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特開2022-112968アミロイドβの凝集抑制剤、アミロイドβ凝集疾患用医薬組成物、およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112968
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】アミロイドβの凝集抑制剤、アミロイドβ凝集疾患用医薬組成物、およびその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/365 20060101AFI20220727BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220727BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220727BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220727BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220727BHJP
【FI】
A61K31/365
A61P25/28
A61P43/00 111
A61P25/00
C07K14/47 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009027
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(72)【発明者】
【氏名】東 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】秋澤 俊史
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 源顕
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 健一
【テーマコード(参考)】
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086GA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC02
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
【課題】 アルツハイマー病等の原因となるアミロイドβの凝集を抑制する新たな薬剤を提供する。
【解決手段】 本発明のアミロイドβの凝集抑制剤は、ペリジニンを含むことを特徴とする。本発明のアミロイドβの凝集抑制方法は、被検体に、前記本発明のアミロイドβの凝集抑制剤を添加することを特徴とする。本発明の神経細胞死抑制剤は、ペリジニンを含むことを特徴とする。本発明のアミロイドβ凝集疾患用医薬組成物は、ペリジニンを含むことを特徴とする。前記凝集疾患は、例えば、記憶障害、認知機能障害、アルツハイマー病、および脳アミロイドアンギオパチーからなる群から選択された少なくとも一つである。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリジニンを含むことを特徴とするアミロイドβの凝集抑制剤。
【請求項2】
ペリジニンを含むことを特徴とする神経細胞死抑制剤。
【請求項3】
ペリジニンを含むことを特徴とするアミロイドβ凝集が原因となるアミロイドβ凝集疾患用医薬組成物。
【請求項4】
前記凝集疾患が、記憶障害、認知機能障害、アルツハイマー病、および脳アミロイドアンギオパチーからなる群から選択された少なくとも一つである、請求項3に記載のアミロイドβ凝集疾患用医薬組成物。
【請求項5】
前記凝集関連疾患に対する予防剤である、請求項3または4に記載のアミロイドβ凝集疾患用医薬組成物。
【請求項6】
前記凝集関連疾患に対する治療剤である、請求項3から5のいずれか一項に記載のアミロイドβ凝集疾患用医薬組成物。
【請求項7】
被検体に、請求項1に記載のアミロイドβの凝集抑制剤を添加することを特徴とするアミロイドβの凝集抑制方法。
【請求項8】
前記凝集抑制剤の添加をin vivoまたはin vitroで行う、請求項7に記載の凝集抑制方法。
【請求項9】
前記凝集抑制剤を、ヒトまたは非ヒト動物に添加する、請求項7または8に記載の凝集抑制方法。
【請求項10】
被検体に、請求項2に記載の神経細胞死抑制剤を添加することを特徴とする神経細胞死の抑制方法。
【請求項11】
前記神経細胞死抑制剤の添加をin vivoまたはin vitroで行う、請求項10に記載の神経細胞死抑制方法。
【請求項12】
前記神経細胞死抑制剤を、ヒトまたは非ヒト動物に添加する、請求項10または11に記載の神経細胞死の抑制方法。
【請求項13】
被検体に、請求項1に記載のアミロイドβの凝集抑制剤を投与することを特徴とするアミロイドβ凝集が原因となるアミロイドβ凝集疾患の治療方法。
【請求項14】
前記被検体が、ヒトまたは非ヒト動物である、請求項13に記載の治療方法。
【請求項15】
アミロイドβ凝集が原因となるアミロイドβ凝集疾患の治療に使用するためのペリジニン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβの凝集抑制剤、アミロイドβ凝集疾患用医薬組成物、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
平均寿命の上昇に伴う人口における高年齢層の割合の増加により、老年期での発症が多くを占めるアルツハイマー病は、深刻な問題となっている。アルツハイマー病は、認知機能障害と記憶力の低下が生じる進行性中枢神経変性疾患である。脳においてアミロイドβが分子間会合により凝集して生成された線維状凝集体(アミロイド線維)がその原因と考えられている。しかしながら、臨床において有効な薬剤は実用化されておらず、候補薬のさらなる探索が求められている。これはアルツハイマー病には限られず、アミロイド繊維が原因となる疾患全般において同様の問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、アルツハイマー病等の原因となるアミロイドβの凝集を抑制する新たな薬剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のアミロイドβの凝集抑制剤は、ペリジニンを含むことを特徴とする。
【0005】
本発明の神経細胞死抑制剤は、ペリジニンを含むことを特徴とする。
【0006】
本発明のアミロイドβ凝集疾患用医薬組成物は、ペリジニンを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明のアミロイドβの凝集抑制方法は、被検体に、前記本発明のアミロイドβの凝集抑制剤を添加することを特徴とする。
【0008】
本発明の神経細胞死の抑制方法は、被検体に、前記本発明の神経細胞死抑制剤を添加することを特徴とする。
【0009】
本発明のアミロイドβ凝集疾患の治療方法は、被検体に、前記本発明のアミロイドβの凝集抑制剤を投与することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアミロイドβの凝集抑制剤によれば、アミロイドβの分子間会合による凝集を抑制できる。このため、例えば、アミロイドβの凝集が原因となる神経細胞死を抑制でき、また、アルツハイマー病等のアミロイド凝集疾患の治療、例えば、予防、進行の抑制、改善等が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、凝集反応前にペリジニンを添加した反応液の蛍光強度を示すグラフである。
図2図2は、凝集反応後にペリジニンを添加した反応液の蛍光強度を示すグラフである。
図3図3は、凝集反応前にペリジニンを添加した反応液と共存させた神経細胞の生存率を示すグラフである。
図4図4は、マウスの交替行動率を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<アミロイドβの凝集抑制剤>
本発明のアミロイドβの凝集抑制剤は、前述のように、ペリジニンを含むことを特徴とする。本発明の凝集抑制剤は、ペリジニンを含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。
【0013】
ペリジニンは、カロテノイドの一種であり、下記構造式で表される。ペリジニンは、例えば、市販品を使用してもよいし、前記構造式に基づいて化学合成してもよいし、ペリジニンを生成する生物から単離してもよい。前記生物としては、例えば、渦鞭毛藻があげられ、具体例としてOTCL2A株等があげられる。
【化1】
【0014】
本発明において、アミロイドβ(以下、Aβともいう)の凝集とは、例えば、アミロイドβまたはそのフラグメントペプチドの凝集である。以下、Aβの凝集とは、特に示さない限り、前記フラグメントペプチドの凝集の意味も含む。
【0015】
本発明の凝集抑制剤が凝集を抑制するアミロイドβの由来は、特に制限されず、例えば、ヒトまたは後述する非ヒト動物があげられ、好ましくはヒトである。ヒトアミロイドβの全長アミノ酸配列は、例えば、40アミノ酸残基-42アミノ酸残基数である。ヒトアミロイドβの全長アミノ酸配列の長さは、例えば、アミロイド前駆体(APP)からの酵素による切断部位によって異なる。42アミノ酸残基のヒトアミロイドβは、例えば、データベース(PubChem)にアクセッション番号CID: 57339251で登録されており、配列番号1で表される。40アミノ酸残基のヒトアミロイドβは、配列番号1において、N末端の1番目のアミノ酸残基(D)から40番目のアミノ酸残基(V)までの配列であり、40番目のアミノ酸残基がC末端である。
配列番号1:DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA
【0016】
本発明において、凝集抑制とは、例えば、アミロイドβが凝集することの抑制、または、すでに凝集されたアミロイドβ凝集体の解離による抑制である。前記アミロイドβ凝集体の解離とは、例えば、前記凝集体を単量体のアミロイドβに解いていくことを意味する。この場合、本発明の凝集抑制剤は、例えば、凝集解離剤ともいえる。本発明におけるペリジニンは、アミロイドβが凝集すること自体を抑制でき、また、すでに凝集されたアミロイドβ凝集体を解離することもできる。
【0017】
本発明の凝集抑制剤は、例えば、アミロイドβの凝集が原因となる疾患(アミロイドβ凝集疾患)の治療に使用できる。本発明において治療は、例えば、予防、進行の抑制、改善(緩和)の意味を含む。前述のように、ペリジニンは、前記凝集体の生成自体を抑制できることから、前記疾患の予防および進行の抑制に有用であり、また、前記凝集体の解離も可能であることから、前記疾患の改善にも有用である。前記予防は、例えば、再発の防止の意味も含む。前記アミロイドβ凝集疾患は、特に制限されず、前記アミロイドβの凝集が原因となりうる疾患であり、具体例として、例えば、記憶障害、認知機能障害、アルツハイマー病、脳アミロイドアンギオパチー等があげられる。
【0018】
本発明の凝集抑制剤は、例えば、アミロイドβの凝集が原因となる神経細胞死を抑制できる。神経細胞の細胞死は、例えば、アルツハイマー等の病態の進展に関与していることが知られている。このため、本発明の凝集抑制剤によれば、例えば、アミロイドβの凝集抑制によって、神経細胞死を抑制することで、アルツハイマー等のアミロイドβ凝集疾患の治療疾患(アミロイドβ凝集疾患)への治療効果を奏することもできる。
【0019】
本発明の凝集抑制剤は、本発明の凝集抑制組成物ともいう。本発明の凝集抑制剤は、有効成分として、ペリジニンを含む。本発明の凝集抑制剤に含まれる前記有効成分は、ペリジニンのみでもよいし、その他の凝集抑制効果を示す物質をさらに含んでもよい。本発明の凝集抑制剤は、例えば、前記有効成分のみからなる組成物でもよいし、前記有効成分と、その他の添加成分とを含む組成物でもよい。前記添加成分は、特に制限されず、例えば、薬理学的に許容される成分があげられる。前記添加成分については、例えば、後述する医薬組成物における説明を援用できる。
【0020】
本発明の凝集抑制剤の形態は、特に制限されず、例えば、液状、固体、ゲル状等があげられ、本発明の凝集抑制剤の添加対象の種類、添加方法等に応じて適宜選択できる。本発明の凝集抑制剤は、ペリジニンを含んでいればよく、例えば、食品添加物、健康食品等の食品、飲料、サプリメント、医薬品等、その形態は特に制限されない。
【0021】
本発明の凝集抑制剤は、例えば、アミロイドβまたはそのフラグメントペプチドが存在する環境下、または存在すると推測される環境下で使用できる。本発明の凝集抑制剤は、例えば、被検体に添加できる。前記被検体は、例えば、細胞等が含まれない非生物系の被検体でもよいし、脳細胞等の細胞、脳等の組織、生体等の生物系の被検体でもよい。後者の被検体の場合、前記添加は、例えば、in vivo、またはin vitroで行うことができる。前記細胞および組織は、例えば、ヒト由来でもよいし、非ヒト動物由来でもよく、前記生体は、例えば、ヒトでもよいし、非ヒト動物でもよい。前記非ヒト動物は、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ウシ、ラクダ等の哺乳類動物があげられる。
【0022】
本発明の凝集抑制剤は、例えば、後述する本発明の神経細胞死抑制剤、またはアミロイドβ凝集疾患用医薬組成物としても使用できる。また、本発明の凝集抑制剤は、例えば、後述する本発明のアミロイドβの凝集抑制方法、神経細胞死の抑制方法、アミロイドβ凝集疾患の治療方法等に使用できる。本発明の凝集抑制剤は、後述する本発明の神経細胞死抑制剤、アミロイドβ凝集疾患用医薬組成物、アミロイドβの凝集抑制方法、神経細胞死の抑制方法、およびアミロイドβ凝集疾患の治療方法における説明を援用できる。
【0023】
<神経細胞死抑制剤>
本発明の神経細胞死抑制剤は、前述のように、ペリジニンを含むことを特徴とする。本発明の神経細胞死抑制剤は、ペリジニンを含むことが特徴であって、その他の構成および条件は、特に制限されず、前記本発明のアミロイドβの凝集抑制剤の記載を援用できる。
【0024】
本発明におけるペリジニンは、神経細胞死を抑制することができる。具体的には、例えば、アミロイドβの凝集が原因となる神経細胞死を抑制することができる。神経細胞の細胞死は、前述のように、例えば、アルツハイマー等の病態の進展に関与していることが知られている。このため、本発明の神経細胞死抑制剤によれば、例えば、アミロイドβの凝集によって誘導される神経細胞死を、アミロイドβの凝集を抑制することにより抑制でき、さらに、このようにして神経細胞死が抑制されることにより、アルツハイマー等のアミロイドβ凝集疾患の治療疾患(アミロイドβ凝集疾患)への治療効果を奏することもできる。
【0025】
<アミロイドβ凝集疾患用医薬組成物>
本発明のアミロイドβ凝集疾患用医薬組成物(以下、医薬組成物ともいう)は、前述のように、ペリジニンを含むことを特徴とする。本発明の医薬組成物は、ペリジニンを含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されず、前記本発明のアミロイドβの凝集抑制剤の記載を援用できる。
【0026】
本発明の医薬組成物は、有効成分として、ペリジニンを含む。本発明の医薬組成物に含まれる前記有効成分は、ペリジニンのみでもよいし、さらに、前記アミロイドβ凝集疾患に対する他の有効成分を含んでもよい。前記他の有効成分は、例えば、凝集体の生成を抑制する有効成分でもよいし、生成された凝集体を分解する有効成分でもよい。前記凝集体の分解とは、例えば、加水分解活性等により前記凝集体を切断することによる分解でもよいし、前記凝集体を、それを構成する分子(アミロイドβまたはそのフラグメントペプチド)に解離することによる分解でもよい。
【0027】
本発明の医薬組成物は、例えば、前記有効成分のみからなる組成物でもよいし、前記有効成分と、その他の添加成分とを含む組成物でもよい。前記添加成分は、特に制限されず、例えば、薬理学的に許容される成分があげられる。前記添加成分は、例えば、本発明の医薬組成物の投与方法、投与部位、および剤型等に応じて、適宜設定できる。
【0028】
本発明の医薬組成物の投与方法は、特に制限されず、非経口投与、経口投与等があげられる。静脈投与があげられる。
【0029】
前記非経口投与の方法は、例えば、患部注射、静脈注射、皮下注射、皮内注射、点滴注射、経鼻投与、経皮投与等があげられる。前記非経口投与の場合、投与部位は、例えば、治療部位に直接的に投与してもよいし、治療部位に間接的に投与してもよい。後者の場合、例えば、前記治療部位まで本発明の医薬組成物の有効成分をデリバリーできる部位である。アミロイドβ凝集疾患は、例えば、前述した記憶障害、認知機能障害、アルツハイマー病等のように、アミロイドβの凝集体が脳に発生することが原因となる場合が多い。このため、前記治療部位は、例えば、脳であり、その投与方法は、例えば、注射等による脳への直接投与、経鼻投与等が好ましい。
【0030】
本発明の医薬組成物の剤型は、特に制限されず、投与方法により適宜設定できる。本発明の医薬組成物の投与時の剤型は、例えば、液状、クリーム状、ジェル状、パウダー状等である。また、本発明の医薬組成物の投与前の剤型、具体的には流通過程における剤型は、例えば、前記投与時の剤型と同じでもよく、異なってもよく、後者の場合、投与時において、薬剤師、看護師、または医師等が前記投与時の剤型に調製できる剤型でもよい。前記投与前の剤型としては、例えば、パウダー、および顆粒等の固体状、濃縮タイプの液状等があげられる。
【0031】
本発明の医薬組成物において、前記添加成分は、前述のように、投与方法および剤型等に応じて適宜設定でき、例えば、溶媒、希釈剤、賦形剤、担体等があげられる。前記溶媒は、例えば、水、生理食塩水、等張液、緩衝液等の水性溶媒、大豆油等の油性溶媒、前記水性溶媒と前記油性溶媒との混合液である乳化溶媒があげられる。本発明の医薬組成物は、例えば、前記添加成分として、アルコール、ポリアルコール、界面活性剤等を含んでもよい。また、本発明の医薬組成物は、例えば、前記有効成分を治療部位に効果的にデリバリーするためのDDS剤を含んでもよい。本発明の医薬組成物は、例えば、前記有効成分が封入されたキャリアーを含有する形態でもよい。前記キャリアーは、例えば、高分子等のナノ粒子があげられる。このように、前記有効成分を封入した形態とすることで、例えば、前記有効成分の安定性を保持でき、また、DDSにもなる。この場合、例えば、本発明の医薬組成物は、例えば、静脈注射等による投与に使用することが好ましい。
【0032】
本発明の医薬組成物の投与対象(被検体)は、例えば、ヒト、前記非ヒト動物があげられる。本発明の医薬組成物の投与条件は、特に制限されず、生物種、年齢、体重、性別、アミロイドβ凝集疾患の罹患の有無、進行程度等に応じて適宜決定できる。投与対象が体重70kgの成人男性の場合、本発明の医薬組成物の投与条件は、例えば、投与1回あたりのペリジニン量が0.1~2mgであり、1日の投与回数が1回、インターバルが1~10日ごとの投与である。
【0033】
本明細書において、治療は、前述のように、例えば、予防、進行の抑制、改善(緩和)の意味を含む。本発明の医薬組成物は、例えば、いずれか1つを目的として使用してもよいし、2つ以上を目的として使用してもよい。
【0034】
<アミロイドβの凝集抑制方法>
本発明のアミロイドβの凝集抑制方法は、前述のように、被検体に、前記本発明のアミロイドβの凝集抑制剤(すなわち、有効成分としてペリジニン)を添加することを特徴とする。本発明の抑制方法は、前記本発明の凝集抑制剤を使用することが特徴であって、その他の工程および条件等は何ら制限されない。
【0035】
前記被検体への本発明の凝集抑制剤の添加については、前記本発明の凝集抑制剤および医薬組成物における記載を援用できる。本発明の凝集抑制方法は、例えば、前記被検体に前記本発明の凝集抑制剤を添加する添加工程の後、さらにインキュベート工程を含むことが好ましい。前記被検体が前記非生物系である場合、例えば、インキュベート温度は、室温~37℃であり、インキュベート時間は、4~72時間であり、pHは、6.5~8である。また、前記被検体が細胞または組織である場合、例えば、インキュベート温度は、室温~37℃であり、インキュベート時間は、1~7日であり、pHは、6.5~8である。
【0036】
<神経細胞死の抑制方法>
本発明の神経細胞死の抑制方法は、前述のように、被検体に、前記本発明の神経細胞死抑制剤(すなわち、有効成分としてペリジニン)を添加することを特徴とする。本発明の神経細胞死の抑制方法は、前記本発明の神経細胞死抑制剤を使用することが特徴であって、その他の工程および条件等は何ら制限されない。
【0037】
前記被検体への本発明の神経細胞死抑制剤の添加については、前記本発明のアミロイドβの凝集抑制方法における記載を援用できる。
【0038】
<アミロイドβ凝集疾患の治療方法>
本発明のアミロイドβ凝集疾患の治療方法は、前述のように、被検体に、前記本発明のアミロイドβの凝集抑制剤(すなわち、有効成分としてペリジニン)を投与することを特徴とする。本発明の治療方法は、前記本発明の医薬組成物を使用することが特徴であって、その他の工程および条件等は何ら制限されない。
【0039】
前記被検体への本発明の凝集抑制剤の添加については、前記本発明の凝集抑制剤および医薬組成物における記載を援用できる。
【0040】
<ペリジニンの使用>
本発明のペリジニンは、アミロイドβの凝集抑制または神経細胞死抑制に使用するための物質である。また、本発明のペリジニンは、アミロイドβ凝集が原因となるアミロイドβ凝集疾患の治療に使用するための物質である。
【実施例0041】
[実施例1]
ペリジニンのアミロイドβ凝集抑制効果を確認した。
【0042】
(1)Aβフラグメントペプチド
Aβの凝集には、Aβ由来のフラグメントペプチドを使用した。前記フラグメントペプチドは、凝集性が高いAβ25-35を選択した。前記Aβ25-35は、ヒト由来Aβ(配列番号1)の全長配列25番目~35番目の11アミノ酸残基のペプチド(配列番号2:GSNKGAIIGLM、Ab25-35ともいう)である。Aβ25-35を水に溶かして、1mmol/LのAβ25-35溶液を調製した。
【0043】
(2)ペリジニン
ペリジニンは、以下のように調製した。ヒメシャコガイ(Tridacna crocea)から単離された渦鞭毛藻(Symbiodinium sp.)OTCL2A株を、ES培地中、25℃で40日間培養した。132Lの培養液から回収したOTCL2A株細胞82.0gを凍結させ、70v/v%エタノール水(150mL)中、ホモジナイザー(Janke&Kunkel GmbH&Co.KGIKA-Labortechnik,商品名ULTRATURRAX T25)を使ってホモジナイズし、4℃で3日間静置した後、遠心分離により上清と沈殿とに分離した。そして、上記と同条件により70v/v%エタノール水(150mLずつ)を用いて、分離した沈殿から再度2回抽出処理を行った。各抽出液を合わせて減圧濃縮し、濃縮による残渣を水(100mL)に懸濁し、酢酸エチル(200mLずつ)で3回抽出した。抽出液を合わせてさらに減圧濃縮し、酢酸エチル可溶性フラクション(903mg)を得た。前記フラクションの一部(676mg)を、シリカゲルカラムクロマトグラフィに供した。前記クロマトグラフィーにおいて、シリカゲルは、ナカライテスク社製、商品名「Silica Gel 60」60mLを使用し、溶離は、ジクロロメタンとメタノールとの混合液を用いたステップワイズとし、ジクロロメタンとメタノールとの比率(v/v)は、99/1、98/2、96/4、92/8の順とし、それぞれ120mLを使用した。前記96/4溶出液および前記92/8溶出液で溶出したフラクション(264.8mg)のうち一部(199.2mg)を、ODSカラム(ナカライテスク社製、商品名Cosmosil 75C18-OPN、19mL)にチャージし、80v/v%メタノール水(40mL)と85v/v%メタノール水(80mL)とにより溶出した。前記85v/v%メタノール水で溶出されたフラクション(98.8mg)から、下記条件のHPLCによりペリジニンを単一に精製した(24.7mg)。
【0044】
(HPLC条件)
カラム: ナカライテスク社製、商品名Cosmosil 5C18-AR-II、20mmφ×250mm
溶離液: 85%アセトニトリル水
流速: 6.0mL/min
【0045】
精製したペリジニンを1mmol/LとなるようにDMSOに溶かし、さらに水で希釈して、1、5、50μmol/Lのペリジニン希釈液を調製した。
【0046】
(3)凝集抑制アッセイ
下記組成の反応液1000μLを、37℃、4時間インキュベートして、凝集反応を行った。コントロールは、前記ペリジニン希釈液に代えて、水100μLを添加した以外は、同様にインキュベートを行った。
(反応液組成)
ペリジニン希釈液 100μL
1mmol/L Aβ25-35溶液 100μL
10×PBS 100μL
水 700μL
全量 1000μL
【0047】
そして、前記反応後、ウェルプレートに、前記反応液をウェルあたり200μLとなるように分注し、2mmol/Lの蛍光色素チオフラビンT(ThT)10μLを添加して、蛍光強度の変化を、測定装置(商品名Cytation5、BioTek社製)により測定した(n=3)。測定波長は、励起波長(ex)444nm、蛍光波長(em)480nmとした。ThTは、アミロイドβ凝集体と結合し、結合によって強い蛍光を発する試薬であり、蛍光強度の測定により、凝集の増加または抑制が判断できる。
【0048】
これらの結果を図1に示す。図1は、ペリジニンを添加した反応液の蛍光強度を示すグラフである。図1において、Y軸は、蛍光強度であり、単位は、Fluorescence Intensity であり、図中の量および比は、前記反応液に添加した最終量および比である。p値は、ペリジニン無添加のコントロールに対する有意差として求めた。図1に示すように、ペリジニン無添加の反応液と比較して、ペリジニン添加した反応液は、ペリジニン添加量に依存して、蛍光強度が低下した。前述のように、蛍光強度は、Aβ25-35の凝集を示すことから、ペリジニン添加により凝集自体を抑制できることがわかった。また、ペリジニンのIC50は、355nMであった。
【0049】
[実施例2]
アミロイドβ凝集体に対するペリジニンの解離効果を確認した。特に示さない限りは、前記実施例と同様の試薬を使用した。
【0050】
(1)凝集サンプル
下記組成のサンプル900μLを、37℃、18時間インキュベートして、Aβ25-35を凝集させ、凝集サンプルを調製した。
(凝集サンプル組成)
1mmol/L Aβ25-35溶液 100μL
10×PBS 100μL
水 700μL
全量 900μL
【0051】
(2)解離アッセイ
前記インキュベート後の凝集サンプルまたは未凝集サンプルを用いて、下記組成の反応液を調製し、37℃、6日間インキュベートした。そして、前記インキュベート後、ウェルプレートに、前記反応液をウェルあたり200μLとなるように分注し、2mmol/Lの蛍光色素チオフラビンT(ThT)10μLを添加して、蛍光強度の変化を測定した(n=3)。コントロールの反応液は、前記ペリジニン希釈液に代えて、水100μLを添加した以外は、同様にして処理した後、測定を行った。
【0052】
(反応液組成)
ペリジニン希釈液 100μL
凝集サンプル 100μL
10×PBS 100μL
水 700μL
全量 1000μL
【0053】
これらの結果を図2に示す。図2は、ペリジニンを添加した反応液の蛍光強度を示すグラフである。図2において、Y軸は、蛍光強度であり、単位は、Fluorescence Intensity であり、図中の量および比は、前記反応液における最終的な量および比であり、具体的に、Aβ25-35の量および比は、凝集反応用の反応液に添加した単量体Aβ25-35の量に基づいて、次の凝集解離用の反応液に含まれるAβを、単量体Aβ量に換算した量および比である。p値は、ペリジニン無添加のコントロールに対する有意差として求めた。図2に示すように、ペリジニン無添加の反応液と比較して、ペリジニン添加した反応液は、ペリジニン添加量に依存して、蛍光強度が低下した。前述のように、蛍光強度は、Aβ25-35の凝集を示すことから、ペリジニン添加により凝集体を低減できる、つまり、前記凝集体を解離できることがわかった。また、ペリジニンのIC50は、4.07μMであった。このようにAβの凝集体に対して、ペリジニンはもちろんのこと、その他のカロテノイドについても、その凝集を解離できることは、報告されておらず、本発明者らがはじめて見出した機能である。
【0054】
[実施例3]
アミロイドβ凝集体による神経細胞死に対する抑制効果(細胞保護効果)を確認した。特に示さない限りは、前記実施例と同様の試薬を使用した。
【0055】
Aβ25-35を水に溶かして、2mmol/LのAβ25-35溶液を調製した。ペリジニンを1mmol/LとなるようにDMSOに溶かし、さらに水で希釈して、0.5μmol/Lのペリジニン希釈液を調製した。
【0056】
そして、下記組成の反応液150μLを、37℃、3日間インキュベートして、凝集反応を行った。コントロールは、前記ペリジニン希釈液に代えて、水75μLを添加した以外は、同様にインキュベートを行った。そして、前記反応後、前記ペリジニン添加した反応液と前記コントロールの反応液を、それぞれDMEM培地で12.5倍に希釈した。
(反応液組成)
ペリジニン希釈液 75μL
1mmol/L Aβ25-35溶液 75μL
全量 150μL
【0057】
一方、ウェルプレートに、マウス神経芽細胞腫Neuro2a細胞を3.9×10個/ウェルとなるように播種し、終濃度1%のウシ胎仔血清(FBS)を含有するDMEM培地(150μL/ウェル)で培養した。培養条件は、37℃、1日、COインキュベーター内で培養した。培養後、前記ウェルごとに、前記希釈した反応液50μLを添加し、さらに24時間培養を行った。そして、各ウェルについて、神経細胞の生存率を、WST法により解析した。また、培養のコントロールとして、前記反応液未添加として以外は同様に培養した神経細胞についても、同様に生存率の解析を行った。
【0058】
これらの結果を図3に示す。図3は、神経細胞の生存率を示すグラフである。図3において、Y軸は、生存率%を示す。ペリジニン未添加の前記反応液においては、ペリジニン未添加のため、前記実施例1で証明したように、Aβ25-35の凝集が生じる。そして、この反応液を神経細胞に添加すると、Aβ25-35の凝集体による神経細胞死が誘導される。このため、図3に示すように、前記ペリジニン未添加の反応液を共存させた神経細胞は、前記反応液未添加の神経細胞(コントロール)と比較して、生存率が低下した。一方、ペリジニン添加の前記反応液においては、神経細胞の生存率が、ペリジニン未添加の反応液を添加した神経細胞の生存率よりも向上し、生存率を回復できた。これは、前記実施例1で証明したように、ペリジニンを添加した反応液ではAβ25-35の凝集を抑制できるため、前記ペリジニン添加の反応液を共存させた培養においては、Aβ25-35の凝集による神経細胞死が抑制された結果といえる。
【0059】
[実施例4]
in vivoにおけるペリジニンの効果を確認した。特に示さない限りは、前記実施例と同様の試薬を使用した。
【0060】
Aβ25-35を水に溶かして、3mmol/LのAβ25-35溶液を調製した。ペリジニンを1mmol/LとなるようにDMSOに溶かし、さらに生理食塩水で希釈して、1.5μmol/Lのペリジニン希釈液を調製した。
【0061】
そして、下記組成の反応液150μLを、37℃、3日間インキュベートして、凝集反応を行った。コントロールは、前記ペリジニン希釈液に代えて、水50μLを添加した以外は、同様にインキュベートを行った。
(反応液組成)
ペリジニン希釈液 50μL
1mmol/L Aβ25-35溶液 100μL
全量 150μL
【0062】
前記インキュベート後の反応液を、C57BL/6マウス(13-14週齢、雄)の脳室に投与した(n=3)。具体的には、1匹あたり前記反応液3μLを3分かけて、マイクロシリンジにより投与した。また、投与コントロールとして、前記反応液に代えて生理食塩水3μLを同様に投与した。そして、投与から1週間後、Y-maze(短期記憶評価)テストを行った。
【0063】
Y-mazeテストは、以下の条件で、一般的な方法により行った。すなわち、3本アームのうち特定の一本のアームの端部の壁に、鼻先が向くようにマウスを配置した。そして、10分間、自由に行動させ、その行動を解析装置(商品名Time YM1、小原医科産業 製)のモニターで撮影し、交替行動率(alternation behavior (%))を算出した。
【0064】
これらの結果を図4に示す。図4は、各群の交替行動率を示す棒グラフであり、Y軸は、交替行動率(alternation behavior (%))を示す。図4に示すように、コントロールと比較して、ペリジニン未添加の反応液を投与したマウスは、交替行動率が低下したのに対して、ペリジニン添加の反応液を投与したマウスは、交替行動率は低下しなかった。これは、Aβ25-35の凝集反応を行う際に、ペリジニンを共存させることで、前記反応液におけるAβ25-35の凝集が抑制され、さらに、前記反応液をマウスの脳室内に投与しても、Aβ25-35に対する凝集の抑制効果が維持されたため、前記凝集が原因となる認知機能の低下を防止できたことを意味する。
【0065】
[実施例5]
ぺリジニンは、カロテノイドの一種であることから、他のカロテノイドを比較例として比較を行った。具体的には、前記他のカロテノイドについて、前記実施例1の凝集抑制試験、実施例3の細胞死の抑制試験の結果を比較した。なお、前記実施例1または3と異なる条件については、後述する表1に合わせて示す。
【0066】
前記他のカロテノイドとしては、アスタキサンチン、フコキサンチン、ゼアキサンチン、βカロテンとした。これらの結果を下記表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
前記表1において、使用Aβとは、各試験におけるAβの種類である。凝集抑制試験の結果におけるかっこ内のAβ濃度は、Aβとカロテノイドとを共存させた凝集反応用の反応液に添加した単量体Aβの終濃度であり、神経細胞死抑制試験の結果におけるかっこ内のAβ濃度は、凝集反応用の反応液に添加した単量体Aβの初期濃度に基づいて、培地(ウェルあたり)に含まれるAβを、単量体Aβ濃度に換算した濃度である。また、神経細胞死抑制試験の結果である、凝集Aβによる細胞死誘導を抑制するペリジニンの濃度は、有意差を持って細胞死を抑制するペリジニンの最低濃度である。
【0069】
前記表1に示すように、以下の点から、ペリジニンは、他のカロテノイドと比較して、全ての項目において優れた効果を示していた。すなわち、凝集抑制試験に関しては、Aβの凝集を抑制するIC50が、他のカロテノイドは、1μM~5.2μMであるのに対して、ぺリジニンは、0.355μMであり、極めて低い値であった。このため、ペリジニンは、他のカロテノイドよりも極めて効率的にAβの凝集を抑制できることがわかった。また、神経細胞死抑制試験に関しても、Aβ凝集体による細胞死を抑制するペリニジンの最低濃度が、他のカロテノイドは10nMまたは100nMであるのに対して、ぺリジニンは、5nMであり、極めて低い値であった。このため、ペリジニンは、他のカロテノイドよりも極めて効率的に細胞死を抑制できることがわかった。
【0070】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のアミロイドβの凝集抑制剤によれば、アミロイドβの分子間会合による凝集を抑制できる。このため、例えば、アミロイドβの凝集が原因となる神経細胞死を抑制でき、また、アルツハイマー病等のアミロイド凝集疾患の治療、例えば、予防、進行の抑制、改善等が可能になる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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