(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011105
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】磁気抵抗効果デバイスとその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 43/08 20060101AFI20220107BHJP
G01R 33/09 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
H01L43/08 Z
H01L43/08 H
G01R33/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020112002
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】深谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】市村 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】早川 純
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AD55
2G017AD65
5F092AA07
5F092AB01
5F092AC08
5F092AD05
5F092AD06
5F092AD22
5F092BB09
5F092BB10
5F092BB12
5F092BB16
5F092BB17
5F092BB22
5F092BB31
5F092BB42
5F092BB53
5F092BB81
5F092BB82
5F092BC04
5F092BC07
5F092BC18
5F092BC42
5F092BC46
5F092CA02
5F092CA07
5F092CA08
5F092CA09
5F092CA23
5F092CA26
(57)【要約】
【課題】
高精度な磁気センシングを可能とした磁気抵抗効果デバイスを提供することにある。
【解決手段】
基板上に複数の素子を有する磁気抵抗効果デバイスであって、素子は、隣接する前記素子と間隔を有して配置されており、素子の側面は、磁性粒子の付着を防止する、100nm以上の長さの磁性粒子付着防止層により覆われる磁気抵抗効果デバイスである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数の素子を有する磁気抵抗効果デバイスであって、
前記素子は、隣接する前記素子と間隔を有して配置されており、
前記素子の側面は、
磁性粒子の付着を防止する、100nm以上の長さの磁性粒子付着防止層により覆われる磁気抵抗効果デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記素子は、
前記基板上に、下地層と、反強磁性層と、強磁性固定層と、非磁性中間層と、強磁性自由層と、保護層とが積層された積層膜である磁気抵抗効果デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記素子の幅と長さの比であるアスペクト比が、
1:5以上であり、1:300以下である磁気抵抗効果デバイス。
【請求項4】
請求項2に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記反強磁性層は、
Ni、Cr、Fe、Co若しくはMnのいずれか1つ以上の元素を含む酸化物、または、Fe、Mn、Pt若しくはIrのいずれか1つ以上の元素を含む金属を有する磁気抵抗効果デバイス。
【請求項5】
請求項2に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記下地層は、
Ta、Ti、Ni、Cr、AlまたはFeを含む金属を有するか、または、Ta、Ti、Ni、Cr、AlまたはFeを含む酸化物を有する磁気抵抗効果デバイス。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記素子に接続された電極を有する磁気抵抗効果デバイス。
【請求項7】
請求項2に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記強磁性固定層は、
第1の強磁性固定層と、非磁性結合層と、第2の強磁性固定層とを有する磁気抵抗効果デバイス。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記第1の強磁性固定層または前記第2の強磁性固定層は、
CoまたはCo-Fe合金を含み、
前記非磁性結合層は、
RuまたはIrを含む磁気抵抗効果デバイス。
【請求項9】
請求項7に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記第1の強磁性固定層の磁化方向と、前記第2の強磁性固定層の磁化方向とは、
互いに反平行の関係にある磁気抵抗効果デバイス。
【請求項10】
請求項7に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記第2の強磁性固定層の上には、
第1の非磁性中間層と、強磁性自由層と、第2の非磁性中間層と、第3の強磁性固定層と、第2の非磁性結合層と、第4の強磁性固定層と、第2の反強磁性層と、前記保護層が積層されている磁気抵抗効果デバイス。
【請求項11】
請求項10に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記第3の強磁性固定層または前記第4の強磁性固定層は、
CoまたはCo-Fe合金を含み、
前記第2の非磁性結合層は、
RuまたはIrを含む磁気抵抗効果デバイス。
【請求項12】
請求項10に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記第3の強磁性固定層の磁化方向と、前記第4の強磁性固定層の磁化方向とは、
互いに反平行の関係にある磁気抵抗効果デバイス。
【請求項13】
請求項1に記載の磁気抵抗効果デバイスにおいて、
前記磁性粒子付着防止層は、
非磁性、または反強磁性の絶縁体から形成される磁気抵抗効果デバイス。
【請求項14】
基板上に複数の素子を有する磁気抵抗効果デバイスの製造方法であって、
前記素子は、隣接する前記素子と間隔を有して配置し、
100nm以上の長さの磁性粒子付着防止層を、前記素子の側面に形成する磁気抵抗効果デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果デバイスに関し、特に、低磁界領域で巨大な磁気抵抗変化を起こす磁気抵抗効果デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気抵抗効果素子を用いた磁気センサは、微小な磁界の変化を検出することができ、ハードディスクドライブの読み取りヘッドに代表されるように様々な用途に用いられている。一般的な巨大磁気抵抗効果素子は、基本構造として、下側から順に積層された強磁性固定層、非磁性中間層および強磁性自由層から成るGMR(Giant Magneto Resistance、以下、巨大磁気抵抗という)積層膜を有している。
【0003】
強磁性自由層は外部磁界の変化に対して磁化方向が敏感に変化するのに対して、強磁性固定層は外部磁場により磁化方向が変化しないように、強磁性固定層自体の材料または強磁性固定層の下地の積層構造が設計されている。このような基本構造において、強磁性自由層と強磁性固定層の磁化方向の相対角が外部磁場により変化することによって電気抵抗が大きく変化する現象は、巨大磁気抵抗効果(以下、GMR効果という)と呼ばれている。
【0004】
GMR積層膜をGMRセンサとして用いる場合、外部磁界に対してその電気抵抗値が線形的に変化するように細線状に加工する。また加工したGMRセンサを酸素や湿気などの劣化要因から保護するために、一般的にGMRセンサ全体を絶縁膜で保護する必要がある。
【0005】
特許文献1には、細長形状に加工された磁気抵抗効果素子により、チャタリングの発生等を防止して安定した動作を得ることができ、また用途に合わせて磁気感度の制御を容易に行うことを可能とした磁気センサが記載されている。特許文献2には大容量磁気記録再生用ヘッドに使用される、パターニングされたGMR多層膜を絶縁膜で被覆した垂直通電型GMR素子の製造方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-273528号公報
【特許文献2】特開2010-87293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、磁気抵抗効果素子を細長形状に加工しているが、非接触式の磁気センサであり、検出対象となる磁性体は磁気センサに直接には接触しない。直接に接触する磁性体を検出する場合、検出対象がセンサ直上にあるか、またはセンサ横にあるかで正負反対のシグナルがそれぞれ発生し、打ち消しあってシグナルが小さくなる。
【0008】
特許文献2では、絶縁膜で被覆された垂直通電型GMR素子を作製しているが、これも非接触式の磁気センサであり、また細長形状に加工されていないため、外部磁界に対してその電気抵抗値が線形的に変化する磁場範囲は極端に小さくなる。
【0009】
このため、磁気センサに検出対象の磁性体が接触している場合、大きなシグナルを得ることができず、高精度の磁気センシングが困難である。
【0010】
本発明の目的は、高精度な磁気センシングを可能とした磁気抵抗効果デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の好ましい一例としては、基板上に複数の素子を有する磁気抵抗効果デバイスであって、前記素子は、隣接する前記素子と間隔を有して配置されており、
前記素子の側面は、
磁性粒子の付着を防止する、100nm以上の長さの磁性粒子付着防止層により覆われる磁気抵抗効果デバイスである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高精度に磁気センシングが可能な磁気抵抗効果デバイスを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の磁気抵抗効果素子を構成する積層膜を示す図である。
【
図2】実施例1の磁気抵抗効果デバイスを示す図である。
【
図3】実施例2の磁気抵抗効果素子を構成する積層膜を示す図である。
【
図4】実施例3の磁気抵抗効果素子を構成する積層膜を示す図である。
【
図5】比較例の磁気抵抗効果デバイスを示す図である。
【
図6】実験例1における磁気抵抗効果デバイスを示す図である。
【
図7】実験例1におけるシグナルと測定磁場の関係を示す図である。
【
図8】側壁からの距離とそのシグナルの関係を示す図。
【
図9】実験例2におけるMR比とGMRセンサのアスペクト比の関係を示す図である。
【
図10】実験例2における動作磁場範囲とGMRセンサのアスペクト比の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例0015】
以下では、基板上に順に積層された下地層、反強磁性層、強磁性固定層、非磁性中間層、強磁性自由層および保護層を有するGMR積層膜を細線状に微細加工し、磁性粒子付着防止層を形成することでGMRセンサの性能を向上させることについて説明する。ここで細線状とは、短軸と長軸からなる細長形状をいい、積層膜の幅が短軸である。
【0016】
具体的には、GMRセンサの上部に付着した検出対象の磁性体から漏洩する磁界をより効率よく検出することについて説明する。本実施例では、細線状に加工したGMRセンサに磁性粒子付着防止層を形成している。
【0017】
<磁気抵抗効果素子の構造>
図1に、本実施例のGMR積層膜の構成を示す。本実施例のGMR積層膜は、基板101を有し、基板101上に形成された下地層102を有している。下地層102は、GMR積層膜を平坦に形成する役割と、下地層102上に形成されたGMR積層膜の構成膜を結晶化させる役割を持つ。
【0018】
下地層102は、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Al(アルミ)、またはFe(鉄)を含む金属を有する。または、下地層102は、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Al(アルミ)、またはFe(鉄)を含む酸化物を有する。具体的には、下地層102は1種類以上の材料から構成され、例えば、Ta層およびNiCr(ニッケルクロム)層の2層から成る積層膜により形成することができる。下地層102の膜厚が薄い場合、下地層として機能しなくなるため、下地層102は1nm以上の膜厚を有することが望ましい。
【0019】
下地層102上には、反強磁性層103が形成されている。反強磁性層103はGMR積層膜が動作する室温以上で磁性を維持することが必要である。よって、反強磁性層103を構成する材料は、Ni、Cr、Fe、Co(コバルト)若しくはMn(マンガン)のいずれか1つ以上の元素を含む酸化物であることが好ましい。あるいは、反強磁性層103を構成する材料は、Fe、Mn、Pt(白金)若しくはIr(イリジウム)のいずれか1つ以上の元素を含む金属であることが好ましい。
【0020】
反強磁性層103は、全体として磁気モーメントを持たない材料から成る。ただし、微細な観点において、反強磁性層103内では磁性原子の磁気モーメントが互い違いに逆向きに規則正しく並んでいる。本実施例の反強磁性層103は、例えば、基板101の上面に沿う方向であって、互いに反対向きの2種類の磁気モーメントのみを有している。その結果、自発磁化は打消し合うため、反強磁性層103の自発磁化は全体としてゼロになっている。
【0021】
反強磁性層103上には、強磁性固定層104が形成されている。強磁性固定層104は、単体では磁化の向きが固定されない強磁性層である。しかし、反強磁性層103と強磁性固定層104とが相互間の界面で磁気結合することで、強磁性固定層104の磁化方向が固定される。強磁性固定層104の磁化方向は、外部磁界が大きい場合であっても容易に変化しない必要がある。このため、強磁性固定層104の材料としては、Fe、Ni、Coまたはこれらの合金のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0022】
強磁性固定層104上には、非磁性中間層105が形成されている。また、非磁性中間層105上には、強磁性自由層106が形成されている。非磁性中間層105は、非磁性中間層105の上の強磁性自由層106と、非磁性中間層105の下の強磁性固定層104との磁気結合を消失させるために十分厚い膜厚を有している必要がある。
【0023】
非磁性中間層105の膜厚は、例えば1nm以上であることが好ましい。また、GMR効果は、強磁性固定層104、非磁性中間層105および強磁性自由層106を含む領域で発現するため、当該領域に効率よく電流を流すために、非磁性中間層105は伝導性の高い材料から成ることが好ましい。非磁性中間層105の材料としては、例えばCuなどが挙げられる。
【0024】
非磁性中間層105上に形成された強磁性自由層106は、単体では磁化の向きが固定されない強磁性層である。強磁性自由層106は、磁気抵抗効果素子の上部で検査対象物から発生する微弱な磁界を検出する際に磁化方向が変化するセンシング位置にある。
【0025】
したがって、強磁性自由層106は、その磁化方向が、外部磁界の変化に対して容易に変わる材料により構成されている必要がある。つまり、強磁性自由層106は、良好な軟磁気特性を示す必要がある。このため、強磁性自由層106の材料は、Fe、Ni、Coまたはこれらの合金のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。特に、Niの比率が50%以上であることがより好ましい。
【0026】
強磁性自由層106上には、保護層107が形成されている。このように、GMR積層膜は、基板101と、基板101上に順に積層された下地層102、反強磁性層103、強磁性固定層104、非磁性中間層105、強磁性自由層106および保護層107を有している。保護層107は、強磁性自由層106の上面に接し、強磁性自由層106の上面の全体を覆っている。
【0027】
保護層107は、強磁性自由層106がGMR積層膜の外部環境により劣化することを防ぐ役割を有している。すなわち、保護層107は、強磁性自由層106が酸化などの化学反応により変質し、これにより磁気抵抗効果素子の信頼性が低下することを防ぐ役割を有する。保護層107の膜厚は、その結晶性を維持する必要があるため、少なくとも0.5nmの膜厚を有する。
【0028】
また、本実施例の主な特徴の1つとして、GMR積層膜が細線状に加工されていることにある。このとき、強磁性固定層104の磁化方向は細線の短軸方向に固定し、強磁性自由層の磁化方向は、形状磁気異方性により細線のGMR積層膜の長軸方向に向いている。細線の形状として、具体的には、アスペクト比は1:5以上、1:300以下の細線形状である。ここで、アスペクト比は、磁気抵抗効果デバイスの素子を構成するGMR積層膜の幅(矢印108で示す短軸方向の長さ)と、GMR積層膜の長軸方向の長さ(
図1の紙面に垂直な方向における積層膜の長さ)との比である。
【0029】
アスペクト比1:5以上であることで、外部磁界に対してその電気抵抗値が線形的に変化する。またアスペクト比1:300以下であることで、強磁性固定層の磁化方向を細線の短軸方向に固定することが可能となり、GMRセンサとして機能するようになる。ここで、GMRセンサは少なくとも1本以上の細線から成り、直列、または並列に電気的に複数本の細線が接続されていてもよい。
【0030】
また、本実施例の主な特徴の1つとして、GMR積層膜を細線状に加工した後、磁性粒子付着防止層を形成することにある。
図2は、磁気抵抗効果デバイスを示す図である。磁気抵抗効果デバイスは、基板203の上に形成される磁気抵抗効果素子(GMRセンサ)を有する。磁気抵抗効果素子(GMRセンサ)は、
図2では、省略しているが電極と接続される。
【0031】
図2に示すGMRセンサ201の上部に、磁性粒子が付着した場合と、GMRセンサ201の側壁に磁性粒子が付着した場合でGMRセンサのシグナルが正負反対である。そのため、GMRセンサ全体に磁性粒子が付着した場合、シグナルは打ち消しあうことで減衰する。
【0032】
シグナルの絶対値はGMRセンサの上部に磁性粒子が付いた場合の方が大きいため、GMRセンサの側壁に磁性粒子付着防止層202を形成することで、GMRセンサのトータルのシグナルが向上する。磁性粒子付着防止層202は、非磁性、または反強磁性の絶縁体の材料から形成される。また、GMRセンサ201の側壁は、少なくとも100nm以上の長さ(矢印204で示す)の磁性粒子付着防止層202により覆われている必要がある。
【0033】
また本実施例において、GMRセンサ最表面を分子修飾することで検出対象を含む分子を結合させ、さらに漏洩磁場を生じる物質を特異的に結合させることでバイオセンサーとして機能させることができる。GMRセンサ表面における分子修飾として、例えばGMRセンサ表面において酸素プラズマ処理を行うことで酸素を水酸基に変換し、アミノ基とのシランカップリング反応により3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)で修飾することが可能である。
【0034】
上記のGMRセンサの結晶構造は、X線回折(XRD:X-ray diffraction)によって容易に確認ができる。また、上記のGMRセンサの構造は、TEM(Transmission Electron Microscope、透過型電子顕微鏡)またはSEM(Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡)などの電子顕微鏡により観察することで確認できる。また、上記のGMR積層膜の単結晶もしくは多結晶の結晶構造と積層構造とは、電子線回折像においてスポット状パターンまたはリング状パターンを観察することで確認することができる。
【0035】
GMRセンサの各層の組成分布はEDX(Energy dispersive X-ray spectrometry、エネルギー分散型X線分析)などのEPMA(Electron Probe Micro Analyzer、電子線マイクロアナライザー)を用いて確認できる。また、当該組成分布は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry、二次イオン質量分析法)、X線光電子分光法またはICP(Inductively Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)発光分光分析法などの手法を用いて確認できる。
【0036】
<GMRセンサの作製方法>
次に、GMRセンサの作製方法について説明する。GMRセンサ内のGMR積層膜の各層は、例えば、到達真空度1.0×10-5Pa以下の超高真空中で行うスパッタリング法により形成できる。各層の材料は、形成する各層と同じ組成を持つスパッタリングターゲットを用いて形成できる。平坦且つ結晶性および配向性のよい層を得るため、成膜時のAr(アルゴン)圧力は10mTorr以下であることが好ましい。
【0037】
次に、デバイス化プロセスについて説明する。GMR積層膜のGMRセンサ化にはフォトリソグラフィ、電子ビームリソグラフィ技術を用いる。まず、GMR積層膜上に、GMRセンサのパターンの形状を有するフォトレジスト膜を、電子ビームリソグラフィ技術を用いて形成する。その後、当該レジスト膜をエッチング阻止マスクとして用い、アルゴンイオンミリングを用いてエッチングを行い、基板までオーバーエッチングする。その後、レジスト膜を除去する。その後6kOeの印加磁場下において240℃で1時間アニールされ、そのまま炉冷した。
【0038】
その際のアニール温度は、平坦且つ結晶性および配向性のよい層を得るため、200℃以上、400℃以下であることが好ましい。より好ましくは、240℃以上、300℃以下でアニールすると、さらに平坦且つ結晶性および配向性のよい層が得られる。またアニールにおける磁界の大きさが5kOe以上であると、強磁性固定層の磁化方向の固定化が促進されるため好ましい。
【0039】
<GMRセンサの効果>
GMRセンサにおいて微弱な漏洩磁場を定量的に検出するには、外部磁場に対してセンサの電気抵抗値が線形的に変化する必要がある。そのためにGMR積層膜を細線状に加工している。このとき、強磁性固定層の磁化方向は細線の短軸方向に固定し、強磁性自由層の磁化方向は形状磁気異方性により細線の長軸方向に向いている。
【0040】
磁場のない初期状態では強磁性固定層と強磁性自由層の磁化方向の相対角は90°となる。磁性粒子が付着し漏洩磁場などの外部磁場が働くと強磁性固定層と強磁性自由層の磁化方向の相対角は90°からずれることになり、その相対角の増減に対して電気抵抗値も増減する。ここで、GMRセンサは少なくとも1本以上の細線から成り、直列、または並列に電気的に複数本の細線が接続されていてもよい。
【0041】
図2は、磁気抵抗効果デバイスを長軸方向から見た図である。磁気抵抗効果デバイスの素子であるGMRセンサ201において磁性粒子などの付着物を検出する場合には、GMRセンサの上部に磁性粒子が付着した場合と、GMRセンサの側壁に磁性粒子が付着した場合がある。
【0042】
GMRセンサの上部に磁性粒子が付着した場合と、GMRセンサの側壁に磁性粒子が付着した場合でGMRセンサのシグナルが正負反対であるため、GMRセンサ全体に磁性粒子が付着した場合、シグナルは打ち消しあい減衰する。シグナルの絶対値はGMRセンサ上部に磁性粒子が付いた場合の方が大きい。
【0043】
本実施例の磁性粒子付着防止層202は、非磁性、または反強磁性の絶縁体の材料から形成される。また、GMRセンサ201の側壁は、少なくとも100nm以上の長さの磁性粒子付着防止層202により覆われている。そのため、側壁に付着する磁性粒子のシグナルを減衰させ、GMRセンサのトータルのシグナルを向上させることができる。
【0044】
本実施例によれば、GMRセンサの性能を向上させることができる。特に、磁性粒子による磁界の方向が統一され、GMRセンサに接触する磁性体の磁界を効率的に検出することができる。したがって、磁性体が磁気抵抗効果デバイスに接触することにより磁性体があることを検出する接触型の磁気抵抗効果デバイスに対して高精度な磁気センシングを実現できる。
第1の強磁性固定層304および第2の強磁性固定層306のそれぞれの磁化方向は、互いに反対方向を向いている。言い換えれば、第1の強磁性固定層304の磁化方向と第2の強磁性固定層306の磁化方向とは、互いに反平行の関係にある。これにより、第1の強磁性固定層304および第2の強磁性固定層306のそれぞれから出る磁界は、第1の強磁性固定層304と第2の強磁性固定層306との間をループする。
つまり、第1の強磁性固定層304から出た漏れ磁界の殆どは第2の強磁性固定層306を通り、第2の強磁性固定層306から出た漏れ磁界の殆どは第1の強磁性固定層304を通る。このため、第1の強磁性固定層304および第2の強磁性固定層306のそれぞれから出る磁界は外部環境に影響を与えない。
このような構造は積層反強磁性構造と呼ばれる。積層反強磁性構造ではGMR積層膜から出る磁界が減少するため、非常に微弱な磁性体の磁界を検出する際、検出前後で検出対象の磁性体の磁気状態を変えずに当該磁性体の磁界を検出することができる。したがって、磁気の状態をより正確に検知することができる。第1の強磁性固定層304および第2の強磁性固定層306のうち少なくとも一方は、CoまたはCo-Fe合金のいずれか一方を含み、非磁性結合層305は、Ru(ルテニウム)とIrとの少なくとも一方を含むことが好ましい。
第1の強磁性固定層304、非磁性結合層305および第2の強磁性固定層306から成る積層膜は、1つの強磁性固定層とみなすことができる。すなわち、本実施例の磁気抵抗効果素子は、実施例1の強磁性固定層104が、第1の強磁性固定層304、非磁性結合層305および第2の強磁性固定層306から成る積層膜により構成されているものと考えることができる。