(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114424
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】モータ用アモルファス積層コアおよびその製造方法、ならびにモータ用アモルファス合金薄帯
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20220729BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20220729BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
H01F41/02 C
H01F27/255
H01F41/02 Z
H02K1/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154979
(22)【出願日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2021009942
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021009943
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森次 仲男
(72)【発明者】
【氏名】高島 洋
【テーマコード(参考)】
5E062
5H601
【Fターム(参考)】
5E062AA02
5E062AA06
5H601AA26
5H601CC01
5H601DD01
5H601EE15
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB12
5H601GB33
5H601GB48
5H601HH02
5H601KK01
5H601KK08
5H601KK29
(57)【要約】 (修正有)
【課題】位置決め用の穴の亀裂の発生を抑制し、形状精度の良好なモータ用アモルファス積層コア及びその製造方法並びにモータ用アモルファス合金薄帯を提供する。
【解決手段】アモルファス合金薄帯を打ち抜いて形成されたアモルファス合金片を積層して構成されたモータ用アモルファス積層コア1であって、アモルファス合金片の複数の位置に片面側から加圧部材を押し付けて、割れが発生した加圧部の個数をN個とし、加圧部材を押し付けた加圧部の総数をN0個とし、N0が100以上であり、脆化度をN/N0×100(%)とし、加圧部材は、ベリリウム銅製であり、φ1.4mmの胴部と、円錐体形状部とを有し、円錐体形状部は底面がφ4mmで、頂角θが120°であり、円錐体形状部がアモルファス合金片に押し付けられ、加圧部材の押し付ける力を14Nに設定して、前記脆化度を評価したとき、アモルファス合金片の脆化度が3.0%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス合金薄帯を打ち抜いて形成されたアモルファス合金片を積層して構成されたモータ用アモルファス積層コアであって、
前記アモルファス合金片の複数の位置に片面側から加圧部材を押し付けて、割れが発生した加圧部の個数をN個とし、加圧部材を押し付けた加圧部の総数をN0個とし、N0が100以上であり、脆化度をN/N0×100(%)とし、
前記加圧部材は、ベリリウム銅製であり、φ1.4mmの胴部と、円錐体形状部とを有し、前記円錐体形状部は底面がφ4mmで、頂角θが120°であり、前記円錐体形状部が前記アモルファス合金片に押し付けられ、前記加圧部材の押し付ける力を14Nに設定して、前記脆化度を評価したとき、
前記アモルファス合金片の脆化度が3.0%以下であるモータ用アモルファス積層コア。
【請求項2】
前記加圧部の間隔を4~6mmとする請求項1に記載のモータ用アモルファス積層コア。
【請求項3】
アモルファス合金薄帯を打ち抜き、積層して作製されるモータ用アモルファス積層コアに用いられるモータ用アモルファス合金薄帯であって、
前記モータ用アモルファス合金薄帯は、幅が100mm以上の長尺状であり、
前記モータ用アモルファス合金薄帯の幅方向の両端部からそれぞれ5か所の計10か所、もしくは幅方向の両端部及び中央部からそれぞれ5か所の計15か所の評価領域を設定し、一つの評価領域は約53.5mm×約53.5mmの領域とし、前記一つの領域で313点に加圧部材を押し付けて、割れが発生した加圧部の個数をN個とし、加圧部材を押し付けた加圧部の総数をN0個とし、脆化度をN/N0×100(%)とし、
前記加圧部材は、ベリリウム銅製であり、φ1.4mmの胴部と、円錐体形状部とを有し、前記円錐体形状部は底面がφ4mmで、頂角θが120°であり、前記円錐体形状部がモータ用アモルファス合金薄帯に押し付けられ、前記加圧部材の押し付ける力を14Nに設定して、前記脆化度を評価したとき、
前記脆化度が3.0%以下であるモータ用アモルファス合金薄帯。
【請求項4】
前記加圧部の間隔を4~6mmとする請求項3に記載のモータ用アモルファス合金薄帯。
【請求項5】
アモルファス合金薄帯を打ち抜いてアモルファス合金片を作製し、前記アモルファス合金片を積層してモータ用アモルファス積層コアを作製するモータ用アモルファス積層コアの製造方法において、
幅が100mm以上であり、長尺状のアモルファス合金薄帯を用意し、
前記アモルファス合金薄帯の幅方向の両端部からそれぞれ5か所の計10か所、もしくは幅方向の両端部及び中央部からそれぞれ5か所の計15か所の評価領域を設定し、一つの評価領域は約53.5mm×約53.5mmの領域とし、前記一つの領域で313点に加圧部材を押し付けて、割れが発生した加圧部の個数をN個とし、加圧部材を押し付けた加圧部の総数をN0個とし、脆化度をN/N0×100(%)とし、
前記加圧部材は、ベリリウム銅製であり、φ1.4mmの胴部と、円錐体形状部とを有し、前記円錐体形状部は底面がφ4mmで、頂角θが120°であり、前記円錐体形状部がアモルファス合金薄帯に押し付けられ、前記加圧部材の押し付ける力を14Nに設定して、前記脆化度を評価したとき、
前記脆化度が3.0%以下であるアモルファス合金薄帯を用いるモータ用アモルファス積層コアの製造方法。
【請求項6】
前記加圧部の間隔を4~6mmとする請求項5に記載のモータ用アモルファス積層コアの製造方法。
【請求項7】
前記アモルファス合金薄帯に複数回の打ち抜きを行って前記アモルファス合金片を作製する請求項5または請求項6に記載のモータ用アモルファス積層コアの製造方法。
【請求項8】
前記アモルファス合金薄帯を積層してから打ち抜いて、積層体のアモルファス合金片を作製する請求項5~請求項7のいずれかに記載のモータ用アモルファス積層コアの製造方法。
【請求項9】
長尺のアモルファス合金薄帯が巻かれた原反から評価用試料を切り出し、前記評価用試料の前記脆化度を評価し、前記脆化度が3.0%以下であった原反のアモルファス合金薄帯を用いる請求項5~請求項8のいずれかに記載のモータ用アモルファス積層コアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ用アモルファス積層コア、およびその製造方法、ならびにモータ用アモルファス合金薄帯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全世界的に見てモータによる電力消費は全電力消費の約半分と言われている。モータにおける電力の損失は、モータ用コアにおける、磁心損失と、銅損と機械損に大きく分けられる。磁心損失のみに着目した場合、材料には良好な磁気特性が求められる。
【0003】
現在、モータ用コアに使われている主な軟磁性材料は、無方向性電磁鋼板である。しかし、近年、無方向性電磁鋼板よりもはるかに磁気特性が良好なアモルファス金属薄帯が注目されつつあり、限定的な用途では実用化され始めている。アモルファス合金薄帯の適用範囲が拡大すれば、世界的な電力消費を抑える一助となることは明確であり、利用の拡大が待望されている。なお、モータ用コアは、無方向性電磁鋼板やアモルファス合金薄帯を所定の形状に加工し、積層した、積層コアが用いられる。加工の方法は多々あるが、複雑な形状のモータ用コアを得るためには、その形状に沿った形に加工でき、かつ、加工時間が短い、打ち抜き加工が挙げられる。
【0004】
また、アモルファス合金薄帯は30μm程度のものが一般的に使用されている。この厚さは、無方向性電磁鋼板の板厚に対して1/5~1/20程度である。つまり、アモルファス合金薄帯で積層コアを製造する場合、積層数は多くなり、その分、打ち抜き加工の回数も増えることになる。
【0005】
アモルファス合金薄帯は、鋳造による一次加工のまま、あるいは、その薄帯の幅方向の縁部を切り落としたり、輸送等で取り扱いが容易なように所定の幅寸法や長さに切断加工したりした付加的加工を施した状態で市場に提供される。一般には、それを使って更に切断や打ち抜きなどの2次加工を施したものを磁心に使用する。以降、説明が容易な様に2次加工を行う前のアモルファス合金薄帯を原反と呼び区別する。
【0006】
例えば、特開2008-213410号公報や国際公開第2018/155206号では、アモルファス合金薄帯を積層し、その積層体に対して打ち抜き加工することが開示されている。どちらの公知文献も、積層してから打ち抜いているため、打ち抜き回数は減ることになる。
なお、特開2008-213410号公報では、厚さが8~35μmの軟磁性金属薄帯を複数枚積層した積層板を作製し、金属薄帯間の熱硬化性樹脂の各厚さが0.5μm以上2.5μm以下、積層板の総厚さが50μm以上250μm以下とした積層板を得て、それを打ち抜き加工することが開示されている。
【0007】
また、国際公開第2018/155206号では、積層したアモルファス金属薄帯の層間の一部を相互に固定する固定工程と、積層されたアモルファス金属薄帯の群の固定された固定部以外で切断し積層部材を打ち抜く打ち抜き工程と、を含む積層部材の製造方法が開示されている。この中で、アモルファス金属薄帯の厚さは10~60μmと記載されている。
【0008】
また、特開2003-324861号公報では、アモルファス薄板から鉄心片の所要箇所を打ち抜きするとともに、かしめ部を形成し、外形を抜きかしめ積層して鉄心を製造するにあたり、アモルファス薄板を金型装置にて鉄心片の打ち抜きをする前に、アモルファス薄板加熱装置で200℃以上から結晶化温度未満の温度域に加熱して、少なくとも鉄心片のかしめ部のかしめ用突起4(かしめ用開口16)を形成し、外形を抜き、かしめ積層することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-213410号公報
【特許文献2】国際公開第2018/155206号
【特許文献3】特開2003-324861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
モータ用アモルファス積層コアを作製する場合、アモルファス合金薄帯を打ち抜いて、所望の形状のアモルファス合金片とし、そのアモルファス合金片を積層して、モータ用アモルファス積層コアを作製する。このとき、一枚のアモルファス合金薄帯を打ち抜いてアモルファス合金片とする場合や、複数枚のアモルファス合金薄帯を積層した積層体を打ち抜いてアモルファス合金片とする場合がある。
【0011】
モータ用アモルファス積層コアの形状は、単純形状のものは少なく、細かな造形が必要な部分を含む場合がある。この場合、一回の打ち抜きでは形成が困難であり、複数回の打ち抜きを行って所望の形状のアモルファス合金片を得ることが必要となる。複数回の打ち抜きを行う場合、打ち抜きのステップ毎での位置決めが重要である。このため、位置決め用の穴を開け、穴に位置決めピンを挿入することにより、打ち抜きのステップ毎の位置決めを行うことが多い。
【0012】
本発明者は、複数回の打ち抜き工程を行う際、位置決め用の穴に亀裂が発生し、位置決め精度が保てなくなる場合が生じることを知見した。位置決め精度が保てなくなると、アモルファス合金片の形状の精度が悪くなり、所望のモータ用アモルファス積層コアが得られない。
【0013】
本開示は、位置決め用の穴の亀裂の発生を抑制し、位置決め精度を確保することを目的とし、それにより形状精度の良好なモータ用アモルファス積層コアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示は、以下の構成を備える。
<1> アモルファス合金薄帯を打ち抜いて形成されたアモルファス合金片を積層して構成されたモータ用アモルファス積層コアであって、
前記アモルファス合金片の複数の位置に片面側から加圧部材を押し付けて、割れが発生した加圧部の個数をN個とし、加圧部材を押し付けた加圧部の総数をN0個とし、N0が100以上であり、脆化度をN/N0×100(%)とし、
前記加圧部材は、ベリリウム銅製であり、φ1.4mmの胴部と、円錐体形状部とを有し、前記円錐体形状部は底面がφ4mmで、頂角θが120°であり、前記円錐体形状部が前記アモルファス合金片に押し付けられ、前記加圧部材の押し付ける力を14Nに設定して、前記脆化度を評価したとき、
前記アモルファス合金片の脆化度が3.0%以下であるモータ用アモルファス積層コア。
<2> 前記加圧部の間隔を4~6mmとする<1>に記載のモータ用アモルファス積層コア。
<3> アモルファス合金薄帯を打ち抜き、積層して作製されるモータ用アモルファス積層コアに用いられるモータ用アモルファス合金薄帯であって、
前記モータ用アモルファス合金薄帯は、幅が100mm以上の長尺状であり、
前記モータ用アモルファス合金薄帯の幅方向の両端部からそれぞれ5か所の計10か所、もしくは幅方向の両端部及び中央部からそれぞれ5か所の計15か所の評価領域を設定し、一つの評価領域は約53.5mm×約53.5mmの領域とし、前記一つの領域で313点に加圧部材を押し付けて、割れが発生した加圧部の個数をN個とし、加圧部材を押し付けた加圧部の総数をN0個とし、脆化度をN/N0×100(%)とし、
前記加圧部材は、ベリリウム銅製であり、φ1.4mmの胴部と、円錐体形状部とを有し、前記円錐体形状部は底面がφ4mmで、頂角θが120°であり、前記円錐体形状部がモータ用アモルファス合金薄帯に押し付けられ、前記加圧部材の押し付ける力を14Nに設定して、前記脆化度を評価したとき、
前記脆化度が3.0%以下であるモータ用アモルファス合金薄帯。
<4> 前記加圧部の間隔を4~6mmとする<3>に記載のモータ用アモルファス合金薄帯。
<5> アモルファス合金薄帯を打ち抜いてアモルファス合金片を作製し、前記アモルファス合金片を積層してモータ用アモルファス積層コアを作製するモータ用アモルファス積層コアの製造方法において、
幅が100mm以上であり、長尺状のアモルファス合金薄帯を用意し、
前記アモルファス合金薄帯の幅方向の両端部からそれぞれ5か所の計10か所、もしくは幅方向の両端部及び中央部からそれぞれ5か所の計15か所の評価領域を設定し、一つの評価領域は約53.5mm×約53.5mmの領域とし、前記一つの領域で313点に加圧部材を押し付けて、割れが発生した加圧部の個数をN個とし、加圧部材を押し付けた加圧部の総数をN0個とし、脆化度をN/N0×100(%)とし、
前記加圧部材は、ベリリウム銅製であり、φ1.4mmの胴部と、円錐体形状部とを有し、前記円錐体形状部は底面がφ4mmで、頂角θが120°であり、前記円錐体形状部がアモルファス合金薄帯に押し付けられ、前記加圧部材の押し付ける力を14Nに設定して、前記脆化度を評価したとき、
前記脆化度が3.0%以下であるアモルファス合金薄帯を用いるモータ用アモルファス積層コアの製造方法。
<6> 前記加圧部の間隔を4~6mmとする<5>に記載のモータ用アモルファス積層コアの製造方法。
<7> 前記アモルファス合金薄帯に複数回の打ち抜きを行って前記アモルファス合金片を作製する<5>または<6>に記載のモータ用アモルファス積層コアの製造方法。
<8> 前記アモルファス合金薄帯を積層してから打ち抜いて、積層体のアモルファス合金片を作製する<5>~<7>のいずれかに記載のモータ用アモルファス積層コアの製造方法。
<9> 長尺のアモルファス合金薄帯が巻かれた原反から評価用試料を切り出し、前記評価用試料の前記脆化度を評価し、前記脆化度が3.0%以下であった原反のアモルファス合金薄帯を用いる<5>~<8>のいずれかに記載のモータ用アモルファス積層コアの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、脆化度の良好なアモルファス合金薄帯を用いてモータ用アモルファス積層コアが構成されるため、位置決め用の穴の亀裂の発生を抑制し、形状精度の良好なモータ用アモルファス積層コア提供することが出来る。また、脆化度の良好なモータ用アモルファス合金薄帯を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の一実施形態のモータ用アモルファス積層コアを示す図である。
【
図2】本開示の一実施形態のモータ用アモルファス積層コアに用いるアモルファス合金片の平面図である。
【
図3】本開示の一実施形態のモータ用アモルファス積層コアの製造方法に用いる順送金型の構造を示す模式図である。
【
図4】本開示の一実施形態のモータ用アモルファス合金薄帯の脆化の評価領域を示す図である。
【
図5】本開示の別の実施形態のモータ用アモルファス合金薄帯の脆化の評価領域を示す図である。
【
図6】本開示の別の実施形態のモータ用アモルファス合金薄帯の脆化の評価領域を示す図である。
【
図7】本開示の別の実施形態のモータ用アモルファス合金薄帯の脆化の評価領域を示す図である。
【
図8】本開示の加圧部材の一例を示す模式図である。
【
図9】本開示のアモルファス合金薄帯の脆化を評価するのに用いる装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【
図10】本開示のアモルファス合金薄帯の脆化を評価するのに用いる装置の概略構成の他の例を示す模式図である。
【
図11】本開示の脆化評価において試料を装置の試料台に配置した状態の一例を示す図である。
【
図12】本開示の脆化評価にて試料の加圧部における割れ確認方法の一例を説明するための図である。
【
図13】本開示の脆化評価に使用する試料の平面図である。
【
図14】本開示の一実施形態の割れのない加圧部のレーザー顕微鏡による拡大写真である。
【
図15】本開示の一実施形態の割れの発生した加圧部のレーザー顕微鏡による拡大写真である。
【
図16】
図14と同じ視野での加圧部の表面のうねりを明度の差とした写真である。
【
図17】
図15と同じ視野での加圧部の表面のうねりを明度の差とした写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の好ましい実施形態に関して図を参照しながら説明するが、以下で説明する実施形態に必ずしも限定されるものではなく、特に記載がない限りは、特許請求の範囲に含まれる代替例及び改変例を含む。また参照する図面にて、同じ符号は相互に同じ要素であることを示していて、説明にて重複する内容は適宜省略する場合がある。
【0018】
本開示の一実施形態のモータ用アモルファス積層コア1を
図1に示す。このモータ用アモルファス積層コアに用いるアモルファス合金片2の平面図を
図2に示す。このモータ用アモルファス積層コア1は、モータのステータコアとして使用することができる。このモータ用アモルファス積層コア1は外周の円形のヨーク部3とそこから中心方向に突出したティース部4とを備えており、このティース部には巻線が形成される。
図2のアモルファス合金片に、このヨーク部3とティース部4とを示す。
【0019】
このアモルファス合金片2はアモルファス合金薄帯を打ち抜いて作製され、そのアモルファス合金片を積層して、モータ用アモルファス積層コア1が作製される。このアモルファス合金片2を作製する場合、1枚のアモルファス合金薄帯を打ち抜いて作製する場合と、複数枚のアモルファス合金薄帯の積層体を打ち抜いて作製する場合と、がある。
【0020】
このアモルファス合金片は、細かい造形が必要であり、アモルファス合金薄帯を打ち抜く際、一回の打ち抜きで必要な形状の打ち抜きが困難である。このため、複数回の打ち抜きを行って作製する。この複数回の打ち抜きとして、順送金型を用いることができる。
【0021】
図2のアモルファス合金片2を作製する場合の順送金型の一例の概念図を
図3に示す。ここで、アモルファス合金薄帯5は図中左から右に移動して、ステップ(a)から(e)の打ち抜きが順次行われる。
ステップ(a)では、位置決め用の穴6(
図3の左端の上下の2つの穴)を形成する。この位置決め用の穴6は、次ステップでの位置決めに利用される。
ステップ(b)では、位置決め用の穴6に位置決めピンを挿入して位置決めし、ティース部4を構成する打ち抜き部7を3か所打ち抜く。
ステップ(c)では、位置決め用の穴6に位置決めピンを挿入して位置決めし、ティース部4を構成する打ち抜き部7を3か所打ち抜く。
ステップ(d)では、位置決め用の穴6に位置決めピンを挿入して位置決めし、ティース部4を形成し、内周空間を形成する円形の打ち抜き8を行う。
ステップ(e)では、位置決め用の穴6に位置決めピンを挿入して位置決めし、円形のヨーク部3の外周の円形の打ち抜き9を行う。
これにより、
図2に示すアモルファス合金片2を打ち抜くことができる。
【0022】
ステップ(e)で打ち抜かれたアモルファス合金片2を、打ち抜きと同時に積み重ねていくこともできる。また、ステップ(e)では打ち抜きのみとし、別途アモルファス合金片2を積層してモータ用アモルファス積層コアを作製することもできる。また、ステップ(e)で打ち抜きと同時に積み重ねる作業を行い、その積み重ねたアモルファス合金片2を別工程でさらに積み重ねてモータ用アモルファス積層コアを作製することもできる。
【0023】
このように複数回の打ち抜きにより、アモルファス合金片2を作製することができる。この複数回の打ち抜きにおいて、位置決め用の穴は、打ち抜き精度を確保する上で重要な部分である。この複数回の打ち抜き工程中に、位置決め用の穴に亀裂が発生すると、位置決め精度が低下し、所望の形状のアモルファス合金片2を作製することができない。そのため、本発明者は、複数回の打ち抜き工程中に、位置決め用の穴に亀裂が発生しないようにするための手段を検討した。
【0024】
アモルファス合金薄帯は、適正な組成に調整された溶湯を約106℃/秒の冷却条件で、単ロール超急冷凝固法等により連続鋳造して得られる。アモルファス合金薄帯は、冷却ロールの表面傷や、異物の付着等による冷却ロール表面の凹凸や、冷却ロールの温度分布が不均一であったりする等、製造工程での様々な要因によって適正な速度で冷却が得られない部分が生じ、一部が結晶化したものとなる場合がある。また合金に含まれる不純物の影響等によっても、アモルファス合金薄帯に部分的な合金組成のゆらぎが生じたりする場合もある。この様な冷却の不均一や合金組成のゆらぎが生じると、一部が結晶化したアモルファス合金薄帯となりやすい。このようなアモルファス合金薄帯は部分的に脆化したものとなり易く、脆化した部分で強度が弱くなると考えられる。この脆化で強度が弱くなったアモルファス合金薄帯を用いて、複数回の打ち抜きを行うと、位置決め用の穴に亀裂が発生する可能性が高くなると考えられる。
【0025】
アモルファス合金薄帯の脆化の評価には引裂試験が用いられることが知られている。具体的には、JIS C2534(2017)やIEC60404-8-11に引裂き脆性(strip tear ductility)として規定されている評価法がある。これらの試験では、長尺のアモルファス合金薄帯から一定長さ(鋳造ロールの周長の2倍の長さ)の試験片(サンプル)を得て、試験片をアモルファス合金薄帯の鋳造方向に引き裂き、生じる脆性スポット(brittle spots)の数で区分し評価する。脆性スポットは、試験片を引き裂いたときに、裂け目の経路、方向の変化、破片分離など約6 mm以上の寸法での損傷が生じた領域として定義されている。引裂き脆性の特性は脆性スポットの数で5段階に区分される。エッジから幅方向に12.7mm及び25.4mm、並びに幅方向中央の5か所で鋳造方向と平行な方向に引き裂き、試験片1枚中の脆性スポットの個数が10を超えないことが規定されている。
【0026】
アモルファス合金薄帯の脆化の評価として、上記した引裂試験は存在しているものの、本開示の課題を解決するためには、より詳細な評価が必要と考え、本発明者は、新たな評価方法を見出した。
本発明者が新たに見出したアモルファス合金薄帯の脆化を評価する方法は、アモルファス合金薄帯もしくはアモルファス合金片に対し、複数の位置に片面側から加圧部材を押し付けて、割れが発生した加圧部の個数をN個とし、加圧部材を押し付けた加圧部の総数をN0個とし、脆化度をN/N0×100(%)とするものである。
そして、脆化度が3.0%以下であるアモルファス合金薄帯を用いることにより、複数回の打ち抜き工程中に、位置決め用の穴に亀裂が発生することを抑制できることを見出した。
この脆化度は2.5%以下が好ましく、さらに2.0%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましい。
【0027】
モータ用アモルファス合金薄帯は、幅が100mm以上であることが好ましい。より好ましくは140mm以上であり、大型のモータに使われる場合、より幅広のアモルファス合金薄帯が好ましい。例えば200mm以上や、220mm以上が要求される場合がある。
アモルファス合金薄帯は、上記したとおり、単ロール超急冷凝固法で連続鋳造して得られ、長尺な形態で製造される。
【0028】
モータ用アモルファス合金薄帯の脆化を評価する場合、例えば幅が100mmのアモルファス合金薄帯では、
図4に示すように、アモルファス合金薄帯41の幅方向の両端部からそれぞれ5か所の計10か所の評価領域12a,12cを設定する。一端側の評価領域12aは、縁部から約8.3mm内側で、一つの評価領域を約53.5mm×約53.5mmの領域とする。他端側の評価領域12cも縁部から約8.3mm内側で、一つの評価領域を約53.5mm×約53.5mmの領域とする。そして、一つの領域で313点に加圧部材を押し付けて、割れが発生した加圧部の個数を算出し、割れが発生した加圧部の個数をN個とし、加圧部材を押し付けた加圧部の総数をN0個とし、脆化度をN/N0×100(%)として算出する。ここで、N0個は3130個となる。
【0029】
図5は、幅が142mmのアモルファス合金薄帯の場合の評価領域の一例を示す図である。
図5に示すように、アモルファス合金薄帯51の幅方向の両端部及び中央部からそれぞれ5か所の計15か所の評価領域12a,12b、12cを設定する。一端側の評価領域12aは、縁部から約8.3mm内側で、一つの評価領域を約53.5mm×約53.5mmの領域とする。他端側の評価領域12cも縁部から約8.3mm内側で、一つの評価領域を約53.5mm×約53.5mmの領域とする。中央部の評価領域12bは、幅方向の中央部で、一つの評価領域を約53.5mm×約53.5mmの領域とする。そして、一つの領域で313点に加圧部材を押し付けて、割れが発生した加圧部の個数を算出し、割れが発生した加圧部の個数をN個とし、加圧部材を押し付けた加圧部の総数をN0個とし、脆化度をN/N0×100(%)として算出する。ここで、N0個は4695個となる。
【0030】
図6は、幅が213mmのアモルファス合金薄帯の場合の評価領域の一例を示す図である。
図6に示すように、アモルファス合金薄帯61の幅方向の両端部及び中央部からそれぞれ5か所の計15か所の評価領域12a,12b、12cを設定する。評価領域は、
図5で説明したとおりである。
また
図7は、幅が240mmのアモルファス合金薄帯の場合の評価領域の一例を示す図である。
図7に示すように、アモルファス合金薄帯71の幅方向の両端部及び中央部からそれぞれ5か所の計15か所の評価領域12a,12b、12cを設定する。評価領域は、
図5で説明したとおりである。
【0031】
図8に加圧部材の一例を示す。この加圧部材125は、ベリリウム銅製であり、φ1.4mmの円柱状の胴部126と、円錐体形状部127とを有し、円錐体形状部127は底面がφ4mmで、頂角θが120°であり、円錐体形状部がアモルファス合金薄帯に押し付けられる。また、この加圧部材125の押し付ける力を14Nに設定する。
【0032】
脆化評価に使用する加圧試験装置について説明する。
図9、10は、脆化評価に用いる加圧試験装置の概略構成を示す模式図である。試料10を配置可能な平面を有する試料台110と、試料台110の上方に位置し、試料台110に配置された試料10の平面に対して実質的に垂直な方向に加圧可能な加圧手段とを備えている。なお、この加圧試験装置100の構成の一例では、脆化評価を行うアモルファス合金薄帯もしくはアモルファス合金片を矩形の試料10として記載する。この試料10は、図に示す形状に限定されず、評価するアモルファス合金薄帯またはアモルファス合金片の形態のものに置き換えることができる。
【0033】
図9に図示した加圧試験装置100では、加圧手段の位置を移動させるためのX軸方向駆動部130及びZ軸方向駆動部150と、試料台110を移動させるためのY軸方向駆動部140とを備えていて、それらを移動手段として加圧手段を試料10上の任意の位置に相対移動可能としている。なお
図10に示すように、試料台110を可動ステージとせずに、加圧手段をX軸方向駆動部130、Y軸方向駆動部140、Z軸方向駆動部150で移動させ、試料10は試料台110に定置する試験装置であっても良い。
各駆動部130、140、150は図示しないステッピングモータあるいはサーボ(パルス)モータ、ボールねじ及び直線ガイドを有し、更に位置検出のためのエンコーダを含むのが好ましい。
【0034】
加圧試験装置100の試料台110に配置された試料10に対して、上方に位置する加圧手段は、試料10を加圧し圧痕を形成可能な加圧部材125を有している。この加圧部材125を試料10に押し付ける力は、割れの有無を評価するために、一定の力が必要である。本開示では、加圧部材125を試料10に押し付ける力を14Nに設定した。
【0035】
加圧部材125の加圧手段は、例えばフォースゲージ120と加圧部材125とを含み、フォースゲージ120に棒状の加圧部材125をコレットチャック等の固定手段を介して接続して構成される。加圧手段は加圧試験装置100のZ軸方向駆動部150のスライダにボルト締結等で固定されている。Z軸方向駆動部150により加圧手段を試料10の平面に向けて所定の速度で降下させ、加圧部材125の先端側を試料10に押し付け加圧する。加圧部材125の先端は予め設定された位置となるまで降下し、試料10に圧痕を伴う加圧部を形成した後、試料10から離れるようにZ軸方向駆動部150により所定の位置まで上昇する。次いで、X軸方向駆動部130とY軸方向駆動部140により、加圧手段を試料10の平面上の異なる位置に移動させた後、次の加圧部の形成を所定の回数、繰り返して行う。加圧部形成の一連の動作は、プログラム可能な制御装置によって自動制御するのが好ましい。なお加圧部形成時に試料10に押し付ける力は、加圧部材125を取り付けたフォースゲージ120により測定することが出来る。試料10の厚みは薄くて、圧痕が残る加圧部では、試料10の加圧面側が窪み、その反対面側は突起となる。加圧部材125の先端が半球形や頂角が鈍角の錐状であれば、加圧部の割れは突起の頂部付近から裾にかけて生じ易い。
【0036】
また加圧手段は、図示しない荷重センサ(ロードセル)と加圧部材125とを含む構成としても良い。ロードセルからの電気信号に基づいて得られる圧力情報から、試料10への加圧部の形成を制御することも出来る。加圧部材125の先端側が試料10の平面に当接し、更に設定された位置になるまで降下するに従い、試料10に加わる力が増加する。加圧部材125が所定の降下位置となるまでに加圧部に割れが生じれば力は減少する。このような押し付ける力の変化をロードセルにより検出し、加圧部形成にて試料10に加わる力に対応する電気信号を得て、AD変換手段により、前記電気信号を増幅する増幅手段からのアナログ信号の出力をデジタル信号に変換して検出することで、加圧部における割れの発生の有無を判断することが可能である。また演算処理手段により、加圧部における押し付ける力分布や、割れが発生した加圧部の分布、割れが発生した単位面積当たりの加圧部の数などのデータも容易に得ることもできる。
【0037】
また、ロードセルからの情報に基づいて、加圧部に加わる力が予め設定された値(14N)となるまで加圧部材125の先端側を降下させても良い。割れの発生を検出した場合は、加圧部材125の降下を止めて所定の位置まで上昇させ、次の加圧部形成の動作に移行させても良い。
【0038】
図11は試料10を加圧試験装置の試料台に配置した状態の一例を示す図である。
図11に示した例では、平坦な試料台上に板状の金属製のベース部材20が配置され、磁気吸着部材25、弾性部材30を順に重ねた上に、試料10が配置される。なお試料10にて黒く塗りつぶした楕円で示した部位は、試料10の加圧部と対応する。ベース部材20が動いて試料10の位置がずれるのを防止するため、ベース部材20には試料台110とねじ等で締結固定可能なように貫通孔が形成されるのが好ましい。固定は締結の他にクランプや吸着等の既知の手段であっても構わない。ベース部材20は加工性を考慮するとアルミニウムを使用するのが好ましいが、磁気吸着部材25との固定が容易となるようにスチール製やステンレス製であってもよい。
【0039】
磁気吸着部材25は試料10を磁気吸着で固定する磁気吸着手段であり、マグネットシートで構成するのが好ましい。ベース部材20が非磁性ならマグネットシートは両面テープなどの接着手段で固定すれば良い。試料10は高々数十μm以下の厚みの板状であるが、その加圧部を形成する領域の少なくとも一部の範囲や、好ましくは全体を覆う大きさのマグネットシートとすることで、面全体で弾性部材30を介して試料10を磁気吸着して固定することが出来る。また取り外しが容易でもあるように、磁気吸着手段自体の磁力や磁気吸着手段と試料10との間隔などで吸着力を調整するのが好ましい。
【0040】
試料10を塑性変形させ圧痕を備えた加圧部とするのに、その変形を妨げないように、試料台110と試料10との間に弾力性のある下地として弾性部材30を配置するのが好ましい。弾性部材30により下層のマグネットシート等へ試料10を介して加わる加圧部形成時の応力を吸収、分散させることも出来る。
【0041】
弾性部材30はフッ素ゴムやシリコンゴムのシートであるのが好ましい。弾性部材30の大きさもまた磁気吸着部材25と同様に試料10の加圧部を形成する領域の少なくとも一部を覆い、更には全体を覆う大きさとするのが好ましい。求められる機能から、弾性部材30はショアA硬さが30以上100以下のものとすることが好ましく、35以上90以下のものとすることがさらに好ましく、40以上70以下のものとすることがさらに好ましい。また、厚さは0.5mm以上であることが好ましく、0.8mm以上であることがさらに好ましく、1.0mm以上であることがさらに好ましい。弾性部材30が厚くなるほど磁気吸着部材25による試料10の磁気吸着力が得られ難くなるため、厚さは3.0mm以下であるのが好ましく、2.5mm以下であるのがさらに好ましく、2.0mm以下であるのが一層に好ましい。
【0042】
次に、加圧試験工程を経た試料10の確認方法について説明する。加圧部の状態(割れの有無)は圧痕の観察で得られ、拡大鏡や光学顕微鏡を用いて目視により評価しても良いし、CCDカメラやCMOSカメラなどの撮像手段で圧痕を観察し、得られた画像データを画像処理して評価しても良い。
【0043】
図12は加圧部での割れの発生の確認方法の一例を説明するための図である。図示した例では透明な樹脂や無機ガラス等の板をステージ160とし、その下方に蛍光灯やハロゲンライト、あるいは発光ダイオードなどの光源170を配置した光源装置を使用する。加圧部の窪み側が光源170側となるように試料10を光源装置のステージ160に重ね、光源170からの光を試料10の加圧部に形成された割れ11を通じて透過させる。加圧部の窪み側に光源を置くことで加圧部の透過光は突起側から目視による観察でも明瞭に確認することが出来る。更に顕微鏡や拡大鏡を用いて低倍率(典型的には10~50倍程度)で観察することで、幅をもってスジ状に光る割れ11の部分が明瞭となる。もともとアモルファス合金薄帯が有する傷や孔などの欠陥とは、局所的な光の透過(輝度)の差や、発生個所、加圧部形成による割れの形態の差から区別が可能で、微細な割れについても判定することができる。
【0044】
CCDカメラやCMOSカメラを使って拡大し、モニタに投影させた状態で加圧部の観察を行うのも好ましい。また加圧部の状態を評価するのに画像分析して行っても良い。観察される試料10の加圧部に生じた割れの程度(損傷の厳しさ)と脆化の程度は相関することが判明していて、例えば撮影した画像を演算処理手段により2値化処理して、割れ部分に相当するスジ状模様部の有無、その面積等を定量化して、閾値を基に割れの有無や程度を判断するのも好ましい。これによって判定を容易に行えるとともに、個人差による判定のばらつきを抑えることが出来る。
【0045】
なお割れは加圧部の表面形状のうねりの不連続さで判別しても良い。試料10の加圧部の表面のうねりの測定はレーザー顕微鏡などで非接触にて行うことが出来る。
【0046】
本開示のアモルファス合金薄帯の組成については特に限定されないが、例えば、Metglas(登録商標)2605SA1材や2605HB1M材として知られるFe-Si-B系の組成のもの、他の元素を含むFe-Si-B-C系、Fe-Si-B-C-Cr系等の組成のものがある。またアモルファス合金薄帯は熱処理することでナノ結晶化可能なものでも良い。例えば、ファインメット(登録商標)と知られるFe-Si-B-Cu-Nb系の組成のもの、他のFe-Cu-Si-B系、Fe-Cu-B系、Fe-Ni-Cu-Si-B系等の組成のものがある。これらのアモルファス合金薄帯の厚さは、10~40μmであることが好ましい。
【0047】
加圧試験装置の説明では、評価のために幅70mm、長さ70mmに切り出した試料10として説明した。ただし、このサイズの試料に限定されない。
例えば、幅142mmのアモルファス合金薄帯の脆化を評価する場合、幅142mmのままで、評価に適した長さ(例えば、長さ1mくらい)に切断したアモルファス合金薄帯を試料10として用い、アモルファス合金薄帯の評価領域が加圧試験装置の試料10で示した位置になるように配置して、アモルファス合金薄帯を移動させつつ評価することができる。
【0048】
また、モータ用アモルファス積層コアを製造する場合、打ち抜きに供されるアモルファス合金薄帯で脆化を評価し、脆化度が3.0%以下のアモルファス合金薄帯を用いて、打ち抜き工程を行い、打ち抜き工程で得られたアモルファス合金片を積層して、モータ用アモルファス積層コアを製造することができる。これにより、複数回の打ち抜き工程中に、位置決め用の穴に亀裂が発生することを抑制し、位置決め精度を確保しつつ、モータ用アモルファス積層コアを作製することができる。これにより、形状精度の良好なモータ用アモルファス積層コアを得ることができる。
本開示のモータ用アモルファス積層コアのアモルファス合金片は、脆化度が3.0%以下である。打ち抜かれた後のアモルファス合金片の場合、
図4~
図7で示した箇所での評価を行う面積を有しないため、例えば、ヨーク部3やティース部4から評価箇所を選択し、加圧試験装置で、加圧部が100か所以上となるように加圧試験を行い、脆化度を評価することができる。この脆化度は、打ち抜き前のアモルファス合金薄帯の脆化度と同程度である。
【実施例0049】
(実施例1)
Fe―Si―B系のアモルファス合金薄帯(日立金属株式会社製2605HB1M)を使って、その脆化を評価した。それぞれ製造ロットが異なる4つのアモルファス合金薄帯(試料1~4)と、製造プロセスが異なる1つのアモルファス合金薄帯(試料5)を準備した。このアモルファス合金の薄帯は幅が142mmで厚さが26μmであり、それぞれ重量が約700kgのものである。この5つのアモルファス合金薄帯から評価用の試料を切り出した。幅は142mmのままで、長さは1.03mとした。
【0050】
加圧試験装置として3軸ロボットを使用して、試料の一評価領域に313点の圧痕を伴う加圧部を形成する。
3軸ロボットとして株式会社アイエイアイ製のテーブルトップ型ロボットTTシリーズを使用し、そのZ軸方向駆動部のスライダには、加圧部材が取り付けられたアイコーエンジニアリング株式会社のプッシュプルゲージをボルトで締結固定している。加圧部材は
図8に示すような、円柱状の胴部とその端部に頂角が鈍角の円錐体形状部を備えたものとした。使用した加圧部材はベリリウム銅製で、胴部がφ1.4mm、円錐体形状部は底面がφ4mmで、頂角θが120°である。
【0051】
3軸ロボットのY軸方向駆動部のスライダ(試料台)にはベース部材20として厚み15mmのアルミニウム板がボルトで締結固定され、重ねて磁気吸着部材25として厚みが0.7mmの市販のマグネットシートを両面テーブで固定した。弾性部材30として市販のシリコンゴムのシートをマグネットシート上に重ねた。シリコンゴムは厚みが0.8mmで、ショアA硬さ50のものを使用した。シリコンゴムのシートには試料を配置するための位置決めにマーキングが形成されていて、それを基準に試料を重ねて配置し、加圧部の形成を行った。
試料の評価領域が
図5に示す評価領域12aの位置となるように、試料を配置し、必要に応じ試料を移動させて、15か所の評価領域に加圧試験を行った。
【0052】
試料の一評価領域の平面図を
図13に示す。なお、
図13では試料10は幅70mm、長さ70mmに切り出した試料10として記載している。図中に黒丸で示した複数の箇所は加圧部を形成する箇所を示している。3軸ロボットの動作は予めプログラムされていて、約53.5mm×約53.5mmの領域を加圧する範囲S(
図13中の四隅の加圧部の中心を繋ぐ細線で示された領域)とし、隣り合う加圧部の間隔を4.46mmとなるように加圧部材の先端で千鳥状に形成し、一つの評価領域あたり313点の加圧部が形成されるようにX軸方向駆動部、Y軸方向駆動部の動作を制御した。また加圧部材を300mm/sで予め設定された位置まで降下させ、降下位置から所定の位置まで上昇するようにZ軸方向駆動部を制御した。Z軸方向の位置は、試料と同じ原反から得た条件設定用のサンプルを使い、割れが生じた加圧部と割れが生じていない加圧部が混在するように設定した。割れが生じていない加圧部にてフォースゲージで計測される力は約14Nであった。
5つのアモルファス合金薄帯から切り出された5つの試料に対して、それぞれ
図5に示す評価領域にて、加圧試験を行った。
【0053】
試料の加圧部をレーザー顕微鏡(キーエンス製VK-X1000)により、倍率を20倍として520μm×700μmの領域を突起側から観察し、割れの状態を確認した。
図14、15にレーザー顕微鏡による加圧部の拡大写真を示す。
図14は割れが生じていない加圧部の写真であり、
図15は割れが生じた加圧部の写真であり、それぞれ典型的な形態として示す。また
図14、15と同じ観察視野で、表面のうねりを画像処理し、視覚的に確認可能な色調に変換して確認した。
図16、17はその表面のうねりを明度の差とした写真である。
図16に示す割れが生じていない加圧部は、表面のうねりは連続する明度としてハロー(halo)状に観察された。一方、
図17に示す割れが生じている加圧部は、中央部から四方に割れが走り、割れで区画される領域では、表面のうねりは異なる明度として観察された。
【0054】
次に、5つのアモルファス合金薄帯を使い、
図3に示す順送金型を用いて、
図2に示すアモルファス合金片の複数回の打ち抜きを行った。それぞれのアモルファス合金薄帯において、打ち抜いた後の位置決め用の穴の亀裂の有無を確認した。
【0055】
5つの試料の評価結果を表1に示す。表1は、加圧部の総数N0、割れが発生した加圧部の個数N、脆化度、位置決め用の穴の確認総数、及び亀裂が発生した位置決め用の穴の個数を示す。
表1に示すとおり、脆化度が3.0%以下である試料1~4のアモルファス合金薄帯を用いた場合、位置決め用の穴の亀裂の発生を抑制できている。
【0056】
【0057】
本開示によれば、脆化度の良好なアモルファス合金薄帯を用いてモータ用アモルファス積層コアを製造することができ、複数回の打ち抜き工程を行う際、位置決め用の穴に亀裂が発生することを抑制することができる。これにより、形状精度の良好なモータ用アモルファス積層コアを得ることができる。