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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011312
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】微小液滴形成装置および分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/72 20060101AFI20220107BHJP
   B01J 19/10 20060101ALI20220107BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220107BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20220107BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G01N30/72 G
B01J19/10
G01N27/62 G
G01N1/28 T
G01N1/00 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020112351
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(71)【出願人】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 亨
(72)【発明者】
【氏名】神田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】疋田 智美
【テーマコード(参考)】
2G041
2G052
4G075
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041DA18
2G041EA03
2G041EA04
2G052AD26
2G052FC07
2G052FC15
2G052FD07
4G075AA13
4G075AA65
4G075BA08
4G075BB08
4G075CA02
4G075CA03
4G075CA23
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB01
4G075EC01
4G075FA02
4G075FA12
4G075FB02
(57)【要約】
【課題】
液体クロマトグラフィで分離された少量の液体試料でも、平均粒径が数μmの微小液滴に分割することが可能な微小液滴形成装置および分析装置を提供する。
【解決手段】
本発明の微小液滴装置は、超音波振動を発生する超音波振動発生部(8)と、超音波振動発生部で発生した超音波振動を拡大しながら伝達する超音波振動伝達拡大部(9)と、超音波振動伝達拡大部で拡大された超音波振動で液体試料を加振し、液体試料の微小液滴を形成する試料加振振動部(3)と、試料加振振動部に前記液体試料を連続的に供給する試料供給部(40)と、を備え、試料加振振動部の加振振動面(A)に、試料供給部から供給された液体試料を液膜状に保持可能な液膜形成部材が設けられていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動を発生する超音波振動発生部と、
前記超音波振動発生部で発生した超音波振動を拡大しながら伝達する超音波振動伝達拡大部と、
前記超音波振動伝達拡大部で拡大された超音波振動で液体試料を加振し、前記液体試料の微小液滴を形成する試料加振振動部と、
前記試料加振振動部に前記液体試料を連続的に供給する試料供給部と、を備え、
前記試料加振振動部の加振振動面に、前記試料供給部から供給された液体試料を液膜状に保持可能な液膜形成部材が設けられていることを特徴とする微小液滴形成装置。
【請求項2】
前記液膜形成部材は、前記加振振動面に対して所定の距離の間隙を設けて平行配置された複数の棒状または扁平状の部材からなり、前記加振振動面の振動方向つまり該加振振動面に垂直な方向に少なくとも1つ以上の開口部を有することを特徴とする請求項1に記載の微小液滴形成装置。
【請求項3】
前記試料供給部は、前記加振振動面と前記液膜形成部材の前記間隙に順次液体を供給するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の微小液滴形成装置。
【請求項4】
前記超音波振動発生部の加振周波数が、数100kHz~10MHzの範囲の一定の周波数または複数の周波数で変更可能に構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の微小液滴形成装置。
【請求項5】
前記超音波振動伝達拡大部は、振動伝達長の長さが10mm以下の柱状部材もしくは厚さが数100μm以上のダイアフラム状構造体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の微小液滴形成装置。
【請求項6】
前記超音波振動伝達拡大部は、内部に液体が充填されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の微小液滴形成装置。
【請求項7】
前記加振振動面または前記液膜形成部材の少なくとも一方が導電性部材で構成されており、前記加振振動面または前記液膜形成部材の少なくとも一方に電圧を印加する電圧印加手段を備え、
前記電圧印加手段は、その極性または印加電圧値の少なくとも一方が変更可能に構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の微小液滴形成装置。
【請求項8】
超音波加振の駆動回路は、直流バイアス電圧上に加振手段駆動交流波形を重畳させるように構成されているとともに、前記直流バイアス電圧の極性または電圧値の少なくとも一方を変更可能に構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の微小液滴形成装置。
【請求項9】
前記加振振動面および前記液膜形成部材を洗浄するための洗浄部をと、
前記微小液滴の既定の噴霧回数後、既定の噴霧時間後、噴霧開始前、噴霧停止時および外部からの動作指示の少なくとも1つによって、前記洗浄部に洗浄動作の指示を出す洗浄動作制御手段と、を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の微小液滴形成装置。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか1項に記載の微小液滴形成装置を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項11】
前記分析装置は質量分析装置であり、
前記微小液滴形成装置によって噴霧された前記微小液滴に電荷を付与して微小帯電液滴を生成する液滴帯電部と、前記微小帯電液滴を乾燥させイオン化するための乾燥部を有するイオン源と、前記イオン源で形成されたイオンを導入して、質量電荷比ごとに分離して検出する検出部とを、備えることを特徴とする請求項10に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小液滴形成装置および分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料成分を有する液体試料を分析するために、液体試料を微小な液滴に分解して分析部に導入する方法が用いられる。液体試料を液滴にして分析する代表的な分析装置として、液体クロマトグラフィ質量分析装置がある。
【0003】
液体クロマトグラフィ質量分析法は、液体クロマトグラフィで分離した種々の成分を、イオン化し、質量電荷比ごとに分離して検出する化学分析法である。この方式では、液体クロマトグラフィから供給される液体試料を、微小液滴化し、帯電し、加熱気化することで分析成分のイオンを生成する。
【0004】
液体試料を分割して形成する初期液滴の平均粒径は、数十から数μmの微小液滴にすることが求められる。イオン化(帯電や気化)の効率などから、形成する液径は小さいことが望ましいとともに、粒径のばらつきも少ないことが求められる。
【0005】
液体試料を微小液滴に分割する方法として、現在質量分析装置に広く用いられているのは、大気圧スプレー法である。大気圧スプレー法とは、高速の噴流中に液体を導入して、液体を分割液滴化する手法であるが、平均粒径が数十から数μmの液滴を形成するためには、音速に近い高速噴流を使用することが必要となる。このため、装置が大掛かりになってしまう。さらに、大気圧スプレー法で形成される液滴は、その粒径が不安定になりやすく、粒径分布も広いという課題を有している。形成される液滴の粒径やその粒系分布は、イオン化のために必要な帯電やその後の気化プロセスにも影響を与えることから、形成する分析成分イオンの状態を不安定にする。イオンの状態は、質量電荷比ごとに分離して検出する化学分析の測定精度などに大きく影響する。このため、液体クロマトグラフィで分離された少量の液体試料を、より安定して、平均粒径が十μm~数μmの微小液滴にする方法が求められる。
【0006】
一方、液体試料を微小液滴に分割する他の手法として、超音波を用いる方法が知られており、例えば特許文献1および特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-051902号公報
【特許文献2】特開2015-031650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
超音波によって形成される液滴径は、超音波の振動周波数の影響を受ける。そして、振動周波数と液滴径の関係は、概ねLangの式(J.Acous. Soc. Amer.,1962,34,6)に従うことが知られている。Langの式によれば、水やアルコールを加振して約10μm径の液滴を形成するための加振周波数は、200~300kHz程度であり、1~3μm径の液滴を形成する加振周波数は数MHzであることが知られている。
【0009】
一般的に超音波振動子の振動は振幅が小さく、直接液体と分割液滴化することは難しい。このため、金属柱やダイアフラム構造体などの共振現象を利用して、振幅を拡大し液体を分割可能な加速度を有する振動を得る。一般的な超音波振動による液滴形成装置加振装置では、金属の共振振動を利用することから、200MHz程度が限界振動周波数である。
【0010】
特許文献1では、エアースプレーによる噴霧した液滴を超音波振動子の表面に付着させ、微小液滴化する方式を開示したものである。前述したように一般的に超音波振動子の振動は振幅が小さく、液滴化は困難である。また、金属共振を利用する場合、200kHz程度が限界振動周波数となり、形成される液滴径は10μmが限界である。開示されている方法で、数μm以下の液滴を形成することは難しい。さらに、少量の液体を数100kHz以上の高周波振動面に供給すると、供給と同時に液滴が飛散しやすく、微小液滴化がほとんどできないだけでなく、大きな液玉も同時に飛散しまうという問題がある。
【0011】
特許文献2では、容器にためた液体試料を超音波振動子によって加振することで、液体試料を霧化することで、液滴を形成する方式である。この方式では、加振する液体自体を利用して、加えた加振力を増幅し、液体の一部を微小液滴化つまり霧化する方式である。この方式は、金属共振を利用する上記方法と異なり、数MHzの加振周波数で液体試料を加振することも可能であることから、平均粒径数μm程度の液滴を形成することができる。しかし、超音波を照射する液体を容器などにためる必要があることから、ある程度の液量を必要とし、液体クロマトグラフィで分離された極めて量の少ない液体試料の微小液滴化に適用することは難しい。また、もし液体試料を容器にためず、少量の液体を数MHzの高周波振動面に直接供給した場合、液体はとても飛散りやすい状況となり、安定した微小液滴形成はさらに難しいものとなる。
【0012】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、液体クロマトグラフィで分離された少量の液体試料でも、平均粒径が数μmの微小液滴に分割することが可能な微小液滴形成装置および分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の微小液滴形成装置の一態様は、
超音波振動を発生する超音波振動発生部と、超音波振動発生部で発生した超音波振動を拡大しながら伝達する超音波振動伝達拡大部と、超音波振動伝達拡大部で拡大された超音波振動で液体試料を加振し、液体試料の微小液滴を形成する試料加振振動部と、試料加振振動部に前記液体試料を連続的に供給する試料供給部と、を備え、試料加振振動部の加振振動面に、試料供給部から供給された液体試料を液膜状に保持可能な液膜形成部材が設けられていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の分析装置は、上記本発明の微小液滴形成装置を備える分析装置である。
【0015】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0016】
上記構成によれば、液体クロマトグラフィで分離された少量の液体試料でも、平均粒径が数μmの微小液滴に分割することが可能な微小液滴形成装置および分析装置を提供できる。
【0017】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の微小液滴形成装置の一実施例を示す模式図
図2図1のA部分(加振振動面)の詳細を示す図
図3】加振振動部の構造の一例を示す図
図4】加振振振動部の構造の他の例を示す図
図5】微小液滴形成部材の構造の他の実施例を示す図
図6】微小液滴形成部材の液膜形成手段の他の実施例を示す図
図7】本発明の微小液滴形成装置を用いた分析装置の一実施例を示す図
図8】本発明の微小液滴形成装置を用いた分析装置の他の実施例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
[微小液滴形成装置]
以下本発明の微小液滴形成装置について詳述する。図1は本発明の微小液滴形成装置の一実施例を示す模式図である。図1に示すように、微小液滴形成装置1は、超音波振動を発生する超音波振動発生部8と、超音波振動発生部8で発生した超音波振動を拡大しながら伝達する超音波振動伝達拡大部9と、超音波振動伝達拡大部9で拡大された超音波振動で液体試料を加振し、液体試料の微小液滴を形成する試料加振振動部3と、試料加振振動部に液体試料を連続的に供給する試料供給部40と、を備える。
【0020】
本発明の微小液滴形成装置は、供給される液体試料を、超音波振動を利用することで微小液滴を形成する。なお、本発明において「微小液滴」とは、平均粒径が数十μm~数μmの液滴を示すものとする。図1に示す本発明の実施例では、超音波振動発生装置8として圧電素子を用いている。超音波振動を利用した微小液滴の形成では、形成される液滴径は振動周波数の影響を受け、振動周波数と液滴径の関係は、上述した通り、概ねLangの式(J.Acous.Soc.Amer.,1962,34,6)に従うことが知られている。振動周波数と液滴径の関係は、溶媒種の影響も受ける。本実施例の分析装置で用いる液体試料では、主に用いられる水やアルコールが溶媒として利用される。この場合、10μm径の液滴を形成するための加振周波数は200~300kHz程度であり、1~3μm径の液滴を形成する加振周波数は数MHzとなる。
【0021】
分析装置で分析を行うためには、液滴径として数十μmから数μmの液滴を形成することが必要である。このため、分析装置向けの液滴を形成するための加振周波数としては、数百kHz~10MHz程度が必要なことになる。本実施例では、液体クロマトグラフィ-質量分析装置向けの微小液滴形成装置としての構成を説明する。液体クロマトグラフィ-質量分析装置では、液体クロマトグラフィから連続供給される試料を、質量分析装置で連続的に分析する。各サンプルである試料液体の液量は液体クロマトグラフィの仕様によってある程度の幅がある。また、液体試料から大気中で形成する初期液滴の液滴径は小さい方が望ましいと言われており、平均粒径で数μmの程度にすることが望まれる。本実施例では、各試料液体の液量として、数100~数10μL以下を想定し、大気中で形成する初期液滴の液滴径としては、数μmとすることを想定した。試料液体から形成する初期液滴の液滴径を、数μmとするために、本実施例における超音波加振手段8の加振周波数は2.4MHzとした。
【0022】
また、本実施例の振動拡大伝達手段9としては液体を利用した。振動拡大手段として、一般的に広く用いられる方法として、金属柱状部材やダイアフラム構造などにおける共振現象を利用する方法がある。しかし、金属柱状部材の共振現象を用いる場合、高周波になるほど使用する共振させる柱状構造体の長さを短くすることが必要となる。金属柱状部材の共振を利用する場合、現実的な寸法範囲では数100kHz程度が限界である。数100kHzで共振させるための金属柱状部材長さは、1cm以下と非常に短いものになり、安定な共振部材として利用することは難しい。ダイアフラム構造についても、数100kHzを超える共振構造を実現することは現実的には難しい。
【0023】
そこで、本実施例では、2.4MHzの高周波振動を拡大伝達するために、液体を利用する構造とした。本実施例の微小液滴形成装置では、図1に示すように、超音波振動発生装置8に対向して試料加振振動部3を配置しその間を液体で満たした。超音波振発生装置8で発生させた振動が液体である超音波振動伝達拡大部9を伝達して焦点を結ぶ距離、つまり振動が拡大する位置に試料加振振動部3を配置した。このような構造にすることで、超音波振動発生装置8で発生させた超音波振動を、拡大伝達し、試料加振振動部3を大きく超音波振動させることが可能となる。
【0024】
また、図1に示す本実施例では、液体の超音波振動伝達拡大部9を保持するケース部に、液体の供給管6と排出管7を設けている。液体は、液体供給部41から供給管6を通して超音波振動伝達拡大部9に送液され、排出管7から排出される。
【0025】
本発明で超音波振動を発生させるために使用する超音波振動発生部8に用いられる圧電素子8は、振動発生時に熱を発生する。そして、発生した熱で圧電素子の温度が上がると加振力が低下したり、圧電素子8が破壊する危険がある。そこで、本実施例では、振動拡大伝達液体9を保持するケース部に、振動拡大伝達液体の供給管6と排出管7を設けた。そして、振動拡大伝達液体9を液体ポンプ(図示せず)を用いて供給管6と排出管7を使って循環させるとともに、熱交換機(図示無)を用いて冷却する構造とした。振動拡大伝達液体9は、超音波振動子である圧電素子8と直接接触することから、振動拡大伝達液体9を冷却することで、圧電素子8の温度上昇を防止することが可能である。
【0026】
液中における振動の伝達状態は、使用する振動拡大伝達液体9の粘度、表面張力や密度などの影響を受ける。そのため、前記した超音波振動発生装置8と加振振動面3の距離などは、選定した振動拡大伝達液体9の物性に合わせた適切な設計を行うことが必要となる。また、本実施例では、圧電素子の冷却に利用することや漏れた場合の安全性などの観点から、純水を振動拡大伝達液体9として用いた。しかし、上記を考慮した液体およびそれに合わせた寸法設計を行うことで、純水以外の各種液体も本発明の振動拡大伝達液体9として利用することが可能であることは言うまでもない。
【0027】
図2図1のA部分(加振振動面)の詳細を示す図である。本実施例の加振振動部3は、試料加振振動部3を構成する振動板11と、液膜形成部材12aを有し、両者の間に液体試料が供給される流路層13を有する。振動板11は、振動伝達液体9と接触し、振動伝達液体9内を伝わってきた超音波振動10によって振動する振動板11である。液中を伝わってきた超音波振動10は、振動板11の一部で焦点を結ぶように構成されている。
【0028】
薄板の間に形成された流路層13を通って供給された液体試料2は、振動板11の焦点位置に導かれ、振動板11の振動によって、加振霧化される。振動板の焦点位置に対向する位置の上側の薄板12aには、多数の穴が形成されており、霧化された液体試料の液滴は、この穴を通して、図中上方に向かって、微小液滴となって霧化噴出される。
【0029】
上記で説明した試料加振振動部3の構造は、本発明において非常に重要な構造である。一般に、超音波振動する振動面上に、少量の液体を直接供給した場合、一部は微小な液滴となり霧化するものの、大部分の液体は飛散してしまう。このことは、分析装置において液体試料の微細液滴化に、超音波が利用しにくい大きな要因になっている。分析装置における液体試料は、非常に貴重であるとともに少量であることが多いことから、超音波により微小液滴を形成するうえでの大きな課題である。
【0030】
本発明は、少量の液体でも超音波振動する振動面上に液膜を形成可能な方法を提案するものである。そして、超音波振動を用いて少量の液体試料を安定に霧化、微小液滴化することで、分析装置に供給できる新たな微小液滴形成装置とそれを有した分析装置を提供することを目的としている。
【0031】
超音波振動面上に少量の液体を供給した場合に、飛散現象が生じる原因は、以下のように考えられる。振動面上に供給する液体が少量の場合、試料液体自身の有する表面張力により液玉となりやすい。液玉となった液体は、振動によって飛散する。水よりも表面張力の小さいアルコールのほうが、飛散が少ないことが、実験的にも確認している。ただし、少量のアルコールでも飛散を完全に防止できるというわけではない。
【0032】
超音波振動させた振動面上に液膜を形成させることができれば、少量の液体の場合でも、安定した霧化を実現可能となる。この点に着目し、本発明はなされたものである。
【0033】
少量の液体を振動面上に液膜を形成する方法としては、振動面上を親水処理する方法が考えられる。実験結果によれば、一定の効果は確認されたが、親水処理のみでは十分な飛散防止効果を得るのは難しかった。そこで、本発明では、振動面上に液膜形成部材を近接配置する構成を考案した。上記の図2の振動板11に対向して配置された薄板12aが、本発明の液膜形成部材に相当する。薄板12aは、後述する図3に示す振動板の焦点位置に対向する位置に多穴部が設けられている。このような構造にすることで、振動面上に供給される少量の液体試料でも、安定的に振動板上で液膜を形成することが可能となる。
【0034】
また、上述した構造を用いることで、液体試料の飛散をほぼ完全に防止できる。さらに、形成された微小液滴の飛出し方向を規制する効果も生じることから、霧化された微小液滴の噴霧方向も安定する。噴霧方向は、振動板の振動方向に一致する。図1および図2では、上方(図2の矢印方向)に噴出する。
【0035】
図3は、加振振動部の構造の一例を示す図である。本実施例の加振振動部3は、図に示す3枚の薄板材で構成されている。図において、最も下側の薄板が振動板11、中央の薄板が流路板16、最も上側の薄板が多穴板12aである。この3枚の薄板を重ね接着することで、本発明の加振振動部は構成されている。3枚の薄板の接着方法としては、接着剤などを利用する方法も利用可能であるが、接着材の影響や接着強度などを考慮し、本実施例では、各薄板を重ねて高い圧力をかけながら高温にすることで、原子レベルでの各薄板を接着可能な拡散接合法により、接着一体化を行った。また、本実施例の板材の材質は、耐食性などを考慮しSUS316を用いた。使用する板材の材質や接着方法は、振動に対する物性とともに、使用する液体試料などを考慮して適切なものを選択することが必要である。
【0036】
最も下側の振動板11は、下側を振動伝達拡大部9の振動伝達液体と接触し、振動伝達液体を伝わってくる超音波振動10により加振される。振動板11は、振動伝達液体内を伝わってくる超音波振動10によって、振動することが要求されるため、柔軟性や弾性が要求される。本実施例では、振動板11のSUSの板厚を50μmと薄くし振動しやすいように配慮した。
【0037】
振動板11のうち加振される部分は、超音波振動が焦点を結ぶ部分である。振動焦点の位置及びその直径は、もちろん設計条件によるものである。本実施例では、組立精度などを考慮した場合でも、図中一点鎖線(直径数mm)の範囲内に入るように設計した。本実施例における振動焦点の直径は約1mmである。つまり、振動板11は、振動伝達液体を伝わってきた超音波振動によって、一点鎖線の中のいずれかの場所で、直径1mm程度領域が振動することになる。
【0038】
中央の流路板16は、図に示す形状の穴が設けられている。両端に位置する丸い部分19は、液体試料の供給用穴と排出用穴であり、それぞれ、試料供給管2および試料排出管5に接続されている。中央の大きな丸部分17は、振動板11が振動する可能性がある領域と一致している。液体試料の供給用穴と排出用穴を繋ぐ様に形成されているスリット部分18は、上下を振動板11と多穴板12aで挟まれることで、流路(図1の流路層13)を形成する。供給用穴から供給された液体試料2は、この流路を通して中央の大きな丸部分17に送られ、振動板の振動で微小液滴にされる。微小液滴ならず余った液体試料は、反対側の流路を通って排出用穴から排出5するように構成されている。流路板の開口幅とともに厚さによって流路の断面積が決まることから、適切な板厚を選定することが必要である。取扱いやすさや流路断面積を考慮すると、一般には、数十から数百μm程度が適正である。本実施例では、100μmの板厚を用いた。
【0039】
最も上側の多穴板12aには、両端に一対の丸穴15と中央部に多数の穴を形成した領域14を配置している。両端の丸穴15は、流路板16への液体試料の供給および排出穴であり、流路板16の両端に位置する丸い部分19と一致するように接着される。中央部に多数の穴を形成した領域14は、振動板1上の一点鎖線で示された振動する可能性がある領域と一致している。流路板16の中央の大きな丸部分17に供給された液体試料は、振動板11の振動で加振され、形成された微小な液滴は、多穴板12aの中央の穴を通して、放出される。
【0040】
流路での液流れを良くするとともに、多穴板12a部分で液膜を形成しやすくするために、流路内や多穴板(液膜形成部材)12aの液滴噴出用の穴14の内面は親水処理を施すことが望ましい。但し、多穴板(液膜形成手段)12aの外側表面は、汚染対策として撥水処理を施することが望ましい。
【0041】
加振振動部3を、前記したような構成とすることで、少量の液体試料でも安定的に振動板上で液膜を形成可能となり、安定した微小液滴形成を実現することができる。
【0042】
図4は加振振振動部の構造の他の例を示す図である。開口部は必ずしも、図3図4a)のように多数の円形の穴14(a)で構成される必要はなく、図4(b)や図4(c)のようなスリット状の開口穴14b,cや図4(d)のような変形形状や組合せ形状の開口穴14dでも同様の効果が期待できる。但し、振動板上に液膜を形成し飛散を防止するためには、適正な開口径や開口幅を選定することが必要である。図1から図3で説明した本発明の実施例における微小液滴形成装置1では、開口穴の直径を150μmとしている。実験によれば、水やアルコールの飛散を防止するための開口径や開口幅としては、1mm以下となったが、安定性を考慮すると数100μm以下にすることが必要であった。
【0043】
また、振動板の振動焦点の位置を正確に位置決めできる場合は、焦点位置付近で流路21を広げる部分17の面積を少なくできる。焦点位置付近で流路21を広げる部分面積が小さいほど、少ない試料溶液の噴霧が可能になることは言うまでもない。もし、振動焦点を流路21上に完全に位置決めできる設計を行った場合は、図4(e)のような一本のスリット開口部や図4(f)のような一点の噴霧穴でも、同様の効果を得ることも可能となる。
【0044】
図1から図4で説明した実施例では、振動板上に供給された液体試料の少なくとも一部を微小液滴にして霧化噴霧し、霧化していない液体試料については、排出手段側5に排出できる様に構成している。しかし、供給する液体試料の量に対して、振動板による加振力が十分大きくした場合、供給された試料液体のすべてを微小液滴として、霧化することも可能である。この場合、余剰液体試料の排出手段5は不要となる。実際に、図1で示した本発明の実施例における微小液滴形成装置1でも、供給した試料液体2をすべて霧化し、排出側5に排出しないようにすることも可能であった。振動部に供給された試料液体をすべて霧化噴霧する場合は、本発明の微小液滴形成部の構造をより簡単にすることも可能である。
【0045】
図5は微小液滴形成部材の構造の他の実施例を示す図であり、振動部に供給された試料液体をすべて霧化噴霧する場合に利用可能な本発明の液膜形成手段12の他の実施例を説明する図である。図の構造は、試料液体の供給管22の先に小さな多穴板(液膜形成部材)12bを設けたものである。これを、振動板11の振動焦点位置上に近接配置するように構成する。供給管22から供給される試料液体は、多穴板(液膜形成部材)12bの下側に供給されるように構成されている。多穴板(液膜形成手段)12bの下側に供給された試料液体は、多穴板(液膜形成部材)12bと振動板11の間の微小なギャップ領域に毛細管現象で広がり液膜を形成する。そして振動板11の振動によって多穴板(液膜形成部材)12bに設けられた開口穴14から、微小液滴として噴出させることができる。
【0046】
もちろん、振動板11上に液膜を設ける多穴板(液膜形成部材)12bにおける開口穴14の形状は、図4で説明したように、円形の穴(図4(a))のほかにスリット状(図4(b)(c))やそれらの変形や組合せた各種形状(図4(d))を用いることも可能である。また、振動板の焦点位置の精度が高いほど、試料液体の供給管22の先に配置する多穴板などの液膜形成用部材12の面積は小さくすることが可能であり、少量の試料液体に対応することが可能となる。
【0047】
振動板11に近接して多穴板などの液膜形成用部材12を配置する本発明の構造では、振動板11と多穴板などの液膜形成用部材12の間のギャップが、加振時の微小液滴の形成状態に影響を与える。特に、隙間が広く液膜が厚くなりすぎると微小液滴の形成効率が急激に低下する。このため、多穴板などの液膜形成用部材12と振動板11の間に形成する微小ギャップは、隙間が十分狭く安定であり、その隙間が一定であることが求められる。
【0048】
図1から図4で説明した振動板11と液膜形成用の多穴板12aの場合、一体成型であるために、その間の隙間を一定することは容易である。しかし、図5の実施例のような試料液体の供給管22の先に小さな多穴板(液膜形成部材)12bを設けた構成で、振動板11と多穴板(液膜形成部材)12bの隙間を高精度に保持構造とすることは難しい。
【0049】
そこで、図5の実施例のような試料液体の供給管22の先に小さな多穴板12bを設けた構成の場合、本実施例では、多穴板(液膜形成手段)12bが振動板11の上に置く様な構造(図示無)を採用した。置く構造とは、弱い圧力で多穴板(液膜形成手段)12bと振動板11が接触している状態である。このような構造は、前記隙間精度を保証する構造を設計する場合に比較して、簡単に実現可能である。また、多穴板(液膜形成手段)12bを振動板11に倣うように置く構造とすることで、振動板11と多穴板(液膜形成手段)12bの隙間を高精度に保持する構造も不要となる。この多穴板(液膜形成手段)12bが弱い力で振動板11の上に置く構造を用いれば、多穴板(液膜形成手段)12bと振動板11の間に試料液体を供給することによって、多穴板(液膜形成手段)12bと振動板11の間に、微小かつ均一な隙間を形成することを可能とする。
【0050】
図6は微小液滴形成部材の液膜形成手段の他の実施例を示す図であり、振動板11上への液膜形成手段12の他の実施例を説明する図である。すでに説明したように、振動板上の供給された試料液体を、振動板11上で液膜にすることで、振動時の飛散を防止することが可能である。上記図5までの実施例では、穴やスリットを形成した薄板(液膜形成部材)12を振動板11上に配置する方法を開示した。振動板11上に液膜を形成する液膜形成手段12として、図6に示すような(a)フォーク状や(b)アンテナ状や(c)単純な棒状などの棒状部材23を、試料液体供給管22先端に取付け、振動板上に配置する構成でも、図5までの実施例で説明した薄板による液膜形成手段12と同様の効果が得られる。この方法は、棒状部材の濡れ性を利用して液膜を形成する方法であり、構成は極めて単純にすることができる。図5などで示した薄板上の液膜形成手段においても、試料液体に対する濡れ性は重要であるが、図6の棒状部材を利用した液膜形成体ではさらに重要となる。棒状部材23と振動板11との近接状態の確保の方法としては、図5の実施例で説明した弱い圧力で振動板に接触させる方法も利用することができる。
【0051】
図7は本発明の微小液滴形成装置を用いた分析装置の一実施例を示す図であり、図8は本発明の微小液滴形成装置を用いた分析装置の他の実施例を示す図である。本発明の微小液滴形成装置を用いた分析装置の一実施例を説明する図である。図は、本発明の微小液滴形成装置を配置した液体クロマトグラフィ-質量装置向けの一実施例である。以下に、実施例の構成を説明する。
【0052】
図7および図8は、分析装置として、液体クロマトグラフィ-質量分析装置を示している。本発明の微小液滴形成装置1、微小液滴に電荷を付与して微小帯電液滴を生成する液滴帯電部(液滴帯電ユニット28)、微小帯電液滴を乾燥させイオン化するための乾燥部を有するイオン源(イオン生成ユニット33)と、イオン源で形成されたイオンを導入して、質量電荷比ごとに分離して検出する検出部(質量分析装置32)とを、備える。
【0053】
本発明の超音波振動を利用した微小液滴形成装置1には、振動拡大伝達手段9である液体を循環・冷却するための供給管6と排出管7や液体クロマトグラフィから供給される試料液体の供給管2と余った試料液体を排出する排出管5が接続され、超音波加振手段8を加振することで、液体クロマトグラフィから供給された試料液体を、微小液滴として噴霧4する。微小液滴形成装置1の噴霧面の直上には、窒素供給ユニット26が配置されている。窒素供給ユニット26は窒素供給管24より窒素が供給されており、微小液滴形成装置1から噴霧される微小液滴4は、ほぼ大気圧の窒素で満たされた配管内に噴霧されるように構成されている。本発明の微小液滴形成装置1で生成された微小液滴4は、噴霧速度と窒素供給ユニット26から供給される窒素の流れにより、図中上方34に搬送される。本発明の微小液滴形成装置1で生成された微小液滴の初期噴霧速度は、数m/s以下~数10m/s程度であり、供給する窒素量も流速が同程度となるとともに、管内がほぼ大気圧を保持できるように供給窒素量24をコントロールしている。
【0054】
窒素供給ユニット26の上方には、液滴初期加熱ユニット27が接続されている。液滴初期加熱ユニット27は、壁面に配置された加熱ヒータ30で微小液滴を加熱し、微小液滴の溶媒を気化除去する。本実施例において、微小液滴の誘導管内を窒素で満たしているのは、加熱ヒータなどによる微小液滴の加熱時に、燃焼が生じるのを防止するためである。つまり、窒素以外の不活性ガスなどの燃焼を防止することが可能な気体を使用しても良い。
【0055】
液滴初期加熱ユニット27の上方には、液滴帯電ユニット28が接続されており、イオン生成ユニット33で生成した正イオンもしくは電子を試料液滴に付与するように構成されている。イオン生成ユニット33としては、一般的なコロナ放電器などを使用することができる。
【0056】
液滴帯電ユニット28の上方には、液滴加速ユニット29が構成されている。液滴加速ユニット29は、配管の直径を徐々に狭くすることで、試料液体の速度を加速する。本実施例の装置構成では、窒素供給ユニット26から初期加熱ユニット27を経て、液滴帯電ユニット28までの管径は、直径約25mmとした。液滴加速ユニット29では、直径約25mmの管径が、直径500μm緩やかに狭くなる。つまり液滴加速ユニット29部の入口と出口部の配管断面積比は2500:1である。これによって、数m/s~数10m/s程度の速度で送られてきた試料液滴は、一気に音速以上まで加速する。
【0057】
液滴加速ユニット29の上方には、質量分析装置32への分析装置接続ユニット31が配置されている。分析装置接続ユニット31は、直径500μmの細長い細管で、液滴加速ユニット29と質量分析装置32を接続することで、大気圧の噴霧配管部と内部がほぼ真空圧の質量分析装置32の圧力勾配を吸収保持できるように構成している。
【0058】
液滴加速ユニット29および分析装置接続ユニット31の配管部にも加熱ヒータ30が設置され、搬送中の試料液滴を加熱し溶媒を除去するように構成される。液滴帯電ユニット28で電荷を付与された試料液滴は、液滴加速ユニット29および分析装置接続ユニット31部で溶媒が除去され、試料液体に含まれる試料成分がイオン化し、質量分析装置32へ供給される。質量分析装置32では、供給された試料イオンを質量ごとに分離し、試料に含まれる成分素性の同定が行われる。
【0059】
前記した液滴初期加熱ユニット27で加熱して、概ね溶媒を除去した試料液滴に、液滴帯電ユニット28で電荷を付与する手法は、現在の液体クロマトグラフィ質量分析法において大気圧イオン化法(APCI:Atmospheric Pressure Chemical Ionization)と呼ばれる方法に相当する。現在の液体クロマトグラフィ-質量分析法では、大気圧イオン化法のほかに、エレクトロスプレーイオン化法(ESI:Electrospray Ionization)という方法が広く知られており、分析する試料の極性の強さなどに合わせて選定されるのが一般的である。現在の液体クロマトグラフィ-質量分析法におけるは、エレクトロスプレーイオン化法では、超高速エアースプレー法を用いて試料液体からを微小液体にする際、エアースプレーのノズルに電圧を印加することで、ノズル先端に電界を生じさせ、その電界中で試料液体を微小液滴に引きちぎることで、引きちぎられた液体に電荷を付与する方法である。
【0060】
本発明の微小液滴形成装置を用いた場合も、エレクトロスプレーイオン化法に相当する方法で、液滴に電荷を与えることも可能である。エレクトロスプレーイオン化法に相当する方法で、液滴に電荷を与えるためには、試料液体が液滴に分離される領域に電界を生じさせることが必要である。これを実現するために、振動板11もしくは多穴板などの液膜形成手段12のいずれか一方を、導電性部材で構成することが必要である。先の実施例でも、振動板11や液膜形成手段12の材質として導電性のSUS316を持ちているために、これに数kV~10kV程度の高電圧を印加することで、形成される液滴に電荷を付与することが可能である。形成される液滴に付与される電荷量は、付与する電圧れべるに比例するとともに、極性は付与する電圧の極性に一致する。液滴形成部に生じる電荷量は電界の強さの影響を受けることから、振動板11や液膜形成手段12に付与する電圧とともに、対向電極となる電極の位置などが重要である。図7の実施例構成では、窒素供給ユニット26の窒素噴霧口のメッシュ板を金属製とするとともに、設置電位とすることで、電圧を付与した振動板11や液膜形成手段12の対向電極として機能させた。
【0061】
次に、本発明の微小液滴形成装置の振動板11や液膜形成手段12に高電圧を印加する方法の一実施例について説明する。図1を用いて、先に説明した本発明の実施例では、振動伝達液体9として純水を使用している。純水は導電性を有するために、振動伝達液体9と接触する振動板11と振動伝達液体9に超音波振動を与える超音波加振手段である圧電素子は、電気的に接続された状態である。
【0062】
そこで、本実施例の微小液滴形成装置の圧電素子の駆動波形を発生させる駆動回路(図示無)のベース電位に、高電圧を重畳させる構成とした。このようにすることで、圧電素子8が高電圧をベース電圧として駆動される。これによって、振動伝達液体9である純水を通して、振動板11や液膜形成手段12も高電圧となる。本実施例の圧電素子の駆動回路構造を用いた場合、圧電素子8の駆動波形を発生させる駆動回路のベース電位の電圧や極性を可変にすることで、形成される液滴に付与される電荷量や極性を、自由に制御することが可能となる。
【0063】
上記実施例では、振動伝達液体9として導電性を有する純水を用いていることから、圧電素子の駆動波形を発生させる駆動回路のベース電位に、高電圧を重畳させる構成としている。しかし、この方法は駆動回路が複雑になるとともに、高電圧が印加される部分が多く、循環される純水自身も高電圧が付与されることから、絶縁性の確保や安全性点から、必ずしも好ましい高電圧印加方式とは言い難い。形成される液滴に電荷量を付与する方法として、以下の他の実施例も考えられる。
【0064】
振動伝達液体9として絶縁性液体を使用するとともに、振動板11や液膜形成手段12の保持部分を絶縁性にすることで、高電圧を付与する部位は、振動板11や液膜形成手段12に限定できることから、安全性を確保しやすくなる。加えて、前記した圧電素子の駆動回路の高電圧のベース電源を重畳させる方式に比較して、圧電素子の駆動回路が非常に簡単なものにすることができる。
【0065】
絶縁性液体としては、変圧器などで使用される各種絶縁油をはじめとするいくつかのものが知られている。しかし、超音波振動の伝達特性が水とは大きく異なり、特性に合わせた設計を行うことが必要がある。また、圧電素子の冷却媒体としての機能や安全性,取扱いやすさなどを考慮して選定することが必要である。本発明の実施例中で、振動伝達液体9として純水を選定したのは、安全性と取扱いやすさによるものである。
【0066】
本発明の微小液滴形成装置を液体クロマトグラフィ-質量分析装置向けなどに使用する場合、配慮するべき重要項目としてコンタミネーションの防止がある。以下に、本発明ならびに実施例におけるコンタミネーションの防止策について説明する。液体クロマトグラフィ-質量分析装置では、質量分析装置で分析する試料液体が、液体クロマトグラフィから、順々に送られてくる。送られてくる試料液体の量や速度の一例ではあるが、各試料液体の液量として数100μLから数10μL程度であり、送られてくる速度としては数100μ/min程度である。つまり、数秒から1分程度で次々に異なる試料液体が送られてきて、それを連続的に微小液滴化し、分析装置に送ることが求められる。その間、連続して次々と送られてくる試料液体間のコンタミネーションを防止することが、正確な分析を実施するうえで、非常に重要となる。
【0067】
図1で示した本発明の一実施例でも、いくつかのコンタミネーションの防止を配慮した構造有している。以下に、それらについて説明する。
【0068】
図1で示した本発明の一実施例では、液体クロマトグラフィからの試料液体の供給管2とともに排出管5を設けることで、微小液滴にできなかった余った試料液体を排出管側に送り出す構成とした。また、図2図3で開示したように薄板を重合わせて流路を形成することで、極めて細い流路で試料液体を供給することで、コンタミネーションを防止する構造としている。しかし、図3で示した流路構造では、超音波振動の焦点位置との位置合わせの観点から、流路が広がった領域17を設けているが、コンタミネーションを防止する上では、超音波振動の焦点位置の設計制度を高め、流路の広がりを最小限にすることが重要である。また、図3b)の流路板16の厚さを薄くすることで、流路の断面積を小さくすることも、コンタミネーションを防止する上では重要となる。
【0069】
さらに、供給される試料液体の量に対して十分に余裕を持った加振を行うことで、供給した液体をすべてを、余裕をもって微小液体として霧化排出可能な条件にすることもコンタミネーション防止の上では重要である。供給した試料液体を完全に霧化可能な条件を実現できる場合は、排出管5は不要となる。
【0070】
連続して送られてくる試料液体間のコンタミネーションを防止する他の方法としては、送られる試料の間に既知の気体や液体をバッファとして挟む方法を用いても良い。既知の気体や液体をバッファとして挟むことで、配管や霧化する部分での知れよう液体間のコンタミを防止しやすくなり、流路などに対する寸法的な制約が緩和される。但し、この方法は、バッファ領域として用いる気体や液体の分だけ、分析の効率が低下とともに、バッファ液として使用する気体や液体を消費するなどの課題を有する。
【0071】
コンタミネーションを防止する他の方法としては、配管や噴霧領域の洗浄プロセスを設ける方法もある。予め定めた規定の分析回数や分析時間など毎に、供給管や振動部分などを洗浄するシーケンスを組込む方法である。洗浄シーケンスは、装置の起動動作時や停止動作時に行うようにすれば、分析効率を抑制できる。必要に応じて、洗浄シーケンスを動作させる方法も考えられる。
【0072】
前記、供給される試料液体間にバッファ領域として用いる気体や液体を挟み込み対策と含め、コンタミネーションの発生リスクと分析効率への影響を考慮し、洗浄タイミングや対策のレベルを決めることが必要である。
【0073】
本実施例の配管や噴霧領域の洗浄方法として、簡便な方法は、分析する試料液体に替えて既知の洗浄液を投入し、超音波振動を付与する方法である。超音波振動は配管などの洗浄するを効果が期待できる。
【0074】
また、図3で示した薄板を積層して、振動板11と流路板16と多穴板12を一体構造とした構成比比較して、図5図6で示した供給配管22の先端に液膜形成のための多穴板12bや棒状部材23を配置した構成は構成が簡略であり、分解や洗浄が容易な構造である。もちろん、先端に液膜形成を有す供給配管22ごと、定期的に交換することも汚染対策としては有効である。
【0075】
図1から図3を用いて説明した振動板11と流路板16と多穴板12の一体構造体の実施例の場合も、汚染とともに、細い配管内などのつまりなどが生じるリスクがある。これに対処方法として、振動板11と流路板16と多穴板12の一体構造体の振動加振部3も、交換しやすい構造にしておくことが望ましい。さらに、これらの汚染やつまりの生じやすい部品の交換周期などを規定して運用する方法も、本発明の微小液機形成手段におけるコンタミネーション防止策としては有効である。
【0076】
図7の実施例において、微小液滴形成後の試料液滴が分析装置に搬送されるまでの配管内の汚染については、配管経路内の各部に加熱ヒータ30を配置しており、配管壁面が高温になっていることから、付着した試料成分は熱により分解する。これによって、図7に示した本発明の微小液滴形成装置を適用した分析装置における実施例では、微小液滴形成装置から分析装置間の試料液滴の搬送・処理路内でのコンタミネーションについては、ほとんど問題にはならないように配慮した。
【0077】
図7で説明した実施例では、本発明の液滴形成装置1を下側に配置し、上方に向かって形成した液滴を噴霧する構成例を示した。しかし、本発明の微小液滴形成装置1の噴霧方向は、重力方向の影響をほとんど受けない。図8は、本発明の微小液滴形成装置1を上下逆さまに配置し、下側に向かって微小液滴を噴霧する構成としたときの質量分析装置までの配置構成の一実施例である。
【0078】
現在、液体クロマトグラフィー質量分析装置で広く使用されている高速エアースプレーによる微小液滴形成方式では、供給された試料液滴に非常に高速の空気流を与えることで、微小液滴を生成することから、生成された液滴の飛翔速度が非常に速く、音速に達するものもある。しかしながら、本発明の微小液滴形成手段で、噴出される微小液滴の飛翔速度は、数m/s以下~数10m/s程度と非常に遅い。このため、緩やかな気流を用いて、形成された液滴の飛翔方向をコントロールすることが可能である。
【0079】
図8の実施例構成では、本発明の微小液滴形成装置から噴霧された微小液滴に、側面から窒素流を与えるように構成されている。噴霧された微小液滴は非常に軽いために、数m/s~数10m/s程度の気流を使って、飛翔方向を十分にコントロールすることが可能である。水平方向に飛翔方向を変更された微小液滴は、図7と同じく、液滴初期加熱ユニット27、液滴帯電ユニット28、液滴加速ユニット29、分析装置接続ユニット31を通って、質量分析装置32に導かれる。
【0080】
図8の様に、本発明の微小液滴形成手段を上下逆さまに配置すると、万一霧化時に大きな飛散液滴などが生じても、微小液滴形成装置1の墳霧表面に落下することはない。また、洗浄などで微小液滴形成装置の多穴板から洗浄液を噴出させても窒素流を停止させることで、重力方向に排出することが可能となる。図の実施例では、微小液滴形成装置の噴出方向直下に配水管35を向けており、本発明の微小液滴形成装置から落下する大きな液滴や洗浄液を回収できるように構成している。このような構成にすることで、前記した本発明の微小液滴形成部でのコンタミネーションのリスクを、さらに低減できるとともに、洗浄処理なども容易にすることが可能となる。
【0081】
図8の実施例で説明したように、本発明の微小液滴形成装置1では、微小液滴を自由な方向に噴霧できるとともに、噴霧後の液滴を比較的緩やかな気流で自由にコントロールできることから、分析装置への接続する様々な装置構成に対応することが可能である。
【0082】
以上説明したように、本発明の微小液滴形成装置を用いることで、簡単な構造で、少量の試料液体を、安定的に数μmの微小液滴にすることが可能であることが示された。また、形成した微小液滴への帯電付与も可能であることから、クロマトグラフィー質量分析装置向けのイオン源としても使用することが可能である。さらに、本発明の微小液滴形成装置は、様々な方向に微小液滴を噴霧可能であるとともに、気流を利用して容易に搬送方向をコントロールできるために、液体試料を微小液滴にすることが必要な様々な分析装置にも適用することが可能である。
【0083】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施例は本発明を分かりやすく説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0084】
1…微小液滴形成装置、2…試料供給管、3…加振振動部、4…微小液滴、5…試料排出管、6…振動伝達液体供給管、7…振動伝達液体排出管、8…超音波振動発生装置(圧電素子)、9…振動伝達拡大部、10…超音波振動、11…振動板、12…液膜形成部材(多穴板)、13…流路層、14…穴部、15…丸穴、16…流路板、17…流路板の中央開口部、18…流路板のスリット流路、19…丸い部分、20…振動焦点が形成される可能性のある領域、21…液膜形成手段の下側の流路、22…試料液体供給管、23…棒状部材(液膜形成手段)、24…(窒素)気流導入口、25…分析装置へ導入される試料イオン、26…窒素供給ユニット、27…液滴初期加熱ユニット、28…液滴帯電ユニット、29…液滴加速ユニット、30…加熱ヒータ、31…分析装置接続ユニット、32…質量分析装置、33…イオン生成ユニット、34…霧化された液滴の搬送方向、35…配水管。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8