(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113276
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】多芯ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20220728BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/18 E
H01B7/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009388
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】社内 大介
【テーマコード(参考)】
5G311
5G313
【Fターム(参考)】
5G311AC03
5G311AC06
5G311AD02
5G313AA03
5G313AB02
5G313AB03
5G313AC04
5G313AE10
(57)【要約】
【課題】導電体の外周を覆う絶縁層の特性劣化を抑制すると共に、導電体および絶縁層を有する絶縁電線の摺動性を向上させることで、多芯ケーブルの信頼性を向上させる。
【解決手段】多芯ケーブル1は、導電体2および絶縁層3をそれぞれ有し、且つ、撚り合わされた複数の絶縁電線4と、複数の絶縁電線4の絶縁層3に接触する複数の介在7とを備える。複数の介在7には、それぞれ潤滑剤が塗布されている。ここで、複数の介在7を構成する材料のSP値と潤滑剤のSP値との差分の絶対値は、潤滑剤のSP値と絶縁層3を構成する材料のSP値との差分の絶対値よりも小さい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体、および、前記導電体の外周を覆う絶縁層をそれぞれ有し、且つ、撚り合わされた複数の絶縁電線と、
前記複数の絶縁電線の前記絶縁層に接触する複数の介在と、
を備え、
前記複数の介在には、それぞれ潤滑剤が塗布され、
前記複数の介在を構成する材料のSP値と前記潤滑剤のSP値との差分の絶対値は、前記潤滑剤のSP値と前記絶縁層を構成する材料のSP値との差分の絶対値よりも小さい、多芯ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記複数の介在は、それぞれ、絹、麻、紙または合成繊維からなる糸であり、
前記潤滑剤が塗布された前記複数の介在と、前記複数の絶縁電線とは、一緒に撚り合わされている、多芯ケーブル。
【請求項3】
請求項2に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記潤滑剤は、シリコーンオイルまたはエチレングリコールである、多芯ケーブル。
【請求項4】
請求項3に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記絶縁層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのエラストマー、ポリアミド11、ポリアミド11のエラストマー、ポリアミド12、または、ポリアミド12のエラストマーを含む、多芯ケーブル。
【請求項5】
請求項1に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記複数の介在を構成する材料のSP値と前記潤滑剤のSP値との差分の絶対値は、4以下である、多芯ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多芯ケーブルに関し、特に、導電体の外周を絶縁層で覆われた絶縁電線を備えた多芯ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
導電体と、導電体の外周を覆う絶縁層とを有する絶縁電線を複数備え、複数の絶縁電線が撚り合わされて構成される多芯ケーブルが知られている。このような多芯ケーブルをロボットケーブルに適用する場合、複数の絶縁電線の間で発生する摩擦および摩耗が原因となり、ロボットケーブルの屈曲寿命が短くなるという問題がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の絶縁電線が撚り合わされて構成される多芯ケーブルをロボットケーブルに用いることが開示され、絶縁電線の絶縁層の表面の滑性を向上させるために、絶縁層に、有機系高分子量シリコーンポリマを含有するポリエステルエラストマーを適用する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、多芯ケーブルの屈曲による摩耗断線を抑制するために、細径介在物の代わりに、粉末状の固体潤滑材を含有したグリースからなる介在を用いる技術が開示されている。上記グリースは、シリコーングリースであり、複数の導電体が撚り合わされた集合撚線の表面に塗布される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-218061号公報
【特許文献2】特開2015-187956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロボットケーブルの屈曲寿命が短くなることを抑制するためには、複数の絶縁電線の摺動性を向上させ、複数の絶縁電線の間で発生する摩擦および摩耗を低減させることが有効である。そのため、絶縁電線の絶縁層に、ETFE(四フッ化エチレン-エチレン共重合樹脂)のようなフッ素樹脂を適用することも考えられる。しかし、そのようなフッ素樹脂は高価であるので、ケーブルの製造コストが増加するという問題がある。
【0007】
また、上述の特許文献1のように、ポリエステルエラストマーへのシリコーンの分散によって、摺動性の向上を図ることも考えられる。しかし、本願発明者らの検討によれば、シリコーンの添加量が増加した場合、押出機によって絶縁電線を形成する際に、ホッパー部でペレットのブロッキングが生じると、ケーブルの外観制御が困難となるという問題が生じることが分かった。従って、特許文献1に開示された技術では、十分な摺動性の向上を図ることが難しい。
【0008】
また、上述の特許文献2では、介在(潤滑剤)は集合撚線の表面に直接塗布されているが、集合撚線の外周を絶縁層で覆った場合について考慮されていない。その場合、潤滑剤と、絶縁層を構成する材料との組み合わせによっては、潤滑剤が絶縁層の内部に浸透するという恐れがある。そうすると、引張強度または耐油性などの絶縁層の特性が劣化する恐れがある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、導電体の外周を覆う絶縁層の特性劣化を抑制すると共に、導電体および絶縁層を有する絶縁電線の摺動性を向上させることで、多芯ケーブルの信頼性を向上させることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施の形態である多芯ケーブルは、導電体、および、前記導電体の外周を覆う絶縁層をそれぞれ有し、且つ、撚り合わされた複数の絶縁電線と、前記複数の絶縁電線の前記絶縁層に接触する複数の介在と、を備える。ここで、前記複数の介在には、それぞれ潤滑剤が塗布され、前記複数の介在を構成する材料のSP値と前記潤滑剤のSP値との差分の絶対値は、前記潤滑剤のSP値と前記絶縁層を構成する材料のSP値との差分の絶対値よりも小さい。
【発明の効果】
【0011】
一実施の形態によれば、導電体の外周を覆う絶縁層の特性劣化を抑制すると共に、導電体および絶縁層を有する絶縁電線の摺動性を向上させることで、多芯ケーブルの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1における多芯ケーブルを示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1における多芯ケーブルを示す断面図である。
【
図3】実施の形態1における絶縁電線を示す斜視図である。
【
図4】実施の形態1における各構造体の材料と、それらのSP値とを纏めた表である。
【
図5】実施の形態1における多芯ケーブルの製造方法を示すプロセスフローである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0014】
また、実施の形態を説明するための図面では、各構成を分かり易くするために、ハッチングが省略されている場合もある。
【0015】
(実施の形態1)
<多芯ケーブル1の構造>
以下に
図1~
図3を用いて、実施の形態1における多芯ケーブル1について説明する。多芯ケーブル1は、屈曲寿命を長くさせた耐屈曲性ケーブルであり、例えばロボットの各部位に接続されるロボットケーブルとして使用される。
【0016】
図1は、多芯ケーブル1を示す斜視図である。
図2は、多芯ケーブル1の延在方向に対して垂直な断面図である。
図3は、絶縁電線4を示す斜視図である。
【0017】
図1および
図2に示されるように、多芯ケーブル1は、撚り合わされた複数の絶縁電線4と、複数の絶縁電線4に接触する複数の介在7と、複数の絶縁電線4および複数の介在7の外周を覆うテープ層5と、テープ層5の外周を覆うシース6とを備える。なお、
図1では、図面を見易くするために、複数の介在7の図示を省略している。
【0018】
複数の介在7は、各絶縁電線4の間、および、複数の絶縁電線4とテープ層5との間に敷き詰められている。また、後で詳細に説明するが、複数の介在7には、複数の絶縁電線4の摺動性を向上させる目的で、それぞれ潤滑剤が塗布されている。そして、潤滑剤が塗布された複数の介在7と、複数の絶縁電線4とは、一緒に撚り合わされている。
【0019】
なお、本明細書において、「複数の絶縁電線4の外周を覆うテープ層5」のような表現は、テープ層5が複数の絶縁電線4の周囲に位置していることを意味し、複数の絶縁電線4およびテープ層5が直接接している場合を含み、複数の絶縁電線4とテープ層5との間に空間または他の構造体が存在している状態で、複数の絶縁電線4およびテープ層5が上記空間または上記他の構造体を介して隣接している場合も含む。このような定義は、複数の絶縁電線4およびテープ層5の関係に限られず、例えばテープ層5およびシース6のような他の構造体同士の関係にも適用される。
【0020】
複数の絶縁電線4の各々は、導電体2と、導電体2の外周を覆う絶縁層3とを有する。
図3に示されるように、導電体2は、撚り合わされた複数の導線20によって構成された集合撚線であり、絶縁層3は、撚り合わされた複数の導線20の外周を覆っている。複数の介在7は、複数の絶縁電線4の絶縁層3に接触している。
【0021】
導線20は、例えば銅または銅合金のような金属材料からなる単線である。また、導線20の表面には、錫またはニッケルのような金属材料からなるめっき層が形成されていてもよく、導線20を構成する金属材料は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であってもよい。
【0022】
絶縁層3は、熱可塑性樹脂を主な樹脂材料とする樹脂組成物を含む。なお、ここで説明する「主な樹脂材料」とは、樹脂組成物全体のうち50%以上が、熱可塑性樹脂によって構成されることを意味する。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンテレフタレートのエラストマー、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド11のエラストマー、ポリアミド12(PA12)、または、ポリアミド12のエラストマーである。また、製造コストの増加を許容するのであれば、絶縁層3に、ETFEのようなフッ素樹脂を適用してもよい。
【0023】
テープ層5は、多芯ケーブル1の製造時における型くずれを防止するために設けられている。テープ層5の材料としては、樹脂フィルム、不織布または紙などが用いられる。シース6は、樹脂材料からなり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、シリコーンゴムまたはフッ素樹脂からなる。
【0024】
介在7は、例えば絹、麻、紙または合成繊維からなる糸である。合成繊維の材料は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリプロピレン(PP)である。なお、
図2に示される1つの介在7は、1本の糸であってもよいし、複数本の糸が撚り合わされた集合撚線であってもよい。
【0025】
介在7には、潤滑剤が塗布されている。潤滑剤は、例えばシリコーンオイルまたはエチレングリコールである。潤滑剤としては、特にシリコーンオイルが優れている。その理由は、シリコーンオイルの化学構造がヘリックス構造となるので、メチル基が自由に回転でき、滑性が高いからである。なお、シリコーンオイルとしては、例えば、ポリジメチルシロキサンを含むストレートシリコーンオイル、または、一部の珪素原子にポリオールのような各種有機基が導入された変性シリコーンオイルが用いられる。
【0026】
ここで、多芯ケーブル1を屈曲させた際には、屈曲点において絶縁電線4に応力が集中する。特に、多芯ケーブル1を±90度で屈曲させた場合には、大きな応力が発生する。それぞれ糸からなる複数の介在7が、複数の絶縁電線4と一緒に撚り合わされていることで、介在7と絶縁電線4との接触部分が多くなる。そのため、屈曲時の応力を緩和させる効果を高めることができる。
【0027】
更に、複数の介在7には潤滑剤が塗布されているので、応力の集中を分散させることができ、複数の絶縁電線4の間で発生する摩擦および摩耗を抑制することができる。すなわち、複数の絶縁電線4の摺動性を向上させることができるので、多芯ケーブル1の信頼性を向上させることができ、多芯ケーブル1の屈曲寿命を長くすることができる。
【0028】
ところで、介在7を構成する材料、絶縁層3を構成する材料および潤滑剤は、上述の通りであるが、これらの材料の組み合わせに対して、溶解パラメータ(Solubility Parameter:SP値)を考慮する必要がある。
【0029】
図4は、介在7の材料、絶縁層3の材料および潤滑剤と、各々のSP値とを纏めた表である。
【0030】
実施の形態1では、複数の介在7を構成する材料のSP値と潤滑剤のSP値との差分の絶対値は、潤滑剤のSP値と絶縁層3を構成する材料のSP値との差分の絶対値よりも小さい。すなわち、|介在7のSP値-潤滑剤のSP値|<|潤滑剤のSP値-絶縁層3のSP値|の関係が保たれている。言い換えれば、潤滑剤は、介在7と混ざり易く、絶縁層3と混ざり難いという関係になるように、これらの材料の組み合わせが設定されている。
【0031】
上記関係が逆である場合、潤滑剤が介在7から絶縁層3へ滲み出るように、多量ブリードが発生する。そうすると、引張強度または耐油性などの絶縁層3の特性が劣化する。上記関係を保つことで、多芯ケーブル1の屈曲時にのみ、潤滑剤の少量ブリードが発生するので、絶縁層3の特性劣化を抑制することができる。
【0032】
また、複数の介在7を構成する材料のSP値と潤滑剤のSP値との差分の絶対値は、4以下である。すなわち、|介在7のSP値-潤滑剤のSP値|≦4の関係が保たれている。
【0033】
本願発明者らの検討によれば、|介在7のSP値-潤滑剤のSP値|が4より大きい場合、潤滑剤が、介在7の内部に留まらず、絶縁層3またはテープ層5へ滲み出るという可能性が高くなることが判った。上記関係を保つことで、そのような恐れを抑制することができる。
【0034】
介在7、潤滑剤および絶縁層3の各々のSP値を上述のように考慮することで、複数の絶縁電線4の摺動性を向上させると共に、絶縁層3の特性劣化を抑制することができる。従って、多芯ケーブル1の信頼性を更に向上させることができる。
【0035】
<多芯ケーブル1の製造方法>
以下に
図5を用いて、実施の形態1における多芯ケーブル1の製造方法について説明する。
【0036】
まず、ステップS1では、介在7を用意する。次に、ステップS2では、介在7に潤滑剤を塗布する。潤滑剤を含む水溶液で満たされた水槽を用意し、この水槽内に介在7を浸す。その後、水槽内において、スポンジなどを介在7に押し当てることで、介在7に潤滑剤を塗布する。
【0037】
ステップS3では、水槽内から介在7を巻き取る。これにより、潤滑剤が塗布された介在7を用意する。ステップS1~S3を繰り返すことで、それぞれ潤滑剤が塗布された複数の介在7を用意できる。なお、複数の介在7に対して同時にステップS1~S3を行うことで、それぞれ潤滑剤が塗布された複数の介在7を用意してもよい。
【0038】
一方で、ステップS4では、複数の導電体2を用意する。複数の導電体2の各々は、複数の導線20を用意し、複数の導線20を撚り合わすことで形成される。
【0039】
ステップS5では、複数の絶縁電線4の形成を行う。混練された樹脂組成物を押出機から押し出す押出成形によって、1つの導電体2の外周に、熱可塑性樹脂を主な樹脂材料とする樹脂組成物からなる絶縁層3を形成する。これにより、1つの絶縁電線4を形成する。また、複数の導電体2に対してステップS4およびステップS5を繰り返すことで、複数の絶縁電線4を得る。
【0040】
ステップS3およびステップS5の後、ステップS6では、潤滑剤が塗布された複数の介在7と、複数の絶縁電線4とを、一緒に撚り合わす。次に、ステップS7では、撚り合わされた複数の介在7および複数の絶縁電線4の外周に、テープ層5を巻き付ける。次に、ステップS8では、押出機を用いた押出成形によって、テープ層5の外周に、シース6を形成する。
【0041】
以上で、多芯ケーブル1の製造が完了する。
【0042】
このように、潤滑剤を複数の介在7に塗布する方法を用いれば、例えば絶縁層3にフッ素樹脂のような高価な材料を適用した場合と比較して、安価な方法で多芯ケーブル1を製造できる。すなわち、実施の形態1によれば、多芯ケーブル1の信頼性を向上できると共に、多芯ケーブル1の製造コストの増加を抑制できる。
【0043】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0044】
例えば、実施の形態1では、多芯ケーブル1がロボットケーブルとして使用される場合を例示したが、多芯ケーブル1は、電気信号を伝達するために使用され、様々な電気機器に使用されるケーブルに適用できる。例えば、多芯ケーブル1は、キャブタイヤケーブルにも適用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 多芯ケーブル
2 導電体
3 絶縁層
4 絶縁電線
5 テープ層
6 シース
7 介在
20 導線