(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114133
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】負極およびニッケル水素電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/583 20100101AFI20220729BHJP
H01M 10/30 20060101ALI20220729BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220729BHJP
H01M 4/24 20060101ALI20220729BHJP
C01B 32/348 20170101ALI20220729BHJP
【FI】
H01M4/583
H01M10/30 Z
H01M4/48
H01M4/24 Z
C01B32/348
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010297
(22)【出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 治通
(72)【発明者】
【氏名】小島 由継
(72)【発明者】
【氏名】山口 匡訓
【テーマコード(参考)】
4G146
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA06
4G146AA19
4G146AB07
4G146AC10B
4G146AD23
4G146AD24
4G146BA27
4G146BA46
4G146BB10
4G146BC32B
4G146BC33B
4G146BD10
4G146CA02
4G146CA16
4G146CB03
5H028AA05
5H028BB04
5H028BB05
5H028BB15
5H028EE04
5H028EE05
5H050AA08
5H050BA11
5H050CA03
5H050CB07
5H050EA10
5H050EA28
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA27
(57)【要約】
【課題】負極材料として炭素材料を用いたニッケル水素電池の容量を向上させること。
【解決手段】グラフェンを含む炭素材料を含む、ニッケル水素電池用の負極。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンを含む炭素材料を含む、ニッケル水素電池用の負極。
【請求項2】
前記炭素材料は、複数のグラフェンが架橋してなる、請求項1に記載の負極。
【請求項3】
前記炭素材料は、石油コークスをアルカリ賦活することにより得られる、請求項1または2に記載の負極。
【請求項4】
前記炭素材料は、石油コークスをアルカリ賦活後、圧縮して高密度化することにより得られる、請求項3に記載の負極。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の負極と、正極と、電解液と、を備える、ニッケル水素電池。
【請求項6】
前記正極は水酸化ニッケルを含む、請求項5に記載のニッケル水素電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負極およびニッケル水素電池に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、負極として水素吸蔵合金を用い、正極として水酸化ニッケル極を用いた、ニッケル水素電池(ニッケル金属水素化物電池)が開発されてきた。上記電池の負極に用いられる水素吸蔵合金としては、希土類元素Mを含むMmNi5等のAB5型合金が使用されている。しかし、負極に希土類元素を含むため、負極材料が高価であり、資源量も少ないという問題がある。また、充電時において水素ガスが発生する可能性もあった。
【0003】
一方、負極材料として活性炭を用いたニッケル水素電池も知られている。例えば、特許文献1(特開2006-080335号公報)には、水酸化ニッケルを含む正極、および、活性炭を含む負極を備えるニッケル水素電池が開示されている。炭素材料である活性炭を負極に利用することで、負極材料のコストを抑えることができる。また、
図2に示されるように、負極と炭素材料と電解質溶液との界面に形成される電気二重層に電荷が蓄積されるため、水素ガスは原理的に発生しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、負極材料として活性炭等の炭素材料を用いたニッケル水素電池は、その放電容量が少ないという問題があった。
【0006】
本開示の目的は、負極材料として炭素材料を用いたニッケル水素電池の容量を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕 グラフェンを含む炭素材料を含む、ニッケル水素電池用の負極。
【0008】
グラフェンを含む炭素材料を負極材料として用いることにより、ニッケル水素電池の容量を向上させることができる。これは、グラフェンの両面にプロトンが吸着できるためであると考えられる。
また、同様の理由から、ニッケル水素電池の放電開始電圧も向上させることができる。
また、資源量が豊富で希土類元素を含まない炭素材料を負極材料として用いることにより、負極材料のコストを削減できる。
また、負極材料として炭素材料を用いることにより、充電時の水素ガスの発生が抑制される。
【0009】
〔2〕 前記炭素材料は、複数のグラフェンが架橋してなる、〔1〕または〔2〕に記載の負極。
【0010】
この場合、炭素材料が、複数のグラフェンが架橋してなる高次構造を有する場合、比表面積の向上により更に容量が向上すると考えられる。
【0011】
〔3〕 前記炭素材料は、石油コークスをアルカリ賦活することにより得られる、〔2〕に記載の負極。
【0012】
〔4〕 前記炭素材料は、石油コークスをアルカリ賦活後、圧縮して高密度化することにより得られる、〔3〕に記載の負極。
【0013】
〔5〕 〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の負極と、正極と、電解液と、を備える、ニッケル水素電池。
【0014】
〔6〕 前記正極は水酸化ニッケルを含む、〔5〕に記載のニッケル水素電池。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、負極材料として炭素材料を用いたニッケル水素電池の容量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示の負極に用いられる「グラフェンを含む炭素材料」の一例を示す概念図である。
【
図2】
図2は、負極材料として炭素材料を用いたニッケル水素電池での反応を示す概念図である。
【
図3】
図3は、比較例2の試験用セルの充放電曲線を示すグラフである。
【
図4】
図4は、比較例2の試験用セルの充電による内圧変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1の試験用セルの充放電曲線を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例1の試験用セルの充電による内圧変化を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1、比較例1および比較例2についての負極の比表面積と容量との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1、比較例1および比較例2についての負極の比表面積と平均放電電圧との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施形態の炭素材料と従来の炭素材料とのX線回折強度曲線の違いを示す模式的なグラフである。
【
図10】
図10は、実施例1、4および5の炭素材料の嵩密度と、各炭素材料を用いて作製された負極の容量密度との関係を示す図である。
【
図11】
図11は、ニッケル水素電池の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示における実施形態が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0018】
<負極>
本開示のニッケル水素電池用の負極は、グラフェンを含む炭素材料を含む。
【0019】
(グラフェンを含む炭素材料)
本開示において、グラフェンは、好ましくはsp2結合した複数の炭素原子からなる炭素1原子の厚さを有する単層グラフェンである。本実施形態で用いられるグラフェンの比表面積は、例えば、2630m2/gである。
【0020】
本実施形態で用いられる「グラフェンを含む炭素材料」(以下、単に「炭素材料」と略記する場合がある)は、複数のグラフェンが架橋してなる炭素材料(グラフェン架橋体)であることが好ましい。なお、複数のグラフェンの架橋は、sp
3結合によって形成されていることが好ましい。このような炭素材料としては、例えば、
図1に示されるように、多数のグラフェン(sp
2結合炭素)がsp
3結合によって架橋されてなる炭素材料が挙げられる。なお、グラフェンの長さは例えば3.3nm程度である。
【0021】
図9は、実施形態の炭素材料(グラフェン架橋体)と従来の炭素材料とのX線回折強度曲線の違いを示す模式的なグラフである。
図9に示されるように、グラフェンの積層物であるグラファイトについて現れるX線回折強度のピーク(0.337nm)は、グラフェン架橋体では消失することが分かっている。
【0022】
上記炭素材料のBET比表面積は、好ましくは2600m2/g以上であり、より好ましくは2800m2/g以上である。
【0023】
上記炭素材料は、例えば、石油コークスをアルカリ賦活することにより得られる。
石油コークスのアルカリ賦活化は、例えば、石油コークスとアルカリ剤とを混合して、脱水および賦活を行うことにより実施できる。アルカリ剤としては、例えば、層間化合物を形成することができるアルカリ金属を有する水酸化物(含水水酸化カリウムなど)を用いることができる。このアルカリ賦活化により、具体的には、石油コークスが、複数のグラフェンを含む架橋体に変化する。これにより、
図1に示されるグラフェンの架橋構造体が得られる。
【0024】
ここで、アルカリ剤の配合量は、石油コークスの総量に対して、2~8倍であることが好ましく、4~6倍であることがより好ましい。この場合、より比表面積の大きい炭素材料を得ることができ、負極の容量をより高めることができる。
なお、アルカリ賦活に用いるアルカリ剤が含水水酸化カリウム(含水率:15質量%)である場合、含水水酸化カリウムの配合量は、石油コークスの総量に対して、2~8倍であることが好ましく、4~6倍であることがより好ましい。
【0025】
上記の炭素材料の原料として用いられる賦活化前の石油コークスの平均粒子径(D50)は、好ましくは30~200μmであり、より好ましくは60~150μmである。なお、平均粒子径(D50)とは、JIS Z 8825に準拠したレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定される体積頻度粒度分布測定により求められる積算50%の粒径(D50)である。
【0026】
なお、上記のグラフェンを含む炭素材料を作製する方法としては、石油コークスをアルカリ賦活する方法以外に、例えば、石炭、ヤシガラチャー等をアルカリ賦活する方法を用いることができる。また、石油コークス、石炭、ヤシガラチャー等を、層間化合物を形成できる種々の酸(硫酸等)と反応させて層間化合物を形成させた後に、加熱処理する方法を用いることもできる。
【0027】
上記の炭素材料は、負極において負極活物質として用いられる。すなわち、負極を構成する負極活物質は、グラフェンを含む。ただし、負極活物質は、上記のグラフェンを含む炭素材料以外に導電剤などの添加剤を含んでいてもよい。充放電反応には電子のやり取りが必要であるため、負極活物質がさらに導電剤を含むことで反応活性を向上できる。
【0028】
導電剤としては、例えば、ニッケル、銅、コバルト、ビスマス、黒鉛などが挙げられる。ニッケル、銅、コバルト、ビスマス等については、導電剤として機能するためには金属状態である必要がある。黒鉛は、電導性を有するものであれば特に限定されず、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェンなども適用可能である。これらの導電剤は、導電性の改善のみならず、充電時に還元、生成する金属状の鉄を安定化させる働きも有する。
【0029】
導電剤は、炭素材料粒子と混合するだけでもよいが、理想的には炭素材料の調製の過程で導電剤が導入されることによって、より細かなレベルで炭素材料との接触が可能となる。ここで、ニッケル、銅、コバルト、ビスマス等については、必ずしも金属の状態で配合する必要はなく、塩、酸化物、水酸化物などの化合物の状態で配合しておけば、電池組み立て後に充電された際に、還元されて金属状態となり得る。
【0030】
上記の炭素材料を用いて、一般的な方法で負極を作製することができる。
例えば、炭素材料の粉末、導電剤、およびバインダー(SBRラテックス、ポリフッ化ビニリデン等)を含むペーストを、金属箔、パンチングメタルシートなどの金属基材に塗布したり、金属多孔質体に充填したりすることで、電極(負極)を作製することができる。
【0031】
そして、炭素材料がグラフェンを含むことにより、負極の容量が増加し、ニッケル水素電池の容量が増加する。これは、充電時に、負極を構成するグラフェンの両面にプロトンが吸着することができるためであると考えられる。
さらに、炭素材料が複数のグラフェンが架橋してなる炭素材料(
図1参照)である場合は、より確実に電池容量が増加する。グラフェンの架橋構造によって、さらに炭素材料(負極活物質)の比表面積が増加し、プロトンの吸着量が増加するためであると考えられる。
【0032】
本開示の負極は、水酸化ニッケルを正極活物質として使用したニッケル水素電池などに適用できる。以下、本開示の負極を用いたニッケル水素電池の一例を説明する。
【0033】
<ニッケル水素電池>
本開示のニッケル水素電池(以下、「電池」と略記する場合がある)は、例えば、携帯機器用電池、車載用電池、再生可能エネルギー発電の蓄電池などに使用することができる。電池は、一次電池でもよく、二次電池でもよい。以下に、ニッケル水素(Ni-H)電池の構成の一例が図面を参照して説明される。
【0034】
図11は、ニッケル水素電池の構成の一例を示す概略図である。
電池1は、ニッケル水素電池である。電池1は、筐体2を含む。筐体2は、円筒形のケースである。筐体2は、金属製である。ただし、筐体2は、任意の形態を有し得る。筐体2は、例えば、角形のケースであってもよい。筐体2は、例えば、アルミラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。筐体2は、例えば、樹脂製であってもよい。
【0035】
筐体2は、蓄電要素10と電解液とを収納している。蓄電要素10は、正極11、負極12、およびセパレータ13を含む。図示される蓄電要素10は、巻回型である。蓄電要素10は、帯状の電極が渦巻状に巻回されることにより形成されている。蓄電要素10は、例えば、積層型であってもよい。蓄電要素10は、例えば、枚葉状の電極が積層されることにより形成されていてもよい。
【0036】
《負極》
負極12は、シート状である。負極12は、例えば、10μm~1mmの厚さを有していてもよい。負極12は、正極11に比して低い電位を有する。負極12は、負極活物質として上述のグラフェンを含む炭素材料を含む。負極12は、実質的に炭素材料(負極活物質)のみからなっていてもよい。
【0037】
負極12は、負極活物質に加えて、集電材およびバインダ等をさらに含んでいてもよい。集電材は、例えば、パンチングメタル、金属箔、多孔質金属シート等を含んでいてもよい。集電材は、例えば、Ni製であってもよい。
【0038】
例えば、集電材に、負極活物質およびバインダが塗着されることにより、作製され得る。バインダは、集電材と負極活物質とを結合する。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の負極活物質に対して、例えば0.1質量部から10質量部であってもよい。
【0039】
《正極》
正極11は、シート状である。正極11は、例えば、10μm~1mmの厚さを有していてもよい。正極11は、負極12に比して高い電位を有する。正極11は、正極活物質を含む。正極活物質は、任意の成分を含み得る。正極活物質としては、例えば、水酸化ニッケル、二酸化マンガン、酸化銀などが挙げられる。正極活物質は、好ましくは水酸化ニッケルである。
【0040】
正極11は、実質的に正極活物質のみからなっていてもよい。正極11は、正極活物質に加えて、集電材、導電材およびバインダ等をさらに含んでいてもよい。集電材は、例えば、多孔質金属シート等を含んでいてもよい。集電材は、例えば、Ni製である。
【0041】
例えば、集電材に、正極活物質、導電材およびバインダが塗着されることにより、正極11が形成され得る。導電材は、電子伝導性を有する。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック、Co、酸化コバルト等を含んでいてもよい。導電材の配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは、集電材と正極活物質とを結合する。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、エチレン酢酸ビニル(EVA)等を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。
【0042】
《セパレータ》
セパレータ13は、シート状である。セパレータ13は、正極11と負極12との間に配置されている。セパレータ13は、正極11と負極12とを物理的に分離している。セパレータ13は、例えば、50~500μmの厚さを有していてもよい。セパレータ13は、多孔質である。セパレータ13は、例えば、延伸多孔膜、不織布等を含んでいてもよい。セパレータ13は、電気絶縁性である。セパレータは、例えば、ポリオレフィン製、ポリアミド製等であってもよい。
【0043】
《電解液》
電解液は、特に限定されないが、水系電解液であることが好ましい。水系電解液としては、例えば、アルカリ水溶液等を好適に用いることができる。アルカリ水溶液は、例えば、水と、水に溶解したアルカリ金属水酸化物と、を含む。アルカリ金属水酸化物は、例えば、1~20mоl/Lの濃度を有していてもよい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)などが挙げられる。
【実施例0044】
以下、本開示における実施例が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0045】
(実施例1)
本実施例では、負極材料の原料として石油コークス(平均粒子径(D50):60μm)を用いた。石油コークスに対して重量比で、5倍の含水水酸化カリウム(含水率:約15質量%)を加えて混合し、混合物を得た。得られた混合物を300~500℃に60分間保ち、脱水してから、600~800℃に120分間保つことにより混合物を賦活した。賦活後、混合物を冷却し、十分洗浄してから水酸化カリウムを除去することにより、「グラフェンを含む炭素材料」を得た。
【0046】
得られた炭素材料の比表面積の測定値は、3000m
2/gであった。なお、比表面積の測定には、マイクロトラック・ベル株式会社製の高精度比表面積測定装置(BELSORP-max)を用いた(以下の実施例並びに比較例においても同様)。
グラフェンの比表面積は2630m
2/g(小島由継、市川貴之、炭素系水素貯蔵材料、「吸着剤・吸着プロセスの開発動向-エネルギー・環境問題解決のために-」、加納博文監修、シーエムシー出版、pp.190-199、2014)であり、上記炭素材料の比表面積はこれよりも大きくなっていることから、上記炭素材料ではグラフェンが高次構造を形成しているものと考えられる(
図1参照)。
また、上記炭素材料は、加圧すると収縮し、圧力を下げると膨張してもとの体積にもどることが分かっている。このことから、上記炭素材料は、架橋構造を有していると考えられる。
【0047】
上記のようにして得た炭素材料(グラフェン架橋体)84質量%と、カーボンブラック粉末10質量%にSBRラテックス6質量%を加えて、ペーストを調製した。
該ペーストを、直径20mmの円板状に打ち抜いたNi多孔質体の片面に塗布し、乾燥した後、27MPaの圧力でプレスすることにより、電極(負極)を作製した。なお、1つの負極中に含まれる負極活物質の量は、0.06~0.09gであった。
【0048】
このようにして作製され負極は、セパレータおよび正極と組み合わせて、市販の電池容器(タクミ技研、フラットセル(圧力センサー付き))にセットされた。セパレータとしては、通常のニッケル水素電池に使用されるスルホン化処理されたポリプロピレン製不織布(円形、直径23mm)を用いた。正極としては、通常のニッケル水素電池に使用される水酸化ニッケル極(水酸化ニッケルが充填されたニッケル多孔質体。直径20mmの円板状。)を用いた。
電池容器内にはアルカリ電解液(6規定(6N)の水酸化カリウム水溶液)0.2mLが注入された。正極容量は約80mAhであり、負極容量よりも正極容量を過剰にしている。実用電池では正極容量を負極容量よりも少なくし、正極容量支配とするが、本実施例では負極の性能に注目しているため、負極容量に対して正極容量を過剰にし、負極容量支配とした。
【0049】
このようにして、上記の負極を備える、実施例1のニッケル水素電池(試験セル)を組み立てた。
【0050】
(実施例2)
本実施例では、含水水酸化カリウム(水分約15%)の添加量を石油コークスに対して重量比で3倍に変更した。それ以外の点は、実施例1と同様の方法で負極およびニッケル水素電池(試験セル)を作製した。
実施例2で用いた炭素材料の比表面積の測定値は、2700m2/gであった。
【0051】
(実施例3)
含水水酸化カリウム(水分約15%)の添加量を石油コークスに対して重量比で9倍に変更した。それ以外の点は、実施例1と同様の方法で負極およびニッケル水素電池(試験セル)を作製した。
実施例3で用いた炭素材料の比表面積の測定値は、2500m2/gであった。
【0052】
(実施例4)
実施例1と同様にして得た炭素材料(グラフェン架橋体、嵩密度:0.26g/cm3)に対して、加圧圧縮処理を施すことにより、嵩密度が0.3g/cm3である高密度化されたグラフェン架橋体を得た。なお、加圧圧縮処理において、加圧の圧力を300MPaとした。それ以外の点は、実施例1と同様の方法で負極およびニッケル水素電池(試験セル)を作製した。
【0053】
(実施例5)
本実施例では、実施例1と同様にして得た炭素材料(グラフェン架橋体)とテフロン(登録商標)パウダー(グラフェン架橋体の総量に対して3質量%)とを乳鉢で混合した。これによりフィブリル状のテフロン(登録商標)をグラフェン架橋体に分散させてなる分散体を得た。この分散体に対して、実施例4と同様の加圧圧縮処理(130MPa)を施すことにより、嵩密度が0.4g/cm3である高密度化されたグラフェン架橋体を得た。それ以外の点は、実施例1と同様の方法で負極およびニッケル水素電池(試験セル)を作製した。
【0054】
(比較例1)
比較例1では、炭素材料の代わりに、大阪ガスケミカルの活性炭「GTSX」を用いた。この活性炭の比表面積の測定値は、630m2/gであった。それ以外の点は、実施例1と同様の方法で負極およびニッケル水素電池(試験セル)を作製した。
【0055】
(比較例2)
比較例2では、負極材料として、グラファイトの粉砕物(ミリンググラファイト)から作製された活性炭を用いた。
まず、グラファイトパウダー(99.9995%,Alfa Aesor)300mgとZrO2ボール20個をミリング容器に入れ、容器内を真空引きした後、容器内を1MPaの水素ガスで満たした。フリッチェ遊星型ボールミルを用いて、容器内のグラファイトパウダーを80時間粉砕することで、ミリンググラファイトを調製した。Arガスで満たしたグローブボックス内で、ミリンググラファイトが含まれる容器に、8N KOH溶液を1mL加えて、遊星ボールミリング装置で容器内のミリンググラファイトに対して12時間のミリングを行った。大気中にてミリング容器から試料(ミリンググラファイト)を取り出した。該試料に対して、イオン交換水による洗浄と、吸引ろ過によるイオン交換水の除去とを繰り返し、イオン交換水の廃液がpH8になるまでこれらの洗浄操作を繰り返した。その後、試料に対して、室温での真空引きにより一晩乾燥を行うことで、比較例2で用いる活性炭(炭素材料)を作製した。得られた活性炭の比表面積の測定値は、130m2/gであった。
それ以外の点は、実施例1と同様の方法で負極およびニッケル水素電池(試験セル)を作製した。
【0056】
〔評価〕
実施例1~3および比較例1~2の試験セルについて、閉鎖された容器内で、1.6mA/cm2の電流を流して0.1Cで定電流充放電を行った。なお、「C」は電流レートの単位である。「1C」は、1時間の充電により、SOC(充電率:State of Charge)が0%から100%に到達する電流レートを示す。SOCは、電池の充電容量に対する充電量の比率である。放電終止電圧は0.8Vとした。
【0057】
上記の充放電の際に、試験セル(電池)の充電容量および放電容量(mAh/g)を測定した。なお、放電容量は、放電終止時(電圧:0.8V)における電池の容量(負極を構成する炭素1gあたりの容量:容量密度)である。平均放電電圧(V)は、放電開始電圧と放電終止電圧(0.8V)の相加平均である。充電容量は、充電時に充電電圧が1.6Vに達した時点における電池の容量(負極を構成する炭素1gあたりの容量)である。
【0058】
また、充電時に充電電圧が1.6Vに達した時点において、電池の内圧を圧力センサーにより測定して、水素ガス発生の有無を評価した。なお、圧力センサーによる内圧の測定値が0.005MPa未満であった場合、水素ガス発生「無し」と評価し、0.005MPa以上であった場合、水素ガス発生「有り」と評価した。
【0059】
表1に、上記評価における「充電時の水素発生の有無」、「放電容量」および「平均放電電圧」の評価結果が示される。
また、
図3に、比較例2の試験用セルの充放電曲線を示す。
図5に、実施例1の試験用セルの充放電曲線を示す。
また、
図4に、比較例2の試験用セルの充電による内圧変化を示す。
図6に、実施例1の試験用セルの充電による内圧変化を示す。
また、
図7に、実施例1、比較例1および比較例2についての負極の比表面積と容量との関係を示す。
また、
図8に、実施例1、比較例1および比較例2についての負極の比表面積と平均放電電圧との関係を示す。
【0060】
【0061】
表1に示される結果(充電時の水素発生の有無)から、上記実施例および比較例のように負極材料として炭素材料を用いることにより、充電時の水素ガスの発生が起こらないことが分かる(
図4および
図6参照)。
【0062】
また、表1に示される結果(放電容量および平均放電電圧)から、本開示のニッケル水素電池に相当する実施例1~3の電池(試験セル)では、上記のグラフェンを含む炭素材料(アルカリ賦活化された炭素材料)を負極材料として用いることにより、放電容量は50mAh/g以上、平均放電電圧も1.1V以上となっている(実施例1について
図5参照)。一方、負極材料として従来の活性炭を用いた電池(比較例1)、および、負極材料としてミリンググラファイトを用いた電池(比較例2)では、実施例よりも放電容量が小さく、平均放電電圧も1.1V以下であり実施例よりも低い値である(比較例2について
図3参照)。
【0063】
これは、実施例においては、充電時に、負極を構成する炭素材料に含まれるグラフェンの両面にプロトンが吸着することにより、負極の容量が増加し、放電開始電圧も向上したためであると考えられる。
【0064】
さらに、
図7に示される結果から、負極(負極を構成する炭素材料)の比表面積が大きいほど、電池の容量(充電容量および放電容量)が大きくなることが分かる。
【0065】
また、
図8に示される結果から、負極(負極を構成する炭素材料)の比表面積が大きいほど、電池の平均放電電圧が大きくなることが分かる。
【0066】
また、実施例1、4および5の試験セルについて、上記と同様に放電容量(負極を構成する炭素1gあたりの容量:容量密度)を測定した。
図10に、実施例1、4および5の炭素材料(グラフェン架橋体)の嵩密度と、各炭素材料を用いて作製された負極の放電容量(容量密度)との関係を示す。
図10に示されるように、炭素材料(グラフェン架橋体)が圧縮によって高密度化された実施例3および4について、放電容量が増加することが分かる。なお、実施例1、4および5の試験セルにおいて、放電電圧は炭素材料の嵩密度に依らず1.5V程度であった。
【0067】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。特許請求の範囲の記載によって確定される技術的範囲は、特許請求の範囲と均等の意味におけるすべての変更を包含する。特許請求の範囲の記載によって確定される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の範囲内におけるすべての変更を包含する。