(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011497
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】元素分析装置の校正方法、元素分析装置、及び、元素分析装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 31/12 20060101AFI20220107BHJP
G01N 21/61 20060101ALI20220107BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G01N31/12 A
G01N21/61
G01N21/27 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020112678
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】米重 英成
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】駒井 佑美
【テーマコード(参考)】
2G042
2G059
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA01
2G042BA04
2G042BA05
2G042CA03
2G042CA04
2G042CB06
2G042DA04
2G059AA01
2G059BB01
2G059BB08
2G059CC04
2G059CC09
2G059DD02
2G059DD03
2G059DD12
2G059EE01
2G059HH01
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】校正可能な検量線が比例式に限られず、従来よりも検量線の校正精度を向上させることが可能な元素分析装置の校正方法を提供する。
【解決手段】赤外線吸収法に基づく元素分析装置の校正方法であって、基準時において前記試料が基準時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記基準時管理試料の実測秤量値に基づいて目標秤量値当たりの値に規格化した基準含有量を算出し、前記基準時から所定期間経過した校正時において前記試料が校正時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記校正時管理試料の実測秤量値に基づいて前記目標秤量値当たりの値に規格化した校正時含有量を算出し、前記基準含有量と、前記校正時含有量とに基づいて前記検量線を校正する校正係数を算出する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれる分析対象の元素をガス化して抽出する加熱炉と、赤外線吸収法に基づいて抽出されたガスを分析して前記試料に含まれる元素の補正前質量を検出し、分析後のガスが排気されるように構成された検出機構と、前記試料が標準試料である場合に前記検出機構が検出した前記補正前質量と、前記標準試料に含まれる分析対象の元素の理論含有量との間の関係を示す検量線を記憶する検量線記憶部と、前記補正前質量を前記検量線に基づいて補正後質量に換算する補正演算部と、を備えた元素分析装置の校正方法であって、
基準時において前記試料が基準時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記基準時管理試料の実測秤量値に基づいて目標秤量値当たりの値に規格化した基準含有量を算出し、
前記基準時から所定期間経過した校正時において前記試料が校正時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記校正時管理試料の実測秤量値に基づいて前記目標秤量値当たりの値に規格化した校正時含有量を算出し、
前記基準含有量と、前記校正時含有量とに基づいて前記検量線を校正する校正係数を算出することを特徴とする元素分析装置の校正方法。
【請求項2】
前記検量線が、前記補正前質量を入力変数x、前記補正後質量を出力変数y、とする関数であり、
前記校正係数として前記入力変数xに乗じられるαを少なくとも算出する請求項1記載の元素分析装置の校正方法。
【請求項3】
前記基準時において1種類の基準時管理試料について1又は複数回分析して得られた前記補正前質量、又は、各補正前質量の平均値を1つの前記基準含有量として算出し、
前記校正時において1種類の校正時管理試料について1又は複数回分析して得られた前記補正前質量、又は、各補正前質量の平均値を1つの前記校正時含有量として算出し、
前記基準含有量に対する前記校正時含有量の比の値を前記校正係数αとして算出する請求項2記載の元素分析装置の校正方法。
【請求項4】
前記基準時において分析対象の元素の理論含有量又は理論濃度が異なる複数種類の基準時管理試料についてそれぞれ1又は複数回分析して得られた前記補正前質量、又は、種類ごとの各補正前質量の平均値を複数の前記基準含有量として算出し、
前記校正時において複数種類の前記基準時管理試料と対応する複数種類の校正時管理試料についてそれぞれ1又は複数回分析して得られた前記補正前質量、又は、種類ごとの各補正前質量の平均値を複数の前記校正時含有量として算出し、
複数対からなる前記基準含有量と前記校正時含有量の組に基づく最小二乗法によって前記校正係数αを算出する請求項2記載の元素分析装置の校正方法。
【請求項5】
校正前の前記検量線が、傾きAを有する比例式y=Axであり、
前記校正係数αとして複数対からなる前記基準含有量と前記校正時含有量の組の原点を通る回帰直線の傾きを最小二乗法によって算出し、
前記検量線記憶部に式y=A(αx)を校正後の検量線として記憶させる請求項4記載の元素分析装置の校正方法。
【請求項6】
校正前の前記検量線が、傾きA、切片Bを有する一次関数y=Ax+Bであり、
前記校正係数αとして複数対からなる前記基準含有量と前記校正時含有量の組の回帰直線の傾きを算出するとともに、校正係数βとして前記回帰直線の切片を算出し、
前記検量線記憶部に式y=A(αx+β)+Bを校正後の検量線として記憶させる請求項4記載の元素分析装置の校正方法。
【請求項7】
校正前の前記検量線が、入力変数xの多項式であり、
前記校正係数αとして複数対からなる前記基準含有量と前記校正時含有量の組の回帰直線の傾きを算出するとともに、校正係数βとして前記回帰直線の切片を算出し、
前記検量線記憶部に入力変数を(αx+β)に変換した式を校正後の検量線として記憶させる請求項4記載の元素分析装置の校正方法。
【請求項8】
校正前の前記検量線が、2次係数A、1次係数B、定数項Cを有する2次関数y=Ax2+Bx+Cであり、
1種類の基準時管理試料について複数回分析して得られた各補正前質量の平均値である前記基準含有量と、1種類の校正時管理試料について複数回分析して得られた各補正前質量の平均値である前記校正時含有量の比の値を前記校正係数αとして算出し、
前記検量線記憶部に式y=A(αx)2+B(αx)+Cを校正後の検量線として記憶させる請求項3記載の元素分析装置の校正方法。
【請求項9】
校正前の前記検量線が、傾きA、検量線作成時において試料に含まれる分析対象の元素をガス化して抽出していない場合に前記検出機構が出力する前記補正前質量又はその平均値Dを有するy=A(x-D)であり、
前記校正時において試料に含まれる分析対象の元素をガス化して抽出していない場合に前記検出機構が出力する前記補正前質量又はその平均値D1として、
1種類の基準時管理試料について複数回分析して得られた各補正前質量からDを引いた値の平均値である前記基準含有量と、1種類の校正時管理試料について複数回分析して得られた各補正前質量からD1を引いた値の平均値である前記校正時含有量の比の値を前記校正係数αとして算出し、
前記検量線記憶部に式y=A(α(x-D1))を校正後の検量線として記憶させる請求項3記載の元素分析装置の校正方法。
【請求項10】
試料に含まれる分析対象の元素をガス化して抽出する加熱炉と、
赤外線吸収法に基づいて抽出されたガスを分析して前記試料に含まれる元素の補正前質量を検出し、分析後のガスが排気されるように構成された検出機構と、
前記試料が標準試料である場合に前記検出機構が検出した前記補正前質量と、前記標準試料に含まれる分析対象の元素の理論含有量との間の関係を示す検量線を記憶する検量線記憶部と、
前記補正前質量を前記検量線に基づいて補正後質量に換算する補正演算部と、
基準時において前記試料が基準時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記基準時管理試料の実測秤量値に基づいて目標秤量値当たりの値に規格化した基準含有量を算出する基準含有量算出部と、
前記基準時から所定期間経過した校正時において前記試料が校正時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記校正時管理試料の実測秤量値に基づいて前記目標秤量値当たりの値に規格化した校正時含有量を算出する校正時含有量算出部と、
前記基準含有量と、前記校正時含有量とに基づいて前記検量線を校正する校正係数を算出する校正係数算出部と、を備えたことを特徴とする元素分析装置。
【請求項11】
前記補正演算部が換算した前記補正後質量を前記試料の秤量値で割って、前記試料中に含まれる元素の質量%濃度を算出する分析値算出部をさらに備えた請求項10記載の元素分析装置。
【請求項12】
試料に含まれる分析対象の元素をガス化して抽出する加熱炉と、赤外線吸収法に基づいて抽出されたガスを分析して前記試料に含まれる元素の補正前質量を検出し、分析後のガスが排気されるように構成された検出機構と、前記試料が標準試料である場合に前記検出機構が検出した前記補正前質量と、前記標準試料に含まれる分析対象の元素の理論含有量との間の関係を示す検量線を記憶する検量線記憶部と、前記補正前質量を前記検量線に基づいて補正後質量に換算する補正演算部と、を備えた元素分析装置に用いられるプログラムであって、
基準時において前記試料が基準時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記基準時管理試料の実測秤量値に基づいて目標秤量値当たりの値に規格化した基準含有量を算出する基準含有量算出部と、
前記基準時から所定期間経過した校正時において前記試料が校正時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記校正時管理試料の実測秤量値に基づいて前記目標秤量値当たりの値に規格化した校正時含有量を算出する校正時含有量算出部と、
前記基準含有量と、前記校正時含有量とに基づいて前記検量線を校正する校正係数を算出する校正係数算出部と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする元素分析装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に含まれる元素をガス化して抽出し、抽出されたガスを赤外線吸収法に基づいて分析して、試料に含まれていた元素の質量を検出する元素分析装置の校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば金属、セラミクス等の材料の研究開発や品質管理のために、試料中に含まれている分析対象の各元素の質量%濃度を測定することが行われている。
【0003】
このような測定に用いられる元素分析装置は、予め秤量した固体の試料中に含まれる分析対象の各元素をガス化して抽出する加熱炉と、例えばNDIR(Non Dispersive Infrared:非分散型赤外線ガス分析法)により、抽出されたガスに含まれる各元素の補正前質量を検出する検出機構と、予め作成された検量線を用いて補正前質量を補正後質量に換算する補正演算部と、試料の秤量値に対する補正後質量の質量%濃度を最終的な分析値として算出する分析値算出部と、を備えている。
【0004】
また、最初に設定される検量線は、分析対象となる元素の理論含有量が既知の標準試料を分析して、検出機構で検出される補正前質量と、理論含有量との関係から補正前質量x、補正後質量y,勾配係数Aとする比例式y=Axとして作成される。
【0005】
ところで、元素分析装置を長期間運用した場合、NDIRの出力には経時的な変化が生じ、試料に含まれている実際の元素の含有量や濃度に対して測定誤差が発生する。このような場合、標準試料を用いて再び検量線を作成し直すこともできるが、多くの工数が必要となるとともに、元素分析は破壊測定であるため標準試料を多量に消費してしまうことになる。このため検量線を作成し直す代わりに、より簡易な方法で検量線を校正することが行われている。
【0006】
元素分析装置の検量線の校正方法としては、JIS等(非特許文献1参照)に定義されているαβ補正法がある。具体的に赤外線吸収法を用いた元素分析装置の校正方法は以下のようなものである。
【0007】
まず、検出機構に経時変化が生じていない時点において基準時管理試料を分析し、分析値算出部が算出する質量%濃度C0[wt%]を記録する。
【0008】
次に、検出機構に経時変化が生じた時点において校正時管理試料を分析し、分析値算出部が算出する質量%濃度C1[wt%]を記録する。
【0009】
最後に校正係数α=C0/C1を算出し、式y=A(αx)を校正後の検量線とする。
【0010】
しかしながら、上記のような元素分析装置の校正方法は分析値である質量%濃度[wt%]の変化量に基づいて検量線を校正しているのであって、実際に経時変化が生じている検出機構が検出している補正前質量である分析対象の元素の含有量[mg]を校正しているのではない。
【0011】
また、このような校正方法は原点を通る1次式で作成したものにしか適用できない。このため、検出機構の特性に合わせて検量線を多項式として定義した場合にはこのような校正方法を用いることはできない。
【0012】
さらに、検量線の校正に用いる管理試料は1種類となる。このため、理論含有量又は理論濃度の異なる管理試料を複数種類用意して、検量線全体の特性変化が考慮された校正により校正精度を高めることはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上述したような問題を一挙に解決することを意図してなされたものであり、検出機構が検出している分析対象の元素の含有量自体を校正できるようにし、校正可能な検量線が比例式に限られず、従来よりも検量線の校正精度を向上させることが可能な元素分析装置の校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明に係る元素分析装置の校正方法は、試料に含まれる分析対象の元素をガス化して抽出する加熱炉と、赤外線吸収法に基づいて抽出されたガスを分析して前記試料に含まれる元素の補正前質量を検出し、分析後のガスが排気されるように構成された検出機構と、前記試料が標準試料である場合に前記検出機構が検出した前記補正前質量と、前記標準試料に含まれる分析対象の元素の理論含有量との間の関係を示す検量線を記憶する検量線記憶部と、前記補正前質量を前記検量線に基づいて補正後質量に換算する補正演算部と、を備えた元素分析装置の校正方法であって、基準時において前記試料が基準時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記基準時管理試料の実測秤量値に基づいて目標秤量値当たりの値に規格化した基準含有量を算出し、前記基準時から所定期間経過した校正時において前記試料が校正時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記校正時管理試料の実測秤量値に基づいて前記目標秤量値当たりの値に規格化した校正時含有量を算出し、前記基準含有量と、前記校正時含有量とに基づいて前記検量線を校正する校正係数を算出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る元素分析装置は、試料に含まれる分析対象の元素をガス化して抽出する加熱炉と、赤外線吸収法に基づいて抽出されたガスを分析して前記試料に含まれる元素の補正前質量を検出し、分析後のガスが排気されるように構成された検出機構と、前記試料が標準試料である場合に前記検出機構が検出した前記補正前質量と、前記標準試料に含まれる分析対象の元素の理論含有量との間の関係を示す検量線を記憶する検量線記憶部と、前記補正前質量を前記検量線に基づいて補正後質量に換算する補正演算部と、基準時において前記試料が基準時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記基準時管理試料の実測秤量値に基づいて目標秤量値当たりの値に規格化した基準含有量を算出する基準含有量算出部と、前記基準時から所定期間経過した校正時において前記試料が校正時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記校正時管理試料の実測秤量値に基づいて前記目標秤量値当たりの値に規格化した校正時含有量を算出する校正時含有量算出部と、前記基準含有量と、前記校正時含有量とに基づいて前記検量線を校正する校正係数を算出する校正係数算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
このようなものであれば、実際に経時変化が生じる前記検出機構が検出する前記補正前質量自体を校正できる。このため、従来のように検量線が比例式であるといった前提を必要せず、様々な形態の関数として定義できる。
【0018】
また、前記基準含有量及び前記校正含有量は、実測秤量値に基づいて目標秤量値当たりの値に規格化された値であるので、実測秤量値にばらつきが生じていたとしても、前記目標秤量値に相当する値で校正できる。したがって、実測秤量値のばらつきの影響を排除した確からしい校正係数を得ることが可能となる。
【0019】
さらに、前記基準含有量及び前記校正含有量が規格化された値であるので、管理試料を複数種類指定して用いることもでき、検量線の校正精度を向上させることができる。
【0020】
前記検出機構における経時変化による前記補正前質量の変化自体が校正されるようにするには、前記検量線が、前記補正前質量を入力変数x、前記補正後質量を出力変数y、とする関数であり、前記校正係数として前記入力変数xに乗じられるαを少なくとも算出するものであればよい。
【0021】
一対の前記基準含有量と前記校正時含有量に基づいて前記校正係数を求められるようにするには、前記基準時において1種類の基準時管理試料について1又は複数回分析して得られた前記補正前質量、又は、各補正前質量の平均値を1つの前記基準含有量として算出し、前記校正時において1種類の校正時管理試料について1又は複数回分析して得られた前記補正前質量、又は、各補正前質量の平均値を1つの前記校正時含有量として算出し、前記基準含有量に対する前記校正時含有量の比の値を前記校正係数αとして算出するものであればよい。また、複数回分析して得られた前記補正前質量を平均して前記基準含有量及び前記校正時含有量を用いる場合には、様々な要因で発生する偶然誤差の影響を緩和し、さらに確からしい前記校正係数を得ることができる。
【0022】
複数対の前記基準含有量と前記校正時含有量をすべて加味して、さらに確からしい前記校正係数を得られるようにするには、前記基準時において分析対象の元素の理論含有量又は理論濃度が異なる複数種類の基準時管理試料についてそれぞれ1又は複数回分析して得られた前記補正前質量、又は、種類ごとの各補正前質量の平均値を複数の前記基準含有量として算出し、前記校正時において複数種類の前記基準時管理試料と対応する複数種類の校正時管理試料についてそれぞれ1又は複数回分析して得られた前記補正前質量、又は、種類ごとの各補正前質量の平均値を複数の前記校正時含有量として算出し、複数対からなる前記基準含有量と前記校正時含有量の組に基づく最小二乗法によって前記校正係数αを算出するものであればよい。
【0023】
例えば従来から使用されている比例式の検量線に対応した校正方法としては、校正前の前記検量線が、傾きAを有する比例式y=Axであり、前記校正係数αとして複数対からなる前記基準含有量と前記校正時含有量の組の原点を通る回帰直線の傾きを最小二乗法によって算出し、前記検量線記憶部に式y=A(αx)を校正後の検量線として記憶させるものが挙げられる。
【0024】
試料のマトリクス影響やブランク試料影響によって検量線に生じる切片についても考慮できるようにするには、校正前の前記検量線が、傾きA、切片Bを有する一次関数y=Ax+Bであり、前記校正係数αとして複数対からなる前記基準含有量と前記校正時含有量の組の回帰直線の傾きを算出するとともに、校正係数βとして前記回帰直線の切片を算出し、前記検量線記憶部に式y=A(αx+β)+Bを校正後の検量線として記憶させるものであればよい。
【0025】
校正前の前記検量線が、入力変数xの多項式であったとしても、校正を可能とするには、前記校正係数αとして複数対からなる前記基準含有量と前記校正時含有量の組の回帰直線の傾きを算出するとともに、校正係数βとして前記回帰直線の切片を算出し、前記検量線記憶部に入力変数を(αx+β)に変換した式を校正後の検量線として記憶させるものであればよい。
【0026】
前記検量線が多項式である場合の具体的な校正方法としては、校正前の前記検量線が、2次係数A、1次係数B、定数項Cを有する2次関数y=Ax2+Bx+Cであり、1種類の基準時管理試料について複数回分析して得られた各補正前質量の平均値である前記基準含有量と、1種類の校正時管理試料について複数回分析して得られた各補正前質量の平均値である前記校正時含有量の比の値を前記校正係数αとして算出し、前記検量線記憶部に式y=A(αx)2+B(αx)+Cを校正後の検量線として記憶させるものが挙げられる。
【0027】
ブランク試料影響を前記補正前質量から差し引いた検量線についても校正できるようにするには、校正前の前記検量線が、傾きA、検量線作成時において試料に含まれる分析対象の元素をガス化して抽出していない場合に前記検出機構が出力する前記補正前質量又はその平均値Dを有するy=A(x-D)であり、前記校正時において試料に含まれる分析対象の元素をガス化して抽出していない場合に前記検出機構が出力する前記補正前質量又はその平均値D1として、1種類の基準時管理試料について複数回分析して得られた各補正前質量からDを引いた値の平均値である前記基準含有量と、1種類の校正時管理試料について複数回分析して得られた各補正前質量からD1を引いた値の平均値である前記校正時含有量の比の値を前記校正係数αとして算出し、前記検量線記憶部に式y=A(α(x-D1))を校正後の検量線として記憶させるものであればよい。
【0028】
分析される前の試料にどのくらい分析対象の元素が含まれていたかを材料分析や品質管理等において使用しやすい形で表示するには、前記補正演算部が換算した前記補正後質量を前記試料の秤量値で割って、前記試料中に含まれる元素の質量%濃度を算出する分析値算出部をさらに備えたものであればよい。
【0029】
既存の元素分析装置において例えばプログラムをアップデートするだけで、本発明に係る元素分析装置の校正方法を簡単に利用できるようにするには、試料に含まれる分析対象の元素をガス化して抽出する加熱炉と、赤外線吸収法に基づいて抽出されたガスを分析して前記試料に含まれる元素の補正前質量を検出し、分析後のガスが排気されるように構成された検出機構と、前記試料が標準試料である場合に前記検出機構が検出した前記補正前質量と、前記標準試料に含まれる分析対象の元素の理論含有量との間の関係を示す検量線を記憶する検量線記憶部と、前記補正前質量を前記検量線に基づいて補正後質量に換算する補正演算部と、を備えた元素分析装置に用いられるプログラムであって、基準時において前記試料が基準時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記基準時管理試料の実測秤量値に基づいて目標秤量値当たりの値に規格化した基準含有量を算出する基準含有量算出部と、前記基準時から所定期間経過した校正時において前記試料が校正時管理試料である場合に前記検出機構が検出する前記補正前質量を、前記校正時管理試料の実測秤量値に基づいて前記目標秤量値当たりの値に規格化した校正時含有量を算出する校正時含有量算出部と、前記基準含有量と、前記校正時含有量とに基づいて前記検量線を校正する校正係数を算出する校正係数算出部と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする元素分析装置用プログラムを用いれば良い。
【0030】
なお、元素分析装置用プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されているものであってもよい。
【発明の効果】
【0031】
このように本発明に係る元素分析装置の校正方法であれば、前記検出機構の検出する補正前質量を直接校正し、従来のように校正前後における分析値である質量%濃度の比率に基づいて校正係数を算出する場合と比較してより確からしい校正を実現できる。また、前記基準含有量及び前記校正時含有量は実測秤量値に基づいて目標秤量値当たりの値に規格化された値であるので、実測秤量値におけるばらつきが校正に対して影響を与えにくくできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第1実施形態における元素分析装置を示す模式図。
【
図2】第1実施形態の制御演算機構の構成を示す機能ブロック図。
【
図3】第1実施形態の元素分析装置を校正するための基準時における管理試料の分析に関する動作を示すフローチャート。
【
図4】第1実施形態の元素分析装置を校正するための校正時における管理試料の分析と検量線の更新に関する動作を示すフローチャート。
【
図5】第2実施形態の元素分析装置を校正するための基準時における管理試料の分析に関する動作を示すフローチャート。
【
図6】第2実施形態の元素分析装置を校正するための校正時における管理試料の分析と検量線の更新に関する動作を示すフローチャート。
【
図7】第3実施形態の元素分析装置を校正するための基準時における管理試料の分析に関する動作を示すフローチャート。
【
図8】第3実施形態の元素分析装置を校正するための校正時における管理試料の分析と検量線の更新に関する動作を示すフローチャート。
【
図9】第4実施形態の元素分析装置を校正するための校正時における管理試料の分析と検量線の更新に関する動作を示すフローチャート。
【
図10】第5実施形態の元素分析装置を校正するための基準時における管理試料の分析に関する動作を示すフローチャート。
【
図11】第5実施形態の元素分析装置を校正するための校正時における管理試料の分析と検量線の更新に関する動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の第1実施形態における元素分析装置100について各図を参照しながら説明する。
【0034】
<構成の説明>
元素分析装置100は、黒鉛るつぼ内に収容された例えば金属試料やセラミックス試料等(以下、単に試料という)を加熱溶解し、その際に発生する試料ガスを分析することにより、当該試料内に含まれている元素の量を測定するものである。第1実施形態では試料中に含まれているO(酸素)、H(水素)、N(窒素)が測定対象となる。
【0035】
具体的には
図1に示すように、元素分析装置100は、るつぼMPに収容された試料が加熱され、分析対象の元素をガス化して抽出する加熱炉2と、加熱炉2に対してキャリアガスを導入する導入流路L1と、加熱炉からキャリアガスと試料ガスの混合ガスが導出される導出流路L2と、を備えている。より具体的には元素分析装置100は、加熱炉と、導入流路L1又は導出流路L2に設けられた各機器と、各機器の制御や測定された濃度等の演算処理を司る制御演算機構COMによって構成されている。
【0036】
各部について詳述する。
【0037】
導入流路L1の基端にはキャリアガスの供給源1であるガスボンベが接続されている。第1実施形態では供給源1からHe(ヘリウム)が導入流路L1内に供給される。
【0038】
加熱炉2は、試料を収容した黒鉛るつぼMPを一対の電極で挟持し、当該るつぼMPに直接電流を流して、るつぼMP及び試料を加熱するように構成されている。試料からは分析対象の元素であるO、H、NがそれぞれCOガス、H2ガス、N2ガスの形で抽出される。
【0039】
次に導出流路L2上に設けられている各機器について説明する。
【0040】
図1に示すように導出流路L2上には、ダストフィルタ3と、CO検出部4、酸化器5、CO
2検出部6、H
2O検出部7、除去機構8、N
2検出部9が上流側からこの順番で並べて設けられている。
【0041】
各部について詳述する。
【0042】
ダストフィルタ3は、混合ガスに含まれているすすなどのダストを濾し取り、除塵するものである。
【0043】
CO検出部4は、ダストフィルタ3を通過した混合ガスに含まれるCO(一酸化炭素)を検出し、その濃度を測定するものであり、NDIR(非分散赤外線吸収法)により、混合ガス中のCOの濃度に応じた電圧信号を出力するように構成されている。このCO検出部4は、その測定精度から試料内部に含まれている酸素が高濃度の場合に有効に動作する。具体的には150ppm以上のCOを測定対象とするのが好ましい。
【0044】
酸化器5は、CO検出部4を通過した混合ガスに含まれるCOやCO2を酸化するとともに、H2をH2O(水)に酸化して水蒸気を生成するものである。
【0045】
CO2検出部6は、酸化器6を通過した混合ガス中のCO2を検出して、その濃度を測定するものであり、NDIRにより混合ガス中のCO2の濃度に応じた信号を出力する。このCO2検出部6は、測定精度の観点から試料に含まれる酸素が低濃度(例えば150ppm未満)の場合に有効に動作する。
【0046】
H2O検出部7は、CO2検出部6を通過した混合ガス中のH2Oを検出して、その濃度を測定するものであり、NDIRにより混合ガス中のH20の濃度に応じた電圧信号を出力する。
【0047】
除去機構8は、混合ガス中に含まれているCO2及びH2Oを吸着して除去するものである。
【0048】
N2検出部9は、TCD(熱伝導度検出器)であり、混合ガスの熱伝導度の変化と、供給されている混合ガスの流量から混合ガスに含まれている所定成分であるN2混合ガス中の濃度を測定する。すなわち、N2検出部9に供給される混合ガスはほぼキャリアガスとN2だけで構成されているので、混合ガス中に含まれるN2の濃度は測定される熱伝導度の変化に対応した値となる。なお、N2検出部9を通過した混合ガスは回収されず、排気される。したがって、第1実施形態の元素分析は試料が消失することになる破壊分析である。
【0049】
制御演算機構COMは例えばCPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、各種入出力手段を備えたいわゆるコンピュータであって、メモリに格納されているプログラムが実行され、各種機器が協業することにより元素分析装置100としての分析動作、又は、校正動作が実現される。具体的に制御演算機構COMは、
図2の機能ブロック図に示すように少なくとも受付部C1、補正前質量算出部C2、検量線記憶部C3、補正演算部C4、N
2含有量算出部C5、分析値算出部C6、基準含有量算出部C7、校正時含有量算出部C8、校正データ記憶部C9、校正係数算出部C10、検量線更新部C11としての機能を発揮する。
【0050】
各部について詳述する。まず、通常分析に関連する構成について説明する。
【0051】
受付部C1は、ユーザから元素分析装置100をどのモードで動作させるかを示すモード設定を受け付ける。制御演算機構COMは受け付けられたモード設定に応じて動作が変化するように構成されている。モード設定は、例えば検量線作成モード、通常分析モード、基準データ取得モード、検量線校正モード等がある。また、受付部C1は各種モードで演算に必要となる例えば秤量値等のデータについても受け付ける。
【0052】
補正前質量算出部C2は、NDIRに基づいて各ガスの濃度を検出するCO検出部4、CO2検出部6、H20検出部7から出力される電圧信号から、各ガス成分の混合ガス中の濃度を取得するとともに、図示しない流量センサから混合ガスの流量を取得する。補正前質量算出部C2は、各時刻での濃度と流量の積算値から、試料に含まれていた分析対象の元素であるO又はHの補正前質量を算出する。なお、CO検出部4、CO2検出部6、H20検出部7、及び、補正前質量算出部C2が検出機構DMDMを構成する。
【0053】
検量線記憶部C3は、試料が標準試料である場合に検出機構DMが検出した補正前質量と、標準試料に含まれる分析対象の元素の理論含有量との間の関係を示す検量線を記憶する。第1実施形態では、検量線は入力変数を補正前質量x、出力変数を補正後質量y、勾配係数Aからなる比例式y=Axである。ここで、補正前質量xは各検出部4、6、7の出力から算出されたO又はHの質量であり、勾配係数Aは各元素で異なる値である。
【0054】
補正演算部C4は、O又はHの補正前質量をそれぞれの検量線に基づいてO又はHの補正後質量に換算する。
【0055】
N2含有量算出部C5は、N2検出部9で検出されたN2のガス濃度と混合ガスの流量の積算値から試料に含まれていたNの質量を算出する。
【0056】
分析値算出部C6は、受付部C1に受け付けられた試料の実測秤量値と、補正演算部C4の出力するO又はHの補正後質量、N2含有量算出部C5から算出されるNの質量に基づいて、各元素の試料中の質量%濃度[wt%]を算出する。この算出された値が最終的な分析値としてユーザに対して出力される。
【0057】
次に検量線の校正に関わるものについて説明する。以下に説明する各部は例えばユーザがモード設定により、元素分析装置100を基準データ取得モード又は検量線校正モードで動作させる場合に機能する。
【0058】
基準含有量算出部C7は、基準データ取得モードに設定された場合に検量線の校正を行う場合に必要となる検出機構DMに経時変化が生じる前の状態を示す基準となるデータを算出する。より具体的には基準含有量算出部C7は、基準時において加熱炉2内に基準時管理試料が設置され、当該基準時管理試料の元素分析が行われた場合に検出機構DMが検出する分析対象の元素であるO又はHの補正前質量と、ユーザから受け付けられた基準時管理試料の目標秤量値及び実測秤量値とを取得する。さらに基準含有量算出部C7は、基準時管理試料の実測秤量値に基づいて、基準時管理試料の補正前質量を目標秤量値当たりの値に規格化した基準含有量を算出する。第1実施形態では、基準時管理試料を分析した場合に検出機構DMから得られた補正前質量をm0[mg]、目標秤量値をM[g]、実測秤量値をM0[g]、乗算記号を*、除算記号を/とした場合に、規格化された基準含有量は、m0*M/M0として表すことができる。
【0059】
校正時含有量算出部C8は、検量線校正モードに設定された場合に検量線の校正を行う場合に必要となる検出機構DMに経時変化が生じた後の状態を示すデータを算出する。より具体的には、校正時含有量算出部C8は、基準時から所定期間経過した後において加熱炉2内に校正時管理試料が設置されて、当該校正時管理試料の元素分析が行われた場合に検出機構DMが検出する分析対象の元素であるO又はHの補正前質量と、ユーザから受け付けられた校正時管理試料の目標秤量値及び実測秤量値とを取得する。なお、校正時において用いられる校正時管理試料は例えば基準時において用いられた基準時管理試料と同じ母材から切り出され、組成がほぼ同じ試料、もしくは、組成が同じことが保証されている試料である。また、目標秤量値は基準時において分析した基準時基準時管理試料の目標秤量値と同じ値である。さらに、校正時含有量算出部C8は、校正時管理試料の実測秤量値に基づいて、校正時管理試料の補正前質量を目標秤量値当たりの値に規格化した校正時含有量を算出する。第1実施形態では、校正時管理試料を分析した場合に検出機構DMから得られた補正前質量をm1[mg]、目標秤量値をM[g]、実測秤量値をM1[g]とした場合に、規格化された校正時含有量は、m1*M/M1として表すことができる。
【0060】
校正データ記憶部C9は、対応する基準含有量、及び、校正時含有量を記憶するものである。例えば検量線作成時に合わせて測定された基準含有量がその時点で記憶される。
【0061】
校正係数算出部C10は、基準時に得られた基準含有量と、校正時に得られた校正時含有量に基づいて、検量線を校正するための校正係数を算出する。第1実施形態では校正係数算出部C10は、基準含有量に対する校正時含有量の比の値を校正係数αとして算出する。すなわち、校正係数αはα=(m0*M/M0)/(m1*M/M1)として表すことができる。
【0062】
検量線更新部C11は、検量線記憶部C3に記憶されている校正前の検量線y=Axを校正係数αに基づいて校正する。第1実施形態では入力変数xにαを乗じた式y=A(αx)を新たな検量線として検量線記憶部C3に記憶させる。
【0063】
<校正に関する説明>
このように構成された元素分析装置100の校正に関する動作や、ユーザの操作等について
図3及び
図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0064】
まず、例えば標準試料に基づいて検量線が作成された直後を基準時として、基準時に基準時管理試料により基準含有量を算出する手順について
図3を参照しながら説明する。
【0065】
ユーザは目標秤量値となるように秤量した基準時管理試料をるつぼMP内に入れて加熱炉2内に設置する(ステップS1)。次に元素分析装置100を動作させて元素分析を開始する(ステップS2)。基準含有量算出部C7は元素分析によって検出機構DMで検出されたH又はOの補正前質量m0を取得し(ステップS3)、併せて受付部C1にユーザから受け付けられた基準時管理試料の目標秤量値M及び実測秤量値M0を取得する(ステップS4)。基準含有量算出部C7は、取得された各値に基づいて、補正前質量を規格化した基準含有量m0*M/M0を算出する(ステップS5)。算出された基準含有量m0*M/M0が校正データ記憶部C9に記憶される(ステップS6)。
【0066】
次に、基準時から所定期間経過し検出機構DMに経時変化が現れている時点を校正時として、校正時において校正時管理試料により校正時含有量を算出する手順、さらに検量線を校正する手順について
図4を参照しながら説明する。
【0067】
校正時含有量を算出する手順は
図3に示した基準時含有量を算出する手順(ステップS1~S6)に対応する。すなわち、
図4に示すようにユーザは目標秤量値となるように秤量した校正時管理試料をるつぼMP内に入れて加熱炉2内に設置する(ステップS7)。次に元素分析装置100を動作させて元素分析を開始する(ステップS8)。校正時含有量算出部C8は元素分析によって検出機構DMで検出されたH又はOの補正前質量m1を取得し(ステップS9)、併せて受付部C1にユーザから受け付けられた校正時管理試料の目標秤量値M及び実測秤量値M1を取得する(ステップS10)。校正時含有量算出部C8は、取得された各値に基づいて、補正前質量を規格化した校正時含有量m1*M/M1を算出する(ステップS11)。算出された校正時含有量m1*M/M1が校正データ記憶部C9に記憶される(ステップS12)。
【0068】
次に校正係数算出部C10は、基準含有量に対する校正時含有量の比の値(m0*M/M0)/(m1*M/M1)を校正係数αとして算出する(ステップS13)。最後に検量線更新部C11は検量線記憶部C3に記憶されている検量線をy=A(αx)に更新する(ステップS14)。
【0069】
<効果の説明>
このような第1実施形態の元素分析装置100の校正方法であれば、分析値として算出される質量%濃度[wt%]ではなく、経時変化が生じる赤外線吸収法に基づく検出機構DMが検出する補正前質量[mg]に基づいて、検量線が校正されるのでより確からしい校正係数αを得ることができる。
【0070】
また、実測秤量値のばらつきについては検出された補正前質量を目標秤量値当たりの値に規格化しているので、基準含有量及び校正時含有量には影響が現れないようにできる。
【0071】
次に本発明の第2実施形態における元素分析装置100の校正方法について
図5、
図6を参照しながら説明する。なお、以降の説明において第1実施形態において説明した部材に対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0072】
<校正に関する説明>
第2実施形態の元素分析装置100の校正方法は、理論含有量又は理論濃度が同一の1種類の基準時管理試料について複数回分析を行って基準含有量を算出している点と、理論含有量又は理論濃度が同一の1種類の校正時管理試料について複数回分析を行って校正時含有量を算出している点が第1実施形態の校正方法とは異なっている。
【0073】
まず、基準含有量の算出手順について
図5のフローチャートを参照しながら説明する。
【0074】
ユーザは目標秤量値となるように秤量した基準時管理試料をるつぼMP内に入れて加熱炉2内に設置する(ステップST1)。次に元素分析装置100を動作させて元素分析を開始する(ステップST2)。基準含有量算出部C7は元素分析によって検出機構DMで検出されたH又はOの補正前質量m0iを取得し(ステップST3)、併せて受付部C1にユーザから受け付けられた基準時管理試料の目標秤量値M及び実測秤量値M0iを取得する(ステップST4)。ここで、サフィックスiはi回目の分析時に得られたことを示す。基準含有量算出部C7は、取得された各値に基づいて、補正前質量を規格化した値m0i*M/M0iを算出する(ステップST5)。
【0075】
さらに目標回数の分析が終わっていない場合には(ステップST6)、再び同じ種類の基準時管理試料が目標秤量値Mとなるように秤量され、ステップST1~ST5の動作が繰り返される。目標回数の基準時管理試料の分析が完了すると、基準含有量算出部C7は、それぞれの分析で得られた補正前質量を規格化した値の平均値を基準含有量として算出する(ステップST7)。すなわち、基準含有量はAVE(m0i*M/M0i)と表せる(ここで、AVE( )は( )内の値の平均値を示す)。算出された基準含有量は校正データ記憶部C9に記憶される(ステップST8)。
【0076】
次に、校正時含有量の算出手順及び検量線の校正手順について
図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0077】
校正時含有量を算出する手順は
図5に示した基準時含有量を算出する手順(ステップST1~ST8)に対応する。すなわち、ユーザは目標秤量値となるように秤量した校正時管理試料をるつぼMP内に入れて加熱炉2内に設置する(ステップST9)。次に元素分析装置100を動作させて元素分析を開始する(ステップST10)。校正時含有量算出部C8は元素分析によって検出機構DMで検出されたH又はOの補正前質量m1
iを取得し(ステップST11)、併せて受付部C1にユーザから受け付けられた校正時管理試料の目標秤量値M及び実測秤量値M1
iを取得する(ステップST12)。ここで、サフィックスiはi回目の分析時に得られたことを示す。校正時含有量算出部C8は、取得された各値に基づいて、補正前質量を規格化した値、m1
i*M/M1
iを算出する(ステップST13)。
【0078】
さらに目標回数の分析が終わっていない場合には(ステップST14)、再び同じ種類の校正時管理試料が目標秤量値Mとなるように秤量され、ステップST9~ST13の動作が繰り返される。目標回数の校正時管理試料の分析が完了すると、基準含有量算出部C7は、それぞれの分析で得られた補正前質量を規格化した値の平均値を基準含有量として算出する(ステップST15)。すなわち、校正時含有量はAVE(m1i*M/M1i)と表せる。算出された校正時含有量は校正データ記憶部C9に記憶される(ステップST16)。
【0079】
最後に校正係数算出部C10は、基準含有量に対する校正時含有量の値を校正係数αとして算出する(ステップST17)。すなわち、校正係数はα=AVE(m0i*M/M0i)/AVE(m1i*M/M1i)と表すことができる。また、検量線更新部C11は得られた校正係数αを用いて、y=A(αx)を新たな検量線として検量線記憶部C3に記憶させる。
【0080】
<効果の説明>
このように第2実施形態の元素分析装置100の校正方法であれば、基準含有量及び校正時含有量を理論含有量又は理論濃度が同一の管理試料を複数回分析して得られた値の平均値として算出しているので、様々な要因で発生する偶然誤差の影響を緩和してさらに確からしい校正係数αを得ることができる。
【0081】
次に第2実施形態の変形例について説明する。この変形例では校正前の前記検量線が、2次係数A、1次係数B、定数項Cを有する2次関数y=Ax2+Bx+Cである。このように検量線が2次関数である場合でも第2実施形態の校正方法で得られた校正係数αを各入力変数xに乗じることで校正することができる。すなわち、校正後の検量線は、式y=A(αx)2+B(αx)+Cとして検量線記憶部C3に記憶される。
【0082】
次に第3実施形態の元素分析装置100の校正方法について、
図7及び
図8のフローチャートを参照しながら説明する。なお、第2実施形態の校正方法と同一のステップについては同じ番号を付与するとともに、異なっているステップには番号に-1を付与している。また、第2実施形態の校正方法では存在しなかったステップについては別の番号を付与している。
【0083】
第3実施形態の元素分析装置100の校正方法は、理論含有量又は理論濃度が異なる複数種類の基準時管理試料(基準時第1管理試料、基準時第2管理試料、・・・基準時第n管理試料)をそれぞれ複数回分析して基準含有量が算出される点と、理論含有量又は理論濃度が異なる複数種類の校正時管理試料(校正時第1管理試料、校正時第2管理試料、・・・校正時第n管理試料)をそれぞれ複数回分析して校正時含有量が算出される点が、第2実施形態とは異なっている。また、校正係数算出部C10が複数対の基準含有量と校正時含有量を用いた最小二乗法により校正係数αを算出する点も第2実施形態と異なっている。
【0084】
まず、基準含有量の算出手順について
図7のフローチャートを参照しながら説明する。
【0085】
<校正に関する説明>
ステップST1~ST7でのある種類の基準時管理試料(基準時第j管理試料)について複数回分析して規格化された補正前質量の平均値を基準含有量m0ij*M/M0ijとして算出する手順は第2実施形態と同様であるので説明を省略する。ここで、iはある種類の基準時管理試料(基準時第j管理試料)についてi回目の分析で得られた値であることを示し、jは基準時管理試料の種類を示す識別子である。
【0086】
算出された基準含有量は、その基準時管理試料の種類を示す識別子とともに校正データ記憶部C9に記憶される(ステップST8-1)。全ての種類の基準時管理試料について分析が終了していない場合には(ステップSTA)、基準時管理試料の種類を変更して(ステップSTB)、ステップST1からステップST8-1が繰り返される。最終的には校正データ記憶部C9には、AVE(m0i1*M/M0i1)、AVE(m0i2*M/M0i2)、AVE(m0i3*M/M0i3)・・・が記憶される。
【0087】
次に、校正時含有量の算出手順及び検量線の校正手順について
図8のフローチャートを参照しながら説明する。
【0088】
校正時含有量を算出する手順は
図7に示した基準時含有量を算出する手順(ステップST1~STA)に対応する。また、
図8のステップST9からステップST15において、ある種類の校正時管理試料について複数回分析して規格化された補正前質量の平均値を基準含有量m1
ij*M/M1
ijとして算出する手順は、第2実施形態と同様であるので説明を省略する。ここで、iはある種類の校正時管理試料(校正時第j管理試料)についてi回目の分析で得られた値であることを示し、jは校正時管理試料の種類を示す識別子である。また、校正時における校正時管理試料(校正時第1管理試料、校正時第2管理試料、・・・校正時第n管理試料)の種類は基準時において使用した校正時管理試料(校正時第1管理試料、校正時第2管理試料、・・・校正時第n管理試料)と対応するように設定されている。すなわち、分析対象となる元素の理論含有量又は理論濃度が同一の基準時管理試料と校正時管理試料の対が存在するように選択されている。
【0089】
算出された校正時含有量は、その校正時管理試料の種類を示す識別子とともに校正データ記憶部C9に記憶される(ステップST16-1)。全ての種類の校正時管理試料について分析が終了していない場合には(ステップSTC)、校正時管理試料の種類を変更して(ステップSTD)、ステップST9からステップST16-1が繰り返される。最終的には校正データ記憶部C9には、AVE(m1i1*M/M1i1)、AVE(m1i2*M/M1i2)、AVE(m1i3*M/M1i3)・・・が記憶される。
【0090】
最後に校正係数算出部C10は、複数対の基準含有量と基準時含有量の原点を通る回帰直線を最小二乗法で算出する。校正係数算出部C10は、その回帰直線の傾きを校正係数αとして出力する(ステップST17-1)。また、検量線更新部C11は得られた校正係数αを用いて、y=A(αx)を新たな検量線として検量線記憶部C3に記憶させる(ステップST18)。
【0091】
このように第3実施形態の元素分析装置100の校正方法であれば、検出機構DMから出力される様々な補正前質量の値に基づいて、校正係数αを決定することができるので、例えば補正前質量の値の大きさごとに経時変化が異なっていたとしても、もっとも妥当な校正係数を乗じる事が可能となる。
【0092】
次に第4実施形態の元素分析装置100の校正方法について、
図9のフローチャートを参照しながら説明する。
【0093】
第4実施形態の元素分析装置100の校正方法は、校正対象となる検量線が比例式ではなく一次式y=Ax+Bである点と、校正係数算出部C10が複数対の基準含有量と校正時含有量の回帰直線から2つの校正係数α、βを算出する点で第3実施形態と異なっている。
【0094】
<校正に関する説明>
基準含有量を算出する手順は第3実施形態と同様のため省略する。また、
図8におけるステップST9~ステップSTCにおける校正時含有量を算出する手順も第3実施形態と同様であるため省略する。
【0095】
図9に示すように複数対の基準含有量と校正時含有量から校正係数算出部C10は、最小二乗法により回帰直線の傾きを校正係数αとして算出するとともに、回帰直線の切片を校正係数βとして算出する(ステップST17-2)。そして、検量線更新部C11は、y=A(αx+β)+Bを新たな検量線として検量線記憶部C3に記憶させる(ステップST18-2)。
【0096】
<効果の説明>
このような第4実施形態の元素分析装置100の校正方法であれば、検量線が例えばブランク影響等を考慮して1次関数として定義されている場合でも、検量線の傾き及び切片について校正することができる。
【0097】
次に第5実施形態の元素分析装置100の校正方法について
図10及び
図11を参照しながら説明する。
【0098】
第5実施形態の元素分析装置100の校正方法は、検量線がブランク含有量Dを引いた、式y=A(x-D)として定義されている点と、補正前質量からブランク含有量を引いた値を秤量値で規格化している点で第3実施形態と異なっている。
【0099】
<校正に関する説明>
第5実施形態の校正手順は、
図5及び
図6で示した第2実施形態の校正手順と一部異なっている。ここでは、異なっている部分のみについて説明する。
【0100】
図10に示すように基準含有量を算出する前に例えば検量線作成時に予めブランク含有量Dの測定が行われる。すなわち、ユーザは加熱炉2に試料なしでるつぼMPのみを設置し(ステップSTE)、元素分析が開始される(ステップSTF)。基準含有量算出部C7は、検出機構DMが検出した補正前質量をブランク含有量Dとして取得する(ステップSTG)。ステップST1~ステップST4は第2実施形態と同様であり、ステップST5-1に示すように、基準含有量算出部C7は、補正前質量m0
iからブランク含有量Dを差し引いた値について、実測秤量値M0
iに基づき目標秤量値M当たりの値(m0
i-D)*M/M0
iに規格化する。また、ステップST5-1で算出された値(m0
i-D)*M/M0
iの平均値AVE((m0
i-D)*M/M0
i)が基準含有量として算出される(ステップST7-1)。
【0101】
図11に示すように校正時含有量を算出する際にも、校正時におけるブランク含有量D1が測定される。すなわち、ユーザは加熱炉2に試料なしでるつぼのみを設置し(ステップSTH)、元素分析が開始される(ステップSTI)。校正時含有量算出部C8は、検出機構DMが検出した補正前質量をブランク含有量D1として取得する(ステップSTJ)。ステップST10~ステップST12は第2実施形態と同様であり、ステップST13-1に示すように、校正時含有量算出部C8は、補正前質量m1
iからブランク含有量D1を差し引いた値について、実測秤量値M1iに基づき目標秤量値M当たりの値(m1
i-D1)*M/M1
iに規格化する。また、ステップST13-1で算出された値(m1
i-D1)*M/M1
iの平均値AVE((m1
i-D1)*M/M1
i)が校正時含有量として算出される(ステップST15-1)。
【0102】
最後に校正係数算出部C10は、基準含有量に対する校正時含有量の比の値AVE((m0i-D)*M/M0i)/AVE((m1i-D1)*M/M1i)を校正係数αとして算出する(ステップST17)。そして、検量線更新部C11は校正係数αを用いて式y=A(α(x-D1))を新たな検量線として検量線記憶部C3に記憶させる。
【0103】
<効果の説明>
このように第5実施形態の元素分析装置100の校正方法であれば、検量線がブランク成分を引いて作成された場合でも校正できる。なお、ブランク含有量Dの測定については、試料なしでるつぼMPのみを設置した状態で元素分析をした場合に限られず、ゼロ点としたい状態での元素分析時に測定される値であればよい。すなわち、第5実施形態のように加熱炉2がインパルス加熱をするものであって、試料とともにフラックスを加えて元素分析が行われる場合には、るつぼMP内にフラックスのみを加えた状態で元素分析を行い、ブランク含有量Dの測定を行えば良い。また、加熱炉において試料を高周波加熱し、試料とともに助燃剤を使用する場合、又は、試料とともに助燃剤及び純鉄を使用する場合には、試料なしで助燃剤だけを元素分析する、又は、助燃剤及び純鉄だけを元素分析してブランク含有量Dの測定を行えばよい。
【0104】
その他の実施形態について説明する。
【0105】
検出機構が赤外線吸収法によりその質量を検出する分析対象の元素はOやHに限られない。例えば分析対象の元素はC(炭素)やS(硫黄)であっても構わない。すなわち、元素分析装置は
図1に示したものに限られず、検出機構がCやSの補正前質量を検出するように構成されているものであってもよい。より具体的には前述した各実施形態では分析対象の元素であるOやHを測定するために、加熱炉内に対してArやHe等の不活性ガスを導入しながら、黒鉛るつぼ内の試料をインパルス加熱により溶融させて成分ガスを抽出するものであった。これに対して、分析対象の元素であるCやSを測定するために、加熱炉内に対して助燃ガスを導入しながら、セラミックるつぼ内に収容された試料を高周波誘導加熱で燃焼させることで、成分ガスを得るようにしてもよい。また、分析対象の元素であるCやSを測定するために、加熱炉内に助燃ガスを導入しながら、石英ボート内に収容された試料を電気抵抗加熱により燃焼させるようにしてもよい。これらのように加熱方式、導入されるガスやるつぼの種類が異なっていても、検量線による質量の算出過程はほぼ同様であるので、本発明に係る校正方法によって検量線を校正できる。
【0106】
また、元素分析装置は赤外線吸収法により1種類の元素のみを分析対象とするものであってもよい。
【0107】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や各実施形態の一部同士を組み合わせても構わない。
【符号の説明】
【0108】
100・・・元素分析装置
2 ・・・加熱炉
DM ・・・検出機構
C3 ・・・検量線記憶部
C4 ・・・補正演算部
C6 ・・・分析値算出部
C7 ・・・基準含有量算出部
C8 ・・・校正時含有量算出部
C10・・・校正係数算出部