(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108767
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】研磨パッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B24D 11/00 20060101AFI20220720BHJP
B24D 3/32 20060101ALI20220720BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20220720BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
B24D11/00 D
B24D3/32
B24D3/00 340
H01L21/304 622F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003876
(22)【出願日】2021-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】酒井 歩
(72)【発明者】
【氏名】田中 和馬
【テーマコード(参考)】
3C063
5F057
【Fターム(参考)】
3C063AA03
3C063AB07
3C063BA02
3C063BC03
3C063CC30
3C063EE10
3C063FF30
5F057AA24
5F057AA25
5F057AA41
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5F057AA51
5F057BA11
5F057BB03
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5F057BB11
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5F057EB03
5F057EB04
5F057EB10
5F057EB30
5F057FA13
5F057FA18
5F057FA20
(57)【要約】
【課題】有機溶剤を使用せず容易かつ高効率に研磨パッドを製造する。
【解決手段】研磨パッドの製造方法であって、水に樹脂材料と、砥粒と、架橋剤と、を混合した混合液を準備する混合液準備ステップと、繊維を絡ませてシート状にして構成された不織布を該混合液に含浸させる含浸ステップと、該含浸ステップの後、該不織布を乾燥させ該水を蒸発させ、該不織布の中に該樹脂で構成された網目構造を形成することで該砥粒を該不織布中に固定し、該砥粒が含有された研磨パッドを得る乾燥ステップと、を備える。好ましくは、該乾燥ステップでは、該不織布を加熱して乾燥させる。また、好ましくは、該樹脂材料は、ウレタンを含み、該架橋剤は、カルボジイミド、または、イソシアネートを含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨パッドの製造方法であって、
水に樹脂材料と、砥粒と、架橋剤と、を混合した混合液を準備する混合液準備ステップと、
繊維を絡ませてシート状にして構成された不織布を該混合液に含浸させる含浸ステップと、
該含浸ステップの後、該不織布を乾燥させ該水を蒸発させ、該不織布の中に該樹脂材料で構成された網目構造を形成することで該砥粒を該不織布中に固定し、該砥粒が含有された研磨パッドを得る乾燥ステップと、
を備えることを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【請求項2】
該乾燥ステップでは、該不織布を加熱して乾燥させることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項3】
該樹脂材料は、ウレタンを含み、
該架橋剤は、カルボジイミド、または、イソシアネートを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の研磨パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等の被加工物を研磨する際に使用される研磨パッドを製造する研磨パッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパソコン等の電子機器に使用されるデバイスチップの製造工程では、まず、半導体等の材料からなるウェーハの表面に互いに交差する複数の分割予定ライン(ストリート)を設定する。そして、分割予定ラインで区画される各領域にIC(Integrated Circuit)、LSI(Large-scale Integration)等のデバイスを形成する。その後、ウェーハを裏面側から研削して薄化し、ウェーハを分割予定ラインに沿って分割すると、個々のデバイスチップが形成される。
【0003】
ウェーハを裏面側から研削する研削装置が知られている(特許文献1参照)。ウェーハを裏面側から研削すると、被研削面にはソーマークと呼ばれる研削痕が残る。ウェーハの裏面に研削痕が残ると、最終的に形成されるデバイスチップの抗折強度を低下させる要因となる。そこで、研削されたウェーハの被研削面をCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)等の方法によって研磨し、研削痕を除去する(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ウェーハを研磨する研磨装置は、研磨パッド(湿式研磨パッド)を備える。研磨装置では、ウェーハの裏面側に研磨パッドを接触させ、研磨液を供給しながら研磨が行われる。この研磨パッドの一種として、繊維をシート状に絡ませた不織布にポリウレタン樹脂と砥粒を含ませて製造される不織布タイプの研磨パッドが知られている。
【0005】
この不織布タイプの研磨パッドは、例えば、次の方法により製造される。まず、有機溶剤中に分散されたポリウレタンと、砥粒と、を混合し、不織布をこの有機溶剤に含侵させる。その後、この不織布を水に浸漬させて有機溶剤を除去し、最後のこの不織布を乾燥させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-288881号公報
【特許文献2】特開平08-99265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、不織布タイプの研磨パッドを製造する際に使用される有機溶剤は、人体や環境に悪影響を与える場合がある。また、有機溶剤の除去工程が必要であり、その上、水により除去された有機溶剤は水を含むため該有機溶剤の処分に大きなコストがかかる。
【0008】
さらに、有機溶剤を除去する工程を実施すると不織布から多くの砥粒が脱落する上、形成された研磨パッドの砥粒の保持力も弱く被加工物の研磨中にも多くの砥粒が脱落してしまう。そのため、砥粒の脱落を考慮した多量の砥粒を準備しなければならない上、研磨パッドの性能劣化の速度は速く寿命が短いため頻繁な交換が必要であり、研磨パッドにかかるコストは一層増大していた。すなわち、研磨パッドの製造方法に解決すべき課題がある。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、有機溶剤を使用せず容易かつ高効率に研磨パッドを製造できる研磨パッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、研磨パッドの製造方法であって、水に樹脂材料と、砥粒と、架橋剤と、を混合した混合液を準備する混合液準備ステップと、繊維を絡ませてシート状にして構成された不織布を該混合液に含浸させる含浸ステップと、該含浸ステップの後、該不織布を乾燥させ該水を蒸発させ、該不織布の中に該樹脂で構成された網目構造を形成することで該砥粒を該不織布中に固定し、該砥粒が含有された研磨パッドを得る乾燥ステップと、を備えることを特徴とする研磨パッドの製造方法が提供される。
【0011】
好ましくは、該乾燥ステップでは、該不織布を加熱して乾燥させる。
【0012】
また、好ましくは、該樹脂材料は、ウレタンを含み、該架橋剤は、カルボジイミド、または、イソシアネートを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係る研磨パッドの製造方法では、水に樹脂材料と、砥粒と、架橋剤と、を混合させた混合液を準備し、不織布をこの混合液に含侵させ、その後にこの不織布を乾燥させる。すると、不織布から水が蒸発するとともに、架橋剤によって樹脂材料が接続されて網目構造が形成され、砥粒が固定される。すなわち、本発明の一態様に係る研磨パッドの製造方法によると、有機溶剤を使用することなく研磨パッドを製造できるため、有機溶剤に起因する製造上の問題も生じない。
【0014】
したがって、本発明の一態様によると、有機溶剤を使用せず容易かつ高効率に研磨パッドを製造できる研磨パッドの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】混合液準備ステップを模式的に示す斜視図である。
【
図5】研磨パッドの製造方法の各ステップの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る研磨パッドの製造方法について説明する。まず、本実施形態に係る研磨パッドの製造方法で製造される研磨パッドが使用される研磨装置について説明する。
図1は、研磨装置2の主要な構成を模式的に示す斜視図である。
【0017】
研磨装置2は、被加工物1にCMPを実施する機能を有する。研磨装置2は、研磨テーブル4と、研磨テーブル4を回転させる回転支持機構6と、研磨テーブル4の上面に設けられた研磨パッド12と、被加工物1を保持する保持部14と、保持部14を上方から押圧しつつ回転させる駆動機構16と、を有する。さらに、研磨装置2は、研磨テーブル4上に研磨液26を供給する研磨液供給部22を有する。
【0018】
研磨テーブル4は、例えば、ステンレス鋼、セラミックスなどで形成された略円盤状のテーブルであり、上面が概ね平坦である。研磨テーブル4は、定盤(プラテン)とも呼ばれる。研磨テーブル4の下面中央には、回転支持機構6を構成するスピンドル8の上端が接続される。回転支持機構6は、スピンドル8の下端に接続され該スピンドル8を回転させるモータ等の回転駆動源10を備える。回転駆動源10を作動させると、研磨テーブル4をその上面を貫く軸の周りに所定の速度(例えば、毎分40回転)で回転できる。
【0019】
本実施形態に係る研磨パッドの製造方法で製造される研磨パッド12は、被加工物1を研磨して平坦化できる。研磨パッド12は、後述の通り、樹脂材料で構成された網目構造を含む不織布を有し、砥粒が固定されている。この不織布タイプの研磨パッド12は、所定の摩擦抵抗と適度な硬さを有する。
【0020】
特に、研磨パッド12は、後述の研磨液26に常に曝されて使用されることが想定される湿式研磨パッドであり、高い親水性、粘弾性、耐薬品性を具備するように製造される。また、研磨パッド12は、例えば、1~5mmの厚さとされる。研磨パッド12の製造方法や構成材料等の詳細については、後述する。
【0021】
研磨パッド12の下面には、弾力層が設けられてもよい。弾力層は、弾力性に富む材料で構成されており、被加工物1の被研磨面の全体を均一に研磨するため、押圧された被加工物1の全体を弾力的に研磨パッド12と接触させる機能を有する。なお、研磨パッド12の下面に必ずしも弾力層が設けられなくてもよい。
【0022】
駆動機構16は、回転押圧部20を有し、ロッド18を介して保持部14を上方から押圧しながら回転させる機構である。回転押圧部20は、例えば、モータ等の回転機構及びシリンダ等の押圧機構(不図示)により構成される。すなわち、駆動機構16は、被加工物1を保持する保持部14を押圧機構により上方から研磨パッド12に押しつけるとともに、回転機構により保持部14をロッド18の周りに回転させる。
【0023】
保持部14は、研磨ヘッド、キャリアとも呼ばれる。保持部14は、全体が略円柱形状を有し、駆動機構16を構成するロッド18の下端に接続されており、研磨テーブル4の上方に回転可能に設けられる。保持部14の下面には、被加工物1を外周から保持するためのリング14aが設けられている。保持部14は、被研磨面が研磨パッド12と対向するように被加工物1を保持できる。駆動機構16は、保持部14に保持される被加工物1を研磨パッド12に押圧しながら回転させる機能を有する。
【0024】
研磨液供給部22は、被加工物1の研磨時に、回転する研磨パッド12上に研磨液26を供給する研磨剤供給ノズル24を備える。研磨液26は、化学反応性物質を含む研磨剤であり、被加工物1の種別に応じて多様な化学溶液が用いられ、例えば、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム、弱酸と強塩基の塩等を含む塩基性水溶液である。研磨液のpHは、9.0~11.5程度とされる。
【0025】
また、
図1には示していないが、研磨装置2は、研磨パッド12の表面性状を所定の状態に維持する目的で表面の目立てを行うコンディショニング機構や、ダイヤモンド砥石やナイロンブラシ等で研磨パッド12の表面を擦るドレッシング機構等を具備してもよい。また、保持部14を上下移動させる昇降機構や、被加工物1を研磨パッド12に均等に加圧接触させるための加圧ポンプ、被加工物1を吸着保持するための減圧ポンプなどが設けられてもよい。
【0026】
ここで、被加工物1は、例えば、Si(シリコン)、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)、GaAs(ヒ化ガリウム)、若しくは、その他の半導体等の材料の円板状のウェーハである。または、被加工物1は、サファイア、ガラス、石英等の材料からなる略円板状の基板等である。ただし、被加工物1はこれに限定されない。
【0027】
研磨装置2で使用される従来の不織布タイプの研磨パッドは、次に説明する方法で製造されていた。まず、ポリウレタンが混合されていた有機溶剤と、砥粒と、が混合された溶液を準備し、不織布をこの溶液に含侵させる。その後、この不織布を水に浸漬させて有機溶剤を除去し、最後のこの不織布を乾燥させる。
【0028】
ここで、使用される有機溶剤は、人体や環境に悪影響を与える場合がある。また、水により除去された有機溶剤は水を含むため、該有機溶剤の処分に大きなコストがかかる。また、有機溶剤を水で除去する際に多くの砥粒が脱落していた。また、製造された従来の研磨パッドで被加工物を研磨したときにも多くの砥粒が脱落していた。
【0029】
そこで、本実施形態に係る研磨パッドの製造方法では、有機溶剤を使用することなく安全で環境負荷の少ない方法で研磨パッド12を製造する。以下、本実施形態に係る研磨パッドの製造方法について詳述する。
図5は、該研磨パッドの製造方法の各ステップの流れを示すフローチャートである。
【0030】
本実施形態に係る研磨パッドの製造方法では、まず、混合液準備ステップS10を実施する。混合液準備ステップS10では、水に樹脂材料と、砥粒と、架橋剤と、を混合した混合液を準備する。
図2は、混合液準備ステップS10を模式的に示す斜視図である。まず、後述の不織布40(
図3等参照)を収容できる大きさ及び形状の容器28を準備する。そして、この容器28に樹脂材料の微粒子が分散された水30を収容し、架橋剤34及び砥粒36を添加する。
【0031】
ここで、樹脂材料の微粒子が分散された水30は、例えば、酢酸ビニルエマルジョン、ポリエチレンエマルジョン、エチレンビニルアセテートエマルジョン、アクリルエマルジョン、アクリルスチレンエマルジョン、ウレタンアクリレートエマルジョン等である。または、ウレタン樹脂ディスパージョン、ナイロン樹脂ディスパージョン、エステル樹脂ディスパージョン、フッ素樹脂ディスパージョン、スチレンブタジエンゴムラテックス、ニトリルブタジエンゴムラテックス、シリコーンエマルジョン等である。
【0032】
また、架橋剤34は、例えば、水溶性のカルボジイミド、または、水溶性のイソシアネート等である。砥粒36は、例えば、シリカ、二酸化マンガン、アルミナ、酸化セリウム、酸化ジルコニウム等の材料で形成された粒子である。砥粒36の粒径は、例えば、0.2μm以上5.0μm以下であることが好ましい。
【0033】
ただし、樹脂材料が分散された水30、架橋剤34、及び、砥粒36の材料は、これらに限定されない。本実施形態に係る研磨パッドの製造方法では、樹脂材料を有機溶剤中ではなく水中に分散させる。すなわち、水に分散可能な状態の樹脂材料を使用する。混合液準備ステップS10では、容器28に樹脂材料が混合された水30と、砥粒36と、架橋剤34と、を投入した後、各部材が均一に分散されるように攪拌するとよい。
【0034】
次に、含浸ステップS20を実施する。
図3は含浸ステップS20を模式的に示す斜視図である。含浸ステップS20では、混合液準備ステップS10で準備された混合液38に、繊維を絡ませてシート状にして構成された不織布40を含浸させる。ここで、不織布40は、最終的に研磨パッド12が設置される研磨装置2の研磨テーブル4の上面の形状及び大きさに対応するように整形される。または、研磨パッド12が製造された後、所定の形状に整形できるように予め大きな不織布40を準備する。
【0035】
ここで、不織布40は、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン等の材料で形成された繊維が絡み合ってシート状になった部材である。不織布40がこれらの材料で形成されていると、研磨液26が利用される湿式の研磨において、該研磨液26による該不織布40の損傷が生じにくい。また、不織布40は繊維の間に空間を有しており、不織布40を混合液38が収容された容器28に投入すると、該空間に混合液38が進入する。その後、混合液38を担持する不織布40を容器28から引き上げる。
【0036】
ここで、不織布40を混合液38に含侵させる時間が短すぎると不織布40の隅々に混合液38が浸透しない。そこで、不織布40は、30分間以上60分間以下の時間で混合液38に含侵させることが好ましい。ただし、不織布40を混合液38に含侵させる時間はこれに限定されない。
【0037】
含浸ステップS20の後、不織布40を乾燥させ水を蒸発させ、該不織布40の中に樹脂材料で構成された網目構造を形成することで砥粒36を該不織布40中に固定し、該砥粒36が含有された研磨パッド12を得る乾燥ステップS30を実施する。なお、不織布40では、不織布40を加熱することで水を除去して乾燥させてもよい。
【0038】
図4は、乾燥ステップS30を模式的に示す断面図である。不織布40の乾燥は、例えば、乾燥室46を内部に備える乾燥機42で実施されてもよい。乾燥機42の乾燥室46には、不織布40が載置される複数の載置台44が設けられる。そして、不織布40を乾燥させる際は、この載置台44に不織布40を載せ、乾燥機42の蓋(不図示)を閉じる。乾燥機42は、乾燥室46の温度を上昇させるヒーター(熱源)を内部に備え、乾燥室46の温度を上昇させることで不織布40を加熱する。
【0039】
乾燥機42では、例えば、不織布40を100℃~180℃の温度で2時間程度加熱する。すると、不織布40から水が除去される。このとき、不織布40の繊維間の空間では、樹脂材料が架橋剤34により化学的に架橋され、樹脂材料で構成される網目構造が形成され、この網目構造が砥粒36及び不織布40の繊維に複雑に絡む。
【0040】
そのため、形成される研磨パッド12では砥粒36が十分に保持され、研磨中の砥粒36の脱落が比較的生じにくくなる。また、水を蒸発させて該水を除去する際に砥粒36が脱落することもない。したがって、混合液準備ステップS10では、脱落を考慮して多量の砥粒36を容器28に投入する必要がない。
【0041】
以上に説明する通り、本実施形態に係る研磨パッドの製造方法によると、有機溶剤を使用することなく研磨パッド12を製造できる。従来、不織布40を樹脂材料が分散された有機溶剤に含浸させ、この有機溶剤を除去するために不織布40を水に含浸させ、さらに水を除去するために不織布40を乾燥させていた。そして、水で有機溶剤を除去したときに排出される水を含む有機溶剤の処理は、高コストであった。また、有機溶剤を除去する際や研磨パッド12で研磨を実施する際に砥粒36が脱落しやすかった。
【0042】
これに対して、本実施形態に係る研磨パッドの製造方法では、有機溶剤を使用しないため、該有機溶剤を除去する工程が不要となる。また、水で不織布40から有機溶剤を除去しないため、水を含む有機溶剤が排出されることもなく、有機溶剤の処分費用もかからない。有機溶剤を使用しないため、製造者の健康上の問題が生じにくく、製造者の防護具等の費用も低減できる。有機溶剤の除去する際に砥粒36の脱落も生じない。そのため、研磨パッド12を高効率かつ低コストで製造できる。
【0043】
ここで、有機溶剤を使用せずに研磨パッド12を製造し、その性能を評価した実験について説明する。本実験では、まず、混合液準備ステップS10で混合液38を準備した。樹脂が分散された水30として水系ウレタン樹脂を使用し、架橋剤34として水系カルボジイミドを使用した。砥粒36には、平均粒径約2.0μmのシリカ粒子を用いた。そして、これらを混合して混合液38を作成した。
【0044】
次に、含浸ステップS20では、目付550g/cm2のポリエステル製の不織布を不織布40として混合液38に含浸させた。不織布40は、30分間程度の時間で混合液38に含浸させる。そして、乾燥ステップS30では、混合液38に含浸させた不織布40を乾燥機42の内部で2時間乾燥させ、水を除去するとともに樹脂材料を架橋剤34で架橋して網目構造を形成し、砥粒36を保持する研磨パッド12を製造した。
【0045】
そして、製造された研磨パッド12を使用して被加工物としてシリコンウェーハを研磨し、研磨パッド12の性能を評価した。また、比較のために従来の方法で製造された研磨パッドを使用してシリコンウェーハを研磨し、結果を評価した。
【0046】
まず、シリコンウェーハの5分間の研磨を10回実施し、研磨レートの平均値を算出した。このとき、研磨を実施する毎に研磨パッドに対して15秒間のドレスを実施している。その結果、従来の有機溶剤を使用する方法で製造した研磨パッドでは、研磨レートは0.80μm/分であった。その一方で、有機溶剤を使用せずに製造した研磨パッド12では、研磨レートは1.10μm/分であった。
【0047】
その後、さらに、シリコンウェーハの2分間の研磨を5回実施し、同様に研磨レートの平均値を算出した。このとき、研磨を実施する毎に研磨パッドに対して15秒間のドレスを実施している。その結果、従来の有機溶剤を使用する方法で製造した研磨パッドでは、研磨レートは0.69μm/分であった。その一方で、有機溶剤を使用せずに製造した研磨パッド12では、研磨レートは0.83μm/分であった。
【0048】
この結果から、従来の方法で製造した研磨パッドと比較し、本実験で製造した研磨パッド12は、被加工物を高効率に研磨できることが確認された。この差は、砥粒36の保持力の差に起因するものと考えられる。
【0049】
さらに本実験では、約1500枚のシリコンウェーハを研磨する際にかかる負荷を該研磨パッド12にかけ、負荷をかける前後における砥粒36の脱離率を熱重量測定(TG)により算出した。また、比較のために従来の方法で製造された研磨パッドを使用して同様に負荷をかけ、同様に砥粒の脱離率を算出した。ここで、砥粒の脱離率とは、初期に研磨パッドに含まれていた砥粒のうち所定の負荷の印加が完了するまでに該研磨パッドから脱離した砥粒36の割合をいう。
【0050】
まず、本実験で製造した研磨パッド12から第1の試験片を切り出し、熱重量測定を実施して第1の試験片に含まれる砥粒36の重量を算出した。次に、本実験で製造した研磨パッド12から第2の試験片を切り出し、水中で第2の試験片を圧縮開放して所定の負荷を印加し、この第2の試験片を乾燥させて熱重量測定を実施して第2の試験片に含まれる砥粒36の重量を算出した。
【0051】
ここで、第2の試験片への負荷の印加は、次に説明する方法により実施した。まず、18mm角の第2の試験片を準備し、エアシリンダーの先端に取り付けられた被加工物を模したブロックを0.5MPの圧力で第2の試験片に押し下げ、該ブロックで数秒間の時間で第2の試験片を圧縮する。次に、ブロックを引き上げて第2の試験片を圧力から解放し、数秒間の時間で自己復元させる。これを4時間程度の時間内で繰り返し、第2の試験片に水を吸い込ませては絞るような負荷を印加し、砥粒の脱離を促した。
【0052】
また、熱重量測定は、次に説明する方法により実施した。まず、試験片の重量を測定する。そして、この試験片を大気中にて5℃/minの昇温速度で加熱し、試験片の温度が600℃に達した後、この温度を10分間維持した。これにより、不織布40や樹脂等の有機物が焼失して砥粒が残るため、砥粒の重量を測定できる。
【0053】
そして、第1の試験片に含まれる砥粒36の重量から第2の試験片に含まれる砥粒36の重量を引き、これを第1の試験片に含まれる砥粒36の重量で除すことにより本実験で製造した研磨パッド12の砥粒36の脱離率を算出した。同様に、従来の方法で製造された研磨パッドの砥粒の脱離率を算出した。
【0054】
その結果、従来の方法で製造された研磨パッドの砥粒の脱離率は76.34%であったところ、本実験で製造した研磨パッド12では砥粒36の脱離率が18.30%あり、砥粒36の脱落が大幅に低減されたことが確認された。したがって、本発明の一態様に係る研磨パッドの製造方法では、有機溶剤を使用せずに研磨パッド12を製造できるだけでなく、被加工物を効率的に研磨できる研磨パッド12を製造できることが確認された。
【0055】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、製造された研磨パッド12は、上面に該研磨パッド12を固定できる研磨テーブル4を備える研磨装置2で使用される場合について説明した。しかしながら、本発明の一態様はこれに限定されない。すなわち、研磨パッド12は、他の装置で使用されてもよい。
【0056】
例えば、研磨装置は、研磨パッド12が下面に装着された円板状の研磨ホイールと、研磨パッド12の下方において被加工物を回転可能に支持する支持テーブルと、を有してもよい。被加工物を支持する支持テーブルと、研磨ホイールと、をそれぞれ回転させながら研磨ホイールを被加工物に向けて下降すると、研磨パッド12が被加工物に接触し、被加工物が研磨される。
【0057】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0058】
1 被加工物
2 研磨装置
4 研磨テーブル
6 回転支持機構
8 スピンドル
10 回転駆動源
12 研磨パッド
14 保持部
14a リング
16 駆動機構
18 ロッド
20 回転押圧部
22 研磨液供給部
24 研磨液供給ノズル
26 研磨液
28 容器
30 水
34 砥粒
36 架橋剤
38 混合液
40 不織布
42 乾燥機
44 載置台