IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧

特開2022-11608セメント含有層接着用の接着剤組成物、それを用いた施工方法及び構造体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011608
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】セメント含有層接着用の接着剤組成物、それを用いた施工方法及び構造体
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20220107BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220107BHJP
   C09J 163/02 20060101ALI20220107BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20220107BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J11/06
C09J163/02
C08G59/24
C08G59/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020112852
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小堺 規行
(72)【発明者】
【氏名】岡村 達也
【テーマコード(参考)】
4J036
4J040
【Fターム(参考)】
4J036AA02
4J036AA05
4J036AC01
4J036AC05
4J036AD00
4J036AD08
4J036DA02
4J036DC28
4J036JA13
4J040EC051
4J040EC061
4J040HB18
4J040HC16
4J040JA01
4J040JA02
4J040JB02
4J040KA16
4J040KA27
4J040MA06
4J040MB05
4J040NA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、実用的な保存安定性を有し、作業性に優れ、構造体とした際に十分な強度を有する接着剤組成物を提供し、更に当該接着剤組成物を用いた施工方法及び構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】1種又は2種以上のエポキシ化合物、1種又は2種以上のケチミン化合物及び1種又は2種以上の加水分解抑制剤を含むセメント含有層接着用の接着剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上のエポキシ化合物、1種又は2種以上のケチミン化合物及び1種又は2種以上の加水分解抑制剤を含むセメント含有層接着用の接着剤組成物。
【請求項2】
前記セメント含有層がフレッシュモルタルの硬化物であり、前記フレッシュモルタルを使用した接着に使用する請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記セメント含有層がフレッシュコンクリートの硬化物であり、前記フレッシュコンクリートを使用した接着に使用する請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記フレッシュモルタルのJIS A 6916:2014 付属書Aによる保水率Rwが60%より大きい請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記フレッシュコンクリートをJIS Z8801-1「試験用ふるい-第1部:金属製網ふるい」に記載の公称目開き(4.75mm)のふるいを使用してウェットスクリーニングして得たモルタルのJIS A 6916:2014 付属書Aによる保水率Rwが60%より大きい請求項3に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記エポキシ化合物が、その構造中にビスフェノールA骨格を有する化合物及びピロカテコール骨格を有する化合物を含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記接着剤組成物に対する加水分解抑制剤の含有量が10~80質量%である請求項1~6のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
前記ケチミン化合物がその構造中に環構造を含まない請求項1~7のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
前記加水分解抑制剤が、炭素原子数3~7のケトン化合物又はケトン誘導体である請求項1~8のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
被塗布物に1種又は2種以上のエポキシ誘導体、1種又は2種以上のケチミン誘導体及び1種又は2種以上の加水分解抑制剤を含む接着剤組成物を塗布する工程と、
前記接着剤組成物が塗布された被塗布物にセメントを含有する組成物を塗布する工程と、
を含む構造体を形成する施工方法。
【請求項11】
被塗布物、
1種又は2種以上のエポキシ誘導体、1種又は2種以上のケチミン誘導体及び1種又は2種以上の加水分解抑制剤を含む接着剤組成物を用いた接着層及び
セメント含有層を
この順で有する構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート及びモルタル用1液エポキシ樹脂接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
新旧コンクリートを打継ぐに際して旧コンクリート面に樹脂系接着剤を塗布後、その接着面にフレッシュコンクリートを打設する工法がとれられている。この樹脂系接着剤としては、二液型エポキシ樹脂接着剤が使用されてきたが、二液型エポキシ樹脂接着剤は二液を混合することにより硬化が進行するため、施工現場で計量や混合などを行う必要があり作業性に問題があった。また二液エポキシ樹脂接着剤はアミン化合物を用いるため、特有のアミン臭や毒性があり改善が求められていた。
このため、一液湿気硬化型エポキシ樹脂接着剤を用いる方法の開発が行われてきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-81673号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、分子内に2個以上のケチミン基を有するケチミン化合物とエポキシ化合物を用いた一液湿気硬化型エポキシ樹脂接着剤に関する発明を開示しているが、一液湿気硬化型エポキシ樹脂接着剤は保管時に空気中の水分により接着剤の硬化が進行してしまうという問題点を有する。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、実用的な保存安定性を有し、作業性に優れ、構造体とした際に十分な強度を有する接着剤組成物を提供し、更に当該接着剤組成物を用いた施工方法及び構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
エポキシ化合物及びケチミン化合物を含有するセメント含有層接着用の接着剤組成物は、硬化したセメント含有層(コンクリート層又はモルタル層)に塗布し、空気中の水分によりケチミン化合物が加水分解され、その後エポキシ化合物と反応することにより硬化が進行する。
このため、工期を短縮するためには接着剤組成物中のケチミン化合物の加水分解が速く、エポキシ化合物との反応が進むことが好ましいが、ケチミン化合物の加水分解が速いと、接着剤組成物を保存中に空気中の水分により容易にケチミンの加水分解が進行し、接着剤組成物の硬化が進行してしまう(保存安定性が低い)。
【0007】
本発明者らは、セメント含有層接着用の接着剤組成物を構成する成分を検討した結果、1種又は2種以上のエポキシ誘導体及び1種又は2種以上のケチミン誘導体に更に1種又は2種以上の加水分解抑制剤を加えることにより、実用的な保存安定性を有し、作業性に優れ、構造体とした際に十分な強度を有する接着剤組成物が得られることを見出した。
更に当該接着剤組成物を用いた施工方法及び構造体が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[11]を提供するものである。
[1] 1種又は2種以上のエポキシ化合物、1種又は2種以上のケチミン化合物及び1種又は2種以上の加水分解抑制剤を含むセメント含有層接着用の接着剤組成物。
[2] 前記セメント含有層がフレッシュモルタルの硬化物であり、前記フレッシュモルタルを使用した接着に使用する[1]記載の接着剤組成物。
[3] 前記セメント含有層がフレッシュコンクリートの硬化物であり、前記フレッシュコンクリートを使用した接着に使用する[1]記載の接着剤組成物。
【0009】
[4] 前記フレッシュモルタルのJIS A 6916:2014 付属書Aによる保水率Rwが60%より大きい[2]に記載の接着剤組成物。
[5] 前記フレッシュコンクリートをJIS Z8801-1「試験用ふるい-第1部:金属製網ふるい」に記載の公称目開き(4.75mm)のふるいを使用してウェットスクリーニングして得たモルタルのJIS A 6916:2014 付属書Aによる保水率Rwが60%より大きい[3]に記載の接着剤組成物。
[6] 前記エポキシ化合物が、その構造中にビスフェノールA骨格を有する化合物及びピロカテコール骨格を有する化合物を含有する[1]~[5]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0010】
[7] 前記接着剤組成物に対する加水分解抑制剤の含有量が10~80質量%である[1]~[6]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
[8] 前記ケチミン化合物がその構造中に環構造を含まない[1]~[7]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
[9] 前記加水分解抑制剤が、炭素原子数3~7のケトン化合物又はケトン誘導体である[1]~[8]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0011】
[10] 被塗布物に1種又は2種以上のエポキシ誘導体、1種又は2種以上のケチミン誘導体及び1種又は2種以上の加水分解抑制剤を含む接着剤組成物を塗布する工程と、前記接着剤組成物が塗布された被塗布物にセメントを含有する組成物を塗布する工程とを含む構造体を形成する施工方法。
[11] 被塗布物、 1種又は2種以上のエポキシ誘導体、1種又は2種以上のケチミン誘導体及び1種又は2種以上の加水分解抑制剤を含む接着剤組成物を用いた接着層及びセメント含有層をこの順で有する構造体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、実用的な保存安定性を有し、作業性に優れ、構造体とした際に十分な強度を有する接着剤組成物を得ることができ、更に当該接着剤組成物を用いた施工方法及び構造体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の接着剤組成物、当該接着剤組成物を用いた施工方法及び構造体について、説明する。
【0014】
[接着剤組成物]
本発明の接着剤組成物は、セメント含有層接着用の接着剤であり、1種又は2種以上のエポキシ化合物、1種又は2種以上のケチミン化合物及び1種又は2種以上の加水分解抑制剤を含む。
これら化合物を含有することにより、保存中に大気中の水分によるケチミン化合物の分解を抑えることができるため実用的な保存安定性を有し、1液性の接着剤組成物であるため、2液性の接着剤組成物のように使用時に計量や混合の工程を行う必要がないことから作業性に優れ、後記の構造体としたときに十分な強度を得ることができる。
【0015】
接着剤組成物の後記する被塗布物への塗布量は接着力発現のために0.05kg/m以上であることが好ましく、塗りムラが出ない観点からは0.1kg/m以上であることがより好ましい。また、塗布した接着剤が液ダレしない観点からは1.8kg/m以下であることが好ましく、壁面や天井面への塗布する場合を考慮すると1.5kg/m以下であることがより好ましい。
【0016】
<エポキシ化合物>
本発明のエポキシ化合物は、後記するケチミン化合物の加水分解物であるアミン化合物と付加反応し、硬化するものであればよい。エポキシ化合物は分子内に2個又は3個以上のエポキシ基を有することが好ましい。
エポキシ化合物は芳香族骨格を有する化合物であっても脂肪族骨格を有する化合物であってもよいが、後記するアミン化合物との反応性が優れ、構造体とした際に十分な強度を得る観点から、芳香族骨格を有する化合物であることがより好ましい。
エポキシ化合物は、フェノール(ビスフェノール又はカテコール等)化合物又はアルコール化合物とエピクロロヒドリンとの反応物であることが好ましく、後記するケチミン化合物が加水分解して生じるアミン化合物との反応が加速される観点から、また、親水性のヒドキシ基を有することで、後記するセメント含有層との親和性が高くなる観点から、その構造中にヒドロキシエーテル骨格を有する化合物であることがより好ましい。
【0017】
芳香族骨格としては、後記するアミン化合物との反応性が優れ、構造体とした際に十分な強度を得る観点から、ビスフェノール骨格、ノボラック骨格又はカテコール骨格が好ましく、ビスフェノール骨格又はカテコール骨格がより好ましい。
これらエポキシ化合物を単体で又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましいが、エポキシ化合物を2種以上組み合わせて使用する場合、後記するアミン化合物との反応性が優れ、構造体とした際に十分な強度を得る観点から、1種又は2種以上のその構造中にビスフェノール骨格を有する化合物及び1種又は2種以上のその構造中にカテコール骨格を有する化合物を組み合わせて使用することがより好ましい。
【0018】
ビスフェノール骨格を有する化合物としては、ビスフェノールA骨格(後記する一般式(AE1)に対応)、ビスフェノールAP骨格(一般式(AE2)に対応)、ビスフェノールB骨格(一般式(AE3)に対応)、ビスフェノールBP骨格(一般式(AE4)に対応)、ビスフェノールC骨格(一般式(AE5)に対応)、ビスフェノールE骨格(一般式(AE6)に対応)又はビスフェノールF骨格(一般式(AE7)に対応)を有する化合物が好ましいが、後記するアミン化合物との反応性が優れ、構造体とした際に十分な強度を得る観点及び入手の容易性の観点からビスフェノールA骨格、ビスフェノールAP骨格又はビスフェノールF骨格を有する化合物がより好ましく、ビスフェノールA骨格を有する化合物が更に好ましい。
より具体的にはエポキシ化合物は一般式(E1)で表される化合物であることが好ましい。
【0019】
【化1】
【0020】
(式中、AE1及びAE2はそれぞれ独立して、単結合又は下記の一般式(AE1)~(AE10)で表される基を表すが、存在するAE1及びAE2のうち少なくとも1つは一般式(AE1)~(AE10)で表される基を表し、分子内にAE1が複数存在する場合にはそれらは同一であっても異なっていてもよく、nE1は0~100の自然数を表す。)
E1及びAE2は後記するアミン化合物との反応性が優れ、構造体とした際に十分な強度を得る観点から一般式(AE1)、(AE2)、(AE7)、(AE8)又は(AE9)で表される基がより好ましく、一般式(AE1)又は(AE9)で表される基が更に好ましく、一般式(AE1)で表される基がより更に好ましい。
構造体の長期耐久性が求められる場合には(AE8)で表される基が好ましい。
【0021】
エポキシ化合物を2種組み合わせて使用する場合には、一般式(AE1)で表される基を有する化合物と一般式(AE9)で表される基を有する化合物を組み合わせて用いることが好ましい。
E1は接着剤組成物へのエポキシ化合物の溶解度の観点から0~100の自然数が好ましく、0~50の自然数がより好ましく、0~20の自然数が更に好ましい。
また、nE1が異なるエポキシ化合物を複数使用すると、凝固点が降下し、接着剤組成物を作製する際の作業性が向上するため好ましい。
【0022】
【化2】
【0023】
【化3】

(式中、*及び**は隣接する炭素原子と結合することを表し、nE2は0~100の自然数を表し、RE1は炭素原子数1~100のアルキレン基を表すが、該アルキレン基中の1個又は2個以上の-CH-は、-CH=CH-、-CH≡CH-、-O-、-NH-、-COO-又は-OCO-で置換されていてもよい。)
E2は接着剤組成物へのエポキシ化合物の溶解度の観点から1~20の自然数が好ましく、2~10の自然数がより好ましく、3~8の自然数が更に好ましい。
E1は接着剤組成物へのエポキシ化合物の溶解度の観点から炭素原子数1~50のアルキレン基が好ましく、炭素原子数1~30のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数1~20のアルキレン基が更に好ましく、直鎖であっても、分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましく、該アルキレン基中の1個又は2個以上の-CH-は、無置換であるか、-O-、-COO-又は-OCO-で置換されていることが好ましい。
【0024】
前記ビスフェノール骨格を有する化合物は、AE1及びAE2がそれぞれ独立して単結合又は一般式(AE1)で表される基である場合には、前記ビスフェノール骨格を有する化合物は、nE1、AE1及びAE2の選択により種々の化合物をとり得るが、これらを2種以上の化合物を組み合わせて用いることが好ましい。この場合、ビスフェノール骨格を有する化合物の合計の原子の組成は、C21+18n24+20n4+3n(式中、nは0から3.0の数を表す。)であることが好ましい。nはビスフェノール骨格を有する化合物が液体となり取り扱いが容易である観点から3.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.0以下であることが更に好ましく、0.5以下であることがより更に好ましく、構造体とした際に十分な強度を得るためのエポキシ基の単位質量当たりの含有量の観点から0以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。
【0025】
エポキシ化合物は分子中にエポキシ基を有するが、そのエポキシ基1つ当たりの分子量(g/当量(eq))(以下、エポキシ当量と記載する。)は構造体とした際に十分な強度とする観点から100.0g/eq以上であることが好ましく、120.0g/eq以上であることがより好ましく、140.0g/eq以上であることが更に好ましく、実用的な施工性を保持する観点から3000.0g/eq以下であることが好ましく、2000.0g/eq以下であることがより好ましく、1800.0g/eq以下であることが更に好ましい。
【0026】
エポキシ化合物の含有量としては、接着剤組成物の全量に対し、後記の構造体とした際に十分な強度を発現する観点から、5質量%以上とすることが好ましく、10質量%以上とすることがより好ましく、15質量%以上とすることが更に好ましく、保存安定性の観点から60質量%以下とすることが好ましく、50質量%以下とすることがより好ましく、45質量%以下とすることが更に好ましい。
【0027】
また、エポキシ化合物として、ビスフェノールA骨格(一般式(AE1))を有する化合物及びカテコール骨格(一般式(AE9))を有する化合物を組み合わせて使用する場合には、ビスフェノールA骨格を有する化合物の含有量としては、接着剤組成物の全量に対し、後記の構造体とした際に十分な強度を発現する観点から、3質量%以上とすることが好ましく、5質量%以上とすることがより好ましく、8質量%以上とすることが更に好ましく、保存安定性の観点からは40質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがより好ましく、25質量%以下とすることが更に好ましく、カテコール骨格を有する化合物の含有量としては、接着剤組成物の全量に対し、後記の構造体とした際に十分な強度を発現する観点から、3質量%以上とすることが好ましく、5質量%以上とすることがより好ましく、8質量%以上とすることが更に好ましく、保存安定性の観点からは40質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがより好ましく、25質量%以下とすることが更に好ましい。
【0028】
また、エポキシ化合物として、ビスフェノールA骨格(一般式(AE1))を有する化合物及びカテコール骨格(一般式(AE9))を有する化合物を組み合わせて使用する場合には、ビスフェノールA骨格(一般式(AE1))を有する化合物とカテコール骨格(一般式(AE9))を有する化合物の合計を100質量当量とした場合に、ビスフェノールA骨格(一般式(AE1))を有する化合物は固化速度の観点から20.0以上とすることが好ましく、30.0以上とすることがより好ましく、40.0以上とすることが更に好ましく、構造体とした際に十分な強度を得る観点からは95.0以下とすることが好ましく、70.0以下とすることがより好ましく、60.0以下とすることが更に好ましい。
【0029】
<ケチミン化合物>
本発明のケチミン化合物は、ケチミン(-C=N-)結合を有する化合物であり、1級アミン化合物とケトン化合物又はアルデヒド化合物の縮合物であるイミン化合物であることが好ましい。
ケチミン結合は、大気中又は後記する未硬化のセメント含有層中の水分により対応するアミン化合物とケトン化合物又はアルデヒド化合物に加水分解され、生成するアミン化合物が前記のエポキシ化合物と反応することにより、接着剤組成物の硬化が進行する。
ケチミン化合物は分子内にケチミン結合を2個又は3個以上有することが好ましく、保存安定性の観点からその構造中に環構造を含まないことが好ましい。
より具体的には、ケチミン化合物は一般式(K1)で表される化合物であることが好ましい。
【0030】
【化4】
【0031】
(式中、RK1~RK4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~100の1価の有機基を表し、AK1は炭素原子数1~100の2価の有機基を表す。)
K1~RK4は水素原子又は1価の有機基を表すが、1価の有機基としては炭素原子数1~100のアルキル基が好ましく、該アルキル基中の1個又は2個以上の-CH-は、-CH=CH-、-CH≡CH-、-O-、-NH-、-COO-又は-OCO-で置換されていてもよく、直鎖であっても、分岐していてもまた環構造を有していてもよい。
K1~RK4は後記する構造体とした際に十分な強度を得る観点や入手の容易性の観点から水素原子又は直鎖の炭素原子数1~7のアルキル基であることがより好ましく、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基であることが更に好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はi-プロピル基がより更に好ましい。
【0032】
K1は2価の有機基を表すが、2価の有機基としては炭素原子数1~10の直鎖又は分岐のアルキレン基、炭素原子数3~14の脂式環状基又は炭素原子数6~14の芳香族炭化水素基が好ましく、該アルキレン基中の1個又は2個以上の-CH-は、-CH=CH-、-CH≡CH-、-O-、-NH-、-COO-、-OCO-又は環状基で置換されていてもよいが、保存安定性の観点から環構造を含まないことが好ましく、炭素原子数1~10の直鎖又は分岐のアルキレン基であることがより好ましい。
【0033】
より具体的にはAK1は一般式(AK1)~(AK5)で表される基が好ましく、保存安定性の観点から一般式(AK1)又は(AK2)がより好ましく、一般式(AK1)が更に好ましい。
【0034】
【化5】
【0035】
(式中、nK1は1~100の自然数を表し、nK2は1~100の自然数を表し、AK2は1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、シクロヘキサン-1,2-ジイル、シクロヘキサン-1,3-ジイル、シクロヘキサン-1,3-ジイル、ナフタレン-1,3-ジイル、ナフタレン-1,4-ジイル又はナフタレン-2,6-ジイルを表し、BK1及びBK2はそれぞれ独立して単結合、炭素原子数1~20のアルキレン基、-O-、-COO-又は-OCO-を表すが、該アルキレン基中の1個又は2個以上の-CH-は、-O-、-COO-又は-OCO-で置換されていてもよく、式中の1又は2以上の水素原子はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基、シクロヘキシル基又はナフチル基によって置換されていてもよい。)。
【0036】
K1は接着剤組成物へのケチミン化合物の溶解度の観点から1~100の自然数が好ましく、1~20の自然数がより好ましく、3~15の自然数が更に好ましく、5~9の自然数がより更に好ましく、6~8の自然数が特に好ましい。
K2は接着剤組成物へのケチミン化合物の溶解度の観点から1~100の自然数が好ましく、1~20の自然数がより好ましく、2~10の自然数が更に好ましく、3~8の自然数がより更に好ましい。
K2は1,3-フェニレン又はシクロヘキサン-1,3-ジイルが好ましい。
K1及びBK2はそれぞれ独立して単結合、炭素原子数1~4のアルキレン基が好ましいく、単結合がより好ましい。
分子内に環構造を有する場合には保存安定性の観点からケチミン基の窒素原子から3炭素以上離れた位置に置換していることが好ましく、5炭素以上離れた位置に置換していることがより好ましい。
【0037】
ケチミン化合物の含有量としては、接着剤組成物の全量に対し、後記の構造体とした際に十分な強度を発現する観点から、0質量%より大きくすることが好ましく保存安定性の観点から20質量%以下とすることがより好ましく、15質量%以下とすることがより好ましく、10質量%以下とすることが更に好ましい。
【0038】
ケチミン化合物は、水分により加水分解され一般式(K2)で表されるアミン化合物となる。
【0039】
【化6】
【0040】
(式中、AK1は、一般式(K1)に置けるAK1と同じ意味を表す。)
また、エポキシ化合物とケチミン化合物は、エポキシ化合物のエポキシ基とケチミン化合物が加水分解して生じるアミン化合物のアミン基が付加反応するので、理想的にはエポキシ基とアミン基の活性水素当量であることが好ましい。
ケチミン化合物はエポキシ化合物100質量部に対し、構造体の強度の観点から70質量部以下10量部以上とすることが好ましく、60質量部以下10質量部以上とすることがより好ましく、50質量部以下10質量部以上とすることが更に好ましい。
【0041】
<加水分解抑制剤>
本発明では、1種又は2種以上の加水分解抑制剤を含有することを要する。加水分解抑制剤を含有することにより、接着剤組成物を保管する際に大気中の水分等からのケチミン化合物の加水分解が抑制されるため保存安定性が向上する。
本発明の加水分解抑制剤は保存中にはケチミン化合物を大気中等の水分から守り、セメント含有層の接着の際にはケチミン化合物の加水分解を妨げないことが好ましい。
この観点から加水分解抑制剤はケトン化合物又はケトン誘導体が好ましい。本明細書においてケトン誘導体とはケトン化合物から誘導される化合物を意味する。
また、接着剤組成物において加水分解抑制剤はエポキシ化合物及びケチミン化合物とともに液体となることが好ましく、加水分解抑制剤がエポキシ化合物及びケチミン化合物を溶解する溶媒であることがより好ましい。
また、加水分解抑制剤は臭気(刺激臭)が少ない方が施工時の施工者の作業性の観点から好ましい。
【0042】
本発明の加水分解抑制剤が保存安定性を向上させる機構として以下のものが考えられる。
ケチミン化合物の加水分解は、水分子の求核反応が律速段階となることが知られている。このため一般式(K1)のRK1~RK4が嵩高い置換基である方が、加水分解が抑制され保存安定性は向上するが、接着剤組成物の硬化は時間を要することとなる。
このため、本発明では一般式(K1)のRK1~RK4を嵩高くすることなく、加水分解抑制剤とともに使用することで、硬化速度と保存安定性の両立を図っている。このため、加水分解抑制剤は炭素原子数3~7のケトン化合物又はケトン誘導体であることがより好ましい。
一般式(K1)のRK1~RK4が、ケトン化合物又はケトン誘導体のカルボニル基に置換する置換基より嵩高いことにより、水の求核反応は抑制される。
【0043】
しかし、後記するように水を含むフレッシュモルタルやフレッシュコンクリート等とともに施工することにより大気中の水分より大量の水が存在するため、接着剤組成物中のケチミン化合物は加水分解され、接着剤組成物の硬化が進行していると考えられる。
【0044】
加水分解抑制剤は、この求核反応を抑制し保存安定性を向上させる観点及び水、エポキシ化合物やケチミン化合物との相溶性の観点及び臭気の観点から炭素原子数3~7のケトン化合物であることが好ましく、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソプロピルアミン(MIPK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)又はジイソプロピルケトン(DIPK)がより好ましく、アセトン、MEK又はMIBKが更に好ましく、アセトンがより更に好ましい。
また、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
加水分解抑制剤の含有量としては、接着剤組成物の全量に対し、保存安定性の発現の観点から、10質量%以上とすることが好ましく、30質量%以上とすることがより好ましく、40質量%以上とすることが更に好ましく、構造体の強度及び硬化時間の観点から80質量%以下とすることが好ましく、70質量%以下とすることがより好ましく、65質量%以下とすることが更に好ましい。
【0046】
本発明の接着剤の改質や機能性向上の為に更にフィラーを添加する事が好ましい。使用するフィラーとしてはセメント粉末、炭酸カルシウム粉末又はシリカゲル粉末などが望ましい。
【0047】
セメント粉末の平均粒子径は、5μm~30μmが好ましい。セメント粉末による改質や機能性の向上は以下の観点から好ましい。
(1) 接着剤中の他の成分との相互作用により、増粘効果が向上する。
(2) 接着剤中の水分を選択的に取り込み、ケチミンの加水分解を抑制することにより、貯蔵安定性が向上する。
(3) 接着界面に露出したセメント粉末がフレッシュコンクリート、又はフレッシュモルタルと接触して強固に接着するため、付着安定性が向上する。
【0048】
炭酸カルシウム粉末の平均粒子径は、0.1μm~5μmであることが好ましい。また、比表面積が0.1m/g~5m/gで有ることが望ましい。
炭酸カルシウムは化学的に安定な物質であるが、接着剤中で凝集固化する懸念も有るので、粒子表面に電気的反発を発生させる処理を行った物がより好ましい。炭酸カルシウム粉末による改質や機能性の向上は以下の観点から好ましい。
(1)接着剤中の他の成分との相互作用により、増粘効果が向上する。
【0049】
シリカゲル粉末の平均一次粒径は、5nm~50nmであることが好ましい。また、比表面積が50m/g~600m/gであることが好ましい。シリカゲル粉末による改質や機能性の向上は以下の観点から好ましい。
【0050】
(1) 前記炭酸カルシウム粉末と比較して粒子径が1/1,000程度であり、比表面積が10倍以上であるため、接着剤中の他の成分との相互作用により少量の添加で増粘効果大きく向上する。
(2) シリカゲル粉末はその構造中にシラノール基を持ち、それにより水素結合を発生させるため、接着剤のチクソ粘性を向上する。
【0051】
なお、本明細書において保存安定性は、23℃の空気中で12週後の状態の変化を観察する常温貯蔵安定性及び50℃の空気中で3週間後の状態の変化を観察する高温貯蔵安定性により評価することができる。これらは粘度変化、色の変化及び析出物の有無などにより評価する。
また、本明細書において硬化時間の評価は例えばスレート板上に接着剤組成物を塗布し、一定時間後の指触硬化状態を観察する(指触硬化時間)ことにより評価することができる。
【0052】
<セメント含有層>
本発明のセメント含有層は、少なくともセメント及び水を含む組成物が硬化した層であり、後記する被塗布物に接着剤組成物を塗布した後に、接着剤組成物上に塗布し硬化した層である。セメント含有層は、接着剤組成物の硬化した層(接着剤層)を介して後記する被塗布物と接着されることが好ましい。
ここで、セメント含有層と接着剤層はその接触する面の近傍にそれぞれの成分が混在した融合層を有していてもよい。
また同様に被塗布物と接着剤層の間にも融合層を有していてもよい。
これら融合層を有すると後記する構造体の強度(付着強度)が増すため好ましい。
本発明の接着剤組成物は、未硬化のセメント含有層に含まれる水により、ケチミン化合物の加水分解が進行し硬化する。
本発明のセメント含有層は、後記するフレッシュモルタル又はフレッシュコンクリートの硬化物であることが好ましい。
【0053】
セメント含有層の厚さは、打継ぐ場所や用途などにより異なる。他の用途例えばエポキシ樹脂を用いた塗料のような場合、塗布する塗料の厚さは数ミリ程度であり、しかも片面は空気界面となっているため、空気中の水分によりケチミンの加水分解が進行する。しかし、本発明の接着剤組成物はセメント含有層の接着に使用するため、硬化時に空気との接触はほぼなく、空気中の水分によるケチミン化合物の加水分解はほぼ進行しない。その代わりに未硬化のセメント含有層中の水により硬化が進行する。また、未硬化のセメント含有層中の水分が多いほど効果の進行が進むため、セメント含有層の厚さは0.5cm以上であることが好ましく、1cm以上であることがより好ましく、5cm以上であることが更に好ましい。上限値については、現実的に施工できる範囲であれば特に制限はない。
【0054】
<フレッシュモルタル>
本発明の接着剤組成物はフレッシュモルタルを使用した接着に使用される接着剤組成物であることが好ましい。
本発明のフレッシュモルタルは、水とセメントを含むものであれば特に制限はないが、セメントを水と混合することにより、セメントミルクとし、更に水および砂と混合することにより、フレッシュモルタルを製造することができる。
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント又は中庸熱フライアッシュセメントであることが好ましく、普通ポルトランドセメントであることがより好ましい。
また、後記する保水率の調整のため、メチルセルロース等の保水材を含有してもよい。
【0055】
<フレッシュコンクリート>
本発明の接着剤組成物はフレッシュコンクリートを使用した接着に使用される接着剤組成物であることが好ましい。
本発明のフレッシュコンクリートは、水とセメントを含むものであれば特に制限はないが、セメントを水と混合することにより、セメントミルクとし、更に水、砂及び砂利と混合することにより、フレッシュコンクリートを製造することができる。
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント又は中庸熱フライアッシュセメントであることが好ましく、普通ポルトランドセメントであることがより好ましい。
また、後記する保水率の調整のため、メチルセルロース等の保水材を含有してもよい。
【0056】
<フレッシュモルタルの保水率Rw>
本発明のフレッシュモルタルの保水率Rwは、JIS A 6916:2014 付属書A(規定) A.2.3 保水性試験(ろ紙法)に規定される方法により決定される。
(試験用器具)
試験用器具は次による。
a)ガラス板は、JIS R 3202に規定する磨き板ガラスで、その寸法は、150mm×150mm×5mmとする。
b)ろ紙は、JIS p 3801に規定する5種Aろ紙(直径11cm)とする。
c)リング型枠は、金属製で、その寸法は内径50mm、高さ10mm、厚さ3mmとする。
【0057】
(試験の手順)
試験の手順は、ガラス板の上にろ紙をのせ、その中央部にリング型枠を設置し、試験体を金べらでリング型枠内に平たんに詰め込む。
その後、直ちにリング型枠上部にガラス板を当て上下を逆さにひっくり返し、ろ紙部分が上部になるようにして静置する。
60分後に、ろ紙へにじみ出した水分の広がりが最大と認められた方向と、これに直角な方向の長さをノギスを用いて1mmまで測定する。
試験は3回行い合計6か所測定し、その平均値L60(mm)を用いて次の式によって保水率Rw(%)を求めJIS Z 8401の規則 Bによって整数に丸める。
【0058】
Rw=(Lγ/L60)×100
【0059】
Rw:保水率(%)
L60:60分後の水分の広がり(mm)
Lγ:リング型枠の内径(mm)
【0060】
Rwが大きいほど、フレッシュモルタルは保水することになる。
前記のようにフレッシュモルタル中の水分により接着剤組成物中の加水分解抑制剤の濃度を減少させ、ケチミン化合物の加水分解を進行させるためフレッシュモルタルの保水率Rwは小さい方が好ましく、100%以下であることが好ましく、98%以下であることがより好ましく、97%以下であることが更に好ましく、セメント含有層の強度の観点からは60%より大きいことが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%より大きいことが更に好ましく、90%より大きいことがより更に好ましい。
【0061】
<フレッシュコンクリートの保水率Rw>
フレッシュコンクリートの保水率Rwは、フレッシュコンクリートをJIS Z8801に規定される公証目開き4.75mmのふるいを使用してウェットスクリーニングしたモルタルについて、フレッシュモルタルの保水率Rwと同様の試験手順を実施し、得られたRwをフレッシュコンクリートの保水率Rwとする。
前記のようにフレッシュコンクリート中の水分により接着剤組成物中の加水分解抑制剤の濃度を減少させ、ケチミン化合物の加水分解を進行させるためフレッシュコンクリートの保水率Rwは小さい方が好ましく、100%以下であることが好ましく、98%以下であることがより好ましく、97%以下であることが更に好ましく、セメント含有層の強度の観点からは60%より大きいことが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%より大きいことが更に好ましく、90%より大きいことがより更に好ましい。
【0062】
[施工方法]
本発明の施工方法は、被塗布物に前記のエポキシ誘導体、前記のケチミン誘導体及び前記の加水分解抑制剤を含む接着剤組成物を塗布する工程と、前記接着剤組成物が塗布された被塗布物にセメントを含有する組成物を塗布する工程と、を含む構造体を形成する施工方法である。
本発明の被塗布物は、硬化したコンクリート、モルタル、金属又はそれらの組み合わせであることが好ましい。これら表面にそのまま塗布しても、劣化部分を取り除き新たに生じた表面に塗布することも好ましい。
本発明の接着剤組成物の塗布は、被塗布物とセメント含有層の接着面全面に塗布してもよいし、部分的に塗布してもよい。接着力の発現の観点からは接着面全面に塗布することが好ましい。塗布は、刷毛等により塗ることのみでなく、接着剤組成物をスプレーする方法、塗布面積が広い場合などは,接着剤組成物を散布した後レーキで塗り広げる方法等も含む。
【0063】
[構造体]
本発明の構造体は、前記の被塗布物、前記エポキシ誘導体、前記ケチミン誘導体及び前記加水分解抑制剤を含む接着剤組成物を用いた接着層、及びセメント含有層をこの順で有する構造体である。
前記のようにセメント含有層と接着剤層の間及び被塗布物と接着剤層の間に融合層を有していてもよい。
【実施例0064】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(1-1) 接着剤組成物の作製
エポキシ化合物として、ビスフェノールA骨格(前記一般式(AE1)に該当)を有する化合物(三菱ケミカル株式会社製、商品名:828、エポキシ当量184~194g/eq)を100gと、ビスフェノールF骨格(前記一般式(AE7)に該当)を有する化合物(三菱ケミカル株式会社製、商品名:806、エポキシ当量160~170)を100gと、ケチミン化合物として一般式(K1)におけるRK1~RK4が水素原子であるか炭素数1~6のアルキル基であり、AK1が炭素数6の脂肪族である化合物の混合物を100gと、加水分解抑制剤としてアセトン(富士フィルム和光純薬株式会社製、1級)を400mLとを1Lビーカーに秤量し、空気中メカニカルスターラーにて1時間攪拌し、均一な溶液接着剤組成物とした。
エポキシ化合物100質量部に対するケチミン化合物から生じるアミン化合物の理論上の活性水素の当量は48質量部となった。
【0065】
(1-2) 付着強度の測定
(1-1)で得られた接着剤組成物を用いて、NEXCO 構造物施工管理要領 4-2-5断面修復の性能照査に定められたコンクリートの付着性を試験する試験法439を参考に構造体の作成を行った。
直径10cm、高さ10cmの円柱型のコンクリート片の上面に(1-1)で得られた接着剤組成物を0.1kg/mとなるよう塗布した後ただちに、表1及び表2に記載の保水率(フレッシュモルタルの保水率Rw及びフレッシュコンクリートのJIS A 6916:2014 付属Aによる保水率Rw)に調整したフレッシュモルタル及びフレッシュコンクリートを接着剤組成物上にフレッシュモルタル又はフレッシュコンクリートを厚さ10cmとなるよう打ち継いだ。
【0066】
なお、フレッシュモルタルは、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠して調製し、フレッシュコンクリートは、
・セメント:普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)
・水:上水道水
・細骨材:山砂
・粗骨材:砂岩砕石
・フライアッシュ(FA):II種灰(JIS A 6201:2015 コンクリート用フライアッシュ II種適合品(分級品)、比表面積3570cm/g、強熱減量2.75質量%)
を用い調製した。
【0067】
フレッシュモルタル及びフレッシュコンクリートの保水率の調整は、メチルセルロースを主成分とする保水剤を使用し、添加量を増減する事で実施した。測定不能とは、ろ紙へのにじみ出た水がほぼなく、L60が測定できなかったことを意味している。
【0068】
23℃±2℃で28日間養生した後、上下表面に直接引張試験用の鋼製治具を接着剤により固定し、荷重制御が可能な試験機を用いて付着強度を測定した。付着強度の測定値及び判定を表1及び表2に示した。
なお、測定値の判定は、NEXCO 構造物施工管理要領 4-2-5断面修復の性能照査で規定された付着強度の規格 1.5N/mm以上を判断の基準とし、付着強度を AA特に優れる、A優れる、B実用に耐えるレベルの三段階で判定した。
【0069】
(1-3) 常温貯蔵安定性の評価
(1-1)で得られた接着剤組成物を23℃の空気中で12週静置した後の状態の変化を観察し評価した。
なお評価は、
○:粘度変化無し、○▲:粘度変化小、▲:粘度変化中、×:硬化
とした。
【0070】
(1-4) 高温貯蔵安定性の評価
(1-1)で得られた接着剤組成物を50℃の空気中で3週間後の状態の変化を観察し評価した。
なお評価は、
○:粘度変化無し、○▲:粘度変化小、▲:粘度変化中、×:硬化
とした。
【0071】
(1-5) 指触硬化時間の測定
スレート板上に(1-1)で得られた接着剤組成物を0.1kg/mとなるよう吹付塗布し、23℃で静置し、1時間ごとに指触硬化状態を観察した。指に付着しなくなった時の経過時間を指触硬化時間とした。
【0072】
(1-6) 臭気の評価
(1-5)の吹付塗布時、吹付者5名(20代男性4名及び20代女性1名)が、
A:無臭、B:かすかな刺激臭、C:刺激臭、D:耐えられない刺激臭
のいずれに該当するか選択し、5名の評価のうち最も多いものを臭気評価とした。
【0073】
(実施例1~7)
表1に記載した含水率Rwに調整したフレッシュモルタルを用いた付着強度の結果及びその結果を表1に示す。本発明の接着剤組成物を用いることにより、いずれのフレッシュモルタルの含水量でも、実用に耐える付着強度が得られることが分かった。
また、接着剤組成物及びフレッシュモルタルの施工性は優れていることが確認できた。
【0074】
【表1】
【0075】
(実施例8~14)
表2に記載した含水率Rwに調整したフレッシュコンクリートを用いた付着強度の結果及びその結果を表2に示す。本発明の接着剤組成物を用いることにより、いずれのフレッシュコンクリートの含水量でも、実用に耐える付着強度が得られることが分かった。
また、接着剤組成物及びフレッシュコンクリートの施工性は優れていることが確認できた。
【0076】
【表2】
【0077】
(実施例15~18及び比較例1)
(1-1)で得られた接着剤組成物(実施例15)及び、(1-1)でアセトンに換え表3に記載した加水分解抑制剤を用いる以外は同様にして得た接着剤組成物(実施例16~18)を用いて、表3の結果を得た。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に示したように、加水分解抑制剤を用いることにより、常温貯蔵安定性及び高温貯蔵安定性が大きく改善することが分かった。また実施例15~18では刺激臭はあったとしても、所定の防護具を用いることにより、施工を行う際の支障とまではならず、作業性に優れることが分かった。