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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115557
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】鶏卵の品質を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/08 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
G01N33/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012198
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】澤田 真実
(72)【発明者】
【氏名】細野 誠
(72)【発明者】
【氏名】三尋木 健史
(72)【発明者】
【氏名】馬場 健史
(57)【要約】
【課題】新規な鶏卵の品質を予測する方法を提供すること。
【解決手段】鶏卵の品質を予測する方法であって、品質既知の鶏卵を前処理して分析サンプルを得る工程、分析サンプルを機器分析に供して、糖、アミノ酸、有機酸、脂質、香気成分及びミネラルからなる群より選択される2種以上の成分の分析データを得る工程、品質既知の鶏卵についての分析データと、品質既知の鶏卵の品質データとを用いて多変量解析して多変量解析結果を得る工程、及び、多変量解析結果から、鶏卵の品質予測モデルを作成する工程を含む、鶏卵の品質を予測する方法。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏卵の品質を予測する方法であって、
品質既知の鶏卵を前処理して分析サンプルを得る工程、
前記分析サンプルを機器分析に供して、糖、アミノ酸、有機酸、脂質、香気成分及びミネラルからなる群より選択される2種以上の成分の分析データを得る工程、
前記品質既知の鶏卵についての分析データと、前記品質既知の鶏卵の品質データとを用いて多変量解析して多変量解析結果を得る工程、及び、
前記多変量解析結果から、鶏卵の品質予測モデルを作成する工程を含む、鶏卵の品質を予測する方法。
【請求項2】
前記分析データを得る工程において、3群以上の前記分析サンプルを機器分析に供する、請求項1に記載の鶏卵の品質を予測する方法。
【請求項3】
前記多変量解析が、PLS回帰分析である、請求項1又は2に記載の鶏卵の品質を予測する方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の鶏卵の品質を予測する方法により、鶏の飼料内容を決定する工程を含む、鶏卵の品質を制御する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏卵の品質を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鶏卵の品質を評価する方法としては、種々の技術手段が提案されている。例えば、特許文献1には、殻付き鶏卵に近赤外線を照射して、近赤外吸収スペクトルを測定する測定ステップ、及び前記近赤外吸収スペクトルから前記殻付き鶏卵中の、卵白タンパク質の含有量、卵白中の固形分の含有量又は卵白中の水分の含有量を予測する予測ステップを含む、殻付き鶏卵の評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6686216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鶏卵の品質は、予め予測することができれば、所望の品質を有する鶏卵の製造方法を設計するうえで有用である。
【0005】
本発明の一側面は、新規な鶏卵の品質を予測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、品質既知の鶏卵を前処理して得られる分析サンプルを機器分析に供して、糖、アミノ酸、有機酸、脂質、香気成分及びミネラルからなる群より選択される2種以上の成分の分析データを得ることと、当該分析データと、品質既知の鶏卵の品質データとを用いて多変量解析して多変量解析結果を得ることと、多変量解析結果から、鶏卵の品質予測モデルを作成することとをこの順に含む方法によって、鶏卵の品質が予測できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
鶏卵の品質を予測する方法であって、
品質既知の鶏卵を前処理して分析サンプルを得る工程、
前記分析サンプルを機器分析に供して、糖、アミノ酸、有機酸、脂質、香気成分及びミネラルからなる群より選択される2種以上の成分の分析データを得る工程、
前記品質既知の鶏卵についての分析データと、前記品質既知の鶏卵の品質データとを用いて多変量解析して多変量解析結果を得る工程、及び、
前記多変量解析結果から、鶏卵の品質予測モデルを作成する工程を含む、鶏卵の品質を予測する方法。
[2]
前記分析データを得る工程において、3群以上の前記分析サンプルを機器分析に供する、[1]に記載の鶏卵の品質を予測する方法。
[3]
前記多変量解析が、PLS回帰分析である、[1]又は[2]に記載の鶏卵の品質を予測する方法。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の鶏卵の品質を予測する方法により、飼養中の鶏から得られる鶏卵の品質を予測する工程、及び、
予測された品質から前記飼養中の鶏の飼料内容を決定する工程を含む、鶏卵の品質を制御する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な鶏卵の品質を予測する方法を提供することができる。本発明によれば、当該鶏卵の品質を予測する方法を用いた鶏卵の品質を制御する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】「味の濃さ」に関するPLSモデルによる予測値と、官能評価による実測値との関係を示すグラフである。
図2】「風味の強さ」に関するPLSモデルによる予測値と、官能評価による実測値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
<本発明の特徴>
本発明は、品質既知の鶏卵を前処理して分析サンプルを得る工程(前処理工程)、分析サンプルを機器分析に供して、糖、アミノ酸、有機酸、脂質、香気成分及びミネラルからなる群より選択される2種以上の成分の分析データを得る工程(分析工程)、前記品質既知の鶏卵についての分析データと、前記品質既知の鶏卵の品質データとを用いて多変量解析して多変量解析結果を得る工程(多変量解析工程)、及び、多変量解析結果から、鶏卵の品質予測モデルを作成する工程(予測モデル作成工程)を含む、鶏卵の品質を予測する方法を提供することに特徴を有する。
【0012】
<鶏卵の品質>
鶏卵の品質は、鶏卵自体の風味と、鶏卵を加工して得られる鶏卵加工品(例えば、ゆで卵、卵焼き、目玉焼き、スクランブルエッグ、タマゴスプレッド、オムレツ、茶わん蒸し、プリン、カスタードクリーム、親子丼)の風味とを含む。鶏卵の品質は、官能評価の結果(官能評価スコア)、又は、粘度、色調、凝固性若しくは起泡性等の物性値によって評価される。鶏卵の品質としては、例えば、味の濃さ、風味の強さ、甘味、渋味、硫黄臭、香ばしい、かたい、ねっとり、なめらか、色味の強さ、色の明るさ等が挙げられる。
【0013】
<前処理工程>
前処理工程では、品質既知の鶏卵を前処理して分析サンプルを得る。分析サンプルには、鶏卵の卵黄、卵白又はこれらを含む組成物が用いられてよい。前処理は、使用する分析機器等の種類に応じて適宜選択することができる。前処理としては、例えば、乾燥(例えば、凍結乾燥)、粉砕、混合(均一化)等の処理が挙げられる。凍結乾燥は、例えば、液体窒素にて急速凍結させた後に、凍結乾燥機で乾固させることにより行われてもよい。
【0014】
<分析工程>
分析工程では、品質既知の鶏卵の分析サンプルを機器分析に供して、糖、アミノ酸、有機酸、脂質、香気成分及びミネラルからなる群より選択される2種以上の成分の分析データを得る。
【0015】
(分析対象の成分)
機器分析により得られる分析データは、糖、アミノ酸、有機酸、脂質、香気成分及びミネラルからなる群より選択される2種以上の成分の分析データである。糖としては、特に制限されないが、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、リボース、スクロース等が挙げられる。アミノ酸としては、アスパラギン酸、スレオニン、アスパラギン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、シスチン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、リジン、トリプトファン、及びアルギニン等が挙げられる。有機酸は、酸の性質を有する有機化合物である。有機酸には、アミノ酸及び脂質は含まれない。有機酸としては、例えば、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、ギ酸、乳酸、グルコン酸、シュウ酸、フマル酸等が挙げられる。脂質は、例えば、脂肪酸であってよい。脂肪酸としては、特に制限されないが、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ヘプタデセン酸、ステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、イコセン酸、αリノレン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)等が挙げられる。香気成分は、香りを有する化合物である。香気成分としては、例えば、1-ブタノール、2-ブタノン、2-ヘプタノン、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-ブタナール、3-メチル-1-ブタノール、アセトン、エチルベンゼン、トルエン、キシレン、2-メチルプロパナール、ジメチルスルホン、エタノール、酢酸エチル等が挙げられる。ミネラルとしては、例えば、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン等が挙げられる。
【0016】
(機器分析に供するサンプル数)
分析工程では、3群以上の分析サンプルを機器分析に供してよい。機器分析に供する分析サンプルの数が3群以上であると、品質予測の精度がより一層優れたものとなる。機器分析に供する分析サンプルの数は、例えば、5~30群であってよく、10~20群であってよい。
【0017】
(分析手法)
分析手法は、機器分析する対象の成分の種類等に応じて適宜選択することができる。分析手法としては、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC))、質量分析(MS)、赤外分光分析(IR)(例えば、フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR))、近赤外分光分析(NIR)(例えば、フーリエ変換近赤外分光分析(FT-NIR))、核磁気共鳴分析(NMR)(例えば、フーリエ変換核磁気共鳴分析(FT-NMR))、誘導結合プラズマ分析(ICP)等が挙げられる。
ガスクロマトグラフィー(GC)の検出器は特に限定されず公知のものを適宜使用できる。例えば、水素炎イオン化検出器(FID)を好適に用いることができる。
また、これらの機器分析の手法は組み合わせてもよく、例えば、GC/MS、LC/MS(特に、HPLC/MS、UPLC/MS)等の組み合わせが挙げられる。
分析工程に用いられる装置は、特に限定されず、通常用いられている装置が用いられ得る。また、測定条件は、これらの物質の測定に適切なように適宜設定され得る。
機器分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)と質量分析(MS)との組み合わせ(GC/MS)、又はガスクロマトグラフィー(GC)と水素炎イオン化検出器(FID)の組み合わせ(GC/FID)により行われてよい。
【0018】
(分析データ)
機器分析によって、例えば、保持時間、波長(又は波数)、並びにシグナル強度(又はイオン強度)、吸光度等のスペクトルデータ等の分析データを得ることができる。
【0019】
<多変量解析工程>
多変量解析工程では、品質既知の鶏卵についての分析データと、品質既知の鶏卵の品質データとを用いて多変量解析して多変量解析結果を得る。機器分析により得られる結果(分析データ)が多変量解析における変数として用いられる。機器分析がGC/MSである場合、保持時間及び質量分析シグナル強度を変数として用いてよい。機器分析がGC/FIDである場合、保持時間およびFIDのシグナル強度を変数として用いてよい。多変量解析では、変数として鶏卵の品質が更に用いられる。
【0020】
(品質既知の鶏卵の品質データ)
品質既知の鶏卵の品質データは、具体的には、上述した鶏卵の品質に関して官能評価試験を行うことによって評価される官能評価スコア、又は粘度、色調、凝固性若しくは起泡性等の物性値である。
【0021】
(多変量解析)
多変量解析としては、機器分析データの解析に、特にケモメトリックスにおいて通常用いられる解析ツールが採用され得る。解析ツールとしては、例えば、PCA(主成分分析:principal component analysis)、HCA(階層クラスター分析:hierarchicalcluster analysis)、PLS回帰分析(潜在的構造に対する射影:Projection to LatentStructure)、判別分析(discriminate analysis)等が挙げられる。
例えば、部分最小二乗によるPLS回帰分析(Partial leastsquare projection to Latent Structure)を用いて、関連の変量の2群間の関係(例えば、鶏卵中の成分と鶏卵の品質との間の関係)を確認することもできる。多変量解析は、必要に応じて、スペクトルフィルタリング法、例えば、妨害成分を取り除くための直交シグナル補正(orthogonal signal correction:OSC)と組み合わせて行われてもよい。
解析ツールは、ソフトウエアとして多数市販されており、任意のものが入手可能である。このような市販のツールは、一般的に、難しい数学・統計学の知識がなくても、多変量解析を行うことができるように操作マニュアルが備えられている。多変量解析は、得られた分析データの一部又は全部を用いて行われてよい。
【0022】
(PLS回帰分析)
多変量解析は、PLS回帰分析であることが好ましい。PLS回帰分析は、変数(例えば、波数、波長)間に相関を有するスペクトルデータからの検量線作成に有効な手法である。変数間に相関がある場合、一般的に用いる変数の組み合わせによっては回帰精度が低下する傾向がある。回帰精度の低下を避けるためにPLSでは変数を互いに無相関な変数(潜在変数)に変換し、この潜在変数を用いて回帰を行う。すなわち、PLSとはデータの変数を直交変換し、その新たな変数を用いて(重)回帰分析を行う解析手法である。
【0023】
<予測モデル作成工程>
予測モデル作成工程では、分析データと、鶏卵の品質(既知品質)とを用いて多変量解析して得られる多変量解析結果から、鶏卵の品質予測モデルが作成される。鶏卵の品質予測モデルは、鶏卵の分析データと、分析データから予測される鶏卵の品質との関係を表す。品質未知の鶏卵の分析サンプルの機器分析結果(分析データ)を鶏卵の品質予測モデルと照合することにより、品質未知の鶏卵の品質を予測することができる。品質予測モデルは、データの蓄積により、精度が上昇し得る。
【0024】
(GC/MSを用いた品質予測方法)
例えば、複数の品質既知の鶏卵の分析サンプルについてGC/MSにより定量解析を行う場合には、得られたGC/MSクロマトグラムから保持時間インデックスを独立変数、質量分析シグナル強度を従属変数としてマトリクスデータを作成する。品質既知の複数の鶏卵の分析サンプルの官能評価スコア、又は粘度若しくは色調等の測定値を説明変数として、品質既知の鶏卵の分析サンプルをトレーニングセットとしてPLS法により品質予測モデルを作成できる。品質未知の鶏卵の分析サンプルから同様に機器分析して得られたデータを多変量解析し、その解析結果を予測モデルと比較及び照合することによって、どの程度の品質であるかがわかるため、品質を予測することができる。例えば、鶏卵の分析サンプルをGC/MSを用いた方法(例えば、固相マイクロ抽出-質量分析計付きガスクロマトグラフィー(SPME-GC-MS)法)で分析した場合、得られる分析結果は、鶏卵中の種々の成分の保持時間、マススペクトル、イオン強度等がある。
【0025】
<鶏卵の品質を制御する方法>
上述した鶏卵の品質を予測する方法によって予測された品質から鶏の飼料内容を決定することによって、鶏卵の品質制御が可能となる。したがって、本発明の一実施形態として、上述した鶏卵の品質を予測する方法により、予測された品質から鶏の飼料内容を決定する工程(決定工程)を含む、鶏卵の品質を制御する方法が提供される。当該鶏卵の品質を制御する方法は、決定工程の前に、上述した鶏卵の品質を予測する方法により飼養中の鶏から得られる鶏卵の品質を予測する工程(予測工程)を更に含んでいてよい。当該鶏卵の品質を制御する方法は、決定された飼料内容で鶏を飼養する工程(飼養工程)を更に含んでいてもよい。本実施形態に係る鶏卵の品質を制御する方法は、例えば、予測工程、決定工程及び飼養工程をこの順で繰り返すことにより行われてよい。
【0026】
(飼料内容)
飼料内容としては、例えば、飼料の種類、飼料の調製方法、飼料の給与量、飼料の給与方法等が挙げられる。
【実施例0027】
以下、実施例等に基づいて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
<官能評価方法>
「味の濃さ」及び「風味の強さ」の評価項目について官能評価を行った。官能評価は具体的には次に示す方法により実施した。
官能評価の手法には記述的試験法(JIS Z 8144、番号2055)を用いた。官能評価では、「味の濃さ」及び「風味の強さ」の評価項目について、1~10点の10段階で評価した。「味の濃さ」の評価項目では、官能評価スコアの値が大きいほど、味が濃いことを示し、「風味の強さ」の評価項目では、官能評価スコアの値が大きいほど、風味が強いことを示す。
パネルは訓練がなされた12名(20歳~60歳、男性3名、女性9名)で行った。
常温にしたサンプルを10gずつプラスチックコップに入れ、アルミ箔で蓋をして提供した。順序効果を回避するよう計画に従ってサンプルとパネリストを配置した。サンプルをパネルに配布する際には3桁のランダムな数を付した。すべての評価は、空調が完備し、外部からの臭気、騒音、邪魔などが入らない専用の官能評価室において行った。卵の色の差によるパネルへの影響を少なくするため、官能評価室には赤色灯を使用した。
【0029】
<鶏卵の前処理>
次に示す方法によって、鶏卵を前処理してサンプルを得た。サンプルとして、全卵サンプル及び卵黄サンプルを次に示す方法によって準備した。
(全卵サンプル)
殻付卵を割卵し、卵黄と卵白を分離した。卵黄表面に付着した卵白を除去した上で、卵黄膜に穴を開け、内部の卵黄を取り出した。卵黄は撹拌機で均質化し、卵白はミキサーで破砕した後にメッシュストレーナーを通した。重量比は卵黄:卵白=1:2となるように混合し、撹拌機で均質化した。これにより、全卵サンプルを得た。
(卵黄サンプル)
殻付卵を割卵し、卵黄と卵白を分離した。卵黄表面に付着した卵白を除去した上で、卵黄膜に穴を開け、内部の卵黄を取り出し、撹拌機で均質化した。これにより、卵黄サンプルを得た。
【0030】
<SPME-GC/MS(固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフ質量分析法)(香気成分)>
前処理
50mL倒立遠心管に全卵10gを量り取り、飽和塩化ナトリウム水溶液を10g加え、蓋をして振盪した。これをSPME-GC/MS用のサンプルとした。
前処理したサンプルについて、SPMEファイバーと揮発性成分抽出装置を用い、以下の条件に従って、固相マイクロ抽出法で香気成分の分離濃縮を行った。さらに、ガスクロマトグラフ法及び質量分析法を用い、以下の条件に従って、香気成分の同定とピーク面積の算出を行った。
【0031】
測定条件
【表1】
【0032】
<イオンクロマト(糖、有機酸)>
前処理
50mL倒立遠心管に全卵5gを量り取り、超純水で50mLまでメスアップした。その後、全卵入りの遠心管を15分間振盪した後、10分間超音波をかけ、さらに遠心(3000rpm,15分)した。0.45μmのメンブランフィルターで上清をろ過した。ろ液をAmicon Ultra-2 mL 3K(メルクミリポア社製)を用いて、遠心(3000rpm,60分)し、イオンクロマトグラフィー用サンプルとした。
糖分析の標準溶液には、5~100ppmになるように超純水を用いて調製し、0.45μmのメンブランフィルターで上清をろ過したものを用いた。
有機酸分析の標準溶液には、2~40ppmになるように超純水を用いて調製し、0.45 μmのメンブランフィルターで上清をろ過したものを用いた。
標準溶液をイオンクロマトグラフに注入し、得られたピーク面積から検量線を作成した。各成分の定量には、クロマトグラムのピーク面積を使用した。
【0033】
糖測定条件
【表2】
【0034】
有機酸測定条件
【表3】
【0035】
<GC(脂肪酸)>
基準油脂分析試験法に従って実施した。
前処理
50mL倒立遠心管に卵黄1.5gを量り取った。卵黄入りの倒立遠心管にクロロホルム:メタノール(2:1、v/v)混液を10mL加え、手で振盪した後、遠心(3500rpm,10分)した。下層を100mLナスフラスコへ移した。この操作を3回繰り返した。得られた液に対し、エバポレーターで溶媒除去を行った(湯浴は40℃)。得られた試料をクロロホルムで溶かし込みながら、20mLメスフラスコへメスアップした。
20mLメスフラスコに、内部標準物質としてヘプタデカン酸40mgを量り取り、クロロホルムでメスアップした。得られた内部標準物質を含む溶液を検体数分のねじ口試験管へ1mLずつ加え、10分間窒素乾固した。
内部標準物質を含む溶液を添加したねじ口試験管と、内部標準物質を添加していないねじ口試験管に、前処理したサンプルを1mLずつ加えた後、10分間窒素乾固した。
0.5mol/L NaOHメタノール溶液1mLを前処理したサンプル入りの試験管内に加え、蓋をして軽く混合し、ブロックヒーターで加熱(100℃, 10分)し、ケン化した。
放冷後、三フッ化ホウ素-メタノール溶液を上記試験管内に1mL加え、蓋をして軽く混合し、ブロックヒーターで加熱(100℃,5分)した。
放冷後、ヘキサン2mLを上記試験管内に加え、蓋をして混合した。次いで、飽和塩化ナトリウム水溶液を上記試験管内に7mL加え、蓋をして混合した。
試験管内のヘキサン層を別の試験管に移し、前処理したサンプル入りの試験管内に、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、ガスクロマトグラフィー用サンプルとした。
得られたガスクロマトグラフィー用サンプルを使用し、次のガスクロマトグラフ(GC)測定条件にて脂肪酸量を分析した。
【0036】
測定条件
【表4】
【0037】
<PLS回帰分析>
部分最小二乗法による潜在的構造に対する射影(PLS回帰分析、以下PLSということもある。)(JMP(登録商標)14(SAS Institute Inc.,Cary,NC,USA))を選択して、品質予測モデルを作成した。PLSにより、2セットの変量(測定値および応答値)間の関係が見出される。
【0038】
得られた各サンプルの分析データをマトリクスデータに変換後、PLS回帰分析を行い、官能評価スコア予測モデル(本明細書においてPLSモデルということもある。)を作成した。
上記の分析により得られた各成分の定量値を、マトリクスデータ(行の変数名:サンプルNo.列の変数名:各成分)に変換し、該マトリクスデータを説明変数、各サンプルの官能評価スコアを目的変数として、既知サンプルをトレーニングセットとしてPLS法により官能評価スコア予測モデル(PLSモデル)としてのPLS回帰係数を作成した。
【0039】
(「味の濃さ」についてのPLSモデル)
図1はトレーニングセット及びテストセットのPLSモデルによる官能評価の予測値と官能評価による実測値との関係を示す図である。図1中の丸(●)はトレーニングセットを示し、三角(▲)はテストセットを示す。
モデルの完全性、すなわち、PLSモデルにおける潜在的ファクターの数は、クロスバリデーションによって決定され得、最適な数は、(モデルに対する)適合と予測能との間のバランスで見られた。さらに、PLSモデルは、テストセットでバリデートされ、予測値の平均二乗誤差(RMSEP)をコンピュータ計算した。
トレーニングセットについては、Yの97.2%の変動を記述し(R=0.972)、クロスバリデーションに従って、Yの94.1%の変動を予測した(Q=0.941)。Rはモデルの適合度を示す指標であり、この値が1に近いほどモデルの精度は高い。Qはモデルの予測性能を示す指標であり、この値が1に近いほどモデルの予測性は高い。
次いで、テストセットについて、PLSモデルで予測し、トレーニングセットサンプル(RMSEE=0.243)に基づくモデル評価に関して、テストサンプル(RMSEP=0.505)の予測精度が得られた。RMSEEはトレーニングセットによる平均平方誤差の平方根、RMSEPはテストセットによる平均平方誤差の平方根であり、これらの値が小さいほど予測精度が高い。
【0040】
(「風味の強さ」についてのPLSモデル)
「風味の強さ」の官能評価スコアを用い、同様にPLSモデルを作成した。
図2はトレーニングセット及びテストセットのPLSモデルによる官能評価の予測値と官能評価による実測値との関係を示す図である。図2中の丸(●)はトレーニングセットを示し、三角(▲)はテストセットを示す。
トレーニングセットについては、Yの99.9%の変動を記述し(R=0.999)、クロスバリデーションに従って、Yの92.0%の変動を予測した(Q=0.920)。
トレーニングセットサンプル(RMSEE=0.284)に基づくモデル評価に関して、テストサンプル(RMSEP=0.396)の予測精度が得られた。
【0041】
官能評価において「味の濃さ」で表現される風味、および「風味の強さ」で表現される風味について、PLSモデルにより、品質が精度よく予測可能であることが示された。

図1
図2