してもよい。ピエゾ圧電層を用いる場合は、
図6に示した圧力計測部12のホイートストンブリッジ回路45を省略する。
【符号の説明】
【0077】
10 計測装置
11 液滴結合部
12 圧力計測部
13 カメラ
14 演算部
15 記憶部
16 制御部
18,19 基板
20 XYZステージ
22 微小電気機械システム(MEMS)圧力センサ
DR1,DR1 液滴