(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115917
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ろ過装置、精製装置、薬液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20060101AFI20220802BHJP
G03F 7/26 20060101ALI20220802BHJP
G03F 7/32 20060101ALI20220802BHJP
G03F 7/42 20060101ALI20220802BHJP
G03F 7/11 20060101ALI20220802BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220802BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20220802BHJP
B01D 61/16 20060101ALI20220802BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20220802BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220802BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20220802BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20220802BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20220802BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20220802BHJP
B01D 65/06 20060101ALI20220802BHJP
G03F 7/039 20060101ALN20220802BHJP
G03F 7/038 20060101ALN20220802BHJP
【FI】
C02F1/44 A
G03F7/26
G03F7/32
G03F7/32 501
G03F7/42
G03F7/11 501
G03F7/11 503
H01L21/304 648F
H01L21/304 647Z
B01D61/14 500
B01D61/16
B01D61/58
B01D69/00
B01D71/26
B01D71/36
B01D71/56
B01D71/64
B01D65/06
G03F7/039 601
G03F7/038 601
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074027
(22)【出願日】2022-04-28
(62)【分割の表示】P 2020507462の分割
【原出願日】2019-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2018055152
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】大松 禎
(72)【発明者】
【氏名】上村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智美
(57)【要約】
【課題】優れた欠陥抑制性能を有する薬液を製造可能なろ過装置の提供を課題とする。また、精製装置、及び、薬液の製造方法の提供も課題とする。
【解決手段】ろ過装置は、流入部と、流出部と、フィルタAと、フィルタAとは異なる少なくとも1つのフィルタBと、フィルタA及びフィルタBが直列に配置された流入部から流出部にいたる流通路とを有する、被精製液を精製して薬液を得るためのろ過装置であって、フィルタAは、ポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入部と、流出部と、
フィルタAと、前記フィルタAとは異なる少なくとも1つのフィルタBと、前記フィルタA及び前記フィルタBが直列に配置された前記流入部から前記流出部にいたる流通路とを有する、被精製液を精製して薬液を得るためのろ過装置であって、
前記フィルタAは、ポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜であり、
前記フィルタBは、前記流通路上において前記フィルタAの上流側に配置された、イオン交換基を有する樹脂を含有するフィルタを少なくとも1つ含む、ろ過装置。
【請求項2】
前記ポリイミド系樹脂のイミド化率が1.0以上である、請求項1に記載のろ過装置。
【請求項3】
流入部と、流出部と、
フィルタAと、前記フィルタAとは異なる少なくとも1つのフィルタBと、前記フィルタA及び前記フィルタBが直列に配置された前記流入部から前記流出部にいたる流通路とを有する、被精製液を精製して薬液を得るためのろ過装置であって、
前記フィルタAは、ポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜であり、
前記ポリイミド系樹脂のイミド化率が1.5超2.0以下であり、
前記フィルタBに含まれ、前記流通路上において前記フィルタAの下流側に配置され、前記フィルタAより小さな孔径を有する少なくとも1つのフィルタBD、及び、前記流通路上に、前記フィルタAと直列に配置されたタンクからなる群より選択される少なくとも1つを更に有する、ろ過装置。
【請求項4】
流入部と、流出部と、
フィルタAと、前記フィルタAとは異なる少なくとも1つのフィルタBと、前記フィルタA及び前記フィルタBが直列に配置された前記流入部から前記流出部にいたる流通路とを有する、被精製液を精製して薬液を得るためのろ過装置であって、
前記フィルタAは、ポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜であり、
前記ポリイミド系樹脂のイミド化率が1.6~2.0である、ろ過装置。
【請求項5】
前記フィルタBは、前記流通路上において前記フィルタAの上流側に配置された、イオン交換基を有する樹脂を含有するフィルタを少なくとも1つ含む、請求項3又は4に記載のろ過装置。
【請求項6】
前記イオン交換基が、酸基、及び、塩基基からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は5に記載のろ過装置。
【請求項7】
前記フィルタBは、前記流通路上において前記フィルタAの下流側に配置され、前記フィルタAより小さな孔径を有するフィルタBDを少なくとも1つ含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のろ過装置。
【請求項8】
前記フィルタBDの孔径が20nm以下である、請求項4又は7に記載のろ過装置。
【請求項9】
前記フィルタBDが、ポリエチレン、ナイロン、及び、ポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項4、7及び8のいずれか一項に記載のろ過装置。
【請求項10】
前記フィルタBDが、親水性基を有する第2の樹脂を含有する請求項4及び7~9のいずれか一項に記載のろ過装置。
【請求項11】
前記フィルタBは、前記流通路上において前記フィルタAの上流側に配置され、前記フィルタAより大きな孔径を有するフィルタBUを少なくとも1つ含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のろ過装置。
【請求項12】
前記フィルタBUの孔径が20nm以上である請求項11に記載のろ過装置。
【請求項13】
前記流通路上に、前記フィルタAと直列に配置されたタンクを更に有する請求項1~12のいずれか一項に記載のろ過装置。
【請求項14】
前記流通路において、前記タンクの上流側に、前記タンクと直列に配置された、孔径20nm以下のフィルタCを更に有する請求項13に記載のろ過装置。
【請求項15】
前記流通路上における、前記フィルタAの下流側から、前記フィルタAの上流側へと、前記被精製液を返送可能な返送流通路を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のろ過装置。
【請求項16】
前記少なくとも1つのフィルタBDのうちのいずれかのフィルタBDからなる基準フィルタの下流側から、前記基準フィルタの上流側へと、前記被精製液を返送可能な返送流通路を有する、請求項7~10のいずれか一項に記載のろ過装置。
【請求項17】
前記薬液が、現像液、リンス液、ウェハ洗浄液、ライン洗浄液、プリウェット液、ウェハリンス液、レジスト液、下層膜形成用液、上層膜形成用液、及び、ハードコート形成用液からなる群より選択される少なくとも1種であるか、又は、
水性現像液、水性リンス液、剥離液、リムーバー、エッチング液、酸性洗浄液、及び、リン酸、リン酸-過酸化水素水混合液からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~16のいずれか一項に記載のろ過装置。
【請求項18】
前記薬液のpHが0~9である、請求項1~17のいずれか一項に記載のろ過装置。
【請求項19】
請求項1~16のいずれか一項に記載のろ過装置と、
前記ろ過装置の前記流入部に接続された少なくとも1つの蒸留器と、
を有する精製装置。
【請求項20】
被精製液を精製して薬液を得るためのろ過装置と、
前記ろ過装置の前記流入部に接続された少なくとも1つの蒸留器と、
を有する精製装置であって、
前記ろ過装置が、流入部と、流出部と、フィルタAと、前記フィルタAとは異なる少なくとも1つのフィルタBと、前記フィルタA及び前記フィルタBが直列に配置された前記流入部から前記流出部にいたる流通路とを有し、
前記フィルタAは、ポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜である、
精製装置。
【請求項21】
前記少なくとも1つの蒸留器は、直列に接続された複数の蒸留器を含む、請求項19又は20に記載の精製装置。
【請求項22】
被精製液を精製して薬液を得る、薬液の製造方法であって、請求項1~18のいずれか一項に記載のろ過装置を用いて、被精製液を精製して薬液を得る、ろ過工程を有する、薬液の製造方法。
【請求項23】
前記ろ過工程の前に、前記フィルタA、及び、前記フィルタBを洗浄液を用いて洗浄するフィルタ洗浄工程を更に有する、請求項22に記載の薬液の製造方法。
【請求項24】
前記ろ過工程の前に、前記ろ過装置の接液部を洗浄液を用いて洗浄する装置洗浄工程を更に有する、請求項22又は23に記載の薬液の製造方法。
【請求項25】
前記洗浄液が、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、鎖状又は環状ケトン、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、及び、非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項23又は24に記載の薬液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過装置、精製装置、及び、薬液の製造方法に関する。
【0002】
フォトリソグラフィを含む配線形成工程による半導体デバイスの製造の際、プリウェット液、レジスト液(レジスト樹脂組成物)、現像液、リンス液、剥離液、化学機械的研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)スラリー、及び、CMP後の洗浄液等として、又は、それらの希釈液として、水及び/又は有機溶剤を含有する薬液が用いられている。
近年、フォトリソグラフィ技術の進歩によりパターンの微細化が進んでいる。
このような配線形成工程に用いられる薬液には、更なる欠陥抑制性能の向上が求められている。このような薬液は、一般に、薬液に求められる成分を主成分として含有する被精製液をフィルタ等を用いて精製して不純物等を除くことにより得られると考えられている。
【0003】
このような薬液の製造方法として、特許文献1には、「リソグラフィー用薬液を、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルタにより濾過する濾過工程を有する、リソグラフィー用薬液精製品の製造方法」が記載されている。また、特許文献2には、「液体の精製方法であって、液体の一部又は全部を、連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により透過させることを含む、液体の精製方法」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-68261号公報
【特許文献2】特開2016-155121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記精製方法を用いて被精製液を精製して薬液を得て、上記薬液に係る欠陥抑制性能を評価したところ、十分な欠陥抑制性能が得られないことがあることを知見した。そこで、本発明は、優れた欠陥抑制性能を有する薬液を製造可能なろ過装置の提供を課題とする。また、本発明は、精製装置、及び、薬液の製造方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題が達成されることを見出した。
【0007】
[1] 流入部と、流出部と、フィルタAと、フィルタAとは異なる少なくとも1つのフィルタBと、フィルタA及びフィルタBが直列に配置された流入部から流出部にいたる流通路とを有する、被精製液を精製して薬液を得るためのろ過装置であって、フィルタAは、ポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜である、ろ過装置。
[2] ポリイミド系樹脂のイミド化率が1.0以上である、[1]に記載のろ過装置。
[3] フィルタBは、流通路上においてフィルタAの下流側に配置され、フィルタAより小さな孔径を有するフィルタBDを少なくとも1つ含む、[1]又は[2]に記載のろ過装置。
[4] フィルタBDの孔径が20nm以下である、[3]に記載のろ過装置。
[5] フィルタBDが、ポリエチレン、ナイロン、及び、ポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、[3]又は[4]に記載のろ過装置。
[6] フィルタBDが、親水性基を有する第2の樹脂を含有する[3]~[5]のいずれかに記載のろ過装置。
[7] フィルタBは、流通路上においてフィルタAの上流側に配置され、フィルタAより大きな孔径を有するフィルタBUを少なくとも1つ含む、[1]又は[2]に記載のろ過装置。
[8] フィルタBUの孔径が20nm以上である[7]に記載のろ過装置。
[9] フィルタBは、流通路上においてフィルタAの上流側に配置された、イオン交換基を有する樹脂を含有するフィルタを少なくとも1つ含む、[1]~[8]のいずれかに記載のろ過装置。
[10] イオン交換基が、酸基、及び、塩基基からなる群より選択される少なくとも1種である、[9]に記載のろ過装置。
[11] 流通路上に、フィルタAと直列に配置されたタンクを更に有する[1]~[10]のいずれかに記載のろ過装置。
[12] 流通路において、タンクの上流側に、タンクと直列に配置された、孔径20nm以下のフィルタCを更に有する[11]に記載のろ過装置。
[13] 流通路上における、フィルタAの下流側から、フィルタAの上流側へと、被精製液を返送可能な返送流通路を有する、[1]又は[2]に記載のろ過装置。
[14] 少なくとも1つのフィルタBDのうちのいずれかのフィルタBDからなる基準フィルタの下流側から、基準フィルタの上流側へと、被精製液を返送可能な返送流通路を有する、[3]~[6]のいずれかに記載のろ過装置。
[15] 薬液が、現像液、リンス液、ウェハ洗浄液、ライン洗浄液、プリウェット液、ウェハリンス液、レジスト液、下層膜形成用液、上層膜形成用液、及び、ハードコート形成用液からなる群より選択される少なくとも1種であるか、又は、水性現像液、水性リンス液、剥離液、リムーバー、エッチング液、酸性洗浄液、及び、リン酸、リン酸-過酸化水素水混合液からなる群より選択される少なくとも1種である[1]~[14]のいずれかに記載のろ過装置。
[16] 薬液のpHが0~9である、[1]~[15]のいずれかに記載のろ過装置。
[17] [1]~[16]のいずれかに記載のろ過装置と、ろ過装置の流入部に接続された少なくとも1つの蒸留器と、を有する精製装置。
[18] 少なくとも1つの蒸留器は、直列に接続された複数の蒸留器を含む、[17]に記載の精製装置。
[19] 被精製液を精製して薬液を得る、薬液の製造方法であって、[1]~[16]のいずれかに記載のろ過装置を用いて、被精製液を精製して薬液を得る、ろ過工程を有する、薬液の製造方法。
[20] ろ過工程の前に、フィルタA、及び、フィルタBを洗浄液を用いて洗浄するフィルタ洗浄工程を更に有する、[19]に記載の薬液の製造方法。
[21] ろ過工程の前に、ろ過装置の接液部を洗浄液を用いて洗浄する装置洗浄工程を更に有する、[19]又は[20]に記載の薬液の製造方法。
[22] 洗浄液が、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、鎖状又は環状ケトン、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、及び、非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1種を含有する[20]又は[21]に記載の薬液の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた欠陥抑制性能を有する薬液を製造可能なろ過装置を提供できる。また、本発明は、精製装置、及び、薬液の製造方法も提供できる。
【0009】
なお、本明細書において、薬液の「欠陥抑制性能」は、実施例に記載した方法により評価される薬液の性能を意味する。半導体基板の製造に用いられる薬液には、薬液の種類及び役割に応じたそれぞれの「欠陥抑制性能」が求められる。
本明細書においては、プリウェット液、現像液、及び、リンス液等のレジスト膜の形成の際に用いられる薬液については、後述する実施例における[試験例1]に記載した残渣欠陥をリソグラフィープロセスにおける欠陥の代表的な指標値のひとつとして捉え、本残渣欠陥抑制性能を「欠陥抑制性能」とする。また、樹脂を含有し、レジスト膜の形成に用いられるレジスト樹脂組成物については、後述する実施例における[試験例3]に記載したブリッジ欠陥をレジスト樹脂組成物に由来するリソグラフィープロセスにおける欠陥の代表的な指標値のひとつとして捉え、ブリッジ欠陥抑制性能を「欠陥抑制性能」とする。また、エッチング液、及び、レジスト剥離液等として用いられる薬液については、後述する実施例における[試験例2]に記載したパーティクル欠陥を薬液由来の欠陥の代表的な指標値のひとつとして捉え、パーティクル欠陥抑制性能を「欠陥抑制性能」とする。
以下、単に「欠陥抑制性能」という場合、薬液の種類に応じたそれぞれの欠陥抑制性能(残渣欠陥抑制性能、ブリッジ欠陥抑制性能、又は、パーティクル欠陥抑制性能)を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図2】本発明の第二実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図3】本発明の第二実施形態に係るろ過装置の変形例を表す模式図である。
【
図4】本発明の第三実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図5】本発明の第三実施形態に係るろ過装置の変形例を表す模式図である。
【
図6】本発明の第四実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図7】本発明の第五実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図8】本発明の第五実施形態に係るろ過装置の変形例を表す模式図である。
【
図9】本発明の第六実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図10】本発明の第六実施形態に係るろ過装置の変形例を表す模式図である。
【
図11】蒸留器で予め精製された蒸留済み被精製液を使用して薬液を製造する場合の各装置の関係を表す模式図である。
【
図12】本発明の第一実施形態に係る精製装置を表す模式図である。
【
図13】本発明の第二実施形態に係る精製装置を表す模式図である。
【
図14】本発明の実施形態に係る精製装置を表す模式図である。
【
図15】本発明の実施形態に係る精製装置を表す模式図である。
【
図16】本発明の実施形態に係る精製装置を表す模式図である。
【
図17】本発明の実施形態に係る精製装置を表す模式図である。
【
図18】本発明の実施形態に係る精製装置を表す模式図である。
【
図19】本発明の実施形態に係る精製装置を表す模式図である。
【
図20】本発明の実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図21】本発明の実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図22】本発明の実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図23】本発明の実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図24】従来技術に係る精製装置を表す模式図である。
【
図25】従来技術に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図26】本発明の実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図27】本発明の実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【
図28】本発明の実施形態に係る精製装置を表す模式図である。
【
図29】本発明の実施形態に係る精製装置を表す模式図である。
【
図30】本発明の実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[ろ過装置]
本発明の実施形態に係るろ過装置は、流入部と、流出部と、フィルタAと、フィルタAとは異なる少なくとも1つのフィルタBと、フィルタA及びフィルタBが直列に配置された流入部から流出部にいたる流通路(被精製液の流れる経路)とを有するろ過装置であって、(言い換えれば、流入部と流出部との間に、フィルタAと上記フィルタAとは異なる少なくとも1つのフィルタBとが直列に配置され、流入部から流出部にいたる流通路を有するろ過装置であって、)フィルタAは、ポリアミドイミド系樹脂を含有する多孔質膜(言い換えれば、フィルタAはその材料を構成する成分(材料成分として)ポリアミドイミド系樹脂を含有する多孔質膜)であるろ過装置である。
【0013】
一般に、薬液の欠陥抑制性能に関係する薬液中の不純物としては、例えば、ゲル状の有機化合物(特に高分子化合物)成分、無機微粒子、及び、無機イオン等が想定される。
これらのうち、薬液中の固形分となり得るゲル状の高分子化合物、又は、無機微粒子は、フィルタが有するふるい効果により除去されやすく、結果として、得られる薬液の欠陥抑制性能が向上するものと想定される。
一方、粒子以外の無機成分、及び、イオン性の成分は、フィルタが有する吸着機能(イオン相互作用による吸着、及び、親疎水性の相互作用による吸着等)により除去されやすく、結果として、得られる薬液の欠陥抑制性能が向上するものと想定される。
【0014】
ふるい効果を有するフィルタと吸着効果のあるフィルタとをろ過装置の流通路上に直列に配置すると、それぞれのフィルタを単独で使用した場合に得られる薬液が有するよりも、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られることが本発明者らによって初めて知見された。本発明者らは、このような結果が得られたメカニズムを以下のように推測している。
【0015】
本発明者らの検討によれば、単独では欠陥源とはならないような微小ゲル(有機化合物を含有する)と、無機微粒子及び/又は無機イオンとが相互作用したり、単独では欠陥源とならない微小無機微粒子及びトレースメタル等とゲル状の有機化合物とが相互作用したり、及び、微小ゲルと微小無機微粒子及びトレースメタル等とが相互作用することによって、欠陥が生ずる場合があることが明らかとなっている。
特に、微小ゲルは、薬液中では溶媒和の影響で分子ふるい効果によるろ過では充分に除去しきれず、薬液をウェハ上に塗布した後、乾燥させる際に溶媒和の効果が低減することでゲルを形成するため、欠陥の発生要因の1つとなるものと想定される。
【0016】
このような複合的な欠陥源に対しては、相互作用する原因成分それぞれの除去が効果的であり、微小ゲル成分、及び、微小ゲル成分と相互作用しうる無機の超微粒子成分、及び、無機イオン成分を、ふるい効果および吸着効果により除去することで、欠陥のさらなる低減に繋げることができると想定される。
【0017】
本発明の実施形態に係るろ過装置は、材料成分としてポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜であるフィルタAによるイオン捕捉効果と、更に組み合わせるフィルタBによるゲル状微粒子、及び、無機微粒子の除去効果により、複合的な要因による欠陥の除去効率が向上し、結果として優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られたものと考えられる。
なお、本発明の実施形態に係るろ過装置はフィルタAとフィルタBとが流通路上に直列に配置されているため、被精製液は、フィルタA及びフィルタB(又は、フィルタB及びフィルタA)によって順次ろ過される。以下、本発明の実施形態に係るろ過装置について説明するが、以下の説明では、フィルタに導入した被精製液の全量をフィルタでろ過する、全量ろ過方式(デッドエンド方式)のろ過装置を例示するが、本発明の実施形態に係るろ過装置としては上記に制限されず、導入した被精製液を精製済み被精製液と濃縮液とに分離する(更に濃縮液を再度被精製液としてフィルタに導入する場合もある)クロスフロー方式のろ過装置であってもよく、これらを組み合わせた方式であってもよい。以下では、上記ろ過装置について、図面を用いて説明する。
【0018】
〔第一実施形態〕
図1は、本発明の第一実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
ろ過装置100は、流入部101と流出部102の間に、フィルタAであるフィルタ103と、上記フィルタ103より小さな孔径を有するフィルタ104(フィルタBD)とが配管105を介して直列に接続されたろ過装置である。
流入部101、フィルタ103、配管105、フィルタ104、及び、流出部102は、それぞれの内部に被精製液を流通できるよう構成されており、上記部材が連結されて、流通路S1(被精製液が流れる経路)が形成されている。
【0019】
流入部101、及び、流出部102としては、ろ過装置に被精製液を導入し、及び、排出できればその形態としては特に制限されないが、典型的には、流入口と流出口とを有する中空円筒状の配管(流入部、及び、流出部)等が挙げられる。以下流出部と流入部とがそれぞれ配管である形態を例に説明する。
流入部101、配管105、及び、流出部102の形態としては特に制限されないが、典型的には、内部に被精製液を流通可能に形成された中空円筒状の形態が挙げられる。これらの材料成分としては特に制限されないが、接液部(被精製液をろ過するに際して、被精製液が接触する可能性のある部分)は、後述する耐腐食材料で形成されていることが好ましい。
【0020】
ろ過装置100の流入部101から導入された被精製液は、流通路S1に沿ってろ過装置100内を流通し、その間にフィルタ103(フィルタA)、及び、フィルタ104(フィルタBD)によって順次ろ過されて、流出部102からろ過装置100外へと排出される。なお被精製液の形態については後述する。
なお、ろ過装置100は、被精製液を流通させる目的で、流通路S1上に(例えば、流入部101、配管105、及び、流出部102等)に、図示しないポンプ、ダンパ、及び、弁等を有していてもよい。
【0021】
フィルタ103(フィルタA)及びフィルタ104(フィルタB)の形態としては特に制限されない。フィルタA及びフィルタBの形態としては、例えば、平面状、プリーツ状、らせん状、及び、中空円筒状等が挙げられる。なかでも取り扱い性により優れる点で、典型的には、被精製液が透過可能な材料で形成された、及び/又は、被精製液が透過可能な構造である、芯材と、上記心材に巻き回される形で芯材上に配置されたフィルタとを有するカートリッジフィルタの形態が好ましい。この場合、芯材の材料としては特に制限されないが、後述する耐腐食材料から形成されることが好ましい。
【0022】
フィルタの配置の方法としては特に制限されないが、典型的には、少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を含み、入口と出口との間に少なくとも1つの流通路が形成された、図示しないハウジング内に配置されることが好ましい。その場合、フィルタはハウジングの内の流通路を横切るように配置される。ハウジング内に形成された流通路は、流通路S1の一部をなし、被精製液は流通路S1を流通する際に、流通路S1を横切るように配置されたフィルタによってろ過される。
【0023】
ハウジングの材料としては特に制限されないが、被精製液と適合できるあらゆる不浸透性の熱可塑性材料を含めて任意の適切な硬い不浸透性の材料が挙げられる。例えば、ハウジングはステンレス鋼などの金属、又はポリマーから製作できる。ある実施形態において、ハウジングはポリアクリレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、又はポリカーボネート等のポリマーである。
また、より優れた本発明の効果を有するろ過装置が得られる点で、ハウジングの接液部の少なくとも一部、好ましくは接液部の表面積に対して90%、より好ましくは接液部の表面積に対して99%は、後述する耐腐食材料からなることが好ましい。なお、本明細書において接液部とは、被精製液が接触する可能性のある部分(但し、フィルタ自体を除く)を意味し、ハウジング等のユニットの内壁等を意味する。
【0024】
<フィルタA>
フィルタAは材料成分としてポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜である。本明細書において、「ポリイミド系樹脂」とは、ポリイミド、及び、ポリアミドイミドを意味し、フィルタAは、ポリイミド、及び、ポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも一方を材料成分として含有していればよい。なお、ポリイミド系樹脂は、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び、-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有していてもよい。
【0025】
フィルタAは材料成分としてポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜であり、フィルタAはポリイミド系樹脂からなる多孔質膜であってもよく、ポリイミド系樹脂以外の材料成分を含有する多孔質膜であってもよい。
フィルタAがポリイミド系樹脂以外の材料成分を含有する場合、典型的には、ポリイミド系樹脂を含有する層と、他の材料(例えば、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、及び、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等)を含有する層とを有する積層体からなる多孔質膜が挙げられる。
【0026】
フィルタAは多孔質膜であり、膜内に多数の細孔を有する。この細孔の構造(細孔構造)としては特に制限されないが、球状の孔が多数連通して形成される連通孔を有することが好ましい。更に、フィルタAは、上記連通孔等によって、被精製液の流通路が形成されていることが好ましい。
このような細孔構造を有する多孔質膜を形成する方法としては特に制限されないが、典型的には、ポリイミド系樹脂と微粒子との複合膜を形成し、その後、上記微粒子を除去することによって形成できる。このようにすると、複合膜において、微粒子同士が接触していた部分に連通孔が形成されやすい。このような多孔質膜の製造方法については後述する。
被精製液が、上記連通孔を流通すると、分離、及び/又は、吸着によって、被精製液から不純物が除去される。
【0027】
上記連通孔は、フィルタAに多孔質性を付与する個々の孔(以下、単に「孔」と略称することがある。)が形成されているものであってよく、上記の孔は、後述の内面に曲面を有する孔であることが好ましく、後述の略球状孔であることがより好ましい。フィルタAにおいては、上記の個々の孔同士が隣接して形成される部分が連通孔となり、上記の孔が相互に連通した構造を有することが好ましい。また、孔が複数個繋がって、繋がった孔によって、フィルタAの全体を見たとき、被精製液の流通路を形成していることが好ましい。
この場合、流通路は、個々の「孔」及び/又は「連通孔」が連続することにより形成されることが好ましい。
なお、個々の孔は、典型的には、後述するフィルタA製造方法においてポリイミド系樹脂-微粒子複合膜中に存在する個々の微粒子が後工程で除去されることにより形成される孔であることが好ましい。また、連通孔は、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法においてポリイミド系樹脂-微粒子複合膜中に存在する個々の微粒子同士が接していた部分に、上記の微粒子が後工程で除去されることにより形成される、隣接する個々の孔同士であってもよい。
【0028】
フィルタAは、後述する方法により求められるB値が15nm以下である連通孔を含むものであることが好ましい。1つの連通孔は、後述の製造方法よれば、典型的には、2つの隣り合う粒子から形成されることが多い、この場合、孔の直径は、例えば、連通孔を構成する個々の孔が2つ分連続する方向を長手方向とすると、上記の長手方向に垂直な方向における直径である場合がある。連通孔の孔径は、フィルタAに多孔質性を付与する個々の孔の孔径の分布がブロードな方が、個々の孔同士が隣接して形成される連通孔自体の径が小さくなる傾向にある。
【0029】
本明細書において「B値」とは、以下の方法により算出される数(単位:nm)を意味する。
まず、フィルタAに吸着分子を吸脱着させることにより、吸着等温線を求める。そして、得られた吸着等温線から、下記式(1)に基づき[P/{Va(P0-P)}]を算出し、平衡相対圧(P/P0)に対してプロットする。そして、このプロットを直線と見なし、最小二乗法に基づき、傾きs(=[(C-1)/(Vm・C)])及び切片i(=[1/(Vm・C)])を算出する。そして、求められた傾きs及び切片iから式(2-1)、式(2-2)に基づき、Vm及びCを算出する。更には、Vmから、式(3)に基づき比表面積Aを算出する。
次に、求められた吸着等温線の吸着データを直線補間し、細孔容積算出相対圧で設定した相対圧での吸着量を求める。この吸着量から全細孔容積Vを算出する。
これは一般に、「BET(Brunauer,Emmett,Teller)法」と呼ばれる比表面積の一連の計算方法の理論に基づくものである。上記方法の実施にあたり、本明細書に記載されていない事項は、JIS R 1626-1996「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に準ずるものとする。
【0030】
[P/{Va(P0-P)}]
=[1/(Vm・C)]+[(C-1)/(Vm・C)](P/P0) (1)
Vm=1/(s+i) (2-1)
C=(s/i)+1 (2-2)
A=(Vm・L・σ)/22414 (3)
【0031】
但し、
Va:吸着量
Vm:単分子層の吸着量
P:吸着分子の平衡時の圧力
P0:吸着分子の飽和蒸気圧
L:アボガドロ数
σ:吸着分子の吸着断面積である。
【0032】
B値(nm)は、上記の方法に基づき比表面積A及び全細孔容積Vを算出した後に、得られた比表面積A及び全細孔容積Vに基づき式[4V/A]から算出される値である。B値(nm)は、BET法の測定結果から推測される細孔径としての意義を有する。
【0033】
フィルタAが上述の連通孔を有する場合、フィルタAに被精製液を通液すると、被精製液がフィルタAの内部を通過できる。フィルタAは、内面に曲面を有する個々の孔が連通孔により連続してなる流路を内部に有することが好ましい。
【0034】
フィルタAは、上記のように、内面に曲面を有する孔を含有する多孔質膜であることが好ましく、多孔質膜における孔の多く(好ましくは実質的に全部)が曲面で形成されていることがより好ましい。本明細書において、孔について「内面に曲面を有する」とは、多孔質をもたらす孔の少なくとも内面が、上記の内面の少なくとも一部に曲面を有することを意味する。
【0035】
フィルタAが有する孔は、少なくともその内面の実質的にほぼ全部が曲面であることが好ましく、このような孔を以下、「略球状孔」ということがある。本明細書において「略球状孔」とは、その内面が略球状の空間を形成している孔を意味する。略球状孔は、後述の製造方法において用いる微粒子が略球状である場合に形成されやすい。
本明細書において「略球状」とは、真球を含む概念であるが必ずしも真球のみに限定されず、実質的に球状であるものを含む概念である。本明細書において「実質的に球状である」とは、粒子の長径を短径で除した値で表される真球度によって定義される真球度が1±0.3以内であるものを意味する。フィルタAが有する略球状孔は、かかる真球度が1±0.1以内であるものが好ましく、1±0.05以内であるものがより好ましい。
【0036】
多孔質膜における孔が内面に曲面を有することにより、フィルタAに被精製液を通液する際に被精製液がフィルタAの有する孔の内部に十分に行き渡り、孔の内面に十分接触することができ、場合によっては内面の曲面に沿って対流を起こしている可能性も考えられる。略球状孔は、内面に更に凹部を有していてもよい。上記の凹部は、例えば、略球状孔の内面に開口を有する、略球状孔よりも孔径が小さい孔により形成されている場合がある。
【0037】
フィルタAは、平均球径が2000nm以下である略球状孔が相互に連通した構造を有するものであることが好ましい。上記の略球状孔の平均球径は、600nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。平均球形が、600nm~2000nmの範囲の場合、後述の微粒子の粒径分布指数(d25/75)が、1.6~5が好ましく、2~4の範囲がより好ましい。平均球形が、600nm以下の場合、後述の微粒子の粒径分布指数(d25/75)は、1~5が好ましく、1.1~4がより好ましい。かかる略球状孔の平均球径は、後述のケミカルエッチング処理を行ったものはポロメーターにより平均の連通孔のサイズ変化量を求め、その値から実際の略球状孔の平均球径を求める値であるが、ポリアミドイミドのように上述のケミカルエッチングを行わないものは、多孔質膜の製造に使用した微粒子の平均粒径を略球状孔の平均球径とすることができる。
【0038】
フィルタAは、ポリイミド系樹脂を材料成分として含有し、その他の樹脂を含有してもよい。フィルタAの材料成分中における樹脂の含有量としては特に制限されないが、フィルタAの全質量に対して、一般に、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、99質量%以上が更に好ましく、実質的に、樹脂のみからなる形態であってもよい。なお、樹脂のみからなるとは、意図せず混入する不純物等を除いて、材料成分が樹脂のみからなることを意味する。
【0039】
ポリイミド系樹脂は、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び、-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい。
ポリイミド系樹脂は、上記置換基を主鎖末端以外に有する高分子であることが好ましい。上記置換基を主鎖末端以外に有する高分子としては、例えば、ポリアミド酸が挙げられる。
【0040】
なお、本明細書において、「塩型カルボキシ基」とは、カルボキシ基における水素原子が陽イオン成分に置換した基を意味する。「陽イオン成分」とは、完全にイオン化した状態である陽イオン自体であってもよいし、-COO-とイオン結合して事実上電荷のない状態である陽イオン構成要素であってもよいし、これら両者の中間的な状態である部分電荷を有する陽イオン構成要素であってもよい。
「陽イオン成分」がn価の金属MからなるMイオン成分である場合、陽イオン自体としてはMn+と表され、陽イオン構成要素としては「-COOM1/n」における「M」で表される要素である。
【0041】
「陽イオン成分」としては、特に制限されないが、一般に、イオン成分又は有機アルカリイオン成分が挙げられる。例えば、アルカリ金属イオン成分がナトリウムイオン成分の場合、陽イオン自体としてはナトリウムイオン(Na+)であり、陽イオン構成要素としては「-COONa」における「Na」で表される要素である。部分電荷を有する陽イオン構成要素としては、Naδ+である。
陽イオン成分としては、特に限定されず、無機成分;NH4
+、N(CH3)4
+等の有機成分;等が挙げられる。無機成分としては、例えば、Li、Na、及び、K等のアルカリ金属;Mg、及び、Ca等のアルカリ土類金属;等の金属元素が挙げられる。有機成分としては、例えば、有機アルカリイオン成分が挙げられる。有機アルカリイオン成分としては、NH4
+、例えばNR4
+(4つのRはいずれも有機基を表し、それぞれ同一でも異なってもよい。)で表される第四級アンモニウムカチオン等が挙げられる。Rの有機基としては、アルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましい。第四級アンモニウムカチオンとしては、N(CH3)4
+等が挙げられる。
【0042】
塩型カルボキシ基における陽イオン成分の状態は、特に制限されない。一般に、ポリイミド系樹脂が存在する環境、例えば水溶液中であるか、有機溶剤中であるか、乾燥しているか等の環境に依存して、陽イオン成分の状態は変化し得る。陽イオン成分がナトリウムイオン成分である場合、例えば、水溶液中であれば、-COO-とNa+とに解離していることがあり、有機溶剤中であるか又は乾燥していれば、-COONaは解離していないことがある。
【0043】
ポリイミド系樹脂は、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つの置換基を有するものであってもよいが、これらの少なくとも1つを有する場合、通常、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基と、-NH-結合と、の両方を有する。ポリイミド系樹脂は、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基に関していえば、カルボキシ基のみを有してもよいし、塩型カルボキシ基のみを有してもよいし、カルボキシ基と塩型カルボキシ基との両方を有してもよい。ポリイミド系樹脂が有するカルボキシ基と塩型カルボキシ基との比率は、同一のポリイミド系樹脂であっても、例えば、ポリイミド系樹脂が存在する環境に応じて変動し得るし、陽イオン成分の濃度にも影響される。
【0044】
ポリイミド系樹脂が有するカルボキシ基と塩型カルボキシ基との合計モル数は、ポリイミドの場合は、通常、-NH-結合と等モルである。
特に、後述のポリイミド多孔質膜の製造方法において、ポリイミドにおけるイミド結合の一部から、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する場合、実質的に同時に-NH-結合も形成される。形成されるカルボキシ基と塩型カルボキシ基との合計モル数は、形成される-NH-結合と等モルである。
ポリアミドイミド多孔質膜の製造方法の場合は、ポリアミドイミドにおけるカルボキシ基と塩型カルボキシ基との合計モル数は、-NH-結合と必ずしも等モルではなく、後述のエッチング(イミド結合の開環)工程におけるケミカルエッチング等の条件次第である。
【0045】
ポリイミド系樹脂は、例えば、下記の一般式(1)~(4)でそれぞれ表される繰り返し単位(以下、単に「単位」ともいう。)からなる群より選択される少なくとも1種の単位を有するものが好ましい。
ポリイミド系樹脂のうち、ポリイミドとしては、下記一般式(1)で表される単位、及び、下記一般式(2)で表される単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位を有するものが好ましい。
ポリイミド系樹脂のうち、ポリアミドイミドとしては、下記一般式(3)で表される単位、及び、下記一般式(4)で表される単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位を有するものが好ましい。
【0046】
【0047】
【0048】
式(1)~(3)中、X1~X4は、互いに同一でも異なってもよく、それぞれ独立に、水素原子、又は、上述した陽イオン成分である。
RArは、アリール基であり、後述のポリアミド酸を構成する式(5)で表される単位、又は、芳香族ポリイミドを構成する式(6)で表される単位においてそれぞれカルボニル基が結合しているRArで表されるアリール基と同様のものが挙げられる。
Y1~Y4は、それぞれ独立に、ジアミン化合物のアミノ基を除いた2価の残基であり、後述のポリアミド酸を構成する式(5)で表される単位、又は、芳香族ポリイミドを構成する式(6)で表される単位においてそれぞれNが結合しているR’Arで表されるアリーレン基と同様のものが挙げられる。
【0049】
ポリイミド系樹脂としては、一般的なポリイミド又はポリアミドイミドが有するイミド結合(-N[-C(=O)]2)の一部が開環して、ポリイミドの場合は上記の一般式(1)又は一般式(2)で表される各単位、ポリアミドイミドの場合は上記の一般式(3)で表される単位をそれぞれ有するものであってもよい。
【0050】
ポリイミド系樹脂多孔質膜は、イミド結合の一部を開環させることで、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び、-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つの置換基を有するポリイミド系樹脂を含有するものでもよい。
【0051】
イミド結合の一部を開環させる場合の不変化率は、以下の手順(1)~(3)により求められる。
手順(1):後述のエッチング(イミド結合の開環)工程を行わない場合、多孔質膜(但し、多孔質膜を作製するためのワニスがポリアミド酸を含有する場合、焼成前の複合膜を焼成する工程において、実質的にイミド化反応が完結しているものとする。)について、フーリエ変換型赤外分光装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくフーリエ変換型赤外分光装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値(X01)を求める。
手順(2):X01を求めた多孔質膜と同一のポリマー(ワニス)を用いて得られた多孔質膜に対し、後述のエッチング(イミド結合の開環)工程を行った後の多孔質膜について、フーリエ変換型赤外分光装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくフーリエ変換型赤外分光装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値(X02)を求める。
手順(3):下式より不変化率を算出する。
不変化率(%)=(X02)÷(X01)×100
【0052】
多孔質膜における不変化率は、60%以上であることが好ましく、70~99.5%であることがより好ましく、80~99%であることが更に好ましい。
ポリアミドイミドを含有する多孔質膜の場合、-NH-結合を含むため、不変化率は100%であってもよい。
【0053】
ポリイミド多孔質膜である場合、FT-IR(Fourier transform infrared spectrometer)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値を「イミド化率」とする。
上記手順(2)で求められる値(X02)についてのイミド化率は、特に制限されないが、1.0以上が好ましい。なかでも後述する被精製液の溶解パラメータが20(MPa)1/2未満であるときは、上記イミド化率は1.0~1.5がより好ましい。また、後述する被精製液の溶解パラメータが20(MPa)1/2以上である場合、(上限値は特に制限されないが30(MPa)1/2以下が好ましい。)イミド化率としては、1.5を超えることが好ましい。なおこの場合、上限値としては特に制限されないが、一般に2.0以下が好ましい。
【0054】
(フィルタAの製造方法)
本実施形態に係るフィルタAの製造方法としては特に制限されないが、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドにおけるイミド結合の一部から、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する工程(以下「エッチング工程」という。)を有することが好ましい。なお、エッチング工程において、イミド結合の一部から、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する場合、実質的に同時に、理論上これらの基と等モルの-NH-結合も形成される。
【0055】
フィルタAが含有する樹脂が実質的にポリアミドイミドからなる場合、フィルタAは、エッチング工程を施さなくても既に-NH-結合を有しており、被精製液中の異物に対して良好な吸着力を示す。このような場合、フィルタAの製造方法としては、エッチング工程を有していても、有していなくてもよい。
【0056】
フィルタAの製造方法としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを主成分とする成形膜(以下「ポリイミド系樹脂成形膜」と略称することがある。)を作製した後、エッチング工程を行うことが好ましい。
エッチング工程を施す対象である、ポリイミド系樹脂成形膜は、多孔質であってもよいし非多孔質であってもよい。また、ポリイミド系樹脂成形膜の形態は、特に限定されないが、得られるポリイミド系樹脂多孔質膜における多孔質の程度を高めることができる点で、膜等の薄い形状であることが好ましく、多孔質であり、かつ、膜等の薄い形状であることがより好ましい。
【0057】
ポリイミド系樹脂成形膜は、上述のように、エッチング工程を施す際に非多孔質であってもよいが、その場合、エッチング工程の後に多孔質化することが好ましい。
ポリイミド系樹脂成形膜をエッチング工程の前又は後で多孔質化する方法としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドと、微粒子と、の複合膜(以下「ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜」という。)から微粒子を取り除いて多孔質化する、微粒子除去工程を有する方法が好ましい。
【0058】
フィルタAの製造方法としては、下記の製造方法(a)又は製造方法(b)が挙げられる。
製造方法(a):微粒子除去工程の前に、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドと微粒子との複合膜にエッチングする工程を有する方法
製造方法(b):微粒子除去工程の後に、微粒子除去工程によって多孔質化したポリイミド系樹脂成形膜にエッチングする工程を有する方法
これらの中でも、得られるフィルタAにおける多孔質の程度をより高めることができる点から、後者の製造方法(b)が好ましい。
【0059】
以下に、本実施形態に係るフィルタAの製造方法の典型例について説明する。
【0060】
本実施形態に係るフィルタAは典型的には、下記の方法で調製したワニスを用いて形成される。ワニスは、予め微粒子を有機溶剤に分散させた微粒子分散液と、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドとを任意の比率で混合する、又は、微粒子分散液中でテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを重合してポリアミド酸とするか、若しくは、更にポリアミド酸をイミド化してポリイミドとすることで調製される。
【0061】
ワニスの粘度は、300~2000cP(0.3~2Pa・s)が好ましく、400~1800cP(0.4~1.8Pa・s)がより好ましい。ワニスの粘度が上記範囲内であると、より均一に成膜することが可能である。
ワニスの粘度は、温度条件25℃で、E型回転粘度計により測定できる。
【0062】
上記ワニスにおける、ポリイミド系樹脂と微粒子(好ましくは樹脂微粒子)との含有質量比は特に制限されない。上記ワニスを焼成(焼成が任意の場合は乾燥)してポリイミド系樹脂-微粒子複合膜とした際に、ポリイミド系樹脂の含有量に対する、微粒子の含有量の含有質量比(微粒子/ポリイミド系樹脂の比率)が、好ましくは1~4(質量比)となるように、より好ましくは1.1~3.5(質量比)となるように、(樹脂)微粒子と、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドと、が混合される。
【0063】
また、上記ワニスにおける、ポリイミド系樹脂と微粒子との含有体積比は特に制限されない。上記ワニスをポリイミド系樹脂-微粒子複合膜とした際に、ポリイミド系樹脂の体積に対する、微粒子の体積の含有体積比が好ましくは1.1~5、より好ましくは1.1~4.5となるように、微粒子と、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドと、が混合される。
【0064】
上記含有質量比又は含有体積比が、上記範囲の好ましい下限値以上であれば、多孔質膜として適切な密度の孔を容易に得ることができ、上記範囲の好ましい上限値以下であれば、ワニス粘度が適切になりやすく、均一な膜がより安定的に製造可能である。
なお、本明細書において、上記含有体積比は、25℃における値を示す。
【0065】
ワニス中に含有される微粒子の材料としては、特に制限されないが、ワニスに用いられる有機溶剤に不溶で、成膜後選択的に除去可能なものが好ましい。
微粒子の材料としては、例えば、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al2O3)、及び、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、高分子量オレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリスチレン、アクリル系樹脂(メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル、及び、ポリエチレン等が挙げられる。
なかでも、多孔質膜に、内面に曲面を有する微小な孔が形成されやすいことから、無機材料としては、コロイダルシリカ等のシリカが好ましい。有機材料としては、PMMA等のアクリル系樹脂が好ましい。
【0066】
樹脂微粒子としては、例えば、通常の線状ポリマー、及び/又は、公知の解重合性ポリマーから、目的に応じて特に限定されることなく選択できる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断されるポリマーである。解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。何れのポリマーも、加熱時に、単量体、低分子量体、又はCO2までに分解することで、ポリイミド系樹脂膜から除去可能である。
【0067】
解重合性ポリマーの中でも、孔形成時の取り扱い上の点から、熱分解温度の低いメタクリル酸メチル若しくはメタクリル酸イソブチルの単独(ポリメチルメタクリレート若しくはポリイソブチルメタクリレート)又はこれを主成分とする共重合ポリマーが好ましい。
【0068】
樹脂微粒子の分解温度は、200~320℃が好ましく、230~260℃がより好ましい。分解温度が200℃以上であれば、ワニスに高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、ポリイミド系樹脂の焼成条件の選択の幅がより広くなる。分解温度が320℃以下であれば、ポリイミド系樹脂に熱的なダメージを与えることなく、樹脂微粒子のみを容易に消失させることができる。
【0069】
微粒子は、形成される多孔質膜における孔の内面に曲面を有しやすい点で、真球率が高いものが好ましい。使用する微粒子の粒径(平均直径)は、例えば、5~2000nmが好ましく、10~600nmがより好ましい。
微粒子の平均直径が上記範囲内であると、微粒子を取り除いて得られる本実施形態に係るフィルタAに被精製液を通過させる際、フィルタAの有する孔の内面に被精製液を万遍なく接触させることができ、被精製液中の不純物の吸着を効率良く行うことができる。
【0070】
微粒子の粒径分布指数(d25/d75)は、1~6が好ましく、1.6~5がより好ましく、2~4が更に好ましい。
微粒子の粒径(平均直径)が、600nm以下の場合、d25/75は、1~5が好ましく、1.1~4がより好ましい。微粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
粒径分布指数が上記範囲の下限値以上だと、多孔質膜内部に微粒子を効率的に充填させることができるため、フィルタA内に流路を形成しやすく、被精製液を通液する際の流速を調整しやすい。また、粒径分布指数が上記範囲の上限値以下だとサイズの異なる孔が形成されやすくなり、被精製液を通液した際に異なる対流が生じて異物の吸着率がより向上しやすい。
尚、d25及びd75は、粒度分布の累積度数がそれぞれ25%、75%の粒子径の値であり、本明細書においてはd25が粒径の大きい方となる。
【0071】
また、後述の「未焼成複合膜の成膜」において、未焼成複合膜を2層状として形成する場合、第1のワニスに用いる微粒子(B1)と、第2のワニスに用いる微粒子(B2)とは、互いに同一でもよく、異なってもよい。微粒子B1と微粒子B2の粒径、形状、及び、粒径分布指数等を制御することにより、細孔構造を調整することが可能である。
【0072】
具体的には、基材に接する側の孔をより稠密にするには、微粒子(B1)は、微粒子(B2)よりも粒径分布指数が小さいか、又は同じであることが好ましい。
また、微粒子(B1)は、微粒子(B2)よりも真球率が小さいか、又は同じであることが好ましい。
また、微粒子(B1)は、微粒子(B2)よりも微粒子の粒径(平均直径)が小さいことが好ましく、特に、微粒子(B1)が100~1000nm(より好ましくは100~600nm)、微粒子(B2)が500~2000nm(より好ましくは700~2000nm)のものをそれぞれ用いることが好ましい。微粒子(B1)として、微粒子(B2)より小さい粒径のものを用いることで、得られるポリイミド系樹脂多孔質膜表面の孔の開口割合を高く、その径を均一にすることができ、かつ、ポリイミド系樹脂多孔質膜全体を、微粒子(B1)単独とした場合よりも多孔質膜の強度を高めることができる。
【0073】
本明細書では、ワニスに、微粒子を均一に分散することを目的として、上記微粒子とともにさらに分散剤を添加してもよい。分散剤をさらに添加することにより、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドと、微粒子とをいっそう均一に混合できる。また、更に、未焼成複合膜中に微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られる本実施形態に係るフィルタAの表面に稠密な開口を設け、かつ、ポリイミド系樹脂多孔質膜の透気度が向上するように、多孔質膜の表裏面を連通させる連通孔を効率良く形成することが可能となる。
【0074】
上記の分散剤としては、特に制限されず、公知の分散剤が使用できる。分散剤としては、例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキシド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキシド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルその他のポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテル系のノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミドその他のポリオキシアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられる。上記の分散剤は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0075】
ポリアミド酸としては特に制限されず、任意のテトラカルボン酸二水和物とジアミンとを重合して得られるもの等が使用できる。
【0076】
テトラカルボン酸二水和物としては特に制限されず公知のものを使用できる。なかでも、テトラカルボン酸二水和物としては、芳香族テトラカルボン酸二水和物、及び、脂肪族テトラカルボン酸二水和物等が好ましい。
【0077】
芳香族テトラカルボン酸二水和物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-へキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2′,3,3′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス無水フタル酸フルオレン、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0078】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、及び、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0079】
上記の中では、得られるポリイミド系樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。なかでも、価格、入手容易性等の点から、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。
テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0080】
ジアミンとしては特に制限されず、公知のジアミンが使用できる。ジアミンとしては、芳香族ジアミンであってもよいし、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。ジアミンは、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0081】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個又は2~10個程度が結合したジアミノ化合物が挙げられる。芳香族ジアミンとして、具体的には、フェニレンジアミン又はその誘導体、ジアミノビフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノジフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノナフタレン又はその誘導体、アミノフェニルアミノインダン又はその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物又はその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体が挙げられる。
【0082】
フェニレンジアミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミンが好ましい。フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4-ジアミノトルエン、2,4-トリフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0083】
ジアミノビフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基がフェニル基同士で結合したものである。ジアミノビフェニル化合物としては、例えば、4,4′-ジアミノビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等が挙げられる。
【0084】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合したものである。他の基としては、エーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン基又はその誘導体基、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、及び、ウレイレン結合等が挙げられる。アルキレン基は、好ましくは炭素数が1~6程度であり、その誘導体基は、アルキレン基の水素原子の1つ以上がハロゲン原子等で置換されたものである。
【0085】
ジアミノジフェニル化合物としては、3,3′-ジアミノジフェニルエーテル、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,3′-ジアミノジフェニルスルホン、3,4′-ジアミノジフェニルスルホン、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、3,3′-ジアミノジフェニルメタン、3,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′-ジアミノジフェニルケトン、3,4′-ジアミノジフェニルケトン、2,2-ビス(p-アミノフェニル)プロパン、2,2′-ビス(p-アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-1-ペンテン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-2-ぺンテン、イミノジアニリン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)ペンタン、ビス(p-アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4′-ジアミノアゾベンゼン、4,4′-ジアミノジフェニル尿素、4,4′-ジアミノジフェニルアミド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0086】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基がそれぞれ他の基を介して結合したものである。他の基としては、ジアミノジフェニル化合物における他の基と同様のものが挙げられる。
ジアミノトリフェニル化合物としては、1,3-ビス(m-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。
【0087】
ジアミノナフタレンとしては、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等が挙げられる。
【0088】
アミノフェニルアミノインダンとしては、5又は6-アミノ-1-(p-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン等が挙げられる。
【0089】
ジアミノテトラフェニル化合物としては、4,4′-ビス(p-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2′-ビス[p-(p′-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2′-ビス[p-(p′-アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2′-ビス[p-(m-アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0090】
カルド型フルオレンジアミン誘導体としては、9,9-ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
【0091】
脂肪族ジアミンは、例えば、炭素数が2~15程度のものが好ましく、具体的には、ペンタメチレンジアミン、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0092】
なお、ジアミンにおいては、水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基で置換された化合物であってもよい。
【0093】
上記の中でも、ジアミンとしては、フェニレンジアミン、フェニレンジアミン誘導体、ジアミノジフェニル化合物が好ましい。その中でも、価格、入手容易性等の点から、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテルがより好ましい。
【0094】
ポリアミド酸の製造方法は、特に制限されず、例えば、有機溶剤中で任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させる方法等の、公知の手法が使用できる。
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、一般に、有機溶剤中で行われる。ここで用いられる有機溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンをそれぞれ溶解することができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に制限されない。有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0095】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いられる有機溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N,N′,N′-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類等のフェノール系溶剤が挙げられる。
【0096】
これらの中でも、ここでの有機溶剤としては、生成するポリアミド酸の溶解性の点から、含窒素極性溶剤を用いることが好ましい。
また、成膜性等の観点から、ラクトン系極性溶剤を含有する混合溶剤を用いることが好ましい。この場合、有機溶剤全体(100質量%)に対して、ラクトン系極性溶剤の含有量は、1~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
ここでの有機溶剤には、含窒素極性溶剤及びラクトン系極性溶剤からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましく、含窒素極性溶剤とラクトン系極性溶剤との混合溶剤を用いることがより好ましい。
有機溶剤の使用量は、特に制限されないが、反応後の反応液中の、生成するポリアミド酸の含有量が5~50質量%となる程度が好ましい。
【0097】
テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの各使用量は、特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミン0.50~1.50モルを用いることが好ましく、0.60~1.30モルを用いることがより好ましく、0.70~1.20モルを用いることが特に好ましい。
【0098】
反応(重合)温度は、一般的に、-10~120℃が好ましく、5~30℃がより好ましい。
反応(重合)時間は、使用する原料組成により異なるが、一般に、3~24時間が好ましい。
また、ポリアミド酸溶液の固有粘度は、特に制限されないが、1000~100000cP(センチポアズ)(1~100Pa・s)が好ましく、5000~70000cP(5~70Pa・s)がより好ましい。
ポリアミド酸溶液の固有粘度は、温度条件25℃で、E型回転粘度計により測定できる。
【0099】
本実施形態に係るフィルタAの製造に用い得るポリイミドは、ワニスに使用する有機溶剤に溶解可能であれば、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。
ポリイミドは、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な置換基、又は焼成時に架橋反応等を促進させる置換基を有していてもよい。
【0100】
ワニスに使用する有機溶剤に可溶なポリイミドとするため、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用が有効である。
このモノマーとしては、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4′-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2-メチル-1,4-フェニレンジアミン、o-トリジン、m-トリジン、3,3′-ジメトキシベンジジン、4,4′-ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3′,4′-オキシジフタル酸無水物、3,4,3′,4′-オキシジフタル酸無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3′,4,4′-テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0101】
また、かかる有機溶剤への溶解性を向上する、置換基を有するモノマーを使用することも有効である。このような置換基を有するモノマーとしては、例えば、2,2′-ビス(トリフルオロメチル)-4,4′-ジアミノビフェニル、2-トリフルオロメチル-1,4-フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンが挙げられる。
さらに、かかる置換基を有するモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の説明の中で例示したモノマーを併用することもできる。
【0102】
ポリイミドの製造方法としては、特に制限されず、例えば、ポリアミド酸を、化学イミド化又は加熱イミド化させて有機溶剤に溶解させる方法等の、公知の手法が挙げられる。
【0103】
ポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、及び、芳香族ポリイミド等が挙げられ、なかでも、芳香族ポリイミドが好ましい。
芳香族ポリイミドとしては、下記一般式(5)で表される単位を有するポリアミド酸を、熱又は化学的に閉環反応させて得られるもの、又は、下記一般式(6)で表される単位を有するポリイミドを、溶媒に溶解して得られるものでよい。
なお、式中、RArはアリール基、R’Arはアリーレン基を示す。
【0104】
【0105】
式中、RArは、4n+2個のπ電子をもつ環状共役系であれば特に限定されず、単環式でも多環式でもよい。芳香環の炭素数は、5~30であることが好ましく、5~20がより好ましく、6~15が更に好ましく、6~12が特に好ましい。芳香環として具体的には、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素環;芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族複素環等が挙げられる。芳香族複素環におけるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。芳香族複素環として具体的には、ピリジン環、チオフェン環等が挙げられる。中でも、RArは、芳香族炭化水素環が好ましく、ベンゼン、ナフタレンがより好ましく、ベンゼンが特に好ましい。
なお式中、R’Arは、RArにおける芳香環から水素原子2つを除いた基が挙げられる。中でも、R’Arは、芳香族炭化水素環から水素原子2つを除いた基が好ましく、ベンゼン又はナフタレンから水素原子2つを除いた基がより好ましく、ベンゼンから水素原子2つを除いたフェニレン基が特に好ましい。
RArにおけるアリール基、R’Arにおけるアリーレン基は、それぞれ、置換基を有していてもよい。
【0106】
ポリアミドイミドは、ワニスに使用する有機溶剤に溶解可能であれば、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。
ポリアミドイミドは、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な置換基、又は焼成時に架橋反応等を促進させる置換基を有していてもよい。
【0107】
ポリアミドイミドとしては、任意の無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応により得られるもの、及び、任意の無水トリメリット酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマーをイミド化して得られるもの等が使用できる。
【0108】
上記任意の無水トリメリット酸の反応性誘導体としては、例えば、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸ハロゲン化物、無水トリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0109】
上記任意のジイソシアネートとしては、例えば、メタフェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、o-トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4′-オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4′-ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2′-ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3′-ジメチルジフェニル-4,4′-ジイソシアネート、3,3′-ジエチルジフェニル-4,4′-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0110】
上記任意のジアミンとしては、上記ポリアミド酸の説明の中で例示したジアミンと同様のものが挙げられる。
【0111】
ワニスの調製に用い得る有機溶剤としては、ポリアミド酸及び/又はポリイミド系樹脂を溶解することができ、微粒子を溶解しないものであれば、特に限定されず、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いられる有機溶剤と同様のものが挙げられる。
有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0112】
ワニス中、有機溶剤の含有量は、ワニスの全質量に対して50~95質量%が好ましく、60~85質量%がより好ましい。ワニスの固形分含有量は5~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。
【0113】
また、未焼成複合膜を2層状で成膜する場合、まず、ガラス基板等の基材上にそのまま、上記第1のワニスを塗布し、常圧又は真空下で0~120℃(好ましくは0~90℃)、より好ましくは常圧で10~100℃(さらに好ましくは10~90℃)の条件により乾燥して、膜厚1~5μmの第1未焼成複合膜の形成を行う。
続いて、第1未焼成複合膜上に、上記第2のワニスを塗布し、同様にして、0~80℃(好ましくは0~50℃)、より好ましくは常圧で10~80℃(更に好ましくは10~30℃)の条件により乾燥して、膜厚5~50μmの第2未焼成複合膜の形成を行うことで、2層状の未焼成複合膜を成膜できる。
【0114】
未焼成複合膜の成膜の後、未焼成複合膜に対し、加熱処理(焼成)を施すことにより、ポリイミド系樹脂と微粒子とからなる複合膜(ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜)が形成される。
ワニスにポリアミド酸を含む場合、本工程の未焼成複合膜の焼成で、イミド化を完結させることが好ましい。
【0115】
加熱処理の温度(焼成温度)は、未焼成複合膜に含有されるポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドの構造や縮合剤の有無によっても異なるが、120~400℃が好ましく、より好ましくは150~375℃である。
【0116】
焼成を行うには、必ずしも前工程での乾燥と明確に操作を分ける必要はなく、段階的な乾燥-熱イミド化法も適用できる。具体的には、375℃で焼成を行う場合、室温から375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法が適用できる。また、室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各刻みで20分間保持)し、最終的に375℃で20分間保持させる方法も適用できる。未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定して変形を防ぐ方法を採ってもよい。
【0117】
加熱処理(焼成)後のポリイミド系樹脂-微粒子複合膜の厚さは、例えば、1μm以上が好ましく、5~500μmがより好ましく、8~100μmが更に好ましい。
ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜の厚さは、マイクロメーターを用い、複数の箇所の厚さを測定し、これらを平均することで求められる。
【0118】
なお、本工程は任意の工程である。特にワニスにポリイミド又はポリアミドイミドが用いられる場合、本工程は行われなくてもよい。
【0119】
上記未焼成複合膜の焼成の後、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜から、微粒子を除去することにより、ポリイミド系樹脂多孔質膜が製造される。
例えば、微粒子としてシリカを採用した場合、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜を、低濃度のフッ化水素(HF)水に接触させることによって、シリカが溶解除去され、多孔質膜が得られる。また、微粒子が樹脂微粒子の場合、樹脂微粒子の熱分解温度以上で、かつ、ポリイミド系樹脂の熱分解温度未満の温度に加熱することによって、樹脂微粒子が分解除去され、多孔質膜が得られる。
【0120】
エッチング工程は、ケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組み合わせた方法により行うことができる。
【0121】
ケミカルエッチング法には、従来公知の方法が採用できる。
ケミカルエッチング法としては、特に限定されず、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のエッチング液による処理が挙げられる。中でも、無機アルカリ溶液による処理が好ましい。
無機アルカリ溶液としては、例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンとを含有するヒドラジン溶液;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、及び、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液;アンモニア溶液;水酸化アルカリとヒドラジンと1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとを主成分とするエッチング液等が挙げられる。
有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n-プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ-n-ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピペリジン等の環状アミン類等の、アルカリ性のエッチング液が挙げられる。エッチング液におけるアルカリ濃度は、例えば0.01~20質量%である。
【0122】
上記の各エッチング液の溶媒には、純水、アルコール類を適宜選択でき、また、界面活性剤を適量添加したものを使用することもできる。
【0123】
物理的除去方法には、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング法を用いることができる。
【0124】
上記したケミカルエッチング法又は物理的除去方法は、既に説明した微粒子除去工程の前に適用することも、微粒子除去工程の後に適用することもできる。
中でも、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の連通孔がより形成されやすく、異物の除去性が高められることから、微粒子除去工程の後に適用することが好ましい。
【0125】
エッチング工程でケミカルエッチング法を行う場合、余剰のエッチング液を除去するため、本工程の後にポリイミド系樹脂多孔質膜の洗浄工程を設けてもよい。
ケミカルエッチング後の洗浄は、水洗単独でもよいが、酸洗浄と水洗とを組み合わせることが好ましい。
【0126】
また、エッチング工程の後、ポリイミド系樹脂多孔質膜表面の有機溶剤への濡れ性向上、及び、残存有機物除去のため、ポリイミド系樹脂多孔質膜に対し、加熱処理(再焼成)を行ってもよい。この加熱条件は、未焼成複合膜の焼成における条件と同様である。
【0127】
本実施形態に係るフィルタAの孔径として特に制限されないが、一般に0.1~100nmが好ましく、0.1~50nmがより好ましく、0.1~20nmが更に好ましい。
なお、本明細書において、孔径とは、イソプロパノール(IPA)又は、HFE-7200(「ノベック7200」、3M社製、ハイドロフロオロエーテル、C4F9OC2H5)のバブルポイントによって決定される孔径を意味する。
【0128】
<フィルタBD>
フィルタBDは、フィルタAとは孔径が異なる(フィルタAよりも小さな孔径を有する)フィルタであって、流通路上においてフィルタAの下流側に、フィルタAと直列に配置されたフィルタである。なお、「下流側」とは、流通路上において流出部側を指す。本明細書において、フィルタ同士が異なるとは、孔径、材料、及び、細孔構造からなる群より選択される少なくとも1種が異なることを意味する。なかでもより優れた本発明の効果を有するろ過装置が得られる点で、フィルタAとフィルタBDとは、少なくとも孔径が異なることが好ましく、孔径と材料とが異なることがより好ましい。
【0129】
本実施形態に係るフィルタBDの孔径としては、フィルタAの孔径より小さければ特に制限されず、被精製液のろ過用として通常使用される孔径のフィルタが使用できる。なかでも、フィルタの孔径は、200nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、10nm以下が更に好ましく、5nm以下が特に好ましく、3nm以下が最も好ましい。下限値としては特に制限されないが、一般に1nm以上が、生産性の観点から好ましい。
本発明者らは、フィルタAを用いて被精製液をろ過すると、フィルタAに被精製液を流通することによって、フィルタAの材料に由来する微粒子が発生して被精製液に混入する場合があることを知見している。本実施形態に係るろ過装置は、流通路上においてフィルタAの下流にフィルタBDを有しているため、上記のフィルタAに起因する微粒子を被精製液からろ別することができ、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られやすい。
【0130】
なお、
図1のろ過装置はフィルタBDを1つ有しているが、本実施形態に係るろ過装置としては複数のフィルタBDを有していてもよい。その場合、複数あるフィルタBDの孔径の関係としては特に制限されないが、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られやすい点で、流通路上において最も下流側に配置されたフィルタBDの孔径が最小となることが好ましい。
【0131】
フィルタBDの材料としては特に制限されず、フィルタAと同様であってもよいし、異なってもよい。なかでも、より優れた本発明の効果を有するろ過装置が得られる点で、フィルタAの材料とは異なることが好ましい。
フィルタBDは、樹脂である場合、6-ナイロン、及び、6,6-ナイロン等のポリアミド;ポリエチレン、及び、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリスチレン;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリ(メタ)アクリレート;ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及び、ポリフッ化ビニル等のポリフルオロカーボン;ポリビニルアルコール;ポリエステル;セルロース;セルロースアセテート等の材料成分を含有していてもよい。なかでも、より優れた耐溶剤性を有し、得られる薬液がより優れた欠陥抑制性能を有する点で、ナイロン(なかでも、6,6-ナイロンが好ましい)、ポリオレフィン(なかでも、ポリエチレンが好ましい)、ポリ(メタ)アクリレート、及び、ポリフルオロカーボン(なかでも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)が好ましい。)からなる群から選択される少なくとも1種を材料成分として含有することが好ましく、ポリエチレン、ナイロン、及び、ポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を材料成分として含有することがより好ましい。これらの重合体は単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
また、樹脂以外にも、ケイソウ土、及び、ガラス等であってもよい。
【0132】
また、フィルタは表面処理されたものであってもよい。表面処理の方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。表面処理の方法としては、例えば、化学修飾処理、プラズマ処理、疎水処理、コーティング、ガス処理、及び、焼結等が挙げられる。
【0133】
プラズマ処理は、フィルタの表面が親水化されるために好ましい。プラズマ処理して親水化されたろ過材の表面における水接触角としては特に制限されないが、接触角計で測定した25℃における静的接触角が、60°以下が好ましく、50°以下がより好ましく、30°以下が更に好ましい。
【0134】
化学修飾処理としては、基材にイオン交換基を導入する方法が好ましい。
すなわち、フィルタとしては、上記で挙げた各材料を基材として、上記基材にイオン交換基を導入したものが好ましい。典型的には、上記基材の表面にイオン交換基を有する基材を含む層を含むフィルタが好ましい。表面修飾された基材としては特に制限されず、製造がより容易な点で、上記重合体にイオン交換基を導入したものが好ましい。
【0135】
イオン交換基としては、カチオン交換基として、スルホン酸基、カルボキシ基、及び、リン酸基等が挙げられ、アニオン交換基として、4級アンモニウム基等が挙げられる。イオン交換基を重合体に導入する方法としては特に制限されないが、イオン交換基と重合性基とを有する化合物を重合体と反応させ典型的にはグラフト化する方法が挙げられる。
【0136】
イオン交換基の導入方法としては特に制限されないが、上記の樹脂の繊維に電離放射線(α線、β線、γ線、X線、及び、電子線等)を照射して樹脂中に活性部分(ラジカル)を生成させる。この照射後の樹脂をモノマー含有溶液に浸漬してモノマーを基材にグラフト重合させる。その結果、このモノマーがポリオレフィン繊維にグラフト重合側鎖として結合したものが生成される。この生成されたポリマーを側鎖として有する樹脂をアニオン交換基又はカチオン交換基を有する化合物と接触反応させることにより、グラフト重合された側鎖のポリマーにイオン交換基が導入されて最終生成物が得られる。
【0137】
また、フィルタは、放射線グラフト重合法によりイオン交換基を形成した織布、又は、不織布と、従来のガラスウール、織布、又は、不織布のろ過材とを組み合わせた構成でもよい。
【0138】
なかでも、より優れた本発明の効果を有するろ過装置が得られる点で、フィルタBDは、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフルオロカーボン、ポリスチレン、及び、ポリエーテルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種を材料成分として含有することが好ましく、フィルタBDはポリオレフィン、ポリアミド、ポリフルオロカーボン、ポリスチレン、及び、ポリエーテルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種の材料成分からなることがより好ましい。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、及び、ポリプロピレン等が挙げられ、中でも、超高分子量ポリエチレンが好ましい。ポリアミドとしては、6-ナイロン、及び、6,6-ナイロン等が挙げられる。ポリフルオロカーボンとしてはポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及び、ポリフッ化ビニル等が挙げられ、なかでも、ポリエチレン、及び、ナイロンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、別の形態では、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0139】
また、フィルタBDは、親水性基を有する第2の樹脂を材料成分として含有することも好ましい。親水性基としては、特に制限されないが、水酸基、エーテル基、オキシアルキレン基、カルボン酸基、エステル基、炭酸エステル基、チオール基、チオエーテル基、リン酸基、リン酸エステル基、アミド基、イミド基、及び、これらを組み合わせた基等が挙げられ、水酸基、エーテル基、オキシアルキレン基、エステル基、炭酸エステル基、チオール基、チオエーテル基が好ましい。
第2の樹脂としては特に制限されないが、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ノボラック、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、及び、ポリ乳酸等が挙げられ、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマーが好ましい。
【0140】
フィルタBDの細孔構造としては特に制限されず、被精製液の成分に応じて適宜選択すればよい。本明細書において、フィルタBDの細孔構造とは、細孔径分布、フィルタ中の細孔の位置的な分布、及び、細孔の形状等を意味し、典型的には、フィルタの製造方法により制御可能である。
例えば、樹脂等の粉末を焼結して形成すれば多孔質膜が得られ、及び、エレクトロスピニング、エレクトロブローイング、及び、メルトブローイング等の方法により形成すれば繊維膜が得られる。これらは、それぞれ細孔構造が異なる。
【0141】
「多孔質膜」とは、ゲル、粒子、コロイド、細胞、及び、ポリオリゴマー等の被精製液中の成分を保持するが、細孔よりも実質的に小さい成分は、細孔を通過する膜を意味する。多孔質膜による被精製液中の成分の保持は、動作条件、例えば、面速度、界面活性剤の使用、pH、及び、これらの組み合わせに依存することがあり、かつ、多孔質膜の孔径、構造、及び、除去されるべき粒子のサイズ、及び、構造(硬質粒子か、又は、ゲルか等)に依存し得る。
【0142】
UPE(超高分子量ポリエチレン)フィルタは、典型的には、ふるい膜である。ふるい膜は、主にふるい保持機構を介して粒子を捕捉する膜、又は、ふるい保持機構を介して粒子を捕捉するために最適化された膜を意味する。
ふるい膜の典型的な例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜とUPE膜が含まれるが、これらに制限されない。
なお、「ふるい保持機構」とは、除去対象粒子が多孔質膜の細孔径よりも大きいことによって保持されることを指す。ふるい保持力は、フィルタケーキ(膜の表面での除去対象となる粒子の凝集)を形成することによって向上させることができる。フィルタケーキは、2次フィルタの機能を効果的に果たす。
【0143】
多孔質膜(例えば、UPE、及び、PTFE等を含む多孔質膜)の細孔構造としては特に制限されないが、細孔の形状としては例えば、レース状、ストリング状、及び、ノード状等が挙げられる。
多孔質膜における細孔の大きさの分布とその膜中における位置の分布は、特に制限されない。大きさの分布がより小さく、かつ、その膜中における分布位置が対称であってもよい。また、大きさの分布がより大きく、かつ、その膜中における分布位置が非対称であってもよい(上記の膜を「非対称多孔質膜」ともいう。)。非対称多孔質膜では、孔の大きさは膜中で変化し、典型的には、膜一方の表面から膜の他方の表面に向かって孔径が大きくなる。このとき、孔径の大きい細孔が多い側の表面を「オープン側」といい、孔径が小さい細孔が多い側の表面を「タイト側」ともいう。
また、非対称多孔質膜としては、例えば、細孔の大きさが膜の厚さ内のある位置においてで最小となるもの(これを「砂時計形状」ともいう。)が挙げられる。
【0144】
非対称多孔質膜を用いて、一次側(流通路の上流側)をより大きいサイズの孔とすると、言い換えれば、一次側をオープン側とすると、前ろ過効果を生じさせることができる。
【0145】
多孔質膜は、PESU(ポリエーテルスルホン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン、四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシアルカンとの共重合体)、ポリアミド、及び、ポリオレフィン等の熱可塑性ポリマーを含んでもよいし、ポリテトラフルオロエチレン等を含んでもよい。
なかでも、多孔質膜ては、超高分子量ポリエチレンを材料成分として含有することが好ましい。超高分子量ポリエチレンは、極めて長い鎖を有する熱可塑性ポリエチレンを意味し、分子量が百万以上、典型的には、200~600万が好ましい。
【0146】
例えば、被精製液に有機化合物を含有する粒子が不純物として含有されている場合、このような粒子は負に帯電している場合が多く、そのような粒子の除去には、ポリアミド製のフィルタが非ふるい膜の機能を果たす。典型的な非ふるい膜には、ナイロン-6膜及びナイロン-6,6膜等のナイロン膜が含まれるが、これらに制限されない。
なお、本明細書で使用される「非ふるい」による保持機構は、フィルタの圧力降下、又は、細孔径に関連しない、妨害、拡散及び吸着などの機構によって生じる保持を指す。
【0147】
非ふるい保持は、フィルタの圧力降下又はフィルタの細孔径に関係なく、被精製液中の除去対象粒子を除去する、妨害、拡散及び吸着等の保持機構を含む。フィルタ表面への粒子の吸着は、例えば、分子間のファンデルワールス力及び静電力等によって媒介され得る。蛇行状のパスを有する非ふるい膜層中を移動する粒子が、非ふるい膜と接触しないように十分に速く方向を変えることができない場合に、妨害効果が生じる。拡散による粒子輸送は、粒子がろ過材と衝突する一定の確率を作り出す、主に、小さな粒子のランダム運動またはブラウン運動から生じる。粒子とフィルタの間に反発力が存在しない場合、非ふるい保持機構は活発になり得る。
【0148】
繊維膜の材質は、繊維膜を形成可能なポリマーであれば特に制限されない。ポリマーとしては、例えば、ポリアミド等が挙げられる。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、及び、ナイロン6,6等が挙げられる。繊維膜を形成するポリマーとしては、ポリ(エーテルスルホン)であってもよい。繊維膜が多孔質膜の一次側にある場合、繊維膜の表面エネルギは、二次側(流通路の下流側)にある多孔質膜の材質であるポリマーより高いことが好ましい。そのような組み合わせとしては、例えば、繊維膜の材料がナイロンで、多孔質膜がポリエチレン(UPE)である場合が挙げられる。
【0149】
繊維膜の製造方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。繊維膜の製造方法としては、例えば、エレクトロスピニング、エレクトロブローイング、及び、メルトブローイング等が挙げられる。
【0150】
〔第二実施形態〕
図2は、本発明の第二実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
ろ過装置200は、流入部101及び流出部102の間に、フィルタAであるフィルタ103及び上記フィルタ103とは異なるフィルタ201が配管202を介して直列に配置されたろ過装置である。
流入部101、フィルタ201、配管202、フィルタ103、及び、流出部102は、それぞれの内部に被精製液を流通できるよう構成されており、上記部材が連結されて、流通路S2(被精製液が流れる経路)が形成されている。
【0151】
なお、ろ過装置200において、各フィルタ、及び、配管の形態等としては既に説明した第一実施形態に係るろ過装置と同様であり、以下の説明は、第一実施形態と異なる部分のみに限って行う。従って、以下に説明のない事項は、第一実施形態に係るろ過装置と同様である。
【0152】
<フィルタBU>
フィルタBUは、フィルタAとは少なくとも孔径が異なる(フィルタAより大きな孔径を有する)フィルタであって、流通路上においてフィルタAの上流側に、フィルタAと直列に配置されたフィルタである。より優れた本発明の効果を有するろ過装置が得られる点で、フィルタAとフィルタBUとは、孔径と材料とが異なることが好ましい。また、「上流側」とは、流通路上において流入部側を指す。
【0153】
フィルタBUの孔径としては、フィルタAより大きければ特に制限されず、被精製液のろ過用として通常使用される孔径のフィルタが使用できる。なかでも、フィルタの孔径は、200nm以下が好ましく、20nm以上が好ましい。
本発明者らの検討によれば、流通路S2に上においてフィルタAの上流側に、孔径が20nm以上のフィルタBUを配置したろ過装置を用いた場合、フィルタAがより目詰まりしにくく、フィルタAの寿命をより長くすることができることを知見している。その結果として、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液を安定して提供できるろ過装置が得られる。
【0154】
図2のろ過装置はフィルタBUを1つ有しているが、本実施形態に係るろ過装置としては複数のフィルタBUを有していてもよい。その場合、複数あるフィルタBUの孔径の関係としては特に制限されないが、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られやすい点で、流通路上において最も上流に配置されたフィルタBUの孔径が最大となることが好ましい。このようにすることで、最上流のフィルタBUの下流に配置されたフィルタ(フィルタAを含む)の寿命をより長くすることができ、結果として、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液を安定して提供できるろ過装置が得られる。
【0155】
フィルタBUとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有するろ過装置が得られる点で、イオン除去が可能な材料成分を含有することが好ましい。言い換えれば、フィルタBUはイオン除去フィルタが好ましく、例えば、イオン交換基を有する樹脂を含有することが好ましく、より優れた本発明の効果を有するろ過装置が得られる点で、イオン交換基としては、酸基(カチオン交換基)、及び、塩基基(アニオン交換基)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
イオン交換基としては、カチオン交換基(酸基)として、スルホン酸基、カルボキシ基、及び、リン酸基等が挙げられ、アニオン交換基(塩基基)として、4級アンモニウム基等が挙げられる。イオン交換基を重合体に導入する方法としては特に制限されないが、イオン交換基と重合性基とを有する化合物を重合体と反応させ典型的にはグラフト化する方法、異なる官能基を有する重合体を混合すること等が挙げられる。
フィルタBUは、ポリフルオロカーボン、及び、ポリオレフィン等の基材に、イオン交換基を導入した材料成分を含有することがより好ましい。
【0156】
(第二実施形態に係るろ過装置の変形例)
図3は、本発明の第二実施形態に係るろ過装置の変形例を表すろ過装置の模式図である。ろ過装置300は、流入部101と流出部102との間に、フィルタAであるフィルタ103と、フィルタBUであるフィルタ201と、フィルタBDであるフィルタ104とを有し、フィルタ201と、フィルタ103と、フィルタ104とが配管301、及び、配管302を介して直列に配置されたろ過装置である。
【0157】
なお、ろ過装置300において、各フィルタ、及び、配管の形態等としては既に説明した第一実施形態に係るろ過装置と同様であり、以下の説明は、第一実施形態と異なる部分のみに限って行う。従って、以下に説明のない事項は、第一実施形態に係るろ過装置と同様である。
【0158】
流入部101、フィルタ201、配管301、フィルタ103、配管302、及び、フィルタ104はそれぞれの内部に被精製液を流通できるよう構成されており、上記部材が連結されて流通路S3(被精製液が流れる経路)が形成されている。配管、及び、各フィルタの構成としては既に説明したとおりである。
ろ過装置300は、流通路上においてフィルタAの上流側にフィルタBUを有するため、フィルタAはより長寿命となり、流通路上においてフィルタAの下流側にフィルタBDを有するため、フィルタAに起因して被精製液に混入する微粒子が効率よく除去でき、結果として更に優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られやすい。
【0159】
〔第三実施形態〕
図4は本発明の第三実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
ろ過装置400は、流入部101と流出部102との間であって、流通路S4上においてフィルタ103(フィルタA)の上流側に、フィルタAと直列に配置されたタンク401を更に有するろ過装置である。タンク401と、フィルタ103(フィルタA)と、フィルタ104(フィルタBD)とは、配管402及び配管105を介して直列に配置されている。タンク401は上記のフィルタ及び配管等とともに、流通路S4を構成している。
【0160】
なお、ろ過装置400において、各フィルタ、及び、配管の形態等としては既に説明した第一実施形態に係るろ過装置と同様であり、以下の説明は、第一実施形態と異なる部分のみに限って行う。従って、以下に説明のない事項は、第一実施形態に係るろ過装置と同様である。
【0161】
本実施形態に係るろ過装置は、フィルタ103の上流側にタンクを有しているため、フィルタ103に流通させるための被精製液を滞留させ、均質化することができ、結果としてより優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られる。特に、後述する循環ろ過を行う場合、流通路S4に対してフィルタ103(フィルタA)の下流から、流通路S4に対してフィルタ103の上流へと被精製液を返送する際に、返送された被精製液を受入れるのにタンク401が使用できる。このようにすると、返送された被精製液を滞留させ、均質化してから、再度フィルタ103に通液できるため、更に優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られる。
なお、タンク401の材料は特に制限されないが、既に説明したハウジングの材料と同様の材料が使用でき、その接液部の少なくとも一部(好ましくは接液部の表面積の90%以上、より好ましくは99%以上)は後述する耐腐食材料からなることが好ましい。
【0162】
(第三実施形態に係るろ過装置の変形例)
図5は本発明の第三実施形態に係るろ過装置の変形例を表す模式図である。
ろ過装置500は、流入部101と流出部102との間であって、流通路S5上においてフィルタ103(フィルタA)の下流側に、フィルタAと直列に配置されたタンク401を更に有するろ過装置である。フィルタ103(フィルタA)と、タンク401と、フィルタ104(フィルタBD)とは、配管501及び配管502を介して直列に配置されている。タンク401は上記のフィルタ及び配管等とともに、流通路S5を構成している。
【0163】
なお、ろ過装置500において、各フィルタ、及び、配管の形態等としては既に説明した第一実施形態に係るろ過装置と同様であり、以下の説明は、第一実施形態と異なる部分のみに限って行う。従って、以下に説明のない事項は、第一実施形態に係るろ過装置と同様である。
【0164】
本実施形態に係るろ過装置は、フィルタAの下流側にタンクを有しているため、フィルタAによってろ過された被精製液を滞留させることができる。特に、後述する循環ろ過を行う場合、流通路S5に対してフィルタ103(フィルタA)の下流側から、流通路S5に対してフィルタ103の上流側へと被精製液を返送する際に、返送する被精製液を滞留させるためにタンク401が使用できる。このようにすると、返送する被精製液を滞留させ、均質化してから、再度フィルタ103に通液できるため、更に優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られる。
【0165】
なお、本実施形態に係るろ過装置500では、タンク401は、流通路S5上においてフィルタ104(フィルタBD)の上流側に配置されているが、本実施形態に係るろ過装置としては、流通路S5上においてフィルタ104の下流側に配置されていてもよい。
すでに説明したとおり、フィルタBDを用いると、フィルタAに被精製液を通液することに起因して被精製液に微粒子が混入した場合にも、効率よくその微粒子が除去可能である。
【0166】
既に説明したとおり、タンク401は、循環ろ過の際、返送する被精製液を滞留させるのに使用できる。言い換えれば、循環ろ過の基点にすることができ、その場合、流通路S5上において、タンク401の上流側のフィルタ(ろ過装置500では、フィルタ103)又は下流側が、循環ろ過の対象となることが多い。なお、循環ろ過の基点とは、上記タンクが返送流通路を構成している場合、及び、上記タンクの下流側の配管が返送流通路を構成している場合のいずれをも含む。
【0167】
ろ過装置500では、タンク401はフィルタ104(フィルタBD)の上流側に配置されている。タンク401をフィルタ104(フィルタBD)の上流側に配置し、循環ろ過の際、流通路S5のうち、タンク401までの部分が繰り返す場合、フィルタAにより十分ろ過された被精製液に対して、最後に、フィルタAに起因する微粒子をフィルタ104で除去するフローが採用でき、フィルタBDの寿命がより長くなり、また、薬液の製造の効率もより向上する。
【0168】
なお、本実施形態に係るろ過装置としては、フィルタBUとフィルタAがこの順に直列に配置された形態(例えば第二実施形態)、及び、フィルタBU、フィルタA、及び、フィルタBDがこの順に直列に配置された形態(例えば第二実施形態の変形例)において、フィルタAの上流側にタンク401を更に有する形態であってもよい。
【0169】
〔第四実施形態〕
図6は本発明の第四実施形態に係るろ過装置を表す模式図である。
ろ過装置600は、流入部101と流出部102の間に、フィルタCであるフィルタ601と、タンク401と、フィルタAであるフィルタ103と、フィルタBDであるフィルタ104とが配管602、配管402、及び、配管105を介して直列に接続されたろ過装置である。
ろ過装置600では、流入部101、フィルタ601、配管602、タンク401、配管402、フィルタ103、配管105、フィルタ104、及び、流出部102が、流通路S6を形成している。
【0170】
なお、ろ過装置600において、各フィルタ、及び、配管の形態等としては既に説明した第一実施形態に係るろ過装置と同様であり、以下の説明は、第一実施形態と異なる部分のみに限って行う。従って、以下に説明のない事項は、第一実施形態に係るろ過装置と同様である。
【0171】
フィルタ601(フィルタC)は、流通路S6においてタンク401の上流側に配置された、孔径20nm以上のフィルタである。本実施形態に係るろ過装置は、流通路S6においてタンク401の上流側に所定の孔径を有するフィルタを配置している。そのため、流入部101からろ過装置内へと流入した被精製液に含有される不純物等を、予めフィルタ601を用いて取り除くことができる。その結果、配管602以降の流通路に混入する不純物の量をより少なくすることができるため、後段のフィルタA、及び、フィルタBDの寿命をより長くすることができる。その結果、上記ろ過装置によれば、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液を安定的に製造できる。
【0172】
フィルタCの形態としては特に制限されず、既に説明したフィルタAと同一のフィルタであってもよいし、異なるフィルタ(フィルタB)であってもよい。なかでも、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られやすい点で、フィルタBであることが好ましい。なかでも、材料及び細孔構造としてはフィルタBDの材料及び細孔構造として説明したものが好ましい。また、孔径は20nm以上であればよく、50nm以上が好ましく、上限としては特に制限されないが、一般に250nm以下が好ましい。
なお、本実施形態に係るろ過装置としては、流通路上にフィルタAとフィルタBDがこの順に直列に配置された形態(例えば第二実施形態)、及び、流通路上にフィルタBU、フィルタA,及び、フィルタBDがこの順に直列に配置された形態(例えば第二実施形態の変形例)において、フィルタAの下流側にタンクを更に有し、上記タンクの上流側にフィルタCを有する形態であってもよい。
【0173】
〔第五実施形態〕
図7は本発明の第五実施形態に係るろ過装置の模式図である。ろ過装置700は、流入部101と、流出部102と、フィルタAであるフィルタ103と、フィルタBDであるフィルタ104とを有し、フィルタ103とフィルタ104とが、流入部101と流出部102との間に直列に配置され、流入部101から流出部102にいたる流通路S7が形成されたろ過装置である。
ろ過装置700では、流入部101と、フィルタ103と、配管105と、フィルタ104と、流出部102とが、流通路S7を形成している。
【0174】
なお、ろ過装置700において、各フィルタ、及び、配管の形態等としては既に説明した第一実施形態に係るろ過装置と同様であり、以下の説明は、第一実施形態と異なる部分のみに限って行う。従って、以下に説明のない事項は、第一実施形態に係るろ過装置と同様である。
【0175】
ろ過装置700は、流通路S7においてフィルタ103(及びフィルタ104)の下流側から、流通路S7においてフィルタ103の上流側へと被精製液を返送可能な返送流通路R1が形成されている。具体的には、ろ過装置700は、返送用の配管701を有し、この配管701によって、返送流通路R1が形成されている。配管701は、一端がフィルタ103(及びフィルタ104)の下流側で流通路S7と接続し、他端がフィルタ103の上流側で流通路S7と接続している。なお、返送流通路R1上には、図示しないポンプ、ダンパ、及び、弁等が配置されていてもよい。特に、
図7に示した接続部J1及びJ2には弁を配置し、被精製液が意図せず返送流通路を流通しないよう、制御することが好ましい。
【0176】
返送流通路R1を流通して、フィルタ103の(流通路S7における)上流側に返送された被精製液は、再度流通路S7を流通する過程でフィルタ103、及び、フィルタ104によってろ過される。これを循環ろ過といい、ろ過装置700は循環ろ過が実施でき、結果として、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られやすい。
【0177】
なお、
図7では、流通路S7上において、フィルタ104(フィルタBD)の下流側からフィルタAの上流側へと被精製液を返送できるよう配管701が配置されているが、本実施形態に係るろ過装置としては、流通路上において、フィルタAの下流側からフィルタAの上流側に被精製液を返送できるように構成されていればよく、配管105と、流入部101とを連結する配管により返送流通路を形成してもよい。
また、流通路上においてフィルタAの上流側にフィルタBUが配置されている場合に、フィルタAの下流側から、フィルタBUの上流側へと被精製液を返送可能な返送流通路が形成されていてもよい。
また、
図7では、返送流通路R1が配管のみから形成されているが、既に説明した1つ又は複数のタンク及び配管から形成されていてもよい。
【0178】
(第五実施形態に係るろ過装置の変形例)
図8は、本発明の第五実施形態に係るろ過装置の変形例を表す模式図である。
ろ過装置800は、流入部101と、タンク401(a)、401(b)、流出部102とフィルタAであるフィルタ103と、フィルタBDであるフィルタ104とを有し、タンク401(a)、フィルタ103、フィルタ104、及び、401(b)とが、流入部101と流出部102との間に直列に配置され、流入部101と、タンク401(a)、配管802、フィルタ103、配管803、フィルタ104、配管804、タンク401(b)、及び、流出部102とが、流通路S8を形成している。
【0179】
なお、ろ過装置800において、各フィルタ、及び、配管の形態等としては既に説明した第一実施形態に係るろ過装置と同様であり、以下の説明は、第一実施形態と異なる部分のみに限って行う。従って、以下に説明のない事項は、第一実施形態に係るろ過装置と同様である。
【0180】
ろ過装置800は、流通路S8上においてフィルタ104の下流側に配置されたタンク401(b)の下流側から、流通路S8上においてフィルタ103の上流側に配置されたタンク401(a)の上流側へと被精製液を返送可能な返送流通路R2が形成されている。配管801は、一端がタンク401(b)の下流側で流通路S8と接続し、他端がタンク401(a)の上流側で流通路S8と接続している。なお、返送流通路R2には、図示しないポンプ、ダンパ、及び、弁等が配置されていてもよい。
【0181】
なお、本実施形態に係るろ過装置は、返送流通路R2の基点が、流通路上においてタンク401(b)の下流側に配置され、終点が、流通路上においてタンク401(a)の上流側に配置されている。このようにすることで、循環ろ過の際に、被精製液を滞留させてから返送し、返送後も、滞留させてから再度流通させることができ、結果としてより優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られる。なお、本実施形態に係るろ過装置としては、タンク401(b)と配管801とが直接接続する形態であってもよく、タンク401(a)と配管801とが直接接続する形態であってもよく、その両方を備える形態であってもよい。
なお、返送流通路R2の基点は、タンク401(b)の上流側であって、フィルタ104の下流側に配置されていてもよい。また、返送流通路R2の終点はタンク401(a)の下流側であって、フィルタ103の上流側に配置されていてもよい。
【0182】
〔第六実施形態〕
図9は本発明の第六実施形態に係るろ過装置の模式図である。ろ過装置900は、流入部101と、流出部102と、フィルタAであるフィルタ103と、フィルタBDであるフィルタ104とを有し、フィルタ103とフィルタ104とが、流入部101と流出部102との間に直列に配置され、流入部101から流出部102にいたる流通路S9が形成されたろ過装置である。
ろ過装置900では、流入部101と、フィルタ103と、配管105と、フィルタ104と、流出部102とが、流通路S9を形成している。
【0183】
なお、ろ過装置900において、各フィルタ、及び、配管の形態等としては既に説明した第一実施形態に係るろ過装置と同様であり、以下の説明は、第一実施形態と異なる部分のみに限って行う。従って、以下に説明のない事項は、第一実施形態に係るろ過装置と同様である。
【0184】
ろ過装置900は、流通路S9上においてフィルタ104の下流側から、流通路S9上においてフィルタ103の下流側であってフィルタ104の上流側へと被精製液を返送可能な返送流通路R3が形成されている。配管901は、一端がフィルタ104の下流側で流通路S9と接続し、他端がフィルタ104の上流側かつフィルタ103の下流側で流通路S9と接続している。具体的には、ろ過装置900は、返送用の配管901を有し、この配管901によって、返送流通路R3が形成されている。なお、返送流通路R3上には図示しないポンプ、ダンパ、及び、弁等が配置されていてもよい。
【0185】
返送流通路R3を流通して、フィルタ103の下流側であって、フィルタ104の上流側に返送された被精製液は、再度流通路S9を流通する過程でフィルタ104によってろ過される。ろ過装置900は循環ろ過が実施でき、結果として、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られやすい。
【0186】
なお、
図9では、流通路S9上においてフィルタ104(フィルタBD)の下流側から、流通路S9上においてフィルタAの下流側であって、かつ、フィルタBDの上流側へと被精製液を返送できるよう配管901が配置されているが、本実施形態に係るろ過装置としては、流通路上においてフィルタBの下流側からフィルタAの下流側であって、かつ、フィルタBの上流側に被精製液を返送できるように構成されていればよい。
すなわち、流通路S9においてフィルタ104の下流側からフィルタ103の上流側へと被精製液を返送する返送流通路が形成されていてもよい。
【0187】
(第六実施形態に係るろ過装置の変形例)
図10は、本実施形態に係るろ過装置の変形例を示した模式図である。ろ過装置1000は、流入部101と、流出部102と、フィルタAであるフィルタ103と、フィルタBDであるフィルタ104-1(基準フィルタ)と、フィルタ104-2とを有し、フィルタ103、フィルタ104-1、及び、フィルタ104-2が、流入部101と流出部102との間に直列に配置され、流入部101から流出部102にいたる流通路S10を有するろ過装置である。
ろ過装置1000では、流入部101と、フィルタ103と、配管105と、フィルタ104-1と、配管1001と、フィルタ104-2と、流出部102とが、流通路S10を形成している。
【0188】
なお、ろ過装置1000において、各フィルタ、及び、配管の形態等としては既に説明した第一実施形態に係るろ過装置と同様であり、以下の説明は、第一実施形態と異なる部分のみに限って行う。従って、以下に説明のない事項は、第一実施形態に係るろ過装置と同様である。
【0189】
ろ過装置1000は、流通路S10上においてフィルタ104-1(基準フィルタ)の下流から、流通路S10においてフィルタ103の下流であってフィルタ104-1(基準フィルタ)の上流へと被精製液を返送可能な返送流通路R4が形成されている。配管1002は、一端がフィルタ104-2の上流側かつフィルタ104-1の下流側で流通路S10と接続し、他端がフィルタ103の下流側かつフィルタ104-1の上流側で流通路S10と接続している。具体的には、ろ過装置1000は、返送用の配管1002を有し、この配管1002によって、返送流通路R4が形成されている。なお、返送流通路R3には、図示しないポンプ、ダンパ、及び、弁等が配置されていてもよい。
【0190】
返送流通路R4によって、流通路S10上におけるフィルタ103の下流側であって、フィルタ104-1の上流側に返送された被精製液は、再度流通路S10を流通する過程でフィルタ104-1によってろ過される。ろ過装置1000によれば、循環ろ過が実施でき、結果として、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られやすい。
【0191】
なお、
図10のろ過装置では、流通路S10上におけるフィルタ104-1(基準フィルタ)の下流側、すなわち、フィルタ104-2の上流側から、フィルタ104-1の上流側へと被精製液を返送可能な返送流通路R4が形成されているが、本実施形態に係るろ過装置としては上記に制限されず、フィルタ104-2の下流側から、フィルタ104-2の上流側へと被精製液を返送可能な返送流通路が形成されているろ過装置、フィルタ104-2の下流側から、フィルタAの下流側であってフィルタ104-1の上流側へと被精製液を返送可能な返送流通路が形成されているろ過装置、フィルタ104-1又はフィルタ104-2の下流側から、フィルタ103の上流側へと返送可能な返送流通路が形成されているろ過装置であってもよい。
【0192】
[薬液の製造方法]
本発明の実施形態に係る薬液の製造方法は、被精製液を精製して薬液を得る、薬液の製造方法であって、既に説明したろ過装置を用いて被精製液をろ過して、薬液を得るろ過工程を有する。
【0193】
〔被精製液〕
本発明の実施形態に係る薬液の製造方法が適用できる被精製液としては特に制限されないが、溶剤を含有することが好ましい。溶剤としては有機溶剤、及び、水等が挙げられ、有機溶剤を含有することが好ましい。以下では、被精製液中に含有される溶剤の全質量に対して、有機溶剤の含有量(複数の有機溶剤を含有する場合にはその合計含有量)が50質量%を超える有機系被精製液と、被精製液中に含有される溶剤の全質量に対して、水の含有量が50質量%を超える水系とに分けて説明する。
【0194】
<有機系被精製液>
(有機溶剤)
有機系の被精製液は、有機溶剤を含有し、被精製液に含有される溶剤の全質量に対して有機溶剤の含有量が50質量%超である。
被精製液中における有機溶剤の含有量としては特に制限されないが、一般に被精製液の全質量に対して、99.0質量%以上が好ましい。上限値としては特に制限されないが、一般に、99.99999質量%以下が好ましい。
有機溶剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の有機溶剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0195】
なお、本明細書において、有機溶剤とは、上記被精製液の全質量に対して、1成分あたり10000質量ppmを超えた含有量で含有される液状の有機化合物を意図する。つまり、本明細書においては、上記被精製液の全質量に対して10000質量ppmを超えて含有される液状の有機化合物は、有機溶剤に該当するものとする。
なお、本明細書において液状とは、25℃、大気圧下において、液体であることを意図する。
【0196】
上記有機溶剤の種類としては特に制限されず、公知の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテルカルボキシレート、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、乳酸アルキルエステル、アルコキシプロピオン酸アルキル、環状ラクトン(好ましくは炭素数4~10)、環を有してもよいモノケトン化合物(好ましくは炭素数4~10)、アルキレンカーボネート、アルコキシ酢酸アルキル、及び、ピルビン酸アルキル等が挙げられる。
また、有機溶剤としては、例えば、特開2016-57614号公報、特開2014-219664号公報、特開2016-138219号公報、及び、特開2015-135379号公報に記載のものを用いてもよい。
【0197】
有機溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMM)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGMP)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、乳酸エチル(EL)、メトキシプロピオン酸メチル(MPM)、シクロペンタノン(CyPn)、シクロヘキサノン(CyHe)、γ-ブチロラクトン(γBL)、ジイソアミルエーテル(DIAE)、酢酸ブチル(nBA)、酢酸イソアミル(iAA)、イソプロパノール(IPA)、4-メチル-2-ペンタノール(MIBC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジエチレングリコール(DEG)、エチレングリコール(EG)、ジプロピレングリコール(DPG)、プロピレングリコール(PG)、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、スルホラン、シクロヘプタノン、及び、2-ヘプタノン(MAK)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0198】
なお、被精製液中における有機溶剤の種類及び含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて測定できる。
【0199】
(その他の成分)
被精製液は、上記以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、無機物(金属イオン、金属粒子、及び、金属酸化物粒子等)、樹脂、樹脂以外の有機物、及び、水等が挙げられる。
【0200】
・無機物
被精製液は、無機物を含有してもよい。無機物としては特に制限されず、金属イオン、及び、金属含有粒子等が挙げられる。
【0201】
金属含有粒子は金属原子を含有していればよく、その形態は特に制限されない。例えば、金属原子の単体か、金属原子を含有する化合物(以下「金属化合物」ともいう。)、並びに、これらの複合体等が挙げられる。また、金属含有粒子は複数の金属原子を含有してもよい。
【0202】
複合体としては特に制限されないが、金属原子の単体と、上記金属原子の単体の少なくとも一部を覆う金属化合物と、を有するいわゆるコア-シェル型の粒子、金属原子と他の原子とを含む固溶体粒子、金属原子と他の原子とを含む共晶体粒子、金属原子の単体と金属化合物との凝集体粒子、種類の異なる金属化合物の凝集体粒子、及び、粒子表面から中心に向かって連続的又は断続的に組成が変化する金属化合物等が挙げられる。
【0203】
金属化合物が含有する金属原子以外の原子としては特に制限されないが、例えば、炭素原子、酸素原子、窒素原子、水素原子、硫黄原子、及び、燐原子等が挙げられ、中でも、酸素原子が好ましい。
【0204】
金属原子としては特に制限されないが、Fe原子、Al原子、Cr原子、Ni原子、Pb原子、Zn原子、及び、Ti原子等が挙げられる。なお、金属含有粒子は、上記金属原子の1種を単独で含有しても、2種以上を併せて含有してもよい。
【0205】
無機物は、被精製液に添加されてもよいし、製造工程において意図せず被精製液に混合されてもよい。薬液の製造工程において意図せずに混合される場合としては例えば、無機物が、薬液の製造に用いる原料(例えば、有機溶剤)に含有されている場合、及び、薬液の製造工程で混合する(例えば、コンタミネーション)等が挙げられるが、上記に制限されない。
【0206】
(樹脂)
被精製液は樹脂を含有してもよい。
樹脂としては、酸の作用により分解して極性基を生じる基を有する樹脂Pがより好ましい。上記樹脂としては、酸の作用により有機溶剤を主成分とする現像液に対する溶解性が減少する樹脂である、後述する式(AI)で表される繰り返し単位を有する樹脂がより好ましい。後述する式(AI)で表される繰り返し単位を有する樹脂は、酸の作用により分解してアルカリ可溶性基を生じる基(以下、「酸分解性基」ともいう)を有する。
極性基としては、アルカリ可溶性基が挙げられる。アルカリ可溶性基としては、例えば、カルボキシ基、フッ素化アルコール基(好ましくはヘキサフルオロイソプロパノール基)、フェノール性水酸基、及びスルホ基が挙げられる。
【0207】
酸分解性基において極性基は酸で脱離する基(酸脱離性基)によって保護されている。酸脱離性基としては、例えば、-C(R36)(R37)(R38)、-C(R36)(R37)(OR39)、及び、-C(R01)(R02)(OR39)等が挙げられる。
【0208】
式中、R36~R39は、各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルケニル基を表す。R36とR37とは、互いに結合して環を形成してもよい。
【0209】
R01及びR02は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルケニル基を表す。
【0210】
以下、酸の作用により有機溶剤を主成分とする現像液に対する溶解性が減少する樹脂Pについて詳述する。
【0211】
(式(AI):酸分解性基を有する繰り返し単位)
樹脂Pは、式(AI)で表される繰り返し単位を含有することが好ましい。
【0212】
【0213】
式(AI)に於いて、
Xa1は、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
Tは、単結合又は2価の連結基を表す。
Ra1~Ra3は、それぞれ独立に、アルキル基(直鎖状又は分岐鎖状)又はシクロアルキル基(単環又は多環)を表す。
Ra1~Ra3の2つが結合して、シクロアルキル基(単環又は多環)を形成してもよい。
【0214】
Xa1により表される、置換基を有していてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、及び-CH2-R11で表される基が挙げられる。R11は、ハロゲン原子(フッ素原子等)、水酸基、又は1価の有機基を表す。
Xa1は、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基又はヒドロキシメチル基が好ましい。
【0215】
Tの2価の連結基としては、アルキレン基、-COO-Rt-基、及び、-O-Rt-基等が挙げられる。式中、Rtは、アルキレン基又はシクロアルキレン基を表す。
Tは、単結合又は-COO-Rt-基が好ましい。Rtは、炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、-CH2-基、-(CH2)2-基、又は、-(CH2)3-基がより好ましい。
【0216】
Ra1~Ra3のアルキル基としては、炭素数1~4のものが好ましい。
【0217】
Ra1~Ra3のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、若しくはシクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基、又は、ノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、若しくはアダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましい。
Ra1~Ra3の2つが結合して形成されるシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、若しくはシクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基、又は、ノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、若しくはアダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましい。炭素数5~6の単環のシクロアルキル基がより好ましい。
【0218】
Ra1~Ra3の2つが結合して形成される上記シクロアルキル基は、例えば、環を構成するメチレン基の1つが、酸素原子等のヘテロ原子、又はカルボニル基等のヘテロ原子を有する基で置き換わっていてもよい。
【0219】
式(AI)で表される繰り返し単位は、例えば、Ra1がメチル基又はエチル基であり、Ra2とRa3とが結合して上述のシクロアルキル基を形成している態様が好ましい。
【0220】
上記各基は、置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、アルキル基(炭素数1~4)、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基(炭素数1~4)、カルボキシ基、及びアルコキシカルボニル基(炭素数2~6)等が挙げられ、炭素数8以下が好ましい。
【0221】
式(AI)で表される繰り返し単位の含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対して、20~90モル%が好ましく、25~85モル%がより好ましく、30~80モル%が更に好ましい。
【0222】
(ラクトン構造を有する繰り返し単位)
また、樹脂Pは、ラクトン構造を有する繰り返し単位Qを含有することが好ましい。
【0223】
ラクトン構造を有する繰り返し単位Qは、ラクトン構造を側鎖に有していることが好ましく、(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位であることがより好ましい。
ラクトン構造を有する繰り返し単位Qは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用していてもよいが、1種単独で用いることが好ましい。
ラクトン構造を有する繰り返し単位Qの含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対して、3~80モル%が好ましく、3~60モル%がより好ましい。
【0224】
ラクトン構造としては、5~7員環のラクトン構造が好ましく、5~7員環のラクトン構造にビシクロ構造又はスピロ構造を形成する形で他の環構造が縮環している構造がより好ましい。
ラクトン構造としては、下記式(LC1-1)~(LC1-17)のいずれかで表されるラクトン構造を有する繰り返し単位を有することが好ましい。ラクトン構造としては式(LC1-1)、式(LC1-4)、式(LC1-5)、又は式(LC1-8)で表されるラクトン構造がより好ましく、式(LC1-4)で表されるラクトン構造が更に好ましい。
【0225】
【0226】
ラクトン構造部分は、置換基(Rb2)を有していてもよい。好ましい置換基(Rb2)としては、炭素数1~8のアルキル基、炭素数4~7のシクロアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数2~8のアルコキシカルボニル基、カルボキシ基、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、及び酸分解性基等が挙げられる。n2は、0~4の整数を表す。n2が2以上のとき、複数存在する置換基(Rb2)は、同一でも異なっていてもよく、また、複数存在する置換基(Rb2)同士が結合して環を形成してもよい。
【0227】
(フェノール性水酸基を有する繰り返し単位)
また、樹脂Pは、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位を含有していてもよい。
フェノール性水酸基を有する繰り返し単位としては、例えば、下記一般式(I)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0228】
【0229】
式中、
R41、R42及びR43は、各々独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基又はアルコキシカルボニル基を表す。但し、R42はAr4と結合して環を形成していてもよく、その場合のR42は単結合又はアルキレン基を表す。
【0230】
X4は、単結合、-COO-、又は-CONR64-を表し、R64は、水素原子又はアルキル基を表す。
L4は、単結合又はアルキレン基を表す。
Ar4は、(n+1)価の芳香環基を表し、R42と結合して環を形成する場合には(n+2)価の芳香環基を表す。
nは、1~5の整数を表す。
【0231】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のアルキル基としては、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基及びドデシル基など炭素数20以下のアルキル基が好ましく、炭素数8以下のアルキル基がより好ましく、炭素数3以下のアルキル基が更に好ましい。
【0232】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のシクロアルキル基としては、単環型でも、多環型でもよい。シクロアルキル基としては、置換基を有していてもよい、シクロプロピル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基などの炭素数3~8で単環型のシクロアルキル基が好ましい。
【0233】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
【0234】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のアルコキシカルボニル基に含まれるアルキル基としては、上記R41、R42及びR43におけるアルキル基と同様のものが好ましい。
【0235】
上記各基における置換基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基、アミド基、ウレイド基、ウレタン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、チオエーテル基、アシル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、及び、ニトロ基等が挙げられ、置換基の炭素数は8以下が好ましい。
【0236】
Ar4は、(n+1)価の芳香環基を表す。nが1である場合における2価の芳香環基は、置換基を有していてもよく、例えば、フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基及びアントラセニレン基などの炭素数6~18のアリーレン基、並びに、チオフェン、フラン、ピロール、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、ベンゾピロール、トリアジン、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、トリアゾール、チアジアゾール及びチアゾール等のヘテロ環を含む芳香環基が挙げられる。
【0237】
nが2以上の整数である場合における(n+1)価の芳香環基の具体例としては、2価の芳香環基の上記した具体例から、(n-1)個の任意の水素原子を除してなる基が挙げられる。
(n+1)価の芳香環基は、更に置換基を有していてもよい。
【0238】
上述したアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルキレン基及び(n+1)価の芳香環基が有し得る置換基としては、例えば、一般式(I)におけるR41、R42及びR43で挙げたアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、プロポキシ基、ヒドロキシプロポキシ基及びブトキシ基等のアルコキシ基;フェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0239】
X4により表わされる-CONR64-(R64は、水素原子又はアルキル基を表す)におけるR64のアルキル基としては、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基及びドデシル基など炭素数20以下のアルキル基が挙げられ、炭素数8以下のアルキル基がより好ましい。
【0240】
X4としては、単結合、-COO-又は-CONH-が好ましく、単結合又は-COO-がより好ましい。
【0241】
L4におけるアルキレン基としては、置換基を有していてもよい、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基及びオクチレン基等の炭素数1~8のアルキレン基が好ましい。
【0242】
Ar4としては、置換基を有していてもよい炭素数6~18の芳香環基が好ましく、ベンゼン環基、ナフタレン環基又はビフェニレン環基がより好ましい。
【0243】
一般式(I)で表される繰り返し単位は、ヒドロキシスチレン構造を備えていることが好ましい。即ち、Ar4は、ベンゼン環基であることが好ましい。
【0244】
フェノール性水酸基を有する繰り返し単位の含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対して、0~50モル%が好ましく、0~45モル%がより好ましく、0~40モル%が更に好ましい。
【0245】
(極性基を有する有機基を含有する繰り返し単位)
樹脂Pは、極性基を有する有機基を含有する繰り返し単位、特に、極性基で置換された脂環炭化水素構造を有する繰り返し単位を更に含有していてもよい。これにより基板密着性、現像液親和性が向上する。
極性基で置換された脂環炭化水素構造としては、アダマンチル基、ジアダマンチル基又はノルボルナン基が好ましい。極性基としては、水酸基又はシアノ基が好ましい。
【0246】
樹脂Pが、極性基を有する有機基を含有する繰り返し単位を含有する場合、その含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対して、1~50モル%が好ましく、1~30モル%がより好ましく、5~25モル%が更に好ましく、5~20モル%が特に好ましい。
【0247】
(一般式(VI)で表される繰り返し単位)
樹脂Pは、下記一般式(VI)で表される繰り返し単位を含有していてもよい。
【0248】
【0249】
一般式(VI)中、
R61、R62及びR63は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、又はアルコキシカルボニル基を表す。但し、R62はAr6と結合して環を形成していてもよく、その場合のR62は単結合又はアルキレン基を表す。
X6は、単結合、-COO-、又は-CONR64-を表す。R64は、水素原子又はアルキル基を表す。
L6は、単結合又はアルキレン基を表す。
Ar6は、(n+1)価の芳香環基を表し、R62と結合して環を形成する場合には(n+2)価の芳香環基を表す。
Y2は、n≧2の場合には各々独立に、水素原子又は酸の作用により脱離する基を表す。但し、Y2の少なくとも1つは、酸の作用により脱離する基を表す。
nは、1~4の整数を表す。
【0250】
酸の作用により脱離する基Y2としては、下記一般式(VI-A)で表される構造が好ましい。
【0251】
【0252】
L1及びL2は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はアルキレン基とアリール基とを組み合わせた基を表す。
Mは、単結合又は2価の連結基を表す。
Qは、アルキル基、ヘテロ原子を含んでいてもよいシクロアルキル基、ヘテロ原子を含んでいてもよいアリール基、アミノ基、アンモニウム基、メルカプト基、シアノ基又はアルデヒド基を表す。
Q、M、L1の少なくとも2つが結合して環(好ましくは、5員若しくは6員環)を形成してもよい。
【0253】
上記一般式(VI)で表される繰り返し単位は、下記一般式(3)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0254】
【0255】
一般式(3)において、
Ar3は、芳香環基を表す。
R3は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アシル基又はヘテロ環基を表す。
M3は、単結合又は2価の連結基を表す。
Q3は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はヘテロ環基を表す。
Q3、M3及びR3の少なくとも二つが結合して環を形成してもよい。
【0256】
Ar3が表す芳香環基は、上記一般式(VI)におけるnが1である場合の、上記一般式(VI)におけるAr6と同様であり、フェニレン基又はナフチレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0257】
(側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位)
樹脂Pは、更に、側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位を含有していてもよい。側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位としては、例えば、珪素原子を有する(メタ)アクリレート系繰り返し単位、及び、珪素原子を有するビニル系繰り返し単位などが挙げられる。側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位は、典型的には、側鎖に珪素原子を有する基を有する繰り返し単位であり、珪素原子を有する基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基、トリシクロヘキシルシリル基、トリストリメチルシロキシシリル基、トリストリメチルシリルシリル基、メチルビストリメチルシリルシリル基、メチルビストリメチルシロキシシリル基、ジメチルトリメチルシリルシリル基、ジメチルトリメチルシロキシシリル基、及び、下記のような環状もしくは直鎖状ポリシロキサン、又はカゴ型あるいははしご型もしくはランダム型シルセスキオキサン構造などが挙げられる。式中、R、及び、R1は各々独立に、1価の置換基を表す。*は、結合手を表す。
【0258】
【0259】
上記の基を有する繰り返し単位としては、例えば、上記の基を有するアクリレート化合物又はメタクリレート化合物に由来する繰り返し単位、又は、上記の基とビニル基とを有する化合物に由来する繰り返し単位が好ましい。
【0260】
樹脂Pが、上記側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位を有する場合、その含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対して、1~30モル%が好ましく、5~25モル%がより好ましくは、5~20モル%が更に好ましい。
【0261】
樹脂Pの重量平均分子量は、GPC(Gel permeation chromatography)法によりポリスチレン換算値として、1,000~200,000が好ましく、3,000~20,000がより好ましく、5,000~15,000が更に好ましい。重量平均分子量を、1,000~200,000とすることにより、耐熱性及びドライエッチング耐性の劣化を防ぐことができ、且つ現像性が劣化したり、粘度が高くなって製膜性が劣化したりすることを防ぐことができる。
【0262】
分散度(分子量分布)は、通常1~5であり、1~3が好ましく、1.2~3.0がより好ましく、1.2~2.0が更に好ましい。
【0263】
薬液中に含まれるその他の成分(例えば酸発生剤、塩基性化合物、クエンチャー、疎水性樹脂、界面活性剤、及び溶剤等)についてはいずれも公知のものを使用できる。
【0264】
<水系被精製液>
水系被精製液は、被精製液が含有する溶剤の全質量に対して、水を50質量%超えて含有する被精製液を意味し、被精製液が含有する溶剤の全質量の51~95質量%が好ましい。
上記水は、特に限定されないが、半導体製造に使用される超純水を用いることが好ましく、その超純水を更に精製し、無機陰イオン及び金属イオン等を低減させた水を用いることがより好ましい。精製方法は特に限定されないが、ろ過膜又はイオン交換膜を用いた精製、並びに、蒸留による精製が好ましい。また、例えば、特開2007-254168号公報に記載されている方法により精製を行うことが好ましい。
【0265】
(酸化剤)
水系の被精製液は、酸化剤を含有してもよい、酸化剤としては特に制限されず、公知の酸化剤が使用できる。酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過酸化物、硝酸、硝酸塩、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、過硫酸塩、重クロム酸塩、過マンガン酸塩、オゾン水、銀(II)塩、及び鉄(III)塩等が挙げられる。
【0266】
酸化剤の含有量としては特に制限されず、用途に応じて任意の量、含有してよい。例えば、水系被精製液の全質量に対して、0.1質量%以上が好ましく、99質量%以下が好ましい。なお、酸化剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の酸化剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0267】
(無機酸)
水系被精製液は無機酸を含有してもよい。無機酸としては特に制限されず、公知の無機酸を用いることができる。無機酸としては例えば、硫酸、リン酸、及び、塩酸等が挙げられる。なお、無機酸は上述した酸化剤には含まれない。
被精製液中の無機酸の含有量としては特に制限されないが、被精製液の全質量に対して0.01質量%以上が好ましく、99質量%以下が更に好ましい。
無機酸は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の無機酸を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0268】
(防食剤)
水系被精製液は、防食剤を含有してもよい。防食剤としては特に制限されず、公知の防食剤が使用できる。防食剤としては例えば、1,2,4-トリアゾール(TAZ)、5-アミノテトラゾール(ATA)、5-アミノ-1,3,4-チアジアゾール-2-チオール、3-アミノ-1H-1,2,4トリアゾール、3,5-ジアミノ-1,2,4-トリアゾール、トリルトリアゾール、3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、1-アミノ-1,2,4-トリアゾール、1-アミノ-1,2,3-トリアゾール、1-アミノ-5-メチル-1,2,3-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、3-イソプロピル-1,2,4-トリアゾール、ナフトトリアゾール、1H-テトラゾール-5-酢酸、2-メルカプトベンゾチアゾール(2-MBT)、1-フェニル-2-テトラゾリン-5-チオン、2-メルカプトベンゾイミダゾール(2-MBI)、4-メチル-2-フェニルイミダゾール、2-メルカプトチアゾリン、2,4-ジアミノ-6-メチル-1,3,5-トリアジン、チアゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、トリアジン、メチルテトラゾール、ビスムチオールI、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,5-ペンタメチレンテトラゾール、1-フェニル-5-メルカプトテトラゾール、ジアミノメチルトリアジン、イミダゾリンチオン、4-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-チオール、5-アミノ-1,3,4-チアジアゾール-2-チオール、ベンゾチアゾール、リン酸トリトリル、インダゾール、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、ホスフェート阻害剤、アミン類、ピラゾール類、プロパンチオール、シラン類、第2級アミン類、ベンゾヒドロキサム酸類、複素環式窒素阻害剤、アスコルビン酸、チオ尿素、1,1,3,3-テトラメチル尿素、尿素、尿素誘導体類、尿酸、エチルキサントゲン酸カリウム、グリシン、ドデシルホスホン酸、イミノ二酢酸、ホウ酸、マロン酸、コハク酸、ニトリロ三酢酸、スルホラン、2,3,5-トリメチルピラジン、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン、キノキサリン、アセチルピロール、ピリダジン、ヒスタジン(histadine)、ピラジン、グルタチオン(還元型)、システイン、シスチン、チオフェン、メルカプトピリジンN-オキシド、チアミンHCl、テトラエチルチウラムジスルフィド、2,5-ジメルカプト-1,3-チアジアゾールアスコルビン酸、カテコール、t-ブチルカテコール、フェノール、及びピロガロールが挙げられる。
【0269】
上記防食剤としては、ドデカン酸、パルミチン酸、2-エチルヘキサン酸、及びシクロヘキサン酸等の脂肪族カルボン酸;クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、イタコン酸、マレイン酸、グリコール酸、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、サリチル酸、スルフォサリチル酸、アントラニル酸、N-メチルアントラニル酸、3-アミノ-2-ナフトエ酸、1-アミノ-2-ナフトエ酸、2-アミノ-1-ナフトエ酸、1-アミノアントラキノン-2-カルボン酸、タンニン酸、及び没食子酸等のキレート能を有するカルボン酸;等を用いることもできる。
【0270】
また、上記防食剤としては、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールを用いることもできる。
上記の市販品としては、例えばニューカルゲンFS-3PG(竹本油脂社製)、及びホステンHLP-1(日光ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0271】
また、防食剤としては、親水性ポリマーを用いることもできる。
親水性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール等のポリグリコール類、ポリグリコール類のアルキルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸等の多糖類、ポリメタクリル酸、及びポリアクリル酸等のカルボン酸含有ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、及びポリエチレンイミン等が挙げられる。そのような親水性ポリマーの具体例としては、特開2009-88243号公報0042~0044段落、特開2007-194261号公報0026段落に記載されている水溶性ポリマーが挙げられる。
【0272】
また、防食剤としては、セリウム塩を用いることもできる。
セリウム塩としては特に制限されず、公知のセリウム塩を用いることができる。
セリウム塩としては、例えば、3価のセリウム塩として、酢酸セリウム、硝酸セリウム、塩化セリウム、炭酸セリウム、シュウ酸セリウム、及び硫酸セリウム等が挙げられる。また、4価のセリウム塩として、硫酸セリウム、硫酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウムアンモニウム、硝酸二アンモニウムセリウム、及び水酸化セリウム等が挙げられる。
【0273】
防食剤は、置換、又は無置換のベンゾトリアゾールを含んでもよい。好適な置換型ベンゾトリアゾールには、これらに限定されないが、アルキル基、アリール基、ハロゲン基、アミノ基、ニトロ基、アルコキシ基、又は水酸基で置換されたベンゾトリアゾールが含まれる。置換型ベンゾトリアゾールには、1以上のアリール(例えば、フェニル)又はヘテロアリール基で融合されたものも含まれる。
【0274】
被精製液中の防食剤の含有量は、薬液の全質量に対して、0.01~5質量%となるよう、調整されることが好ましく、0.05~5質量%となるよう調整されることがより好ましく、0.1~3質量%となるよう調整されることが更に好ましい。
防食剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の防食剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0275】
(有機溶剤)
水系被精製液は、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤としては特に制限されないが、有機溶剤系被精製液が含有する被精製液として既に説明したとおりである。有機溶剤を含有する場合、被精製液が含有する溶剤の全質量に対して、有機溶剤の含有量は5~35質量%が好ましい。
【0276】
<被精製液とろ過装置との関係>
被精製液とろ過装置(フィルタの物性)の関係としては特に制限されないが、被精製液の溶解パラメータ(SP値)との関係では、SP値が20(MPa)1/2未満である場合、フィルタAのイミド化率は1.0~1.5が好ましい。なお、SP値の下限としては特に制限されないが、一般に14(MPa)1/2以上が好ましい。
一方、SP値が20(MPa)1/2以上である場合(上限値としては特に制限されないが30(MPa)1/2以下が好ましい。)、イミド化率としては、1.5を超えることが好ましい。イミド化率の上限値としては特に制限されないが、一般に2.0以下が好ましい。
【0277】
また、本発明者らの検討によれば、被精製液のSP値が20(MPa)1/2以上である場合、被精製液中に極性の高い固形状の不純物(特に微小なゲル状成分)を含有することが多いことを知見している。被精製液のSP値が20(MPa)1/2以上である場合、このようなゲル状不純物に対してより大きな相互作用を有する(より捕捉する能力が高い)点で、イミド化率が1.5を超えるフィルタAを用いることが好ましい。
【0278】
一方で、SP値が20(MPa)1/2未満である場合、被精製液中における上記のゲル状不純物の含有量が比較的少ないため、フィルタAのイミド化率が1.0以上であると、十分にゲル状不純物が補足可能である。一方で、イミド化率が1.5以下であると、フィルタAは十分なイオン性の不純物の除去性能を発揮するため、結果としてより優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られる。
【0279】
なお、本明細書において、SP値とは、「溶解度パラメータの値」を意味する。本発明でいうSP値とは、ハンセン溶解度パラメータ:A User’s Handbook, Second Edition, C.M.Hansen (2007), Taylor and Francis Group, LLC (HSPiPマニュアル)で解説された式によるハンセン溶解度パラメータであり、「実践ハンセン溶解度パラメータHSPiP第3版」(ソフトウエアーバージョン4.0.05)を用いて、下記式にてSP値を算出した値を用いている。
(SP値)2=(δHd)2+(δHp)2+(δHh)2
Hd :分散項
Hp :極性項
Hh :水素結合項
【0280】
なお、被精製液が2種以上の溶剤の混合物である場合、被精製液のSP値は、上記各溶剤の単体のSP値と、各溶剤の体積分率との積の総和によって求められる。すなわち、以下の式で表される。
(被精製液のSP値)=Σ{(各溶剤のSP値)×(各溶剤の体積分率)}
例えば、被精製液が含有する溶剤が、PGMEAとPGMEの7:3(体積基準)の混合液である場合、そのSP値は、17.8×0.7+23.05×0.3により計算され、19.375(MPa)1/2と求められる。なお、本明細書における上記SP値は、(MPa)1/2の単位で表わした際に小数点以下第2位を四捨五入した値として求めるものとし、上記の場合、上記被精製液のSP値は下記実施例の表に記載したとおり、19.4(MPa)1/2とする。
【0281】
〔ろ過工程〕
本実施形態に係る薬液の製造方法は、既に説明したろ過装置を用いて、上記被精製液をろ過して、薬液を得るろ過工程を有する。
上記ろ過装置は、フィルタAとフィルタBとが直列に配置されて形成された流通路を有する。各フィルタに対する被精製液の供給圧力としては特に制限されないが、一般に、0.00010~1.0MPaが好ましい。
なかでも、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られる点で、供給圧力P2は、0.00050~0.090MPaが好ましく、0.0010~0.050MPaがより好ましく、0.0050~0.040MPaが更に好ましい。
また、ろ過圧力はろ過精度に影響を与えることから、ろ過時における圧力の脈動は可能な限り少ない方が好ましい。
【0282】
ろ過速度は特に限定されないが、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られやすい点で、1.0L/分/m2以上が好ましく、0.75L/分/m2以上がより好ましく、0.6L/分/m2以上が更に好ましい。
フィルタにはフィルタ性能(フィルタが壊れない)を保障する耐差圧が設定されており、この値が大きい場合にはろ過圧力を高めることでろ過速度を高めることができる。つまり、上記ろ過速度上限は、通常、フィルタの耐差圧に依存するが、通常、10.0L/分/m2以下が好ましい。
【0283】
被精製液をフィルタに通す際の温度としては特に制限されないが、一般に、室温未満が好ましい。
【0284】
なお、ろ過工程は、クリーンな環境下で実施することが好ましい。具体的には米国連邦規格(Fed.Std.209E)のClass1000(ISO14644-1:2015では、Class6)を満たすクリーンルームで実施することが好ましく、Class100(ISO14644-1:2015では、Class5)を満たすクリーンルームがより好ましく、Class10(ISO14644-1:2015では、Class4)を満たすクリーンルームが更に好ましく、Class1(ISO14644-1:2015では、Class3)又はそれ以上の清浄度(クラス2、又は、クラス1)を有するクリーンルームが特に好ましい。
なお、後述する各工程も、上記クリーン環境下にて実施することが好ましい。
【0285】
また、ろ過装置が返送流通路を有している場合、ろ過工程は循環ろ過工程であってもよい。循環ろ過工程とは、被精製液を少なくともフィルタAでろ過し、フィルタAでろ過した後の被精製液を流通路に対してフィルタAの上流に返送し、再度フィルタAでろ過する工程である。
循環ろ過の回数としては特に制限されないが、一般に1~10回が好ましい。なお、循環ろ過はフィルタAによるろ過を繰り返すよう、被精製液をフィルタAの上流に返送すればよいが、この際、フィルタAに加えて少なくとも1のフィルタBによるろ過も合わせ繰り返すよう、返送流通路を調整してもよい。
【0286】
〔その他の工程〕
本実施形態に係る薬液の製造方法は、上記以外の工程を有していてもよい。上記以外の工程としては、例えば、フィルタ洗浄工程、装置洗浄工程、除電工程、及び、被精製液準備工程等が挙げられる。以下では、各工程について詳述する。
【0287】
<フィルタ洗浄工程>
フィルタ洗浄工程は、ろ過工程の前にフィルタA及びフィルタBを、洗浄液を用いて洗浄する工程である。フィルタを洗浄する方法としては特に制限されないが、例えば、フィルタを洗浄液に浸漬する方法、フィルタに洗浄液を通液して洗浄する方法、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0288】
(フィルタを洗浄液に浸漬する方法)
フィルタを洗浄液に浸漬する方法としては、例えば、浸漬用容器を洗浄液で満たし、上記洗浄液にフィルタを浸漬する方法が挙げられる。
【0289】
・洗浄液
洗浄液としては特に制限されず、公知の洗浄液を使用できる。
なかでも、より優れた本発明の効果が得られる点で、洗浄液としては、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、鎖状又は環状ケトン、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、及び、非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。上記を満たす洗浄液を、以下「特定洗浄液」として説明する。
【0290】
特定洗浄液は、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、鎖状又は環状ケトン、アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、並びにこれらの溶剤以外の非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1つの溶剤を含む。なお、「これらの溶剤以外の非プロトン性極性溶媒」は、下記「(A)下記(B)溶剤以外の非プロトン性極性溶媒」と同じである。
特定洗浄液は、
(A)下記(B)溶剤以外の非プロトン性極性溶媒と、
(B)ヒドロキシ脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、鎖状又は環状ケトン、アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートからなる群より選択される少なくとも1つの溶剤(以下、「(B)溶剤」ともいう。)と、を含有することが好ましい。
【0291】
上記非プロトン性極性溶媒は、下記一般式(s)で表されるアミド構造を有する溶剤、及び、アルキルスルフィニルアルカン(別名:ジアルキルスルホキシド)からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
非プロトン性極性溶媒は1種であってもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化11】
【0292】
式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し、同一でも異なってもよく、R3は水素原子、アルキル基、又は-NR4R5で表される基を示す。R4及びR5はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表し、同一でも異なってもよい。R2及びR3は互いに結合して環を形成してもよい。
【0293】
R1~R5が表すアルキル基としては、特に制限されないが、炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。
R2及びR3が互いに結合して形成する環としては、2-イミダゾリドン環、2-ピロリドン環、及び、3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン環等が挙げられる。
【0294】
上記一般式(s)で表されるアミド構造を有する溶剤としては、1,1,3,3-テトラメチルウレア、1,1,3,3-テトラエチルウレア、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N-メチルアセトアミド及びN-メチルホルムアミド等が挙げられる。
上記アルキルスルフィニルアルカン(別名:ジアルキルスルホキシド)としては、ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド等が挙げられる。
【0295】
上記非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,1,3,3-テトラメチルウレア及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0296】
(B)溶剤はヒドロキシ脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、鎖状又は環状ケトン、アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートからなる群より選択される少なくとも1種の溶剤である。
脂肪族カルボン酸エステルには、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸エステルは含まれない。
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸エステルとしては、乳酸メチル、乳酸エチル等が挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステルとしては、酢酸n-ブチル、酢酸iso-ブチル、酢酸n-プロピル等が挙げられる。
鎖状又は環状ケトンとしては、2-ヘプタノン(別名:メチルアミルケトン)、シクロヘキサノン等が挙げられる。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ブチレングリコールモノアルキルエーテル、ペンタングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられ、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートとしては、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ペンタングリコールモノアルキルエーテルアセテート等が挙げられ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
(B)溶剤は、炭素原子数4~7の化合物であることが好ましく、炭素原子数5~7の化合物であることがより好ましい。
(B)溶剤は、乳酸エチル、酢酸ブチル、2-ヘプタノン、シクロヘキサノン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0297】
非プロトン性極性溶媒を単独で用いてもよいし、(B)溶剤を単独で用いてもよい。
非プロトン性極性溶媒と上記(B)溶剤とを混合して用いる場合、混合比率としては特に制限されないが、非プロトン性極性溶媒と上記(B)溶剤との合計に対する上記(B)溶剤の含有質量比[B/(A+B)]は0.8以下が好ましく、0.7以下がより好ましく、0.5以下が更に好ましく、0.4以下が特に好ましい。
また、上記(B)溶剤の含有質量比[B/(A+B)]は0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることが更に好ましい。
【0298】
洗浄液にフィルタを浸漬する時間としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、7日~1年が好ましい。
浸漬液の温度としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、20℃以上が好ましい。
【0299】
浸漬用容器としては、既に説明したろ過装置において、フィルタユニットが有するハウジングも使用できる。すなわち、ろ過装置が有するハウジングにフィルタ(典型的にはフィルタカートリッジ)を収納した状態で、ハウジング内に洗浄液を満たし、その状態で静置する方法が挙げられる。
また、上記以外にも、浸漬用容器を精製装置が有するハウジングとは別途準備し(すなわち、精製装置外において浸漬用容器を準備し)、別途準備した浸漬用容器に洗浄液を満たし、フィルタを浸漬する方法も挙げられる。
なかでも、フィルタから溶出した不純物がろ過装置内に混入しない点で、ろ過装置外に準備した浸漬用容器に洗浄液を満たし、上記洗浄液にフィルタを浸漬する方法が好ましい。
【0300】
浸漬用容器の形状及び大きさ等は、浸漬するフィルタの数及び大きさ等によって適宜選択でき特に制限されない。
浸漬用容器は、特に制限されないが、少なくとも接液部が、既に説明した耐腐食材料で形成されていることが好ましい。
また、浸漬用容器の材料成分としては、ポリフルオロカーボン(PTFE、PFA:パーフルオロアルコキシアルカン、及び、PCTFE:ポリクロロトリフルオロエチレン等)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、POM(ポリオキシメチレン)、並びに、ポリオレフィン(PP、及び、PE等)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、ポリフルオロカーボン、PPS、及び、POMからなる群から選択される少なくとも1種を含有することがより好ましく、ポリフルオロカーボンを含有することが更に好ましく、PTFE、PFA、及び、PCTFEからなる群から選択される少なくとも1種を含有することが特に好ましく、PTFEを含有することが最も好ましい。
また、浸漬用容器は、使用前に洗浄することが好ましく、洗浄の際には洗浄液を使用して洗浄(いわゆる共洗い)することが好ましい。
【0301】
(フィルタに洗浄液を通液して洗浄する方法)
フィルタに洗浄液を通液して洗浄する方法としては特に制限されないが、例えば、既に説明したろ過装置のフィルタユニットのフィルタハウジングに、フィルタ(典型的にはフィルタカートリッジ)を収納し、上記フィルタハウジングに洗浄液を導入することで、フィルタに洗浄液を通液する方法が挙げられる。
【0302】
洗浄の際、フィルタに付着した不純物は、洗浄液に移行(典型的には、溶解)し、洗浄液中の不純物含有量が増加していく。従って、1度フィルタに通液させた洗浄液は、再度洗浄には使用せず、ろ過装置外に排出することが好ましい。言い換えれば循環洗浄しないことが好ましい。
【0303】
フィルタに洗浄液を通液して洗浄する方法の他の形態として、洗浄装置を用いてフィルタを洗浄する方法が挙げられる。本明細書において、洗浄装置とは、ろ過装置外に設けられたろ過装置とは異なる装置を意味する。洗浄装置の形態としては特に制限されないが、ろ過装置と同様の構成の装置が使用できる。
【0304】
フィルタに洗浄液を通液して洗浄する場合における洗浄液としては特に制限されず、公知の洗浄液が使用できる。なかでも、より優れた本発明の効果が得られる点で、洗浄液の形態としては、既に説明した浸漬に使用する洗浄液と同様であることが好ましい。
【0305】
<装置洗浄工程>
装置洗浄工程は、ろ過工程の前に、ろ過装置の接液部を、洗浄液を用いて洗浄する工程である。ろ過工程の前にろ過装置の接液部を洗浄する方法としては特に制限されない。以下では、フィルタがカートリッジフィルタであり、上記カートリッジフィルタが、流通路上に配置されたハウジング内に収納されるろ過装置を例として説明する。
【0306】
装置洗浄工程は、ハウジングからカートリッジフィルタが取り除かれた状態で洗浄液を用いてろ過装置の接液部を洗浄する工程A、及び、工程Aの後に、カートリッジフィルタをハウジングに収納し、更に洗浄液を用いてろ過装置の接液部を洗浄する工程Bを有することが好ましい。
【0307】
・工程A
工程Aは、ハウジングからカートリッジフィルタが取り除かれた状態で、洗浄液を用いてろ過装置の接液部を洗浄する工程である。ハウジングからフィルタが取り除かれた状態で、とは、ハウジングからフィルタカートリッジを取り除くか、ハウジングにフィルタカートリッジを収納する前に、洗浄液を用いてろ過装置の接液部を洗浄することを意味する。
ハウジングからフィルタが取り除かれた状態における(以下「フィルタ未収納の」ともいう。)ろ過装置の接液部を、洗浄液を用いて洗浄する方法としては特に制限されない。流入部から洗浄液を導入し、流出部から回収する方法が挙げられる。
【0308】
なかでも、より優れた本発明の効果が得られる点で、洗浄液を用いてフィルタ未収納のろ過装置の接液部を洗浄する方法としては、フィルタ未収納のろ過装置の内部を洗浄液で満たす方法が挙げられる。フィルタ未収納のろ過装置の内部を洗浄液で満たすことにより、フィルタ未収納のろ過装置の接液部が洗浄液と接触する。これにより、ろ過装置の接液部に付着している不純物が洗浄液へと移行(典型的には溶出)する。そして、洗浄後の洗浄液はろ過装置外に排出すればよい(典型的には流出部から排出すればよい)。
【0309】
・洗浄液
洗浄液としては特に制限されず、公知の洗浄液を使用できる。なかでもより優れた本発明の効果が得られる点で、洗浄液としては、既に説明したフィルタの浸漬用の洗浄液を用いることが好ましい。
【0310】
・工程B
工程Bは、ハウジングにフィルタが収納された状態で、洗浄液を用いてろ過装置を洗浄する方法である。
洗浄液を用いてろ過装置を洗浄する方法としては、既に説明した工程Aにおける洗浄方法のほか、ろ過装置に洗浄液を通液する方法も使用できる。ろ過装置に洗浄液を通液する方法としては特に制限されないが、流入部から洗浄液を導入し、流出部から排出すればよい。なお、本工程で使用できる洗浄液としては特に制限されず、工程Aで説明した洗浄液を使用できる。
【0311】
<除電工程>
除電工程は、被精製液を除電することで、被精製液の帯電電位を低減させる工程である。除電方法としては特に制限されず、公知の除電方法を用いることができる。除電方法としては、例えば、被精製液を導電性材料接触させる方法が挙げられる。
被精製液を導電性材料成分に接触させる接触時間は、0.001~60秒が好ましく、0.001~1秒がより好ましく、0.01~0.1秒が更に好ましい。導電性材料成分としては、ステンレス鋼、金、白金、ダイヤモンド、及びグラッシーカーボン等が挙げられる。
被精製液を導電性材料に接触させる方法としては、例えば、導電性材料からなる接地されたメッシュを、流通路を横切るように配置し、ここに被精製液を流通させる方法等が挙げられる。
【0312】
<被精製液準備工程>
被精製液準備工程は、ろ過装置の流入部から流入させる被精製液を準備する工程である。被精製液を準備する方法としては特に制限されない。典型的には、市販品(例えば、「高純度グレード品」と呼ばれるもの等)を購入する方法、1種又は2種以上の原料を反応させて得る方法、及び、各成分を溶剤に溶解する方法等が挙げられる。
【0313】
原料を反応させて被精製液(典型的には、有機溶剤を含有する被精製液)を得る方法として特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、触媒の存在下において、1つ又は2つ以上の原料を反応させて、有機溶剤を含有する被精製液を得る方法が挙げられる。
より具体的には、例えば、酢酸とn-ブタノールとを硫酸の存在下で反応させ、酢酸ブチルを得る方法;エチレン、酸素、及び、水をAl(C2H5)3の存在下で反応させ、1-ヘキサノールを得る方法;シス-4-メチル-2-ペンテンをIpc2BH(Diisopinocampheylborane)の存在下で反応させ、4-メチル-2-ペンタノールを得る方法;プロピレンオキシド、メタノール、及び、酢酸を硫酸の存在下で反応させ、PGMEA(プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート)を得る方法;アセトン、及び、水素を酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウムの存在下で反応させて、IPA(isopropyl alcohol)を得る方法;乳酸、及び、エタノールを反応させて、乳酸エチルを得る方法;等が挙げられる。
【0314】
また、本工程は、被精製液をろ過装置に流入させる前に、予め精製する予備精製工程を有していてもよい。予備精製工程としては特に制限されないが、蒸留装置を用いて、被精製液を精製する方法が挙げられる。
【0315】
予備精製工程において、蒸留装置を用いて被精製液を精製する方法としては特に制限されず、例えば、ろ過装置と別に準備した蒸留装置を用いて予め被精製液を精製して蒸留済み被精製液を得て、これを可搬型タンクに貯留して、ろ過装置まで運搬して導入する方法、及び、後述する精製装置を用いる方法が挙げられる。
【0316】
まず、
図11を用いて、ろ過装置と別に準備した蒸留装置を用いて予め被精製液を精製する方法(予備精製工程)について説明する。
図11は蒸留器で予め精製された蒸留済み被精製液を使用して薬液を製造する場合の各装置の関係を表す模式図である。
図11において、ろ過装置400の形態は、既に説明した本発明の第三実施形態に係るろ過装置と同様のため説明は省略する。
【0317】
薬液の製造場1100には、ろ過装置400と蒸留装置1101が配置されている。蒸留装置1101は、タンク401(a)と、蒸留器1102と、可搬型タンク1103とを有し、それぞれが配管1104、及び、配管1105で接続され、タンク401(a)配管1104、蒸留器1102、配管1105、可搬型タンク1103により、流通路S11が形成されている。
タンク401(a)及び各配管の形態は特に制限されず、本発明の実施形態に係るろ過装置が有するタンク及び配管として説明したものと同様の形態のタンク及び配管が使用できる。蒸留器1102の形態は、本発明の実施形態に係る精製装置が有する蒸留器と同様の蒸留器を使用でき、その形態は後述する。
【0318】
蒸留装置1101において、タンク401(a)に導入された被精製液は、蒸留器1102で蒸留され、得られた蒸留済み被精製液は、可搬型タンク1103に貯留される。可搬型タンクの形態としては特に制限されないが、接液部の少なくとも一部(好ましくは接液部の表面積の90%以上、より好ましくは接液部の表面積の99%以上)が後述する耐腐食材料からなることが好ましい。
【0319】
可搬型タンク1103に貯留された蒸留済み被精製液は、運搬手段1106によって運搬され(
図9中のF1のフロー)、その後蒸留済み被精製液は、ろ過装置の流入部101から、ろ過装置400へと導入される。
【0320】
なお、
図11では、同一の製造場内に蒸留装置とろ過装置が配置されている形態を説明したが、蒸留装置とろ過装置は別の製造場に配置されていてもよい。
【0321】
次に、蒸留器とろ過装置とを有する精製装置を用いる予備精製工程について説明する。まずは、本工程で使用する精製装置について説明する。
(精製装置)
本工程で使用する精製装置は、既に説明したろ過装置を有する精製装置である。本発明の実施形態に係る精製装置は、既に説明したろ過装置と、第2の流入部と、第2の流出部と、第2の流入部と第2の流出部との間に配置された少なくとも1つの蒸留器と、を有し、上記第2の流出部と既に説明したろ過装置が有する流入部とが接続され、上記第2の流入部から、上記ろ過装置が有する流出部にいたる流通路が形成された精製装置である。以下では、上記精製装置について、図面を示しながら説明する。
なお、下記の説明において、ろ過装置の構成に関する内容は、既に説明した内容と同様であり説明を省略する。
【0322】
・精製装置の第一実施形態
図12は本発明の精製装置の第一実施形態を表す模式図である。精製装置1200は、第2の流入部1201と、第2の流出部1202と、第2の流入部1201と第2の流出部1202との間に配置された蒸留器1203と、を有し、第2の流出部1202が、ろ過装置が有する流入部101と接続されている。これにより精製装置1200においては
、第2の流入部1201、蒸留器1203、第2の流出部1202、流入部101、フィルタ103(フィルタA)、配管105、フィルタ104(フィルタBD)、及び、流出部102により流通路S12が形成されている。
すなわち、蒸留器1203が、ろ過装置100の流入部101に接続されている。
【0323】
第2の流入部1201から精製装置1200内に流入した被精製液は、蒸留器1203において蒸留された後、第2の流出部1202を経て、流入部101から、ろ過装置100へと導入される。本精製装置を用いて予備精製工程を行うと、蒸留済み被精製液を装置外に出さずに次の工程(ろ過工程)が実施できるため、より優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られる。
【0324】
なお、蒸留器1203の形態は特に制限されず、公知の蒸留器(例えば蒸留塔)を使用できる。なお、蒸留器1203の材料としてはすでに説明したハウジングと同様の材料を使用でき、特に、蒸留器1203の接液部の少なくとも一部が、後述する耐腐食材料からなることが好ましく、接液部の面積の90%以上が耐腐食材料からなることが好ましく、接液部の面積の99%が耐腐食材料からなることがより好ましい。
【0325】
蒸留器としては特に制限されず、公知の蒸留器が使用できる。蒸留器としては、回分式であっても連続式であってもよいが、連続式が好ましい。また、蒸留器は内部に充填物を有していてもよい。充填物の形態としては特に制限されないが、接液部の少なくとも一部が、後述する耐腐食材料からなることが好ましく、接液部の面積の90%以上が耐腐食材料からなることが好ましく、接液部の面積の99%が耐腐食材料からなることがより好ましい。
【0326】
なお、
図12において、精製装置1200として、流入部と流出部の間に、フィルタAと、フィルタBDがこの順に直列に配置された形態(例えばろ過装置の第一実施形態)のろ過装置を有しているが、これに代えて、流入部と流出部の間にフィルタBUとフィルタAがこの順に直列に配置された形態(例えば第二実施形態)のろ過装置、及び、流入部と流出部の間にフィルタBU、フィルタA,及び、フィルタBDがこの順に直列に配置された形態(例えば第二実施形態の変形例)のろ過装置を有していてもよい。
【0327】
また、精製装置は、第2の流入部1201、蒸留器1203、第2の流出部1202、流入部101、フィルタ103、配管105、フィルタ104、流出部102で形成される流通路S12上において、フィルタ103(フィルタA)の下流側から、流通路S12上においてフィルタ103(フィルタA)の上流へと、被精製液を返送可能な返送流通路が形成されていてもよい。なお、返送流通路の形態としては特に制限されないが、ろ過装置の第五実施形態において説明したのと同様である。また、返送流通路の形態としては、ろ過装置の第六実施形態において説明したのと同様であってもよい。
【0328】
また、本実施形態に係る精製装置は、流通路S12上におけるフィルタ103の上流側、及び/又は、下流側にタンクを有していてもよい。タンクの形態としては特に制限されず、既に説明したのと同様のタンクが使用できる。
【0329】
・精製装置の第二実施形態
図13は精製装置の第二実施形態を表す模式図である。精製装置1300は、第2の流入部1301と、第2の流出部1302と、第2の流入部1301と第2の流出部1302との間に直列に配置された蒸留器1303及び蒸留器1304と、を有し、第2の流出部1302が、ろ過装置が有する流入部101と接続されている。これにより精製装置1300においては、第2の流入部1301、蒸留器1303、配管1305、蒸留器1304、第2の流出部1302、流入部101、フィルタ103(フィルタA)、配管105、フィルタ104(フィルタBD)、及び、流出部102により流通路S13が形成されている。
すなわち、本実施形態に係る精製装置において、蒸留器は直列に接続された複数の蒸留器を含む。なお、直列に接続された蒸留器を3つ以上含む場合は、最後段の蒸留器がろ過装置と接続される。
【0330】
精製装置1300においては、第2の流入部1301から流入した被精製液は蒸留器1303で蒸留され、配管1305を流通して蒸留器1304に導入される。なお、
図13では、蒸留器1303と蒸留器1304とが配管1305によって接続された形態を表わしているが、本実施形態に係る精製装置としては上記に制限されず、蒸留器1304の凝縮液を再度、蒸留器1303に返送可能な配管を別途有していてもよい。
【0331】
本実施形態に係る精製装置は、蒸留器を2つ有するため、2つの蒸留器の運転条件等を適宜制御することにより、被精製液が沸点の異なる2種以上の化合物を含有している場合であっても、目的の化合物(薬液)をより高純度に精製可能である。
【0332】
なお、精製装置1300においては、直列に接続された2つの蒸留器のうち、後段の蒸留器が、ろ過装置が有する1つの流入口に接続されているが、本発明の実施形態に係る精製装置としては上記に制限されず、ろ過装置が複数の流入口を有する場合には、それぞれの流入口にそれぞれ別の蒸留装置が接続されていてもよい。この場合、直列に接続された2つ以上の蒸留器を1つのグループとすると、各グループが精製装置全体の流通路におい並列して配置されている形態も採用可能である。
【0333】
〔耐腐食材料〕
次に、耐腐食材料について説明する。これまで説明した本発明の実施形態に係るろ過装置、及び、精製装置は、その接液部の少なくとも一部が耐腐食材料で形成されていることが好ましく、接液部の90%以上が耐腐食材料で形成されていることがより好ましく、接液部の99%以上が耐腐食材料で形成されていることが更に好ましい。
【0334】
接液部が耐腐食材料で形成されている状態としては特に制限されないが、典型的には各部材(例えば、これまで説明したタンク等)が耐腐食材料で形成されているもの、及び、各部材が、基材と、基材上に配置された被覆層とを有し、上記被覆層が耐腐食材料で形成されているもの等が挙げられる。
【0335】
耐腐食材料は、非金属材料、及び、電解研磨された金属材料である。上記非金属材料としては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン-ポリプロピレン樹脂、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン-エチレン共重合樹脂、三フッ化塩化エチレン-エチレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン共重合樹脂、及び、フッ化ビニル樹脂等が挙げられるが、これに制限されない。
【0336】
上記金属材料としては、特に制限されないが、例えば、Cr及びNiの含有量の合計が金属材料成分全質量に対して25質量%超である金属材料が挙げられ、なかでも、30質量%以上がより好ましい。金属材料におけるCr及びNiの含有量の合計の上限値としては特に制限されないが、一般に90質量%以下が好ましい。
金属材料としては例えば、ステンレス鋼、及びNi-Cr合金等が挙げられる。
【0337】
ステンレス鋼としては、特に制限されず、公知のステンレス鋼が使用できる。なかでも、Niを8質量%以上含有する合金が好ましく、Niを8質量%以上含有するオーステナイト系ステンレス鋼がより好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えばSUS(Steel Use Stainless)304(Ni含有量8質量%、Cr含有量18質量%)、SUS304L(Ni含有量9質量%、Cr含有量18質量%)、SUS316(Ni含有量10質量%、Cr含有量16質量%)、及びSUS316L(Ni含有量12質量%、Cr含有量16質量%)等が挙げられる。
【0338】
Ni-Cr合金としては、特に制限されず、公知のNi-Cr合金が使用できる。なかでも、Ni含有量が40~75質量%、Cr含有量が1~30質量%のNiCr合金が好ましい。
Ni-Cr合金としては、例えば、ハステロイ(商品名、以下同じ。)、モネル(商品名、以下同じ)、及びインコネル(商品名、以下同じ)等が挙げられる。より具体的には、ハステロイC-276(Ni含有量63質量%、Cr含有量16質量%)、ハステロイ-C(Ni含有量60質量%、Cr含有量17質量%)、ハステロイC-22(Ni含有量61質量%、Cr含有量22質量%)等が挙げられる。
また、Ni-Cr合金は、必要に応じて、上記した合金の他に、更に、B、Si、W、Mo、Cu、及び、Co等を含有していてもよい。
【0339】
金属材料を電解研磨する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、特開2015-227501号公報の0011~0014段落、及び、特開2008-264929号公報の0036~0042段落等に記載された方法が使用できる。
【0340】
金属材料は、電解研磨されることにより表面の不動態層におけるCrの含有量が、母相のCrの含有量よりも多くなっているものと推測される。そのため、接液部が電解研磨された金属材料から形成された精製装置を用いると、被精製液中に金属原子を含有する金属不純物が流出しにくいものと推測される。
なお、金属材料はバフ研磨されていてもよい。バフ研磨の方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。バフ研磨の仕上げに用いられる研磨砥粒のサイズは特に制限されないが、金属材料の表面の凹凸がより小さくなりやすい点で、#400以下が好ましい。なお、バフ研磨は、電解研磨の前に行われることが好ましい。
【0341】
[薬液]
上記ろ過装置を用いて製造される薬液は半導体基板の製造に用いられることが好ましい。特に、ノード10nm以下の微細パターンを形成するため(例えば、EUVを用いたパターン形成を含む工程)に用いられることがより好ましい。
言い換えれば、上記ろ過装置は、半導体基板の製造用の薬液の製造に用いられることが好ましく、具体的には、リソグラフィー工程、エッチング工程、イオン注入工程、及び、剥離工程等を含有する半導体デバイスの製造工程において、各工程の終了後、又は、次の工程に移る前に、無機物、及び/又は、有機物を処理するために使用される薬液の製造用に用いられることが好ましい。
上記ろ過装置は、具体的には現像液、リンス液、ウェハ洗浄液、ライン洗浄液、プリウェット液、ウェハリンス液、レジスト液、下層膜形成用液、上層膜形成用液、及び、ハードコート形成用液からなる群より選択される少なくとも1種(有機系被精製液を精製して得られる薬液)であることが好ましく、他の形態としては、水系水性現像液、水性リンス液、剥離液、リムーバー、エッチング液、酸性洗浄液、及び、リン酸、リン酸-過酸化水素水混合液(SPM:Sulfuric acid-Hydrogen Peroxide Mixture)からなる群より選択される少なくとも1種(水系被精製液を精製して得られる薬液)の製造に用いられることが好ましい。
【0342】
また、上記ろ過装置は、レジスト塗布前後の半導体基板のエッジラインのリンスに用いられる薬液の製造にも使用ができる。
また、上記ろ過装置は、レジスト液に含有される樹脂の希釈液、レジスト液に含有される溶剤の製造にも使用できる。
【0343】
また、上記ろ過装置は、半導体基板の製造用以外の、他の用途に用いられる薬液の製造にも用いることができ、ポリイミド、センサー用レジスト、レンズ用レジスト等の現像液、及び、リンス液等の製造用としても使用できる。
また、上記ろ過装置は、医療用途又は洗浄用途の溶媒の製造にも使用できる。特に、容器、配管、及び、基板(例えば、ウェハ、及び、ガラス等)等の洗浄に用いる薬液の製造に使用できる。
なかでも、上記ろ過装置は、EUV(極紫外線)を用いたパターン形成における、プリウェット液、現像液、及び、リンス液からなる群より選択される少なくとも1種の製造に使用することが好ましい。
【0344】
[薬液収容体]
上記ろ過装置により製造された薬液は、容器に収容されて使用時まで保管されてもよい。このような容器と、容器に収容された薬液とをあわせて薬液収容体という。保管された薬液収容体からは、薬液が取り出され使用される。
【0345】
上記薬液を保管する容器としては、半導体基板製造用に、容器内のクリーン度が高く、薬液を保管中に、薬液に対して不純物の溶出しにくいものが好ましい。
使用可能な容器としては、特に制限されないが、例えば、アイセロ化学(株)製の「クリーンボトル」シリーズ、及び、コダマ樹脂工業製の「ピュアボトル」等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0346】
容器としては、薬液への不純物混入(コンタミ)防止を目的として、容器内壁を6種の樹脂による6層構造とした多層ボトル、又は、6種の樹脂による7層構造とした多層ボトルを使用することも好ましい。これらの容器としては例えば特開2015-123351号公報に記載の容器が挙げられる。
【0347】
この容器の接液部の少なくとも一部は、既に説明した耐腐食材料からなることが好ましい。より優れた本発明の効果が得られる点で、接液部の面積の90%以上が上記材料からなることが好ましい。
【実施例0348】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料成分、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0349】
また、実施例及び比較例の薬液の調製にあたって、容器の取り扱い、薬液の調製、充填、保管及び分析測定は、全てISOクラス2又は1を満たすレベルのクリーンルームで行った。測定精度向上のため、有機不純物の含有量の測定、及び、金属原子の含有量の測定においては、通常の測定で検出限界以下のものの測定を行う際には、薬液を体積換算で100分の1に濃縮して測定を行い、濃縮前の溶液の濃度に換算して含有量を算出した。なお、精製に仕様した装置やフィルタ、容器などの器具は、薬液接液面を、同様の手法で精製しておいた薬液で十分に洗浄してから用いた。
【0350】
[試験例1:有機系被精製液の精製、及び、薬液の性能評価]
図14に記載した精製装置を使用して、薬液1を製造した。
図14の精製装置は、流入部と流出部の間に、フィルタBU-1、タンクTU-1、フィルタBU-2、フィルタF-A、フィルタBD-1、タンクTD-1、及び、フィルタBD-2が、直列に接続されたろ過装置と、上記ろ過装置の前段に接続された蒸留器(D1及びD2の2連の蒸留器、下記表中では「2連式」と記載した。)とを有する。各ユニットは配管と共に流通路S-14を形成するとともに、流通路S-14においてフィルタF-A(フィルタF-Aは既に説明したフィルタAに該当する)の下流側(タンクTD-1)からフィルタF-Aの上流側へと、被精製液を返送可能な返送流通路R-14が形成されている。
なお、薬液1の製造に用いた各フィルタが含有する材料成分、及び、孔径は表に示した。なお各フィルタは、PGMEAに1日浸漬した後に使用した。
【0351】
表における各フィルタの材料成分に関する略号は以下のとおりである。
【0352】
・フィルタX1
特開2016-155121号公報の0133~0139段落の記載を参照して、イミド化率が異なるポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜を調製した。具体的には使用する微粒子の粒径等を調整することにより、孔径を制御し、ケミカルエッチング工程における処理温度、処理時間、pH、並びに、焼成温度及び/又は再焼成温度等を調整することにより、イミド化率を制御した。フィルタX1の孔径、及び、イミド化率は表に示した。
【0353】
・フィルタX2~フィルタX8、及び、フィルタ2
孔径及びイミド化率が表に記載したとおりとなるよう、微粒子の粒径及びケミカルエッチングの条件を調整したことを除いてはフィルタ1と同様の方法により、フィルタX2~フィルタX8、及び、フィルタ2を作成した。なお、各フィルタの孔径、及び、イミド化率については、表に記載したとおりである。
【0354】
・フィルタY1
特開2017-68262号公報の0223、0234~0239段落の記載を参照して、ポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜を製造した。孔径、及び、イミド化率は表に示した。なお、使用する微粒子の粒径等を調整することにより、孔径を制御し、並びに、焼成温度及び/又は再焼成温度等を調整することにより、イミド化率を制御した。フィルタY1の孔径、及び、イミド化率は表に示した。
【0355】
・フィルタY2~フィルタY6
孔径及びイミド化率が表に記載したとおりとなるよう、使用する微粒子の粒径、並びに、焼成温度及び/又は再焼成温度等を調整したことを除いてはフィルタ1と同様の方法により、フィルタY2~フィルタY6を作成した。なお、各フィルタの孔径、及び、イミド化率については、表に記載したとおりである。
【0356】
・フィルタR
特表2016-538122号公報の0019~0027段落の記載を参照して、ポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜であるフィルタRを製造した。なお、製造した多孔質膜は、特表2016-538122号公報の0019段落の表に「実施例2d」として記載されたものである。上記多孔質膜は、膜厚方向でイミド化率が異なる構造を有していたが、多孔質膜全体の平均値として求めた。孔径、及び、イミド化率は表に示した。
【0357】
・フィルタS
特開2018-20301号公報の202~203段落の記載を参照してポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜であるフィルタSを製造した。製造した多孔質膜は、特開2018-20301号公報の実施例1として記載されたものである。孔径、B値、及び、イミド化率は下記表に示した。
【0358】
・フィルタT
特開2018-20301号公報の202~203段落の記載を参照してポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜であるフィルタTを製造した。製造した多孔質膜は、特開2018-20301号公報の実施例2として記載されたものである。孔径、B値、及び、イミド化率は表に示した。
【0359】
・PP:ポリプロピレン
・IEX:ポリエチレン製の基材に、スルホン酸基からなるイオン交換基を導入して得られたフィルタ
・Nylon:ナイロン
・UPE:超高分子量ポリエチレン
・PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
【0360】
表の被精製液に関する略号は以下のとおりである。
・PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
・PGMEA/PGME(7:3):PGMEAとPGMEの7:3(体積基準)の混合物
・nBA:酢酸ブチル
・PC/PGMEA(1:9):PCとPGMEAの1:9(体積基準)の混合物
・PGME:プロピレングリコールモノエチルエーテル
・MIBC:4-メチル-2-ペンタノール
・CHN:シクロヘキサノン
・iAA:酢酸イソアミル
【0361】
被精製液には、市販の高純度グレードの「PGMEA」を購入し、上記精製装置を用いて精製した。精製の際には、返送流通路R-14を用いて、各返送流通路につき、3回循環ろ過して薬液1を得た。
【0362】
〔薬液2~92の製造〕
表に記載した精製装置(又はろ過装置)を用いて、表に記載した各被精製物を精製して薬液を得た。なお、各精製装置(又はろ過装置)は、
図15~
図30に示した。フィルタF-A、フィルタBU-1~BU-4、フィルタBD-1~BD-2の材料成分及び孔径は表に示したとおりである。なお、被精製液の精製に際して、使用したろ過装置にR-(数字)で示した返送流通路が形成されているものであって、表中の「循環」欄に「有」とあるものは、それぞれの返送流通路について3回循環ろ過した。
また、表には、各被精製液のSP値もあわせて記載した。なお、表中、「-」はそのフィルタを使用しなかったことを意味し、本明細書における他の表についても同様である。
【0363】
<フィルタ事前洗浄>
また、表中の「フィルタの事前洗浄」欄には、各フィルタの事前洗浄の条件を記載した。「PGMEA 1day浸漬」は、高純度グレードのPGMEAに1日浸漬した後にフィルタを使用したことを表わしている。なお、同欄の「-」は、フィルタの事前洗浄を行わなかったことを表わしている。
また、「特定洗浄液1(10h浸漬)」は、以下の特定洗浄液1に10時間浸漬した後にフィルタを使用したことを表わしている。「特定洗浄液2(20h浸漬)」は、以下の特定洗浄液2に20時間浸漬した後にフィルタを使用したことを表わしている。「特定洗浄液3(10h浸漬)」は、以下の特定洗浄液3に10時間浸漬した後にフィルタを使用したことを表わしている。「特定洗浄液4(20h浸漬)」は、以下の特定洗浄液4に20時間浸漬した後にフィルタを使用したことを表わしている。「特定洗浄液5(10h浸漬)」は、以下の特定洗浄液5に10時間浸漬した後にフィルタを使用したことを表わしている。
【0364】
(特定洗浄液)
・特定洗浄液1:ジメチルアセトアミド/酢酸ブチル(体積基準の混合比)60/40
・特定洗浄液2:ジメチルアセトアミド/シクロヘキサノン/プロピレングリコールモノメチルエーテル(体積基準の混合比)60/30/10
・特定洗浄液3:ジメチルホルムアミド/乳酸エチル(体積基準の混合比)60/40
・特定洗浄液4:N-メチルピロリドン/シクロヘキサノン(体積基準の混合比)70/30
・特定洗浄液5:ジメチルアセトアミド/2-ヘプタノン(体積基準の混合比)70/30
【0365】
〔評価1:薬液の残渣欠陥抑制性能、及び、シミ状欠陥抑制性能の評価〕
直径約300mmのシリコンウェハ(Bare-Si)上に、薬液1をスピン塗布し、薬液塗布済みウェハを得た。使用した装置は、Lithius ProZであり、塗布の条件は以下のとおりだった。
【0366】
・塗布に使用した薬液の量:各2ml
・塗布の際のシリコンウェハの回転数:2,200rpm、60sec
【0367】
次に、KLA-Tencor社製のウェハ検査装置「SP-5」とアプライドマテリアル社の全自動欠陥レビュー分類装置「SEMVision G6」を用いて、ウェハの全面に存在する19nm以上のサイズの欠陥数、及び、その組成を調べた。
SP-5にて計測された全欠陥数を残渣欠陥数として計上し、G6にて形状観測を行い、粒子状ではないもの(シミ状)の欠陥をシミ状欠陥として計上した。結果は以下の基準により評価し、表に示した。
なお、ウェハ上に存在する欠陥の数がより少ないほど、薬液はより優れた欠陥抑制性能を有する。なお、以下の評価において、「欠陥数」とは、それぞれ残渣欠陥数、及び、シミ状欠陥数を表す。上記と同様の方法により薬液2~92についても評価した。結果を表に示した。
【0368】
AA 欠陥数が30個/ウェハ以下だった。
A 欠陥数が30個/ウェハを超え、50個/ウェハ以下だった。
B 欠陥数が50個/ウェハを超え、100個/ウェハ以下だった。
C 欠陥数が100個/ウェハを超え、200個/ウェハ以下だった。
D 欠陥数が200個/ウェハを超え、500個/ウェハ以下だった。
E 欠陥数が500個/ウェハを超えた。
【0369】
〔評価2:ブリッジ欠陥抑制性能〕
薬液1をプリウェット液として用いて、薬液のブリッジ欠陥抑制性能を評価した。まず、使用したレジスト樹脂組成物について説明する。
【0370】
・レジスト樹脂組成物1
レジスト樹脂組成物1は、以下の各成分を混合して得た。
【0371】
酸分解性樹脂(下記式で表される樹脂(重量平均分子量(Mw)7500):各繰り返し単位に記載される数値はモル%を意味する。):100質量部
【0372】
【0373】
下記に示す光酸発生剤:8質量部
【0374】
【0375】
下記に示すクエンチャー:5質量部(質量比は、左から順に、0.1:0.3:0.3:0.2とした。)。なお、下記のクエンチャーのうち、ポリマータイプのものは、重量平均分子量(Mw)が5000である。また、各繰り返し単位に記載される数値はモル比を意味する。
【0376】
【0377】
下記に示す疎水性樹脂:4質量部(質量比は、(1):(2)=0.5:0.5とした。)なお、下記の疎水性樹脂のうち、(1)式の疎水性樹脂は、重量平均分子量(Mw)は7000であり、(2)式の疎水性樹脂の重量平均分子量(Mw)は8000である。なお、各疎水性樹脂において、各繰り返し単位に記載される数値はモル比を意味する。
【0378】
【0379】
溶剤:
PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート):3質量部
シクロヘキサノン:600質量部
γ-BL(γ-ブチロラクトン):100質量部
【0380】
・試験方法
次に試験方法について説明する。まず、約300mmのシリコンウェハを薬液1でプリウェットし、次に、上記レジスト樹脂組成物を上記プリウェット済みシリコンウェハに回転塗布した。その後、ホットプレート上で150℃にて90秒間加熱乾燥を行い、9μmの厚みのレジスト膜を形成した。
このレジスト膜に対し、縮小投影露光及び現像後に形成されるパターンのライン幅が30nm、スペース幅が30nmとなるような、ラインアンドスペースパターンを有するマスクを介して、ArFエキシマレーザースキャナー(ASML製、PAS5500/850C波長248nm)を用いて、NA=0.60、σ=0.75の露光条件でパターン露光した。照射後に120℃にて60秒間ベークして、その後、現像、及び、リンスし、110℃にて60秒ベークして、ライン幅が30nm、スペース幅が30nmのレジストパターンを形成した。
【0381】
上記レジストパターンについて、測長SEM(CG4600、Hitach-HighTech)にて、パターンを100ショット分取得し、パターン同士の架橋様の欠陥(ブリッジ欠陥)の数を計測し、単位面積当たりの欠陥数を求めた。結果は以下の基準により評価し、表に示した。なお、パターン同士の架橋様の欠陥数が少ないほど、薬液は、より優れたブリッジ欠陥抑制性能を有することを表す。
【0382】
なお、薬液2~92については、表の「評価方法」欄に「プリウェット」とあるものは、上記薬液1と同様にしてブリッジ欠陥抑制性能を評価した。表の「評価方法」の欄に「現像液」とあるものは、薬液1の評価手順に記載したプリウェットを行わず、現像液として表に記載の薬液を用いた以外は薬液1の評価と同様の手順でブリッジ欠陥抑制性能を評価した。表の「評価方法」の欄に「リンス」とあるものは、薬液1の評価手順に記載したプリウェットを行わず、リンス液として表に記載の薬液を用いた以外は薬液1の評価と同様の手順でブリッジ欠陥抑制性能を評価した。それぞれの結果を表に示した。
【0383】
AA ブリッジ欠陥数が1個/cm2未満だった。
A ブリッジ欠陥数が1個/cm2以上、2個/cm2未満だった。
B ブリッジ欠陥数が2個/cm2以上、5個/cm2未満だった。
C ブリッジ欠陥数が5個/cm2以上、10個/cm2未満だった。
D ブリッジ欠陥数が10個/cm2以上、15個/cm2未満だった。
E ブリッジ欠陥数が15個/cm2以上だった。
【0384】
〔評価3:パターン幅の均一性能〕
上記レジストパターンについて、測長SEM(CG4600, Hitach-HighTech)にて、パターンを100ショット分取得し、LWR(Line Width Roughness)の平均値と最大(又は最小)線幅との差の絶対値を求めた。結果は以下の基準により評価し、表に示した。なお、上記「差の絶対値」が小さいほど、薬液は、より優れたパターン幅の均一性能を有する。なお、「線幅の平均値と最大(最小)との差の絶対値」とは、LWRの平均値と最大線幅と、LWRの平均値と最小線幅の差のうち、絶対値がより大きい方で評価したことを意味する。
【0385】
AA 線幅の平均値と最大(最小)との差の絶対値が、平均値に対して2%未満だった。
A 線幅の平均値と最大(最小)との差の絶対値が、平均値に対して2%以上5%未満だった。
B 線幅の平均値と最大(最小)との差の絶対値が、平均値に対して5%以上10%未満だった。
C 線幅の平均値と最大(最小)との差の絶対値が、平均値に対して10%以上20%未満だった。
D 線幅の平均値と最大(最小)との差の絶対値が、平均値に対して20%以上だった。
E 線幅の測定ができないショットが含まれていた。
【0386】
〔評価4:フィルタの寿命の評価〕
表に記載した各精製装置(又はろ過装置)を用いて被精製液を連続して精製した。被精製液を通液して精製装置(又はろ過装置)の状態が安定した後、すぐに得られた薬液を試験用(初期サンプル)として回収し、その後、通液量10000kgごとに精製後に得られた薬液を試験用(経時サンプル)として回収した。試験用に回収した薬液は、「評価1」で説明した薬液の残渣欠陥抑制性能の評価法により評価し、単位面積当たりの欠陥数を初期サンプルと比較して、経時サンプルの欠陥数が2倍となったときの通液量をフィルタの「寿命」とした。
図24に記載したろ過装置を使用した場合の寿命を1とし、各装置のフィルタの寿命を比で評価した。結果は以下の基準により評価し、表に示した。なお、
図24の装置については評価結果に「基準」と表記した。
【0387】
AA 寿命が10倍以上だった。
A 寿命が5倍以上、10倍未満だった。
B 寿命が2倍以上、5倍未満だった。
C 寿命が1倍を超え、2倍未満だった。
D 寿命が1倍以下だった。
【0388】
[試験例2:水系被精製液の精製、及び、薬液の性能評価]
【0389】
〔薬液201、薬液202の製造〕
被精製液として、SPM(Sulfuric acid-Hydrogen Peroxide Mixture)、及び、リン酸水溶液(リン酸含有量85質量%)を購入して準備した。なお、SPMは硫酸と過酸化水素の4:1の混合物(体積基準)である。
次に、
図20に記載したろ過装置を使用して、薬液201、201を製造した。
図20のろ過装置は、流入部と流出部の間に、フィルタBU-1、タンクTU-1、フィルタBU-2、フィルタF-A、フィルタBD-1、タンクTD-1、及び、フィルタBD-2が、直列に接続され、流通路S-20が形成されたろ過装置である。また、
図20に記載したろ過装置には、フィルタBD-1の下流側から、フィルタF-Aの上流側へ被精製液を返送可能な返送流通路R-20が形成されており、被精製液は3回循環ろ過した。
なお、
図20のろ過装置における各フィルタが含有する材料成分、及び、孔径は下記表に示した。
なお、表中におけるフィルタの材料成分に係る略号は、上記と同様であり、説明を省略する。
【0390】
〔薬液203、薬液204の製造〕
図20に記載したろ過装置に代えて、
図25に記載したろ過装置(フィルタF-Aを有し、流通路S-25が形成されている)を用いたこと以外は、薬液201及び薬液202と同様にして、薬液203及び薬液204を製造した。フィルタF-Aの材料成分等については、表に示した。なお、上記薬液の製造に際して循環ろ過は行っていない。
【0391】
〔評価1:薬液の欠陥抑制性能の評価(パーティクル欠陥、シミ状欠陥)〕
直径約300mmのベアシリコンウェハを準備し、ウェハを500rpmの条件で回転させながら、各薬液の100mlを5ml/sの吐出速度で、20秒かけて吐出した。その後、2000rpm、30秒間ウェハを回転させてスピンドライ処理を実施した。これを評価用ウェハとした。次に、KLA-Tencor社製のウェハ検査装置「SP-5」とアプライドマテリアル社の全自動欠陥レビュー分類装置「SEMVision G6」を用いて、ウェハの全面に存在する26nm以上のサイズの欠陥の数、及び、その組成を調べた。
計測された欠陥のうち、粒子状の異物をパーティクル欠陥、上記以外をシミ状欠陥として計数し、以下の基準により評価した。結果を表の「パーティクル欠陥抑制性能」及び「シミ状欠陥抑制性能」の欄に示した。なお、欠陥数とあるのは、それぞれ、パーティクル欠陥数、及び、シミ状欠陥数を表す。
【0392】
A 欠陥数が50個/ウェハ以下だった。
B 欠陥数が50個/ウェハを超え、300個/ウェハ以下だった。
C 欠陥数が300個/ウェハを超えた。
【0393】
〔評価2:フィルタの寿命の評価〕
表に記載した各ろ過装置を用いて被精製液を連続して精製した。被精製液を通液してろ過装置の状態が安定した後、すぐに得られた薬液を試験用(初期サンプル)として回収し、その後、通液量10000kgごとに精製後に得られた薬液を試験用(経時サンプル)として回収した。試験用に回収した薬液は、「評価1」で説明した薬液のパーティクル欠陥抑制性能の評価法により評価し、単位面積当たりの欠陥数を初期サンプルと比較して、経時サンプルの欠陥数が2倍となったときの通液量をフィルタの「寿命」とした。
図25に記載したろ過装置を使用した場合(薬液203)の寿命を1とし、各装置のフィルタの寿命を比で評価した。結果は以下の基準により評価し、表に示した。なお、薬液203の評価欄には結果に「基準」と表記した。
【0394】
A 寿命が10倍以上だった。
B 寿命が5倍以上、10倍未満だった。
C 寿命が1倍を超え、5倍未満だった。
D 寿命が1倍以下だった。
【0395】
[試験例3:レジスト樹脂組成物である薬液の製造、及び、薬液の性能評価]
【0396】
〔薬液301の製造〕
被精製液として、以下の成分を含有するレジスト樹脂組成物2を準備した。
【0397】
・下記の方法により合成した樹脂A-2:0.79g
【0398】
<樹脂(A-2)>
樹脂(A-2)の合成
2Lフラスコにシクロヘキサノン600gを入れ、100mL/minの流量で一時間窒素置換した。その後、重合開始剤V-601(和光純薬工業(株)製)0.02molを加え、内温が80℃になるまで昇温した。次に、以下のモノマー1~3と重合開始剤V-601(和光純薬工業(株)製)0.02molとを、シクロヘキサノン200gに溶解し、モノマー溶液を調製した。モノマー溶液を上記80℃に加熱したフラスコ中に6時間かけて滴下した。滴下終了後、更に80℃で2時間反応させた。
モノマー1:0.3mol
モノマー2:0.6mol
モノマー3:0.1mol
【0399】
【0400】
反応溶液を室温まで冷却し、ヘキサン3L中に滴下しポリマーを沈殿させた。ろ過した固体をアセトン500mLに溶解し、再度ヘキサン3L中に滴下、ろ過した固体を減圧乾燥して、モノマー1~3の共重合体(A-2)を得た。
【0401】
反応容器中に上記で得られた重合体10g、メタノール40mL、1-メトキシ-2-プロパノール200mL、及び、濃塩酸1.5mLを加え、80℃に加熱して5時間攪拌した。反応溶液を室温まで放冷し、蒸留水3L中に滴下した。ろ過した固体をアセトン200mLに溶解し、再度蒸留水3L中に滴下、ろ過した固体を減圧乾燥して樹脂(A-2)(8.5g)を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(溶媒:THF(tetrahydrofuran))による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は12300、分子量分散度(Mw/Mn)は1.51であった。
なお、樹脂の組成(モル比)は、1H-NMR(核磁気共鳴)測定により算出した。樹脂の重量平均分子量(Mw:ポリスチレン換算)、分散度(Mw/Mn)はGPC(溶媒:THF)測定により算出した。
【0402】
【0403】
樹脂A-2の組成は、上記構成単位の左から順に、30/60/10(モル比)だった。重量平均分子量(Mw)は12300で、Mw/Mnは1.51だった。
【0404】
・以下に示す酸発生剤(B-2):0.18g
【化18】
【0405】
・以下に示す塩基性化合物(E-1):0.03g
【化19】
【0406】
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:45g
・プロピレングリコールモノメチルエーテル:30g
【0407】
図26に記載したろ過装置を使用して、薬液301を製造した。
図26のろ過装置は、流入部と流出部の間に、フィルタBU-1、タンクTU-1、フィルタF-A、フィルタBD-1が、直列に接続されている。各ユニットは配管と共に流通路S-26を形成している。また、フィルタBD-1の下流側から、フィルタBU-1の下流側であってタンクTA-1の上流側に、被精製液を返送可能な返送流通路R-26が形成されている。被精製液は返送流通路R-26によって返送され、3回循環ろ過された。
下記表には、精製に使用した各フィルタが含有する材料成分、及び、孔径を示した。
【0408】
〔薬液302、薬液303、薬液310、薬液311の製造〕
表に記載したろ過装置を使用したことを除いては、薬液301と同様にして薬液302及び薬液303、並びに、薬液310、及び、薬液311を製造した。なお、薬液303の製造においては、循環ろ過を行わなかった。
【0409】
〔薬液304の製造〕
被精製液として、以下の成分を含有するレジスト樹脂組成物3を準備した。
【0410】
・下記の方法により合成した樹脂A-14:0.785g
【0411】
<樹脂(A-14)>
樹脂(A-14)の合成
用いるモノマーを変更した以外は、上記樹脂(A-2)の合成と同様の方法で、以下の構造を有する樹脂(A-14)を得た。
【化20】
【0412】
樹脂A-14の組成は、上記構成単位の左から順に、20/40/40(モル比)だった。重量平均分子量(Mw)は11000で、Mw/Mnは1.45だった。
【0413】
・以下に示す酸発生剤(B-9):0.18g
【化21】
【0414】
・以下に示す塩基性化合物(E-2):0.03g
【化22】
【0415】
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:45g
・シクロヘキサノン:30g
【0416】
・以下に示す疎水性樹脂(3b):0.005g
【化23】
【0417】
図26に記載したろ過装置を使用して、薬液304を製造した。
図26のろ過装置は、流入部と流出部の間に、フィルタBU-1、タンクTU-1、フィルタF-A、フィルタBD-1が、直列に接続されている。各ユニットは配管と共に流通路S-26を形成している。また、フィルタBD-1の下流側から、フィルタBU-1の下流側であってタンクTU-1の上流側に、被精製液を返送可能な返送流通路R-26が形成されている。被精製液返送流通路R-26によって返送され、3回循環ろ過された。
表には、精製に使用した各フィルタが含有する材料成分、及び、孔径を示した。
【0418】
〔薬液305、薬液306、薬液312、薬液313の製造〕
表に記載したろ過装置を使用したことを除いては、薬液304と同様にして薬液305及び薬液306、並びに、薬液312、及び、薬液313を製造した。なお、薬液206の製造においては、循環ろ過を行わなかった。
【0419】
〔薬液307の製造〕
被精製液として、以下の成分を含有するレジスト樹脂組成物4を準備した。
【0420】
被精製液として、以下の成分を含有するレジスト樹脂組成物4を準備した。
【0421】
・下記の方法により合成した樹脂(A-1)-3:97質量%
【0422】
<樹脂(A-1)-3>
樹脂(A-1)-3は、特開2009-265609号公報の0131~0134段落の記載を参照して合成した。なお、樹脂(A-1)-3の有する繰り返し単位は、以下の式で表されるとおりであり、その組成(モル比)は、左側から順に50/40/10であった。また、重量平均分子量は20000であり、Mw/Mnで表される分散度は、1.57だった。
(A-1)-3
【化24】
【0423】
・以下に示す酸発生剤(B-35):2.5質量%
【化25】
【0424】
・C-1 ジシクロヘキシルメチルアミン:0.4質量%
【0425】
・D-1 フッ素系界面活性剤、メガファックF-176(大日本インキ化学工業(株)製):0.1質量%
ここで、上記(A-1)-3からD-1までの含有量はレジスト樹脂組成物4の固形分中における質量基準の含有量を示す。
【0426】
・溶剤
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:80質量%
プロピレングリコールモノメチルエーテル:20質量%なお、上記溶剤の含有量は、レジスト樹脂組成物4が含有する溶剤中における、各溶剤の含有量(溶剤の全質量を100質量%としたときのそれぞれの含有量)を示す。なお、レジスト樹脂組成物4の固形分は10質量%となるよう調整した。
【0427】
図26に記載したろ過装置を使用して、薬液307を製造した。
図26のろ過装置は、流入部と流出部の間に、フィルタBU-1、タンクTU-1、フィルタF-A、フィルタBD-1が、直列に接続されている。各ユニットは配管と共に流通路S-26を形成している。また、フィルタBD-1の下流側から、フィルタBU-1の下流側であってタンクTU-1の上流側に、被精製液を返送可能な返送流通路R-26が形成されている。被精製液は返送流通路R-26によって返送され、3回循環ろ過された。
表には、精製に使用した各フィルタが含有する材料成分、及び、孔径を示した。
【0428】
〔薬液308、薬液309の製造〕
表に記載したろ過装置を使用したことを除いては、薬液307と同様にして薬液308及び薬液309を製造した。なお、薬液309の製造においては、循環ろ過を行わなかった。
【0429】
〔薬液の欠陥抑制性能の評価:EUV露光時の欠陥抑制性能〕
薬液301~薬液303、及び、薬液310~薬液311を用いて、以下の操作により薬液の欠陥抑制性能(現像後欠陥抑制性能、及び、ブリッジ欠陥抑制性能を評価した。なお、EUV露光とはEUVを用いた露光によるパターン形成方法を表す。
【0430】
12インチシリコンウエハ上に、薬液301~薬液303、及び、薬液310~薬液311をそれぞれ塗布し、120℃の条件で60秒間ベークし、膜厚40nmのレジスト膜を形成した。
【0431】
(現像後欠陥性能評価における露光条件)
上記で作製したウェハに、NA(レンズ開口数、Numerical Aperture)0.25、ダイポール照明(Dipole 60x、アウターシグマ0.81、インナーシグマ0.43)でEUV露光を行った。具体的には、ネガ型のレジストに対しては1mJ/cm2の露光量にてマスクを介さず全面露光を行った。
【0432】
(ブリッジ欠陥抑制性能評価における露光条件)
上記で作製したウェハに、NA(レンズ開口数、Numerical Aperture)0.25、Quasar照明(Quasar45、アウターシグマ0.81、インナーシグマ0.51)でEUV露光を行った。具体的には、ウェハ上寸法がピッチ60nm、ホールサイズ30nmのコンタクトホールパターンを形成する為のパターン(C/Hの抜け性評価用)、およびライン幅が22nm、ピッチが50nmのLS(ラインアンドスペース)パターンが含まれたマスクを介して、露光量を調整後にライン幅が22nmとなる露光量でウェハ全面にEUV露光を行った。
【0433】
(現像条件)
上記の条件で露光した後、ただちに、100℃の条件で60秒間ベークした。
その後、シャワー型現像装置(ACTES(株)製ADE3000S)を用いて、50回転(rpm)でウェハを回転しながら、現像液(23℃)を、200mL/分の流量で30秒間スプレー吐出することで、現像し、評価用試料を得た。
【0434】
(評価1:ブリッジ欠陥抑制性能の評価)
露光したLSパターンの解像状況を、走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製CG4600)を用いて倍率200kでn=300個の視野について観察し、観察した一視野内にてLSパターンのブリッジが起こった個数を評価し、LSパターンでのブリッジ欠陥数とした。この数値が小さいほど、薬液は優れたブリッジ欠陥抑制性能を有する。結果は以下の基準に従い評価し、表に示した。
【0435】
AA:欠陥数が10(個/視野)以下だった。
A:欠陥数が10(個/視野)を超え、30(個/視野)以下だった。
B:欠陥数が30(個/視野)を超え、100(個/視野)以下だった。
C:欠陥数が100(個/視野)を超え、300(個/視野)以下だった。
D:欠陥数が300(個/視野)を超えた。
【0436】
(評価2:現像後欠陥抑制性能の評価)
得られた試料について、KLA-Tencor社製のウェハ検査装置「SP-5」を用いて、ウェハの全面に存在する19nm以上のサイズの全欠陥数を求めた。結果は以下の基準に従い評価し、表に示した。
【0437】
A:欠陥数が200個/ウェハ以下だった。
B:欠陥数が200個/ウェハを超え、500個/ウェハ以下だった。
C:欠陥数が500個/ウェハを超え、1000個/ウェハ以下だった。
D:欠陥数が1000個/ウェハを超え、1500個/ウェハ以下だった。
E:欠陥数が1500個/ウェハを超えた。
【0438】
〔薬液の欠陥抑制性能の評価:ArF露光時の欠陥抑制性能〕
薬液304~薬液306、及び、薬液312~薬液313を用いて、以下の操作により薬液の欠陥抑制性能(現像後欠陥抑制性能、及び、ブリッジ欠陥抑制性能を評価した。なお、ArF露光とは、ArFエキシマレーザを用いた露光によるパターン形成方法を表す。
【0439】
12インチシリコンウエハ上に、薬液304~薬液306、及び、薬液312~薬液313をそれぞれ塗布し、90~120℃の条件で60秒間ベークし、膜厚40nmのレジスト膜を形成した。
なお、レジスト膜を塗布する前に、シリコンウェハ上に有機反射防止膜ARC29SR(Brewer社製)を塗布し、205℃で60秒間ベークを行い膜厚86nmの反射防止膜を形成した。
【0440】
(現像後欠陥性能評価における露光条件)
上記で作製したウェハに、ArFエキシマレーザ液浸スキャナー(ASML社製XT1700i、NA1.20、Dipole、アウターシグマ0.900、インナーシグマ0.700、Y偏向)を用いて、ArF露光を行った。具体的には、ネガ型のレジストに対しては1mJ/cm2の露光量にてマスクを介さず全面露光を行った。
【0441】
(ブリッジ欠陥抑制性能評価における露光条件)
得られたウェハをArFエキシマレーザ液浸スキャナー(ASML社製XT1700i、NA1.20、Dipole、アウターシグマ0.900、インナーシグマ0.700、Y偏向)を用いて、パターン露光を行った。なお、レクチルとしては、ラインサイズ=50nmであり且つライン:スペース=1:1である6%ハーフトーンマスクを用いた。また、液浸液としては、超純水を用いた。
得られるパターンがピッチ100nm、スペース幅35nm、ライン幅65nmのラインアンドスペースパターンとなるよう条件を調整した。
【0442】
(現像条件)
100℃でベーク(Post Exposure Bake;PEB)した後、現像液で30秒間パドルして現像し、パターン形成したウェハを作成した。また、リンス処理を行う場合には現像液で30秒間パドルして現像した後に、ウェハが乾燥する前にリンス液でパドルしてリンスした後、4000rpmの回転数で30秒間ウェハを回転させることにより、評価用試料を得た。
【0443】
(評価1:ブリッジ欠陥抑制性能の評価)
露光したLSパターンの解像状況を、走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製CG4600)を用いて倍率200kでn=300個の視野について観察し、観察した一視野内にてLSパターンのブリッジが起こった個数を評価し、LSパターンでのブリッジ欠陥数とした。この数値が小さいほど、薬液は優れたブリッジ欠陥抑制性能を有する。結果は以下の基準に従い評価し、表に示した。
【0444】
AA:欠陥数が10(個/視野)以下だった。
A :欠陥数が10(個/視野)を超え、30(個/視野)以下だった。
B :欠陥数が30(個/視野)を超え、100(個/視野)以下だった。
C :欠陥数が100(個/視野)を超え、300(個/視野)以下だった。
D :欠陥数が300(個/視野)を超えた。
【0445】
(評価2:現像後欠陥抑制性能の評価)
得られた試料について、上KLA-Tencor社製のウェハ検査装置「SP-5」を用いて、ウェハの全面に存在する19nm以上のサイズの全欠陥数を求めた。結果は以下の基準に従い評価し、表に示した。
【0446】
A:欠陥数が200個/ウェハ以下だった。
B:欠陥数が200個/ウェハを超え、500個/ウェハ以下だった。
C:欠陥数が500個/ウェハを超え、1000個/ウェハ以下だった。
D:欠陥数が1000個/ウェハを超え、1500個/ウェハ以下だった。
E:欠陥数が1500個/ウェハを超えた。
【0447】
〔薬液の欠陥抑制性能の評価:KrF露光時の欠陥抑制性能〕
薬液307~薬液309を用いて、以下の操作により薬液の欠陥抑制性能(現像後欠陥抑制性能、及び、ブリッジ欠陥抑制性能を評価した。なお、KrFとはKrFエキシマレーザを用いた露光によるパターン形成方法を表す。
【0448】
シリコンウェハにHMDS(ヘキサメチルジシラザン)処理(110℃35秒間)を施し、薬液307~薬液309を用いて、レジスト膜を100nmの厚みとなるように製膜した。なお、薬液を塗布する前に、シリコンウェハ上に酸化膜を100nm形成した。
【0449】
(現像後欠陥抑制性能評価における露光条件)
上記で作製したウェハに、KrFエキシマレーザースキャナー(ASML社製、PAS5500/850)(NA0.80)を用いて、KrF露光を行った。具体的には、ネガ型のレジストに対しては1mJ/cm2の露光量にてマスクを介さず全面露光を行った。
【0450】
(ブリッジ欠陥抑制性能評価における露光条件)
得られたウェハをKrFエキシマレーザースキャナー(ASML社製、PAS5500/850)(NA0.80)を用いて、パターン露光を行った。なお、レクチルとしては、ラインサイズ=175nm、スペースサイズ=263nmであるラインアンドスペースパターンのバイナリマスクを用いた。得られるパターンがピッチ438nm、スペース幅130nm、ライン幅308nmのラインアンドスペースパターンとなるよう調整した。
【0451】
(現像条件)
その後、100℃60秒の条件でベーク(Post Exposure Bake;PEB)した後、現像液で30秒間パドルして現像し、更にリンス処理を実施する際はリンス液でパドルしてリンスした後、4000rpmの回転数で30秒間ウェハを回転させることにより、評価用試料を得た。
尚、現像液としては、富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社製のFHD-5を使用した。
【0452】
(評価1:ブリッジ欠陥抑制性能の評価)
露光したLSパターンの解像状況を、走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製CG4600)を用いて倍率200kでn=300個の視野について観察し、観察した一視野内にてLSパターンのブリッジが起こった個数を評価し、LSパターンでのブリッジ欠陥数とした。この数値が小さいほど、薬液は優れたブリッジ欠陥抑制性能を有する。結果は以下の基準に従い評価し、表に示した。
AA:欠陥数が10(個/視野)以下だった。
A:欠陥数が10(個/視野)を超え、30(個/視野)以下だった。
B:欠陥数が30(個/視野)を超え、100(個/視野)以下だった。
C:欠陥数が100(個/視野)を超え、300(個/視野)以下だった。
D:欠陥数が300(個/視野)を超えた。
【0453】
(評価2:現像後欠陥抑制性能の評価)
得られた試料について、上KLA-Tencor社製のウェハ検査装置「SP-5」を用いて、ウェハの全面に存在する19nm以上のサイズの全欠陥数を求めた。結果は以下の基準に従い評価し、表に示した。
【0454】
A:欠陥数が200個/ウェハ以下だった。
B:欠陥数が200個/ウェハを超え、500個/ウェハ以下だった。
C:欠陥数が500個/ウェハを超え、1000個/ウェハ以下だった。
D:欠陥数が1000個/ウェハを超え、1500個/ウェハ以下だった。
E:欠陥数が1500個/ウェハを超えた。
【0455】
〔評価3:フィルタの寿命の評価〕
表に記載した各ろ過装置を用いて被精製液を連続して精製した。被精製液を通液してろ過装置の状態が安定した後、すぐに得られた薬液を試験用(初期サンプル)として回収し、その後、通液量10000kgごとに精製後に得られた薬液を試験用(経時サンプル)として回収した。試験用に回収した薬液は、「評価1」で説明した薬液のブリッジ欠陥抑制性能の評価法により評価し、単位面積当たりの欠陥数を初期サンプルと比較して、経時サンプルの欠陥数が2倍となったときの通液量をフィルタの「寿命」とした。
図25に記載したろ過装置を使用した場合(薬液303)の寿命を1とし、各装置のフィルタの寿命を比で評価した。結果は以下の基準により評価し、表に示した。なお、薬液303の精製に用いた装置については評価結果に「基準」と表記した。
【0456】
AA 寿命が10倍以上だった。
A 寿命が5倍以上、10倍未満だった。
B 寿命が1倍を超え、5倍未満だった。
C 寿命が1倍以下だった。
【0457】
【0458】
【0459】
【0460】
【0461】
【0462】
【0463】
【0464】
【0465】
【0466】
【0467】
【0468】
【0469】
【0470】
【0471】
【0472】
表1は、第1グループ:表1(1-1)~表1(1-5)、第2グループ:表1(2-1)~表1(2-5)、及び、第3グループ:表1(3-1)~表1(3-5)に分割されている。
表1には、各グループの5つの分割表の対応する行にわたって、各薬液の精製に用いたろ過装置(又は精製装置)が有するフィルタ等、及び、得られた薬液の評価結果が記載されている。
例えば、第1グループ:表1(1-1)~表1(1-5)のそれぞれの1行目には、薬液1について記載されている。
これは、薬液1が、
図14に記載した精製装置により製造されたことを示し、薬液1の製造に用いた被精製液は、PGMEAを含有し、そのSP値は17.8であることを示している。また、薬液1の製造に用いた精製装置のフィルタは、「PGMEA 1day浸漬
」の条件で事前に洗浄されたことを示している。また、精製装置は、2連式の蒸留器と、BU-1(流通路の最も上流側に配置されたUPEを含有する孔径50nmのフィルタ)、BU-2(BU-1の下流側に配置された孔径15nmのIEXフィルタ)、とを有し、フィルタA(F-A)の上流側にタンクTU-1を有し、F-A(フィルタA)としては、孔径10nmのフィルタX1を有し、フィルタF-Aの下流側には、BD-1(ナイロンを含有する孔径10nmのフィルタ)、BD-2(UPEを含有する孔径3nmフィルタ)を有し、更に、フィルタF-Aの下流側には、タンクTD-1を有することを示している。また、循環ろ過が「有」であったことを示している。
更に薬液1は「プリウェット」の方法で評価され、残渣欠陥抑制性能がAA、シミ状欠陥抑制性能がAA、ブリッジ欠陥抑制性能がAA、パターン幅の均一性能がAA、そして、精製装置のフィルタの寿命がAAであったことを示している。
薬液2~30については、同様に第1グループの各表に結果が記載され、薬液31~56については、第2グループの各表に結果が記載されている。また、薬液57~92については、第3グループの各表に結果が記載されている。
【0473】
表に記載した結果から、所定のフィルタAと、フィルタAとは異なるフィルタを有するろ過装置(精製装置)を用いて製造された薬液は優れた欠陥抑制性能を有していた。一方で、フィルタAのみを有するろ過装置は、本発明の効果を有していなかった。
また、フィルタAのイミド化率が1.0以上であるろ過装置を用いて精製された薬液1は薬液92と比較してより優れた残渣欠陥抑制性能、より優れたブリッジ欠陥抑制性能、及び、より優れたパターン幅の均一性能を有していた。
【表2-1-1】
【0474】
【0475】
【0476】
【0477】
表2は、表2(1-1)~表2(1-4)に分割されている。表2には各分割表の対応する行にわたって、各薬液の精製に用いたろ過装置及び、得られた薬液の評価結果が記載されている。
例えば、各分割表のそれぞれの1行目には、薬液201について記載されている。
これは、薬液201が
図20に記載されたろ過装置により製造されたことを示し、薬液201の製造に用いた被精製液は、SPM(4:1)であることを示している。また、薬液201の製造に用いたろ過装置のフィルタは「PGMEA 1day浸漬」の条件で事前に洗浄されたことを示している。また、ろ過装置は、BU-1(PTFEを含有する孔径200nmのフィルタ)、BU-2(PTFEを含有する孔径20nmのフィルタ)を有し、更に、フィルタF-Aの上流側にはタンクTU-1を有し、F-A(フィルタA)としては、孔径15nmのフィルタX3を有し、その下流側には、BD-1(PTFEを含有する孔径10nmのフィルタ)、BD-2(PTFEを含有する孔径10nmのフィルタ)、更に、タンクTD-1を有することを示している。また、循環ろ過が「有」であったことを示している。
薬液201の評価は、パーティクル欠陥抑制性能がA、シミ状欠陥抑制性能がA、そしてろ過装置のフィルタの寿命がAであったことを示している。
薬液202~204については、同様に上記表中に結果が記載されている。
【0478】
表に記載した結果から、フィルタAと、フィルタAとは異なるフィルタBとを有するろ過装置を用いて精製された薬液201~202は所望の効果を有していた。一方で、フィルタAのみを有するろ過装置を持ち手精製された薬液203~204は所望の効果を有していなかった。
【0479】
【0480】
【0481】
【0482】
表3は、表3(1-1)~表3(1-3)に分割されている。表3には各分割表の対応する行にわたって、各薬液の精製に用いたろ過装置及び、得られた薬液の評価結果が記載
されている。
例えば、各分割表のそれぞれの1行目には、薬液301について記載されている。
これは、薬液301が
図26に記載されたろ過装置により製造されたことを示し、薬液301の製造に用いた被精製液は、レジスト樹脂組成物2であることを示している。また、薬液301の製造に用いたろ過装置のフィルタは「PGMEA 1day浸漬」の条件で事前に洗浄されたことを示している。また、ろ過装置は、BU-1(Nylonを含有する孔径10nmのフィルタ)を有し、更に、フィルタF-Aの上流側にはタンクTU-1を有し、F-A(フィルタA)としては、孔径15nmのフィルタX3を有し、その下流側には、BD-1(UPEを含有する孔径1nmのフィルタ)を有することを示している。また、循環ろ過が「有」であったことを示している。
薬液301の評価は、ブリッジ欠陥抑制性能がA、現像後欠陥抑制性能がA、そしてろ過装置のフィルタの寿命がAであったことを示している。
薬液302~309については、同様に上記表中に結果が記載されている。
【0483】
表に記載した結果から、フィルタAと、フィルタAとは異なるフィルタBとを有するろ過装置を用いて精製された薬液301~302、薬液304~305、薬液307~308は所望の効果を有していた。一方で、フィルタAのみを有するろ過装置を用いて精製された薬液303、薬液306、及び、薬液309は所望の効果を有していなかった。
【0484】
【0485】
【0486】
【0487】
表4は、表4(1-1)~表4(1-3)に分割されている。表4には、各分割表の対応する行にわたって、各薬液の精製に用いたろ過装置及び、得られた薬液の評価結果が記載されている。
例えば、各分割表のそれぞれの1行目には、薬液310について記載されている。
これは、薬液310が
図27に記載されたろ過装置により製造されたことを示し、薬液310の製造に用いた被精製液は、レジスト樹脂組成物2であることを示している。また、薬液310の製造に用いたろ過装置のフィルタは「PGMEA 1day浸漬」の条件で事前に洗浄されたことを示している。また、ろ過装置は、BU-1(Nylonを含有する孔径20nmのフィルタ)を有し、更に、フィルタF-Aの上流側にはタンクTU-1を有し、F-A(フィルタA)としては、孔径7nmかつ、B値が8nmのフィルタSを有し、その下流側には、BD-1(UPEを含有する孔径1nmのフィルタ)を有することを示している。また、循環ろ過が「有」であったことを示している。
薬液301の評価は、ブリッジ欠陥抑制性能がAA、現像後欠陥抑制性能がA、そしてろ過装置のフィルタの寿命がAであったことを示している。
薬液311~313については、同様に上記表中に結果が記載されている。
表に示した結果から、フィルタAとフィルタAとは異なるフィルタとを有するろ過装置を用いて精製された薬液310~313は本発明の効果を有していた。
【0488】
薬液1~13、薬液15~28、薬液30~33、薬液35~92、薬液201~202、薬液301~302、薬液304~305、薬液307~308、及び、薬液310~313について、それぞれ、表中に記載したのと同じろ過装置(精製装置)を用いて薬液を作成した。この際、循環ろ過は行わなかった。得られた薬液について、各表中に記載した項目の評価を行ったところ、それぞれ、得られた薬液は、優れた欠陥抑制性能を有していた。また、フィルタの寿命も、同様に良好な結果となることを確認できた。
前記薬液が、現像液、リンス液、ウェハ洗浄液、ライン洗浄液、プリウェット液、ウェハリンス液、レジスト液、下層膜形成用液、上層膜形成用液、及び、ハードコート形成用液からなる群より選択される少なくとも1種であるか、又は、
水性現像液、水性リンス液、剥離液、リムーバー、エッチング液、酸性洗浄液、及び、リン酸、リン酸-過酸化水素水混合液からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~12のいずれか一項に記載のろ過装置。