(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115960
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】FcRnに対する抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220802BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220802BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220802BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220802BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220802BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220802BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220802BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20220802BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220802BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220802BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220802BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20220802BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220802BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220802BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220802BHJP
A61P 5/16 20060101ALI20220802BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220802BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20220802BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220802BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220802BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220802BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220802BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220802BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20220802BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220802BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220802BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220802BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220802BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220802BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20220802BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/28
A61K39/39
A61K39/395 N
A61K39/395 U
A61K45/00
A61K47/68
A61K49/00
A61P1/04
A61P1/16
A61P3/10
A61P5/16
A61P7/00
A61P7/04
A61P9/00
A61P13/12
A61P17/00
A61P19/02
A61P21/00
A61P21/04
A61P25/00
A61P29/00 101
A61P37/02
A61P37/06
A61P43/00 111
A61P43/00 121
G01N33/531 A
G01N33/53 D
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075914
(22)【出願日】2022-05-02
(62)【分割の表示】P 2019046955の分割
【原出願日】2009-04-24
(31)【優先権主張番号】61/048,152
(32)【優先日】2008-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/048,500
(32)【優先日】2008-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510283959
【氏名又は名称】バイオベラティブ セラピューティクス インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】テンホー,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ムルガナンダム,アルムガン
(72)【発明者】
【氏名】ラドナー,ロバート,チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ウッド,クリーヴ
(72)【発明者】
【氏名】ビトンティ,アラン,ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】シュタテル,ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】マクドネル,ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,リミン
(72)【発明者】
【氏名】デュモント,ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】サトウ,アーロン
(57)【要約】
【課題】FcRnに対する抗体、それを含む医薬組成物、その使用の提供。
【解決手段】重鎖(HC)免疫グロブリン可変ドメイン配列及び軽鎖(LC)免疫グロブリン可変ドメイン配列を含む単離抗体であって、重鎖及び軽鎖免疫グロブリン可変ドメイン配列が、ヒトFcRnに結合する抗原結合部位を形成する。
【選択図】
図36
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖(HC)免疫グロブリン可変ドメイン配列及び軽鎖(LC)免疫グロブリン可変ドメイン配列を含む単離抗体であって、
重鎖及び軽鎖免疫グロブリン可変ドメイン配列が、ヒトFcRnに結合する抗原結合部位を形成し;抗体が以下の特徴:
(a)ヒトCDR又はヒトフレームワーク領域;
(b)LC免疫グロブリン可変ドメイン配列が、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500のLC可変ドメインのCDRと少なくとも85%同一である1つ以上のCDRを含む;
(c)HC免疫グロブリン可変ドメイン配列が、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500のHC可変ドメインのCDRと少なくとも85%同一である1つ以上のCDRを含む;
(d)LC免疫グロブリン可変ドメイン配列が、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500のLC可変ドメインと少なくとも85%同一である;
(e)HC免疫グロブリン可変ドメイン配列が、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500のHC可変ドメインと少なくとも85%同一である;及び
(f)抗体が、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500の結合するエピトープと重複するエピトープに結合する;
のうちの1つ以上を有する単離抗体。
【請求項2】
M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、及びDX2500から成る群から選択される抗体と少なくとも85%同一である単離抗体。
【請求項3】
抗体がM0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、及びDX2504から成る群から選択される単離抗体。
【請求項4】
M0161-B04のCDRを含む単離抗体。
【請求項5】
M0161-B04と少なくとも85%同一である単離抗体。
【請求項6】
M0171-A03のCDRを含む単離抗体。
【請求項7】
M0171-A03と少なくとも85%同一である単離抗体。
【請求項8】
M0171-A01のCDRを含む単離抗体。
【請求項9】
M0171-A01と少なくとも85%同一である単離抗体。
【請求項10】
M0159-A07のCDRを含む単離抗体。
【請求項11】
M0159-A07と少なくとも85%同一である単離抗体。
【請求項12】
M0090-F11のCDRを含む単離抗体。
【請求項13】
M0090-F11と少なくとも85%同一である単離抗体。
【請求項14】
DX-2500のCDRを含む単離抗体。
【請求項15】
DX-2500と少なくとも85%同一である単離抗体。
【請求項16】
前記HC可変ドメイン配列がM0161-B04の可変ドメイン配列を含み、前記LC可変ドメイン配列がM0161-B04の可変ドメイン配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項17】
前記HC可変ドメイン配列がM0171-A03の可変ドメイン配列を含み、前記LC可変ドメイン配列がM0171-A03の可変ドメイン配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項18】
前記HC可変ドメイン配列がM0171-A01の可変ドメイン配列を含み、前記LC可変ドメイン配列がM0171-A01の可変ドメイン配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項19】
前記HC可変ドメイン配列がM0159-A07の可変ドメイン配列を含み、前記LC可変ドメイン配列がM0159-A07の可変ドメイン配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項20】
前記HC可変ドメイン配列がM0090-F11の可変ドメイン配列を含み、前記LC可変ドメイン配列がM0090-F11の可変ドメイン配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項21】
前記HC可変ドメイン配列がDX2500の可変ドメイン配列を含み、前記LC可変ドメイン配列がDX2500の可変ドメイン配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項22】
前記抗体がM0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500の結合するFcRnエピトープに結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項23】
前記抗体が、FcRnへの結合についてM0171-A03、M0171 A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500と競合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項24】
ヒトFcRnに結合する単離抗体又はその断片であって、前記抗体がヒトFcRnの重鎖又はその断片に対して産生され、前記抗体がIgGのヒトFcRnへの結合の非競合的阻害剤として機能し、前記抗体がβ2-マイクログロブリンに結合しない、単離抗体又はその断片。
【請求項25】
ヒトFcRnに結合する単離抗体又はその断片であって、前記抗体がヒトFcRnの重鎖又はその断片に対して産生され、前記抗体がFcRnと複合体化していないときβ2-マイクログロブリンに結合せず、前記抗体がFcRn-/-ノックアウトマウスから産生されない、単離抗体又はその断片。
【請求項26】
前記抗体が3B3.11、31.1、4B4.12、及び17D3から成る群から選択される、請求項25に記載の抗体。
【請求項27】
前記抗体が、100nM未満の解離定数(KD)で、約5~7.4のpH範囲にてヒトFcRnに結合する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項28】
前記抗原結合部位がヒトFcRnに特異的に結合する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項29】
前記抗体が、安定なFcRn発現細胞株に結合する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項30】
前記抗体が、抗体/免疫グロブリン定常領域へのFcRn結合を調節する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項31】
前記抗体が、FcRnのαサブユニットに結合する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項32】
前記抗体が、FcRnα鎖のα1、α2、又はα3ドメインに結合する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項33】
前記抗体が、FcRnのβサブユニットに結合しない、即ち前記タンパク質がαサブユニットにのみ結合する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項34】
前記抗体が、FcRnのβサブユニットに結合し、前記βサブユニットがαサブユニットに会合している、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項35】
前記α及びβサブユニットがFcRnに正確に組み立てられる、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項36】
前記抗体が、αサブユニット及びβサブユニットの両方を含有し、正しく会合され、FcRnに結合する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項37】
前記抗体が、pH約6にて、約800nM未満、約600nM未満、約300nM未満、約100nM未満、約50nM未満、約25nM未満、約10nM未満、又は約5nM未満のIC50でIgG-Fcの結合を阻害する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項38】
前記抗体が可溶性Fabである、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項39】
前記抗体が、その抗原結合ドメインを通して、またそのFc領域を通してFcRnに結合する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項40】
前記抗体のFcRnへの結合が、pH2~10の範囲で実質的にpH非依存性である、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項41】
前記抗体のFcRnへの結合が、pH6~8の範囲で実質的にpH非依存性である、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項42】
前記抗体が、pH7.5にて、0.01、0.001、0.0001、0.00001s-1未満のkoffを有する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項43】
前記抗体のFcRnへの結合が実質的にpH依存性である、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項44】
前記抗体が、pHに依存して、又はpHに依存せずに、ラットFcRnと比べてヒトFcRnに優先的に結合する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項45】
前記抗体が、エンドソーム内で、又はエンドソーム条件下でFcRnに結合する、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項46】
前記抗体が、pH7.5ではFcRnを解放しない、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項47】
前記抗体が、対象に投与されたとき、自己免疫障害に関連する症状を寛解させる、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項48】
前記HC及びLC可変ドメイン配列が、同じポリペプチド鎖の構成要素である、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項49】
前記HC及びLC可変ドメイン配列が、異なるポリペプチド鎖の構成要素である、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項50】
前記抗体が完全長抗体である、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項51】
前記抗体がヒト抗体若しくはヒト化抗体である、又はヒトにおいて非免疫原性である、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項52】
前記抗体がヒト抗体フレームワーク領域を含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項53】
前記抗体がFcドメインを含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項54】
前記抗体がマウス抗体である、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項55】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項56】
前記抗体がキメラである又はヒト化されている、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項57】
前記抗体がFab、F(ab)’2、Fv、及びScFvから成る群から選択される、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項58】
FcRnに対する前記抗体の結合が6.0~8.0のpH範囲においてpH非依存性である、請求項1~26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項59】
請求項1~58のいずれか一項に記載の抗体と、薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物。
【請求項60】
M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、又はM0161-B04の可変ドメインの配列と少なくとも80%同一である配列を含むポリペプチドをコードする配列を含む単離核酸。
【請求項61】
請求項1~58のいずれか一項に記載の抗体の第1及び/又は第2の免疫グロブリン可変ドメインを含むポリペプチドをコードする配列を含む単離核酸。
【請求項62】
請求項61又は62に記載の核酸配列を含むベクター。
【請求項63】
請求項61又は62の核酸を含む宿主細胞。
【請求項64】
試料中のFcRnを検出する方法であって、前記試料を請求項1~58のいずれか一項に記載の抗体と接触させることと、前記抗体と、存在する場合FcRnとの間の相互作用を検出することとを含む方法。
【請求項65】
前記抗体が検出可能な標識を更に含む、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
対象中のFcRnを検出する方法であって、
検出可能な標識を更に含む請求項1~58のいずれか一項に記載の抗体を対象に投与することと、
対象中の前記標識を検出することと、
を含む方法。
【請求項67】
検出が対象の画像化を含む、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
FcRn活性を調節する方法であって、
請求項1~58のいずれか一項に記載の抗体とFcRnとを接触させ、それによりFcRn活性を調節することを含む方法。
【請求項69】
FcRnがヒト対象中に存在する、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
抗体が、FcRnの内因性Igへの結合を阻止する、請求項68に記載の方法。
【請求項71】
前記抗体が、FcRnの治療抗体への結合を阻止する、請求項68に記載の方法。
【請求項72】
FcRnが上皮細胞エンドソーム内に存在する、請求項68に記載の方法。
【請求項73】
FcRnが内皮細胞内に存在する、請求項68に記載の方法。
【請求項74】
FcRnが細胞表面上に存在する、請求項68に記載の方法。
【請求項75】
自己免疫障害を治療する及び/又は自己免疫障害の症状を調節する方法であって、症状の調節に有効な量の請求項1~58のいずれか一項に記載の抗体を投与することを含む方法。
【請求項76】
自己免疫障害が、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症(MG)、グレーブス病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、ギランバレー症候群、自己免疫性心筋炎、膜型糸球体腎炎、真性糖尿病、I型又はII型糖尿病、多発性硬化症、レイノー症候群、自己免疫性甲状腺炎、胃炎、セリアック病、白斑、肝炎、原発性胆汁性肝硬変、炎症性腸疾患、脊椎関節症、実験的自己免疫性脳脊髄炎、免疫性好中球減少症、若年発症糖尿病、及びサイトカイン仲介性遅延型過敏症に関連する免疫反応、典型的には結核で見られるTリンパ球、サルコイドーシス、及び多発性筋炎、多発性動脈炎、皮膚血管炎、天疱瘡、類天疱瘡、グッドパスチャー症候群、川崎病、全身性硬化症、抗リン脂質症候群、及びシェーグレン症候群から成る群から選択される、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
天疱瘡が尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、又は腫瘍随伴性天疱瘡である、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記抗体が内因性IgGの半減期を短縮する、請求項75に記載の方法。
【請求項79】
循環IgGの半減期/量を調節する方法であって、
循環IgGの半減期/量を調節する必要のある対象を同定することと、
対象中の循環IgGの半減期/量の調節に有効な量の請求項1~58のいずれか一項に記載の抗体を対象に投与することと、
を含む方法。
【請求項80】
方法が循環IgGの半減期/量を減少させる、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
対象がヒトである、請求項79に記載の方法。
【請求項82】
抗体が、循環IgGの半減期/量を減少させるために、請求項1~58のいずれか一項に記載の抗体ではない抗自己免疫障害剤又は療法と組み合わせて投与される、請求項79に記載の方法。
【請求項83】
自己免疫障害を治療又は予防する方法であって、請求項1~58のいずれか一項に記載の抗体を、前記障害に罹患している又は前記障害を発現するリスクを有する対象に投与することを含む方法。
【請求項84】
自己免疫障害が不所望の循環IgGを特徴とする、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
抗体が内因性Igの半減期を短縮する、請求項83に記載の方法。
【請求項86】
自己免疫障害が、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症(MG)、グレーブス病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、ギランバレー症候群、自己免疫性心筋炎、膜型糸球体腎炎、真性糖尿病、I型又はII型糖尿病、多発性硬化症、レイノー症候群、自己免疫性甲状腺炎、胃炎、セリアック病、白斑、肝炎、原発性胆汁性肝硬変、炎症性腸疾患、脊椎関節症、実験的自己免疫性脳脊髄炎、免疫性好中球減少症、若年発症糖尿病、及びサイトカイン仲介性遅延型過敏症に関連する免疫反応、典型的には結核で見られるTリンパ球、サルコイドーシス,及び多発性筋炎、多発性動脈炎、皮膚血管炎、天疱瘡、類天疱瘡、グッドパスチャー症候群、川崎病、全身性硬化症、抗リン脂質症候群,及びシェーグレン症候群から選択される障害である、請求項83に記載の方法。
【請求項87】
天疱瘡が、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、又は腫瘍随伴性天疱瘡である、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
自己免疫障害を治療又は予防する方法であって、
請求項1~58のいずれか一項に記載の抗体を、前記障害を治療又は予防するための第2の療法と組み合わせて、前記障害に罹患している又は前記障害を発現するリスクを有する対象に投与することを含む方法。
【請求項89】
第2の療法が、静脈内Ig療法;非ステロイド性抗炎症薬(NSAID);コルチコステロイド;シクロスポリン、ラパマイシン、アスコマイシン、又はこれらの免疫抑制類似体、例えばシクロスポリンA、シクロスポリンG、FK-506、ラパマイシン、40-O-(2-ヒドロキシ)エチル-ラパマイシン;シクロホスファミド;アザチオプリン;メトトレキサート;ブレキナル;FTY720;レフルノミド;ミゾリビン;ミコフェノール酸;ミコフェノール酸モフェチル;15-デオキシスペルグアリン;免疫抑制モノクローナル抗体、例えば白血球受容体に対するモノクローナル抗体、例えばMHC、CD2、CD3、CD4、CD7、CD25、CD28、B7、CD45、若しくはCD58、又はこれらのリガンド;他の免疫調節化合物、例えばCTLA4Ig;又は他の接着分子阻害剤、例えば、mAb、又はセレクチン拮抗剤及びVLA-4拮抗剤を含む低分子量阻害剤を含む、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
治療有効量の、請求項1~58のいずれか一項に記載の抗体又はその断片を個体に投与する工程を含む、個体中の不所望の抗体濃度を低下させる方法。
【請求項91】
抗体又はその断片が薬学的に許容できる担体内で投与される、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
個体がヒトである、請求項90に記載の方法。
【請求項93】
抗体又はその断片がアジュバントと共に投与される、請求項90に記載の方法。
【請求項94】
不所望の抗体がナタリズマブである、請求項90に記載の方法。
【請求項95】
不所望の抗体が非自己ヒト白血球抗原である、請求項90に記載の方法。
【請求項96】
投与される抗体又はその断片が、臓器移植に関連して投与される、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
個体におけるIgGのFcRnへの結合を低減する方法であって、
ヒトFcRnに結合し、ヒトFcRn又はその断片の重鎖に対して産生され、IgGのヒトFcRnへの結合の非競合的阻害剤であり、β2-マイクログロブリンに結合しない抗体又はその断片を提供することと、
個体におけるIgGのFcRnへの結合を低減するのに十分な量の前記抗体又はその断片を個体に投与することと、
を含む方法。
【請求項98】
個体が自己免疫疾患又は同種免疫疾患に罹患している、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
個体が臓器移植のレシピエントである、請求項97に記載の方法。
【請求項100】
個体が治療抗体の投与を受けたことがある、請求項97に記載の方法。
【請求項101】
自己免疫疾患が免疫性血小板減少症である、請求項97に記載の方法。
【請求項102】
自己免疫疾患が免疫性天疱瘡である、請求項97に記載の方法。
【請求項103】
個体がヒトである、請求項97に記載の方法。
【請求項104】
抗体が、1mg/kg~2g/kgの投与量で投与される、請求項97に記載の方法。
【請求項105】
抗体が、1mg/kg~200mg/kgの投与量で投与される、請求項97に記載の方法。
【請求項106】
個体中のIgG抗体の量を抑制する方法であって、
ヒトFcRnに結合し、ヒトFcRn又はその断片の重鎖に対して産生され、IgGのヒトFcRnへの結合の非競合的阻害剤であり、β2-マイクログロブリンに結合しない抗体又はその断片を提供することと、
個体におけるIgGの量を抑制するのに十分な量の前記抗体又はその断片を個体に投与することと、
を含む方法。
【請求項107】
IgG抗体が治療IgG抗体である、請求項106に記載の方法。
【請求項108】
治療IgG抗体がナタリズマブである、請求項107に記載の方法。
【請求項109】
前記IgG抗体が非自己ヒト白血球抗原である、請求項106に記載の方法。
【請求項110】
方法が血漿交換工程を更に含む、請求項106に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、米国特許法第119条(e)に基づいて、2008年4月25日出願の米国特許仮出願第61/048,152号、及び2008年4月28日出願の米国特許仮出願第61/048,500号の利益を請求し、これらは参照することにより本明細書に全文が組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
血清中最も豊富に存在する抗体アイソタイプはIgGであり、これは病原体に対する保護の仲介、並びに組織、粘膜、及び皮膚表面への免疫系成分の補充を加速させるアレルギー及び炎症反応の仲介において重要な役割を果たしている(Junghans,Immunologic Research16(1):29(1997))。更にIgGは種々の自己免疫疾患の鍵となる要素でもある。正常条件下では、血清中のIgGの半減期は、マウスの場合5~7日間の範囲、ヒトの場合22~23日間の範囲であり、これは他の血漿タンパク質の血清半減期と比べて長い。一部、これは、新生児のFcRn受容体(FcRn)が、分解リソソームから飲作用を受けたIgGを救出し、それを再生して細胞外区画に戻すために生じる(Junghans and Anderson,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:5512(1996),Roopenian et al.J.Immunology170:3528(2003))。
【0003】
FcRnはIgGのFc部分に結合する。IgGのFc領域とFcRnとの間の相互作用はpH依存性である。流体相のエンドサイトーシスにより細胞に侵入するとき、IgGはエンドソームに隔離され、酸性pH(6~6.5)にて高親和性でFcRnに結合する;IgG-FcRn複合体が細胞膜に循環するとき、IgGは僅かに塩基性であるpH(~7.4)にて血流中でFcRnから急速に解離する。この受容体仲介性再生機序により、FcRnはリソソームにおける分解からIgGを有効に救出し、それによって循環IgGの半減期を延長する。
【0004】
FcRnは、典型的には内皮細胞及び上皮細胞のエンドソーム内に存在する非共有ヘテロ二量体である。FcRnは、3つの重鎖αドメイン(α1、α2、及びα3)及び1つの可溶性軽鎖β2-マイクログロブリン(β2M)ドメインを有する1回膜貫通型膜結合受容体である。構造的にFcRnは、一般的な軽鎖としてβ2Mを有する主な組織適合性複合体クラスI分子のファミリーに属する。FcRnのα鎖は、α1、α2、及びα3重鎖ドメインを含む細胞外ドメイン、膜貫通領域、及び比較的短い細胞質側末端から構成される46kDのタンパク質である(Burmeister et al.Nature 372:366(1994))。
【0005】
FcRnは、新生児ラットの腸で最初に同定され、そこではFcRnは母乳由来のIgG抗体の吸収を仲介し、循環系への輸送を促進するよう機能していた(Leach et al.J Immunol 157:3317(1996))。FcRnはまたヒト胎盤からも単離されており、そこでも母親のIgGの胎児循環への吸収及び輸送を仲介している。成人ではFcRnは多数の組織で発現しており、例えばその組織には、肺、腸、腎臓の上皮組織、並びに鼻、膣、及び胆管(biliary tress)表面が挙げられる(米国特許第6,030,613号及び同第6,086,875号;Israel et al.Immunology 92:69(1997);Kobayashi et al.Am J Physiol(2002);Renal Physiol 282:F358(2002))。
【0006】
FcRnのIgGホメオスタシスへの寄与を研究するために、β2M及びFcRn重鎖をコードする遺伝子の少なくとも一部が「ノックアウト」され、その結果これらのタンパク質が発現しなくなるようマウスが作製されている(国際公開第02/43658号;Junghans and Anderson,Proc Natl Acad Sci US 93:5512(1996))。これらのマウスでは、IgGの血清半減期及び濃度が劇的に減少し、これはIgGホメオスタシスがFcRn依存性機序であることを示唆する。
【0007】
抗ヒトFcRn抗体をこれらFcRnノックアウトマウスで産生し得る可能性があり、これら抗体はIgGのFcRnへの結合を阻止する可能性があることも示唆されている。しかし、かかる抗体は産生されていない、又は試験されていない(国際公開第02/43658号)。
【0008】
IgGのFcRnへの結合阻害は、IgG再生を阻止することによりIgG血清半減期を負の方向に変化させる。この原理は、自己免疫皮膚水疱性疾患のマウスモデルにおいて治療的に有効であることが示されている(Li et al.J Clin Invest 115:3440-3450(2005))。従って、IgGのFcRnへの結合をブロックする又は拮抗する剤を、自己免疫疾患及び炎症性疾患、又は不適切に制御されているIgG抗体の存在を特徴とする障害を治療又は予防する方法で用いることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特に、FcRnに結合する抗体、並びにかかる抗体の同定及び使用方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの態様では、本発明は、重鎖(HC)免疫グロブリン可変ドメイン配列及び軽鎖(LC)免疫グロブリン可変ドメイン配列を含む単離抗体であって、
前記重鎖及び軽鎖免疫グロブリン可変ドメイン配列が、ヒトFcRnに結合する抗原結合部位を形成し;前記抗体が以下の特徴のうちの1つ以上を有する単離抗体を提供する:
(a)ヒトCDR又はヒトフレームワーク領域;
(b)LC免疫グロブリン可変ドメイン配列が、 M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500のLC可変ドメインのCDRに対して少なくとも85%同一である1つ以上のCDRを含む;
(c)HC免疫グロブリン可変ドメイン配列が、 M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500のHC可変ドメインのCDRに対して少なくとも85%同一である1つ以上のCDRを含む;
(d)LC免疫グロブリン可変ドメイン配列が、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500のLC可変ドメインと少なくとも85%同一である;
(e)HC免疫グロブリン可変ドメイン配列が、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500のHC可変ドメインと少なくとも85%同一である;及び
(f)抗体が、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500の結合するエピトープと重複するエピトープに結合する。
【0011】
1つの態様では、本発明は、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、及びDX2500から成る群から選択される抗体と少なくとも85%同一である単離抗体を提供する。
【0012】
1つの態様では、本発明は、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、及びDX2504から成る群から選択される単離抗体を提供する。
【0013】
1つの態様では、本発明は、M0161-B04のCDRを含む単離抗体を提供する。1つの態様では、本発明はM0161-B04と少なくとも85%同一である単離抗体を提供する。M0161-B04のCDRを表17Aに示す。
【0014】
1つの態様では、本発明はM0171-A03のCDRを含む単離抗体を提供する。1つの態様では、本発明はM0171-A03と少なくとも85%同一である単離抗体を提供する。M0171-A03のCDRを表17Aに示す。
【0015】
1つの態様では、本発明はM0171-A01のCDRを含む単離抗体を提供する。1つの態様では、本発明はM0171-A01と少なくとも85%同一である単離抗体を提供する。M0171-A01のCDRを表17Aに示す。
【0016】
1つの態様では、本発明はM0159-A07のCDRを含む単離抗体を提供する。1つの態様では、本発明はM0159-A07と少なくとも85%同一である単離抗体を提供する。M0159-A07のCDRを表17Aに示す。
【0017】
1つの態様では、本発明はM0090-F11のCDRを含む単離抗体を提供する。1つの態様では、本発明は、M0090-F11と少なくとも85%同一である単離抗体を提供する。M0090-F11のCDRを表17Aに示す。
【0018】
1つの態様では、本発明はDX-2500のCDRを含む単離抗体を提供する。1つの態様では、DX-2500と少なくとも85%同一である単離抗体を提供する。DX-2500のCDRを表17Aに示す。
【0019】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、HC可変ドメイン配列はM0161-B04の可変ドメイン配列を含み、LC可変ドメイン配列はM0161-B04の可変ドメイン配列を含む。
【0020】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、HC可変ドメイン配列はM0171-A03の可変ドメイン配列を含み、LC可変ドメイン配列はM0171-A03の可変ドメイン配列を含む。
【0021】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、HC可変ドメイン配列はM0171-A01の可変ドメイン配列を含み、LC可変ドメイン配列はM0171-A01の可変ドメイン配列を含む。
【0022】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、HC可変ドメイン配列はM0159-A07の可変ドメイン配列を含み、LC可変ドメイン配列はM0159-A07の可変ドメイン配列を含む。
【0023】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、HC可変ドメイン配列はM0090-F11の可変ドメイン配列を含み、LC可変ドメイン配列はM0090-F11の可変ドメイン配列を含む。
【0024】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、HC可変ドメイン配列は、DX2500の可変ドメイン配列を含み、DX2500のLC可変ドメイン配列は、DX2500の可変ドメイン配列を含む。
【0025】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500の結合するFcRnエピトープに結合する。
【0026】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、FcRnへの結合について、M0171-A03、M0171 A01、M0159-A07、M0161-B04、M0090-F11、又はDX2500と競合する。
【0027】
本明細書で使用されるとき、M0171-A03はまたM171-A03及びM00171-A03とも称される。本明細書で使用されるとき、M0171-A01はまたM171-A01及びM00171-A01とも称される。本明細書で使用されるとき、M0159-A07はまたM159-A07及びM00159-A07とも称される。本明細書で使用されるとき、M0161-B04はまたM161-B04、M00161-B04、及びDX-2504とも称される。本明細書で使用されるとき、M0090-F11はまたM090-F11及びM90-F11とも称される。
【0028】
1つの態様では、本発明は、ヒトFcRnに結合する単離抗体又はその断片であって、前記抗体がヒトFcRnの重鎖又はその断片に対して産生され、前記抗体がIgGのヒトFcRnへの結合の非競合的阻害剤として機能し、前記抗体がβ2-マイクログロブリンに結合しない、単離抗体又はその断片を提供する。
【0029】
1つの態様では、本発明は、ヒトFcRnに結合する単離抗体又はその断片であって、前記抗体がヒトFcRnの重鎖又はその断片に対して産生され、前記抗体がFcRnと複合体化していないときβ2-マイクログロブリンに結合せず、前記抗体がFcRn-/-ノックアウトマウスから産生されない、単離抗体又はその断片を提供する。
【0030】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、3B3.11、31.1、4B4.12、及び17D3から成る群から選択される。
【0031】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、100nM未満の解離定数(KD)でpH5~7.4の範囲にてヒトFcRnに結合する。
【0032】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗原結合部位は、ヒトFcRnに特異的に結合する。
【0033】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、安定なFcRn発現細胞株に結合する。
【0034】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、抗体/免疫グロブリン定常領域へのFcRnの結合を調節する(例えば阻害する)。
【0035】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、FcRnのαサブユニットに結合する。
【0036】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、FcRnα鎖のα1、α2、又はα3ドメインに結合する。
【0037】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、FcRnのβサブユニットに結合しない、即ちそのタンパク質は、αサブユニットにのみ結合する。
【0038】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、FcRnのβサブユニットに結合し、前記βサブユニットはαサブユニットに会合している。
【0039】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記αサブユニット及びβサブユニットは、FcRnに正確に組み立てられる。
【0040】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、αサブユニット及びβサブユニットの両方を含み、正確に組み立てられているFcRnに結合する。
【0041】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、pH6にて、約800nM未満、約600nM未満、約300nM未満、約100nM未満、約50nM未満、約25nM未満、約10nM未満、又は約5nM未満のIC50で、IgG-Fcの結合を阻害する。
【0042】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は可溶性Fabである。
【0043】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、その抗原結合ドメインを通して結合し、さらにそのFcドメインを通してでもFcRnに結合する。
【0044】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体のFcRnへの結合は、2~10の範囲で実質的にpH依存性である。
【0045】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体のFcRnへの結合は、6~8の範囲で実質的にpH依存性である。
【0046】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、pH7.5で0.01、0.001、0.0001、0.00001s-1未満のkoffを有する。
【0047】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体のFcRnへの結合は、実質的にpH依存性である。
【0048】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、pHに依存して、又はpHに依存せず、ラットFcRnと比べてヒトFcRnに優先的に結合する。
【0049】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、エンドソーム内又はエンドソーム条件下でFcRnに結合する。
【0050】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、pH7.5ではFcRnを解放しない。
【0051】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、対象に投与されたとき、自己免疫障害に関連する症状を寛解させる。
【0052】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記HC及びLC可変ドメイン配列は、同じポリペプチド鎖の構成要素である。
【0053】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記HC及びLC可変ドメイン配列は、異なるポリペプチド鎖の構成要素である。
【0054】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は完全長抗体である。
【0055】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、ヒト抗体若しくはヒト化抗体である、又はヒトにおいて非免疫原性である。
【0056】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、ヒト抗体フレームワーク領域を含む。
【0057】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体はFcドメインを含む。
【0058】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体はマウス抗体である。
【0059】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、モノクローナル抗体である。
【0060】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体はキメラである又はヒト化されている。
【0061】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、前記抗体は、Fab、F(ab)’2、Fv、及びScFvから成る群から選択される。
【0062】
本明細書に提供される抗体の幾つかの実施形態では、FcRnに結合する前記抗体は、6.0~8.0のpH範囲にわたってpH非依存性である。
【0063】
1つの態様では、本発明は、本明細書に提供される抗体のうち任意の1種と、薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0064】
1つの態様では、本発明は、M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、又はM0161-B04の可変ドメインの配列と少なくとも80%同一である配列を含むポリペプチドをコードする配列を含む単離核酸を提供する。
【0065】
1つの態様では、本発明は、本明細書に提供される抗体のうち任意の1種の第1及び/又は第2の免疫グロブリン可変ドメインを含むポリペプチドをコードする配列を含む単離核酸を提供する。
【0066】
1つの態様では、本発明は、本明細書に提供される核酸配列を含むベクター又は宿主細胞を提供する。
【0067】
1つの態様では、本発明は、試料中のFcRnを検出する方法であって、前記試料を本明細書に提供される抗体のうち任意の1種と接触させることと、前記抗体と(存在する場合)FcRnとの間の相互作用を検出することとを含む方法を提供する。幾つかの実施形態では、前記抗体は、検出可能な標識を更に含む。
【0068】
1つの態様では、本発明は、対象中のFcRnを検出する方法であって、検出可能な標識を更に含む本明細書に提供される抗体のうち任意の1種を対象に投与することと、対象中の標識を検出することとを含む方法を提供する。幾つかの実施形態では、検出は対象の画像化を含む。
【0069】
1つの態様では、本発明は、FcRn活性を調節する方法であって、FcRnを本明細書に提供される抗体のうち任意の1種と接触させ、それによってFcRnの活性を調節することを含む方法を提供する。幾つかの実施形態では、FcRnはヒト対象中に存在する。幾つかの実施形態では、前記抗体は、FcRnの内因性Igへの結合を阻止する。幾つかの実施形態では、前記抗体は、FcRnの治療抗体への結合を阻止する。幾つかの実施形態では、FcRnは上皮細胞エンドソームに存在する。幾つかの実施形態では、FcRnは内皮細胞エンドソーム内に存在する。幾つかの実施形態では、FcRnは細胞表面上に存在する。
【0070】
1つの態様では、本発明は、自己免疫障害を治療する及び/又は自己免疫障害の症状を調節する方法であって、症状を調節するのに十分な量の本明細書に提供される抗体のうち任意の1種を投与することを含む方法を提供する。幾つかの実施形態では、自己免疫障害は、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症(MG)、グレーブス病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、ギランバレー症候群、自己免疫性心筋炎、膜型糸球体腎炎、真性糖尿病、I型又はII型糖尿病、多発性硬化症、レイノー症候群、自己免疫性甲状腺炎、胃炎、セリアック病、白斑、肝炎、原発性胆汁性肝硬変、炎症性腸疾患、脊椎関節症、実験的自己免疫性脳脊髄炎、免疫性好中球減少症、若年発症糖尿病、及びサイトカイン仲介性遅延型過敏症に関連する免疫反応、典型的には結核で見られるTリンパ球、サルコイドーシス、及び多発性筋炎、多発性動脈炎、皮膚血管炎、天疱瘡、類天疱瘡、グッドパスチャー症候群、川崎病、全身性硬化症、抗リン脂質症候群、及びシェーグレン症候群から成る群から選択される障害である。幾つかの実施形態では、天疱瘡は、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、又は腫瘍随伴性天疱瘡である。
【0071】
幾つかの実施形態では、前記抗体は、内因性IgGの半減期を短縮する。
【0072】
1つの態様では、本発明は、循環IgGの半減期/量を調節する方法であって、循環IgGの半減期/量を調節する必要のある対象を特定することと、対象中の循環IgGの半減期/量の調節に有効な量の本明細書に提供される抗体のうち任意の1種の抗体を対象に投与することと、を含む方法を提供する。幾つかの実施形態では、前記方法は、循環IgGの半減期/量を減少させる。幾つかの実施形態では、対象はヒトである。幾つかの実施形態では、前記抗体は、循環IgGの半減期/量を減少させるために、本明細書に提供される抗体のうちのいずれでもない抗自己免疫障害剤又は療法と組み合わせて投与される。幾つかの実施形態では、本明細書に提供される抗体のうちのいずれでもない抗自己免疫障害剤又は療法は、静脈内Ig療法;非ステロイド性抗炎症薬(NSAID);コルチコステロイド;シクロスポリン、ラパマイシン、アスコマイシン、又はこれらの免疫抑制類似体、例えばシクロスポリンA、シクロスポリンG、FK-506、ラパマイシン、40-O-(2-ヒドロキシ)エチル-ラパマイシン;シクロホスファミド;アザチオプリン;メトトレキサート;ブレキナル;FTY720;レフルノミド;ミゾリビン;ミコフェノール酸;ミコフェノール酸モフェチル;15-デオキシスペルグアリン;免疫抑制モノクローナル抗体、例えば白血球受容体に対するモノクローナル抗体、例えば、MHC、CD2、CD3、CD4、CD7、CD25、CD28、B7、CD45、若しくはCD58、又はこれらのリガンド;他の免疫調節化合物、例えばCTLA4Ig;又は他の接着分子阻害剤、例えば、mAb、又はセレクチン拮抗剤及びVLA-4拮抗剤を含む低分子量阻害剤を含む。
【0073】
1つの態様では、本発明は、自己免疫障害を治療又は予防する方法であって、本明細書に提供される抗体のうち任意の1種を、前記障害に罹患している又は前記障害を発現するリスクを有する対象に投与することを含む方法を提供する。幾つかの実施形態では、自己免疫障害は、不所望の循環IgGを特徴とする。幾つかの実施形態では、前記抗体は、内因性IgGの半減期を短縮する。幾つかの実施形態では、自己免疫障害は、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症(MG)、グレーブス病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、ギランバレー症候群、自己免疫性心筋炎、膜型糸球体腎炎、真性糖尿病、I型又はII型糖尿病、多発性硬化症、レイノー症候群、自己免疫性甲状腺炎、胃炎、セリアック病、白斑、肝炎、原発性胆汁性肝硬変、炎症性腸疾患、脊椎関節症、実験的自己免疫性脳脊髄炎、免疫性好中球減少症、若年発症糖尿病、及びサイトカイン仲介性遅延型過敏症に関連する免疫反応、典型的には結核で見られるTリンパ球、サルコイドーシス、及び多発性筋炎、多発性動脈炎、皮膚血管炎、天疱瘡、類天疱瘡、グッドパスチャー症候群、川崎病、全身性硬化症、抗リン脂質症候群、及びシェーグレン症候群から選択される障害である。幾つかの実施形態では、天疱瘡は、尋常性天疱瘡,落葉状天疱瘡、又は腫瘍随伴性天疱瘡である。
【0074】
1つの態様では、本発明は、自己免疫障害を治療又は予防する方法であって、前記方法は、本明細書に提供される抗体のうち任意の1種を、前記障害を治療又は予防するための第2の療法と組み合わせて、前記障害に罹患している又は前記障害を発現するリスクを有する対象に投与することを含む方法を提供する。幾つかの実施形態では、第2の療法は、静脈内Ig療法;非ステロイド性抗炎症薬(NSAID);コルチコステロイド;シクロスポリン、ラパマイシン、アスコマイシン、又はこれらの免疫抑制類似体、例えばシクロスポリンA、シクロスポリンG、FK-506、ラパマイシン、40-O-(2-ヒドロキシ)エチル-ラパマイシン;シクロホスファミド;アザチオプリン;メトトレキサート;ブレキナル;FTY720;レフルノミド;ミゾリビン;ミコフェノール酸;ミコフェノール酸モフェチル;15-デオキシスペルグアリン;免疫抑制モノクローナル抗体、例えば白血球受容体に対するモノクローナル抗体、例えばMHC、CD2、CD3、CD4、CD7、CD25、CD28、B7、CD45、若しくはCD58、又はこれらのリガンド;他の免疫調節化合物、例えばCTLA4Ig;又は他の接着分子阻害剤、例えば、mAb、又はセレクチン拮抗剤及びVLA-4拮抗剤を含む低分子量阻害剤を含む。
【0075】
1つの態様では、本発明は、個体中の不所望の抗体濃度を低下させる方法であって、治療有効量の本明細書に提供される抗体又はその断片のうち任意の1種を個体に投与する工程を含む方法を提供する。幾つかの実施形態では、前記抗体又はその断片は、薬学的に許容できる担体内で投与される。幾つかの実施形態では、個体はヒトである。
【0076】
幾つかの実施形態では、前記抗体又はその断片はアジュバントと共に投与される。幾つかの実施形態では、前記不所望の抗体はナタリズマブである。幾つかの実施形態では、前記不所望の抗体は非自己ヒト白血球抗原である。幾つかの実施形態では、投与される抗体又はその断片は、臓器移植に関連して投与される。
【0077】
1つの態様では、本発明は、個体におけるIgGのFcRnへの結合を低減する方法であって、ヒトFcRnに結合し、ヒトFcRn又はその断片の重鎖に対して産生され、IgGのヒトFcRnへの結合の非競合的阻害剤であり、β2-マイクログロブリンに結合しない抗体又はその断片を提供する工程と、個体におけるIgGのFcRnへの結合を低減するのに十分な量の前記抗体又はその断片を個体に投与する工程と、を含む方法を提供する。幾つかの実施形態では、前記個体は自己免疫疾患又は同種免疫疾患に罹患している。幾つかの実施形態では、前記個体は臓器移植のレシピエントである。幾つかの実施形態では、前記個体は治療抗体の投与を受けたことがある。幾つかの実施形態では、前記自己免疫疾患は免疫性血小板減少症である。幾つかの実施形態では、前記自己免疫疾患は免疫性天疱瘡である。幾つかの実施形態では、前記個体はヒトである。幾つかの実施形態では、前記抗体は、1mg/kg~2g/kgの投与量で投与される。幾つかの実施形態では、前記抗体は、1mg/kg~200mg/kgの投与量で投与される。
【0078】
1つの態様では、本発明は、個体中のIgG抗体の量を抑制する方法であって、ヒトFcRnに結合し、ヒトFcRn又はその断片の重鎖に対して産生され、IgGのヒトFcRnへの結合の非競合的阻害剤であり、β2-マイクログロブリンに結合しない抗体又はその断片を提供する工程と、個体中のIgG抗体の量を抑制するのに十分な量の前記抗体又はその断片を個体に投与する工程とを含む方法を提供する。幾つかの実施形態では、前記IgG抗体は治療IgG抗体である。幾つかの実施形態では、治療IgG抗体はナタリズマブである。幾つかの実施形態では、前記IgG抗体は非自己ヒト白血球抗原である。幾つかの実施形態では、前記方法は血漿交換工程を更に含む。
【0079】
1つの態様では、本発明は、IgG分子の定常領域がFcRnに結合するのを阻害する抗体に関する。従って本発明は、FcRn分子のエピトープに特異的に結合する少なくとも1つの可変領域を含む抗体に関する。幾つかの実施形態では、本発明の抗体は、ヒトFcRnに結合する。他の実施形態では、前記抗体はげっ歯類又はサルFcRnに結合する。本発明の幾つかの例示的抗体としては、例えば4B4.12、3B3.11、31.1、及び17D3が挙げられる。
【0080】
1つの態様では、本開示は、重鎖(HC)免疫グロブリン可変ドメイン配列及び軽鎖(LC)免疫グロブリン可変ドメイン配列を含む抗体(例えば単離抗体)を特徴とする。第1及び第2の免疫グロブリン可変ドメイン配列は、FcRn(例えばヒトFcRn)に結合する抗原結合部位を形成する。1つの実施形態では、前記抗体は、以下の特徴のうちの1つ以上を有する:
(a)LC免疫グロブリン可変ドメイン配列は、3B3.11、31.1、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11のLC可変ドメイン、又はこれらの1つ以上のCDRと少なくとも85%同一である;
(b)HC免疫グロブリン可変ドメイン配列は、3B3.11、31.1、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11のHC可変ドメイン、又はこれらの1つ以上のCDRと少なくとも85%同一である;及び
(c)前記抗体は、3B3.11、31.1、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の結合するエピトープと重複するエピトープに結合する。
【0081】
1つの実施形態では、前記抗体は、例えば約5~8のpH範囲にて、例えば100、20、10、5、1、又は0.1nM未満の解離定数(KD)で、FcRn(例えばヒトFcRn)に結合する。1つの実施形態では、前記抗原結合部位はヒトFcRnに特異的に結合する。本明細書で使用されるとき、「特異的結合」又は「特異的に結合する」は、FcRn以外の非特異的抗原(例えばアクチン、カゼイン)に結合する親和性よりも、少なくとも2倍、10倍、50倍、100倍、又はそれ以上の親和性で(小さなKDで)、ヒトFcRnに優先的に結合する、FcRn結合抗体の能力を指す。1つの実施形態では、前記抗体は、0.01、0.001、0.0001、0.00001s-1未満のkoffでヒトFcRnに結合する。
【0082】
1つの実施形態では、前記抗体は、FcRnの細胞外ドメイン;例えばFcRnのαサブユニットの1つ、即ちFcRnα鎖のα1、α2、又はα3ドメインに結合する。1つの実施形態では、前記抗体は、FcRnのβ(β2M)サブユニットには結合せず、例えば前記抗体はαサブユニットにのみ結合する。1つの実施形態では、前記抗体は、FcRnのβサブユニットに結合はするが、β2Mがαサブユニットに会合しているときのみである。例えば、前記抗体は、両方が存在し、FcRnに正確に組み立てられる場合を除いて、αサブユニット又はβサブユニットのいずれにも結合しない。1つの実施形態では、前記抗体は、αサブユニット及びβサブユニットの両方を含み、正確に組み立てられるFcRnに結合する。
【0083】
1つの実施形態では、前記抗体は、FcRnの抗体/免疫グロブリン定常領域への結合を調節する(例えば阻害する)。例えば前記抗体は、5nM、500pM、200pM、150pM、100pM、又は75pMより優れた(例えば数値的には小さい)Ki、例えば50nM~1pM、又は200pM~5pMのKiを有し得る。
【0084】
1つの実施形態では、前記抗体は、FcRnに結合し、FcRnの抗体/免疫グロブリン定常領域への結合を減少させる若しくは阻止する。例えば、前記抗体は、1×10-8Mより優れた(即ち数値的には小さい)親和性(KD)でFcRn(例えばヒトFcRn)に結合することができる。1つの実施形態では、前記抗体は、実質的にpHに依存せず、又は実質的にpHに依存して、pH6にて約3.0~82nMの範囲のKDで、FcRnに結合するFabである。1つの実施形態では、前記抗体は、実質的にpHに依存せず、又は実質的にpHに依存して、pH7.5にて約9.7~39.7nMの範囲のKDで、FcRnに結合するFabである。1つの実施形態では、前記抗体は、実質的にpHに依存せず、又は実質的にpHに依存して、pH6にて約0.409~約29.5nM、約2.44~約29.5nM、約0.13~約1.03nM、約6.43~約30.2nM、約0.2~約2.87nM、約0.34~約2.87nM、又は約0.2~約30.2nMの範囲のKDで、FcRnに結合するIgGである。1つの実施形態では、前記抗体は、実質的にpHに依存せず、又は実質的にpHに依存して、pH7.5にて約0.675~24.2nM、2.1~24.2nM、0.158~10nM、又は約2.04~約80nMの範囲のKDで、FcRnに結合するIgGである。
【0085】
1つの実施形態では、前記抗体は、pH約6にて800nM、600nM、又は300nM、200nM、100nM、1nM、50pM未満のIC50でFcRnのIgG-Fcへの結合を阻害する。1つの実施形態では、前記抗体は、実質的にpHに依存せず、又は実質的にpHに依存して、pH6にて約13~754nM又は約13~80nMの範囲のIC50でFcRnのIgG-Fcへの結合を阻害する。1つの実施形態では、前記抗体は、実質的にpHに依存せず、又は実質的にpHに依存して、pH6にて約1.2~36nM、36~120nM、120~562nM、1.5~5.4nM、5.4~50nM、51~161nMの範囲のIC50でFcRnの結合を阻害する。
【0086】
1つの実施形態では、前記抗体は、例えば単鎖抗体、Fab、sFab断片、F(ab’)2、Fd断片、Fv断片、scFv、又はdAb断片である。
【0087】
幾つかの実施形態では、前記抗体は、単一特異的、例えばモノクローナル抗体又は組換え抗体である。「単一特異的抗体」という用語は、特定の標的、例えばエピトープに対して単一結合特異性及び親和性を示す抗体を指す。この用語は「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」を含み、これらは本明細書で使用されるとき、単一分子組成の抗体製剤を指す。
【0088】
1つの実施形態では、前記抗体は、組換え又は修飾抗FcRn抗体であり、例えばキメラ、ヒト化、脱免疫、又はインビトロで生成された抗体である。用語「組換え」又は「修飾」ヒト抗体は、本明細書で使用されるとき、組換え手段により調製、発現、作製、又は単離した全ての抗体を含み、例えば宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現した抗体、組換え、コンビナトリアル抗体ライブラリから単離された抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子を導入した動物(例えばマウス)から単離された抗体、又はヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段により調製、発現、作製、又は単離した抗体である。かかる組換え抗体としては、ヒト化抗体、CDRグラフト抗体、キメラ抗体、脱免疫抗体、インビトロで生成された抗体が挙げられ、任意的にヒト生殖系免疫グロブリン配列由来の定常領域を含んでもよい。1つの実施形態では、前記抗体は、ヒトにおいて抗グロブリン応答を誘発しない。
【0089】
また、FcRnの重複するエピトープに結合する、又は本明細書に開示される抗FcRn抗体のFcRnへの結合を競合的に阻害する抗体(完全長抗体、又はその抗原結合断片を含む)をも開示し、その例には、例えばFcRnの重複するエピトープに結合する、又はsFab 532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11のFcRnへの結合を競合的に阻害する抗体が挙げられる。抗FcRn抗体の組み合わせ、例えばFcRnの異なる領域に結合する2つ以上の抗体、例えばFcRnの細胞外ドメイン上の2つの異なるエピトープに結合する抗体を使用してもよい。或いは、二重特異的抗体を用いてもよい。二重特異的抗体は、単一分子が2つの特異的結合能を実現するように、2つの可変重鎖ドメイン及び2つの可変軽鎖ドメインを含む分子であり、1つ以上の可変ドメイン又は特異性は本明細書に記載される抗体のものであり得、FcRnに結合することができる。
【0090】
1つの実施形態では、抗FcRn抗体(例えば完全長抗体又はその抗原結合断片)は、少なくとも1つの軽鎖又は重鎖可変ドメイン配列(例えば少なくとも1つの軽鎖免疫グロブリン及び少なくとも1つの重鎖免疫グロブリン)を含む。幾つかの実施形態では、各免疫グロブリンは、FcRnと相互作用する抗体(例えば本明細書に記載されるsFab、例えば532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11)の軽鎖又は重鎖可変ドメイン配列のCDRと実質的に同一である少なくとも1つ、2つ、又は3つの相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖又は重鎖可変ドメイン配列を含む。
【0091】
1つの実施形態では、前記抗体は、その抗原結合ドメインを用いてFcRnに結合し、またそのFc領域を通してFcRnに結合する。1つの実施形態では、前記抗体は、その抗原結合ドメインのみを用いてFcRnに結合する。例えば前記抗体は、Fc領域を含まない、又はFcRnと相互作用しない改変Fc領域を含む。1つの実施形態では、前記抗体は、そのFcドメインを介してよりも、その抗原結合ドメインを介して、少なくとも1000倍強くにFcRnに結合する。
【0092】
1つの実施形態では、前記抗体のFcRnへの結合は、2~10、4~9、5~8、6~8、又は6~7.5の範囲で実質的にpH非依存性である。「pH非依存性」という用語は、2~10、4~9、5~8、6~8、又は6~7.5の範囲のpHにおいて、抗体がFcRnに結合する能力及び/又はFcRnに結合した状態を保つ能力を指す。親和性は種々のpH値で変動し得る。幾つかの実施形態では、KDは、200nM、50nM、10nM、1nM、又は100pM以下、又はその範囲内の任意の値である。例えば前記抗体は、pH6でFcRnに結合することができ、pH7.5で結合した状態を保つことができる。1つの実施形態では、前記抗体のFcRnへの結合は、実質的にpH依存性である。「pH非依存性」という用語は、第1のpHにおいて抗体がFcRnに結合する能力及び/又はFcRnに結合した状態を保つ能力、並びに第2のpHにおいて、抗体がFcRnに結合する能力及び/又はFcRnに結合した状態を保つ能力を指し、この場合第2のpHは第1のpHのpH単位(例えば6、5、4、3、2、1.5単位)の所与の値内である。例えば前記抗体は、pH6でFcRnに結合することができ、pH7.5でもFcRnに結合する又は結合した状態を保つことができる。「pH依存性」という用語は、第1のpHにおいて抗体がFcRnに結合する及び/又は結合した状態を保つ能力、並びに第2のpHにおいて抗体がFcRnに結合する及び/又は結合した状態を保つ能力を欠くことを指し、この場合第2のpHは第1のpHのpH単位(例えば6、5、4、3、2、1.5単位)の所与の値内である。例えば前記抗体は、pH6でFcRnに結合することができ、pH7.5ではFcRnに結合できない又は結合した状態を保つことができない。
【0093】
1つの実施形態では、前記抗体は、pHに依存して、又はpHに依存せず、ラット又はサルFcRnに比べてヒトFcRnに優先的に結合する。1つの実施形態では、前記抗体は、2倍、5倍、又は10倍より多くは異ならない親和性で、ヒトFcRn及び好適な実験動物(例えばラット又はサル)のFcRnの両方に結合する。1つの実施形態では、前記抗体は、6.0~7.5のpH範囲にて、KD≦5nMでヒトFcRn及び好適な実験動物のFcRnの両方に結合する。1つの実施形態では、前記抗体は、エンドソーム内又はエンドソーム条件下でFcRnに結合する。例えば、前記抗体は、酸性条件下、例えばpH6でFcRnに結合する。1つの実施形態では、前記抗体は、pH6にて、pH7.5よりも例えば少なくとも1.5倍、2倍、5倍、8倍、10倍、20倍、又は50倍多く結合する。1つの実施形態では、前記抗体は、pH7.5にて、pH6よりも例えば少なくとも1.5倍、2倍、5倍、8倍、10倍、20倍、又は50倍急速にFcRnを解放する。1つの実施形態では、前記抗体は、pH7.5にて、pH6よりも例えば少なくとも1.5倍、2倍、5倍、8倍、10倍、20倍、又は50倍多くFcRnに結合する。1つの実施形態では、前記抗体は、pH6にて、pH7.5よりも例えば少なくとも1.5倍、2倍、5倍、8倍、10倍、20倍、又は50倍急速にFcRnを解放する。1つの実施形態では、前記抗体は、pH7.5ではFcRnを解放しない。1つの実施形態では、前記抗体は、pH6ではFcRnを解放しない。
【0094】
1つの実施形態では、FcRnとの前記相互作用は、前記抗体の半減期を延長させる。1つの実施形態では、前記抗体は、他のIgG分子の半減期を、例えば少なくとも5、10、20、40、50、60、70、80、又は90%短縮させる。例えば90%の短縮は、抗体の半減期を20日から2日に変化させる。
【0095】
1つの実施形態では、前記抗体は、対象に投与されたとき、自己免疫障害に関する症状を寛解させる。例えば前記抗体は、関節腫脹、関節の疼痛、又は関節硬直;自己抗体等の抗体の循環量;関節の痛み(関節痛);発熱;極度の疲労;発疹;貧血;胸の痛み又は深呼吸時の痛み;頬及び鼻にわたる蝶形皮疹;光線過敏症;脱毛;発作;口腔内又は鼻腔内潰瘍;レイノー現象;軽度の紅斑;神経精神病学的徴候;血小板減少症;及び胸水等の症状を軽減する、又は重篤度を低下させることができる。
【0096】
1つの実施形態では、HC及びLC可変ドメイン配列は、同じポリペプチド鎖の構成要素である、即ちこれらは単鎖抗体の一部である。1つの実施形態では、HC及びLC可変ドメイン配列は、異なるポリペプチド鎖の構成要素である。
【0097】
1つの実施形態では、前記抗体は、完全長抗体である。例えば、前記抗体はヒト抗体又はヒト化抗体であってもよく、及び/又はヒトにおいて非免疫原性であり得る。1つの実施形態では、前記抗体はヒト抗体フレームワーク領域を含む。1つの実施形態では、前記抗体はFcドメインを含む。
【0098】
1つの実施形態では、HC可変ドメイン配列は、3B3.11、31.1、532A- M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の可変ドメイン配列を含み、LC可変ドメイン配列は、3B3.11、31.1、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の可変ドメイン配列を含む。1つの実施形態では、前記抗体は、3B3.11、31.1、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の結合するFcRnエピトープに結合する。1つの実施形態では、前記抗体は、FcRnへの結合について、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11と競合する。
【0099】
1つの態様では、本発明は、モノクローナル抗体を作製する方法であって、FcRnタンパク質若しくはその少なくとも1つの断片、又はFcRn分子若しくはその断片をコードするポリヌクレオチド配列でげっ歯類を免疫することと;前記げっ歯類からB細胞を得ることと;前記B細胞を骨髄腫細胞株と融合させて、ハイブリドーマ細胞を得ることと;前記ハイブリドーマ細胞がモノクローナル抗体を分泌するような条件下でハイブリドーマ細胞を培養して、前記抗体がFcRn分子に特異的に結合する少なくとも1つの可変領域を含み、前記FcRn分子が少なくともIgG定常領域の一部に結合することができるドメインを含み、前記抗体の前記FcRn分子への結合が、IgG定常領域の一部の前記FcRn分子への結合を阻害するようにすることと;前記抗体を単離することとを含む方法を提供する。
【0100】
1つの態様では、本開示は、FcRn、例えばヒトFcRnに結合する抗体を同定する方法を特徴とし、FcRn抗原又はその断片を提供することと;抗体のライブラリ、例えばディスプレイライブラリを提供することと;FcRn抗原に結合するライブラリに結合するライブラリ中に存在するメンバーを特定して、ライブラリの各メンバーがその表面上の異種抗体構成要素を提示し、各メンバーが前記異種抗体構成要素をコードする核酸を含み、前記異種抗体構成要素が多様な抗体構成要素一式のメンバーであるようにすることを含む。前記方法は、特定されたメンバーから核酸分子を単離することを含んでもよく、前記核酸分子はFcRn抗原に特異的に結合するポリペプチドをコードする。1つの実施形態では、前記抗体はヒトFcRnに特異的に結合する。
【0101】
1つの実施形態では、前記ライブラリはファージライブラリ、例えばファージディスプレイライブラリである。1つの実施形態では、前記同定されたファージは、競合リガンド、例えばFcRnに結合するIgG Fcを用いて、及び/又は競合する抗ヒトFcRn抗体により溶出される。
【0102】
別の態様では、本開示は試料中のFcRnを検出する方法を特徴とし、前記方法は、前記試料とFcRn結合抗体(例えば本明細書に記載される抗体)とを接触させることと、前記抗体と、存在する場合FcRnとの間の相互作用を検出することとを含む。1つの実施形態では、前記抗体は、蛍光タグ等の検出可能な標識(例えばbodipy、フルオレセイン-5-イソチオシアネート、ローダミン、及び発色性若しくは化学発光性基質の存在下で検出されるペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ)を含む。
【0103】
1つの態様では、本開示は、FcRn活性を調節する方法を特徴とし、前記方法は、FcRnをFcRn結合抗体(例えば本明細書に記載される抗体)と接触させ、それによりFcRnの活性(例えばIgG Fcへの結合)を調節することを含む。1つの実施形態では、FcRnはヒト対象中に存在し、前記FcRnはヒト対象の上皮若しくは内皮細胞中に存在してもよく、血中(血液に溶解、又は血中循環細胞中)に存在してもよい。1つの実施形態では、前記抗体は、FcRnの基質、例えばIgG Fc及び/又は血清アルブミン等の内因性基質への結合を阻止する。1つの実施形態では、FcRnは、上皮若しくは内皮細胞エンドソーム内に存在する。
【0104】
1つの態様では、本開示は、障害、例えば自己免疫障害又は異常なFcRn活性に関連する障害の症状を治療、予防、及び/又は調節する方法を特徴とする。前記方法は、FcRn結合抗体(例えば本明細書に記載される抗体)を対象、例えば前記障害に罹患している又は前記障害を発現するリスクを有する対象に投与することを含む。1つの実施形態では、前記リガンドは、前記障害の症状を調節するのに十分な量及び/又は時間投与される。
【0105】
1つの実施形態では、自己免疫障害は、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症(MG)、グレーブス病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、ギランバレー症候群、自己免疫性心筋炎、膜型糸球体腎炎、真性糖尿病、I型又はII型糖尿病、多発性硬化症、レイノー症候群、自己免疫性甲状腺炎、胃炎、セリアック病、白斑、肝炎、原発性胆汁性肝硬変、炎症性腸疾患、免疫性好中球減少症、脊椎関節症、実験的自己免疫性脳脊髄炎、若年発症糖尿病、及びサイトカイン仲介性遅延型過敏症に関連する免疫反応、典型的には結核で見られるTリンパ球、サルコイドーシス、及び多発性筋炎、多発性動脈炎、皮膚血管炎、天疱瘡、類天疱瘡、グッドパスチャー症候群、川崎病、全身性硬化症、抗リン脂質症候群、及びシェーグレン症候群から成る群から選択される障害である。
【0106】
1つの実施形態では、本発明の抗体を用いて、血液脳関門を超えるIgGの輸送を阻害することができる。別の実施形態では、本発明の抗体を用いて、脳腫瘍又はアルツハイマー病を治療することができる。
【0107】
1つの実施形態では、前記抗体は、内因性IgGの半減期を短縮する。1つの実施形態では、自己免疫障害は、不所望の循環IgG、例えば不所望の循環病原性IgGを特徴とする。
【0108】
1つの態様では、本開示は、対象中のFcRnを検出する方法を特徴とし、前記方法は、検出可能な標識を含むFcRn結合抗体(例えば本明細書に記載される抗体)を対象に投与することと;前記対象中の前記標識を検出することとを含む。前記方法は、例えばMRI等の断層撮影法等を用いて対象を画像化することを含み得る。
【0109】
1つの態様では、本開示は、循環IgGの半減期/量を調節する方法を特徴とし、前記方法は、循環IgGの半減期/量を調節する必要のある対象、例えばヒトを特定することと;対象中の循環IgGの半減期/量を調節するのに十分な量のFcRn結合抗体(例えば本明細書に記載される抗体)を対象に投与することとを含む。1つの実施形態では、前記方法は、循環IgGの半減期/量を減少させる。1つの実施形態では、循環IgGの半減期/量を減少させるために、別の抗自己免疫障害剤又は療法と組み合わせて前記抗体を投与する。FcRn抗体の投与と他の抗自己免疫障害剤又は療法との組み合わせにより、循環IgGの半減期/量を調節又は減少させるために必要な他の抗自己免疫障害剤又は療法の量を減少させ得る。
【0110】
別の態様では、本開示は3B3.11,31.1,532A- M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の第1の可変ドメイン配列の配列と少なくとも80、85、90、92、94、95、96、97、98、99、又は100%同一である配列、又は3B3.11、31.1、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の可変ドメインの配列をコードする核酸に(例えばストリンジェントな条件下で)ハイブリダイズする配列を含む第1のポリペプチドをコードする第1の配列を含む単離核酸を特徴とする。1つの実施形態では、前記核酸は、(対応する可変ドメインの)第2の可変ドメイン配列、例えば3B3.11、31.1、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の第2の可変ドメイン配列の配列と少なくとも80、85、90、92、94、95、96、97、98、99、又は100%同一である配列、又は3B3.11、31.1、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の可変ドメインの配列をコードする核酸に(例えばストリンジェントな条件下で)ハイブリダイズする配列を含む第2のポリペプチドをコードする第2の配列を含む。1つの実施形態では、前記核酸は、制御配列(例えばプロモータ配列、非翻訳5’領域、及び非翻訳3’領域)及び/又はベクター配列を更に含む。例えば核酸はベクターを構成する。
【0111】
更に別の態様では、本開示は抗体を発現することができる宿主細胞を特徴とする。宿主細胞は、(1)3B3.11、31.1、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の第1の可変ドメイン配列の配列と少なくとも80、85、90、92、94、95、96、97、98、99、又は100%同一である配列、又は3B3.11、31.1、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の可変ドメインの配列を(例えばストリンジェントな条件下で)コードする核酸にハイブリダイズする配列を含む第1の可変ドメイン配列をコードする第1の配列と、(2)(対応する可変ドメインの)第2の可変ドメイン配列、例えば3B3.11、31.1、532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の第2の可変ドメイン配列の配列と少なくとも80、85、90、92、94、95、96、97、98、99、又は100%同一である配列、又は532A-M0090-F09、M0084-B03、M0056-G05、M0084-B11、M0092-D02、M0055-G12、M0057-F02、M0062-C09、M0064-H04、M0073-E10、又はM0090-F11の可変ドメインの配列を(例えばストリンジェントな条件下で)コードする核酸にハイブリダイズする配列を含む第2の可変ドメイン配列をコードする第2の配列とを集合的に含む1つ以上の核酸を含む。
【0112】
1つの態様では、本開示は、自己免疫障害を治療又は予防する方法を特徴とし、前記方法は、FcRn結合抗体(例えば本明細書に記載される抗体)を、例えば第2の療法と組み合わせて、自己免疫障害に罹患している又は前記障害を発現するリスクを有する対象に投与することを含む。例えば第2の療法は、前記障害の治療又は予防に好適な療法であり得る。1つの実施形態では、前記第2の療法としては、静脈内Ig療法;非ステロイド性抗炎症薬(NSAID);コルチコステロイド;シクロスポリン、ラパマイシン、アスコマイシン、又はこれらの免疫抑制類似体、例えばシクロスポリンA、シクロスポリンG、FK-506、ラパマイシン、40-O-(2-ヒドロキシ)エチル-ラパマイシン;シクロホスファミド;アザチオプリン;メトトレキサート;ブレキナル;FTY720;レフルノミド;ミゾリビン;ミコフェノール酸;ミコフェノール酸モフェチル;15-デオキシスペルグアリン;免疫抑制モノクローナル抗体、例えば白血球受容体に対するモノクローナル抗体、例えばMHC、CD2、CD3、CD4、CD7、CD25、CD28、B7、CD45、若しくはCD58、又はこれらのリガンド;他の免疫調節化合物、例えばCTLA4Ig;又は他の接着分子阻害剤、例えばmAb又はセレクチン拮抗剤を含む低分子量阻害剤が挙げられる。
【0113】
別の態様では、本開示は胎児を治療する方法を特徴とし、前記方法は小分子又は巨大分子薬、例えば抗生物質又はワクチン(例えばウイルス性ワクチン)をFcRn結合抗体にコンジュゲート化させることと、前記コンジュゲートを子宮内に胎児のいる妊婦に投与することとを含む。1つの実施形態では、前記胎児は、障害に罹患している又は障害のリスクを有する。例示的障害としては、免疫学的障害(例えば自己免疫障害、代謝障害、又は感染性障害、例えば細菌若しくはウイルス感染、例えば腸管感染(例えばピロリ菌感染)が挙げられる。
【0114】
別の態様では、本開示は乳幼児を治療する方法を特徴とし、前記方法は、小分子又は巨大分子薬をFcRnに結合する抗体、例えば本明細書に記載される抗体にコンジュゲート化させることと、前記コンジュゲート化抗体を母乳に導入することとを含む。1つの実施形態では、前記コンジュゲート化抗体は女性に投与され、前記女性が前記乳幼児に直接(例えば授乳)、又は間接的に母乳を与える。
【0115】
本発明は抗体の好ましい実施形態に関して主に論じられるが、当業者は、抗体以外の結合タンパク質又はリガンドが本開示の範囲内であることを容易に認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【
図1】
図1は、hFcRn又はGPI結合hFcRnをコードするDNA、及びヒトβ2MをコードするDNAで免疫された動物から、免疫の56日後に採取したマウス血清中の抗体の、hFcRn又はヒトβ2Mのいずれかに対する反応性に関する、ELISA分析の結果を示す。マウス番号180~184はプラスミドにコードされたhFcRnで免疫され、マウス番号185~189はプラスミドにコードされたhFcRn及びプラスミドにコードされたhβ2Mで免疫され、マウス番号190~194はプラスミドにコードされたGPI結合hFcRnで免疫され、マウス番号195~199はプラスミドにコードされたGPI結合hFcRn及びプラスミドにコードされたhβ2Mで免疫された。
【
図2】
図2は、hFcRn又はGPI結合hFcRnをコードするDNA、及びヒトβ2MをコードするDNAで免疫された動物から、免疫の94日後に採取したマウス血清中の抗体の、hFcRn又はヒトβ2Mのいずれかに対する反応性に関する、ELISA分析の結果を示す。
【
図3】
図3は、182番のマウスに由来するクローンの上清が293C11細胞(FcRnを過剰発現するよう改変されたHEK293細胞)上のhFcRnに対するhIgGの結合をブロックできるかどうかを決定するために実施されたFACS分析の結果を示す。293C11細胞を60~90分間ハイブリドーマ上清と共にインキュベートし、次いでPBSで洗浄した後、Alexa fluor-488標識hIgGと共にインキュベートした。結果は、(A)合計平均蛍光強度(TMFI)又は(B)ヒトIgGのFcRnへの結合の変化(阻害又は増強)の割合(%)について表す。
【
図4】
図4は、実施例6に記載される方法により、187番のマウスに由来するハイブリドーマ上清のブロッキング活性を測定するために実施されたFACS分析の結果を示す。結果は、(A)合計平均蛍光強度(TMFI)又は(B)ヒトIgGのFcRnへの結合の変化(阻害又は増強)の割合(%)について表す。
【
図5】
図5は、Alexa-488-標識hIgG及び抗FcRnブロッキングモノクローナル抗体又はhIgG1の存在下でインキュベートされた293C11細胞(FcRnを高発現するよう改変されたHEK293細胞)の細胞表面染色を評価することにより、種々の濃度の(A)mAb31.1、mAb4.13、及びhIgG1;又は(B)mAb3B3.11、mAb4B4.12、及びhIgG1におけるFcRnのブロッキング活性能を測定するために実施されたFACS分析の結果を示す。結果は、種々の濃度のTMFIを競合物質の存在しない試料のTMFIで除し、100%を乗じたものとして定義される、293C11細胞に対するhIgGの結合の割合(%)として表す。
【
図6】
図6は、mAb3B3.11、mAb31.1、mAb4.13、mAb4B4.12、及びmAb15B6.1の、FcRn発現293C11細胞(FcRnを過剰発現するよう改変されたHEK293細胞)の細胞表面に対する結合を測定するために実施されたFACS分析の結果をヒストグラムで示す。
【
図7】
図7は、mAb3B3.11、mAb31.1、mAb4.13、及びmAb4B4.12の、ラットFcRn発現細胞(ラットFcRnを過剰発現するよう改変されたラット線維芽細胞)の細胞表面に対する結合を測定するために実施されたFACS分析の結果をヒストグラムで示す。
【
図8】
図8は、mAb3B3.11、mAb4.13、mAb31.1、mAb4B4.12、及びmAb15B6.1の、FcRn発現マウス3T3細胞(マウスFcRnを過剰発現するよう改変されたNIH3T3細胞)の細胞表面に対する結合を測定するために実施されたFACS分析の結果をヒストグラムで示す。
【
図9】
図9は、mAb3B3.11、mAb4.13、mAb31.1、mAb4B4.12、及びmAb15B6.1の、THP細胞(ヒト単核球細胞株)の細胞内で発現するhFcRnに対する結合を測定するために実施されたFACS分析の結果をヒストグラムで示す。
【
図10】
図10は、mAb3B3.11、mAb4.13、mAb31.1、mAb4B4.12、及びmAb15B6.1の、Caco-2細胞(ヒト腸管上皮細胞株)の細胞内で発現するhFcRnに対する結合を測定するために実施されたFACS分析の結果をヒストグラムで示す。
【
図11】
図11は、mAb4B4.12又はアイソタイプ対照mIgG2a(1813)のいずれかと表面上又は細胞内で反応する、(A)マウス脾臓由来のマクロファージ集団、及び(B)全マウス脾細胞集団の割合(%)を示す。
【
図12】
図12は、OVA+CFAで免疫され、mAb4B4.12、アイソタイプ対照mIgG2a(1813)、又はPBSのいずれかで処理されたマウスの(A)脾臓及び(B)鼠径リンパ節の平均重量を示す。マウスは、OVA+CFAで免疫され、1gのmAb4B4.12、アイソタイプ対照1813を10回注入することにより腹腔内処理された。
【
図13】
図13は、OVAで免疫され、次いでmAb4B4.12、陽性対照であるmIgG2a(1813)、又はPBSのいずれかで処理されたBalb/cマウスの抗オボアルブミン(OVA)IgGの、血清濃度に対する効果を示す。抗体処理は、抗体の毎日腹腔内(IP)注入を3回と、続いて抗体の隔日IP注入を10回行うことから成っていた。示される結果は、抗体処理(5回注入)の9日後に得られた。
【
図14】
図14は、1mg/kgのヒトIgG(Synagis)を腹腔内(IP)注入し、次いで72時間後20mg/kgのmAb4B4.12、20mg/kgのアイソタイプ対照であるmIgG2a(1813)、又はPBSのいずれかを単回IP注入することにより処理されたCD-1マウスのヒトIgGの、血清濃度に対する効果を示す。血清試料は、mAB注入直前(Synagis注入の72時間後)、mAB注入の72時間後及び168時間後に採取した。示される結果は、抗体処理の24時間後に採取された血清から得られた。
【
図15】
図15は、2つの血清採取点(72及び168時間)を加えた、
図14に記載された実験と同じ実験を示す。結果は、mAB注入前のSynagis濃度と比較したときの残存Synagisの割合(%)として表された。
【
図16】
図16は、mAb4B4.12、アイソタイプ対照であるmIgG2a(1813)、又はPBSのいずれかによる処理の、実験的自己免疫重症筋無力症(EAMG)の症状の重篤度に対する影響の経時変化を示す。疾患の重篤度は、以下のように次第に重篤な症状を示す0から4の等級を割り当てることにより評価された:0-症状無;1-握力低下、易疲労、及び時に喘鳴;2-全身的脱力、安静時猫背、体重減少、振戦;3-重篤な脱力、瀕死;及び4-死。
【
図17】
図17は、mAb4B4.12、アイソタイプ対照であるmIgG2a(1813)、又はPBSのいずれかにより処理の、実験的自己免疫重症筋無力症(EAMG)の結果としての体重減少(y軸にグラムで示される)に対する影響を示す。
【
図18】
図18は、Tg32Bマウス(hFcRn+/+、hβ2M+/+、mFcRn-/-、mβ2M-/-)における、ビオチン化ヒトIgG(ビオチン-hIgG)と非標識ヒトIgG(hIgG)のクリアランス動態の比較を示す。動物は、5mg/kgのビオチン化ヒトIgG(Synagis)及び495mg/kgの非標識hIgGを静脈内(IV)注入された。血清は、図に示す時点で回収され、血清ビオチン-hIgG濃度はアビジンプレート(Pierce Chemicals)を用いて測定され、非標識hIgGはELISAにより測定された。
【
図19】
図19は、mAb3B3.11で動物を処理した後のTg32Bマウス(hFcRn+/+、hβ2M+/+、mFcRn-/-、mβ2M-/-)における、ビオチン化ヒトIgG(ビオチン-hIgG)のクリアランス動態を示す。動物は、5mg/kgのビオチン化ヒトIgG(Synagis)及び495mg/kgの非標識hIgGを静脈内(IV)注入された。24時間後、50mg/kgのmAb3B3.11の毎日IV注入を開始し、次いで5日間継続した。血清は図に示す時点で回収され、血清ビオチン-hIgG濃度はアビジンプレート(Pierce Chemicals)を用いて測定された。
【
図20】
図20は、mAb3B3.11、mAb4.13、mAb31.1、mAb4B4.12、及びmAb15B6.1の、サルFcRn/β2MでトランスフェクトされたCOS1細胞への結合を測定するために実施されたFACS分析の結果を棒グラフで示す。結果はTMFIで表される。
【
図21】
図21は、mAB3B3.11、15B6.1、4.13、及び31.1のhFcRnα鎖に対する特異的結合、並びにmAb3B5.4及び5A4.9のβ2Mへの特異的結合を測定するために実施されたウエスタンブロットを示す。
【
図22A】
図22Aは、これらmABが認識するエピトープを決定するために実施されたBiacoreエピトープ分析の結果を示す。
【
図22B】
図22Bは、これらmABが認識するエピトープを決定するために実施されたBiacoreエピトープ分析の結果を示す。
【
図22C】
図22Cは、これらmABが認識するエピトープを決定するために実施されたBiacoreエピトープ分析の結果を示す。
【
図22D】
図22Dは、これらmABが認識するエピトープを決定するために実施されたBiacoreエピトープ分析の結果を示す。
【
図23】
図23は、4日連続してM90-F11、M84-B11及びM55-G12の静脈内投与を毎日行ったときのTg32Bマウスのビオチン-IgG異化作用に対する効果を示す。
【
図24】
図24は、hFcRn TgマウスにおけるhIgG異化作用に対するM90-F11の用量反応を示す(4日連続して毎日静脈内投与)。
【
図25】
図25は、hFcRn TgマウスにおけるhIgG異化作用に対するM90-F11の単回用量反応を示す。
【
図26】
図26は、生殖系列化M90-F11を親和性成熟させるために用いられるアプローチを示す。
【
図27】
図27は、20mg/kg静脈内投与時のTg32BマウスにおけるhIgG異化作用の促進に対する親和性成熟したIgG及び可溶性FABの効果を示す(ビオチンIgG及び全IgG)。
【
図28】
図28は、5mg/kg静脈内投与時のTg32BマウスにおけるhIgG異化作用の促進に対する親和性成熟したIgG及び可溶性FABの効果を示す(ビオチンIgG及び全IgG)。
【
図29】
図29は、重鎖ではなく軽鎖に導入されたM90-F11生殖系の変化(太字で強調)を示す。
【
図31】
図31は、Tg32BマウスにおけるhIgGの異化作用に対する、静脈内投与された抗FcRn抗体の効果を示す。
【
図32】
図32は、Tg32BマウスにおけるhIgGの異化作用に対する、皮下投与されたM161-B04(DX2504)抗FcRn抗体の効果を示す。
【
図33】
図33は、カニクイザルにおけるhIgGの異化作用に対する、抗FcRn抗体の効果を示す。
図33Aは、血液試料が採取された時間を示す。
図33Bは、抗FcRn抗体M161-B04が投与されなかったときの総血清IgG濃度を示す。
【
図34】
図34は、サルに5mg/kgで静脈内(
図34A)及び皮下(
図34B)投与されたM161-B04抗FcRn抗体の効果を示す。個々のサルについてのデータが示される。
【
図35】
図35は、サルに20mg/kgで静脈内(
図35A)及び皮下(
図35B)投与されたM161-B04抗FcRn抗体の効果を示す。個々のサルについてのデータを示す。
【
図36】
図36は、サルに種々の濃度で静脈内及び皮下投与されたM161-B04抗FcRn抗体の効果を示す(投与前に対してデータを正規化)。
【
図37】
図37は、サルにおける血清IgA(
図37A)、血清IgM(
図37B)、及び血清アルブミン(
図37C)の濃度に対する静脈内及び皮下投与されたM161-B04抗FcRn抗体の効果を示す(投与前に対してデータを正規化)。
【
図38】
図38は、DX-2504配列及びそのアラインメントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0117】
正常な状況では、FcRnは循環IgGの半減期を延長させることができる。FcRnに結合する抗体を用いて、例えばIgGとの相互作用を阻止することにより、FcRnの機能を調節することができる。具体的には、FcRnとIgGとの相互作用をブロックする抗体を用いて、IgG分子の半減期を短縮することができる。
【0118】
これら抗体及び関連ストラテジを用いて、多発性硬化症、炎症性腸疾患、関節リウマチ(RA)、及び全身性エリテマトーデス(SLE)、又は本明細書に記載される別の自己免疫障害等の抗体仲介性自己免疫障害を治療及び更には予防することができる。拮抗性抗ラットFcRnモノクローナル抗体(mAb)1G3は、30mg/kgの用量(即ち、MG、SLE、及びITPの治療で用いられる静脈内IgG(IVIG)よりも約100倍低い)でラット受動型モデルにおける実験的自己免疫重症筋無力症(EAMG)を阻止することに成功した。更に、狼瘡又は関節炎等の自己免疫障害を遺伝的に発現しやすいFcRn欠損マウスは、疾患の重篤度が有意に低下した。したがって、抗ヒトFcRnブロッキング抗体は、ヒトにおける自己免疫障害の治療に対する治療可能性を有する。
【0119】
本開示は更に、とりわけ、自己免疫障害の治療及びIgGの循環量の低下に利用可能なヒト拮抗性抗ヒトFcRn抗体を提供する。また、抗原結合ドメインを通して結合し、IgG-FcとヒトFcRn又はラットFcRnとの間の相互作用をブロックする能力を有する高親和性可溶性Fab(sFab)の同定について開示する(ヒトFcRn又はラットFcRnを過剰発現するよう改変された細胞株を用いて、可溶性タンパク質及び生細胞結合アッセイの両方で評価したとき)。sFabは、pHに依存せず、又はpHに依存して、例えばpH6等の酸性pHにて、結合及びブロックすることができる。sFabは、IgG抗体に変換することができる。
【0120】
定義
「結合タンパク質」とは、標的分子と相互作用することができるタンパク質を指す。この用語は「リガンド」と互換的に用いられる。「FcRn結合タンパク質」又は「FcRn結合リガンド」とは、FcRnと相互作用することができるタンパク質を指し、特にFcRn(例えば、IgG)と優先的に相互作用するタンパク質を含む。
【0121】
本明細書中で用いる「抗体」とは、少なくとも1つの免疫グロブリン可変ドメイン又は免疫グロブリン可変ドメイン配列を含むタンパク質を意味する。例えば、抗体は重(H)鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)と軽(L)鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)を含み得る。別の例では、抗体は2つの重(H)鎖可変領域と2つの軽(L)鎖可変領域を含む。「抗体」という用語は、完全な抗体だけでなく、抗体の抗原結合断片(例えば、一本鎖抗体、Fab及びsFab断片、F(ab’)2、Fd断片、Fv断片、scFv、及びdAb断片)も包含する。
【0122】
VH及びVL領域は、「フレームワーク領域」(FR)と呼ばれる比較的保存された領域とともに間隔をおいて配置された、「相補性決定領域」(「CDR」)と呼ばれる超可変性の領域に更に再分割することができる。フレームワーク領域とCDRの範囲は正確に定義されている(Kabat,E.A.,et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242、及びChothia,C.et al.(1987)J.Mol.Biol.196:901-917、またhttp://www.hgmp.mrc.ac.ukを参照のこと)。本明細書ではKabatの定義を用いる。各VH及びVLは典型的には3つのCDRと4つのFRから成り、これらはアミノ末端からカルボキシ末端の方向に次の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。
【0123】
全長抗体の「抗原結合断片」(又は単純に「抗体部分」若しくは「断片」)とは、本明細書中で用いるとき、対象の標的と特異的に結合する能力を保持する、全長抗体の1以上の断片を指す。全長抗体の「抗原結合断片」という用語に包含される結合断片の例としては、(i)Fab断片、即ちVL、VH、CL及びCH1ドメインから成る一価断片;(ii)F(ab’)2断片、即ちヒンジ領域でジスルフィド結合により連結された2つのFab断片を含む二価断片;(iii)VH及びCH1ドメインから成るFd断片;(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインから成るFv断片;(v)dAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546)(VHドメインから成る);及び(vi)官能価を保持する単離された相補性決定領域(CDR)。更に、Fv断片の2つのドメインであるVLとVHは別個の遺伝子によってコードされるが、組換え法を用いて、合成リンカーによってそれらを結合させることができる。かかる合成リンカーは、両ドメインを単一のタンパク質(VL及びVH領域が対合して、一本鎖Fv(scFv)として知られる一価分子を形成する)として作製することを可能にする。例えば、Bird et al.,(1988)Science 242:423-426;及びHuston et al.,(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照のこと。
【0124】
抗体断片は当業者に知られた従来の方法を含む任意の適切な方法を使って得ることができる。「単一特異的抗体」という用語は、特定の標的(例えば、エピトープ)に対して単一の結合特異性及び親和性を示す抗体を意味する。この用語は「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」を含み、本明細書中で用いるとき、単一分子組成の抗体又はその断片の調製物を指す。本明細書中で用いる「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によりコードされる抗体クラス(例えば、IgM又はIgGl)を指す。
【0125】
本明細書中で用いる「結合親和性」とは、見かけの結合定数つまりKaを意味する。Kaは解離定数(Kd)の逆数である。結合タンパク質は、例えば、特定の標的分子に対して少なくとも10-5、10-6、10-7、10-8、10-9、10-10、及び10-11Mの結合親和性を有する。第2標的に比して第1標的への結合リガンドのより高い親和性結合は、第2標的への結合のKa(又は数値Kd)より、第1標的への結合のKaが高い(又は数値Kdが小さい)ことにより示される。そのような場合に、結合タンパク質は第2標的(例えば、第2立体配座の同タンパク質又はその模倣体;又は第2のタンパク質)よりも第1標的(例えば、第1立体配座のタンパク質又はその模倣体)に対して特異性を有する。結合親和性(例えば、特異性又は他の匹敵するものに対する)の差は少なくとも1.5、2、3、4、5、10、15、20、50、70、80、100、500、1000、又は105倍であり得る。
【0126】
結合親和性は、平衡透析、平衡結合、ゲル濾過、ELISA、表面プラズモン共鳴、又は分光法(例えば、蛍光検定を使用する)を含む、様々な方法で測定することができる。結合親和性を評価するための典型的な条件は、pH7.2のPBS(リン酸緩衝食塩水)中30℃である。こうした方法を用いて、結合した及び遊離の結合タンパク質の濃度を、結合タンパク質(又は標的)濃度の関数として測定することができる。結合した結合タンパク質の濃度(「結合」)は、以下の式により、遊離の結合タンパク質の濃度([遊離])と標的上の結合タンパク質の結合部位の濃度に関連付けられる(式中、Nは標的分子あたりの結合部位の数である):
[結合]=N・[遊離]/((1/Ka)+[遊離])
【0127】
しかし、Kaの正確な測定を行うことが常に必要であるとは限らない。なぜなら、往々にして、それは、親和性の定量的測定(例えば、ELISA又はFACS分析のような方法を用いて測定される)を得るのに十分であり、Kaに比例しており、それゆえに、より高い親和性が例えば2倍高いかどうかを確認するといった比較のために使用して、親和性の定性的測定を得たり、或いは、例えば機能アッセイ(例えば、インビトロ又はインビボアッセイ)での活性により、親和性の推測を得たりすることができるからである。
【0128】
「コグネイトリガンド(cognate ligand)」とは、FcRnの天然に存在するリガンドを指し、その天然に存在する変異体(例えば、スプライス変異体、天然の突然変異体、及びイソ型)も含まれる。
【0129】
「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基を、類似の側鎖をもつアミノ酸残基で置換することである。類似の側鎖をもつアミノ酸残基のファミリーは当技術分野で定義されている。これらのファミリーには以下のものが含まれる:塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)。多くのフレームワーク及びCDRアミノ酸残基には1以上の保存的置換を含むことが可能である。
【0130】
生体高分子のコンセンサス配列は、各種アミノ酸間で変化させることのできる位置を含むことができる。例えば、そのような場合に記号「X」は、一般に、任意のアミノ酸(例えば、20種類の天然アミノ酸のいずれか、又はシステイン以外の19種類のアミノ酸のいずれか)を意味する。許容される他のアミノ酸はまた、例えば、丸括弧とスラッシュを使って、示すこともできる。例えば、「(A/W/F/N/Q)」は、アラニン、トリプトファン、フェニルアラニン、アスパラギン、及びグルタミンがその特定の位置において許容されることを意味する。
【0131】
「実質的にヒトである」免疫グロブリン可変領域は、その免疫グロブリン可変領域が正常なヒトにおいて免疫原反応を誘発しないように、十分な数のヒトフレームワークアミノ酸位置を含む免疫グロブリン可変領域のことである。「実質的にヒトである」抗体は、その抗体が正常なヒトにおいて免疫原反応を誘発しないように、十分な数のヒトアミノ酸位置を含む抗体のことである。
【0132】
「エピトープ」とは、結合タンパク質(例えば、Fab又は全長抗体等の抗体)が結合する標的化合物上の部位を指す。標的化合物がタンパク質である場合には、その部位は完全にアミノ酸成分から構成されるか、完全に該タンパク質のアミノ酸の化学的修飾物(例えば、グリコシル部分)で構成されるか、又はそれらの組合せにより構成される。重複するエピトープは少なくとも1個の共通のアミノ酸残基を含む。
【0133】
2つの配列間の「相同性」又は「配列同一性」(これらの用語は本明細書では互換的に用いられる)の計算は次のように行われる。最適な比較を目的として配列のアライメントを行う(例えば、最適なアラインメントのために第1及び第2のアミノ酸又は核酸配列の一方又は両方にギャップを導入することができ、また比較のために非相同配列を無視することができる)。GCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムを用いて、ギャップペナルティー12、ギャップ伸張ペナルティー4、及びフレームシフトギャップペナルティー5にて、Blosum62スコアリングマトリックスにより最良のスコアとして最適なアライメントを決定する。その後、対応するアミノ酸位置のアミノ酸残基又は対応するヌクレオチド位置のヌクレオチドを比較する。第1配列のある位置に、第2配列の対応する位置と同じアミノ酸残基又はヌクレオチドが存在する場合には、これらの分子はその位置で同一となる(本明細書中で用いるアミノ酸又は核酸「同一性」は、アミノ酸又は核酸「相同性」に等しい)。2つの配列間の同一性パーセントは、両配列により共有される同一位置の数の関数である。
【0134】
1つの実施形態において、比較のためにアライメントが行われる参照配列の長さは、該参照配列の長さの少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、80%、90%、92%、95%、97%、98%、又は100%である。例えば、参照配列は免疫グロブリン可変ドメイン配列の長さであってよい。
【0135】
「ヒト化」免疫グロブリン可変領域は、その免疫グロブリン可変領域が正常なヒトにおいて免疫原反応を誘発しないように、十分な数のヒトフレームワークアミノ酸位置を含むよう改変されている免疫グロブリン可変領域のことである。「ヒト化」免疫グロブリンの記述は、例えば米国特許第6,407,213号及び同第5,693,762号に見出せる。
【0136】
本明細書中で用いる「低度のストリンジェンシー、中度のストリンジェンシー、高度のストリンジェンシー、又は非常に高度のストリンジェンシーの条件下でハイブリダイズする」という用語は、ハイブリダイゼーションと洗浄の条件を説明している。ハイブリダイゼーションを行うための指針は、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,N.Y.(1989),6.3.1-6.3.6に見出すことができ、前記文献を引用により本明細書に組み込むものとする。この文献には水性方法と非水性方法が記載されており、どちらも使用することができる。本明細書で言うところの具体的なハイブリダイゼーション条件は次のとおりである:(1)低度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件、約45℃にて6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)、続いて少なくとも50℃にて0.2×SSC、0.1% SDSで2回洗浄(低ストリンジェンシー条件の場合は、洗浄温度を55℃に上げてもよい);(2)中度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件、約45℃にて6×SSC、続いて60℃にて0.2×SSC、0.1% SDSで1回以上洗浄;(3)高度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件、約45℃にて6×SSC、続いて65℃にて0.2×SSC、0.1% SDSで1回以上洗浄;及び(4)非常に高度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件、65℃にて0.5M リン酸ナトリウム、7% SDS、続いて65℃にて0.2×SSC、1% SDSで1回以上洗浄。非常に高度のストリンジェンシー条件(4)が好適な条件であり、特に明記しない限りこれを使用すべきである。本開示は、本明細書に記載する核酸又はその相補体(例えば、本明細書に記載する結合タンパク質をコードする核酸)に低度、中度、高度又は非常に高度のストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする核酸を包含する。これらの核酸は同じ長さであっても、参照核酸の長さの30、20、又は10%以内であってもよい。その核酸は免疫グロブリン可変ドメイン配列をコードする領域に相当し得る。
【0137】
FcRn結合タンパク質は、本明細書に記載する結合タンパク質に対して、該タンパク質の機能に重大な影響を及ぼさない突然変異(例えば、保存的アミノ酸置換又は非必須アミノ酸置換)を含んでいてもよい(例えば少なくとも1、2、若しくは4、及び/又は15、10、5、若しくは3未満)。特定の置換が許容されるかどうか、即ち、生物学的特性(例えば、結合活性)に有害な影響を与えないかどうかは、例えば、Bowie et al.,(1990)Science 247:1306-1310に記載の方法を用いて予測することができる。
【0138】
「免疫グロブリンドメイン」とは、免疫グロブリン分子の可変ドメイン又は定常ドメインに由来するドメインを指す。免疫グロブリンドメインは典型的には、約7本のβ鎖から形成された2つのβシートと、保存されたジスルフィド結合とを含む(例えば、A.F.Williams and A.N.Barclay 1988 Ann.Rev Immunol.6:381-405を参照のこと)。
【0139】
本明細書中で用いる「免疫グロブリン可変ドメイン配列」とは、1つ以上のCDR領域が抗原結合部位に好適な立体構造で配置されるように、免疫グロブリン可変ドメインの構造を形成することができるアミノ酸配列を指す。例えば、この配列は天然の可変ドメインのアミノ酸配列の全部又は一部を含み得る。例えば、この配列は1個、2個又はそれ以上のN-若しくはC-末端アミノ酸、内部アミノ酸を欠失していてもよく、1個以上の挿入又は追加の末端アミノ酸を含んでいてもよく、その他の改変を含んでいてもよい。1つの実施形態では、免疫グロブリン可変ドメイン配列を含むポリペプチドを別の免疫グロブリン可変ドメイン配列と結合させて、標的結合構造(つまり「抗原結合部位」)、例えば、FcRn構造に対して優先的に相互作用する構造を形成することができる。
【0140】
抗体のVH鎖及びVL鎖は重鎖若しくは軽鎖定常領域の全部又は一部を更に含むことができ、それにより、それぞれ重免疫グロブリン鎖又は軽免疫グロブリン鎖が形成される。1つの実施形態では、抗体は2本の重免疫グロブリン鎖と2本の軽免疫グロブリン鎖から成る四量体であり、そこでは、重免疫グロブリン鎖と軽免疫グロブリン鎖は、例えばジスルフィド結合によって、相互に連結される。重鎖定常領域は3つのドメイン、即ちCH1、CH2及びCH3を含む。軽鎖定常領域は1つのCLドメインを含む。重鎖及び軽鎖の可変領域は抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は一般に、抗体が宿主の組織又は因子(免疫系の各種細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(Clq)を含む)に結合するのを仲介する。「抗体」という用語は、IgA、IgG、IgE、IgD、IgMタイプ(並びにそのサブタイプ)のインタクトな免疫グロブリンを包含する。免疫グロブリンの軽鎖はκ又はλタイプのものであり得る。1つの実施形態では、抗体がグリコシル化されている。抗体は抗体依存性細胞傷害及び/又は補体媒介細胞傷害に対して機能的であり得る。
【0141】
抗体の1以上の領域はヒト又は実質的にヒトであり得る。例えば、可変領域の1以上がヒト又は実質的にヒトであり得る。例えば、CDR(例えば、HC CDR1、HC CDR2、HC CDR3、LC CDR1、LC CDR2、及びLC CDR3)の1以上がヒトであり得る。軽鎖CDRのそれぞれがヒトであり得る。HC CDR3がヒトであり得る。フレームワーク領域(例えば、HC又はLCのFR1、FR2、FR3、及びFR4)の1以上がヒトであり得る。1つの実施形態では、全てのフレームワーク領域がヒトであり、例えばヒト体細胞(例えば、免疫グロブリンを産生する造血細胞又は非造血細胞)由来である。1つの実施形態において、ヒト配列は生殖系列配列であり、例えば生殖系列核酸によりコードされるものである。定常領域の1つ以上はヒト又は実質的にヒトであり得る。1つの実施形態では、抗体の少なくとも70、75、80、85、90、92、95、又は98%、または全抗体がヒト又は実質的にヒトであり得る。
【0142】
抗体の全部又は一部は免疫グロブリン遺伝子又はそのセグメントによりコードされる。代表的なヒト免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α(IgA1及びIgA2)、γ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、δ、ε、及びμ定常領域遺伝子、並びに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。全長免疫グロブリン「軽鎖」(約25KDa又は214アミノ酸)は、NH2-末端の可変領域遺伝子(約110アミノ酸)とCOOH末端のκ又はλ定常領域遺伝子によってコードされる。全長免疫グロブリン「重鎖」(約50KDa又は446アミノ酸)は、同様に、可変領域遺伝子(約116アミノ酸)と他の前記定常領域遺伝子の1つ、例えばγ(約330アミノ酸をコードする)によってコードされる。
【0143】
「単離された組成物」とは、該組成物を得ることができる天然試料の少なくとも1つの成分の少なくとも90%から分離されている組成物を意味する。人工的又は天然に得られる組成物は、対象の種又は種の集団が重量-重量基準で少なくとも5、10、25、50、75、80、90、92、95、98、又は99%純粋である場合、少なくともある純度の組成物であり得る。
【0144】
「模倣体」とは、FcRn又はその一部の立体配座の模倣体という文脈では、天然に存在するFcRn又はその一部と比べて、少なくとも1つの特定の立体配座をとる傾向がある改変型FcRnを指す。
【0145】
「非必須」アミノ酸残基は、生物学的活性を完全に消失させることなく、生物学的活性を実質的に改変させることなく、結合物質(例えば、抗体)の野生型配列から改変させることのできる残基であり、一方「必須」アミノ酸残基はそのような変化をもたらすものである。
【0146】
本明細書中で用いる「非経口投与」及び「非経口的に投与する」とは、経腸及び局所(外用)投与以外の投与様式を意味し、通常注射により行われ、例えば限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、嚢内、包内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、脊髄内、硬膜外、及び胸骨下注射及び注入が挙げられる。
【0147】
「ポリペプチド」又は「ペプチド」(これらは互換的に用いられる)とは、ペプチド結合で連結された3個以上のアミノ酸、例えば3~30アミノ酸、12~60アミノ酸、若しくは30~300アミノ酸、又は300アミノ酸を上回る長さの高分子を意味する。ポリペプチドは1個以上の非天然アミノ酸を含んでいてもよい。典型的には、ポリペプチドは天然アミノ酸のみを含む。「タンパク質」は1本以上のポリペプチド鎖を含み得る。したがって、「タンパク質」という用語はポリペプチドを包含する。タンパク質又はポリペプチドは1以上の修飾、例えばグリコシル化、アミド化、リン酸化、ニトロシル化等を含んでいてもよい。「小ペプチド」という用語は、長さが3~30アミノ酸(例えば、8~24アミノ酸)のポリペプチドを表すために用いられる。
【0148】
「予防に有効な量」とは、所望の予防結果を達成するのに必要な投与量及び時間で、所望の予防結果を達成するのに有効な量を指す。一般的には、予防量は疾患に先立って又はその初期に用いられるので、予防に有効な量は治療に有効な量よりも少なくなる。
【0149】
本明細書中で用いる「実質的に同一」(又は「実質的に相同」)とは、第1のアミノ酸又は核酸配列が第2のアミノ酸又は核酸配列と同一の若しくは同等の(例えば類似の側鎖をもつ、例えば保存されたアミノ酸置換)アミノ酸残基又はヌクレオチドを十分な数含み、その結果、第1及び第2のアミノ酸又は核酸配列が同様の活性、例えば結合活性、結合優先性、又は生物学的活性を示す(又は、かかる活性を示すタンパク質をコードする)ことを意味する。抗体の場合には、第2の抗体が同様の特異性を有し且つ同一の抗原に対して少なくとも50%の親和性を有する。
【0150】
本明細書に開示する配列に類似の又は相同の配列(例えば、少なくとも約85%の配列同一性を有する配列)もまた本出願の一部である。ある実施形態では、配列同一性が約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上であり得る。更に、実質的な同一性は、例えば、核酸セグメントが該核酸鎖の相補体に選択的ハイブリダイゼーション条件(例えば、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件)下でハイブリダイズする場合にも、存在する。核酸は細胞全体内に、細胞溶解液中に、又は部分的に精製された形態若しくは実質的に純粋な形態で存在し得る。
【0151】
統計的有意差は、当技術分野で既知の方法により求めることができる。代表的な統計学的検定には、スチューデントのT検定、Mann WhitneyのUノンパラメトリック検定、及びWilcoxonのノンパラメトリック統計検定が含まれる。幾つかの統計的に有意な関係は、0.05又は0.02未満のP値を有する。特定の結合タンパク質は、統計的に有意(例えば、P値<0.05又は0.02)な差(例えば、特異性又は結合の差)を示し得る。「誘発する」、「阻害する」、「増強する」、「高める」、「増加する」、「低下する」等の用語は、2つの状態間の識別可能な量的又は質的な相違を表し、これら2つの状態間の差(例えば、統計的有意差)を指すことができる。
【0152】
「治療に有効な投与量」は、未治療の対象と比べて、測定可能なパラメーター(例えば、循環IgG抗体の量)を統計的に有意な程度、又は少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも60%、若しくは少なくとも80%調節する。測定可能なパラメーター(例えば、自己免疫)を調節する化合物の能力は、ヒト自己免疫障害における効果を予測できるモデル動物系で評価することができる。或いは、組成物のこの性質は、化合物のパラメータを調節する能力を、例えば当業者に既知のアッセイによりインビトロで試験することにより評価することもできる。
【0153】
本発明の他の構成及び効果は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。本発明の実施形態は本明細書に記載する特徴の任意の組合せを含み得る。いかなる場合にも、「実施形態」という用語は、本明細書に開示する1以上の他の特徴を除外するものではない。
【0154】
FcRn配列
以下の配列アラインメントは、ヒトFcRnα鎖のアミノ酸配列と、ラットFcRnα鎖のアミノ酸配列とのアラインメントである。例示的なFcRnタンパク質は、これら2つの配列、又はこれらの断片のうちの1つ、例えばシグナル配列を含まない断片を含んでもよい。
【化1】
【0155】
以下の配列アラインメントは、ヒトβ2マイクログロブリンのアミノ酸配列と、ラットβ2マイクログロブリンのアミノ酸配列とのアラインメントである。例示的FcRnタンパク質は、これら2つの配列、又はこれらの断片のうちの1つ、例えばシグナル配列を含まない断片を含んでもよい。
【化2】
【0156】
FcRnタンパク質α鎖をコードする例示的核酸配列は、以下の配列を含み得る。
FcRnαヌクレオチド配列 Homo sapiens
【化3】
【0157】
例示的ヒトFcRn(細胞外ドメイン)の核酸配列+GPI DNA配列(小文字、太字)を以下に示す。
【化4】
【0158】
β-2-マイクログロブリン(β2M)をコードする例示的核酸配列は、以下の配列を含み得る。
【化5】
【0159】
マウス抗ヒトFcRn抗体
抗体の構造及び配列
本発明は、少なくとも1つのFcRnエピトープに特異的に結合する抗体であって、前記抗体がFcRnエピトープに結合することにより、FcRnに対するIgGのFc部分の結合が阻害される抗体に関する。したがって本発明は、FcRnブロッキング抗体に関する。ブロッキング抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEであり得る。1つの実施形態では、ブロッキング抗体はIgGである。1つの実施形態では、本発明の抗体は、1010M-1の結合親和性を有する。別の実施形態では、本発明の抗体は、1011M-1の結合親和性を有する。
【0160】
1つの実施形態では、本発明は、3B3.11ハイブリドーマ、31.1ハイブリドーマ、4B4.12ハイブリドーマ、又は17D3ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体に関する。
【0161】
1つの実施形態では、本発明は、FcRn線状エピトープに結合する抗体に関する。別の実施形態では、本発明は、FcRn立体構造エピトープに結合する抗体に関する。1つの実施形態では、本発明の抗体は、EPPSMRLKAR(配列番号105)又はその断片を含むアミノ酸配列に結合する。別の実施形態では、本発明の抗体は、CSAFYPPELQLRFFLRNGL(配列番号106)又はその断片を含むアミノ酸配列に結合する。
【0162】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、3B3.11及び31.1により認識されるエピトープと同じエピトープに特異的に反応する。かかる抗体は、競合結合アッセイで決定され得る。
【0163】
本発明の抗FcRn抗体の例示的実施形態のアミノ酸(AA)配列(前記抗体のV
H及びV
Lドメイン、及びCDRを含む)を表1に列挙する。前記抗体の2つの特定の実施形態は、3B3.11及び31.1と同定される。
【表1】
【0164】
3B3.11軽鎖のアミノ酸配列を以下に記載する。CDR領域に下線を引き、定常領域をイタリック体で示す。
【化6】
【0165】
3B3.11重鎖のアミノ酸配列を以下に記載する。CDR領域に下線を引き、定常領域をイタリック体で示す。
【化7】
【0166】
31.1軽鎖のアミノ酸配列を以下に記載する。CDR領域に下線を引き、定常領域をイタリック体で示す。
【化8】
【0167】
31.1重鎖のアミノ酸配列を以下に記載する。CDR領域に下線を引き、定常領域をイタリック体で示す。
【化9】
【0168】
特定の実施形態は、3B3.11及び31.1のFv断片のVHドメイン、VLドメイン、又はこれらの組み合わせを含む。更なる実施形態は、VH及びVLドメイン由来の1、2、3、4、5、又は6つの相補性決定領域(CDR)を含む。CDR配列が配列番号20、21、22、又は23内に含まれる抗体は、本発明の範囲内に包含される。
【0169】
本開示は、配列番号20、21、22、又は23から得られる改変VH及び/又はVL配列(1又は複数)を用いて抗体を作製することを含む、抗FcRn抗体を得る方法を提供する。当業者は、当該技術分野で既知である技術を用いてかかる抗体を得ることができる。例えば、アミノ酸置換、欠失、又は付加をFR及び/又はCDR領域に導入することができる。FRの変化は通常、抗体の安定性及び免疫原性を改善するよう設計されるが、CDRの変化は典型的には抗原に対する抗体の親和性を高めるよう設計される。親和性を高める変化は、CDR配列を改変し、標的に対する抗体の親和性を測定することにより試験することができる(Antibody Engineering,2nd ed.,Oxford University Press,ed.Borrebaeck(1995))。
【0170】
CDR配列が、配列番号20、21、22、又は23中に含まれる配列と僅かに異なる抗体は、本発明の範囲内に包含される。典型的には、これは、あるアミノ酸を、類似の電荷、疎水性、又は立体化学的性質を有するアミノ酸で置換することを含む。またCDR領域とは対照的に、抗体の結合特性に有害な影響を及ぼさない限り(例えば非置換抗体に比べて50%以上親和性を低下させる)、FR領域においてはより大幅な置換を行ってもよい。生殖系に置換を行ってもよく、又は抗原結合部位を安定化させてもよい。
【0171】
マウスモノクローナル抗体の作製方法
モノクローナル抗体の作製方法は記載されている(Harlow et al.,Antibodies A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY(1988))。場合によっては、第1段階として、げっ歯類、例えばマウスを抗原性ポリペプチドで免疫して、抗体応答を生じさせる。FcRnは遍在的に発現し、種間で高い相同性を示すため、ポリペプチドの免疫は、高親和性FcRn特異的モノクローナル抗体又はFcRnモノクローナルブロッキング抗体の産生は成功していなかった。この問題を解決するために、DNAワクチン接種を実施することができる(Castagliola et al.,J.Immunology 160:1458(1998))。DNAワクチン接種は、げっ歯類、例えばマウスを、FcRn又はその断片をコードするcDNAコンストラクトで免疫することを含む。免疫は、筋肉内、腹腔内、皮下、静脈内、皮内、又はリンパ節に直接投与してもよい。1つの実施形態では、免疫化は筋肉内に投与される。DNAワクチン接種は、アジュバント、例えばフロイント完全アジュバント、又はフロイント不完全アジュバントと共に投与してもよい。DNAワクチン接種は、心臓毒の投与により抗体力価を高めることにより達成され得る。心臓毒の投与は細胞死、及び投与されたDNAワクチンの細胞内取り込みを増加させる細胞の再生を惹起する。心臓毒はまた、よりロバストな免疫応答を生じさせる炎症を増加させる場合もある。
【0172】
抗体分泌細胞(B細胞)はげっ歯類から単離される。典型的にはB細胞は、げっ歯類の脾臓から単離することができ、骨髄腫細胞株と融合され得る。骨髄腫細胞株は、抗体を産生しない不死化細胞株である。骨髄腫細胞株は、P3-X63Ag8、X63Ag8.653、Sp2/0-Ag14、FO、NSI/1-Ag4-1、NSO/1、FOX-NY、Y3-Ag1.2.3,YB2/0及びIR983Fから選択してもよいが、これらに限定されない。
【0173】
脾細胞は、骨髄腫細胞株と融合してハイブリドーマを形成する。融合は、2種の細胞種を適切な時間(例えば5分間)ポリエチレングリコールと混合することにより仲介され得る。形成されたハイブリドーマは、適切な選択培地(例えばHAT)を用いて細胞培養液中で増殖し、FcRnに対するモノクローナル抗体を産生する能力についてスクリーニングされる。スクリーニングは、既知の免疫学的技術、例えばELISAを用いて実施することができる。
【0174】
FcRn特異的モノクローナル抗体を作製する別のアプローチは、トランスジェニックFcRnノックアウトマウスを可溶性ヒトFcRnで免疫することである。国際公開第02/43658号を参照のこと。国際公開第02/43658号は、ゲノムが内因性FcRn遺伝子中にホモ欠損を含み、前記ホモ欠損が機能的FcRnタンパク質の発現を阻止するトランスジェニックマウスについて記載している。本発明のモノクローナル抗体は、ゲノムが内因性FcRn遺伝子中にホモ欠損を含み、前記ホモ欠損が機能的FcRnタンパク質の発現を阻止するトランスジェニックマウスでは作製されない。本発明のモノクローナル抗体は、ゲノムが内因性FcRn遺伝子中にホモ欠損を含み、前記ホモ欠損が機能的FcRnタンパク質の発現を阻止するトランスジェニックマウス由来のB細胞からは構成されない。
【0175】
ヒト化抗FcRn抗体ディスプレイライブラリ
ディスプレイライブラリを用いて、FcRnに結合する抗体を同定することができる。ディスプレイライブラリは、実体の集合であり、各実体は利用可能なポリペプチド構成要素、及び前記ポリペプチド構成要素をコードする又は同定する回収可能な構成要素を含む。ポリペプチド構成要素は多様であるため、異なるアミノ酸配列が提示される。ポリペプチド構成要素は、任意の長さ、例えば3アミノ酸~300アミノ酸超であってもよい。選択では、ライブラリの各メンバーのポリペプチド構成要素は、FcRnでプロービングされ、ポリペプチド構成要素がFcRnに結合する場合、ディスプレイライブラリのメンバーは、典型的には支持体上に保持されることにより同定される。更に、ディスプレイライブラリの実体は、1より多いポリペプチド構成要素、例えばsFabの2本のポリペプチド鎖を含み得る。
【0176】
保持されたディスプレイライブラリのメンバーは、支持体から回収され、分析される。分析は、増幅、及びその後行われる類似条件又は異なる条件下における選択を含み得る。例えば、例えば、正の選択及び負の選択を交互に行ってもよい。分析はまた、ポリペプチド構成要素のアミノ酸配列を決定し、更に詳細に特徴付けするためにポリペプチド構成要素を精製することを含み得る。
【0177】
ディスプレイライブラリには種々のフォーマットを用いることができる。例としては、以下のものが挙げられる。
【0178】
ファージディスプレイ 1つのフォーマットはウイルス、特にバクテリオファージを利用する。このフォーマットは「ファージディスプレイ」と呼ばれている。通常、タンパク質成分はバクテリオファージのコートタンパク質に共有結合で連結される。この連結は、コートタンパク質に融合されたタンパク質成分をコードする核酸の翻訳から生じる。この連結部は柔軟性のペプチドリンカー、プロテアーゼ部位、又は終止コドンの抑制の結果として組み込まれるアミノ酸を含んでいてもよい。ファージディスプレイは、例えば、以下の文献に記載されている:米国特許第5,223,409号;Smith(1985)Science 228:1315-1317;国際公開第92/18619号;国際公開第91/17271号;国際公開第92/20791号;国際公開第92/15679号;国際公開第93/01288号;国際公開第92/01047号;国際公開第92/09690号;国際公開第90/02809号;de Haard et al.(1999)J.Biol.Chem 274:18218-30;Hoogenboom et al.(1998)Immunotechnology 4:1-20;Hoogenboom et al.(2000)Immunol Today 2:371-8;Fuchs et al.(1991)Bio/Technology 9:1370-1372;Hay et al.(1992)Hum Antibod Hybridomas 3:81-85;Huse et al.(1989)Science 246:1275-1281;Griffiths et al.(1993)EMBO J 12:725-734;Hawkins et al.(1992)J Mol Biol 226:889-896;Clackson et al.(1991)Nature 352:624-628;Gram et al.(1992)PNAS 89:3576-3580;Garrard et al.(1991)Bio/Technology 9:1373-1377;及びHoogenboom et al.(1991)Nuc Acid Res 19:4133-4137。
【0179】
ファージディスプレイ系は繊維状ファージ(ファージf1、fd、及びM13)や他のバクテリオファージについて開発されている。繊維状ファージディスプレイ系は典型的には、例えば遺伝子IIIタンパク質等のマイナーなコートタンパク質、及び遺伝子VIIIタンパク質等のメジャーなコートタンパク質への融合を利用するが、遺伝子VIタンパク質、遺伝子VIIタンパク質、遺伝子IXタンパク質、又はこれらのドメイン等の他のコートタンパク質への融合を用いることもできる(例えば国際公開第00/71694号参照)。1つの実施形態では、融合は、遺伝子IIIタンパク質のドメイン、例えばアンカードメイン又は「スタンプ(stump)」に対して行われる(例えば、遺伝子IIIタンパク質のアンカードメインについては米国特許第5,658,727号を参照)。提示されるタンパク質を、非ペプチド結合を介して、コートタンパク質に物理的に会合させることも可能である。
【0180】
タンパク質成分を提示しているバクテリオファージは、増殖させてから、標準的なファージ調製方法(例えば、増殖培地からのPEG沈降)を用いて回収することができる。個々のディスプレイファージの選択後、選択されたタンパク質成分をコードする核酸を、増幅後に、選択したファージを感染させた細胞から、又はファージそれ自体から単離することができる。個々のコロニー又はプラークを拾い上げ、核酸を単離して配列決定する。
【0181】
他のディスプレイフォーマット その他のディスプレイフォーマットには次のものが含まれる:細胞に基づくディスプレイ(例えば、国際公開第03/029456参照)、タンパク質-核酸融合体(例えば、米国特許第6,207,446参照)、及びリボソームディスプレイ(例えば、Mattheakis et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:9022及びHanes et al.(2000)Nat Biotechnol.18:1287-92;Hanes et al.(2000)Methods Enzymol.328:404-30;及びSchaffitzel et al.(1999)J Immunol Methods.231(1-2):119-35参照)。
【0182】
スカフォールド ディスプレイのスカフォールドには、抗体(例えば、Fab断片、一本鎖Fv分子(scFv)、単一領域抗体、ラクダ抗体、及びラクダ化抗体)、T-細胞受容体、MHCタンパク質、細胞外領域(例えばフィブロネクチンIII型反復、EGF繰り返し)、プロテアーゼ阻害剤(例えばKunitz領域、エコチン、BPTI、その他)、TPR反復、トリホイル構造、亜鉛フィンガー領域、DNA結合タンパク質、特定一量体DNA結合タンパク質、RNA結合タンパク質、酵素、例えばプロテアーゼ(特に不活性化プロテアーゼ)、RNase、チャペロン、例えばチオレドキシン、及び熱ショックタンパク質、及び細胞内シグナル領域(SH2及びSH3領域等)、線状及び拘束ペプチド、及び線状ペプチド基質が含まれ得る。ディスプレイライブラリは、合成及び/又は天然の多様性を含んでもよい。例えば米国特許出願公開第2004-0005709号参照。
【0183】
ディスプレイ技術はまた、特に標的のエピトープに結合する抗体を得るために使用可能である。これは、例えば、特定のエピトープを欠くか、エピトープ内で、例えばアラニンで変異された、非標的分子と競合することを用いて実施可能である。そのような非標的分子を、以下で記述するように負の選択手順にて使用可能である。これは標的へディスプレイライブラリが結合したときの競合分子として、又は例えば標的に特異的でないディスプレイライブラリメンバーを解離させる洗浄溶液中に捕捉するための前溶出剤として用いられる。
【0184】
反復選択 1つの実施形態において、ディスプレイライブラリ技術は、反復モードで使用される。第1ディスプレイライブラリを、標的に結合する1つ以上の抗体を同定するために使用する。これらの同定された抗体を、次いで、突然変異誘発法を用いて変化させて、第2ディスプレイライブラリを形成する。次いでより高い親和性抗体を、第2ライブラリから、例えば、より高いストリンジェンシー、又はより競合的結合及び洗浄条件を用いることによって選択する。
【0185】
幾つかの実現形態において、突然変異誘発は、結合表面に存在することが知られているか、あり得る領域を標的とする。抗体の場合、突然変異誘発を、本明細書で記述したような、重鎖又は軽鎖のCDR領域に向けることが可能である。更に、突然変異誘発を、CDRの近く又は隣接するフレームワーク領域に向けることが可能である。抗体の場合、突然変異誘発はまた、例えば、正確な段階的改善をするために、1つ又は数個のCDRに限定することも可能である。代表的な突然変異誘発技術としては、PCR、組換え、DNAシャフリング、部位特異的突然変異誘発、及びカセット突然変異誘発が挙げられる。
【0186】
反復選択の1つの例において、本明細書で記述した方法は、第1に、少なくとも標的に対して最小の結合特異性又は最小活性、例えば、1nM、10nM又は100nM未満の、結合に関する平衡解離定数をもって、FcRnに結合するディスプレイライブラリから抗体を同定するために使用される。最初に同定された抗体をコードする核酸配列を、変異の導入に関する鋳型核酸として使用し、例えば、最初の抗体と比べて特性の強化されている(例えば結合親和性、速度論又は安定性)第2の抗体を同定するため使用される。
【0187】
off-rate選択 解離速度が遅いと、特に抗体とその標的との相互作用に関して、親和性が高いと予測できるため、本明細書に記載の方法を用いて、標的との結合相互作用について所望の(例えば、低下した)解離速度を有する抗体を単離することができる。
【0188】
ディスプレイライブラリから解離速度が遅いする抗体を選択するために、そのライブラリを固定化した標的と接触させる。次に、固定化標的を、非特異的に又は弱く結合した生体分子を除去する第1溶液で洗浄する。その後、結合抗体を、飽和量の遊離標的又は標的特異的高親和性競合性モノクローナル抗体、即ち粒子に付着していない標的の複製を含む第2溶液により溶出する。遊離標的が標的から解離した生体分子と結合する。再結合は、かなり低濃度の固定化標的に対して飽和量の遊離標的によって効果的に防止される。
【0189】
第2溶液は、実質的に生理的な又はストリンジェントな溶液条件を有することができる。一般的には、第2溶液の溶液条件は第1溶液の溶液条件と同一である。第2溶液の画分を時間順に回収して、早い画分と遅い画分とを区別する。より遅い画分は、早い画分中の生体分子よりも遅い速度で標的から解離する生体分子を含んでいる。
【0190】
更に、インキュベーション時間を延長した後も標的と結合した状態を保っているディスプレイライブラリのメンバーを回収することも可能である。これらはカオトロピック条件を用いて解離させることができ、あるいは、標的に結合させたままで増幅することもできる。例えば、標的と結合したファージを細菌細胞に接触させることができる。
【0191】
特異性の選択又はスクリーニング 本明細書に記載するディスプレイライブラリスクリーニング法には、非標的分子と結合するディスプレイライブラリのメンバーを廃棄する選択又はスクリーニングプロセスを含み得る。非標的分子の例としては、磁気ビーズ上のストレプトアビジン、ウシ血清アルブミン、脱脂ウシ乳、任意の捕捉若しくは標的固定化モノクローナル抗体等のブロッキング剤、又はヒトFcRn標的を発現しない非トランスフェクト細胞が挙げられる。
【0192】
1つの実施形態においては、いわゆる「負の選択」工程を用いて、標的と、関連した非標的分子と、関連するが明らかに異なる非標的分子とを区別する。ディスプレイライブラリ又はそのプールを非標的分子と接触させる。非標的に結合しない試料のメンバーを回収して、標的分子との結合についての後続の選択に用いるか、又は後続の負の選択にさえも使用する。負の選択工程は、標的分子と結合するライブラリのメンバーを選択する前であっても後であってもよい。
【0193】
別の実施形態では、スクリーニング工程を用いる。標的分子との結合についてディスプレイライブラリのメンバーを選択して単離した後、それぞれの単離したライブラリメンバーを、非標的分子(例えば、先に挙げた非標的)と結合するその能力について試験する。例えば、このデータを得るには、ハイスループットELISAスクリーニングを利用し得る。またELISAスクリーニングを用いて、各ライブラリメンバーの標的への結合、並びに関連標的又は標的のサブユニット(例えばラットFcRn、β2マイクログロブリン)に対する種間反応性、またpH6又pH7.5等の異なる条件下における定量データを得ることができる。非標的及び標的と結合するデータを比較して(例えば、コンピュータとソフトウェアを使用)、標的と特異的に結合するライブラリメンバーを同定する。
【0194】
他の発現ライブラリ
他の種類のタンパク質のコレクション(例えば発現ライブラリ)を用いて、特定の特性(例えばFcRnに結合する能力及び/又はFcRnを調節する能力)を有するタンパク質を同定することができる。かかるコレクションには、例えば抗体のタンパク質アレイ(例えばDe Wildt et al.(2000)Nat.Biotechnol.18:989-994参照)、ラムダgt11ライブラリ、ツーハイブリッドライブラリ等が挙げられる。
【0195】
抗体ライブラリ
1つの実施形態において、ライブラリは、それぞれが、免疫グロブリン領域、例えば免疫グロブリン可変領域を含む、ポリペプチドの多様なプールを提示する。ディスプレイライブラリはとりわけ、例えば、ヒト抗原を認識するヒト又は「ヒト化」抗体を同定するために有用である。そのような抗体は、自己免疫障害のようなヒト障害を治療するために、治療として使用可能である。抗体の定常及びフレームワーク領域がヒトであるので、これらの治療用抗体は、自身を抗原として、認識及び標的化されることが避けられ得る。定常領域をまた、ヒト免疫系のエフェクター機能を動員させるために最適化し得る。インビトロディスプレイ選択プロセスは、自己抗原に対して抗体を産生する正常なヒト免疫系の不全性を克服する。
【0196】
典型的な抗体ディスプレイライブラリは、VH領域とVL領域を含むポリペプチドを提示する。「免疫グロブリンドメイン」は、免疫グロブリン分子の可変又は定常領域からの領域を意味する。免疫グロブリンドメインは、典型的には、約7つのβ鎖から成る2つのβ-シート及び保存ジスルフィド結合を含む(例えば、A.F.Williams and A.N.Barclay,1988,Ann.Rev.Immunol.6:381-405を参照のこと)。ディスプレイライブラリは、Fab断片(例えば2つのポリペプチド鎖を使用して)、又は一本鎖Fv(例えば単一ポリペプチド鎖を使用して)として抗体を提示可能である。他のフォーマットもまた使用可能である。
【0197】
Fab及び他のフォーマットの場合のように、提示された抗体は、軽鎖及び/又は重鎖の一部として、1つ以上の定常領域を含み得る。1つの実施形態において、各鎖には、例えばFabの場合のように、1つの定常領域が含まれる。他の実施形態においては、さらなる定常領域が提示される。
【0198】
抗体ライブラリは、多くのプロセスによって構築可能である(例えば、de Haard et al.,1999,J.Biol.Chem.274:18218-30;Hoogenboom et al.,1998,Immunotechnology 4:1-20;and Hoogenboom et al.,2000,Immunol.Today 21:371-378を参照のこと)。更に、各プロセスの要素を、他のプロセスの要素と組み合わせることが可能である。このプロセスは、変異を単一免疫グロブリンドメイン(例えば、VH又はVL)内、又は複数の免疫グロブリンドメイン内(例えばVH及びVL)に導入するために使用可能である。変異を、免疫グロブリン可変ドメイン、例えば、1つ又はそれ以上の、重鎖及び軽鎖可変ドメインのいずれか、及び両方のそのような領域を指す、CDR1、CDR2、CDR3、FR1、FR2、FR3及びFR4の領域内に導入可能である。1つの実施形態において、変異を、所与の可変ドメインの3つ全てのCDR中に導入する。他の実施形態において、変異を、例えば重鎖可変ドメインの、CDR1及びCDR2に導入する。任意の組み合わせが、実現可能である。1つのプロセスでは、抗体ライブラリを、核酸の相当する領域に、CDRをコードする多様なオリゴヌクレオチドを挿入することによって構築する。オリゴヌクレオチドは、単量ヌクレオチド又はトリヌクレオチドを用いて合成可能である。例えば、Knappik et al.,2000,J.Mol.Biol.296:57-86)は、トリヌクレオチド合成と、オリゴヌクレオチドを受容するための改変制限部位を持つテンプレートを用いて、オリゴヌクレオチドをコードするCDRを構築するための方法を記述している。
【0199】
他のプロセスにおいて、動物、例えばげっ歯類を、FcRnで免疫する。その動物を任意に、抗原で追加免疫して、更に応答を刺激する。次いで脾細胞を動物から単離し、VH及び/又はVLドメインをコードする核酸を増幅し、ディスプレイライブラリ中で発現させるためにクローニングする。
【0200】
更に別の工程において、抗体ライブラリは、ナイーブな生殖細胞系列免疫グロブリン遺伝子から増幅した核酸から構築される。増幅した核酸には、VH及び/又はVL領域をコードする核酸が含まれる。免疫グロブリンをコードする核酸の供給源は、以下で記述されている。増幅には、例えば、保存定常領域にアニールするプライマーを用いる、PCR又は別の増幅方法が含まれる。
【0201】
免疫グロブリン領域をコードする核酸は、例えばヒト、霊長類、マウス、ウサギ、ラクダ、ラマ、又はげっ歯類の免疫細胞より得ることができる。1つの例において、細胞を、特定の特性について選択する。種々の成熟段階のB細胞を選択可能である。他の例において、B細胞はナイーブである。
【0202】
1つの実施形態において、蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して、表面結合IgM、IgD又はIgG分子を発現しているB細胞を選別する。更に、IgGの異なるアイソタイプを発現しているB細胞を単離可能である。別の実施形態において、B又はT細胞を、インビトロにて培養する。細胞を、インビトロにて、フィーダー細胞とともに培養することによって、又はマイトジェン又は他の調節試薬、例えばCD40に対する抗体、CD40リガンド又はCD20、酢酸ミリスチン酸ホルボール、細菌リポ多糖類、コンカナバリンA、フィトヘムグルチニン又はアメリカヤマゴボウマイトジェン等を添加することによって刺激することが可能である。
【0203】
更なる1つの実施形態において、細胞を、自己免疫障害、例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、リウマチ様関節炎、脈管炎、シェーグレン症候群、全身性硬化症、又は抗リン脂質症候群等に罹患している対象から単離する。対象は、ヒト又は動物、例えば、ヒト疾患の動物モデル、又は類似の疾患を持つ動物であり得る。また他の実施形態において、細胞は、ヒト免疫グロブリン座を含む、トランスジェニック非ヒト動物から単離される。
【0204】
1つの実施形態において、細胞は体細胞超変異のプログラムを活性化した。細胞を、例えば、抗免疫グロブリン、抗CD40、及び抗CD38抗体で処理することによって、免疫グロブリン遺伝子の体細胞変異が行われるように刺激可能である(例えばBergthorsdottir et al.,2001,J.Immunol.166:2228)を参照のこと。1つの実施形態において、細胞はナイーブである。
【0205】
免疫グロブリン可変領域をコードする核酸は、以下の例示的な方法によって、天然のレパートリーから単離可能である。第1に、RNAを免疫細胞より単離する。全長(即ちキャップ)mRNAを分離する(例えば、子牛腸ホスファターゼと、非キャップRNAを分解することによって)。次いでキャップを、タバコ酸ピロホスファターゼによって除去し、逆転写を使用して、cDNAを生成する。
【0206】
第1(アンチセンス)鎖の逆転写を、任意の好適なプライマーで、任意の様式にて実施可能である。例えば、de Haard et al.,1999,J.Biol.Chem.274:18218-30を参照のこと。プライマー結合領域は、例えば、免疫グロブリンの異なるアイソタイプを逆転写するために、異なる免疫グロブリン間で一定であり得る。プライマー結合領域はまた、免疫グロブリンの特定のアイソタイプに特異的であり得る。典型的に、プライマーは、少なくとも1つのCDRをコードする配列に対して3’側である領域に関して特異的である。1つの実施形態において、ポリdTプライマーを使用してよい(そして、これは重鎖遺伝子に対して好ましい可能性がある)。
【0207】
合成配列を、逆転写した鎖の3’末端にライゲーション可能である。合成配列は、逆転写の後、PCR増幅の中に、フォワードプライマーの結合のために、プライマー結合部位として使用可能である。合成配列の使用により、利用可能な多様性を完全に得るために異なるフォワードプライマーのプールを使用することの必要性を除くことができる。
【0208】
次いで、可変領域をコードする遺伝子を、例えば1つ又はそれ以上のラウンドを用いて増幅する。複数ラウンドを用いる場合、忠実度をあげるために、ネステッドプライマーを使用可能である。次いで増幅した核酸を、ディスプレイライブラリベクター内にクローニングする。
【0209】
二次スクリーニング法
標的に結合する候補ライブラリメンバーを選択した後に、例えば、標的に対するその結合特性を更に特徴付けするために、それぞれの候補ライブラリメンバーを更に分析することができる。各候補ライブラリメンバーを、1つ又はそれ以上の二次スクリーニングアッセイに供することができる。アッセイは、結合特性、触媒特性、阻害特性、生理学的特性(例えば、細胞毒性、腎臓クリアランス、免疫原性)、構造的特性(例えば、安定性、立体配座、オリゴマー化状態)又は他の機能的特性に関するアッセイであり得る。同様のアッセイを、繰り返し、ただし、条件を変化させて例えばpH、イオン又は温度感受性を決定するために使用可能である。
【0210】
必要に応じて、アッセイは、ディスプレイライブラリメンバーを直接、選択されたポリペプチドをコードする核酸から生成した組換え体ポリペプチドを、又は選択されたポリペプチドの配列に基づいて合成した合成ペプチドを使用可能である。結合特性に関する例示的なアッセイには、以下が含まれる。
【0211】
ELISA 発現ライブラリから選択されたタンパク質は、ELISAアッセイを用いて結合特性について評価することもできる。例えば各抗体を、プレートの底面を標的(例えば、限定量の標的)でコーティングしたマイクロタイタープレートに接触させる。そのプレートをバッファーで洗浄し、非特異的に結合したポリペプチドを除去する。その後、プレートに結合した抗体の量を、試験抗体(例えば、該抗体のタグ又は定常部分)を認識し得る抗体でプレートをプロービングすることにより測定する。検出抗体は、アルカリホスファターゼ又はセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)(適切な基質が与えられると、比色産物を生じる)のような酵素に連結させる。
【0212】
ディスプレイライブラリ由来の抗体の場合、該抗体は細胞から精製してもよいし、例えば繊維状バクテリオファージコートとの融合体として、ディスプレイライブラリ方式でアッセイしてもよい。別のバージョンのELISAでは、発現ライブラリから選択された抗体を用いてマイクロタイタープレートの異なるウェルをコーティングする。次いで、定常標的分子を用いてELISAを進めて、各ウェルをクエリー(query)する。
【0213】
均質結合アッセイ 候補抗体の標的との結合相互作用を、均質アッセイ、即ち、アッセイの全ての要素を足した後に、更なる流体操作が必要のないアッセイを使用して解析可能である。例えば、蛍光共鳴エネルギー転送(FRET)を、均質アッセイとして使用可能である(例えば、Lakowiczetら、米国特許第5,631,169号、Stavrianopoulosら、米国特許第4,868,103号を参照のこと)。第2分子が、第1分子の近くに存在する場合に、その放射蛍光エネルギーが、第2分子(例えば標的)上の蛍光標識によって吸収可能であるように、第1分子上の蛍光標識(例えば、画分中で同定された分子)を選択する。第2分子上の蛍光標識は、転送されたエネルギーに吸収される時に、蛍光を発する。標識間のエネルギー転送の効率は、分離した分子の距離に関係するので、分子間の空間的関係を評価し得る。分子間で結合が起こる状況において、アッセイ内の「アクセプター」分子標識の蛍光放射は最大であるべきである。FRETによってモニタリングするために設定された結合事象は、本技術分野で周知の、標準的蛍光分析検出方法(例えばフルオリメーターを使用する)を介して、都合よく測定可能である。第1又は第2結合分子の量を滴定することによって、結合曲線を作製し、平衡結合定数を推定可能である。
【0214】
均質アッセイの他の例は、ALPHASCREEN(商標)(Packard Bioscience,Meriden CT)である。ALPHASCREEN(商標)は、2つの標識ビーズを使用する。1つのビーズが、レーザーによって励起された場合に、一重項酸素を生成する。他方のビーズは、一重項酸素が、第1ビーズより発散され、これに衝突した場合に、光シグナルを生成する。シグナルは、2つのビーズが接近している場合にのみ発生する。一方のビーズは、ディスプレイライブラリメンバーに付着することができ、他方は標的に付着することができる。シグナルを測定して、結合の程度を決定する。
【0215】
均質アッセイは、候補ポリペプチドが、ディスプレイライブラリビヒクル、例えばバクテリオファージに付着する間に実施可能である。
【0216】
表面プラズモン共鳴(SPR) 発現ライブラリから単離した分子と標的との結合相互作用は、SPRを用いて解析することができる。SPR又は生体分子相互作用解析(BIA)は、相互作用する物質のいずれをも標識することなく、リアルタイムで生体特異的相互作用を検出する。BIAチップの結合表面での質量の変化(結合現象を示す)が、その表面に近い光の屈折率の変化(表面プラズモン共鳴(SPR)の光学現象)をもたらす。屈折度の変化は検出可能なシグナルをもたらし、かかるシグナルを生体分子間のリアルタイム反応の指標として測定する。SPRの使用法は、例えば、米国特許第5,641,640号;Raether,1988,Surface Plasmons Springer Verlag;Sjolander and Urbaniczky,1991,Anal.Chem.63:2338-2345;Szabo et al.,1995,Curr.Opin.Struct.Biol.5:699-705及びBIAcore International AB(Uppsala,Sweden)により提供されるオンラインリソースに記載されている。
【0217】
SPRからの情報を用いて、平衡解離定数(Kd)、及び生体分子が標的に結合する反応速度論的パラメーター(Kon及びKoffを含む)の正確な定量的測定が得られる。こうしたデータは様々な生体分子を比較するために用いることができる。例えば、発現ライブラリ由来のタンパク質を比較して、標的に対して高い親和性を有するか、又は遅いKoffを有するタンパク質を同定することができる。この情報はまた、構造-活性相関関係(SAR)を明らかにするためにも使用することができる。例えば、親タンパク質の成熟バージョンの反応速度論的及び平衡結合パラメータを親タンパク質の当該パラメータと比較し得る。特定の結合パラメータ(例えば、高親和性及び遅いKoff)と相関する所与の位置の変異アミノ酸を同定することができる。この情報を構造モデリング(例えば、相同性モデリング、エネルギー最小化、又はX線、結晶学若しくはNMRによる構造決定)と組み合わせることもできる。その結果、タンパク質とその標的との物理的相互作用を明確に理解することができ、これを他の設計プロセスの指針として用いることができる。
【0218】
細胞アッセイ 候補抗体のライブラリ(例えばディスプレイライブラリ又はその他により既に同定されている)は、細胞表面上の対象標的を一過的に又は安定に発現し、提示する、細胞上の標的結合についてスクリーニングすることができる。例えば、標的は、キメラ標的ポリペプチドが細胞内で産生され、細胞から分泌され、又は例えばFc等の膜アンカータンパク質と融合しているアンカーを通して細胞表面に接着されるように、ポリペプチドの細胞外ドメインのみをコードするセグメントを含むベクター核酸配列を含んでもよい。細胞表面で発現する標的は、FcRnに結合し、IgG-Fcの結合をブロックする抗体をスクリーニングするために用いることができる。例えば、非特異的ヒトIgG-Fcは蛍光標識されていてもよく、拮抗性抗体の存在又は非存在下におけるFcRnに対する結合を、フローサイトメトリー、例えばFACS機器を用いて蛍光強度の変化により検出することができる。
【0219】
FcRn結合抗体を得るための他の方法
ディスプレイライブラリの使用に加えて、FcRn結合抗体を得るために他の方法を使用し得る。例えば、FcRnタンパク質又はその領域を、非ヒト動物、例えばげっ歯類における抗原として使用し得る。
【0220】
1つの実施形態において、非ヒト動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子の少なくとも一部を含む。例えば、ヒトIg遺伝子座の大型断片を用いてマウス抗体を産生できないマウス系統を作り出すことができる。ハイブリドーマ技術を使用して、所望の特異性を有する遺伝子由来の抗原特異的モノクローナル抗体(Mab)を生成かつ選択し得る。例えば、XenoMouse(商標)、Green et al.,1994,Nature Genetics 7:13-21,米国特許出願公開第20030070185号、国際公開第96/34096号(1996年10月31日公開)及び国際出願第PCT/US96/05928号(1996日4月29日出願)を参照されたい。
【0221】
1つの実施形態において、モノクローナル抗体を、非ヒト動物から得、次いで改変、例えばヒト化又は脱免疫化する。Winterは、ヒト化抗体を調製するために使用し得るCDRグラフト化法を記載している(英国特許出願GB2188638A(1987年3月26日出願);米国特許第5,225,539号)。特定のヒト抗体の全てのCDRが、非ヒトCDRの少なくとも一部で置換されるか、又はCDRの一部のみが、非ヒトCDRで置換され得る。ヒト化抗体を所定の抗原に結合させるために必要とされる、CDRの数を取り替えさえすればよい。
【0222】
ヒト化抗体を、抗原結合に直接関与しないFv可変領域の配列を、ヒトFv可変ドメイン由来の等価な配列で置換することにより生成し得る。ヒト化抗体を生成する一般的方法は、Morrison,S.L.,1985,Science 229:1202-1207、Oi et al.,1986,BioTechniques 4:214及びQueenら、米国特許第5,585,089号、同第5,693,761号及び同第5,693,762号により提供される。これらの方法は、重鎖又は軽鎖の少なくとも一つ由来の免疫グロブリンFv可変領域の全て又は一部をコードする核酸配列を、単離、操作及び発現することを包含する。そのような核酸の供給源は、当業者に周知であり、例えば上記のように所定の標的に対して抗体を産生するハイブリドーマから得られ得る。次いで、ヒト化抗体又はその断片をコードする組換えDNAを、適切な発現ベクターにクローニングし得る。
【0223】
FcRn結合抗体はまた、国際公開第98/52976号及び国際公開第00/34317号(これらの内容は、本明細書中に参考として具体的に援用される)に開示の方法によりヒトT細胞エピトープの特異的な欠失又は「脱免疫化」により改変され得る。簡単に説明すると、抗体の重鎖及び軽鎖可変領域を、MHCクラスIIに結合するペプチドに関して分析し得る;これらのペプチドは(国際公開第98/52976号及び国際公開第00/34317号に定義されるような)可能性のあるT細胞エピトープに相当する。可能性のあるT細胞エピトープの検出のために、「ペプチドスレディング(peptide threading)」と呼ばれるコンピュータモデリングアプローチを適用することができ、更にヒトMHCクラスII結合ペプチドのデータベースを、国際公開第98/52976号及び国際公開第00/34317号に記載されるようにVH及びVL配列に存在するモチーフについて検索することができる。これらのモチーフは、任意の18種類の主要なMHCクラスII DRアロタイプに結合し、したがって、可能性のあるT細胞エピトープを構成する。検出された可能性のあるT細胞エピトープは、可変領域中の少数のアミノ酸残基を置換すること、又は単一アミノ酸置換によって除去し得る。可能な保存的置換が行なわれる限り、ヒト生殖細胞系抗体配列中のこの位置に共通するアミノ酸を、しばしば、しかし排他的ではなく、使用し得る。ヒト生殖細胞系配列は、Tomlinson,I.A. et al.,1992,J.Mol.Biol.227:776-798;Cook,G.P.et al.,1995,Immunol.Today Vol.16(5):237-242;Chothia,D.et al.,1992,J.Mol.Bio.227:799-817に開示されている。V BASEディレクトリは、ヒト免疫グロブリン可変領域配列の包括的なディレクトリを提供する(Tomlinson,I.A. et al.,MRC Centre for Protein Engineering,Cambridge,UKにより編成)。脱免疫変化を同定した後、VHとVLをコードする核酸を、変異誘発又は他の合成方法(例えば、デノボ合成、カセット置換等)により構築し得る。変異誘発した可変配列は、任意的に、ヒト定常領域、例えば、ヒトIgG1又はκ定常領域に融合させ得る。
【0224】
場合によっては、可能性のあるT細胞エピトープは、抗体機能に重要であると知られているか、又は予測されている残基を含む。例えば、可能性のあるT細胞エピトープは、通常、CDRに偏向している。更に、可能性のあるT細胞エピトープは、抗体の構造及び結合にとって重要なフレームワーク残基に生じ得る。これらの可能性のあるエピトープを除去する変化は、場合によっては、例えば、変化している鎖及び変化していない鎖を作製し試験することによる更に厳密な精査を必要とする。可能な場合には、CDRに重複する可能性のあるT細胞エピトープをCDR外での置換により除去した。ある場合では、CDR内の変更が唯一の選択肢であり、したがって、この置換がある変異体及びない変異体について試験すべきである。他の場合には、可能性のあるT細胞エピトープを除去するために必要とされる置換は、抗体結合に重要であり得るフレームワーク内の残基位置にある。これらの場合、この置換がある変異体及びない変異体を試験すべきである。よって、ある場合では、最適な脱免疫化抗体を同定するために、幾つかの変異体脱免疫化重鎖及び軽鎖可変領域を設計し、多様な重鎖/軽鎖組合せを試験する。次いで、異なる変異体の結合親和性を、脱免疫化の程度、即ち可変領域に残る可能性のあるT細胞エピトープの数と共に考慮することにより、最終的な脱免疫化抗体の選択を行い得る。脱免疫化は、任意の抗体、例えば非ヒト配列を含む抗体、例えば、合成抗体、マウス抗体、他の非ヒトモノクローナル抗体、又はディスプレイライブラリから単離された抗体を改変するために使用され得る。
【0225】
抗体の生殖細胞系列化
IgG仲介性自己免疫疾患を治療するために用いられる抗体は、複数回投与に用いることができる。治療抗体の免疫原性を低下させる予防措置としては、抗体(特にFab)のフレームワーク領域の1つ以上の非生殖細胞系アミノ酸を対応する生殖細胞系アミノ酸(例えば結合特性が実質的に保持されている限り)に戻すことが挙げられる。
【0226】
抗体の可変領域を1つ以上の生殖細胞系配列に更に類似させるために、FcRnに結合する抗体(例えば、本明細書中に記載される抗体)を改変し得る。例えば、抗体は、1つ、2つ、3つ又はそれ以上のアミノ酸置換を、例えばフレームワーク、CDR又は定常領域中に含み、それを参照生殖細胞系配列に更に類似させることができる。1つの例示的な生殖細胞系化の方法は、単離された抗体の配列に類似する(例えば、特定のデータベースで最も類似する)1つ以上の生殖細胞系配列を同定することを包含し得る。次いで(アミノ酸レベルでの)変異を、付加的に、又は他の突然変異と組み合わせて単離された抗体中に引き起こし得る。例えば、幾つか又は全ての可能な生殖細胞系変異をコードする配列を含む核酸ライブラリを作製する。次いで、変異抗体を評価して、例えば、単離抗体に対して1つ以上の更なる生殖細胞系残基を有し、且つ依然として有用である(例えば、機能的な活性を有する)抗体を同定する。1つの実施形態において、できるだけ多くの生殖細胞系残基を単離抗体に導入する。
【0227】
1つの実施形態において、変異誘発を使用して、1つ以上の生殖細胞系残基を置換するか又はフレームワーク領域及び/又は定常領域に挿入する。例えば、生殖細胞系フレームワーク領域及び/又は定常領域残基は、改変される可変領域に対して類似(例えば、最も類似)する生殖細胞系配列由来であり得る。変異誘発後、抗体の活性(例えば、結合又は他の機能的な活性)を評価して、生殖細胞系残基(単数又は複数)が許容される(例えば活性を抑制しない)かどうかを決定し得る。類似の変異誘発をフレームワーク領域内で実施し得る。
【0228】
生殖細胞系配列の選択は異なる方法で実施し得る。例えば、生殖細胞系配列が、選択性又は類似性についての所定の基準、例えば、少なくともある程度の同一性%、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は99.5%の同一性を満たす場合、この生殖細胞系配列を選択し得る。選択は、少なくとも2、3、5又は10の生殖細胞系配列を使用して実施し得る。CDR1及びCDR2の場合、類似の生殖細胞系配列の同定は、そのような1つの配列を選択することを含み得る。CDR3の場合、類似の生殖細胞系配列の同定は、そのような1つの配列を選択することを含み得るが、アミノ末端部分及びカルボキシ末端部分に別個に寄与する2つの生殖細胞系配列の使用を含み得る。他の実施において、2つ又は3つ以上の生殖細胞系配列を、例えば共通配列を形成するために使用する。
【0229】
1つの実施形態において、特定の参照可変ドメイン配列、例えば本明細書中に記載される配列に関して、関連可変ドメイン配列は、参照CDR配列中の残基(ヒト生殖細胞系配列(即ち、ヒト生殖細胞系核酸によりコードされるアミノ酸配列)中の対応する位置の残基と同一である残基)と同一でないCDRアミノ酸位置の少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は100%を有する。
【0230】
1つの実施形態において、特定の参照可変ドメイン配列、例えば本明細書中に記載される配列に関して、関連可変ドメイン配列が、ヒト生殖細胞系配列、例えば、参照可変ドメイン配列に関連する生殖細胞系配列のFR配列に同一であるFR領域の少なくとも30%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%を有する。
【0231】
したがって、対象の所与の抗体に類似の活性を有するが、1つ以上の生殖細胞系配列、特に1つ以上のヒト生殖細胞系配列に更に類似する抗体を単離し得る。例えば、抗体はCDR(例えばフレームワーク領域)以外の領域中の生殖細胞系配列に少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%同一であり得る。更に、抗体は、改変される可変領域に類似する(例えば、最も類似する)生殖細胞系配列由来の生殖細胞系残基である、CDR領域中の少なくとも1個、2個、3個、4個又は5個の生殖細胞系残基を含み得る。主要な対象生殖細胞系配列はヒト生殖細胞系配列である。抗体の活性(例えば、結合活性)は元の抗体の100倍、10倍、5倍、2倍、0.5倍、0.1倍及び0.001倍の範囲内であり得る。
【0232】
Vκの例示的生殖細胞系参照配列として、O12/O2、O18/O8、A20、A30、L14、L1、L15、L4/18a、L5/L19、L8、L23、L9、L24、L11、L12、O11/O1、A17、A1、A18、A2、A19/A3、A23、A27、A11、L2/L16、L6、L20、L25、B3、B2、A26/A10及びA14が挙げられる。例えばTomlinson et al.,1995,EMBO J.14(18):4628-3を参照されたい。
【0233】
HC可変ドメインについての生殖細胞系参照配列は、特定の標準構造、例えば、H1及びH2超可変ループ中の1~3構造物を有する配列に基づき得る。免疫グロブリン可変ドメインの超可変ループの標準構造を、Chothia et al.,1992,J.Mol.Biol.227:799-817;Tomlinson et al.,1992,J.Mol.Biol.227:776-798);及びTomlinson et al.,1995,EMBO J.14(18):4628-38に記載のようにその配列から推測し得る。1~3構造を有する例示的配列として:DP-1、DP-8、DP-12、DP-2、DP-25、DP-15、DP-7、DP-4、DP-31、DP-32、DP-33、DP-35、DP-40、7-2、hv3005、hv3005f3、DP-46、DP-47、DP-58、DP-49、DP-50、DP-51、DP-53及びDP-54が挙げられる。
【0234】
リガンド産生
標準的な組換え核酸法を使用して、FcRnに結合する抗体を発現し得る。一般的に、抗体をコードする核酸配列を、核酸発現ベクターにクローニングする。無論抗体が複数のポリペプチド鎖を含む場合、各鎖を発現ベクター、例えば同じ又は異なる細胞で発現される同じ又は異なるベクターにクローニングし得る。
【0235】
抗体産生 一部の抗体(例えば、Fab)を、細菌細胞(例えば、E.coli細胞)中で産生し得る。例えば、Fabが、ディスプレー実体とバクテリオファージタンパク質(又はその断片)との間の抑制可能な終止コドンを含むファージディスプレーベクター中の配列によりコードされている場合、ベクター核酸を、終止コドンを抑制し得ない細菌細胞中に移すことができる。この場合Fabは、遺伝子IIIタンパク質に融合せず、周辺質及び/又は培地中に分泌される。
【0236】
抗体はまた、真核細胞中で産生され得る。1つの実施形態において、これらの抗体(例えば、scFv)は酵母細胞、例えばPichia(例えば、Powers et al.,2001,J Immunol Methods.251:123-35を参照)、Hanseula又はSaccharomyces中で発現される。
【0237】
1つの実施形態において、抗体は哺乳動物細胞で産生される。クローン抗体又はその抗原結合断片を発現させるための哺乳動物宿主細胞として、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)(Urlaub and Chasin,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216-4220に記載のdhfr-CHO細胞を含み、例えばKaufman and Sharp,1982,Mol.Biol.159:602-621に記載のようにDHFR選択可能マーカーとともに使用される)、リンパ球細胞株、例えば、NS0骨髄腫細胞及びSP2細胞、COS細胞、及びトランスジェニック動物、例えばトランスジェニック哺乳動物由来の細胞が挙げられる。例えば、細胞は乳腺の外皮細胞である。
【0238】
多様な免疫グロブリンドメインをコードする核酸配列に加えて、組換え発現ベクターは、宿主細胞中のベクターの複製を調節する配列(例えば、複製開始点)及び選択可能マーカー遺伝子等の付加的な配列を有し得る。選択可能マーカー遺伝子は、ベクターが導入される宿主細胞の選択を容易にする(例えば、米国特許第4,399,216号、米国特許第4,634,665号及び米国特許第5,179,017号を参照)。例えば、典型的には、選択可能マーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞に、G418、ハイグロマイシン又はメトトレキサート等の薬剤に対する耐性を付与する。選択可能マーカー遺伝子として、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(メトトレキサート選択/増幅によるdhfr-宿主細胞における使用のため)及びneo遺伝子(G418選択のため)が挙げられる。
【0239】
抗体又はその抗原結合部分の組換え発現の例示的な系において、抗体重鎖及び抗体軽鎖の両方をコードする組換え発現ベクターを、リン酸カルシウム媒介トランスフェクションによりdhfr-CHO細胞に導入する。組換え発現ベクター内で、抗体重鎖及び軽鎖の遺伝子を、エンハンサー/プロモーター調節要素(例えば、SV40、CMV、アデノウイルス等に由来するもの、例えばCMVエンハンサー/AdMLPプロモーター調節要素又はSV40エンハンサー/AdMLPプロモーター調節要素)にそれぞれ機能可能に連結させて遺伝子の高レベルの転写を駆動する。組換え発現ベクターはまた、DHFR遺伝子を有し、これはこのベクターをトランスフェクトしたCHO細胞の、メトトレキセート選択/増幅を使用した選択を可能とする。選択された形質転換宿主細胞を培養して抗体重鎖及び軽鎖を発現させ、完全な抗体を培養培地から回収する。標準的な分子生物学技術を使用して、組換え発現ベクターを調製し、宿主細胞にトランスフェクトし、形質転換体を選択し、宿主細胞を培養し、抗体を培養培地から回収する。例えば、一部の抗体は、プロテインA又はプロテインGをカップリングしたマトリクスによるアフィニティークロマトグラフィーにより単離し得る。
【0240】
Fcドメインを含む抗体では、抗体産生系は、Fc領域がグリコシル化されている抗体を産生し得る。例えば、IgG分子のFcドメインは、CH2ドメイン中のアスパラギン297でグリコシル化されている。このアスパラギンは、二分岐型のオリゴ糖による修飾部位である。このグリコシル化はFcγ受容体及び補体C1qにより媒介されるエフェクター機能に必要とされることが示されている(Burton and Woof,1992,Adv.Immunol.51:1-84;Jefferis et al.,1998,Immunol.Rev.163:59-76)。1つの実施形態において、Fcドメインは、アスパラギン297に対応する残基を適切にグリコシル化する哺乳動物発現系で生成される。Fcドメインはまた、他の真核翻訳後修飾を含み得る。
【0241】
抗体はまた、トランスジェニック動物により生成され得る。例えば、米国特許第5,849,992号は、トランスジェニック哺乳動物の乳腺で抗体を発現させる方法を記載している。乳特異的プロモーター、並びに対象抗体及び分泌のためのシグナル配列をコードする核酸を含む導入遺伝子が構築される。そのようなトランスジェニック哺乳動物の雌により産生される乳は、そこで分泌された対象抗体を含んでいる。この抗体を乳から精製してもよく、又は一部の利用においては直接的に使用してもよい。
【0242】
トランスジェニックマウスを作製する方法の1つは、以下の通りである。簡潔に述べると、抗体をコードする標的コンストラクトを受精卵母細胞の雄性前核に微量注入する。生存可能な仔の発生のために卵母細胞を偽妊娠仮親の子宮に注入する。一部の子孫に導入遺伝子が組み込まれる。
【0243】
FcRn候補抗体のアッセイ系
FcRn候補抗体は、インビトロ又はインビボにおけるFcRn又はその断片に対する前記抗体の調節活性を測定するアッセイで更に特徴付けることができる。例えば、FcRnは、非特異的IgG又はIgGのFc部分又はアルブミン等の基質と、FcRnと基質との反応を可能にするアッセイ条件下で組み合わせることができる。アッセイは、FcRn候補抗体の非存在下、及び漸増濃度のFcRn候補抗体の存在下で実施される。FcRn活性(基質への結合)の50%が候補抗体により阻害される候補抗体の濃度が、その抗体のIC50値(阻害濃度50%)又はEC50(有効濃度50%)である。一連の候補抗体又は候補抗体群の中で、低いIC50又はEC50値を有する抗体が、高いIC50又はEC50値を有する抗体よりも、FcRnのより強力な阻害剤であるとみなされる。幾つかの実施形態では、抗体は、FcRn活性の阻害に関するインビトロアッセイで測定したとき、800nM、400nM、100nM、25nM、5nM,1nM又はそれ未満のIC50値を有する。
【0244】
候補抗体はまた、FcRnに対する選択性についても評価することができる。例えば、FcRn候補抗体は、FcRn及びβ2Mドメインを利用する受容体等の細胞表面受容体のパネルに対する効力についてアッセイすることができ、IC50値又はEC50値は各受容体タンパク質について決定することができる。1つの実施形態では、FcRnに対して低IC50値又はEC50値を示す化合物、及び試験パネル(例えばMHCクラスI分子)内の他の受容体に対して高IC50値又はEC50値を示す化合物は、FcRnに対して選択的であるとみなされる。
【0245】
エキソビボで内因性FcRnを発現している内皮細胞又は上皮細胞を用いて、様々なpH及び温度条件下で候補抗体のエンドサイトーシス又はトランスサイトーシスを追跡することができる。IgGのトランスサイトーシス又はFcRnによる再生は、種々の化学物質の存在又は非存在下、及び細胞内輸送経路に影響を及ぼす又は作用することが知られている様々な条件下で、標識抗体を追跡することにより測定できる。
【0246】
ラット、マウス、又はサルにおける薬物動態研究を、血清中の半減期を測定するために、pHに依存してFcRnに結合する抗体、及びpHに依存せずにFcRnに結合する抗体と共に実施することができる。同様に抗体の保護効果を、標識IgG若しくはIgGの標識Fc部分の存在下若しくは非存在下で抗体を注入することにより、免疫調節療法における利用可能性、又は救援免疫療法としての利用可能性についてインビボで評価することができる。候補抗体の存在下における標識IgG/Fcの半減期の短縮は、抗体の治療効果の指標である。
【0247】
医薬組成物
他の態様において、本開示は、組成物、例えば薬学的に許容可能な組成物又は医薬組成物であって、FcRn結合抗体を含む組成物を提供する。FcRn結合抗体は薬学的に許容できる担体と共に配合してもよい。医薬組成物は、治療用組成物と診断用組成物、例えばインビボ画像化のための標識FcRn結合抗体を含む組成物とを含む。
【0248】
薬学的に許容可能な担体には、任意の、そして全ての溶媒、分散培地、コーティング、抗細菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤、生理学的に適合可能な類似のものが含まれる。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄又は末梢投与(例えば注射又は注入による)のために好適である。投与経路に依存して、FcRn結合抗体を、物質内にて、酸の作用、及び化合物を不活性化する他の天然の条件から化合物を保護するために、その表面を覆ってもよい。
【0249】
薬学的に許容可能な塩は、親化合物の所望の生物学的活性を保持しているが、任意の不所望の毒性効果を与えない塩である(例えば、Berge,S.M. et al.,1977,J.Pharm.Sci.66:1-19を参照のこと)。そのような塩の例には、酸添加塩及び塩基添加塩が含まれる。酸添加塩には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素、ヨウ化水素、リン等のような、非毒性無機酸に由来するもの、並びに、脂肪酸一及び二炭酸塩、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪及び芳香スルホン酸等のような、非毒性有機酸に由来するものが含まれる。塩基添加塩には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のようなアルカリ土類金属に由来するもの、並びにN,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカイン等のような、非毒性有機アミンに由来するものが含まれる。
【0250】
組成物は、種々の形態であり得る。これらには、例えば、液体溶液(例えば注射可能及び注入可能溶液)、分散液又は懸濁液、錠剤、丸剤、粉末、リポソーム及び座剤のような、液体、半固体、固体投与形態が含まれる。形態は、意図した投与形態及び治療適用に依存し得る。多くの組成物は、ヒトの投与のために抗体とともに使用されるものと同一の組成物のような、注射可能又は注入可能溶液の形態である。代表的な投与様式は、非経口(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。1つの実施形態においてFcRn結合抗体は、静脈内注入又は注射によって投与される。別の実施形態において、FcRn結合抗体は、筋肉内又は皮下注射によって投与される。
【0251】
組成物は、溶液、ミクロエマルジョン、分散液、リポソーム又は高薬剤濃度に好適な他の規則化された構造として処方可能である。無菌注射可能溶液は、適切な溶媒中の活性化合物(即ちリガンド)を、必要な量で、上記で列挙した成分1つ又は組み合わせを含む溶媒中に組み入れ、必要なときに、続いて濾過滅菌することによって調製可能である。一般的に、分散液は、活性化合物を、塩基性分散培地及び以上で列記したものからの必要な他の成分を含む無菌賦形剤内に組み込むことによって調製する。無菌注射可能溶液の調製のための無菌粉末の場合、調製方法は、活性成分及び既に滅菌濾過したその溶液からの任意の更なる所望の成分の粉末を生成する、吸引乾燥及び凍結乾燥である。溶液の適切な流動性を、例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散液である場合は、要求された粒子サイズの維持によって、及び界面活性剤の使用によって、維持可能である。組成物中に、吸収を遅らせる薬剤、例えば一ステアリン酸塩及びゼラチンを含むことによって、注射可能組成物の長期の吸収を実現可能である。
【0252】
FcRn結合抗体は、当該技術分野で既知の種々の方法によって投与可能であるが、多くの用途では投与経路/様式は静脈内注射又は注入である。例えば、治療的用途では、約1~100mg/m2又は7~25mg/m2の用量に到達するために、FcRn結合抗体を、30、20、10、5又は1mg/分以下の速度で静脈内注入によって投与可能である。投与経路及び/様式は、所望の結果に依存して変化し得る。特定の実施形態において、活性化合物を、インプラント及び微小カプセル伝達系のような放出制御処方のような、化合物を急速な放出から保護する担体とともに調製し得る。エチレンビニル酢酸、ポリ無水物、ポリグリコリン酸、コラーゲン、ポリオルトエステル類、及びポリ酪酸のような、生物分解性、生物適合性ポリマーを、使用可能である。そのような処方の調製のための多くの方法は、特許出願されており、一般的に既知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照のこと。
【0253】
ある実施形態において、抗体は、例えば、不活性希釈剤又は吸収可能な食用担体とともに、経口投与してよい。化合物(及び必要に応じて他の成分)はまた、硬質又は軟質シェルゼラチンカプセル内に封入してもよく、錠剤に圧縮してもよく、又は対象の食事に直接組み込んでもよい。経口治療用途のために、化合物を、賦形剤と共に組み込み、摂取可能錠剤、バッカル剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウエハー等の形態で使用してもよい。非経口投与以外によって本明細書に開示される化合物を投与するために、化合物をその不活性化を予防する物質でコーティングする、又は化合物を前記物質と同時に投与することが必要である場合がある。
【0254】
医薬組成物は、本技術分野で既知の医療用具で投与可能である。例えば、1つの実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、装置、例えば針を必要としない皮下注射器具、ポンプ、又はインプラントで投与可能である。
【0255】
ある実施形態において、FcRn結合抗体を、インビボにて、正確な分布を保証するために処方可能である。例えば、血液脳関門(BBB)は多くの高い親水性の化合物を排除する。本明細書に開示される治療化合物が、(必要に応じて)BBBを通過することを保証するために、例えばリポソーム内で処方可能である。リポソームを製造する方法に関しては、例えば、米国特許第4,522,811号、第5,374,548号及び第5,399,331号を参照のこと。リポソームは、特定の細胞又は器官に選択的に輸送され、従って、標的化薬剤送達を増強する1つ又はそれ以上の部分を含み得る(例えば、V.V.Ranade,1989,J.Chin.Pharmacol.29:685を参照のこと)。
【0256】
投与計画は、最適な所望の応答(例えば、治療応答)を得るために調節される。例えば、単一ボーラスを投与してもよく、いくつかに分割した用量を時間をかけて投与してよく、又は治療状況の要件によって示唆されたとき、用量を比例的に減少又は増加させてもよい。投与及び用量の均一性を容易にするため、単位剤形にて、非経口組成物を処方することは特に有利である。本明細書で使用する、単位剤形は、治療すべき対象に対して、単一用量として好適な物理的に分離された単位を指し、各単位は、所望の治療効果が必要な薬理学的担体ととともに生じるように計算され、所定の量の活性化合物を含む。単位剤形の仕様は、(a)活性化合物の固有の特性及び達成されるべき特定の治療効果、及び(b)個体における感受性の治療に関する、そのような化合物を調合する技術分野に内在する制限によって決定され、それらに直接依存し得る。
【0257】
本明細書に開示される抗体の、治療的又は予防的に効果的な量の、限定はされない、例示的な範囲は、0.1~20mg/kg、又は1~10mg/kgである。抗FcRn抗体は、30、20、10、5又は1mg/分未満の速度にて、約1~100mg/m2又は約5~30mg/m2の用量に達するように、静脈内注入によって投与可能である。用量値は、軽減されるべき状態の種類及び重症度とともに変化し得る。任意の特定の対象に対して、特定の投与計画は、個体の必要性、及び投与している又は組成物の投与を管理している人物の専門の判断に従って、経時的に調整することができる。
【0258】
本明細書に開示される医薬組成物は、治療的に有効な量又は予防的に有効な量の本明細書に開示されるFcRn結合抗体を含み得る。「治療的に有効な量」は、必要な投与量及び期間において、所望の治療結果を得る、有効な量を意味する。組成物の治療的に有効な量は、疾患状態、個体の年齢、性別及び体重のような要因、個体における所望の応答を誘発するための、抗体の能力に従って変化する。治療的に有効な量はまた、治療的に有益な効果が、化合物の毒性又は有害な効果より上回るものである。
【0259】
安定化及び保持
1つの実施形態において、FcRn結合抗体を、循環中、例えば血液、血清、リンパ液又は他の組織中で、その安定化及び/又は保持を例えば少なくとも1.5、2、5、10、又は50倍に向上させる部分と物理的に会合させる。例えば、FcRn結合抗体を、ポリマー、例えば、実質的に非抗原性のポリマー(例えば、ポリオキシアルキレンオキシド又はポリエチレンオキシド)と会合させ得る。適切なポリマーの重量は、大幅に変化する。約200~約35,000(又は約1,000~約15,000、及び2,000~約12,500)の範囲の数平均分子量を有するポリマーを用いることができる。例えば、FcRn結合抗体を、水溶性ポリマー、例えば親水性ポリビニルポリマー、例えばポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンと複合化させ得る。そのようなポリマーの非限定的なリストは、ポリアルキレンオキシドホモポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン化ポリオール、その共重合体及びそのブロック共重合体(但し、ブロック共重合体の水溶性は維持されている)を含む。
【0260】
キット
本明細書に記載されるFcRn結合抗体は、キットで、例えばキットの構成要素として提供されてもよい。例えばキットは、(a)FcRn結合抗体、例えばFcRn結合抗体を含む組成物と、任意的に(b)情報資料と、を含む。情報資料は、本明細書に記載する方法及び/又は本明細書に記載する方法のためのFcRn結合抗体の使用に関する説明的な、指令的な、マーケティング上の、又は他の資料であり得る。
【0261】
キットの情報資料はその形態において制限されない。1つの実施形態では、情報資料は、化合物の製造、化合物の分子量、濃度、有効期限日、バッチ又は製造場所の情報等についての情報を含み得る。1つの実施形態では、情報資料は、本明細書に記載される障害、例えば自己免疫障害を治療、予防、又は診断するための抗体の使用に関する。
【0262】
1つの実施形態では、情報資料は、FcRn結合抗体を本明細書に記載される方法を実施するのに適当な方法で、例えば適当な用量、剤形、又は投与様式(例えば、本明細書に記載する用量、剤形、又は投与様式)で投与するための説明書を含むことができる。1つの実施形態では、情報資料は、適当な被験者、例えばヒト、例えば自己免疫障害(例えば関節リウマチ又は全身性エリテマトーデス)に罹患しているか、或いはそのリスクがあるヒトにFcRn結合抗体を投与するための説明書を含むことができる。例えば、資料は、紅斑患者又は別の自己免疫障害患者にFcRn結合抗体を投与するための説明書を含んでもよい。
【0263】
キットの情報資料はその形態において制限されない。多くの場合に、情報資料、例えば使用説明書は、印刷物として、例えば印刷した文、図面、及び/又は写真として、例えばラベル又は印刷シートとして提供される。しかし、情報資料は他の形式で提供されてもよく、例えば、コンピュータ読み取り可能媒体、ビデオ録画、又は音声録音等がある。1つの実施形態では、キットの情報資料は問い合わせ先情報であって、例えば物理的な住所、eメールアドレス、ウェブサイト、又は電話番号等を含むことができ、この場合、キットのユーザはFcRn結合抗体及び/又は本明細書に記載する方法でのその使用に関する実質的な情報を得ることができる。無論情報資料は任意に組み合わせた形式で提供されてもよい。
【0264】
FcRn結合抗体に加えて、キットの組成物は他の成分を含むこともでき、例えば溶媒若しくはバッファー、安定剤、防腐剤、風味剤(例えば苦味遮断剤又は甘味剤)、香料、又は他の化粧用成分、及び/又は本明細書に記載する自己免疫障害(例えば、関節リウマチ又は全身性エリテマトーデス)を治療するための第2の薬剤を含み得る。或いはまた、そのような他の成分をキットに含んでもよいが、FcRn結合抗体を含む組成物とは異なる組成物又は容器内に含んでもよい。そのような実施形態では、キットは、FcRn結合抗体と他の成分とを混ぜ合わせるための、又はFcRn結合抗体を他の成分と一緒に使用するための説明書を含むことができる。
【0265】
FcRn結合抗体は任意の形態、例えば液体、乾燥形態、又は凍結乾燥形態で提供することができる。FcRn結合抗体は実質的に純粋及び/又は無菌であることが好ましい。FcRn結合抗体が液体の溶液で提供される場合、好ましくは、その溶液は水溶液であり、無菌の水溶液が好適である。FcRn結合抗体が乾燥形態として提供される場合には、一般的に、適当な溶媒の添加により再構成を行う。任意的に溶媒(例えば、無菌の水又はバッファ)をキットに入れて提供してもよい。
【0266】
キットはFcRn結合抗体を含有する組成物用の容器を1個以上含み得る。幾つかの実施形態では、キットは組成物用と情報資料用の別個の容器、仕切り、又は区画を含む。例えば、組成物を瓶、バイアル若しくはシリンジに入れ、情報資料をプラスチックスリーブ若しくはパケットに入れることができる。他の実施形態では、キットの別個の要素を分割されていない単一容器に収める。例えば、組成物を瓶、バイアル若しくはシリンジに入れるが、この容器には情報資料がラベルの形で貼り付けてある。幾つかの実施形態では、キットは複数(例えば、1パックの)の個々の容器を含み、各容器がFcRn結合抗体の1個以上の単位剤形(例えば、本明細書に記載の剤形)を含む。例えば、キットは複数のシリンジ、アンプル、フォイルパケット、又はブリスターパックを含み、各々が1単位用量のFcRn結合抗体を含む。キットの容器は気密性、耐水性(水分の変化又は蒸発に対して不透過性)、及び/又は耐光性であり得る。
【0267】
キットは、所望により組成物の投与に好適な装置、例えばシリンジ、吸入器、ピペット、鉗子、計測スプーン、点滴器(例えば点眼器)、スワブ(例えば綿スワブ又は木スワブ)、又は任意のかかる送達装置を含む。1つの実施形態では、装置は定量の抗体を分配する埋め込み型装置である。本開示はまた、例えば本明細書に記載される構成要素を組み合わせることによりキットを提供する方法を特徴とする。
【0268】
治療
FcRnに結合し、本明細書に記載される、及び/又は本明細書に詳述される方法により同定される抗体は、治療及び予防的有用性を有する。これらの抗体を対象に投与して、自己免疫障害を含む種々の障害を治療、予防、及び/又は診断することができる、又は例えばインビトロ若しくはエキソビボで培養物中の細胞にさえも接種することができる。
【0269】
用語「治療」は、統計的に有意な程度又は当業者が検出可能な程度に、障害に関連する状態、症状、若しくはパラメータを改善する、又は障害の進行を阻止するのに有効な量、方法、及び/又は様式で療法を投与することを指す。有効な量、方法、又は様式は、対象によって変化し得、対象に合わせて調整することができる。対象は、ヒト又は非ヒト動物、例えば非ヒト哺乳類であってもよい。
【0270】
FcRn結合抗体は、治療的に有効な量で、例えば対象に単用量又は多用量を投与したとき、対象が障害、例えば自己免疫障害(例えば関節リウマチ又は全身性エリテマトーデス)の症状、又は障害の存在若しくはリスクの指標となるパラメータの改善を示すように、投与することができる。
【0271】
体内の多くの器官に影響を及ぼす、又は器官に局在する代表的な障害としては、多発性硬化症、関節リウマチ、炎症性腸疾患(IBD)、紅斑、及び強直性脊椎炎が挙げられる。これらの障害の一部を以下に論じる。1つの態様では、本発明は癌の治療方法を提供する。FcRn結合抗体を用いて治療することができる更に他の障害としては、強皮症、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群、ウェゲナー肉芽腫症、リウマチ性多発筋痛症、側頭動脈炎/巨細胞動脈炎、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫性アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ球増殖性症候群(ALPS)、自己免疫性血小板減少性紫斑病(ATP)、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋障害、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労症候群免疫不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、瘢痕性類天疱瘡、寒冷凝集素症、クレスト症候群、クローン病、ドゴー病、皮膚筋炎、若年性皮膚筋炎、円板状紅斑、クリオグロブリン血症、線維筋痛、線維筋炎、グレーブス病、ギランバレー症候群、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病(I型)、若年性関節炎、メニエール病、混合性結合組織病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、腫瘍随伴性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性自己免疫症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、サルコイドーシス、スティッフマン症候群、高安動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、血管炎、白斑が挙げられる。
【0272】
幾つかの実施形態では、抗FcRn結合抗体は、血流から不所望の治療抗体を除去するために投与される。
【0273】
幾つかの実施形態では、抗FcRn結合抗体は、抗HLA抗体の濃度を抑制するために投与される。幾つかの実施形態では、抗HLA抗体の濃度は臓器移植と関連して抑制される。
【0274】
FcRn結合抗体の投与方法は、「医薬組成物」に記載されている。用いられる分子の好適な投与量は、対象の年齢及び体重、並びに用いられる具体的な薬剤に依る。抗体は、競合剤として使用して、不所望の相互作用、例えば天然又は病理学的剤とFcRnとの間の相互作用を阻害する又は低減することができる。
【0275】
FcRn結合抗体を用いて、例えば遺伝子治療の目的のために遺伝子を細胞へ、内皮又は上皮へ、及びFcRnを発現する組織のみを標的として巨大分子又は微小分子を送達することができる。上記抗体は、治療薬、放射線を射出する化合物、植物、真菌、又は細菌起源の分子、生物学的タンパク質、並びにこれらの混合物が含まれる多様な細胞傷害薬を送達するために使用することができる。細胞傷害薬は、短距離放射線放出体(例えば、本明細書に記載のような短距離、高エネルギーα放射体が含まれる)のように、細胞内で作用する細胞傷害薬であり得る。
【0276】
ポリペプチド毒素の場合、組換え核酸技術を使用して、その抗体と細胞毒素(又はそのポリペプチド成分)をコードする核酸を翻訳融合物として構築することができる。次いで、この組換え核酸を例えば細胞中で発現させて、コードされた融合ポリペプチドを単離する。
【0277】
或いは、FcRn結合抗体は、高エネルギー放射線放出体、例えば、131Iのような放射線同位体、γ放射体へ結合することができ、これは、ある部位に局在化すると、数個の細胞直径の範囲の殺傷をもたらす。例えば、S.E.Order,“Analysis,Results,and Future Prospective of the Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody in Cancer Therapy”,Monoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy,R.W.Baldwin et al.(eds.),pp303 316(Academic Press 1985)を参照のこと。他の好適な放射性同位体には、212Bi、213Bi、及び211Atのようなα放射体と186Re及び90Yのようなβ放射体が含まれる。更に、造影剤と細胞傷害剤のいずれとしても117Luを使用してよい。
【0278】
131I、90Y、及び177Luで標識した抗体を使用する放射免疫療法(RIT)は、鋭意に臨床検討されている。これら3つの核種の物理特性には著しい相違があり、結果として、放射線核種の選択は、対象組織に最大放射線量を送達するのにきわめて重要である。90Yのより高いβエネルギー粒子は、嵩高い腫瘍に良好であり得る。131Iの相対的に低いエネルギーのβ粒子は理想的であるが、放射ヨウ素化分子のインビボ脱ハロゲン化は、抗体を内部化するのに重大な短所となる。対照的に、177Luは僅か0.2~0.3mm範囲の低エネルギーβ粒子を有し、90Yに比較して遥かに低い放射線量を骨髄へ送達する。更に、(90Yに比較して)物理半減期がより長いことにより、滞留時間はより長い。結果として、より高い活性(より多くのmCi量)の177Lu標識剤を比較的少ない放射線量で骨髄へ投与することができる。様々ながんの治療における177Lu標識抗体の使用について検討した幾つかの臨床試験が存在する(Mulligan T et al.,1995,Clin Cancer Res.1:1447-1454;Meredith RF,et al.,1996,J Nucl Med 37:1491-1496;Alvarez RD,et al.,1997,Gynecologic Oncology 65:94-101)。
【0279】
自己免疫を治療するための治療方法の使用には、多くの利点がある。抗体はFcRnを特異的に認識するため、他の組織が除外され、治療を必要とする部位へ高レベルの薬剤が直接送達される。治療は、臨床パラメータで効果的にモニタリングすることができる。或いは、これらのパラメータを使用して、上記の治療をいつ利用すべきかを指定してよい。
【0280】
FcRn結合抗体は、自己免疫障害を治療するために、静脈内IgG療法、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、及びコルチコステロイド、並びにシクロスポリン、ラパマイシン、若しくはアスコマイシン、又はこれらの免疫抑制性類似体、例えばシクロスポリンA、シクロスポリンG、FK-506、ラパマイシン、40-O-(2-ヒドロキシ)エチル-ラパマイシン等の抗炎症治療;シクロホスファミド;アザチオプリン;メトトレキサート;ブレキナル;FTY720;レフルノミド;ミゾリビン;ミコフェノール酸;ミコフェノール酸モフェチル;15-デオキシスペルグアリン;免疫抑制モノクローナル抗体、例えば白血球受容体(例えば、MHC、CD2、CD3、CD4、CD7、CD25、CD28、B7、CD45、若しくはCD58)又はそのリガンドに対するモノクローナル抗体;或いは他の免疫調節化合物、例えばCTLA4Ig、又は他の接着分子インヒビター、例えばセレクチンアンタゴニスト及びVLA-4アンタゴニストを含むmAb又は低分子量阻害剤が挙げられるがこれらに限定されない1種以上の既存のモダリティと併せて投与してもよい。これらの併用療法は、免疫調節投与計画の一部であってもよいし、又は同種若しくは異種移植片の急性若しくは慢性拒絶反応、炎症性疾患、又は自己免疫障害の治療又は予防のための投与計画の一部であってもよい。
【0281】
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は、ミエリン鞘の炎症及び欠損によって特徴付けられる中枢神経系の疾患である。
【0282】
MS診断に関するワークショップによって定義されるような、臨床的に明確なMSの診断を確立する基準によって、MS患者を特定することが可能である(Poserら,Ann.Neurol.13:227,1983)。MSはまた、2回の発作及び脳脊髄液中のIgGの少クローン性バンドによって、或いは発作、2つの病巣の臨床的徴候及び脳脊髄液中の少クローン性バンドの組み合わせによって、診断することも可能である。またMcDonald基準を用いてMSを診断することもできる。McDonald et al.,2001,Recommended diagnostic criteria for multiple sclerosis: guidelines from the International Panel on the Diagnosis of Multiple Sclerosis,Ann Neurol 50:121-127。McDonald基準は、複数の臨床的攻撃の存在下で、MSの診断に用いられる経時的中枢神経機能障害のMRIによる証拠の使用を含む。
【0283】
幾つかの異なる方式で、多発性硬化症に有効な治療を評価することも可能である。以下のパラメータを用いて治療の有効性をはかることができる。2つの代表的な基準としては:EDSS(長期身体障害状態スケール)、及びMRI(磁気共鳴画像化法)における再燃(exacerbation)の出現が挙げられる。EDSSは、MSによる臨床的な機能障害を等級分けする手段である(Kurtzke,Neurology 33:1444,1983)。神経学的機能障害の種類及び重症度に関して、8つの機能系を評価する。簡潔には、治療前に、以下の系の機能障害に関して患者を評価する:錐体、小脳、脳幹、感覚、腸及び膀胱、視覚、大脳、及び他のもの。規定の間隔で、経過観察を行う。スケールは、0(正常)から10(MSによる死亡)の範囲である。1つの完全な段階の減少は、治療が有効であることを示すことができる(Kurtzke,Ann.Neurol.36:573-79,1994)。
【0284】
本明細書に記載される方法で治療することができる、多発性硬化症に関連する典型的な症状には:視神経炎、複視、眼振、眼の測定障害、核間性眼筋麻痺、運動及び音の眼内せん光、求心性瞳孔障害、不全麻痺、単不全麻痺、不全対麻痺、片側不全麻痺、四肢不全麻痺(quadraparesis)、麻痺(plegia)、対麻痺、片麻痺、四肢麻痺(tetraplegia、quadraplegia)、痙縮、講語障害、筋萎縮、攣縮、痙攣、低血圧、クローヌス、筋クローヌス、筋波動症、下肢不安症候群、垂足、機能不全反射、錯感覚症、無感覚症、神経痛、神経障害性及び神経原性の痛み、レルミット徴候、固有受容機能不全、三叉神経痛、運動失調症、企図振戦、測定障害、前庭性運動失調、めまい、言語行動失調、筋緊張異常、拮抗運動反復不全、頻尿、膀胱痙縮、膀胱弛緩、排尿筋-膀胱括約筋協調障害、勃起機能障害、性感異常症、冷感症、便秘、便意逼迫、糞便失禁、抑うつ症、認知機能障害、痴呆、躁鬱、感情的不安定性、多幸症、二極性症候群、不安症、失語症、神経性不全失語症、易疲労、ウトホフ症状、胃食道逆流、及び睡眠障害が含まれる。
【0285】
ヒト研究に加えて又はヒト研究の前に、動物モデルを用いて2つの剤の使用の有効性を評価することができる。代表的な多発性硬化症の動物モデルは、実験的自己免疫性脳炎(EAE)マウスモデルであり、例えば(Tuohy et al.(J.Immunol.,1988,141: 1126-1130),Sobel et al.(J.Immunol.,1984,132: 2393-2401)、及びTraugott(Cell Immunol.,1989,119: 114-129)に記載されている。マウスは、EAE誘導の前に本明細書に記載される第1の剤及び第2の剤を投与してもよい。次いでマウスを特徴的な基準について評価して、モデルにおける2つの剤の使用の有効性を決定する。
【0286】
IBD
炎症性腸疾患(IBD)は一般的な慢性、再発性胃腸炎を含む。IBDはクローン疾患と潰瘍性大腸炎の二つの特徴的に異なる疾患を指す。IBDの臨床的な症状は間歇的な直腸出血、痙攣性腹痛、体重減少及び下痢を含む。潰瘍性大腸炎の臨床活性指数のような臨床的指標がIBDをモニターするために使用され得る(Walmsley et al.Gut.1998 Jul;43(1):29-32及びJowett et al.,2003,Scand J Gastroenterol.38(2):164-71参照)。FcRn結合抗体を用いて、IBDの少なくとも1つの症状を寛解させる又はIBDの臨床的指標を改善することができる。
【0287】
関節リウマチ
関節リウマチは、関節における痛み、腫れ、硬直及び機能喪失を引き起こす自己免疫炎症性疾患である。関節リウマチは対称的なパターンで現れることが多い。この疾患は、手関節、及び、手に最も近い指の関節を冒し得る。この疾患はまた、関節のほかに、身体の他の部分も冒し得る。加えて、関節リウマチに罹患している人々は、疲労、時々の発熱、及び、全身的倦怠を有する場合がある。関節リウマチを診断するための陽性因子には、「リウマチ因子」血中抗体及びシトルリン抗体が含まれる。FcRn結合抗体は、関節リウマチ、或いは、関節リウマチの1つ又は複数の症状を治療、予防又は緩和することにおいて有用であり得る。
【0288】
狼瘡
全身性エリテマトーデス(SLE)は、様々な身体組織に対する炎症及び損傷をもたらす自己免疫障害である。SLEは、自身のDNAに向けられた自己抗体によって媒介され得る。狼瘡は、関節、皮膚、腎臓、心臓、肺、血管及び脳をはじめとする身体の多くの部分を冒し得る。様々な症状が現れ得るが、最も一般的な症状のいくつかには、極度の疲労、痛み又は腫脹関節(関節炎)、説明できない発熱、皮膚の発疹、及び、腎臓の問題が含まれる。狼瘡の例示的な症状には、痛み又は腫れのある関節、説明できない発熱、及び、極度の疲労が含まれる。特徴的な赤い皮膚発疹が鼻及び頬の全体に現れる場合がある。発疹はまた、顔及び耳、上腕、肩、胸並びに手にも生じる場合がある。狼瘡の他の症状には、胸の痛み、脱毛、貧血、口内炎、並びに、寒さ及びストレスから生じる蒼白又は紫色の指及びつま先が含まれる。一部の人々はまた、頭痛、めまい、鬱病、錯乱又は発作を経験する。SLE診断のための陽性因子には、循環している抗核抗体、抗DNA抗体及び抗Sm抗体が含まれる。FcRn結合抗体は、SLE、或いは、SLEの1つ又は複数の症状を治療、予防又は軽減することにおいて有用であり得る。本明細書に記載される狼瘡は、皮膚ループス及びループス腎炎を含む。
【0289】
免疫性血小板減少症(ITP)
ITPは、末梢血小板破壊の増加する疾患であり、患者は特定の血小板膜タンパク質に結合する抗体を産生する。抗血小板抗体は血小板をオプソニン化し、マクロファージによる破壊を導く。ITPを治療する試みは一般に、血小板濃度の増加を惹起する免疫系の抑制を含む。FcRn結合抗体は、ITP又はその1種以上の症状の治療、予防、又は軽減に有用であり得る。
【0290】
強直性脊椎炎
強直性脊椎炎は、脊椎を冒すだけでなく、骨及び関節の周りの腱及び靱帯が炎症し、痛み及び硬直をもたらすように、股関節、肩及び膝もまた冒すことがある自己免疫障害である。強直性脊椎炎は後期思春期又は初期青年期の人々を冒す傾向がある。FcRn結合抗体は、強直性脊椎炎、或いは、その1つ又は複数の症状を治療、予防又は緩和することにおいて有用であり得る。
【0291】
天疱瘡
天疱瘡は、粘膜及び皮膚に影響を及ぼす自己免疫障害である。前記障害は、デスモグレインに対する自己抗体の産生を特徴とする。デスモグレインは、カドヘリンファミリーのタンパク質であり、細胞を互いに接合させるデスモソームの形成に関与している。天疱瘡は、3つの種類のうちの1種に分類することができる。尋常性天疱瘡は前記障害の最も一般的な形態であり、自己抗体はデスモグレイン3を標的とする。落葉状天疱瘡では、デスモグレイン1に対する自己抗体が産生される。第3の種類であり、且つ最も少ない障害は腫瘍随伴性天疱瘡であり、自己抗体はデスモプラキンを標的とし、リンパ腫等の癌に関連する。前記障害は一般的に、皮膚の外観によって皮膚専門医により診断され、デスモグレインに対する自己抗体の検出により確認される。治療方法としては、ステロイドの投与、及び/又はRituximab(Rituxan)等のCD20抗体の投与が挙げられる。
【0292】
癌
本明細書中に使用される「癌」は、体の器官及び系が正常に機能するのを妨害する、細胞の制御されていない成長を指す。それらの本来の位置から移動して、重要器官に種を播く(seed)癌は、冒された器官の機能的悪化を介してついには対象の死をもたらし得る。癌腫は、上皮細胞から生じる悪性癌であり、腺癌及び扁平上皮細胞癌が挙げられる。肉腫は結合組織又は支持組織の癌であり、骨肉腫、軟骨肉腫、及び消化管間質腫瘍が挙げられる。白血病等の造血癌は、対象における正常造血コンパートメントにまさることができ、それによって、最終的に死を引き起こす造血不全(貧血、血小板減少、及び好中球減少の形態で)を導く。当業者は、癌を肉腫、癌腫、又は造血癌に分類することができる。
【0293】
本明細書で使用するとき、癌としては、以下の種類の癌が挙げられる:乳癌;胆道癌;膀胱癌;神経膠芽腫及び髄芽腫を含む脳癌;頸癌;絨毛腫;結腸癌;子宮体癌;食道癌;胃癌;急性リンパ性白血病及び骨髄性白血病を含む血液腫瘍;T細胞急性リンパ性白血病/リンパ腫;ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄性白血病;多発性骨髄腫;AIDS関連白血病及び成人T細胞白血病リンパ腫;ボーエン病及びパジェット病を含む上皮内新生物;肝臓癌;肺癌;ホジキン病及びリンパ球性リンパ腫を含むリンパ腫;神経芽細胞腫;扁平上皮癌を含む口腔癌;上皮細胞、間質細胞、生殖細胞、及び間葉細胞から生じる癌を含む卵巣癌;膵臓癌;前立腺癌;直腸癌;平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、及び骨肉腫を含む肉腫;黒色腫、カポジ肉腫、基底細胞癌、及び扁平上皮細胞癌を含む皮膚癌;精上皮腫、非精上皮腫(奇形腫、絨毛腫)、間質腫瘍、及び生殖細胞腫瘍等の胚腫瘍を含む精巣癌;甲状腺癌及び髄様癌を含む甲状腺癌;並びに腺癌及びウィルムス腫瘍を含む腎臓癌。他の癌も当業者に知られている。
【0294】
胎児の治療
FcRnは、上皮細胞の障壁を通じる母体のIgGの胎児への輸送を仲介する。本明細書に記載される抗体を用いて、巨大分子薬、例えば抗生物質及び/又は小分子を、子宮内の胎児に送達することができる。胎児は、治療を必要とする状態又は障害(例えば腸管感染症又は代謝障害)に罹患している場合がある。前記状態又は障害を治療するための薬剤又は分子をFcRn結合抗体に共役結合させ、子宮内に治療の必要な胎児のいる妊婦に投与してもよい。共役結合化FcRn結合抗体はFcRnに結合し、それにより胎盤を介して胎児に輸送される。胎児は薬剤又は分子治療を受ける。
【0295】
免疫吸着
幾つかの実施形態では、本発明は、個体から不所望の治療抗体を除去する方法を提供する。幾つかの実施形態では、不所望の治療抗体はIgG抗体である。幾つかの実施形態では、不所望の治療抗体は、ナタリズマブ(Tysabri,Biogen Idec/ Elan)、エファリズマブ(Raptiva,Genetech)、ベバシズマブ(Avastin,Genentech)等の抗VLA4抗体、及びエタネルセプト(Enbrel,Amgen/Wyeth)等のFc融合タンパク質である。ナタリズマブモノクローナル抗体療法は、進行性多巣性白質脳症(PML)に関連している。血流及び/又は体の他の部分から治療抗体を枯渇させると、PMLの進行を変化させることができる。
【0296】
幾つかの実施形態では、本明細書に提示される治療方法は、対象の血流から治療抗体を除去する又は部分的に除去する方法と組み合わせてもよい。幾つかの実施形態では、本明細書に提示される抗FcRn抗体は、治療抗体に結合することができる捕捉タンパク質と組み合わせてもよく、前記組み合わせにより血流からの治療抗体のクリアランスが増加する。幾つかの実施形態では、対象の血流から治療抗体を除去する又は部分的に除去する方法は、血漿交換(PLEX)である。幾つかの実施形態では、抗FcRn抗体は、血漿交換を受けている対象に投与することができる。幾つかの実施形態では、抗FcRn抗体は、血漿交換プロセスにおけるFcRnの免疫吸着剤として使用することができる。
【0297】
血漿交換(アフェレーシス又はプラスマフェレーシスとも呼ばれる)では、血液を身体から取り出し、コレステロール又は治療抗体等の不所望の剤を含有している血漿を細胞分離機により血液から除去する。血液は、バッチで身体から取り出してもよく、体内に処理した血液を後に再導入することを可能にする連続流モードで取り出してもよい。取り出された不所望の剤を含む血漿を廃棄し、患者は代わりにドナーの血漿又はタンパク質を添加した生理食塩水を受け取ることができる。幾つかの実施形態では、血液から不所望の剤を除去する、又は血液中の不所望の剤の濃度を許容可能な水準まで低下させるために、複数ラウンドの血漿交換を必要とする場合がある。幾つかの実施形態では、血液を「濾過し」、不所望の剤を除去し、その後血液を患者に戻す。血漿交換の方法は当該技術分野で既知であり、例えば米国特許第6,960,178号に記載されている。
【0298】
血漿交換は、対象の血液中の治療抗体の水準を低下させ、ホメオスタシスを回復させることが示されている(例えばKhatri et al;2009;Neurology 72:402-409参照)。
【0299】
IgGに基づく治療抗体(ナタリズマブ等)は、捕捉タンパク質、ブドウ球菌プロテインA(IgGのFc領域に結合し、血流からIgG抗体を除去する)と血液を接触させることにより、血液、血漿、又は血清から除去することができる。他の捕捉タンパク質は、異なるアイソタイプ抗体に用いることができる。幾つかの実施形態では、抗FcRn抗体は、血漿交換プロセスにおいて捕捉タンパク質として用いることができるため、血流からFcRnを除去し、それにより「遊離」治療抗体の量を増加させる。得られる「遊離」治療抗体は、治療前に存在する抗体よりも半減期が短い、及び/又は異なる捕捉タンパク質(プロテインA等)を用いてより容易に血液から除去することができる。幾つかの実施形態では、抗FcRn抗体は、血漿交換中又は血漿交換前に患者に投与される。幾つかの実施形態では、抗FcRn抗体を固定化し、カラム中で用いて、FcRnに結合させることができる。幾つかの実施形態では、治療抗体を含有する患者の血液は、固定化抗FcRn抗体及び固定化プロテインAの両方と接触する。
【0300】
幾つかの実施形態では、本明細書に提示される抗FcRn抗体は、既に投与され、有害な作用を示している治療抗体に対する「救援」療法で用いることができる。幾つかの実施形態では、抗FcRn抗体は、血漿交換の代替として用いることができる。抗FcRnの投与は、血管アクセス、クエン酸塩療法、及びドナー血漿の調達等のプラズマフェレーシス及び血漿交換に関連するリスクを負うことなく、治療抗体を枯渇させることができる。
【0301】
ヒト白血球抗原
ヒト白血球抗原(HLA)は、細胞の外側上にペプチド及び抗原を提示し、これは後にT細胞により認識され、T細胞は次いでB細胞を活性化することができる。HLA遺伝子のパネルは、各人で独特である。「非自己」であるHLAを提示する任意の細胞は、免疫反応を誘導する。一般に、自己HLAと「非自己」HLAが異なるほど、免疫反応は強くなる。例えば、臓器移植の場合、免疫反応を最低限に抑えるためには類似のHLA遺伝子を有する対象が好ましい。ドナー特異的HLA抗体は、腎臓、心臓、及び肝臓移植における移植片不全に関連することが見出されている。
【0302】
幾つかの実施形態では、本発明は、個体における「非自己」HLAの水準を低下させる方法を提供する。「非自己」HLA抗体の水準低下は、例えば臓器移植中の免疫反応を抑制することができる。幾つかの実施形態では、臓器移植を受ける予定の人に、抗FcRn抗体を投与する。幾つかの実施形態では、臓器移植を受けている人に抗FcRn抗体を投与する。幾つかの実施形態では、臓器移植を既に受けた人に抗FcRn抗体を投与する。HLA抗体の水準を測定するためのアッセイは当該技術分野で周知である。
【0303】
診断的使用
FcRnに結合し、本明細書に記載される及び/又は本明細書に詳述される方法により同定された抗体は、インビトロ及びインビボの診断的有用性をもつ。
【0304】
1つの態様において、本開示は、インビトロで又はインビボで(例えば、対象におけるインビボ画像化)、存在FcRnを検出するための診断方法を提供する。方法は、FcRnを細胞内の位置、例えばエンドソームに局在させることを含み得る。方法は、(i)試料をFcRn結合抗体と接触させ;(ii)FcRn結合抗体と試料間の複合体の形成を検出することを含み得る。方法はまた、参照試料(例えば、対照試料)を抗体に接触させ、抗体と試料間の複合体の形成の程度を参照試料についての同じものに対して測定する段階を含み得る。対照試料又は対象に関する試料又は対象における複合体の形成における変化、例えば統計学的に有意な変化は、試料におけるFcRnの存在を示し得る。
【0305】
別の代表的な方法は、(i)FcRn結合抗体を対象へ投与し;(iii)FcRn結合抗体と対象の間の複合体の形成を検出することを含み得る。検出は、複合体の形成の位置又は時間を測定することを含み得る。
【0306】
FcRn結合抗体は、結合した又は結合していない抗体の検出を容易にするために検出可能な物質で直接的に又は間接的に標識され得る。適した検出可能な物質は、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質及び放射活性物質を含む。
【0307】
FcRn結合抗体とFcRnの間の複合体形成は、FcRnに結合した抗体又は結合していない抗体のいずれかを測定又は可視化することにより検出され得る。従来の検出アッセイ法、例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)、又は組織免疫組織化学法が用いられる。FcRn結合抗体を標識することに加えて、FcRnの存在は、検出可能な物質で標識された標準及び標識されていないFcRn結合抗体を利用する競合免疫測定法により試料においてアッセイされ得る。このアッセイの1つの例において、生体試料、標識された標準、及びFcRn結合抗体は、混合され、非標識抗体に結合した標識標準の量が測定される。試料におけるFcRnの存在の量は、FcRn結合抗体に結合した標識標準の量に反比例する。
【0308】
フルオロフォア及び発色団で標識された抗体を調製することができる。抗体及び他のタンパク質は、約310nmまでの波長をもつ光を吸収するため、蛍光部分は、310nmより上の、好ましくは400nmより上の波長において実質的な吸収作用を有するように選択されるべきである。様々な好適な蛍光及び発色団は、Stryer,1968,Science 162:526及びBrand,L.et al.,1972,Annual Review of Biochem.41:843-868により記載されている。抗体は、米国特許第3,940,475号、第4,289,747号及び第4,376,110号に開示されたもののような従来の手順により蛍光発色団で標識され得る。上記の多数の所望の性質を有する蛍光剤の1つの群は、キサンテン染料であり、フルオレセイン及びローダミンを含む。蛍光化合物の別の群は、ナフチルアミンである。一旦フルオロフォア又は発色団で標識されると、抗体は、試料におけるFcRnの存在又は位置を、例えば蛍光顕微鏡法(共焦点又はデコンヴォルーション顕微鏡法のような)を用いて検出するために用いられ得る。
【0309】
組織学的分析。免疫組織化学は、本明細書に記載された抗体を用いて行われ得る。例えば、抗体は、標識(精製タグ又はエピトープタグのような)と共に合成され得る、又は、例えば、標識若しくは標識結合群を共役結合させることにより、検出可能に標識され得る。例えば、キレート化剤が抗体に付着させられ得る。抗体は、その後、組織学的調製物、例えば、顕微鏡スライド上にある組織の固定切片に接触させられる。結合のためのインキュベーション後、調製物は、結合していない抗体を除去するために洗浄される。調製物は、その後、抗体が調製物へ結合したかどうかを確認するために、例えば顕微鏡法を用いて分析される。
【0310】
無論抗体は、結合時点において標識されてなくてもよい。結合及び洗浄後、抗体は、それを検出可能にするために標識される。
【0311】
タンパク質アレイ。FcRn結合抗体はまた、タンパク質アレイ上に固定化され得る。タンパク質アレイは、例えば、医学的試料(単離された細胞、血液、血清、生検等のような)をスクリーニングするために、診断ツールとして用いられ得る。無論タンパク質アレイはまた、例えば、FcRn又は他の標的分子に結合する、他のリガンドを含んでもよい。
【0312】
ポリペプチドアレイを作製する方法は、例えば、De Wildt et al.,2000,Nature Biotech.18:989-994;Lueking et al.,1999,Anal.Biochem.270:103-111;Ge,2000,Nuc.Acids Res.28:e3;MacBeath and Schreiber,2000,Science 289:1760-1763;国際公開第01/40803及び国際公開第99/51773A1に記載されている。アレイについてのポリペプチドは、例えば、市販されている、例えば、Genetic MicroSystems又はBioRobotics社製のロボット装置を用いて、高速度でスポットされ得る。アレイ基材は、例えば、ニトロセルロース、プラスチック、ガラス、例えば、表面修飾ガラス、であり得る。アレイはまた、多孔質マトリックス、例えば、アクリルアミド、アガロース又は別のポリマーを含み得る。
【0313】
例えば、アレイは、例えば、De Wildt、上掲に記載されているような、抗体のアレイであり得る。抗体を産生する細胞は、アレイ形式でのフィルター上で増殖され得る。抗体産生が誘導され、発現されたポリペプチドは、細胞の位置においてフィルターへ固定化される。抗体アレイは、各固定化抗体への標的の結合の程度を測定するために標識された標的と接触させられ得る。アレイの各アドレスにおける結合の程度についての情報は、例えば、コンピュータデータベースにおいて、プロファイルとして保存され得る。抗体アレイは、複製物として作製され、例えば、標的及び非標的の、結合プロファイルを比較するために用いられ得る。
【0314】
FACS(蛍光活性化細胞選別)。FcRn結合抗体を用いて細胞、例えば試料(患者の試料)中の細胞を標識することができる。抗体はまた、蛍光化合物に接着させる(又は接着可能である)。次いで蛍光活性化細胞選別機を用いて(例えばBecton Dickinson Immunocytometry Systems,San Jose CAから入手可能な選別機を用いて、米国特許第5,627,037号;同第5,030,002号;及び同第5,137,809号も参照)細胞を選別することができる。細胞が選別機を通過すると、レーザービームが蛍光化合物を励起し、検出機が通過する細胞を計数し、蛍光を検出することにより細胞に蛍光化合物が接着しているかどうかを決定する。各細胞に結合している標識の量を定量及び分析して、試料を特徴付けることができる。
【0315】
選別機はまた、細胞をそらせ、抗体が結合していない細胞から抗体が結合している細胞を分離することができる。分離された細胞を培養及び/又は特徴付けすることができる。
【0316】
インビボ画像化。本発明では、またインビボでFcRn発現組織の存在を検出する方法を特徴とする。方法は、(i)検出可能なマーカーに共役結合されている抗FcRn抗体を対象(例えば自己免疫障害に罹患している患者)に投与することと、(ii)前記対象を、前記検出可能なマーカー、FcRn発現組織又は細胞を検出するための手段に曝露することとを含む。例えば、対象は、例えばNMR又は他のトモグラフィー的手段により画像化される。
【0317】
画像診断法に有用な標識の例は、131I、111In、123I、99mTc、32P、125I、3H、14C及び188Rhのような放射標識、フルオレセイン及びローダミンのような蛍光標識、核磁気共鳴活性標識、陽電子放出断層撮影法(「PET」)スキャナーにより検出可能な陽電子放出同位元素、ルシフェリンのような化学発光剤、並びにペルオキシダーゼ又はホスファターゼのような酵素マーカーを含む。短距離検出器探針により検出可能な同位元素のような短距離放射体も用いられ得る。抗体は、既知の技術を用いてそのような試薬で標識され得る。例えば、抗体の放射標識に関する技術についてWensel and Meares,1983,Radioimmunoimaging and Radioimmunotherapy,Elsevier,New York、及びD.Colcher et al.,1986,Methods Enzymol.121:802-816を参照されたい。
【0318】
放射標識抗体もまた、インビトロの診断試験に用いられ得る。同位体標識された抗体の特異的活性は、放射性標識の半減期、同位体純度、及び標識が抗体へどのように取り込まれているかに依存する。
【0319】
ポリペプチドを(14C、3H、35S、125I、32P、131Iのような)放射性同位元素で標識するための手順は、一般的に知られている。例えば、トリチウム標識手順は、米国特許第4,302,438号に記載されている。例えば、マウスモノクローナル抗体について適応される場合の、ヨウ素化、トリチウム標識、及び35S標識手順は、例えば、Goding,J.W.(Monoclonal Antibodies:Principles And Practice: Production And Application Of Monoclonal Antibodies In Cell Biology,Biochemistry,And Immunology 2nd ed.London,Orlando,Academic Press,1986,pp124-126)及びそこに引用された参考文献により記載されている。抗体のようなポリペプチドをヨウ素化するための他の手順は、Hunter and Greenwood,1962,Nature 144:945,David et al.,1974,Biochemistry 13:1014-1021並びに米国特許第3,867,517号及び第4,376,110号により記載されている。画像化において有用である放射性標識元素は、例えば、123I、131I、111In及び99mTcを含む。抗体をヨウ素化するための手順は、Greenwood,F.et al.,1963,Biochem.J.89:114-123;Marchalonis,J.,1969,Biochem.J.113:299-305;及びMorrison,M.et al.,1971,Immunochemistry 8:289-297により記載されている。99mTc標識についての手順は、Burchiel,S.et al.(eds.),Tumor Imaging: The Radioimmunichemical Detection of Cancer,New York:Masson 111-123,1982におけるRhodes,B.et al.及びそこに引用されている参考文献により記載されている。111In標識抗体に適した手順は、Hnatowich,D.J.et al.,1983,J.Immun.Methods 65:147-157,Hnatowich,D.et al.,1984,J.Applied Radiation 35:554-557及びBuckley,R.G.et al.,1984,F.E.B.S.Lett.66:202-204により記載されている。
【0320】
放射標識された抗体の場合、抗体は患者に投与され、抗体が反応する抗原を有する細胞に局在し、例えばγカメラ又は放出断層撮影法を用いる放射性核スキャニングのような既知の技術を用いて、インビボで検出又は「画像化」される。例えばA.R.Bradwell et al.,“Developments in Antibody Imaging”,Monoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy,R.W.Baldwin et al.,(eds.),pp65 85(Academic Press 1985)参照。或いはBrookhaven National Laboratoryに設置された指定Pet VIのような陽電子放出水平断層撮影法スキャナが、放射性標識が陽電子を放出する場合(例えば、11C、18F、15O及び13N)に用いられ得る。
【0321】
MRI造影剤。磁気共鳴画像法(MRI)は、生存対象の内部特徴を可視化するためにNMRを用い、予後、診断、治療及び手術に有用である。MRIは、明らかな利点として、放射性トレーサー化合物なしに用いられ得る。幾つかのMRI技術は、欧州特許出願公開第EP-A-0 502 814号に要約されている。一般的に、異なる環境における水陽子の緩和時間定数T1及びT2に関する差が、画像を作成するために用いられる。しかしながら、これらの差は、鮮明な高解像度の画像を提供するには不十分である場合がある。
【0322】
これらの緩和時間定数における差は、造影剤により増強され得る。そのような造影剤の例は、多数の磁気性剤、常磁性剤(主にT1を変化させる)及び強磁性体又は超常磁性体(主にT2応答を変化させる)を含む。キレート(例えば、EDTA、DTPA、及びNTAキレート)は、幾つかの常磁性物質(例えば、Fe+3、Mn+2、Gd+3)を付着する(かつ毒性を低減させる)ために用いられ得る。他の物質は、粒子、例えば、直径が10μm未満~約10nMの形態であってもよい。粒子は、強磁性、反強磁性、又は超常磁性の性質をもち得る。粒子は、例えば、磁性(Fe3O4)、γ-Fe2O3、フェライト、及び遷移元素の他の磁性無機化合物を含み得る。磁性粒子は、非磁性物質を有する及び有しない、1つ又は複数の磁性結晶を含み得る。非磁性物質は、セファロース、デキストラン、デキストリン、デンプン等のような合成又は天然の重合体を含み得る。
【0323】
FcRn結合抗体はまた、NMR活性19F原子、又は複数のかかる原子を含む指示群で標識され得る。それは、(i)自然界に豊富に存在するフッ素原子の実質的全部が19F同位元素であり、従って、実質的に全部のフッ素含有化合物がNMR活性であり、(ii)トリフルオロ無水酢酸のような多くの化学的活性のあるポリフッ素化化合物が比較的安価で市販されており、また(iii)多くのフッ素化化合物が、ヘモグロビン代替として酸素を運ぶために利用される過フッ素化ポリエーテルのような、ヒトでの使用に医学的に許容可能であることが見出されているためである。インキュベートするそのような時間の後、全身MRIが、Pykett,1982,Scientific American 246:78-88により記載されたものの1つのような装置を用いて行われ、FcRnを発現している組織に局在し画像化する。
【0324】
本開示はまた、FcRnに結合する抗体、及び診断的使用、例えば、インビトロで、例えば試料、例えば自己免疫障害に罹患している患者からの生検又は細胞において、又はインビボで、例えば対象を画像化することにより、FcRnを検出するためのFcRn結合抗体又はその抗原結合断片の使用についての使用説明書を含むキットを特徴とする。キットは、標識又は追加の診断剤のような少なくとも1つの追加の試薬を更に含み得る。インビボの使用のために、抗体は、医薬組成物として製剤化され得る。
【0325】
本発明は、以下の実施例により更に例証されるが、これは決して更なる限定として解釈されるべきではない。本願全体を通して引用された参考文献(文献参照、発行済特許、公開済特許出願、及び同時係属特許出願を含む)の全ての全文は、参照することにより、特に、上で参照した教示について本明細書に明示的に組み込まれる。
【実施例0326】
実施例1:FcRn、FcRn-GPI、及びβ2Mのクローニング
これらの実施例に用いる完全長FcRn cDNAコンストラクトは、元々プラスミドベクターとしてpcDNA6(Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いてSimister lab(Brandeis University,Waltham MA)で構築された(FcRn:pcDNA6)。これらの実施例に用いるヒトβ2m cDNAコンストラクトは、元々プラスミドベクターとしてpcDNA3(Invitrogen)を用いてBlumberg lab(Harvard Medical School,Boston,MA)で構築された(β2M:pcDNA3)。
【0327】
製造業者の説明書に従って、プラスミドをOne Shot TOP10化学的コンピテント大腸菌(Invitrogen,Carlsbad,CA)にトランスフェクトした。各形質転換プレートから単一コロニーを取り、500~1000mLのLB培地に植菌し、振盪機内で一晩培養した。Maxi Prep kit(Qiagen,Valencia,CA)を用いてこれらの培養物からプラスミドDNAを精製した。pcDNA6-完全長hFcRnプラスミドコンストラクトをNhe1及びXba1で切断した。pCDNA3.1-β2-MプラスミドコンストラクトをHindIII及びXbaIで切断した。pCDNA6-hFcRn-GPIプラスミドコンストラクトをNheI及びXbaIで切断した。切断産物を1%アガロースゲルで分離し、インサートの大きさが正しいことを検証した。完全長FcRn及びGPI-FcRnの正しい大きさは、長さ約1kbであった。ヒトβ2Mは、長さ約0.4kbであった。プラスミドDNA(エタノール中4mg/mL)を、滅菌DPBS(Invitrogen,Carlsbad,CA)で2mg/mLに希釈し、その後筋肉内注射した。
【0328】
実施例2:FcRnをコードするプラスミドDNAによるマウスの免疫
Balb/cマウスを100μLの10mM心臓毒(Calbiochem,San Diego)で5日間処理し、その後プラスミドDNAを注入した。心臓毒処理を用いて炎症反応を誘発し、注入した領域に抗原提示細胞(例えば樹状細胞)を動員させ、それによりプラスミドにコードされるタンパク質が発現するときの抗原提示を改善する。
【0329】
50μLのPBSに再懸濁させた100μgの完全長又はGPI-hFcRnプラスミドコンストラクトをを、マウスの前脛骨筋に注入した。hFcRn及びβ2Mの組み合わせで免疫されたマウスに、25μLのPBS中50μgのhFcRnプラスミド、及び25μLのPBS中50μgのβ2Mの用量を投与した。全ての筋肉内注入は、ペントバルビタール(50mg/kg、腹腔内)又はケタミン(100mg/kg)/キシラジン(10mg/kg)による全身麻酔下で実施された。最初の注入で用いたのと同用量及び同体積を用いて、最初の免疫の21日後及び42日後にhFcRnプラスミドDNAを追加注入して動物を追加免疫した。
【0330】
最初の免疫の76日後、組換えhFcRn(shFcRn、100μg/マウス、腹腔内)の可溶性形態でマウスを追加免疫した。次いで、最初の免疫の56日後及び94日後に尾静脈採血により30~50μLの血清を得た。次いで、以下の実施例3に記載のように抗体力価について前記血清を試験した。更に、融合の129、130、及び131日前に、組換えshFcRn(50μg/マウス)で182番のマウスを静脈内(IV)追加免疫した。132日目、以下の実施例4に記載のように182番のマウスの脾細胞をNS-1又はSP2/0骨髄腫細胞(ATCC,Manassas,VA)と融合させた。約35種類の抗ヒトFcRn特異的mABハイブリドーマ株をこの融合体から産生した。
【0331】
最初の免疫の276、277、及び278日後に、50μgの組換えshFcRnで187番のマウスを更にIV追加免疫した。279日目、以下の実施例4に記載のように187番の脾細胞をSP2/0骨髄腫細胞と融合させた。得られた融合体の10%を11枚の96ウェルプレートにプレーティングした。残りの90%の融合体を液体窒素中に保存した。プレーティングした融合体から、35株のhFcRnを認識するmABを分泌する株が産生された。免疫プロトコルを表2に要約する。
【表2】
【0332】
実施例3:マウス抗体中の抗体力価
マウス血清中の抗hFcRn及び抗β2Mの力価をELISAにより測定した。ELISAプレートを、ELISAコーティングバッファ(Sigma,St.Louis,MO)中2μg/mのL可溶性FcRn又はhβ2M(Sigma,St.Louis,MO)でコーティングした。プレートを37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBS+0.05%Tween(PBST)で2回洗浄した。プレートを、37℃で1時間PBS中の1%アイシングラスでブロッキングした。プレートをPBSTで2回洗浄した。(PBSで)段階希釈したマウス血清を添加し(100μL/ウェル)、37℃で2時間インキュベートした。プレートをPBSTで5回洗浄した。1~10,000倍希釈したヤギ抗マウスIgG-HRP(Pierce,Rockford,IL)をプレートに添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBSTで5回洗浄した。着色のためにテトラメチルベンジジン(TMB)溶液(KPL,Gaithersburg,MD)をプレートに添加した。適切に発色した約5分後基質反応を停止させた。プレートをマイクロプレートリーダー(Bio-rad,Hercules,CA)により450nMで読み取った。56日目に全てのマウスの血清を試験した(
図1)。hFcRnと反応する血清を有するマウスを94日目に再度試験し、血清力価を
図2に示す。
【0333】
実施例4:ハイブリドーマ融合
ハイブリドーマ融合体を作製するために182番のマウス及び187番のマウスを選択した。両マウスの脾臓を切除し、脾臓の一部を掻き裂き、続いて10mLのDMEM培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いてピペッティングを繰り返すことにより、脾細胞の単一細胞懸濁液を調製した。脾細胞を500gで5分間遠心分離した。2mL ACK溶解バッファ(8.29g NH4Cl、1g KHCO3、37.2mg Na2EDTA、最終体積1リットルになるようにH2O、pH7.2~7.4)に脾細胞を再懸濁させることにより赤血球を溶解させた。細胞を細胞を5分間インキュベートした。ACKバッファで処理した細胞をDMEMで3回洗浄した。182番のマウスから得られた脾細胞の総数は216×106個であった。細胞の半数を70×106個のSP2/0骨髄腫細胞と融合させ、もう半数を27×106個のNS-1細胞と融合させた。
【0334】
182番の融合は、Current Protocol of Immunology Unit 2.5,Wayne M.Yokoyama,Publisher: John Wiley and Son Inc.の電子版に記載されている方法に従って実施した。SP2/0と融合した細胞は、314mLのHAT培地で希釈し、16.5プレート(96ウェルプレート、0.2mL/ウェル)に播種した。NS-1と融合した細胞は、216mLのHAT培地で希釈し、11プレート(96ウェルプレート、0.2mL/ウェル)に播種した。
【0335】
187番の融合では、2×108個の脾細胞を、“Monoclonal Antibodies”edited by J.H.Peters and H.Baumgarten,published by Springer-Verlag,1992,Page 149-156.New Yorkのプロトコルを用いて8×107個のSP2/0骨髄腫細胞と融合させた。
【0336】
融合の2、3、4、5、7、9日後、HAT培地の半分を新たなHAT培地に置換した。融合の1~2週間後、陽性ウェル(顕微鏡下及び肉眼検査による明らかな増殖により決定された)由来のハイブリドーマ細胞を24ウェル培養プレートに移した。融合後2週間以内に、ハイブリドーマ細胞を、完全培地を含有しているHAT培地中で培養した。16日目に、細胞をHATを含まないCDMEMに移した。
【0337】
培地が僅かに黄色に変化したら、上清のアリコートを回収し、実施例3に記載されたようにELISAにより抗hFcRn活性についてスクリーニングした。SP2/0-182番脾細胞融合体から合計384株のハイブリドーマ株をスクリーニングした。NS-1-182番脾細胞融合体から合計60株のハイブリドーマ株をスクリーニングした。SP2/0融合体のうち31株の上清は、ELISAにより抗hFcRn反応性が陽性であると判定された。NS-1融合体のうち8株の上清は、ELISAにより抗hFcRn反応性が陽性であると判定された。182番の融合体のうち合計16株のハイブリドーマ株を限界希釈によりクローニングし、各株から3個のサブクローンを更なる特徴付けのために選択した。
【0338】
実施例5:ハイブリドーマクローニング
ハイブリドーマクローニング培地を以下のように調製した。12.5mLのhepesバッファ溶液(100×/1M)(Invitrogen,Carlsbad,CA)、5mlのピルビン酸ナトリウム(100×/100mM)(Invitrogen,Carlsbad,CA)、5mlのペニシリン/ストレプトマイシン(100×/10,000units)(Invitrogen,Carlsbad,CA)、5mlの非必須アミノ酸(100×/100mM)(Invitrogen,Carlsbad,CA)、5mlのL-グルタミン(100×/200mM)(Invitrogen,Carlsbad,CA)、0.5mlの2-メルカプトエタノール(1000×/5.5×10-2M)(Invitrogen,Carlsbad,CA)、100ml FBS(ハイブリドーマ増殖について予めスクリーニング)(Cambrex,East Rutherford,NJ)、及び50mlのハイブリドーマクローニング因子(ICN,Irvine,CA)を、317mLの高グルコースDMEM(Invitrogen,Carlsbad,CA)に添加した。培地を0.22μmのフィルタを通して濾過し、4℃で保存した。
【0339】
クローニングの2日前、cDMEM培養培地をハイブリドーマクローニング培地に置換した。クローニングの日、細胞をDMEMで1回洗浄し、細胞を計数した。細胞を、1×105~1×106/mLの濃度でクローニング培地に再懸濁させた。3000、300、又は100個の細胞を20mLのクローニング培地に移し、150細胞/mL、15細胞/mL、又は3細胞/mLの濃度にした。次いで細胞を96ウェルプレートの3枚の個別のプレートに移した(各細胞濃度につき1枚)。各ウェルは最終体積0.2mLであった。プレートを37℃、10%CO2で1~2週間インキュベートし、その時点での陽性ウェルを計数した。20~30クローンを最小陽性ウェルのプレートから選択し、24ウェルプレートに広げた。可溶性FcRnの反応性について、実施例3に記載されたように抗FcRnELISAにより上清を試験した。
【0340】
実施例6:FcRn特異的mAB上清を用いる細胞競合アッセイ
A.Alexa-Fluor-488によるSynagis(登録商標)の標識
Synagis(登録商標)(ヒト化IgG1、MedImmune,Gaithersburg,MD)を、製造業者の提唱するプロトコルに従ってAlexa Fluor 488 Protein Labeling Kit(Molecular Probes/Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いて標識した。簡潔に述べると、50μLの1M重炭酸ナトリウム溶液(pH9.0)を、IgGの2mg/mL PBS溶液500μLに添加した。次いでこのタンパク質溶液を、Alexa Fluor 488スクシンイミジルエステル(乾燥粉末)に添加し、室温で1時間インキュベートした。キットコンポーネントカラム(Bio-Rad BioGel P-30 Fineサイズ排除精製樹脂)を用いてサイズ排除クロマトグラフィーによりタンパク質を精製した。試料をカラムに充填し、PBSで溶出した。最初の着色バンドは標識タンパク質を含有していた。標識の程度は、A280及びA494で溶出されたIgGの吸光度を測定することにより決定された。タンパク質のモル濃度は、以下の式を用いて決定された。
(M)=[A
280
-(A
494
×0.11)×希釈係数]
203,000
更に、タンパク質1モル当たりの色素のモル数を導くために以下の式を用いた。
(M)= A
494
×希釈係数
71,000×タンパク質濃度
典型的には、IgG1モル当たり4~7モルのAlexa-Fluor 488が組み込まれた。
【0341】
B.FcRn特異的上清を用いた細胞競合アッセイ
hFcRn及びヒトβ2Mを発現する293 C11細胞を用いて、蛍光標識IgG1を用いる競合アッセイにおいてFcRn mAB上清を試験した。300,000個の293 C11細胞をPBSで洗浄し、25000RPMで5分間卓上型微量遠心機内にてペレット化させた。ペレット化した細胞を、FcRn特異的mABを産生するクローン由来の上清100~200μLに再懸濁させ、60~90分間氷上でインキュベートした。細胞を結合バッファ(PBS pH6.0 10mM EDTA)で2回洗浄した。細胞を100μLの結合バッファに再懸濁させた。Alexa fluor 488(Molecular Probes,Eugene,OR)で標識されたhIgG1を、製造業者の説明書に従ってキット(Molecular Probes,Eugene,OR)を用いて調製し、各チューブ(0.6~1.5μL中100nM)に添加した。細胞を40分間氷上でインキュベートした。細胞を結合バッファで1回洗浄し、EXPO.32ソフトウェア(Beckman Coulter,Inc.,Miami,FL)を用いて蛍光活性化細胞選別(FACS)により分析した。結果は、合計平均蛍光強度(TMFI)として表した。
【0342】
図3は、182個の融合体の結果を示す。対照チューブ(Alexa Fluor 488のみ、競合物質無)のTMFIが競合物質(mAB上清)を含むチューブのTMFIよりも高い場合、阻害量を以下のように算出した。
対照チューブのTMFI-競合物質を含むチューブのTMFI/対照チューブのTMFI
【0343】
対照チューブのTMFIが競合物質を含むチューブのTMFIよりも低い場合、hIgG1のFcRn発現細胞に対する結合が増強されている。増強は、以下のように算出した。
競合物質を含むチューブのTMFI-対照チューブのTMFI/対照チューブのTMFI
【0344】
図4は、187個の融合体の結果を示す。TMFIは、ゲート領域(gated region)内の細胞の割合に領域内の平均蛍光を乗じて算出された。ある実験結果は、試験した上清のうち11個がAlexa fluor 188で標識されたIgG1の293C11細胞への結合を阻害し、一方上清のうち4個がAlexa fluor 188で標識されたIgGの293C11への結合を促進することを示した(
図4A)。第2の実験結果は、3個の上清がIgG1の293C11細胞への結合を阻害し、5個の上清が結合を促進することを示した(
図4B)。
【0345】
実施例7:精製FcRn特異的mABを用いる細胞競合アッセイ
hFcRn及びヒトβ2Mを発現する293 C11細胞を用いて、蛍光標識IgG1を用いる競合アッセイにおいてFcRn mAB上清を試験した。細胞を結合バッファ(PBS pH6.0,10mM EDTA)で1回洗浄し、18000RPM、4℃にて卓上型遠心機内でペレット化させた。細胞を微量遠心管(1~3×10
5/バイアル/mL結合バッファ)に分注した。細胞を25000RPMで5分間微量遠心機内でペレット化させた。上清を吸引し、細胞ペレットを100μLの結合バッファに再懸濁させた。精製FcRn特異的mABを種々の濃度で添加した。Alexa fluor 488(Molecular Probes,Eugene,OR)で標識したIgGを、100nMの濃度(最終濃度)で各管に添加した。試料を4℃で40分間インキュベートした。試料を結合バッファで1回洗浄し、FACS分析(Beckman Coulter,Inc.,Miami,FL)用に結合バッファに再懸濁させた。試料を分析する前に、FACSを結合バッファで平衡化した。結果は、合計平均蛍光強度(TMFI)として表す。TMFIは、ゲート領域内の細胞の百分率×該領域内の平均蛍光として算出された。結果は、mAB3B3.11、mAB4B4.12、mAB31.1、及びmAB4.13がIgG1の293 C11細胞への結合を著しく阻害することを示した(
図5)。
【0346】
実施例8:モノクローナル抗体を用いるFcRnの細胞表面染色
mABを用いたFcRnの表面発現をFACSにより検出した。ラットの線維芽細胞(ラットFcRn/ラットβ2Mを発現)、293 C11細胞(hFcRn/ヒトβ2Mを発現)、3T3 FcRn細胞(マウスFcRn/マウスβ2Mを発現)及びサルFcRn/β2MをコードするプラスミドpCDNA6をトランスフェクトしたCOS細胞について研究した。微量遠心機を用いて、1~3×10
5個の各細胞種をペレット化させた。上清を除去し、最終体積100μLのPBS/1%ウシ血清アルブミン(pH7.4)中のAlexa 488(Molecular Probes,Eugene,OR)で標識された1μgのmABに細胞を再懸濁させた。FcRnに対して特異的な精製mABは、製造業者の説明書に従ってAlexa Fluor Protein Labeling Kit(Molecular Probes,Eugene,OR)を用いてAlexa Fluor 488(Molecular Probes,Eugene,OR)で既に標識されていた。細胞を氷上で45分間インキュベートし、次いでPBS/1%ウシ血清アルブミン(pH7.2)で1回洗浄した。Beckman Coulter,Inc.FACS(Beckman Coulter,Inc.,Miami FL)を用いてFACS分析を実施した。結果を
図6、7、及び8に示す。
図6は、mAB3B3.11、31.1、4.13、4B.12、及び15B6.1が全て、293C11細胞の細胞表面上で発現するhFcRnを認識することを示す。
図7は、mABs4.13及び4B4.12が、ラットFcRnを発現する細胞上で発現するラットFcRnも認識し、一方mAB3B3.11、及び31.1はラットFcRnと交差反応しないことを示す。
図8は、mAB3B3.11、4B4.12、及び4.13がマウス3T3細胞の細胞表面上で発現するマウスFcRnを認識し、一方15B6.1、及び31.1は交差反応しないことを示す。
【0347】
実施例9:種々のハイブリドーマ細胞株のサブクローニング
187番のマウスのハイブリドーマをサブクローニングのために選択した。ハイブリドーマ6A4,6A1、5A4,7D2、4B4、3C5、3B3、10B4、1C1、及び11A5をサブクローニングのために選択した。サブクローニングは、限界希釈により実施した。3B5クローンは抗hβ2Mを分泌する。20~30個のサブクローンを増殖させ、培養物の上清を実施例3に記載されたようにELISAにより試験した。2~10個の陽性クローンの培養物をT150フラスコに拡大した(1クローン当たり4つのフラスコ)。合計350~400mLの上清をmAB精製のために回収した。各クローンから3~20mgの範囲のmABが得られた。精製mABを、実施例7に記載されたように293C11細胞の競合アッセイを用いてFcRnブロッキングについて試験した。mABは、競合アッセイで1000nMから16nMに2倍に滴定された。187番のサブクローン及び182番のクローン空得られた結果の要約を表3に示す。
【表3】
【0348】
実施例10:FcRnの細胞内染色
THP-1細胞(ヒト単球細胞株)及びCaco-2細胞(ヒト腸上皮細胞株)を、FcRnに特異的な精製モノクローナル抗体(mAB)を用いてFcRnの細胞内染色について研究した。THP-1細胞又はCaco-2細胞の300,000細胞/チューブのアリコートをペレット化させ、250μLのBD Cytofix/Cytoperm(BD Biosciences Pharmingen,San Diego,CA)に再懸濁させた。細胞を1mLのBD Perm/洗浄溶液(BD Biosciences Pharmingen,San Diego,CA)で2回洗浄し、同溶液に再懸濁させた。Alexa fluor488(Molecular Probes,Eugene,OR)で標識されたmAB(1μg/チューブ)を細胞に添加し、細胞を45分間氷上でインキュベートした。細胞をBD Perm/洗浄溶液(BD Biosciences Pharmingen,San Diego,CA)で2回洗浄し、PBS/1%ウシ血清アルブミンに再懸濁させた。細胞をFACS(Beckman Coulter,Inc.,Miami FL)により分析した。結果を
図9及び
図10に示し、この結果はmAB3B3.11、31.1、4B4.12、及び15B6.1が全てTHP-1細胞内の細胞内FcRnに効率よく結合し(
図9)、一方4.13mABはそうではないことを示す。同様の結果がCaco-2でも得られた(
図10)。
【0349】
実施例11:マウス脾細胞の抗FcRnmABによる細胞内及び表面染色
鉗子を用いて、マウスの脾臓から細胞を分離した。細胞をペレット化させ、ACK溶解バッファ(8.29g NH
4Cl、1g KHCO
3、37.2mg Na
2EDTA、最終体積が1LになるまでH
20、pH7.2~7.4)に再懸濁させ、室温で5分間インキュベートした。細胞をDMEM/5%FBS(Invitrogen,Carlsbad,CA)で3回洗浄した。1×10
6個の細胞を微量遠心管に移し、卓上型微量遠心機内でペレット化させた。細胞内染色のために、実施例10に記載されたように固定及び透過処理工程を実施した。細胞を20μg/mLのマウスアイソタイプ対照抗体を含有する洗浄バッファ(PBS/1% BSA)に再懸濁させ、氷上で20分間インキュベートした。細胞をペレット化させ、1μg/mLのアイソタイプ対照抗体を含有する100μLの洗浄バッファ中のAlexa488(Molecular Probes,Eugene,OR)で標識されたmAB(1μg/管)を細胞に添加した。細胞を氷上で40分間インキュベートし、次いで洗浄バッファで2回洗浄した。EXPO.32ソフトウェアを用いて、マクロファージ/単球を多く含む集団として散乱をゲートした。。前方散乱及びサイズ散乱を調整することにより、マクロファージ/単球(サイズが大きく粒度が高い独特な集団)を多く含む集団を分析した。細胞をFACS(Beckman Coulter,Inc.,Miami FL)により分析した。結果を
図11に示し、この結果はmAB4B4.12が、脾細胞と脾細胞集団から得られたマクロファージ/単球との両方において表面上及び細胞内のマウスFcRnを検出したことを示す。
【0350】
実施例12:免疫反応に対する抗FcRn mAB4B4.12の効果
6~8週齢の雌のBalb/cマウスを、オボアルブミンと1:1で混合したフロイント完全アジュバントのエマルション50μLで免疫した。マウスは、0日目に横腹の各側に1回皮下免疫し、10日目に100μgのオボアルブミン/マウスで追加免疫した。FcRn特異的4B4.12mAB、又はアイソタイプ対照(1813;ATCC1813)抗体(PBS中1mg/mL/マウス)、又はPBSのいずれかを腹腔内注入することにより、マウスを処理した。-1日目、0日目柄、1日目、及びその後隔日、処理物を投与した。マウスを9日目に採血して血清試料を採取し、16日目に安楽死させた。安楽死後に最も多く血清が採取された。プロトコルを以下の表4に要約する。
【表4】
【0351】
脾臓及び流入領域リンパ節を得、化学天秤で計量した。結果を
図12に示し、この結果は脾臓及び流入領域(鼠径部)リンパ節の重量が、2匹の対照と比べて4B4.12mABで処理したマウスでは減少したことを示す。
【0352】
オボアルブミン抗体力価をELISAにより測定した。10μg/mLの濃度のオボアルブミンでELISAプレートをコーティングし、PBS/1%BSAでブロッキングした。漸増血清(1から始めて50まで2μg/mLをPBS/1%BSAで2倍ずつ希釈)及び標準的マウスIgG1(マウスmAB抗OVA)をプレートに添加し、37℃で2時間インキュベートした。ヤギ抗マウスIgG HRP(Pierce,Rockford,IL)を添加し、プレートを30分間インキュベートした。TMB溶液(KPL,Gaithersburg,MD)を添加し、発色させた。マイクロプレートリーダー(Bio-rad,Hercules,CA)を用いて450nMで光学濃度を測定した。結果を
図13に示し、これは4b4.12mABが抗オボアルブミン血清濃度を著しく低下させたことを示す。
【0353】
実施例13:CD1マウスにおけるシナジス(Synagis)の異化作用に対する4B4.12の効果
CD1マウス(n=4)(Charles River Laboratories)にシナジス 1mg/kgを腹腔内注入した。72時間後、4B4.12、MIgG1又はPBSを腹腔内注入した(20mg/kg)。4、6、及び10日後、マウス血清を得、シナジス濃度をELISAにより測定した。37℃で1時間、ELISAコーティングバッファ(Sigma)中10μg/mLの濃度の抗ヒトIgG(FAB’)2抗体でELISAプレートをコーティングした。PBSTで2回洗浄した後、37℃で1時間プレートをPBS/2% BSAでブロッキングした。2回洗浄した後、血清試料を1から始めて50まで2倍ずつ希釈し、2重でプレートに添加した(100μL/ウェル)。プレートを37℃で2時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、ヤギ抗ヒトIgG FcのHRPコンジュゲートをプレートに添加し、40分間室温でインキュベートした。PBSTで4回洗浄した後、TMB基質(KPL)をプレートに添加し、室温で5分間インキュベートした。停止溶液(KPL)で呈色反応を停止させ、プレートをマイクロプレートリーダー(Molecular Devices)で読み取った。
【0354】
4日目の結果を
図14に示し、これは4B4.12mABが、対照抗体MIgG2a又はPBSに比べてシナジスの異化作用を増加させることを示す。3処理群における10日間にわたるシナジスの濃度を
図15に示し、これはmAb4B4.12がMIgG2a又はPBSと比べたとき4日目~10日目に一貫して異化作用を増加させたことを示す。
【0355】
実施例14:自己免疫疾患のラットモデルにおけるmAB4B4.12の治療効果
実験的自己免疫疾患、重症筋無力症(EAMG)は、抗AchR mAB35の受動伝達によりラットにおいて誘導され得る(Socrates et al.Journal of Neuroimmunology.15:185-194,1987,)。ラットFcRnと交差反応するモノクローナル抗体4B4.12を、EAMGラットモデルにおける疾患状態に影響を及ぼす能力について評価した。
【0356】
4~5週齢の雌ルイス(Lewis)ラット(75~100g)を用いた。ラットには明らかな耳標を付けた。疾患誘導の24時間前、疾患誘導の日、及び疾患誘導の24時間後に、モノクローナル抗体を24時間腹腔内投与した。疾患誘導の日、FcRnブロッキング又は対照mABを最初に腹腔内投与し、続いて2時間後にmAB35を腹腔内投与した。注入体積は1mLであった。3群(6ラット/群)のラットを用いた。実験群1はmAB4B4.12で処理し、群2は1813(対照mAB)で処理し、群3はPBSで処理した。疾患誘導の48時間後、mAB35及びマウスmABの測定のために100mLの血清を各ラットから得た。プロトコルを表5に要約する。
【表5】
【0357】
疾患誘導の12時間後、1日2回、ラットの疾患の徴候を観察した。以下のスコア付けシステムを用いた。等級0、症状無;(1)握力低下、易疲労、及び時に喘鳴;(2)全身的脱力、安静時猫背、体重減少、振戦;(3)重篤な脱力、瀕死;及び(4)死。プロトコルを表5に要約する。結果を表6及び
図16に示し、これはmAB4B4.12がEAMGモデルにおける疾患の重篤度を低下させたことを示す。
【表6】
【0358】
体重減少又は体重増加を、各実験群のラットについて測定した。結果を表7及び
図17に示し、これは4B4.12mABで処理されたラットは、対応する対照群よりも体重減少の程度が少なかったことを示す。
【表7】
【0359】
実施例15:Tg32BマウスにおけるヒトIgG異化作用に対する本発明の抗体の効果
t=0時間(T0)に、成体Tg32Bマウスに5mg/kgのビオチン-hIgG及び495mg/kgのヒトIgG(MP Biomedicals,Irvine,CA)を静脈内注入した。次いで24、48、72、96、及び120時間目に、マウスに50mg/kgの本発明の抗体を静脈内注入した。対照注入をPBSを用いて各時点で実施した。全ての時点、及び168時間目に、注入前に血液試料を採取した。血清を調製し、ビオチン-hIgGを測定するELISAを実施するまで-20℃で保存した。
【0360】
ストレプトアビジンでコーティングしたプレート(Pierce)を、PBST(0.05%のTween20を含有するPBS)で3回洗浄(200μL/ウェル)することにより再水和した。血清試料及び標準を、2%BSAを含有するPBS(希釈バッファ)で希釈した。試料は1:10,000、1:20,000、1:30,000、及び1:40,000に希釈した。標準は、200mg/mLから1.56ng/mLまで2倍ずつ希釈した。プレートを37℃で2時間インキュベートし、続いてPBSTで3回洗浄した。次いでプレートを、希釈バッファで1:25,000に希釈した100μL/ウェルのヤギ抗ヒトFc-HRPコンジュゲート(Pierce)と共に室温で30分間インキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、100μLのTMB溶液(BioFx)をプレートに添加し、プレートを、適切な色を呈するまで(最高標準のウェルが暗青色になったとき)室温、暗条件下でインキュベートした。100μL/ウェルの0.25M H2SO4を添加して、呈色反応を停止させ、光学濃度を450nMで測定した。
【0361】
結果は、3B3.11がビオチン-hIgGの血清濃度を著しく低下させたことを示し、これはFcRn封鎖後hIgGの異化作用をが増加することを示す(
図18及び19)。
【0362】
実施例16:種間反応性におけるmABの要約
MAB4B4.12、3B3.11、31.1、4.13及び3B5.4を、種間でのFcRnの反応性について、FACS結合アッセイ及びFACSブロッキングアッセイで研究した。ヒトFcRn発現細胞(293C11)及びサルFcRn発現細胞を産生した。ラット及びマウスFcRn発現細胞をNeil Simister of Brandeis Universityから得た。ブロッキング実験では、FcRn発現細胞を、pH6のPBSバッファ中のAlexa-A488標識hIgG1(100nM)及び種々の濃度のmAB(4B4.12、3B3.11、31.1、4.13及び3B5.4、又はIgG1、IgG2a等のアイソタイプ対照)と共にインキュベートした。45分後、細胞を蛍光染色により分析し、TMFIを算出した(詳細な方法については実施例6参照)。mABがそれぞれのFcRn発現細胞に対するhIgG1の結合を30%超阻害する場合、このmABはこの種においてmABをブロックするとみなされる。結合実験では、FcRn発現細胞を、pH7.4のPBSバッファ中のAlexa-A488標識mABs(4B4.12、3B3.11、31.1、4.13及び3B5.4、又はIgG1、IgG2a等のアイソタイプ対照)と共に60分間インキュベートした。PBSバッファで1回洗浄した後、細胞を蛍光染色についてCoulterフローサイトメトリーで評価した。特定のmABの細胞への結合が、アイソタイプ対照の結合より有意に多い場合(TMFIが50%高い)、このmABはかかる種のFcRnに結合することができるとみなされる。表8及び
図20は、結果の要約を示す。
【表8】
【0363】
実施例17:抗hFcRn mABで染色されたサルFcRn一過性形質移入体
Cos1細胞にサルFcRn重鎖(pCDNA6中)及びβ2M(pED.dc)をGene Jammerトランスフェクション試薬(Strategene)と共にトランスフェクトした。48時間後、細胞を回収し、0.5%のBSAを含有するPBSで1回洗浄した。5×105個の細胞をmABと共に45分間氷上でインキュベートした。次いで細胞を0.5%のBSAを含有するPBSで1回洗浄した。次いで細胞をAlexa 488標識ヤギ抗マウスIgG(1:2500希釈)と共に45分間氷上でインキュベートした。1回洗浄した後、細胞をCoulterフローサイトメータで蛍光染色について分析した。結果をTMFIとして表す。
【0364】
実施例18:抗hFcRn mABを用いたウエスタンブロット
3μgの可溶性ヒトFcRn(重鎖及びβ2Mの細胞外ドメイン)を、4~20%のトリス-グリシンゲル(Invitrogen)の各レーンに充填し、200Vで60分間流した。次いでゲルをPVDFメンブレン(Amersham)を備えるゲルブロッティング装置(Xcell II,Invitrogen)に充填し、55Vで1時間室温にて流した。次いでメンブレンをPBST(PBS+0.05%のTween20)中の5%ミルクで1時間ブロッキングした。その後、メンブレンを10μg/mLの種々のmABと共に4℃で一晩インキュベートした。PBSTで2回洗浄した後、メンブレンを1:10,000に希釈したヤギ抗ヒトIgG HRP(Southern Biotech Associates)と共に90分間インキュベートした。更に2回洗浄した後、メンブレンをECLキット(Amersham)で現像した。結果は、mAB3B3.11、3B3.16、3B3.21、3B3.35、4.13、15B6.1及び31.1はヒトFcRn重鎖を認識したが、一方3B5.4及び5A4.9はβ2Mを認識したことを示す(
図21)。
【0365】
実施例19:3B3.11のBiacore分析
標準的なアミンカップリングを用いて、CM5チップ(Biacore)を約500RUの可溶性ヒトFcRn又は可溶性サルFcRn(pH4.5の酢酸で100倍希釈)でコーティングした。10μg/mLの初期濃度から5種の5倍段階希釈抗体を作製した。各希釈液を50μL/分で1分間、二重でチップに通した。データは、1:1結合相互作用について解析した。pH6及びpH7.4で両方の結合を評価した(
図22及び表9)。
【表9】
【0366】
実施例20:抗hFcRn mABのエピトープマッピング
可溶性ヒトFcRn及びマウスモノクローナル抗体は社内で規定どおりに調製される。全ての試薬、バッファ、及び化学物質は、特に明示しない限りBiacore AB(Uppsala,Sweden)から購入した。
【0367】
器具の使用及び表面の調製:表面プラズモン共鳴を用いる巨大分子の相互作用の分析は(1)に詳細に記載されている。BIACORE 3000 instrument(Biacore AB)を用い、全ての結合相互作用は25℃で実施した。カルボキシメチル修飾デキストラン(CM5)センサーチップ(Biacore AB)をアッセイに用いた。抗FcRnモノクローナル抗体を10mMの酢酸ナトリウム(pH5.0)で1~10μg/mLに希釈し、(1)に記載されているアミンカップリングを用いてセンサーチップの1つのフローセルに固定化した。最終的な固定化水準は約10000共鳴単位(RU)であった。非FcRn特異的抗体(mAB1745)の存在下で同じ手順を用いて、別個のフローセルを用いて対照抗体表面が作製され、結合研究の参照として機能した。
【0368】
アッセイ設計:可溶性ヒトFcRn(shFcRn)のアミノ酸配列を、各ペプチドが長さ20残基伸長している27個のペプチドの連続シリーズとして合成した。これらのペプチドは、10個のアミノ酸の重複配列を有していた。ペプチドを、最終濃度が1~5mg/mLになるように100%DMSOに溶解させた。分析のために、ペプチド溶液をHBS-Nバッファ(10mM HEPES、pH7.4;150mM NaCl)で100倍に希釈し、20μL/分の速度で3分間FcRn特異的抗体及び参照表面上に注入した。35秒の相解離後、表面を60μL/分の流速で、30秒パルスの10mMグリシン(pH2.0)及び15秒パルスの1%SDSにより再生した。陽性対照として、最初のペプチドの試験前及び最後のペプチドの試験後にshFcRnを特異的及び対照フローセルに注入し、チップの安定性を確かめた。バッファ対照(HBS-N中1%DMSO)もまた、陰性対照として両方のフローセルを通過させた。
【0369】
データの評価:対照でコーティングされた(非特異的mAB)フローセルについて得られたセンサグラム(RU対時間)を、FcRnでコーティングのセンサグラムから自動的に減じた。注入段階の終わる30秒前に、平衡時における反応(Req)を測定した(1)。陽性反応は、ペプチドの特異的抗体に対する特異的結合を示す(Frostell-Karlsson,et al.J.Med.Chem.,43:1986-1992(2000))。
【0370】
mAbエピトープの要約
Syn 558: Ac-SCPHRLREHLERGRGNLEWK-CONH2 -----mAB 4B4.12,4.13(配列番号24)
Syn 559: Ac-ERGRGNLEWKEPPSMRLKAR-CONH2------mAB 4B4.12,4.13(配列番号25)
Syn 562: Ac-CSAFSFYPPELQLRFLRNGL-CONH2------mAB 3B3.11,4.13(配列番号26)
Syn 544: Ac-APGTPAFWVSGWLGPQQYLS-CONH2------mAB 31.1(配列番号27)
【0371】
実施例21:Fabの選択及び一次スクリーニング
A.選択プロトコル
Fab断片を提示するファージディスプレイライブラリから可溶性Fab(sFab)を同定した。可溶性ヒト(shFcRn)又はラットFcRnタンパク質、及びヒトFcRnタンパク質を発現する293C11細胞を用いて4つの異なる選択を行った。また以下に概説するのと同じ溶出ストラテジを用いて、細胞及びタンパク質標的の組み合わせを用いて更なる選択を実施した。
1)ビオチン化shFcRnに対する選択:ストレプトアビジンビーズ上からの消失を用いて、ビオチン化shFcRnに対する選択を3ラウンド実施した。ファージミドを酸性結合バッファ(pH6)中で標的に結合させ、次いで酸性バッファ中の非特異的市販ヒトIgG(Calbiochem,401114 http://www.emdbiosciences.com/product/401114)及びモノクローナルマウス抗ヒトFcRn mAb(3B3)で溶出した。競合溶出後、残りの結合ファージを全て、細胞の直接ビーズ感染(direct bead infection)により溶出した。溶出したファージのアウトプットを選択の次のラウンドのインプットとして用いた。
2)非ビオチン化shFcRnに対する選択:BSAでコーティングされたウェル上からの消失を用いて96ウェルELISAプレート上に受動的に固定化された非ビオチン化hFcRnに対する選択を3ラウンド実施した。ファージミドを酸性結合バッファ(pH6)中で標的に結合させ、次いで同酸性バッファ中の非特異的市販ヒトIgG及び抗ヒトFcRn mAb(3B3)で溶出した。競合溶出後、残りの結合ファージを全て、細胞の直接ビーズ感染(direct bead infection)により同様にpH7.4のバッファを用いることにより溶出した。溶出したファージのアウトプットを選択の次のラウンドのインプットとして用いた。
3)抗ヒトFcRn抗体(17D3)固定化非ビオチン化shFcRnに対する選択:ストレプトアビジンビーズ上のビオチン化17D3を用いて捕捉されたhFcRnに対する選択を3ラウンド実施した。FcRnの非存在下にてストレプトアビジンビーズ上でビオチン化17D3を用いる消失工程も含まれていた。ファージミドを酸性結合バッファ(pH6)中で標的に結合させ、次いで同酸性バッファ中の非特異的市販ヒトIgG及び抗ヒトFcRn mAb(3B3)で溶出した。競合溶出後、残りの結合ファージを全て、細胞の直接ビーズ感染(direct bead infection)により同様にpH7.4のバッファを用いることにより溶出した。溶出したファージのアウトプットを選択の次のラウンドのインプットとして用いた。
4)hFcRn発現細胞に対する選択:トランスフェクトされていない親細胞上からの消失を用いてhFcRnでトランスフェクトされた細胞に対する選択を3ラウンド実施した。ファージミドを酸性結合バッファ(pH6)中で細胞に結合させ、次いで同酸性バッファ中の非特異的市販ヒトIgG及び抗ヒトFcRn mAbで溶出した。競合溶出後、残りの結合ファージを全て、磁気ストレプトアビジンビーズによる細胞溶解とその後の細菌感染により溶出した。溶出したファージのアウトプットを選択の次のラウンドのインプットとして用いた。可溶性ヒトFcRnタンパク質(shFcRn)及びhFcRn発現細胞の両方に対する選択:
【0372】
(1)、(2)、及び(4)のアウトプットを、上記ストラテジと同じ溶出を用いる交互タンパク質:細胞:タンパク質及び細胞:タンパク質:細胞(ラウンド1:ラウンド2:ラウンド3:ラウンド4)選択で用いた。FcRnのFab阻害剤のELISAスクリーニング。
【0373】
hFcRn結合剤を同定するために、ファージELISAにおけるビオチン化shFcRnに対して、上記各選択肢(selection arm)からのラウンド2及び/又はラウンド3のアウトプットの一次スクリーニングを実施した。約768の、ファージミド上の一次ELISA陽性Fabを再配置し、DNAの配列を決定し、pH依存性結合(pH6対pH7.5)、種特異性(ラット対ヒト)、β2マイクログロブリン結合、及びIgG競合について更に二次スクリーニングした。
【0374】
二次ELISAスクリーニングを通過した161の独自のファージミドは異なる重鎖を有していた。全ての161個の独自のファージミドをサブクローニングし、sFabとして発現させ、FACSブロッキングアッセイでスクリーニングした。
【0375】
IgG-FcのヒトFcRn発現293C11細胞に対するブロッキングを、酸性環境下、4℃にて実施し、拮抗性抗FcRn特性を有する11個のsFabが発見された。11個全てのsFab Fc-FcRn遮断剤をIgG1にリフォーマットし、AZアロタイプとしてリフォーマットし、更に可溶性ヒト及びラットFcRnに対する親和性(SPR法によりKD決定)、FACS分析を用いるFc-FcRnブロッキング(IC50)、β2マイクログロブリン結合(SPRにより)、pH依存性結合、並びにpH6及びpH7.5における可溶性タンパク質及び細胞に対するブロッキング(FACS及びSPRによるヒトFcRn及びラットFcRn)についてインビトロで更に特徴付けした。
【0376】
実施例22:抗FcRn Fab
ファージディスプレイライブラリ選択で同定された代表的な抗FcRn FabのCDR配列を表10に示す。
【表10】
【0377】
3つのFab軽鎖可変領域(LV)のDNA配列を以下に示す:
【化10】
【0378】
実施例23:sFab及び抗体のFcRnへの結合
Fab及びそのそれぞれのIgG1を更に特徴付けするために、SPR8500/BIACORE(商標)分析を、FcRn結合が陽性であった11個の代表的な拮抗性抗FcRn抗体クローンに対して実施し、K
Dを決定した。代表的なSPR8500/BIACORE(商標)データを表2及び表3に示す。sFab及び抗体(IgG)を、pH6及び7.5でヒトFcRn(hFcRn)又はラットFcRn(ラットFcRn)に結合する能力について試験した。結合はSPR8500及びBIACORE(商標)により測定され、K
D値(nM)で表される。8クローンの結合はpH非依存性であり、3クローンの結合はpH依存性であることが観察された。
表11A~E:FcRn結合sFabのインビトロSPR8500結合データ(K
D(nM))の要約;On及びOff Rate分析
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
表12~E:FcRn結合抗体のインビトロSPR8500結合データ(K
D(nM))の要約;On及びOff Rate分析
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【0379】
実施例24:sFab及び抗体のIC
50値
FcRn結合について陽性であった11個の代表的な拮抗性抗FcRnクローンのsFab及びIgG抗体を、インビトロモデルにおいて、非特異的ヒトIgG-FcのFcRnに対する結合をブロックする能力について試験した。ヒトFcRn(hFcRn)又はラットFcRn(ラットFcRn)を発現している293C11細胞の培養物を、結合陽性クローン、陽性対照抗ラットFcRn抗体(1G3)、陽性対照抗ヒトFcRn抗体(3B3)、又はSA-A2陰性対照のsFab又はIgG1で処理した。細胞培養物をAlexafluor(登録商標)標識非特異的IgG-Fcで処理し、pH6のバッファ条件下で4℃にてインキュベートした。IgG-Fc-FcRn結合量を測定した。代表的なsFab及び/又はそれぞれのIgGの結果を表13に示す。IC
50値はフローサイトメトリー(即ちFACS)により決定され、nMで表される。
【表21】
【0380】
実施例25:動物におけるFcRn結合抗体の有効性試験
ヒトFcRnノックインTg32Bトランスジェニックマウスを用いた実験は、M90-F11(M090-F11及びM0090-F11とも称される)IgGの4回連続毎日静脈内投与が、試験した全ての用量(50、20、10、及び5mg/kg)でヒトIgGトレーサ(ビオチン化hIgG)の血清半減期を著しく短縮させることを示した(
図23及び
図24)。50mg/kgでは、M55-G12の4回iv注入がトレーサhIgGの血清半減期を中程度にのみ短縮させたが、一方M84-B11は有効ではなかった(
図23)。M90-F11の単回投与(20mg/kg及び5mg/kg)実験は、Tg32Bマウスの血清におけるビオチン-hIgG1トレーサの中程度の低下を示した(
図25)。
【0381】
トランスジェニックマウスにおける抗FcRn IgGの試験に用いられたプロトコルは、
1)0時間で500mg/kgのトレーサhIgGを静脈内投与(約1%は定量の目的のためにビオチン化)
2)24、48、72、96、及び120時間に50、20、10、及び5mg/kgの抗FcRn抗体を静脈内投与、
3)24、48、72、96、及び120時間に血液試料を採取、
4)ELISAにより血清中のhIgGを定量。
【0382】
Tgマウスモデルのインビボにおけるデータに基づいて、更なるリード最適化のためにM90-F11をリード候補として選択した。M90-F11軽鎖に導入された10個の生殖系変化を以下及び
図29に示す。重鎖に必要な1つの生殖系変化は導入されなかったが、重鎖のアロタイプはAZからFアロタイプに変化した。
【化11】
CONSTアミノ酸(配列番号107)
CONST核酸(配列番号108)
GRMLN核酸(配列番号110)
GRMLNアミノ酸(配列番号109)
HEAVYアミノ酸(配列番号111)
HEAVY核酸(配列番号112)
GRMLN核酸(配列番号114)
GRMLN アミノ酸(配列番号113)
【化12】
【0383】
実施例26:親クローンM90-F11の生殖系列化、リフォーマット、及び親和性成熟
IgGのアロタイプ変異を
図30に示し、AZからFアロタイプへの3つのアミノ酸変化(太字で強調)を導入し、軽鎖における生殖系列化の一部として既に10個のアミノ酸変化を有する生殖系列化M90-F11 IgGに導入した。
【0384】
生殖系としての親クローンM90-F11は、軽鎖に10個のアミノ酸変化を有し、リード最適化の一部として生殖系列化クローンを重鎖Fc領域でFアロタイプの配列を有するIgGにリフォーマットされた。合計して、親M90-F11と比べて13個のアミノ酸変化が存在し、リフォーマットされたクローンはCHO細胞株における発現に対して最適化されたヌクレオチド配列であった。ヌクレオチド配列/Geneart最適化クローンにDX-2500という名称を与え、これは安定なプールを作製するために用いられた。親M90-F11、生殖系列化M90-F11(GL)、及びDX-2500は、Biacore及びFACSによりインビトロで特徴付けされ、結合及びブロッキング能力を評価した。
【0385】
表14及び15は、高度に精製された親、生殖系列化、且つリフォーマットされたIgGと比べたBiacore及びFACSの結果を含む。
【表22】
【表23】
【0386】
抗FcRnモノクローナル抗体を用いた以前の経験は、pH7.4におけるKoffが抗体のインビボ有効性にとって非常に重要であり、抗体がチップ上に固定化され、標的hFcRnがチップ上に流されたとき、pH6及び7.4の両方において生殖系列化及びDX-2500抗体についてKoffが非常に迅速であったことが、biacore分析中に明らかになった。生殖系列化M90-F11を親和性成熟させ、DX-2500よりも改善されたKoff値を有するクローンを選択することを決定した。
【0387】
並列アプローチを用いて生殖系列化M90-F11を親和性成熟させた。3つの異なるライブラリ(LCをシャッフルした、CDR1及び2並びにCDR3のライブラリ)を構築し、それぞれ
図26に示す。親和性成熟したリードを選択した後の更なる配列の最適化を避けるために生殖系列化軽鎖を用いてライブラリ2及び3を構築した。
【0388】
選択プロトコル
可溶性Fab(sFab)を、Fab断片をディスプレイする親和性成熟したM90-F11ファージミドディスプレイライブラリから同定した。3つの異なる親和性成熟したライブラリを用いて、可溶性ヒト(shFcRn)細胞及びヒトFcRnタンパク質を発現する293C11細胞を用いて2つの異なる選択を実施した。また以下に概説するのと同じ溶出ストラテジを用いて、細胞及びタンパク質標的の組み合わせを用いて更なる選択を実施した。
i)ビオチン化shFcRnに対する選択:ストレプトアビジンビーズ上での消失を用いて、ビオチン化shFcRnに対する選択を2ラウンド実施した。ファージミドを酸性結合バッファ(pH6)中で標的に結合させ、次いでpH7.4のバッファ中の親M90-F11 IgGで溶出した。競合溶出/洗浄後、残りの結合ファージを全て、細胞の直接ビーズ感染(direct bead infection)により溶出した。溶出したファージのアウトプットを選択の次のラウンドのインプットとして用いた。ラウンド2のアウトプットを、hFcRnでトランスフェクトされた細胞に対する交互ラウンド3選択で用い、つづいで同じ溶出ストラテジを用いるビオチン化shFcRnを用いる第4ラウンド選択で用いた。
ii)hFcRn発現細胞に対する選択:hFcRnでトランスフェクトされた細胞に対する選択を2ラウンド実施した。ファージミドを4℃で酸性結合バッファ(pH6)中で細胞に結合させ、次いでpH7.4のバッファ中の親M90-F11で溶出した。競合溶出/洗浄後、残りの結合ファージを全て、磁気ストレプトアビジンビーズによる細胞溶解とその後の細菌感染により溶出した。溶出したファージのアウトプットを選択の次のラウンドのインプットとして用いた。(i)に記載したようにビオチン化shFcRnに対する選択を更に2ラウンド実施した。
【0389】
FcRnのFab阻害剤のELISAスクリーニング
hFcRn結合剤を同定するために、ファージELISAにおけるビオチン化shFcRnに対する各選択肢(ライブラリ当たり4)からのラウンド3及びラウンド4のアウトプットの一次スクリーニングをpH6及び7.4で実施した。約1152の、ファージミド上の一次ELISA陽性Fabをスクリーニングし、DNAの配列を決定した。
【0390】
hFcRnに対するpH非依存性結合剤であった3つの親和性成熟したライブラリ(軽鎖シャッフルライブラリから16、CDR1及び2ライブラリから46、並びにCDR3ライブラリから116)から178の独自のファージミドをスクリーニングし、sFabとして発現させるためにサブクローニングした。
【0391】
LCライブラリからスクリーニングした16ファージミドクローンのうち15個は、親M90-F11と同じCDRを有し、これは選択及びスクリーニングストラテジが親クローンを富化させる方向に片寄っていることを示唆する。親和性成熟したSol FABクローン(約165)をハイスループットSPR分析に供し、pH7.4のoff-rate及びpH6のKD値によりランク付けした結果、CDR3ライブラリから21の親和性成熟したクローン、CDR1及び2ライブラリから1つのクローンが生殖系列化M90-F11より優れていた。ハイスループットSPRスクリーニングデータに基づいて、CDR1及び2ライブラリ由来の親和性成熟したM0159-C09を、CDR3ライブラリ由来の親和性成熟したM0157-H04及びM0157-E05のHV CDR1及び2位置に交換した。構築した2つのハイブリッドクローンM0171-A01(M171-A01とも称される)及びM0171-A03(M171-A03とも称される)は、生殖系列化M90-F11 LC配列を有する完全な親和性成熟したHV CDR1、2、及び4を有していた。
【0392】
合計で、スクリーニングされ、中規模精製され、反復SPR分析によりランク付けされ(表16)、FACS分析を用いてFc-FcRnブロッキングアッセイにおいて拮抗性抗FcRn特性が確認されたsFABクローン(親及び生殖系列化M90-F11、CDR3ライブラリから19、CDR1及び2ライブラリから1、並びにハイブリッドクローン2)が24個存在した。
【表24】
【表25】
【0393】
22個のsFABクローン全てをIgGにリフォーマットしたが、発現させ、精製し、pH6及び7.4でFlexchip分析に供したのは8個のIgGだけであった。Flexchip SPR8500のデータに基づいて、以下の4つの親和性成熟したIgGクローンを、hFcRnトランスジェニックマウスにおいてインビトロ(Biacore分析)及びインビボで更に研究するために選択した。
【0394】
表17Aは、親又はDX2500クローンと比べて、4つの親和性成熟したIgGのHV-CDR1、2、又は3におけるアミノ酸変化の総数を示す。
【表26】
【表27】
【0395】
チップ上にIgGを固定化し、hFcRnをその上に流すことによりpH7.4で行われた4つの親和性成熟したクローンのBiacore分析、及びその生データ、及びDX-2500及び親M90-F11クローンに対する向上倍率(K
off及びK
D)を表17Bに示す。
【表28】
【0396】
hFcRnトランスジェニックマウスにおける親和性成熟した抗FcRn IgG及びsol FABを試験するために用いたプロトコルは以下の通りである:
・6群(1群プラセボ、4群IgG、1群Fab、4匹のマウス/群)
・t=0時間において495mg/kg fIgG+5mg/kg ビオチン-hIgGを静脈内投与
・t=24時間において5又は20mg/kgのAb(1.67又は6.67mg/kgのFab)を静脈内投与
・M171-A01-IgG、
・M171-A03-IgG、
・M159-A07-IgG、
・M161-B04-IgG、又は
・32A-M171-A01-Fab
・24(投与前)、30、48、72、96、120、及び168時間で血液試料採取
・ストレプトアビジン捕捉/Fc検出ELISAを用いてビオチン-hIgG血清濃度を定量、及びFab捕捉/Fc検出ELISAを用いて総IgGを定量
【0397】
以下の
図27及び28、並びに表18に示すインビボデータに基づいて、M0161-B04及びM0171-A01を選択して、Tg32BマウスにおいてM90-F11及びDX-2500と付き合わせて試験した。
【表29】
【0398】
hIgGの異化作用に対する抗FcRn抗体の効果
抗FcRn抗体を用いたインビボ研究は、循環IgGの枯渇において有効性を示した。用量依存的枯渇は、マウス及びサルの2種、並びに静脈内及び皮下の2つの投与経路で示された。サルでは、循環IgA、IgM、又は血清アルブミンにおけるいかなる変化も、IgGの低下を伴わなかった。
【0399】
A)マウスにおけるhIgGの異化作用に対する抗FcRnの効果
Tg32Bマウス(マウスFcRn及びマウスβ2マイクログロブリンノックアウト)/ノックイン(ヒトFcRn及びヒトβ2マイクログロブリンノックイン)に、0日目にヒトIgGを投与した。1日目及び7日目に、マウスに異なる用量の抗FcRn抗体M161-B04(DX-2504)及びM171-A01を静脈内投与した。マウスの血清中のヒトIgGの濃度を14日間にわたって測定した。
図31に示すように、ヒトIgGの濃度は各抗体を投与した14日間にわたって著しく低下した。IgGの減少は、投与された抗FcRn抗体の濃度に依存していた。
【0400】
B)皮下投与によるhIgGの異化作用に対する抗FcRn抗体の効果
Tg32Bマウス(マウスFcRn及びマウスβ2マイクログロブリンノックアウト)/ノックイン(ヒトFcRn及びヒトβ2マイクログロブリンノックイン)に、0日目にヒトIgGを投与した。1日目及び7日目に、マウスに異なる用量の抗FcRn抗体M161-B04(DX-2504)を皮下投与した。マウスの血清中のヒトIgGの濃度を14日間にわたって測定した。
図32に示すように、ヒトIgGの濃度は各抗体を投与した14日間にわたって著しく低下した。IgGの減少は、投与された抗FcRn抗体の濃度に依存していた。皮下投与の有効性は静脈内投与に類似している。
【0401】
C)カニクイザルにおけるhIgGの異化作用に対する抗FcRn抗体の効果
カニクイザルに異なる用量の抗FcRn抗体M161-B04(DX-2504)及びビヒクル対照を投与した。
図33は、投与の時間(
図33A)及び対照の結果(
図33B)を示す。サルの血清中のIgG濃度を14日間にわたって測定した。
図34~35(個々のサル)及び
図36(群の平均データ)に示すように、IgGの濃度は各抗体を投与した14日間にわたって著しく低下した。IgGの低下は投与された抗FcRn抗体の濃度に依存していた。皮下投与の有効性は静脈内投与に類似している。
図37A~
図37Cは、IgA、IgM、及び血清アルブミンの血清濃度が抗FcRn抗体の投与に影響を受けないことを示す。
【0402】
本願全体にわたって引用された及び以下に列挙される参考文献、発行済特許、公開又は未公開特許出願を含む全ての引用された参考文献の内容は、全文を参照することにより本明細書に組み込まれる。矛盾する場合、本明細書における任意の定義を含め、本出願が優先する。
【0403】
本発明の多くの実施形態が記載された。しかしながら、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく種々の修正を行い得ることが理解されよう。従って他の実施形態の以下の特許請求の範囲の範囲内である。
ヒトFcRnに結合する単離抗体又はその断片であって、前記抗体がヒトFcRnの重鎖又はその断片に対して産生され、前記抗体がIgGのヒトFcRnへの結合の非競合的阻害剤として機能し、前記抗体がβ2-マイクログロブリンに結合しない、単離抗体又はその断片。
ヒトFcRnに結合する単離抗体又はその断片であって、前記抗体がヒトFcRnの重鎖又はその断片に対して産生され、前記抗体がFcRnと複合体化していないときβ2-マイクログロブリンに結合せず、前記抗体がFcRn-/-ノックアウトマウスから産生されない、単離抗体又はその断片。
M0171-A03、M0171-A01、M0159-A07、又はM0161-B04の可変ドメインの配列と少なくとも80%同一である配列を含むポリペプチドをコードする配列を含む単離核酸。