(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113196
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】銅張積層板および銅張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20220728BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20220728BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220728BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
B32B15/08 J
B32B15/01 D
H05K1/03 630H
H05K3/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009255
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下地 匠
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB13
4F100AB13A
4F100AB16
4F100AB16B
4F100AB17
4F100AB17B
4F100AK49
4F100AK49A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH66
4F100EH66B
4F100EH71
4F100EH71B
4F100EJ30
4F100EJ94
4F100GB43
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】縁の変形が小さい銅張積層板の製造方法を提供する。
【解決手段】銅張積層板1Nの製造方法は、幅広の銅張積層板1Wをスリッター30で切断して幅狭の銅張積層板1Nを得るにあたり、スリッター30の引き出し角度θを2.5°以下とする。銅張積層板1Nは、銅張積層板1Nの幅方向の反りの凸面を上にして平板上に載置したときの、平板の表面を基準とした銅張積層板1Nの縁の波状変形の頂点の高さが0.2mm以下である。スリッター30の引き出し角度θを小さくすることで、縁の変形が小さい銅張積層板1Nが得られる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅広の銅張積層板をスリッターで切断して幅狭の銅張積層板を得るにあたり、
前記スリッターの引き出し角度を2.5°以下とする
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項2】
前記銅張積層板は、ベースフィルムと、前記ベースフィルムの片面または両面に成膜された銅めっき被膜とを有し、
前記ベースフィルムの厚さは12.5~35μmであり、
前記銅めっき被膜の総厚さは0.4~4μmである
ことを特徴とする請求項1記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項3】
銅張積層板の幅方向の反りの凸面を上にして平板上に載置したときの、前記平板の表面を基準とした前記銅張積層板の縁の波状変形の頂点の高さが0.2mm以下である
ことを特徴とする銅張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板および銅張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)などの製造に用いられる銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は、セミアディティブ法、サブトラクティブ法などにより、銅張積層板に配線パターンを形成することで得られる。
【0003】
位置精度の高い配線パターンを形成するために、銅張積層板にアライメントマークを形成し、そのアライメントマークを基準としてフォトレジストパターンを形成する。アライメントマークは、例えば、金型パンチ、レーザー加工などにより形成された直径1mm以下の孔である(例えば、特許文献1)。銅張積層板にアライメントマークを形成する際には、銅張積層板の縁を搬送ガイドレールや加工ステージの段差などに接触させて、銅張積層板を機械的に位置合わせする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂フィルムが薄い場合など、銅張積層板の弾力性が低い場合には、銅張積層板が曲がりやすいため、銅張積層板を機械的な方法で位置合わせすることが困難である。そこで、カメラで撮影した画像から銅張積層板の縁を検出して、アライメントマークを形成する位置を決定することが考えられる。
【0006】
ところで、幅広の銅張積層板をスリッターで切断して幅狭の銅張積層板を得る場合、切断後の銅張積層板の縁が波状に変形することがある。このような銅張積層板の縁をカメラで撮影する際、カメラのフォーカスを合わせるのに時間がかかり生産性が低くなることがある。また、銅張積層板の縁が大きく変形している場合には、縁が直線状に認識されず位置精度が低下することがある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、縁の変形が小さい銅張積層板の製造方法、およびその方法により得られる銅張積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の銅張積層板の製造方法は、幅広の銅張積層板をスリッターで切断して幅狭の銅張積層板を得るにあたり、前記スリッターの引き出し角度を2.5°以下とすることを特徴とする。
本発明の銅張積層板は、銅張積層板の幅方向の反りの凸面を上にして平板上に載置したときの、前記平板の表面を基準とした前記銅張積層板の縁の波状変形の頂点の高さが0.2mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スリッターの引き出し角度を小さくすることで、縁の変形が小さい銅張積層板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る銅張積層板の断面図である。
【
図3】銅張積層板の縁の変形量の測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る方法により製造される銅張積層板1は、ベースフィルム10と、ベースフィルム10の表面に形成された銅層20とからなる。
図1に示すようにベースフィルム10の片面のみに銅層20が形成されてもよいし、ベースフィルム10の両面に銅層20が形成されてもよい。
【0012】
ベースフィルム10としてポリイミドフィルム、液晶ポリマー(LCP)フィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。銅層20は、スパッタリングなどの乾式成膜法により成膜される金属層21と、電解めっきにより成膜される銅めっき被膜22とからなる。金属層21と銅めっき被膜22とはベースフィルム10の表面にこの順に積層されている。
【0013】
金属層21は下地金属層21aと銅薄膜層21bとからなる。下地金属層21aと銅薄膜層21bとはベースフィルム10の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層21aはニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。下地金属層21aはなくてもよい。銅薄膜層21bはベースフィルム10の表面に下地金属層21aを介して成膜されてもよいし、下地金属層21aを介さずベースフィルム10の表面に直接成膜されてもよい。
【0014】
特に限定されないが、ベースフィルム10の厚さは10~40μmが一般的である。下地金属層21aの厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層21bの厚さは50~400nmが一般的である。銅めっき被膜22の厚さは、サブトラクティブ法により加工される銅張積層板1の場合8~12μmが一般的であり、セミアディティブ法により加工される銅張積層板1の場合0.1~5μmが一般的である。
【0015】
ロールツーロール方式のスパッタリング装置およびめっき装置を用いれば、長尺帯状のベースフィルム10の表面に銅層20を形成できる。これにより、長尺帯状の銅張積層板1が得られる。長尺帯状の銅張積層板1は所望の幅寸法となるようスリッターにより長手方向に切断される。
【0016】
図2に示すように、スリッター30はロール状の巻回された幅広の銅張積層板1Wを繰り出す供給装置31を有する。幅広の銅張積層板1Wはカッターユニット32に供給される。カッターユニット32は、例えば、上刃32aと下刃32bとからなる。幅広の銅張積層板1Wが上刃32aと下刃32bとの間を通過することで長手方向に切断され幅狭の銅張積層板1Nとなる。複数の幅狭の銅張積層板1Nはそれぞれに対応する巻取装置33でロール状に巻き取られる。このように、幅広の銅張積層板1Wをスリッター30で切断することで、所望の幅寸法を有する幅狭の銅張積層板1Nを得ることができる。
【0017】
なお、カッターユニット32の切断方式は、特に限定されず、シャーカット方式、スコアカット方式、ギャングカット方式などのいずれでもよい。また、銅張積層板1Wの切断幅、切断数は特に限定されない。
【0018】
スリッター30により切断された後の銅張積層板1Nは、切断により生じる張力や応力などが原因となり、その縁(切断部)が波状に変形することがある。本願発明者は、銅張積層板1Nの縁の変形の大きさとスリッター30の引き出し角度との間に相関があるとの知見を得、銅張積層板1Nの縁の変形を抑制する方法を見出した。
【0019】
図2に示すように、切断前の銅張積層板1Wの搬送方向の延長線(通常は水平線)と、カッターユニット32から引き出された切断後の銅張積層板1Nの引き出し方向とのなす角を引き出し角度θとする。この引き出し角度θを2.5°以下とすれば、銅張積層板1Nの縁の変形を十分に抑制できる。
【0020】
具体的には、引き出し角度θを2.5°以下とすれば、銅張積層板1Nの幅方向の反りの凸面を上にして平板上に載置したときの、平板の表面を基準とした銅張積層板1Nの縁の波状変形の頂点の高さが0.2mm以下となる。
【0021】
このように、スリッターの引き出し角度θを小さくすることで、カッターユニット32における銅張積層板1の屈曲を抑制でき、縁の変形が小さい銅張積層板1Nが得られる。そのため、銅張積層板1Nの縁にカメラのフォーカスを合わせるのに時間がかからず、アライメントマークを効率よく形成できる。
【実施例0022】
(共通の条件)
ベースフィルムとして、厚さ12.5μmおよび35μmのポリイミドフィルム(東レディポン製カプトン)、および厚さ34μmのポリイミドフィルム(宇部興産製ユーピレックス)を用意した。ベースフィルムはいずれも幅570mmの長尺帯状である。
【0023】
各ベースフィルムの片面または両面に銅層を形成した。銅層は下地金属層、銅薄膜層および銅めっき被膜からなる。地金属層および銅薄膜層はマグネトロンスパッタリング装置で成膜した。下地金属層はCrが20質量%、Niが80質量%のニッケルクロム合金であり、厚さ25nmである。銅薄膜層は厚さ100nmである。銅めっき被膜はロールツーロール方式のめっき装置で成膜した。
【0024】
(実施例1~6)
実施例1~6のぞれぞれのベースフィルムの厚さ、第一面の銅めっき被膜の厚さ、第二面の銅めっき被膜の厚さは表1に示すとおりである。
【0025】
得られた銅張積層板をギャングカット方式のスリッター(東レエンジニアリング社製TD07-Y、以下同じ。)を用いて幅156mmに切断した。ここで、銅張積層板の搬送速度を10m/分、搬送張力を60Nとした。また、スリッターの引き出し角度を2.5°とした。
【0026】
(比較例1、2)
比較例1、2のぞれぞれのベースフィルムの厚さ、第一面の銅めっき被膜の厚さ、第二面の銅めっき被膜の厚さは表1に示すとおりである。
【0027】
得られた銅張積層板をスリッターで幅156mmに切断した。ここで、銅張積層板の搬送速度を10m/分、搬送張力を60Nとした。また、スリッターの引き出し角度を8.5°とした。
【0028】
実施例1~6および比較例1、2のそれぞれにおいて、スリッターで切断した後の銅張積層板を長さ250mmとなるよう切断し、試験片を得た。そして、つぎの手順で縁の変形量を求めた。
図3に示すように、試験片Sを幅方向(銅張積層板のTD方向)の反りの凸面を上にして平板41上に載置し、その上にガラス板42を置いた。ここで、ガラス板42の縁を試験片Sの縁(スリッターによる切断部)から20±5mm離れた位置にした。つぎに、試験片Sの縁の高さをZ軸方向の測長機能付き光学顕微鏡(ニコン製デジタル測長機、MEASURING MICROSCOPE MM-60、倍率:500倍)で測定した。ここで、試験片Sの縁(長さ250mm)の中間の200mmを測定範囲とし、平板41の表面を基準とした縁の高さを5mm間隔で40点測定した。40点の測定結果のうちの最大値を表1に示す。
【0029】
また、つぎの手順でフォーカステストを行った。試験片Sを
図3に示す状態とし、縁の測定範囲のうちの10点を測定点とした。各測定点につき、オートフォーカス機能付きのCCDカメラ(倍率x6、焦点深度0.1mm)でスキャン範囲±0.05mmの条件でスキャンしてオートフォーカスを行った。表1にその結果を示す。全ての測定点で正常にフォーカスできたものを「○」、1点でも正常にフォーカスできなかったものを「×」とした。
【0030】
【0031】
表1から分かるように、スリッターの引き出し角度を2.5°とした実施例1~6はいずれも、縁の最大高さが0.2mm以下であり、正常なオートフォーカスができている。したがって、スリッターの引き出し角度を2.5°以下とすれば、正常なオートフォーカスができる程度に、縁の変形が小さい銅張積層板が得られることが確認できた。
【0032】
なお、実施例1~6の結果をみる限り、ベースフィルムおよび銅めっき被膜の厚さと縁の最大高さとの間に有意な傾向は見られない。しかし、少なくとも、ベースフィルムの厚さが12.5~35μm、銅めっき被膜の総厚さが0.4~4μmの範囲において、スリッターの引き出し角度を2.5°以下とすれば、縁の最大高さを0.2mm以下にできるといえる。
【0033】
なお、銅めっき被膜の総厚さとは、銅めっき被膜が片面にのみ成膜されている場合はその厚さを意味し、銅めっき被膜が両面に成膜されている場合はその両方の厚さを加算した値を意味する。