(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112525
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】給電回路及びアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/38 20060101AFI20220727BHJP
H01Q 1/40 20060101ALI20220727BHJP
H01Q 1/52 20060101ALI20220727BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20220727BHJP
H01Q 13/10 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
H01Q1/38
H01Q1/40
H01Q1/52
H01Q13/08
H01Q13/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019109114
(22)【出願日】2019-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】森本 康夫
(72)【発明者】
【氏名】茂木 健
(72)【発明者】
【氏名】佐山 稔貴
(72)【発明者】
【氏名】小野 元司
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 修
【テーマコード(参考)】
5J045
5J046
【Fターム(参考)】
5J045DA06
5J045DA10
5J045LA04
5J045NA04
5J046AA02
5J046AB08
5J046AB13
5J046PA09
5J046QA02
5J046UA03
(57)【要約】
【課題】筐体表面の見栄えの低下を抑制可能な給電回路及びアンテナを提供すること。
【解決手段】給電回路110は、筐体の表面に設けられるアンテナ導体に接続されるフレキシブル基板30と、アンテナ導体120に接続されるようにフレキシブル基板30に設けられ、電磁波を遮蔽するシールド構造を有する伝送線路20と、伝送線路29に対して筐体1a側とは反対側に設けられ、少なくとも伝送線路20の一部を覆い隠す意匠部40と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体の表面に設けられるアンテナ導体に接続されるフレキシブル基板と、
前記アンテナ導体に接続されるように前記フレキシブル基板に設けられ、電磁波を遮蔽するシールド構造を有する伝送線路と、
前記伝送線路に対して前記筐体側とは反対側に設けられ、少なくとも前記伝送線路の一部を覆い隠す意匠部と、
を備える給電回路。
【請求項2】
前記フレキシブル基板は、前記筐体の曲面に沿って設けられる請求項1に記載の給電回路。
【請求項3】
前記意匠部の色は、前記筐体の色と略同じである請求項1又は2に記載の給電回路。
【請求項4】
前記フレキシブル基板は、前記筐体の外側面から前記筐体の内側面まで延伸している請求項1から3の何れか一項に記載の給電回路。
【請求項5】
前記筐体には、折り返し部が形成され、
前記フレキシブル基板は、前記折り返し部に沿って、前記筐体の外側面から前記筐体の内側面まで延伸している請求項4に記載の給電回路。
【請求項6】
前記意匠部は、シート状の部材であり、
前記フレキシブル基板は、シート状の前記意匠部により前記筐体に固定されている請求項1から5の何れか一項に記載の給電回路。
【請求項7】
前記意匠部は、塗装膜であり、
前記塗装膜と前記フレキシブル基板との間に設けられる絶縁部材を備える請求項1から6の何れか一項に記載の給電回路。
【請求項8】
前記意匠部は、塗装膜であり、
前記フレキシブル基板において、前記シールド構造が形成されている部分には、前記塗装膜が設けられ、
前記フレキシブル基板において、前記シールド構造が形成されていない部分は、略透明の絶縁部材で形成される請求項1から7の何れか一項に記載の給電回路。
【請求項9】
前記意匠部は、塗装膜であり、
前記フレキシブル基板において、前記シールド構造が形成されている部分には、前記塗装膜が設けられ、
前記フレキシブル基板において、前記シールド構造が形成されていない部分に設けられる前記アンテナ導体は、略透明のメッシュ状に形成される請求項1から8の何れか一項に記載の給電回路。
【請求項10】
前記伝送線路は、基板一体型導波路である請求項1から9の何れか一項に記載の給電回路。
【請求項11】
前記アンテナ導体は、リジット基板に形成される請求項1から10の何れか一項に記載の給電回路。
【請求項12】
前記アンテナ導体は、平面アンテナである請求項1から11の何れか一項に記載の給電回路。
【請求項13】
前記アンテナ導体は、パッチアンテナである請求項1から11の何れか一項に記載の給電回路。
【請求項14】
前記アンテナ導体は、基板一体型導波路による導波管スロットアンテナである請求項1から11の何れか一項に記載の給電回路。
【請求項15】
請求項1から14の何れか一項に記載の給電回路と、アンテナ導体と、を備えるアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電回路及びアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット、自動車、列車などには種々の電波を送受するアンテナが搭載されることが知られている。特許文献1に示される車載用平面アンテナ装置は、アンテナ基板と、アンテナ基板の表面を保護するレドームと、アンテナ基板を車の筐体に固定するためのブラケットと、アンテナ基板に給電する給電ケーブルとを備える。アンテナ基板はレドームとブラケットにより挟み込まれることで車の筐体に設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示される従来技術では、アンテナ基板に繋がる給電ケーブルが目隠しされていないため、筐体表面の見栄えを低下させる要因になるという課題があった。
【0005】
そこで、本開示は、筐体表面の見栄えの低下を抑制可能な給電回路及びアンテナを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、筐体の表面に設けられるアンテナ導体に接続されるフレキシブル基板と、前記アンテナ導体に接続されるように前記フレキシブル基板に設けられ、電磁波を遮蔽するシールド構造を有する伝送線路と、前記伝送線路に対して前記筐体側とは反対側に設けられ、少なくとも前記伝送線路の一部を覆い隠す意匠部と、を備える給電回路を提供する。さらに本開示は、前記給電回路と、アンテナ導体と、RFコネクタ、及びRFモジュールを備えるアンテナを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、筐体表面の見栄えの低下を抑制可能な給電回路及びアンテナを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態に係るアンテナ100を備えた車両1の外観図である。
【
図4】アンテナ100の第1変形例を示す図である。
【
図5】アンテナ100の第2変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本開示に係る実施形態について説明する。なお、平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、例えばアンテナが設置される筐体が曲面で構成されている場合など、本発明の効果を損なわない程度のずれが許容される。また、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向を表す。X軸方向とY軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。XY平面、YZ平面、ZX平面は、それぞれ、X軸方向及びY軸方向に平行な仮想平面、Y軸方向及びZ軸方向に平行な仮想平面、Z軸方向及びX軸方向に平行な仮想平面を表す。
【0010】
本開示の一実施形態に給電回路及びアンテナは、マイクロ波やミリ波等の高周波帯(例えば、1GHz超~300GHz)の電波の送受に好適である。本開示の一実施形態における給電回路及びアンテナは、例えば、V2X通信システム、第5世代移動通信システム(いわゆる、5G)、車載レーダーシステムなどに適用可能であるが、適用可能なシステムはこれらに限られない。周波数域としては、例えばITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)(5.89GHz)用や、5G(3.6から6GHz帯)用、Wi-Fi(28GHz帯、2.4GHz、5GHz、39GHz帯)用であってよい。
【0011】
図1は本発明の実施の形態に係る給電回路を含むアンテナ100を備えた車両1の外観図である。車両1は、例えば列車の先頭車両、後尾車両、中間車両などである。車両1の筐体1aにはアンテナ100が設けられている。なお、実施の形態に係るアンテナ100は、列車以外にも、自動車、建築物、ロボット、航空機などにも利用可能である。筐体1aは、例えば車両1の外郭を構成するパネルに限定されず、後述するアンテナ導体120を設置可能な箇所であればよく、筐体1aには、例えば自動車のフロントガラス、自動車のリアガラス、自動車、航空機、自動車等の内張、建築物の窓ガラス、ロボットの外郭を構成するフレームなども含まれる。
【0012】
また、筐体1aがビルの窓ガラス(第1筐体)である場合、例えば、ビルの窓ガラスの室内側にアンテナ導体120が設けられ、後述するRFモジュール60はビルの室内の天井部(第2筐体)の裏側に設けられる。そして、後述するフレキシブル基板30にアンテナ導体120と後述する給電回路110が一体で設けられており、給電回路110によってアンテナ導体120がRFモジュール60に接続される。
【0013】
また筐体1aが自動車のフロントガラス(第1筐体)である場合、アンテナ導体120はフロントガラスの内側に挟み込まれているか、フロントガラスの表面に設けられる。そしてRFモジュール60は自動車のルームミラー(第2筐体)の取り付け部に設置され、フレキシブル基板30にアンテナ導体120と給電回路110が一体で設けられており、給電回路110によってアンテナ導体120がRFモジュール60に接続される。
【0014】
また筐体1aがロボットのボディである場合、アンテナ導体120はロボットのボディの表面(表側)に設けられ、RFモジュール60はロボットのボディの裏側に設置される。フレキシブル基板30にアンテナ導体120と給電回路110が一体で設けられており、給電回路110によってアンテナ導体120がRFモジュール60に接続される。
【0015】
図2は
図1の
図II-II矢視断面図、
図3は
図2の
図III-III矢視断面図である。アンテナ100は、給電回路110、アンテナ導体120、RFコネクタ50、及びRFモジュール60を備える。
【0016】
給電回路110は、筐体1aの外側面1a1から筐体1aの内側面1a2に渡って設けられるフレキシブル基板30と、アンテナ導体120に接続されるようにフレキシブル基板30に設けられ、電磁波を遮蔽するシールド構造を有する伝送線路20とを備える。また給電回路110は、少なくとも伝送線路20の一部を覆い隠すように伝送線路20の筐体1a側とは反対側(筐体1aの外側)に設けられる意匠部40をさらに備える。
【0017】
筐体1aは、自動車、建築物、ロボット、航空機などの通信移動体において、何らかの機能を有する機器などを収めた容器・ハウジングであって、平面形状であっても曲面形状であってもよい。筐体1aは、外側面1a1と内側面1a2とを物理的につなげるような屈曲部11(具体的には、筐体1aにおける端面部や穴部)を有する。
【0018】
フレキシブル基板30は、筐体1aの曲面部に沿うように曲げることが可能な柔軟性を有し、弱い力で繰り返し変形させることが可能であり、変形した場合にもその電気的特性を維持する特性をもつ単相両面基板である。フレキシブル基板は、筐体1aの曲面部に隙間なく設けられることが好ましい。
【0019】
フレキシブル基板30は、例えば、厚み12μmから50μmの薄膜状の誘電体(ベースフィルム)の上下面に、厚みが12μm~50μmの導体箔が張り合わされた構造である。誘電体には、ソルダーレジスト(レジスト/フォトレジスト)、カバーレイ(Coverlay)と呼ばれる材料で、ポリイミド、ポリエステルなどが使用される。導体箔には、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、白金、クロムなどが用いられる。フレキシブル基板30は、一般的なリジッド基板(総厚300μm~1,600μm)と比較して薄く、加工性に優れるため、複雑な形状加工が可能である。
【0020】
フレキシブル基板30の誘電体は、可視光を透過する透明な誘電体部材が好ましい。「透明」には、半透明が含まれる。誘電体が透明であり、導体(アンテナ導体120、信号線21、接地導体22)が細いメッシュ状になることで、可視光領域にてほぼ透明になり、意匠部40で覆わなくとも筐体1aを目視できるようになる。
【0021】
フレキシブル基板30の誘電体の可視光線透過率は、フレキシブル基板30越しの視野の遮りを抑える点で、例えば、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましく、60%以上がよりさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。また、上限は特に限定されないが、99%以下であってよく、95%以下であってよい。ここで、可視光透過率は、分光光度計により測定された分光透過率の値に、日本工業規格(JIS R3106(1998))により規定された重価係数を乗じて加重平均した値である。
【0022】
フレキシブル基板30の誘電体7は、例えば28GHzにおける誘電正接(いわゆる、tanδ)が0.01以下である。なお、28GHzにおける誘電正接は、GHz帯の周波数における指標の例である。そのため、28GHzにおける誘電正接が0.01以下であれば、例えば、1GHz~100GHzにおいても伝送線路20の伝送損失が抑制されるので、28GHz近傍に限らず、1GHz~100GHzにおける平面アンテナ101のアンテナ利得を向上できる。フレキシブル基板30の誘電体7は、伝送線路20の伝送損失(ひいては、アンテナ利得の低下)を抑制する点で、0.005以下が好ましく、0.004以下がより好ましく、0.003以下がさらに好ましく、0.002以下がさらに好ましく、0.001以下が特に好ましい。フレキシブル基板30の誘電体7の28GHzにおける誘電正接は、0よりも大きければよく、例えば、0.00001以上でもよく、0.0005以上でもよく、0.001以上でもよい。
【0023】
なお、誘電正接(tanδ)は、25℃、28GHzで、日本工業規格(JIS R 1641:2007)に規定されている方法により、空洞共振器及びベクトルネットワークアナライザを用いて測定された値である。
【0024】
フレキシブル基板30は、筐体1aの外側面1a1において筐体1aの平面部10から屈曲部11まで延伸し、さらに屈曲部11の端部で折り返されて、筐体1aの内側面1a2に向かって延伸する。筐体1aの内側面1a2に延伸したフレキシブル基板30にはRFコネクタ50が接続される。RFコネクタ50は、例えば筐体1aの内側面1a2に設けられるRFモジュール60に接続される。RFコネクタ50及びRFモジュール60が筐体1aの内側に設けられることで、RFコネクタ50及びRFモジュール60が筐体1aで目隠しされるため、アンテナ100の意匠性が向上する。
【0025】
フレキシブル基板30が筐体1aの曲面に沿って設けられることで、曲面を有する筐体1aにおいても、筐体1aの曲率が変化する部分と平行に伝送線路20を構築できる。そのため、アンテナ100の設計の自由度が向上すると共に、伝送線路20が筐体1aから浮き上がるように見えることがなくなり、意匠性が向上する。なお、フレキシブル基板30は、曲面を有さない筐体1aに設けてもよい。フレキシブル基板30が曲面を有さない筐体1aに設けられた場合でも、筐体1aの外側面1a1から内側面1a2に向かって折り返すようにしてフレキシブル基板30を設けることができるため、筐体1aの内側面1a2に設けられるRFモジュール60への接続が容易化され、意匠性が向上すると共にアンテナ100の設計の自由度が向上する。
【0026】
アンテナ導体120は、例えば、フレキシブル基板30の折り返し部31に設けられる。フレキシブル基板30の折り返し部31は、シート状のフレキシブル基板30の誘電体の端部が折り返されることでZ軸方向の厚みが増加している部分である。アンテナ導体120は、フレキシブル基板30の折り返し部31を介して、筐体1aの外側に設けられる。フレキシブル基板30に折り返し部31を設けることで、例えば、接地導体22とアンテナ導体120との間に絶縁性のワッシャなどを設けなくとも、伝送線路20の接地導体22からアンテナ導体120までの距離を広げることができる。これにより、アンテナ導体120の利得を向上させることができると共に、アンテナ100の構造が簡素化されアンテナ100の信頼性が向上する。
【0027】
図2に示す形態では、アンテナ導体120は、その表面がXY平面に平行な導体パターンである。アンテナ導体120は、フレキシブル基板30に形成される導体パターンでもよいし、予め製造された後にフレキシブル基板30に配置される導体シート、導体基板などでもよい。アンテナ導体120には、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、白金、クロムなどが用いられる。
【0028】
図3における伝送線路20は、例えば磁気を遮蔽するシールド構造を有する基板一体型導波路(Substrate Integrated Waveguide:SIW)であることが好ましい。SIWは、基板内蔵導波路、ポスト壁導波路と称する場合もある。SIWは、
図3に示すとおり、フレキシブル基板30の誘電体と、2つの導体層(後述)と、複数の導体柱23とによって構成され、導波管モードで信号を伝達する導波路である。2つの導体層は、フレキシブル基板30の誘電体に形成される導体パターン(接地導体22)である。導体柱23は、2つの導体層を電気的に接続する中実又は中空の柱状導電体である。導体柱23は、SIW中を伝搬する高周波信号が外部に漏洩しない間隔で複数配列されている。
【0029】
接地導体22には、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、白金、クロムなどが用いられる。接地導体22の厚さは、0.09μm以上が好ましく、0.35μm以上がより好ましい。また、接地導体22の厚さは、110μm以下が好ましい。接地導体22の厚さが上記範囲内であれば、アンテナ導体120のアンテナ利得を高めることができる。
【0030】
図2に示す信号線21は、伝送線路20の誘電体に接続される導体パターンである。信号線21の一端(プラスY軸方向の端部)は、アンテナ導体120と接地導体22との間の領域(折り返し部31において誘電体が重なる部分)に設けられる。信号線21は、例えばアンテナ導体120と非接触で電気的に接続される。信号線21には、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、白金、クロムなどが用いられる。信号線21の厚さは、0.09μm以上が好ましく、0.35μm以上がより好ましい。また、信号線21の厚さは、110μm以下が好ましい。
【0031】
なお、伝送線路20は、SIW以外の伝送線路でもよい。伝送線路20の他の例として、柔軟性のあるストリップ線路、マイクロストリップ線路などがある。
【0032】
意匠部40は、アンテナ導体120及び伝送線路20を覆う目隠しとして機能する。本構成例では、意匠部40のプラスY軸方向側の端部41が、例えば筐体1aの外側面1a1の内、フレキシブル基板30の折り返し部31のプラスY軸方向の端部付近に接している。そして、意匠部40の端部41とは反対側の端部42が、例えば筐体1aの屈曲部11の端部付近まで伸びている。
【0033】
伝送線路20の全体の内、折り返し部分20aから筐体1aの内側に伸びる部分は、当該部分には、意匠部40が設けられていない。当該部分は、筐体1aをプラスZ軸方向から平面視したときに目視し難いためである。この構成により、当該部分を意匠部40で覆わなくとも、アンテナ導体120及び伝送線路20の意匠性を向上させることができる。また、意匠部40を設ける領域を小さくできるため、アンテナ100の製造コストの増加を抑制できる。
【0034】
なお、本構成例では、意匠部40がアンテナ導体120及び伝送線路20の双方を覆っているが、意匠部40は、少なくとも伝送線路20の一部を覆い隠す形状であればよい。伝送線路20の一部は、例えば、フレキシブル基板30の折り返し部31と信号線21との境界部から、伝送線路20の折り返し部分20a(筐体1aの屈曲部11の端部付近)までの領域である。この構成により、伝送線路20の一部が意匠部40で覆い隠され、筐体1aの外観の見栄えが低下することを抑制できる。
【0035】
意匠部40は、例えば、筐体の曲面に沿って曲げることができる柔軟性、電波透過性、耐防水性、耐衝撃性などを併せ持つ材料で構成されるシート部材、塗装膜などである。
【0036】
意匠部40がシート部材の場合、意匠部は、表面(おもてめん)すなわち伝送線路20側とは反対側に設けられる透明樹脂層と、裏面(伝送線路20側の面)に設けられる基材層とを備える。透明樹脂層は、耐久性に優れ、高い透明性を有するアクリル樹脂によって構成される、基材層は、アクリロニトル-エチレン-スチレン樹脂(AES樹脂)によって構成される。なお、基材層は、AES樹脂以外の樹脂、例えばABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニルなどでもよい。
【0037】
AES樹脂は、基本的特性がABS樹脂と同等であり、ゴム成分を特殊エチレンプロピレンゴムとすることで、ABS樹脂より光劣化に対して良好な安定性があり、長期屋外使用が可能である。またAES樹脂は、成形加工性にすぐれ、任意な着色が可能である。そのため、AES樹脂は、例えば屋外で利用される自動車、列車などに設置される意匠部40に好適な材料である。
【0038】
ABS樹脂は汎用性の高い樹脂であり、柔軟性があり、丈夫で加工がしやすく、AES樹脂と同様に任意な着色が可能である。その反面、ABS樹脂は、耐候性(工業製品が太陽光、温度、湿度、雨などの屋外環境に耐えられる性質)が低いため、例えば屋内で利用されるロボットの筐体などに設置される意匠部40に好適な材料である。
【0039】
ポリカーボネート樹脂は、任意な着色が可能であり、また高い透明性、自己消火性、耐衝撃性を併せ持つプラスチックである。また、ポリカーボネート樹脂は耐候性が高いため、例えば屋外で利用される自動車、列車などに設置される意匠部40に好適な材料である。
【0040】
ポリ塩化ビニルは、安価で加工性に優れる反面、絶縁性を有するため、伝送線路20の一部を覆う形状の意匠部40を安価に製造できる材料として好適である。
【0041】
意匠部40が塗装膜の場合、例えば電波透過性を有する塗料が用いられる。塗料としては、特に限定はされないが、アクリル系塗料、ウレタン系塗料、エポキシ系塗料、ポリエステル系塗料等を例示できる。塗装方法としては、特に限定はされないが、エアースプレー塗装、エアーレススプレー塗装、浸漬塗装、シャワーコート塗装、ロールコーター塗装等を例示できる。
【0042】
意匠部40がシート状の部材である場合、予め製造した意匠部40を伝送線路20などに張り付けるだけでアンテナ100が完成するため、アンテナ100の組み立て時間を短縮でき、アンテナ100の大量生産が可能になる。また、シート状にすることで、フレキシブル基板30の折り返し部31と信号線21との境界部や、フレキシブル基板30の折り返し部31と筐体1aとの境界部などに、段差部が生じても、シート状の意匠部40がその段差部を目立たなくすることができる。従って意匠性をより向上させることができる。またシート状にすることで、意匠部40の取り外しが容易になるため、アンテナ導体120、伝送線路20などのメンテナンスが向上する。
【0043】
また、意匠部40がシート状の部材の場合、フレキシブル基板30の少なくとも一部がシート状の意匠部40により覆われるようにして筐体1aに固定されている構成としてもよい。この構成により、フレキシブル基板30を筐体1aに接着などにより固定する工程を省いても、フレキシブル基板30を筐体1aへ固定できる。従って、フレキシブル基板30を筐体1aに接着するために接着剤などを塗布する作業を省くことができ、アンテナ100の製造時間を短縮できる。なお、アンテナ導体120が設けられる筐体(第1筐体)と、RFモジュール60が設けられる筐体(第2筐体)とが別の部材である場合、シート状の意匠部40は第2筐体にのみ設けられてもよい。例えば、筐体1aがビルの窓ガラス(第1筐体)である場合、例えば、ビルの窓ガラスの室内側にアンテナ導体120が設けられ、RFモジュール60がビルの窓ガラスが嵌め込まれる内装(第2筐体)あるいは建物の天井部(第2筐体)の表面に設けられる場合、フレキシブル基板30にアンテナ導体120と後述する給電回路110が一体で設けられており、給電回路110によってアンテナ導体120がRFモジュール60に接続され、給電回路110がシート状の意匠部40により覆われる。
【0044】
また筐体1aが自動車のフロントガラス(第1筐体)である場合、アンテナ導体120はフロントガラスの内側に挟み込まれているか、フロントガラスの表面に設けられる。そしてRFモジュール60は自動車のルームミラー(第2筐体)の取り付け部に設置され、フレキシブル基板30にアンテナ導体120と給電回路110が一体で設けられており、給電回路110によってアンテナ導体120がRFモジュール60に接続される。この場合、給電回路110がシート状の意匠部40により覆われてもよい。
【0045】
意匠部40が塗装膜の場合には、アンテナ導体120及び伝送線路20との良好な密着性が得られる。さらに、伝送線路20及びフレキシブル基板30の形状に関わりなく塗装膜を形成できるため、アンテナ100の設計の自由度が向上する。
【0046】
なお意匠部40の色は、筐体1aの色と略同じにすることが好ましい。本構成例における略同じ色とは、目視で殆ど区別が付かない色差のことであって、色差計で測定したL*a*b*表示系におけるL*a*b値で、色差ΔEが3以下、好ましくは、色差ΔEが1.5以下をいう。色差ΔEは、模様間の最大配色の色差のことである。
【0047】
ΔE={(L1-L2)2+(a1-a2)2+(b1-b2)2}0.5
L1、a1、b1:筐体1aの測色結果
L2、a2、b2:意匠部40の測色結果
【0048】
意匠部40の色を筐体1aの色と略同じにすることで、例えば白色の筐体1aに白色の意匠部40を貼り合わせた場合に、それぞれの色が厳密には互いに異なるとしても実用上同じ色と見なせるため、アンテナ100の意匠性がより向上する。
【0049】
RFコネクタ50は高周波の信号を通し、他の基板や他の線路と接続するためのコネクタである。一般的には同軸線路から構成されるものがある。RFモジュール60は各種機能を持つデバイスが実装された部品である。一般的には増幅器、位相器、ミキサ、信号源、フィルタ、スイッチ、サーキュレータ、AD/DA(Analog to Digital / Digital to Analog)コンバータ、などのデバイスが実装され、入出力インターフェースにRFコネクタおよび電源/制御コネクタが設けられたものがある。
【0050】
図4はアンテナ100の第1変形例を示す図である。上述の伝送線路と同様の構成及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで省略又は簡略する。
図4に示すアンテナ100Aは、給電回路110Aを備え、給電回路110Aは、
図2に示す構成に加え、絶縁部材70を備える。
【0051】
絶縁部材70は、意匠部40とフレキシブル基板30との間に設けられる。絶縁部材70は、誘電体を主成分とする板状又はシート状のフレキシブルな基材である。例えば、意匠部40が塗装膜で形成された場合、塗装膜は、材料の物性値(比誘電率と誘電正接)を管理し難いため、誘電正接が低下する傾向にある。絶縁部材70を設けることによって、意匠部40からフレキシブル基板30の誘電体までの距離を広げることができるため、塗装膜によるアンテナ利得の低下を抑制できる。絶縁部材70の厚みは、フレキシブル基板30におけるアンテナ導体120と接地導体22との距離、あるいは、信号線21と接地導体22との距離(すなわちフレキシブル基板30の絶縁材厚み)の半分以上であると望ましい。
【0052】
図5はアンテナ100の第2変形例を示す図である。上述の伝送線路と同様の構成及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで省略又は簡略する。
図5に示すアンテナ100Bは、給電回路110Bを備え、給電回路110Bは、
図2に示す構成に加え、折り返し部31に挟み込まれるように設けられる絶縁部材80を備える。
【0053】
絶縁部材80は、誘電体を主成分とする板状の基材であり、フレキシブルな基材であってもよい。アンテナ100がsub6のアンテナである場合、sub6の周波数帯では接地導体22との距離を稼ぐ必要があるため、絶縁部材80を設けることにより、接地導体22からアンテナ導体120までの距離を広げることができるため、アンテナ利得の低下を抑制する点で好ましい。絶縁部材80は、アンテナ導体120から接地導体22までの距離を広げる機能を有する。
【0054】
なお、本実施の形態において、意匠部40が塗装膜である場合、フレキシブル基板30において、シールド構造が形成されている部分には、塗装膜の意匠部40が設けられ、フレキシブル基板30において、シールド構造が形成されていない部分(フレキシブル基板30の誘電体)は、略透明の絶縁部材、又はメッシュ状の絶縁部材で形成される構成としてもよい。シールド構造が形成されていない部分は、例えば
図2に示す信号線21のプラスY軸方向の端部から折り返し部31のプラスY軸方向の端部までの領域である。この構成により、塗装膜の意匠部40が設けられていない部分(伝送線路20の誘電体)を目立たなくすることができ、アンテナ100の意匠性が向上する。
【0055】
また、本実施の形態において、意匠部40が塗装膜である場合、フレキシブル基板30において、シールド構造が形成されている部分には、塗装膜の意匠部40が設けられ、フレキシブル基板30において、シールド構造が形成されていない部分(フレキシブル基板30の誘電体)に設けられるアンテナ導体120は、略透明のメッシュ状に形成される構成としてもよい。シールド構造が形成されていない部分は、例えば
図2に示す信号線21のプラスY軸方向の端部から折り返し部31のプラスY軸方向の端部までの領域である。この構成により、塗装膜の意匠部40が設けられていない部分(アンテナ導体120)を目立たなくすることができ、アンテナ100の意匠性が向上する。
【0056】
なお、本実施の形態において、アンテナ導体120は、フレキシブル基板30に設けられているが、フレキシブル基板30の代わりにリジット基板に設けてもよい。このように構成した場合、基板厚を厚くすることができるため、前述した絶縁部材80を設ける場合と同様の効果が得られる。
【0057】
なお各構成例では、筐体1aの裏側(内側面1a2)にRFモジュール60が設置されているが、アンテナ導体120とRFモジュール60が分離されていればよく、例えばRFモジュール60の設置場所は筐体1aの外側面1a1でもよい。
【0058】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 :車両
1a :筐体
1a1 :外側面
1a2 :内側面
10 :平面部
11 :屈曲部
20 :伝送線路
21 :信号線
22 :接地導体
23 :導体柱
30 :フレキシブル基板
31 :折り返し部
40 :意匠部
41 :端部
42 :端部
50 :RFコネクタ
60 :RFモジュール
70 :絶縁部材
100 :アンテナ
100A :アンテナ
100B :アンテナ
101 :平面アンテナ
110 :給電回路
110A :給電回路
110B :給電回路
120 :アンテナ導体