(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110295
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】遷移金属錯体-ケイ素複合体および触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 31/24 20060101AFI20220722BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20220722BHJP
C07F 7/18 20060101ALI20220722BHJP
C07F 7/08 20060101ALI20220722BHJP
C07F 5/04 20060101ALI20220722BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220722BHJP
【FI】
B01J31/24 Z
B01J31/22 Z
C07F7/18 X
C07F7/08 C
C07F5/04 A
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005602
(22)【出願日】2021-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】砂田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 龍好
【テーマコード(参考)】
4G169
4H039
4H048
4H049
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC31A
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE27A
4G169BE27B
4G169BE32A
4G169BE32B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169BE42B
4G169CB25
4G169CB80
4G169DA02
4H039CA41
4H039CA91
4H039CA92
4H039CD20
4H039CD90
4H039CF10
4H039CF30
4H048AA02
4H048AC90
4H048BA20
4H048BA81
4H048VA77
4H048VB10
4H049VN01
4H049VP02
4H049VQ07
4H049VQ78
4H049VR23
4H049VR41
4H049VS07
4H049VS78
4H049VT15
4H049VT16
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】ヒドロシリル化等の反応触媒として利用可能な材料を提供する。
【解決手段】 遷移金属錯体と、前記遷移金属錯体を担持する担体とを含み、前記担体はSi-H基を有するケイ素系材料からなり、前記ケイ素系材料は、ケイ素系ポリマー、ケイ素系セラミックス、および金属シリコンからなる群から選択される、複合体を提供する。また、遷移金属と、前記遷移金属を担持する担体とを含み、前記担体はSi-H基を有するケイ素系材料からなり、前記ケイ素系材料は、ケイ素系ポリマー、ケイ素系セラミックス、および金属シリコンからなる群から選択される、複合体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属錯体と、前記遷移金属錯体を担持する担体とを含み、前記担体はSi-H基を有するケイ素系材料からなり、前記ケイ素系材料は、ケイ素系ポリマー、ケイ素系セラミックス、および金属シリコンからなる群から選択される、複合体。
【請求項2】
遷移金属と、前記遷移金属を担持する担体とを含み、前記担体はSi-H基を有するケイ素系材料からなり、前記ケイ素系材料は、ケイ素系ポリマー、ケイ素系セラミックス、および金属シリコンからなる群から選択される、複合体。
【請求項3】
前記遷移金属錯体または前記遷移金属の遷移金属原子は、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、および銅(Cu)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
前記ケイ素系ポリマーは、ポリシラン系ポリマー、ポリシロキサン系ポリマー、ポリシラザン系ポリマー、ポリカルボシラン系ポリマー、ポリメタロカルボシラン系ポリマーおよびこれらの誘導体、ならびに、側鎖にSiH基を有するポリマーから選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項5】
前記担体は粒子状または板状である、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項6】
前記担体は、Si-H基を有するシリコン粒子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項7】
前記遷移金属錯体は、アルケン、アルキン、カルボニル、ハロゲン原子、有機酸、ヒドロキシ、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、ケトンおよびカルベンから選択される少なくとも1種の配位子を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項8】
前記遷移金属錯体または前記遷移金属の遷移金属原子と、前記担体のシリコン原子とが結合している、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の複合体を含む触媒。
【請求項10】
ヒドロシリル化反応、ヒドロホウ素化反応、またはカップリング反応に用いられる触媒であって、請求項1~8のいずれか一項に記載の複合体を含む、触媒。
【請求項11】
不均一系触媒である、請求項9または10に記載の触媒。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載の触媒の存在下、不飽和結合含有化合物と、Si-H基含有化合物とを、ヒドロシリル化反応させることを含む、ヒドロシリル化物の製造方法。
【請求項13】
前記ヒドロシリル化物は、有機ケイ素反応剤、シリコーン原料、シランカップリング剤、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、アルコール、エーテル、アミン、チオール、およびチオエーテルから選択される少なくとも1種である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記不飽和結合含有化合物が、アルケン、アルキン、イミン、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸ハライド、尿素、チオアルデヒド、チオケトン、チオエステル、チオアミド、チオカルボン酸、チオカルボン酸無水物、チオカルボン酸ハライド、アリル化合物、およびチオ尿素、ならびにこれらの誘導体から選択される少なくとも1種である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
遷移金属錯体またはその前駆体と、Si-H基を有するケイ素系材料とを混合して複合体を形成することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属錯体とケイ素系材料からなる担体との複合体およびその触媒としての使用、特に、ヒドロシリル化等の反応における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルケン類やアルキン類の不飽和化合物に対してSi-H官能性化合物を付加反応するヒドロシリル化反応は、有機ケイ素化物を合成する目的で広く用いられる、産業的にも有用な合成反応である。得られる有機ケイ素化合物(アルキルシラン又はアルケニルシラン)は、シランカップリング剤、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、シリコーンオイル製造用の原材料等として様々な分野で用いられる。
ヒドロシリル化反応は、典型的には、白金触媒の存在下で行われる。代表的な白金触媒としては、Speier触媒、Karstedt触媒、(COD)PtCl2触媒などが触媒活性や入手容易性の面から多く用いられている。しかし、白金触媒は、高価な貴金属元素である白金(Pt)を含有するため、非常に高価である。より安価に使用できる金属化合物触媒が望まれており、数多くの研究が進められている。
【0003】
貴金属フリーの金属触媒として、例えば、ビスイミノピリジン配位子を有する鉄錯体触媒が報告されている(非特許文献1)。しかし、この触媒は、特殊な窒素3座配位子を必要とすること、空気や水に対して不安定であり取り扱い性に劣ること、均一系触媒であるため、再使用が困難であることなどの問題点がある。
また、イソシアニド配位子を有する鉄またはコバルト錯体触媒が報告されている(非特許文献2)。しかし、この触媒も均一系触媒であるため、再使用が困難であるといった問題点がある。
このほか、様々な金属触媒が提案されている(非特許文献3~5)。これらの触媒も均一系触媒であるために再使用が困難であることに加え、触媒活性や取り扱い性などの点で改善の余地がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chirik, P. J., et al., Science, 2012,335, 567-570
【非特許文献2】Nagashima, H., et al., J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 2480-2483
【非特許文献3】Deng, L., et al., ACS Catal. 2016, 6, 290-300
【非特許文献4】Hu, X, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 12295-12299
【非特許文献5】Holland, P. L., et al., J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 13244-13247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、ヒドロシリル化等の反応などに利用可能な新規な触媒が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は例えば以下の通りである。
[1] 遷移金属錯体と、前記遷移金属錯体を担持する担体とを含み、前記担体はSi-H基を有するケイ素系材料からなり、前記ケイ素系材料は、ケイ素系ポリマー、ケイ素系セラミックス、および金属シリコンからなる群から選択される、複合体。
[2] 遷移金属と、前記遷移金属を担持する担体とを含み、前記担体はSi-H基を有するケイ素系材料からなり、前記ケイ素系材料は、ケイ素系ポリマー、ケイ素系セラミックス、および金属シリコンからなる群から選択される、複合体。
[2a] 前記遷移金属錯体または前記遷移金属は、周期表第7~11族に属する遷移金属原子からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属原子を含む、[1]または[2]に記載の複合体。
[3] 前記遷移金属錯体または前記遷移金属の遷移金属原子は、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、および銅(Cu)からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の複合体。
[4] 前記ケイ素系ポリマーは、ポリシラン系ポリマー、ポリシロキサン系ポリマー、ポリシラザン系ポリマー、ポリカルボシラン系ポリマー、ポリメタロカルボシラン系ポリマーおよびこれらの誘導体、ならびに、側鎖にSiH基を有するポリマーから選択される少なくとも1種を含む、[1]~[3]、[2a]のいずれかに記載の複合体。
[5] 前記担体は粒子状または板状である、[1]~[4]、[2a]のいずれかに記載の複合体。
[6] 前記担体は、Si-H基を有するシリコン粒子である、[1]~[5]、[2a]のいずれかに記載の複合体。
[7] 前記遷移金属錯体は、アルケン、アルキン、ハロゲン原子、有機酸、ヒドロキシ、カルボニル、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、分子状窒素、アルデヒド、ケトンおよびカルベンから選択される少なくとも1種の配位子を含む、[1]~[6]、[2a]のいずれかに記載の複合体。
[8] 前記遷移金属錯体の遷移金属原子と、前記担体のシリコン原子とが結合している、[1]~[7]、[2a]のいずれかに記載の複合体。
[8a] 前記複合体に含まれるケイ素原子(Si)と前記遷移金属錯体の遷移金属原子(M)とのモル比(Si:M)が、100:1~1:10の範囲(好ましくは100:1~1:5の範囲、より好ましくは50:1~1:2の範囲、さらに好ましくは20:1~1:1の範囲、特に好ましくは10:1~2:1の範囲)である、[1]~[7]、[2a]のいずれかに記載の複合体。
【0007】
[9] [1]~[8]、[2a]、[8a]のいずれかに記載の複合体を含む触媒。
[10] ヒドロシリル化反応、ヒドロホウ素化反応、またはカップリング反応に用いられる触媒であって、[1]~[8]、[2a]、[8a]のいずれかに記載の複合体を含む、触媒。
[10a] 前記カップリング反応はKumada-Tamao-Corriuカップリング反応である、[9]に記載の触媒。
[11] 不均一系触媒である、[9]、[10]、[10a]のいずれかに記載の触媒。
【0008】
[12] [9]~[11]、[9a]のいずれかに記載の触媒の存在下、脂肪族不飽和結合含有化合物および/またはカルボニル基含有化合物と、Si-H基含有化合物とを、ヒドロシリル化反応させることを含む、ヒドロシリル化物の製造方法。
[13] 前記ヒドロシリル化物は、有機ケイ素反応剤、シリコーン原料、シランカップリング剤、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、アルコール、エーテル、アミン、チオール、およびチオエーテルから選択される少なくとも1種である、[12]に記載の方法。
[13a] [9]~[11]、[9a]のいずれかに記載の触媒の存在下、不飽和結合含有化合物と、B-H基含有化合物とを、ヒドロホウ素化反応させることを含む、ヒドロホウ素化物の製造方法。
[14] 前記不飽和結合含有化合物が、アルケン、アルキン、イミン、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸ハライド、尿素、チオアルデヒド、チオケトン、チオエステル、チオアミド、チオカルボン酸、チオカルボン酸無水物、チオカルボン酸ハライド、およびチオ尿素から選択される少なくとも1種である、[12]、[13]、[13a]のいずれかに記載の方法。
【0009】
[15] 遷移金属錯体またはその前駆体と、Si-H基を有するケイ素系材料とを混合して複合体を形成することを含む、[1]~[8]、[2a]、[7a]のいずれかに記載の複合体の製造方法。
[15a] [1]~[8]、[2a]、[8a]のいずれかに記載の複合体であって、遷移金属錯体とSi-H基を有するケイ素系材料とを混合して複合体を形成することを含む製造方法により製造された複合体。
[15b] [15a]に記載の複合体を含む触媒。
[16] [9]~[11]、[9a]のいずれかに記載の触媒を用いて反応を行なうことを特徴とする触媒反応方法。
[16a] 触媒反応が、ヒドロシリル化反応、ヒドロホウ素化反応、またはカップリング反応である、[16]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以下の一以上の効果を有する。 (1)遷移金属錯体または遷移金属とケイ素系材料からなる担体との新規な複合体が提供される。該複合体は、ヒドロシリル化、ヒドロホウ素化反応、カップリング反応などの各種反応において触媒活性を有する。一部の実施形態においては、該複合体を触媒として用いてヒドロシリル化、ヒドロホウ素化反応、カップリング反応などの反応を行う方法が提供される。
(2)該触媒は、不均一系触媒であり、再使用可能である。
(3)遷移金属錯体または遷移金属とケイ素系材料からなる担体との複合体は、安価な材料から簡便な方法で合成可能である。該触媒を用いることで、安価かつ効率的に有機ケイ素化合物などの生成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1A~
図1Dは、本発明の一形態による担体としてのケイ素系ポリマーであるポリシランに遷移金属錯体(ML
m)が担持されてなる複合体の模式図である。
【
図2】
図2A~
図2Cは、本発明の一形態による担体としての金属シリコンからなるシリコン粒子に遷移金属錯体(ML
m)が担持されてなる複合体の模式図である。
【
図3】ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を用いたα-メチルスチレンのヒドロシリル化反応において、60℃、80℃、または100℃の反応温度における、1回目(1st run)、2回目(2nd run)、および3回目(3rd run)の触媒サイクルのヒドロシリル化物の収率(yield/%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、「A~B」および「C~D」が記載されている場合、「A~D」および「C~B」の範囲も数値範囲として、本発明に範囲に含まれる。
【0013】
以下に本明細書において記載する用語等の意義を説明する。
「炭化水素基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状、環状または分岐状の飽和または不飽和の炭化水素から水素原子を1個または2個以上除いた基を意味する。具体的には、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキレン基、アルケニレン基などが挙げられる。
「アルキル基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状、分岐状、または環状の1価の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。
「アルケニル基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖状、分岐状、または環状の1価の炭化水素基を意味する。「アルケニレン基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐の2価の炭化水素基を意味する。「アルケニル」や「アルケニレン」としては例えば、モノエン、ジエン、トリエン及びテトラエンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「アルキニル基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する直鎖状、分岐状、または環状の1価の炭化水素基を意味する。
「アリール基」とは、芳香族性の炭化水素環式基を意味する。
「アラルキル基」とは、アルキル基の水素原子の1つがアリール基で置換されている基を意味する。
「ハロゲン原子」としては、具体的にはフッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、ヨウ素原子(I)が挙げられる。
【0014】
1.複合体
本発明の一形態は、遷移金属錯体と、前記遷移金属錯体を担持する担体とを含み、前記担体はSi-H基を有するケイ素系材料からなる、複合体(以下「複合体(1)」ともいう)に関する。本発明の別の一形態は、遷移金属と、前記遷移金属を担持する担体とを含み、前記担体はSi-H基を有するケイ素系材料からなる、複合体(以下「複合体(2)」ともいう)に関する。以下、複合体(1)および複合体(2)を総称して「複合体」ともいう。本形態の複合体は、脂肪族不飽和結合に対するヒドロシリル化反応などの各種反応において触媒活性を有する。また、該触媒は不均一系触媒であり、再使用可能である。
【0015】
本明細書において「担持」とは、遷移金属錯体または遷移金属が、ケイ素系材料に、化学的および/または物理的手段により、付着または結合した状態をいう。上記化学的手段の代表例としては、化学結合が挙げられる。化学結合の具体例としては、共有結合、金属結合、配位結合、イオン結合、水素結合、分子間力(ファンデルワールス力)が挙げられる。幾つかの実施形態において、化学結合は、共有結合、配位結合、またはイオン結合である。一部の実施形態において、化学結合は共有結合である。上記物理的手段としては、化学的手段以外の任意の適切な固定手段が採用され得る。具体例としては、吸着等が挙げられる。
ケイ素系材料が遷移金属錯体または遷移金属を担持していることは、赤外吸収スペクトル、蛍光X線分析、XPS(X線光電子分光)、および/またはXAFS(エックス線吸収微細構造)解析を用いて確認することができる。
【0016】
幾つかの実施形態において、複合体は、ケイ素系材料のシリコン原子(Si)と遷移金属原子との間に化学結合が形成されている。該実施形態では、シリコン原子と遷移金属原子との間の結合はケイ素系材料のSi-H基(ヒドロシリル基)と遷移金属錯体との反応により形成されており、このような結合の存在により遷移金属錯体がケイ素系材料からなる担体に安定して担持され得る。
【0017】
幾つかの実施形態にかかる複合体では、遷移金属錯体または遷移金属の遷移金属原子(M)が担体としてのケイ素系材料(ケイ素ポリマーおよびシリコン粒子)における隣接した2つのシリコン原子と化学結合を形成している。このような形態の複合体では、触媒構造の安定化、触媒性能の向上、再使用性の向上などの利点がある。
特定の実施形態において、複合体は、下記式(I)で表される構造を有する。なお、本明細書においては、共有結合、配位結合およびイオン結合などの化学結合の種類を特に区別することなく実線で表す。
【化1】
式(I)中、Mは遷移金属原子を表し、Lは配位子を表し、mは、遷移金属原子に配位する配位子の数を表す。mは遷移金属原子の酸化数や配位子の種類により決定される。mは0以上の整数を表す。
幾つかの実施形態において、mは1以上の整数を表し、通常、1~6の整数を表す。mが1以上の整数である場合、複合体は、遷移金属錯体と、前記遷移金属錯体を担持する担体とを含み、前記担体はSi-H基を有するケイ素系材料からなる(上記複合体(1)の形態)。
幾つかの実施形態において、mは0の整数を表す。mが0である場合、複合体は、遷移金属と、前記遷移金属を担持する担体とを含み、前記担体はSi-H基を有するケイ素系材料からなる(上記複合体(2)の形態)。本発明の実施形態に係る複合体は、遷移金属錯体とケイ素系材料からなる担体とから形成されるが、複合体の形成過程において、遷移金属錯体の配位子が解離し、複合体形成後に複合体を構成する遷移金属錯体に配位子が含まれない場合(すなわち、上記式(I)中のmが0である場合)がある。このような構造(例えば上記式(I)中のmが0である構造)も本発明の複合体に包含される。また、一部の実施形態において、複合体を構成する遷移金属は、配位子が配位しているものと配位子が配位していないものとの組合せである場合がある。すなわち、複合体に含まれる遷移金属原子の一部は配位子を含む遷移金属錯体(例えば上記式(I)中のm≧1)の形態で担体に担持され、一部は配位子を含まない遷移金属の形態(例えば上記式(I)中のm=0)で担体に担持されてもよい。
【0018】
本発明において、遷移金属錯体とケイ素系材料との複合化形態は、上記形態に限定されるものではない。例えば、遷移金属原子(M)は1つのシリコン原子との間で結合を形成していてもよいし、互いに隣接していない2つのシリコン原子と結合を形成してもよい。
幾つかの実施形態において、複合体は、下記式(II)で表される構造を有する。
【化2】
式(II)におけるM、L、およびmの定義は式(I)と同様である。
【0019】
幾つかの実施形態において、複合体は、下記式(III)で表される構造を含有する。
【化3】
式(III)におけるM、L、およびmの定義は式(I)と同様である。
式(III)中、Yは、-O-、-CR
AR
B-、または-NR
A-を示す。R
AおよびR
Bは各々独立して、水素原子又は炭素原子数1~30のアルキル基および炭素原子数6~30のアリール基である。
複合体における遷移金属原子と担体との間の結合の形態は単一のもの(例えば、上記式(I)、式(II)、式(III)のいずれか)であっても、複数種類の組合せ(例えば、上記式(I)、式(II)、および式(III)の2種以上の組合せ)であってもよい。
【0020】
(遷移金属錯体)
遷移金属錯体は、遷移金属原子(M)に1つまたは複数の配位子(L)が配位結合した構造を有する。
本明細書において「配位結合」は、電子対供与体と金属(M)上の配位部位との間の相互作用であって、その結果、電子対供与体と金属(M)との間に引力が生じる、相互作用を指す。幾つかの実施形態において、上記式(I)~(III)におけるシリコン原子(Si)と遷移金属原子(M)との間は配位結合が形成されている。
【0021】
遷移金属錯体としては、ケイ素系材料のシリコン原子(Si)と相互作用して複合体を形成し得るものであれば特に限定されない。遷移金属錯体に含まれる配位子は1種類から構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。遷移金属錯体に含まれる遷移金属原子は1種類から構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。また、複合体は1種類の遷移金属錯体を含んでいてもよいし、2種以上の遷移金属錯体を含んでいてもよい。
【0022】
遷移金属錯体に含有される遷移金属原子は特に制限されず、周期表第3~11族に属する遷移金属原子からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属原子のいずれであっても良い。好ましくは周期表第7~11族に属する遷移金属原子からなる群より選択される少なくとも1種の非貴金属である遷移金属原子であり、中でも、価格や入手容易性の観点から、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)および亜鉛(Zn)からなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属原子が好ましく、触媒活性および選択性の観点から、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、および銅(Cu)からなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属原子がより好ましい。これらの遷移金属原子は、ケイ素系材料のヒドロシリル基(Si-H)と反応して、シリコン原子(Si)との間に結合を形成し得、これにより遷移金属錯体とケイ素系材料との複合体を形成し得る。
【0023】
遷移金属錯体を構成する配位子は、遷移金属原子に配位し得る有機基であればよく、特に制限されない。例えば、配位子に含まれる2つの電子が遷移金属原子に配位する二電子配位子が挙げられる。二電子配位子としては特に限定されるものではなく、金属錯体の二電子配位子として従来用いられている任意の配位子を用いることができる。例えば、非共有電子対および/またはπ電子を有する配位子が挙げられる。典型的には、アルケン、アルキン、ハロゲン原子、有機酸、ヒドロキシ、カルボニル(CO)、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、ケトンおよびカルベンから選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0024】
イソシアニドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、Y-NCで示されるものが好適である。
ここでYは、置換されていてもよく、かつ、酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)およびリン原子(P)から選択される原子が1個または2個以上介在していてもよい炭素数1~30の1価有機基を表す。
炭素数1~30の1価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭素数1~30の1価炭化水素基が好ましい。1価炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0025】
アルキル基としては、直鎖、分岐鎖、環状のいずれでもよく、好ましくは炭素数1~10のアルキル基であり、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-エイコサニル基等の直鎖または分岐鎖アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、ノルボルニル、アダマンチル基等のシクロアルキル基などが挙げられる。
【0026】
アルケニル基としては、炭素数2~20のアルケニル基が好ましく、その具体例としては、エテニル、n-1-プロペニル、n-2-プロペニル、1-メチルエテニル、n-1-ブテニル、n-2-ブテニル、n-3-ブテニル、2-メチル-1-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-エチルエテニル、1-メチル-1-プロペニル、1-メチル-2-プロペニル、n-1-ペンテニル、n-1-デセニル、n-1-エイコセニル基等が挙げられる。
アルキニル基としては、炭素数2~20のアルキニル基が好ましく、その具体例としては、エチニル、n-1-プロピニル、n-2-プロピニル、n-1-ブチニル、n-2-ブチニル、n-3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル、n-1-ペンチニル、n-2-ペンチニル、n-3-ペンチニル、n-4-ペンチニル、1-メチル-n-ブチニル、2-メチル-n-ブチニル、3-メチル-n-ブチニル、1,1-ジメチル-n-プロピニル、n-1-ヘキシニル、n-1-デシニル、n-1-ペンタデシニル、n-1-エイコシニル基等が挙げられる。
【0027】
アリール基としては、好ましくは炭素数6~30、より好ましくは炭素数6~20のアリール基であり、その具体例としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントリル、フェナントリル、o-ビフェニリル、m-ビフェニリル、p-ビフェニリル基等が挙げられる。
【0028】
アラルキル基としては、好ましくは炭素数7~30、より好ましくは炭素数7~20のアラルキル基であり、その具体例としては、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、ナフチルメチル、ナフチルエチル、ナフチルプロピル基等が挙げられる。
【0029】
また、Yとしての、炭素数1~30の1価の有機基は置換基を有していてもよく、任意の位置に同一または異なる複数の置換基を有していてもよい。置換基の具体例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基等のアミノ基等が挙げられる。
アルコキシ基としては、その炭素数は特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数1~10であり、その具体例としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、i-プロポキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ、s-ブトキシ、t-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキソキシ、n-ヘプチルオキシ、n-オクチルオキシ、n-ノニルオキシ、n-デシルオキシ基等が挙げられる。
【0030】
イソシアニド化合物の具体例としては、メチルイソシアニド、エチルイソシアニド、n-プロピルイソシアニド、シクロプロピルイソシアニド、n-ブチルイソシアニド、イソブチルイソシアニド、sec-ブチルイソシアニド、t-ブチルイソシアニド、n-ペンチルイソシアニド、イソペンチルイソシアニド、ネオペンチルイソシアニド、n-ヘキシルイソシアニド、シクロヘキシルイソシアニド、シクロヘプチルイソシアニド、1,1-ジメチルヘキシルイソシアニド、1-アダマンチルイソシアニド、2-アダマンチルイソシアニド等のアルキルイソシアニド;フェニルイソシアニド、2-メチルフェニルイソシアニド、4-メチルフェニルイソシアニド、2,4-ジメチルフェニルイソシアニド、2,5-ジメチルフェニルイソシアニド、2,6-ジメチルフェニルイソシアニド、2,4,6-トリメチルフェニルイソシアニド、2,4,6-トリt-ブチルフェニルイソシアニド、2,6-ジイソプロピルフェニルイソシアニド、1-ナフチルイソシアニド、2-ナフチルイソシアニド、2-メチル-1-ナフチルイソシアニド等のアリールイソシアニド;ベンジルイソシアニド、フェニルエチルイソシアニド等のアラルキルイソシアニドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
アミンとしては、R3Nで示される第3級アミンが挙げられる。
ここで、Rは互いに独立して、ハロゲン原子、水酸基(OH)、アルコキシ基で置換されていてもよい、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。
ハロゲン原子、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびアラルキル基、ならびにアルコキシ基の具体例はYとしての有機基または置換基として上記で例示した基と同様のものが挙げられる。
【0032】
イミンとしては、RC(=NR)R(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。中でも、触媒活性や触媒安定性の点で、ジイミン(例えば、N,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)ブタン-2,3-ジイミン、N,N’-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)エタン-1,2-ジイミンなど)、ビスイミノピリジン、ジアミン、トリアミンが好ましい。
【0033】
ホスフィンとしては、例えば、R3P(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。中でも、触媒活性や触媒安定性の点で、3級アルキルホスフィンや3級アリールホスフィン(例えば、トリ-tert-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなど)、3級アルキルホスファイト、3級アリールホスファイト(トリメチロールプロパンホスファイトなど)が好ましい。
【0034】
アルシンとしては、例えば、R3As(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0035】
アルコールとしては、例えば、ROH(Rは上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0036】
チオールとしては、上記アルコールの酸素原子を硫黄原子で置換したものが挙げられる。
【0037】
エーテルとしては、例えば、ROR(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0038】
スルフィドとしては、上記エーテルの酸素原子を硫黄原子で置換したものが挙げられる。
【0039】
ニトリルとしては、例えば、RCN(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0040】
アルデヒドとしては、例えば、RCHO(Rは上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0041】
ケトンとしては、例えば、RCOR(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0042】
カルベンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、下記式(i)で示されるものが挙げられる。
【化4】
上記式(i)において、Zは、炭素原子、窒素原子または酸素原子を表し、Zが炭素原子のとき、bは3であり、Zが窒素原子のとき、bは2であり、Zが酸素原子のとき、bは1である。
R
1およびR
2は、互いに独立して、ハロゲン原子またはアルコキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~30のアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表すが、R
1のいずれか1つと、R
2のいずれか1つが結合して2価の有機基を構成して環状構造をとっていてもよく、この場合、環状構造内に窒素原子および/または不飽和結合を含んでいてもよい。
ハロゲン原子、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびアラルキル基、ならびにアルコキシ基の具体例はYとしての有機基または置換基として上記で例示した基と同様のものが挙げられる。
【0043】
中でも、カルベンとしては、環状のカルベン化合物が好ましい。環状カルベン化合物の具体例としては、以下の化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【化5】
【0044】
含窒素ヘテロ環としては、例えば、ピロール、イミダゾール、ピリジン、ターピリジン、ビスイミノピリジン、ピリミジン、オキサゾリン、イソオキサゾリン並びにこれらの誘導体等が挙げられる。中でも、下記式(ii)で表されるビスイミノピリジン化合物、式(iii)で表されるターピリジン化合物が好ましい。
【化6】
上記式(ii)および(iii)において、R
10は、互いに独立して、水素原子または置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、アルキル基の具体例としては上記で例示した基と同様のものが挙げられる。
ビスイミノピリジン化合物の具体例としては、2,6-ビス[1-(2,6-ジメチルフェニルイミノ)エチル]ピリジン、2,6-ビス[1-(2,6-ジエチルフェニルイミノ)エチル]ピリジン、2,6-ビス[1-(2,6-ジイソプロピルフェニルイミノ)エチル]ピリジン等が挙げられる。
ターピリジン化合物の具体例としては、2,2’:6’,2”-テルピリジン等が挙げられる。
【0045】
アルケンとしては、直鎖状、分岐状または環状のアルケンのいずれでもよい。直鎖状、分岐状のアルケンとしては、例えば、炭素数2~30、より好ましくは炭素数2~16の直鎖状、分岐状のアルケンが挙げられる。環状アルケン(シクロアルケン)としては、例えば、炭素数4~12、より好ましくは炭素数4~8のシクロアルケンであり、具体例としては、シクロオクタジエン、シクロオクタテトラエン等が挙げられる。
アルキンとしては、直鎖状、分岐状または環状のアルキンのいずれでもよい。直鎖状、分岐状のアルキンとしては、例えば、炭素数2~30、より好ましくは炭素数2~14の直鎖状、分岐状のアルキンが挙げられる。
有機酸としては特に限定されず、従来遷移金属の配位子として知られている任意のものを使用可能である。例えば、酢酸などのカルボン酸、アルコール、フェノール、スルホン酸などが挙げられる。
【0046】
このほか、遷移金属錯体を構成する配位子としては、複数の配位座を持つ配位子(キレート)であってもよい。
【0047】
中でも、入手容易性・構造多様性や触媒性能の点で、遷移金属錯体を構成する配位子としては、カルボニル(CO)、イソシアニド、含窒素配位子(ジイミンのようなイミン、ビスイミノピリジンのような含窒素ヘテロ環、トリアルキルアミンのようなアミン)、アルケン(例えば、エチレンやシクロオクタジエン)、含リン配位子(1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンのような3級アルキルホスフィンなどのホスフィン)などが挙げられる。
一実施形態において、遷移金属錯体は、遷移金属カルボニル(M(CO)m[式中、Mは遷移金属原子を表し、mは1以上の整数、例えば1~6の整数を表す])、イソシアニド配位遷移金属(M-Lm[式中、Mは遷移金属原子を表し、mは1以上の整数、例えば1~6の整数を表し、Lはイソシアニドを表す])、遷移金属-含窒素配位子錯体(M-Lm[式中、Mは遷移金属原子を表し、mは1以上の整数、例えば1~6の整数を表し、Lは含窒素配位子を表す])、アルケン配位遷移金属(M-Lm[式中、Mは遷移金属原子を表し、mは1以上の整数、例えば1~6の整数を表し、Lはアルケン分子を表す])、ホスフィン配位遷移金属(M-Lm[式中、Mは遷移金属原子を表し、mは1以上の整数、例えば1~6の整数を表し、Lはホスフィンを表す])から選択される少なくとも1種である。
【0048】
遷移金属原子がマンガン(Mn)である場合の遷移金属錯体の具体例としては、Mn2(CO)10が挙げられる。
遷移金属原子が鉄(Fe)である場合の遷移金属錯体の具体例としては、Fe(CO)5、ビスイミノピリジン配位鉄、ビス(ホスフィン)配位鉄が挙げられる。
遷移金属原子がコバルト(Co)である場合の遷移金属錯体の具体例としては、Co2(CO)8が挙げられる。
遷移金属原子がコバルト(Ni)である場合の遷移金属錯体の具体例としては、ビスシクロオクタジエンニッケルなどのアルケン配位ニッケルが挙げられる。
遷移金属錯体の具体例は、例えば、実験化学講座〈21〉有機遷移金属化合物、超分子錯体、Comprehensive Organometallic Chemistry IIIに記載されており、これらに開示される遷移金属錯体を本発明においても好適に使用することができる。
【0049】
(担体)
担体は、Si-H基を有するケイ素系材料からなる。ケイ素系材料は、ケイ素系ポリマー、ケイ素系セラミックス、および金属シリコンからなる群から選択される。
【0050】
一実施形態において、担体は、Si-H基を有するケイ素系ポリマーである。
本明細書において、ケイ素系ポリマーは、シリコン原子を含有する構成単位を含むポリマーを指す。本発明のケイ素系ポリマーはSi-H基を有するが、当該Si-H基は、ポリマーの主鎖に導入されていてもよいし、ポリマーの側鎖に導入されていてもよい。具体的には、ケイ素系ポリマーとしては、(i)主骨格(主鎖)にシリコン原子を含み、当該主骨格のシリコン原子の少なくとも1つが水素原子と結合し、Si-H基を有するポリマー、および、(ii)側鎖にSi-H基を有するポリマーが挙げられる。
【0051】
(i)主骨格(主鎖)にシリコン原子(Si)を含むポリマーの例としては、ポリシラン系ポリマー、ポリシロキサン系ポリマー、ポリシラザン系ポリマー、ポリカルボシラン系ポリマー、ポリメタロカルボシラン系ポリマーおよびこれらの誘導体が挙げられる。これらのケイ素系ポリマーの主鎖骨格は直鎖状、はしご状、分岐状、籠状、ブラシ状、星状、環状、樹状などをとることができ、本発明においても任意の骨格のものを使用できる。
【0052】
ポリシラン系ポリマーとは、主骨格(主鎖)にSi-Si結合を複数有する構造(ポリシラン構造)を有するポリマーを指す。
ポリシロキサン系ポリマーとは、主骨格(主鎖)にSi-O-Si結合(シロキサン結合)を複数有する構造(ポリシロキサン構造)を有するポリマーを指す。
ポリシラザン系ポリマーとは、主骨格(主鎖)にSi-N結合を複数有する構造(ポリシラザン構造)を有するポリマーを指す。
ポリカルボシラン系ポリマーとは、主骨格(主鎖)にSi-C結合(カルボシラン結合)を複数有する構造(ポリカルボシラン構造)を有するポリマーを指す。
ポリメタロカルボシラン系ポリマーとは、主骨格(主鎖)に、カルボシラン結合及び1種又は2種以上のメタロキサン(-MO-、M:Ti, Zr等の金属元素)結合を有し、該カルボシラン及びメタロキサンの各結合が主鎖骨格中でランダムに結合したポリマー及び/又は該カルボンシラン結合のケイ素原子の少なくとも一部が該メタロキサン結合の各元素と酸素原子を介して結合し、これによって主鎖中のカルボシラン部分が架橋されるポリマーを指す。
これらの他、本発明では、ポリシラン構造、ポリシロキサン構造、ポリシロキサン構造などのシリコン原子を含有する主鎖骨格を1分子中に2種以上併せ持つポリマーを使用することができる。
これらのポリマーのうち、1以上のSi-H基を有するポリマーを用いればよい。
【0053】
図1A~
図1Dは、本発明の一形態による担体がケイ素系ポリマーであるポリシランである場合の複合体11の模式図である。
図1A~
図1D中のMは遷移金属原子を表し、Lは配位子を表し、polymerはポリシランのポリマー鎖を表す。mは、遷移金属原子に配位する配位子の数を表す。mは0以上の整数を表す。mは遷移金属原子(M)の価数や配位子の種類(配位子の電荷)に合わせて選択される。mが0である場合には、複合体11は、担体としてのケイ素系ポリマーであるポリシランに遷移金属(M)が担持されてなる(上記複合体(2)の形態)。mは、1以上の整数(例えば、1~6の整数)であり得る。mが1以上の整数である場合、複合体11は、担体としてのケイ素系ポリマーであるポリシランに遷移金属錯体(ML
m)が担持されてなる(上記複合体(1)の形態)。nはポリマーの繰り返し数を示し、例えば10~1,000,000の整数である。
【0054】
図1A~
図1Dに示される複合体11は、遷移金属錯体または遷移金属の遷移金属原子(M)とポリシランの1つもしくは近接した2つのシリコン原子(Si)との間に化学結合(-Si(-M(L
m))-もしくは-Si-M(L
m)-Si-)が形成された構成単位を有する。当該結合は、ポリシランの1つもしくは2つのヒドロシリル基(Si-H)と遷移金属錯体またはその前駆体との反応により形成される。一部の実施形態において、複合体11は、遷移金属原子(M)とケイ素系ポリマー(ポリシラン)の近接した2つのシリコン原子(Si)との間に化学結合(-Si-M(L
m)-Si-)を有する(
図1A)。一部の実施形態において、複合体11は、遷移金属原子(M)とケイ素系ポリマー(ポリシラン)の1つのシリコン原子(Si)との間に化学結合(-Si(-M(L
m))-)を有する(
図1B)。一部の実施形態において、複合体11は、その両方の化学結合(-Si(-M(L
m))-および-Si-M(L
m)-Si-)を有する(
図1C)。一部の実施形態において、複合体11は、ケイ素系ポリマー(ポリシラン)の異なるポリマー鎖中の2つのシリコン原子(Si)と遷移金属原子(M)との間に化学結合(-Si-M(L
m)-Si-)を有する(
図1D)。一部の実施形態の複合体11においては、ケイ素系ポリマーのポリマー鎖上では離れて存在する同一ポリマー鎖中の2つのシリコン原子(Si)が、ポリマー鎖の折り畳み等により互いに近接して位置し、遷移金属原子(M)との間に化学結合を形成していてもよい(図示せず)。
なお、担体がケイ素系ポリマーである場合、ケイ素系ポリマーに含まれるSi-H基の一部が遷移金属錯体または遷移金属(ML
m)の遷移金属原子(M)と化学結合を形成した構造(すなわち、遷移金属錯体または遷移金属(ML
m)が結合していないSi-H基がケイ素系ポリマーに残存する構造)を有していてもよいし、ケイ素系ポリマーに含まれるSi-H基の全部が遷移金属錯体または遷移金属(ML
m)の遷移金属原子(M)と化学結合を形成した構造(すなわち、遷移金属錯体または遷移金属(ML
m)が結合していないSi-H基が存在しない構造)を有していてもよい。
【0055】
(ii)側鎖にSi-H基を有するポリマーとは、例えば、ポリビニルアルコール、ポリスチレンのようなビニル系ポリマーなどの主鎖構造を有するポリマーの側鎖にSi-H基を有する構造が導入された構造を有するポリマーが挙げられる。Si-H基を有する構造としては、例えば、ジメチルヒドロシリル基、メチルヒドロシリル基のような-Si(R)2H(ここで、Rは、独立して、水素原子(H)または炭素数1~30のアルキル基である)が挙げられる。
具体例としては、ポリジメチルヒドロシリルビニルが挙げられる。
【0056】
ケイ素系ポリマーの形状は特に限定されない。例えば、ケイ素系ポリマーは、粒子状(粉末状)であってもよいし、板状であってもよいし、フィルム・シート状であってもよいし、さらに、針状であってもよい。幾つかの実施形態において、担体は、粒子状または板状のケイ素系ポリマーである。一実施形態において、担体は、ケイ素系ポリマーの粒子(粉末)である。
担体がケイ素系ポリマーである場合の複合体の形状は特に限定されない。例えば、複合体は、粒子状(粉末状)であってもよいし、板状であってもよいし、フィルム・シート状であってもよいし、さらに、針状であってもよい。一実施形態において、複合体は、粒子状(粉末状)である。
【0057】
一実施形態において、担体は、Si-H基を有するケイ素系セラミックスである。本明細書において、ケイ素系セラミックスは、シリコン原子を含有する酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物などの無機化合物の焼結体を指す。具体的には、シリカセラミックス、窒化ケイ素セラミックスおよび炭化ケイ素セラミックス、ホウ化ケイ素セラミックスが挙げられる。
シリカセラミックスとは、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とするセラミックスを指す。
窒化ケイ素セラミックスとは、窒化ケイ素(Si3N4)を主成分とするセラミックスを指す。
炭化ケイ素セラミックスは、炭化ケイ素粉が焼結した状態の非酸化物系セラミックスを指す。
ホウ化ケイ素セラミックスとは、ホウ化ケイ素(SiB、SiB3、SiB4、またはSiB6など)を主成分とするセラミックスを指す。
これらのケイ素系セラミックスのうちSi-H基を有する材料を用いることができる。ケイ素系セラミックスがSi-H基を含まない場合、ケイ素系セラミックスにSi-H基を導入する方法としては、例えば、水素ガスでの処理などの表面処理を行う方法がある。
【0058】
ケイ素系セラミックスの形状は特に限定されない。例えば、ケイ素系セラミックスは、粒子状(粉末状)であってもよいし、板状であってもよいし、シート状であってもよいし、針状であってもよい。幾つかの実施形態において、担体は、粒子状または板状のケイ素系セラミックスである。一実施形態において、担体は、ケイ素系セラミックスの粒子(粉末)である。
担体がケイ素系セラミックスである場合の複合体の形状は特に限定されず、粒子状(粉末状)であってもよいし、板状であってもよいし、シート状であってもよいし、針状であってもよい。一実施形態において、複合体は、粒子状(粉末状)である。
【0059】
一実施形態において、担体は、Si-H基を有する金属シリコンである。本明細書において、金属シリコンは、金属状ケイ素を指し、単体シリコンやアモルファスシリコンを含む。金属シリコンとしてはケイ素原子から構成され、主としてSi-Si結合から構成され、Si-H基を有するものであれば任意のものを使用可能である。幾つかの実施形態において、Si-H基を有する金属シリコンは、Siのみを組成として有する金属シリコン(Sin)にSi-H基が部分的に導入された構造を有する。幾つかの実施形態において、Si-H基を有する金属シリコンは、Siのみを組成として有する金属シリコン(Sin)の表面に、Si-H基が部分的に導入された構造を有する。
金属シリコンの形状は特に限定されない。例えば、ケイ素系セラミックスは、粒子状(粉末状)であってもよいし、板状であってもよいし、シート状であってもよいし、針状であってもよい。幾つかの実施形態において、担体は、粒子状または板状の金属シリコンである。特定の実施形態において、担体は、金属シリコンの粒子(粉末)(例えばシリコン粒子)である。
担体が金属シリコンである場合の複合体の形状は特に限定されず、粒子状(粉末状)であってもよいし、板状であってもよいし、シート状、針状であってもよい。
【0060】
図2A~
図2Cは、本発明の一形態による担体が金属シリコンである場合の複合体の模式図である。
図2A~
図2Cにおいて、担体としての金属シリコンである水素終端シリコン粒子(Si
n)に遷移金属錯体(ML
m)が担持されてなる複合体12を示す。
図2A~
図2C中のM、L、およびmは
図1A~
図1Dにおけるものと同義である。
図2A~
図2Cに示されるように、複合体12は、遷移金属錯体(ML
m)の遷移金属原子(M)とシリコン粒子(Si
n)の表面にある1つもしくは近接した2つのシリコン原子(Si)との間に化学結合(-Si(-M(L
m))-もしくは-Si-M(L
m)-Si-)が形成された構造を有する。当該結合は、水素終端シリコン粒子(Si
n)表面の1つもしくは近接した2つのヒドロシリル基(Si-H)と遷移金属錯体(ML
m)との反応により形成される。一部の実施形態において、複合体12は、遷移金属錯体(ML
m)の遷移金属原子(M)とシリコン粒子(Si
n)の表面にある近接した2つのシリコン原子(Si)との間に化学結合(-Si-M(L
m)-Si-)を有する(
図2A)。一部の実施形態において、複合体12は、遷移金属錯体(ML
m)の遷移金属原子(M)とシリコン粒子(Si
n)の表面にある1つのシリコン原子(Si)との間に化学結合(-Si(-M(L
m))-)を有する(
図2B)。一部の実施形態において、複合体12は、その両方の化学結合(-Si(-M(L
m))-および-Si-M(L
m)-Si-)を有する(
図2C)。なお、
図2A~
図2Cでは、シリコン原子(Si)と遷移金属原子(M)との結合を強調して示すために、シリコン粒子(Si
n)に対して1つまたは2つの遷移金属錯体(ML
m)が担持された構造を示した。ただし、本発明はかかる形態に限定されない。幾つかの実施形態では、シリコン粒子(Si
n)に対して、多数の遷移金属錯体(ML
m)が化学結合を介して担持されている。幾つかの実施形態において、複合体12は、シリコン粒子(Si
n)のSi-H基の一部が遷移金属錯体(ML
m)の遷移金属原子(M)と化学結合を形成している。幾つかの実施形態において、複合体12は、シリコン粒子(Si
n)のSi-H基の全部が遷移金属錯体(ML
m)の遷移金属原子(M)と化学結合を形成している。
遷移金属原子(M)とシリコン原子(Si)との間の結合形態(例えば
図2A~
図2Cのいずれか)は、遷移金属種とシリコンの物質量比を調整することにより制御し得る。
【0061】
幾つかの実施形態において、担体は粒子状(または粉末状)である。
【0062】
遷移金属錯体の担体への担持量(複合体中の遷移金属錯体の重量割合)は、触媒効率や選択性などの所望の特性に応じて適宜設定すればよい。例えば、複合体を触媒として用いる場合、複合体に含まれるケイ素原子(Si)と遷移金属原子(M)とのモル比(Si:M)が、100:1~1:10の範囲、好ましくは100:1~1:5の範囲、より好ましくは50:1~1:2の範囲、さらに好ましくは20:1~1:1の範囲、特に好ましくは10:1~2:1の範囲となるように遷移金属原子(M)が含まれることが好ましい。遷移金属錯体の担体への担持割合(複合体中のケイ素原子(Si)と遷移金属原子(M)との比率(モル比)は、蛍光X線分析により測定することができる。
【0063】
金属シリコンにSi-H基を導入する方法としては、例えば、フッ化水素酸での洗浄などの表面処理を行う方法がある。
【0064】
2.複合体の製造方法
本発明の一形態は上記に記載した形態の複合体の製造方法に関する。一形態の複合体の製造方法は、遷移金属錯体またはその前駆体と、Si-H基を有するケイ素系材料とを混合して複合体を形成することを含む。幾つかの形態において、本発明は、遷移金属錯体またはその前駆体と、Si-H基を有するケイ素系材料とを混合して複合体を形成することを含む製造方法により製造された複合体を提供する。
本発明の複合体は、遷移金属錯体またはその前駆体とケイ素系材料とから、非常に簡便かつ温和な条件による方法で合成することができる。当該方法は特殊な操作の必要がなく、容易に入手できる安価な原料から合成することができ、工業的に非常に有利である。
【0065】
遷移金属錯体およびケイ素系材料としては、上記に例示したものを使用可能である。市販品を使用してもよいし、合成品を用いてもよい。
【0066】
例えば、配位子として、アルケン、アルキン、カルボニル(CO)、イソシアニドなどを含む遷移金属錯体とケイ素系材料との複合体を製造する場合には、遷移金属錯体と、Si-H基を有するケイ素系材料とを混合することにより、遷移金属錯体の遷移金属原子(M)とケイ素系材料のSi-H基とが反応して、ケイ素系材料のシリコン原子(Si)と遷移金属原子との間に結合が生じ、遷移金属錯体がケイ素系材料からなる担体に安定して担持され得る。
例えば、上記式(I)で表される構造を有する複合体は、遷移金属原子(M)にm’個の配位子(L)が配位した構造を有する遷移金属錯体(ML
m’)と隣接した2つのSi-H基を有するケイ素系材料とから以下のスキーム1に示すように製造され得る。当該スキームでは、遷移金属錯体(ML
m’)における一部(例えば2つ)の配位子(L)が解離し、代わりに遷移金属原子(M)とシリコン原子との間に結合が形成され得る。
【化7】
式(I)中、Mは遷移金属原子を表し、Lは配位子を表し、mおよびm’は、遷移金属原子に配位する配位子の数を表す。m’は1以上の整数を表し、通常、1~6の整数を表す。mは0以上の整数を表す。mおよびm’は遷移金属原子の酸化数や配位子の種類により決定される。
幾つかの実施形態において、mは0の整数である。当該実施形態では、複合体の形成過程において、遷移金属錯体の配位子が解離し、複合体形成後に複合体に配位子が含まれない。
幾つかの実施形態においてmは1以上の整数を表し、通常、1~6の整数を表す。すなわち、上記スキーム1で表される反応式により得られる式(I)の複合体は、1以上(例えば1~6)の配位子を有する。
【0067】
配位子として、例えば、含リン配位子(1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンのような3級アルキルホスフィン)や含窒素配位子(ジイミンのようなイミン、ビスイミノピリジンのような含窒素ヘテロ環、トリアルキルアミンなどのような3級アミンなどを含む遷移金属錯体とケイ素系材料との複合体を製造する場合には、遷移金属錯体の前駆体と、Si-H基を有するケイ素系材料とを混合することを含む方法が用いられる。
幾つかの実施形態では、遷移金属錯体の前駆体は、遷移金属前駆体と配位子分子とを含む。
一部の実施形態では、遷移金属前駆体と配位子分子とを含む遷移金属錯体の前駆体が、還元剤の存在下で、Si-H基を有するケイ素系材料と混合される。当該実施形態においては、遷移金属前駆体が還元剤により還元されて遷移金属に配位子分子が配位した遷移金属錯体が形成され、この遷移金属錯体の遷移金属原子(M)とケイ素系材料のSi-H基とが反応して、ケイ素系材料のシリコン原子(Si)と遷移金属原子との間に結合が生じ、遷移金属錯体がケイ素系材料からなる担体に安定して担持され得る。遷移金属前駆体としては、遷移金属ハライド(MX
n[式中、Mは遷移金属原子を表し、XはF,Cl,Br,またはIを表し、nは1以上の整数を表す])、遷移金属の有機酸の錯体(MX
n[式中、Mは遷移金属原子を表し、Xは有機酸を表し、nは1以上の整数(例えば1~6の整数)を表す])、遷移金属の水酸化物(M(OH)
n[式中、nは1以上の整数(例えば1~6の整数)を表す])が挙げられる。遷移金属ハライドの具体例は、MnX
2、FeX
2、CoX
2、NiX
2(式中、XはF,Cl,Br,またはIを表す)などが挙げられる。遷移金属の有機酸の具体例は、酢酸マンガン、酢酸鉄、酢酸コバルト、酢酸ニッケルなどが挙げられる。遷移金属の水酸化物の具体例は、水酸化マンガン、水酸化鉄、水酸化コバルト、水酸化ニッケルなどが挙げられる。還元剤は遷移金属前駆体の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えば、水素化トリエチルホウ素リチウム(LiBHEt
3)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH
4)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)、トリエチルアルミニウム(AlEt
3)、水素化ジブチルアルミニウム(Al[(CH
3)
2CHCH
2]
2H)などが挙げられる。
例えば、上記式(I)で表される構造を有する複合体は、遷移金属前駆体(M-X
n)および配位子分子(L)を還元剤の存在下で隣接した2つのSi-H基を有するケイ素系材料と混合することで以下のスキーム2に示すように製造され得る。当該スキーム2では、遷移金属前駆体(M-X
n)が還元されてXが解離し、配位子分子(L)が担持されて遷移金属錯体(ML
m’)が形成され、次いで、遷移金属原子(M)とシリコン原子との間に結合が形成され得る。
【化8】
前記スキーム2中、Mは遷移金属原子を表し、Lは配位子を表し、m、m’およびnは、遷移金属原子に配位する配位子の数を表す。m’は1以上の整数を表し、通常、1~6の整数を表す。mは0以上の整数を表す。nは例えば1以上の整数を表し、通常、1~6の整数を表す。m、m’およびnは遷移金属原子の酸化数や配位子の種類により決定される。n’は1以上の整数(例えば、2)を表す。
幾つかの実施形態において、mは0の整数である。当該実施形態では、複合体の形成過程において、遷移金属錯体の配位子が解離し、複合体形成後に複合体に配位子が含まれない。
幾つかの実施形態においてmは1以上の整数を表し、通常、1~6の整数を表す。すなわち、上記スキーム2で表される反応式により得られる式(I)の複合体は、1以上(例えば1~6)の配位子を有する。
遷移金属前駆体(M-X
n)のX(例えば、ハロゲン原子や有機酸分子)は形成された複合体には通常残存しないが、場合によっては、複合体において一部のXが残存し、遷移金属原子に配位した構造をとることもあり得る。
【0068】
混合は有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては反応に影響を及ぼさない限り特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、などが挙げられる。
混合の際の温度も特に制限されないが、例えば0~300℃の範囲で行うことができる。反応効率および触媒調整の容易さの面で、好ましくは20~150℃の範囲であり、より好ましくは20~80℃の範囲である。
混合時間は、特に制限されないが、1~48時間程度、好ましくは12~24時間である。
遷移金属錯体またはその前駆体とケイ素系材料との混合比率は、反応効率や触媒活性・選択性に応じて適宜設定される。例えば、ケイ素材料に含まれるケイ素原子(Si)と遷移金属錯体またはその前駆体に含まれる遷移金属原子(M)とのモル比(Si:M)が、例えば100:1~1:10の範囲、好ましくは100:1~1:5範囲、より好ましくは50:1~1:2の範囲、さらに好ましくは20:1~1:1の範囲、特に好ましくは10:1~2:1の範囲となるように混合されることが好ましい。
【0069】
遷移金属錯体またはその前駆体とケイ素系材料との混合方法は、特に限定されない。通常、両成分を溶媒中に添加し、攪拌することにより行われる。
混合後、洗浄、ろ過等の精製処理を行ってもよい。
なお、上記方法で得られた複合体は、単離してから用いてもよいが、単離せずに、後述する触媒反応に用いてもよい。すなわち、上記複合体の触媒を系内で調製し、単離することなく、当該系内で触媒反応を実施することができる。
【0070】
3.触媒
本発明の一形態は、上述した形態の複合体を含む触媒に関する。上記複合体は、様々な反応の触媒として反応性及び選択性を示し、広く適用が可能である。適用可能な反応の具体例としては、ヒドロシリル化反応、ヒドロホウ素化反応、カップリング反応(例えば、Kumada-Tamao-Corriu coupling;別名Grignard couplingともいう)が挙げられる。
【0071】
本発明の幾つかの形態では、上記複合体を含む触媒を用いて反応を行なうことを特徴とする触媒反応方法を提供する。上記複合体は、不均一系触媒であり、再使用可能である。当該方法によれば、安価かつ効率的に有機ケイ素化合物などの生成物を製造することができる。
【0072】
本実施形態の触媒を用いる反応の条件は、特に限定されるものではない。
反応温度は、反応の種類や反応物によっても異なるが、反応効率の観点から、0~200℃が好ましく、20~150℃がより好ましく、20~80℃がさらに好ましい。
反応時間も、反応の種類や反応物によっても異なるが、反応効率の観点から、1~48時間が好ましく、1~24時間がより好ましい。
【0073】
反応は無溶媒で行うこともできるが、必要に応じて有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては反応に影響を及ぼさない限り特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、などが挙げられる。
有機溶媒を用いる場合、触媒の濃度としては、触媒活性と経済性を考慮すると、触媒のモル濃度(M;モル/リットル)として、0.01~10Mが好ましく、0.1~5Mがより好ましい。
【0074】
触媒の使用量は、基質である化合物1モルに対して触媒として0.001モル以上用いることが好ましく、0.01モル以上用いることがより好ましく、0.05モル以上用いることがより一層好ましい。一方、触媒の使用量に特に上限はないが、経済的な観点から基質1モルに対して10モル以下、好ましくは5モル以下である。
本発明の触媒を用いる反応においては、反応物および触媒の全ての成分を一括して添加してもよいし、いくつかの成分ずつに分けて添加してもよい。
幾つかの実施形態において、触媒は、粒子状または粉末状である。すなわち、上述した形態の粒子状(粉末状)の複合体を触媒として使用することができる。
【0075】
本発明の触媒は、高い触媒回転数(TON)を有することができる。本明細書において、触媒回転数(TON)は、1モルの触媒が不活性になる前に変換することができる基質のモル数を指す。例えば、いくつかの実施態様において、本発明の触媒は、約50より大きい、約100より大きい、約200より大きい、約400より大きい、約1,000より大きい、約5,000より大きい回転数(TON)を有することができる。
以下、上述した複合体を触媒として使用する各種反応について記載する。
【0076】
(ヒドロシリル化反応)
本発明の幾つかの形態は、上記複合体から選択される少なくとも1種の触媒の存在下、不飽和結合含有化合物と、Si-H基含有化合物とを、ヒドロシリル化反応させることを含む、ヒドロシリル化物の製造方法である。
複合体は、脂肪族不飽和結合に対するヒドロシリル化反応の反応触媒として使用することができる。
【0077】
不飽和結合含有化合物としては特に制限されず、従来よりヒドロシリル化反応の反応物として用いられる任意のものを使用可能である。不飽和結合含有化合物において、不飽和結合は分子末端に存在しても、内部に存在してもよく、ヘキサジエン、オクタジエンのように分子内に複数の不飽和結合が存在していてもよい。不飽和結合としては、炭素-炭素二重結合(-C=C-)、炭素-炭素三重結合(-C≡C-)、カルボニル基(-C(=O)-)、炭素-窒素二重結合(-C(=NR)-)、炭素-硫黄二重結合(-C(=S)-)などが挙げられる。
不飽和結合含有化合物の具体例としては、アルケン、アルキン、イミン、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸ハライド、尿素、チオアルデヒド、チオケトン、チオエステル、チオアミド、チオカルボン酸、チオカルボン酸無水物、チオカルボン酸ハライド、アリル化合物、およびチオ尿素、ならびにこれらの誘導体などが挙げられる。
【0078】
Si-H基含有化合物としては特に制限されず、従来よりヒドロシリル化反応の反応物として用いられる任意のSi-H基を有する化合物を使用可能である。例えばシラン類、シロキサン類が挙げられる。
(1)シラン類
トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシフェニルシラン、ジエトキシフェニルシラン、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、トリフェニルシラン、ジフェニルジシラン、フェニルトリシラン、ジフェニルメチルシラン、フェニルジメチルシラン、ジフェニルメトキシシラン、ジフェニルエトキシシラン等
(2)シロキサン類
ペンタメチルジシロキサン、テトラメチルジシロキサン、ヘプタメチルトリシロキサン、オクタメチルテトラシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルポリシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、トリメチルシロキシ基末端封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖(ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン)共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖(ジメチルシロキサン・メチルヒドロシロキサン)共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖(ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン)共重合体、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖(ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン)共重合体、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖(ジメチルシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン、ジフェニルシロキサン)共重合体、末端ヒドロキシ基封鎖(ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン)共重合体、片末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルポリシロキサン等
【0079】
ヒドロシリル化反応における、不飽和結合含有化合物とSi-H基含有化合物との使用比率は、脂肪族不飽和結合/Si-H結合のモル比が好ましくは1/10~10/1、より好ましくは、1/5~5/1、さらに好ましくは1/3~3/1の範囲である。
【0080】
ヒドロシリル化反応により、不飽和結合含有化合物とSi-H基含有化合物とのヒドロシリル化物が得られる。幾つかの実施形態において、ヒドロシリル化物は、有機ケイ素反応剤、シリコーン原料、シランカップリング剤、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、アルコール、エーテル、アミン、チオール、およびチオエーテルから選択される少なくとも1種である。
【0081】
(ヒドロホウ素化反応)
本発明の幾つかの形態は、上記複合体から選択される少なくとも1種の触媒の存在下、不飽和結合含有化合物と、B-H基含有化合物とを、ヒドロホウ素化反応させることを含む、ヒドロホウ素化物の製造方法である。
複合体は、脂肪族不飽和結合に対するヒドロホウ素化反応の反応触媒として使用することができる。
【0082】
不飽和結合含有化合物の具体例としては、上記ヒドロシリル化反応で例示した化合物と同様のものが挙げられる。
B-H基含有化合物としては、従来のヒドロホウ素化反応において使用されるB-H基を含有する化合物であれば特に制限なく使用することができる。例えば、BH3、H2BX(ここで、Xはハロゲン原子である)、HBX2(ここで、Xはハロゲン原子である)、ジシアミルボラン((Sia)2BH)、テキシルボラン((Thx)BH2)、ジシクロヘキシルボラン(Cy2BH)、9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(9-BBN)、カテコールボラン(CatBH),ピナコールボラン(PinBH)、ジイソピノカンフェイルボラン(Ipc2BH)などが挙げられる。
【0083】
不飽和結合含有化合物として、アルケンを用いた場合、ヒドロホウ素化物としてアルキルボランが得られる。これを、続いて過酸化水素と塩基(例えば水酸化ナトリウム)により処理することでアルコールを得ることができる。
【0084】
(カップリング反応)
上記形態の複合体は、Kumada-Tamao-Corriuカップリング反応などのカップリング反応における反応触媒として使用することができる。
本発明の幾つかの形態は、上記複合体から選択される少なくとも1種の触媒の存在下、芳香族ハロゲン化物(Ar-X)と、グリニャール試薬(R-MgX)とを、反応させることを含む、クロスカップリング生成物(Ar-R)の製造方法である。ここで、Xはハロゲン原子であり、Arはアリール基であり、Rは、炭化水素基である。
【実施例0085】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本明細書において、「室温」は通常約10℃から約35℃を示す。
本明細書において、「%」は特記しない限り重量パーセントを示す。
本明細書において、用語「約」は、±10%を意味することができる。
【0086】
実施例において使用される略語は当業者に周知の慣用的な略語である。いくつかの略語を以下に示す。
equiv.:当量
rt:室温
MeOH:メタノール
cod:1,5-シクロオクタジエン
dppe:1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン
Me:メチル
Et:エチル
Ph:フェニル
TMS:トリメチルシリル
Schlenk:シュレンク
THF:テトラヒドロフラン
M:モル濃度(モル/リットル)
h:時間
d:日
IS:内部標準
NMR:核磁気共鳴
conv.:転化率
neat:溶媒希釈なし
【0087】
合成例、実施例および比較例で得た化合物および反応生成物の物性の測定は、以下に示す装置を用いて行った。
1H NMR測定:JEOL社製 JNM-ECS400 spectrometerおよびJEOL社製 JNM-ECP600 spectrometer
13C NMR測定:JEOL社製 JNM-ECS400 spectrometerおよびJEOL社製 JNM-ECP600 spectrometer
赤外分光法(IR)測定:PerkinElmer社製Spectrum Two
蛍光X線分析:JEOL社製 JCX-1000S
【0088】
1.遷移金属錯体-ケイ素系ポリマー複合体
(1)ケイ素系ポリマーの合成
[合成例1:ケイ素系ポリマー1(Si_polymer)の合成]
【化9】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた100mLのシュレンクフラスコに金属リチウム(830mg, 120mmol)とテトラヒドロフラン(30mL)を混合した。このフラスコを0℃の氷浴につけ、窒素流下でトリクロロシラン(3.0mL, 30mmol)を滴下した。滴下終了後、室温下で24時間激しく撹拌した。反応終了後、金属リチウム片を取り除き、黄土色懸濁液を得た。この黄土色懸濁液から遠心分離によって黄土色粉末を単離し、テトラヒドロフランで2回洗浄した。この粉末を十分乾燥後に100mLのシュレンクフラスコに移し、0℃の氷浴につけ、窒素流下でメタノール(20mL)を滴下した。滴下終了後、室温下で終夜撹拌した。この黄土色懸濁液から遠心分離によって黄土色粉末を単離し、メタノールで2回洗浄し、十分乾燥することでケイ素系ポリマー1(802mg, 13.8mmol, 92%)を得た。
【0089】
[合成例2:メチル基置換ケイ素系ポリマー2(Si
Me_polymer)の合成]
【化10】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた100mLのシュレンクフラスコに金属リチウム(521mg, 75mmol)とテトラヒドロフラン(30mL)を混合した。このフラスコを0℃の氷浴につけ、窒素流下でジクロロメチルシラン(3.1mL, 30mmol)を滴下した。滴下終了後、室温下で24時間激しく撹拌した。反応終了後、金属リチウム片を取り除き、黄土色懸濁液を得た。この黄土色懸濁液から遠心分離によって薄黄色粉末を単離し、テトラヒドロフランで2回洗浄した。この粉末を十分乾燥後に100mLのシュレンクフラスコに移し、0℃の氷浴につけ、窒素流下でメタノール(20mL)を滴下した。滴下終了後、室温下で終夜撹拌した。この薄茶色懸濁液から遠心分離によって薄茶色粉末を単離し、メタノールで2回洗浄し、十分乾燥することでメチル基置換ケイ素系ポリマー2(546mg, 6.19mmol, 41%)を得た。
【0090】
(2)複合体の合成
[実施例A-1:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位マンガン触媒(Mn@Si_polymer)の合成]
【化11】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50mLのシュレンクフラスコにデカカルボニル二マンガン(97mg, 0.25mmol)とメシチレン(5mL)を混合し、続けてケイ素系ポリマー1(29mg, 0.5mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、150℃で24時間撹拌した。反応終了後の黄色懸濁液から遠心分離によって黄土色粉末を単離し、テトラヒドロフランで4回洗浄した。その後、十分乾燥することでケイ素系ポリマー担持カルボニル配位マンガン触媒(32mg)を得た。蛍光X線分析からSi:Mn=16:1の組成比(シリコン原子とマンガン原子とのモル比)であることが確認された。
【0091】
なお、上記化学式では、Mn@Si_polymerの構造として、便宜上、Si_polymerのSi-H基の全てに遷移金属であるMnが結合した構造を示したが、遷移金属とSi_polymerのSiとの結合様式は
図1のA~Dに示すものがありうる。また、Si_polymerのSi-H基の一部は遷移金属であるMnと結合することなく残存しうる。換言すると、Si_polymerのSi-H基の一部が遷移金属錯体(カルボニル配位マンガン)と結合を形成しており、結合を形成していない残りのSi-H基はそのまま残存する。Mn@Si_polymerは、(-Si(H)-Si(H)-)単位および(-Si(MnL
n)-Si-)単位を含むポリマーであり得る。以下の実施例における遷移金属錯体-ケイ素系ポリマー複合体の表記についても便宜上Si-H基の全てに遷移金属が結合した構造を示したが、これらも同様である。
【0092】
[実施例A-2:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位鉄触媒(Fe@Si_polymer)の合成]
【化12】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50mLのシュレンクフラスコにノナカルボニル二鉄(91mg, 0.25mmol)とメシチレン(5mL)を混合し、続けてケイ素系ポリマー1(29mg, 0.5mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、150℃で24時間撹拌した。反応終了後の黒色懸濁液から遠心分離によって黒色粉末を単離し、テトラヒドロフランで4回洗浄した。その後、十分乾燥することでケイ素系ポリマー担持カルボニル配位鉄触媒(50mg)を得た。蛍光X線分析からSi:Fe=5:1の組成比(シリコン原子と鉄原子とのモル比)であることが確認された。
【0093】
[実施例A-3:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)の合成]
【化13】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた100mLのシュレンクフラスコにオクタカルボニル二コバルト(342mg, 1.0mmol)とトルエン(20mL)を混合し、続けてケイ素系ポリマー1(117mg, 2.0mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、60℃で24時間撹拌した。反応終了後のこげ茶色懸濁液から遠心分離によってこげ茶色粉末を単離し、テトラヒドロフランで4回洗浄した。その後、十分乾燥することでケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(220mg)を得た。蛍光X線分析からSi:Co=2.4:1の組成比(シリコン原子とコバルト原子とのモル比)であることが確認された。
【0094】
[実施例A-4:ケイ素系ポリマー担持ニッケル触媒(Ni@Si_polymer)の合成]
【化14】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50mLのシュレンクフラスコにビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(138mg, 0.5mmol)とトルエン(5mL)を混合し、続けてケイ素系ポリマー1(29mg, 0.5mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、100℃で48時間撹拌した。反応終了後の黒色懸濁液から遠心分離によって黒色粉末を単離し、テトラヒドロフランで4回洗浄した。その後、十分乾燥することでケイ素系ポリマー担持ニッケル触媒(50mg)を得た。蛍光X線分析からSi:Ni=1:1の組成比(シリコン原子とニッケル原子とのモル比)であることが確認された。
【0095】
[実施例A-5:メチル基置換ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位鉄触媒(Fe@Si
Me_polymer)の合成]
【化15】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50mLのシュレンクフラスコにノナカルボニル二鉄(91mg, 0.25mmol)とメシチレン(5mL)を混合し、続けてメチル基置換ケイ素系ポリマー2(44mg, 0.5mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、150℃で24時間撹拌した。反応終了後の茶色懸濁液から遠心分離によって茶色粉末を単離し、テトラヒドロフランで4回洗浄した。その後、十分乾燥することでメチル基置換ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位鉄触媒(55mg)を得た。蛍光X線分析からSi:Fe=3:1の組成比(シリコン原子と鉄原子とのモル比)であることが確認された。
【0096】
[実施例A-6:メチル基置換ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si
Me_polymer)の合成]
【化16】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50mLのシュレンクフラスコにオクタカルボニル二コバルト(85mg, 0.25mmol)とトルエン(5mL)を混合し、続けてメチル基置換ケイ素系ポリマー2(44mg, 0.5mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、100℃で24時間撹拌した。反応終了後の茶色懸濁液から遠心分離によって茶色粉末を単離し、テトラヒドロフランで4回洗浄した。その後、十分乾燥することでメチル基置換ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(47mg)を得た。
【0097】
[実施例A-7:ケイ素系ポリマー担持ビス(ホスフィン)配位鉄触媒(Fe
dppe@Si_polymer)の合成]
【化17】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50mLのシュレンクフラスコに臭化鉄(II)(108mg, 0.5mmol)と1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(199mg, 0.5mmol)とトルエン(5mL)を混合し、続けて水素化トリエチルホウ素リチウムのテトラヒドロフラン溶液(1.01M, 1.0mL, 1mmol)を滴下した。滴下後、ケイ素系ポリマー1(29mg, 0.5mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、100℃で24時間撹拌した。反応終了後のこげ茶色懸濁液から遠心分離によって黄土色粉末を単離し、テトラヒドロフランで3回洗浄した。その後、十分乾燥することでケイ素系ポリマー担持ビス(ホスフィン)配位鉄触媒(24mg)を得た。
【0098】
[実施例A-8:ケイ素系ポリマー担持ピリジンジイミン配位鉄触媒(Fe
PDI
Mes@Si_polymer)の合成]
【化18】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50mLのシュレンクフラスコに臭化鉄(II)(108mg, 0.5mmol)とピリジンジイミン配位子(PDI
Mes)(199mg, 0.5mmol)とトルエン(5mL)を混合し、続けて水素化トリエチルホウ素リチウムのテトラヒドロフラン溶液(1.01M, 1.0mL, 1mmol)を滴下した。滴下後、ケイ素系ポリマー1(29mg, 0.5mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、100℃で24時間撹拌した。反応終了後の黒色懸濁液から遠心分離によって黒色粉末を単離し、テトラヒドロフランで3回洗浄した。その後、十分乾燥することでケイ素系ポリマー担持ピリジンジイミン配位鉄触媒(31mg)を得た。蛍光X線分析からSi:Fe=1:2の組成比(シリコン原子と鉄原子とのモル比)であることが確認された。
【0099】
(3)複合体(触媒)を用いた反応
[実施例B-1:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を用いたα-メチルスチレンのヒドロシリル化反応]
【化19】
【0100】
(1回目)
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(2.3mg, 0.01mmol)とα-メチルスチレン(130μL, 1mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、60℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率>99%のヒドロシリル化生成物が示された。
【0101】
(2回目)
この反応混合物をテトラヒドロフランで希釈し、遠心分離によって黒色粉末を単離し、テトラヒドロフランで2回洗浄後した。この黒色粉末を十分乾燥後に20mLのシュレンクフラスコに移し、再度α-メチルスチレン(130μL, 1mmol)と1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加え、60℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率95%のヒドロシリル化生成物が示された。
【0102】
(3回目)
先と同様に、この反応混合物をテトラヒドロフランで希釈し、遠心分離によって黒色粉末を単離し、テトラヒドロフランで2回洗浄後した。この黒色粉末を十分乾燥後に20mLのシュレンクフラスコに移し、再度α-メチルスチレン(130μL, 1mmol)と1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加え、60℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率81%のヒドロシリル化生成物が示された。
【0103】
(反応温度の変更)
上記1回目~3回目の反応を、反応温度を60℃から80℃または100℃に変更して実施し、各反応におけるヒドロシリル化生成物の収率を
1H NMR分光法による分析により測定した。結果を
図3に示す。
図3から、本発明のケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒は、再利用可能であることが確認される。さらに、80℃以下の温度(特に60℃の温度)で反応を行うことで触媒効率を大きく損なうことなく再利用可能であることが確認される。
【0104】
[実施例B-2:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を用いたα-メチルスチレンのヒドロシリル化反応(スケールアップ)]
【化20】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた100mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(1.2mg, 0.005mmol)とα-メチルスチレン(6.5mL, 50mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(11.7mL, 60mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で21日間撹拌した。反応終了後、減圧蒸留(48-50℃/6Pa)により精製することでヒドロシリル化生成物を無色液体として9.46g(35.5mmol, 収率71%, 触媒回転数7100)得た。
本発明のケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒は、高い触媒回転数(TON)を示し、高効率な触媒であることが確認される。
【0105】
[実施例B-3:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を用いた各種アルケンのヒドロシリル化反応]
ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を触媒として用い、表1位に示す様々なアルケンとシラン化合物との組み合わせでヒドロシリル化反応(entry 1~7)を行った。
【化21】
【表1】
【0106】
(entry 1)
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(1.2mg, 0.005mmol)とα-メチルスチレン(650μL, 5mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(1170μL, 6mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、60℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで収率98%のヒドロシリル化生成物が示された。減圧蒸留(60-65℃/6Pa)により精製することでヒドロシリル化生成物を無色液体として1.042g (3.91mmol, 収率78%)得た。
【化22】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ = 7.27 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 7.21 (dd, J = 6.6, 1.6 Hz, 2H), 7.16 (tt, J = 7.4, 1.4 Hz, 1H), 2.91 (sextet, J = 7.0 Hz, 1H), 1.28 (d, J = 7.2 Hz, 3H), 0.98-0.90 (m, 2H), 0.05 (s, 9H), -0.06 (s, 3H), -0.07 (s, 3H);
13C NMR (150 MHz, CDCl
3) δ = 149.9, 128.3, 126.6, 125.7, 35.7, 28.5, 25.9, 2.0, 1.3, 0.9;
これらスペクトルデータは文献値と良い一致をした。(後述の文献S1)
【0107】
(entry 2)
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(1.2mg, 0.005mmol)と1-デセン(950μL, 5mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(1170μL, 6mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで定量的にヒドロシリル化生成物が示された。減圧蒸留(70℃/8Pa)により精製することでヒドロシリル化生成物を無色液体として1.241g (4.30mmol, 収率86%)得た。
【化23】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ = 1.32-1.22 (m, 16H), 0.88 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 0.50 (t, J= 8.0 Hz, 2H), 0.06 (s, 9H), 0.03 (s, 6H);
13C NMR (150 MHz, CDCl
3) δ = 33.4, 31.9, 29.7, 29.6, 29.41, 29.38, 23.3, 22.7, 18.4, 14.1, 2.0, 0.3;
これらスペクトルデータは文献値と良い一致をした。(後述の文献S2)
【0108】
(entry 3)
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(2.3mg, 0.01mmol)とスチレン(115μL, 1mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、60℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで収率89%のヒドロシリル化生成物が示された。減圧蒸留(42℃/6Pa)により精製することでヒドロシリル化生成物を無色液体として190mg (0.752mmol, 収率75%)得た。
【化24】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ = 7.28 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 7.21 (d, J = 7.7 Hz, 2H), 7.16 (t, J = 7.1 Hz, 1H), 2.68-2.62 (m, 2H), 0.92-0.87 (m, 2H), 0.09 (s, 9H), 0.07 (s, 6H);
13C NMR (150 MHz, CDCl
3) δ = 145.2, 128.3, 127.8, 125.5, 29.4, 20.4, 2.0, 0.3;
これらスペクトルデータは文献値と良い一致をした。(後述の文献S1)
【0109】
(entry 4)
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(2.3mg, 0.01mmol)とスチレン(115μL, 1mmol)を混合し、続けてジメチルフェニルシラン(185μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、60℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで定量的にヒドロシリル化生成物が示された。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン, R
f=0.40)により精製することでヒドロシリル化生成物を無色液体として219mg (0.911mmol, 収率91%)得た。
【化25】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ = 7.55-7.52 (m, 2H), 7.38-7.36 (m, 3H), 7.28-7.24 (overlap with solvent, 2H), 7.19-7.14 (m, 3H), 2.66-2.61 (m, 2H), 1.15-1.10 (m, 2H), 0.29 (s, 6H);
13C NMR (150 MHz, CDCl
3) δ = 145.0, 139.0, 133.6, 128.9, 128.3, 127.8, 127.7, 125.5, 29.9, 17.7, -3.1;
これらスペクトルデータは文献値と良い一致をした。(後述の文献S1)
【0110】
(entry 5)
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(2.3mg, 0.01mmol)とアリルグリシジルエーテル(118μL, 1mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、60℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準としてジブロモメタン(70μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで定量的にヒドロシリル化生成物が示された。減圧蒸留(48℃/8Pa)により精製することでヒドロシリル化生成物を無色液体として213mg (0.811mmol, 収率81%)得た。
【化26】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ = 3.71 (dd, J = 11.5, 3.3 Hz, 1H), 3.50-3.41 (m, 2H), 3.39 (dd, J= 11.5, 6.1 Hz, 1H), 3.18-3.14 (m, 1H), 2.80 (t, J = 4.9 Hz, 1H), 2.62 (dd, J = 4.9, 2.8 Hz, 1H), 1.64-1.57 (m, 2H), 0.53-0.48 (m, 2H), 0.06 (s, 9H), 0.05 (s, 6H);
13C NMR (150 MHz, CDCl
3) δ = 74.3, 71.4, 50.9, 44.3, 23.5, 14.2, 1.9, 0.2;
これらスペクトルデータは文献値と良い一致をした(後述の文献S1)。
【0111】
(entry 6)
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(2.3mg, 0.01mmol)とアリルグリシジルエーテル(118μL, 1mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン(325μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、60℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準としてジブロモメタン(70μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで収率95%のヒドロシリル化生成物が示された。減圧蒸留(60℃/8Pa)により精製することでヒドロシリル化生成物を無色液体として267mg (0.793mmol, 収率79%)得た。
【化27】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ = 3.70 (dd, J = 11.6, 3.3 Hz, 1H), 3.49-3.37 (m, 3H), 3.17-3.15 (m, 1H), 2.80 (t, J = 4.7 Hz, 1H), 2.62 (dd, J = 5.5, 2.8 Hz, 1H), 1.64-1.57 (m, 2H), 0.47-0.43 (m, 2H), 0.08 (s, 18H), 0.01 (s, 3H);
13C NMR (150 MHz, CDCl
3) δ = 74.2, 71.4, 50.9, 44.4, 23.3, 13.5, 1.8, -0.4;
これらスペクトルデータは文献値と良い一致をした(後述の文献S3)。
【0112】
(entry 7)
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(2.3mg, 0.01mmol)とビニルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン(290μL, 1mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、60℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで定量的にヒドロシリル化生成物が示された。減圧蒸留(49℃/10Pa)により精製することでヒドロシリル化生成物を無色液体として328mg (0.826mmol, 収率83%)得た。
【化28】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ = 0.43-0.38 (m, 2H), 0.37-0.31 (m, 2H), 0.09 (s, 18H), 0.06 (s, 9H), 0.03 (s, 6H), 0.002 (s, 3H);
13C NMR (150 MHz, CDCl
3) δ = 9.5, 8.9, 2.0, 1.9, -0.4, -1.2;
これらスペクトルデータは文献値と良い一致をした(後述の文献S1)。
【0113】
[実施例B-4:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を用いたイソシアヌル酸トリアリルのヒドロシリル化]
【化29】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコにケイ素ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(2.3mg, 0.01mmol)とイソシアヌル酸トリアリル(82mg, 0.33mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(320μL, 1.65mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで収率90%のヒドロシリル化生成物が示された。濃縮後、アルミナカラム(溶離液:酢酸エチル)により触媒を取り除き、ゲル浸透クロマトグラフィーで精製することでヒドロシリル化生成物を無色液体として165mg (0.238mmol, 収率72%)得た。
【化30】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ =3.84 (t, J = 7.7 Hz, 6H), 1.67-1.60 (m, 6H), 0.54-0.50 (m, 6H), 0.05 (s, 45H);
13C NMR (150 MHz, CDCl
3) δ = 149.0, 45.6, 21.8, 15.3, 1.9, 0.2;
【0114】
[実施例B-5:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を用いたヒドロシリル化によるシリコーンオイルの修飾]
【化31】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(2.3mg, 0.01mmol)とアリルグリシジルエーテル(235μL, 2mmol)を混合し、続けて重合度が6の水素末端ポリ(ジメチルシロキサン)(310μL, 0.5mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、減圧下(8Pa)室温で揮発成分を取り除き、こげ茶色油状粗生成物を得た。これを酢酸エチルで希釈し、アルミナカラムにより精製することでヒドロシリル化生成物を無色液体として380mg (0.470mmol, 収率94%)得た。
【化32】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ = 3.7 (dd, J = 11.5, 3.3 Hz, 2H), 3.50-3.41 (m, 4H), 3.39 (dd, J= 11.5, 6.0 Hz, 2H), 3.17-3.13 (m, 2H), 2.80 (t, J = 4.7 Hz, 2H), 2.61 (dd, J = 4.9, 2.7 Hz, 2H), 1.65-1.58 (m, 4H), 0.55-0.50 (m, 4H), 0.08 (s, 12H), 0.07 (s, 12H), 0.06 (s, 12H), 0.04 (s, 12H);
13C NMR (150 MHz, CDCl
3) δ = 74.3, 71.4, 50.8, 44.2, 23.4, 14.1, 1.1, 1.0, 0.03;
【0115】
[実施例B-6:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を用いたヒドロシリル化によるポリ(メチルヒドロシロキサン)の修飾]
【化33】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(2.3mg, 0.01mmol)とスチレン(460μL, 4mmol)を混合し、続けて重合度が約30のトリメチルシリル末端ポリ(メチルヒドロシロキサン)(125μL, 0.066mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで定量的にヒドロシリル化生成物が示された。
【化34】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ = 7.20-6.90 (m, 150H), 2.64 (br, 60 H), 0.88 (br, 60 H), 0.08 (br, 90H), 0.06 (s, 18H);
【0116】
[実施例B-7:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を用いたクロスリンクシリコーンゲルの合成]
【化35】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのスクリューバイヤルにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(1.1mg, 0.005mmol)と重合度が約78のビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)(3.00g, 0.5mmol)を混合し、続けて重合度が約30のトリメチルシリル末端ポリ(メチルヒドロシロキサン)(62μL, 0.033mmol)を加えた。スクリューバイヤルを封し、80℃で24時間撹拌することで、シリコーンゲルを得た。赤外分光法によりケイ素-水素結合伸縮振動に由来する2100cm
-1付近のケイ素-水素結合伸縮振動に由来するシグナルの消失を確認した。
【0117】
アルケンまたはシラン部位を有するポリシロキサンを反応させることで、シリル化反応による架橋反応が起こり、シリコーンゲルが得られた。
【0118】
[実施例B-8:メチル基置換ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si
Me_polymer)を用いたα-メチルスチレンのヒドロシリル化反応]
【化36】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてメチル基置換ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si
Me_polymer)(2.5mg, 0.01mmol)とα-メチルスチレン(130μL, 1mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することでヒドロシリル化生成物(71%)とα-メチルスチレン原料(23%)が示された。
【0119】
[実施例B-9:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位マンガン触媒(Mn@Si_polymer)を用いたスチレンのヒドロシリル化反応]
【化37】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持カルボニル配位マンガン触媒(Mn@Si_polymer)(2.0mg, 0.01mmol)とスチレン(115μL, 1mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することでヒドロシリル化生成物(61%)、脱水素シリル化生成物(7%)、水素化生成物(7%)が示された。
【0120】
[実施例B-10:ケイ素系ポリマー担持ピリジンジイミン配位鉄触媒(Fe
PDI
Mes@Si_polymer)を用いた1-デセンのヒドロシリル化反応]
【化38】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素系ポリマー担持ピリジンジイミン配位鉄触媒(Fe
PDI
Mes@Si_polymer)(2.5mg)と1-デセン(190μL, 1mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することでヒドロシリル化生成物(77%)と1-デセン原料(7%)、アルケン異性化混合物(15%)が示された。
【0121】
[実施例B-11:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を用いたベンズアルデヒドのヒドロシリル化反応]
【化39】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(1.2mg, 0.005mmol)とベンズアルデヒド(51μL, 0.5mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(145μL, 0.75mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,1,2,2-テトラクロロエタン(52μL, 0.5mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで定量的にヒドロシリル化生成物が示された。
【化40】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ = 7.34 (d, J = 4.0 Hz, 4H), 7.28-7,22 (overlap with solvent, 1H), 4.76 (s, 2H), 0.12 (s, 6H), 0.10 (s, 9H);
【0122】
本発明の触媒は、アルケンの他、カルボニル化合物のヒドロシリル化も触媒することができることが確認された。
【0123】
[実施例B-12:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を用いたベンズアルデヒドのヒドロホウ素化反応]
【化41】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(1.2mg, 0.005mmol)とベンズアルデヒド(51μL, 0.5mmol)を混合し、続けてピナコールボラン(110μL, 0.75mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。その後ジエチルエーテル(5mL)で希釈し、水酸化ナトリウム水溶液(1 M, 5mL)を加え、室温で2時間撹拌した。反応終了後塩酸で中和し、ジエチルエーテルで3回抽出した。合わせた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒留去した。内部標準として1,1,2,2-テトラクロロエタン(52μL, 0.5mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで収率93%でベンジルアルコールが示された。
【化42】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ = 7.37 (d, J = 4.4 Hz, 4H), 7.33-7,27 (m, 1H), 4.71 (s, 2H), 1.91 (s, 1H);
【0124】
本発明の触媒は、ヒドロホウ素化反応も触媒することができることが確認された。
【0125】
[実施例B-13:ケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)を用いた芳香族ハロゲン化物とグリニャール反応剤のカップリング反応]
【化43】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにケイ素系ポリマー担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_polymer)(1.2mg, 0.005mmol)と2-ブロモピリジン(48μL, 0.5mmol)を混合し、続けて臭化フェニルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(1.05M, 0.72μL, 0.75mmol)を加えた。室温で24時間撹拌した後、水で反応停止した。ジエチルエーテルで3回抽出し、合わせた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒留去した。内部標準として1,4-ジオキサン(42μL, 0.5mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することで収率39%で2-フェニルピリジンが示された。
【化44】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ = 8.70 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 7.99 (dd, J = 8.8, 1.6 Hz, 2H), 7.79-7.71 (m, 2H), 7.52-7.40 (m, 3H), 7.26-7.22 (m, 1H);
【0126】
本発明の触媒は、カップリング反応も触媒することができることが確認された。
【0127】
2.遷移金属錯体-金属シリコン複合体
(1)複合体の合成
水素終端処理ケイ素微粒子(高純度化学社製、Si粉末の水素終端処理品(金属シリコン(Si-Si結合から構成されるもの)の表面に-Si-Hを導入した粒子)を用いて遷移金属錯体を担持したケイ素微粒子(遷移金属錯体-金属シリコン複合体)の触媒を合成した。
【0128】
[実施例C-1:ケイ素微粒子担持カルボニル配位マンガン触媒(Mn@Si_particle)の合成]
【化45】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50mLのシュレンクフラスコにてデカカルボニル二マンガン(97mg, 0.25mmol)とメシチレン(5mL)を混合し、続けて水素終端処理ケイ素微粒子(28mg, 1mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、150℃で24時間撹拌した。反応終了後の黄色懸濁液から遠心分離によって暗灰色粉末を単離し、テトラヒドロフランで3回洗浄した。その後、十分乾燥することでケイ素微粒子担持カルボニル配位マンガン触媒(Mn@Si_particle)(18mg)を得た。蛍光X線分析からSi:Mn=49:1の組成比(シリコン原子とマンガン原子とのモル比)であることが確認された。
【0129】
[実施例C-2:ケイ素微粒子担持カルボニル配位鉄触媒(Fe@Si_particle)の合成]
【化46】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50mLのシュレンクフラスコにてノナカルボニル二鉄(91mg, 0.25mmol)とトルエン(5mL)を混合し、続けて水素終端処理ケイ素微粒子(28mg, 1mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、100℃で24時間撹拌した。反応終了後の薄黄緑色懸濁液から遠心分離によって暗灰色粉末を単離し、テトラヒドロフランで3回洗浄した。その後、十分乾燥することでケイ素微粒子担持カルボニル配位鉄触媒(Fe@Si_particle)(28mg)を得た。蛍光X線分析からSi:Fe=5:1の組成比(シリコン原子と鉄原子とのモル比)であることが確認された。
【0130】
[実施例C-3:ケイ素微粒子担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_particle)の合成]
【化47】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50mLのシュレンクフラスコにてオクタカルボニル二コバルト(85mg, 0.25mmol)とトルエン(5mL)を混合し、続けて水素終端処理ケイ素微粒子(28mg, 1mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、100℃で24時間撹拌した。反応終了後の茶色懸濁液から遠心分離によって暗灰色粉末を単離し、テトラヒドロフランで3回洗浄した。その後、十分乾燥することでケイ素微粒子担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_particle)(30mg)を得た。蛍光X線分析からSi:Co=3:1の組成比(シリコン原子とコバルト原子とのモル比)であることが確認された。
【0131】
[実施例C-4:ケイ素微粒子担持ニッケル触媒(Ni@Si_particle)の合成]
【化48】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50mLのシュレンクフラスコにてビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(138mg, 0.5mmol)とトルエン(5mL)を混合し、続けて水素終端処理ケイ素微粒子(28mg, 1mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、100℃で24時間撹拌した。反応終了後の黄色懸濁液から遠心分離によって暗灰色粉末を単離し、テトラヒドロフランで3回洗浄した。その後、十分乾燥することでケイ素微粒子担持ニッケル触媒(Ni@Si_particle)(30mg)を得た。蛍光X線分析からSi:Ni=5:1の組成比(シリコン原子とニッケル原子とのモル比)であることが確認された。
【0132】
(2)複合体(触媒)を用いた反応
[実施例D-1:ケイ素微粒子担持カルボニル配位鉄触媒(Fe@Si_particle)を用いたスチレンのヒドロシリル化反応]
【化49】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素微粒子担持カルボニル配位鉄触媒(Fe@Si_particle)(2.3mg)とスチレン(115μL, 1mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することでヒドロシリル化生成物(89%)が反マルコフニコフ付加体とマルコフニコフ付加体の混合物(75:25)として示された。
【0133】
[実施例D-2:ケイ素微粒子担持カルボニル配位鉄触媒(Fe@Si_particle)を用いた1-デセンのヒドロシリル化反応]
【化50】
(1回目)
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素微粒子担持カルボニル配位鉄触媒(Fe@Si_particle)(2.3mg)と1-デセン(190μL, 1mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することでヒドロシリル化生成物(41%)と1-デセン原料(58%)が示された。
【0134】
(2回目)
この反応混合物をテトラヒドロフランで希釈し、遠心分離によって黒色粉末を単離し、テトラヒドロフランで2回洗浄後した。この粉末を十分乾燥後に20mLのシュレンクフラスコに移し、再度1-デセン(190μL, 1mmol)と1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加え、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することでヒドロシリル化生成物(34%)と1-デセン原料(65%)が示された。
【0135】
本発明のケイ素微粒子担持カルボニル配位鉄触媒は再利用可能であることが確認された。
【0136】
[実施例D-3:ケイ素微粒子担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_particle)を用いた1-デセンのヒドロシリル化反応]
【化51】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20mLのシュレンクフラスコにてケイ素微粒子担持カルボニル配位コバルト触媒(Co@Si_particle)(2.3mg)と1-デセン(190μL, 1mmol)を混合し、続けて1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン(235μL, 1.2mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85μL, 1mmol)を加え、重クロロホルムを用い
1H NMR分光法で分析することでヒドロシリル化生成物(16%)と1-デセン原料(79%)が示された。
【0137】
(文献)
文献S1) Noda, D.; Tahara, A.; Sunda, Y.; Nagashima, H. J. Am. Chem. Soc.2016, 138, 2480-2483.
文献S2) Buslov, I.; Song, F.; Hu, X. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 12295-12299.
文献S3) Dierick, S.; Vercruysse, E.; Berthon-Gelloz, G.; Marko, I. E. Chem. Eur. J. 2015, 21, 17073-17078.
【0138】
以上の結果は、本発明の遷移金属錯体とSi-H基を有するケイ素系材料(ケイ素系ポリマー、シリコン粒子)からなる担体との複合体がヒドロシリル化、ヒドロホウ素化、カップリング反応などの各種反応において不均一系触媒として利用可能であることを実証するものである。
【0139】
本発明の範囲は以上の説明に拘束されることはなく、上記例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。
本発明の実施形態に係る複合体は、各種反応において不均一系の反応触媒として利用可能であり、しかも、安価に合成または入手可能であることから、実用性及び有用性に優れたものである。