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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115689
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】熱伝導性グリース
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
C09K5/14 101E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012399
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(72)【発明者】
【氏名】木部 龍夫
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 智
(57)【要約】
【課題】展性と熱伝導性とを両立させることができる熱伝導性グリースを提供する。
【解決手段】無機粉末充填剤と、基油組成物と、を含む熱伝導性グリースであって、無機粉末充填剤は、平均粒子径が10μm以上100μm以下の範囲にある第1無機粉末充填剤と、第1無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第2無機粉末充填剤と、第1無機粉末充填剤及び該第2無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第3無機粉末充填剤と、を含有し、無機粉末充填剤の平均粒径が所定の関係を満たし、基油組成物は、基油と、アミン系添加剤と、フェノール系添加剤と、チオエーテル系添加剤と、を含む、熱伝導性グリースである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末充填剤と、基油組成物と、を含む熱伝導性グリースであって、
前記無機粉末充填剤は、平均粒子径が10μm以上100μm以下の範囲にある第1無機粉末充填剤と、該第1無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第2無機粉末充填剤と、該第1無機粉末充填剤及び該第2無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第3無機粉末充填剤と、を含有し、
前記無機粉末充填剤の平均粒径が以下の関係式(1)、(2)を満たし、
前記基油組成物は、基油と、アミン系添加剤と、フェノール系添加剤と、チオエーテル系添加剤と、を含む、
熱伝導性グリース。
/D<0.70・・・(1)
/D<0.60・・・(2)
[式中:Dは第1無機粉末充填剤の平均粒径を表し、Dは第2無機粉末充填剤の平均粒径を表し、Dは第3無機粉末充填剤の平均粒径を表す。]
【請求項2】
前記第2無機粉末充填剤の平均粒子径は1μm以上50μm以下の範囲であり、
前記第3無機粉末充填剤の平均粒子径は0.1μm以上5μm以下の範囲である
請求項1に記載の熱伝導性グリース。
【請求項3】
無機粉末充填剤100質量部に対して、
前記第1無機粉末充填剤を40質量部以上80質量部以下の割合で含有し、
前記第2無機粉末充填剤を10質量部以上50質量部以下の割合で含有し、
前記第3無機粉末充填剤を10質量部以上40質量部以下の割合で含有する
請求項1又は2に記載の熱伝導性グリース。
【請求項4】
前記基油は、ポリオールエステル及び/又は芳香族エステルを含有する
請求項1から3のいずれかに記載の熱伝導性グリース。
【請求項5】
前記基油組成物は、基油100質量部に対して、
前記アミン系添加剤を0.1質量部以上10質量部以下の割合で含有し、
前記フェノール系添加剤を0.1質量部以上5質量部以下の割合で含有し、
前記チオエーテル系添加剤を0.1質量部以上5質量部以下の割合で含有する
請求項1から4のいずれかに記載の熱伝導性グリース。
【請求項6】
さらに無機層状化合物を含有し、
前記無機層状化合物が、ベントナイト、マイカ、カオリン、セピオライト、サポナイト、及びヘクトライトから選ばれる少なくとも1種以上を含む
請求項1から5のいずれかに記載の熱伝導性グリース。
【請求項7】
前記無機粉末充填剤が、銅、アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素から選ばれる少なくとも1種以上を含有する
請求項1から6のいずれかに記載の熱伝導性グリース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性グリースに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に使用されている半導体部品の中には、コンピューターのCPU、ペルチェ素子、LED、インバーター等の電源制御用パワー半導体など使用中に発熱をともなう発熱部品がある。
【0003】
これらの半導体部品を熱から保護し、正常に機能させるためには、発熱部品(半導体部品)から発生した熱をヒートシンク等の放熱部品へ伝導させ放熱する方法がある。熱伝導性グリースは、これら発熱部品と放熱部品を密着させるように両者の間に塗布され、発熱部品の熱を放熱部品に効率よく伝導させるために用いられる。近年、これら半導体部品を用いる電子機器の性能向上や小型・高密度実装化が進んでおり、放熱対策に用いられる熱伝導性グリースにはより高い熱伝導性が求められる。
【0004】
熱伝導性グリースは、液状炭化水素やシリコーン油やフッ素油等の基油に、酸化亜鉛、酸化アルミニウムなどの金属酸化物や、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの無機窒化物や、アルミニウムや銅などの金属粉末等、熱伝導率の高い充填剤が多量に分散されたグリース状組成物である。例えば、特定の表面改質剤を配合したもの(特許文献1、2等参照)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第59443064
【特許文献2】特開2008-280516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱伝導性グリースは、コンピューターのCPU等の発熱部品と、ヒートシンク等の放熱部品との熱接触界面、並びにハイブリッド自動車や電気自動車等に搭載される高出力のインバーター等の発熱部品と、ヒートスプレッダー等の放熱部品との熱接触界面に塗布して使用される。近年、これらのエレクトロニクス機器における半導体素子は、小型化・高性能化に伴い、発熱密度及び発熱量が増大し、更に、他の半導体部品である発熱部品に近接され組み込まれることが多くなっており、熱伝導性グリースはより高い放熱特性を求められている。
【0007】
一般に熱接触界面に塗布される熱伝導性グリースの放熱性は、発熱部品と放熱部品との熱接触界面での界面熱抵抗値と反比例する。熱接触界面における界面熱抵抗値を低減することにより効果的に発熱部品から発生した熱を放熱部品へ伝導させ放熱することができる。
【0008】
このような熱接触界面における界面熱抵抗値を低減するには、発熱部品と放熱部品との距離が短くなるように熱伝導性グリースを塗布することが効果的である。しかしながら、近年の小型化された電子機器等の発熱部品に熱伝導性グリースを空隙なく熱伝導性グリースを均一に薄く塗布することは、必ずしも容易ではない。
【0009】
熱伝導性グリースを均一に薄く塗布するためには、例えば、発熱部品に対して一定の厚さに熱伝導性グリースに塗布した後に、塗布した熱伝導性グリースを加圧して熱伝導性グリースを薄く広げる方法が挙げられる。熱伝導性グリースを薄く広げるには、熱伝導性グリースに高い展性を有することが求められる。
【0010】
熱伝導性グリースの展性を高くするためには、例えば、熱伝導性グリースに含有される無機粉末充填剤の含有量を低くし、熱伝導性グリースに含有される基油の含有量を増やすことで、熱伝導性グリースの展性を阻害する要因である無機粉末充填剤の粒子同士の摩擦を低減する方法が考えられる。しかしながら、熱伝導性グリースに含有される無機粉末充填剤の含有量が低くなると熱伝導性グリース自体の熱伝導率も低下する。そのため、無機粉末充填剤の含有量を増やした場合に熱伝導性グリースに展性を付与することが困難であった。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、無機粉末充填剤の含有量を増やした場合でも、展性に優れた熱伝導性グリースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、平均粒径が異なる複数の無機粉末充填剤を含有し、所定の添加剤を含有する基油組成物を含む熱伝導性グリースであれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1)本発明の第1は、無機粉末充填剤と、基油組成物と、を含む熱伝導性グリースであって、前記無機粉末充填剤は、平均粒子径が10μm以上100μm以下の範囲にある第1無機粉末充填剤と、該第1無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第2無機粉末充填剤と、該第1無機粉末充填剤及び該第2無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第3無機粉末充填剤と、を含有し、前記無機粉末充填剤の平均粒径が以下の関係式(1)、(2)を満たし、前記基油組成物は、基油と、アミン系添加剤と、フェノール系添加剤と、チオエーテル系添加剤と、を含む、熱伝導性グリースである。
/D<0.70・・・(1)
/D<0.60・・・(2)
[式中:Dは第1無機粉末充填剤の平均粒径を表し、Dは第2無機粉末充填剤の平均粒径を表し、Dは第3無機粉末充填剤の平均粒径を表す。]
【0014】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記第2無機粉末充填剤の平均粒子径は1μm以上50μm以下の範囲であり、前記第3無機粉末充填剤の平均粒子径は0.1μm以上5μm以下の範囲である熱伝導性グリースである。
【0015】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、無機粉末充填剤100質量部に対して前記第1無機粉末充填剤を40質量部以上80質量部以下の割合で含有し、前記第2無機粉末充填剤を10質量部以上50質量部以下の割合で含有し、前記第3無機粉末充填剤を10質量部以上40質量部以下の割合で含有する熱伝導性グリースである。
【0016】
(4)本発明の第4は、第1から第3のいずれかの発明において、前記基油は、ポリオールエステル及び/又は芳香族エステルを含有する
請求項1から3のいずれかに記載の熱伝導性グリース。
【0017】
(5)本発明の第5は、第1から第4のいずれかの発明において、前記アミン系添加剤の含有量は、基油100質量部に対し0.1質量部以上10質量部以下であり、前記フェノール系添加剤の含有量は、基油100質量部に対し0.1質量部以上5質量部以下であり、前記チオエーテル系添加剤の含有量は、基油100質量部に対し0.1質量部以上5質量部以下である熱伝導性グリースである。
【0018】
(6)本発明の第6は、第1から第5のいずれかの発明において、さらに無機層状化合物を含有し、前記無機層状化合物が、ベントナイト、マイカ、カオリン、セピオライト、サポナイト、及びヘクトライトから選ばれる少なくとも1種以上を含む熱伝導性グリースである。
【0019】
(7)本発明の第7は、第1から第6のいずれかの発明において、前記無機粉末充填剤が、銅、アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素から選ばれる少なくとも1種以上を含有する熱伝導性グリースである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の熱伝導性グリースは、無機粉末充填剤の含有量を増やした場合であっても優れた展性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において、「~」との表記は、「以上」「以下」を意味し、「X:Y~A:B」との表記は「X:Y」及び「A:B」そのものを含み、「X:Y」と「A:B」との間の範囲を意味する。
【0022】
≪熱伝導性グリース≫
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、基油組成物と、無機粉末充填剤と、を含有する。そして、無機粉末充填剤においては、平均粒径の異なる複数の無機粉末充填剤を含有し、それらの無機粉末充填剤の平均粒径の比が所定範囲であり、基油組成物においては、基油と、アミン系添加剤と、フェノール系添加剤と、チオエーテル系添加剤と、を含むことを特徴としている。
【0023】
本発明者の研究により以下のことが明らかとなった。すなわち、所定の平均粒径を有する第1、第2及び第3の無機粉末充填剤を含有することにより、無機粉末充填剤の粒子間の隙間に入り込む基油を減らすことが可能となる。そのため、熱伝導性グリースに含有される無機粉末充填剤の含有量を増やした場合でも熱伝導性グリースに展性を付与することができる。
【0024】
さらに、アミン系添加剤と、フェノール系添加剤と、チオエーテル系添加剤と、を含む基油組成物を使用することで、これらの添加剤が無機粉末充填剤の表面に吸着して、無機粉末充填剤の粒子間の摩擦抵抗を効果的に軽減することが可能となる。これにより、熱伝導性グリースに含有される無機粉末充填剤の含有量をさらに増やしても十分な展性を維持することが可能となる。
【0025】
以下、熱伝導性グリースに含まれる無機粉末充填剤と、基油組成物と、について説明する。
【0026】
<1.無機粉末充填剤>
無機粉末充填剤は、熱伝導性グリースに高い熱伝導性を付与する。本実施の形態に係る熱伝導性グリースに用いられる無機粉末充填剤は平均粒子径が10μm以上100μm以下の範囲にある第1無機粉末充填剤と、第1無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第2無機粉末充填剤と、第1無機粉末充填剤及び第2無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第3無機粉末充填剤と、を含有する。
【0027】
そして、無機粉末充填剤の平均粒径が以下の関係式(1)、(2)を満たす。
/D<0.70・・・(1)
/D<0.60・・・(2)
[式中:Dは第1無機粉末充填剤の平均粒径を表し、Dは第2無機粉末充填剤の平均粒径を表し、Dは第3無機粉末充填剤の平均粒径を表す。]
【0028】
所定の平均粒径の関係を有する3種の無機粉末充填剤を含有することにより、無機粉末充填剤の粒子間の隙間に入り込む基油を減らすことが可能となる。そのため、無機粉末充填剤の含有量を増やした場合でも、熱伝導性グリースを均一に拡がるようにすることが可能となる。
【0029】
第2無機粉末充填剤の平均粒子径は上記の関係式を満たすのであれば特に制限はされないが、1μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。無機粉末充填剤の含有量を増やした状態で熱伝導性グリースをより均一に拡がるようにすることが可能となる。
【0030】
第3無機粉末充填剤の平均粒子径は上記の関係式を満たすのであれば特に制限はされないが、0.1μm以上5μm以下の範囲であることが好ましい。これにより、無機粉末充填剤の含有量を増やした状態で熱伝導性グリースをより均一に拡がるようにすることが可能となる。
【0031】
第1、第2及び第3の無機粉末充填剤のそれぞれの含有量は、特に制限されるものではないが、無機粉末充填剤100質量部に対して、第1無機粉末充填剤を40質量部以上80質量部以下の割合で含有し、第2無機粉末充填剤を10質量部以上50質量部以下の割合で含有し、第3無機粉末充填剤を10質量部以上40質量部以下の割合で含有することが好ましい。第1、第2及び第3の無機粉末充填剤のそれぞれの含有量がこのような範囲であることにより、熱伝導性グリースに含有される無機粉末充填剤の含有量を増やしても熱伝導性グリースに展性を付与することができる。
【0032】
本実施の形態に係る熱伝導性グリースに用いられる無機粉末充填剤の種類は、基油より高い熱伝導率を有するものであれば特に限定されず、例えば、金属酸化物、無機窒化物、金属(合金も含む。)、ケイ素化合物などの粉末が好適に用いられる。本実施の形態において無機粉末充填剤の種類は1種類であってもよいし、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0033】
電気絶縁性を求める場合には、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカ、ダイヤモンドなどの、半導体やセラミックなどの非導電性物質の粉末が好適に使用でき、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカの粉末がより好ましく、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムの粉末が特に好ましい。電気絶縁性の要求がなく、金属粉末を用いる場合は、銅、アルミニウムの粉末を用いるのが好ましい。これらの無機粉末充填剤をそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0034】
なお、第1、第2及び第3の無機粉末充填剤は、所定の平均粒子径を有する無機粉末充填剤であることを意味する。また、例えば第1無機粉末充填剤は、平均粒子径が同じであれば1種の材料からなる無機粉末充填剤であってもよいし、2種以上の材料からなる無機粉末充填剤であってもよい。第2及び第3の無機粉末充填剤についても同様である。
【0035】
また、本実施の形態に係る熱伝導性グリースは上記第1、第2及び第3の無機粉末充填剤以外の平均粒径の異なる無機粉末充填剤を含有してもよい。その中でも本実施の形態に係る熱伝導性グリースに含有される第1、第2及び第3の無機粉末充填剤の含有量は、無機粉末充填剤100質量部に対して80質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましく、95質量部以上であることが更に好ましく、99質量部以上であることが更に尚好ましく、100質量部であること(すなわち、上記第1、第2及び第3の無機粉末充填剤以外の平均粒径の異なる無機粉末充填剤を含有しないこと。)が最も好ましい。
【0036】
なお、本実施の形態に係る熱伝導性グリースにおいて、無機粉末充填剤の平均粒径はレーザー回折散乱法(JIS R 1629:1997に準拠)により測定した粒度分布の体積平均径として算出できる。
【0037】
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、上述した通り所定の平均粒径の関係を有する3種の無機粉末充填剤を含有し、アミン系添加剤と、フェノール系添加剤と、チオエーテル系添加剤と、を含む基油組成物を使用していることから、無機粉末充填剤の含有量を増やした場合でも、優れた展性を有する。無機粉末充填剤の含有量は特に限定されるものではなく、無機粉末充填剤の含有量を低くても優れた展性を有する熱伝導性グリースとなるが、例えば、熱伝導性グリース100質量%に対して50質量%以上95質量%以下の割合で無機粉末充填剤を含有することにより、高い熱伝導性と優れた展性とを両立させることが可能となる。なお、無機粉末充填剤の含有量の下限は、熱伝導性グリース100質量%に対して60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。無機粉末充填剤の含有量の上限は、93質量%以下であることが好ましい。
【0038】
<2.基油組成物>
基油組成物には少なくとも基油と、アミン系添加剤と、フェノール系添加剤と、チオエーテル系添加剤と、を含む。このような基油組成物を使用することで、アミン系添加剤と、フェノール系添加剤と、チオエーテル系添加剤が無機粉末充填剤の表面に吸着して粒子間の摩擦抵抗を効果的に軽減した状態で無機粉末充填剤の粒子間の隙間に基油が入り込むことが可能となり、優れた展性を有する熱伝導性グリースとなる。基油組成物に含有される各成分について説明する。
【0039】
(1)基油
基油としては、種々の基油が使用でき、例えば、鉱油、合成炭化水素油等の炭化水素系基油、エステル系基油、エーテル系基油、リン酸エステル、シリコン油及びフッ素油等が挙げられる。中でも、ポリオールエステルと芳香族系エステルとを含むものを使用することが好ましい。ポリオールエステルと芳香族系エステルとを含むものを使用することで固化し難く、蒸発損失が小さく、高温安定性に優れる熱伝導性グリースとなる。
【0040】
ポリオールエステルとしては、従来から高温用潤滑油の基油として用いられてきたものを用いることができる。特に、ポリオールエステルを構成するアルコール成分がジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンまたはネオペンチルグリコールであるものが好適に用いられる。
【0041】
ポリオールエステルの酸成分は、特に限定されないが、潤滑油の粘度が所望の範囲になるように適宜選択できる。酸成分としては、炭素数7~10の直鎖状もしくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪酸などが使用でき、分岐鎖状の脂肪酸がより好適に用いられる。具体的には、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、2-エチルペンタン酸、2,2-ジメチルペンタン酸、2-エチル-2-メチルブタン酸、2-メチルヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸、2-プロピルペンタン酸、2,2-ジメチルへキサン酸、2-エチル-2-メチルヘプタン酸、2-メチルオクタン酸、2,2-ジメチルヘプタン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、2,2-ジメチルオクタン酸等を挙げることができる。特に、3,5,5-トリメチルヘキサン酸が耐熱性に優れているため好ましい。
【0042】
芳香族系エステルについては、その芳香族カルボン酸成分として、フタル酸、4-t-ブチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、4,4’-チオビス安息香酸などの芳香族カルボン酸、又はその無水物及びその芳香族カルボン酸とメタノール、エタノール等の炭素数1~4の低級アルコールエステルが例示される。これらの芳香族カルボン酸成分の中では、特に、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、及びピロメリット酸が推奨される。また、チェーン用潤滑油として非常に厳しい高温条件で使用される場合には、高粘度で蒸発損失の少ないエステルを提供するトリメリット酸、トリメシン酸、またはピロメリット酸を用いることが望ましい。
【0043】
芳香族系エステルを構成するアルコール成分としては、炭素数4~18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を有する脂肪族一価アルコールが好ましい。具体的には、3,5,5-トリメチルヘキサノール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、n-ヘキサノール、イソヘキサノール、n-ヘプタノール、イソヘプタノール、n-オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキサノール、n-ノナノール、イソノナノール、n-デカノール、イソデカノール、n-ウンデカノール、イソウンデカノール、n-ドデカノール、イソドデカノール、n-トリデカノール、イソトリデカノール、n-テトラデカノール、イソテトラデカノール、n-ペンタデカノール、イソペンタデカノール,n-デキサデカノール、イソヘキサデカノール、n-オクタデカノール、イソオクタデカノール等が例示させる。また、これらのアルコールの代わりに、その酢酸エステル等の低級アルキルエステルを用いることも可能である。これらの一価アルコールの中では、特に2-エチルヘキサノール及び3,5,5-トリメチルヘキサノールを用いることが望ましい。
【0044】
芳香族系エステルとしては、フタル酸ジ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エステル、イソフタル酸ジ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エステル、トリメリット酸トリ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エステル、トリメシン酸トリ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エステル、ピロメリット酸テトラ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エステル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)エステル、イソフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)エステル、トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)エステル、トリメシン酸トリ(2-エチルヘキシル)エステル、ピロメリット酸テトラ(2-エチルヘキシル)エステルがあり、この中でも特にトリメリット酸トリ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エステル及びトリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)エステルが挙げられる。
【0045】
ポリオールエステルと芳香族系エステルとを含むものを使用する場合、ポリオールエステルの含有量は、基油組成物100質量部に対して、69質量部以上85質量部以下であることが好ましい。ポリオールエステルの含有量が69質量部より少ないと高温安定性が低下し、スラッジ量が増加する。ポリオールエステルの含有量が85質量部より大きいと望ましい初期耐蒸発性が得られなくなる。また、芳香族系エステルの含有量は、基油組成物100質量部に対して、5質量部以上20質量部以下であることが好ましい。芳香族系エステルの含有量が5質量部より少ないと望ましい初期耐蒸発性が得られなくなる。芳香族系エステルの含有量が20質量部より大きいと高温安定性が低下し、スラッジ量が増加する。
【0046】
(2)アミン系添加剤
アミン系添加剤は、フェノール系添加剤と、チオエーテル系添加剤とともに含ませることで、無機粉末充填剤の粒子間の摩擦抵抗を軽減する。これにより粒子間の摩擦抵抗を効果的に軽減した状態で無機粉末充填剤の粒子間の隙間に基油が入り込むことが可能となり、優れた展性を有する熱伝導性グリースとなる。アミン系添加剤としては、ジフェニルアミン類、フェニル-α-ナフチルアミン類及びフェニレンジアミン類が挙げられる。ジェフェニルアミン類の具体例としては、ジフェニルアミン、p,p’-ジブチルジフェニルアミン、p,p’-ジペンチルジフェニルアミン、p,p’-ジヘキシルジフェニルアミン、p,p’-ジヘプシルジフェニルアミン、p,p’-ジオクチルジフェニルアミン、p,p’-ジノニルジフェニルアミンのほか、炭素数4~9の混合アルキルジフェニルアミン等も挙げられる。フェニル-α-ナフチルアミン類の具体的としては、N-フェニル-α-ナフチルアミン、N-ブチルフェニル-α-ナフチルアミン、N-ペンチルフェニル-α-ナフチルアミン、N-ヘキシルフェニル-α-ナフチルアミン、N-ヘプチルフェニル-α-ナフチルアミン、N-オクチルフェニル-α-ナフチルアミン、N-ノニルフェニル-α-ナフチルアミン等が挙げられる。また、フェニレンジアミン類の具体的としては、p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン等の酸化防止剤としても機能するアミン系添加剤を挙げられる。
【0047】
アミン系添加剤の含有量は、基油100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、4質量部以上8質量部以下が更に好ましい。アミン系添加剤の含有量が0.1質量部よりも少なくなると無機粉末充填剤の粒子間の摩擦抵抗を軽減する効果が十分に得られなくなり、10質量部よりも多くなるとスラッジ量が多くなるため好ましくない。
【0048】
(3)フェノール系添加剤
フェノール系添加剤は、アミン系添加剤と、チオエーテル系添加剤とともに含ませることで、無機粉末充填剤の粒子間の摩擦抵抗を軽減する。これにより粒子間の摩擦抵抗を効果的に軽減した状態で無機粉末充填剤の粒子間の隙間に基油が入り込むことが可能となり、優れた展性を有する熱伝導性グリースとなる。フェノール系添加剤としては、3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-ヘキシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソヘキシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-ヘプチル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソヘプチル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-オクチル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソオクチル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸2-エチルヘキシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-ノニル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソノニル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-デシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソデシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-ウンデシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソウンデシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-ドデシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソドデシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ヘキシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソヘキシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ヘプチル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソヘプチル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-オクチル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソオクチル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸2-エチルヘキシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ノニル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソノニル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-デシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソデシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ウンデシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソウンデシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ドデシル、(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソドデシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-ヘキシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソヘキシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-ヘプチル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソヘプチル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-オクチル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソオクチル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸2-エチルヘキシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-ノニル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソノニル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-デシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソデシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-ウンデシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソウンデシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸n-ドデシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酢酸イソドデシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ヘキシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソヘキシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ヘプチル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソヘプチル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-オクチル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソオクチル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸2-エチルヘキシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ノニル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソノニル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-デシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソデシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ウンデシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソウンデシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ドデシル、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソデシシル、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,2-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,2-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の酸化防止剤としても機能するフェノール系添加剤を挙げられる。この中でも、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ヘプチル及び(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ノニルが特に好ましい。
【0049】
フェノール系添加剤の含有量は、基油100質量部に対し、0.1質量部以上5質量部以下が好ましく、1質量部以上4質量部以下が更に好ましい。フェノール系添加剤の含有量が0.1質量部よりも少なくなると無機粉末充填剤の粒子間の摩擦抵抗を軽減する効果が十分に得られなくなり、5質量部よりも多くなるとスラッジ量が多くなるため好ましくない。
【0050】
(4)チオエーテル系添加剤
チオエーテル系添加剤は、アミン系添加剤と、フェノール系添加剤とともに含ませることで、無機粉末充填剤の粒子間の摩擦抵抗を効果的に軽減する。これにより粒子間の摩擦抵抗を効果的に軽減した状態で無機粉末充填剤の粒子間の隙間に基油が入り込むことが可能となり、優れた展性を有する熱伝導性グリースとなる。チオエーテル系添加剤としてはジラウリル3,3-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3-チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリエウチオプロピオネート)、ジトリデシル3,3’-チオジプロピオネート、ビス(2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル)スルフィドの酸化防止剤としても機能するチオエーテル系添加剤を挙げられる。この中でも、ビス(2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル)スルフィドが好適であり、そのアルキル基はC12又はC14が好ましい。
【0051】
チオエーテル系添加剤の含有量は、基油100質量部に対し、0.1質量部以上5質量部以下が好ましく、0.5質量部以上3質量部以下が更に好ましい。チオエーテル系添加剤の含有量が0.1質量部よりも少なくなると無機粉末充填剤の粒子間の摩擦抵抗を軽減する効果が十分に得られなくなり、5質量部よりも多くなるとスラッジ量が多くなるため好ましくない。
【0052】
(5)無機層状化合物
熱伝導性グリースには無機層状化合物を更に含有させることができる。無機層状化合物は、主に層状粘土鉱物である板状結晶又は板状形態の化合物である。無機層状化合物は、熱伝導性グリースのちょう度を高め、熱伝導性グリースの塗布性を向上させる。
【0053】
具体的には、無機層状化合物としては、ベントナイト、マイカ、カオリン、セピオライト、サポナイト、及びヘクトライト等の層状粘土鉱物を例示することができる。その中でも特に、ベントナイトを用いることが好ましい。特にベントナイトは、熱伝導性グリースのちょう度を向上させる増ちょう剤として作用して熱伝導性グリースの塗布性を向上させることができるとともに、熱伝導性をより向上させることができる。
【0054】
また、無機層状化合物は、基油に混合させ分散させることから、その表面が有機処理されたものであることが好ましい。有機修飾させるための化合物としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸等のアミン塩が挙げられる。
【0055】
無機層状化合物の含有量は特に限定されるものではないが、基油100質量部に対し1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。無機層状化合物の含有量が1質量部以上であることにより、熱伝導率を高めることができるとともに、ちょう度を適切に調整でき塗布性を向上させることができる。
【0056】
また、無機層状化合物の含有量は、基油100質量部に対して2質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。また、無機層状化合物の含有量は、基油100質量部に対して15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0057】
(6)その他の添加剤
熱伝導性グリースの各種特性を高めるために、分散剤、消泡剤、さび止め剤、腐食防止剤、増粘剤・増ちょう剤、極圧剤から選ばれる一種以上を含む添加剤を更に含有させることができる。
【0058】
分散剤としては、酸系炭化水素ポリマーや高級脂肪酸エステル等の化合物が挙げられる。
【0059】
さび止め剤としてはスルホン酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩等の化合物が挙げられる。
【0060】
腐食防止剤としてはベンゾトリアゾールおよびその誘導体等の化合物、チアジアゾール系化合物が挙げられる。
【0061】
増粘剤・増ちょう剤としてはポリブテン、ポリメタクリレート、脂肪酸塩、ウレア化合物、石油ワックス、ポリエチレンワックス等の化合物が挙げられる。
【0062】
極圧剤としては、リン系極圧剤、ホウ素含有極圧剤等の化合物が挙げられる。
【0063】
これらの添加剤の含有量は、本発明の特性を損なわない範囲で、通常の熱伝導性グリースに用いられている含有量と同程度の量を含有させることができる。
【0064】
≪熱伝導性グリースの製造方法≫
本実施の形態に係る熱伝導性グリースの製造に関しては、均一に成分を混合できればその方法は特に限定されない。一般的な製造方法としては、プラネタリーミキサー、自転公転ミキサーなどにより混練りを行い、さらに三本ロールにて均一に混練りする方法がある。
【実施例0065】
以下、本発明の実施例及び比較例に基づいて、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0066】
1.熱伝導性組成物の製造
下記(A)~(E)に示す各材料を用い、下記表1に示す組成の熱伝導性組成物を製造した。
【0067】
[熱伝導性組成物の構成及び製造方法]
(構成成分)
(A)無機粉末充填剤
(A)-1:第1無機粉末充填剤
アルミナ1:平均粒子径=40μm
アルミナ2:平均粒子径=30μm
アルミナ3:平均粒子径=50μm
アルミナ4:平均粒子径=70μm
アルミナ5:平均粒子径=110μm
アルミナ6:平均粒子径=5μm
【0068】
(A)-2:第2無機粉末充填剤
アルミナ7:平均粒子径=8μm
アルミナ8:平均粒子径=15μm
アルミナ9:平均粒子径=20μm
アルミナ10:平均粒子径=30μm
アルミナ11:平均粒子径=3.4μm
酸化亜鉛1:平均粒子径=10μm
【0069】
(A)-3:第3無機粉末充填剤
アルミナ12:平均粒子径=0.53μm
アルミナ13:平均粒子径=0.83μm
アルミナ14:平均粒子径=0.18μm
アルミナ15:平均粒子径=5μm
酸化亜鉛2:平均粒子径=0.60μm
【0070】
なお、各無機粉末充填剤の平均粒径は、粒子径分布測定装置(島津製作所製 SALD-7000)を用いてレーザー回折散乱法にて測定した。
【0071】
(B)基油
(B)-1:ジペンタエリスリトールイソノナン酸エステル
(B)-2:トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)エステル
(B)-3:トリメリット酸トリ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エステル
【0072】
(C)アミン系添加剤
(C)-1:p,p’-ジオクチルジフェニルアミン
(C)-2:N-オクチルフェニル-α-ナフチルアミン
【0073】
(D)フェニル系添加剤
(D)-1:(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ノニル
(D)-2:(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ヘプチル
【0074】
(E)チオエーテル系添加剤
(E)-1:ビス(2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル)スルフィド
【0075】
(F)無機層状化合物
(F)-1:有機処理ベントナイト
(F)-2:有機処理セピオライト
【0076】
(G)その他の添加剤
(G)-1:極圧剤:リン系添加剤
(G)-2:分散剤:酸系炭化水素ポリマー
(G)-3:分散剤:高級脂肪酸エステル
【0077】
まず、表1に示す含有割合となるように、(B)基油に、(C)アミン系添加剤、(D)フェニル系添加剤、(E)チオエーテル系添加剤、及び(G)極圧剤を加え、乳鉢で混合し、添加剤含有基油(表中、含有油1~18と記載)を調製した。
【0078】
【表1】
【0079】
熱伝導性グリースの調製
次に、表2、表3に示す含有割合となるように、含有油1~18に、(F)層状無機化合物と、(G)分散剤とを溶解した後、(A)無機粉末充填剤とともに自公転ミキサーで撹拌し、実施例、比較例の熱伝導性グリースを調製した。なお、表2、表3中において、「熱伝導グリース中における各成分の含有量(質量%)」のそれぞれの無機粉末充填剤の含有量の数値は、「グリース中における総含有量(質量%)」の数値及び「無機粉末充填剤中における各成分の含有量(質量%)」の数値から算出して、小数点1桁まで表示した数値である。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
[評価]
実施例及び比較例の熱伝導性グリースについて、以下の手順にしたがい、グリース化の可否、熱伝導率、展性、流動性、耐垂れ落ち性を評価した。
【0083】
(グリース化の可否)
グリース化の可否は、上記により製造した試料を目視で確認し、グリース状になっているかどうかで可否を判断した。グリース化できた場合を「可」とし、グリース化できなかった場合を「不可」とした。評価結果を表4、表5に示す。
なお、グリース化できなかった試料は、以下の評価は行わなかった。
【0084】
(熱伝導率)
調製した熱伝導性グリースの熱伝導率は、過渡熱測定装置(ASTMD5470準拠)を用いて室温にて測定した。この測定結果を表4、表5に示す。
【0085】
(展性)
スライドガラスの基板上にφ6mmのサイズで500μmの厚さに塗布し、塗布した熱伝導性グリースの上にスライドガラスをかぶせて0.1MPaの圧力で加圧した。加圧後、変形した熱伝性グリースの直径から面積を計算し、熱伝性グリースの厚さを算出した。この算出結果を表4、表5に示す。
【0086】
(流動性)
調製した熱伝導性グリースを、ガラス基板上にアプリケータで100μmの厚さに塗布した。塗布時に問題なく印刷できたか確認し、かすれ等がなく所定の形状に印刷できた場合を流動性ありと判断し「〇」に、かすれ等を生じた場合は熱伝導性グリースの流動性が不十分と判断し「×」とした(初期評価)。
【0087】
次に、熱伝導性グリース塗布ガラス基板を250℃に加熱された電気炉内に縦置きし、4時間保持した。その後、取り出して冷却した後、熱伝導性グリースをスパチュラでかき混ぜて、流動性の有無を判断した。グリース状を維持しかき混ぜられる場合を流動性ありと判断し「〇」に、固化してかき混ぜられない場合を流動性なしと判断し「×」とした。この評価結果を表4、表5に示す。
【0088】
(耐垂れ落ち性)
調製した熱伝導性グリースを、ガラス基板上にアプリケータで100μmの厚さに塗布した。次に、熱伝導性グリース塗布ガラス基板を250℃に加熱された電気炉内に縦置きし、その状態で、垂れ落ちの有無を確認した(初期評価)。
【0089】
その後、電気炉内で4時間保持した後、取り出して冷却し、熱伝導性グリースを目視確認して、垂れ落ち性の有無を判断した。熱伝導性グリースが元の位置のままで垂れ落ちがない場合を「〇」、熱伝導性グリースが下に垂れ落ちている場合を「×」と評価した。この評価結果を表4、表5に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
表4、表5の結果から分かるように、本発明の範囲内である実施例1~36の熱伝導性グリースは、4.8W/(m/K)以上と高い熱伝導率を有しながら、展性が92μm以下と薄膜化しやすく、250℃4時間の高温保管後も十分な流動性を保ちながら、耐垂れ落ち性も良好であることが分かる。
【0093】
これに対し、本発明の構成において、無機粉末充填剤の粒径比D/Dが0.70以上である比較例1や無機粉末充填剤の粒径比D/Dが0.60以上である比較例2や最も粒子径の大きい第1無機粉末充填剤の平均粒子径が100μmを超える比較例3は、粒子間に液状成分が行き渡らなくなって、熱伝導性グリースの展性が低下しており、本発明の効果を奏する熱伝導性グリースとはなっていない。
【0094】
また、アミン系添加剤を含有しない比較例4やアミン系添加剤とチオエーテル系添加剤を含有しない比較例5やアミン系添加剤とフェノール系添加剤を含有しない比較例6やフェノール系添加剤とチオエーテル系添加剤を含有しない比較例7は、無機粉末充填剤の粒子間の摩擦抵抗を軽減することができず、熱伝導性グリースの展性が低下しており、本発明の効果を奏する熱伝導性グリースとはなっていない。
【0095】
また、これらの比較例4~7は、高温保管後に流動性を失っており、十分な耐熱性を有していない。