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  • 特開-MIMO復調方法および端末装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114293
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】MIMO復調方法および端末装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/0413 20170101AFI20220729BHJP
【FI】
H04B7/0413 220
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010535
(22)【出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中平 俊朗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 元晴
(72)【発明者】
【氏名】守山 貴庸
(72)【発明者】
【氏名】村田 英一
(72)【発明者】
【氏名】笠井 万平
(57)【要約】
【課題】
従来、チャネル時変動に対する耐性が不十分で、パケットごとに組み合わせパタンの選択を見直す必要があり、演算処理量が膨大になるという課題があった。
【解決手段】
空間ストリームの数より多い複数の受信信号の中から、空間ストリームの数と同じ数の受信信号を選択する複数の組み合わせパタンを生成する処理と、複数の組み合わせパタンに対して並列に等化処理を繰り返し、繰り返しごとに等化処理の結果から算出した第1の判定値を保存する処理と、第1の判定値からさらに算出した第2の判定値が最小となる組み合わせパタンをMIMO復調結果に用いる処理とを行う。これにより、伝搬路の時間変動に対する復調特性の劣化が小さいロバストな組み合わせパタンを選択できる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の端末装置が受信する複数の受信信号を用いて、MIMO伝送された複数の空間ストリームの復調を行うMIMO復調方法において、
前記空間ストリームの数より多い前記複数の受信信号の中から、前記空間ストリームの数と同じ数の前記受信信号を選択する複数の組み合わせパタンを生成する組み合わせパタン生成処理と、
生成された前記複数の組み合わせパタンに対して並列に等化処理を繰り返し行い、繰り返しごとに等化処理の結果から算出した第1の判定値を保存する保存処理と、
前記第1の判定値からさらに算出した第2の判定値が最小となる組み合わせパタンをMIMO復調結果として出力する判定処理と
を行うことを特徴とするMIMO復調方法。
【請求項2】
請求項1に記載のMIMO復調方法において、
前記第2の判定値は、前記第1の判定値に対する重み付け和、または重み付け積により計算される
ことを特徴とするMIMO復調方法。
【請求項3】
請求項1に記載のMIMO復調方法において、
前記判定処理では、前記第1の判定値により候補パタンの絞り込みを行い、絞り込まれた候補パタンに対してさらに前記第1の判定値により候補パタンの選択が行われる
ことを特徴とするMIMO復調方法。
【請求項4】
他の端末装置が受信する複数の受信信号を用いて、MIMO伝送された複数の空間ストリームの復調を行う端末装置において、
前記空間ストリームの数より多い前記複数の受信信号の中から、前記空間ストリームの数と同じ数の前記受信信号を選択する複数の組み合わせパタンを生成する組み合わせパタン生成部と、
生成された前記複数の組み合わせパタンに対して並列に等化処理を繰り返し行い、繰り返しごとに等化処理の結果から算出した第1の判定値を保存する保存処理と、前記第1の判定値からさらに算出した第2の判定値が最小となる組み合わせパタンをMIMO復調結果として出力する判定処理とを行う制御部と
を有することを特徴とする端末装置。
【請求項5】
請求項4に記載の端末装置において、
前記第2の判定値は、前記第1の判定値に対する重み付け和、または重み付け積により計算される
ことを特徴とする端末装置。
【請求項6】
請求項4に記載の端末装置において、
前記制御部は、前記第1の判定値により候補パタンの絞り込みを行い、絞り込まれた候補パタンに対してさらに前記第1の判定値により候補パタンの選択を行う
ことを特徴とする端末装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局装置と複数の端末装置との間でMIMO(Multi-Input Multi-Output)伝送を行う無線通信システムにおいて、端末装置同士が連携してMIMO復調処理を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムにおける大容量化の技術として複数のアンテナを用いて同一の無線チャネルで空間分割多重を行うMIMO伝送は、セルラ通信システムや無線LANシステムなどをはじめとして様々な無線通信システムに採用されている。一般に、MIMO伝送では、送受信装置が伝送したい空間ストリーム数以上のアンテナを備えることで、複数の空間ストリームが混在した状態で受信される信号に対して、適切なMIMO復調処理を行って所望の空間ストリームを受信できることが知られている。そのため、MIMO伝送の容量を拡大するには、送受信装置の双方でなるべく多数のアンテナを備える必要がある。しかしながら、実際には装置上の制約があり、特に端末装置が備えることができるアンテナ数が装置サイズや消費電力の観点から制約されるため、伝送可能な空間ストリーム数が低下してしまうという課題がある。
【0003】
そこで、端末装置同士が互いに連携し、自装置が受信した無線信号を宛先の端末装置に中継伝送することにより、宛先の端末装置は、あたかも自装置が保有するアンテナ数以上の受信信号を用いてMIMO復調処理を行うことができ、MIMO伝送容量を拡大できる「端末連携MIMO伝送方式」が検討されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】笠井、村田、中平、石原、守山、” 端末連携MIMO受信におけるレプリカ信頼度を用いた端末選択の一検討,” 信学総大会, Mar. 2020
【非特許文献2】Mampei Kasai, Hidekazu Murata, “Study of Terminal Selection Scheme Using Reliability of Replicain Terminal Collaborated MIMO Reception,” URSI GASS 2020, Rome, Italy, 29 August - 5 September 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MIMOに対する復調処理方法の1つとして、繰り返し等化処理を行うことで受信誤りを低減できることが知られている。例えば、上述の従来技術では、繰り返し等化処理後の残留誤差係数により、MIMO復調を行う端末装置の組み合わせを選択することで、受信特性を改善できることが示されている。
ところが、従来技術では、繰り返し等化処理の最終結果を用いており、その瞬間においては最も残留誤差が少ない端末装置の組み合わせを選択できるが、繰り返し等化処理を行うと各組み合わせパタンの差が見えづらくなり、伝搬路の時間変動に対する耐性が高いパタンの選択ができず、復調特性の劣化が生じる。このため、一定の復調特性を確保するために伝搬路が時間変動するたびに端末装置の組み合わせを選択し直す必要があった。
【0006】
このように、従来技術では、チャネル時変動に対する耐性が不十分で、同じ組み合わせパタンを継続して選択すると通信品質が低下し、通信品質を保つためにはパケットごとに組み合わせパタンの選択を見直す必要があるが、演算処理量が膨大となってしまうという課題がある。
【0007】
本発明は、MIMO復調処理における繰り返し等化処理の中で算出された複数の残留誤差係数に基づいて端末装置の組み合わせを選択することで、繰り返し等化処理における複数の処理工程における等化結果を考慮でき、伝搬路の時間変動に対して復調特性の劣化がより小さいロバストな端末装置の組み合わせを選択することができるMIMO復調方法および端末装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の端末装置が受信する複数の受信信号を用いて、MIMO伝送された複数の空間ストリームの復調を行うMIMO復調方法において、前記空間ストリームの数より多い前記複数の受信信号の中から、前記空間ストリームの数と同じ数の前記受信信号を選択する複数の組み合わせパタンを生成する組み合わせパタン生成処理と、生成された前記複数の組み合わせパタンに対して並列に等化処理を繰り返し行い、繰り返しごとに等化処理の結果から算出した第1の判定値を保存する保存処理と、前記第1の判定値からさらに算出した第2の判定値が最小となる組み合わせパタンをMIMO復調結果として出力する判定処理とを行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、他の端末装置が受信する複数の受信信号を用いて、MIMO伝送された複数の空間ストリームの復調を行う端末装置において、前記空間ストリームの数より多い前記複数の受信信号の中から、前記空間ストリームの数と同じ数の前記受信信号を選択する複数の組み合わせパタンを生成する組み合わせパタン生成部と、生成された前記複数の組み合わせパタンに対して並列に等化処理を繰り返し行い、繰り返しごとに等化処理の結果から算出した第1の判定値を保存する保存処理と、前記第1の判定値からさらに算出した第2の判定値が最小となる組み合わせパタンをMIMO復調結果として出力する判定処理とを行う制御部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るMIMO復調方法および端末装置は、MIMO復調処理における繰り返し等化処理の中で算出された複数の残留誤差係数に基づいて端末装置の組み合わせを選択することで、繰り返し等化処理における複数の処理工程における等化結果を考慮でき、伝搬路の時間変動に対して復調特性の劣化がより小さいロバストな端末装置の組み合わせを選択することができる。これにより、一定のMIMO復調特性を得るための端末装置の組み合わせパタンの選択回数を低減し、演算処理量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】端末連携MIMO伝送方式を用いる無線通信システムの一例を示す図である。
図2】複数の端末装置MSの受信信号を用いたMIMO復調の構成例を示す図である。
図3】本実施形態に係る無線通信システムにおける端末連携MIMO伝送処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明に係るMIMO復調方法および端末装置の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、無線通信システム100の一例を示す。図1において、無線通信システム100は、基地局装置BS、端末装置MS1、端末装置MS2、端末装置MS3、端末装置MS4、端末装置MS5および端末装置MS6を有し、基地局装置BSと各端末装置MSがMIMO(Multi-Input Multi-Output)伝送方式による通信を行う。ここで、端末装置MS1から端末装置MS6までの6台に共通する説明を行う場合は符号末尾の番号を省略して端末装置MSと記載する。
【0014】
図1において、基地局装置BSは、宛先の端末装置MSとの間でMIMO方式により空間多重信号を送信する。図1の例では、基地局装置BSは、4本のアンテナを用いて4つの空間ストリームの信号を送信する。
【0015】
ここで、本実施形態では、少なくとも1本のアンテナを有する6台の端末装置MSが互いに連携して、あたかも宛先の端末装置MSが保有するアンテナ数以上のMIMO端末装置として動作し、自装置を含む他装置の複数の受信信号を用いてMIMO復調処理を行う。このために、複数の端末装置MSは、互いに自装置の受信信号を他装置に中継伝送する。ここで、中継伝送は、基地局装置BSとの通信とは異なる通信回線により端末装置MS間で直接行われる。なお、図1において、端末装置MS間で行われる中継伝送は点線で示されている。
【0016】
このように、図1に示す本実施形態に係る無線通信システム100は、1台の基地局装置BSと6台の端末装置MSで構成され、端末装置MS同士が連携して基地局装置BSとの間でMIMO伝送を行うので、宛先の端末装置MSは、自装置が保有するアンテナ数以上のMIMO端末装置として動作し、自装置を含む他装置の複数の受信信号を用いてMIMO復調処理を行うことができる。
【0017】
なお、図1の例では、基地局装置BSは4本のアンテナを用いて4つの空間ストリームの信号を送信するが、複数のアンテナを用いて複数の空間ストリームの信号を送信する構成であれば同様に適用可能である。また、図1の例では、6台の端末装置MSが連携して基地局装置BSとの間でMIMO伝送を行うが、6台以外の複数の端末装置MSが連携する構成であれば同様に適用可能である。
【0018】
図2は、複数の端末装置MSの受信信号を用いた復調処理の構成例を示す。図2において、宛先の端末装置MSは、自装置を含む他装置の複数の受信信号を用いてMIMO復調処理を行う。例えば、宛先の端末装置MSが図1の端末装置MS6である場合、図2に示すMS1からMS6の受信信号のうち、MS1からMS5の受信信号は他の端末装置、MS6の受信信号は自装置にそれぞれ対応する。
【0019】
図2において、宛先の端末装置MSは、選択部101、CP(Cyclic Prefix)除去部102、S/P(Serial/Parallel)103、FFT(Fast Fourier Transform)104、MMSE(Minimum Mean Square Error)等化部105、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)106、P/S(Parallel/Serial)107、BP(Belief Propagation)復号部108、軟判定レプリカ生成部109、組み合わせパタン生成部110および制御部111を有する。
【0020】
なお、本実施形態に係る無線通信システム100では、基地局装置BSは、送信データ系列にLDPC(Low-Density Parity-Check)符号による符号化を施して、4本のアンテナを用いて4つの空間ストリームの信号を送信する。そして、端末装置MSは、繰り返し等化処理を行い、確率伝播法(BP)により得られた復号後の高信頼度の値から生成される干渉信号の軟判定用のレプリカ(軟判定レプリカ)をMMSE等化部105へフィードバックして受信信号から減算することにより干渉信号の抑圧を行う。
【0021】
また、本実施形態では、MIMO復調処理に用いる受信信号数(図2では4つ)よりも多くの受信信号(図2では6つ)が得られている場合を想定し、考えられる全ての組み合わせパタンに対して、並列にそれぞれMIMO復調処理を行うものとする。したがって、次に説明する処理は、全ての組み合わせパタンに対して、並列に行われる。
【0022】
図2において、選択部101は、6台の端末装置MSが基地局装置BSから受信する6つの受信信号の中から4つの受信信号を選択する。なお、選択部101は、制御部111の指令に基づいて動作し、例えば制御部111から指定された4つの受信信号を信号(1)、信号(2)、信号(3)および信号(4)としてCP除去部102-1、CP除去部102-2、CP除去部102-3およびCP除去部102-4にそれぞれ出力する。ここで、CP除去部102-1、CP除去部102-2、CP除去部102-3およびCP除去部102-4に共通する説明を行う場合は、符号末尾の-番号を省略して、CP除去部102と記載する。同じ名称のブロックが複数ある場合の他のブロックについても同様に記載する。
【0023】
CP除去部102は、選択部101が選択した受信信号に付加されているCPを除去する。
【0024】
S/P103は、CP除去部102が出力する時間的に連続する信号を予め決められた時間単位で分割した並列の信号を出力する。
【0025】
FFT104は、S/P103から出力される並列の時間領域の信号にFFT処理を行い、周波数領域の信号に変換する。
【0026】
MMSE等化部105は、FFT104-1からFFT104-4が出力する4つの周波数領域の信号をMMSE方式により等化処理を行う。ここで、基地局装置BSの4つのアンテナからそれぞれ送信される4つの空間ストリームは、各端末装置MSで干渉した状態で受信されるが、MMSE等化部105の等化処理により空間ストリーム間干渉を除去するので、各空間ストリームを分離することができる。MMSE等化部105は、後述の軟判定レプリカ生成部109により生成された所望信号以外のすべての干渉信号の軟判定レプリカを受信信号から減算した後、ウェイトを掛け合わせることにより等化処理を行う。
【0027】
IFFT106は、MMSE等化部105が等化した周波数領域の信号にIFFT処理を行い、時間領域の信号に変換する。
【0028】
P/S107は、IFFT106が出力する複数の信号をS/P103が分割した順に合成して連続する時間領域の信号を出力する。
【0029】
BP復号部108は、P/S107が出力する信号に対して、LDPC(Low-Density Parity-Check)の復号法の1つとして周知のBP復号方式を用いた復号を行う。
【0030】
軟判定レプリカ生成部109は、BP復号後に更新された尤度から作成された軟判定シンボルをFFTにより周波数領域に変換し、周波数領域で干渉信号の軟判定レプリカを生成する。なお、軟判定レプリカについては後述する。
【0031】
組み合わせパタン生成部110は、複数の端末装置MSの数に基づいて、選択部101で選択する受信信号の全ての組み合わせパタンを生成する(組み合わせパタン生成処理)。例えば図2の例では、端末装置MSの数が6台、選択部101で選択する受信信号の数が4つなので、組み合わせパタン生成部110は、15種類の組み合わせパタンを生成する。ここで、先に説明した通り、組み合わせパタン生成部110が生成した全ての組み合わせパタンの15通りに対して、選択部101から軟判定レプリカ生成部109までの一連の処理が並列に行われる。
【0032】
制御部111は、端末装置MSの各部を制御する(制御処理)。例えば、制御部111は、組み合わせパタン生成部110が生成する受信信号の組み合わせパタンに基づいて、選択部101に選択すべき端末装置MSの受信信号を指示するとともに、全ての受信信号の組み合わせパタンに対してMIMO等化処理を並列で実施するように、CP除去部102、S/P103、FFT104、MMSE等化部105、IFFT106、P/S107、BP復号部108および軟判定レプリカ生成部109の各ブロックの動作を制御する。
【0033】
そして、制御部111は、MMSE等化部105によるMMSE等化の繰り返しごとの残留誤差係数(第1の判定値)を全ての組み合わせパタンごとにメモリなどの記憶部に保存する(保存処理)。そして、制御部111は、保存した残留誤差係数を元に組み合わせパタンを1つ選択し(判定処理)、その復調結果を出力する。なお、選択方法については後述する。
【0034】
(端末装置MSの選択と繰り返しMMSE等化)
次に、端末装置MSの選択と繰り返しMMSE等化について説明する。ここで、送信信号のストリーム数はMとし、選択された連携して動作する端末装置の集合(端末集合と称する)は次のように記載する。
【0035】
【数1】
なお、以降の文中においては端末集合Lと記載し、端末集合Lの要素lは1≦l≦Lである。
【0036】
MMSE繰り返し等化は、軟判定レプリカ生成部109による軟判定レプリカの生成、MMSE等化部105による周波数領域等化、およびBP復号部108によるLDPC符号の復号、をアウターループとしてQ回繰り返し等化される。
【0037】
端末集合L内の第l番目(1≦l≦L)の端末装置MSにおける第k番目(1≦k≦K)の複素受信シンボルをy(k)として、時間領域の受信信号y(k)は、式(1)で表される。ここで(・)は転置を示す。
【0038】
【数2】
【0039】
そして、FFT104で周波数領域に変換された受信信号y(f)は、式(2)で表される。
【0040】
【数3】
【0041】
(f)はMMSE等化部105で等化処理と信号分離処理とが行われる。等化された信号x(f)は、式(3)で表される。
【0042】
【数4】
【0043】
そして、IFFT106で時間領域に変換された信号x(k)は、式(4)で表される。
【0044】
【数5】
【0045】
その後、BP復号部108が対数尤度比L'(cm,k,i)を算出する。ここで、cm,k,iは、第m番目(1≦m≦Mの整数)の送信ストリームの第kシンボル(1≦kの整数)に含まれる第i番目のビットを示す。なお、iは変調方式により異なり、例えばQPSK変調の場合、iは1または2である。
【0046】
そして、軟判定レプリカ生成部109は、以下のように、軟判定レプリカを生成する。ここで、軟判定シンボルx^(k)を式(5)とすると、QPSK変調の場合の軟判定シンボルx^(k)は、式(6)で表される。
【0047】
【数6】
【0048】
【数7】
【0049】
軟判定シンボルx^(k)は、式(7)の周波数領域(x^(f))に変換され、軟判定レプリカy^L,m(f)[行列CL×1の要素]が式(8)により生成される。
【0050】
【数8】
【0051】
【数9】
【0052】
ここで、周波数応答ベクトルhL,m(f)[行列CL×1の要素]は、周波数領域での推定チャネル行列H(f)の第m列に対応する。
【0053】
MMSE等化後の出力(2回目以降)X (f)は式(9)、MMSE等化は式(10)でそれぞれ表される。
【0054】
【数10】
【0055】
【数11】
【0056】
ここで、σは雑音分散、IはL×Lの単位行列、(・)は複素共役転置、wL,m(f)[行列CL×1の要素]は、式(11)で示される残留誤差係数βL,M,q(0≦βL,M,q≦1)を持つMMSEフィルタのウェイトである。
【0057】
【数12】
【0058】
なお、ストリームごとにLDPCのパリティチェックが成立すればβL,m,q=0とする。qはアウターループカウンタ(1≦q≦Qの整数)である。初回はβL,m,0=1である。ここで、残留誤差係数βL,m,qは、第1の判定値に対応し、ループごとに保存される(保存処理)。
【0059】
また、端末装置MSの組み合わせパタンの選択は、例えば、等化処理ループqごとの重み係数cを乗算したβL,M,qの和(重み付け和)として、式(12)においてPが最小となる端末装置MSの組み合わせパタンを選択する(判定処理)。ここで、Pは、第2の判定値に対応する。また、重み係数cはベクトルCの要素である。
【0060】
【数13】

【0061】
ここで、MinSoBは、Minimum Sum of Betaの略である。
【0062】
なお、ベクトルCの要素である重み係数cは任意の値であり、Cが0ベクトルでなければ要素に0を含むことができる。例えばCの要素が全て1であれば単純な和となる。
【0063】
また、等化処理ループqごとの重み係数cを乗算したβL,M,qの重み付け和ではなく、等化処理ループqごとの重み係数cを乗算したβL,M,qの積(重み付け積)が計算されてもよい。
【0064】
さらに、式(13)で表される処理ループqごとの残留誤差係数を組み合わせて端末装置MSの組み合わせパタンが選択されるようにしてもよい。
【0065】
【数14】
【0066】
例えば、先ず、式(14)で表される最終処理ループの残留誤差係数が小さい方から順に上位p(pは1以上の整数)個の候補パタンの絞り込みが行われる。さらに、絞り込まれた上位p個の候補パタンの中から、q=n回目(例えばn=1)の処理ループの残留誤差係数(式(15))が最小となる端末装置MSの組み合わせパタンが選択される。このように最終処理ループの残留誤差係数で絞り込んだ候補パタンの中から処理ループごとの組み合わせパタンを選択する段階的選択が行われてもよい。
【0067】
【数15】
【0068】
【数16】
【0069】
このようにして、全ての組み合わせパタンに対するMMSE等化の一連の処理が並列に繰り返し実行され、MMSE等化の繰り返しごとの残留誤差係数が全ての組み合わせパタンごとに保存される。そして、保存された繰り返しごとに算出される全ての残留誤差係数に基づいて、最適な端末装置MSの組み合わせパタンが選択される。
【0070】
以上の処理により、MIMO復調処理における繰り返し等化処理の中で算出された複数の残留誤差係数に基づいて端末装置MSの組み合わせを選択することで、繰り返し等化処理における複数の処理工程での等化結果を考慮し、伝搬路の時間変動に対して復調特性の劣化がより小さいロバストな端末装置MSの組み合わせを選択することができる。これにより、従来技術では、通信品質を保つためにはパケットごとに組み合わせパタンの選択を見直す必要があったが、本実施形態では、一定のMIMO復調特性を得るための組み合わせパタンの選択回数を低減することができるので、演算処理量の削減が可能になる。
【0071】
図3は、本実施形態に係る無線通信システム100における端末連携MIMO伝送処理の一例を示す。
【0072】
ステップS101において、基地局装置BSは、所望の信号の送信先である宛先の端末装置MS向けにMIMO方式により空間多重信号を送信する。
【0073】
ステップS102において、各端末装置MSは、自装置が宛先の端末装置ではない場合、自装置が受信した信号を宛先の端末装置MSに中継伝送する。なお、中継伝送は、基地局装置BSとの通信とは異なる通信回線により端末装置MS間で直接行われる。
【0074】
ステップS103において、宛先の端末装置MSは、自装置の受信信号および他の端末装置MSから中継伝送された受信信号を含む複数の受信信号の中からMIMO復調に用いる受信信号の全ての組み合わせパタンを生成する。ここで、組み合わせパタンは、例えば自装置をMS1、他の端末装置をMS2からMS6とした場合、パタン1:MS1、MS2、MS4、MS6、パタン2:MS1、MS3、MS4、MS5、パタン3:MS1、MS2、MS3、MS4、MS6、などのように生成される。
【0075】
ステップS104において、宛先MSは、ステップS103で生成された全ての受信信号の組み合わせパタンに対してMIMO復調処理を並列で実施し、MMSE等化の繰り返しごとの残留誤差係数と最終復調結果とを、例えば制御部111の記憶部などに保存する(保存処理)。
【0076】
ステップS105において、MMSE等化の各処理ループで得られた残留誤差係数に基づき、端末装置MSの組み合わせパタンを選択し、MIMO復調結果として出力される(判定処理)。具体的には、先に説明した判定により選択された端末装置MSの組み合わせパタンにおけるBP復号部108の尤度に対して硬判定が行われ、最終的な復号データがMIMO復調結果として出力される。
【0077】
以上の処理により、MIMO復調処理における繰り返し等化処理の中で算出された複数の残留誤差係数に基づいて端末装置MSの組み合わせを選択することで、繰り返し等化処理における複数の処理工程での等化結果を考慮し、伝搬路の時間変動に対して復調特性の劣化がより小さいロバストな端末装置MSの組み合わせを選択することができる。これにより、一定のMIMO復調特性を得るための端末装置の組み合わせパタンの選択回数を低減し、演算処理量の削減が可能になる。
【0078】
このように、本実施形態に係る無線通信システム100は、全ての組み合わせパタンに対するMMSE等化の一連の処理が並列に繰り返し実行され、MMSE等化の繰り返しごとの残留誤差係数が全ての組み合わせパタンごとに保存される。そして、保存された繰り返しごとに算出される全ての残留誤差係数に基づいて、最適な端末装置MSの組み合わせパタンが選択される。これにより、チャネル時変動に対して耐性のある端末装置の組み合わせパタンを選択でき、同じ組み合わせパタンを継続した際のFER(Frame Error Rate)が改善し、チャネル時変動に対するロバスト性が向上する。
【0079】
なお、本実施形態で説明した技術は、多段中継を行う複数の通信基地局装置からなる構成にも適用でき、送信装置から複数アンテナによりMIMO送信された信号を中継装置が中継して、宛先の受信装置がMMSE等化の残留誤差が最小となる中継装置群を選択してMIMO受信することにより、通信距離が延伸されるという効果も得られる。この場合、MMSE等化ループ処理途中の残留誤差を利用して、最適な中継装置の組み合わせを選択できるので、最終等化後の残留誤差のみを利用する場合に比べて品質が良好な通信を可能とする中継装置の選択を行うことができる。また、MMSE等化ループ処理途中の各時点の残留誤差係数を積算して考慮することにより、移動平均と同様の効果が生まれ、時変動に対する耐性が強化される。すなわち、ある一瞬の最適な中継装置の組み合わせを逐次選定するのではなく、長時間にわたって使用可能なロバストな中継装置の組み合わせを得ることができる。
【0080】
以上、実施形態で説明したように、本発明に係るMIMO復調方法および端末装置は、MIMO復調処理における繰り返し等化処理の中で算出された複数の残留誤差係数に基づいて端末装置の組み合わせを選択することで、繰り返し等化処理における複数の処理工程における等化結果を考慮でき、伝搬路の時間変動に対して復調特性の劣化がより小さいロバストな端末装置の組み合わせを選択することができる。これにより、一定のMIMO復調特性を得るための端末装置の組み合わせパタンの選択回数を低減し、演算処理量を削減することができる。
【0081】
なお、前述した実施形態における基地局装置BSおよび端末装置MSは専用装置による実現に限らず、汎用コンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、PLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されるものであってもよい。
【0082】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の技術思想及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行ってもよい。
【符号の説明】
【0083】
100・・・無線通信システム;101・・・選択部;102・・・CP除去部;103・・・S/P;104・・・FFT;105・・・MMSE等化部;106・・・IFFT;107・・・P/S;108・・・BP復号部;109・・・軟判定レプリカ生成部;110・・・組み合わせパタン生成部;111・・・制御部;BS・・・基地局装置;MS・・・端末装置
図1
図2
図3