(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109489
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】プリプレグ、半導体パッケージ用の基板材料、及び、半導体パッケージ用の基板材料を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20220721BHJP
H01L 23/14 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C08J5/24 CEY
C08J5/24 CFC
H01L23/14 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004831
(22)【出願日】2021-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】中田 充紀
(72)【発明者】
【氏名】濱口 宏治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直也
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB09
4F072AB28
4F072AB30
4F072AD02
4F072AD09
4F072AD23
4F072AD47
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH21
4F072AJ22
4F072AK05
4F072AL11
4F072AL12
(57)【要約】
【課題】半導体パッケージの反りを抑制できるプリプレグ、及びこれから形成される半導体パッケージ用の基板材料を提供すること。
【解決手段】経糸11及び緯糸12を有する織物である繊維基材10と、繊維基材10に含浸した硬化性樹脂組成物20とを含む、プリプレグ1が開示される。硬化性樹脂組成物20が硬化することによって、硬化性樹脂組成物20の硬化物及び繊維基材10を含む複合基材が形成されたときに、複合基材の引張弾性率が、経糸11の方向D11においてE
0で、経糸11の方向D11に対して45°の方向D45においてE
45であり、弾性率比E
45/E
0が0.60以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸及び緯糸を有する織物である繊維基材と、
前記繊維基材に含浸した硬化性樹脂組成物と、
を含み、
前記硬化性樹脂組成物が硬化することによって、前記硬化性樹脂組成物の硬化物及び前記繊維基材を含む複合基材が形成されたときに、前記複合基材の引張弾性率が、前記経糸の方向においてE0で、前記経糸の方向に対して45°の方向においてE45であり、弾性率比E45/E0が0.60以下である、プリプレグ。
【請求項2】
前記繊維基材がガラスクロスである、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記繊維基材の比率が、当該プリプレグの体積を基準として35~70体積%である、請求項1又は2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記硬化性樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【請求項5】
経糸及び緯糸を有する織物である繊維基材と、
前記繊維基材に含浸した、硬化性樹脂組成物の硬化物と、
を含む、複合基材を有し、
前記複合基材の引張弾性率が、前記経糸の方向においてE0で、前記経糸の方向に対して45°の方向においてE45であり、弾性率比E45/E0が0.60以下である、
半導体パッケージ用の基板材料。
【請求項6】
半導体パッケージ用の基板材料を製造する方法であって、
前記基板材料が、経糸及び緯糸を有する織物である繊維基材と、前記繊維基材に含浸した、硬化性樹脂組成物の硬化物と、を含む複合基材を有し、
当該方法が、前記複合基材の引張弾性率が、前記経糸の方向においてE0で、前記経糸の方向に対して45°の方向においてE45であり、弾性率比E45/E0が0.60以下となるように、前記繊維基材及び前記硬化性樹脂組成物を含むプリプレグを選択することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ、半導体パッケージ用の基板材料、及び、半導体パッケージ用の基板材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板材料上に搭載された半導体チップを有する半導体パッケージに関して、反りの発生を出来るだけ抑制することが望まれる。そのため、反りの発生の程度を、半導体パッケージを構成する材料の特性を入力パラメータとして用いたシミュレーションによって予測する方法が採用されることがある(例えば非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】第28回マイクロエレクトロニクスシンポジウム 論文集、2018年、p.49-52
【非特許文献2】2019 International 3D Systems Integration Conference, 3DIC2019.4056
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面は、半導体パッケージの反りを抑制できるプリプレグ、及びこれから形成される半導体パッケージ用の基板材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、経糸及び緯糸を有する織物である繊維基材と、前記繊維基材に含浸した硬化性樹脂組成物と、を含むプリプレグを提供する。前記硬化性樹脂組成物が硬化することによって、前記硬化性樹脂組成物の硬化物及び前記繊維基材を含む複合基材が形成されたときに、前記複合基材の引張弾性率が、前記経糸の方向においてE0で、前記経糸の方向に対して45°の方向においてE45であり、弾性率比E45/E0が0.60以下である。
【0006】
本発明の別の一側面は、半導体パッケージ用の基板材料を提供する。当該基板材料は、経糸及び緯糸を有する織物である繊維基材と、前記繊維基材に含浸した、硬化性樹脂組成物の硬化物と、を含む、複合基材を有する。前記複合基材の引張弾性率が、前記経糸の方向においてE0で、前記経糸の方向に対して45°の方向においてE45であり、弾性率比E45/E0が0.60以下である。
【0007】
本発明の更に別の一側面は、半導体パッケージ用の基板材料を製造する方法を提供する。前記基板材料が、経糸及び緯糸を有する織物である繊維基材と、前記繊維基材に含浸した、硬化性樹脂組成物の硬化物と、を含む複合基材を有する。当該方法は、前記複合基材の引張弾性率が、前記経糸の方向においてE0で、前記経糸の方向に対して45°の方向においてE45であり、弾性率比E45/E0が0.60以下となるように、前記繊維基材及び前記硬化性樹脂組成物を含むプリプレグを選択することを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面によれば、半導体パッケージの反りを抑制できるプリプレグ、及びこれから形成される基板材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】プリプレグの一実施形態を示す平面図である。
【
図2】半導体パッケージのモデルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
図1は、プリプレグの一実施形態を示す平面図である。
図1に示されるプリプレグ1は、経糸11及び緯糸12を有する織物である繊維基材10と、繊維基材10に含浸した硬化性樹脂組成物20とを含む。プリプレグ1中の硬化性樹脂組成物20が硬化することによって、硬化性樹脂組成物20の硬化物及び繊維基材10を含む複合基材が形成される。
【0012】
繊維基材10は、一定の方向(経糸方向D11)に沿って引き揃えられた複数の経糸11と、経糸方向D11に対して直交する緯糸方向D12に沿って引き揃えられた複数の緯糸12とからなる織物である。経糸方向D11と緯糸方向D12とがなす角度は、厳密に90°である必要は必ずしもなく、例えば90±2°の範囲内で変動し得る。通常、経糸11及び緯糸12は、複数の単糸を含む繊維束である。
【0013】
繊維基材10は、ガラスクロスであってもよく、その場合、経糸11及び緯糸12はガラス繊維を含む。
【0014】
硬化性樹脂組成物20は、熱硬化性樹脂、及び必要により硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物であってもよい。熱硬化性樹脂は、硬化剤との反応及び/又は自己重合によって架橋重合体を形成する化合物である。熱硬化性樹脂は、例えばエポキシ樹脂であってもよい。硬化性樹脂組成物20は、熱可塑性樹脂、エラストマー、ポリシロキサン鎖を有する化合物、及びフィラーから選ばれる1種以上のその他の成分を更に含んでもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルをモノマー単位として含むアクリル系ポリマーであってもよい。フィラーは、例えばシリカ粒子のような無機フィラーであってもよい。アクリル系ポリマー、エラストマー、及びポリシロキサン鎖を有する化合物から選ばれる成分の配合は、硬化性樹脂組成物から形成される硬化物の弾性率を低下させる傾向がある。無機フィラーの含有量が低いことも、硬化性樹脂組成物から形成される硬化物の弾性率を低下させる傾向がある。
【0015】
複合基材の引張弾性率が、繊維基材10の経糸方向D11においてE0で、繊維基材10の経糸D11方向に対して45°の方向D45においてE45であるとき、弾性率比E45/E0が0.60以下である。弾性率比E45/E0が0.60以下であると、複合基材を有する基板材料を含む半導体パッケージの反りが顕著に抑制される。同様の観点から、E45/E0は、0.55以下、0.50以下、0.45以下、0.35以下、又は0.30以下であってもよく、0.10以上、0.15以上、又は0.20以上であってもよい。
【0016】
複合基材の弾性率比E45/E0は、例えば、繊維基材10を構成する繊維の弾性率、硬化性樹脂組成物20の硬化物の弾性率、及び、プリプレグ1における繊維基材の体積比率から選ばれる1以上の材料特性の制御によって、0.60以下に調整することができる。
【0017】
繊維基材10を構成する繊維の弾性率が小さいと、弾性率比E45/E0が小さくなる傾向がある。弾性率比E45/E0の適切な制御の観点から、繊維基材10を構成する繊維の引張弾性率が60~90GPa、又は70~80GPaであってもよい。
【0018】
硬化性樹脂組成物20の硬化物の弾性率が小さいと、弾性率比E45/E0が小さくなる傾向がある。弾性率比E45/E0の適切な制御の観点から、硬化性樹脂組成物20の硬化物の引張弾性率が0.5GPa以上又は1.0GPa以上であってもよく、5.0GPa以下、4.0GPa以下、又は3.0GPa以下であってもよい。
【0019】
プリプレグ1における繊維基材の体積比率が小さいと、弾性率比E45/E0が小さくなる傾向がある。弾性率比E45/E0の適切な制御の観点から、繊維基材10の比率が、プリプレグ1の体積を基準として35体積%以上、又は40体積%以上であってもよく、70体積%以下、又は65体積%以下であってもよい。
【0020】
硬化性樹脂組成物20の硬化物の熱膨張率が小さいことも、反りの低減に寄与することができる。硬化性樹脂組成物20の硬化物の熱膨張率は、例えば、40ppm/℃以下、又は30ppm/℃以下であってもよく、10ppm/℃以上、又は20ppm/℃以上であってもよい。ここでの熱膨張率は、20~100℃の範囲における熱膨張率の平均値であることができる。
【0021】
プリプレグ1から形成される複合基材自体を、半導体パッケージ用の基板材料として用いてもよい。複合基材若しくは積層体の表面上、及び/又は積層体の内部に、導体配線が更に設けられてもよい。複合基材は、2層以上のプリプレグから形成された積層体であってもよい。その場合、通常、2層以上のプリプレグが、繊維基材の経糸方向が互いに実質的に同じになる向きで積層される。ただし、繊維基材の経糸方向が、2層以上のプリプレグの間で例えば±2°の範囲内で変動してもよい。
【0022】
半導体パッケージ用の基板材料を製造する方法の一実施形態は、複合基材の引張弾性率が、経糸方向D11においてE0で、経糸方向D11に対して45°の方向D45においてE45であり、弾性率比E45/E0が0.60以下となるように、プリプレグ1を選択することを含む。弾性率比E45/E0の値に基づいてプリプレグを選択することによって、反りが抑制された半導体パッケージを与える基板材料を得ることができる。基板材料を製造する方法は、1層のプリプレグ、又は2層以上のプリプレグを含む積層体を加熱することによって硬化性樹脂組成物を硬化し、それによって複合基材を形成することを更に含んでもよい。
【0023】
以下、複合基材の弾性率比E45/E0と半導体パッケージにおける反り量との関係を検証したシミュレーションの結果について説明する。
【0024】
1.複合基材の解析
(1)プリプレグ
材料特性予測ツールを用いた解析のための入力パラメータとして、プリプレグから形成される複合基材の特性を以下のように設定した。プリプレグの体積を基準とする繊維基材の比率を45体積%又は60体積%に設定した。
繊維基材を構成する繊維(経糸及び緯糸)
・引張弾性率:75GPa
・ポアソン比:0.25
・密度:1.3g/cm3
・熱膨張率:5.6ppm/℃
・経糸と緯糸との角度:90°
硬化性樹脂組成物(硬化物)
・引張弾性率:1.0GPa、2.5GPa又は10GPa
・ポアソン比:0.3
・密度:2.6g/cm3
・熱膨張率:25ppm/℃
【0025】
(2)材料特性予測ツールによる解析
硬化性樹脂組成物の硬化物の引張弾性率、及び繊維基材の体積比率の組み合わせを表1に示されるように設定した実施例1~3及び比較例1のプリプレグに関して、材料特性予測ツール(MSCソフトウェア株式会社製、Digimat2019)を用いた解析により、各プリプレグから形成される複合基材の引張弾性率E0,E45、及び弾性率比E45/E0を求めた。
温度20℃において、複合基材に対して、経糸方向にひずみ速度0.1/秒で1%の歪みを与えたときの経糸方向の応力を解析によって求めた。求められた応力をひずみで除すことにより、引張弾性率E0を算出した。複合基材に対してひずみを与える方向を経糸方向に対して45°の方向に変更したこと以外はE0の算出と同様の方法で、引張弾性率E45を算出した。得られた値から、弾性率比E45/E0を求めた。
【0026】
2.半導体パッケージの反り
図2に示される半導体パッケージ(FC-BGA)のモデルに関して、構造解析ソフトウェア(MSCソフトウェア株式会社製、Marc2017)を用いた解析によって、チップの搭載およびアンダーフィルの硬化に伴って発生する反り量を求めた。
図2に示される半導体装置30は、各実施例又は比較例のプリプレグから形成された複合基材1Aからなる基板材料3と、基板材料3上に搭載された半導体チップ5と、基板材料3と半導体チップ5との間に介在するアンダーフィル7とを有する。基板材料3は正方形の主面を有しており、主面の角の位置に半導体チップ5を配置した。入力パラメータとして、基板材料3、半導体チップ5及びアンダーフィル7に関して以下の値を設定した。
基板材料(複合基材)
・サイズ:60mm×60mm(厚さ0.8mm)
半導体チップ
・サイズ:25mm×25mm(厚さ0.725mm)
・引張弾性率:167GPa
・ポアソン比:0.27
・熱膨張率:3.2ppm/℃
アンダーフィル
・サイズ:25mm×25mm(厚さ0.09mm)
・引張弾性率:11GPa
・ポアソン比:0.3
・熱膨張率:20ppm/℃
【0027】
構造の対称性を考慮し、1/4モデルで解析を実施した。要素クラスは20節点の六面体とした。作製したモデルの節点数は11631となり、要素数は2350となった。140℃における応力をゼロ点として、そこから20℃まで温度が低下したときの半導体パッケージの反り量を求めた。反りは、半導体チップ側に凸となる向きで発生した。ここで算出された反り量は、基板材料3の底面の、初期の位置を基準とする高さの最大値である。
【0028】
表1に示される解析結果のとおり、弾性率比E45/E0が0.60以下であると、反りの発生が顕著に抑制されることが確認された。弾性率比E45/E0が小さいことは、複合基材の経糸又は緯糸方向における引張弾性率が相対的に高いことを意味し、これが熱応力に起因する反りの抑制に寄与すると考えられる。また、E45が相対的に低いと、部材同士の熱膨張率差に起因する応力が緩和され、このことも反り抑制に寄与すると考えられる。
【0029】
【符号の説明】
【0030】
1…プリプレグ、1A…複合基材、3…基板材料、5…半導体チップ、7…アンダーフィル、10…繊維基材、11…経糸、12…緯糸、20…硬化性樹脂組成物、30…半導体パッケージ、D11…経糸方向、D12…緯糸方向、D45…経糸方向に対して45°の方向。