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特開2022-108907研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法、基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108907
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法、基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220720BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20220720BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20220720BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004125
(22)【出願日】2021-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】篠田 敏男
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CA04
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED04
3C158ED05
3C158ED10
3C158ED16
3C158ED23
3C158ED26
3C158ED28
5F057AA14
5F057AA17
5F057AA28
5F057BA15
5F057BB19
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA16
5F057EA17
5F057EA22
5F057EA23
5F057EA25
5F057EA26
5F057EA27
5F057EA29
5F057EA32
(57)【要約】
【課題】窒化ケイ素膜の研磨速度を向上させることが可能な研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法、基板の製造方法を提供する。
【解決手段】砥粒と、アダマンタン骨格を有する窒素含有化合物と、を含み、pHの値が7よりも小さい、研磨用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、
アダマンタン骨格を有する窒素含有化合物と、を含み、
pHの値が7よりも小さい、研磨用組成物。
【請求項2】
前記砥粒は、カチオン修飾された又は未修飾のシリカを含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記シリカは、コロイダルシリカである、請求項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記窒素含有化合物は、複数の窒素原子を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記窒素含有化合物は、前記アダマンタン骨格内に窒素原子を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記窒素含有化合物は、前記アダマンタン骨格内に複数の窒素原子を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記窒素含有化合物は、窒素原子に結合している炭素原子又は水素原子を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記窒素含有化合物はアミンである、請求項1から7のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の研磨用組成物の製造方法であって、
砥粒と、アダマンタン骨格を有する窒素含有化合物と、pH調整剤とを液状媒体中で混合する工程を含む、研磨用組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて、基板上に設けられた研磨対象物を研磨する工程を含み、
前記研磨対象物は窒化ケイ素を含む、研磨方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、基板の表面を研磨する工程を含む、基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、半導体装置(デバイス)を製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法である。研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜(酸化ケイ素)、シリコン窒化物や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
半導体基板をCMPにより研磨する際に使用する研磨用組成物については、これまでに様々な提案がなされている。
例えば、特許文献1には、「正のζ電位を有するコロイダルシリカ粒子と、アニオン性界面活性剤とを含み、且つpHの値が1.5~7.0の範囲である研磨液を用いて、ポリシリコン又は変性ポリシリコンを含む第1層と、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、及び酸窒化ケイ素からなる群より選択される少なくとも1種を含む第2層とを少なくとも有して構成される被研磨体を研磨する」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-216582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化ケイ素膜の研磨速度に関して、従来の研磨用組成物は、ユーザーの要求を必ずしも満足するものではなかった。窒化ケイ素膜の研磨速度の向上が望まれている。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、窒化ケイ素膜の研磨速度を向上させることが可能な研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法、基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を進めた。その結果、砥粒と、アダマンタン骨格を有する窒素含有化合物と、を含み、pHの値が7よりも小さい、研磨用組成物を使用することにより、窒化ケイ素膜の研磨速度を高める(向上させる)ことを見出し、発明を完成させた。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、窒化ケイ素膜の研磨速度を向上させることが可能な研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法、基板の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施形態に係る研磨用組成物は、砥粒と、アダマンタン骨格を有する窒素含有化合物と、を含み、pHの値が7よりも小さい、研磨用組成物である。
この研磨用組成物は、単体シリコン、シリコン化合物、金属等の研磨対象物を研磨する用途、例えば、半導体デバイスの製造プロセスにおいて半導体基板である単体シリコン、ポリシリコン、シリコン化合物、金属等を含んだ表面を研磨する用途に好適であり、窒化ケイ膜(SiN膜)を研磨する用途に特に好適である。この研磨用組成物を用いて研磨を行えば、特にSiN膜を高い研磨速度で研磨することができる。以下に、本実施形態の研磨用組成物について詳細に説明する。
【0009】
<砥粒>
(砥粒の種類)
本実施形態に係る研磨用組成物は、砥粒として、カチオン修飾されたシリカ、若しくは、アニオン修飾されたシリカ、又は、未修飾のシリカを含む。なお、カチオン修飾されたシリカは、カチオン修飾シリカ、カチオン変性シリカ、又は、カチオン性基を有するシリカと言い換えてもよい。アニオン修飾されたシリカは、アニオン修飾シリカ、アニオン変性シリカ、又は、アニオン性基を有するシリカと言い換えてもよい。未修飾のシリカは、表面修飾していないシリカ、又は、未変性シリカと言い換えてもよい。
【0010】
本実施形態において、砥粒は、カチオン修飾シリカであってもよいし、アニオン修飾シリカであってもよいし、未修飾のシリカであってもよい。また、シリカはコロイダルシリカであってもよい。すなわち、砥粒は、カチオン修飾コロイダルシリカであってもよいし、アニオン修飾コロイダルシリカであってもよいし、未修飾のコロイダルシリカであってもよい。カチオン修飾コロイダルシリカは、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物の研磨速度をより向上させることができる。また、研磨パッド屑は一般に酸性条件下でゼータ電位がプラスである。このため、酸性条件下において、ゼータ電位がプラスであるカチオン修飾コロイダルシリカと研磨パッド屑との凝集はより抑制され、粗大粒子がより形成されにくくなり、研磨対象物表面のスクラッチをより低減することができる。
【0011】
コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられる。いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであってもよいが、金属不純物低減の観点から、ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中で拡散する性質を有する金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0012】
カチオン修飾コロイダルシリカとしては、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなカチオン修飾コロイダルシリカの製造方法としては、特開2005-162533号公報に記載されているような、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤(以下、アミノシランカップリング剤)を砥粒の表面に固定化する方法が挙げられる。これにより、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0013】
アミノシランカップリング剤として、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、4-アミノ3,3-ジメチルブチルトリエトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、(N,N-ジメチル-3-アミノプロピル)トリメトキシシラン、2-(4-ピリジルエチル)トリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルシラントリオール、3-トリメトキシリルプロピルジエチルジエチレントリアミン、N,N′-BIS[(3-トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、[3-(1-ピぺラジニル)プロピル]メチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン等が挙げられる。
【0014】
アミノシランカップリング剤として、例えば下記式(1)に示す構造を有するアミノトリアルコキシシランを用いることができる。式(1)中、Xは炭素(C)数が1以上10以下(C1~C10と記す。以下同様)のアルキル基、窒素を1以上含むアミノアルキル基(C1~C10)、もしくは単結合である。また、R1、R2およびR3は、それぞれ独立してアルキル基(C1~C3)、水素(H)、またはこれらの塩である。塩は、例えば塩酸塩である。
【0015】
【化1】
【0016】
上記アミノトリアルコシキシランには、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、4-アミノ3,3-ジメチルブチルトリエトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、(N,N-ジメチル-3-アミノプロピル)トリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルシラントリオール、3-トリメトキシリルプロピルジエチルジエチレントリアミン等が含まれる。
【0017】
上記したアミノシランカップリング剤のうち、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)は、式(2)に示す構造を有する。アミノシランカップリング剤として、3-アミノプロピルトリエトキシシランを用いる場合、コロイダルシリカの表面にはアミノプロピル基が固定化されて、カチオン化される。
【0018】
【化2】
【0019】
アミノシランカップリング剤の化学処理により表面修飾されたカチオン修飾コロイダルシリカのゼータ(ζ)電位は、酸性条件下において、好ましくは、10mV以上であり、より好ましくは20mV以上であり、さらに好ましくは30mV以上である。安定して正のゼータ電位を得るという観点から、アミノシランカップリング剤としては、上記アミノトリアルコキシシランを用いることが好ましく、その中でもAPTESを用いることが好ましい。
【0020】
通常のコロイダルシリカは、酸性条件下ではゼータ電位の値がゼロに近いため、酸性条件下ではコロイダルシリカの粒子同士が互いに電気的に反発せず、凝集しやすい。これに対して、アミノシランカップリング剤の化学処理により表面修飾されたカチオン修飾コロイダルシリカのゼータ電位は、酸性条件下において比較的大きな正の値を有する。このため、酸性条件下においてもカチオン修飾コロイダルシリカの粒子同士は互いに強く反発して良好に分散し、凝集しにくい。その結果、研磨用組成物の保存安定性が向上する。
【0021】
(形状)
カチオン修飾された又は未修飾のコロイダルシリカの形状は特に制限されないが、一例を挙げると、真球状、又は繭形状である。繭形状とは、2つの球が互いに接合され、その接合部がくびれのように細くせばまっている形状のことである。本明細書において、繭形状は、ピーナッツ形状と言い換えてもよい。
【0022】
(アスペクト比)
カチオン修飾された又は未修飾のコロイダルシリカのアスペクト比は、1.4未満であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましく、1.25以下であることがさらに好ましい。これにより、砥粒の形状が原因となる研磨対象物の表面粗さを良好なものとすることができる。なお、このアスペクト比は、コロイダルシリカ粒子に外接する最小の長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均値であり、走査型電子顕微鏡によって得たコロイダルシリカ粒子の画像から、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
【0023】
(平均一次粒子径)
カチオン修飾された又は未修飾のコロイダルシリカの平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましく、20nm以上であることがさらにより好ましく、25nm以上であることが最も好ましい。また、コロイダルシリカの平均一次粒子径は、100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましく、40nm以下であることがさらにより好ましく35nm以下が最も好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。また、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシングが生じることをより抑えることができる。なお、コロイダルシリカの平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定されるコロイダルシリカの比表面積に基づいて算出される。
【0024】
(平均二次粒子径)
カチオン修飾された又は未修飾のコロイダルシリカの平均二次粒子径は、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、60nm以上であることがさらに好ましく、65nm以上であることがさらにより好ましい。また、カチオン修飾された又は未修飾のコロイダルシリカの平均二次粒子径は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、80nm以下であることがさらにより好ましく、75nmが最も好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。また、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に表面欠陥が生じることをより抑えることができる。なお、二次粒子とは、表面に有機酸を固定化したコロイダルシリカ(一次粒子)が研磨用組成物中で会合して形成する粒子をいう。二次粒子の平均二次粒子径は、例えば動的光散乱法により測定することができる。
【0025】
(粒度分布)
カチオン修飾された又は未修飾のコロイダルシリカの粒度分布において、微粒子側からの積算粒子質量が全粒子質量の90%に達したときの粒子の直径D90と、微粒子側からの積算粒子質量が全粒子質量の10%に達したときの粒子の直径D10との比D90/D10は、1.5以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。また、この比D90/D10は、5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物の研磨速度が向上し、また、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に表面欠陥が生じることをより抑えることができる。なお、カチオン修飾された又は未修飾のコロイダルシリカの粒度分布は、例えばレーザー回折散乱法により求めることができる。
【0026】
(含有量)
カチオン修飾された又は未修飾のコロイダルシリカの研磨用組成物全体における含有量は、0.005質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、0.75質量%以上であることが特に好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物の研磨速度が向上する。
【0027】
また、カチオン修飾された又は未修飾のコロイダルシリカの研磨用組成物全体における含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、2質量%以下であることがさらにより好ましく、1.5質量%以下であることが最も好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物のコストを抑えることができる。また、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に表面欠陥が生じることをより抑えることができる。
【0028】
<アダマンタン骨格を有する窒素含有化合物>
本実施形態に係る研磨用組成物は、アダマンタン骨格を有する窒素含有化合物(以下、窒素含有アダマンタン化合物)を含む。窒素含有アダマンタン化合物は、例えば、アダマンタン骨格を有するアミン(以下、アダマンタンアミン)であってもよい。なお、アダマンタン骨格は、アダマンタン構造と言い換えてもよい。
【0029】
アダマンタンアミンとして、例えば、ヘキサミン(ヘキサメチレンテトラミン)、1-アダマンタミン、アダマンタン-1,3-ジアミン、2-ヒドロキシ-2-アザアダマンタン、1,3,5-トリアザ-7-ホスファアダマンタン、メマチン、リマンタジン、トロマンタジン、ビルダグリプチン、テトラメチレンジスルホテトラミン、(1r,3r,5r,7r)-6-トシル-2-オキサ-6-アザアダマンタン、1-メチル-2-アザアダマンタン-N-オキシル、2-アザアダマンタン、1-アザトリシクロ[3.3.1.1(3,7)]デカン-4-オン、3-アミノ-1-ヒドロキシ-アダマンタン、1-アセチルアミドアダマンタン、が挙げられる。
【0030】
例えば、アダマンタン骨格は、式(3)に示す構造を有する。ヘキサミン(ヘキサメチレンテトラミン)は、式(4)に示す構造を有する。1-アダマンタミンは、式(5)に示す構造を有する。アダマンタン-1,3-ジアミンは、式(6)に示す構造を有する。2-ヒドロキシ-2-アザアダマンタンは、式(7)に示す構造を有する。1,3,5-トリアザ-7-ホスファアダマンタンは、式(8)に示す構造を有する。テトラメチレンジスルホテトラミンは、式(9)に示す構造を有する。2-アザアダマンタンは、式(10)に示す構造を有する。1-アザトリシクロ[3.3.1.1(3,7)]デカン-4-オンは、式(11)に示す構造を有する。
【0031】
【化3】
【0032】
【化4】
【0033】
【化5】
【0034】
【化6】
【0035】
【化7】
【0036】
【化8】
【0037】
【化9】
【0038】
【化10】
【0039】
【化11】
【0040】
本実施形態において、窒素含有アダマンタン化合物は、アダマンタン骨格内に窒素(N)原子を含んでもよい。アダマンタン骨格内にN原子を含むとは、例えば、式(2)に示したアダマンタン骨格の炭素(C)原子の少なくとも1つ以上がN原子に置き換えられていることを意味する。アダマンタン骨格内にN原子を含む化合物として、例えば、式(2)に示したヘキサミン(ヘキサメチレンテトラミン)、式(8)に示したテトラメチレンジスルホテトラミン、式(9)に示した2-アザアダマンタン、式(10)に示した1-アザトリシクロ[3.3.1.1(3,7)]デカン-4-オン等が挙げられる。
【0041】
窒素含有アダマンタン化合物が有するN原子の個数は、複数であることが好ましい。アダマンタン骨格内にN原子が含まれる場合は、アダマンタン骨格内に含まれるN原子の個数も、複数であることが好ましい。アダマンタン骨格内に複数のN原子を含む化合物として、例えば、式(2)に示したヘキサミン(ヘキサメチレンテトラミン)、式(8)に示したテトラメチレンジスルホテトラミン等が挙げられる。窒素含有アダマンタン化合物に含まれるN原子の個数は、数が多い方が好ましく、例えば2つよりも3つが好ましく、3つよりも4つがさらに好ましい。その理由は、後述の<研磨速度向上のメカニズム>で説明するように、窒素含有アダマンタン化合物が有するN原子の孤立電子対が、研磨対象物であるSiN膜のSiに対して求核剤として振る舞うからである。N原子の個数が多いほど、研磨対象物であるSiN膜のSiと反応し易く、SiN膜の研磨速度が高くなる傾向がある。なお、このメカニズムは推測であり、本発明はこのメカニズムに限定されるものではない。
【0042】
窒素含有化合物は、N原子に結合している炭素(C)原子又は水素(H)原子を含むことが好ましい。N原子にC原子又はH原子が結合している窒素含有化合物として、例えば、式(2)に示したヘキサミン(ヘキサメチレンテトラミン)、式(9)に示した2-アザアダマンタン等が挙げられる。窒素含有化合物のN原子に硫黄(S)原子又は酸素(O)原子が結合しているとN原子上の電子がS原子又はO原子に吸引され、N原子の求核性が低下する可能性がある。しかし、窒素含有化合物のN原子にC原子又はH原子が結合していれば、窒素含有化合物のN原子がS原子又はO原子と結合することを抑制することができ、N原子の求核性が低下し難い。
【0043】
<液状媒体>
本実施形態に係る研磨用組成物は、液状媒体を含む。研磨用組成物の各成分(カチオン修飾コロイダルシリカ、アニオン性界面活性剤、pH調整剤などの添加剤)を分散又は溶解するための分散媒又は溶媒として機能する。液状媒体としては水、有機溶剤があげられ、1種を単独で用いることができるし、2種以上を混合して用いることができるが、水を含有することが好ましい。ただし、各成分の作用を阻害することを防止するという観点から、不純物をできる限り含有しない水を用いることが好ましい。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後にフィルタを通して異物を除去した純水や超純水、あるいは蒸留水が好ましい。
【0044】
<pH調整剤>
本実施形態に係る研磨用組成物は、pHの値が7よりも小さく、pHの値が2以上6以下が好ましく、3以上5以下がより好ましく、3.5以上5以下が特に好ましい。また、pHの値のより好ましい範囲は3.5以上5以下である。研磨用組成物が酸性であれば、表面修飾が行われたカチオン修飾コロイダルシリカのゼータ(ζ)電位を正の値にすることができる。上記したpHの値を実現するため、研磨用組成物はpH調整剤を含んでもよい。
研磨用組成物のpHの値は、pH調節剤の添加により調整することができる。使用されるpH調節剤は、酸及びアルカリのいずれであってもよく、また、無機化合物及び有機化合物のいずれであってもよい。
【0045】
pH調整剤としての酸の具体例としては、無機酸や、カルボン酸、有機硫酸等の有機酸があげられる。無機酸の具体例としては、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、リン酸等があげられる。pH調整剤としては、無機酸を使用することが好ましく、その中でもリン酸系の無機酸がさらに好ましい。有機酸には、カルボン酸、および有機硫酸、有機ホスホン酸が含まれる。カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸等があげられる。さらに、有機硫酸の具体例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸等があげられる。有機ホスホン酸の具体例としては、メタンホスホン酸、エチドロン酸、フェニルホスホン酸等があげられる。これらの酸は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機酸としては、カルボン酸系またはホスホン酸系の有機酸を使用することが好ましい。また、これらの酸は、研磨用組成物にpH調整剤として含まれていてもよいし、研磨速度の向上のための添加剤として含まれていてもよいし、これらの組み合わせでもよい。
【0046】
pH調整剤としての塩基の具体例としては、アルカリ金属の水酸化物又はその塩、アルカリ土類金属の水酸化物又はその塩、水酸化第四級アンモニウム又はその塩、アンモニア、アミン等があげられる。アルカリ金属の具体例としては、カリウム、ナトリウム等があげられる。また、アルカリ土類金属の具体例としては、カルシウム、ストロンチウム等があげられる。さらに、塩の具体例としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等があげられる。さらに、第四級アンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等があげられる。
【0047】
水酸化第四級アンモニウム化合物としては、水酸化第四級アンモニウム又はその塩を含み、具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等があげられる。さらに、アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン等があげられる。
【0048】
これらの塩基は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの塩基の中でも、アンモニア、アンモニウム塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、水酸化第四級アンモニウム化合物、及びアミンが好ましく、さらに、アンモニア、カリウム化合物、水酸化ナトリウム、水酸化第四級アンモニウム化合物、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウムがより好ましい。また、研磨用組成物には、塩基として、金属汚染防止の観点からカリウム化合物を含むことがさらに好ましい。カリウム化合物としては、カリウムの水酸化物又はカリウム塩があげられ、具体的には水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム等があげられる。
【0049】
<界面活性剤>
研磨用組成物には界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤は、研磨後の研磨対象物の研磨表面に親水性を付与する作用を有しているので、研磨後の研磨対象物の洗浄効率を良好にし、汚れの付着等を抑制することができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。
【0050】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、脂肪酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、アルキル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、又はこれらの塩があげられる。研磨組成物の保管安定性と金属汚染防止の観点から、脂肪酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、又はこれらのアンモニウム塩およびカリウム塩が好ましい。好ましい脂肪酸およびその塩の具体例としては、カプリル酸、ペラルゴン酸カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、又はこれらのアンモニウム塩およびカリウム塩等が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸およびその塩の具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルカルボン酸、ポリオキシエチレントリデシルエーテルカルボン酸、又はこれらのアンモニウム塩およびカリウム塩等が挙げられる。アルキル硫酸エステルの具体例としては、オクチル硫酸、ノナシル硫酸、デシル硫酸、ウンデシル硫酸、ドデシル硫酸、及びそれらのアンモニウム塩およびカリウム塩等が挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩の具体例としては、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸、又はこれらのアンモニウム塩およびカリウム塩等が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステルの具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、ジポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、ジ(C12-15)パレス-2リン酸、又はこれらのアンモニウム塩およびカリウム塩等が挙げられる。
【0051】
また、カチオン性界面活性剤の具体例としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルアミン塩があげられる。
【0052】
さらに、両性界面活性剤の具体例としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、スルホベタインがあげられる。アルキルベタインの具体例としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ミリスチルベタイン、ステアリルベタインなどが挙げられる。アルキルアミンオキシドの具体例としては、ジメチルラウリルアミンオキシド、(Z)-N,N-ジメチルオクタデカ-9-エン12 -1-アミン=オキシドなどが挙げられる。スルホベタインの具体例としては、炭素数がC7~C15のスルホベタイン等が挙げられる。
【0053】
さらに、ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミドがあげられる。研磨組成物の保管安定性の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンエーテルが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルの具体例としては、炭素鎖がC10-C16のポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。ポリオキシアルキルエーテルの具体例としては、炭素鎖がC12-C16のポリオキシプロピレンアルキルエーテル等が挙げられる。
これらの界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
研磨用組成物全体における界面活性剤の含有量が多いほど、研磨後の研磨対象物の洗浄効率がより向上するので、研磨用組成物全体における界面活性剤の含有量は0.0001g/L以上であることが好ましく、0.001g/L以上であることがより好ましい。
また、研磨用組成物全体における界面活性剤の含有量が少ないほど、研磨後の研磨対象物の研磨面への界面活性剤の残存量が低減され、洗浄効率がより向上するので、研磨用組成物全体における界面活性剤の含有量は10g/L以下であることが好ましく、1g/L以下であることがより好ましい。
【0055】
<水溶性高分子>
本実施形態に係る研磨用組成物は、水溶性高分子を含んでもよい。研磨対象物にポリシリコンが含まれる場合は、研磨用組成物に水溶性高分子を添加することにより、研磨速度を高くしたり低くしたりするなど、研磨速度を調整することができる。
水溶性高分子として、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、オキシエチレン(EO)とオキシプロピレン(PO)の共重合体、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デキストリン、プルラン等が挙げられる。これらの水溶性高分子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。砥粒およびTEOS表面への界面活性剤の影響を妨げさせないという観点(ゼータ電位を変動させない)から、水溶性高分子の中でもノニオン性高分子が好ましい。
【0056】
なお、水溶性高分子は、ノニオン性高分子に限定されるものではない。水溶性高分子は、カチオン性でもよいし、アニオン性でもよい。カチオン性高分子として、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾール、ポリアリルアミン等が挙げられる。アニオン性高分子として、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルスルホン酸、ポリアネトールスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0057】
<酸化剤>
本実施形態に係る研磨用組成物は、酸化剤を含んでもよい。研磨対象物にシリコン、例えばPoly-Si(多結晶シリコン)が含まれる場合は、研磨用組成物に酸化剤を添加することにより、研磨速度を調整することができる。すなわち、研磨用組成物に添加する酸化剤の種類を選択することで、Poly-Siの研磨速度を早くしたり、遅くしたりできる。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酢酸、過炭酸塩、過酸化尿素、過塩素酸、過硫酸塩等があげられる。過硫酸塩の具体例としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等があげられる。これら酸化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの酸化剤の中でも、過硫酸塩、過酸化水素が好ましく、特に好ましいのは過酸化水素である。
【0058】
研磨用組成物全体における酸化剤の含有量が多いほど、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を変化させやすい。よって、研磨用組成物全体における酸化剤の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物全体における酸化剤の含有量が少ないほど、研磨用組成物の材料コストを抑えることができる。また、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。さらに、酸化剤による研磨対象物の表面の過剰な酸化が起こりにくくなる。よって、研磨用組成物全体における酸化剤の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
<錯化剤>
本実施形態に係る研磨用組成物は、錯化剤を含んでもよい。研磨用組成物に錯化剤を添加することにより、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させることができる。錯化剤は、研磨対象物の表面を化学的にエッチングする作用を有する。
研磨用組成物全体における錯化剤の含有量の下限値は、少量でも効果を発揮するため特に限定されるものではないが、錯化剤の含有量が多いほど研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上するので、研磨用組成物全体における錯化剤の含有量は、0.001g/L以上であることが好ましく、0.01g/L以上であることがより好ましく、1g/L以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物全体における錯化剤の含有量が少ないほど、研磨対象物の溶解が生じにくく段差解消性が向上する。よって、研磨用組成物全体における錯化剤の含有量は、20g/L以下であることが好ましく、15g/L以下であることがより好ましく、10g/L以下であることがさらに好ましい。
【0060】
<防カビ剤、防腐剤>
研磨用組成物は、防カビ剤、防腐剤を含んでもよい。防カビ剤、防腐剤の具体例としては、イソチアゾリン系防腐剤(例えば2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン)、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノールがあげられる。これらの防カビ剤、防腐剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
<研磨用組成物の製造方法>
本実施形態の研磨用組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、カチオン修飾されたコロイダルシリカ(又は、未修飾のコロイダルシリカ)と、アダマンタン骨格を有する窒素含有化合物と、pH調整剤と、必要に応じて各種添加剤(例えば、界面活性剤、水溶性高分子、酸化剤、錯化剤、防カビ剤、防腐剤等)と、水等の液状媒体中で攪拌、混合することによって製造することができる。混合時の温度は特に限定されるものではないが、例えば10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を向上させるために加熱してもよい。また、混合時間も特に限定されない。
【0062】
<研磨対象物>
本実施形態に係る研磨用組成物は、窒化ケイ素膜(SiN膜)の研磨速度の向上が可能である。このため、研磨対象物はSiN膜であることが好ましい。ただし、研磨対象物の種類はSiN膜に限定されるものではないが、単体シリコン、SiN膜以外のシリコン化合物、金属等であってもよい。単体シリコンとしては、例えば単結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコン等があげられる。また、シリコン化合物としては、例えば、二酸化ケイ素、炭化ケイ素等があげられる。二酸化ケイ素は、テトラエトキシシラン((Si(OC))を用いて形成される膜(以下、TEOS膜)であってもよい。シリコン化合物膜には、比誘電率が3以下の低誘電率膜が含まれる。さらに、金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、ハフニウム、コバルト、ニッケル、チタン、タンタル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等があげられる。これらの金属は、合金又は金属化合物の形態で含まれていてもよい。
【0063】
<研磨方法>
研磨装置の構成は特に限定されるものではないが、例えば、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと、回転速度を変更可能なモータ等の駆動部と、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤と、を備える一般的な研磨装置を使用することができる。研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、液状の研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されているものを使用することができる。
【0064】
研磨条件は特に制限はないが、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の一態様の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0065】
本実施形態に係る研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水等の希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0066】
研磨終了後、基板を例えば流水で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、例えばシリコン含有材料を含む層を有する基板が得られる。このように、本実施形態に係る研磨用組成物は、基板の研磨の用途に用いることができる。本実施形態に係る研磨用組成物を用いて、半導体基板(基板の一例)上に設けられたSiN膜等の研磨対象物の表面を研磨することにより、研磨済み半導体基板を製造することができる。半導体基板としては、例えば、単体シリコン、シリコン化合物、金属等を含む層を有するシリコンウェーハが挙げられる。
【0067】
<基板の製造方法>
本実施形態に係る基板の製造方法は、上記の研磨用組成物を用いて、基板の表面を研磨する工程を含む。この工程における研磨の方法は、例えば<研磨方法>の欄に記載した通りである。
【0068】
<研磨速度向上のメカニズム>
以下、研磨速度向上のメカニズムを説明する。なお、本欄で説明するメカニズムは、あくまで推測であり、本発明はこのメカニズムに限定されるものではない。
式(12)に、窒化ケイ素(SiN)における電荷の偏りを模式的に示す。
【0069】
【化12】
【0070】
式(12)に示すように、研磨対象物であるSiNはイオン性の化合物であり、電子の分布に偏りがある。SiNのN原子上に電子が引き付けられ易く、Si原子上の電子密度は薄くなり易いため、Si原子は求核攻撃を受け易い状態にある。
式(13)に、研磨対象物であるSiNと、アダマンタンアミンとの結合を模式的に示す。
【0071】
【化13】
【0072】
アダマンタンアミンのN原子上の孤立電子対が求核攻撃をする(求核剤として振る舞う)。これにより、式(13)に示すように、SiNのSi原子とアダマンタンアミンのN原子とが結合を形成する。この結合により、SiN内のSi-N間の結合距離が変化し、SiNの構造が歪む。SiNは、構造が歪むことにより、砥粒による物理的な破壊がされ易くなる。以上が、研磨用組成物に窒素含有アダマンタン化合物を加えた場合の、SiN膜の研磨速度向上のメカニズムである。
【0073】
なお、アダマンタン骨格内にアミンが配置されたアダマンタンアミン(例えば、ヘキサミンなど)は、他のアミンと比べて、アミンのN原子に結合している炭素が後ろ手で引っ張られているような構造を有する。このため、アダマンタン骨格内にアミンが配置されたアダマンタンアミンは、炭素鎖又は炭素原子による立体障害が少なく、研磨対象物であるSiNのSiと反応し易い。
また、このような構造を有するアダマンタンアミンのうち、アダマンタン骨格内にN原子を複数個有するアダマンタンアミン(例えば、1,3,5-トリアザ-7-ホスファアダマンタン、ヘキサミン)は、アダマンタンアミン1分子当たりのN原子が多く、SiNのSiと反応できる箇所が多いため、SiNのSiとさらに反応し易い。
【0074】
また、下記の式(14)に示すように、アダマンタン骨格にアミノ基が結合している構造のアダマンタンアミン(例えば、1-アダマンタミン、アダマンタン-1,3-ジアミン)は、他のアミンよりも、アミンのN原子に電子を供与できる炭素の数が多く、アミンのN原子上で電子密度がより高くなる。このため、アダマンタン骨格にアミノ基が結合している構造のアダマンタンアミンは、SiNのSiとの反応が進行し易い。
【0075】
【化14】
【実施例0076】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、以下の実施例には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0077】
<研磨用組成物の調整方法>
(実施例1~6)
下記の表1に示すように、砥粒と、添加剤として窒素含有アダマンタン化合物と、液状媒体である水とを攪拌、混合して、混合液を作成した。作成した混合液にpH調整剤を加えて、実施例1~6の研磨用組成物を製造した。なお、表1中、「-」はその成分を用いなかったこと、又は、測定値が無いことを示す。
実施例1~5において、砥粒には、カップリング剤であるアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)の化学処理によりカチオン修飾されたコロイダルシリカを用いた。また、実施例6において、砥粒には、未修飾のコロイダルシリカを用いた。研磨用組成物における砥粒の濃度は、1質量%とした。以下、質量%をwt%と表記する。砥粒の粒子径(平均二次粒子径)は70nmであり、砥粒の形状は繭形状である。
【0078】
実施例1、6では、窒素含有アダマンタン化合物としてヘキサミンを用いた。ヘキサミンにおける窒素(N)原子の個数は4個である。実施例2では、窒素含有アダマンタン化合物として、1-アダマンタミンを用いた。1-アダマンタミンにおけるN原子の個数は1個である。実施例3では、窒素含有アダマンタン化合物として、アダマンタン-1,3-ジアミンを用いた。アダマンタン-1,3-ジアミンにおけるN原子の個数は2個である。実施例4では、窒素含有アダマンタン化合物として、2-ヒドロキシ-2-アダマンタンを用いた。2-ヒドロキシ-2-アダマンタンにおけるN原子の個数は1個である。実施例5では、窒素含有アダマンタン化合物として、1,3,5-トリアザ-7-ホスファアダマンタンを用いた。1,3,5-トリアザ-7-ホスファアダマンタンにおけるN原子の個数は3個である。実施例1~6において、研磨用組成物における窒素含有アダマンタン化合物の濃度は、5mmol/Lとした。以下、mol/LをMと表記する。
【0079】
実施例1~6では、pH添加剤として、硝酸(HNO)又は水酸化カリウム(KOH)を用いた。実施例1~6では研磨用組成物のpHの値を3.5に調整した。研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により測定した。また、pHが調整された各研磨用組成物の電気伝導率(EC)の値は、表1の通りであった。
【0080】
(比較例1~9)
表1に示す種類、濃度等の各成分を用い、各研磨用組成物のpHを表1に示す値に調整したこと以外は、実施例1~6と同様に操作して、各研磨用組成物を調製した。
実施例1~6との違いとして、比較例1~6、8では、研磨用組成物に窒素含有アダマンタン化合物を添加しなかった。また、比較例5~9では、砥粒に未修飾のコロイダルシリカを用いた。
【0081】
【表1】
【0082】
<評価>
実施例1~6及び比較例1~9の研磨用組成物を用いて、下記の研磨条件で直径200mmのシリコンウェーハの研磨を行った。
・研磨装置:アプライド・マテリアルズ製200mm用CMP片面研磨装置 Mirra
・研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
・研磨圧力:2psi(1psi=6894.76Pa)
・研磨定盤回転数:43rpm
・ヘッド回転数:47rpm
・研磨用組成物の供給:掛け流し
・研磨用組成物供給量:200mL/分
・研磨時間:60秒間
【0083】
研磨に供したシリコンウェーハは、二酸化ケイ素膜(TEOS膜)付シリコンウェーハ、窒化ケイ素膜(SiN膜)付きシリコンウェーハである。各シリコンウェーハについては、光干渉式膜厚測定装置を用いて、研磨前と研磨後の膜厚をそれぞれ測定した。そして、膜厚差と研磨時間とから、各膜の研磨速度をそれぞれ算出した。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
(カチオン修飾コロイダルシリカを用いる場合)
表2に示すように、砥粒にカチオン修飾コロイダルシリカを用いた実施例1~5はいずれも、SiN膜の研磨速度が30Å/min以上であった。これに対して、砥粒にカチオン修飾コロイダルシリカを用いた比較例1~4はいずれも、SiN膜の研磨速度が30Å/min未満であった。この結果から、カチオン修飾されたコロイダルシリカを用いる場合は、窒素含有アダマンタン化合物を加えると、SiNの研磨速度が高くなる(向上する)ことが分かった。
【0086】
実施例1~5から、窒素含有アダマンタン化合物のなかでも、特にヘキサミンを加えると、SiN膜の研磨速度とTEOS膜の研磨速度の両方が高くなる(向上する)ことが分かった。
SiN膜の研磨速度の向上率(以下、SiN向上率)について、実施例1~5はいずれも4以上であった。SiN向上率とは、各実施例及び各比較例において、研磨用組成物に添加剤を加えない場合のSiN膜の研磨速度に対する、添加剤を加えた場合のSiN膜の研磨速度の比である。実施例1~5では、SiN向上率がいずれも4以上であり、窒素含有アダマンタン化合物を加えることにより、SiN膜の研磨速度が大きく向上することが分かった。
【0087】
実施例1~5から、窒素含有化合物に含まれるN原子の個数(Nの数)が多いほど、SiNの研磨速度が高くなる傾向がある、ということが分かった。具体的には、表1、2に示すように、N原子の個数が1である実施例2、4よりもN原子の個数が2である実施例3の方がSiNの研磨速度が高かった。また、N原子の個数が2である実施例3よりもN原子の個数が3である実施例5の方がSiNの研磨速度が高かった。また、N原子の個数が3である実施例5よりもN原子の個数が4である実施例1の方がSiNの研磨速度が高かった。
【0088】
(未修飾コロイダルシリカを用いる場合)
実施例6、比較例5から、砥粒に未修飾コロイダルシリカを用いる場合も、窒素含有アダマンタン化合物(例えば、ヘキサミン)を加えると、SiN膜の研磨速度が高くなることが分かった。
実施例1~6から、砥粒に未修飾コロイダルシリカを用いると、カチオン修飾コロイダルシリカを用いる場合と比べて、TEOS膜の研磨速度が低くなる(すなわち、TEOS膜に対するSiN膜のエッチングの選択比が高くなる)ことが分かった。
実施例6、比較例7、9から、研磨用組成物のpHの値が7以上になると、SiN膜の研磨速度が低くなることが分かった。