(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113150
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】水銀除去方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/60 20060101AFI20220727BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20220727BHJP
B03C 3/02 20060101ALI20220727BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
C04B7/60
C04B7/38
B03C3/02 Z ZAB
C09K3/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008186
(22)【出願日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2021008689
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179729
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 一美
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
(72)【発明者】
【氏名】澤野 勝丈
【テーマコード(参考)】
4D054
【Fターム(参考)】
4D054AA02
4D054BA01
4D054BA08
4D054EA30
(57)【要約】
【課題】電気集塵機で捕集されたダストから水銀を除去することで、セメントの製造工程で発生する排ガス中の水銀含有量を効率よく低減するとともに、当該ダストのセメント原料としての再利用を可能にする水銀除去方法を提供する。
【解決手段】本発明の水銀除去方法は、電気集塵機で捕集されたダストを回収する工程(ステップS1)と、このダストを加熱炉内で加熱する工程(ステップS2)と、ダストに含まれる水銀を気化させる工程(ステップS3)と、加熱炉から取り出した水銀ガスをコンデンサ内で冷却する工程(ステップS4)と、凝縮した水銀をコンデンサから取り出す工程(ステップS5)と、水と水銀を分離し、それぞれ回収する工程(ステップS6及びS7)と、加熱炉から取り出したダストを冷却し、セメント原料として再利用する工程(ステップS8及びS9)を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント製造工程において発生する排ガス中に含まれるダストに付着した水銀を除去する水銀除去方法であって、
電気集塵機において捕集された前記ダストの一部を回収する工程を備えていることを特徴とする水銀除去方法。
【請求項2】
前記電気集塵機から回収した微粒子の前記ダストは第1のダスト及びこの第1のダストよりも質量が小さく設定される第2のダストの2種類に分けられ、
前記第1のダストを加熱し、前記水銀を気化させる加熱工程と、
この加熱工程で気化した前記水銀を前記第2のダストに接触させながら冷却する冷却工程と、を備え、
この冷却工程で高濃度の前記水銀が付着した前記第2のダストを回収することを特徴とする請求項1に記載の水銀除去方法。
【請求項3】
前記ダストから前記水銀を気化させる工程で、前記ダストが酸欠還元雰囲気下で加熱されることを特徴とする請求項2に記載の水銀除去方法。
【請求項4】
多段型の前記電気集塵機を用いるとともに、前記電気集塵機の前段から回収された前記ダストは、加熱して前記水銀を気化させる工程を経ずにセメント原料(クリンカ原料)として再利用されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の水銀除去方法。
【請求項5】
多段型の前記電気集塵機の後段において回収され前記水銀が除去された前記ダストを前記セメント原料(クリンカ原料)として再利用することを特徴とする請求項4に記載の水銀除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの製造工程において発生する排ガスに含まれる水銀を除去する方法に係り、特に、電気集塵機において捕集されたダストに付着した水銀を除去する水銀除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの製造工程において原料や燃料として用いられる石灰石等の天然原料、石炭や重油等の燃料、あるいは汚泥や焼却灰などの廃棄物に水銀が含有されている場合、ロータリーキルンなどのセメント製造設備の高温部において水銀及び水銀化合物(以下、両者を併せて単に「水銀」と言う。)が気化して水銀ガスとなる。ロータリーキルンで発生した排ガスは、その余熱を原料の乾燥に用いる目的でプレヒータや原料乾燥機に送られた後、電気集塵機においてダストが捕集される。このとき、排ガスとともにプレヒータや原料乾燥機を経て電気集塵機に送られる水銀ガスは、温度の低下に伴って凝縮し、排ガス中のダストに付着し、あるいはダストに吸着(以下、両者を併せて単に「付着」と言う。)される。そして、ダストに付着した水銀は、電気集塵機においてダストとともに捕集されることにより、排ガス中から除去される。なお、本発明においては、大気中に排出される前に予熱などの利用に供されるガスであっても、ロータリーキルンから出た後のガスを「排ガス」と称するものとする。
しかしながら、上述したように原料や燃料としてセメントの製造設備内に持ち込まれた廃棄物に含まれる水銀の量が多い場合には、排ガスとともに電気集塵機に送られた水銀ガスがダストに付着し切れずに、その状態のまま排ガスとともに煙突から大気へ放出されてしまうおそれがある。
【0003】
ここで、セメントの製造設備について
図7を用いて説明する。
図7はセメントの製造設備の概略を示したブロック図である。なお、図中の実線は、セメントの製造設備内を移動する原料の流れを表しており、破線は、余熱を原料の乾燥に利用するためにロータリーキルンから他の設備に戻される排ガスの流れを表している。
図7に示すように、セメントの製造工程は、原料工程、焼成工程及び仕上げ工程という3種類の工程に大別される。
【0004】
原料工程では、石灰石、粘土、珪石及び酸化鉄原料等が調合された後、原料乾燥機0に送られて排ガスとの接触により乾燥させられ、続いて原料ミル1に送られて粉砕される。そして、原料ミル1において粉砕された原料はブレンディングサイロ3に送られて均質にブレンドされた後、原料ストレージサイロ4に貯蔵される。一方、原料乾燥機0から排出された気体は、サイクロン2において粉体原料あるいはダスト中の大きい粒子が分離された後、電気集塵機15に送られる。
【0005】
焼成工程では、原料工程において乾燥・粉砕・調合された粉体原料がロータリーキルン6によって焼成される。ただし、この紛体原料は、焼成効率を高めるため、ロータリーキルン6に直接、投入されるのではなく、まず、複数のサイクロンを有するプレヒータ5に送られる。
ロータリーキルン6には緩い傾斜が設けられており、プレヒータ5で予熱された紛体原料は、この傾斜と回転運動によってロータリーキルン6の内部をゆっくりと移動しながら高温(約1450℃)で焼成される。ロータリーキルン6で焼成された紛体原料は、クリンカクーラ7で急冷されてクリンカと呼ばれる黒い塊状の焼成物となる。
【0006】
仕上げ工程では、クリンカサイロ8に貯蔵されたクリンカが予備粉砕機10に送られた後、予備粉砕されたクリンカに石膏ヤード9に貯蔵された石膏が加えられ、仕上げミル11で平均粒径が10~20μm程度になるように微粉砕される。仕上げミル11で微粉砕され、分級機12に送られた粉体原料は混合器13を経由するか、あるいは混合器13を経由せずに直接、セメントサイロ14に送られる。
【0007】
つぎに、セメントの製造工程における排ガスの主な流れについて説明する。
図7に破線で示すように、原料工程では、原料乾燥機0から排出された気体が排ガスとしてサイクロン2から電気集塵機15に送られ、ダストが分離された後に煙突16から大気中に放出される。
また、焼成工程では、ロータリーキルン6及びクリンカクーラ7で発生した排ガスが、その余熱を粉体原料の乾燥に利用するため、プレヒータ5の最下段に設けられた仮焼炉下部(渦巻き室など)に送られる。プレヒータ5では、最上段のサイクロンに供給された粉体原料が他のサイクロンの中を順番に通過しながら下降する。一方、仮焼炉に送られた排ガスは、この粉体原料の流れに逆行するようにプレヒータ5の内部を上昇し、最上段のサイクロンから排出される。なお、この排ガスは、ボイラ17において熱回収された後、その余熱を原料の乾燥に利用するため、原料乾燥機0に送られる。
【0008】
前述したように、原料工程や焼成工程において原料や燃料に含まれる水銀は、プレヒータ5やロータリーキルン6の内部では気化して水銀ガスとなっているため、仕上げ工程に送られるクリンカには含まれない。その代わり、この水銀ガスは、排ガスとともにプレヒータ5及び原料乾燥機0を経て電気集塵機15に送られるが、その経路中のガス温低下に伴い、ダストに付着する。そして、電気集塵機15において捕集された上記水銀が付着したダストは、ブレンディングサイロ3に送られ、粉体原料として再利用される。
このように、原料や燃料とともにセメントの製造設備内に持ち込まれた水銀は気化と凝縮、あるいはダストへの付着を繰り返しながら原料工程と焼成工程の中で循環する。
既に述べたとおり、セメントの製造設備内に持ち込まれた原料や燃料に含まれる水銀の量が多い場合には、排ガスとともに電気集塵機15に送られた水銀ガスがダストに付着し切れずに、その状態のまま排ガスとともに煙突16から大気へ放出されてしまうおそれがある。
【0009】
このような課題を解決するものとして、例えば、特許文献1には、「燃焼排ガスの水銀除去方法」という名称で、セメント製造設備で発生する燃焼排ガスに含まれる水銀を低コストで容易に除去することが可能な方法に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、セメント製造設備のサスペンションプレヒータの最上段のサイクロンから排出される燃焼排ガスを石炭乾燥粉砕装置に導入し、この石炭乾燥粉砕装置において石炭の粉砕によって得られた微粉炭に当該燃焼排ガスに含まれる水銀を吸着させた後、燃焼排ガスと微粉炭をバグフィルタに導入して微粉炭のみを捕集することにより燃焼排ガスを清浄化することを特徴とする。
このようにセメント製造設備の付帯設備である石炭乾燥粉砕装置を用いる当該水銀除去方法によれば、新たに水銀除去用の装置を設置する必要がないことから、燃焼排ガスの清浄化を低コストで容易に行うことができる。
【0010】
また、特許文献2には、「セメントキルンの排ガスの処理方法」という名称で、各種の廃棄物が原料や燃料として用いられるセメントキルンにおいて発生する排ガスから水銀、有機塩素化合物及びダストを除去する方法に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、集塵機から排ガスを抽出して吸着塔に送り、排ガスに含まれる水銀及び有機塩素化合物を吸着塔において活性炭や微粉炭に吸着させた後、この活性炭や微粉炭を加熱炉にて400℃以上に加熱して水銀や有機塩素化合物を除去するとともに、この工程で得られた活性炭や微粉炭をセメントキルンに投入することを特徴とする。
このようなセメントキルンの排ガスの処理方法によれば、水銀及び有機塩素化合物を除去するための加熱炉の小型化と、加熱に要するエネルギーの削減が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010-75784号公報
【特許文献2】特開2006-96615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示された発明によれば、燃焼排ガスに含まれる水銀を微粉炭に吸着させ、この微粉炭をバグフィルタで捕集することで燃焼排ガスから水銀を除去することができるものの、この微粉炭をセメント原料として再利用すると、セメントの製造工程の系内に水銀が持ち込まれることになる。したがって、特許文献1に開示された発明では、上述の微粉炭を再利用できないという課題があった。
また、特許文献2に開示された発明では、集塵機によって捕集されたダストに含まれる水銀を除去する構成となっていないため、当該ダストをセメント原料として再利用することができないという課題があった。
【0013】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、電気集塵機において捕集されたダストから水銀を除去することで、セメントの製造工程において発生する排ガス中の水銀含有量を効率よく低減するとともに、当該ダストのセメント原料としての再利用を可能にする水銀除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、第1の発明は、セメント製造工程において発生する排ガス中に含まれるダストに付着した水銀を除去する水銀除去方法であって、電気集塵機において捕集されたダストの一部を回収する工程を備えていることを特徴とするものである。
セメント製造設備の系内に持ち込まれた水銀は、焼成工程においてロータリーキルンやクリンカクーラなどの高温部で気化する。気化した水銀は、排ガスとともにプレヒータ等を経由し、最終的にはダストに付着した状態で電気集塵機において捕集される。一般的に電気集塵機は、多段型の電気集塵機が用いられ、排ガス排出口に近い区画より取出したダストには、排ガス供給口に近い区画より取出したダストよりも高濃度の水銀が含まれている。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、電気集塵機から回収した微粒子のダストは第1のダスト及びこの第1のダストよりも質量が小さく設定される第2のダストの2種類に分けられ、第1のダストを加熱し、水銀を気化させる加熱工程と、この加熱工程で気化した水銀を第2のダストに接触させながら冷却する冷却工程と、を備え、この冷却工程で高濃度の水銀が付着した第2のダストを回収することを特徴とするものである。
第2の発明においては、第1の発明の作用に加え、加熱・冷却工程で回収されるダスト(第2のダスト)の水銀含有率が、電気集塵機で捕集された直後のダスト(第1のダスト)の水銀含有率よりも高まるという作用を有する。
【0016】
第3の発明は、第2の発明においてダストから水銀を気化させる工程で、ダストが酸欠還元雰囲気下で加熱されることを特徴とするものである。
通常、有機物を低温で燃焼させると、有機塩素化合物の一種であるダイオキシン類が生成されるが、例えば、酸素濃度が1%以下のような酸欠状態では、焼却温度が低い場合でも脱塩素化が進行して、ダイオキシン類が分解される。したがって、電気集塵機において捕集されたダストに含まれる水銀を気化させる際に当該ダストを酸欠還元雰囲気下で加熱する工程を備えた第3の発明においては、第2の発明の作用に加え、ダストの加熱時にダイオキシン類が発生するおそれがないという作用を有する。また、水銀を気化させる工程で酸化水銀や塩化水銀が生成されず、排ガスに含まれる水銀が金属水銀の形態で回収されるという作用を有する。
【0017】
第4の発明は、第1の発明乃至第3の発明のいずれかの発明において、多段型の電気集塵機を用いるとともに、当該電気集塵機の前段から回収されたダストは、加熱して水銀を気化させる工程を経ずにセメント原料(クリンカ原料)として再利用されることを特徴とするものである。
例えば、電気集塵機の前段から回収されたダストは、原料工程に送られて、サイクロンによって排ガスから分離された粉体原料とともに、ブレンディングサイロを経て原料ストレージサイロに貯蔵された後、適宜、セメント原料として再利用される。
なお、本願の出願人は、多段型の電気集塵機の前段の区画(排ガスの供給口に近い区画)と後段の区画(排ガスの排出口に近い区画)においてそれぞれ捕集されたダストに含まれるカーボン及び水銀の濃度を調べたところ、前段の区画で捕集されたダストに含まれるカーボン及び水銀の濃度が低く、後段の区画で捕集されたダストに含まれるカーボン及び水銀の濃度が高いとの知見を得た。
ここで、前段の区画で捕集されたダストに含まれるカーボンの濃度が低いのは、導電性が高いカーボンを含むダストは集塵極に捕捉され難いため、前段の区画に設置された集塵極では専ら、導電性を有しない粒子、あるいはカーボンよりも導電性の低い粒子を含むダストが捕捉されることが原因と考えられる。また、後段の区画で捕集されたダストに含まれるカーボンの濃度が高いのは、導電性を有しない粒子、あるいはカーボンよりも導電性の低い粒子を含むダストの大部分が前段の区画で捕集される結果、後段の区画ではカーボンが捕集され易くなることによるものと考えられる。
そして、水銀はカーボンに付着し易いことから、捕集されたダストに含まれるカーボンの濃度が低い前段の区画では、捕集されたダストに含まれる水銀の濃度が低く、捕集されたダストに含まれるカーボンの濃度が高い後段の区画では、捕集されたダストに含まれる水銀の濃度が高くなったものと推察される。
このように、多段型の電気集塵機では前段の区画で捕集されるダストに含まれる水銀の濃度が低いことから、当該ダストを水銀除去工程に供さずにセメント原料として再利用することを特徴とする第4の発明においては、第1の発明乃至第3の発明のいずれかの発明の作用に加え、セメントの製造工程の系内に持ち込まれる水銀の量が少ないという作用を有する。
【0018】
第5の発明は、第4の発明において、多段型の電気集塵機の後段において回収され水銀が除去されたダストをセメント原料(クリンカ原料)として再利用することを特徴とするものである。例えば、電気集塵機の後段の区画で捕集されたダストは貯灰サイロに貯蔵され、トラック等によって、適宜、水銀除去設備に輸送される。水銀除去設備では、加熱炉によって加熱されることによって水銀が除去されたダストは、冷却器で冷却された後、ブレンディングサイロを経て原料ストレージサイロに貯蔵された後、適宜、セメント原料として再利用される。
前述したように、多段型の電気集塵機では後段の区画で捕集されるダストに含まれる水銀の濃度が高いが、これは、原料や燃料としてセメントの製造工程の系内に持ち込まれて原料工程と焼成工程の中で循環する水銀の量を低減させるには、上記ダストに含まれる水銀を除去することが有効であることを意味している。したがって、多段型の電気集塵機の後段において回収され、その後に水銀が除去されたダストをセメント原料として再利用することを特徴とする第5の発明においては、セメントの製造工程の系内に持ち込まれ、原料工程と焼成工程の中で循環する水銀の量が低減されるため、第4の発明の作用に加え、電気集塵機で回収されたダストをセメント原料として再利用しても水銀が排ガスとともに煙突から外部へ排出されてしまうという事態が発生し難いという作用を有する。
なお、多段型の電気集塵機の後段で回収されたダストは、上述のとおり、水銀除去設備の加熱炉において加熱された後、冷却器において冷却される。ただし、一旦分解したダイオキシン類が再合成されるおそれがあるため、この冷却工程では当該ダストの温度を短時間で一気に下げる(すなわち、急冷する)ことが望ましい。これにより、ダイオキシンの再合成が抑制される。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明によれば、電気集塵機で捕集された高濃度の水銀を含有するダストの除去が容易であるため、セメントの製造工程において発生する排ガス中の水銀含有量を効率よく低減することができる。
【0020】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加え、電気集塵機から回収されたダストに対する水銀の付着量を高めることで、冷却工程の後に回収される第2のダストの処理量を低減できるという効果を奏する。
【0021】
第3の発明によれば、第2の発明において水銀を気化させる工程でダイオキシン類が生成されないため、第2の発明の効果に加え、水銀除去作業時の安全性を高めることができるという効果を奏する。さらに、水銀を気化させる工程で酸化水銀や塩化水銀が生成されず、排ガスに含まれる水銀が金属水銀の形態で回収されることから、毒性の強い塩化水銀を取り扱う必要がなく、また、酸化水銀や塩化水銀から水銀を除去する工程が不要である。したがって、第3の発明によれば、第2の発明に比べて、排ガス中の水銀を安全かつ安価に、しかも効率よく低減することができる。
【0022】
第4の発明では、多段型の電気集塵機の前段の区画で捕集され、含有される水銀濃度が低いダストを、水銀除去工程を経ずにセメント原料として再利用することから、第1の発明乃至第3の発明のいずれかの発明の効果に加え、セメントの製造工程の系内に持ち込まれる水銀の量を少なく抑えつつ、水銀除去工程に供するダストの量を減らすことによりセメント原料の製造コストの削減を図ることができるという効果を奏する。
【0023】
第5の発明によれば、第4の発明の効果に加え、セメントの製造工程の系内に水銀を持ち込むことなく、セメント原料として再利用できるダストの量を増やすことができるため、セメント原料の製造コストの削減を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)及び(b)は本発明の第1の実施の形態に係る水銀除去方法における各工程を示したフローチャートである。
【
図2】電気集塵機の構造を説明するための模式図である。
【
図4】多段型の電気集塵機によって捕集されたダストが回収される様子を示した模式図である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に係る水銀除去方法に用いる設備の構成を示したブロック図である。
【
図6】
図5に示した水銀除去方法における各工程を示したフローチャートである。
【
図7】セメントの製造設備の概略を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の水銀除去方法は、
図7に示したセメントの製造設備において発生する排ガス中の水銀含有量を低減することを目的としており、その具体的な構成については
図1を用いて説明する。また、当該方法の各工程において行われる処理については
図2乃至
図6を用いて詳細に説明する。なお、セメントの製造工程において用いられる設備であって
図7を用いて既に説明したものについては、同一の符号を付すことにより適宜その説明を省略する。
【実施例0026】
図1(a)及び
図1(b)は本発明の第1の実施の形態に係る水銀除去方法における各工程を示したフローチャートである。
図1(a)に示すように本発明の第1の実施の形態に係る水銀除去方法は、まず、
図7を用いて既に説明したセメントの製造設備において電気集塵機15によって捕集されたダストを回収する工程(ステップS1)と、回収したダストを加熱炉に投入して酸欠還元雰囲気下で加熱する工程(ステップS2)と、ダストに含まれる水銀及び水分の気化により生じた水銀ガス及び水蒸気を加熱炉から取り出す工程(ステップS3)と、水銀ガス及び水蒸気をコンデンサ内で冷却する工程(ステップS4)を備えている。
さらに、本発明の水銀除去方法は、水銀ガス及び水蒸気の凝縮により生じた液状の水銀と水をコンデンサから取り出す工程(ステップS5)と、比重差を利用して液状の水銀を水から分離する工程(ステップS6)と、液状の水銀と水をそれぞれ回収する工程(ステップS7)と、水銀が除去されたダストを加熱炉内から取り出して冷却する工程(ステップS8)と、冷却したダストをセメント原料として再利用する工程(ステップS9)を備えていることを特徴とする。
【0027】
ここで、電気集塵機の構造について
図2を用いて説明する。なお、
図2は電気集塵機によってダストが捕集される様子を模式的に示した図である。また、
図2では、図が煩雑になるのを避けるため、1つのダストについてのみ符号を付している。
図2に示すように、電気集塵機15では、平行に配置された一対の集塵極15a、15aの中間にピアノ線等からなる放電極15bが設置されている。そして、電気集塵機15は、集塵極15a、15aが正、放電極15bが負となるように、集塵極15a、15aと放電極15bの間に、例えば、40~60[kV]の直流電圧が印加される構造となっている。
このように集塵極15a、15aと放電極15bの間に直流電圧が印加された状態の電気集塵機15の内部に、幅の広い矢印で示すようにダスト18を含むガスを流すと、集塵極15a、15aと放電極15bの間にコロナ放電が発生して、無数のガス分子が負にイオン化する。このガス分子は電位の低い放電極15bから電位の高い集塵極15a、15aへと移動し、このガス分子が衝突したダスト18は負に帯電する。その結果、負に帯電したダスト18は高電位の集塵極15aに引き寄せられ、集塵極15aに接触したダスト18は負の電荷を失って、集塵極15aの表面に付着する。なお、ダスト18を回収する際は、バイブレータ等で集塵極15aに振動を与える。これにより、ダスト18は集塵極15aの表面から剥離して落下する。
【0028】
つぎに、電気集塵機15から回収したダスト18に含まれる水銀を除去する際に用いられる水銀除去設備について
図3を用いて説明する。
図3は水銀除去設備を模式的に示した図である。なお、第1の加熱炉、第2の加熱炉及び冷却器では、図が煩雑になるのを避けるため、複数の羽根のうち、1つの羽根についてのみ符号を付している
図3に示すように、ホッパー19に投入され灰供給管20から排出されたダストは、スクリュウコンベア32によって搬送され、第1の加熱炉21に供給される。第1の加熱炉21は、本体21cの一端に上方へ開口するように灰入口21aが設けられるとともに、本体21cの他端に下方へ開口するように灰出口21bが設けられている。したがって、スクリュウコンベア32によって搬送されたダストは、第1の加熱炉21の灰入口21aから本体21cの内部に投入される。なお、ダストが第1の加熱炉21に対して単位時間当たりに投入される量は、灰供給管20に設置されたロータリバルブ20aによって調整される。
第1の加熱炉21の本体21cの内部において加熱されたダストは、灰出口21bから排出されて第2の加熱炉22に供給される。第2の加熱炉22は、本体22cの一端に上方へ開口するように灰入口22aが設けられるとともに、本体22cの他端に下方へ開口するよう灰出口22bが設けられている。また、本体22cの他端の上部には、ガス出口22fが設けられている。
【0029】
第1の加熱炉21の灰出口21bから排出されたダストは、灰入口22aから第2の加熱炉22の本体22cの内部に投入される。そして、第2の加熱炉22の内部で加熱されたダストは、灰出口22bから排出されて冷却器23に供給される。
冷却器23は、本体23cの一端に上方へ開口するように灰入口23aが設けられるとともに、本体23cの他端に下方へ開口するように灰出口23bが設けられている。したがって、第2の加熱炉22の灰出口22bから排出されたダストは、冷却器23の灰入口23aから本体23cの内部に投入される。
【0030】
第1の加熱炉21は、円筒体の両端が閉塞された中空構造の本体21cと、この本体21cの外周面に設置されたヒータ(図示せず)を備えている。本体21cの内部には、複数の羽根21dと、この羽根21dが固定された回転軸21eが回転可能な状態で設置されている。すなわち、第1の加熱炉21は灰入口21aから本体21cの一端側に投入されたダストが、回転する羽根21dによって灰出口21bが設けられている側に向かって搬送される構造となっている。
第2の加熱炉22は、円筒体の両端が閉塞された中空構造の本体22cと、この本体22cの外周面に設置されたヒータ(図示せず)を備えている。本体22cの内部には複数の羽根22dと、この羽根22dが固定された回転軸22eが回転可能な状態で設置されており、ガス出口22fにはダストフィルタ25が設置されている。すなわち、第2の加熱炉22は灰入口22aから本体22cの一端側に投入されたダストが、回転する羽根22dによって灰出口22bが設けられている側に向かって搬送される構造となっている。
【0031】
第1の加熱炉21では、ダストが第1の加熱炉21の灰入口21aに投入される際に灰供給管20から本体21cの内部に窒素ガスが供給される構造となっており、この窒素ガスによって、本体21cの内部は酸素濃度が0.1%以下の酸欠状態となっている。
なお、第1の加熱炉21の内部で加熱されたダストが灰出口21bから排出されて第2の加熱炉22の灰入口22aに投入される際に本体22cの内部に外部から酸素ガス等が混入することはないため、本体22cの内部も酸素濃度が0.1%以下の酸欠状態となっている。
【0032】
冷却器23は、円筒体の両端が閉塞された中空構造の本体23cと、この本体23cの外周面に設置された水冷式又は空冷式のジャケット(図示せず)を備えており、本体23cの内部には、複数の羽根23dと、この羽根23dが固定された回転軸23eが回転可能な状態で設置されている。すなわち、冷却器23は灰入口23aから本体23cの一端側に投入されたダストが、回転する羽根23dによって灰出口23bが設けられている本体23cの他端側に向かって搬送される構造となっている。
冷却器23の内部で冷却されたダストは、灰出口23bに接続された灰排出管24から排出された後、スクリュウコンベア32によって所定の場所へ搬送される。なお、ダストが冷却器23から単位時間当たりに排出される量は、灰排出管24に設置されたロータリバルブ24aによって調整される。
【0033】
ダストフィルタ25には、ガス吸引管(図示せず)を介してコンデンサ26の上部が接続されている。また、コンデンサ26の下部には、吸引ポンプ(図示せず)が設置されたガス吸引管(図示せず)を介して吸着塔27aが接続されるとともに、水銀排出管(図示せず)を介して水銀分離器28が接続されている。そして、水銀分離器28では、水より比重が大きい水銀が底部に溜まり、水銀より比重が小さい水は水銀の上側に溜まる構造となっている。
水銀分離器28の底部に溜まった水銀の一部は、水銀分離器28の底部に設けられた排出口(図示せず)から水銀溜29へ導出される。一方、水銀の上側に溜まった水は、水銀分離器28の側面に接続された水抜出管(図示せず)から溢出させるようにして抜き出された後、水槽30に貯められる。
なお、水槽30は排水管(図示せず)を介して吸着塔27bに接続されている。したがって、水槽30に溜まった水は、排水管に設置された排水ポンプ31に吸い上げられて吸着塔27bに送られる。
【0034】
このような構造の水銀除去設備に持ち込まれたダストは、まず、第1の加熱炉21及び第2の加熱炉22において、400℃~600℃の温度で1時間、酸欠還元雰囲気下で加熱される。これにより、沸点が356℃である水銀が気化して水銀ガスとなるため、ダストからの水銀の分離が容易となる。また、このような方法によれば、ダストを加熱する際に酸化水銀や塩化水銀が生成されず、排ガスに含まれる水銀が金属水銀の形態で回収されるため、毒性の強い塩化水銀を取り扱う必要がない。したがって、排ガスに含まれる水銀を安全に除去することができる。また、酸化水銀や塩化水銀から水銀を除去する工程が不要であるため、排ガスから水銀を除去する処理に要する費用や時間が削減される。
したがって、ステップS2の工程を備えた本発明の水銀除去方法によれば、排ガス中の水銀を安全かつ安価に、しかも効率よく低減することができる。
【0035】
有機物を低温で燃焼させた場合、ベンゼンやフェノールなどのダイオキシンの前駆体が生成され、さらに、それらの化学反応によりダイオキシンが生成されることや、ダイオキシンは一旦分解しても排ガスの冷却過程において再合成されることが知られている。一方で、酸素濃度が1%以下のような酸欠還元雰囲気下で有機物を焼却した場合には、焼却温度が800℃より低い場合でも脱塩素化が進行する結果、ダイオキシン類が分解されることが知られている。
したがって、水銀除去設備に持ち込まれたダストを第1の加熱炉21及び第2の加熱炉22において、400℃~600℃の温度で1時間、酸欠還元雰囲気下で加熱する工程(
図1(a)のステップS2に対応)を備えた本発明の水銀除去方法では、ダストの加熱時にダイオキシン類が発生することはない。
【0036】
第1の加熱炉21及び第2の加熱炉22の内部で加熱されたダストは、第2の加熱炉22から取り出されて冷却器23において70℃まで冷却される(
図1(a)のステップS8に対応)。このとき、冷却速度が遅いと、一旦分解したダイオキシンが250℃前後で再合成されてしまう。したがって、この工程では、400℃~600℃に加熱されたダストを急冷する(例えば、60分程度で70℃まで一気に下げる)ことが望ましい。これにより、ダイオキシンの再合成が抑制される。
なお、水銀が除去された状態で冷却器23の灰出口23bに接続された灰排出管24から排出されたダストはブレンディングサイロ3(
図7参照)を経て原料ストレージサイロ4(
図7参照)に貯蔵された後、適宜、セメント原料として再利用される(
図1(a)のステップS9に対応)。むろん、セメント原料としての再利用に限定されず、セメント以外の窯業原料などの他の用途に利用しても良いし、埋め立てなどにより廃棄しても良い。
【0037】
第1の加熱炉21及び第2の加熱炉22の内部で加熱されて気化した水と水銀は、水蒸気及び水銀ガスとなって第2の加熱炉22のガス出口22fから排出され(
図1(a)のステップS3に対応)、ダストフィルタ25で濾過された後、コンデンサ26に送られて冷却される(
図1(a)のステップS4に対応)。コンデンサ26の内部で冷却されて凝縮した水蒸気と水銀ガスはそれぞれ水及び液状の水銀となる。これにより、水銀の回収が容易となる。
一方、コンデンサ26の内部で凝縮しないガスは、吸着塔27aに送られて、所定の成分が除去された後、排ガスとして放出される。
上述の水と液状の水銀はコンデンサ26から取り出されて水銀分離器28に送られて分離される(
図1(a)のステップS5及びステップS6に対応)。そして、水から分離された水銀は水銀分離器28から水銀溜29に導出され、水銀溜29から適宜回収される。一方、水銀が除去された水は吸着塔27bに送られて、所定の成分が除去された後、回収される(
図1(a)のステップS7に対応)。
酸素濃度が0.1%以下の酸欠還元雰囲気下での加熱を行うための上述の構造や機能を有する装置は多数公知である。また、いわゆるハーゲンマイヤー炉として多数のメーカーから提供されている。したがって、本発明の実施にあたっては、それらを適宜選択して使用することができる。
また、単にダストを十分に加熱するだけでも、その雰囲気や他の共存元素に応じて、ダストに含まれる水銀が塩化水銀や酸化水銀として揮発する。したがって、上述の酸欠還元雰囲気下で加熱する方法以外の公知の方法で揮発させた水銀を冷却及び固化させて別途回収することによっても水銀が除去されたダストが得られる。本発明にはこのような態様も含まれる。
【0038】
工場などのように一度に大量の排ガスを処理する必要がある場所では、通常、多段型の電気集塵機が用いられる。そこで、多段型の電気集塵機によって捕集されたダストの回収方法について
図4を用いて説明する。
図4は内部が5つの区画に分けられた多段型の電気集塵機によって捕集されたダストが回収される様子を模式的に示した図である。なお、図中の数字は電気集塵機内に設けられた区画の番号を表している。すなわち、
図4に示した電気集塵機では、排ガスの供給口と排出口に最も近い区画に対して1及び5の番号がそれぞれ付されるとともに、その間の区画については、排ガスの排出口に近いほど大きい番号が付されている。また、
図4では原料の流れを実線で示し、排ガスの流れを破線で示している。
図7を用いて既に説明したように石灰石、粘土、珪石及び酸化鉄原料等が調合された原料は原料乾燥機0に送られて排ガスとの接触により乾燥させられ、続いて原料ミル1に送られて粉砕される。そして、原料ミル1において粉砕された原料はブレンディングサイロ3に送られて均質にブレンドされた後、原料ストレージサイロ4に貯蔵される。一方、原料乾燥機0から排出された気体は、サイクロン2において粉体原料及びダスト中の大きい粒子が分離された後、電気集塵機15に送られる。さらに、この気体は電気集塵機15においてダストが捕集された後、煙突16から大気中に放出される。
【0039】
表1は電気集塵機15において「各区画において捕集されたダストに含まれるカーボン及び水銀の濃度(但し第4及び第5区画は合算したダストの値)」の一例をそれぞれ示したものである。
表1を見ると、排ガスの供給口に近い区画では、捕集されたダストに含まれるカーボン及び水銀の濃度が低いことがわかる。このように前段(排ガスの供給口に近い側)の区画で捕集されたダストに含まれるカーボンの濃度が低いのは、導電性が高いカーボンを含むダストは集塵極15aに捕捉され難いため、前段の区画に設置された集塵極15aでは専ら、導電性を有しない粒子、あるいはカーボンよりも導電性の低い粒子を含むダストが捕捉されることが原因と考えられる。
【0040】
これに対し、後段(排ガスの排出口に近い側)の区画では、捕集されたダストに含まれるカーボン及び水銀の濃度が高くなっている。このように後段の区画で捕集されたダストに含まれるカーボンの濃度が高いのは、導電性を有しない粒子、あるいはカーボンよりも導電性の低い粒子を含むダストの大部分が前段の区画で捕集される結果、後段の区画ではカーボンが捕集され易くなることによるものと考えられる。
そして、水銀はカーボンに付着し易いことから、捕集されたダストに含まれるカーボンの濃度が低い前段の区画では、捕集されたダストに含まれる水銀の濃度が低く、捕集されたダストに含まれるカーボンの濃度が高い後段の区画では、捕集されたダストに含まれる水銀の濃度が高くなったものと推察される。
【0041】
【0042】
表1に示すように、第3の区画乃至第5の区画において捕集されたダストに含まれる水銀濃度は、第1の区画、第2の区画で捕集されたダストに比べて大幅に高い。これは、原料や燃料としてセメントの製造工程の系内に持ち込まれた廃棄物に含まれる水銀の原料工程と焼成工程の中で循環する量を低減させるには、第3の区画乃至第5の区画において捕集されたダストに含まれる水銀を除去することが有効であることを意味している。
そこで、本発明の第1の実施の形態に係る水銀除去方法では、電気集塵機が
図4に示すように5つの区画を有する多段型である場合、後段の区画(本実施例では第3の区画乃至第5の区画)において捕集されたダストを回収する工程(
図1(b)のステップS1-2)を
図1(a)のステップS1に示すダストの回収工程とし、前段の区画(本実施例では第1の区画及び第2の区画)において捕集されたダストを前述したような水銀除去工程を経ずにセメント原料として再利用することを特徴とする。
【0043】
具体的に説明すると、
図4に示すように電気集塵機15の第3の区画乃至第5の区画において捕集されたダストは、上部にベントフィルタ35が設置された貯灰サイロ33に送られる。貯灰サイロ33に貯蔵されたダストは、トラック34によって水銀除去設備(
図3参照)に適宜輸送される。そして、
図3を用いて既に説明したように水銀除去設備の第1の加熱炉21及び第2の加熱炉22において水銀が除去されたダストは、冷却器23で冷却された後、ブレンディングサイロ3に送られて均質にブレンドされた後、原料ストレージサイロ4に貯蔵され、適宜、セメント原料として再利用される。
一方、電気集塵機15の第1の区画及び第2の区画において捕集されたダストは、サイクロン2において排ガスから分離された粉体原料とともに、ブレンディングサイロ3に送られて均質にブレンドされた後、原料ストレージサイロ4に貯蔵され、適宜、セメント原料として再利用される。
【0044】
このように、ステップS1-1の工程で回収されたダストを直接セメント原料とする工程を備えた本発明の水銀除去方法によれば、セメント原料として再利用される上記ダストに含まれる水銀の量を少なくできるとともに、外部で水銀処理に供するダストの量を少なくできることから、セメントの製造設備内に持ち込まれる水銀の量を少なく抑えつつ、セメント原料の製造コストの削減を図ることができる。
上述の多段型電気集塵機の「前段」及び「後段」については、最も供給口に近い区画を「前段」とし、最も排出口に近い区画を「後段」とするものとし、それ以外は、用いる電気集塵機の特性や排ガス及びダストの性状に応じて中間区画を適宜振り分ければよい。なお、通常は、段数が偶数の場合には真中で分け、奇数の場合は真中の区画を「後段」に振り分ければよい。
表2は電気集塵機15において捕集されるダストを第1のダストと第2のダストに分け、第1のダストを加熱塔36に供給し約500℃に加熱して、水銀をガス化させ、そのガスを第2のダストと冷却塔37内において約100℃で接触させて、高濃度の水銀を含む第2のダストを回収した試験結果を示している。
表2を見ると、仕込み前の第1のダストと第2のダストは水銀濃度が58.4ppmであったのに対し、取り出し後の第1のダストは水銀濃度が0.4ppm、第2のダストは水銀濃度が827.7ppmとなっており、濃縮倍率は、約14倍となっていることが分かる。また、取り出された第2のダストの質量が75gとなっており、第1のダストと第2のダストの仕込み量の合計を基準とすると、約6.8%に減容されていることが分かる。これは、電気集塵機15から回収されたダストを加熱・冷却して得られた第2のダストに水銀が濃縮されたことに加え、ダストの減容もできていることから、水銀を除去する方法が有効であることを意味している。