(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113748
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】積層体および電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/12 20060101AFI20220728BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220728BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
B32B7/12
B32B27/00 101
H01L21/78 M
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090759
(22)【出願日】2022-06-03
(62)【分割の表示】P 2018547762の分割
【原出願日】2017-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2016212742
(32)【優先日】2016-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福井 弘
(72)【発明者】
【氏名】外山 香子
(72)【発明者】
【氏名】潮 嘉人
(57)【要約】
【課題】
基材上に、工業的生産工程により適した、硬化前は基材を各種処理から保護することができ、耐熱性等に優れ、低弾性率、低応力かつ応力緩衝性と柔軟性に優れたソフトかつ電子部品等の保持性に優れたゲル層を有し、硬化後は、当該ゲル層が硬化前よりも保型性が高く、離型性に優れたハードな硬化層へと変化し、かつ、当該硬化層が局所的であっても基材上から容易かつ簡便に分離可能な積層体およびその用途(電子部品の製造方法等)を提供することを目的とする。
【解決手段】
硬化反応性のシリコーンゲルが積層され、かつ、当該硬化反応性シリコーンゲル上に、接着層を介して積層されたシート状部材を備えた積層体およびその使用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(L1)基材、
(L2)前記基材上に積層された硬化反応性シリコーンゲル、および
(L3)前記硬化反応性シリコーンゲル上に、接着層を介して積層されたシート状部材
を含有し、
前記接着層は、ヒドロシリル化反応硬化性のシリコーン系接着剤、過酸化物硬化性のシリコーン系接着剤、高エネルギー線硬化性のシリコーン系接着剤、またはこれらから選ばれる2種類以上のシリコーン系接着剤からなり、該接着層は、前記前記硬化反応性シリコーンゲルの硬化物と接合体を形成し、前記基材から前記シート状部材を分離しようとした際に、該接着層の破壊モードが凝集破壊となるような強固な接着を形成している積層体。
【請求項2】
上記(L1)基材が、(L1-E)電子部品である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
上記(L1)基材が、1種類以上の化学的乃至物理的処理が施されている(L1-E)電子部品である、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
上記(L2)の硬化反応性シリコーンゲルの損失係数tanδが、23℃~100℃において、0.01~1.00の範囲にあることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
上記(L2)の硬化反応性シリコーンゲルを硬化反応させて得られる硬化反応性シリコーンゲルの硬化物の貯蔵弾性率G’curedが、硬化前のシリコーンゲルの貯蔵弾性率G’gelに比べて50%以上上昇することを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
上記(L3)のシート状部材が、接着フィルムである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
上記(L3)のシート状部材が、上記(L2)の硬化反応性シリコーンゲルの硬化反応により、硬化反応性シリコーンゲルの硬化物と接合物を形成することを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
上記(L3)のシート状部材に、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理のいずれかの表面処理がなされている、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化反応により、ソフトかつ電子部品等の保持性に優れたゲル層からハードな硬化物層へと物性変化する硬化反応性のシリコーンゲル、および当該ゲル上に接着層を介して積層されたシート状部材を基材上に備えた積層体およびそれを用いた電子部品の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゲルは反応性官能基を有するオルガノポリシロキサンを低い架橋密度となるように硬化反応させることにより得ることができ、耐熱性、耐候性、耐油性、耐寒性、電気絶縁性等に優れ、かつ、通常のエラストマー製品と異なり、ゲル状であるために低弾性率、低応力かつ応力緩衝性に優れることにより、光学用途のダンピング材、車載電子部品、民生用電子部品の保護等に広く用いられている(例えば、特許文献1~7)。特に、シリコーンゲルは、ソフトで変形しやすく、基材表面の凹凸にあわせて配置できるため、シリコーンエラストマーやハードな硬化物と異なり、平坦でない基材に対しても良好な追従性を示し、間隙や乖離を生じにくいという利点を有する。
【0003】
しかしながら、このようなシリコーンゲルは、「ゲル状」であるために、振動などによる外部応力や温度変化に伴う膨張・収縮による内部応力による変形に対して弱く、ゲルが破壊されたり、保護、接着または応力緩衝が必要な電子部材等から分離または切断(ダイシング操作等)する必要が生じた場合には、対象に対して粘着質の付着物が残留してしまったり、ゲルが基材上で凝集破壊して基材や電子部品等から容易に除去できなくなる場合がある。このようなゲルの付着物は電子部品等の欠陥となりうる他、半導体等の実装時の障害、不良品の原因となるために好ましくない。一方、オルガノポリシロキサンの架橋密度を上げて完全硬化させてしまうと、シリコーンゲルの優位性である低弾性率、低応力かつ応力緩衝性に優れるという性質が実現できず、かつ、平坦でない基材に対するゲル層の追従性が悪化し、間隙や基材からの乖離を生じる場合がある。このため、従来のシリコーンゲル材料やシリコーンエラストマー等の硬化物では、上記の課題を全く解決し得ないものであった。
【0004】
一方、接着性フィルムや半導体封止剤の分野では、異なる硬化反応条件を想定し、多段階で硬化反応が進行する硬化性組成物が提案されている。例えば、特許文献8では、2段階の硬化反応により、第1段階の硬化によりダイシング工程で要求される粘着性を、第2段階の硬化により強固な接着性を示し、ダイシング・ダイボンド接着シートに好適に使用される熱硬化性組成物が開示されている。また、本出願人らは、特許文献9において、初期硬化性に優れ、かつ、250℃以上の高温に暴露した場合にも高い物理的強度を維持する、硬化性シリコーン組成物を提案している。
【0005】
しかしながら、従来公知の多段階硬化を想定した硬化性組成物において、シリコーンゲルを形成させることや、ソフトなゲルからハードな完全硬化物に変化する際の技術的利益等は何ら記載も示唆もされていない。
【0006】
本件出願人らは、上記課題を解決可能な硬化反応性シリコーンゲル、それを用いた積層体、電子部品の製造方法等を提案している(特許文献10、特許文献11)。当該硬化反応性シリコーンゲルを用いた積層体は上記課題の解決に極めて有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59-204259号公報
【特許文献2】特開昭61-048945号公報
【特許文献3】特開昭62-104145号公報
【特許文献4】特開2003-213132号公報(特許登録3865638号)
【特許文献5】特開2012-017458号公報(特許登録5594232号)
【特許文献6】国際公開WO2015/155950号パンフレット(特許登録5794229号)
【特許文献7】特開2011-153249号公報
【特許文献8】特開2007-191629号公報(特許登録4628270号)
【特許文献9】特開2016-124967号公報
【特許文献10】特願2016-186543(出願時未公開)
【特許文献11】特願2016-186544(出願時未公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、本発明者らは、特に上記の特許文献10、11に係る硬化反応性シリコーンゲルを利用した電子部品の製造について、新たな課題を発見した。当該硬化反応性シリコーンゲルは各種処理に対して電子部品を選択的に保護することができ、電子部品の処理やダイシング時の不良を生じにくいため、電子部品製造に極めて有用であり、かつ、硬化により保型性が高く、離型性に優れたハードな硬化層へと変化するので基材である電子部品から容易に分離でき、糊残りの問題も生じないものである。その一方、シリコーンゲルを電子部品に対してピンポイントで積層する場合、当該ゲルの付着面積が相対的に小さくなるため、基材から分離する際に、適用される製造装置によっては剥離が困難になったり、当該硬化層の周囲を意図せずに破損してしまう場合があり、特に大規模な工業生産工程では、より簡便、迅速かつ確実に硬化層を分離できる方法が必要となることが予想される。
【0009】
そこで、本発明は、工業的生産工程により適した、硬化前は基材を各種処理から保護することができ、耐熱性等に優れ、低弾性率、低応力かつ応力緩衝性と柔軟性に優れたソフトかつ電子部品等の保持性に優れたゲル層を有し、硬化後は、当該ゲル層が硬化前よりも保型性が高く、離型性に優れたハードな硬化層へと変化し、かつ、当該硬化層が局所的であっても、基材上から容易かつ簡便に分離可能な積層体を提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該積層体を用いることにより、基材や電子部品へのシリコーンゲルまたはその硬化物の付着物等の問題を生じにくく、簡便、迅速かつ確実に硬化物を分離できるため、電子部品の欠陥や不良品の問題を生じにくい、電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
鋭意検討の結果、本発明者らは、少なくとも1種類の基材上に、硬化反応性のシリコーンゲルが積層され、かつ、当該硬化反応性シリコーンゲル上に、接着層を介して積層されたシート状部材を備えた積層体により、上記課題を解決できる事を見出し、本発明に到達した。
【0011】
さらに、本発明者らは、上記基材が電子部品(その前駆体を含む)であり、硬化反応性シリコーンゲルにより保護された電子部品に対して任意の処理を行った後、当該当該硬化反応性シリコーンゲルを硬化し、シート状部材および硬化反応性シリコーンゲルの硬化物を、実質的に同時に電子部品から分離する工程
を有する電子部品の製造方法により、上記課題を解決できる事を見出し、本発明に到達した。この場合、シート状部材は硬化反応性シリコーンゲルの硬化物と接合体を形成して実質的に一体化しており、シート状部材を剥離することによって、それに追従する硬化物もほぼ同時に電子部品上から分離される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、工業的生産工程により適した、硬化前は基材を各種処理から保護することができ、耐熱性等に優れ、低弾性率、低応力かつ応力緩衝性と柔軟性に優れたソフトかつ電子部品等の保持性に優れたゲル層を有し、硬化後は、当該ゲル層が硬化前よりも保型性が高く、離型性に優れたハードな硬化層へと変化し、かつ、当該硬化層が局所的であっても基材上から容易かつ簡便に分離可能な積層体を提供することができる。さらに、当該積層体を用いることにより、基材や電子部品へのシリコーンゲルまたはその硬化物の付着物等の問題を生じにくく、簡便、迅速かつ確実に硬化物を分離できるため、電子部品の欠陥や不良品の問題を生じにくい、電子部品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本積層体は、少なくとも1種類の基材上に、硬化反応性のシリコーンゲルを有し、かつ、当該硬化反応性シリコーンゲル上に、接着層を介して積層されたシート状部材を備えた積層体である。以下、その詳細を説明する。
【0014】
[硬化反応性のシリコーンゲル]
本積層体は硬化反応性のシリコーンゲルを備えることを特徴とする。当該、シリコーンゲルは、電子部品等の基材を各種処理から保護することができ、非流動性のゲル状を呈し、加熱、高エネルギー線の照射等に応答して硬化反応を起こし、硬化反応前よりも保型性が高く、離型性に優れたハードな硬化層に変化する。シリコーンゲル層は、層状であれば、とくにその形状は限定されないが、後述する電子部品の製造用途に用いる場合、実質的に平坦なシリコーンゲルであることが好ましい。シリコーンゲル層の厚みについても特に限定されるものではないが、平均厚みが10~500μmの範囲、25~300μmの範囲または30~200μmの範囲であってよい。平均厚みが10μm未満では基材である電子部品等の凹凸に由来する間隙(ギャップ)が埋まりにくく、500μmを超えると、特に電子部品製造用途において、電子部品の仮留/加工時の配置目的でシリコーンゲル層を使用する場合には、不経済となることがある。また、当該硬化反応性シリコーンゲルの外観は特に制限されるものではないが、電子部品の処理やダイシング(個片化)を行う場合には、透明乃至半透明であることが好ましく、後述するシリコーンゲルは色材等を添加しない限り、ほぼ透明乃至半透明なゲルおよび硬化物を形成する。
【0015】
シリコーンゲルは、架橋密度の比較的低いオルガノポリシロキサン架橋物であり、ゲルに求められる柔軟性、低弾性率、低応力および応力緩衝性の見地から、シリコーンゲル層の損失係数tanδ(粘弾性測定装置より、周波数 0.1Hzにて測定されるもの)が、23℃~100℃において、0.005~1.00、または0.01~1.00の範囲にあることが好ましく、23℃において0.01~0.95、または0.03~0.95、0.10~0.90の範囲であることがより好ましい。なお、本発明のシリコーンゲル層は50℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは100℃以下において、硬化反応が急激に進行しにくいものであり、上記の温度範囲において、シリコーンゲル層の損失係数tanδが前記範囲を満たすものである。なお、シリコーンゲル層の損失係数tanδは、基材上からシリコーンゲル層を分離するか、原料である硬化性オルガノポリシロキサン組成物を剥離性基材上で一次硬化させるなどの手段により、シリコーンゲル層(シート)を単離することで容易に測定可能である。
【0016】
当該シリコーンゲルは、硬化反応性であり、上記のゲル状の性状および物性から、より保型性が高く、離型性に優れたハードな硬化層に変化することを特徴とする。より具体的には、硬化反応により得られるシリコーンゲルの硬化物の貯蔵弾性率G’curedが、硬化前のシリコーンゲルの貯蔵弾性率G’gelに比べて25%以上上昇してもよく、50%以上上昇することが好ましく、100%以上、150%以上、200%以上または300%以上上昇することがより好ましい。すなわち、G’cured/G’gelが大きな値を示すほど、ソフトで柔軟なゲル状物が、より保型性の高いハードな硬化物に変化することを意味している。なお、硬化前のシリコーンゲルが比較的硬い物性を呈する場合、硬化前後における、貯蔵弾性率の変位は相対的に小さくなっても良い。
【0017】
当該シリコーンゲルの硬化反応機構は、特に限定されるものではないが、例えば、アルケニル基とケイ素原子結合水素原子によるヒドロシリル化反応硬化型;シラノール基および/またはケイ素原子結合アルコキシ基による脱水縮合反応硬化型、脱アルコール縮合反応硬化型;有機過酸化物の使用による過酸化物硬化反応型;およびメルカプト基等に対する高エネルギー線照射によるラジカル反応硬化型等が挙げられ、比較的速やかに全体が硬化し、反応を容易にコントロールできることから、ヒドロシリル化反応硬化型、過酸化物硬化反応型、ラジカル反応硬化型およびこれらの組み合わせであることが望ましい。これらの硬化反応は、加熱、高エネルギー線の照射またはこれらの組み合わせに対して進行する。
【0018】
加熱により、当該シリコーンゲルを硬化させる場合、100℃を超える温度、好ましくは120℃を超える温度、より好ましくは150℃以上、最も好ましくは170℃以上での加熱による硬化反応により、全体を硬化させる工程を少なくとも含む。なお、150℃以上での加熱は、特に、当該シリコーンゲルの硬化反応機構が、過酸化物硬化反応型の機構またはカプセル化したヒドロシリル化反応触媒を含む硬化反応機構の場合に、特に好適に採用される。実用上、120℃~200℃または150~180℃の範囲が好適に選択される。50℃~100℃の比較的低温で加熱硬化させることも可能であるが、本発明の積層体に係るシリコーンゲル層は、低温ではゲル状を維持することが好ましいので、特に、50℃以下の加熱では硬化反応が実質的に進行しない、すなわち、ゲル状を維持し続けることが好ましい。
【0019】
高エネルギー線(活性エネルギー線とも言われる)としては、紫外線、電子線、放射線等が挙げられるが、実用性の点で紫外線が好ましい。紫外線発生源としては高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、Xe-Hgランプ、ディープUVランプ等が好適であり、特に、波長280~400nm、好適には波長350~400nmの紫外線照射が好ましい。その際の照射量は、100~10000mJ/cm2が好ましい。なお、高エネルギー線によりシリコーンゲルを硬化させる場合には、上記の温度条件によらず、選択的な硬化反応が可能である。
【0020】
実用上、本発明の硬化反応性のシリコーンゲルを硬化させる上で好ましい硬化操作、硬化反応機構およびその条件は以下のとおりである。なお、加熱時間ないし紫外線の照射量は、シリコーンゲルの厚み、目的とする硬化後の物性等に応じ、適宜選択することができる。
(i)120~200℃でのシリコーンゲルの加熱操作:ヒドロシリル化反応硬化型、過酸化物硬化反応型、またはそれらの組み合わせ
(ii)シリコーンゲルへの紫外線の照射操作:高エネルギー線照射によるラジカル反応硬化型、光活性型白金錯体硬化触媒を用いたヒドロシリル化反応硬化型、またはそれらの組み合わせ
(iii)上記の(i)および(ii)の硬化操作、硬化機構および条件の組み合わせ、特に同時または時差をおいての硬化操作の組み合わせを含む。
【0021】
硬化反応性のシリコーンゲルは、硬化性シリコーン組成物のゲル状硬化物(一次硬化反応)として得られる。ここで、当該シリコーンゲル層を構成するシリコーン架橋物中には、未反応の硬化反応性の官能基または未反応の有機過酸化物が存在しており、上記の硬化操作によりさらに硬化反応(二次硬化反応)が進行して、より架橋密度の高い、ハードな硬化物が形成される。なお、硬化性シリコーン組成物を出発物質とすると、一次硬化反応により、本発明の構成要件である硬化反応性のシリコーンゲルが得られ、さらに、二次硬化反応により、シリコーンゲルはよりハードな硬化物へと変化する。なお、過酸化物硬化反応を含む硬化反応においては、アルキル基等、他の硬化反応機構では硬化反応性ではない官能基であってもシリコーンゲルを硬化することができる。
【0022】
硬化性シリコーン組成物からシリコーンゲルを形成する一次硬化反応機構は、特に限定されるものではなく、例えば、アルケニル基とケイ素原子結合水素原子によるヒドロシリル化反応硬化型;シラノール基および/またはケイ素原子結合アルコキシ基による脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型;有機過酸化物の使用による過酸化物硬化反応型;およびメルカプト基等に対する高エネルギー線照射によるラジカル反応硬化型;光活性型白金錯体硬化触媒等を用いた高エネルギー線照射によるヒドロシリル化反応硬化型等が挙げられる。なお、シリコーンゲルの(二次)硬化反応機構と、シリコーンゲルを形成する際の一次硬化反応の機構は同一であっても異なってもよい。例えば、加熱操作を行わない脱水縮合反応、脱アルコール縮合反応または高エネルギー線照射によりシリコーンゲル層を基材上に形成させた後、当該シリコーンゲル層を高温で加熱することにより、シリコーンゲル層を硬化させてもよい。なお、硬化性シリコーン組成物からシリコーンゲルを得る一次硬化反応と、当該シリコーンゲルをさらに硬化する二次硬化反応として同一の硬化機構を選択する場合過酸化物硬化反応型を除き、硬化性シリコーン組成物を一次硬化してなるシリコーンゲル中には、未反応の硬化性反応基および硬化剤が残っていることが必要である。
【0023】
上記のとおり、シリコーンゲルは硬化反応性であるので、ヒドロシリル化反応触媒、有機過酸化物および光重合開始剤から選ばれる1種類以上の硬化剤を含有することが好ましい。これらの硬化剤はカプセル化されていてもよく、特に、シリコーンゲル層の保存安定性およびその硬化反応のコントロールの見地から、カプセル化された硬化剤、特に、ヒドロシリル化反応触媒を好適に用いることができる。さらに、紫外線等の高エネルギー線照射によりヒドロシリル化反応を促進する光活性型白金錯体硬化触媒等のヒドロシリル化反応触媒を用いてもよい。
【0024】
これらの硬化剤は、硬化性シリコーン組成物を一次硬化することにより、硬化反応性のシリコーンゲルを形成する際に、一次硬化後も硬化剤としてシリコーンゲル中に残留するようにその量を設計する、または、一次硬化反応とシリコーンゲル形成後の二次硬化反応が異なる硬化反応となるように条件を選択し、各々に対応した硬化剤を添加しておくこと等により、シリコーンゲル中に未反応の状態で残留させることができる。
【0025】
ヒドロシリル化反応用触媒としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒が例示され、本組成物の硬化を著しく促進できることから白金系触媒が好ましい。この白金系触媒としては、白金微粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-アルケニルシロキサン錯体、白金-オレフィン錯体、白金-カルボニル錯体、およびこれらの白金系触媒を、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した触媒が例示され、特に、白金-アルケニルシロキサン錯体が好ましい。このアルケニルシロキサンとしては、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのメチル基の一部をエチル基、フェニル基等で置換したアルケニルシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのビニル基をアリル基、ヘキセニル基等で置換したアルケニルシロキサンが例示される。特に、この白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性が良好であることから、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンであることが好ましい。なお、ヒドロシリル化反応を促進する触媒としては、鉄、ルテニウム、鉄/コバルトなどの非白金系金属触媒を用いてもよい。
【0026】
加えて、本発明の硬化反応性シリコーンゲルは、熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した微粒子状の白金含有ヒドロシリル化反応触媒を用いてもよい。このようなカプセル化した硬化剤を用いることにより、従来の取扱作業性および組成物のポットライフの改善という利点に加え、硬化反応性シリコーンゲルの保存安定性の改善およびその硬化反応の温度によるコントロールという利点が得られる。すなわち、一次硬化反応によるシリコーンゲル形成時には、当該カプセルを形成するワックス等の熱可塑性樹脂(硬化剤を内包するカプセルの壁材)が溶融しない温度条件を選択することで、カプセル化した硬化剤を未反応かつ不活性な状態でシリコーンゲル中に残存させることができる。これにより、硬化剤を含むシリコーンゲル層の保存安定性の改善が期待できる。さらに、シリコーンゲルの硬化反応(二次硬化反応)においてはカプセルを形成する熱可塑性樹脂の溶融温度をこえる高温条件を選択することで、カプセル内の硬化剤の反応活性を特定の高温条件でのみ選択的に発現させることができる。これにより、シリコーンゲルの硬化反応を容易にコントロールすることが可能である。なお、このようなワックス等の熱可塑性樹脂(硬化剤を内包するカプセルの壁材)は、シリコーンゲルを形成させる温度条件や、硬化反応性シリコーンゲルを硬化させる際の温度条件に応じて適宜選択することができ、硬化剤は白金含有ヒドロシリル化反応触媒に限られない。
【0027】
本発明においては、加熱以外、紫外線等の高エネルギー線照射によりヒドロシリル化反応を促進する光活性型白金錯体硬化触媒等のヒドロシリル化反応触媒を用いてもよい。このようなヒドロシリル化反応触媒は、β-ジケトン白金錯体又は環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体が好適に例示され、トリメチル(アセチルアセトナト)白金錯体、トリメチル(2,4-ペンタンジオネ-ト)白金錯体、トリメチル(3,5-ヘプタンジオネート)白金錯体、トリメチル(メチルアセトアセテート)白金錯体、ビス(2,4-ペンタンジオナト)白金錯体、ビス(2,4-へキサンジオナト)白金錯体、ビス(2,4-へプタンジオナト)白金錯体、ビス(3,5-ヘプタンジオナト)白金錯体、ビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオナト)白金錯体、ビス(1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオナト)白金錯体、(1,5-シクロオクタジエニル)ジメチル白金錯体、(1,5-シクロオクタジエニル)ジフェニル白金錯体、(1,5-シクロオクタジエニル)ジプロピル白金錯体、(2,5-ノルボラジエン)ジメチル白金錯体、(2,5-ノルボラジエン)ジフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)ジエチル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)ジフェニル白金錯体、(メチルシクロオクタ-1,5-ジエニル)ジエチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)エチルジメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)アセチルジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリヘキシル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリヘキシル白金錯体、(ジメチルフェニルシリルシクロペンタジエニル)トリフェニル白金錯体、及び(シクロペンタジエニル)ジメチルトリメチルシリルメチル白金錯体からなる群から選ばれる白金錯体が具体的に例示される。
【0028】
上記の高エネルギー線照射によりヒドロシリル化反応を促進する硬化剤を用いた場合、加熱操作を行うことなく、硬化性シリコーン組成物を原料として、一次硬化反応によるシリコーンゲルの形成または二次硬化によるシリコーンゲルの硬化反応を進行させることができる。
【0029】
ヒドロシリル化反応用触媒の含有量は、シリコーンゲル全体を100質量部としたとき、金属原子が質量単位で0.01~500ppmの範囲内となる量、0.01~100ppmの範囲内となる量、あるいは、0.01~50ppmの範囲内となる量であることが好ましい。
【0030】
有機過酸化物としては、過酸化アルキル類、過酸化ジアシル類、過酸化エステル類、および過酸化カーボネート類が例示される。特に、高温選択的に硬化反応性シリコーンゲル層の硬化を進行させる場合、当該有機過酸化物の10時間半減期温度が70℃以上であることが好ましく、90℃以上であってよい。なお、シリコーンゲルを形成する一次硬化反応において、高エネルギー線照射を選択する場合には、当該一次硬化により失活しない有機過酸化物を選択することが好ましい。
【0031】
過酸化アルキル類としては、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、tert-ブチルクミル、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリパーオキソナンが例示される。
【0032】
過酸化ジアシル類としては、p-メチルベンゾニルパーオキサイド等のベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイドが例示される。
【0033】
過酸化エステル類としては、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-アミルパーオキシル-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、ジ-tert-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、tert-アミルパーオキシ-3,5,5―トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5―トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-ブチルパーオキシトリメチルアディペートが例示される。
【0034】
過酸化カーボネート類としては、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネートが例示される。
【0035】
この有機過酸化物は、その半減期が10時間である温度が70℃以上であるものが好ましく、90℃以上あるいは95℃以上であってもよい。このような有機過酸化物としては、p-メチルベンゾニルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ-(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリパーオキソナンが例示される。
【0036】
有機過酸化物の含有量は限定されないが、シリコーンゲル全体を100質量部としたとき、0.05~10質量部の範囲内、あるいは0.10~5.0質量部の範囲内であることが好ましい。
【0037】
光重合開始剤は紫外線や電子線などの高エネルギー線照射によりラジカルを発生する成分であり、例えば、アセトフェノン、ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、tert-ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノンおよびその誘導体;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル等のベンゾインおよびその誘導体;ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ジクロロベンゾフェノン、p,p’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノンおよびその誘導体;p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン、アゾイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ジフェニルスルファイド、アントラセン、1-クロロアントラキノン、ジフェニルジスルファイド、ジアセチル、ヘキサクロロブタジエン、ペンタクロロブタジエン、オクタクロロブタジエン、1-クロロメチルナフタリンが挙げられ、好ましくは、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾフェノン、およびこれらの誘導体である。
【0038】
この光重合開始剤の配合量は特に限定されないが、好ましくは、シリコーンゲル全体を100質量部に対して、0.1~10質量部の範囲内である。
【0039】
なお、シリコーンゲルが硬化剤として光重合開始剤を含有する場合、当該シリコーンゲル中には、その他任意の成分として、例えば、n-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、トリ-n-ブチルホスフィン、アリルチオ尿素、s-ベンジルイソチウロニウム-p-トルエンスルフィネート、トリエチルアミン、ジエチルアミノエチルメタクリレート等の光増感剤を含んでいてもよい。
【0040】
本発明に係るシリコーンゲルは、上記の硬化反応性を有するシリコーンゲルである限り、特にその原料となる硬化性シリコーン組成物の組成や一次硬化条件において制約されるものではないが、シリコーンゲル層を形成した後の室温~100℃における保存安定性が良好でゲル状を維持し、かつ、高エネルギー線の照射または100℃以上、好適には120℃以上、さらに好適には150℃以上の加熱により、選択的に二次硬化反応が進行し、かつそのコントロールが容易であることが好ましい。このため、特に高温選択的にシリコーンゲル層の硬化反応が進行するように設計する場合、その原料となる硬化性シリコーン組成物を、室温~100℃の温度範囲、すなわち、比較的低温においてゲル状に硬化させることが好ましい。特に、シリコーンゲルを形成した後の二次硬化反応として、ヒドロシリル化硬化反応または有機過酸化物による硬化反応を含む硬化機構を選択した場合、100℃以下の低温ではこれらの硬化反応が十分に進行しないので、前記の温度範囲における一次硬化反応で形成されたシリコーンゲル内には硬化反応性官能基または硬化剤が未反応で残存し、高温選択的に硬化可能な硬化反応性シリコーンゲル層を容易に得られる利点がある。
【0041】
このような硬化反応性シリコーンゲル層は、特に一次硬化反応としてヒドロシリル化反応を選択した場合、少なくとも樹脂状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンを含有する硬化性シリコーン組成物をゲル状に硬化させてなるものが好ましく、特に、一分子中に、少なくとも2個のアルケニル基を有する樹脂状のオルガノポリシロキサンを含有する硬化性シリコーン組成物をゲル状に硬化させてなることが好ましい。なお、樹脂状または分岐鎖状の硬化反応性オルガノポリシロキサンは、SiO4/2で表される四官能性シロキシ単位またはRSiO3/2(Rは一価有機基または水酸基)で表される三官能性シロキシ単位を含有するオルガノポリシロキサンであって、一次硬化反応によりシリコーンゲルを形成可能な硬化反応性の官能基を有するものである。
【0042】
[基材]
シリコーンゲル層を積層する基材は凹凸があってよく、シリコーンゲル層により当該凹凸が隙間なく充填乃至追従され、平坦なシリコーンゲル層を形成していることが特に好ましい。本発明の硬化反応性シリコーンゲル層は柔軟で変形性、追従性に優れるため、凹凸のある基材に対しても間隙を生じにくく、乖離やシリコーンゲル表面の変形などの問題を生じにくいという利点がある。シリコーンゲル層を積層する目的は特に制限されるものではないが、基材が電子部品である場合、当該シリコーンゲル層の積層箇所を各種処理から選択的に保護できるほか、柔軟なシリコーンゲル層により物理的な衝撃・振動からの保護等を図ってもよい。
【0043】
本発明に用いる基材は、特に限定されるものではなく、所望の基材を適宜選択してよいが、特に電子部品またはその前駆体であることが好ましい。その材質は、例えば、ガラス、陶磁器、モルタル、コンクリート、木、アルミニウム、銅、黄銅、亜鉛、銀、ステンレススチール、鉄、トタン、ブリキ、ニッケルメッキ表面、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などからなる被着体または基体が例示される。また、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性樹脂からなる被着体または基体が例示される。これらは剛直な板状であっても、柔軟なシート状であってもよい。また、ダイシングテープ等の基材に用いられるような伸張性のあるフィルム状乃至シート状基材であってもよい。
【0044】
本発明に用いる基材には、硬化反応性シリコーンゲル層との密着性及び接着性を改善する目的で、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理等の表面処理がなされていてもよい。これにより、硬化反応性シリコーンゲル層が硬化して、保型性と離型性に優れた硬化物層を形成し、低粘着化した後であっても、当該硬化物層と基材間の密着力を十分に高く保ち、当該硬化層上に配置した電子部品等の分離をより容易にすることが可能となる。
【0045】
一方、本発明の積層体を電子部品の製造に用いる場合、基材は電子部品またはその前駆体であることが好ましい。具体的には、半導体素子、当該製造過程で電子部品を少なくとも一時的に配置する台座、積層用途の半導体ウェハ、セラミックス素子(セラミックコンデンサ含む)、電子回路用途の基板として利用可能な基材等が例示され、これらは後にダイシングにより個片化されるものであってもよい。特に半導体素子、電子部品加工用の台座、回路基板、半導体基板または半導体ウェハとして利用可能な基材であることが好ましい。
【0046】
これらの基材の材質については特に制限されるものではないが、回路基板等として好適に用いられる部材として、ガラスエポキシ樹脂,ベークライト樹脂,フェノール樹脂等の有機樹脂;アルミナ等のセラミックス;銅,アルミニウム等の金属、半導体用途のシリコンウェハ等の材質が例示される。さらに、当該基材を電子部品、特に半導体素子や回路基板として用いる場合、その表面には銅,銀一パラジウム等の材質からなる導線が印刷されていてもよい。本発明の硬化反応性シリコーンゲルはこれらの半導体素子や回路基板の表面の凹凸についても間隙なく充填乃至追従し、平坦なシリコーンゲル表面を形成できる利点がある。また、当該シリコーンゲルを形成した面は、物理的衝撃や各種処理から選択的に保護されうる。
【0047】
[電子部品]
本発明の積層体は、上記の通り、基材として1個以上の電子部品を有することが好ましい。電子部品は、特にその種類は制限されるものではないが、半導体チップの素体となる半導体ウェハ、セラミックス素子(セラミックコンデンサ含む)、半導体チップおよび発光半導体チップが例示され、同一または異なる2個以上の電子部品の上に硬化反応性のシリコーンゲル層が配置されたものであってもよい。本発明の積層体における硬化反応性シリコーンゲル層は、ゲル状であり、かつ、硬化条件を選択可能なので、ある程度高温となる温度領域で取り扱った場合であっても、硬化反応が殆ど進行せず、適度に柔軟かつ追従性・変形性に優れるため、安定かつ平坦な面を形成することができ、さらに、当該シリコーンゲルが積層面を各種処理から選択的に保護するほか、電子部品の製造工程における振動や衝撃を緩和するため、当該シリコーンゲルを積層した電子部品を定位置に安定的に保持し、電子部品に対して各種パターン形成等の処理およびダイシング等の加工処理を行った場合であっても、基材の表面凹凸や電子部品の位置ずれ、振動変位(ダンピング)に伴う電子部品の加工不良が発生しにくいという利点を有する。なお、ゲルによる電子部品等の保持は、ゲルの粘弾性に由来するものであり、ゲル自体の弱い粘着力によるものと、ゲルの変形による電子部品の担持の両方を含む。
【0048】
[電子部品への処理]
これらの電子部品は、積層体を形成する前に化学的または物理的な処理が行われていてもよく、電子部品にシリコーンゲルを積層した後に、上記処理を行うものであっても良い。電子部品のうち、シリコーンゲルを積層した箇所は、これらの処理から選択的に保護されうるため、所望とする化学的または物理的処理を、電子部品の特定箇所のみに施すことが可能である。特に、本発明では、シリコーンゲルが局所的、ピンポイントであっても、効率よくその硬化物を分離できるため、電子部品の選択的な保護に特に有用である。これらの電子部品への処理は、少なくとも部分的に電子回路または電極パターン、導電膜、絶縁膜等を形成する事が含まれるが、これらに限定されるものではない。上記処理にあたっては、従来公知の手段を特に制限なく用いることができ、真空蒸着法、スパッタ法、電気めっき法、化学めっき法(無電解めっき法含む)、エッチング法、印刷工法またはリフトオフ法に形成されていてもよい。本発明の積層体を電子部品の製造に用いる場合、硬化反応性シリコーンゲルを積層した上で、電子部品の電子回路、電極パターン、導電膜、絶縁膜等を形成することが特に好ましく、任意で当該積層体を個片化(ダイシング)してもよい。上記のとおり、シリコーンゲル層を用いることで、これらの電子部品の加工不良が抑制される。なお、処理に当たっては、基材である電子部品とシリコーンゲル層の上下左右関係は所望により選択することができる。
【0049】
上記のシリコーンゲルは硬化により、保型性、硬質性および表面離型性に優れた硬化層を形成するので、上記の電子部品を基材とする積層体において、当該硬化層を電子部品から容易に分離することができ、かつ、シリコーンゲルに由来する残留物(糊残り)等の異物が電子部品に付着しにくく、不良品が発生しにくいという利点がある。その際、次に述べるシート状基材との接合体を形成していることが、当該硬化物の迅速、簡便かつ確実な分離を可能にするものである。
【0050】
[シート状部材]
シート状部材は、少なくとも部分的に接着層を備えており、前記の硬化反応性シリコーンゲル上に、接着層を介して積層されることを特徴とする。当該接着層を介してシリコーンゲルと密着していることで、特に硬化反応性シリコーンゲルが硬化物を形成する際に、シート状部材と当該硬化物は接合体を形成し、実質的に一体として基材上から分離することができる。硬化反応性シリコーンゲルを硬化してなる硬化物は、分離に用いる機械装置の種類により、破損の問題や剥離工程の複雑化といった問題の原因になりうるものであるが、シート状部材と一体化したシリコーンゲルの硬化物は、局所的乃至ピンポイントであっても容易に分離でき、かつ、簡便、迅速かつ確実に基材上から分離することができ、特に工業的生産工程において、作業時間の短縮および工数の削減という著しい優位性を実現する。
【0051】
接着層を備えたシート状部材は、いわゆる「接着フィルム」や「接着シート」といわれる部材が特に制限なく用いることができ、実質的に平坦であり、テープ、フィルム等の用途に応じて適度な幅と厚みを持った基材を特に制限なく使用することができる。具体的には、紙,合成樹脂フィルム,布,合成繊維,金属箔(アルミニウム箔、銅箔など),ガラス繊維およびこれらのうちの複数のシート状基材を積層してなる複合型のシート状基材が挙げられる。特に、合成樹脂フィルムであることが好ましく、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどの合成樹脂フィルムを例示することができる。その厚さは特に制限されないが、通常5~300μm程度である。
【0052】
当該合成樹脂フィルム等には、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理等の表面処理がなされていてもよい。これにより、次に述べる接着層とシート状部材の密着性および一体性が改善される。
【0053】
シート状部材の接着層は、その種類において特に制限されるものではないが、硬化反応性シリコーンゲルの硬化物と接合体を形成し、一体として分離することが目的であることから、付着対象から分離しようとした際に、接着層の破壊モードが凝集破壊となるような強固な接着を形成する事が好ましく、いわゆる付着面で界面剥離を起こす粘着性物質よりも、強い接着性物質であることが好ましい。
【0054】
このような接着物質(接着剤)としては、イソシアネート系、ポリビニルアルコール系、ゼラチン系、ビニル型ラテックス系、水性ポリエステル系、天然ゴム系、合成ゴム系、アクリル樹脂系、シリコーン系、ウレタン系、ビニルアルキルエーテル系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルピロリドン系、ポリアクリルアミド系、セルロース系等の接着性高分子を利用することができる。これらの接着剤は特定の接着条件により、硬化反応性シリコーンゲルの硬化物に対して強固に接着し、シート状基材と当該硬化物の接合体を形成する。
【0055】
特に、本発明においては、硬化反応性シリコーンゲルの硬化物との接合体形成の見地から、シリコーン系の接着層を用いることが好ましい。当該シリコーン系の接着層は、上記の硬化反応性シリコーンゲルと同一又は異なる硬化機構により硬化可能であってよく、例えば、過酸化物硬化反応性のシリコーンゲルに、同じく過酸化硬化反応性のシリコーン系接着層を介して上記のシート状部材を積層させ、両者を一体として加熱することで過酸化硬化反応を進行させ、シリコーンゲルの硬化物と接着層が強固に接合し、シート状部材とシリコーンゲルの硬化物が一体化した硬化反応物を得ることができる。なお、両者の反応機構は所望とする積層体乃至基材の処理方法に応じて適宜選択可能であることは言うまでもない。
【0056】
特に好適には、ヒドロシリル化反応硬化性のシリコーン系接着剤、過酸化物硬化性のシリコーン系接着剤、および高エネルギー線硬化性のシリコーン系接着剤が例示され、これらから選ばれる2種類以上の硬化機構により硬化するシリコーン系接着剤であってもよい。
【0057】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体は、基材上にシリコーンゲル、および接着層を介してシート状部材を積層してなるものであり、所望により、シリコーンゲルの原料組成物である硬化性シリコーン組成物を目的となる基材上に塗布してゲル状に硬化させることで製造可能である。同様に、シリコーンゲルは、所望の剥離層を備えたシート状基材上に形成させ、剥離層からシリコーンゲル層を分離し、他の基材上に転写し、さらに、接着層を介してシート状部材を積層することによっても製造可能である。シリコーンゲルの積層は、基材の全面でも局所的であっても行うことができ、ピンポイントでの基材保護も可能である。
【0058】
すなわち、本発明の積層体は少なくとも1種の基材上に、一次硬化反応によりシリコーンゲル層を形成可能な硬化性シリコーン組成物を塗布する工程(A-1)、
および、基材上で当該硬化性シリコーン組成物をゲル状に一次硬化させることにより、硬化反応性シリコーンゲル層を形成する工程(A-2)、および
硬化反応性シリコーンゲル層に接着層を介してシート状部材を積層する工程(A-3)
を有する製造方法により得ることができる。
【0059】
同様に、本発明の積層体は、剥離層を備えたシート状基材(基材R)の剥離層上に、一次硬化反応によりシリコーンゲル層を形成可能な硬化性シリコーン組成物を塗布する工程(B-1)、
剥離層上で当該硬化性シリコーン組成物をゲル状に一次硬化させることにより、硬化反応性シリコーンゲル層を形成する工程(B-2)、
前記工程で得た積層体のシリコーンゲル層を、上記の基材Rとは異なる、少なくとも1種類の基材上に配置し、基材Rのみを除去する工程(B-3)、および
硬化反応性シリコーンゲル層に接着層を介してシート状部材を積層する工程(B-4)
を有する製造方法により得ることができる。なお、この場合、積層体のシリコーンゲル層であって、上記の基材Rとは異なる、少なくとも1種類の基材に対向する面には、その密着性及び接着性を改善する目的で、基材と対向するシリコーンゲル面に、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理等の表面処理がなされていてもよく、かつ好ましい。当該密着性の改善により、基材Rを容易に分離できる利点がある。
【0060】
上記の剥離層を備えたシート状基材(基材R)に硬化反応性のシリコーンゲル層を形成させ、後に剥離層から分離してシート状の部材として取り扱う場合、以下の方法により、均一な表面を有するシリコーンゲル層を形成させてもよい。
【0061】
[剥離層を有するセパレータ間での硬化を用いた製法]
硬化反応性のシリコーンゲル層は実質的に平坦であることが好ましいが、その原料となる硬化性シリコーン組成物を、通常の方法で剥離層を有する基材上に塗布すると、特に硬化後のシリコーンゲル層の厚みが50μm以上となる場合には、その塗布面が凹んだ不均一な表面を形成して、得られるシリコーンゲル層表面が不均一となる場合がある。しかしながら、当該硬化性シリコーン組成物およびシリコーンゲル層に対して剥離層を有する基材を適用し、未硬化の塗布面を各々の剥離層を備えたシート状基材(上記の基材R;セパレータ)で挟み込み、物理的に均一化された平坦化層を形成することで、平坦化された硬化反応性のシリコーンゲル層を得ることができる。なお、上記の平坦化層の形成にあたっては、剥離層を有するセパレータ間に未硬化の硬化性シリコーン組成物が塗布されてなる積層体を、ロール圧延等の公知の圧延方法を用いて圧延加工することが好ましい。
【0062】
[硬化性シリコーン組成物]
本発明の積層体を構成する硬化反応性シリコーンゲル層は、硬化性シリコーン組成物をゲル状に一次硬化させてなるものである。上記のとおり、シリコーンゲル層を形成するための一次硬化反応は、シリコーンゲル自体の二次硬化反応と異なる硬化反応機構であってもよく、同一の硬化反応機構であってもよい。一方、100℃以下でのシリコーンゲル層の安定性の見地から、硬化性シリコーン組成物を室温~100℃の温度範囲においてゲル状に硬化させることが好ましい。
【0063】
このような、硬化性シリコーン組成物は、好適には、(A)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサンおよび(C)硬化剤を含有し、任意で(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有する。特に、一次硬化反応または二次硬化反応がヒドロシリル化反応硬化型の反応機構である場合、上記の(A)成分は、(A-1)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン、および(A-2)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する、樹脂状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンの混合物であることが好ましく、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)硬化剤を含有してなるものである。ここで、硬化反応性基は特に限定されるものではないが、アルケニル基またはメルカプト基等の光重合性官能基が例示される。
【0064】
上記の硬化性シリコーン組成物は、一次硬化機構に応じて、アルケニル基とケイ素原子結合水素原子によるヒドロシリル化反応硬化型;シラノール基および/またはアルコキシシリル基等のケイ素原子結合アルコキシ基による脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型;有機過酸化物の使用による過酸化物硬化反応型;およびメルカプト基等に対する高エネルギー線照射によるラジカル反応硬化型;光活性型白金錯体硬化触媒等を用いた高エネルギー線照射によるヒドロシリル化反応硬化型等の硬化反応により硬化反応性シリコーンゲルを形成する。なお、過酸化物硬化反応を選択した場合、アルキル基等、他の硬化反応機構では硬化反応性ではない官能基であってゲル状に硬化することができる場合がある。
【0065】
一次硬化反応がヒドロシリル化硬化反応である場合、上記の硬化反応性基は少なくともアルケニル基を含み、特に炭素数2~10のアルケニル基を含む。炭素数2~10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、及びヘキセニル基が挙げられる。好ましくは、炭素数2~10のアルケニル基は、ビニル基である。
【0066】
同様に、一次硬化反応がヒドロシリル化硬化反応である場合、硬化性シリコーン組成物は、架橋剤としてSi-H結合を分子中に2以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含むことが好ましい。この場合において、オルガノポリシロキサンのアルケニル基がオルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子とヒドロシリル化反応して、硬化反応性シリコーンゲル層を形成することができる。その際には、上記同様のヒドロシリル化反応触媒を用いることが必要である。
【0067】
上記のとおり、本発明の一次硬化反応は100℃以下、好適には80℃以下で行うことが好ましい。一次硬化反応がヒドロシリル化硬化反応である場合、光活性型白金錯体硬化触媒等を用いた高エネルギー線照射を行ってもよく、低温で当該硬化反応を十分に進行させず、架橋密度の低いゲル状の硬化物を形成させてもよい
【0068】
脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型である場合、上記の硬化反応性基はシラノール基(Si-OH)またはケイ素原子結合アルコキシ基であり、アルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素原子数1~10のアルコキシ基が好適に例示される。当該アルコキシ基は、オルガノポリシロキサンの側鎖または末端に結合してもよく、他の官能基を介してケイ素原子に結合したアルキルアルコキシシリル基またはアルコキシシリル基含有基の形態であってもよく、かつ好ましい。さらに、当該硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサンは、脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型の官能基のほか、他の硬化機構による硬化反応性基を同一分子内に有していてもよい。たとえば、ケイ素原子結合アルコキシ基またはシラノール基に加えて、ヒドロシリル化反応性の官能基または光重合性の官能基を同一分子内に有してもよい。なお、過酸化物硬化反応においては、特に硬化反応性の官能基は不要であるので、有機過酸化物を含む脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型の硬化性シリコーン組成物を用いて、縮合反応によりゲル状の硬化層を形成させた後、当該ゲル層を加熱等により有機過酸化物で二次硬化させることは本発明の好適な形態の一つである。
【0069】
特に、硬化反応性基としてケイ素原子結合アルコキシ基を選択する場合、当該硬化反応性基は、ケイ素原子結合の一般式:
【化1】
で表されるアルコキシシリル基含有基が好適に例示される。
上式中、R
1は同じかまたは異なる、脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基であり、メチル基またはフェニル基が好ましい。R
2はアルキル基であり、脱アルコール縮合反応性のアルコキシ基を構成するため、メチル基、エチル基またはプロピル基であることが好ましい。R
3はケイ素原子に結合するアルキレン基であり、炭素原子数2~8のアルキレン基が好ましい。aは0~2の整数であり、pは1~50の整数である。脱アルコール縮合反応性の見地から、最も好適には、aは0であり、トリアルコキシシリル基含有基であることが好ましい。なお、上記のアルコキシシリル基含有基に加えて、ヒドロシリル化反応性の官能基または光重合反応性の官能基を同一分子内に有してもよい。
【0070】
一次硬化反応が脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型である場合、上記の架橋剤は不要であるが、二次硬化反応を進行させるためにオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含んでいてもよい。
【0071】
脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型である場合、硬化剤として、縮合反応触媒を用いることが好ましい。このような縮合反応触媒は特に制限されるものではないが、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクテン酸錫、ジブチル錫ジオクテート、ラウリン酸錫等の有機錫化合物;テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、ジブトキシビス(エチルアセトアセテート)等の有機チタン化合物;その他、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の酸性化合物;アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン(DBU)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等のアミン系化合物が例示される。
【0072】
一次硬化反応が過酸化物硬化反応である場合には、上記の硬化反応性基は過酸化物によるラジカル反応性の官能基であればよく、アルキル基、アルケニル基、アクリル基、ヒドロキシル基等の過酸化物硬化反応性官能基を制限なく用いることができる。ただし、上記のとおり、過酸化物硬化反応は一般に150℃以上の高温で進行するため、本発明の積層体においては、過酸化物硬化反応はシリコーンゲル層の硬化、すなわち、二次硬化反応に選択されることが好ましい。高エネルギー線硬化反応性の官能基を含め、過酸化物硬化反応が進行する温度条件下では、大部分の硬化反応性官能基による硬化反応が完全に終結し、ゲル状の硬化物層が得られなくなる場合があるためである。なお、一部の有機過酸化物は高エネルギー線照射により失活する場合があるので、一次硬化反応に応じて、有機過酸化物の種類および量を適宜選択することが好ましい。
【0073】
一次硬化反応が高エネルギー線照射によるラジカル反応硬化型である場合、硬化反応性官能基は、光重合性官能基であり、3-メルカプトプロピル基等のメルカプトアルキル基および上記同様のアルケニル基、またはN-メチルアクリルアミドプロピル等のアクリルアミド基である。ここで、高エネルギー線照射を照射する条件は特に限定されず、例えば、空気中、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中または真空中でこの組成物を室温下または冷却もしくは50~150℃に加熱しながら照射する方法が挙げられ、特に空気中かつ室温下で照射することが好ましい。また、一部の光重合性官能基は空気に接触することで硬化不良を起こすことがあるので、高エネルギー線照射の際には、任意で高エネルギー線を透過する合成樹脂フィルム等を用いて硬化性シリコーン組成物の表面を被覆してもよい。ここで、波長280~450nm、好適には波長350~400nmの紫外線を用いて、室温で硬化性シリコーン組成物をゲル状に一次硬化させた場合、硬化反応性シリコーンゲル層に、他の加熱を伴う硬化系、特にヒドロシリル化硬化反応または過酸化物硬化反応の硬化反応性基および硬化剤を未反応で残存させることができるため、二次硬化反応として加熱硬化反応を選択することで、容易に二次硬化反応をコントロールできるという利点がある。
【0074】
硬化反応性シリコーンゲル層は、(A)上記のような硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサン、硬化反応によっては(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、および(C)硬化剤を含有する硬化性シリコーン組成物から形成されるものであるが、本発明のシリコーンゲル層を形成する一次硬化反応またはシリコーンゲル層から硬化層を形成する二次硬化反応のいずれかにヒドロシリル化硬化反応が含まれる場合、当該硬化性シリコーン組成物は、(A-1)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン、および(A-2)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する、樹脂状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンを含むことが好ましい。
【0075】
(A-1)成分は、一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサンである。(A-1)成分の室温における性状はオイル状または生ゴム状であってもよく、(A-1)成分の粘度は25℃において50mPa・s以上、特に100mPa・s以上であることが好ましい。特に、硬化性シリコーン組成物が溶剤型である場合には、(A-1)成分は、25℃において100,000mPa・s以上の粘度を有するか、可塑度を有する生ゴム状であることが好ましい。但し、より低粘度の(A-1)成分であっても、利用可能である。
【0076】
(A-2)成分は、一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する、樹脂状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンであり、特に、一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する樹脂状の硬化反応性オルガノポリシロキサン(オルガノポリシロキサンレジン)の使用が特に好ましい。(A-2)成分は、例えば、R2SiO2/2単位(D単位)及びRSiO3/2単位(T単位)(式中、Rは互いに独立して、一価有機基または水酸基)からなり、分子中に少なくとも2個の硬化反応性基、水酸基または加水分解性基を有するレジン、T単位単独からなり、分子中に少なくとも2個の硬化反応性基、水酸基または加水分解性基を有するレジン、並びにR3SiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなり、分子中に少なくとも2個の硬化反応性基、水酸基または加水分解性基を有するレジンなどを挙げることができる。特に、R3SiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなり、分子中に少なくとも2個の硬化反応性基、水酸基または加水分解性基を有するレジン(MQレジンとも呼ばれる)を使用することが好ましい。なお、水酸基または加水分解性基は、レジン中のT単位またはQ単位などのケイ素に直接結合しており、原料となるシラン由来またはシランが加水分解した結果、生じた基である。
【0077】
(A-1)成分および(A-2)成分の硬化反応性官能基は、同一の硬化反応機構に関する官能基であってもよく、異なる硬化反応機構に関する物であってもよい。また、(A-1)成分および(A-2)成分の硬化反応性官能基は、同一分子内において異なる2種類以上の硬化反応機構に関する官能基であってもよい。たとえば、(A-1)成分または(A-2)成分は、光重合性官能基および/またはヒドロシリル化反応性の官能基と、縮合反応性の官能基を同一分子内に有するオルガノポリシロキサンであってよく、その構造は、(A-1)成分においては直鎖状であり、(A-2)成分においては樹脂状または分岐鎖状である。一次硬化反応または二次硬化反応のいずれかにおいてヒドロシリル化反応を用いる場合には、(A-2)成分を含むことが好ましいが、上記のとおり、(A-2)成分は、異なる2種類以上の硬化反応機構に関する官能基を有する樹脂状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンであってよく、かつ、好ましい。
【0078】
(B)成分はオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、任意の架橋成分または分子鎖延長成分であり、特に、硬化反応性官能基がアルケニル基であり、硬化剤がヒドロシリル化反応触媒を含む場合に、含有することが好ましい。好適には、(B)成分は、Si-H結合を分子中に2以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【0079】
(C)成分は硬化剤であり、上記のヒドロシリル化反応触媒、有機過酸化物および光重合開始剤から選ばれる1種類以上の硬化剤である。
【0080】
本発明の積層体の技術的効果を損なわない範囲において、上記の硬化性シリコーン組成物は、上記成分以外の成分を含むことができる。例えば、硬化遅延剤;接着付与剤;ポリジメチルシロキサンまたはポリジメチルジフェニルシロキサンなどの非反応性のオルガノポリシロキサン;フェノール系、キノン系、アミン系、リン系、ホスファイト系、イオウ系、またはチオエーテル系などの酸化防止剤;トリアゾール系またはベンゾフェノン系などの光安定剤;リン酸エステル系、ハロゲン系、リン系、またはアンチモン系などの難燃剤;カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、または非イオン系界面活性剤などからなる1種類以上の帯電防止剤;染料;顔料;補強性フィラー;熱伝導性フィラー;誘電性フィラー;電気伝導性フィラー;離型性成分などを含むことができる。特に、染料または顔料(着色剤)を配合することにより、硬化反応性シリコーンゲル乃至その硬化物の視認性を改善することもできる。また、着色剤の一部は銅フタロシアニン等のように、他の機能を有する添加剤であってもよい。
【0081】
特に、補強性フィラーは、シリコーンゲルに機械的強度を付与し、チクソ性を改善する成分であり、シリコーンゲル層が二次硬化反応する際の加熱等に対して当該シリコーンゲル層が軟化して保型性の低下あるいは変形することを抑制することができる場合がある。これにより、シリコーンゲル層上に配置された電子部品等がシリコーンゲル層中に埋没したり、硬化層上から電子部品等を分離しにくくなる事態が効率よく抑止される点で有効である。さらに、補強性フィラーの配合により、二次硬化反応後の硬化物の機械的強度、保型性および表面離型性がさらに改善される場合がある。このような補強性フィラーとしては、例えば、ヒュームドシリカ微粉末、沈降性シリカ微粉末、焼成シリカ微粉末、ヒュームド二酸化チタン微粉末、石英微粉末、炭酸カルシウム微粉末、ケイ藻土微粉末、酸化アルミニウム微粉末、水酸化アルミニウム微粉末、酸化亜鉛微粉末、炭酸亜鉛微粉末等の無機質充填剤を挙げることができ、これらの無機質充填剤をメチルトリメトキシシラン等のオルガノアルコキシシラン、トリメチルクロロシラン等のオルガノハロシラン、ヘキサメチルジシラザン等のオルガノシラザン、α,ω-シラノール基封鎖ジメチルシロキサンオリゴマー、α,ω-シラノール基封鎖メチルフェニルシロキサンオリゴマー、α,ω-シラノール基封鎖メチルビニルシロキサンオリゴマー等のシロキサンオリゴマー等の処理剤により表面処理した無機質充填剤を含有してもよい。
【0082】
特に、硬化性シリコーン組成物をゲル状に一次硬化する反応またはシリコーンゲル層を二次硬化する反応のいずれかにおいてヒドロシリル化反応を選択する場合、硬化遅延剤としてヒドロシリル化反応抑制剤を配合することが好ましい。具体的には、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2-フェニル-3-ブチン-2-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のアルケニル基含有低分子量シロキサン;メチル-トリス(1,1-ジメチルプロピニルオキシ)シラン、ビニル-トリス(1,1-ジメチルプロピニルオキシ)シラン等のアルキニルオキシシランが例示される。この硬化遅延剤の含有量は限定されないが、硬化性シリコーン組成物に対して、質量単位で、10~10000ppmの範囲内であることが好ましい。
【0083】
接着付与剤としては、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を一分子中に少なくとも1個有する有機ケイ素化合物が好ましい。このアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基が例示され、特に、メトキシ基が好ましい。また、有機ケイ素化合物中のアルコキシ基以外のケイ素原子に結合する基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基等のハロゲン置換もしくは非置換の一価炭化水素基;3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基等のグリシドキシアルキル基;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基等のエポキシシクロヘキシルアルキル基;3,4-エポキシブチル基、7,8-エポキシオクチル基等のエポキシアルキル基;3-メタクリロキシプロピル基等のアクリル基含有一価有機基;水素原子が例示される。この有機ケイ素化合物は本組成物中のアルケニル基またはケイ素原子結合水素原子と反応し得る基を有することが好ましく、具体的には、ケイ素原子結合水素原子またはアルケニル基を有することが好ましい。また、各種の基材に対して良好な接着性を付与できることから、この有機ケイ素化合物は一分子中に少なくとも1個のエポキシ基含有一価有機基を有するものであることが好ましい。こうした有機ケイ素化合物としては、オルガノシラン化合物、オルガノシロキサンオリゴマー、アルキルシリケートが例示される。このオルガノシロキサンオリゴマーあるいはアルキルシリケートの分子構造としては、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、環状、網状が例示され、特に、直鎖状、分枝鎖状、網状であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン化合物;一分子中にケイ素原子結合アルケニル基もしくはケイ素原子結合水素原子、およびケイ素原子結合アルコキシ基をそれぞれ少なくとも1個ずつ有するシロキサン化合物、ケイ素原子結合アルコキシ基を少なくとも1個有するシラン化合物またはシロキサン化合物と一分子中にケイ素原子結合ヒドロキシ基とケイ素原子結合アルケニル基をそれぞれ少なくとも1個ずつ有するシロキサン化合物との混合物、メチルポリシリケート、エチルポリシリケート、エポキシ基含有エチルポリシリケートが例示される。この接着付与剤は低粘度液状であることが好ましく、その粘度は限定されないが、25℃において1~500mPa・sの範囲内であることが好ましい。また、この接着付与剤の含有量は限定されないが、硬化性シリコーン組成物の合計100質量部に対して0.01~10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0084】
特に好適には、本発明の積層体は、硬化性シリコーン組成物の一次硬化反応又はシリコーンゲル層の二次硬化反応のいずれかにおいて、硬化反応性基としてアルケニル基または光重合性官能基を有し、架橋剤としてオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含み、それらがヒドロシリル化反応触媒により硬化してなることが好ましい。すなわち、本発明に係るシリコーンゲル層は、好適には、(A-1)成分として、一分子中に、少なくとも2個のアルケニル基または光重合性官能基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン、(A-2)成分として、一分子中に、少なくとも2個のアルケニル基または光重合性官能基を有する樹脂状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサン、(B)成分として、一分子中に、少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、および(C)成分として、ヒドロシリル化反応触媒を含有する硬化反応触媒を含有する硬化性シリコーン組成物をゲル状に硬化してなる。なお、(C)成分は、さらに、有機過酸化物を含有していてもよく、上記の硬化反応性官能基が一次硬化反応におけるゲル形成の際に消費されていても、加熱により二次硬化反応が進行する。
【0085】
ここで、組成物中の各成分の含有量は、硬化性シリコーン組成物がゲル状に一次硬化することが可能であり、かつ、一次硬化反応後のシリコーンゲル層が二次硬化反応可能な量である。一次硬化反応がヒドロシリル化硬化反応である場合、組成物中の(A)成分中のアルケニル基の総和を1モルとした場合、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が0.25モル以上であることが好ましく、0.26モル以上がより好ましい。
【0086】
この場合、好適な(A-1)成分は、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルフェニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端メチルビニルフェニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンが例示される。
【0087】
同様に、好適な(A-2)成分は、ヒドロシリル化反応性基および/または高エネルギー線照射または有機過酸化物の存在下で加熱した場合にラジカル反応性基を有する樹脂状オルガノポリシロキサンであり、トリオルガノシロキシ単位(M単位)(オルガノ基はメチル基のみ、メチル基とビニル基またはフェニル基である。)、ジオルガノシロキシ単位(D単位)(オルガノ基はメチル基のみ、メチル基とビニル基またはフェニル基である。)、モノオルガノシロキシ単位(T単位)(オルガノ基はメチル基、ビニル基、またはフェニル基である。)及びシロキシ単位(Q単位)の任意の組み合わせからなるMQ樹脂、MDQ樹脂、MTQ樹脂、MDTQ樹脂、TD樹脂、TQ樹脂、TDQ樹脂が例示される。
【0088】
同様に、好適な(B)成分は、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、およびこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上の混合物が例示される。本発明において、(B)成分は、25℃における粘度が1~500mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体が例示される。なお、(B)成分として樹脂状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンレジンを含んでもよい。
【0089】
同様に、好適な(C)成分は上記のヒドロシリル化反応触媒を含有し、一次硬化反応または二次硬化反応の選択により、有機過酸化物および光重合開始剤から選ばれる1種類以上の硬化剤を含むことが好ましい。
【0090】
硬化反応性のシリコーンゲル層を基材上に形成する際の塗工方法としては、グラビアコート、オフセットコート、オフセットグラビア、オフセット転写ロールコーター等を用いたロールコート、リバースロールコート、エアナイフコート、カーテンフローコーター等を用いたカーテンコート、コンマコート、マイヤーバー、その他公知の硬化層を形成する目的で使用される方法が制限なく使用できる。
【0091】
[好適な一次硬化反応機構および二次硬化反応機構の組み合わせ]
本発明に係るシリコーンゲル層は、硬化性シリコーン組成物をヒドロシリル化反応硬化型、脱水縮合反応硬化型、脱アルコール縮合反応硬化型または高エネルギー線照射によるラジカル反応硬化型の硬化機構によりゲル状に硬化されていることが好ましい。特に、100℃以下の低温下でヒドロシリル化反応硬化型または室温下での高エネルギー線照射によるラジカル反応硬化型または高エネルギー線照射によるヒドロシリル化反応硬化型が好適である。
【0092】
シリコーンゲル層の二次硬化反応は、好適には、100度を超える高温で進行する硬化反応であり、ヒドロシリル化反応硬化型または過酸化物硬化反応型であることが好ましい。なお、上記のとおり、カプセル化されたヒドロシリル化反応触媒を用いることにより、カプセルの壁材である熱可塑性樹脂の溶融温度より高い温度条件で二次硬化するように反応を制御することも好ましい。
【0093】
[電子部品の製造方法]
上記のとおり、本発明の積層体は電子部品の製造に有用であり、基材である電子部品上にシリコーンゲルを形成して、安定かつ平坦で、応力緩和性に優れた電子部品の配置面を形成することにより、その後に当該電子部品に対して化学的乃至物理的処理を行った場合であっても、当該シリコーンゲルを積層した部分は、各種処理から選択的に保護され、かつ、電子部品の製造時における基材の表面凹凸や電子部品の位置ずれ、振動変位(ダンピング)に伴う電子部品の加工不良が発生しにくいという利益を実現しうる。また、前記のシート状部材が接着層を介して積層されたシリコーンゲルを硬化させることにより、当該シート状部材とシリコーンゲルの硬化物が接合して一体化し、シリコーンゲルのみを硬化させた場合には硬化物の効率的な剥離が難しいような局所的な配置であっても、両者をほぼ同時に、簡便、迅速、かつ、確実に電子部品上から剥離することができ、しかもシリコーンゲル等の残留物(糊残り)に由来する不良品が発生しにくいという利点を有する。
【0094】
具体的には、本発明の電子部品の製造方法は、
工程(I):電子部品、硬化反応性シリコーンゲルおよび接着層を有するシート状部材を有する積層体を作成する 工程、
工程(II):工程(I)の後、電子部品に対して、1種類以上の化学的乃至物理的処理(電子回路の形成、電極パターンの形成、導電膜の形成 および絶縁膜の形成から選ばれる1種類以上の処理を含むが、これらに限定されない)を行う工程、
工程(III):工程(II)の後、硬化反応性シリコーンゲルを硬化する工程、
工程(IV):工程(III)の後、シート状部材および硬化反応性シリコーンゲルの硬化物を、実質的に同時に電子部品から分離する工程
を有するものである。なお、工程(I)における積層体の形成工程は任意であり、硬化性シリコーン組成物を基材である電子部品上に塗布してゲル状に一次硬化させてもよく、別途形成した硬化反応性シリコーンゲルを基材である電子部品上に転写しても良い。
【0095】
ここで、シート状部材は、電子部品に対して化学的乃至物理的な処理を行った後にシリコーンゲルに積層してもよいので、本発明の製造方法は、以下の工程を備えても良く、かつ好ましい。
工程(I’):電子部品上に硬化反応性シリコーンゲルを積層する工程、
工程(II’):工程(I’)の後、電子部品に対して、1種類以上の化学的乃至物理的処理(電子回路の形成、電極パターンの形成、導電膜の形成 および絶縁膜の形成から選ばれる1種類以上の処理を含むが、これらに限定されない)を行う工程、
工程(III’):工程(II’)の後、硬化反応性シリコーンゲル上に接着層を有するシート状部材を積層する工程 、
工程(IV’):工程(III’)の後、硬化反応性シリコーンゲルを硬化する工程、
工程(V’):工程(IV’)の後、シート状部材および硬化反応性シリコーンゲルの硬化物を、実質的に同時に電子部品から分離する工程。
【0096】
電子部品については[電子部品を含む積層体]の項にて説明した通りであり、本発明の電子部品の製造方法においては、シリコーンゲルを積層した後に当該電子部品上に電子回路、電極パターン、導電膜、絶縁膜等を形成する工程を有してよく、かつ好ましい。また、任意で、当該積層体または電子部品を個片化(ダイシング)してもよい。
【0097】
シリコーンゲル層の一部または全部を硬化させる工程は、硬化性シリコーンゲル層を二次硬化させる工程であり、シリコーンゲル層は硬化反応前よりも保型性が高く、離型性に優れたハードな硬化層に変化する。これにより、続く工程において、シリコーンゲル層上に配置された電子部品は容易に分離され、かつ、基材や電子部品へのシリコーンゲルまたはその硬化物の付着物等の問題を生じにくいものである。
【0098】
好適には、電子部品(前駆体を含む)上に硬化反応性シリコーンゲルを積層した後に、シリコーンゲルと電子部品を一体の状態でダイシングする工程を有する事が好ましい。この場合、その後、電子部品に対して上記の化学的乃至物理的処理を行った場合、切断された電子部品がシリコーンゲルの付着面以外の全面を効率的に処理でき、その後にシリコーンゲル硬化物等を分離することで、処理済かつ切断された状態で電子部品を個片化できる利点がある。
【実施例0099】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。以下に示す実施例では下記の化合物ないし組成物を原料に用いた。
【0100】
・成分(A1-1):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖、ジメチルシロキサンポリマー(シロキサン重合度:約540,ビニル基の含有量:約0.13重量%)
・成分(A1-2):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖、ジメチルシロキサンポリマー(シロキサン重合度:約315,ビニル基の含有量:約0.22重量%)
・・成分(A1-3):両末端トリメチルシロキシ基封鎖、ジメチルシロキサン-ビニルメチルシロキサンコポリマー (シロキサン重合度:約816,ビニル基の含有量: 約0.29重量%)
・成分(A2):ビニルジメチルシロキシ基封鎖Q単位からなる樹脂状オルガノポリシロキサン (ビニル基の含有量: 約4.1重量%)
・成分(B1):両末端ハイドロジェンジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンポリマー(シロキサン重合度:約20,ケイ素結合水素基の含有量: 0.12重量%)
<ヒドロシリル化反応抑制剤>
・成分(C1):1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニル-シクロテトラシロキサン(ビニル基の含有量:30.2重量%)。
<フィラー>
・成分(D1):ヘキサメチルジシラザン処理シリカ微粒子(日本アエロジル製、商品名「アエロジル200V」)
<硬化剤>
・成分(E1):白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のビニルシロキサン溶液(白金金属濃度で約0.6重量%)
・成分(E2):2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン-両末端トリメチルシロキシ基封鎖シロキサンポリマー混合物(2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン濃度で約50重量%)
【0101】
<組成:実施例1>
成分A1-1(9.76重量%)、A1-2(5.93重量%)、A1-3(60.42重量%)、A2(6.61重量%)、B1(13.02重量%)、C1(0.10重量%)、D1(2.08重量%)、E1(0.07重量%)およびE2(2.00重量%)を均一に混合することにより、硬化性液状シリコーン組成物を調製した。その際、ビニル基1モル当たり、成分(B1)のケイ素原子結合水素原子(Si-H)が0.85モルとなる量とした。なお、本実施例では上記成分に加え、剥離性確認を容易にする目的で適当量の着色材を使用した。
<組成:実施例2>
成分A1-1(9.87重量%)、A1-3(66.27重量%)、A2(6.69重量%)、B1(8.74重量%)、C1(0.10重量%)、D1(6.25重量%)、E1(0.07重量%)およびE2(2.00重量%)を均一に混合することにより、硬化性液状シリコーン組成物を調製した。その際、ビニル基1モル当たり、成分(B1)のケイ素原子結合水素原子(Si-H)が0.56モルとなる量とした。なお、本実施例では上記成分に加え、剥離性確認を容易にする目的で適当量の着色材を使用した。
【0102】
[硬化性ゲルの作製条件および外観]
硬化前液状シリコーン組成物を80℃で2時間かけて加熱することにより、ヒドロシリル化反応を進行させてゲル状物を得た。得られた硬化反応性シリコーンゲルは着色材を欠いた状態では透明であった。
【0103】
[二次硬化物の作製条件]
上記で作製した硬化反応性シリコーンゲルをさらに窒素中150℃(実施例2)もしくは170℃(実施例1)で1時間かけて二次硬化させることで二次硬化物を得た。
【0104】
[粘弾性の測定]
硬化反応性シリコーンゲル
アルミニウム製容器(直径50mm)に、硬化前液状シリコーン組成物を厚さ約1.5mmとなるように投入し、上記条件にて得られた硬化反応性シリコーンゲルから直径8mmとなるように試験体を切り出し使用した。MCR302粘弾性測定装置(Anton Paar社製)を用い、直径8mmのパラレルプレートに切り出したサンプルを貼り付け測定を行った。23℃にて、周波数0.01~10Hzの範囲で、ひずみ0.5%の条件で行った。
実施例1:0.1Hzでの貯蔵弾性率は6.1×104Pa、損失正接(損失弾性率/貯蔵弾性率)は0.03であった。
実施例2:0.1Hzでの貯蔵弾性率は3.9×104Pa、損失正接(損失弾性率/貯蔵弾性率)は0.05であった。
【0105】
二次硬化物
上記同様、アルミニウム製容器を用い、硬化反応性シリコーンゲルを作製した。さらに上記作製条件にて硬化させることで二次硬化物が得られた。得られた二次硬化物から直径8mmとなるように試験体を切り出し使用した。MCR302(アントンパール社製)を用い、直径8mmのパラレルプレートに切り出したサンプルを貼り付け測定を行った。23℃にて、周波数0.01~10Hzまで、ひずみ0.1%の条件で行った。
実施例1:0.1Hzでの貯蔵弾性率は1.0×105Paであった。
実施例2:0.1Hzでの貯蔵弾性率は8.4×104Paであった。
【0106】
[二次硬化物の剥離]
硬化前液状シリコーン組成物を基板上に室温にてスピンコートし、上記条件にて基板上に硬化性ゲル層を作製した。
得られた硬化性ゲル層に粘着テープ(日東電工社製、ニトフロン No.903UL)を貼り付け、窒素中150℃もしくは170℃で1時間かけて硬化反応性シリコーンゲルを二次硬化させた。
上記で作製した二次硬化物を含む基板上から粘着テープを剥がし、二次硬化物が粘着テープ側へ転写されることを目視で確認した。
【0107】
<比較実験>
粘着テープを用いない他は、上記同様の条件で、硬化前液状シリコーン組成物を基板上に室温にてスピンコートし、基板上に硬化性ゲル層を作製し、窒素中150℃もしくは170℃で1時間かけて硬化反応性シリコーンゲルを二次硬化させた。しかしながら、粘着テープがない場合、二次硬化物を効率的に基材から剥がす(=分離する)ことができなかった。
【0108】
粘着シートとの接着試験
アルミ基板上にプライマーXおよびY(共にダウコーニング社製)を薄膜塗布した。その上に実施例2に記載の硬化前液状シリコーン組成物を約230μmとなるように塗布し、上記同様に硬化させエラストマーを得た。さらに、得られたエラストマー上に粘着テープ(no. 336、日東電工社製)を張り合わせ、窒素雰囲気下150℃で1時間かけて加熱することにより粘着層との反応を行った。30分保存後、RTC1210(オリエンテック社製)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件で、300mm/minの速度で180度ピール試験を行った。ピール強度は165N/mで、剥離モードが凝集破壊であった。一方、窒素雰囲気下150℃で1時間かけて加熱後、上記同様に粘着テープを張り合わせた場合、ピール強度は135N/mで、剥離モードが界面剥離であった。従って、上記の二次硬化反応により、硬化反応性エラストマーと粘着テープ界面で強固な結合が形成されていることが確認された。このような結合体は、粘着テープと一体として基材上から除去可能である。