(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109230
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】ペプチドタグおよびそれを含むタグ付加タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220720BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220720BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220720BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220720BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220720BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220720BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220720BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220720BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20220720BHJP
C07K 5/107 20060101ALI20220720BHJP
C07K 5/10 20060101ALI20220720BHJP
C07K 5/103 20060101ALI20220720BHJP
C07K 5/11 20060101ALI20220720BHJP
C07K 5/113 20060101ALI20220720BHJP
C07K 5/08 20060101ALI20220720BHJP
C07K 5/083 20060101ALI20220720BHJP
C07K 5/087 20060101ALI20220720BHJP
C07K 5/09 20060101ALI20220720BHJP
C07K 5/093 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C07K19/00
C07K7/06
C07K5/107
C07K5/10
C07K5/103
C07K5/11
C07K5/113
C07K5/08
C07K5/083
C07K5/087
C07K5/09
C07K5/093
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001033
(22)【出願日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2021004234
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 和好
(72)【発明者】
【氏名】大岩 聖佳
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA12
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA41
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】タンパク質の発現量を向上させるためのペプチドタグを提供すること。
【解決手段】下記式(1)、(2)または(3)で示されるアミノ酸配列を有し、長さが3~6アミノ酸であるペプチド。
X
mZ
nU
q・・・(1)
X
mZ
nU
qZ
n・・・(2)
XZUZUZ・・・(3)
ここで、Xはイソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、アラニン、バリン、アルギニン、グルタミンおよびグルタミン酸から独立して選択されるアミノ酸残基であり、Zは、リジンおよびアスパラギンから独立して選択されるアミノ酸残基であり、Uは、グリシン、イソロイシン、グルタミン、バリン、ヒスチジン、ロイシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、トレオニンから独立して選択されるアミノ酸残基であり、mおよびnは1または2の整数であり、qは0、1、2または3の整数である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)、(2)または(3)で示されるアミノ酸配列を有し、長さが3~6アミノ酸であるペプチド。
XmZnUq・・・(1)
XmZnUqZn・・・(2)
XZUZUZ・・・(3)
ここで、Xはイソロイシン(I)、フェニルアラニン(F)、メチオニン(M)、アラニン(A)、バリン(V)、アルギニン(R)、グルタミン(Q)およびグルタミン酸(E)から独立して選択されるアミノ酸残基であり、
Zは、リジン(K)およびアスパラギン(N)から独立して選択されるアミノ酸残基であり、
Uは、グリシン(G)、イソロイシン(I)、グルタミン(Q)、バリン(V)、ヒスチジン(H)、ロイシン(L)、アラニン(A)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アルギニン(R)、トレオニン(T)から独立して選択されるアミノ酸残基であり、
mおよびnは1または2の整数であり、qは0、1、2または3の整数である。
【請求項2】
4~5アミノ酸残基からなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
mが1であり、qが1または2である、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
配列番号1~20および配列番号71~81のいずれかのアミノ酸配列またはINK、INE、RNK、RNDのいずれかのアミノ酸配列を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチドと、有用タンパク質とを含む、タグ付加タンパク質。
【請求項6】
有用タンパク質が酵素、サイトカイン、抗体、または蛍光タンパク質である、請求項5に記載のタグ付加タンパク質。
【請求項7】
請求項5または6に記載のタグ付加タンパク質をコードするDNA。
【請求項8】
請求項7に記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項9】
請求項7に記載のDNAまたは請求項8に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項10】
請求項9に記載の形質転換体を培養してタグ付加タンパク質を発現及び蓄積させ、タグ付加タンパク質を回収することを特徴とする、タグ付加タンパク質の製造方法。
【請求項11】
請求項7に記載のDNAまたはそこから転写されるRNAを無細胞発現系に導入してタグ付加タンパク質を発現及び蓄積させ、タグ付加タンパク質を回収することを特徴とする、タグ付加タンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドタグおよびそれを含むタグ付加タンパク質、それをコードするDNA
、該DNAを含む形質転換体並びにタグ付加タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術の発展により、今日では、異種発現による有用タンパク質の生産が一般的に行われている。異種発現による有用タンパク質の生産においては、プロモーターおよびターミネーターの選定、翻訳エンハンサー、導入遺伝子のコドン改変、タンパク質の細胞内輸送および局在化などが、タンパク質の発現、蓄積量を向上させる方策として検討されている。例えば、特許文献1では細菌毒素タンパク質を植物などで発現させる技術が開示されており、細菌毒素タンパク質をプロリンが一定間隔で配置されたペプチドリンカーで連結して発現させることが開示されている(特許文献1)。
【0003】
また、それ以外にも目的タンパク質にペプチドタグを連結させることで、その発現を向上させる技術が幾つか開発されている(特許文献2~6、非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5360727号明細書
【特許文献2】特許5273438号明細書
【特許文献3】国際公開WO2016/204198号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO2017/115853号パンフレット
【特許文献5】国際公開WO2020/045530号パンフレット
【特許文献6】米国特許公開20090137004号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Smith, D. B. and Johnson, K. S.,: Gene, 67, 31, 1988
【非特許文献2】Marblestone, J. G. et al.: Protein Sci., 15, 182, 2006
【非特許文献3】di Guan, C. et al.: Gene, 67, 21, 1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているプロリンが一定間隔で配置されたペプチドリンカーを用いて毒素タンパク質を連結することで毒素融合タンパク質の植物内での高蓄積化が可能になった。また、特許文献4、5では、ペプチドタグにおけるプロリン間のアミノ酸を検討し、タンパク質の高発現や可溶性発現に好適なペプチドタグが提供された。しかしながら、これらのペプチドリンカーやペプチドタグは一定間隔に配置されたプロリンの存在を前提としたものであり、タンパク質高発現タグとしての性能を向上させるために、配列をさらに検討する余地があった。したがって、本発明は目的タンパク質を宿主細胞や無細胞発現系で発現させる場合に、該目的タンパク質に結合させることで目的タンパク質の発現量を増加させることのできる新たなペプチドタグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ペプチドタグの性能向上を図るべく、配列の検討を行った。そして、下記式(1)で示されるアミノ酸配列を有するペプチドタグを用い、これを付加したタンパク質の発現量を調べたところ、目的タンパク質の発現量が顕著に向上することを見出した。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]下記式(1)、(2)または(3)で示されるアミノ酸配列を有し、長さが3~6アミノ酸であるペプチド。
XmZnUq・・・(1)
XmZnUqZn・・・(2)
XZUZUZ・・・(3)
ここで、Xはイソロイシン(I)、フェニルアラニン(F)、メチオニン(M)、アラニン(A)、バリン(V)、アルギニン(R)、グルタミン(Q)およびグルタミン酸(E)から独立して選択されるアミノ酸残基であり、
Zは、リジン(K)およびアスパラギン(N)から独立して選択されるアミノ酸残基であり、
Uは、グリシン(G)、イソロイシン(I)、グルタミン(Q)、バリン(V)、ヒスチジン(H)、ロイシン(L)、アラニン(A)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アルギニン(R)、トレオニン(T)から独立して選択されるアミノ酸残基であり、
mおよびnは1または2の整数であり、qは0、1、2または3の整数である。
[2]4~5アミノ酸残基からなる、[1]に記載のペプチド。
[3]mが1であり、qが1または2である、[1]または[2]に記載のペプチド。
[4]配列番号1~20および配列番号71~81のいずれかのアミノ酸配列またはINK
、INE、RNK、RNDのいずれかのアミノ酸配列を有する、[1]~[3]のいずれかに記載
のペプチド。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のペプチドと、有用タンパク質とを含む、タグ付加タンパク質。
[6]有用タンパク質が酵素、サイトカイン、抗体、または蛍光タンパク質である、[5]に記載のタグ付加タンパク質。
[7][5]または[6]に記載のタグ付加タンパク質をコードするDNA。
[8][7]に記載のDNAを含む組換えベクター。
[9][7]に記載のDNAまたは[8]に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
[10][9]に記載の形質転換体を培養してタグ付加タンパク質を発現及び蓄積させ、タグ付加タンパク質を回収することを特徴とする、タグ付加タンパク質の製造方法。
[11][7]に記載のDNAまたはそこから転写されるRNAを無細胞発現系に導入してタグ付加タンパク質を発現及び蓄積させ、タグ付加タンパク質を回収することを特徴とする、タグ付加タンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のペプチドタグを使用することにより、目的タンパク質の発現量を向上させることができる。したがって、酵母、大腸菌、ブレビバチルス等の宿主細胞や無細胞発現系を用いたタンパク質の生産に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】タグ付加タンパク質大腸菌発現ベクター(タグN末端付加)構築の模式図。
【
図2】タグ付加タンパク質大腸菌発現ベクター(タグC末端付加)構築の模式図。
【
図3】大腸菌-Yarrowia lipolyticaシャトルベクターの模式図。
【
図4】Yarrowia lipolytica用タグ付加タンパク質発現ベクター(タグN末端付加)構築の模式図。
【
図5】無細胞発現系におけるタグ付加緑色蛍光タンパク質(GFP2)の発現量を示すグラフ。タグなしGFP2(比較例A)の発現量を1とした時の相対値を示す。
【
図6】大腸菌(BL21)におけるタグN末端付加GFP2のIPTG誘導時の発現量を示すグラフ(実施例1~20)。タグなしGFP2(比較例A)の発現量を1とした時の相対値を示す。
【
図7】大腸菌(BL21)におけるタグN末端付加GFP2のIPTG誘導時の発現量を示すグラフ(実施例21~24,29~35)。タグなしGFP2(比較例A)の発現量を1とした時の相対値を示す。
【
図8】大腸菌(BL21)におけるタグN末端付加GFP2のIPTG誘導時の蛍光強度を示すグラフ(実施例1~20)。タグなしGFP2(比較例A)の蛍光強度を1とした時の相対値を示す。
【
図9】大腸菌(BL21)におけるタグN末端付加GFP2のIPTG誘導時の蛍光強度を示すグラフ(実施例21~24,29~35)。タグなしGFP2(比較例A)の蛍光強度を1とした時の相対値を示す。
【
図10】大腸菌(BL21)におけるタグN末端付加VHH抗体のIPTG誘導時の発現量を示すグラフ(実施例10,12,25)。タグなしGFP2(比較例A)の発現量を1とした時の相対値を示す。
【
図11】大腸菌(BL21)におけるタグC末端付加VHH抗体のIPTG誘導時の発現量を示すグラフ(実施例23,29,31)。タグなしGFP2(比較例A)の発現量を1とした時の相対値を示す。
【
図12】Yarrowia lipolyticaにおけるタグN末端付加GFP2の発現量を示すグラフ(実施例10,12,15,18,20,25~28)。タグなしGFP2(比較例A)の発現量を1とした時の相対値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のペプチド(ペプチドタグともいう)は下記式(1)、(2)または(3)のアミノ酸配列を有する。
XmZnUq・・・(1)
XmZnUqZn・・・(2)
XZUZUZ・・・(3)
【0012】
XはそれぞれI、F、M、A、V、R、QおよびEから独立して選択されるアミノ酸残基であり、好ましくはR、M、Q、EまたはIであり、より好ましくはRである。
mは1または2であり、好ましくは1である。
XmとはXが1個または2個連続することを意味し、mが2の場合は、I、F、M、A、V、R、QおよびEから選択される同じアミノ酸残基が2個存在してもよいし、異なるアミノ酸残基が2個存在してもよい。
【0013】
ZはKまたはNであり、mは1または2であり、好ましくは1である。
ZnとはZが1個または2個連続することを意味し、以下のいずれかである。
K
N
KK
NN
KN
NK
式(2)においては、Znが2つ存在するが、nの数も含め、それらは異なってよい。例えば、XmNUqK、XmNUqN、XmNUqKN、XmNUqKK、XmNUqNN、XmKUqK、XmKUqN、XmKUqKN、XmKUqKK、XmKUqNNなどが例示される。
式(3)においては、Zが3つ存在するが、それらは異なってよい。例えば、XKUKUK、XKUKUN、XKUNUN、XNUNUN、XNUNUK、XNUKUKが例示される。
【0014】
UはそれぞれG、I、Q、V、H、L、A、D、E、R、Tから独立して選択されるアミノ酸残基である。例えば、UはGである。
UqとはUがq個連続することを意味し、この場合のq個のUはG、I、Q、V、H、L、A、D、E、R、Tから選択される同じアミノ酸残基であってもよいし、異なるアミノ酸残基であってもよい。
qは0、1、2または3であり、好ましくは1または2である。
式(3)においては、Uが2つ存在するが、それらは異なってよい。
【0015】
本発明のペプチドは、長さが3~6アミノ酸であり、3~5アミノ酸であることがより好ましく、4~5アミノ酸であることがさらに好ましく、4アミノ酸であることが特に好ましい。
【0016】
本発明のペプチドの具体例としては、特に制限されないが、例えば、後述の表1に示される配列番号1~20および配列番号71~81のいずれかのアミノ酸配列またはINK、INE、RNK、RNDのいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0017】
本発明のタグ付加タンパク質は、目的タンパク質に本発明のペプチドタグが結合したものである(タグと目的タンパク質との融合タンパク質ともいう)。目的タンパク質のN末
端にペプチドタグが結合してもよいし、目的タンパク質のC末端にペプチドタグが結合し
てもよいし、目的タンパク質のN末端とC末端の両方にペプチドタグが結合してもよい。目的タンパク質のN末端および/またはC末端にペプチドタグが直接結合してもよいし、1~数アミノ酸(例えば、1~5アミノ酸)の配列を介して結合してもよい。1~数アミノ酸の配列はタグ付加タンパク質の機能や発現量に悪影響を及ぼさない配列であれば任意の配列でよいが、プロテアーゼ認識配列とすることにより、発現し、精製した後にペプチドタグを有用タンパク質から切り離すことができる。プロテアーゼ認識配列としてはファクターXa認識配列が例示される。また、本発明のタグ付加タンパク質は、Hisタグ、HNタグ
、FLAGタグなど、検出や精製などに必要な他のタグ配列を含むものでもよい。
【0018】
本発明のタグ付加タンパク質に含まれる有用タンパク質としては特に制限されないが、成長因子、ホルモン、サイトカイン、血液タンパク質、酵素、抗原、抗体、転写因子、受容体、蛍光タンパク質またはそれらの部分ペプチドなどが挙げられる。
【0019】
酵素としては、例えば、リパーゼ、プロテアーゼ、ステロイド合成酵素、キナーゼ、フォスファターゼ、キシラナーゼ、エステラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、酸化酵素、還元酵素、セルラーゼ、アロマターゼ、コラゲナーゼ、トランスグルタミナーゼ、グリコシダーゼおよびキチナーゼが挙げられる。
【0020】
成長因子としては、例えば、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロ
ファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、血小板由来成長因子(PDGF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)が挙げられる。
【0021】
ホルモンとしては、例えば、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、成長ホルモン、副甲状腺ホルモン、プロラクチン、レプチン、カルシトニンが挙げられる。
【0022】
サイトカインとしては、例えば、インターロイキン、インターフェロン(IFNα、IFNβ、IFNγ)、腫瘍壊死因子(TNF)が挙げられる。
【0023】
血液タンパク質としては、例えば、トロンビン、血清アルブミン、VII因子、VIII因子、IX因子、X因子、組織プラスミノゲン活性化因子が挙げられる。
【0024】
抗体としては、例えば、完全抗体、Fab、F(ab')、F(ab')2、Fc、Fc融合タンパク質、重鎖(H鎖)、軽鎖(L鎖)、単鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、Diabody、VHH抗体が挙げられる。
【0025】
ワクチンとして使用される抗原タンパク質は、免疫応答を惹起できるものであれば特に制限されず、想定する免疫応答の対象に応じて適宜選択すればよいが、例えば、病原性細菌由来のタンパク質や病原性ウイルス由来のタンパク質が挙げられる。
【0026】
本発明のタグ付加タンパク質は、分泌生産用に、宿主細胞で機能する分泌シグナルペプチドが付加されていてもよい。分泌シグナルペプチドは、酵母を宿主とする場合は、インベルターゼ分泌シグナル、P3分泌シグナル、α因子分泌シグナルなどが挙げられ、大腸菌を宿主とする場合はPelB分泌シグナルが挙げられ、ブレビバチルスを宿主とする場合はP22分泌シグナルが挙げられる。また、植物を宿主とする場合、ナス科(Solanaceae)、バ
ラ科(Rosaceae)、アブラナ科(Brassicaceae)、キク科(Asteraceae)に属する植物、さらに好ましくはタバコ属(Nicotiana)、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)、オランダイチゴ属(Fragaria)、アキノノゲシ属(Lactuca)等に属する植物、好ましくはタバコ(Nicotianatabacum)、シロイヌナズナ(Arabidopsis
thaliana)、オランダイチゴ(Fragaria×ananassa)、レタス(Lactuca
sativa)等に由来する分泌シグナルが挙げられる。
【0027】
さらに、本発明のタグ付加タンパク質は、特定の細胞区画で発現させるために、小胞体残留シグナルペプチド、液胞移行シグナルペプチド等の輸送シグナルペプチドが付加されていてもよい。
【0028】
本発明のタグ付加タンパク質は、化学的に合成することもできるし、遺伝子工学的に生産することもできる。遺伝子工学的に生産する方法については、後述する。
【0029】
本発明のDNAは、本発明のタグ付加タンパク質をコードするDNAを含むことを特徴とする。すなわち、本発明のDNAは、有用タンパク質をコードするDNA、およびペプチドタグをコードするDNAを含む。有用タンパク質をコードするDNA、およびペプチドタグをコードするDNAは読み枠を合わせて連結される。
【0030】
有用タンパク質をコードするDNAは、例えば、公知の塩基配列に基づいて、一般的な遺
伝子工学的な手法により得ることができる。
また、本発明のタグ付加タンパク質をコードするDNAは、該タンパク質を生産させる宿
主細胞に応じて、ハイブリッドタンパク質の翻訳量が増大するように、タグ付加タンパク質を構成するアミノ酸を示すコドンが適宜改変されていることも好ましい。また、宿主細胞において使用頻度の高いコドンを選択したり、GC含量が高いコドンを選択したり、宿主細胞のハウスキーピング遺伝子において使用頻度の高いコドンを選択したりする方法が挙げられる。
【0031】
本発明のDNAは、宿主細胞における発現を向上させるために、宿主細胞において機能す
るエンハンサー配列等を含むものであってもよい。エンハンサーとしては、Kozak配列や
植物由来のアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子の5’-非翻訳領域が挙げられる。
【0032】
本発明のDNAは、一般的な遺伝子工学的手法により作製することができ、例えば、本発
明のペプチドタグをコードするDNA、および有用タンパク質をコードするDNA等をPCRやDNA
リガーゼ等を用いて連結することで構築することができる。
【0033】
本発明の組換えベクターは、前記タグ付加タンパク質をコードするDNAが、ベクターが
導入される宿主細胞において発現可能なように、ベクター内に挿入されているものであればよい。ベクターは、宿主細胞において複製可能なものであれば特に制限されず、例えば、プラスミドDNA、ウイルスDNA等が挙げられる。また、ベクターは薬剤耐性遺伝子等の選択マーカーを含むことが好ましい。具体的なプラスミドベクターとして、例えば、pTrcHis2ベクター、pUC119、pBR322、pBluescript II KS+、pYES2、pAUR123、pQE-Tri、pET、pGEM-3Z、pGEX、pMAL、pRI909、pRI910、pBI221、pBI121、pBI101、pIG121Hm、pTrc99A、 pKK223、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNA I/Neo、p3×FLAG-CMV-14、pCAT3、pcDNA3.1、pCMV等が例示される。
【0034】
ベクター内で用いられるプロモーターは、ベクターが導入される宿主細胞に応じて適宜選択することができる。例えば、酵母で発現させる場合、GAL1プロモーター、PGK1プロモーター、TEF1プロモーター、ADH1プロモーター、TPI1プロモーター、PYK1プロモーターなどが使用可能である。植物で発現させる場合、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモ
ーター、イネのアクチンプロモーター、トウモロコシのユビキチンプロモーター、レタスのユビキチンプロモーターなどが使用可能である。大腸菌で発現させる場合、T7プロモーターなどが挙げられ、ブレビバチルスで発現させる場合、P2プロモーターやP22プロモー
ターなどが挙げられる。誘導可能なプロモーターであってもよく、例えば、IPTGにより誘導可能なプロモーターであるlac、tac、trcの他、IAAで誘導可能なtrp、L-アラビノース
で誘導可能なara、テトラサイクリンを用いて誘導可能なPzt-1、高温(42℃)で誘導可能なPLプロモーター、コールドショック遺伝子の一つであるcspA遺伝子のプロモーターなどが使用できる。
また、必要に応じ、ターミネーター配列も宿主細胞に応じて含めることができる。
【0035】
本発明の組換えベクターは、例えば、DNA構築物を適当な制限酵素で切断又はPCRによって制限酵素部位を付加し、ベクターの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入することによって作製することができる。
【0036】
本発明の形質転換体は、前記DNAまたはそれを含む組換えベクターで形質転換されてい
ることを特徴とする。形質転換に用いられる宿主細胞は真核細胞および原核細胞の何れでもよい。
真核細胞としては、酵母細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、昆虫細胞などが好ましく用いられる。酵母としては、Saccharomyces
cerevisiaeやCandida
utilisやSchizosaccharomyces
pombeやPichia
pastorisやYarrowia lipolytica、Metschnikowia pulcherrimaなどが挙げられる。さらに、麹菌(Aspergillus)等の微生物を用いることもできる。原核細胞
としては、大腸菌(Escherichia
coli)、乳酸菌(Lactobacillus)、枯草菌(Bacillus
)、ブレビバチルス(Brevibacillus)、アグロバクテリウム(Agrobacterium
tumefaciens)、コリネバクテリウム、シアノバクテリア、放線菌などが挙げられる。植物細胞としては、アキノノゲシ属(Lactuca)などのキク科(Astaraceae)、ナス科(Solanaceae)
、アブラナ科(Brassicaceae)、バラ科(Rosaceae)、アカザ科(Chenopodiaceae)に属する植物の細胞などが挙げられる。
【0037】
本発明で用いる形質転換体は、一般的な遺伝子工学的手法を用いて、本発明の組換えベクターを宿主細胞に導入することにより作製することができる。例えば、エレクトロポレーション法(Tada, et al., 1990, Theor.Appl.Genet, 80:475)、プロトプラスト法(Gene, 39, 281-286(1985))、ポリエチレングリコール法(Lazzeri, et al., 1991, Theor. Appl. Genet. 81:437)、アグロバクテリウムを利用した導入方法(Hood, et al., 1993, Transgenic, Res. 2:218,Hiei, et al.,1994 Plant J. 6:271)、パーティクル
ガン法(Sanford, et al., 1987, J. Part. Sci.tech. 5:27)、ポリカチオン法(Ohtsuki, et al., FEBS Lett. 1998 May 29;428(3):235-40.)などの方法を用いることが可能
である。なお、遺伝子発現は一過的発現でもよく、染色体に組み込まれる安定的発現でもよい。
【0038】
本発明の組換えベクターを宿主細胞に導入した後、選択マーカーの表現型によって形質転換体を選抜することができる。また、選抜した形質転換体を培養することにより、前記タグ付加タンパク質を生産することができる。培養に用いる培地および条件は、形質転換体の種に応じて適宜選択することができる。
また、宿主細胞が植物細胞の場合には、選抜した植物細胞を常法に従って培養することにより、植物体を再生することができ、植物細胞内または植物細胞の細胞膜外に前記タグ付加タンパク質を蓄積させることができる。
【0039】
なお、本発明のDNA、そこから転写されるRNA(mRNA)または本発明の組換えベクターを無細胞発現系に導入することによっても、本発明のペプチドタグが付加されたタンパク質を発現させることができる。
無細胞発現系はリボソームなどのタンパク質発現機構を備えた発現系であれば特に制限されないが、大腸菌由来の細胞抽出物、コムギ胚芽由来の細胞抽出物、ウサギ網状赤血球由来の細胞抽出物、昆虫細胞由来の細胞抽出物などの細胞抽出物や、リボソームなどの因子を再構成したタンパク質発現系でもよい。
【0040】
培地や細胞内や無細胞発現系に蓄積した本発明のペプチドタグが付加されたタンパク質は、当業者によく知られた方法に従って分離精製することができる。例えば、塩析、エタノール沈殿、限外濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニーティークロマトグラフィー、中高圧液体クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー等の既知の適切な方法、またはこれらを組み合わせることにより分離精製することができる。
【0041】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【実施例0042】
(1)大腸菌無細胞発現系用のタグ付加GFP2タンパク質またはVHH抗体をコードする各種プラスミドの構築
下記手順で、GFP2タンパク質またはVHH抗体のN末端もしくはC末端に各種ペプチドタグ(表1)を付加した融合タンパク質を大腸菌無細胞発現系または大腸菌(BL21)で発現させるためのプラスミドをそれぞれ構築した。
GFP2タンパク質をコードする人工合成DNA(配列番号70)またはVHH抗体をコー
ドする人工DNA (配列番号120)を、pUC19改変プラスミドpUCFa(ファスマック)のEcoRV認識部位に挿入して各種プラスミドpUCFa-GFP2(プラスミド1)およびpUCFa-AmylD9(
プラスミド2)を得た。
大腸菌および無細胞系発現用プラスミドとしてT7プロモーターを有するpET28a(Invitrogen)を使用した(プラスミド3)。
図1または
図2に示す手順で、各種タンパク質のN末端もしくはC末端に各種ペプチドタグを付加した融合タンパク質を大腸菌無細胞発現系または大腸菌(BL21)で発現させるためのプラスミドをそれぞれ構築した。
次に、各種タンパク質のN末端もしくはC末端に各種ペプチドタグを付加するために、表2、表3および表4に示した鋳型プラスミド、フォワードプライマー、リバースプライマーの組合せによるPCRを実施した。各プライマーの5’末端にはプラスミド3との相同配列を付加した。PCRはKOD-PLUS-Ver.2(東洋紡)を用い、2 pg/μl 鋳型プラスミド、0.3 μ
M フォワードプライマー、0.3 μM リバースプライマー、0.2 mM dNTPs、1×Buffer for KOD-Plus-Ver.2、1.5 mM MgSO
4、0.02 U/μl KOD-PLUS-Ver.2 となるように50 μl反応液を調製し、94℃、5分間加熱した後、98℃、10秒間、60℃、 30秒間、68℃, 40秒間の加熱処理を30サイクル行い、最後に68℃で5分間加熱した。得られた増幅断片はQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen)で精製した。
プラスミド3はNcoI、HindIIIで消化後、1.0% SeaKem GTG Agaroseを用いた電気泳動により分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen)を用いゲルから抽出した。
約50 ng分の抽出したプラスミド3の1 μl、精製PCR産物1 μlおよび1 μlを混合し液量を3 μlに調整後、In-Fusion HD Cloning Kit(TaKaRa)添付の5×In-Fusion HD Enzyme Premix 0.75 μlと混合し、50℃で15分間静置、その後5分間氷上に静置した。
反応液1 μlをコンピテントセルDH5-α 15μlと混合し氷上で30分間静置後、42℃で45秒間加温し、氷上で2分間静置後、SOCを200 μl添加し、37℃、200 rpmで1時間振盪し
た。その後、振盪物の全量を100 mg/lカナマイシンを含む2×YT寒天培地に塗布後、37℃
で一晩静置培養し、形質転換コロニーを得た。コロニーを100 mg/lカナマイシンを含む2
×YT液体培地4 mlに移植し、37℃、200 rpmで一晩振盪培養後、遺伝子発現用プラスミド
を抽出し、塩基配列を確認後、大腸菌無細胞発現試験および大腸菌(BL21(DE3))株
の形質転換に用いた。
【0043】
【表1】
各ペプチドタグをコードする塩基配列は配列番号47~66および配列番号123~133に示す。3アミノ酸のペプチドタグをコードする塩基配列は下記の通りである。ただし、各ペプチドタグをコードする塩基配列はコードされるアミノ酸配列が同じである限り、コドンを変更することができる。
2SR#242 (INK) ATAAATAAA
2SR#243 (INE) ATAAATGAA
2SR#244 (RNK) CGTAATAAA
2SR#245 (RND) CGTAATGAT
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
(2)無細胞発現系による各種タグ付加タンパク質の発現
無細胞発現系としてPUREfrex1.0(ジーンフロンティア株式会社)を用いた。Kitに添付のSolution Iを室温で融解後、氷上に静置した。添付のSolution II, Solution IIIは氷
上で融解した。Solution I, Solution II, Solution IIIを軽くボルテックス後、卓上遠
心機でスピンダウンした後、融解したSolution II, Solution IIIに滅菌蒸留水を各25μl加え、ボルテックス後、スピンダウンし、融解したSolution Iと混合した。この混合溶液をボルテックスでよく混ぜた。滅菌1.5μlエッペンチューブに所定量のプラスミドと滅菌蒸留水を分取し、更にSolution I~IIIの混合溶液8μl加え、ピペティングで泡立たない
様に混合し、卓上遠心機でスピンダウンした。次に、37℃、4時間、ウォーターバス中で
反応を行い、タンパク質を発現させた。反応終了後、反応物に10μlの滅菌蒸留水を加え
た後、2xサンプルバッファー(アトー株式会社)を20μl加え混合後、沸騰浴中、10分
間加熱し、SDS‐PAGE用サンプルとした。
【0049】
(3)タンパク質発現用大腸菌の形質転換
大腸菌BL21 (DE3)(Novagen)のグリセロールストックを3 ml SOB培地(20 g/l Bacto tryptone、5 g/l Bacto Yeast Extract、10 mM NaCl、2.5 mM KCl、10 mM MgSO4、10 mM MgCl2)の入った滅菌ポリスチレン製14mlチューブに植菌し、37℃、200rpmで一晩振盪培
養した。100 ml SOB培地の入った滅菌三角フラスコに上記前培養液を0.2 ml植菌後、30℃、200rpmで振盪培養した。波長600 nmでの濁度(OD600)が0.4-0.6になったら10-30分間
氷冷し培養を止めた。培養液を50 ml コニカルチューブに移し2,500×g、4℃、10 分間遠心分離した。上清を捨て、ペレットを氷冷した15 ml TB(10 mM PIPES-KOH、pH6.7、15 mM CaCl2、0.25 M KCl、55 mM MnCl2)を加え穏やかに懸濁した。懸濁液を、2,500×g、4
℃、10 分間遠心分離した。上清を捨て、ペレットに氷冷した10ml TBを加え穏やかに懸濁した。DMSOを700 μl加え、氷冷しながら懸濁した。1.5 mlエッペンドルフチューブに50
μlずつ分注しコンピテントセルとした。液体窒素で凍結後、使用するまで‐80℃保存し
た。
得られたコンピテントセルを氷上で融解して、上記で作製した大腸菌用ペプチドタグ付加タンパク質発現プラスミドを1 ng添加後、穏やかに混合し氷上で30 分間静置した。42
℃、45秒処理(ヒートショック)した後、氷上で5 min静置した。250 μlのSOCを添加後
、チューブを水平にし、37℃、200 rpmで1 時間振盪した。振盪物100μlを100 mg/lカナ
マイシンを含む2×YT寒天培地に塗布後、37℃で一晩静置培養し、形質転換コロニーを得
た。
【0050】
(4) 大腸菌のタンパク質誘導培養
形質転換後のシングルコロニーをプレート培地(2×YT、100mg/l カナマイシン)に塗
株し、37℃、一晩インキュベーター中に静置し培養を行った。次に、培養後のプレート培地より滅菌ディスポループで菌体をかきとり、2 ml前培養培地(2×YT, 100mg/l カナマ
イシン)を分注した滅菌ポリスチレン製14 mlチューブに植菌し、37℃、200 rpm、OD600
値が0.6~1.0に達するまで振盪培養を行った。これら培養物の遠心上清を除いた沈殿物に1.0ml 2×YT培地(100mg/l カナマイシン)を添加した際に、OD600値が0.3になるのに必
要な量の培養物を、1.5ml エッペンドルフチューブに分取し、4℃(冷蔵庫内)で一晩静
置保管した。翌日、前記サンプルを2,000 rpm、4℃、30 min遠心後、上清を除去し、新しい2×YT 培地(100mg/l カナマイシン)1 mlを加え、沈殿を懸濁した。更に、OD600値が0.03となる様に、2.7 mlの2×YT 培地(100mg/l カナマイシン)に上記サンプル1 mlのう
ちの300μlを植菌し、OD600値が0.4~1.0に達するまで、37℃、200 rpmで振盪培養した。次に、1M IPTG(誘導剤)を3μl(終濃度1mM)加え、30℃、200 rpmで12時間振盪培養を
行った。培養終了後、サンプルの入った試験管を氷上で5分間冷却し、大腸菌の増殖をス
トップさせた後、培養液200μlを新しい1.5 mlのエッペンドルフチューブに分取し、5,000rpm、4℃、5min遠心分離を行った。次に、上清を除き、菌体を液体窒素で凍結後、‐80
℃で凍結保存した。
【0051】
(5)大腸菌からのタンパク質抽出
凍結保存サンプルに100μlのサンプルバッファー(EZ Apply、ATTO製)を加え、ボルテックスミキサーにて撹拌後、沸騰水中で10分間加熱し、サンプルのSDS化を行った。
【0052】
(6)ウェスタン解析
タンパク質定量時の標準物質にはGFP2タンパク質精製標品を用いた。これを1xサンプルバッファー(アトー株式会社)で2倍希釈を繰り返すことにより希釈系列を作成し、ス
タンダードとして用いた。
タンパク質の電気泳動(SDS-PAGE)は、電気泳動槽(Criterion cell、BIO RAD)およ
びCriterion TGX-ゲル(BIO RAD)を用いた。電気泳動槽に泳動バッファー(Tris/Glycine/SDS Buffer、BIO RAD)を入れ、ウェルにSDS化したサンプルを10 μlアプライし、200 V定電圧で40分間泳動した。
電気泳動後のゲルは、トランスブロット転写パック(BIO RAD)を用い、トランスブロ
ットTurbo(BIO RAD)でブロッティングを行った。
ブロッティング後のメンブレンはブロッキング溶液(TBS系, pH7.2、ナカライテスク)に浸し、室温で1時間振盪または4℃で16時間静置後、TBS-T(137 mM 塩化ナトリウム、2.68 mM 塩化カリウム、1% ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート、25 mM Tris-HCl、pH 7.4)中で室温、5分間の振盪を3回行い洗浄した。
緑色蛍光タンパク質(GFP2)の検出には、抗血清Rabbit-monoclonal Anti-GFP antibody ab32146 (アブカム)を、VHH抗体(AmylD9)の検出には、抗血清Rabbit-monoclonal Anti-VHH antibody A01860 (GenScript)をTBS-Tで6,000倍希釈して使用した。希釈液中にメ
ンブレンを浸し、室温で2時間振盪することにより抗原抗体反応を行い、TBS-T中で室温
、5分間の振盪を3回行い洗浄した。
二次抗体には、TBS-Tで3,000倍希釈したAnti-Rabbit IgG, AP-linked Antibody #7054
(Cell Signaling)を使用した。本希釈液中にメンブレンを浸し、室温で1時間振盪する
ことにより抗原抗体反応を行い、TBS-T中で室温、5分間の振盪を3回行い洗浄した。アル
カリホスファターゼによる発色反応は、発色液(0.1 M 塩化ナトリウム、5 mM 塩化マグ
ネシウム、0.33 mg/mlニトロブルーテトラゾリウム、0.33 mg/ml 5-ブロモ-4-クロロ-3-
インドリル-リン酸、0.1 M Tris-HCl、pH9.5、)中にメンブレンを浸し、室温で15分間振盪することにより行い、メンブレンを蒸留水で洗浄した後、キムタオル上で常温乾燥した。
発色したメンブレンはスキャナー(PM-A900、エプソン)により解像度600 dpiで画像化し、画像解析ソフト(CS Analyzer ver. 3.0、アトー株式会社)を用い、各種タンパク質の定量を行った。
【0053】
(7)GFPタンパク質の蛍光強度測定
GFPタンパク質の誘導培養サンプル100μlを96ウェルマイクロプレートに分取し、滅菌
蒸留水で2倍希釈した後、蛍光マイクロプレートリーダーSpectra Max iD5(Molecular DEVICES)を用いて、励起波長(λEx)395 nmで、510 nmの蛍光強度(λEm)を測定した。併せて、同一のサンプルにつき、600 nmでOD値を測定し、大腸菌の増殖量を見積もった。次に、上記OD値で前記の蛍光強度を除することにより、OD値1.0当たりの蛍光強度
を算出した。
【0054】
(8) 大腸菌-Yarrowia lipolyticaシャトルベクターの構築
Yarrowia lipolytica内でのプラスミド複製に係るori1001(GenBank:EU340887.1)およびCentromere1.1(GenBank:AF099207.1)、大腸菌内でのプラスミド複製に係るColE1 ori、ハイグロマイシン耐性遺伝子 (HYG)、代謝酵素発現に係るTEFプロモーター、マルチクロー
ニングサイトおよびCYC1ターミネーターから成るプラスミドを株式会社ファスマックで合成し、pEYHG(プラスミド4)を取得した(
図3、配列番号122)。
【0055】
(9) 各種タグ付加GFP2タンパク質をコードするYarrowia lipolytica用遺伝子発現プラス
ミドの構築
(1)と同様に、GFP2タンパク質をコードする人工合成DNA(配列番号70)を、pUC19改
変プラスミドpUCFa(ファスマック)のEcoRV認識部位に挿入して得たプラスミド1(pUCFa-GFP2)を鋳型として用いた。
具体的には、GFP2タンパク質のN末端に各種タグ(表1)を付加するために、表5に示し
た、鋳型プラスミドDNA、フォワードプライマー、リバースプライマーの組み合わせによ
るPCRを実施した。各プライマーの5’末端にはプラスミド4との相同配列を付加した。得られた増幅断片はQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)で精製した後、
図4に示し
た手順に従い、Not I、Hind IIIで消化したプラスミド4(pEYHG)に、In-Fusion HD Cloning Kit(TaKaRa)を用いて挿入し発現用プラスミドを得た。続いて、コンピテントセルDH5-α(株式会社ニッポンジーン)に構築したプラスミドを導入し、クローニングを行った。次に、プラスミドを抽出し、塩基配列を確認後、Yarrowia lipolyticaの形質転換に
用いた。
【0056】
(10)Yarrowia lipolyticaの形質転換
Yarrowia lipolyticaを500mlのバッフル付き三角フラスコを用いて、YPD-Rich培地150 mL(2% yeast extract, 4% peptone, 4% D-glucose, 0.01% Tryptophan, 0.002% Adenine)で28℃、180rpm、16~18時間、振盪培養した。濁度(OD600)が16~24になったのを確
認後、培養物400μlを滅菌した1.5mlエッペンドルフチューブに取り、4℃、500g、5分間
遠心分離した後、上清を除去後、沈殿に1Mソルビトール400μlを加え、懸濁後、再び遠心分離を行った。上清を除去した沈殿に再び1Mソルビトール400μlを加え、菌体を懸濁後、遠心分離を行った。更に上清を除去した後、沈殿に1Mソルビトール400μlを加えるとともに、形質転換用に構築した各種プラスミドDNAを1,000ng加え、ボルテックスミキサーで混合した。
上記の懸濁液200μlをエレクトロポレーション用0.2 cmキュベット(Bio-Rad社製 Gene
Pulser Cuvette)に分注し、Micro Pulser(Bio-Rad社製)を用いて、エレクトロポレーションを3.0 KVの電圧で、一つのサンプルにつき2回実施した。サンプル懸濁液200μlにYPD-Rich培地を1,200μl加え、28 ℃、200 rpmで1時間振盪した。振盪後、遠心分離を行い、上清を除去した後、沈殿に1 mlの1Mソルビトールを加え、沈殿を懸濁し、懸濁液200μlをYPDmプレート培地(0.2% yeast extract, 5% peptone, 0.1% D-glucose, 50mM ナトリ
ウム-リン酸緩衝液 pH6.8, 2% Agar)に塗布した。28℃で5~7日静置培養し、形質転換コロニーを得た。
【0057】
(11) Yarrowia lipolyticaの培養とサンプリング
コロニーPCRにより目的遺伝子の導入の確認できたクローンを、YPD培地(1% ペプトン
、1% 酵母エキス、6% グルコース)4 mlを分注した15 ml滅菌ラウンドチューブにOD600が0.1になる量を植菌し、28℃、200rpmで48時間振盪培養を行った。
培養後、培養物100μlを1.5mlエッペンドルフチューブに分取し、4℃、10,000g、5分間、遠心分離を行い、上清を除去した後、沈殿をGFP2タンパク質のウェスタン解析用サンプルとした。
【0058】
(12) Yarrowia lipolyticaからの酵素抽出
GFP2タンパク質の抽出はAkira Hosomi らの方法(Akira Hosomi, et al,: J Biol Chem, 285, (32), 24324-24334, 2010)に従い、(11)でサンプリングした試料に100μlの0.1
N NaOH溶液を加え、ボルテックスミキサーにて菌体を懸濁した後、氷冷化10分静置した
。次に、4℃、15,000g、5分間遠心分離を行い、上清を棄てた後、沈殿を回収した。
【0059】
(13)ウェスタン解析
得られたGFP2タンパク質の沈殿に100μlのサンプルバッファー(EZ Apply、ATTO製)を加え、ボルテックスミキサーにて撹拌後、沸騰水中で10分間加温し、サンプルのSDS化を
行った。以下は、(6)と同様の方法によって、精製GFPを標品として電気泳動(SDS-PAGE)及び、ブロッティングを行った。
ブロッティング後も(6)と同様に、メンブレンをブロッキング溶液(TBS系, pH7.2、ナ
カライテスク)に浸し、室温で1時間振盪後、TBS-T(137 mM 塩化ナトリウム、2.68 mM
塩化カリウム、1% ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート、25 mM Tris-HCl、pH 7.4)中で室温、5分間の振盪を3回行い洗浄した。GFP2タンパク質の検出には、抗血清Rabbit-monoclonal Anti-GFP antibody ab32146 (アブカム)をTBS-Tで6,000倍希釈して使用
した。本希釈液中にメンブレンを浸し、室温で2時間振盪することにより抗原抗体反応を
行い、TBS-T中で室温、5分間の振盪を3回行い洗浄した。二次抗体には、Anti-Rabbit IgG, AP-linked Antibody #7054(Cell Signaling)を使用した。発色したメンブレンはスキャナー(PM-A900、エプソン)により解像度600 dpiで画像化し、画像解析ソフト(CS Analyzer ver. 3.0、アトー)を用い、各種酵素の発現量を測定した。
【0060】
(9)結果
結果を
図5~12に示す。
図5に示すように、無細胞発現系において、実施例1,2,4,5,7~20のペプチドタグをGFP2に連結した融合タンパク質の発現量は、比較例Bの特許文献4記載のペプチドタ
グや比較例Cの特許文献3記載のペプチドタグ(SKIK:配列番号22)をGFP2に連結した
融合タンパク質に比べて、顕著に向上した。
【0061】
図6および
図7に示すように、大腸菌発現系において、実施例1~24,29~35の
ペプチドタグをGFP2に連結した融合タンパク質の発現量は、比較例BのペプチドタグをGFP2に連結した融合タンパク質に比べて、顕著に向上した。
また、
図8および9に示すように、GFP2の蛍光強度は実施例1~24,29~35のペ
プチドタグをGFP2に連結した融合タンパク質において顕著に高い値を示し、機能的タンパク質が発現されていることが確認できた。
【0062】
図10に示すように、大腸菌発現系において、実施例10,12,15のペプチドタグをVHH抗体のN末端に連結した融合タンパク質の発現量は、比較例Bおよび比較例DのペプチドタグをVHH抗体のN末端に連結した融合タンパク質に比べて、顕著に向上した。
また、
図11に示すように、大腸菌発現系において、実施例23,29,31のペプチドタグをVHH抗体のC末端に連結した融合タンパク質の発現量は、比較例Bおよび比較例DのペプチドタグをVHH抗体のC末端に連結した融合タンパク質に比べて、顕著に向上した。
【0063】
図12に示すように、Yarrowia lipolytica発現系において、実施例10,12,15,
18,20,25~28のペプチドタグをGFP2のN末端に連結した融合タンパク質の発現量
は、比較例Bおよび比較例Dのペプチドタグや特許文献3に記載の比較例CをGFP2のN末端に連結した融合タンパク質に比べて、顕著に向上した。
本発明のペプチドタグは遺伝子工学やタンパク質工学等の分野で有用であり、本発明のペプチドタグが付加されたタンパク質は、医療、研究、食品、畜産等の分野で有用である。