(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108515
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】炎症疾患における治療マーカー/ターゲットとしてのHNRNPKの臨床応用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220719BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220719BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220719BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220719BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20220719BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220719BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220719BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220719BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220719BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20220719BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220719BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220719BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220719BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220719BHJP
A61P 19/06 20060101ALI20220719BHJP
A61K 33/22 20060101ALI20220719BHJP
A61K 31/5365 20060101ALI20220719BHJP
A61K 31/18 20060101ALI20220719BHJP
A61K 31/132 20060101ALI20220719BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20220719BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220719BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220719BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220719BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20220719BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20220719BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P29/00 ZNA
A61P31/04
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P17/06
A61P25/00
A61P1/04
A61P17/00
A61P37/08
A61P11/06
A61P11/00
A61K39/395 D
A61K39/395 R
A61K39/395 N
A61P37/02
A61K31/7088
A61P19/06
A61K33/22
A61K31/5365
A61K31/18
A61K31/132
A61K31/366
A61P43/00 111
G01N33/68
G01N33/53 D
C07K16/18
C12N15/115 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003552
(22)【出願日】2021-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(72)【発明者】
【氏名】淺原 弘嗣
(72)【発明者】
【氏名】松島 隆英
(72)【発明者】
【氏名】五島 直樹
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4C085
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045DA36
2G045FB03
4C084AA17
4C084MA17
4C084MA23
4C084MA31
4C084MA34
4C084MA35
4C084MA37
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4C084MA56
4C084MA60
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4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA891
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4C086AA01
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4C206ZA66
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4C206ZB05
4C206ZB07
4C206ZB11
4C206ZB13
4C206ZB15
4C206ZB35
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
【課題】炎症性疾患の治療に用いるための組成物を提供すること。また,炎症性疾患の血中マーカーを提供すること。
【解決手段】カルシウム拮抗剤およびホスホジエステラーゼ阻害などのHNRNPK分泌抑制剤,または中和抗体などのHNRNPK阻害剤を有効成分として採用することにより,炎症性疾患の治療に用いるための医薬組成物を製造することができる。また,HNRNPKタンパク質を炎症性疾患の血中マーカーとして用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ核リボ核タンパク質K分泌抑制剤またはヘテロ核リボ核タンパク質K阻害剤を有効成分として含む,炎症性疾患の治療に用いるための医薬組成物。
【請求項2】
ヘテロ核リボ核タンパク質K分泌抑制剤がカルシウム拮抗剤,ホスホジエステラーゼ阻害剤,IP3レセプター阻害剤,およびホスホリパーゼC活性化剤から成る群より選択される請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
カルシウム拮抗剤がアムロジピン,ニフェジピン,ニカルジピン,ベニジピン,バルニジピン,ニトレンジピン,ニソルジピン,アゼルニジピン,マニジピン,エフォニジピン,シルニジピン,アラニジピン,フェロジピン,ニモジピン,クレビジピン,ラシジピン,レルカニジピン,ジルチアゼム,ベラパミル,およびベプリジルから成る群より選択される請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
ホスホジエステラーゼ阻害剤がcAMPホスホジエステラーゼ阻害剤およびcGMPホスホジエステラーゼ阻害剤から成る群より選択される請求項2記載の医薬組成物。
【請求項5】
ホスホジエステラーゼ阻害剤がテオフィリン,パパベリン,カフェイン,ミルリノン,シロスタゾール,アバナフィル,ロデナフィル,ミロデナフィル,シルデナフィル,タダラフィル,バルデナフィル,ウデナフィル,ザプリナスト,イカリン,ベンズアミデナフィル,ダントラフィル,アプレミラスト,シロミラスト,クリサボロール,ジアセパム,イブジラスト,ルテオリン,メセンブレノン,ピクラミラスト,ロフルミラスト,ロリプラム,およびRO 20-1724から成る群より選択される請求項2記載の医薬組成物。
【請求項6】
IP3レセプター阻害剤が2-APB,およびXestospongin Cから成る群より選択される請求項2記載の医薬組成物。
【請求項7】
ホスホリパーゼC活性化剤がm-3m3fbs,スペルミン,およびPseudolaric acid Bから成る群より選択される請求項2記載の医薬組成物。
【請求項8】
ヘテロ核リボ核タンパク質K阻害剤が中和抗体,アプタマーおよび低分子アゴニストから成る群より選択される請求項1記載の医薬組成物。
【請求項9】
中和抗体がポリクローナル抗体,モノクローナル抗体,scFv,Fab,Fab',F(ab')2,Fv,rIgG,ナノボディ,ペプチボディ,ミニボディおよびダイアボディから成る群より選択される請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
炎症性疾患が,全身性炎症反応症候群(SIRS),敗血症,リウマチ,乾癬性関節炎,乾癬,強直性脊髄炎,炎症性腸疾患,SLE,アトピー性皮膚炎,喘息,COPD,および痛風から成る群より選択される請求項1~9のいずれか記載の医薬組成物。
【請求項11】
被検者における炎症性疾患の診断方法であって,a)該被検者に由来する血液サンプル中のヘテロ核リボ核タンパク質Kのタンパク質量を測定すること,b)該タンパク質量を既定の基準値と比較することを含み,該タンパク質量が既定の基準値よりも高いことにより炎症性疾患が指し示される,診断方法。
【請求項12】
ヘテロ核リボ核タンパク質Kのタンパク質量の測定がELISAにより行われる,請求項11記載の診断方法。
【請求項13】
炎症性疾患が,全身性炎症反応症候群(SIRS),敗血症,リウマチ,乾癬性関節炎,乾癬,強直性脊髄炎,炎症性腸疾患,SLE,アトピー性皮膚炎,喘息,COPD,および痛風から成る群より選択される請求項11または12記載の診断方法。
【請求項14】
炎症性疾患の血中マーカーとしてのヘテロ核リボ核タンパク質Kタンパク質の使用。
【請求項15】
炎症性疾患が,全身性炎症反応症候群(SIRS),敗血症,リウマチ,乾癬性関節炎,乾癬,強直性脊髄炎,炎症性腸疾患,SLE,アトピー性皮膚炎,喘息,COPD,および痛風から成る群より選択される請求項14記載の使用。
【請求項16】
治療を必要とする対象における炎症性疾患の治療方法であって,有効量のヘテロ核リボ核タンパク質K分泌抑制剤またはヘテロ核リボ核タンパク質K阻害剤を該対象に投与することを含む,治療方法。
【請求項17】
炎症性疾患の治療用医薬品の製造における,ヘテロ核リボ核タンパク質K分泌抑制剤またはヘテロ核リボ核タンパク質K阻害剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,炎症性疾患の治療に用いるための組成物に関する。より詳細には,HNRNPK分泌抑制剤またはHNRNPK阻害剤を有効成分として含む,炎症性疾患の治療に用いるための組成物に関する。また,本発明は炎症性疾患の血中マーカーとしてのHNRNPKの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症を含めた全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)は感染や外傷,熱傷,膵炎,外科手術など侵襲に対して誘引される全身性の急性炎症反応の状態を指す。SIRSは重症化,遷延化することにより,各種のサイトカインを中心としたメディエーター,好中球,凝固系などが活性化され臓器障害の原因となる。診断には体温の変動,脈拍数の増加,呼吸数の増加,白血球数などを参考にSIRSと診断されているが,重症度の判断においてはC反応性タンパク質(CRP)やプロカルシトニン(PCT)を指標としている。しかしながらCRPやPCTはSIRS以外の疾患でも変動してしまうため合併症を伴う場合などには重症度の判定は困難となる。またこれらマーカーも含め感度や特異度が90%を超えるバイオマーカーはいまだ存在していない(非特許文献1)。また非外科的治療に関しても抗菌薬を中心に輸液や昇圧剤などの全身管理をすることで重症化を防ぐことが現在の基本的治療方針となっており,重症化後の特異的な治療法も確立されていない。
【0003】
ヘテロ核リボ核タンパク質K/Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein K(HNRNPK)は,核内においてクロマチンの修飾やスプライシング,細胞質において翻訳やメッセンジャーRNA(mRNA)の安定性の制御などに働くと考えられているRNA結合タンパク質である。疾患との関係では,HNRNPKは癌との関連性を有することが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Lancet Infect Dis 2013; 13: 426-35
【非特許文献2】Miguel Gallardo, Marisa J. Hornbaker, Xiaorui Zhang, Peter Hu, Carlos Bueso-Ramos & Sean M. Post (2016) Aberrant hnRNP K expression: All roads lead to cancer, Cell Cycle, 15:12, 1552-1557, DOI: 10.1080/15384101.2016.1164372
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は,炎症性疾患の治療に用いるための組成物を提供することを目的の一つとする。また,本発明は,炎症性疾患の血中マーカーを提供することを別の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは,SIRSの重症化における治療マーカーおよび治療ターゲットとしてDamage-Associated Molecular Patterns(DAMPs)と呼ばれる因子群に着目した。DAMPsは通常は細胞内外で細胞のホメオスタシスに寄与しているが,感染などによる細胞障害を受けると分泌され,「第2のサイトカイン」として炎症応答の惹起に関与するとされている。例えばDAMPsとして最も研究が盛んであるHMGB1(high mobility group box protein1)タンパク質は,本来は核内において遺伝子発現に関与している転写調節タンパク質であるが,細胞外に分泌されたHMGB1は炎症増悪因子として単独で,あるいは同じく刺激依存的に分泌された炎症性サイトカインなどと結合して,各種免疫系細胞を活性化し,炎症応答を惹起することが明らかとなっている。しかしながら既存のDAMPsをターゲットとした臨床的応用はいまだ確立されていない。
【0007】
本発明者らは,SIRSの重症化における治療マーカーおよび治療ターゲットとなりうるDAMPsタンパク質の同定を目指し,(1)細胞障害性の刺激に対して細胞内より分泌し,(2)免疫系細胞へ結合することで炎症を惹起するというDAMPsタンパク質の2つの特性を踏まえて,遺伝子機能ライブラリーを使用したスクリーニング解析を行うことでHNRNPKタンパク質を同定した。これまでにHNRNPKタンパク質がマウスマクロファージ培養細胞(Raw264.7 細胞),マウス骨髄由来マクロファージにおいてリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide; LPS),過酸化水素(H2O2)といった細胞死シグナル(非アポトーシス的刺激)を加えることで分泌されることを明らかにし,LPSを腹腔内に投与したエンドトキシンショックマウスやII型コラーゲン誘発関節炎モデル(CIA)マウスにおいて血中における分泌量の増加を確認できた。またHNRNPKタンパク質を標的とした中和抗体(ラビット・ポリクローナル抗体)を作製し,エンドトキシンショックマウスに投与することで生存率が改善することを明らかにした。これら知見からHNRNPKがSIRSの重症化に対する治療マーカーならびに治療ターゲットとなりえることが示唆された。
【0008】
本発明はこのような知見に基づくものであり,以下の態様を包含する:
[1]ヘテロ核リボ核タンパク質K(HNRNPK)分泌抑制剤またはヘテロ核リボ核タンパク質K(HNRNPK)阻害剤を有効成分として含む,炎症性疾患の治療に用いるための医薬組成物。
[2]ヘテロ核リボ核タンパク質K分泌抑制剤がカルシウム拮抗剤,ホスホジエステラーゼ阻害剤,イノシトール三リン酸(IP3)レセプター阻害剤,およびホスホリパーゼC活性化剤から成る群より選択される[1]記載の医薬組成物。
[3]カルシウム拮抗剤がアムロジピン,ニフェジピン,ニカルジピン,ベニジピン,バルニジピン,ニトレンジピン,ニソルジピン,アゼルニジピン,マニジピン,エフォニジピン,シルニジピン,アラニジピン,フェロジピン,ニモジピン,クレビジピン,ラシジピン,レルカニジピン,ジルチアゼム,ベラパミル,およびベプリジルから成る群より選択される[2]記載の医薬組成物。
[4]ホスホジエステラーゼ阻害剤がcAMPホスホジエステラーゼ阻害剤およびcGMPホスホジエステラーゼ阻害剤から成る群より選択される[2]記載の医薬組成物。
[5]ホスホジエステラーゼ阻害剤がテオフィリン,パパベリン,カフェイン,ミルリノン,シロスタゾール,アバナフィル,ロデナフィル,ミロデナフィル,シルデナフィル,タダラフィル,バルデナフィル,ウデナフィル,ザプリナスト,イカリン,ベンズアミデナフィル,ダントラフィル,アプレミラスト,シロミラスト,クリサボロール,ジアセパム,イブジラスト,ルテオリン,メセンブレノン,ピクラミラスト,ロフルミラスト,ロリプラム,およびRO 20-1724から成る群より選択される[2]記載の医薬組成物。
[6]IP3レセプター阻害剤が2-APB,およびXestospongin Cから成る群より選択される[2]記載の医薬組成物。
[7]ホスホリパーゼC活性化剤がm-3m3fbs,スペルミン,およびPseudolaric acid Bから成る群より選択される[2]記載の医薬組成物。
[8]ヘテロ核リボ核タンパク質K阻害剤が中和抗体,アプタマーおよび低分子アゴニストから成る群より選択される[1]記載の医薬組成物。
[9]中和抗体がポリクローナル抗体,モノクローナル抗体,scFv,Fab,Fab',F(ab')2,Fv,rIgG,ナノボディ,ペプチボディ,ミニボディおよびダイアボディから成る群より選択される[8]記載の医薬組成物。
[10]炎症性疾患が,全身性炎症反応症候群(SIRS),敗血症,リウマチ,乾癬性関節炎,乾癬,強直性脊髄炎,炎症性腸疾患,SLE,アトピー性皮膚炎,喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD),および痛風から成る群より選択される[1]~[9]のいずれか記載の医薬組成物。
[11]被検者における炎症性疾患の診断方法であって,a)該被検者に由来する血液サンプル中のヘテロ核リボ核タンパク質Kのタンパク質量を測定すること,b)該タンパク質量を既定の基準値と比較することを含み,該タンパク質量が既定の基準値よりも高いことにより炎症性疾患が指し示される,診断方法。
[12]ヘテロ核リボ核タンパク質Kのタンパク質量の測定がELISA (Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)により行われる,[11]記載の診断方法。
[13]炎症性疾患が,全身性炎症反応症候群(SIRS),敗血症,リウマチ,乾癬性関節炎,乾癬,強直性脊髄炎,炎症性腸疾患,SLE,アトピー性皮膚炎,喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD),および痛風から成る群より選択される[11]または[12]記載の診断方法。
[14]炎症性疾患の血中マーカーとしてのヘテロ核リボ核タンパク質Kタンパク質の使用。
[15]炎症性疾患が,全身性炎症反応症候群(SIRS),敗血症,リウマチ,乾癬性関節炎,乾癬,強直性脊髄炎,炎症性腸疾患,SLE,アトピー性皮膚炎,喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD),および痛風から成る群より選択される[14]記載の使用。
[16]治療を必要とする対象における炎症性疾患の治療方法であって,有効量のヘテロ核リボ核タンパク質K分泌抑制剤またはヘテロ核リボ核タンパク質K阻害剤を該対象に投与することを含む,治療方法。
[17]炎症性疾患の治療用医薬品の製造における,ヘテロ核リボ核タンパク質K分泌抑制剤またはヘテロ核リボ核タンパク質K阻害剤の使用。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は,HNRNPKがどのような細胞外ストレス下で分泌するかを解析するためにRaw264.7細胞への各種刺激後に培養液を回収し,HNRNPKの分泌についてWestern blotで解析した結果を示している。
【
図2】
図2は,1mg/ml LPS刺激下におけるRaw264.7細胞のHNRNPKの細胞局在をHNRNPK抗体を用いて免疫染色した結果を示している。
【
図3A】
図3Aは,BL6マウス腹腔内にLPS(30mg/kg)を投与し,6時間後の血清を回収,血清中のHNRNPKをサンドイッチELISA(sELISA)法で測定した結果を示している。
【
図3B】
図3Bは,II型コラーゲン誘発関節炎モデル(CIA)マウス血清中のHNRNPK量をsELISA法で測定した結果を示している。
【
図4A】
図4Aは,全長ヒトHNRNPK(配列番号1)および各欠損体タンパク質(ΔN(配列番号2),ΔC(配列番号3)およびVenus(配列番号4))にFLAG配列およびGST配列を連結したコンストラクトの構造を示している。
【
図4B】
図4Bは,コムギ胚芽無細胞系にて発現させ,精製した全長ヒトHNRNPKおよび各欠損体タンパク質の電気泳動結果を示している。
【
図5A】
図5Aは,精製HNRNPKタンパク質(1mg/ml)をBone marrow derived macrophages(BMDM)細胞に添加し,添加後4時間後の細胞からRNAを回収し,DNA microarrayにて遺伝子解析を行った結果を示している。
【
図5B】
図5Bは,精製HNRNPKタンパク質(1mg/ml)をBone marrow derived macrophages(BMDM)細胞に添加し,添加後4時間後の細胞からRNAを回収し,qPCRにて遺伝子解析を行った結果を示している。
【
図6】
図6は,BL6マウス腹腔内にLPS(25mg/kg)を投与し,さらに2時間後に500μg/kgのコントロール抗体またはペプチド抗原(配列番号5)を用いて作成したHNRNPK抗体(ユーロフィン社に委託して作製)を腹腔内に投与し,抗体投与後72時間のマウスの生存率を解析した結果を示している。
【
図7A】
図7Aは,Raw264.7細胞に対してストップコドンをターゲットとしてguide RNA(gRNA;配列番号6,7)を用いてCRISPR/Cas9 systemによりルシフェラーゼ発光スモールタグであるHiBiT(配列番号8)をノックインしたHNRNPK遺伝子の構造を示している。
【
図7B】
図7Bは,ルシフェラーゼ発光が確認された細胞についてWestern blot法にてHiBiTのノックインを確認した結果を示している。
【
図7C】
図7Cは,Raw264.7細胞(WT;配列番号9)またはノックインした細胞(KI;配列番号10)からゲノムを抽出し,シークエンス解析にて確認したHiBiT配列(配列番号8)を示している。
【
図8】
図8は,HiBiTがノックインされた細胞(#3-26細胞)に対して各培養液にて各濃度LPSを24時間刺激を行った後に培養液中のHNRNPK量をルシフェラーゼ解析にて測定した結果を示している。
【
図9】
図9は,#3-26細胞に対して0.5mg/ml LPSと1280種の薬剤(Sigma社)を個々に添加し,24時間の刺激下における培養液中のHNRNPK量をルシフェラーゼ解析にて測定した結果を示している。コントロールとして細胞をジメチルスルホキシド(DMSO,Sigma社)で刺激したものを準備し,コントロールに対するルシフェラーゼ活性の値を算出した。
【
図10A】
図10Aは,#3-26細胞に対して0.5μg/ml LPSと例9のケミカルスクリーニングから阻害効果が確認されたシルニジピン(カルシウム拮抗剤,Sigma社)を各濃度で添加し,24時間後の培養液中のHNRNPK量をルシフェラーゼ解析にて測定した結果を示している。
【
図10B】
図10Bは,#3-26細胞に対して0.5μg/ml LPSと例9のケミカルスクリーニングから阻害効果が確認されたRO 20-1724(PDE阻害剤,Sigma社)を各濃度で添加し,24時間後の培養液中のHNRNPK量をルシフェラーゼ解析にて測定した結果を示している。
【
図10C】
図10Cは,#3-26細胞に対して0.5μg/ml LPSと例9のケミカルスクリーニングから阻害効果が確認されたベニジピン(カルシウム拮抗剤,Sigma社)を各濃度で添加し,24時間後の培養液中のHNRNPK量をルシフェラーゼ解析にて測定した結果を示している。
【
図10D】
図10Dは,#3-26細胞に対して0.5μg/ml LPSと例9のケミカルスクリーニングから阻害効果が確認されたm-3m3fbs(PLC活性化剤,Sigma社)を各濃度で添加し,24時間後の培養液中のHNRNPK量をルシフェラーゼ解析にて測定した結果を示している。
【
図10E】
図10Eは,#3-26細胞に対して0.5μg/ml LPSと例9のケミカルスクリーニングから阻害効果が確認された2-APB(IP3レセプター阻害剤,Sigma社)を各濃度で添加し,24時間後の培養液中のHNRNPK量をルシフェラーゼ解析にて測定した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述のとおり,本発明者らは,(1)細胞障害性の刺激に対して細胞内より分泌し,(2)免疫系細胞へ結合することで炎症を惹起するというDAMPsタンパク質の2つの特性を踏まえて,遺伝子機能ライブラリーを使用したスクリーニング解析を行うことでHNRNPKタンパク質を同定した。以下に,本発明を詳細に説明する。
【0011】
HNRNPK(hnRNP K)
ヘテロ核リボ核タンパク質K(HNRNPK)遺伝子は,遍在的に発現されるヘテロ核リボ核タンパク質(hnRNP)のサブファミリーに属する。hnRNPはRNA結合タンパク質であり,ヘテロ核RNA(hnRNA)と複合体を形成する。これらのタンパク質は,核内のプレmRNAと会合しており,mRNA前駆体のプロセッシングならびにmRNA代謝および輸送の他の局面に影響を及ぼすと考えられている。すべてのhnRNPが核内に存在するが,核と細胞質との間を行き来すると思われるものもある。hnRNPタンパク質は,独特な核酸結合特性を有している。HNRNPK遺伝子によってコードされるタンパク質は核質に位置し,RNAに結合するKHドメインの3つの繰り返しを有している。HNRNPKタンパク質は,その結合の選択性が他のhnRNPタンパク質とは異なっており,ポリ(C)に強く結合する。このタンパク質はまた,細胞周期の進行にも役割を有すると考えられている。
【0012】
本発明者らは,上述のとおり,HNRNPKタンパク質がLPS,過酸化水素(H2O2)といった細胞死シグナル(非アポトーシス的刺激)を加えることで細胞外に分泌されることを明らかにし,LPSを腹腔内に投与したエンドトキシンショックマウスにおいて血中量の分泌量の増加を確認した。そして,ケミカルスクリーニングにより,HNRNPKの分泌を阻害する薬剤としてカルシウム拮抗剤,PDE阻害剤,IP3レセプター阻害剤,およびホスホリパーゼC活性化剤を同定した。すなわち,カルシウム拮抗剤またはPDE阻害剤を用いることで,HNRNPKの分泌を阻害して,炎症の惹起を抑制することができる。よって,本発明の態様の一つは,HNRNPK分泌抑制剤を有効成分として含む,炎症性疾患の治療に用いるための医薬組成物に関する。また,本発明者らは,HNRNPKタンパク質を標的とした中和抗体を作製し,エンドトキシンショックマウスに投与することで生存率が改善することを明らかにした。よって,本発明の態様の一つは,HNRNPK阻害剤を有効成分として含む,炎症性疾患の治療に用いるための医薬組成物に関する。
【0013】
カルシウム拮抗剤
カルシウム拮抗剤は,カルシウムチャネルの機能を拮抗(阻害)する薬剤である。カルシウム拮抗剤は,血管拡張作用を示し,主に高血圧,狭心症などの処置に用いられる。カルシウム拮抗剤は,ジヒドロピリジン系,ベンゾチアゼピン系,フェニルアルキルアミン系,その他に分類される。上述のとおり,カルシウム拮抗剤は,HNRNPKの分泌を阻害する薬剤として用いられうる。
【0014】
ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗剤の一例として,高血圧症治療薬として用いられるシルニジピン(Cilnidipine)が挙げられる。シルニジピンは他のカルシウム拮抗剤同様にL-型カルシウムチャネルを阻害する他に,交感神経終末にあるN-型カルシウムチャネルを阻害する。また,尿酸低下作用,心拍数低下作用など独特な効能も有する。
【0015】
その他のジヒドロピリジン系カルシウム拮抗剤には,アムロジピン,ニフェジピン,ニカルジピン,ベニジピン,バルニジピン,ニトレンジピン,ニソルジピン,アゼルニジピン,マニジピン,エフォニジピン,アラニジピン,フェロジピン,ニモジピン,クレビジピン,ラシジピン,およびレルカニジピンが含まれるが,これらに限定はされない。
【0016】
ベンゾチアゼピン系のカルシウム拮抗剤には,ジルチアゼムが含まれるが,これに限定はされない。フェニルアルキルアミン系のカルシウム拮抗剤には,ベラパミルが含まれるが,これに限定はされない。その他のカルシウム拮抗剤には,ベプリジルが含まれるが,これに限定はされない。よって,本発明の態様の一つは,アムロジピン,ニフェジピン,ニカルジピン,ベニジピン,バルニジピン,ニトレンジピン,ニソルジピン,アゼルニジピン,マニジピン,エフォニジピン,シルニジピン,アラニジピン,フェロジピン,ニモジピン,クレビジピン,ラシジピン,レルカニジピン,ジルチアゼム,ベラパミル,ベプリジル,および/またはそれらの誘導体を有効成分として含む,炎症性疾患の治療に用いるための医薬組成物に関する。
【0017】
ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤
ホスホジエステラーゼ阻害剤は,ホスホジエステラーゼ(PDE)を阻害することにより,cAMPあるいはcGMPの細胞内濃度を上昇させる薬剤であり,結果的に細胞内カルシウム濃度を上げる働きを有する。一般には,心不全の治療として,心筋収縮力を上げるのに用いられている。哺乳類にPDEのスーパーファミリーは11種類ある。上述のとおり,ホスホジエステラーゼ阻害剤も,HNRNPKの分泌を阻害する薬剤として用いられうる。
【0018】
テオフィリン,パパベリン,カフェインは非選択的なホスホジエステラーゼ阻害剤である。ミルリノン,シロスタゾールはPDE3を阻害する。アバナフィル,ロデナフィル,ミロデナフィル,シルデナフィル,タダラフィル,バルデナフィル,ウデナフィル,ザプリナスト,イカリン,ベンズアミデナフィル,ダントラフィルはPDE5を阻害する。アプレミラスト,シロミラスト,クリサボロール,ジアセパム,イブジラスト,ルテオリン,メセンブレノン,ピクラミラスト,ロフルミラスト,ロリプラム,およびRO 20-1724はPDE4を阻害する。よって,本発明の態様の一つは,テオフィリン,パパベリン,カフェイン,ミルリノン,シロスタゾール,アバナフィル,ロデナフィル,ミロデナフィル,シルデナフィル,タダラフィル,バルデナフィル,ウデナフィル,ザプリナスト,イカリン,ベンズアミデナフィル,ダントラフィル,アプレミラスト,シロミラスト,クリサボロール,ジアセパム,イブジラスト,ルテオリン,メセンブレノン,ピクラミラスト,ロフルミラスト,ロリプラム,RO 20-1724,および/またはそれらの誘導体を有効成分として含む,炎症性疾患の治療に用いるための医薬組成物に関する。
【0019】
IP3レセプター(InsP3R)は,イノシトール三リン酸(InsP3)によって活性化されるCa2+チャネルとして機能する膜糖タンパク質複合体である。IP3レセプターの阻害剤には,例えば,2-APBおよびXestospongin Cが含まれるが,これらに限定はされない。本発明の態様の一つは,2-APB,Xestospongin C,および/またはそれらの誘導体を有効成分として含む,炎症性疾患の治療に用いるための医薬組成物に関する。
【0020】
ホスホリパーゼCは,リン脂質をグリセロール骨格に連結しているグリセロホスフェート結合の加水分解に関与するホスホジエステラーゼである。この酵素は,ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸をイノシトール1,4,5-三リン酸とジアシルグリセロールへと分解し,それにより生じたイノシトール1,4,5-三リン酸とジアシルグリセロールはそれぞれ細胞内情報伝達物質として機能する。ホスホリパーゼCの活性化剤には,m-3m3fbs,スペルミン,およびPseudolaric acid Bが含まれるが,これらに限定はされない。本発明の態様の一つは,m-3m3fbs,スペルミン,Pseudolaric acid B,および/またはそれらの誘導体を有効成分として含む,炎症性疾患の治療に用いるための医薬組成物に関する。
【0021】
HNRNPK阻害剤
本発明の態様の一つは,HNRNPK阻害剤を有効成分として含む,炎症性疾患の治療に用いるための医薬組成物に関する。ここで,HNRNPK阻害剤には,例えば,中和抗体,アプタマー,および低分子化合物が含まれるが,これらに限定はされない。
【0022】
中和抗体は,ポリクローナル抗体であっても,モノクローナル抗体であってもよい。中和抗体の作製は,当業者に既知の任意の方法により行うことができる。抗原としては,例えば,配列番号5のペプチド抗原を使用することができる。抗体の作製は,ユーロフィンジェノミクス株式会社(東京)などの受託作製業者に依頼してもよい。抗体の由来する哺乳動物は,特に限定されず,ヒト抗体,マウス抗体,ラット抗体,ウサギ抗体,ヒツジ抗体,ラクダ抗体などを使用できる。ヒトに対して用いる場合,抗体は,ヒト抗体,ヒト化抗体,キメラ抗体のいずれであっても使用することができるが,ヒト抗体であることが好ましい。また,中和抗体は,抗体フラグメントを含むものであってもよい。よって,中和抗体には,例えば,scFv,Fab,Fab',F(ab')2,Fv,rIgG,ナノボディ,ペプチボディ,ミニボディ,およびダイアボディも含まれうる。また,中和抗体は,ファージディスプレイ法などによって取得されたHNRNPK結合ペプチドを含むものであってもよい。
【0023】
アプタマーは,標的に結合する立体構造を形成する核酸分子(一般的にはRNA)である。HNRNPK阻害剤として,アプタマーを用いてもよい。HNRNPKに結合するアプタマーは,当業者に既知の任意の方法により,例えば,SELEX法により取得されうる。
【0024】
HNRNPK阻害剤としては,低分子化合物を使用してもよい。HNRNPKに結合する低分子は,当業者に既知の任意の方法により,例えば,HNRNPKの結晶構造に基づくコンピューターシミュレーションにより,設計されうる。
【0025】
対象疾患
本発明に係る医薬組成物は,敗血症を含めた全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)の治療および予防において有効に用いられうる。また,炎症性サイトカインの関連する疾患としては,リウマチ(TNF,IL6が関与),乾癬性関節炎(TNF,IL17,IL12/23が関与),乾癬(TNF,IL17,IL12/23が関与),強直性脊髄炎(TNF,IL17が関与),炎症性腸疾患(TNFが関与),SLE,アトピー性皮膚炎(IL4/IL13が関与),喘息(IL4/IL13,IL5が関与),COPD(IL5が関与),痛風(IL1が関与)などを挙げることができ,よって,本発明に係る医薬組成物は,これらの疾患の治療および予防においても有効に用いられうる。
【0026】
医薬組成物
本発明の態様の一つは,HNRNPK分泌抑制剤またはHNRNPK阻害剤を有効成分として含む,炎症性疾患の治療に用いるための医薬組成物に関する。つまり,本発明の一つの側面は,炎症性疾患の治療用医薬品の製造における,HNRNPK分泌抑制剤またはHNRNPK阻害剤の使用に関する。
【0027】
医薬組成物100重量%中のHNRNPK分泌抑制剤またはHNRNPK阻害剤の含有割合は0.001~99.99重量%の範囲において適宜設定することができる。本発明に係る医薬組成物中のその他の成分としては,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができ,例えば,医薬的に許容され得る担体または添加剤などが挙げられる。担体または添加剤に特に制限はなく,例えば,剤形等に応じて適宜選択することができ,任意の担体,希釈剤,賦形剤,懸濁剤,潤滑剤,アジュバント,媒体,送達システム,乳化剤,錠剤分解物質,吸収剤,保存剤,界面活性剤,着色剤,香料,または甘味料を含みうる。本発明に係る医薬組成物における含有量についても,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
本発明に係る医薬組成物の剤形としては,特に制限はなく,所望の投与方法に応じて適宜選択することができ,例えば,注射剤(溶液,懸濁液,用事溶解用固形剤等),固形剤(錠剤,カプセル剤,座剤,粉末等)などが挙げられる。注射剤としては,例えば,組成物中に,pH調節剤,緩衝剤,安定化剤,等張化剤,局所麻酔剤等を添加し,常法により皮下用,筋肉内用,静脈内用等の注射剤を製造することができる。pH調節剤及び前記緩衝剤としては,例えば,クエン酸ナトリウム,酢酸ナトリウム,リン酸ナトリウムなどが挙げられる。安定化剤としては,例えば,ピロ亜硫酸ナトリウム,EDTA,チオグリコール酸,チオ乳酸などが挙げられる。等張化剤としては,例えば,塩化ナトリウム,ブドウ糖などが挙げられる。局所麻酔剤としては,例えば,塩酸プロカイン,塩酸リドカインなどが挙げられる。固形剤には,腸溶性コーティングが施されていてもよい。
【0029】
本発明に係る医薬組成物の投与方法としては,特に制限はなく,例えば,医薬組成物の剤形,患者の状態等に応じて,局所投与,全身投与のいずれかを選択することができる。投与は,例えば,経静脈投与,皮下投与,筋肉内投与,経口投与,経腸投与,注腸投与,経管栄養などにより行うことができる。なお,経腸投与とは,肛門を介した投与には限られず,例えば胃瘻等の様に個体外からチューブ等を消化管に挿入して,それを経由した投与も含まれる。挿入位置は腸に限らず,食道,胃,小腸,大腸等が挙げられる。
【0030】
本発明に係る医薬組成物の投与対象としては,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができ,例えば,ヒト,非ヒト哺乳動物,例えば,マウス,ラット,ウシ,ブタ,サル,イヌ,ネコなどが挙げられるが,好ましくはヒト,特に炎症性疾患を発症しているヒトの患者である。また,本発明に係る医薬組成物は,炎症性疾患の発症の予防を目的として投与してもよく,特に再発の予防を目的とすることができる。
【0031】
本発明に係る医薬組成物の投与量としては,特に制限はなく,投与形態や,投与対象の年齢,体重,所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができる。HNRNPK分泌抑制剤またはHNRNPK阻害剤の投与量は,例えば,1日あたり100~1000000nmol,好ましくは,150~100000nmolとし,投与頻度は,例えば,1月あたり1~100回とすることができる。
【0032】
本発明に係る医薬組成物の投与時期としては,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができ,例えば,上記疾患に感受性の患者に対して予防的に投与されてもよいし,症状を呈する患者に治療的に投与されてもよい。また,投与回数としても,特に制限はなく,投与対象の年齢,体重,所望の効果の程度等に応じて,適宜選択することができる。
【0033】
治療方法
本発明の態様の一つは,治療を必要とする対象における炎症性疾患の治療方法であって,有効量のHNRNPK分泌抑制剤またはHNRNPK阻害剤を該対象に投与することを含む,治療方法に関する。治療を必要とする対象は,哺乳動物であり,例えば,ヒトである。投与量は,使用する薬剤の種類,投与する対象に応じて,適宜決定することができる。投与経路についても,使用する薬剤の種類,投与する対象に応じて,適宜決定することができる。好ましい投与経路としては,例えば,経静脈投与が挙げられる。
【0034】
診断方法
本発明の態様の一つは,被検者における炎症性疾患の診断方法であって,a)該被検者に由来する血液サンプル中のHNRNPKタンパク質量を測定すること,b)該HNRNPKタンパク質量を既定の基準値と比較することを含み,該HNRNPKタンパク質量が既定の基準値よりも高いことにより炎症性疾患が指し示される,診断方法に関する。つまり,本発明の一つの側面は,炎症性疾患の血中マーカーとしてのHNRNPKタンパク質の使用に関する。
【0035】
HNRNPKタンパク質量の測定は,例えば,ELISAにより行うことができるが,これに限定はされない。血液サンプルは,例えば,血漿または血清サンプルでありうる。
【0036】
該被検者に由来する血液サンプル中のHNRNPKタンパク質量と比較する既定の基準値は,例えば,複数の健常者由来の血液サンプル中のHNRNPKタンパク質量の平均をもとに決定することができる。
【0037】
診断の対象となる炎症性疾患は,全身性炎症反応症候群(SIRS),敗血症,リウマチ,乾癬性関節炎,乾癬,強直性脊髄炎,炎症性腸疾患,SLE,アトピー性皮膚炎,喘息,COPD,または痛風のいずれかでありうる。
【0038】
以下に,実施例を示して本発明を具体的に説明するが,これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
【実施例0039】
例1:HNRNPKの非アポトーシス的刺激下での細胞外分泌
HNRNPKがどのような細胞外ストレス下で分泌するかを解析するためにRaw264.7細胞への各種刺激後に培養液を回収し,HNRNPKの分泌についてHMGB1抗体(Shino-Test社より購入)、HNRNPK抗体(Cell signaling社より購入)、Calnexin抗体(Stressgen Biotechnologies社より購入)、Transferrin抗体(Abcam社より購入)を用いてウエスタンブロッティング解析を行った(
図1)。細胞の刺激には1μg/mlのLPS(Sigma-Aldrich社より購入),60μMのH
2O
2 (富士フイルム和光純薬社より購入),1μg/mlのピューロマイシン(Sigma-Aldrich社より購入)をそれぞれ用いた。培養液中のタンパク質の検出の際にはトリクロロ酢酸(TCA、富士フイルム和光純薬社より購入)沈殿を用いてタンパク質の濃縮を行った。
【0040】
図1に示されるように,HNRNPKはRaw264.7細胞内において刺激の有無にかかわらず恒常的に発現しているが(細胞のレーンを参照),非アポトーシス誘導刺激であるLPS(1μg/ml),H
2O
2(60μM)添加により培養液中で全長あるいは切断を受けたHNRNPK(矢印)の分泌が確認できる一方,アポトーシス誘導刺激であるピューロマイシン(Puro, 1μg/ml)ではHNRNPKの分泌が確認できなかった。
【0041】
例2:HNRNPKのLPS依存的細胞内局在の変化
1μg/ml LPS刺激下におけるRaw264.7細胞のHNRNPKの細胞局在をHNRNPK抗体を用いて免疫染色にて確認を行った。LPS刺激下、非刺激下のRaw264.7細胞に対して4%paraformaldehyde(富士フイルム和光純薬社より購入)で固定処理 、0.2% TritonX-100(Sigma-Aldrich社より購入)で透過処理を行った後に、BlockAid溶液(Thermo Fisher Scientific社より購入)でブロッキングを行い、HNRNPK抗体(Cell Signaling Technology社より購入, 1μg/ml)を添加し、4℃で一晩インキュベーションを行った。さらにGoat Anti-rabbit IgG-Alexa488-(Thermo Fisher Scientific社より購入, 1/1000) 溶液とHoechst溶液(Lonza社より購入, 50ng/ml)を添加して室温で3時間インキュベーションを行った後に蛍光顕微鏡で観察を行った。
図2に示されるように,LPS非刺激下では核内に局在していたHNRNPKが,LPS刺激下で一部の細胞で細胞質へ流出することが明らかとなった(矢印)。
【0042】
例3:モデルマウスにおける血清中HNRNPK
BL6マウス腹腔内にLPS(30mg/kg)を投与し,エンドトキシンショックモデルマウスを作成し,マウス血清中のHNRNPK量を試験した。LPS投与6時間後の血清を回収し,血清中のHNRNPKをsELISAキット(LSBio社より購入)を用い、製造業者による指示書に従って測定した(N=5)。
図3Aの結果から,LPSショックモデルマウスにおける血清中のHNRNPKが有意に増加していることがわかる。
【0043】
II型コラーゲン(1mg/ml)-Complete Freund’s Adjuvant(CFA)混合エマルジョン(Chondrex社より購入)をDBA/1JNCrlj雌性マウスに200μl皮下注射し,II型コラーゲン誘発関節炎モデル(CIA)マウスを作成した。10日後に血清を回収して血清中のHNRNPKをsELISAキット(LSBio社より購入)を用い、製造業者による指示書に従って測定した(コントロール N=3, 関節炎モデル N=4)。
図3BにII型コラーゲン誘発関節炎モデル(CIA)マウス血清中のHNRNPK量を示すように、血清中のHNRNPKが有意に増加していた。
【0044】
例4:HNRNPKの精製タンパク質調製
図4Aに示される構造を有する全長ヒトHNRNPK(Full)およびN末端およびC末端側の欠損体タンパク質(ΔNおよびΔC)の鋳型DNAを構築し(配列番号1~3),コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系にてタンパク質合成および精製を行った。なお,精製タンパク質はN末端側にFLAG-GSTタグを付加しており,コントロールとしてFLAG-GST-Venus(Venus)を調製し、使用した。
図4Bに調製したタンパク質の電気泳動図を示す。
【0045】
例5:HNRNPK精製タンパク質のサイトカイン誘導能
例4で調製した精製タンパク質(1μg/ml)をBone marrow derived macrophages (BMDM)細胞に添加した。添加後4時間後の細胞からISOGEN(ニッポンジーン社より購入)を用いてRNAを回収し,RNA 100ngをAgilent社のプロトコルに従って SurePrint G3 Mouse GE microarray にて解析を行った(
図5A, N=1)。またRNA 500ngをOligo dTとReverTraAce (TOYOBO社より購入)を用いて逆転写反応を行い、IL6、GAPDHを特異的に認識するプライマー(IL6: gagttgtgcaatggcaattctgattg(配列番号11)およびccaggtagctatggtactccag(配列番号12), GAPDH: cctggtcaccagggctgc(配列番号13)およびcgctcctggaagatggtgatg(配列番号14))とTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix (TOYOBO社より購入)を用いてqPCR (
図5B, N=3, bar, means ±S.D., *; p<0.05)にて遺伝子解析を行った。
図5AおよびBの結果から,全長HNRNPKの添加によって,TNFやIL6などのサイトカインが誘導されることが明らかとなった。
【0046】
例6:LPSショックマウスに対するHNRNPK抗体の奏功性
BL6マウス腹腔内にLPS(25mg/kg)を投与し,さらに2時間後に500μg/kgのコントロール抗体またはペプチド抗原(配列番号5)を用いて作成したHNRNPK抗体(ユーロフィン社に委託して作製)を腹腔内に投与した。抗体投与後72時間のマウスの生存率を解析した。
図6の結果から,HNRNPK抗体投与によりエンドトキシンショックマウスの生存率が上昇することが明らかとなった。
【0047】
例7:HNRNPK-HiBiTノックインRaw264.7細胞の作製
HNRNPKの分泌解析のためにルシフェラーゼ発光スモールタグであるHiBiT (Promega社より使用ライセンス購入)をRaw264.7細胞のHNRNPKのストップコドンをターゲットとしたguide RNA(gRNA,配列番号6,7)を用いてCRISPR/Cas9 systemでノックインし,HiBiTノックイン細胞(#3-36細胞)を限界希釈法で樹立した(
図7A)。ルシフェラーゼ発光が確認された#3-36細胞についてHNRNPK抗体(Cell signaling社より購入)、Actin抗体(Sigma Aldrich社より購入)、Nano Glo HiBiT Blotting System(Promega社より購入)を用いてWestern blot法にてHiBiTのノックインを確認した(
図7B)。また#3-36細胞からDNeasy Blood & Tissue Kit(Qiagen社より購入)を用いてゲノムを抽出し,HNRNPKのストップコドン前後のゲノムを認識するプライマー(accaagtattaacagcttccagt(配列番号15)およびtgaagcagaggaatgttggct(配列番号16))とQuicktaq HS DyeMix(TOYOBO社より購入)を用いてゲノムからPCR増幅を行った後にPCR産物をシークエンス解析にてノックイン配列の確認も行った(
図7C, 下線:gRNA配列, 囲み:HiBiT配列,配列番号8~10)。
【0048】
例8:発光システムによるHNRNPKの分泌解析
HiBiTがノックインされた細胞(#3-26細胞)に対して,各培養液にて各濃度のLPSにより24時間の刺激を行った後,培養液中のHNRNPK量をNano Glo HiBiT Extracellular Detection System(Promega社より購入)を用いてルシフェラーゼ解析にて測定した(N=5, bar:means±S.D., *:p<0.05)。
図8の結果から,OPTI-MEMと10%FBS/DMEMのいずれの培地条件を用いた場合にも,LPS依存的な培養液中のルシフェラーゼ活性の上昇が確認できた。
【0049】
例9:HNRNPK分泌制御薬剤のスクリーニング
#3-26細胞に対して0.5μg/ml LPSと1280種(Sigma-Aldrich社より購入)の薬剤を個々に添加し,24時間の刺激下における培養液中のHNRNPK量をNano Glo HiBiT Extracellular Detection System(Promega社より購入)を用いてルシフェラーゼ解析にて測定した。コントロールとして細胞をDMSOで刺激したものを準備し,コントロールに対するルシフェラーゼ活性比の値を算出した(N=1)。
図9に示されるグラフは,横軸は左から化合物をルシフェラーゼ活性比が高いものから順番で並べ,縦軸はルシフェラーゼ活性を対数でプロットしたものである。
例10:HNRNPK分泌抑制剤
#3-26細胞に0.5μg/ml LPS非存在下(白カラム),存在下(黒カラム)で例9のHNRNPK分泌制御薬剤のスクリーニングにてHNRNPK分泌抑制効果が示唆された薬剤を各濃度で添加し,24時間後に培養液中のHNRNPK量をNano Glo HiBiT Extracellular Detection System(Promega社より購入)を用いてルシフェラーゼ解析にて再解析した(
図10A~10E, N=4, bar:means ±S.E., *:p<0.05)。その結果,カルシウムチャンネル阻害剤であるシルニジピン,ベニジピン,PDE阻害剤であるRO 20-1724,ホスホリパーゼC活性化剤であるm-3m3fbs,IP3レセプター阻害剤である2-APBがHNRNPKの分泌を抑制することが明らかとなった。
【0050】
本明細書には,本発明の好ましい実施態様を示してあるが,そのような実施態様が単に例示の目的で提供されていることは,当業者には明らかであり,当業者であれば,本発明から逸脱することなく,様々な変形,変更,置換を加えることが可能であろう。本明細書に記載されている発明の様々な代替的実施形態が,本発明を実施する際に使用されうることが理解されるべきである。また,本明細書中において参照している特許および特許出願書類を含む,全ての刊行物に記載の内容は,その引用によって,本明細書中に明記された内容と同様に取り込まれていると解釈すべきである。
本発明者らは,SIRSの重症化に対する治療マーカーとしてのHNRNPKの使用,ならびにHNRNPKをターゲットとした炎症性疾患の治療剤に係る発明を完成させた。SIRSに関しては,これまで,感度や特異度が90%を超えるバイオマーカーは実用化されておらず,また,非外科的治療に関しても抗菌薬を中心に輸液や昇圧剤などの全身管理をすることで重症化を防ぐことが現在の基本的治療方針となっており,重症化後の特異的な治療法も確立されていないことから,本発明はこれら炎症性疾患の診断および治療において極めて有用となりうるものである。